(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
C12N 15/69 20060101AFI20240227BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240227BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240227BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240227BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240227BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240227BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20240227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C12N15/69 Z
C12N5/10
C12N15/867 Z ZNA
A61K35/28
A61K35/17
A61K48/00
A61K38/13
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2019556865
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2018060237
(87)【国際公開番号】W WO2018193118
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-04-20
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514194370
【氏名又は名称】オスペダーレ サン ラファエレ エス.アール.エル
(73)【特許権者】
【識別番号】511262290
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ テレトン イーティーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カジャステ-ルドニツキ,アンナ クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ペトリロ,カロリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ゲントナー,ベルンハルト ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】ナルディーニ,ルイージ
(72)【発明者】
【氏名】ジェノヴェーゼ,ピエトロ
(72)【発明者】
【氏名】スキロリ,ジュリア
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/162594(WO,A2)
【文献】特表2006-513153(JP,A)
【文献】Molecular Therapy,2015年,Vol.23, No.2,p.352-362
【文献】Blood,2016年,Vol.128, No.22,4707
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28,15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスベクターによる細胞の単離集団の形質導入の効率を増大させるため、および/またはウイルスベクターにより形質導入する場合に細胞の単離集団の遺伝子編集の効率を増大させるための、シクロスポリンH(CsH)の使用であって、
前記ウイルスベクターは、エンドサイトーシス依存性の機序により細胞に侵入させるためにシュードタイプ化されており、かつ/または、前記ウイルスベクターは、VSV-gシュードタイプベクターであり、並びに、
前記細胞は、(a)造血幹細胞および/もしくは造血前駆細胞、または、(b)T細胞である、前記使用。
【請求項2】
前記T細胞が、CD4
+および/もしくはCD3
+T細胞である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクターである、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクター又はインテグラーゼ欠損型レンチウイルス(IDLV)ベクターである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記細胞が、刺激された細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記ベクターにより形質導入される細胞の割合が増大する、および/または前記ベクターの細胞当たりのコピー数が増大する、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記のCsHが1~50μMの濃度である、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記の細胞の集団を、ラパマイシンと組み合わせたCsHと接触させる、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記の細胞の集団を、プロスタグランジンE2又は16-16ジメチルプロスタグランジンE2と組み合わせたCsHと接触させる、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記ウイルスベクターが目的のヌクレオチドを含み、(a)目的のヌクレオチドが、リソソーム蓄積症、免疫不全症、若しくは、癌の治療用である、又は(b)目的のヌクレオチドが、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
細胞集団に形質導入する方法であって、以下のステップ(a)および(b)、すなわち
(a)細胞集団をシクロスポリンH(CsH)と接触させるステップ、および
(b)該細胞集団にウイルスベクターで形質導入するステップ、ここで前記ウイルスベクターは、エンドサイトーシス依存性の機序により細胞に侵入させるためにシュードタイプ化されており、かつ/または、前記ウイルスベクターは、VSV-gシュードタイプベクターである、
を含み、
これにより前記ウイルスベクターによる前記細胞集団への形質導入の効率が増大し、及び/若しくは、前記ウイルスベクターにより形質導入された細胞集団の遺伝子編集の効率が増大し、
前記ステップ(a)および(b)をin vitroまたはex vivoで実施し、並びに
前記細胞が、(a)造血幹細胞及び/若しくは造血前駆細胞、又は、(b)T細胞である、上記方法。
【請求項12】
前記T細胞が、CD4
+および/もしくはCD3
+T細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクターである、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクター又はインテグラーゼ欠損型レンチウイルス(IDLV)ベクターである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、刺激された細胞である、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ベクターにより形質導入される細胞の割合が増大する、および/または前記ベクターの細胞当たりのコピー数が増大する、請求項11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記のCsHが1~50μMの濃度である、請求項11~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞集団を、ラパマイシンと組み合わせたCsHと接触させる、請求項11~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞集団を、プロスタグランジンE2又は16-16ジメチルプロスタグランジンE2と組み合わせたCsHと接触させる、請求項11~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記ウイルスベクターが目的のヌクレオチドを含み、(a)目的のヌクレオチドが、リソソーム蓄積症、免疫不全症、若しくは、癌の治療用である、又は(b)目的のヌクレオチドが、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする、請求項11~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
造血幹細胞および/または造血前駆細胞に関して前記集団を富化するさらなるステップを含む、請求項11~20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の遺伝子改変に関するものである。より具体的には、本発明は、ウイルスベクターによる細胞の形質導入を改善するため、および細胞の遺伝子編集を改善するための、化合物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
造血系は、種々の成熟細胞系列の細胞の複雑な階層である。これらのものとしては、病原体からの保護を提供する免疫系の細胞、体中に酸素を運搬する細胞および創傷治癒に関与する細胞が挙げられる。これらの成熟細胞はいずれも、自己再生およびあらゆる血液細胞系列への分化が可能な造血幹細胞(HSC)のプールに由来するものである。HSCは全造血系を補充する能力を有する。
【0003】
造血細胞移植(HCT)は幾つかの遺伝性および後天性障害に対する治癒的療法である。しかし、同種HCTは、適合ドナーが見つかる可能性の低さ、同種法に関連する死亡率(主に移植片対宿主病(GvHD)、および重度かつ長期にわたる免疫機能不全状態により誘発される感染性合併症に関係する)により制限される。
【0004】
遺伝的に改変された自己HSCの移植に基づく遺伝子治療法は、同種HCTよりも潜在的に改善された安全性および有効性を提供する。それらは特に、適合ドナーがいない患者に適している。
【0005】
幹細胞遺伝子治療の概念は、比較的少数の幹細胞の遺伝子改変に基づいている。これらは自己再生を経ることにより身体内で長期にわたり存続して、多数の遺伝的に「修正された」子孫を生み出す。これにより、患者の生涯のうち残りの期間、修正細胞の継続的な供給が保証される。HSCは、それらの遺伝子改変はそれらが分化する際に全ての血液細胞系列に受け継がれることから、遺伝子治療のとりわけ魅力的な標的である。さらに、HSCは、例えば骨髄、動員末梢血および臍帯血から容易かつ安全に取得することができる。
【0006】
HSCおよびその子孫の効率的な長期遺伝子改変には、HSCの機能に影響を与えることなくゲノムに修正用DNAを安定して組み込むことを可能にする技術を要する。従って、γ-レトロウイルス、レンチウイルスおよびスプーマウイルスなどの組換えウイルス系の組み込みの利用がこの分野で優位を占めている(Chang, A.H.ら (2007) Mol. Ther. 15:445-456)。治療的利益は、アデノシンデアミナーゼ重症複合免疫不全症(ADA-SCID;Aiuti, A.ら (2009) N. Engl. J. Med. 360:447-458)、X連鎖性重症複合免疫不全症(SCID-X1;Hacein-Bey-Abina, S.ら (2010) N. Engl. J. Med. 363:355-364)およびWiskott-Aldrich症候群(WAS;Boztug, K.ら (2010) N. Engl. J. Med. 363:1918-1927)のためのγ-レトロウイルスに基づく臨床試験において既に達成されている。加えて、レンチウイルスは、X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD;Cartier, N.ら (2009) Science 326:818-823)の治療において、またごく最近では異染性白質ジストロフィー(MLD;Biffi, A.ら (2013) Science 341:1233158)およびWAS(Aiuti, A.ら (2013) Science 341:1233151)のために、送達手段として用いられている。
【0007】
それにも関わらず、レンチウイルスは細胞形質導入のための利用可能な最善のプラットフォームの1つであるが、細胞、特に造血幹細胞および造血前駆細胞の遺伝子改変に用いられる方法には問題が残る。例えば、遺伝子治療が有効であるためには、標的細胞への有効な遺伝子導入が、その生物学的特性に有害な影響を引き起こすことなく達成されなければならない。
【0008】
多くの既存の方法は、臨床的に適切な形質導入レベルに到達するために高いベクター用量、長期に及ぶ形質導入期間およびex vivo培養を必要とする場合があるため、最適以下の標的細胞許容度を示す。これは、煩雑で、費用が掛かり、かつ必ずしも持続可能ではない大規模なベクター産生および長期のex vivo形質導入プロトコルに起因する細胞品質の低下を生じる場合があるため、依然としてこの分野のハードルである
【0009】
遺伝子治療試験で報告された副作用の中でも、ex vivo改変細胞の生着遅延に起因する長期好中球減少が、治療に関連した罹患率および死亡率の主要な原因である。回復遅延が細胞治療製品のex vivo培養によって引き起こされる場合があり、これは典型的には60時間を超えて持続する(Aiuti, A.ら (2013) Science 341:1233151;Biffi, A.ら (2013) Science 341:1233158)。実験的証拠を集めることで、培養した造血幹細胞および造血前駆細胞が、細胞周期への動員および接着分子の喪失により生着能を次第に失い、その結果ニッチへのそれらのホーミングを妨げ、さらに系列を拘束および分化させることが示される。形質導入効率の増大は、最終的に、臨床的に関連する遺伝子導入に必要なベクターの量の低減、さらにはex vivo培養時間の短縮を可能にするだろう。
【0010】
形質導入プロトコルを改善する点では進展があり、例えば、本発明者らは、造血幹細胞および造血前駆細胞の形質導入効率の改善がシクロスポリンAを使用することにより達成されうることを以前に示したが、ウイルスベクターによる細胞の遺伝子改変を改善するためのさらなるアプローチの必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Chang, A.H.ら (2007) Mol. Ther. 15:445-456
【文献】Aiuti, A.ら (2009) N. Engl. J. Med. 360:447-458
【文献】Hacein-Bey-Abina, S.ら (2010) N. Engl. J. Med. 363:355-364
【文献】Boztug, K.ら (2010) N. Engl. J. Med. 363:1918-1927
【文献】Cartier, N.ら (2009) Science 326:818-823
【文献】Biffi, A.ら (2013) Science 341:1233158
【文献】Aiuti, A.ら (2013) Science 341:1233151
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、驚いたことに、シクロスポリンH(CsH)が、造血幹細胞および造血前駆細胞を含む細胞の形質導入を改善する点で、シクロスポリンAよりもはるかに良く機能することを見出した。CsHは、適度な感染多重度10での単回レンチウイルスベクター適用(「ヒット(hit)」)後に、ほぼ100%の形質導入効率とゲノム当たり最大3のベクターコピーをもたらした。これらの知見は臨床的に関連する動員末梢血由来の造血幹細胞および造血前駆細胞において得られ、またCsHは該細胞の生物学的特性に有害な影響を与えないことが観察された。
【0013】
また本発明者らは、高い形質導入レベルがin vivoで長期再構築能を有する造血幹細胞および造血前駆細胞において維持されることも見出し、さらにCsHがこれらの細胞において基礎的(basal)およびI型IFN誘導性レンチウイルス制限を克服することが見出された。CsHの効果は、ラパマイシンおよびプロスタグランジンE2などの他の早期作用性化合物と組み合わせた場合にさらに改善されることも見出された。
【0014】
さらに、本発明者らは、CsHが非刺激造血幹細胞および造血前駆細胞、活性化T細胞において、またインテグラーゼ欠損型レンチウイルス(IDLV)ベクターを使用した場合に、形質導入効率を増大させることを見出した。またCsHは、マウスおよびヒトの造血幹細胞および造血前駆細胞における、特により原始的なCD34+CD133+CD90+画分における遺伝子ターゲティング効率も向上させた。加えて、CsHは、初代ヒトT細胞におけるターゲティング効率を損なうことなく形質導入時のIDLV用量を低減するために使用してもよい。
【0015】
従って、一態様において、本発明は、ウイルスベクターによる細胞の単離集団の形質導入の効率を増大させるため、および/またはウイルスベクターにより形質導入する場合に細胞の単離集団の遺伝子編集の効率を増大させるための、シクロスポリンH(CsH)またはその誘導体の使用を提供する。
【0016】
一実施形態において、前記使用は、ウイルスベクターによる細胞の単離集団の形質導入の効率を増大させるためのものである。
【0017】
別の実施形態において、前記使用は、ウイルスベクターにより形質導入する場合に細胞の単離集団の遺伝子編集の効率を増大させるためのものである。好ましくは、前記ウイルスベクターは、非組み込み型ベクター(例えば、組み込み欠損型レンチウイルスベクター、IDLV)である。
【0018】
一実施形態において、前記遺伝子編集に、1つ以上のジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)および/またはCRISPR/Cas系を使用する。
【0019】
一実施形態において、前記細胞は造血幹細胞および/または造血前駆細胞である。別の実施形態において、前記細胞はT細胞である。一実施形態において、前記T細胞はCD4+T細胞である。一実施形態において、前記T細胞はCD3+T細胞である。
【0020】
一実施形態において、前記の細胞の単離集団はCD34+CD38-細胞を含む。
【0021】
好適な実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。
【0022】
一実施形態において、前記細胞は刺激細胞である。別の実施形態において、前記細胞は非刺激細胞である。
【0023】
一実施形態において、前記ウイルスベクターはレトロウイルスベクターである。好適な実施形態において、前記ウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。
【0024】
一実施形態において、前記レンチウイルスベクターはHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来するものである。好適な実施形態において、前記レンチウイルスベクターはHIV-1に由来するものである。かかるHIV-1由来のベクターは、例えば、HIV-1株NL4-3、IIIB_LAIもしくはHXB2_LAI(X4指向性)、またはBAL(R5指向性)、あるいはそのキメラのいずれかに由来するものであってもよい。
【0025】
一実施形態において、前記ウイルスベクターは非組み込み型ベクターである。一実施形態において、前記ウイルスベクターは組み込み欠損型レンチウイルスベクター(IDLV)、例えばHIV-1に由来する組み込み欠損型ベクターである。
【0026】
一実施形態において、前記ウイルスベクターはγ-レトロウイルスベクターである。
【0027】
一実施形態において、前記ベクターは、宿主細胞と「適合(マッチ)」するものである。「適合(マッチ)」するとは、前記ベクターのキャプシドが、ある特定のタイプの宿主に自然感染するウイルスに由来することと理解されたい(例えば、HIVキャプシドはヒトと「適合」する)。従って、一実施形態において、ヒト造血幹細胞および/または造血前駆細胞に使用するためのベクターは、ヒト免疫不全ウイルスに由来するもの以外のキャプシドタンパク質を含まない。
【0028】
好適な実施形態において、前記ウイルスベクターはVSV-gシュードタイプベクターである。
【0029】
一実施形態において、前記ウイルスベクターは、エンドサイトーシス依存性の機序により細胞に侵入させるためにシュードタイプ化されている。
【0030】
一実施形態において、前記ウイルスベクターは、Ampho-RVシュードタイプベクターではない。一実施形態において、前記ベクターはBaEV-TRシュードタイプベクターではない。
【0031】
一実施形態において、前記ベクターにより形質導入される細胞の割合(パーセンテージ)が増大する。別の実施形態において、前記ベクターの細胞当たりのコピー数が増大する。前記ベクターにより形質導入される細胞の割合と、前記ベクターの細胞当たりのコピー数の両方が、同時に増大する場合がある。
【0032】
一実施形態において、前記遺伝子編集効率が原始造血幹細胞において増大する。一実施形態において、前記遺伝子編集効率がCD34+CD133+CD90+細胞において増大する。
【0033】
一実施形態において、CsHまたはその誘導体は、約1~50μMの濃度である。別の実施形態において、CsHまたはその誘導体は、約5~50μMの濃度である。別の実施形態において、CsHまたはその誘導体は約10~50μMの濃度である。
【0034】
別の実施形態において、CsHまたはその誘導体は、約1~40、5~40または10~40μMの濃度である。別の実施形態において、CsHまたはその誘導体は、約1~30、5~30または10~30μMの濃度である。別の実施形態において、CsHまたはその誘導体は、約1~20、5~20または10~20μMの濃度である。別の実施形態において、CsHまたはその誘導体は、約1~15、5~15または10~15μMの濃度である。
【0035】
別の実施形態において、CsHまたはその誘導体は、約1~15、2~14、3~13、4~12、5~11、6~10または7~9μMの濃度である。
【0036】
例えば、CsHの濃度は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45または50μMであってもよい。好適な実施形態において、CsHまたはその誘導体の濃度は、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15μMである。特に好適な実施形態において、CsHまたはその誘導体の濃度は約10μMである。
【0037】
一実施形態において、前記の細胞集団を、形質導入の効率を増大させることができる別の薬剤と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる。
【0038】
一実施形態において、前記の細胞集団を、ラパマイシンまたはその誘導体と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる。
【0039】
一実施形態において、前記の細胞集団を、プロスタグランジンE2またはその誘導体と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる。好適な実施形態において、プロスタグランジンE2誘導体は16-16ジメチルプロスタグランジンE2である。
