(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】防水布帛およびこれを用いた繊維製品
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20240227BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240227BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20240227BHJP
A41D 31/102 20190101ALI20240227BHJP
A41D 31/24 20190101ALI20240227BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20240227BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240227BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B32B27/12
A41D31/00 502A
A41D31/00 504D
A41D31/02 A
A41D31/02 C
A41D31/102
A41D31/24 100
B32B7/12
B32B27/36 102
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2019555249
(86)(22)【出願日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2018041511
(87)【国際公開番号】W WO2019102861
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-05-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2017225894
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】金法 順正
(72)【発明者】
【氏名】西原 正勝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 香奈
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】藤井 眞吾
【審判官】西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-009631(JP,A)
【文献】特開2002-161480(JP,A)
【文献】特開2010-012777(JP,A)
【文献】特開2007-211239(JP,A)
【文献】特開2014-065226(JP,A)
【文献】特開2000-220076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
A41D 31/00
A41D 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛の少なくとも片面に接着剤を介して形成された樹脂層を有する防水布帛であって、
前記樹脂層は、無孔質のウレタン樹脂膜を含み、
前記無孔質のウレタン樹脂膜が、エーテルエステル系ウレタン樹脂を含み、かつ、エステル系ウレタン樹脂およびポリカーボネート系ウレタン樹脂の少なくとも1種を含み、
前記無孔質のウレタン樹脂膜の前記繊維布帛側の面とは反対の面に保護層を有し、
前記保護層が撥水剤を含み、
前記防水布帛は、
JIS L1092 繊維製品の防水性試験方法 耐水度試験 静水圧法の高水圧法に準じ測定した耐水度が、50kPa以上であり、
JIS L1099 繊維製品の透湿度試験方法 塩化カルシウム法に準じて測定した透湿度が1000g/m
2・24hrs以上、かつ、酢酸カリウム法に準じて測定した透湿度が1000g/m
2・24hrs以上である、
防水布帛。
【請求項2】
前記無孔質のウレタンの樹脂膜の水膨潤度が、2%以上8%以下である請求項1に記載の防水布帛。
【請求項3】
前記保護層の厚みが、10μm以下である請求項
1または2に記載の防水布帛。
【請求項4】
前記保護層が、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を含む請求項
1~3のいずれか1項に記載の防水布帛。
【請求項5】
前記保護層が、前記無孔質のウレタン樹脂膜の前記繊維布帛側の面とは反対の面の全面を被覆している請求項
1~4のいずれか1項に記載の防水布帛。
【請求項6】
摩耗強度が摩擦回数300回以上である請求項1~
5のいずれか1項に記載の防水布帛。
【請求項7】
前記無孔質のウレタン樹脂膜が、親水性を有する請求項1~
6のいずれか1項に記載の防水布帛。
【請求項8】
前記接着剤が、親水性を有する請求項1~
7のいずれか1項に記載の防水布帛。
【請求項9】
前記接着剤が、エーテルエステル系ウレタン樹脂を含む請求項
8に記載の防水布帛。
【請求項10】
繊維製品の少なくとも一部に請求項1~
9のいずれか1項に記載の防水布帛を用いた繊維製品であって、
前記防水布帛の前記樹脂層が、前記繊維製品の表面層として使用されている、
繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水布帛およびこれを用いた繊維製品に関し、特に、衣服や鞄などの繊維製品に用いられる防水布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
防水布帛は、水(雨など)の浸入を防止するための素材として使用されている。例えば、防水布帛は、合羽やスキーウエア、ウインドブレーカーなどの衣服をはじめとして、テントや靴、鞄など、様々なものに使用されている。
【0003】
防水布帛としては、例えば、繊維布帛の片面または両面あるいは2枚の繊維布帛間に、防水性を有する多孔質または無孔質の樹脂膜が積層されたものが知られている。また、樹脂膜が繊維布帛に積層された防水布帛として、防水性に加え、衣服内のムレや汗の結露を抑制するために衣服内の湿気を通過させる透湿性をも有するものも知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
繊維布帛の片面に樹脂膜を有する防水布帛を衣服などに用いる場合、一般的には、樹脂膜が身体側(内側)で繊維布帛が表側(外側)に位置するように防水布帛を衣服に組み込んでいる。
【0005】
また、合成皮革と言われる素材が知られている。合成皮革は、繊維布帛の片面または両面に、透明なものをはじめ、黒、白、赤色、青色などに着色された無孔質または多孔質の樹脂膜が積層されたものである。合成皮革は、樹脂膜が、コートなどの衣服や鞄、靴などの表側に位置するように、革製品の代替素材としてファッション衣料などに使用されている。
【0006】
