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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240227BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240227BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20240227BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20240227BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240227BHJP
   B05D 1/38 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 183/00 20060101ALI20240227BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B32B27/30 Z
B32B27/00 D
B32B27/30 A
B32B27/16 101
B05D7/02
B05D7/24 302P
B05D1/38
B05D7/24 302Y
B32B27/00 101
C09D5/00 D
C09D183/00
C09D201/02
C09D5/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020043223
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021142709
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】澤田 博紀
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】藤原 寛
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-100742(JP,A)
【文献】特開2019-147923(JP,A)
【文献】特開2008-291186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/30
B32B 27/00
B32B 27/16
B05D 7/02
B05D 7/24
B05D 1/38
C09D 5/00
C09D 183/00
C09D 201/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含む基材と、
前記基材上に設けられたプライマー層と、
前記プライマー層上に設けられたコーティング層と、を備え、
前記プライマー層は、重合体を含み、当該重合体は、当該重合体を構成する全構成単位100重量%中、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を5重量%以上含む重合体であり、
前記コーティング層は、下記一般式(I)で表される化合物(I)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合させて得られる縮合物を含む、
積層体:
-(SiR (OR3-a)・・・一般式(I);
一般式(I)中、Rは末端がエポキシ構造含有基で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選ばれる1価の炭化水素基または水素原子であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、aは0~2の整数である。
【請求項2】
前記重合体は、当該重合体を構成する全構成単位100重量%中、前記アクリロニトリルおよび/または前記メタクリロニトリルに由来する構成単位を10重量%以上含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記コーティング層上における当該コーティング層および水の接触角は、Xより大きくX+14未満である、請求項1または2に記載の積層体:
ここで、前記接触角は、前記コーティング層上に配置された水滴と当該コーティング層との接触角であり、
前記Xは、以下のようにして得られた積層体(X)のコーティング層(X)上に配置された水滴と当該コーティング層(X)との接触角であり、
前記積層体(X)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)上に、溶剤としてプロピレングリコールモノエチルエーテルのみを含むコーティング層形成用組成物を塗布した後、当該PETを80℃の環境下に2分放置して得られた積層体とする。
【請求項4】
前記縮合物は光硬化性縮合物である、請求項1~3の何れか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記エポキシ構造含有基は、炭素数1~10のエポキシシクロアルキル基である、請求項1~4の何れか1項に記載の積層体。
【請求項6】
(a)重合体であって、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を、当該重合体を構成する全構成単位100重量%中、5重量%以上含む重合体、および(b)第一溶剤を含む、プライマー層形成用組成物を、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含む基材上に塗布する工程Aと、
前記プライマー層形成用組成物から前記第一溶剤を除去することによりプライマー層を形成する工程Bと
(a)下記一般式(I)で表される化合物(I)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合させて得られる縮合物、および(b)第二溶剤を含む、コーティング層形成用組成物を、前記プライマー層上に塗布する工程Cと、
前記コーティング層形成用組成物から前記第二溶剤を除去することによりコーティング層を形成する工程Dとを有し、
前記第二溶剤は以下の条件を満たす、積層体の製造方法:
-(SiR (OR3-a)・・・一般式(I);
一般式(I)中、Rは末端がエポキシ構造含有基で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選ばれる1価の炭化水素基または水素原子であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、aは0~2の整数である;
条件;前記第二溶剤のみが塗布された前記プライマー層を80℃で2分間放置したとき、当該プライマー層は溶解しない。
【請求項7】
前記工程Aは、前記基材上に、0.5μm以上の厚さにて前記プライマー層形成用組成物を塗布する工程を含む、請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記工程Bは、前記プライマー層形成用組成物が塗布された前記基材を80℃で2分間以上放置する工程を有する、請求項6または7に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家電表示板、自動車部品、電気機器のカバー、建築材料など幅広い分野において、製品のプラスチック表面に対して耐摩耗性を有するコーティング層を設けた積層体(例えばフィルム)を貼付することにより、製品の耐摩耗性などを向上させる手法が検討されている。当該積層体には、耐摩耗性に加えて、製品の外観美麗および視認性などの観点から、透明性も要求されている。このような市場の要求に対して種々の積層体が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、厚み1μm~1mmの有機樹脂基材上に、特定の構成を有する縮合物とエポキシ基を硬化せしめる硬化剤とからなる熱または光硬化性樹脂組成物を塗布して、硬化させてなる積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-193956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は基材とコーティング層との密着性という観点からは、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、耐摩耗性、透明性およびコーティング層の密着性に優れる、新規の積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の基材と特定のコーティング層との間に、特定の構成を有するプライマー層を設けることにより、耐摩耗性、透明性およびコーティング層の密着性に優れる、新規の積層体を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含む基材と、前記基材上に設けられたプライマー層と、前記プライマー層上に設けられたコーティング層と、を備え、前記プライマー層は、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を含む重合体を含み、前記コーティング層は、下記一般式(I)で表される化合物(I)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合させて得られる縮合物を含む、積層体:
-(SiR (OR3-a)・・・一般式(I);
一般式(I)中、Rは末端がエポキシ構造含有基で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選ばれる1価の炭化水素基または水素原子であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、aは0~2の整数である。
〔2〕前記重合体は、当該重合体を構成する全構成単位100重量%中、前記アクリロニトリルおよび/または前記メタクリロニトリルに由来する構成単位を10重量%以上含む、〔1〕に記載の積層体。
〔3〕前記コーティング層上における当該コーティング層および水の接触角は、Xより大きくX+14未満である、〔1〕または〔2〕に記載の積層体:ここで、前記接触角は、前記コーティング層上に配置された水滴と当該コーティング層との接触角であり、前記Xは、以下のようにして得られた積層体(X)のコーティング層(X)上に配置された水滴と当該コーティング層(X)との接触角であり、前記積層体(X)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)上に、溶剤としてプロピレングリコールモノエチルエーテルのみを含むコーティング層形成用組成物を塗布した後、当該PETを80℃の環境下に2分放置して得られた積層体とする。
〔4〕前記縮合物は光硬化性縮合物である、〔1〕~〔3〕の何れか1つに記載の積層体。
〔5〕前記エポキシ構造含有基は、炭素数1~10のエポキシシクロアルキル基である、〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載の積層体。
〔6〕(a)アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を含む重合体、および(b)第一溶剤を含む、プライマー層形成用組成物を、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含む基材上に塗布する工程Aと、前記プライマー層形成用組成物から前記第一溶剤を除去することによりプライマー層を形成する工程Bと(a)下記一般式(I)で表される化合物(I)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合させて得られる縮合物、および(b)第二溶剤を含む、コーティング層形成用組成物を、前記プライマー層上に塗布する工程Cと、前記コーティング層形成用組成物から前記第二溶剤を除去することによりコーティング層を形成する工程Dとを有し、前記第二溶剤は以下の条件を満たす、積層体の製造方法:
-(SiR (OR3-a)・・・一般式(I);
一般式(I)中、Rは末端がエポキシ構造含有基で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選ばれる1価の炭化水素基または水素原子であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、aは0~2の整数である;
条件;前記第二溶剤のみが塗布された前記プライマー層を80℃で2分間放置したとき、当該プライマー層は溶解しない。
〔7〕前記工程Aは、前記基材上に、0.5μm以上の厚さにて前記プライマー層形成用組成物を塗布する工程を含む、〔6〕に記載の積層体の製造方法。
〔8〕前記工程Bは、前記プライマー層形成用組成物が塗布された前記基材を80℃で2分間以上放置する工程を有する、〔6〕または〔7〕に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、耐摩耗性、透明性およびコーティング層の密着性に優れる、積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0011】
また、本明細書において特記しない限り、構成単位として、X単量体に由来する構成単位と、X単量体に由来する構成単位と、・・・およびX単量体(nは2以上の整数)に由来する構成単位とを含む共重合体を、「X/X/・・・/X共重合体」とも称する。X/X/・・・/X共重合体としては、明示されている場合を除き、重合様式は特に限定されず、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。
【0012】
〔1.本発明の一実施形態の技術的思想〕
本発明者らが鋭意検討した結果、上述した特許文献1に記載の技術には、基材とコーティング層との密着性という観点からは、さらなる改善の余地があることを見出した。
【0013】
本発明者らは、耐摩耗性および透明性に優れるとともに、さらにコーティング層の密着性にも優れる新規の積層体を提供することを目的として、鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、基材とコーティング層との間にプライマー層を設けるとともに、以下のような特定の材料を選択することにより、本発明を完成させた:
(a)基材として、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含む基材を選択する;
(b)プライマー層として、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を含む重合体を含むプライマー層を選択する;および
(c)コーティング層として、エポキシ構造含有基を有するシラン化合物の縮合物を選択する。
【0014】
〔2.積層体〕
本発明の一実施形態に係る積層体は、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含む基材と、前記基材上に設けられたプライマー層と、前記プライマー層上に設けられたコーティング層と、を備え、前記プライマー層は、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を含む重合体を含み、前記コーティング層は、下記一般式(I)で表される化合物(I)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合させて得られる縮合物を含む。
【0015】
-(SiR (OR3-a)・・・一般式(I)。
【0016】
一般式(I)中、Rは末端がエポキシ構造含有基で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選ばれる1価の炭化水素基または水素原子であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、aは0~2の整数である。
【0017】
「アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリル」を、「(メタ)アクリロニトリル」と称する場合もある。「アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を含む重合体」を「(メタ)アクリロニトリル重合体」と称する場合もある。本発明の一実施形態に係る積層体を、単に本積層体と称する場合もある。
【0018】
本積層体は上述した構成を有するため、耐摩耗性、透明性およびコーティング層の密着性に優れるという利点を有する。
【0019】
(2-1.基材)
基材は、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含む。当該構成により、得られる積層体は、耐摩耗性、透明性およびコーティング層の密着性に優れるという利点を有する。基材のその他の構成は特に限定されない。
【0020】
(アクリル樹脂)
本明細書においてアクリル系樹脂とは、構成単位として、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含む樹脂を意図する。(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルおよび/または(メタ)アクリル酸を意図する。
【0021】
アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-フェノキシエチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルおよびアクリル酸グリシジルなどが挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-フェノキシエチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンテニル、メタクリル酸グリシジルおよびメタクリル酸アダマンチルなどが挙げられる。
【0022】
アクリル系樹脂は、構成単位として、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な(メタ)アクリル酸エステル以外の単量体(以下、単量体Aとも称する。)からなる群から選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0023】
単量体Aとしては、(a)メタクリル酸、アクリル酸などのカルボン酸類およびその塩;(b)スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどの芳香族ビニル単量体類;(c)アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体類;(d)N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミドなどのマレイミド類;(e)マレイン酸、フマル酸およびそれらのエステルなど;(f)塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル単量体類;(g)ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;(h)エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレンなどのアルケン類;(i)ハロゲン化アルケン類;(j)アリルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性単量体類、などが挙げられる。
【0024】
アクリル系樹脂は、得られるアクリル系樹脂が成形性に優れ、かつ、得られる基材が光学特性(光学的品質、例えば透明性など)、耐候性および耐熱性に優れることから、以下の(a1)~(a3)の何れかの構成を有することが好ましい。アクリル系樹脂は、(a1)メタクリル酸エステルに由来する構成単位を含むことが好ましく、(a2)アクリル系樹脂を構成する全構成単位100重量%中、アルキル基の炭素数が1~4のメタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位を30重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、(a3)アクリル系樹脂を構成する全構成単位100重量%中、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を30重量%~100重量%以上含むことがより好ましく、50重量%~100重量%以上含むことがより好ましく、50重量%~99.9重量%以上含むことがさらに好ましく、50重量%~98重量%以上含むことが特に好ましい。前記(a3)の構成において、アクリル系樹脂に含まれるメタクリル酸メチルに由来する構成単位以外の構成単位は、メタクリル酸メチルを除く(メタ)アクリル酸エステルと単量体Aとからなる群から選択される1種以上の単量体に由来することが好ましい。
【0025】
アクリル系樹脂は、得られるアクリル系樹脂が成形性に優れ、かつ、得られる基材が外観品質に優れることから、多官能性単量体を含まないことが好ましい。
【0026】
得られる基材が耐熱性に優れることから、アクリル系樹脂は、特定の構造を有する単量体または化合物が、共重合されているか、官能基修飾されているかまたは変性などにより導入されていてもよい。このような、得られる基材の耐熱性を向上させ得るアクリル系樹脂としては、例えば、以下の(b1)~(b8)のようなものを上げることができる。
(b-1)共重合成分としてN-置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂
(b-2)無水グルタル酸アクリル系樹脂
(b-3)クトン環構造を有するアクリル系樹脂
(b-4)グルタルイミドアクリル系樹脂
(b-5)水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂
(b-6)芳香族ビニル単量体および芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体を重合して得られる、芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレンおよびスチレンと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体)
(b-7)前記(b-6)の芳香族環を部分的にまたは全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、前記スチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体)、並びに
(b-8)環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体。
【0027】
アクリル系樹脂は、(a)メタクリル酸メチルに由来する構成単位97重量%~100重量%とアクリル酸メチルに由来する構成単位0重量%~3重量%とを合計100重量%で含むように構成されるアクリル系重合体、および/または、(b)グルタルイミドアクリル系樹脂であることが特に好ましい。当該構成によると、得られる基材が光学特性および耐熱性に優れるという利点を有する。
【0028】
アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、得られる積層体を使用する条件、および、当該積層体の用途に応じて適宜設定することができる。アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上がより好ましく、118℃以上がさらに好ましく、120℃以上が特に好ましい。
【0029】
アクリル系樹脂の製造方法は、特に限定されず、例えば、公知の懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、分散重合法などの重合法を適用可能である。また、公知のラジカル重合法、リビングラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法のいずれを適用することも可能である。
【0030】
(ゴム成分を含有するグラフト共重合体粒子)
基材がアクリル樹脂を含む場合、基材はゴム成分を含有するグラフト共重合体粒子を含むことが好ましい。ゴム成分を含有するグラフト共重合体粒子を、単に「重合体粒子」と称する場合もある。
【0031】
重合体粒子は、平均粒子径が20nm~200nmであるグラフト共重合体粒子(A)を含むことが好ましく、グラフト共重合体粒子(A)に加えて、グラフト共重合体粒子(A)より平均粒子径が大きいグラフト共重合体粒子(B)を含むことがより好ましい。具体的には、アクリル樹脂を含む基材において、アクリル系樹脂、または、アクリル系樹脂およびその他の成分を含む基材のマトリックス中に、多層構造のグラフト共重合体粒子(A)が分散して、または、多層構造のグラフト共重合体粒子(A)および多層構造のグラフト共重合体粒子(B)が分散していることが好ましい。
【0032】
グラフト共重合体粒子(A)は、ゴム成分である架橋エラストマー(Ac)と、架橋エラストマー(Ac)よりも表層側に位置するグラフトポリマー層(As)とを備えるコアシェル構造を有することが好ましい。
【0033】
グラフト共重合体粒子(A)に含まれる架橋エラストマー(Ac)は、公知の架橋エラストマーであってよい。好ましくは、架橋エラストマー(Ac)は、アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(アクリル酸エステルに由来する構成単位を主成分とした重合体からなる架橋エラストマー)である。ここで、主成分とは、重合体におけるアクリル酸エステル由来の構成単位の含有量が50重量%以上であることを意味する。
【0034】
アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)の粒子は、架橋エラストマー層の内部に硬質または半硬質の架橋樹脂層を備える、同心球状の多層構造を有していてもよい。このような硬質または半硬質の架橋樹脂層としては、例えば特公昭55-27576号公報等に示されるような硬質の架橋メタクリル樹脂粒子、特開平4-270751号公報に示されるようなメタクリル酸メチル/アクリル酸エステル/スチレン共重合体からなる半硬質の架橋粒子、さらには架橋度の高い架橋ゴム粒子等が挙げられる。このような硬質または半硬質の架橋樹脂層を備えることにより透明性および/または色調等の改善が期待できる場合がある。
【0035】
グラフト共重合体粒子(A)は、アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)の粒子の存在下に、グラフトポリマー層(As)をグラフト重合してした、コアシェル構造を有するのが好ましい。
【0036】
グラフト共重合体粒子(A)の平均粒子径は20nm~200nmであることが好ましく、50nm~150nmがより好ましく、50nm~120nmが特に好ましい。グラフト共重合体粒子(A)の平均粒子径が上述した範囲内であると、アクリル系樹脂フィルムの耐衝撃性および透明性が良好になる。
【0037】
アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)としては、(a)アクリル酸エステルと、(b)アクリル酸エステルと共重合可能なアクリル酸エステル以外のビニル系単量体(以下、ビニル単量体Cとも称する。)と、(c)アクリル酸エステルと共重合可能であり、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体と、を含む単量体混合物(Mc)を重合して得られる架橋エラストマー粒子を好ましく使用できる。
【0038】
アクリル酸エステル、ビニル系単量体Cおよび多官能性単量体は全部を混合して1段階で重合されてもよい。また、基材の靱性、耐白化性等を調節する目的で、適宜、アクリル酸エステル、ビニル系単量体Cおよび多官能性単量体の組成を変化させて、或いは同一の組成のまま、アクリル酸エステルと、ビニル系単量体Cと、多官能性単量体とが、2段階以上の多段階に分けて重合されてもよい。
【0039】
アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)に使用するアクリル酸エステルとしては、重合性に優れ、安価である等の点から、アクリル酸の脂肪族エステルが好ましく、アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アルキル基の炭素原子数が1以上22以下のアクリル酸アルキルエステルを特に好ましく用いることができる。
