IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 279/02 20060101AFI20240227BHJP
   C08F 285/00 20060101ALI20240227BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240227BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240227BHJP
   B29C 64/124 20170101ALI20240227BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20240227BHJP
【FI】
C08F279/02
C08F285/00
C08F290/06
C08F2/44 C
B29C64/124
B29C64/314
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020007357
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2020128526
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2019021783
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】和田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】平谷 卓之
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/020732(WO,A1)
【文献】特開2009-062510(JP,A)
【文献】特開2006-002110(JP,A)
【文献】国際公開第2006/057218(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143559(WO,A1)
【文献】特開2015-063666(JP,A)
【文献】特開2018-131535(JP,A)
【文献】特開2019-156932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00 -299/08
C08F 2/00 - 2/60
B29C 64/124
B29C 64/314
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):単官能2-(アリルオキシメチル)アクリル酸またはそのエステル、
成分(B):イソシアヌレート環を有する多官能ラジカル重合性化合物
成分(D):ゴム粒子、
成分(E):ラジカル重合開始剤、
を含有する硬化性樹脂組成物であって
前記成分(A)は、下記一般式(1)で示され、
【化1】
[一般式(1)中、Rは水素原子または炭化水素基である。前記炭化水素基はエーテル結合を有していてもよく、前記炭化水素基は置換基を有していてもよい。]
前記成分(B)は、下記一般式(2)で示され、
【化2】
[一般式(2)中、X1、X2、X3のうち2つ以上がそれぞれ独立にラジカル重合性基である。
前記硬化性樹脂組成物における前記成分(A)と前記成分(B)と前記成分(A)及び前記成分(B)とは異なるラジカル重合性化合物である成分(C)の合計が100質量部であるとき、前記成分(B)が20質量部以上80質量部以下であり、且つ、前記成分(C)が0質量部以上30質量部以下であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記Rは、炭素数1以上20以下の飽和炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)は、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル、または2-(アリルオキシメチル)アクリル酸エチルであることを特徴とする請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(D)は、コアシェル構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記コアシェル構造のシェル層は、前記コアシェル構造のコア部分の表面にグラフト重合されていることを特徴とする請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記成分(E)は、光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記成分(A)と前記成分(B)と前記成分(C)の合計が100質量部であるとき、前記硬化性樹脂組成物が含有する前記成分(C)が15質量部以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記成分(A)と前記成分(B)と前記成分(C)の合計が100質量部であるとき、前記成分(B)が30質量部以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなることを特徴とする硬化物。
【請求項10】
スライスデータに基づいて硬化性樹脂組成物を層毎に光硬化させて硬化物を造形する工程を有する硬化物の製造方法であって、
前記硬化性樹脂組成物が、請求項1乃至のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物であることを特徴とする硬化物の製造方法。
【請求項11】
さらに、前記硬化物に熱処理を施す工程を有することを特徴とする請求項10に記載の硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、硬化物及び硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液状の硬化性樹脂を紫外線などのエネルギー活性な光によって層毎に硬化させ、それを積層していくことにより、立体造形物を得る光学的立体造形法が鋭意研究されている。光学的立体造形物は形状確認のための試作(ラピッドプロトタイピング)のみならず、型の作製(ラピッドツーリング)、及びサービス部品(実製品の作製、ラピッドマニュファクチャリング)へ展開されるようになってきている。
これに伴い、立体造形物に対する材料特性(耐衝撃性や耐熱性、曲げ弾性率など)への要求は一層高度なものとなってきており、昨今ではエンジニアリングプラスチックと同等の物性が求められてきている。
硬化性樹脂による立体造形物はある程度の耐熱性と耐衝撃性、特に高い耐衝撃性を持つことが求められるようになった。高い耐衝撃性と、耐熱性の両立のために特許文献1では特定のラジカル重合性化合物と、多官能ラジカル重合性化合物を含有する硬化性樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2では、ラジカル重合性化合物とゴム粒子による硬化性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-040585号公報
【文献】特開2015-110772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で開示される硬化性樹脂組成物から、高い耐熱性を示す硬化物は得られているものの、十分な耐衝撃性を示す硬化物を得ることはできていない。