【0040】
一実施形態において、前記の細胞集団を、スタウロスポリンまたはその誘導体と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる。
【0041】
一実施形態において、前記の細胞集団を、ラパマイシンまたはその誘導体、およびプロスタグランジンE2またはその誘導体と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる。
【0042】
別の態様において、本発明は、細胞集団に形質導入する方法であって、以下のステップ(a)および(b)、すなわち
(a)細胞集団をシクロスポリンH(CsH)またはその誘導体と接触させるステップ、および
(b)該細胞集団にウイルスベクターで形質導入するステップ
を含む上記方法を提供する。
【0043】
一実施形態において、ステップ(a)および(b)をin vitroまたはex vivoで実行する。
【0044】
一実施形態において、前記方法は、造血幹細胞および/または造血前駆細胞について前記集団を富化するさらなるステップを含む。造血幹細胞および/または造血前駆細胞について前記集団を富化するステップは、前記細胞集団をCsHまたはその誘導体と接触させる前に実行してもよい。あるいは、または追加的に、造血幹細胞および/または造血前駆細胞について前記集団を富化するステップを、前記細胞集団にベクターで形質導入した後に実行してもよい。
【0045】
前記方法はさらに、洗浄ステップを含んでいてもよい。該洗浄ステップを利用することにより、培地からCsHまたはその誘導体を実質的に除去してもよい。該洗浄ステップは、前記細胞集団にベクターで形質導入した後に実行してもよい。あるいは、または追加的に、該洗浄ステップは、細胞に形質導入する前に実行してもよい。
【0046】
一実施形態において、造血幹細胞および/または造血前駆細胞の集団は、動員末梢血、骨髄または臍帯血から取得する。
【0047】
別の態様において、本発明は、遺伝子治療の方法であって、以下のステップ(a)および(b)、すなわち
(a)本発明の方法に従って細胞集団に形質導入するステップ、および
(b)形質導入細胞を対象に投与するステップ
を含む上記方法を提供する。
【0048】
一実施形態において、前記形質導入細胞を、自家幹細胞移植法の一環として対象に投与する。別の実施形態において、前記形質導入細胞を、同種幹細胞移植法の一環として対象に投与する。
【0049】
別の態様において、本発明は、本発明の方法に従って調製した細胞集団を提供する。
【0050】
別の態様において、本発明は、本発明の細胞集団を含む医薬組成物を提供する。
【0051】
別の態様において、本発明は、治療に使用するための本発明の細胞集団を提供する。
【0052】
一実施形態において、前記集団を、自家幹細胞移植法の一環として対象に投与する。別の実施形態において、前記集団を、同種幹細胞移植法の一環として対象に投与する。
【0053】
別の態様において、本発明は、遺伝子治療に使用するためのシクロスポリンH(CsH)またはその誘導体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1-1】
図1は、現行の臨床基準と比較した、より短期間のシクロスポリンA(CsA)およびラパマイシン(Rapa)ベースの形質導入プロトコルを示す図である。(A)2種の臨床グレードのLVおよび骨髄(BM)由来のCD34
+細胞を使用して種々の形質導入プロトコルを比較する実験的アプローチのスキーム。(B~C)形質導入(TD)の割合および細胞当たりのベクターのコピー数(VCN)、ならびに(D)播種の14日後に計数したコロニー形成単位(CFU-GM、BFU)の数を、IDUAまたはARSAをコードするLVで形質導入した細胞について示す。データは3回の独立した実験(各3連)の平均値±SEMであり、p値はDMSOに対するBonferonniの多重比較を伴うOne-way ANOVAのものであり、
*はp<0.05、
**はp<0.01である。
【
図1-2】
図1は、現行の臨床基準と比較した、より短期間のシクロスポリンA(CsA)およびラパマイシン(Rapa)ベースの形質導入プロトコルを示す図である。(B~C)形質導入(TD)の割合および細胞当たりのベクターのコピー数(VCN)、ならびに(D)播種の14日後に計数したコロニー形成単位(CFU-GM、BFU)の数を、IDUAまたはARSAをコードするLVで形質導入した細胞について示す。データは3回の独立した実験(各3連)の平均値±SEMであり、p値はDMSOに対するBonferonniの多重比較を伴うOne-way ANOVAのものであり、
*はp<0.05、
**はp<0.01である。
【
図2-1】
図2は、より短期間の形質導入プロトコル(特にCsAの存在下)が、in vivoでHSPC生着を改善することを示す図である。(A~B)移植後の種々の時点でのNSGマウスにおける末梢血解析:(A)種々の処理群(x軸に示す)からのマウスにおいて血液単核細胞の総数に対するヒトCD45
+細胞の割合(y軸)として評価した生着レベル、(B)ヒトCD45
+細胞中のヒトB、Tおよび骨髄細胞系列(それぞれ、hCD19
+、hCD3
+およびhCD13
+)の割合を経時的に示す。移植の20週後の骨髄(BM)および脾臓におけるヒトCD45
+細胞の(C)VCNおよび(D)生着レベルを示す。全ての値を平均値±SEMとして表す。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図2-2】
図2は、より短期間の形質導入プロトコル(特にCsAの存在下)が、in vivoでHSPC生着を改善することを示す図である。移植の20週後の骨髄(BM)および脾臓におけるヒトCD45
+細胞の(C)VCNおよび(D)生着レベルを示す。全ての値を平均値±SEMとして表す。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図2-3】
図2は、より短期間の形質導入プロトコル(特にCsAの存在下)が、in vivoでHSPC生着を改善することを示す図である。移植の20週後の骨髄(BM)および脾臓におけるヒトCD45
+細胞の(C)VCNおよび(D)生着レベルを示す。全ての値を平均値±SEMとして表す。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図3-1】
図3は、CsAが形質導入とは無関係にex vivoで原始HSCを保持することを示す図である。BM由来CD34
+HSPCの亜集団組成を、CsAの存在下または非存在下での形質導入の(A)16時間後および(B)72時間後に示されたゲーティングストラテジーを利用して測定した。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを示している。p値は、Bonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図3-2】
図3は、CsAが形質導入とは無関係にex vivoで原始HSCを保持することを示す図である。BM由来CD34
+HSPCの亜集団組成を、CsAの存在下または非存在下での形質導入の(A)16時間後および(B)72時間後に示されたゲーティングストラテジーを利用して測定した。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを示している。p値は、Bonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図3-3】
図3は、CsAが形質導入とは無関係にex vivoで原始HSCを保持することを示す図である。BM由来CD34
+HSPCの亜集団組成を、CsAの存在下または非存在下での形質導入の(A)16時間後および(B)72時間後に示されたゲーティングストラテジーを利用して測定した。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを示している。p値は、Bonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図3-4】
図3は、CsAが形質導入とは無関係にex vivoで原始HSCを保持することを示す図である。BM由来CD34
+HSPCの亜集団組成を、CsAの存在下または非存在下での形質導入の(A)16時間後および(B)72時間後に示されたゲーティングストラテジーを利用して測定した。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを示している。p値は、Bonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図4-1】
図4は、CsAが培養下でHSPC増殖を低減して静止状態を保持することを示す図である。BM由来のCD34
+細胞を、(A)に示すように、個々の細胞分裂をモニタリングするために使用できる赤色蛍光色素で染色した。色素の平均蛍光強度(MFI)を、総CD34
+集団(B)において、ならびに種々の亜集団内で培養(C)16時間および(D)72時間の時点で、FACSにより経時的にモニタリングした。(E)細胞周期状態および(F)BM由来HSPCのROSレベルを、CsAの存在下または非存在下での形質導入の48時間後に評価した。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを示している。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図4-2】
図4は、CsAが培養下でHSPC増殖を低減して静止状態を保持することを示す図である。色素の平均蛍光強度(MFI)を、総CD34
+集団(B)において、ならびに種々の亜集団内で培養(C)16時間および(D)72時間の時点で、FACSにより経時的にモニタリングした。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを示している。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図4-3】
図4は、CsAが培養下でHSPC増殖を低減して静止状態を保持することを示す図である。色素の平均蛍光強度(MFI)を、総CD34
+集団(B)において、ならびに種々の亜集団内で培養(C)16時間および(D)72時間の時点で、FACSにより経時的にモニタリングした。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを示している。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図4-4】
図4は、CsAが培養下でHSPC増殖を低減して静止状態を保持することを示す図である。(E)細胞周期状態および(F)BM由来HSPCのROSレベルを、CsAの存在下または非存在下での形質導入の48時間後に評価した。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを示している。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図4-5】
図4は、CsAが培養下でHSPC増殖を低減して静止状態を保持することを示す図である。(E)細胞周期状態および(F)BM由来HSPCのROSレベルを、CsAの存在下または非存在下での形質導入の48時間後に評価した。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを示している。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図5-1】
図5は、CsHが、造血幹細胞へのレンチウイルス(LV)ベクター形質導入の強力で非毒性の促進物質であることを示す図である。(A、B)ヒトCB由来CD34
+細胞に、CypAまたは非サイレンシング対照に対するshRNAを発現するLVを用いてMOI 100で形質導入し、さらにCypAのノックダウン(KD)を、ウエスタンブロット(A)により、およびmRNA発現(B)により検証した。CypBのレベルをRNAi特異性の対照としてモニタリングした(A、B)。(C)枯渇の影響をその後、該細胞に2回目のLVを用いてMOI 10で形質導入し、形質導入効率をGFP
+細胞に関してはFACSにより、およびVCNにより評価することで評価した。(D)ヒト臍帯血(CB)(平均値±SEM;n=20;Bonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVA、
*p≦0.05、
**p≦0.01、
****p≦0.0001)、(E)動員末梢血(mPB)-CD34
+細胞(平均値±SEM、n=4、Mann Whitney検定、
*p≦0.05)、または(F)マウスHSPC(mHSPC)(平均値±SEM、n=8、Wilcoxon符号順位検定、
*p=0.0078)に、8μMのCsAまたはCsHの存在下または非存在下、VSV-g PGK-GFP/BFP WT LVを用いて1形質導入単位(TU)/293T細胞の感染多重度(MOI)で形質導入した。形質導入された細胞の割合およびベクターのコピー数/ヒトゲノム(VCN/ゲノム)を、それぞれ、形質導入の5または14日後に評価した。CsAおよびCsHが(G)アポトーシス(平均値±SEM;n=6;Dunn修正Kruskal-Wallis検定、ns=非有意)および(H)細胞増殖(平均値±SEM;n=4;Dunn修正Kruskal-Wallis検定、
*p≦0.05)に与える影響を、形質導入の48時間後にhCB-CD34
+細胞において評価した。(K)種々の亜集団における形質導入効率を、LVを用いてMOI 1で形質導入したヒトCB-またはmPB-CD34
+細胞で測定した(平均値±SEM、n=4、各DMSOに対するMann Whitney検定、
*p≦0.05)。(N)CsHの存在下で形質導入したhCB-またはmPB-CD34
+細胞の組成および細胞周期状態を、形質導入の48時間後に評価した。(I、J)hCB-およびmPB由来のHSPCに、種々の薬物の組み合わせの存在下、LVを用いてMOI 1または10で形質導入した。(O)hCB-CD34
+細胞に、8μMのCsHを使用し、または使用せずに、VSV-gシュードタイプγRVを用いてMOI=10で形質導入した(平均値±SEM、n=4、Mann Whitney検定、
*p≦0.05)。(L)臨床グレードのIDUA-LVを用いてMOI 50で形質導入したmPB-CD34
+細胞からin vitroでの形質導入の14日後に回収したVCN。(M)臨床グレードのIDUA-LVを用いてMOI 50で形質導入したヒトmPB-CD34
+細胞の移植の8週後にNSGマウスの末梢血から回収したVCNを、2ヒット群に対する増加倍数として示した。
【
図5-2】
図5は、CsHが、造血幹細胞へのレンチウイルス(LV)ベクター形質導入の強力で非毒性の促進物質であることを示す図である。(C)枯渇の影響をその後、該細胞に2回目のLVを用いてMOI 10で形質導入し、形質導入効率をGFP
+細胞に関してはFACSにより、およびVCNにより評価することで評価した。(D)ヒト臍帯血(CB)(平均値±SEM;n=20;Bonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVA、
*p≦0.05、
**p≦0.01、
****p≦0.0001)、(E)動員末梢血(mPB)-CD34
+細胞(平均値±SEM、n=4、Mann Whitney検定、
*p≦0.05)、または(F)マウスHSPC(mHSPC)(平均値±SEM、n=8、Wilcoxon符号順位検定、
*p=0.0078)に、8μMのCsAまたはCsHの存在下または非存在下、VSV-g PGK-GFP/BFP WT LVを用いて1形質導入単位(TU)/293T細胞の感染多重度(MOI)で形質導入した。形質導入された細胞の割合およびベクターのコピー数/ヒトゲノム(VCN/ゲノム)を、それぞれ、形質導入の5または14日後に評価した。
【
図5-3】
図5は、CsHが、造血幹細胞へのレンチウイルス(LV)ベクター形質導入の強力で非毒性の促進物質であることを示す図である。(D)ヒト臍帯血(CB)(平均値±SEM;n=20;Bonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVA、
*p≦0.05、
**p≦0.01、
****p≦0.0001)、(E)動員末梢血(mPB)-CD34
+細胞(平均値±SEM、n=4、Mann Whitney検定、
*p≦0.05)、または(F)マウスHSPC(mHSPC)(平均値±SEM、n=8、Wilcoxon符号順位検定、
*p=0.0078)に、8μMのCsAまたはCsHの存在下または非存在下、VSV-g PGK-GFP/BFP WT LVを用いて1形質導入単位(TU)/293T細胞の感染多重度(MOI)で形質導入した。形質導入された細胞の割合およびベクターのコピー数/ヒトゲノム(VCN/ゲノム)を、それぞれ、形質導入の5または14日後に評価した。CsAおよびCsHが(G)アポトーシス(平均値±SEM;n=6;Dunn修正Kruskal-Wallis検定、ns=非有意)および(H)細胞増殖(平均値±SEM;n=4;Dunn修正Kruskal-Wallis検定、
*p≦0.05)に与える影響を、形質導入の48時間後にhCB-CD34
+細胞において評価した。
【
図5-4】
図5は、CsHが、造血幹細胞へのレンチウイルス(LV)ベクター形質導入の強力で非毒性の促進物質であることを示す図である。CsAおよびCsHが(G)アポトーシス(平均値±SEM;n=6;Dunn修正Kruskal-Wallis検定、ns=非有意)および(H)細胞増殖(平均値±SEM;n=4;Dunn修正Kruskal-Wallis検定、
*p≦0.05)に与える影響を、形質導入の48時間後にhCB-CD34
+細胞において評価した。(I、J)hCB-およびmPB由来のHSPCに、種々の薬物の組み合わせの存在下、LVを用いてMOI 1または10で形質導入した。
【
図5-5】
図5は、CsHが、造血幹細胞へのレンチウイルス(LV)ベクター形質導入の強力で非毒性の促進物質であることを示す図である。(K)種々の亜集団における形質導入効率を、LVを用いてMOI 1で形質導入したヒトCB-またはmPB-CD34
+細胞で測定した(平均値±SEM、n=4、各DMSOに対するMann Whitney検定、
*p≦0.05)。(L)臨床グレードのIDUA-LVを用いてMOI 50で形質導入したmPB-CD34
+細胞からin vitroでの形質導入の14日後に回収したVCN。(M)臨床グレードのIDUA-LVを用いてMOI 50で形質導入したヒトmPB-CD34
+細胞の移植の8週後にNSGマウスの末梢血から回収したVCNを、2ヒット群に対する増加倍数として示した。
【
図5-6】
図5は、CsHが、造血幹細胞へのレンチウイルス(LV)ベクター形質導入の強力で非毒性の促進物質であることを示す図である。(N)CsHの存在下で形質導入したhCB-またはmPB-CD34
+細胞の組成および細胞周期状態を、形質導入の48時間後に評価した。(O)hCB-CD34
+細胞に、8μMのCsHを使用し、または使用せずに、VSV-gシュードタイプγRVを用いてMOI=10で形質導入した(平均値±SEM、n=4、Mann Whitney検定、
*p≦0.05)。
【
図6-1】
図6は、LV形質導入を改善するCsHの能力の特徴付けを示す図である。(A)Vpxに事前曝露したかまたはしていないヒト単球由来マクロファージ(MDM)(平均値±SEM、n=3)および(B)初代CD3
+またはCD4
+T細胞(平均値±SEM、n=8、DMSO=1に対するWilcoxon符号順位検定、
**p=0.0078)に、8μMのCsA/Hの存在下または非存在下、MOI 1で形質導入した。(C~HおよびJ~L)種々の供給源から得たヒトCD34
+細胞に、CsAまたはCsHの存在下または非存在下、図に示すように種々のベクターで形質導入し、形質導入効率を形質導入の5日後に評価した。例えば、hCB-CD34
+細胞は、CsHを使用し、または使用せずに、インテグラーゼ欠損型LV(IDLV)ベクターを用いてMOI 50で形質導入した(H)。(I)後期-RTおよび2LTRサークル複製中間体を、LV MOI 100で形質導入したCB-CD34
+細胞において形質導入の6または24時間後に測定した(平均値±SEM、n≧3)。形質導入効率を形質導入の5日後に評価した。(M、N)種々の濃度のCsHの存在下でのヒトCB-CD34
+細胞における形質導入効率(M)およびアポトーシス(N)(平均値±SEM、n=2)。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを表している。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図6-2】
図6は、LV形質導入を改善するCsHの能力の特徴付けを示す図である。(C~HおよびJ~L)種々の供給源から得たヒトCD34
+細胞に、CsAまたはCsHの存在下または非存在下、図に示すように種々のベクターで形質導入し、形質導入効率を形質導入の5日後に評価した。例えば、hCB-CD34
+細胞は、CsHを使用し、または使用せずに、インテグラーゼ欠損型LV(IDLV)ベクターを用いてMOI 50で形質導入した(H)。(I)後期-RTおよび2LTRサークル複製中間体を、LV MOI 100で形質導入したCB-CD34
+細胞において形質導入の6または24時間後に測定した(平均値±SEM、n≧3)。形質導入効率を形質導入の5日後に評価した。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを表している。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図6-3】
図6は、LV形質導入を改善するCsHの能力の特徴付けを示す図である。(C~HおよびJ~L)種々の供給源から得たヒトCD34
+細胞に、CsAまたはCsHの存在下または非存在下、図に示すように種々のベクターで形質導入し、形質導入効率を形質導入の5日後に評価した。(M、N)種々の濃度のCsHの存在下でのヒトCB-CD34
+細胞における形質導入効率(M)およびアポトーシス(N)(平均値±SEM、n=2)。データは、3回の独立した実験の平均値±SEMを表している。p値はBonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVAのものである。
【
図7】
図7は、シクロスポリンがVSV-g媒介性のベクター侵入に対するIFN誘導性阻止に対抗することを示す図である。(A)THP-1(平均値±SEM;n=10;Bonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVA、
*p≦0.05、
***p≦0.001;Mann Whitney検定、
$$$p=0.0007)、(B)K562(平均値±SEM、n=8)および(C)ヒトCB由来CD34
+細胞(平均値±SEM;n=6;Bonferroniの多重比較を伴うOne way ANOVA、