【0040】
好ましいアクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ヘプタデシル、アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
アクリル酸エステルの量は、単量体混合物(Mc)100重量%において50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上が最も好ましい。アクリル酸エステル量が単量体混合物(Mc)100重量%において50重量%以上であれば、アクリル系樹脂フィルムの耐衝撃性および/または引張破断時の伸びが良好であり、得られる基材にクラックが発生しにくい。
【0042】
ビニル系単量体Cとしては、例えば、メタクリル酸エステル、シアン化ビニル誘導体、芳香族ビニル誘導体、ハロゲン化ビニリデン、ハロゲン化ビニル、ビニルエステル、アクリル酸およびその塩、メタクリル酸およびその塩、アクリル酸誘導体、マレイン酸誘導体等が挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンテニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等が挙げられる。シアン化ビニル誘導体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。芳香族ビニル誘導体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等が挙げられる。ハロゲン化ビニリデンとしては、例えば、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等が挙げられる。ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等が挙げられる。ビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。アクリル酸の塩としては、例えば、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等が挙げられる。メタクリル酸の塩としては、例えば、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等が挙げられる。アクリル酸誘導体としては、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N-メチロ-ルアクリルアミド等が挙げられる。マレイン酸誘導体としては、例えば、無水マレイン酸、N-アルキルマレイミド、N-フェニルマレイミド等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ビニル系単量体Cとしては、これらの中でも、得られる基材が耐候性および透明性に優れることから、メタクリル酸エステルおよび芳香族ビニル誘導体からなる群から選ばれる1種以上が特に好ましい。
【0043】
ビニル系単量体Cの量は、単量体混合物(Mc)100重量%において0重量%~49.9重量%が好ましく、0重量%~30重量%がより好ましく、0重量%~20重量%が最も好ましい。他のビニル系単量体の量が49.9重量%以下であると、アクリル系樹脂フィルムの耐衝撃性や引張破断時の伸びが良好であり、二次成型時にクラックが発生しにくい。
【0044】
アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)に使用する多官能性単量体としては、架橋剤および/またはグラフト交叉剤として通常使用されるものでよい。多官能性単量体としては、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレエート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタアクリレート、およびジプロピレングリコールジメタクリレート等を使用することができる。これらの多官能性単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
多官能性単量体の量は、単量体混合物(Mc)100重量%において0.1重量%~10重量%が好ましく、1重量%~4重量%がより好ましい。多官能性単量体の配合量がかかる範囲内であれば、得られる基材は耐折り曲げ割れ性、および耐折り曲げ白化性に優れるものとなる。また、多官能性単量体の配合量がかかる範囲内であれば、成形時における樹脂の流動性も良好となる。
【0046】
アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)において、後述するグラフトポリマー層(As)のグラフト被覆効率を高める目的で、多官能性単量体の量を、架橋エラストマー(Ac)の内部と表面近傍とで変更してもよい。具体的には、特許第1460364号公報および特許第1786959号公報等に示されているように、架橋エラストマー(Ac)の表面近傍において、グラフト交叉剤としての機能をもつ多官能性単量体の含有量を内部よりも多くすることにより、グラフト共重合体粒子(A)のグラフトポリマー層による被覆を改善し、重合体粒子のアクリル系樹脂への分散性を良好にしたり、グラフト共重合体粒子(A)とアクリル系樹脂との界面の剥離による耐割れ性の低下を抑制したりすることができる。さらに、相対的に少量のグラフトポリマー層(As)で充分な被覆が得られることから、基材形成用組成物への所定量の架橋エラストマー(Ac)を導入するためのグラフト共重合体粒子(A)の配合量が削減でき、溶融粘度の低下による基材形成用組成物の溶融加工性、基材形成用組成物の基材への加工精度の向上、得られる基材表面硬度の向上等が期待できる。
【0047】
また、単量体混合物(Mc)に、アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)の分子量および/または架橋密度の制御、並びに重合時の不均化停止反応に伴うポリマーの二重結合末端の減少により熱安定性等を制御する目的で、連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤は、通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いられる。連鎖移動剤としては、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、およびt-ドデシルメルカプタン等の炭素原子数2以上20以下の単官能或いは多官能のメルカプタン化合物、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素或いはそれらの混合物等が好ましい。連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物(Mc)の総量100重量部に対して、0重量部~1.0重量部であることが好ましく、0重量部~0.2重量部であることがより好ましい。
【0048】
架橋エラストマー(Ac)の粒子は、前記のアクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)からなる単一層であってもよく、前記のアクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)からなる層を2層以上含む多層構造であってもよく、硬質または半硬質の架橋樹脂層を含む多層粒子の少なくとも1層にアクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)を有するものでもよい。
【0049】
硬質または半硬質の架橋樹脂層を構成する構成単位の由来となる単量体としては、アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)に用いるものとして記載したアクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル誘導体、シアン化ビニル誘導体、マレイン酸誘導体、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体等を適宜用いることができる。
【0050】
硬質または半硬質の架橋樹脂層を構成する構成単位の由来となる単量体として、これらのなかでは、特にメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、スチレン、アクリロニトリル等からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。また、多官能性単量体としては、アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)層の重合に使用するものと同様のものが使用できる。さらに硬質または半硬質の架橋樹脂層の重合時には、これらの単量体に加えて、架橋密度の制御および/またはポリマーの二重結合末端の減少により熱安定性等を制御する目的で、連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤はアクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Ac)層の重合と同様の連鎖移動剤が使用できる。連鎖移動剤の使用量は、硬質または半硬質の架橋樹脂層の総量100重量部に対して、0重量部~2重量部であることが好ましく、0重量部~0.5重量部であることがより好ましい。
【0051】
グラフト共重合体粒子(A)が、コア粒子である架橋エラストマー粒子(Ac)と、グラフトポリマー層(As)との2層構造である場合について説明する。この場合、グラフト共重合体粒子(A)は、典型的には、架橋エラストマー粒子(Ac)の存在下に、メタクリル酸エステル50重量%~100重量%と、メタクリル酸エステルと共重合可能なメタクリル酸エステル以外のビニル系単量体(以下、ビニル単量体Dとも称する。)0重量%~50重量%とを含む単量体混合物(Ms)をグラフト共重合させてグラフトポリマー層(As)を形成することにより得ることができる。
【0052】
単量体混合物(Ms)中のメタクリル酸エステルの量は、50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。当該構成によると、(a)グラフト共重合体粒子(A)とマトリクスであるアクリル系樹脂との相溶性を確保することができ、かつ(b)アクリル系樹脂を含む基材への第一溶剤を含むプライマー層形成用組成物コーティング時の第一溶剤の含浸等による基材の靱性低下および/または基材の成形時の延伸による基材の白化および割れを抑止することができる。
【0053】
グラフトポリマー層(As)に用いるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。中でも、アルキル基の炭素原子数が1以上4以下のメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0054】
グラフトポリマー層(As)において、ビニル系単量体Dとしては、アルキル基の炭素原子数が2以上のアクリル酸アルキルエステルを用いることができる。アルキル基の炭素原子数が2以上のアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、およびアクリル酸ステアリル等からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、およびアクリル酸t-ブチルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、アクリル酸n-ブチルが特に好ましい。
【0055】
グラフトポリマー層(As)は、好ましくは、架橋エラストマー粒子(Ac)5重量部~90重量部の存在下に、単量体混合物(Ms)100重量%中(a)メタクリル酸アルキルエステル70重量%~99重量%、(b)アルキル基の炭素原子数が2以上のアクリル酸アルキルエステル0.5重量%~30重量%、および(c)他のビニル系単量体0重量%~19重量%を含む単量体混合物(Ms)10重量部~95重量部を、少なくとも1段階以上でグラフト共重合させることにより得られるものである。ただし、架橋エラストマー粒子(Ac)と、単量体混合物(Ms)との合計量が100重量部を満たすものとする。
【0056】
単量体混合物(Ms)において使用可能な他のビニル系単量体としては、スチレンおよびその核置換体等の芳香族ビニル誘導体、アクリロニトリル等のシアン化ビニル誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、アクリル酸およびその誘導体、N-置換マレイミド類、無水マレイン酸、メタクリルアミド、アクリルアミド等が挙げられる。
【0057】
単量体混合物(Ms)は、他のビニル系単量体として反応性紫外線吸収剤を含んでもよい。つまり、グラフトポリマー層(As)が、反応性紫外線吸収剤に由来する構成単位を含むことが好ましい。単量体(Ms)が反応性紫外線吸収剤を含む場合、耐候性および耐薬品性が良好である基材を得やすい。反応性紫外線吸収剤としては、公知の反応性紫外線吸収剤を使用することができ、特に限定されない。
【0058】
グラフトポリマー層(As)における、反応性紫外線吸収剤に由来する構成単位の比率は、グラフトポリマー層(As)の全構成単位100重量%中、0.01重量%~5重量%が好ましく、0.1重量%~3重量%がより好ましい。
【0059】
グラフト共重合体粒子(A)の製造に関して、架橋エラストマー粒子(Ac)(例えばアクリル酸エステル系の架橋エラストマー粒子(Ac))の存在下における単量体混合物(Ms)のグラフト共重合に際して、アクリル酸エステル系の架橋エラストマー粒子(Ac)に対してグラフト結合していない重合体成分(フリーポリマー)が生じる場合がある。このようなフリーポリマーは、基材のマトリクス相を構成するアクリル系樹脂の一部または全部を構成するものとして使用できる。
【0060】