このような合成皮革は、水が樹脂膜を透過しないため、ファッション素材として、ファッション衣料に使用されているだけではなく、防水性素材および防風性素材として、野球のグランドジャンパーや手袋、靴、鞄などにも使用されている。また、樹脂膜の摩耗強度にも優れている合成皮革も知られており、合成皮革は、種々の製品に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭55-80583号公報
【文献】特開平7-9631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年のファショントレンドでは、樹脂膜が衣服などの繊維製品の表側に存在するものもあり、透湿性および防水性を有する素材が求められるようになってきている。
【0009】
このように、樹脂膜が衣服などの表側に存在する場合には、樹脂膜としては、意匠性に優れていることが必要であり、また、表面の光沢や色のバリエーション、表面の凹凸のバリエーションが豊富に表現できる無孔質膜を有するものであることが好ましい。
【0010】
しかしながら、無孔質であって、かつ、防水性および透湿性を有する樹脂膜は、摩耗に弱く、また、水に接触すると膨潤して外観品位が低下する。このため、樹脂膜を衣服などの表側に存在させるには防水性素材の改善が求められている。
【0011】
また、合成皮革を防水性素材として用いた製品は、防水性を有し、水に濡れた際にも膨潤しないが、透湿性がほとんどない。このため、透湿性が要求される場合には、合成皮革は不向きである。
【0012】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、樹脂膜が衣服や靴、鞄などの繊維製品の表面として使用される場合であっても、防水性だけではなく、透湿性にも優れた防水布帛およびこれを用いた繊維製品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、本発明をするに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の構成(1)~(11)を有している。
(1)本発明に係る防水布帛は、繊維布帛の少なくとも片面に接着剤を介して形成された樹脂層を有する防水布帛であって、前記樹脂層は、無孔質のウレタン樹脂膜を含み、前記防水布帛は、JIS L1092 繊維製品の防水性試験方法 耐水度試験 静水圧法の高水圧法に準じ測定した耐水度が、50kPa以上であり、JIS L1099 繊維製品の透湿度試験方法 塩化カルシウム法に準じて測定した透湿度が1000g/m2・24hrs以上、かつ、酢酸カリウム法に準じて測定した透湿度が1000g/m2・24hrs以上である。
(2)また、本発明に係る防水布帛において、前記無孔質のウレタン樹脂膜の前記繊維布帛側の面とは反対の面に保護層を有するとよい。
(3)また、本発明に係る防水布帛において、前記保護層の厚みが、10μm以下であるとよい。
(4)また、本発明に係る防水布帛において、前記保護層が、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を含むとよい。
(5)また、本発明に係る防水布帛において、前記保護層が、前記無孔質のウレタン樹脂膜の前記繊維布帛側の面とは反対の面の全面を被覆しているとよい。
(6)また、本発明に係る防水布帛は、摩耗強度が、摩擦回数300回以上であるとよい。
(7)また、本発明に係る防水布帛において、前記無孔質のウレタン樹脂膜が、親水性を有するとよい。
(8)また、本発明に係る防水布帛において、前記無孔質のウレタン樹脂膜が、エーテルエステル系ウレタン樹脂を含み、かつ、エステル系ウレタン樹脂およびポリカーボネート系ウレタン樹脂の少なくとも1種を含むとよい。
(9)また、本発明に係る防水布帛において、前記接着剤が、親水性を有するとよい。
(10)また、本発明に係る防水布帛において、前記接着剤が、エーテルエステル系ウレタン樹脂を含むとよい。
(11)また、本発明に係る繊維製品は、当該繊維製品の少なくとも一部に上記いずれかに記載の防水布帛を用いた繊維製品であって、前記防水布帛の樹脂層が、前記繊維製品の表面層として使用されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る防水布帛は、無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層が、衣服や靴、鞄などの繊維製品の表面層として使用される場合であっても、防水性を有していながら、透湿性を有している。さらに、本発明に係る防水布帛は、耐摩耗性に優れ、樹脂層が水に接触した場合でも外観品位が低下することを抑制できる。
【0016】
従って、本発明に係る防水布帛を繊維製品に適用することで、樹脂層を、衣服や靴、鞄などの繊維製品の表面層に用いる場合であっても、衣服などに雨などの水が浸入することを抑制することができ、且つ、ムレを抑え、摩耗に強い繊維製品を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0018】
本実施の形態に係る防水布帛は、繊維布帛の少なくとも片面に接着剤を介して形成された樹脂層を有する。この樹脂層は、無孔質のウレタン樹脂膜を含む。本実施の形態に係る防水布帛は、樹脂層が衣服や鞄などの表面層として使用される繊維製品を与えるためのものである。
【0019】
このような構成とすることにより、衣服などの表面(外側)に樹脂層が位置するので、任意の色を有する防水布帛を提供することができる。
【0020】
また、本実施の形態に係る防水布帛は、無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層を有することにより、優れた防水性を有しており、JIS L1092 繊維製品の防水性試験方法 耐水度試験 静水圧法の高水圧法に準じ測定した耐水度が、50kPa以上となっている。防水性の観点からは、耐水度は、100kPa以上であることがより好ましく、さらに200kPa以上であるとよい。耐水度の上限は、特にないが、樹脂層および繊維布帛の強度より、1000kPa程度が上限である。
【0021】
また、繊維布帛に積層される樹脂層は、無孔質のウレタン樹脂膜のみによって構成されていてもよいが、繊維布帛に積層される樹脂層には、無孔質のウレタン樹脂膜とともに他の樹脂膜が含まれていてもよい。例えば、防水布帛にボリューム感を付与したい場合には、繊維布帛と無孔質のウレタン樹脂膜との間に、多孔質のウレタン樹脂膜を配置してもよい。つまり、繊維布帛に積層される樹脂層は、無孔質のウレタン樹脂膜と多孔質のウレタン樹脂膜との積層膜であってもよい。なお、軽量で風合いが柔らかい防水布帛とするには、樹脂層には多孔質のウレタン樹脂膜が含まれていない方がよい。
【0022】
また、本実施の形態に係る防水布帛は、無孔質のウレタン樹脂膜の表面(繊維布帛側の面とは反対の面)に、保護層を有するとよい。つまり、繊維布帛に積層される樹脂層には、無孔質のウレタン樹脂膜とともに保護層が含まれていてもよい。保護層としては、例えば、後述するように、樹脂材料によって構成された樹脂膜を用いることができる。このように保護層を設けることで、耐摩耗性が向上するとともに、樹脂層が水と接触したときに形態が変形すること抑制できる。