**p=0.0051;Mann Whitney検定、
$p=0.02)は、1000 IU/mLのヒトIFNαで24時間予備刺激し、または予備刺激せず、その後8μMのCsA/Hの存在下または非存在下、LVを用いてMOI 1で形質導入した。(D)ヒトIFNαで予備刺激し、かつCsHを使用し、または使用せずに、Ampho-シュードタイプRVで形質導入したTHP-1細胞(平均値±SEM、n=4)。(E)THP-1(平均値±SEM、n=4);および(F)ヒトCB由来CD34
+細胞(平均値±SEM、n≧4)は、IFNαで24時間予備刺激し、または予備刺激せず、その後CsA/Hの存在下または非存在下、BaEV-TR LVを用いてMOI 0.5~1で形質導入した。形質導入効率を形質導入の5日後にFACSにより評価した。
【
図8-1】
図8は、CsHがヒトおよびマウスのHSPCにおいて遺伝子編集を増大させることを示す図である。(A)遺伝子編集されたGFP
+ヒトCB由来CD34
+亜集団またはマウスLin-HSPCの割合を、ヌクレオフェクションの3日後に評価した。(B)CB-CD34
+亜集団組成を、FACSによりヌクレオフェクションの3日後に評価した。データは2回の独立した実験の平均値±SEMを表している。
【
図8-2】
図8は、CsHがヒトおよびマウスのHSPCにおいて遺伝子編集を増大させることを示す図である。(B)CB-CD34
+亜集団組成を、FACSによりヌクレオフェクションの3日後に評価した。データは2回の独立した実験の平均値±SEMを表している。
【
図9-1】
図9は、CsAがヒトHSPCにおけるLV組み込みプロフィールを変更しないことを示す図である。レンチウイルス組み込み部位は、CsAの存在下または非存在下、MOI 100で形質導入したCB由来CD34
+HSPCから抽出したゲノムDNAから回収した。同定された組み込み部位(IS)のゲノム分布をサーコスプロットに示す。ヒトゲノムは上から時計回りに染色体1~22、xおよびyで表されている(外円)。中間の円は、全ISを、ピークの高さに反映されるその存在量で表したものであり、緑色のピークは対照形質導入細胞由来のISに対応しており、また赤色はCsAの存在下で形質導入した細胞由来のISに対応している。内円の中の青色のヒストグラムは2つの群(DMSOとCsA)の間の差の有意性を表しており、ヒストグラムが高いほど、差がより有意となる。赤色のバンドは閾値p<0.1に設定されており、それを越えるヒストグラムは有意とみなすことができる。
【
図9-2】
図9は、CsAがヒトHSPCにおけるLV組み込みプロフィールを変更しないことを示す図である。レンチウイルス組み込み部位は、CsAの存在下または非存在下、MOI 100で形質導入したCB由来CD34
+HSPCから抽出したゲノムDNAから回収した。同定された組み込み部位(IS)のゲノム分布をサーコスプロットに示す。ヒトゲノムは上から時計回りに染色体1~22、xおよびyで表されている(外円)。中間の円は、全ISを、ピークの高さに反映されるその存在量で表したものであり、緑色のピークは対照形質導入細胞由来のISに対応しており、また赤色はCsAの存在下で形質導入した細胞由来のISに対応している。内円の中の青色のヒストグラムは2つの群(DMSOとCsA)の間の差の有意性を表しており、ヒストグラムが高いほど、差がより有意となる。赤色のバンドは閾値p<0.1に設定されており、それを越えるヒストグラムは有意とみなすことができる。
【
図9-3】
図9は、CsAがヒトHSPCにおけるLV組み込みプロフィールを変更しないことを示す図である。レンチウイルス組み込み部位は、CsAの存在下または非存在下、MOI 100で形質導入したCB由来CD34
+HSPCから抽出したゲノムDNAから回収した。同定された組み込み部位(IS)のゲノム分布をサーコスプロットに示す。ヒトゲノムは上から時計回りに染色体1~22、xおよびyで表されている(外円)。中間の円は、全ISを、ピークの高さに反映されるその存在量で表したものであり、緑色のピークは対照形質導入細胞由来のISに対応しており、また赤色はCsAの存在下で形質導入した細胞由来のISに対応している。内円の中の青色のヒストグラムは2つの群(DMSOとCsA)の間の差の有意性を表しており、ヒストグラムが高いほど、差がより有意となる。赤色のバンドは閾値p<0.1に設定されており、それを越えるヒストグラムは有意とみなすことができる。
【
図9-4】
図9は、CsAがヒトHSPCにおけるLV組み込みプロフィールを変更しないことを示す図である。レンチウイルス組み込み部位は、CsAの存在下または非存在下、MOI 100で形質導入したCB由来CD34
+HSPCから抽出したゲノムDNAから回収した。同定された組み込み部位(IS)のゲノム分布をサーコスプロットに示す。ヒトゲノムは上から時計回りに染色体1~22、xおよびyで表されている(外円)。中間の円は、全ISを、ピークの高さに反映されるその存在量で表したものであり、緑色のピークは対照形質導入細胞由来のISに対応しており、また赤色はCsAの存在下で形質導入した細胞由来のISに対応している。内円の中の青色のヒストグラムは2つの群(DMSOとCsA)の間の差の有意性を表しており、ヒストグラムが高いほど、差がより有意となる。赤色のバンドは閾値p<0.1に設定されており、それを越えるヒストグラムは有意とみなすことができる。
【
図10-1】
図10は、CsHが長期SCID再構築ヒトHSPC(long-term SCID-repopulating human HSPC)において遺伝子の導入および編集を増大させることを示す図である。(A)臨床グレードのLVおよびヒトmPB由来のCD34
+細胞を使用した種々の形質導入プロトコルの実験スキーム。(B)骨髄および赤血球のコロニー形成単位(CFU)の数をin vitroで評価した(平均値±SEM;n=8;2ヒット総CFUに対するDunn修正Kruskal-Wallis検定、
*p≦0.05)。(C)VCN/ゲノムを骨髄(BM)において18週の時点で測定した(平均値±SEM;n=8;Dunn修正Kruskal-Wallis、
*p≦0.05、
***p≦0.001)。(D、E)生着レベルを、種々の処理群(x軸に示す)から得たマウスの末梢血における血液単核細胞の総数に対するヒトCD45
+細胞の割合(y軸)として評価した(平均値±SEM;n≧11;Dunn修正Kruskal-Wallis、ns=非有意)。(F)移植の18週後のBMにおけるヒトCD45
+細胞の生着レベルが示されている(平均値±SEM;n≧11;Dunn修正Kruskal-Wallis、
**p≦0.01)。(G)ヒトCB由来CD34
+細胞のための遺伝子編集プロトコルのスキーム。(H)編集の3日後に図に示す亜集団中で測定された編集細胞の割合(平均値±SEM;n=7、Mann-Whitney検定、
*p≦0.05、
*p≦0.05)。(I)編集されたCB-CD34
+細胞の移植後の図に示す時点での末梢血(PB)におけるヒトCD45
+細胞の生着(n=5)。(J)(I)からのマウス内のヒト細胞中で測定された相同組換え修復(homology-driven repair)(HDR)による遺伝子編集の割合。(K)(J)からのマウスのBMにおけるヒト遺伝子編集細胞の割合および編集効率。
【
図10-2】
図10は、CsHが長期SCID再構築ヒトHSPCにおいて遺伝子の導入および編集を増大させることを示す図である。(G)ヒトCB由来CD34
+細胞のための遺伝子編集プロトコルのスキーム。(H)編集の3日後に図に示す亜集団中で測定された編集細胞の割合(平均値±SEM;n=7、Mann-Whitney検定、
*p≦0.05、
*p≦0.05)。(I)編集されたCB-CD34
+細胞の移植後の図に示す時点での末梢血(PB)におけるヒトCD45
+細胞の生着(n=5)。(J)(I)からのマウス内のヒト細胞中で測定された相同組換え修復(HDR)による遺伝子編集の割合。(K)(J)からのマウスのBMにおけるヒト遺伝子編集細胞の割合および編集効率。
【
図11-1】
図11は、CsHがSCID再構築HSPCにおいてLV形質導入および遺伝子編集効率を増大させることを示す図である。ヒトmPB由来CD34
+細胞に臨床グレードのLVで形質導入し、種々の形質導入プロトコルを比較した。VCN/ゲノムを、形質導入の14日後に(A)液体培養(LC)および(B)バルクCFUで測定した(平均値±SEM、n=2)。(C)VCN/ゲノムを、移植8週後にNSGマウスの末梢血(PB)において測定した(平均値±SEM、n≧4、Dunn修正Kruskal-Wallis検定、
*p≦0.05、
***p≦0.001)。移植の18週後の脾臓(SPL)におけるヒトCD45
+細胞の(D)VCNおよび(E)生着レベルが示されている(平均値±SEM、n≧6;Dunn修正Kruskal-Wallis検定、
**p≦0.01、
***p≦0.001)。(F)18週の時点でのマウスの骨髄(BM)における、ヒトCD45
+細胞中のヒトBおよび骨髄細胞系列(それぞれ、hCD19
+およびhCD33
+)の割合が示されている。(G)電気穿孔の3日後にフローサイトメトリーにより測定した、
図10Jからの被処理ヒトCB-CD34
+細胞の亜集団組成(n=7)。(H)移植の19週後に
図10Kのマウスから分取したCD34
+HSPC、CD19
+B細胞、およびCD33
+骨髄細胞においてddPCRにより測定した編集効率(Mann-Whitney検定)。(I)
図10KからのマウスのBM内の移植ヒト細胞中で測定された、図に示す亜集団の割合。
【
図11-2】
図11は、CsHがSCID再構築HSPCにおいてLV形質導入および遺伝子編集効率を増大させることを示す図である。(F)18週の時点でのマウスの骨髄(BM)における、ヒトCD45
+細胞中のヒトBおよび骨髄細胞系列(それぞれ、hCD19
+およびhCD33
+)の割合が示されている。(G)電気穿孔の3日後にフローサイトメトリーにより測定した、
図10Jからの被処理ヒトCB-CD34
+細胞の亜集団組成(n=7)。(H)移植の19週後に
図10Kのマウスから分取したCD34
+HSPC、CD19
+B細胞、およびCD33
+骨髄細胞においてddPCRにより測定した編集効率(Mann-Whitney検定)。(I)
図10KからのマウスのBM内の移植ヒト細胞中で測定された、図に示す亜集団の割合。
【
図12】
図12は、シクロスポリンがHSPCにおいてもIFN誘導性レンチウイルス制限阻止に対抗することを示す図である。(A)FPR1を欠失させたTHP-1細胞に、8μMのCsHを使用し、または使用せずに、LVを用いてMOI 1で形質導入した。形質導入効率を、2回目の形質導入の5日後にFACSにより評価した(平均値±SEM、n=4、各DMSO対照に対するMann Whitney検定、
*p≦0.05)。(B)THP-1、(C)K562および(D)CB由来CD34
+細胞を1000 IU/mLのヒトIFNαで24時間予備刺激した後、ヒトHSPCに対してのみ、8μMのCsA/Hの存在下または非存在下、LVを用いてMOI 1で形質導入した。選択したIFN刺激遺伝子(ISG)のアップレギュレーションをRT-qPCRにより評価した(平均値±SEM、n=2~3)。
【発明を実施するための形態】
【0055】
用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「から構成される(comprised of)」は、本明細書中で使用する場合、「含む(including)」もしくは「含む(includes)」、または「含有する(containing)もしくは「含有する(contains)」と同義であって、包括的または変更可能であり、かつ追加の、列挙されていない要素、成分または工程を除外するものではない。用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「から構成される(comprised of)」は用語「からなる(consisting of)」も含む。
【0056】
一態様において、本発明は、ウイルスベクターによる細胞の単離集団の形質導入の効率を増大させるため、および/またはウイルスベクターにより形質導入する場合に細胞の単離集団の遺伝子編集の効率を増大させるための、シクロスポリンH(CsH)またはその誘導体の使用を提供する。
【0057】
形質導入の効率の増大とは、薬剤(例えば、CsHまたはその誘導体)の存在下での、該薬剤は存在しないが他の点では実質的に同一の条件下で達成される形質導入と比較した、細胞(例えば、造血幹細胞および/もしくは造血前駆細胞、またはT細胞)の形質導入における増大を指す。形質導入の効率の増大は、それ故に、有効な形質導入を達成するのに必要な感染多重度(MOI)および/または形質導入時間を低減できるかもしれない。
【0058】
一実施形態において、前記ベクターにより形質導入される細胞の割合が増大する。別の実施形態において、前記ベクターの細胞当たりのコピー数が増大する。両方が同時に達成されることが好ましい。
【0059】
ベクターにより形質導入される細胞の割合を決定するための方法は当分野で公知である。適切な方法としは、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞選別(FACS)および蛍光顕微鏡法が挙げられる。用いる技術は、好ましくは自動化および/またはハイスループットスクリーニングに適したものである。
【0060】
例えば、細胞集団は、レポーター遺伝子を有するベクターで形質導入してもよい。該ベクターは、該ベクターで細胞に形質導入した場合に該レポーター遺伝子が発現されるように構築してもよい。適切なレポーター遺伝子としては、蛍光タンパク質、例えば、緑色、黄色、鮮紅色、青緑色または橙色の蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。細胞集団にベクターにより形質導入した後、該レポーター遺伝子を発現する細胞の数と発現しない細胞の数の両方を、適切な技術、例えばFACSを利用して定量化してもよい。前記ベクターにより形質導入される細胞の割合をその後算出してもよい。
【0061】
あるいは、定量的PCR(qPCR)を利用することにより、レポーター遺伝子を持たないベクターにより形質導入された細胞の割合を決定してもよい。例えば、細胞(例えばCD34+細胞)の単一コロニーを半固形培養物から選び取ってもよく、また各コロニーに対して個別にqPCRを実施することで、解析したものの中のベクター陽性コロニーの割合を決定してもよい。
【0062】
ベクターコピー数を決定するための方法もまた当分野で公知である。用いる技術は、好ましくは自動化および/またはハイスループットスクリーニングに適したものである。適切な技術としては、定量的PCR(qPCR)およびサザンブロットに基づくアプローチが挙げられる。
【0063】
遺伝子編集の効率の増大は、薬剤(例えば、CsHまたはその誘導体)の存在下でのウイルスベクターによる細胞集団の形質導入後に意図した形で標的遺伝子または部位が編集された(例えば、破壊された、置換された、欠失した、または核酸配列がその内部もしくはその位置に挿入された)細胞(例えば、造血幹細胞および/もしくは造血前駆細胞、またはT細胞)の数における、該薬剤は存在しないが他の点では実質的に同一の条件下で達成されるものと比較した場合の増大を指す場合がある。遺伝子編集の効率の増大は、それ故に、有効な遺伝子編集を達成するのに必要な感染多重度(MOI)および/または形質導入時間を低減できるかもしれない。標的遺伝子または部位が編集されたかどうかを判定するための方法は当分野で公知である。
【0064】
例えばCRISPR/Cas系を使用する遺伝子編集との関連において、好ましくは、細胞集団に形質導入するために使用するベクターは非組み込み型ベクター(例えば、組み込み欠損型レンチウイルスベクター、IDLV)である。
【0065】
シクロスポリンH
シクロスポリンH(CsH、CAS番号83602-39-5)は、次の構造:
【0066】
【0067】
CsHはホルミルペプチド受容体と選択的に拮抗することが知られているが、シクロスポリンA(CsA)とは異なり、CsHは免疫抑制を引き起こすためにシクロフィリンに結合することはない。CsAは宿主ペプチジルプロリルイソメラーゼであるシクロフィリンA(CypA)との複合体として免疫抑制を媒介する。これはCa2+-依存性ホスファターゼカルシニューリンとその結果生じるIL-2などの炎症性サイトカインの活性化を阻害する(Sokolskaja, E.ら (2006) Curr. Opin. Microbiol. 9:404-8)。
【0068】
本発明に使用するためのCsHの溶液は、当分野で公知の常法を利用して調製してもよい。
【0069】
CsHまたはその誘導体を細胞集団に適用するその濃度は、形質導入効率および/または遺伝子編集を最適化するために種々のベクター系に応じて調整してもよい。形質導入効率および遺伝子編集を決定するための方法については先に記載した。従って、当業者であれば、本明細書中に記載したアプローチを利用して、あらゆる毒性を最小限に抑えつつ形質導入効率および/または遺伝子編集の増大を最大限引き出すために、CsHまたはその誘導体の適切な濃度を選択することができる。
【0070】
本発明は、CsHおよびCsHの誘導体の使用を包含する。本発明のCsH誘導体は、ウイルスベクターによる細胞の単離集団の形質導入の効率を増大させるもの、および/またはウイルスベクターにより形質導入する場合に細胞の単離集団の遺伝子編集の効率を増大させるものである。
【0071】
本発明のCsH誘導体は、溶解度の増大、安定性の増大および/または毒性の低減のために開発されたものであってもよい。
【0072】
本発明のCsH誘導体は、哺乳動物、特にヒトに対して低毒性であることが好ましい。好ましくは、本発明のCsH誘導体は、造血幹細胞および/もしくは造血前駆細胞、ならびに/またはT細胞に対して低毒性である。
【0073】
適切なCsH誘導体は、形質導入効率および/または遺伝子編集を決定するための当分野で公知の方法を利用して同定してもよい。例えば、ベクターにより形質導入された細胞の割合を決定するための方法、またはベクターの細胞当たりのコピー数を決定するための方法を用いてもよい。かかる方法については先に記載した。用いる方法は、好ましくは、候補CsH誘導体の自動化および/またはハイスループットスクリーニングに適したものである。候補CsH誘導体は、CsH誘導体のライブラリーの一部を成していてもよい。
【0074】
ラパマイシン
ラパマイシン(CAS番号53123-88-9、シロリムスとしても知られる)は、ストレプトミセス・ハイグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)により産生されるマクロライドである。ラパマイシンは次の構造:
【0075】
【0076】
ラパマイシンは、同種移植片拒絶反応の予防に使用するための、定評のある免疫抑制剤である。ラパマイシンは、宿主ペプチジルプロリルイソメラーゼであるFKBP12の結合および阻害を通じてその免疫抑制効果を発揮する(Harding, M.W.ら (1989) Nature 341:758-60;Siekierka, J.J.ら (1989) Nature 341:755-7)。
【0077】
ラパマイシンの誘導体とは、ラパマイシンが、好ましくは安定性および活性などの特性を改善するために当分野で公知の数多くの技術のいずれかにより改変されているが、細胞の単離集団の形質導入効率および/または遺伝子編集効率を増大させるその機能を依然として保持しているものと理解されたい。
【0078】
プロスタグランジンE2
ジノプロストンとしても知られるプロスタグランジンE2は、次の構造:
【0079】
【化3】
を有する、天然に存在するプロスタグランジンである。
【0080】
プロスタグランジンE2またはプロスタグランジンE2誘導体は、本発明に従い、細胞の単離集団の形質導入効率および/または遺伝子編集効率を増大させるために、CsHと組み合わせて使用してもよい。
【0081】
一実施形態において、プロスタグランジンE2誘導体は16,16-ジメチルプロスタグランジンE2である。
【0082】
プロスタグランジンE2の誘導体とは、プロスタグランジンE2が、好ましくは安定性および活性などの特性を改善するために当分野で公知の数多くの技術のいずれかにより改変されているが、細胞の単離集団の形質導入効率および/または遺伝子編集効率を増大させるその機能を依然として保持しているものと理解されたい。
【0083】
スタウロスポリン
スタウロスポリンは、最初はストレプトミセス・スタウロスポレウス(Streptomyces staurosporeus)から単離された天然物である。スタウロスポリンは、プロテインキナーゼへのATP結合の防止を通じてプロテインキナーゼの阻害剤としての活性を示す。
【0084】
造血幹細胞および造血前駆細胞
幹細胞は多くの細胞型に分化することができる。全ての細胞型に分化することができる細胞は、全能性として知られる。哺乳動物では、接合子と初期胚細胞だけが全能性である。幹細胞は、全てではないものの、殆どの多細胞生物に見出される。幹細胞は、有糸細胞分裂により自身を再生しかつ多様な範囲の特殊化した細胞型に分化する能力を特徴とする。哺乳動物幹細胞の2つの広範なタイプは、胚盤胞の内部細胞塊から単離される胚性幹細胞と、成体組織中に見出される成体幹細胞である。発生中の胚において、幹細胞は特殊化した胚組織の全てに分化することができる。成体の生物においては、幹細胞および前駆細胞は身体の修復系としての機能を果たし、特殊化した細胞を補充するだけでなく、血液、皮膚または腸組織などの再生器官の通常のターンオーバーを維持する。
【0085】
造血幹細胞(HSC)は、例えば、末梢血、骨髄および臍帯血中に見出すことができる多能性幹細胞である。HSCは、自己再生能およびあらゆる血液細胞系列への分化能を有する。HSCは全免疫系、ならびに全ての造血組織(例えば、骨髄、脾臓および胸腺)の赤血球および骨髄系列に再生着(recolonising)することができる。HSCは造血細胞の全系列の生涯にわたる産生をもたらす。
【0086】
造血前駆細胞は、特定の細胞型に分化する能力を有する。しかし、幹細胞とは対照的に、造血前駆細胞は既にはるかに特異的であり、造血前駆細胞はそれらの「標的」細胞に分化することが課せられている。幹細胞と前駆細胞の違いは、幹細胞が無制限に複製できるのに対して、前駆細胞は限られた回数しか分裂できないということである。造血前駆細胞は機能的in vivoアッセイ(すなわち、移植と、それらが長期間にわたり全血液系列を生じうるかどうかの実証)によってのみHSCと厳密に区別することができる。
【0087】
本発明の造血幹細胞および造血前駆細胞は、CD34細胞表面マーカーを含む(CD34+と表記)。
【0088】
造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)の供給源
造血幹細胞および/または造血前駆細胞の集団は、組織サンプルから取得してもよい。
【0089】
例えば、造血幹細胞および/または造血前駆細胞の集団は、末梢血(例えば、成体および胎児の末梢血)、臍帯血、骨髄、肝臓または脾臓から取得してもよい。好ましくは、これらの細胞を末梢血または骨髄から取得する。それらは、増殖因子処理によるin vivoでの細胞の動員後に取得してもよい。
【0090】
動員は、例えば、G-CSF、プレリキサホルまたはそれらの組み合わせを使用して実行してもよい。他の薬剤、例えばNSAIDおよびジペプチジルペプチダーゼ阻害剤もまた、動員剤として有用でありうる。
【0091】
幹細胞増殖因子GM-CSFおよびG-CSFが入手可能であるため、大抵の造血幹細胞移植法は、今では骨髄からではなく末梢血から採取した幹細胞を使用して実施する。末梢血幹細胞を採取することで、より大きな移植片が得られ、移植片を採取するためにドナーが全身麻酔を受ける必要が無く、生着までの時間が短縮され、またより低い長期再発率をもたらしうる。