単量体混合物(Ms)には、重合体の分子量の制御、架橋エラストマー(Ac)へのグラフト率および/または架橋エラストマー(Ac)に結合していないフリーポリマーの生成量、並びに重合時の不均化停止反応に伴うポリマーの二重結合末端の減少により熱安定性等を制御する目的で、連鎖移動剤を加えてもよい。このような連鎖移動剤は、架橋エラストマー(Ac)の重合に使用可能な連鎖移動剤と同様の連鎖移動剤が使用できる。連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物(Ms)の総量100重量部に対して、0重量部~2重量部、好ましくは0重量部~0.5重量部である。
【0061】
架橋エラストマー粒子(Ac)に対する単量体混合物(Ms)のグラフト率は、5%~250%が好ましく、10%~200%がより好ましく、20%~150%がさらに好ましい。グラフト率が上述した範囲内であると、アクリル系樹脂フィルムの耐折曲げ白化性、透明性、引張破断時の伸び、および成形性等が良好になる。
【0062】
グラフト共重合体粒子(B)は、典型的には、グラフト共重合体粒子(A)と同じく、架橋エラストマー(Bc)、および架橋エラストマー(Bc)よりも表層側に位置するグラフトポリマー層(Bs)備えることが好ましい。
【0063】
グラフト共重合体粒子(B)について、その平均粒子径がグラフト共重合体粒子(A)よりも大きいことを除いて、グラフト共重合体粒子(A)と原料、製造方法等概ね同様である。特に好ましくは、アクリル酸エステル系の架橋エラストマー(Bc)の粒子は、架橋エラストマー層の内部に硬質或いは半硬質の架橋樹脂層を備える同心球状の多層構造を有する。このような硬質或いは半硬質の架橋樹脂層としては、例えば、(a)特公昭55-27576号公報等に示されるような硬質の架橋メタクリル樹脂粒子、(b)特開平4-270751号公報およびWO2014/41803号等に示されるようなメタクリル酸メチル-アクリル酸エステル-スチレン共重合体等からなる半硬質層を有する架橋粒子、等が挙げられる。このような硬質或いは半硬質の架橋樹脂層を導入することにより、グラフト共重合体粒子(A)よりも粒子径の大きいグラフト共重合体粒子(B)の透明性、耐折り曲げ白化性、耐折曲げ割れ性等を改善することができる。
【0064】
グラフト共重合体粒子(B)の平均粒子径は、150nm~400nmが好ましく、200nm~350nmがより好ましい。粒子径の大きなグラフト共重合体粒子(B)は、アクリル系樹脂材料に対する外力の作用に対して、グラフト共重合体粒子の周囲のアクリル系樹脂相に塑性変形(クレイズ)をより効果的に誘起する。このため、グラフト共重合体粒子(B)は、アクリル系樹脂材料に耐衝撃性と耐クラック性とを付与する効果に非常に優れている。
【0065】
本発明の一実施形態において、グラフト共重合体粒子(A)およびグラフト共重合体粒子(B)(以下、グラフト共重合体粒子(A)および(B)と称する場合もある。)の平均粒子径は、日機装株式会社製のMicrotrac粒度分布測定装置MT3000等のレーザー回折式の粒度分布測定装置を使用し、ラテックス状態での光散乱法を用いて測定できる。
【0066】
グラフト共重合体粒子(A)および(B)の製造方法は、特に限定されず、公知の乳化重合法、ミニエマルジョン重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、または分散重合法が適用可能である。グラフト共重合体粒子(A)およびグラフト共重合体粒子(B)の製造方法としては、樹脂構造の調整幅が大きい点から、乳化重合法が特に好ましい。
【0067】
グラフト共重合体粒子(A)またはグラフト共重合体粒子(B)(以下、グラフト共重合体粒子(A)または(B)と称する場合もある。)の乳化重合において使用される開始剤としては、有機系過酸化物、無機系過酸化物、およびアゾ化合物等の公知の開始剤を使用することができる。具体的には、(a)t-ブチルハイドロパ-オキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパ-オキサイド、スクシン酸パ-オキサイド、パ-オキシマレイン酸t-ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の有機系過酸化物;(b)過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機系過酸化物;(c)アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物を使用できる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
これらの開始剤は、熱分解型のラジカル重合開始剤として使用してもよく、或いは、これらの開始剤を亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせた、レドックス型重合開始剤として使用してもよい。なお、硫酸第一鉄はエチレンジアミン四酢酸-2-ナトリウム等の錯体と併用してもよい。
【0069】
グラフト共重合体粒子(A)または(B)の乳化重合において使用される開始剤としては、これらの中でも、重合安定性および粒子径制御の点から、(a)過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機系過酸化物を用いるか、或いは(b)t-ブチルハイドロパーオキサイドおよびクメンハイドロパーオキサイド等の有機系過酸化物を2価の鉄塩等の無機系還元剤および/またはナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、還元糖、アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス型開始剤を使用するのがより好ましい。
【0070】
前記の無機系過酸化物または有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して混合物として添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて水溶液として添加する方法等の公知の方法で添加することができる。透明性に優れた基材が得られることから、前記の無機系過酸化物または有機系過酸化物は、単量体に混合して混合物として添加する方法、および乳化剤水溶液に分散させて水溶液として添加する方法が好ましい。
【0071】
グラフト共重合体粒子(A)または(B)の乳化重合に使用される界面活性剤(乳化剤とも称される。)には特に限定はない。乳化重合には、公知の界面活性剤が広く使用できる。好ましい界面活性剤としては、例えば、(a)アルキルスルフォン酸、アルキルベンゼンスルフォン酸、ジオクチルスルフォコハク酸、アルキル硫酸、脂肪酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、アルキルリン酸、アルキルエーテルリン酸、アルキルフェニルエーテルリン酸、サーファクチン等のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の陰イオン性界面活性剤、並びに(b)アルキルフェノール類および/または脂肪族アルコール類とプロピレンオキサイドおよび/またはエチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤、等が挙げられる。アルキルエーテルリン酸およびその塩としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸およびそのナトリウム塩等を好適に用いることできる。これらの界面活性剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
乳化重合により得られるグラフト共重合体粒子(A)および/または(B)のラテックスから、公知の方法により、グラフト共重合体粒子(A)および/または(B)を分離および回収することができる。例えば、(a)グラフト共重合体粒子(A)および/または(B)のラテックスに、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の水溶性電解質を添加することにより、グラフト共重合体粒子(A)および/または(B)を凝固させた後、もしくは(b)前記ラテックスを凍結することによりグラフト共重合体粒子(A)および/または(B)を凝固させた後、固形分(凝固物)の濾別、洗浄および乾燥の操作により、グラフト共重合体粒子(A)および/または(B)を分離、回収できる。また、グラフト共重合体粒子(A)および/または(B)のラテックスに対する噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理により、グラフト共重合体粒子(A)および/または(B)を分離、回収することができる。
【0073】
なお、このようなグラフト共重合体粒子(A)及び/または(B)の分離回収に先立って、グラフト共重合体粒子(A)及び/または(B)のラテックスを、公知の方法により予めろ過してもよい。当該ろ過により、環境由来の異物、重合時の重合スケールなどの異常重合物などを低減あるいは除去することが出来る。このようなろ過に用いるフィルターあるいはメッシュ材は、目開きがグラフト共重合体粒子(A)及び/または(B)の体積平均粒子径よりも大きく、液状物のろ過に用いられる従来公知のものが広く使用できる。
【0074】
基材において、ゴム成分、すなわち架橋エラストマー(架橋エラストマーAcおよび/または架橋エラストマーBc)の含有量は、基材100重量%中、35重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下で有ることが特に好ましい。基材中のゴム成分の含有量が上述した範囲内であると、得られる積層体が高温高湿収縮率の小さいものとなるという利点を有する。また、得られる積層体の耐衝撃性を高める観点から、基材中において、ゴム成分、すなわち架橋エラストマー(架橋エラストマーAcおよび/または架橋エラストマーBc)の含有量は、基材100重量%中、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。
【0075】
基材中において、ゴム成分の含有量が上述した範囲内であることが好ましく、基材中のアクリル系樹脂の含有量は、特に限定されないが、基材100重量%中、10重量%~98.5重量%であってもよく、15重量%~90重量%であってもよく、20重量%~85重量%であってもよく、30重量%~70重量%であってもよい。
【0076】
アクリル系樹脂組成物中、すなわちアクリル系樹脂フィルム中において、ゴム成分の含有量が上述した範囲内になることが好ましく、基材中のグラフト共重合体粒子(A)の含有量は特に限定されないが、基材100重量%中、例えば、10重量%~90重量%であってもよく、15重量%~80重量%であってもよく、20重量%~70重量%であってもよい。また、基材中において、ゴム成分の含有量が上述した範囲内になることが好ましく、基材中のグラフト共重合体粒子(B)の含有量は特に限定されないが、基材100重量%中、例えば、0.5重量%~60重量%であってもよく、1重量%~55重量%であってもよく、2重量%~50重量%であってもよい。
【0077】
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂とは、分子構造の中に炭酸エステル構造(-O-C(=O)-O-)を持つ重合体の総称である。
【0078】
ポリカーボネート系樹脂としては、脂肪族系ポリカーボネート系樹脂と芳香族系ポリカーボネート系樹脂とが挙げられる。
【0079】
ポリカーボネート系樹脂としては、アロイ化改質グレード(アロイ化により改質されたポリカーボネート系樹脂)も挙げられる。アロイ化改質グレードのポリカーボネート系樹脂としては、(a)ポリカーボネート系樹脂とアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)とのアロイ化改質グレード、および(b)ポリカーボネート系樹脂と結晶性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)またはポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)とのアロイ化改質グレード、などが挙げられる。
【0080】
芳香族ポリカーボネート系樹脂の製造方法としては、ビスフェノールAを1つの原料とするホスゲン法(溶剤法と称する場合もある。)と、ビスフェノールAおよびジフェニールカーボネートによるエステル交換法(溶融法と称する場合もある。)とが挙げられる。エステル交換法は、ホスゲンおよび溶剤を使用しないことから、ホスゲン法と比較して、環境的に優れている。
【0081】
脂肪族ポリカーボネートとしては、イソソルバイド系などの脂肪族ジオール単位を構成単位の少なくとも一部として含有する、ポリカーボネート樹脂が挙げられる。脂肪族ポリカーボネートとしては、国際公開第2004/111106号公報および特開2008-024919号公報に開示されているポリカーボネート樹脂なども使用できる。
【0082】
(その他の樹脂)
基材は、アクリル系樹脂およびポリカーボネート系樹脂以外のその他の樹脂(以下、樹脂Aとも称する。)を含んでいてもよい。樹脂Aは、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂と少なくとも部分的に相溶性を有することが好ましい。樹脂Aとしては、例えば、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、非晶質の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアリレート樹脂、オレフィン/メタクリル酸誘導体樹脂、オレフィン/アクリル酸誘導体樹脂、セルロース誘導体(セルロースアシレートなど)、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ乳酸樹脂、およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)樹脂(PHBH樹脂)などが挙げられる。スチレン系樹脂としては、例えば、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS樹脂)、スチレン/メタクリル酸樹脂、スチレン/アクリル酸樹脂、スチレン/無水マレイン酸樹脂、スチレン/N置換マレイミド樹脂、スチレン/非置換マレイミド樹脂、ABS樹脂、およびスチレン/アクリロニトリル/アクリル酸エステル樹脂などが挙げられる。これらの樹脂Aの中では、スチレン系樹脂およびセルロースアシレート樹脂が、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂との相溶性に優れ、かつ、得られる基材の耐折り曲げ割れ性、耐溶剤性、低吸湿性などを向上できる可能性があることから好ましい。