【0023】
また、本実施の形態に係る防水布帛は、JIS L1099 繊維製品の透湿度試験方法 塩化カルシウム法に準じて測定した透湿度が1000g/m2・24hrs以上20000g/m2・24hrs以下、かつ、酢酸カリウム法に準じて測定した透湿度が1000g/m2・24hrs以上50000g/m2・24hrs以下である。
【0024】
これにより、湿気を衣服などの外部に放出しながら、衣服内での結露の発生を抑制することができる。したがって、ムレを抑制することができる。
【0025】
塩化カルシウム法にて測定した透湿性は、ムレを抑制するとの観点からは、2000g/m2・24hrs以上であることが好ましく、さらに好ましくは3000g/m2・24hrs以上である。塩化カルシウム法にて測定した透湿性の上限は、特にないが、樹脂層が水と接触したときに形態が変化することを抑制するとの観点からは、20000g/m2・24hrs以下がよく、より好ましくは10000g/m2・24hrs以下、さらにより好ましくは8000g/m2・24hrs以下であるとよい。
【0026】
酢酸カリウム法測定した透湿性は、ムレを抑制するとの観点からは、2000g/m2・24hrs以上であることが好ましく、さらに好ましくは3000g/m2・24hrs以上であるとよい。酢酸カリウム法測定した透湿性の上限は、特にないが、樹脂層が水と接触したときの形状(形態)の安定性の観点からは、50000g/m2・24hrs以下であるとよく、より好ましくは20000g/m2・24hrs以下、さらにより好ましくは8000g/m2・24hrs以下である。
【0027】
また、本実施の形態に係る防水布帛は、JIS L1096 摩耗強さ C法(テーバ形法)に準じて測定した、樹脂層に穴があくまでの摩擦回数が300回以上であるとよい。なお、測定時に使用した摩耗輪はNo.CS-17 荷重4.90Nとした。摩擦回数が300回以上であれば、本実施の形態に係る防水布帛をコートやジャンパーなどの一般的な衣服に使用することができる。より優れた摩耗性を有し、靴や鞄などにおいても本実施の形態に係る防水布帛を使用するとの観点からは、摩擦回数は、500回以上であることが好ましく、さらに好ましくは1000回以上、さらにより好ましくは2000回以上である。
【0028】
なお、摩擦回数の上限は、特に限定されるものではないが、おおよそ10000回以下である。得られる防水布帛の透湿性を高め、また、風合いを柔らかくするとの観点からは、摩擦回数は、8000回以下が好ましく、より好ましくは5000回以下である。
【0029】
<繊維布帛>
本実施の形態に係る防水布帛に用いられる繊維布帛を構成する有用な繊維の素材としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、または、アセテートやキュプラ、ビスコースなどのレーヨンなどがあり、さらに、これらの他に、ポリ乳酸、芳香族ポリアミド、ポリイミドまたはポリフェニレンサルファイドなどの化学繊維、綿、麻、絹または羊毛などの天然繊維、あるいは、これらの素材の混繊、混紡、交織または交編品を用いることができ、特に限定されるものではない。樹脂層面への移行昇華堅牢度の観点からは、繊維布帛は、綿、羊毛、キュプラ、レーヨンまたはナイロンであることが好ましく、特にナイロンが好ましい。
【0030】
本実施の形態で用いられる繊維布帛は、織物、編物または不織布など、いかなる形態であってもよく、引裂強力および縫目強力が低下しやすい織物であっても用いることが可能である。
【0031】
また、これらの繊維布帛は、あらかじめ着色されていてもよいし、着色されていなくてもよい。繊維布帛をあらかじめ着色する場合には、分散染料、カチオン染料、酸性染料、直接染料、反応染料、建染染料、または、硫化染料などの染料、あるいは、蛍光増白剤、または、顔料などを用いて着色することができる。また、酸性染料を用いてナイロンを染色した場合に実施されている合成タンニンなどを用いてのフィックス処理など、通常着色時に行われている各種処理を行ってもよい。なお、繊維布帛を着色するために用いられる材料は、これらのものに特に限定されるものではなく、各繊維布帛の素材に合わせて適切なものを選択すればよい。
【0032】
また、繊維布帛の着色方法は、原着、浸染、または、捺染などの方法があり、特に限定されるものではない。
【0033】
また、繊維布帛には、所期の目的を逸脱しない限りにおいて、撥水加工、難燃加工、制電加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工、耐光向上加工、または、吸水加工、吸湿加工などが施されていてもよい。
【0034】
特に、本実施の形態に係る防水布帛を用いて、表面を裏返して裏面として使用するリバーシブル衣服とする場合には、繊維布帛は撥水性を有するとよい。
【0035】
また、本実施の形態に係る防水布帛を、大量に汗や結露が発生する用途に用いる場合、繊維布帛は、吸水性および吸湿性を有するとよい。特に、防水布帛を衣服などに用いる場合、裏地や中綿を用いずに肌へのベタツキを抑制したい場合には、繊維布帛の身体側の面を撥水性とし、樹脂層側の面を親水性とした繊維布帛を用いてもよい。
【0036】
<無孔質のウレタン樹脂膜>
本実施の形態において、無孔質のウレタン樹脂膜を構成する樹脂は、エーテル系ウレタン樹脂、エステル系ウレタン樹脂、または、ポリカーボネート系ウレタン樹脂などであり、特に限定されるものではない。
【0037】
透湿性の観点からは、無孔質のウレタン樹脂膜は、親水性を有することが好ましい。親水性としては、水に対する膨潤性(水膨潤度)または吸水性を有している、あるいは、水に対する接触角が90°未満であることが好ましい。水に対する膨潤性については、水膨潤度が2%以上であるとよく、より好ましくは4%以上である。また、水に対する接触角は、90°未満であるとよく、より好ましくは85°以下、さらにより好ましくは80°以下である。
【0038】
また、水膨潤度の上限は、用いられる繊維布帛、後に説明する保護層またはバインダー層にもよるが、水と接触した際の形状の安定性(つまり、樹脂層の水による膨潤を抑え、防水布帛の外観の変化を抑制すること)の観点からは、10%以下が良く、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。水に対する接触角の下限は、50°以上が良く、より好ましくは60°以上、さらにより好ましくは70°以上である。
【0039】
また、無孔質のウレタン樹脂膜を構成するウレタン樹脂は、透湿性の観点より、エーテル系ウレタン樹脂を含むものがよい。さらに好ましくは、エーテル系ウレタン樹脂は、ウレタン樹脂の分子構造内にエーテルとエステルとを有するエーテルエステル系ウレタン樹脂を含むものがよい。エーテルエステル系ウレタン樹脂を用いることで、透湿性に加え、水に接触した場合にウレタン樹脂膜の膨潤を抑えることができ、さらに、摩耗性も向上させることができる。また、ウレタン樹脂膜の膨潤をいっそう抑えて摩耗性もさらに向上させるとの観点からは、エーテルエステル系ウレタン樹脂に加え、エステル系ウレタン樹脂およびポリカーボネート系ウレタン樹脂の少なくとも1種を含むとよい。なお、エーテル系ウレタン樹脂と他のウレタン樹脂の配合比は、それぞれの樹脂の親水性や膜強度により調整すればよい。