【0092】
骨髄は、標準的な吸引法(定常状態もしくは動員後)により、または次世代の収集ツール(例えばMarrow Miner)を使用することにより採取してもよい。
【0093】
加えて、造血幹細胞および造血前駆細胞は、人工多能性幹細胞に由来するものであってもよい。
【0094】
HSCの特徴
HSCは、典型的には、フローサイトメトリー法により低い前方散乱および側方散乱プロフィールを示す。ミトコンドリア活性の判定を可能にするローダミン標識によって示されるように、一部は代謝的に静止している。HSCは、CD34、CD45、CD133、CD90およびCD49fなどのある特定の細胞表面マーカーを含んでいてもよい。それらは、CD38およびCD45RA細胞表面マーカーの発現を欠く細胞として定義することもできる。しかし、これらのマーカーの一部の発現は、HSCの発生段階および組織特異的な状況に依存する。「サイドポピュレーション細胞」と称される一部のHSCは、フローサイトメトリーにより検出されるように、Hoechst 33342色素を排出する。従って、HSCは、それらの同定および単離を可能にする記述的特徴を有する。
【0095】
陰性マーカー
CD38は、ヒトHSCの最も確立された有用な単一陰性マーカーである。
【0096】
ヒトHSCは系列マーカー、例えば、CD2、CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD24、CD36、CD56、CD66b、CD271およびCD45RAについても陰性でありうる。しかし、これらのマーカーは、HSC富化のために併用しなければならない場合がある。
【0097】
「陰性マーカー」とは、ヒトHSCがこれらのマーカーの発現を欠くことと理解されたい。
【0098】
陽性マーカー
CD34およびCD133は、HSCの最も有用な陽性マーカーである。
【0099】
一部のHSCは、CD90、CD49fおよびCD93などの系列マーカーについても陽性である。しかし、これらのマーカーは、HSC富化のために併用しなければならない場合がある。
【0100】
「陽性マーカー」とは、ヒトHSCがこれらのマーカーを発現することと理解されたい。
【0101】
一実施形態において、造血幹細胞および造血前駆細胞はCD34+CD38-細胞である。
【0102】
分化細胞
分化細胞は、幹細胞または前駆細胞と比較してより特殊化した細胞である。分化は、多細胞生物が単一の接合子から組織および細胞型という複雑系へと変化するにつれて、該生物の発生中に生じる。分化は成体においても共通するプロセスであり、成体の幹細胞は、組織修復時および通常の細胞のターンオーバー中に、分裂して完全に分化した娘細胞を生成する。分化は細胞の大きさ、形状、膜電位、代謝活性およびシグナルへの応答性を劇的に変化させる。これらの変化は主に、遺伝子発現における高度に制御された改変に起因する。つまり、分化細胞は、特定の遺伝子の活性化および非活性化を伴う発生過程に起因する、特定の構造を有しかつある特定の機能を果たす細胞である。ここで、分化細胞としては、造血系列の分化細胞、例えば、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞、T細胞、B細胞およびNK細胞が挙げられる。例えば、造血系列の分化細胞は、未分化細胞では発現されないかまたはより低い程度に発現される細胞表面分子の検出により、幹細胞および前駆細胞と区別することができる。適切なヒト系列マーカーの具体例としては、CD33、CD13、CD14、CD15(骨髄)、CD19、CD20、CD22、CD79a(B)、CD36、CD71、CD235a(赤血球)、CD2、CD3、CD4、CD8(T)およびCD56(NK)が挙げられる。
【0103】
T細胞
T細胞(またはTリンパ球)は、細胞媒介性免疫において中心的な役割を果たすリンパ球の1種である。それらは、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在により、B細胞およびナキュラルキラー細胞(NK細胞)などの他のリンパ球と区別することができる。
【0104】
一実施形態において、T細胞はCD4+T細胞である。別の実施形態において、T細胞はCD3+T細胞である。
【0105】
細胞集団の単離および富化
細胞の「単離集団」という用語は、本明細書中で使用する場合、身体から予め取り出されている細胞集団を指すことがある。細胞の単離集団は、当分野で公知の標準的な技術を利用して、ex vivoまたはin vitroで培養および操作してもよい。細胞の単離集団を、後に対象に再導入してもよい。該対象は、細胞を最初に単離した同一対象であっても、異なる対象であってもよい。
【0106】
細胞集団は、特定の表現型または特徴を示す細胞に関して、およびその表現型または特徴を示さないかまたはより低い程度に示す他の細胞から、選択的に精製してもよい。例えば、特定のマーカー(例えばCD34)を発現する細胞集団を、出発細胞集団から精製してもよい。あるいは、またはそれに加えて、他のマーカー(例えばCD38)を発現しない細胞集団を精製してもよい。
【0107】
ある特定の細胞型に関して細胞集団を「富化する(濃縮する)」とは、その細胞型の濃度を該集団内で増加させることと理解されたい。他の細胞型の濃度はそれに付随して減少する場合がある。
【0108】
精製または富化は、他の細胞型を実質的に含まない細胞集団をもたらす場合がある。
【0109】
特定のマーカー(例えば、CD34またはCD38)を発現する細胞集団に関する精製または富化は、該マーカーに結合する薬剤、好ましくは該マーカーに実質的に特異的に結合する薬剤を使用することにより達成してもよい。
【0110】
細胞マーカーに結合する薬剤は、抗体、例えば抗CD34抗体または抗CD38抗体であってもよい。
【0111】
用語「抗体」は、選択された標的に結合することができる完全抗体または抗体フラグメントを指し、これにはFv、ScFv、F(ab’)およびF(ab’)2、モノクローナルおよびポリクローナル抗体、操作された抗体(例えば、キメラ、CDR移植およびヒト化抗体)、ならびにファージディスプレイ法または代替技術を利用して産生される、人為的に選択された抗体が含まれる。
【0112】
加えて、古典的抗体の代替物、例えば「アビボディ」、「アビマー」、「アンチカリン」、「ナノボディ」および「DARPins」もまた、本発明において使用しうる。
【0113】
特定のマーカーに結合する薬剤は、当分野で公知の数多くの技術のいずれかを利用して同定可能となるように標識してもよい。該薬剤は本質的に標識されていてもよいし、または該薬剤に標識をコンジュゲートさせることにより修飾されていてもよい。「コンジュゲート(conjugating)」とは、薬剤と標識が動作可能に連結されていることと理解されたい。これは、薬剤と標識が、両方ともそれらの機能(例えば、マーカーに結合する、蛍光同定を可能にする、または磁場に置いた場合に分離を可能にする)を実質的に障害なく実行できる形で互いに連結されていることを意味する。コンジュゲーションの適切な方法は当分野で周知であり、当業者であれば容易に特定できるであろう。
【0114】
標識により、例えば、標識薬剤およびそれが結合している任意の細胞の、その環境からの精製(例えば、薬剤は磁気ビーズもしくはアビジンなどのアフィニティータグで標識されていてもよい)、検出またはその両方が可能となる場合がある。標識としての使用に適した検出可能なマーカーとしては、フルオロフォア(例えば、緑色、鮮紅色、青緑色および橙色の蛍光タンパク質)ならびにペプチドタグ(例えば、Hisタグ、Mycタグ、FLAGタグおよびHAタグ)が挙げられる。
【0115】
特定のマーカーを発現する細胞集団を分離するための数多くの技術が当分野で公知である。これらの技術としては、磁気ビーズベースの分離技術(例えば閉回路磁気ビーズベースの分離)、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞選別(FACS)、アフィニティータグ精製(例えば、アビジン標識薬剤を分離するためのビオチンカラムなどのアフィニティーカラムまたはビーズを使用)および顕微鏡観察に基づく技術が挙げられる。
【0116】
異なる技術の組み合わせ、例えば、磁気ビーズベースの分離ステップとその後の得られた細胞集団のフローサイトメトリーによる1つ以上の追加の(陽性または陰性)マーカーに関する選別を利用して、分離を実施することも可能な場合がある。
【0117】
臨床グレードの分離を、例えば、CliniMACS(登録商標)システム(Miltenyi)を利用して実施してもよい。これは閉回路磁気ビーズベースの分離技術の一例である。
【0118】
色素排出特性(例えば、サイドポピュレーションもしくはローダミン標識)または酵素活性(例えばALDH活性)を利用することにより造血幹細胞に関して富化することも想定される。
【0119】
遺伝子編集
用語「遺伝子編集」は、細胞内で核酸を挿入、欠失または置換する、遺伝子操作の一種を指す。遺伝子編集は操作されたヌクレアーゼを使用して達成してもよく、該ヌクレアーゼはポリヌクレオチド(例えばゲノム)内の所望の部位に標的化されていてもよい。かかるヌクレアーゼにより所望の位置に部位特異的二本鎖切断を生じさせてもよく、これを次に非相同末端結合(NHEJ)または相同組換え(HR)により修復し、標的とする突然変異を生じさせてもよい。
【0120】
かかるヌクレアーゼは、ウイルスベクターを使用して標的細胞に送達してもよい。本発明は、遺伝子編集プロセスの効率を増大させる方法を提供する。
【0121】
当分野で公知の適切なヌクレアーゼの具体例としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化され、規則的に間隔が空いた短い回文構造の繰り返し(CRISPR)/Cas系(Gaj, T.ら (2013) Trends Biotechnol. 31:397-405;Sander, J.D.ら (2014) Nat. Biotechnol. 32:347-55)が挙げられる。
【0122】
メガヌクレアーゼ(Silve, G.ら (2011) Cur. Gene Ther. 11:11-27)を同様に遺伝子編集用の適切なヌクレアーゼとして使用してもよい。
【0123】
CRISPR/Cas系はRNA誘導型DNA結合系(van der Oostら (2014) Nat. Rev. Microbiol. 12:479-92)であり、この系においては、ガイドRNA(gRNA)を、Cas9ドメインを特定の配列に標的化することができるように選択してもよい。gRNAの設計のための方法は当分野で公知である。さらに、完全に直交性の(fully orthogonal)Cas9タンパク質、ならびにCas9/gRNAリボ核タンパク質複合体ならびに異なるタンパク質に結合させるためのgRNA構造/組成の改変が、細胞の所望のゲノム部位に異なるエフェクタードメインを同時かつ指向的に標的化するために近年開発されており(Esveltら (2013) Nat. Methods 10:1116-21;Zetsche, B.ら (2015) Cell pii:S0092-8674(15)01200-3;Dahlman, J.E.ら (2015) Nat. Biotechnol. 2015 Oct 5. doi:10.1038/nbt.3390. [Epub ahead of print];Zalatan, J.G.ら (2015) Cell 160:339-50;Paix, A.ら (2015) Genetics 201:47-54)、それらは本発明における使用に適している。
【0124】
ベクター
ベクターは、ある実在物の1つの環境から別の環境への移動を可能にするかまたは容易にするツールである。本発明において細胞に形質導入するために使用するベクターは、ウイルスベクターである。
【0125】
一実施形態において、前記ウイルスベクターはレトロウイルスベクターである。好適な実施形態において、前記ウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。
【0126】
一実施形態において、前記レンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来するものである。
【0127】
一実施形態において、前記ウイルスベクターはγ-レトロウイルスベクターである。
【0128】
ある特定のタイプのウイルス「に由来するベクター」とは、該ベクターが、そのタイプのウイルスに由来しうる少なくとも1つの構成部分を含むことと理解されたい。
【0129】
レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクター
レトロウイルスベクターは、任意の適切なレトロウイルスに由来するものであっても、またはそれに由来しうるものであってもよい。多数の異なるレトロウイルスが同定されている。具体例としては、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤波肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo-MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、エーベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄球腫症ウイルス-29(MC29)およびトリ赤芽球症ウイルス(AEV)が挙げられる。レトロウイルスの詳細なリストはCoffin, J.M.ら (1997) Retroviruses, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 758-63に見出されるだろう。
【0130】
レトロウイルスは、「単純」および「複雑」の2つのカテゴリーに大別することができる。レトロウイルスは7群にさらに詳しく分けることができる。これらの群のうちの5つは、発癌能を有するレトロウイルスに相当する。残りの2群はレンチウイルスおよびスプーマウイルスである。これらのレトロウイルスの概要は、Coffin, J.M.ら (1997) Retroviruses, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 758-63で述べられている。
【0131】
レトロウイルスおよびレンチウイルスのゲノムの基本構造は、5’ LTRおよび3’ LTRなどの多くの共通する特徴を共有している。これらの間または内部には、ゲノムのパッケージングを可能にするためのパッケージングシグナル、プライマー結合部位、宿主細胞ゲノムへの組み込みを可能にするための組み込み部位、ならびにパッケージング成分をコードするgag、polおよびenv遺伝子が配置されており、これらはウイルス粒子の組み立てに必要なポリペプチドである。レンチウイルスは、感染した標的細胞の核から細胞質への、組み込まれたプロウイルスのRNA転写物の効率的な輸送を可能にする、HIVにおけるrevおよびRRE配列などの付加的な特徴を有する。
【0132】
プロウイルスでは、これらの遺伝子は、その両末端に、長い末端反復配列(LTR)と称される領域が隣接している。該LTRはプロウイルスの組み込みおよび転写に関与している。LTRはエンハンサー-プロモーター配列としても働き、ウイルス遺伝子の発現を制御することができる。
【0133】
LTRそれ自体は、3つの要素、すなわちU3、RおよびU5に分けることができる同一の配列である。U3はRNAの3’末端に特有の配列に由来する。RはRNAの両末端で繰り返される配列に由来する。U5はRNAの5’末端に特有の配列に由来する。これら3つの要素の大きさは、異なるレトロウイルス間ではかなり変動しうる。
【0134】
欠損型レトロウイルスベクターのゲノムでは、gag、polおよびenvが存在していなくても、または機能していなくてもよい。
【0135】
典型的なレトロウイルスベクターでは、複製に不可欠な1つ以上のタンパク質コード領域の少なくとも一部が、ウイルスから除去されていてもよい。これにより、該ウイルスベクターは複製欠損となる。また、標的宿主細胞への形質導入および/または宿主ゲノムへのそのゲノムの組み込みが可能な候補調節部分を含むベクターを作製するために、ベクターゲノム内の調節制御領域およびレポーター部分に動作可能に連結された候補調節部分をコードするライブラリーで、ウイルスゲノムの一部を置き換えてもよい。
【0136】
レンチウイルスベクターは、より大きなレトロウイルスベクター群の一部である。レンチウイルスの詳細なリストはCoffin, J.M.ら (1997) Retroviruses, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 758-63に見出されるだろう。手短に言えば、レンチウイルスは、霊長類群と非霊長類群に分けることができる。霊長類レンチウイルスの具体例としては、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因物質であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられるが、これらに限定されない。非霊長類レンチウイルスの具体例としては、プロトタイプ「スローウイルス」のビスナ/マエディウイルス(VMV)、ならびに近縁のヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、およびより最近になって記載されたネコ免疫不全ウイルス(FIV)およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が挙げられる。
【0137】
レンチウイルスファミリーは、レンチウイルスが分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染する能力を有する点でレトロウイルスと異なる(Lewis, Pら (1992) EMBO J. 11:3053-8;Lewis, P.F.ら (1994) J. Virol. 68:510-6)。対照的に、MLVなどの他のレトロウイルスは、例えば、筋肉、脳、肺および肝臓組織を構成するものなどの非分裂細胞または分裂が遅い細胞に感染することができない。
【0138】
レンチウイルスベクターは、本明細書中で使用する場合、レンチウイルスから誘導しうる少なくとも1つの構成部分を含むベクターである。好ましくは、その構成部分は、ベクターが細胞に感染し、遺伝子を発現するかまたは複製される生物学的機構に関与している。
【0139】
レンチウイルスベクターは「霊長類」ベクターであってもよい。レンチウイルスベクターは「非霊長類」ベクターであってもよい(すなわち、主として霊長類、特にヒトに感染するわけではないウイルスに由来する)。非霊長類レンチウイルスの具体例は、霊長類に自然感染しないレンチウイルス科のファミリーの任意のメンバーでありうる。
【0140】
レンチウイルスベースのベクターの具体例として、HIV-1およびHIV-2ベースのベクターについて以下に説明する。
【0141】
HIV-1ベクターは、単純レトロウイルスにも見出されるシス作用エレメントを含有する。gagオープンリーディングフレーム内に伸びる配列は、HIV-1のパッケージングにとって重要であることが示されている。従って、HIV-1ベクターは、翻訳開始コドンが変異したgagの関連部分を含有していることが多い。加えて、殆どのHIV-1ベクターは、RREを含むenv遺伝子の一部もまた含有する。RevはRREに結合し、それにより、全長または1回スプライシングされたmRNAの、核から細胞質への輸送が可能となる。Revおよび/またはRREの非存在下では、全長HIV-1 RNAは核に蓄積する。あるいは、Mason-Pfizerサルウイルスなどのある特定の単純レトロウイルスから得た構成的輸送エレメントを使用することにより、RevおよびRREの必要条件を緩和することができる。HIV-1 LTRプロモーターからの効率的な転写には、ウイルスタンパク質Tatが必要である。
【0142】
殆どのHIV-2ベースのベクターは、HIV-1ベクターと構造的に極めて類似している。HIV-1ベースのベクターと同様に、HIV-2ベクターもまた、全長または1回スプライシングされたウイルスRNAの効率的な輸送のためにRREを必要とする。
【0143】
ある系においては、ベクターおよびヘルパー構築物は2つの異なるウイルスからのものであり、またヌクレオチド相同性の減少は組換えの確率を低下させる場合がある。霊長類レンチウイルスに基づくベクターに加えて、FIVに基づくベクターも、病原性HIV-1ゲノムに由来するベクターに代わるものとして開発されている。これらのベクターの構造もまたHIV-1ベースのベクターに類似している。
【0144】
好ましくは、本発明において使用するウイルスベクターは、最小のウイルスゲノムを有する。
【0145】
「最小のウイルスゲノム」とは、標的宿主細胞に感染し、形質導入して目的のヌクレオチド配列を送達するための必要な機能性を与えるために、非必須要素を除去しかつ必須要素を保持するようにウイルスベクターが操作されていることと理解されたい。この戦略のさらなる詳細はWO 1998/017815に見出すことができる。
【0146】
好ましくは、宿主細胞/パッケージング細胞内でウイルスゲノムを産生させるために使用するプラスミドベクターは、標的細胞に感染できるが最終標的細胞内で感染性ウイルス粒子を産生するための独立した複製はできないウイルス粒子への、パッケージング成分の存在下でのRNAゲノムのパッケージングを可能にするための十分なレンチウイルス遺伝情報を有する。好ましくは、該ベクターは、機能性gag-polおよび/またはenv遺伝子および/または複製に必須の他の遺伝子を欠くものである。
【0147】
しかし、宿主細胞/パッケージング細胞内でウイルスゲノムを産生させるために使用するプラスミドベクターは、宿主細胞/パッケージング細胞においてゲノムの転写を誘導するためにレンチウイルスゲノムに動作可能に連結された転写調節制御配列も含む。これらの調節配列は、転写されるウイルス配列と関連する天然配列(すなわち5’ U3領域)であってもよいし、またはそれらは別のウイルスプロモーター(例えば、CMVプロモーター)などの異種プロモーターであってもよい。
【0148】
ベクターは、ウイルスのエンハンサーおよびプロモーター配列が欠失した自己不活性化(SIN)ベクターであってもよい。SINベクターは、野生型ベクターのものと同様の有効性で、in vivoで作製し、非分裂細胞に形質導入することができる。SINプロウイルスにおける長い末端反復配列(LTR)の転写不活性化は、複製能を有するウイルスによる動員を防止するはずである。またこれにより、LTRのあらゆるシス作用効果を排除することによる内部プロモーターからの遺伝子の発現の調節が可能となるはずである。
【0149】
ベクターは組み込み欠損型であってもよい。組み込み欠損型レンチウイルスベクター(IDLV)は、例えば、触媒的に不活性なインテグラーゼ(例えば、触媒部位にD64V変異を有するHIVインテグラーゼ;Naldini, L.ら (1996) Science 272:263-7;Naldini, L.ら (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:11382-8;Leavitt, A.D.ら (1996) J. Virol. 70:721-8)を用いてベクターをパッケージングすることにより、または必須att配列を改変するかもしくはベクターLTRから欠失させることにより(Nightingale, S.J.ら (2006) Mol. Ther. 13:1121-32)、または上記の組み合わせにより、製造することができる。