本発明は、耐熱性、耐衝撃性、及び曲げ弾性率に優れた硬化物を得ることのできる、硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、
成分(A):単官能2-(アリルオキシメチル)アクリル酸またはそのエステル、
成分(B):イソシアヌレート環を有する多官能ラジカル重合性化合物
成分(D):ゴム粒子、
成分(E):ラジカル重合開始剤、
を含有する硬化性樹脂組成物であって
前記成分(A)は、下記一般式(1)で示され、
【0006】
【化1】
[一般式(1)中、Rは水素原子または炭化水素基である。前記炭化水素基はエーテル結合を有していてもよく、前記炭化水素基は置換基を有していてもよい。]
前記成分(B)は、下記一般式(2)で示され、
【0007】
【化2】
[一般式(2)中、X1、X2、X3のうち2つ以上がそれぞれ独立にラジカル重合性基である。
前記硬化性樹脂組成物における前記成分(A)と前記成分(B)と前記成分(A)及び前記成分(B)とは異なるラジカル重合性化合物である成分(C)の合計が100質量部であるとき、前記成分(B)が20質量部以上80質量部以下であり、且つ、前記成分(C)が0質量部以上30質量部以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性、耐衝撃性、及び曲げ弾性率に優れた硬化物を形成可能であり、立体造形に好適な硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、あくまでも本発明の実施形態の一つであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物が含有する成分(A)乃至(E)について、詳細を以下に説明する。
<成分(A):単官能2-(アリルオキシメチル)アクリル酸またはそのエステル(A)>
成分(A)である単官能2-(アリルオキシメチル)アクリル酸またはそのエステルは下記一般式(1)で示される。
【0011】
【化3】
【0012】
一般式(1)中、Rは水素原子または炭化水素基である。前記炭化水素基はエーテル結合を有していてもよく、前記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
【0013】
Rで示される炭化水素基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、トリメチルシリル基等が挙げられる。また、炭化水素基は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、また、環状構造を有していても良い。
【0014】
炭化水素基としては、例えば鎖状飽和炭化水素基、炭素数2以上の鎖状不飽和炭化水素基、炭素数3以上の脂環式炭化水素基、炭素数6以上の芳香族炭化水素基等が挙げられる。好ましくは、炭素数1以上20以下の鎖状飽和炭化水素基、炭素数2以上20以下の鎖状不飽和炭化水素基、炭素数3以上20以下の脂環式炭化水素基、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基であり、好ましくは炭素数1以上20以下の鎖状飽和炭化水素基、より好ましくは炭素数1以上10以下の飽和炭化水素である。
【0015】
鎖状飽和炭化水素基としては、直鎖状、或いは分岐状の炭化水素基であればよく、特に限定されない。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、s-ペンチル、t-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、s-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、s-オクチル、t-オクチル、2-エチルヘキシル、カプリル、ノニル、デシル、ウンデシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、ノナデシル、エイコシル、セリル、メリシル等の基が好適なものとして挙げられる。また、鎖状飽和炭化水素基は、置換基として芳香族基を有していてもよく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等の基が好適なものとして挙げられる。
【0016】
鎖状不飽和炭化水素基としては、芳香族性でない炭素-炭素不飽和結合を少なくとも1つ含む直鎖状、或いは分岐状の炭化水素基であればよく、特に限定されない。例えば、クロチル、1,1-ジメチル-2-プロペニル、2-メチル-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、3-メチル-3-ブテニル、2-メチル-3-ブテニル、オレイル、リノール、リノレン、等の基が好適なものとして挙げられる。
【0017】
脂環式炭化水素基としては、3員環以上の飽和環状構造、あるいは芳香族性でない不飽和環状構造を含む炭化水素基であればよく、特に限定されない。例えばシクロペンチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、4-メチルシクロヘキシル、4-t-ブチルシクロヘキシル、トリシクロデカニル、イソボルニル、アダマンチル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル等の基が好適なものとして挙げられる。
【0018】
芳香族炭化水素基としては、6員環以上の芳香族性の環状構造を含む炭化水素基であればよく、特に限定されないが、例えばフェニル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、4-t-ブチルフェニル、ジフェニルメチル、ジフェニルエチル、トリフェニルメチル、シンナミル、ナフチル、アントラニル等の基が好適なものとして挙げられる。
【0019】
エーテル結合を含む炭化水素基としては、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基を構成する少なくとも1つの炭素-炭素結合に酸素原子が挿入した構造のものであればよく、特に限定されない。例えば、メトキシエチル、メトキシエトキシエチル、メトキシエトシキエトキシエチル、3-メトキシブチル、エトキシエチル、エトキシエトキシエチル等の鎖状エーテル基:シクロペントキシエチル、シクロヘキシルオキシエチル、シクロペントキシエトキシエチル、シクロヘキシルオキシエトキシエチル、ジシクロペンテニルオキシエチル等の脂環式炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つ基:フェノキシエチル、フェノキシエトキシエチル等の芳香族炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つ基:グリシジル、β-メチルグリシジル、β-エチルグリシジル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、2-オキセタンメチル、3-メチル-3-オキセタンメチル、3-エチル-3-オキタンメチル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロフルフリル、テトラヒドロピラニル、ジオキサゾラニル、ジオキサニル等の環状エーテル基が好適なものとして挙げられる。