【0040】
無孔質のウレタン樹脂膜には、染料および/または顔料を含むことにより有色の樹脂膜とすることができる。また、無孔質のウレタン樹脂膜が着色されていなくても、繊維布帛を着色することにより、透明な無孔質のウレタン樹脂を用いれば、無孔質のウレタン樹脂膜を介して、繊維布帛の色を確認することができる。これにより、無孔質のウレタン樹脂を含む樹脂層面が有色に見える防水布帛を得ることができる。
【0041】
また、無孔質のウレタン樹脂膜又は無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、消臭剤、酸化防止剤、吸湿剤、吸湿発熱材、難燃剤、または、撥水剤が含まれていてもよい。また、無孔質のウレタン樹脂膜又は無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層の強度、防水性または透湿性を高める目的、あるいは、樹脂層が肌に接触した際の触感を変えるなどの目的で、無孔質のウレタン樹脂膜又は無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層には、無機粒子または有機粒子などの充填剤などが含まれていてもよい。
【0042】
また、本実施の形態における無孔質のウレタン樹脂膜の厚みは、5μm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0043】
防水性および耐摩耗性の観点からは、無孔質のウレタン樹脂膜の厚みは、7μm以上であるとよく、さらに好ましくは10μm以上である。無孔質のウレタン樹脂膜の厚みが15μmを超えると、後に説明を行う保護層を形成しなくても、摩耗性に優れる防水布帛が得られる。
【0044】
また、風合い、透湿性、および、水と接触した際の形状の安定性の観点からは、無孔質のウレタン樹脂膜の厚みは、70μm以下であるとよく、さらに好ましくは50μm以下、さらにより好ましくは30μm以下である。
【0045】
<保護層>
また、本実施の形態に係る防水布帛における樹脂層は、無孔質のウレタン樹脂膜に加えて保護層を有していてもよい。この場合、保護層は、無孔質のウレタン樹脂膜の繊維布帛側の面とは反対の面に形成されているとよい。保護層を設けることによって、無孔質のウレタン樹脂膜の耐摩耗性を向上させることができるとともに、樹脂層の表面(樹脂層の繊維布帛側の面とは反対の面)が水と接触した際に防水布帛の形状が変化することを抑制できる。
【0046】
保護層は、ウレタン樹脂を含む樹脂膜であるとよい。この場合、ウレタン樹脂としては、疎水性のウレタン樹脂であることが好ましく、エステル系ウレタン樹脂および/またはポリカーボネート系ウレタン樹脂を含むとよい。耐候性の観点から、特に好ましくは、保護層には、ポリカーボネート系ウレタン樹脂が含まれているとよい。
【0047】
また、保護層として、エーテルエステル系ウレタン樹脂を用いることもできるが、シリコンを共重合させるなどして、疎水性を高めたものを用いるとよい。
【0048】
また、保護層として、フッ素系撥水剤、シリコン系撥水剤または炭化水素系撥水剤などの撥水剤を含んだウレタン樹脂を用いることで、疎水性を高めることができる。これにより、得られる防水布帛の水の接触による形状の安定性を高めることができる。
【0049】
保護層をウレタン樹脂膜によって構成する場合、ウレタン樹脂膜は、無孔質膜であってもよいし、多孔質膜であってもよい。多孔質膜の場合は、湿式法によって形成されたものであってもよいし、機械発泡やケミカル発泡などの乾式発泡法により形成されたものであってもよい。また、保護層は、無孔質膜を複数積層したものであってもよいし、多孔質膜を複数積層したものであってもよいし、多孔質膜と無孔質膜とを組み合わせたものであってもよい。
【0050】
防水布帛が水と接触した際の形状の安定性の観点からは、保護層としてウレタン樹脂膜を用いる場合、ウレタン樹脂膜は無孔質膜であることが好ましい。また、摩耗性を向上させるとの観点からは、保護層として、多孔質のウレタン樹脂膜を用いるとよい。
【0051】
保護層の形状は、例えば、平膜状、点状、線状、格子状などであるが、特に限定されるものではない。保護層は、無孔質のウレタン樹脂膜の繊維布帛側の面とは反対の面の50%以上を覆っているとよく、より好ましくは、ほぼ隙間なく全面を覆っているとよく、特により好ましくは、完全に隙間なく全面を覆っているとよい。
【0052】
保護層の厚みは、透湿性を維持するとの観点からは、10μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。また、保護層の厚みの下限は、特に限定されないが、耐摩耗性の観点および水に濡れた場合の形状の安定性の観点からは、保護層の厚みは、0.1μm以上であるとよい。
【0053】
なお、保護層に粒状物などが含まれていて当該粒状物が保護層を構成する樹脂の表面から突出している場合、粒状物の突出箇所は、保護層の厚みとはみなさないものとする。
【0054】
また、保護層には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、顔料、染料、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、消臭剤、酸化防止剤、吸湿剤、吸湿発熱材、難燃剤、または、撥水剤が含まれていてもよい。また、保護層の強度、防水性および透湿性を高める目的、また、保護層が肌に接触した際の触感を変えるなどの目的で、保護層には、無機粒子または有機粒子などの充填剤などが含まれていてもよい。
【0055】
<接着剤>
無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層と繊維布帛とは、接着剤を介して接着されている。樹脂層が無孔質のウレタン樹脂膜のみによって構成されている場合は、無孔質のウレタン樹脂膜と繊維布帛とが接着剤によって接着されている。
【0056】
接着剤は、樹脂層と繊維布帛の間に、点状、線状、格子状、ベタ状などに介在させて、樹脂層と繊維布帛とを貼り合せることで繊維布帛の表面に樹脂層を積層させることができる。防水性の観点からは、接着剤は、樹脂層と繊維布帛の間の全面にベタ状に介在しているとよい。
【0057】
なお、繊維布帛にあらかじめ他の樹脂膜が付与されたものを用いる場合には、無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層と、繊維布帛に付与された他の樹脂膜との間に接着剤を介在させればよい。
【0058】
接着剤としては、イソシアネート系、エポキシ系、オキサゾリン系などの接着剤を用いることができるが、中でも、イソシアネート系の接着剤を用いることが好ましい。また、接着剤は、一液型および二液型のいずれであってもよく、また、湿気硬化型のホットメルトタイプであってもよい。
【0059】