【0150】
HIV由来のベクター
本発明において使用するためのHIV由来のベクターは、HIV株に関しては特に限定されない。HIV株の配列の数多くの具体例が、HIV配列データベース(http://www.hiv.lanl.gov/content/index)に見出されるであろう。
【0151】
例えば、HIV-1由来のベクターは、HIV-1株NL4-3、IIIB_LAIもしくはHXB2_LAI(X4指向性)、またはBAL(R5指向性)、あるいはそれらのキメラのいずれかに由来していてもよい。好ましくは、HIV-1由来のベクターは、pMDLg/pRRE Gag-Pol-発現パッケージング構築物(US 7629153;US 8652837;Naldini, L.ら (1996) Science 272:263-7;Follenzi, A.ら (2002) Methods Enzymol. 346:454-65)に由来する。
【0152】
HIV-2由来のベクターは、例えば、HIV-2株RODに由来していてもよい。
【0153】
目的のヌクレオチド
本発明に使用するベクターは、好ましくは目的のヌクレオチドを含む。
【0154】
好ましくは、目的のヌクレオチドは治療効果を生む。
【0155】
適切なNOIとしては、酵素、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化分子、操作された免疫グロブリン様分子、一本鎖抗体、融合タンパク質、免疫共刺激分子、免疫調節分子、アンチセンスRNA、マイクロRNA、shRNA、siRNA、ガイドRNA(gRNA、例えば、CRISPR/Cas系と関連して使用されるもの)、リボザイム、miRNA標的配列、標的タンパク質のトランスドメインネガティブ変異体、毒素、条件付き毒素、抗原、腫瘍抑制タンパク質、増殖因子、転写因子、膜タンパク質、表面受容体、抗癌分子、血管作動性タンパク質およびペプチド、抗ウイルスタンパク質およびリボザイム、ならびにそれらの誘導体(例えば、関連レポーター基を有する誘導体)をコードする配列が挙げられるが、これらに限定されない。また、NOIはプロドラッグ活性化酵素をコードしていてもよい。
【0156】
NOIの一例は、サラセミア/鎌状赤血球症の遺伝子治療に使用しうるβ-グロビン鎖である。
【0157】
またNOIとしては、慢性肉芽腫症(CGD、例えばgp91phox導入遺伝子)、白血球接着不全症、進行中の重症感染症および遺伝性骨髄不全症候群(例えばファンコニー貧血)のない患者における他の食細胞障害、ならびに原発性免疫不全症(SCID)などの、骨髄系列における緊急性の低い/選択性の遺伝子修正を必要とする他の疾患の治療に有用なものも挙げられる。
【0158】
またNOIとしては、リソソーム蓄積症および免疫不全症の治療に有用なものも挙げられる。
【0159】
T細胞への本発明の適用可能性は、抗癌戦略(例えば、操作したCAR-T細胞の使用)およびユニバーサルドナーT細胞の注入に基づくアプローチを含む、患者への改変T細胞の注入に基づく細胞治療へのその適用も容易にする。従って、NOIは、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)も含みうる。
【0160】
医薬組成物
本発明の細胞は、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と共に、対象への投与のために製剤化してもよい。適切な担体および希釈剤は、等張生理食塩水、例えばリン酸緩衝生理食塩水を含み、またヒト血清アルブミンを含有する可能性がある。
【0161】
細胞治療製品の取り扱いは、細胞治療に関するFACT-JACIE国際基準を遵守して実施することが好ましい。
【0162】
造血幹細胞および/または造血前駆細胞の移植
本発明は、治療に使用するため、例えば遺伝子治療に使用するための、本発明の方法に従って調製した細胞集団、例えば、造血幹細胞および/もしくは造血前駆細胞の集団、またはT細胞の集団を提供する。
【0163】
前記使用は、細胞移植法、例えば造血幹細胞および/または造血前駆細胞移植法の一環としてのものであってもよい。
【0164】
造血幹細胞移植(HSCT)は、骨髄(この場合は骨髄移植として知られている)または血液に由来する血液幹細胞の移植である。幹細胞移植は血液学および腫瘍学の分野で、血液もしくは骨髄の疾患、またはある特定のタイプの癌を患う人々に対して最もよく実施される医療処置である。
【0165】
HSCTの多くのレシピエントは、化学療法による長期処置の恩恵を受けない可能性があるか、または化学療法に対して既に抵抗性を示している、多発性骨髄腫または白血病の患者である。HSCTの候補としては、欠陥幹細胞を伴う重症複合免疫不全症または先天性好中球減少症などの先天的欠陥を患者が有する小児科の症例、さらには出生後に自身の幹細胞を失った再生不良性貧血を患う小児または成人が挙げられる。幹細胞移植による治療を施す他の病態としては、鎌状赤血球症、骨髄異形成症候群、神経芽細胞腫、リンパ腫、ユーイング肉腫、線維形成性小円形細胞腫瘍およびホジキン病が挙げられる。より最近になって、より低い用量の予備化学療法および放射線照射を必要とする骨髄非破壊的な、またはいわゆる「ミニ移植」の手法が開発された。これにより、高齢者およびその他の点で従来の治療レジメンに耐えるには弱すぎると考えられる他の患者にHSCTを行うことが可能となった。
【0166】
一実施形態において、本発明の方法に従って調製した造血幹細胞および/または造血前駆細胞の集団を、自家幹細胞移植法の一環として投与する。
【0167】
別の実施形態において、本発明の方法に従って調製した造血幹細胞および/または造血前駆細胞の集団を、同種幹細胞移植法の一環として投与する。
【0168】
用語「自家幹細胞移植法」は、本明細書中で使用する場合、形質導入した細胞集団を投与する対象と同じ対象から出発細胞集団(後に本発明の方法に従って形質導入される)を取得する手法を指す。自家移植法は、それらが免疫学的不適合に関連する問題を回避し、かつ遺伝的に適合するドナーが見つかる可能性に関わらず対象に利用できるため、有利である。
【0169】
用語「同種幹細胞移植法」は、本明細書中で使用する場合、形質導入した細胞集団を投与する対象とは異なる対象から出発細胞集団(後に本発明の方法に従って形質導入される)を取得する手法を指す。免疫学的不適合のリスクを最小限に抑えるため、ドナーは細胞を投与する対象と遺伝的に適合していることが好ましい。
【0170】
形質導入した細胞集団の適切な用量は、治療的および/または予防的に有効な程度である。投与する用量は、治療する対象および病態によって異なる場合があり、当業者あれば容易に決定することができる。
【0171】
造血前駆細胞は短期間の生着をもたらす。従って、形質導入した造血前駆細胞の投与による遺伝子治療は、対象に非永続的な効果をもたらすだろう。例えば、この効果は、形質導入した造血前駆細胞の投与後1~6ヶ月に限定される場合がある。このアプローチの利点は、治療的介入の自己制限的な性質に起因する、より優れた安全性および忍容性であろう。
【0172】
かかる造血前駆細胞遺伝子治療は、後天性疾患、例えば、(毒性を示す可能性がある)目的の抗癌ヌクレオチドの期間限定の発現が疾患を根絶するには十分でありうる癌の治療に適している場合がある。
【0173】
本発明は、WO 1998/005635に列挙された障害の治療に有用である場合がある。参照しやすいように、そのリストの一部をここに提供する:癌、炎症または炎症性疾患、皮膚科障害、発熱、心血管系作用、出血、凝固および急性期反応、悪液質、食欲不振、急性感染症、HIV感染、ショック状態、移植片対宿主反応、自己免疫疾患、再灌流傷害、髄膜炎、偏頭痛およびアスピリン依存性抗血栓症;腫瘍の成長、浸潤および拡散、血管新生、転移、悪性腫瘍、腹水症および悪性胸水;脳虚血、虚血性心疾患、骨関節炎、関節リウマチ、骨粗鬆症、喘息、多発性硬化症、神経変性、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、卒中、脈管炎、クローン病および潰瘍性大腸炎;歯周炎、歯肉炎;乾癬、アトピー性皮膚炎、慢性潰瘍、表皮水疱症;角膜潰瘍形成、網膜症および外科的創傷治癒;鼻炎、アレルギー性結膜炎、湿疹、アナフィラキシー;再狭窄、うっ血性心不全、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症または内部硬化症(endosclerosis)。
【0174】
加えて、または代替案として、本発明はWO 1998/007859に列挙された障害の治療に有用である場合がある。参照しやすいように、そのリストの一部をここに提供する:サイトカインおよび細胞増殖/分化活性;免疫抑制剤または免疫刺激剤の活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルスによる感染症を含む免疫不全症の治療;リンパ球増殖の調節;癌および多くの自己免疫疾患の治療のため、ならびに移植片拒絶反応を予防するかまたは腫瘍免疫を誘導するため);造血の調節、例えば骨髄またはリンパ系疾患の治療;例えば、創傷治癒、火傷、潰瘍および歯周病および神経変性の治療のための、骨、軟骨、腱、靱帯および神経組織の成長の促進;卵胞刺激ホルモンの阻害または活性化(受精能の調整);化学走性/化学運動性活性(例えば、損傷または感染の部位に特定の細胞型を動員するため);止血および血栓溶解活性(例えば、血友病および卒中を治療するため);抗炎症活性(例えば、敗血症性ショックまたはクローン病を治療するため);抗微生物剤として;例えば、代謝または反応のモジュレーター;鎮痛剤として;特定の欠乏性障害の治療;ヒト医学または獣医学における、例えば乾癬の治療。
【0175】
加えて、または代替案として、本発明は、WO 1998/009985に列挙された障害の治療に有用である場合がある。参照しやすいように、そのリストの一部をここに提供する:マクロファージ阻害および/またはT細胞阻害活性、ひいては抗炎症活性;抗免疫活性、すなわち、炎症とは無関係な応答を含む細胞性および/または体液性免疫応答に対する阻害作用;細胞外基質成分およびフィブロネクチンに接着するマクロファージおよびT細胞の能力、ならびにT細胞におけるアップレギュレートされたfas受容体発現の阻害;体液性および/または細胞性免疫応答を抑制または阻害するため、単球または白血球増殖性疾患(例えば、白血病)を単球またはリンパ球の量を減少させることによって治療または改善するため、天然または人工の細胞、組織および器官(例えば、角膜、骨髄、臓器、水晶体、ペースメーカー、天然または人工の皮膚組織)を移植する場合の移植片拒絶反応の予防および/または治療のための、関節リウマチを含む関節炎、過敏症、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、膠原病および他の自己免疫疾患に関連する炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、アテローム硬化性心疾患、再灌流傷害、心停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸窮迫症候群または他の心肺疾患に関連する炎症、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎および消化管の他の疾患に関連する炎症、肝線維症、肝硬変または他の肝疾患、甲状腺炎または他の腺疾患、糸球体腎炎または他の腎および泌尿器疾患、耳炎または他の耳鼻咽喉科疾患、皮膚炎または他の皮膚疾患、歯周病または他の歯科疾患、精巣炎または精巣上体-精巣炎、不妊症、精巣外傷または他の免疫関連精巣疾患、胎盤機能不全症、胎盤機能不全、習慣性流産、子癇、子癇前症ならびに他の免疫および/または炎症関連婦人科疾患、後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ブドウ膜網膜炎、視神経炎、眼内の炎症、例えば網膜炎または嚢胞様黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、網膜色素変性症、変性眼底疾患(degenerative fondus disease)の免疫および炎症成分、眼球外傷の炎症成分、感染により引き起こされる眼炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経症、過度の瘢痕化(例えば、緑内障濾過手術後)、眼インプラントに対する免疫および/または炎症反応ならびに他の免疫および炎症関連眼科疾患、中枢神経系(CNS)または任意の他の器官の両方において免疫および/または炎症抑制が有益であろう自己免疫疾患または病態または障害に関連する炎症、パーキンソン病、パーキンソン病の治療による合併症および/または副作用、AIDS関連認知症症候群HIV関連脳症、デビック病、シデナム舞踏病、アルツハイマー病およびCNSの他の変性疾患、病態または障害、ストークスの炎症成分、ポリオ後症候群、精神障害の免疫および炎症成分、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性汎脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ギラン・バレー症候群、シデナム舞踏病、重症筋無力症、偽脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、CNS圧迫またはCNS外傷またはCNSの感染症の炎症成分、筋萎縮症およびジストロフィーの炎症成分、ならびに中枢および末梢神経系の免疫および炎症関連疾患、病態または障害、外傷後の炎症、敗血症性ショック、感染性疾患、手術の炎症性合併症または副作用、骨髄移植または他の移植の合併症および/または副作用、遺伝子治療の炎症性および/または免疫性合併症および副作用(例えば、ウイルス担体による感染に起因するもの)、あるいはAIDSに関連する炎症を含む望ましくない免疫反応および炎症の阻害。
【0176】
加えて、または代替案として、本発明は、β-サラセミア、慢性肉芽腫症、異染性白質ジストロフィー、ムコ多糖症障害および他のリソソーム蓄積症の治療に有用である場合がある。
【0177】
上記のように、T細胞への本発明の適用可能性は、抗癌戦略(例えば、操作されたCAR-T細胞の使用)およびにユニバーサルドナーT細胞の注入に基づくアプローチを含む、患者への改変T細胞の注入に基づく細胞治療へのその適用も容易にする。従って、加えて、または代替案として、本発明は移植片対宿主病の予防に有用である場合がある。
【0178】
キット
別の態様において、本発明は、CsHもしくはその誘導体および/または本発明の細胞集団を含むキットを提供する。
【0179】
前記のCsHもしくはその誘導体、および/または細胞集団は、適切な容器に入れて提供してもよい。
【0180】
また前記キットは、使用説明書を含んでいてもよい。
【0181】
治療の方法
本明細書中で治療と言う場合は、いずれも治癒的、緩和的および予防的治療を含むが、本発明との関連において防止(preventing)と言う場合は、予防的治療とより関連が深いことを理解されたい。哺乳動物、特にヒトの治療が好ましい。ヒトの治療および獣医学的治療は、共に本発明の範囲内にある。
【0182】
当業者であれば開示した本発明の範囲を逸脱することなく本明細書中に開示した本発明の全ての特徴を組み合わせられることが、当業者には理解されよう。
【0183】
本発明の好適な特徴および実施形態を、非限定的な例により以下に説明する。
【0184】
本発明の実践には、他に指示しない限り、当業者の能力の範囲内にある化学、生化学、分子生物学、微生物学および免疫学の従来技術を用いる。かかる技術は文献で説明されている。例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F.およびManiatis, T. (1989) Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F.M.ら (1995および定期増刊号) Current Protocols in Molecular Biology, Ch. 9, 13および16, John Wiley & Sons;Roe, B., Crabtree, J. およびKahn, A. (1996) DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques, John Wiley & Sons;Polak, J.M.およびMcGee, J.O’D. (1990) In Situ Hybridization:Principles and Practice, Oxford University Press;Gait, M.J. (1984) Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach, IRL Press;ならびにLilley, D.M.およびDahlberg, J.E. (1992) Methods in Enzymology:DNA Structures Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA, Academic Pressを参照されたい。これらの一般的なテキストは各々が参照により本明細書中に組み込まれるものとする。
(実施例)
【実施例1】
【0185】
材料および方法
ベクター
第三世代レンチウイルス(LV)ストックを、以前に記載された通りに調製し、濃縮して力価を測定した(Dull, T.ら (1998) J Virol 72:8463-8471;Follenzi, A.ら (2000) Nat Genet 25:217-222)。簡潔に述べると、自己不活性化(SIN)LVベクターを、導入ベクターpCCLsin.cPPT.hPGK.eGFP.Wpre、パッケージングプラスミドpMDLg/pRRE、Revを発現するpCMV-RevおよびVSV-gエンベロープをコードするpMD2.VSV-Gプラスミドを使用して製造した。インテグラーゼ欠損型レンチウイルスベクター(IDLV)は、以前に記載された通りに(Lombardo, A.ら (2007) Nat Biotechnol 25:1298-1306)、パッケージングプラスミドpMDLg/pRREをpMD.Lg/pRRE.D64VIntと置換して製造した。ボールドベクター(Bald vector)は、ベクター作製中にEnvをコードするプラスミドを省いて製造した通常のLVであり、陰性対照として製造した。ベクター製造中に、Env構築物をpcDNA3.1(Invitrogen Inc.)で置換した。SINLVキャプシド変異体に関しては、ベクターは、野生型pMDLg/pRREを、以下:pMDLg/pRRE-N74D;pMDLg/pRRE-P90Aのようにp24コード領域に特異的点突然変異を持つパッケージングプラスミドと置き換えた点を除き、上記の通りに製造した。全ての改変パッケージングプラスミドをGenScript Incから購入した。変異型ヒヒレトロウイルスエンベロープを有するシュードタイピングLVに関しては、以前に記載された通り(Girard-Gagnepain, A.ら (2014) Blood 124:1221-1231)、pMD2.VSV-Gをベクター作製中にBaEV-TRで置き換えた。SIN-レトロウイルスベクター(SIN-RV)は、以前に記載された通り(Montini, E.ら (2006) Nat Biotechnol 24:687-696)、導入ベクターとしてのRVrkat43.2MLV GFP、パッケージングプラスミドpCM-gag-polおよびVSV-gエンベロープをコードするpMD2.VSV-Gプラスミドまたは両種指向性エンベロープ糖タンパク質(AmphoRV)を有するシュードタイプを使用して製造した。サル免疫不全ベクター(SIV)は、以前に記載された通り(Mangeot, P.E.ら (2002) Mol Ther 5:283-290)、SIV-GFP導入ベクター、SIV3+パッケージングプラスミドおよびVSV-Gシュードタイプを使用して製造した。HDRのためのAAV6ドナーテンプレートは、以前に記載された通り(Wang, L.ら (2015) Mol Ther 23:1877-1887)、三重トランスフェクション法により製造しかつ塩化セシウム勾配での超遠心分離により精製した、AAV2逆方向末端反復配列を含有する構築物から作製した。臨床グレードのARSAおよびIDUA LVは、以前に報告された通りに(Biffi, A.ら (2013) Science 341:1233158)、妥当性が確認された大規模なプロセスを利用してMolMed(Milan、Italy)により製造した。
【0186】
細胞
細胞株
ヒト胎児腎293T細胞(HEK293T)ならびにヒトK562骨髄性白血病細胞株をイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM;Sigma)で維持した。ヒトTHP-1細胞は、Roswell Park Memorial Institute培地(RPMI;Lonza)で維持した。両培地に10%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco)、ペニシリン(100 IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)および2%グルタミンを補充した。
【0187】
初代細胞
ヒトCD34+HSPC、CD4+またはCD3+T細胞およびCD14+単球は、施設倫理委員会承認プロトコル(TIGET01)に従い、健常ボランティアからインフォームドコンセントに基づいて採取した臍帯血(CB)から、または単核細胞から、製造業者の説明書(Miltenyi)に従って陽性磁気ビーズ選択により単離した。そうでない場合は、CB、骨髄(BM)またはG-CSF動員末梢血(mPB)CD34+細胞はLonzaまたはHemacareから直接購入した。CD4+T細胞は、10%FBS、ペニシリン(100 IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、2%グルタミン、植物性凝集素(PHA)(2μg/mL、Roche)およびIL-2(300 IU/mL、Novartis)を補充したRPMIで3日間活性化した後、10%FBS、ペニシリン(100 IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、2%グルタミンおよびIL-2(300 UI/mL)を補充したRPMIで維持した。それ以外には、CD3+T細胞を、抗ヒトCD3およびCD28抗体にコンジュゲートさせた磁気ビーズ(Dynabeads human T-activator CD3/CD28;Invitrogen)を使用し製造業者の説明書に従って刺激し、ペニシリン、ストレプトマイシン、10%FBSならびに各5 ng/mLのIL-7およびIL-15(PeproTech)を補充したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO-BRL)で増殖させた。単球由来マクロファージ(MDM)は、10%FBS、ペニシリン(100 IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、2%グルタミンおよび5%ヒト血清AB(Lonza)を補充したDMEM中で7日間、単離CD14+単球から分化させた。全細胞を、5%CO2加湿雰囲気中37℃で維持した。