【0020】
成分(A)としては、例えば、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸エチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸n-プロピル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸i-プロピル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸n-ペンチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸s-ペンチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸t-ペンチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ネオペンチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸n-ヘキシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸s-ヘキシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸n-ヘプチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸n-オクチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸s-オクチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸t-オクチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸2-エチルヘキシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸カプリル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ノニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸デシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ウンデシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ラウリル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸トリデシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ミリスチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ペンタデシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸セチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ヘプタデシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ステアリル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ノナデシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸エイコシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸セリル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メリシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸クロチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸1,1-ジメチル-2-プロペニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸2-メチルブテニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸3-メチル-2-ブテニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸3-メチル-3-ブテニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸2-メチル-3-ブテニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸オレイル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸リノール、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸リノレン、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロペンチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロペンチルメチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシルメチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸4-メチルシクロヘキシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸トリシクロデカニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸イソボルニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸アダマンチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ジシクロペンタニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ジシクロペンテニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸フェニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルフェニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ジメチルフェニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸トリメチルフェニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸4-t-ブチルフェニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ベンジル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ジフェニルメチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ジフェニルエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸トリフェニルメチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シンナミル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ナフチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸アントラニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メトキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メトキシエトキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メトキシエトシキエトキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸3-メトキシブチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸エトキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸エトキシエトキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロペントキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシルオキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロペントキシエトキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシルオキシエトキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸フェノキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸フェノキシエトキシエチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸グリシジル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸β-メチルグリシジル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸β-エチルグリシジル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸2-オキセタンメチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸3-メチル-3-オキセタンメチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸3-エチル-3-オキセタンメチル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸テトラヒドロフラニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸テトラヒドロピラニル、ジオキサゾラニル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸ジオキサニル等を挙げることができる。
【0021】
成分(A)としては、市販品を用いることができ、例えば、AOMA(株式会社日本触媒製)などが挙げられる。
【0022】
成分(A)は、エステル構造中のカルボニル基のα位の炭素-炭素二重結合がメタクリル酸エステルよりも立体的に込み合った構造を有するにもかかわらず、アクリル酸エステルと同等以上のラジカル重合活性を有する。成分(A)は、α位の炭素-炭素二重結合と末端の二重結合とが、環化しながら重合し、両隣にメチレン基を配した5員環エーテル構造を繰り返し単位として有する主鎖骨格を形成する。また、成分(A)を含有する重合性組成物から得られる重合体は、重合によって生じる特異な主鎖骨格により、強靭な機械的性質に優れる特徴を有する。
【0023】
成分(A)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対して、好ましくは20質量部以上80質量部以下、より好ましくは20質量部以上75質量部以下、さらに好ましくは20質量部以上70質量部以下である。成分(A)が20質量部以上であれば、硬化物の耐衝撃性が十分となり、80質量部以下であれば、硬化物の耐熱性が十分となる。
【0024】
<成分(B):イソシアヌレート環を有する多官能ラジカル重合性化合物>
成分(B)であるイソシアヌレート環を有する多官能ラジカル重合性化合物は下記一般式(2)で示される。
【0025】
【化4】
【0026】
一般式(2)中、X1、X2、X3のうち2つ以上が、それぞれ独立にラジカル重合性基である。好ましくは、X1、X2、X3が、それぞれ独立にラジカル重合性基である。ラジカル重合性基としては、例えば、アリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基等が挙げられる。ここで、本明細書において「(メタ)アクリロイル(基)」とはアクリロイル(基)またはメタクリロイル(基)を意味する。X1、X2、X3のうち2つがラジカル重合性基である場合、残りの一つとしては、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホニル基等の縮合性基、フェニル基等の芳香族基、等が挙げられる。
【0027】
成分(B)としては、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルイソシアヌレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸ジアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ε-カプロラクトン変性ビス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレートを好適に用いることができる。成分(B)としては市販品を用いることができる。例えば、A-9300(新中村化学工業株式会社製)、A-9200(新中村化学工業株式会社製)、A-9300-1CL(新中村化学工業株式会社製)、FA-731A(日立化成株式会社製)、TAIC(TM)(三菱ケミカル株式会社製)、TMAIC(TM)(三菱ケミカル株式会社製)などが挙げられる。
【0028】
本発明の効果発現のために、硬化性樹脂組成物中の成分(B)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対して、20質量部以上80質量部以下であり、好ましくは25質量部以上80質量部以下、より好ましくは30質量部以上80質量部以下である。成分(B)が20質量部未満である場合、硬化物の架橋密度が不足するため、硬化物は十分な耐熱性が得られない可能性がある。さらに、硬化性樹脂組成物から硬化物に変化するプロセスにおいて架橋密度が低いと十分な硬化速度が得られず、立体造形に適応できない可能性がある。そのため、成分(B)が20質量部未満であることは、本発明の効果が損なわれる恐れがあるため好ましくない。一方、成分(B)が80質量部を超える場合、硬化物の架橋密度が過多となりゴム粒子(成分(D))の塑性変形を妨げるため、硬化物の耐衝撃性の向上効果が得られ難い傾向があり、本発明の効果が損なわれる恐れがあるため好ましくない。