【0083】
基材は、基材100重量%中、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を50重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、100重量含むことが特に好ましい。基材は、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂であることが特に好ましい。基材が上述の範囲内においてアクリル系樹脂を含む場合、基材は透明性、耐候性および表面硬度に優れるという利点を有する。基材が上述の範囲内においてポリカーボネート系樹脂を含む場合、基材は透明性、耐熱性および強度に優れるという利点を有する。
【0084】
基材は、基材100重量%中、アクリル系樹脂を50重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、100重量%含むことが特に好ましい。基材はアクリル系樹脂であることが特に好ましい。これらの構成によると、基材は、透明性、耐候性、表面硬度および二次成形性に優れるという利点を有する。「二次成形性」とは、基材(例えばフィルム状の基材)を加熱して立体形状などに賦型したり積層したりするときの容易さの程度を意図する。
【0085】
(添加剤)
基材は、本発明の一実施形態に係る目的を損なわない範囲で、一般的に基材に配合され得る従来公知の添加剤を含んでも良い。このような添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、光拡散剤、艶消し剤、滑剤、顔料および染料などの着色料、繊維状充填材、有機粒子および/または無機粒子からなるブロッキング防止剤、金属および/または金属酸化物からなる赤外線反射剤、可塑剤、帯電防止剤、などが挙げられる。添加剤は、これらに限定されない。これらの添加剤は、本発明の一実施形態に係る目的を阻害しない範囲で、もしくは本発明の一実施形態に係る効果を増強するため、添加剤の種類に応じた任意の量を用いることができる。
【0086】
基材の形状は特に限定されない。基材は、板状であってもよく、フィルム状であってもよく、シート状であってもよい。基材の厚さも特に限定されない。基材の厚さは、例えば、10μm~700μmが好ましく、20μm~500μmがより好ましく、50μm~300μmがさらに好ましい。当該構成によると、生産コスト、並びに基材の製膜性および品質などに優れるという利点を有する。基材の厚さが、(a)10μm以上である場合、基材が製膜性(加工性)および強度に優れるものとなり、(b)700μm以下である場合、生産コストが低く、かつ基材が製膜性および二次成形性に優れるという利点を有する。
【0087】
基材のガラス転移温度(Tg)は、得られる積層体を使用する条件、および、当該積層体の用途に応じて適宜設定することができる。基材のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上がより好ましく、118℃以上がさらに好ましく、120℃以上が特に好ましい。
【0088】
基材は、(a)基材のガラス転移温度が115℃以上であり、かつ、基材100重量%中、重合体粒子を0重量%より多く15.0重量%以下含むことが好ましく、(b)基材のガラス転移温度が118℃以上であり、かつ、基材100重量%中、重合体粒子を0重量%より多く15.0重量%以下含むことがより好ましく、(c)基材のガラス転移温度が118℃以上であり、かつ、基材100重量%中、重合体粒子を0重量%より多く14.5重量%以下含むことがさらに好ましく、(d)基材のガラス転移温度が120℃以上であり、かつ、基材100重量%中、重合体粒子を0重量%より多く14.5重量%以下含むことがよりさらに好ましい。当該構成によると、得られる基材は、高温環境下および/または高温高湿環境下における収縮率が小さいという利点を有する。
【0089】
基材として、市販品の基材を用いることもできる。アクリル樹脂を含む基材としては、例えば、スミペックス、テクノロイ[以上、住化アクリル販売(株)製]、アクリプレン、アクリライト[以上、三菱レイヨン(株)製]、パラグラス、コモグラス[以上、(株)クラレ製]、デラグラス、デラプリズム[以上、旭化成テクノプラス(株)製]、カナセライト[カナセ工業(株)製]等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂を含む基材としては、例えば、カーボグラス[旭硝子株(株)製]、アイリスポリカシート[アイリスシンヨー(株)製]、ユーピロン[三菱ガス化学(株)製]、デュラビオ[三菱化学(株)製]、パンライト[帝人化成(株)製]、PLANEXT[帝人化成(株)製]、ポリカーボネートプレート[タキロン(株)製]、ポリカエース[住友ベークライト(株)製]、ポリカプレート[積水成型工業(株)製]、PCミラー[(株)菱晃製]等が挙げられる。
【0090】
本積層体は、少なくとも1つの基材を含んでいればよく、2つ以上の基材を含んでいてもよい。本発明の一実施形態に係る積層体が2つ以上の基材を含んでいる場合、それら基材は、それぞれ、同一種類の基材であってもよく、異なる種類の基材であってもよい。
【0091】
(2-2.プライマー層)
プライマー層は、基材上に設けられ、かつ、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位を含む重合体を含む。プライマー層が(メタ)アクリロニトリル重合体を含有することにより、得られる積層体は、耐摩耗性を維持しつつコーティング層の密着性に優れるという利点を有する。プライマー層が(メタ)アクリロニトリル重合体を含有しない場合、得られる積層体は耐摩耗性とコーティング層の密着性とを両立できない。プライマー層のその他の構成は特に限定されない。
【0092】
特許文献1に記載の技術を含め、従来技術では、主に有機物質から構成される基材と主に無機物質から構成されるコーティング層との密着性には、さらなる改善の余地があった。本発明者らは驚くべきことに、(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位を含むプライマー層を、基材とコーティング層との間に設けることにより、主に有機物質から構成される基材と主に無機物質から構成されるコーティング層とを強固に密着させることが出来るということを独自に見出した。
【0093】
本発明の一実施形態に係るプライマー層によって、本発明の一実施形態に係る基材とコーティング層とを強固に密着できる理由は定かではないが、以下のように推察される。コーティング層に含まれるSi-O構造では、Si原子とO原子との電気陰性度の差が大きく、Siが正に分極しOが負に分極していることが知られている。一方、プライマー層における(メタ)アクリロニトリルに由来する構成単位に含まれる-C≡N構造は、N原子上の非共有電子対による電子供与性を有する。従って、コーティング層のSi-O構造のSi原子と、プライマー層の-C≡N構造のN原子上の非共有電子対との相互作用により、強固に密着し得ると考えられる。なお、本発明の一実施形態はかかる推察に限定されない。
【0094】
(メタ)アクリロニトリル重合体は、構成単位として、(メタ)アクリロニトリルと共重合可能なアクリロニトリルおよびメタクリロニトリル以外の単量体(以下、単量体Bとも称する。)からなる群から選択される1種以上の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0095】
単量体Bとしては、(a)アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル以外のシアン化ビニル単量体類;(b)(メタ)アクリル酸エステル類;(c)メタクリル酸、アクリル酸などのカルボン酸類およびその塩;(d)スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどの芳香族ビニル単量体類;(e)N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミドなどのマレイミド類;(f)マレイン酸、フマル酸およびそれらのエステルなど;(g)塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル単量体類;(h)ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;(i)エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレンなどのアルケン類;(j)ハロゲン化アルケン類、などが挙げられる。
【0096】
(メタ)アクリロニトリル重合体は、(メタ)アクリロニトリル重合体を構成する全構成単位100重量%中、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を、5重量%以上含むことが好ましく、10重量%以上含むことがより好ましく、15重量%以上含むことがより好ましく、20重量%以上含むことがより好ましく、25重量%以上含むことがより好ましく、30重量%以上含むことがさらに好ましく、35重量%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、得られる積層体は、コーティング層の密着性に優れるという利点を有する。(メタ)アクリロニトリル重合体は、(メタ)アクリロニトリル重合体を構成する全構成単位100重量%中、50重量%以上含んでいてもよく、100重量%含んでいてもよく、つまりプライマー層はポリアクリロニトリル(PAN)であってもよい。
【0097】
(メタ)アクリロニトリル重合体の具体例としては、アクリロニトリル/スチレン共重合体、ABS樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。
【0098】
(メタ)アクリロニトリル重合体の製造方法は、特に限定されず、例えば、公知の懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、分散重合法などの重合法を適用可能である。また、公知のラジカル重合法、リビングラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法のいずれを適用することも可能である。
【0099】
プライマー層の厚さは特に限定されない。当該「プライマー層の厚さ」は、積層体におけるプライマー層それ自体の厚さを意図し、プライマー層と基材および/またはコーティング層とが混在している層の厚さは含まないものとする。プライマー層の厚さは、例えば、0.1μm~2.0μmが好ましく、0.2μm~1.5μmがより好ましく、0.3μm~1.3μmがさらに好ましく、0.5μm~1.0μmが特に好ましい。プライマー層の厚さが0.1μm以上である場合、得られる積層体はコーティング層の密着性に優れるものとなる。プライマー層は、基材およびコーティング層と比較して、柔らかい層である。そのため、プライマー層が厚すぎる場合、得られる積層体はコーティング層に由来する耐摩耗性を発揮し難いことが考えられる。それ故、優れた耐摩耗性を有する積層体を得るために、プライマー層の厚さは2.0μm以下が好ましい。
【0100】
(2-3.コーティング層)
コーティング層は、前記一般式(I)で表される化合物(I)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合させて得られる縮合物を含む。当該構成により、得られる積層体は、耐摩耗性および透明性に優れるという利点を有する。コーティング層のその他の構成は特に限定されない。コーティング層は、耐摩耗性に優れるため「ハードコート層」と称される場合もある。
【0101】
(縮合物)
(化合物(I))
一般式(I)のRにおけるエポキシ構造含有基としては、エポキシ構造を含有してさえすればよく、例えば、エポキシ基、グリシジルエーテル基、エポキシシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0102】
縮合物は、エポキシ構造を開環させることにより、エポキシ構造を介して架橋構造を形成させることができる。架橋構造を有する縮合物は、架橋構造を有していない縮合物と比較してさらに表面硬度および耐熱性に優れるという利点を有する。架橋構造を有する縮合物は、「硬化物」と称される場合もある。
【0103】
エポキシ構造の開環および硬化(架橋構造の形成)は、熱によって開始させることができる。更に、エポキシ構造の開環は、酸または塩基などによる触媒作用によって促進される。触媒作用の中で、酸触媒作用を有するものとしては、酸、ルイス酸および光酸発生剤などが挙げられる。光酸発生剤は光照射により強酸を発生し、比較的速やかにエポキシ構造の開環および硬化を進行させる。そのため、光酸発生剤による硬化は、一般的な酸もしくは塩基触媒および/または硬化剤を用いた硬化と比較して、大がかりな加熱硬化条件を必要とせず、効率的に硬化物を得ることができる。さらに光照射の無い環境下では酸触媒の生成が無いため、硬化前のコーティング層形成用組成物の貯蔵時の安定性にも優れる。これらの理由により、エポキシ構造の開環は、光酸発生剤によって促進されることが好ましい。換言すれば、縮合物は光硬化性縮合物であることが好ましい。
【0104】