【0188】
形質導入
ヒトCB由来の造血幹/前駆細胞(HSPC)を、形質導入に先立って16~24時間、ペニシリン(100 IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)、100 ng/mLの組換えヒト幹細胞因子(rhSCF)、20 ng/mLの組換えヒトトロンボポエチン(rhTPO)、100 ng/mLの組換えヒトFlt3リガンド(rhFlt3)、および20 ng/mLの組換えヒトIL6(rhIL6)(全てPeprotechより入手)を補充した無血清StemSpan培地(StemCell Technologies)で培養した。次に、HSPCに、1 mL当たり1×106細胞の濃度で、同一培地中、指示された感染多重度(MOI)で16時間、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-G)-シュードタイプSINLVで形質導入した。骨髄およびG-CSF動員末梢血CD34+細胞を、レトロネクチンコート非組織培養処理ウェル(T100A Takara)上の、サイトカインの混合物:60 ng/mLのIL-3、100 ng/mLのTPO、300 ng/mLのSCF、および300 ng/mLのFlt-3L(全てCell Peprotechから入手)を含有するCellGro培地(Cell Genix)での培養に供した。細胞にその後、同一サイトカイン含有培地にて14~15時間、指示用量のベクターで形質導入した。シングルヒットのレポーターLVによる形質導入後、細胞を洗浄してから、陽性細胞の割合をFACSにより読み取るまで上記サイトカインを補充した無血清培地で維持し、その後それらをベクターコピー数解析の前にさらに7日間、10%FBS、25 ng/mLのrhSCF、5 ng/mLのrhIL6-3、25 ng/mLのrhFlt3および5 ng/mLのrhTPOを補充したIMDMで維持した。臨床応用のために選択した、2回の形質導入が予測されるプロトコルでは、細胞を、サイトカインを補充したCellGro SCGM培地で10時間洗浄し、以前に報告された通りに(Biffi, A.ら (2013) Science 341:1233158)、1回目と同一の条件で形質導入のセカンドヒットを施した。形質導入の最後に、細胞を計数し、クローン原性アッセイ、フローサイトメトリー、およびin vivo研究のために採取した。残りの細胞は、サイトカイン(IL-3、60 ng/mL;IL-6、60 ng/mL;SCF、300 ng/mL)を含むIMDM 10%ウシ胎仔血清(FBS)に播種し、計14日間培養した。その後、細胞を分子的および生化学的研究のために採取した。非刺激HSPCにペニシリン(100 IU/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)を補充したStemSpan培地で16~24時間形質導入して新たに単離し、次いでヒトサイトカインおよび10μMの逆転写酵素阻害剤3TC(SIGMA)の存在下で維持することにより、サイトカイン刺激によるその後の形質導入を回避した。
【0189】
MDMは、分化の7日後に形質導入した。Tリンパ球は、刺激の2~3日後に106細胞/mLの濃度で形質導入した。これらの細胞を16~20時間ベクターに曝露した。
【0190】
化合物
シクロスポリンA(CsA)、シクロスポリンH(CsH)およびラパマイシン(全てSigma-Aldrichから入手)を再懸濁し、製造業者の説明書に従って保存した。それらを指示濃度で形質導入培地に添加し、16~20時間後にベクターを洗い流した。記載がある場合、プロスタグランジンE2(Yonsungから入手したジノプロストン)を、LV形質導入の2時間前に10μMの最終濃度で添加した。
【0191】
線形増幅媒介PCRおよび配列決定
線形増幅媒介(LAM)-PCRを、培養細胞から抽出した300 ng以下のDNAに対して実施した。簡潔に述べると、ベクター-ゲノム接合部の線形PCR前増幅を100サイクル行い、続いてストレプトアビジン結合磁気ビーズによるビオチン化標的DNAの磁気捕捉、ヘキサヌクレオチドプライミング、MluCI、HpyCHIV4およびAciI酵素を使用した制限消化、ならびに制限部位-相補的リンカーカセットへのライゲーションを行った。ライゲーション産物を次に、ベクターの長い末端反復配列(LTR)およびリンカーカセット配列に特異的なプライマーを用いるtwo nested PCRにより増幅した。LAM-PCRアンプリコンをShimadzu MultiNA Microchip Electrophoresis Systemで分離することにより、各サンプルのPCR効率およびバンドパターンを評価した。使用したプライマーおよびPCRサーマルプロトコルは、以前に記載されたものである(Schmidt, M.ら (2007) Nat Methods 4:1051-1057)。LAM-PCR産物を、次にAmpureXPビーズにより精製し、Qubit(商標) Fluorometer(Thermo Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)を用いて定量化した。40 ngのPCR産物を、サンプルをアンプリコンのLTRとリンカーカセット側の両方でバーコード化できるようにする8個のヌクレオチド(X)タグ、Illumina MiSeq Systemによるペアエンドシークエンシングを可能にする特異的配列、およびクラスター分離を向上させるためのランダムな12個のヌクレオチド(N)の配列を含有する融合物-LTR(AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTNNNNNNNNNNNNXXXXXXXXACCCTTTTAGTCAGTGTGGA)および融合物-LC(CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATGTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCTNNNNNNNNNNNNXXXXXXXXgatctgaattcagtggcacag)プライマーを用いて再増幅した。PCRは、Qiagen TAQ DNA Polymeraseを使用し、次の条件下:95℃で2分、および95℃で45秒、58℃で45秒、および72℃で1分を12サイクル、続いて72℃で5分間のさらなるインキュベーション、で実施した。バーコード化LAM-PCR産物を蛍光定量により定量化し、等モル比でライブラリーを作製して、同一対の繰り返しを回避した。
【0192】
共通挿入部位の解析
有意の共通挿入部位(CIS)は、スライディング-ウィンドウアプローチ(Abel, U.ら (2007) PLoS One 2:e570)および挿入部位(IS)解析の外れ値に対するGrubbs検定(Biffi, A.ら (2011) Blood 117:5332-5339)により同定した。このスライディング-ウィンドウ法では、各CISに含有される組み込みの最大数を表す「CIS max order」などの追加のアノテーションフィールドと共にISの元の入力リストを返す関数「Cluster」および1つ以上のCIS間隔がクラスター化されているゲノムウィンドウを表す「Cluster ID」を使用して、Rパッケージ(最新のアップデートは2012年8月)を利用した。遺伝子を中心とする方法(gene-centric method)の場合、RefSeq遺伝子のアノテーションを使用し(UCSC Genome BrowserからダウンロードしたGeneral Feature Format file、リリースhg19、NCBI Build 37)、各遺伝子記号に対する平均転写物長を計算した。次に、外れ値に対してGrubbs検定を実施することにより、データセットの全標的化遺伝子の平均頻度に関して各標的化遺伝子の組み込み頻度を比較した。DMSOの存在下で形質導入した細胞から回収したIS分布をCsAの存在下で形質導入したそれらと比較するために、本発明者らは、全ゲノムにわたる1 Mbずつスライドさせながら5 MbのウィンドウについてのISのカバレッジ(範囲)を抽出した。本発明者らは次に、各ウィンドウに関してlog2-倍変化を算出し、CsAとDMSOを比較した。
【0193】
ヒトおよびマウスの細胞の遺伝子編集
HDRのためのLVドナーテンプレートは、HIV由来の、第3世代自己不活性化導入構築物を使用して作製した。IDLVストックは、以前に記載された通りに(Lombardo, A.ら (2007) Nat Biotechnol 25:1298-1306)調製して力価を測定した。マウスHSPCにおける遺伝子編集実験のために、Gt(ROSA)26Sortm1.1(CAG-cas9*、-EGFP)Fezh/Jマウスを、マウスIl2rg遺伝子の代わりに変異ヒトIL2RGがノックインされているヒト化SCID-X1 C57B6マウス(Schiroli, G.ら (2017) Sci Transl Med 9:411)と交配させた。HSPCは、マウスLineage Cell Depletion Kit(Miltenyi Biotec)を製造業者の説明書に従って使用し、Lin-選択により8週齢のドナーマウスから精製した。Lin-細胞を、ペニシリン、ストレプトマイシン、グルタミン、200 ng/mLのB18R組換えタンパク質(eBiovision)およびマウスサイトカインの組み合わせ(全てPeprotechから入手した20 ng/mLのIL-3、100 ng/mLのSCF、100 ng/mLのFlt-3L、50 ng/mLのTPO)を含有する無血清StemSpan培地(StemCell Technologies)中106細胞/mLの濃度で培養した。Lin-細胞は、2時間予備刺激した後、IL2RG(編集細胞を追跡するためのレポーターカセットを追加)を修正し、かつ構成的PolIIIプロモーターU6(認識されるゲノム配列:TTCCACAGAGTGGGTTAAAGcgg)(Schiroli, G.ら (2017) Sci Transl Med 9:411)の制御下でIL2RGを編集するためのコグネイトgRNAを発現させるためのドナーテンプレートを含むIDLVにより形質導入した。CsHの存在下または非存在下、MOI 100での形質導入の24時間後、細胞をPBSで洗浄し、次いでさらに3日間in vitroで培養して、編集された細胞の画分をフローサイトメトリーにより定量化した。ヒトHSPCにおける遺伝子編集実験のために、106 CD34+細胞/mLを、ペニシリン、ストレプトマイシン、グルタミン、1μMのSR-1(Biovision)、50μMのUM171(STEMCell Technologies)、10μMのPGE2(培養の開始時のみ添加)(Cayman)、ならびにヒト早期作用性サイトカイン(SCF 100 ng/mL、Flt3-L 100 ng/mL、TPO 20 ng/mL、およびIL-6 20 ng/mL;全てPeprotechから購入)(Schiroli, G.ら (2017) Sci Transl Med 9:411)を補充した無血清StemSpan培地(StemCell Technologies)で刺激した。IDLVによる形質導入は、予備刺激の2日後にCsHの存在下または非存在下、MOI 100で実施した。AAVS1遺伝子座(PGK.GFPレポーターカセットをコードする;(Genovese, P.ら (2014) Nature 510:235-240))に相同性を示すか、またはIL2RGのイントロン1(IL2RG修正cDNAをコードする;(Schiroli, G.ら (2017) Sci Transl Med 9:411))を標的化するIDLVドナーテンプレートを、示す通りに利用した。形質導入から24時間後、細胞をPBSで洗浄し、1.25μMのリボ核タンパク質(RNP)を用いて電気穿孔を行った(P3 Primary Cell 4D-Nucleofector X Kit、プログラムEO-100;Lonza)。RNPは、1:1.5モル比でs.p.Cas9タンパク質(Integrated DNA Technologies)を合成cr:tracrRNA(Integrated DNA Technologies)と共に25℃で10’インキュベートすることにより構築した。電気穿孔促進物質(Integrated DNA Technologies)を、製造業者の説明書に従い電気穿孔に先立って添加した。gRNAにより認識されるゲノム配列は次の通りである:AAVS1遺伝子座に関してはTCACCAATCCTGTCCCTAGtgg、またイントロン1 IL2RGに関してはACTGGCCATTACAATCATGTggg)。遺伝子編集効率を、電気穿孔の3日後にin vitroで培養細胞から測定した。AAVS1編集細胞に関しては、相同組換え修復(HDR)による編集を、GFPマーカーを発現する細胞の割合を測定するフローサイトメトリーにより定量化した。IL2RG編集細胞に関しては、HDRを、以前に記載された通りに(Schiroli, G.ら (2017) Sci Transl Med 9:411)、ベクター配列と標的遺伝子座との間の接合部、および標準物質(normalizer)として利用した対照配列(ヒトTTC5遺伝子)に対してプライマーおよびプローブを設計するデジタルドロップレットPCR解析により定量化した。
【0194】
NSGマウスへのヒトHSPCの移植
NOD-SCID-IL2Rg-/-(NSG)マウスはJackson laboratoryから購入した。全ての動物の処置は、Ospedale San Raffaeleの動物実験委員会(IACUC 784)による承認を受け、かつイタリアの法制度に従ってイタリア保健省および地方当局に報告されたプロトコルに従って実施した。ヒト骨髄由来のCD34+細胞は、先に記載した通り、予備刺激し、示した通りにDMSO、CsAおよび/またはラパマイシンの存在下または非存在下、IDUA-LVによりMOI 100で形質導入した。ヒトmPB CD34+細胞は、先に記載した通り、予備刺激し、示した通りにDMSO、CsHおよび/もしくは16-16ジメチルプロスタグランジンE2またはそれらの組み合わせの存在下または非存在下、IDUA-LVによりMOI 50で形質導入した。形質導入後、2~5×105細胞を、致死量以下の放射線を照射した8~10週齢のNSGマウス(放射線量:体重18~25 gのマウスには200 cGy、および体重が25 g超のマウスには220 cGy)の尾静脈に注入した。形質導入細胞および非形質導入細胞もまた、さらなる解析のために14日間in vitroで培養した。in vitro培養細胞、および移植マウスから犠牲にした時点で単離したBM細胞を、その後、qPCRによりVCNを定量化するために使用した。
【0195】
コロニー形成細胞アッセイ
コロニー形成細胞アッセイは、種々の化合物の存在下で形質導入した8×102ヒトHSPCをメチルセルロースベースの培地(Methocult GF4434;Stem Cell Technologies)に播種することにより実施した。15日後、コロニーを、コロニーの数および形態について光学顕微鏡検査法により点数化した。CFU-EおよびBFU-Eは赤血球コロニーとして点数化し、一方CFU-G、CFU-MおよびCFU-GMおよびCFU-GEMMは骨髄コロニーとして点数化した。さらに、単一コロニーを分子解析のために選び出した。
【0196】
フローサイトメトリー
全てのサイトメトリー解析はFACSCanto III装置およびLSRFortessa装置(BD Biosciences)を使用して実施し、またFACS Expressソフトウェア(De Novo Software)を用いて解析した。
【0197】
形質導入細胞
形質導入細胞におけるGFPまたはBFPの発現は、形質導入の5~7日後に測定した。付着したMDMを5 mM PBS-EDTA中で擦り取ることにより剥がし、洗浄してから、2%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するPBSに再懸濁した。懸濁液中で増殖させた細胞を洗浄し、2%FBSを含有するPBSに再懸濁した。HSPC亜集団組成を測定するために、細胞を形質導入の16または72時間後に回収し、抗ヒト受容体遮断抗体と共に4℃で15分間インキュベートした後、4℃で20分間、抗ヒトCD34、CD38、CD45RA、CD90抗体で、または抗ヒトCD34、CD133、CD90抗体で染色した(抗体については表3を参照されたい)。死細胞を解析から除外するため、10 ng/mLの7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)を添加した。
【0198】
ヒトのコロニー
CFC由来のヒト分化細胞を単一プレート(コロニーのプール)から回収し、混合して単一細胞懸濁液とした。次に細胞を洗浄し、2%FBSを含有するPBSに再懸濁した。免疫染色のために、細胞を抗ヒト受容体遮断抗体と共に4℃で15分間インキュベートした後、4℃で20分間、抗ヒトCD235aおよびCD33抗体で染色した(抗体については表3を参照されたい)。死細胞を解析から除外するため、細胞を洗浄し、10 ng/mLの7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)を含有するPBSに再懸濁した。
【0199】
マウス由来の末梢血
各マウスについて、250μLの末梢血を、45 mg/mLのEDTAを含有する15μLのPBSに添加した。免疫染色のために、既知量の全血(100μL)を先ず抗ヒトFcγIII/II受容体(Cd16/Cd32)遮断抗体と共に4℃で15分間インキュベートした後、モノクローナル抗体(抗体については表3を参照されたい)の存在下で4℃で20分間インキュベートした。赤血球を、白血球を保護するための等量のFBS(100μL)の存在下、TQ-Prepワークステーション(Beckman-Coulter)を用いて溶解により除去した。
【0200】
骨髄
BM細胞は、PBS 2%FBS溶液中で大腿骨を洗い流す(flush)ことにより取得した。細胞(1×106細胞)を洗浄し、2%FBSを含有する100μLのPBSに再懸濁してから、抗ヒト受容体(Cd16/Cd32)遮断抗体と共に4℃で15分間インキュベートした。次に、染色を、モノクローナル抗体(抗体については表3を参照されたい)を用いて4℃で20分間実施した。細胞を洗浄し、最後に2%FBSを含有するPBSに再懸濁した。
【0201】
脾臓
脾臓は先ず破砕し、得られた細胞懸濁液を40μmナイロンフィルターに通してから、2 mMのEDTAおよび0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。細胞を抗ヒト受容体(Cd16/Cd32)遮断抗体と共に4℃で15分間インキュベートした後、抗ヒトモノクローナル抗体(抗体については表3を参照されたい)を用いて4℃で20分間染色した。細胞を最後に洗浄し、2%FBSを含有するPBSに再懸濁した。
【0202】
Ki67およびHoechstのフローサイトメトリー
細胞を洗浄し、BD Cytofix緩衝液(カタログ番号554655)を使用して固定し、洗浄し、BD Perm 2(カタログ番号 347692)で透過処理し、洗浄し、さらにPE-結合Ki67抗体(BD)で染色し、最後に1μg/mLのHoechstと共にBD Cytofix緩衝液に再懸濁した。該細胞を次に、UVレーザーを備えたBD LSRII装置で解析した。
【0203】
細胞増殖アッセイ
細胞は、サイトカイン予備刺激の24時間後および細胞形質導入前にCell Proliferation Dye eFluor(登録商標) 670(Affimetrix、eBioscience)で染色した。この蛍光色素は一級アミンを含有する任意の細胞性タンパク質に結合し、また細胞が分裂するにつれて、該色素は、該色素の蛍光強度の連続的半減として測定可能な娘細胞間に均等に分配される。形質導入後の種々の時点で、細胞を回収してフローサイトメトリーにより解析した。Cell Proliferation Dye eFluor(登録商標) 670は647 nmのピーク励起を有し、赤色(633 nm)レーザー線により励起することができる。これは670 nmのピーク発光を有し、660/20バンドパスフィルタで検出することができる(APC、Alexa Fluor(登録商標) 647またはeFluor(登録商標) 660と同等)。
【0204】
ROS定量化
細胞は、細胞内に受動的に拡散し、そこでそのアセタート基が細胞内エステラーゼにより切断されかつそのチオール反応性クロロメチル基が細胞内グルタチオンおよび他のチオール類と反応するCM-H2DCFDA(Thermo Fisher Scientific)で染色した。それに続く酸化により、細胞内に閉じ込められかつフローサイトメーターを使用してモニタリングされる蛍光付加物が生じる。N-アセチル-L-システイン(NAC、SIGMAから入手)および過酸化水素(H2O2、SIGMA)を、蛍光プローブと共にそれぞれ濃度1 mMおよび10 mMで添加した。
【0205】
RNA抽出、qPCRおよび遺伝子発現解析
細胞からのRNAの抽出は、RNeasy Plus mini Kit(Qiagen)を使用して実施した。簡潔に述べると、細胞を、β-メルカプトエタノールを補充したBuffer RLT plusに溶解した。次に、RNAを製造業者の説明書に従って抽出した。抽出したmRNAを、SuperScript Vilo kit(11754250;Invitrogen)を使用して逆転写した(retrotranscribed)。Q-PCR解析は、Applied BiosystemsからのTaqManプローブ(下記参照)を使用して行った。Q-PCRはViia 7装置を使用して40サイクル行い、その際Viia 7ソフトウェアを使用して生データ(Ct)を抽出した。遺伝子発現を判定するため、各遺伝子の閾値サイクル(Ct)と参照遺伝子のCtとの差(ΔCt)を、同等の閾値を適用することにより算出した。相対定量値を、目的遺伝子の、参照サンプルにおけるその発現に対する倍変化発現として、式2-ΔΔCtにより算出した。発現はハウスキーピング遺伝子HPRT1を使用して標準化した。Applied Biosystemsから入手した次のTaqmanプローブ:PPIA(Hs99999904_m1)、PPIB(Hs00168719_m1)、OAS1(Hs00973637_m1)、IRF7(Hs01014809_g1)、MX2(Hs01550808_m1)およびHPRT1(Hs01003267_m1)を使用した。
【0206】
複製中間体
CB由来CD34+細胞に、CsAまたはCsHの存在下または非存在下、MOI 100で形質導入した。ウイルス複製中間体を解析するために、形質導入細胞を洗浄してからMonini溶解バッファ(0.1%ポリオキシエチレン10ラウリルエーテル(Sigma)、0.1 mg/mLのプロテイナーゼK(Promega))(25μL/1×105 細胞)に再懸濁し、65℃で2時間インキュベートしてから94℃で15分間熱失活させた(Monini, P.ら (1999) Blood 93:4044-4058)。後期-RTおよび2-LTR中間体を回収するための細胞の溶解を、それぞれ形質導入の6または24時間後に実施した。後期-RTおよび2LTRサークルは、後述のプライマーを用いる定量的ドロップレットデジタル-PCR(dd-PCR)アッセイにより測定し、ヒトTERT遺伝子を使用して標準化した。
後期-RT産物を検出するためのプライマーは、以下のもの:
LATE RT fw(DU3 sense):5'-TCACTCCCAACGAAGACAAGATC-3'(Matrai, J.ら (2011) Hepatology 53:1696-1707)
LATE RT rv(5NC2 rev):5'-GAGTCCTGCGTCGAGAGAG-3'(Naldini, L.ら (1996) Science 272:263-267)
である。
【0207】
2LTR産物を検出するためのプライマーは、以下のもの:
2LTR fw(2junct):5'-CAGTGTGGAAAATCTCTAGCAGTAC-3'
2LTR rv(J2 rev):5'-GCCGTGCGCGCTTCAGCAAGC-3'
である。
【0208】
TELOを検出するためのプライマーは、以下のもの:
hTelo fw:5'-GGCACACGTGGCTTTTCG-3'(Follenzi, A.ら (2002) Methods Enzymol 346:454-465)
hTelo rev:5'-GGTGAACCTCGTAAGTTTATGCAA-3'
である。
【0209】
ゲノムDNA抽出およびqPCR
細胞培養物および血液からのDNAは、Maxwell 16装置(Promega)またはBlood & Cell Culture DNA micro kit(Qiagen)を使用して抽出した。組み込まれたレンチウイルスベクターの二倍体ゲノム当たりのベクターコピー(ベクターコピー数、VCN)は、LVのプライマー結合部位領域に対して次のプライマー(HIVセンス:5’-TACTGACGCTCTCGCACC-3’;HIVアンチセンス:5’-TCTCGACGCAGGACTCG-3’)およびプローブ(FAM 5’-ATCTCTCTCCTTCTAGCCTC-3’)を使用して定量的ドロップレットデジタル-PCR(dd-PCR)により定量化した。総レンチウイルスDNA(組み込まれたもの、および組み込まれていないもの)のVCN定量化は、形質導入の3日後に、以前に記載された通りに(Matrai, J.ら (2011) Hepatology 53:1696-1707)実施した。逆転写されたレトロウイルスベクターゲノム(組み込まれたものと組み込まれていないものの両方)のコピー数は、次のプライマー:RT-RV;ΔU3センス:5'-CGAGCTCAATAAAAGAGCCCAC-3'、PBSアンチセンス:5'-GAGTCCTGCGTCGGAGAGAG-3'を使用して、それと一過性トランスフェクションから持ち越されたプラスミドとを識別する定量的ドロップレットデジタル-PCR(dd-PCR)により実施した。ベクターのコピー数および複製中間体をゲノムDNA含量に対して標準化し、これをヒトTERT遺伝子を使用して評価した。dd-PCRによるVCN解析には、二重(duplex)標的および参照アッセイの利用による標的および参照遺伝子座の定量化を要した。QuantaSoft(商標)ソフトウェアで、標的分子濃度と参照分子濃度との比を算出し、ゲノム中の参照種のコピーの数(通常は2)を掛けることによりコピー数を決定した。
【0210】
【0211】
ウエスタンブロット
全細胞抽出物を、以前に記載された通りに(Kajaste-Rudnitski, A.ら (2011) J Virol 85:5183-5196;Kajaste-Rudnitski, A.ら (2006) J Biol Chem 281:4624-4637)HSPCから調製した。サンプルをSDS-PAGEに供し、エレクトロブロッティングによりPVDF膜に転写し、さらにCypAに対して産生されたマウスポリクローナル抗体(Ab)(Santa-Cruz Biotechnology)を用いてブロットした。抗アクチンAb(Sigma-Aldrich)を標準物質として使用した。
【0212】
統計分析
全ての研究において、値を平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表す。統計分析は、示した通り、対応のないStudentのt検定、または多重比較の場合はANOVAにより実施した。割合を統計分析のためにLog ODDsに変換した。差はp<0.05で統計学的に有意であるとみなした。
【0213】
【0214】
【表3】
結果
短縮CsAおよびラパマイシンベースのプロトコルは現行の臨床基準と同様の遺伝子導入効率を安全に達成しかつHSPC生着を改善する
【0215】
ヒトBM由来のCD34
+細胞に、化合物を使用し、または使用せずに、臨床グレードのIDUA-発現またはARSA-発現LVのシングルヒットにより形質導入した。対照として、細胞に、ベクターのMOI 100での2ヒットの形質導入(TD)から構成される現行の標準臨床形質導入プロトコルにより形質導入した(
図1A)。CsAおよびラパマイシンは、薬物不使用の1ヒット対照と比較して、臨床グレードのIDUA-LVとARSA-LVの両方の形質導入効率を増大させることが可能であり、in vitroでの2ヒット・ゴールドスタンダードに匹敵するVCNに達した(
図1B~C)。さらに、コロニー形成能には変化は観察されなかった(
図1D)。
【0216】
シングルヒット形質導入HSPCを移植したNSGマウスの末梢血(PB)のFACS解析により、特にCsAに関して、移植の16週後まで、臨床プロトコルと比較してヒトCD45
+細胞のより良好な生着が示された(
図2A)。さらに、種々の系列の結果に変化は観察されなかった(
図2B)。2ヒット・ゴールドスタンダードに匹敵するVCN/ヒトゲノムが移植22週後のマウスのBMと脾臓で達成されたことから、両プロトコルはin vivoで長期再構築HSPCの改善された形質導入を可能にした(
図2C)。全てのより短期間のプロトコルに関して、より短いex-vivo培養期間それ自体がマウスのBMおよび脾臓において同様にHSPC生着を改善した(
図2D)。
【0217】
ラパマイシンは、ヒトHSPCにおけるLV組み込み部位プロフィールに影響を与えないことが以前に示されている(Wang, C.X.ら (2014). Rapamycin relieves lentiviral vector transduction resistance in human and mouse hematopoietic stem cells. Blood)。本発明者らはここで、CsAベースの遺伝子導入プロトコルの安全性プロフィールをLV組み込み部位プロファイリングの観点から評価した。より多くの組み込み部位がCsAの存在下で組織的に回復し、細胞当たりのベクターコピーを増大させるその能力と一致するものの、本発明者らは、CsAの存在のない場合に形質導入したHSPCから回復した組み込み部位の分布間で、および近年の遺伝子治療試験から得られた多数のIS研究(Aiuti, A.ら (2013) Science 341:1233151;Biffi, A.ら (2013) Science 341:1233158)と比較して、有意差を見出さなかった(
図9)。
【0218】
CsAは形質導入とは無関係にex vivoで原始HSCを保存する
CsA条件について観察された、ヒト細胞のより高い生着の背景にある理由を調査するため、本発明者らは、in vitroで幹細胞組成に与えるCsAの影響を評価した。ヒトBM由来のCD34
+細胞に、CsAの存在下または非存在下、SINLV-GFPを用いてMOI 10で形質導入した。原始幹細胞および原始前駆細胞の割合を、TDの16時間後にFACSにより評価した(
図3A)。in vitroでのCsA曝露により、より原始的な幹細胞および多能性前駆細胞の割合が増大する一方で、より拘束されたものは減少する。注目すべきことに、培養物中の骨髄分化に経時的な変化は観察されなかった。原始幹細胞および原始前駆細胞の割合は、TDの72時間後にFACSにより評価した(
図3B)。in vitroでのCsA曝露は、TDの3日後でも、より原始的な幹および多能性前駆細胞の割合を依然として増大させた。
【0219】
より遅い増殖速度によりCsAの存在下でのより原始的な細胞の保存について説明できるかどうかを調べるため、ヒトBM由来のCD34
+細胞を、個々の細胞分裂をモニタリングするために使用できる赤色蛍光色素で染色した。この染色に続き、細胞にCsAを使用して、または使用せずに形質導入し、TD後の種々の時点でFACSにより解析することにより、細胞増殖速度をモニタリングした(
図4A)。CsAはin vitroで細胞増殖を有意に減少させた(
図4B)。種々のHSPC亜集団内の細胞増殖色素のレベルを形質導入の16および72時間後にFACSにより評価した(
図4C~D)。CsAは、より拘束された前駆細胞から最も原始的な細胞までの全てのHSPC亜集団における細胞増殖の同程度の減少を生じた。
【0220】
原始HSCは、より静止した細胞周期状態を特徴とする。本発明者らは、HSCにおけるCsA媒介性の増大が、細胞周期のG
0期にある細胞のより大きい画分と関係しているかどうかを調査した。本発明者らは、本発明者らが細胞周期のG
0、G
1、SおよびG
2-M期にある細胞を識別することを可能にする、FACSベースの組み合わせ染色戦略を利用した。CsA処理により、周期の静止期であるG
0期で停止する細胞の割合が有意に増大した(
図4D)。酸化ストレスはHSPCの生物学において重要な役割を果たしており、またCsAはHSPCにおける酸化還元バランスに影響を与えることが示唆されている(Mantel, C.R.ら (2015) Cell 161:1553-1565)ため、本発明者らは、ヒトBM由来HSPCにおけるROSレベルに対するCsAの影響についても評価した。本発明者らの実験環境では、CsAはin vitroで測定したROSレベルに一切の変化をもたらさなかった(
図4E)。まとめると、HSPC増殖におけるCsA媒介性の減少および静止状態の維持は、その幹細胞特性の保存に潜在的に寄与し、かつvivoでのより高い生着をもたらしうる。
【0221】
CypA-非依存性シクロスポリンはHSPCへのLV形質導入に対する早期阻止(early block)を明らかにする
LV形質導入時のCypAの役割およびヒトHSPCにおけるCsA媒介性の影響に直接取り組むために、本発明者らは、CB由来CD34
+細胞におけるこの宿主コファクターをshRNAを使用してノックダウン(KD)し(
図5A~B)、形質導入に与えるその影響を評価した。LV形質導入時のCypAの正の役割(Towers, G.J.ら (2014) Cell Host Microbe 16:10-18)と一致して、CypAのKDはヒトHSPCへのより低い形質導入をもたらした(
図5C)。これらの結果は、CsAがこのCypAとの正のベクター相互作用にも干渉することを考慮すると、HSPCへのLV形質導入を増大させるCsAの能力は恐らく最適以下であるということを意味する。
【0222】
次に、本発明者らは、CsAの天然に存在するアイソフォームであるシクロスポリンH(CsH)(CypAには結合せず、かつ免疫抑制性ではない)(Jeffery, J.R. (1991) Clin Biochem 24:15-21)を試験した。意外なことに、CsHは、臨床的に関連するmPB由来のHSPCを含むヒトおよびマウスHSPCへのLV形質導入をCsAより著しく効率的に増大させた(
図5D~F;
図6M、N)。重要なことに、形質導入におけるこの増大は、in vitroで毒性の一切の徴候なく生じた(
図5G)。CsAとは対照的に、かつCsHの非免疫抑制的特徴と一致して、増殖の遅延はこの場合には観察されなかった(
図5H)。興味深いことに、CsHは、他の2つの早期作用性化合物ラパマイシン(Rapa)(Petrillo, C.ら (2015) Mol Ther 23:352-362;Wang, C.X.ら (2014). Rapamycin relieves lentiviral vector transduction resistance in human and mouse hematopoietic stem cells. Blood)およびプロスタグランジンE2(PGE2;Zonari, E.ら (2017). Effective Ex Vivo Engineering and Expansion of Highly Purified Human Hematopoietic Stem and Progenitor Cell Populations for Gene Therapy. Stem Cell Reports)と相加的であるが、CsAと相加的ではなく(
図5I~J)、このことは、両シクロスポリンが同一のレンチウイルス制限阻止(ただし、RapaおよびPGE2によりそれぞれ標的化される早期事象とは異なる)に対して作用すること示している。重要なことに、CsHは、より原始的なCD34
+CD133
+CD90
+画分を含む全CD34
+亜集団(
図5K)、および臨床グレードのLVで形質導入したSCID再構築mPB由来CD34
+細胞(
図5L~M、10および11)において、亜集団組成および細胞周期状態を変更することなく(
図5N)形質導入効率を有意に増大させた。注目すべきことに、CsHはHSPCへのγマレトロウイルスによる形質導入もまた効率的に増強し(
図5O)、このことは、CsHがγRVベースの遺伝子治療戦略(Ferrua, F.ら (2017) Hum Gene Ther 28:972-981)にも有用でありうることを示している。
【0223】
本発明者らは、他の細胞型へのLV形質導入に与えるCsHの影響についても試験した。CsHは、SIVアクセサリータンパク質Vpx(Berger, G.ら (2011) Nat Protoc 6:806-816)への細胞の事前曝露により回復しうるSAMHD1媒介性LV制限とは無関係に、初代ヒト単球由来マクロファージ(MDM)への形質導入を変更しなかった(
図6A)。逆に、本発明者らは、活性化CD4
+T細胞との関係におけるGFP
+細胞の割合の微増に気付いた(
図6B)。これらのデータは、本発明者らおよび他者がこれらの細胞区画でCsAに関して観察してきたデータとは著しく対照的であり、CsAのCypA関連効果が、それがLV形質導入に関して有しうる他の組込み前の潜在的利益を覆い隠している可能性をさらに強調するものである。実際に、CypA-非依存性P90A LVキャプシド変異体は、CsHと比較して同様の程度またはさらに高い程度まで、CsAから利益を得た(
図6C)。CPSF6-非依存性N74Dキャプシド変異体LVの形質導入レベルはCsHの存在下で増大し(
図6D)、CsHの作用機序からこのキャプシド-宿主相互作用を除外する。注目すべきことに、サル免疫不全ウイルス(SIV)およびγRV由来のベクターは、CypAと相互作用しないが(Fujita, M.ら (2001) J Virol 75:10527-10531;Sokolskaja, E.ら (2006) Curr Opin Microbiol 9:404-408)、CsHだけでなくCsAからも利益を得ており(
図6E)、このことは、両シクロスポリンによるLV制限のCypA-非依存性の軽減をさらに裏付けている。これと一致して、またCsAとは異なり、CsHは、非刺激HSPC(
図6G)で、ならびにインテグラーゼ欠損型LV(IDLV)(
図6H)を使用して、同様にLV形質導入を増大させることが可能であったが、これは恐らく、これらの実験環境におけるCypAとベクターの有益な相互作用の維持に起因する。より早期の組み込み前効果と一致して、CsHは、本発明者らが以前にも報告したように(Petrillo, C.ら (2015) Mol Ther 23:352-362)、CsAの影響を受けない後期-RTと2LTRサークル複製中間体の両方に有意な増大をもたらした(
図6I)。
【0224】
ここまで本研究に使用した全ベクターは、LV遺伝子治療に関連して最も一般的に使用される、VSV-gエンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化したものである(Cronin, J.ら (2005) Curr Gene Ther 5:387-398)。ラパマイシンは、LVのVSV-g媒介性pH依存性エンドサイトーシスを促進することが示されている(Wang, C.X.ら (2014). Rapamycin relieves lentiviral vector transduction resistance in human and mouse hematopoietic stem cells. Blood)。LV粒子のVSV-g媒介性侵入が形質導入におけるCsH誘導性の増大に関与しうるかどうかを評価するために、本発明者らは、形質膜で直接的に受容体媒介性融合により侵入し、かつHSPCを含む幾つかの初代ヒト造血細胞に効率的に形質導入することが以前に記載されている改変ヒヒ内在性レトロウイルスエンベロープ糖タンパク質(BaEV-TR)(Girard-Gagnepain, A.ら (2014) Blood 124:1221-1231)でシュードタイプ化したLVを作製した。興味深いことに、CsHの存在下でのCBおよびmPB由来HSPCへのBaEV-TRシュードタイプLV形質導入に明白な利益は認められなかったが、CsAはこの状況で形質導入を実際に低下させた(
図6J~K)。いずれのシクロスポリンも、標的細胞へのそのエンドサイトーシス媒介性侵入(Nonnenmacher, M.ら (2012) Gene Ther 19:649-658)とは関係なく、アデノ随伴ベクター(AAV)形質導入を改善しなかった(
図6L)。
【0225】
CsHはSCID再構築HSPCにおいてLV形質導入および遺伝子編集効率を増大させる
より臨床的に関連する環境でCsHにより増強される形質導入を評価するために、本発明者らは、ヒトmPB-CD34
+細胞に、ムコ多糖症I型(MPS-I)に罹患した患者を治療するために設計された、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)導入遺伝子を発現する臨床グレードのLV(IDUA-LV)(Visigalli, I.ら (2016) Hum Gene Ther 27:813-829;Visigalli, I.ら (2010) Blood 116:5130-5139)で形質導入した。本発明者らは、CsH、PGE-2またはそれらの組み合わせの存在下/非存在下で形質導入した細胞を、ヒト造血の異種移植片NSGマウスモデルに移植することにより、in vivoでの生着および形質導入効率を追跡した(
図10A)。比較のため、細胞に、現行の標準プロトコルの指示通りに2回形質導入した。対照とCsH/PGE-2処理細胞との間でコロニー形成能に差は観察されなかった(
図10B)。意外なことに、in vitroでの有意に高い遺伝子マーキング(
図11A、B)ならびにin vivoでの長期再構築HSCおよび子孫誘導(
図10C;
図11C、D)を生じるには、CsHの存在下での1回分の単一LV用量で十分であった。これは2回の形質導入から構成される現行基準より優れており、単一形質導入対照群と比較して、in vivoで長期遺伝子マーキングの10倍近い増大を達成した。CsHおよびPGE-2はin vitroでこの環境においても(
図11A、B)、ならびにin vivoでの早期生着段階でも(
図11C)相加的であったが、驚いたことに、この組み合わせによる利益は、マウスの骨髄および脾臓の子孫における長期再構築HSCでは失われた(
図10C;
図11D)。CsH曝露は2ヒット・プロトコルと比較してHSPCの短期生着能を変更しなかったが、シングルヒット対照形質導入細胞を移植したマウスは、移植後8週目の初期に2ヒット・プロトコルと比較してヒトCD45
+細胞のより高い生着を示し(
図10D)、このことはより短期間のex vivo培養はHSPC再構築能を保存するという見解(Zonari, E.ら (2017) Stem Cell Reports 8:977-990)と一致していた。CsH処理細胞との関係におけるかかる利益の欠如は、レンチウイルスによる遺伝子導入がp53シグナル伝達カスケードのベクター媒介性誘発(Piras, F.ら (2017) EMBO Mol Med 9:1198-1211)による用量依存的な様式でex vivo HSPC回復およびその短期in vivo生着に影響を与えることを本発明者らが近年示したように、増強された形質導入と関連している可能性がある。これと一致して、CsHのみへのmPB-CD34
+細胞の曝露は、対照細胞と比較して早期HSPC生着に影響を与えなかった(
図10E)。重要なことには、より短期間のex vivo培養と関連するより高い生着は、CsHの存在下で形質導入した細胞に関してもマウスのBMおよび脾臓において長期的に回復した(
図10F;
図11E、F)。
【0226】
ドナーDNAテンプレートの最適とは言えない有効性(アベイラビリティー)は、ヒトHSPCにおける相同組換えによる遺伝子編集効率の低さの一因でありうる(Naldini, L. (2011) Nat Rev Genet 12:301-315)。IDLVおよびAAVは、遺伝子編集プロトコルにおけるドナーDNA送達の際に現在最もよく使用されているベクタープラットフォームである(Naldini, L. (2015) Nature 526:351-360)。CsHがヒトHSPCへのIDLV形質導入を増強したため、本発明者らは、IDLV媒介性HSPC遺伝子編集の効率に対するその効果を試験した(
図10G)。意外なことに、CsHの存在下でのドナーIDLVの送達は、処理の3日後に造血亜集団の相対組成を変更することなく(
図11G)、ヒトHSPCにおける遺伝子編集効率を2倍増大させた(
図10H)。この増大は原始CD34
+CD133
+CD90
+画分でも生じ(
図10H)、このことは、CsHがHSPCの長期再構築画分における編集に好都合であることを示している。実際に、CsHの存在下で編集された細胞はNSGマウスに効率的に生着し、また有意により高いターゲティング効率がマウスの末梢血ならびに骨髄において長期間維持された(
図10I~K)。重要なことに、遺伝子ターゲティング効率における増大が、骨髄のHSPC由来の子孫全てにおいて確認された(
図11H、I)。まとめると、これらの結果は、CsHをここまで記載したHSPC遺伝子導入および編集の最も良く機能する促進物質として同定するものであり、また治療的HSPC遺伝子工学におけるその使用を強く支持するものである。
【0227】
シクロスポリンはVSV-g依存性レンチウイルスベクター侵入に対するIFN誘導性阻止に対抗する
CsHがHSPCにおいて遺伝子導入および編集を増強するその方法に関して機構的洞察を得る目的で、本発明者らは、CsAがヒトIFNα刺激単球THP-1細胞への形質導入を改善すると報告されたという観察結果(Bulli, L.ら (2016) J Virol 90:7469-7480)を利用した。本発明者らは先ず、CsAがTHP-1細胞へのVSV-gシュードタイプLV形質導入のIFNα-誘導阻害を部分的にレスキューすることを確認した(
図7A)。比較すると、CsHはIFNα阻害を完全にレスキューしており(
図7A)、このことは、CsHがI型IFN媒介性抗ウイルス阻止を軽減する点でより強力であることを示している。さらに、感染のレスキューは、カルシニューリン阻害を介して媒介されるCsAの免疫抑制作用に依存しない(Petrillo, C.ら (2015) Mol Ther 23:352-362)。CsHの最もよく特徴付けられた宿主標的は、好中球遊走および抗菌防御に関与するホルミルペプチド受容体1(FPR1)である(de Paulis, A.ら (1996) J Allergy Clin Immunol 98:152-164;Prevete, N.ら (2015) Pharmacol Res 102:184-191)。しかし、IFNはFPR1を枯渇させたTHP-1細胞への形質導入を抑制し続けたため(