得られる防水布帛の透湿性の観点からは、接着剤は、親水性を有するとよく、特に好ましくは、親水性のウレタン樹脂を含むものがよい。さらに、防水布帛が水に接触した際に防水布帛の変形を抑えるとの観点からは、接着剤は、エーテルエステル系ウレタン樹脂を含むものがよい。
【0060】
また、接着剤として用いられる親水性のウレタン樹脂の水膨潤度は、透湿性の観点より、2%以上であることが好ましく、5%以上がさらに好ましく、10%以上がさらにより好ましい。水膨潤度の上限は、用いられる繊維布帛、無孔質のウレタン樹脂膜または保護層にもよるが、水と接触した際の形状の安定性(つまり、樹脂層の水による膨潤を抑え、防水布帛の外観の変化を抑制すること)の観点からは、40%以下が良く、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下である。
【0061】
接着剤として用いられる親水性のウレタン樹脂についての水に対する接触角は、90°未満が好ましく、より好ましくは80%未満である。接着剤の水に対する接触角の下限は、特に限定されないが、60°以上が好ましく、より好ましくは70°以上、さらにより好ましくは75°以上である。
【0062】
<繊維製品>
次に、本実施の形態に係る防水布帛を用いた繊維製品について説明を行う。なお、本発明は以下に説明する繊維布帛に限定されるものではない。また、以下の説明では、先に説明した内容については、一部説明を省略する。
【0063】
本実施の形態に係る繊維製品は、繊維製品の少なくとも一部に上記の防水布帛を用いたものである。この場合、防水布帛の樹脂層は、繊維製品の表面層として使用されている。例えば、繊維製品が衣服である場合、繊維製品における防水布帛は、無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層および繊維布帛のうち樹脂層が繊維製品の表側(外側)に位置し、繊維布帛が身体側(内側)に位置している。
【0064】
具体的な繊維製品としては、ウインドブレーカー、コート、ジャケット、ジャンパー、ヤッケ、アノラック、スキーウエア、スノーボードウエア、合羽、作業服、テント、寝袋、マットレスカバー、帽子、靴などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本実施の形態に係る繊維製品は、繊維製品の厚さ方向に対して裏地などを用いずに上記の防水布帛が一枚で構成されたものであってもよいし、防水布帛に加えて別途裏地を用いたものであってもよいし、また、表地となる防水布帛と裏地との間に羽毛またはワタなどからなる中綿の層を設けたものであってもよい。また、本実施の形態に係る防水布帛と同様の構造を有する布帛を表地および裏地の両方に用いたものであってもよい。
【0066】
また、生地を裏返して使うことによりどちらの面も繊維製品の表側面として使えるリバーシブルタイプの繊維製品であってもよい。
【0067】
本実施の形態に係る繊維製品では、所定の範囲の耐水度および透湿度を有する防水布帛を用いたものであり、無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層が繊維製品の表側に存在している。
【0068】
これにより、防水性を有するだけではなく、透湿性を有するので衣服内のムレおよび結露を抑制することができ、また、摩耗にも強い。しかも、樹脂層が水に接触した場合においても形状の変化が抑制される。これにより、意匠性および快適性に優れた繊維製品を得ることができる。
【0069】
次に、本実施の形態に係る防水布帛および繊維製品の製造方法について説明する。なお、本実施の形態に係る防水布帛および繊維製品は、以下に説明する製造方法で得られるものに限定されるものではない。また、以下の説明では、先に説明した内容については、一部説明を省略する。
【0070】
<防水布帛の製造方法>
まず、繊維布帛を準備する。繊維布帛は、精練、染色、捺染をはじめとして、制電加工、撥水加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工、吸湿加工、吸水加工、カレンダー加工などを必要に応じて施してもよい。得られる防水布帛を用いてリバーシブルのジャンパーなどの繊維製品を製造したい場合には、繊維布帛に撥水加工を施すとよい。また、裏地を用いずに防水布帛を用いて衣服を製造し、衣服の内側(身体側)に直接繊維布帛が肌と接触することになる場合には、繊維布帛に、吸水加工、吸湿加工、または撥水加工を行うとよい。
【0071】
また、離型紙上に無孔質のウレタン樹脂膜を得るために、ウレタン樹脂などを含む樹脂溶液を塗布した後、50~130℃にて乾燥し、必要に応じて120~170℃で熱処理し、無孔質のウレタン樹脂膜を形成する。
【0072】
次に、得られた無孔質のウレタン樹脂膜の上に、上記の接着剤を含む樹脂溶液を塗布し、必要に応じて50~130℃で乾燥し、その後、無孔質のウレタン樹脂膜における接着剤を塗布した面に繊維布帛を積層し、必要に応じてニップまたは加熱ロールを用いてニップし、ドライラミネート法によって無孔質のウレタン樹脂膜と繊維布帛とを貼り合わせる。これにより、繊維布帛の片面に接着剤を介して無孔質のウレタン樹脂膜が貼り合わされた防水布帛を製造することができる。
【0073】
また、接着剤を乾燥せずに繊維布帛を貼り合わせるウエットラミネート法によっても防水布帛を製造することができる。
【0074】
離型紙に塗布する樹脂溶液としては、ジメチルホルムアミド(以下、DMF)、トルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶媒または水を主体とする溶媒(分散媒)にウレタン樹脂が溶解あるいは分散されたものを用いることができる。
【0075】
無孔質のウレタン樹脂膜を形成するための樹脂溶液には、前記の通り、透湿性の観点からは、エーテル系ウレタン樹脂を含むものがよい。さらに好ましくは、エーテル系ウレタン樹脂の中でもエーテルエステル系ウレタン樹脂を含むものがよい。エーテルエステル系ウレタン樹脂を用いることで、透湿性に加えて、水に接触した場合に無孔質のウレタン樹脂膜の膨潤を抑え、摩耗性も向上させることができる。また、無孔質のウレタン樹脂膜の水による膨潤をさらに抑え、摩耗性もいっそう向上させるとの観点からは、エーテル系ウレタン樹脂に加えて(特に好ましくはエーテルエステル系ウレタン樹脂に加えて)、エステル系ウレタン樹脂およびポリカーボネート系ウレタン樹脂の少なくとも1種を含むとよい。
【0076】
なお、無孔質のウレタン樹脂膜を形成するための樹脂溶液中には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、架橋剤、触媒、酸化防止剤、顔料などの着色剤、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、消臭剤、酸化防止剤、吸湿剤、吸湿発熱材、または、難燃剤などが含まれていてもよい。また、無孔質のウレタン樹脂膜の強度、防水性または透湿性を高める目的、あるいは、無孔質のウレタン樹脂膜が肌に接触した際の触感を変えるなどの目的で、無機粒子または有機粒子などの充填剤などが添加されていてもよい。