エポキシ構造の違い、すなわちエポキシ構造含有基の種類に依存して開環反応が、熱または光酸のいずれによって促進され易いかが異なる。縮合物におけるエポキシ構造含有基は、炭素数1~10のエポキシシクロアルキル基であることが好ましく、エポキシシクロヘキシル基であることがより好ましく、3,4-エポキシシクロヘキシル基であることがさらに好ましい。当該構成によると、光酸発生剤を用いたカチオン重合に伴うエポキシ構造の開環反応が速く、得られる硬化物において、表面硬度および耐熱性が向上するとの利点を有する。
【0105】
一般式(I)のRにおける、炭素数1~10のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、等が挙げられる。なお、「ペンチル基」および「イソペンチル基」は、それぞれ「アミル基」および「イソアミル基」と称される場合もある。
【0106】
一般式(I)のRは、末端が3,4-エポキシシクロヘキシル基(エポキシ構造含有基)で置換された炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。一般式(I)のRは、例えば、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル基、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基、(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチル基、(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチル基、および、(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシル基等が好ましい。前記構成によると、光酸発生剤を用いたカチオン重合に伴うエポキシ構造の開環反応が速く進行するという利点を奏する。
【0107】
一般式(I)のRにおける炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェネチル基が挙げられる。
【0108】
一般式(I)のRにおけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基およびデシル基が挙げられる。化合物(I)を加水分解および縮合させやすいという観点から、Rのアルキル基の炭素数は1~3が好ましく、1が最も好ましい。
【0109】
一般式(I)のaは、縮合物を含むコーティング層形成用組成物またはコーティング層に要求される物性に応じて適宜選択され得る。
【0110】
硬化時におけるエポキシ構造含有基の反応性(モビリティとも称する。)に優れることから、エポキシ構造含有基とケイ素原子とを結合するアルキル基、すなわちRのアルキル基、の炭素数が重要である。Rのアルキル基の炭素数は1~4が好ましく、2または3がさらに好ましい。
【0111】
前記Rのアルキル基の炭素数および上述したRのアルキル基の炭素数の好ましい態様を考慮すると、化合物(I)としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルジメチルメトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルメチルジメトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルジメチルメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。化合物(I)としては、上述した中でも、Rが、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、および3-グリシジルオキシプロピル基である化合物がさらに好ましい。
【0112】
(化合物(II))
前記シラン化合物は、下記一般式(II)で表される化合物(II)をさらに含むことが好ましい:
-(SiR (OR3-a)・・・一般式(II)
(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選ばれる1価の炭化水素基または水素原子であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、Rは炭素数1~10の置換もしくは非置換のアルキル基およびアルケニル基、並びに置換アリール基からなる群から選ばれ、エポキシ構造含有基を有さない基であり、aは0~2の整数である。)。
【0113】
前記シラン化合物が化合物(II)をさらに含む場合には、化合物(I)由来の性能に加え、化合物(II)由来の性能を付与することが可能である。例えば、化合物(I)のエポキシ基が示すカチオン反応性に加え、化合物(II)のアルケニル基が示すラジカル反応性を利用することにより、得られる縮合物の硬化が促進されるという利点を有する。また、フェニル基を有する化合物(II)を含む場合には、得られる硬化物に耐熱性および柔軟性が付与できるという利点を有する。
【0114】
一般式(II)のR、Rおよびaの態様は、好ましい態様を含み、上述した一般式(I)のR、Rおよびaの態様と同じであってもよい。
【0115】
一般式(II)のRにおけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基およびデシル基等が挙げられる。
【0116】
一般式(II)のRにおけるアルキル基の置換基としては、特に限定されない。一般式(II)のRにおけるアルキル基の置換基としては、入手しやすいことから、グリシジル基、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、フェニル基、シクロヘキシル基およびクロロ基等が好ましい。本明細書において、「(メタ)アクリロイル」は、「メタクリロイルおよび/またはアクリロイル」を意図する。ここで、本明細書において、X基で置換されたY基を、「X基置換Y基」とも表記する。
【0117】
上述した置換基のうち、チオール(メルカプト)基はシラン化合物を加水分解および縮合反応させている最中にエポキシ構造含有基と反応する可能性がある。そのため、Rとしてチオール(メルカプト)基換アルキル基を有する化合物(II)を用いる場合、化合物(I)としては、求核攻撃を受けにくいエポキシシクロヘキシル基をRにて有するエポキシシラン化合物を選択することが好ましい。他方、置換基のうち、アミノ基および酸無水物基は、チオール(メルカプト)基以上に、シラン化合物を加水分解および縮合反応させている最中にエポキシ構造含有基と反応する可能性が高く、加水分解および縮合反応を阻害し、エポキシ構造含有基の開環反応を促進する効果があると考えられる。そのため、本発明の一実施形態では、化合物(II)として、Rとしてアミノ基置換アルキル基または酸無水物基置換アルキル基を有する化合物(II)を用いることは好ましくない。
【0118】
一般式(II)のRにおけるアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-メチルエテニル基、2-メチルエテニル基、2-プロペニル基、1-メチル-3-プロペニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、ビシクロヘキセニル基、6-ヘプテニル基、7-オクテニル基、デセニル基、ペンタデセニル基、エイコセニル基およびトリコセニル基等が挙げられる。一般式(II)のRにおける置換アリール基としては、スチリル基が挙げられる。
【0119】
が非置換のアルキル基である場合、Rは、炭素数3~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数3~6のアルキル基であることがより好ましい。Rが前記構成である場合、貯蔵安定性がよく、硬化時の硬化速度が速く、さらに得られた硬化物のクラック発生が抑制できるという利点を有する。
【0120】
が置換アルキル基である場合、Rにおいて、(a)アルキル基は炭素数3~10であることが好ましく、炭素数3~6であることがより好ましく、(b)置換基はフェニル基、シクロヘキシル基および(メタ)アクリロイル基が好ましい。Rがアルケニル基である場合、Rはビニル基またはアリル基が好ましい。Rが置換アリール基である場合、Rはスチリル基が好ましい。
【0121】
が、(a)非置換アルキル基であり、アルキル基の炭素数が2以下である場合、または、(b)置換アルキル基であり、置換基がフェニル基、シクロヘキシル基または(メタ)アクリロイル基より嵩高くない場合、について説明する。この場合、硬化時に硬化物は緻密な架橋構造を形成し、硬化物がゲル化することがある。「硬化時」は、「架橋時」ともいえる。
【0122】
また、Rが、(a)非置換アルキル基であり、アルキル基の炭素数が11以上である場合、または、(b)置換アルキル基であり、置換基がフェニル基、シクロヘキシル基または(メタ)アクリロイル基よりも嵩高い場合、について説明する。この場合、シラン化合物の疎水性が高くなり当該シラン化合物の加水分解速度が極端に低下すること、および/または、得られる縮合物の硬化速度が低下することがある。
【0123】
化合物(II)の中で、一般式(II)におけるRが非置換のアルキル基であるものとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルメチルジメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルメチルジエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルメチルジメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルメチルジエトキシシラン、ブチルトリプロポキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルメチルジメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルメチルジエトキシシラン、ペンチルトリプロポキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、ヘキシルトリプロポキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルメチルジメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、ヘプチルメチルジエトキシシラン、ヘプチルトリプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、オクチルトリプロポキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルメチルジメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、ノニルメチルジエトキシシラン、ノニルトリプロポキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルメチルジメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルメチルジエトキシシラン、デシルトリプロポキシシラン等が挙げられる。
【0124】
がグリシジル基置換アルキル基である化合物(II)としては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、4-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、4-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、5-グリシドキシペンチルトリメトキシシラン、5-グリシドキシペンチルトリエトキシシラン、6-グリシドキシヘキシルトリメトキシシラン、6-グリシドキシヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0125】
がチオール基置換アルキル基である化合物(II)としては、1-メルカプトメチルトリメトキシシラン、1-メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、1-メルカプトメチルトリエトキシシラン、1-メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、4-メルカプトブチルトリメトキシシラン、4-メルカプトブチルメチルジメトキシシラン、4-メルカプトブチルトリエトキシシラン、4-メルカプトブチルメチルジエトキシシラン、5-メルカプトペンチルトリメトキシシラン、5-メルカプトペンチルメチルジメトキシシラン、5-メルカプトペンチルトリエトキシシラン、5-メルカプトペンチルメチルジエトキシシラン、6-メルカプトヘキシルトリメトキシシラン、6-メルカプトヘキシルメチルジメトキシシラン、6-メルカプトヘキシルトリエトキシシラン、6-メルカプトヘキシルメチルジエトキシシラン、7-メルカプトヘプチルトリメトキシシラン、7-メルカプトヘプチルメチルジメトキシシラン、7-メルカプトヘプチルトリエトキシシラン、7-メルカプトヘプチルメチルジエトキシシラン、8-メルカプトオクチルトリメトキシシラン、8-メルカプトオクチルメチルジメトキシシラン、8-メルカプトオクチルトリエトキシシラン、8-メルカプトオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0126】