【0029】
<成分(C):ラジカル重合性化合物>
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物には、成分(A)及び成分(B)とは異なるラジカル重合性化合物(成分(C))を添加することができる。成分(C)としては、例えば、一般的に用いられる単官能及び多官能ラジカル重合性化合物、(メタ)アクリレート、ポリロタキサンを有する化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。成分(C)は、所望する硬化物の特性に合わせて適宜添加することができる。ここで、本明細書において「(メタ)アクリレート」とはアクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0030】
(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を少なくとも1つ有するラジカル重合性化合物であり、後述するラジカル重合開始剤(成分(E))により発生されたラジカルによって重合反応する。成分(C)は、一種類で構成されていてもよく、複数種類で構成されていてもよい。
【0031】
(メタ)アクリレートが有する(メタ)アクリロイル基の数は特に限定されない。(メタ)アクリルレートとしては、例えば、分子中に(メタ)アクリロイル基を1つ有する単官能(メタ)アクリレート、分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ有する2官能(メタ)アクリレート、分子中に(メタ)アクリロイル基を3つ有する3官能(メタ)アクリレート、分子中に(メタ)アクリロイル基を4つ以上有する4官能以上の(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、(メタ)アクリレートは、分子構造中にウレタン構造を有するウレタン(メタ)アクリレートや、分子構造中にポリエステル構造を有するポリエステル(メタ)アクリレートなどを用いてもよい。
【0032】
(メタ)アクリレートの具体的な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸(3-エチルオキセタンー3-イル)メタン等の単官能(メタ)アクリレート;1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(ポリ)エトキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(ポリ)プロポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF(ポリ)エトキシジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(ポリ)プロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(ポリ)エトキシ(ポリ)プロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレート;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(ポリ)プロポキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトルテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の(メタ)アクリレート;などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
ウレタン(メタ)アクリレートの具体的な例としては、ポリカーボネート系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレート、カプロラクトン系ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーと、を反応させて得ることができる。ここで、ポリオールの具体例としては、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオールなどが挙げられる。
【0034】
ポリエステル(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカルボン酸とポリオールの縮合によって末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーを得、次いで、末端の水酸基をアクリル酸でエステル化することにより得られる。
【0035】
また、(メタ)アクリロイル基を有する環状分子と、該複数の環状分子を串刺し状に貫通する直鎖状分子と、該直鎖上分子の両末端に配置され前記複数の環状分子の脱離を防止する封鎖基と、を有するポリロタキサンを含有することができる。本実施形態に係る(メタ)アクリロイル基を有するポリロタキサンとして使用可能なポリロタキサンの市販品としては、例えば、SeRM SM3405P、SeRM SA3405P、SeRM SM3400C、SeRM SA3400C、SeRM SA2400C(以上、いずれもアドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製)が挙げられる。
【0036】
成分(C)の添加量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対して0質量部以上40質量部以下であり、好ましくは0質量部以上30質量部以下である。成分(C)が40質量部以上である場合には、硬化物中で成分(A)由来の構造が十分な耐衝撃性(靭性)を発揮することができない。
【0037】
<成分(D):ゴム粒子>
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、ゴム粒子(成分(D))を添加することで、硬化物の耐衝撃性を向上させることができる。成分(D)は特に限定されるものではないが、一例としてブタジエンゴム粒子、スチレン・ブタジエンゴム共重合粒子、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム粒子等を用いることができる。また、これらのジエンゴムを水素添加または部分水素添加した飽和ゴム粒子、架橋ブタジエンゴム粒子、イソプレンゴム粒子、クロロプレンゴム粒子、天然ゴム粒子、シリコンゴム粒子、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー三元共重合ゴム粒子、アクリルゴム粒子、アクリル/シリコーン複合ゴム粒子などが挙げられる。なお、これらのゴム粒子は、単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。中でも、硬化性樹脂組成物は、硬化物の耐衝撃性を向上させる観点から、ブタジエンゴム粒子、架橋ブタジエンゴム粒子、スチレン/ブタジエン共重合ゴム粒子、アクリルゴム粒子及びシリコーン/アクリル複合ゴム粒子から選択される少なくとも1種の粒子を含むことが好ましい。