【0077】
無孔質のウレタン樹脂膜を形成するための樹脂溶液は、離型紙上に、ナイフコータ、バーコータまたはコンマコータなどを用いて塗布すればよい。
【0078】
また、離型紙上に得られた無孔質のウレタン樹脂膜上への接着剤を含む樹脂溶液を塗布する場合、上記の接着剤を含む樹脂溶液を、ナイフコータ、バーコータ、コンマコータ、グラビアコータなどを用いて、点状、線状、格子状、またはベタ状に、無孔質のウレタン樹脂膜の上に塗布する。
【0079】
接着剤を含む樹脂溶液は、所定の樹脂を、DMF、トルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶媒または水で溶解、分散させたものであってもよいし、ホットメルト型の樹脂であれば、溶剤を含まずに加熱溶解させたものであってもよい。
【0080】
接着剤を含む樹脂溶液の中には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、架橋剤、触媒、酸化防止剤、顔料などの着色剤、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、消臭剤、酸化防止剤、吸湿剤、吸湿発熱材または難燃剤などを添加してもよい。
【0081】
上記のように、無孔質のウレタン樹脂膜の上に接着剤を含む樹脂溶液を塗布し、必要に応じて乾燥した後、その上に、繊維布帛を積層し、加熱ロールなどを用いてニップし、繊維布帛に接着剤を介して無孔質のウレタン樹脂膜を積層する。さらに、無孔質のウレタン樹脂膜を接着剤を介して繊維布帛に積層した後は、必要に応じて、50~100℃でエージングを12~72時間行い、離型紙を剥離する。
【0082】
また、無孔質のウレタン樹脂膜の繊維布帛側の面とは反対の面に保護層を形成する場合には、離型紙を剥離した後、無孔質のウレタン樹脂膜上に、保護層を形成するための樹脂溶液を塗布するとよい。
【0083】
あるいは、離型紙に保護層を形成し、その保護層の上に無孔質のウレタン樹脂膜を形成してもよいが、薄い保護層を安定して形成するには、離型紙を剥離した後、無孔質のウレタン樹脂膜上に、保護層を形成するための樹脂溶液を塗布するとよい。
【0084】
保護層を形成するための樹脂溶液は、前記の通り、ウレタン樹脂を含むとよい。ウレタン樹脂は、防水布帛に水が接触した際の防水布帛の形状の安定性の観点からは、疎水性のウレタン樹脂であるとよく、より好ましくは、エステル系ウレタン樹脂および/またはポリカーボネート系ウレタン樹脂を含むとよい。耐候性の観点から、保護層を形成するための樹脂溶液には、ポリカーボネート系ウレタン樹脂が含まれているとよい。
【0085】
また、保護層を構成する材料として、エーテルエステル系ウレタン樹脂を用いることもできるが、シリコンを共重合させるなどして、疎水性を高めたものを用いるとよい。
【0086】
また、保護層を構成する材料として、フッ素系撥水剤、シリコン系撥水剤または炭化水素系撥水剤などの撥水剤を含んだウレタン樹脂を用いることで、疎水性を高めることができる。これにより、得られる防水布帛の水の接触による形状の安定性を高めることができる。
【0087】
また、保護層を形成するための樹脂溶液中には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、架橋剤や触媒、酸化防止剤、顔料などの着色剤、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、消臭剤、酸化防止剤、吸湿剤、吸湿発熱材、難燃剤、または、撥水剤が含まれていてもよい。また、保護層の強度、防水性および透湿性を高める目的、また、保護層が肌に接触した際の触感を変えるなどの目的で、保護層を形成するための樹脂溶液中には、無機粒子または有機粒子などの充填剤などが添加されていてもよい。特に、保護層を形成するための樹脂溶液中に撥水剤が含まれているとよい。これにより、保護層に水が接触した際の防水布帛の形状の安定性を向上させることができる。
【0088】
保護層を形成するための樹脂溶液は、樹脂を、DMF、トルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶媒または水で溶解、分散させたものであってもよいし、ホットメルト型の樹脂であれば、溶剤を含まずに加熱溶解させたものであってもよい。
【0089】
保護層を形成するための樹脂溶液を塗布する場合、上記の接着剤を含む樹脂溶液を、ナイフコータ、バーコータ、コンマコータ、グラビアコータなどを用いて、点状、線状、格子状、または、ベタ状に、無孔質のウレタン樹脂膜の繊維布帛側の面とは反対側の面に塗布する。
【0090】
無孔質のウレタン樹脂膜の上に保護層を形成するための樹脂溶液を塗布した後は、50~130℃にて乾燥し、必要に応じて120~170℃で熱処理する。これにより、無孔質のウレタン樹脂膜の上に保護層を形成することができる。
【0091】
また、その後、必要に応じて、130~200℃程度にて、仕上げセットなどを行ってもよい。
【0092】
なお、本実施の形態における防水布帛では、無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層に繊維布帛を積層した後に、染色または捺染をはじめとして、制電加工、撥水加工、抗菌防臭加工、吸水加工、吸湿加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工、または、カレンダー加工などを必要に応じて施してもよい。
【0093】
以上、本実施の形態に係る防水布帛は、無孔質のウレタン樹脂膜を含む樹脂層が、衣服や靴、鞄などの繊維製品の表面層として使用される場合であっても、防水性を有していながら、透湿性を有しており、さらに、耐摩耗性に優れ、樹脂層に水が接触した場合でも外観品位が低下することを抑制することができる。
【0094】
従って、本実施の形態に係る防水布帛を用いて衣服などの繊維製品を製造することで、繊維製品の内部に雨などの水が浸入することを抑制することができ、且つ、ムレを抑え、さらに摩耗に強い、樹脂層が表面層に用いられている、ウインドブレーカー、コート、ジャケット、ヤッケ、アノラック、スキーウエア、スノーボードウエア、合羽、作業服、帽子、手袋などの衣服をはじめ、テント、寝袋、マットレスカバー、靴、鞄などの繊維製品を実現することができる。
【実施例】
【0095】
以下、本実施の形態に係る防水布帛および繊維製品について説明するが、本発明は、これらの実施例によりなんら限定されるものではない。また、実施例における「部」は、質量部のことである。
【0096】
以下の実施例における評価は次の方法で行った。
【0097】
[A:透湿度]
透湿度は、塩化カルシウム法(JIS L1099-2012 A-1法)および酢酸カリウム法(JIS L1099-2012 B-1法)にて測定した。なお、接水面は、繊維布帛面とした。また、いずれの透湿度も24時間当りの透湿量に換算した。
【0098】
[B:耐水圧]