がアミノ基置換アルキル基である化合物としては、N-2-(アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)アミノメチルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-2-アミノエチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-2-アミノエチルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-4-アミノブチルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-5-アミノペンチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-5-アミノペンチルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-6-アミノヘキシルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-6-アミノヘキシルトリエトキシシラン、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、2-アミノエチルトリメトキシシラン、2-アミノエチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、4-アミノブチルトリメトキシシラン、4-アミノブチルトリエトキシシラン、5-アミノペンチルトリメトキシシラン、5-アミノペンチルトリエトキシシラン、6-アミノヘキシルトリメトキシシラン、6-アミノヘキシルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、N-フェニルアミノメチルトリエトキシシラン、N-フェニル-2-アミノエチルトリメトキシシラン、N-フェニル-2-アミノエチルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-フェニル-4-アミノブチルトリエトキシシラン、N-フェニル-5-アミノペンチルトリメトキシシラン、N-フェニル-5-アミノペンチルトリエトキシシラン、N-フェニル-6-アミノヘキシルトリメトキシシラン、N-フェニル-6-アミノヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0127】
がイソシアネート基置換アルキル基である化合物としては、1-イソシアネートメチルトリメトキシシラン、1-イソシアネートメチルメチルジメトキシシラン、1-イソシアネートメチルトリエトキシシラン、1-イソシアネートメチルメチルジエトキシシラン、2-イソシアネートエチルトリメトキシシラン、2-イソシアネートエチルメチルジメトキシシラン、2-イソシアネートエチルトリエトキシシラン、2-イソシアネートエチルメチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、4-イソシアネートブチルトリメトキシシラン、4-イソシアネートブチルメチルジメトキシシラン、4-イソシアネートブチルトリエトキシシラン、4-イソシアネートブチルメチルジエトキシシラン、6-イソシアネートヘキシルトリメトキシシラン、6-イソシアネートヘキシルメチルジメトキシシラン、6-イソシアネートヘキシルトリエトキシシラン、6-イソシアネートヘキシルメチルジエトキシシラン、8-イソシアネートオクチルトリメトキシシラン、8-イソシアネートオクチルメチルジメトキシシラン、8-イソシアネートオクチルトリエトキシシラン、8-イソシアネートオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0128】
が(メタ)アクリロイル基置換アルキル基である化合物としては、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルメチルジメトキシシラン、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルメチルジエトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルメチルジメトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリエトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルメチルジエトキシシラン、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルメチルジメトキシシラン、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリエトキシシラン、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルメチルジエトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルメチルジメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリエトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルメチルジエトキシシラン、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルトリメトキシシラン、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルメチルジメトキシシラン、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルトリエトキシシラン、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルメチルジエトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0129】
がフェニル基置換アルキル基である化合物としては、ベンジルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、2-フェニルエチルトリメトキシシラン、2-フェニルエチルトリエトキシシラン、3-フェニルプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルプロピルトリエトキシシラン、4-フェニルブチルトリメトキシシラン、4-フェニルブチルトリエトキシシラン、5-フェニルペンチルトリメトキシシラン、5-フェニルペンチルトリエトキシシラン、6-フェニルヘキシルトリメトキシシラン、6-フェニルヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0130】
がシクロヘキシル基置換アルキル基である化合物としては、シクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリエトキシシラン、2-シクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、2-シクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、3-シクロヘキシルプロピルトリメトキシシラン、3-シクロヘキシルプロピルトリエトキシシラン、4-シクロヘキシルブチルトリメトキシシラン、4-シクロヘキシルブチルトリエトキシシラン、5-シクロヘキシルペンチルトリメトキシシラン、5-シクロヘキシルペンチルトリエトキシシラン、6-シクロヘキシルヘキシルトリメトキシシラン、6-シクロヘキシルヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0131】
がクロロ基置換アルキル基である化合物としては、例えば、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、4-クロロブチルトリメトキシシラン、4-クロロブチルトリエトキシシラン、5-クロロペンチルトリメトキシシラン、5-クロロペンチルトリエトキシシラン、6-クロロヘキシルトリメトキシシラン、6-クロロヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0132】
がアルケニル基である化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、1-オキセタニルオキシメチルトリメトキシシラン、1-オキセタニルオキシメチルメチルジメトキシシラン、1-オキセタニルオキシメチルトリエトキシシラン、1-オキセタニルオキシメチルメチルジエトキシシラン、2-オキセタニルオキシエチルトリメトキシシラン、2-オキセタニルオキシエチルメチルジメトキシシラン、2-オキセタニルオキシエチルトリエトキシシラン、2-オキセタニルオキシエチルメチルジエトキシシラン、3-オキセタニルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-オキセタニルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-オキセタニルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-オキセタニルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、4-オキセタニルオキシブチルトリメトキシシラン、4-オキセタニルオキシブチルメチルジメトキシシラン、4-オキセタニルオキシブチルトリエトキシシラン、4-オキセタニルオキシブチルメチルジエトキシシラン、6-オキセタニルオキシヘキシルトリメトキシシラン、6-オキセタニルオキシヘキシルメチルジメトキシシラン、6-オキセタニルオキシヘキシルトリエトキシシラン、6-オキセタニルオキシヘキシルメチルジエトキシシラン、8-オキセタニルオキシオクチルトリメトキシシラン、8-オキセタニルオキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-オキセタニルオキシオクチルトリエトキシシラン、8-オキセタニルオキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0133】
が置換アリール基である化合物としては、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0134】
シラン化合物が化合物(II)を含む場合、化合物(II)として、下記一般式(II-1)で表される化合物(II-1)を用い、必要に応じて下記一般式(II-2)で表される化合物(II-2)を化合物(II-1)に加えてさらに用いることが好ましい:
-(SiR (OR3-a)・・・一般式(II-1)、
(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選ばれる1価の炭化水素基または水素原子であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基、または、チオール基で置換された炭素数1~10のアルキル基および炭素数2~10のアルケニル基、並びに置換アリール基からなる群から選ばれ、エポキシ構造含有基を有さない基であり、aは0~2の整数である。);
-(SiR (OR3-a)・・・一般式(II-2)、
(式中、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選ばれる1価の炭化水素基または水素原子であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、Rはアミノ基、フェニル基、シクロヘキシル基、またはクロロ基で置換された炭素数1~10のアルキル基、および、炭素数1~10の非置換アルキル基から選ばれ、3,4-エポキシシクロヘキシル基を有さない基であり、aは0~2の整数である。)。
【0135】
前記構成によると、得られる積層体において、基材上のコーティング層の反りの発生を抑制することができる。前記構成(態様)において、より好ましくは、縮合物は、以下の条件を満たすように化合物(I)および化合物(II-1)、並びに、さらに任意で化合物(II-2)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合反応させて得られる反応生成物であることが好ましい。:化合物(I)に対する化合物(II-1)のモル比(化合物(II-1)のモル数/化合物(I)のモル数)が0.03~1.00であり、化合物(I)に対する化合物(II-2)のモル比(化合物(II-2)のモル数/化合物(I)のモル数)が0~1.0である。
【0136】
得られる積層体において、基材上のコーティング層の反りの発生を抑制するという観点では、化合物(I)は縮合物の硬化時における膨張成分、化合物(II-1)は縮合物の硬化時における収縮成分、として捉えることができる。前記膨張成分と前記収縮成分とのバランスを調整することにより、縮合物の硬化収縮に起因する、基材上のコーティング層の反りを抑制することができる。化合物(I)に対する化合物(II-1)のモル比は、0.05以上がより好ましく、0.075以上がさらに好ましく、0.10以上が特に好ましい。化合物(I)に対する化合物(II-1)のモル比は0.90以下がより好ましく、0.80以下がさらに好ましく、0.60以下が特に好ましい。化合物(I)に対する化合物(II-1)のモル比が、(a)0.03未満である場合、硬化膨張に起因する基材上のコーティング層の反りを抑制することができないことがあり、(b)1.00より大きい場合、コーティング層の硬度および/または耐摩耗性が低下することがある。本明細書において、「硬度および/または耐摩耗性」を、「ハードコート性」と総称する場合もある。また、「耐摩耗性」は「耐擦傷性」と称される場合もある。
【0137】
化合物(II-2)は、縮合物の硬化時における膨張成分および収縮成分のいずれとしても捉えられるものでない。化合物(II-2)は、一種の希釈成分として作用するものであり、膨張成分と収縮成分との影響をより小さくすることができる。化合物(I)に対する化合物(II-2)のモル比は、0.8以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好ましく、0.5以下であることが特に好ましい。化合物(I)に対する化合物(II-2)のモル比が1.0より大きい場合、ハードコート性が低下することがある。
【0138】
シラン化合物は、化合物(I)を1種のみ含んでいてもよく、2種以上組み合わせて含んでいてもよい。シラン化合物は、化合物(II)を1種のみ含んでいてもよく、2種以上組み合わせて含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0139】