【0038】
硬化性樹脂組成物中のゴム粒子の添加量としては、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上50質量部以下、より好ましくは5質量部以上40質量部以下である。ゴム粒子(D)の含有量が上記の範囲内であれば、硬化物は良好な耐熱性と耐衝撃性(靱性)を両立することができる。
【0039】
成分(D)としては、上記ゴム粒子をコア部分として有し、コア部分を被覆する少なくとも一層のシェル層とから成る多層構造(コアシェル構造)を有するゴム粒子が好ましい。
【0040】
コア部分を構成するポリマーのガラス転移温度は特に限定されないが、0℃未満が好ましく、より好ましくは-20℃未満、さらに好ましくは-40℃以下である。コア部分を構成するポリマーのガラス転移温度を0℃以下とすることで硬化物の耐衝撃性が良好に向上する傾向にある。
【0041】
なお、コア部分を構成するポリマーのガラス転移温度は、下記Foxの式により算出される計算値を意味する(Bull.Am.Phys.Soc.,1(3)123(1956)参照)。下記Foxの式は、コア部分を構成するポリマーが単量体i(単量体1、単量体2、・・・・、及び単量体n)の共重合体である場合の式を示す。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・・+Wn/Tgn
Tg:コア部分を構成するポリマーのガラス転移温度(単位:K)
Wi:コア部分を構成するポリマーを構成する単量体全量に対する単量体iの質量分率
Tgi:単量体iの単独重合体のガラス転移温度(単位:K)
【0042】
単独重合体のガラス転移温度(Tgi)は、各種文献に記載の値を採用することができ、例えば、「POLYMER HANDBOOK 第3版」(John Wiley &Sons,Inc.発行)に記載の値を採用できる。なお、文献に記載のないものについては、単量体を常法により重合して得られる単独重合体の、DSC法により測定されるガラス転移温度の値を採用することができる。
【0043】
シェル層を構成するポリマーは、コア部分を構成するポリマーとは異種のポリマーであることが好ましい。シェル層を構成するポリマーの単官能モノマー成分としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド、スチレン、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸エステル等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。シェル層を構成するポリマーの多官能モノマー成分として、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ブチレングリコールジアクリレート等を用いることができる。
【0044】
シェル層を構成するポリマーのガラス転移温度は特に限定されないが、0℃以上が好ましく、より好ましくは15℃以上であり、さらに好ましくは30℃以上である。シェル層のガラス転移温度が0℃以上の場合、組成物の粘度の上昇が起こらず、また組成物中で良好に分散する傾向にある。なお、シェル層のガラス転移温度は上記Foxの式により算出される計算値である。
【0045】
コアシェル構造を有するゴム粒子は、コア部分をシェル層で被覆することで得られる。コア部分をシェル層で被覆する方法としては、一例として、コア部分にシェル層を塗布する方法、コア部分の表面にシェル層をグラフト重合させる方法が挙げられるが、好ましくはコア部分の表面にシェル層をグラフト重合させる方法である。
【0046】
成分(D)の平均粒径は特に限定されないが、10nm~1000nmが好ましく、より好ましくは20~900nmであり、さらに好ましくは30~800nmである。成分(D)の平均粒径が10nm以上であれば、硬化物の耐衝撃性を改善する効果が得られやすい。また、平均粒径が1000nm以下であれば硬化物の耐熱性が十分となる。
【0047】
<成分(E):ラジカル重合開始剤>
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、光ラジカル重合開始剤等のラジカル重合開始剤(成分(E))を添加することで、組成物に活性エネルギー線を照射して硬化物を得ることができる。
【0048】
光ラジカル重合開始剤は、主に分子内開裂型と水素引抜き型に分類される。分子内開裂型のラジカル重合開始剤では、特定波長の光を吸収することで、特定の部位の結合が切断され、その切断された部位にラジカルが発生し、それが重合開始剤となりラジカル重合性化合物の重合が始まる。一方、水素引き抜き型の場合は、特定波長の光を吸収し励起状態になり、その励起種が周囲にある水素供与体から水素引き抜き反応を起こし、ラジカルが発生し、それが重合開始剤となりラジカル重合性化合物の重合が始まる。
【0049】
分子内開裂型光ラジカル重合開始剤としては、アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤が知られている。これらはカルボニル基に隣接した結合がα開裂して、ラジカル種を生成するタイプのものである。アルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、ベンジルメチルケタール系光ラジカル重合開始剤、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤、アミノアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤等がある。具体的な化合物としては、例えば、ベンジルメチルケタール系光ラジカル重合開始剤としては、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(イルガキュア(R)651、BASF社製)等があり、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(ダロキュア(R)1173、BASF社製)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア(R)184、BASF社製)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(イルガキュア(R)2959、BASF社製)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(イルガキュア(R)127、BASF社製)等があり、アミノアルキルフェノン系光ラジカル重合開始剤としては、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(イルガキュア(R)907、BASF社製)、2-ベンジルメチル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(イルガキュア(R)369、BASF社製)等があるが、これに限定されることはない。アシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(ルシリン(R)TPO、BASF社製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(イルガキュア(R)819、BASF社製)等があるが、これに限定されることはない。オキシムエステル系光ラジカル重合開始剤としては、(2E)-2-(ベンゾイルオキシイミノ)-1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1-オン(イルガキュア(R)OXE-01、BASF社製)等が挙げられるが、これに限定されることはない。