図12A)、FPR1はシクロスポリンにより阻害されるIFNα媒介性制限に関与していない。興味深いことに、I型IFN刺激遺伝子(ISG)のアップレギュレーション(
図12B、C)から明らかなように、両細胞はIFNαに同様に応答するにもかかわらず、IFNαまたはシクロスポリン処理のいずれも慢性骨髄性白血病細胞株K562へのLV形質導入に影響を与えなかったため(
図7B)、この挙動はTHP-1細胞株に特異的なものであった。このことは、細胞型特異的ISGおよび/またはコファクターが、THP-1およびHSPCへのシクロスポリン感受性形質導入に関与していることを示している。また両シクロスポリンは、IFNαで前処理したヒトHSPCへのLV形質導入を同様にレスキューし、ここでもやはりCsHはCsAと比較してより強力な効果を有していた(
図7C;
図12D)。
【0228】
MLV由来の両種指向性エンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化したベクターは、I型IFN媒介性阻害に対して非感受性のままであり(
図7D)、このことは、制限感受性がウイルスエンベロープの影響を受けることを示している。エンベロープ依存性の作用機序と一致して、形質膜で直接的に受容体媒介性融合を介して侵入する、改変ヒヒ内在性レトロウイルスエンベロープ糖タンパク質(BaEV-TR)(Girard-Gagnepain, A.ら (2014) Blood 124:1221-1231)でシュードタイプ化したLVは、THP-1細胞においてI型IFNおよびシクロスポリンの両方に対して非感受性のままであった(
図7E)。重要なことには、BaEV-TRシュードタイプLVによる形質導入は、HSPCでのシクロスポリン処理により増強されず、またIFNαに対する感受性が低かった(
図7F)。まとめると、これらの結果は、無処理HSPCにおいて同様に活性でありかつシクロスポリンに感受性を示す、THP-1細胞へのVSV-g媒介性LV侵入に対するI型IFN誘導性阻止と一致している。
【0229】
CsHはヒトおよびマウスHSPCならびに初代ヒトT細胞における遺伝子編集効率を増大させる
ヒトHSPCにおける効率的な遺伝子編集へのハードルの1つは、ドナーDNAテンプレートの最適とは言えない有効性にあるかもしれない(Naldini, L. (2011) Nat Rev Genet 12:301-315)。IDLVおよびアデノ随伴ベクター(AAV)は、遺伝子編集プロトコルにおけるドナーDNA送達手段のための、現在最も使用されているベクタープラットフォームである(Naldini, L. (2015) Nature 526:351-360)。ヒトおよびマウスHSPCにおけるIDLV形質導入効率も同様に増大させるCsHの能力を考慮して、本発明者らは、HSPC遺伝子編集アプローチとの関連においてその効果を試験した。意外なことに、CsHの存在下でのドナーIDLVの送達は、マウスおよびヒトHSPCの両方において遺伝子ターゲティング効率を2倍増大させた(
図8A~B)。この増大は、より原始的なCD34
+CD133
+CD90
+画分を含む全亜集団で生じ、このことは、CsHが、相同組換え(HR)媒介遺伝子ターゲティングに最も不応性を示すことが報告(Genovese, P.ら (2014) Nature 510:235-240)されているHSPCの長期再構築画分における編集にも好都合でありうることを示している。処理の3日後に造血亜集団の相対組成に有意な変化は観察されず、このことは、遺伝子編集手法中のCsHの包含が、より原始的な細胞の生存および増殖に悪影響を与えなかったことを示している(
図8B、右パネル)。さらに、HSPC遺伝子編集中のCsHの使用は、現行の標準プロトコルに匹敵する遺伝子編集のレベルの達成をより少ないIDLVで可能にするかもしれない。注目すべきことに、CsHは、ドナーIDLVの量を減少させた場合でも、ヒト初代CD3
+T細胞における遺伝子ターゲティング効率を改善する可能性がある。
【0230】
考察
LV形質導入に対するHSPCの許容性を改善することが、幾つかの遺伝病の治療選択肢として遺伝子治療を広範に実施する上で依然として重要である。ヒトHSPCにおけるLV形質導入効率を改善するための本発明者らの取り組みは、この環境における形質導入の強力な促進物質としてのシクロスポリンA(CsA)の同定につながった(Petrillo, C.ら (2015) Mol Ther 23:352-362)。ここで本発明者らは、骨髄(BM)由来のHSPCおよび臨床グレードのLVを使用して臨床的培養条件でのその有効性および安全性を示し、またこれらの化合物がヒトHSPCへのLV形質導入を改善するその機序の分子キャラクタリゼーションを基に、LV形質導入のさらに一層強力な促進物質としてシクロスポリンH(CsH)を同定した。
【0231】
本発明者らはここに、CsAがLV形質導入を安全に改善するだけでなく、ヒト造血再構築のNSG異種移植片モデルにおけるヒトBM由来HSPCのより良好な生着を可能にすることを示す。この利益は、静止状態とより短期間のex vivo培養の両方が他の環境においてHSPC生着を改善することが示されている(Glimm, H.ら (2000) Blood 96:4185-4193;Kallinikou, K.ら (2012) Br J Haematol 158:778-787;Larochelle, A.ら (2012) Blood 119:1848-1855)ため、HSPC増殖を低減して培養時により原始的な細胞をより多く保存するその能力に関係している可能性が高い。CsAは、シクロフィリンD依存性酸化ストレスを低下させるその能力を通じてマウスLin-およびヒトCB-由来CD34+細胞の生着を改善することも示されている(Mantel, C.R.ら (2015) Cell 161:1553-1565)。本発明者らは、CB由来のHSPCを使用した本発明者らの以前の研究で同様の利益を観察したことがないが(Petrillo, C.ら (2015) Mol Ther 23:352-362)、これは恐らく、本発明者らが、Mantelらが実施したようなCsAの厳密な存在下で細胞を単離および培養しなかったという事実によるものである。より静止したBM由来CD34+細胞は、環境酸化ストレスに対する感受性がより低い可能性があり、これはex vivo 形質導入プロセス中のみの、より短期間の曝露に関する同様のCsAの利点を反映している。それにも関わらず、本発明者らはBM由来HSPCにおけるROSレベルに与えるCsAの明白な影響を一切検出できなかったので、さらなる機序が同様にこのより短期間の曝露環境に関与している可能性がある。
【0232】
CsAの免疫抑制機能に関連する毒性の懸念から、数多くの非免疫抑制性シクロスポリン誘導体が開発され、また幾つかの用途に関して試験されている(Peel, M.ら (2013) Bioorg Med Chem Lett 23:4485-4492)。それにも関わらず、これらの大半は依然として、本発明者らがHSPCにおける効率的な形質導入にも重要であると本明細書中で実証した宿主因子CypAと同様に結合する。非免疫抑制性かつCypA-非依存性のシクロスポリンが最適であろうという考えに従って、本発明者らは、CsAの天然に存在するアイソフォームであるCsH(Jeffery, J.R. (1991) Clin Biochem 24:15-21)を、CsAと比較してLV形質導入のより一層強力でありかつ毒性が低い促進物質として同定した。CsHは、本発明者らの知る限り、CsHの存在下での1回の形質導入が、長期再構築HSPCの生着の変更を伴わない形質導入効率という点で標準的なダブルヒットプロトコルさえ凌ぐという本発明者らの観察結果から明らかなように、これまでに記載されたHSPC遺伝子導入の最も効率的な促進物質である。CsHを使用する場合にベクター用量を低減するためのさらなる最適化により、高度な遺伝子マーキングならびに改善されたHSPC生着が可能となるはずである。これは特に、高レベルの遺伝子マーキングが必要とされるがそれを達成するのは困難である遺伝子治療環境、例えば、大きくかつ複雑なヒトβ-グロビン遺伝子発現カセットが臨床規模のLV製造を制限する異常ヘモグロビン症と関連があるだろう。CsH媒介性効果の特徴付けにより、本発明者らはヒトHSPCで(恐らくは、より広範に他のヒト造血細胞でも抗ウイルス応答を誘発する際に)生じるLV制限阻止をより深く理解した。CsHは、キャプシド非依存性を含む幾つかの特徴をCsAと共有するが、幾らかの重要な違いも提示する。特に、インテグラーゼ欠損型LV(IDLV)はCD34+HSPCにおいてCsHから利益を得ており、またCsHは、本発明者らがCsAに関して以前に観察したもの(Petrillo, C.ら (2015) Mol Ther 23:352-362)とは著しく対照的に、静止状態のHSPCならびに初代ヒトT細胞においてもLV形質導入を増大させることが可能であった。これらの違いは、CsHを使用する場合には保存されるベクター-CypA相互作用に対してCsAが有する負の影響に関係している可能性が高い。CypAは、ウイルスキャプシド(CA)との相互作用を介して、ウイルスの脱殻、核移行および場合によってはさらに組み込みの過程の最中にHIV-1により利用される宿主因子である(Towers, G.J.ら (2014) Cell Host Microbe 16:10-18)。HIV-1研究との関連において、CsAは、それがCypAとウイルスキャプシドの間の相互作用を妨害するために、レンチウイルス感染に負の影響を与えることがよく知られている(Sokolskaja, E.ら (2006) Curr Opin Microbiol 9:404-408;Towers, G.J.ら (2014) Cell Host Microbe 16:10-18)。これらの前提に基づくと、CsAがヒトHSPCへのLV形質導入に対して有する正の効果は、CypA-CA系に対するその負の干渉により相殺される可能性がある。この仮説と一致して、CypA-非依存性LVは、HSPCにおいてCsAの存在下で早期の利益も示した(Petrillo, C.ら (2015) Mol Ther 23:352-362)。
【0233】
THP-1においてIFNにより誘導される抗ウイルス状態を克服するCsAの能力が近年報告された(Bulli, L.ら (2016) J Virol 90:7469-7480)が、分子機序は曖昧なままである。本発明者らはここで、CsA、およびより具体的にはCsHが、ヒトHSPCとの関連においてもI型IFN誘導性LV制限を克服することを示す。定常状態ならびにI型IFN刺激後の両方の時点でLV制限を克服するシクロスポリンの能力は、ベクターをシュードタイプ化するために使用するエンベロープ糖タンパク質のタイプに依存すると思われる。VSV-gシュードタイプLVはシクロスポリンから利益を得られたが、ヒヒ内在性レトロウイルス由来の改変エンベロープ糖タンパク質(BaEVTR)によるLVのシュードタイピングは、ベクターをCsAとCsHの両方の有益な効果に対して非感受性にした。興味深いことに、BaEVTRエンベロープ糖タンパク質によるLVのシュードタイピングは、VSV-gシュードタイプベクターと比較して、非刺激HSPCを含むヒトCD34+細胞におけるLV形質導入効率を有意に改善することが示されている(Girard-Gagnepain, A.ら (2014) Blood 124:1221-1231)。本明細書中に提示した結果に基づき、かつ非刺激HSPCにおいても同様のLV形質導入に与えるCsHの正の影響に留意すると、この違いもまた、少なくとも部分的には、ヒトHSPCにおけるシクロスポリン感受性制限阻止に対するVSV-gシュードタイプLVの感受性によって説明することができる。
【0234】
まとめると、本発明者らの結果は、シクロスポリンがLV生活環の早期ならびにベクター組み込みの段階の両方で作用すること、またCsAの早期効果は有益なLVキャプシド-CypA相互作用を妨害する(代わりにCsHを使用した場合は保存される)その能力により覆い隠される可能性があることを示している。両シクロスポリンは、共にVSV-g媒介性侵入の段階で作用することが示唆されている2つの他の早期作用性化合物ラパマイシンおよびPGE2(Wang, C.X.ら (2014). Rapamycin relieves lentiviral vector transduction resistance in human and mouse hematopoietic stem cells. Blood;Zonari, E.ら (2017). Efficient Ex Vivo Engineering and Expansion of Highly Purified Human Hematopoietic Stem and Progenitor Cell Populations for Gene Therapy. Stem Cell Reports)と相加的であるため、エンドサイトーシス経路の関与は不明瞭なままである。さらに、AAV6ベクター形質導入はこれらの化合物により改善されなかったため、エンドサイトーシスによる侵入のみでは、ベクターはHSPCにおいてシクロスポリンから利益を得ることができない。CsAおよびCsHは互いに相加的ではなく、このことは、両アイソフォームが、HSPCへのLV形質導入を制限する同一経路(複数可)に作用することを示している。さらに、2つのシクロスポリンを組み合わせるとCsA単独と同様の形質導入レベルが得られたため、キャプシド-CypA相互作用に与えるCsAの負の影響は優位であると思われ、このことは、HSPCへのLV形質導入時のこの宿主-ベクター相互作用の重要性をさらに強調している。
【0235】
CsHの最も特徴付けられた宿主標的は、ホルミルペプチド受容体1(FPR1)(de Paulis, A.ら (1996) J Allergy Clin Immunol 98:152-164)である。FPR1は先天性免疫応答を調節するN-ホルミルペプチド受容体(FPR)ファミリーのパターン認識受容体(PRR)に属している(Prevete, N.ら (2015) Pharmacol Res 102:184-191)。FPR発現は、当初は免疫細胞、その後は非造血細胞およびある特定の組織に関して記載され、またそれらは近年、神経幹細胞分化に関与することが示された(Zhang, L.ら (2017) Sci Rep 7:206)。これまでHSPC生物学におけるFRP1の関与に関する報告は無いが、それが誘発しうるシグナル伝達カスケードの一部、例えばPI3K-AKTシグナル伝達は、HSPCにおいて重要な役割を果たしている(Lechman, E.R.ら (2012) Cell Stem Cell 11:799-811)。しかし、FPR1は、HSPCにおけるLV制限のシクロスポリン媒介性の軽減には関与していない。
【0236】
そのより広範な細胞範囲、およびIDLV形質導入効率も増大させる能力を踏まえると、CsHは恐らく、HSPCおよび初代ヒトCD4+T細胞における遺伝子ターゲティングの改善、ならびに効率の低下を伴わないIDLV用量の減量を可能にするだろう。これらの結果から、IDLVベースの編集プラットフォームは、AAVまたはオリゴヌクレオチド媒介性ドナーDNA送達に基づく他の方法(Schiroli, G.ら (2017) Sci Transl Med 9:411)の競合的代替手段となる。特に、患者はこの遺伝子治療ベクターに対して既存の適応免疫を有することが多いため、AAV曝露HSPCの免疫原性に関する懸念がある。IDLVベースの編集プラットフォームと組み合わせたCsHは、この一部の識別可能な患者に対して解決策を提供し、免疫療法および単一遺伝子性造血器疾患の遺伝子修正(Naldini, L. (2015) Nature 526:351-360)を含む、広範囲にわたる最先端の治療的アプローチに大いに役立つ可能性がある。興味深いことに、CsHは、恐らくはその静止状態または遅い周期のために、拘束された前駆細胞よりも遺伝子ターゲティング手法の細胞傷害性に対して感受性が高くかつHDRを起こす能力が低いことが以前に示された(Genovese, P.ら (2014) Nature 510:235-240)、特により原始的なHSCにおいてターゲティング効率を増大させるようであった。遺伝子送達に対する許容性の増大により、はるかに少ないドナーベクター用量の使用が可能となり、それによって遺伝子ターゲティング手法に応答した増殖停止およびアポトーシスもまた減少させることができる。本発明者らの改善されたCsHベースの遺伝子編集プロトコルにより、標的化HSPCの潜在的制限量を増大させて、ヒトにおける特定の遺伝子欠陥の有効かつ安全な修正を可能にすることができるだろう。さらに、ex vivo HSC増殖のための改善された手法が利用できるようになったため、ドナー送達の増強も含めたコンビナトリアルアプローチにより遺伝子標的化細胞の全体的な収率が増大するかもしれない。実際、PGE2は既に、ex vivoでHSPCを保存するためにHSPC遺伝子編集環境に使用されている(Genovese, P.ら (2014) Nature 510:235-240)。CsHの添加は、遺伝子編集細胞の全体的な収率をさらに改善する可能性を有している。さらに、CsHとPGE2との組み合わせもまた、より標準的な遺伝子治療プロトコルとの関連において、治療用ベクターが特に非効率的であるかまたは高コピー数が治療効果のために必要とされる環境での臨床転帰を有意に改善する可能性を有している。
【0237】
概して、本発明者らは、初代ヒトHSPCおよびT細胞において基礎的ならびにI型IFN誘導性LV制限の両方により効率的かつ安全に対抗することができる新規シクロスポリンを同定した。シクロスポリンがLV形質導入およびドナー送達を改善するその機序を明らかにすることは、遺伝子治療および編集への適用にとって重要な意味を持つ。さらに、シクロスポリンはより広範な細胞型においてI型IFN誘導性の抗ウイルス効果にも対抗すると思われる、という本発明者らの知見は、HIV-1感染を抑制することができる自然免疫機構のより良い理解に貢献するかもしれない。
【0238】
上記明細書で言及した全ての刊行物は、参照により本明細書中に組み込まれるものとする。開示した本発明の使用、方法、細胞および組成物の様々な改変および変更は、本発明の範囲および趣旨を逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を特定の好適な実施形態と関連付けて開示してきたが、特許請求の範囲に記載した本発明は、かかる特定の実施形態に過度に限定されるべきではないと理解されたい。実際には、本発明を実施するための開示した様式の、当業者には自明である様々な改変は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあるものとする。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] ウイルスベクターによる細胞の単離集団の形質導入の効率を増大させるため、および/またはウイルスベクターにより形質導入する場合に細胞の単離集団の遺伝子編集の効率を増大させるための、シクロスポリンH(CsH)またはその誘導体の使用。
[2] 前記細胞が、以下(a)または(b)、すなわち
(a)造血幹細胞および/もしくは造血前駆細胞、または
(b)T細胞、場合によりCD4+および/もしくはCD3+T細胞
である、実施形態1記載の使用。
[3] 前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、好ましくはレンチウイルスベクターである、実施形態1または2記載の使用。
[4] 前記ベクターにより形質導入される細胞の割合が増大する、および/または前記ベクターの細胞当たりのコピー数が増大する、実施形態1~3のいずれかに記載の使用。
[5] 前記のCsHまたはその誘導体が約1~50μMの濃度である、実施形態1~4のいずれかに記載の使用。
[6] 前記の細胞の集団を、ラパマイシンまたはその誘導体と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる、実施形態1~5のいずれかに記載の使用。
[7] 前記の細胞の集団を、プロスタグランジンE2またはその誘導体と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる、好ましくは前記の細胞の集団を、16-16ジメチルプロスタグランジンE2と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる、実施形態1~6のいずれかに記載の使用。
[8] 細胞集団に形質導入する方法であって、以下のステップ(a)および(b)、すなわち
(a)細胞集団をシクロスポリンH(CsH)またはその誘導体と接触させるステップ、および
(b)該細胞集団にウイルスベクターで形質導入するステップ
を含む、上記方法。
[9] 前記ステップ(a)および(b)をin vitroまたはex vivoで実施する、実施形態8記載の方法。
[10] 前記細胞が、以下(a)または(b)、すなわち
(a)造血幹細胞および/もしくは造血前駆細胞、または
(b)T細胞、場合によりCD4+および/もしくはCD3+T細胞
である、実施形態8または9記載の方法。
[11] 前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、好ましくはレンチウイルスベクターである、実施形態8~10のいずれかに記載の方法。
[12] 前記ベクターにより形質導入される細胞の割合が増大する、および/または前記ベクターの細胞当たりのコピー数が増大する、実施形態8~11のいずれかに記載の方法。
[13] 前記のCsHまたはその誘導体が約1~50μMの濃度である、実施形態8~12のいずれかに記載の方法。
[14] 前記細胞集団を、ラパマイシンまたはその誘導体と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる、実施形態8~13のいずれかに記載の方法。
[15] 前記細胞集団を、プロスタグランジンE2またはその誘導体と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる、好ましくは前記細胞集団を、16-16ジメチルプロスタグランジンE2と組み合わせたCsHまたはその誘導体と接触させる、実施形態8~14のいずれかに記載の方法。
[16] 造血幹細胞および/または造血前駆細胞に関して前記集団を富化するさらなるステップを含む、実施形態8~15のいずれかに記載の方法。
[17] 遺伝子治療の方法であって、以下のステップ(a)および(b)、すなわち
(a)実施形態8~16のいずれかに記載の方法に従って細胞集団に形質導入するステップ、および
(b)形質導入細胞を対象に投与するステップ
を含む、上記方法。
[18] 前記形質導入細胞を、自家幹細胞移植法または同種幹細胞移植法の一環として対象に投与する、実施形態17記載の方法。
[19] 実施形態8~16のいずれかに記載の方法に従って調製した細胞集団。
[20] 実施形態19記載の細胞集団を含む、医薬組成物。
[21] 治療に使用するための、実施形態19記載の細胞集団。
[22] 細胞集団を、自家幹細胞移植法または同種幹細胞移植法の一環として投与する、実施形態21に従って使用するための前記細胞集団。
[23] 遺伝子治療に使用するためのシクロスポリンH(CsH)またはその誘導体。
【配列表】