耐水圧は、JIS L1092-2009 耐水度試験(静水圧法) A法(低水圧法)またはB法(高水圧法)に準じた方法で測定した。具体的には、A法にて耐水圧を測定して2000mmを超えたものは、B法にて測定を行った。
【0099】
なお、水圧をかけることにより試験片が伸びる場合には、試験片の上にナイロンタフタ(2.54cm当りのタテ糸とヨコ糸の密度の合計が210本程度のもの)を重ねて、試験機に取り付けて測定を行った。
【0100】
[C:耐摩耗性]
耐摩耗性は、JIS L1096 摩耗強さ C法(テーバ形法)に準じて試験を行い、樹脂膜に穴が開くまでの摩擦回数(100回ごとに樹脂膜面に樹脂膜を貫通した穴あきが発生したかを目視にて確認し、穴あきが確認された直前の摩擦回数)を測定した。なお、測定時に使用した摩耗輪は、No.CS-17、荷重4.90Nとした。また、いずれの例(実施例及び比較例)においても試験片の表面(摩擦される面)は、樹脂膜面側とした。
【0101】
[D:親水性の確認]
(水膨潤度)
水膨潤度は、無孔質のウレタン樹脂膜(繊維布帛および保護層を積層させる前のもの)を、タテ方向およびヨコ方向のそれぞれを幅および長さとして、幅2cm、長さ20cmで裁断し、長さ方向に10cmの間隔の印をつけた。次いで、裁断した試料を20℃の水の中に浸漬し、30分間放置した後、先に付けた10cmの間隔の印間の長さ(cm)を測定し、下記の式により水膨潤度を求めた。具体的には、タテ方向およびヨコ方向の水膨潤度の和を2分の1にして、平均値を求めた。
【0102】
なお、接着剤の親水性の確認は、別途離型紙の上に、接着剤を構成する樹脂を塗布して厚さ15μmの無孔質の樹脂膜を製造し、この樹脂膜の水膨潤度を上記の方法で求めた。保護層も形成した場合は、保護層を構成する樹脂についても接着剤と同様にして水膨潤度を測定した。
【0103】
水膨潤度=[(水に浸漬した後の印の間隔-10)]/10×100
(接触角)
【0104】
無孔質のウレタン樹脂および接着剤についての水の接触角は、水膨潤度の測定と同様の方法にて製造した各樹脂膜を液滴法で測定して、θ/2法で角度を求めた。測定装置は接触角計DropMaster DM-300(協和界面科学(株)製)を用い、水の滴下後おおよそ1秒後の接触角を測定した。
【0105】
[E:ウレタン樹脂膜などの厚みの測定および観察]
走査型電子顕微鏡(SEMEDX Type H形:(株)日立サイエンスシステムズ)を用い、防水布帛の断面を1000倍~4500倍にて観察し、無孔質のウレタン樹脂膜について(保護層を形成した場合は保護層についても)、任意の5カ所の厚みを測定し、平均値を求めた。なお、無孔質のウレタン樹脂膜および保護層において、これらを構成する樹脂の層の厚みに比べて、大きな球状粒子などの添加剤が含まれている場合については、各層から突出している部分は、厚みの測定箇所から除外し、無孔質のウレタン樹脂膜および保護層の厚みとはみなさないこととした。
【0106】
また、得られた防水布帛の樹脂層(無孔質のウレタン樹脂膜)の表面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した。また、保護層も形成した場合は、保護層の状態も観察した。
【0107】
[F:樹脂膜が水に濡れたときの防水布帛の形態の安定性]
防水布帛の樹脂層の表面上に、スポイドを用い、水を一滴、静かに滴下し、室温に1分間放置した後、目視にて樹脂層の表面の外観を観察した。次に、滴下した水をふき取り、直ちに目視にて樹脂層の表面の外観を再び観察した。
【0108】
(実施例1)
実施例1では、繊維布帛として、ナイロン製オックス(織物)を酸性染料で青色に染色し、フッ素系撥水剤アサヒガードAG―E081(旭硝子(株)製)の3%水溶液を用いてディップ-ニップ法にて撥水加工したものを準備した。
【0109】
まず、離型紙上に下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて塗布し、120℃にて乾燥して、樹脂層として無孔質のウレタン樹脂膜を得た。
【0110】
[樹脂溶液(無孔質のウレタン樹脂膜作製用)]
エーテルエステル系ポリウレタン樹脂(固形分30%) 40部
エステル系ウレタン樹脂(固形分30%) 60部
メチルエチルケトン 30部
DMF 20部
青色顔料 10部
【0111】
次に、接着剤用の下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて上記無孔質のウレタン樹脂膜の片面全面にベタ状に塗布した。次に、120℃で2分間乾燥した。
【0112】
[樹脂溶液(接着剤用)]
エーテルエステル系ポリウレタン樹脂(固形分45%) 100部
イソシアネート系架橋剤(固形分100%) 10部
DMF 50部
トルエン 20部
アミン系触媒(固形分5~10%) 3部
【0113】
この接着剤の表面に、準備した上記の繊維布帛を重ね合わせて、熱圧着により繊維布帛と無孔質のウレタン樹脂膜とを貼り合わせた(ドライラミネート)。
【0114】
次に、70℃で72時間エージングした後、離型紙を剥離し、無孔質のウレタン樹脂膜の表面(繊維布帛が積層されていない面)に、グラビアコータを用いて保護層用の下記の樹脂溶液を格子状に塗布した。このとき、グラビアコータにて付与した樹脂溶液は、付与した箇所から拡散し、アクリル球状粒子と共に無孔質のウレタン樹脂膜全体の8割程度にまで広がった。次に、120℃で2分間乾燥し、無孔質のウレタン樹脂の表面に格子状に保護層を形成した。
【0115】
[樹脂溶液(保護層用)]
シリコン変性ポリカーボネート系ウレタン樹脂(固形分14%)
100部
アクリル球状粒子 2部
フッ素系撥水剤(固形分15%) 5部
【0116】
次に、150℃で30秒間の仕上げセットを行い、防水布帛を得た。得られた防水布帛の各種測定値を表1に記載した。
【0117】
(実施例2)
実施例2では、繊維布帛として、ナイロン製トリコット(編物)を酸性染料で黄色に染色したものを準備した。
【0118】
まず、離型紙上に下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて塗布し、120℃にて乾燥して、樹脂層として無孔質のウレタン樹脂膜を得た。
【0119】
[樹脂溶液(無孔質のウレタン樹脂膜作製用)]
エーテルエステル系ポリウレタン樹脂(固形分30%) 40部
ポリカーボネート系ウレタン樹脂(固形分30%) 60部
メチルエチルケトン 30部
DMF 20部
黄色顔料 5部
【0120】
次に、接着剤用の下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて上記無孔質のウレタン樹脂膜の片面全面にベタ状に塗布した。次に、120℃で2分間乾燥した。
【0121】
[樹脂溶液(接着剤用)]
エーテルエステル系ポリウレタン樹脂(固形分45%) 100部
イソシアネート系架橋剤(固形分100%) 10部
DMF 50部
トルエン 20部
アミン系触媒(固形分5~10%) 3部
【0122】
この接着剤の表面に、準備した上記の繊維布帛を重ね合わせて、熱圧着により繊維布帛と無孔質のウレタン樹脂膜とを貼り合わせた(ドライラミネート)。