【0050】
水素引き抜き型ラジカル重合開始剤としては、2-エチル-9,10-アントラキノン、2-t-ブチル-9,10-アントラキノン等のアントラキノン誘導体、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン誘導体が挙げられるが、これに限定されることはない。
【0051】
光ラジカル重合開始剤は、2種類以上を併用してもよいが、単独で用いてもよい。
【0052】
光ラジカル重合開始剤の添加量としては、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上15質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上10質量部以下である。光ラジカル重合開始剤の添加量が0.1質量部以上であれば、硬化性樹脂組成物の重合が十分となり、硬化物の耐熱性が十分となる。光ラジカル重合開始剤の添加量が15質量部以下であれば、分子量が大きくなり、硬化物の耐衝撃性が十分となる。
【0053】
また、造形後の熱処理で重合反応を進めるために、熱ラジカル重合開始剤を含有していてもよい。熱ラジカル重合開始剤としては、加熱によりラジカルを発生するものであれば特に制限されず従来既知の化合物を用いることが可能であり、例えば、アゾ系化合物、過酸化物及び過硫酸塩等を好ましいものとして挙げることができる。アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)等が挙げられる。過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸カリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。
【0054】
熱ラジカル重合開始剤の添加量としては、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上15質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上10質量部以下である。熱ラジカル重合開始剤量が15質量部以下であれば、分子量が伸び、十分な物性が得られる。
【0055】
<添加剤>
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物には、本発明の目的、効果を損なわない範囲において、その他の任意の成分として各種の添加剤が含有されていてもよい。かかる添加剤としては、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリエーテル、ポリエステル、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、石油樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、セルロース樹脂、フッ素系オリゴマー、シリコーン系オリゴマー、ポリスルフィド系オリゴマー;フェノチアジン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等の重合禁止剤;重合開始助剤;レベリング剤;濡れ性改良剤;界面活性剤;可塑剤;紫外線吸収剤;シランカップリング剤;無機充填剤;顔料;染料などを挙げることができる。
【0056】
<硬化物の造形方法>
本実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、光学的立体造形法(光造形法)による硬化物の製造方法に好適に用いることができる。以下、本実施形態に係る硬化性樹脂組成物を用いた硬化物の製造方法について説明する。
【0057】
光造形法としては、従来公知の方法を用いることができる。即ち、本実施形態の硬化性樹脂組成物を一層ずつ層毎に選択的に光等の活性エネルギー線を照射して光硬化等の硬化をさせる工程を含み、これを繰り返すことによって硬化物を製造する方法である。
【0058】
硬化性樹脂組成物を一層ずつ層毎に硬化させる工程においては、作成したい硬化物のスライスデータに基づいて硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射する。硬化性樹脂組成物に照射する活性エネルギー線としては、本実施形態に係る硬化性樹脂組成物を硬化させることができる活性エネルギー線であれば特に制限はない。活性エネルギー線の具体例としては、紫外線、可視光線、赤外線、X線、ガンマー線、レーザー光線等の電磁波、アルファー線、ベータ線、電子線等の粒子線等が挙げられる。これらのうち、使用するラジカル重合開始剤(成分(E))の吸収波長や設備導入のコストの点から、紫外線が最も好ましい。活性エネルギー線の露光量としては、特に限定されないが、好ましくは0.001J/cm2以上10J/cm2以下である。0.001J/cm2未満であると、硬化性樹脂組成物が十分に硬化しない恐れがあり、10J/cm2を超えると照射時間が長くなり生産性が落ちる。
【0059】
硬化性樹脂組成物に対して活性エネルギー線を照射する方法は特に限定されず、例えば活性エネルギー線として光を照射する場合には、以下の方法を採用することができる。第1の方法としては、レーザー光のように点状に集光した光を使用して、この光を硬化性樹脂組成物に対して二次元的に走査する方法が挙げられる。このとき、二次元的な走査は点描方式でもよいし、線描方式でもよい。第2の方法としては、プロジェクターなどを用いて断面データの形状に光を照射する面露光方式が挙げられる。この場合、液晶シャッターまたはデジタルマイクロミラーシャッターなどのような微小光シャッターを複数配列して形成した面状描画マスクを通して、活性エネルギー線を面状に照射してもよい。
【0060】
上記方法によって硬化物を得た後に、得られた硬化物の表面を有機溶剤などの洗浄剤によって洗浄してもよい。また、得られた硬化物に対して光照射や熱処理を施すことで、硬化物の表面や内部に残存した未反応の残存成分を硬化させるポストキュアーを行ってもよい。
【実施例
【0061】
以下、各実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
≪実施例1乃至3≫
実施例で用いた成分は以下の通りである。
[成分(A)]
A-1:2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル(株式会社日本触媒製、AOMA)
[成分(B)]
B-1:エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、A-9300)
[成分(C)]
ウレタンアクリレート(日本化薬株式会社製、KAYARAD UX-6101)
【0063】
[成分(D)]
以下の方法で製造したゴム粒子
コアシェル構造を有するゴム粒子のアセトン分散液を製造した。まず、2Lガラス容器にラテックス(日本ゼオン株式会社製、Nipol(R)LX111A2)370質量部(ポリブタジエンゴム粒子200質量部相当)及び脱イオン水630質量部を仕込み、窒素置換を行いながら60℃で60分攪拌した。EDTA0.0096質量部、硫酸鉄0.0024質量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.48質量部を加えた後、グラフトモノマー(メチルメタクリレート(MMA)35.28質量部、3-メチル-3-オキセタニル-メチルメタクリレート(OXMA)35.28質量部)、及びクメンヒドロパーオキサイド(CHP)0.119質量部の混合物を2時間かけて連続的に滴下し、グラフト重合を行った。滴下終了後、さらに2時間攪拌して反応を終了させ、コアシェル構造を有するゴム粒子を製造した。2Lの混浴槽に1000質量部のアセトンを導入し、得られたゴム粒子を攪拌しながら投入した。投入終了後、浮遊性の凝集体及び有機溶媒を一部含む水層から成るスラリー液を得た。得られたスラリー液を250mL遠沈管に詰め、回転数12000rpm、温度10℃にて30分間遠心した後、上澄み液を除去した。沈降したゴム粒子にアセトンを加えて再分散させ、再度回転数12000rpm、温度10℃にて30分間遠心した後、上澄み液を除去することにより、ゴム粒子のアセトン分散液を得た。ゴム粒子がアセトン分散液中で分散性を保っていることから、MMA及びOXMAがゴム粒子の表面でグラフト重合していることが確認できた。得られたゴム粒子のアセトン分散液について、動的光散乱装置(マルバーン社製、ゼータサイザーナノZS)を用いて測定した、粒度分布曲線(粒子径-散乱強度)の極大値から求めたゴム粒子の平均粒径は0.32μmであった。
[成分(E)]
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(イルガキュア(R)819、BASF社製)
【0064】
<硬化性樹脂組成物の製造>
表1に示す配合比にて成分(A)と成分(B)と成分(E)、または成分(A)と成分(B)と成分(C)と成分(E)とを配合し、均一に混合した。この配合物中に、成分(D)のアセトン分散液を混合し、回転式の蒸発装置を用いて揮発分であるアセトンを除去することによって硬化性樹脂組成物を得た。
【0065】
<試験片用硬化物の製造>
調製した硬化性樹脂組成物を用いて、下記の方法で硬化物を作成した。まず、二枚の石英ガラスの間に長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの金型を挟み、ここに硬化性樹脂を流し込んだ。流し込んだ硬化性樹脂組成物に対して、紫外線照射機(HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社製EXECURE3000)を用いて5mW/cm2の紫外線を金型の両面から360秒間ずつ照射し、硬化物を得た(総エネルギーとして3600mJ/cm2)。さらに、得られた硬化物を50℃の加熱オーブン内に入れて1時間、100℃の加熱オーブン内に入れて2時間熱処理を行うことで硬化物を得た。
【0066】
<耐衝撃性の評価>
得られた試験片についてJIS K 7111に準じて、切欠き形成機(東洋精機製作所製、商品名「ノッチングツールA-4」)にて中央部に深さ2mm、45°の切欠き(ノッチ)を入れた。その後、衝撃試験機(東洋精機製作所製、商品名「IMPACT TESTER IT」)を用い、試験片の切欠きの背面から2Jのエネルギーで破壊する。150°まで振り上げたハンマーが試験片破壊後に振りあがる角度から破壊に要したエネルギーを算出し、このシャルピー衝撃強さを耐衝撃性の指標とした。また、以下の基準で耐衝撃性を評価した。
A(非常に良好):シャルピー衝撃強さが6kJ/m2以上。
B(良好):シャルピー衝撃強さが5kJ/m2以上6kJ/m2未満。
C(不良):シャルピー衝撃強さが5kJ/m2未満。
【0067】
<耐熱性の評価>
得られた試験片についてJIS K 7191-2に準じて、荷重たわみ温度試験機(東洋精機製作所製、商品名「No.533 HDT 試験装置 3M-2」)を用いて耐熱性の試験を行った。曲げ応力1.80MPaで、25℃から毎分2℃昇温した。試験片のたわみ量が0.34mmに達した温度を荷重たわみ温度とし、耐熱性の指標とした。また、以下の基準で耐熱性を評価した。
A(非常に良好):荷重たわみ温度が150℃以上。
B(良好):荷重たわみ温度が80℃以上150℃未満。
C(不良):荷重たわみ温度が80℃未満。
【0068】
<曲げ弾性率の評価>
得られた試験片についてJIS K 7171に準じて、引張・圧縮試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、商品名「テンシロン万能材料試験機 RTF-1250」)を用いて、曲げ弾性率の測定を行った。2mm/minの条件で、規定歪み区間(0.05~0.25%)の応力勾配より曲げ弾性率を算出した。また、以下の基準で曲げ弾性率を評価した。
A(非常に良好):曲げ弾性率が2.0GPa以上。
B(良好):曲げ弾性率が1.6GPa以上2.0GPa未満。
C(不良):曲げ弾性率が1.6GPa未満。
【0069】
≪比較例1乃至5≫
成分(A)または成分(B)に代えて、以下の成分を表1に示す配合比で用いた以外は実施例と同様に硬化性樹脂組成物を製造し、実施例と同様に評価した。
A-2:メタクリル酸メチル(東京化成工業株式会社製、MMA)
A-3:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトエステルHO-250(N))
B-2:ペンタエリスリトールテトラアクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトアクリレートPE-4A)
B-3:トリメチロールプロパントリメタクリラート(東京化成工業株式会社製)
B-4:ビスフェノールAジメタクリラート(シグマアルドリッチ社製)
【0070】
【表1】
【0071】
表1より、成分(A)としてA-1を用いた実施例1と、A-1に代えてA-2またはA-3を用いた比較例1及び2を対比すると、実施例1の硬化物は高い耐衝撃性(破壊靭性)を有する硬化物を与える硬化性組成物であることがわかった。また、成分(B)としてB-1を用いた実施例1~3と、B-1に代えてB-2、B-3またはB-4を用いた比較例3乃至5を対比すると、実施例1~3の硬化物は高い耐衝撃性(破壊靭性)を与える硬化性組成物であることがわかった。イソシアヌレート環を有する多官能ラジカル重合性化合物(成分(B))とゴム粒子(成分(D))とを組み合わせた場合に限り、ゴム粒子(成分(D))の高破壊靭性化効果が発現し、予想に反して硬化物が非常に良好な耐衝撃性を発現することが明らかとなった。
【0072】
以上の結果から、単官能2-(アリルオキシメチル)アクリル酸またはそのエステル(成分(A))と、イソシアヌレート環を有する多官能ラジカル重合性化合物(成分(B))と、ゴム粒子(成分(D))と、ラジカル重合開始剤(成分(E))を含有する組成物である場合に高い耐衝撃性(靭性)と高い耐熱性と、高い曲げ弾性率をバランスよく有する硬化物を得られることが明らかとなり、光学的立体造形に好適に使用できることが明らかとなった。