【0123】
次に、70℃で72時間エージングした後、離型紙を剥離し、無孔質のウレタン樹脂膜の表面(繊維布帛が積層されていない面)に、グラビアコータを用いて保護層用の下記の樹脂溶液を格子状に塗布した。このとき、グラビアコータにて付与した樹脂溶液は、付与した箇所から拡散し、無孔質のウレタン樹脂膜の全面に広がった。次に、120℃で2分間乾燥し、無孔質のウレタン樹脂の表面の全面に隙間なく保護層を形成した。
【0124】
[樹脂溶液(保護層用)]
シリコン変性エーテルエステル系ウレタン樹脂(固形分14%)
100部
フッ素系撥水剤(固形分15%) 5部
【0125】
次に、炭化水素系撥水剤ネオシードNR-158(日華化学(株)製)の3%水溶液を用いてディップ-ニップ法にて撥水加工した後、150℃で30秒間の仕上げセットを行い、防水布帛を得た。得られた防水布帛の各種測定値を表1に記載した。
【0126】
(比較例1)
比較例1では、繊維布帛として、実施例2と同様のものを準備した。
【0127】
まず、離型紙上に下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて塗布し、120℃にて乾燥して、樹脂層として無孔質のウレタン樹脂膜を得た。
【0128】
[樹脂溶液(無孔質のウレタン樹脂膜作製用)]
ポリカーボネート系ウレタン樹脂(固形分30%) 100部
メチルエチルケトン 30部
DMF 20部
黄色顔料 5部
【0129】
次に、接着剤用の下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて上記無孔質のウレタン樹脂膜の片面全面にベタ状に塗布した。次に、120℃で2分間乾燥した。
【0130】
[樹脂溶液(接着剤用)]
エステル系ポリウレタン樹脂(固形分45%) 100部
イソシアネート系架橋剤(固形分100%) 10部
DMF 50部
トルエン 20部
アミン系触媒(固形分5~10%) 3部
【0131】
この接着剤の表面に、準備した繊維布帛を重ね合わせて、熱圧着により繊維布帛と無孔質のウレタン樹脂膜とを貼り合わせた(ドライラミネート)。
【0132】
次に、70℃で72時間エージングした後、離型紙を剥離し、その後、150℃で30秒間の仕上げセットを行い、防水布帛(合成皮革)を得た。得られた防水布帛の各種測定値を表1に記載した。
【0133】
(比較例2)
比較例2では、繊維布帛として、酸性染料で黄色に染色されたナイロン製タフタを準備した。
【0134】
まず、離型紙上に下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて塗布し、120℃にて乾燥して、樹脂層として無孔質のウレタン樹脂膜を得た。
【0135】
[樹脂溶液(無孔質のウレタン樹脂膜作製用)]
ポリエーテル系ウレタン樹脂(固形分30%) 100部
メチルエチルケトン 70部
白色顔料 5部
【0136】
次に、接着剤用の下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて上記無孔質のウレタン樹脂膜の片面に点状に塗布した。次に、120℃で2分間乾燥した。
【0137】
[樹脂溶液(接着剤用)]
エーテル系ポリウレタン樹脂(固形分45%) 100部
イソシアネート系架橋剤(固形分100%) 10部
メチルエチルケトン 10部
トルエン 30部
アミン系触媒(固形分5~10%) 3部
【0138】
この接着剤の表面に、準備した繊維布帛を重ね合わせて、熱圧着により繊維布帛と無孔質のウレタン樹脂膜とを貼り合わせた(ドライラミネート)。
【0139】
次に、70℃で72時間エージングした後、離型紙を剥離し、引き続き、炭化水素系撥水剤ネオシードNR-158(日華化学(株)製)の3%水溶液を用いディップ-ニップ法にて撥水加工した後、150℃で30秒間の仕上げセットを行い、防水布帛を得た。得られた防水布帛の各種測定値を表1に記載した。
【0140】
(実施例3)
実施例3では、繊維布帛として、ポリエステル製三段スムース(編物)の染色しないもの(精練済み)を準備した。
【0141】
まず、離型紙上に下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて塗布し、120℃にて乾燥して、樹脂層として無孔質のウレタン樹脂膜を得た。
【0142】
[樹脂溶液(無孔質のウレタン樹脂膜作製用)]
エーテルエステル系ポリウレタン樹脂(固形分30%) 40部
エステル系ウレタン樹脂(固形分30%) 60部
メチルエチルケトン 30部
DMF 20部
青色顔料 10部
【0143】
次に、接着剤用の下記の樹脂溶液をコンマコータを用いて上記無孔質のウレタン樹脂膜の片面全面にベタ状に塗布した。次に、120℃で2分間乾燥した。
【0144】
[樹脂溶液(接着剤用)]
エ-テルエステル系ポリウレタン樹脂(固形分45%) 100部
イソシアネート系架橋剤(固形分100%) 10部
DMF 50部
トルエン 20部
アミン系触媒(固形分5~10%) 3部
【0145】
この接着剤の表面に、準備した繊維布帛を重ね合わせて、熱圧着により繊維布帛と無孔質のウレタン樹脂膜とを貼り合わせた(ドライラミネート)。
【0146】
次に、70℃で72時間エージングした後、離型紙を剥離し、150℃で30秒間の仕上げセットを行い、防水布帛を得た。得られた防水布帛の各種測定値を表1に記載した。
【0147】
(実施例4)
実施例4では、実施例3と比べて、無孔質のウレタン樹脂膜の厚みを20μmと薄くし、接着剤に用いたエーテルエステル系のウレタン樹脂として、水膨潤度が20%のエーテルエステル系ウレタン樹脂を用いた以外は、実施例3と同様にして防水布帛を得た。得られた防水布帛の各種測定値を表1に記載した。
【0148】
(実施例5)
実施例5では、実施例4において、離型紙を剥離した後、無孔質のウレタン樹脂膜の表面(繊維布帛が積層されていない面)に、グラビアコータを用いて保護層用の下記の樹脂溶液を格子状に塗布した。このとき、グラビアコータにて付与した樹脂溶液は、樹脂を付与した箇所から拡散し、無孔質のウレタン樹脂膜の全面に広がった。次に、120℃で2分間乾燥し、無孔質のウレタン樹脂の表面の全面に隙間なく保護層を形成した。
【0149】
[樹脂溶液(保護層用)]
ポリカーボネート系ウレタン樹脂(固形分14%) 100部
フッ素系撥水剤(固形分15%) 5部
青色顔料 5部
【0150】
次に、フッ素系撥水剤アサヒガードAG―E081(旭硝子(株)製)の3%水溶液を用いてグラビアコータ法にて繊維布帛の表面から撥水加工を施した後、次に、150℃で30秒間の仕上げセットを行い、防水布帛を得た。得られた防水布帛の各種測定値を表1に記載した。
【0151】
【0152】
表1に示すように、実施例1~5における防水布帛は、従来の合成皮革(比較例1)にはなかった優れた透湿性を有することが分かる。また、実施例1~5における防水布帛は、従来の透湿性防水布帛(比較例2)にはなかった優れた耐摩耗性を有しており、樹脂膜が水と接触した場合においても防水布帛の変形はほとんど見られなかった。