コーティング層(具体的には、縮合物を硬化させて得られる硬化物)の物性として、耐摩耗性および/または耐薬品性が求められる場合は、縮合物中におけるエポキシ構造含有基の架橋が十分に進行していることが重要となり得る。そのため、縮合物は、以下の条件を満たすように化合物(I)および任意で化合物(II)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合反応させて得られる反応生成物であることが好ましい:化合物(I)に対する化合物(II)のモル比(化合物(II)のモル数/化合物(I)のモル数)が0~9である。
【0140】
化合物(II)がRに置換アルキル基、置換アルケニル基または置換アリール基を有し、かつ、化合物(I)に対する化合物(II)のモル比が9を超える場合(以下、場合Aとする)について説明する。場合Aでは、化合物(I)に含まれるエポキシ構造含有基に対する化合物(II)に含まれるエポキシ構造含有基以外の官能基のモル比は9を超える。それ故に、場合Aでは、得られるコーティング層は、耐摩耗性および耐薬品性に優れるものであるが、硬化収縮など他の特性において問題が生じる虞がある。
【0141】
例えば、化合物(II)がRに(メタ)アクリロイル基で置換されたアルキル基、アルケニル基またはアリール基を有し、かつ、化合物(I)に対する化合物(II)のモル比が9を超える場合(以下、場合Bとする)について説明する。場合Bでは、エポキシ構造含有基に対する(メタ)アクリロイル基のモル比は9を超える。場合Bでは、得られるコーティング層は、耐摩耗性および耐薬品性に優れる。しかし、(メタ)アクリロイル基による架橋は、エポキシ構造含有基による架橋と比較して硬化収縮が大きくなる。そのため、場合Bでは、コーティング層に熱および/または湿度などによる環境負荷がかかったときに、コーティング層(硬化物)にクラックが生じ得る。また、場合Bでは、得られる積層体に反りが生じる場合がある。(メタ)アクリロイル基と同様に硬化収縮を示す化合物(II)中のRとしては、アルケニル基が挙げられる。
【0142】
(メタ)アクリロイル基およびアルケニル基による硬化(架橋)と比較して、エポキシ構造含有基による硬化は、開環反応を伴う。そのため、エポキシ構造含有基による硬化は、収縮が少なく、硬化収縮をほとんど生じない硬化物を得ることが可能であり、場合によっては、硬化膨張する硬化物を得ることも可能である。
【0143】
また、縮合物におけるエポキシ構造含有基の含有量が低い場合、得られる縮合物を硬化させるとき、分子間架橋が不十分となり得る。その結果、得られるコーティング層のハードコート性が低下する虞がある。そのため、コーティング層におけるハードコート性と耐クラック性との両立を考慮すると、化合物(I)に対する化合物(II)のモル比は、0~5であることがより好ましく、0~3であることがより好ましく、0~2であることがより好ましく、0~1であることがより好ましく、0~0.8であることがより好ましく、0~0.6であることがさらに好ましく、0~0.4であることがよりさらに好ましく、0~0.2であることが特に好ましい。
【0144】
縮合物の縮合度としては、シラン化合物が加水分解および縮合して、シロキサン結合を形成した2~200量体が好ましく、4~100量体がより好ましい。縮合物の縮合度が2量体以上である場合、高温下および/または高減圧下で縮合物が揮発する虞がない。ただし、縮合物が化合物(II)を含むシラン化合物を加水分解および縮合してなる場合には、縮合物1分子あたりの平均エポキシ基数が2個以上であることが好ましい。また、縮合物の縮合度が200量体以下である場合、有機溶剤および硬化物等と縮合物との相溶性が低下する虞がない。
【0145】
縮合物は、1分子中に多数のエポキシ構造含有基を有することが好ましい。1分子中のエポキシ構造含有基の個数は、硬化時の架橋密度を高め、硬化物(得られるコーティング層)の物性が高くなる(品質が良好となる)ことから、4個以上が好ましく、5個以上がより好ましく、6個以上がさらに好ましい。1分子中におけるエポキシ構造含有基の個数が多くなる程、縮合物は高分子量体となる。縮合物の分子量が大きいほど、エポキシ構造含有基は、硬化時における分子間架橋には寄与せずに分子内架橋を生じる可能性、および、架橋には一切関与せずに分子内に埋没してしまう官能基となる可能性が高くなる。そのため、1分子中のエポキシ構造含有基の個数は、100個以下が好ましく、90個以下がより好ましく、80個以下がさらに好ましく、70個以下がよりさらに好ましく、60個以下が特に好ましい。
【0146】
縮合物の重量平均分子量は、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、1,500以上がさらに好ましく、2,000以上がよりさらに好ましく、2,800以上が特に好ましい。また、縮合物の重量平均分子量は、30,000以下が好ましく、28,000以下がより好ましく、25,000以下がより好ましく、20,000以下がより好ましく、18,000以下がより好ましく、16,000以下がさらに好ましく、14,000以下がよりさらに好ましく、12,000以下が特に好ましい。縮合物の重量平均分子量が500未満である場合、縮合物は揮発性を有し、高温下および/または高減圧下において、縮合物の硬化前に縮合物の一部または全量が揮発してしまう虞がある。縮合物の重量平均分子量が低いほど、硬化物(得られるコーティング層)の耐衝撃性は低くなる。そのため、縮合物の重量平均分子量が500未満である場合、得られるコーティング層の耐衝撃性が低下しすぎて、十分でなくなる虞がある。重量平均分子量が30,000を超える場合、その他の配合物(例えば、後述するアクリレート化合物および有機溶剤)並びに硬化物等と縮合物との相溶性が低下するため、得られるコーティング層が白濁する虞がある。本明細書において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography;GPC)で測定した重量平均分子量である。
【0147】
ここで、縮合物の重量平均分子量は、反応に用いる水の量、並びに触媒の種類および量を適切に選択することにより、コントロールすることができる。例えば、最初に仕込む水の量を増やすことにより、縮合物の重量平均分子量を高くすることができる。
【0148】
縮合物の原料である化合物(I)および化合物(II)が有するケイ素原子に直接結合したOR基のモル数Xに対する、得られた縮合物が有するケイ素原子に直接結合したOR基のモル数Yの比(Y/X)は、0.20以下であることが好ましく、0.10以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましく、実質的に0であることが最も好ましい。Y/Xが0.2を超える場合、硬化後に経時で硬化物が収縮し得られるコーティング層にクラックが発生すること、およびエポキシ構造含有基の貯蔵安定性を損ねることがある。本明細書において、Y/Xは、H-NMRおよび29Si-NMRで測定することによって求めることができる。
【0149】
ここで、加水分解および縮合反応に用いる水の量と触媒の種類および量とを適切に選択することより、Y/Xを0.2以下にすることができる。例えば、加水分解および縮合反応に用いる水の量が多いほど加水分解が促進され、Y/Xは低い値となる。
【0150】
縮合物中に残存するOR基の個数は、1分子中に2.0個以下であることが好ましく、1.0個以下であることがより好ましく、0.5個以下であることがさらに好ましく、0.1個以下であることが特に好ましく、実質的に残存していないことが最も好ましい。
【0151】
縮合物におけるエポキシ構造含有基の残存率、すなわち、原料である化合物(I)が有するエポキシ構造含有基のモル数に対する、縮合物におけるエポキシ構造含有基のモル数の割合は高い方が好ましい。縮合物におけるエポキシ構造含有基の残存率が高いほど、硬化物内のエポキシ構造含有基に起因する架橋密度を高めることにより、硬化物の硬度および耐摩耗性を向上させることができる。
【0152】
縮合物におけるエポキシ構造含有基の残存率は、具体的には、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。本明細書において、エポキシ構造含有基の残存率はH-NMR測定によって求めることができる。
【0153】
縮合物におけるエポキシ構造含有基の残存率が小さい場合、さらには、縮合物1分子中のエポキシ構造含有基の数が小さい場合であっても、R、RおよびRが嵩高い基でない場合には、硬化物内のエポキシ構造含有基に起因する架橋密度を高めることができる。そのため、R、RおよびRとしては嵩高くない基であることが好ましい。
【0154】
(縮合物の合成方法(加水分解および縮合反応))
縮合物の合成、すなわちシラン化合物の加水分解および縮合反応は、中性塩あるいは塩基性化合物を触媒として実施することが好ましい。当該構成によると、シラン化合物の加水分解および縮合反応の前後および得られた縮合物の貯蔵中に、縮合物中のエポキシ基を失活させる虞がない。そのため、得られる縮合物を用いて、シロキサン樹脂(硬化物)を得ることができる。
【0155】
(中性塩)
縮合物の合成に用いられる中性塩とは、強酸と強塩基とからなる正塩のことであり、例えば、カチオンとして第一族元素イオン、第二族元素イオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、グアニジウムイオンよりなる群から選ばれるいずれか1種と、アニオンとしてフッ化物イオンを除く第十七族元素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオンよりなる群から選ばれるいずれか1種との組合せからなる塩のことである。
【0156】
中性塩の中でも、触媒として用いるという観点から、(a)アニオンとしては求核性が高い第十七族元素イオンがより好ましく、(b)カチオンとしては、求核作用を阻害しないように、嵩高くないことが求められ、第一族元素イオン、第二族元素イオンがより好ましい。
【0157】
入手性および取扱い時の安全性に優れることから、使用される中性塩は、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ラビジウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ラビジウム、臭化セシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ラビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウムおよびヨウ化ストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0158】
中性塩の使用量が多い程、シラン化合物の加水分解および縮合反応は促進される。一方、得られる縮合物の透明性および精製工程などを考慮した場合には、中性塩の使用量は少ない程よい。本明細書において、「使用量」、「添加量」および「配合量」は同じ意味を示し、それぞれ相互置換可能である。
【0159】
中性塩の使用量は、シラン化合物の加水分解性シリル基1モルに対して、0.000001モル以上0.1モル以下が好ましく、0.000001モル以上0.01モル以下がより好ましく、0.000005モル以上0.05モル以下が特に好ましく、0.000005モル以上0.01モル以下が最も好ましい。
【0160】
(塩基性化合物)
縮合物の合成に用いられる塩基性化合物としては、塩基性であれば特に限定されない。前記塩基性化合物としては、例えば、(a)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、アンモニア等の無機塩基;および(b)トリエチルアミン、ジエチレントリアミン、n-ブチルアミン、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の有機塩基を使用することができる。これら塩基性化合物は、1種のみを単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。これら塩基性化合物の中でも、縮合物からの除去がし易いことから、無機塩基が好ましい。
【0161】
塩基性化合物の使用量が多い程、シラン化合物の加水分解および縮合反応は促進される。一方、得られる縮合物の透明性および精製工程などを考慮した場合には、塩基性化合物の使用量は少ない程よい。
【0162】
塩基性化合物の使用量は、シラン化合物の加水分解性シリル基1モルに対して、0.000001モル以上0.1モル以下が好ましく、0.000001モル以上0.01モル以下がより好ましく、0.000005モル以上0.05モル以下が特に好ましく、0.000005モル以上0.01モル以下が最も好ましい。
【0163】
エポキシ構造含有基を含有するシラン化合物に対する加水分解および縮合反応の触媒としての観点からは、塩基性化合物より中性塩の方が好ましい。当該構成によると、(a)シラン化合物中のエポキシ構造含有基の量に対する得られる縮合物中のエポキシ構造含有基の残存率が高く、(b)得られる縮合物の保存容器に対する腐食性がより低く、かつ(c)取り扱うときに人体に対する悪影響も低い場合が多い、という利点を有する。
【0164】
縮合物の合成における、加水分解および縮合反応に必要な水の量は、ケイ素原子に直接結合したOR基に対して0.40当量~20.00当量が好ましく、0.45当量~3.00当量がより好ましく、0.45当量~2.00当量がさらに好ましい。前記水の量が0.40当量以上である場合、OR基の一部が加水分解せずに残存してしまう虞がない。前記水の量が20当量以下である場合、加水分解および縮合反応の速度が大きすぎて高分子量の縮合物が生成され得る。その結果、得られるコーティング層の物性(耐衝撃性および硬度など)並びに透明性を低下させる場合がある。
【0165】
(溶剤)
縮合物の合成(製造)においては、製造上の安全性を考慮し、希釈溶剤および、加水分解により発生するアルコール等を還流しながら、行うことが好ましい。
【0166】
縮合物の製造において用いられる希釈溶剤としては、アルコールおよびエーテル化合物が好ましく、更に水溶性であることが好ましい。その理由としては、シラン化合物(I)および(II)は、中性塩および加水分解に用いる水との相溶性が低いものが多いため、反応を円滑に進める上で、反応溶液としては相溶していることが好ましいでためである。アルコールおよびエーテル化合物に対して、ケトンおよびエステル系の溶剤は、カルボニル基を有し、反応を阻害しやすいため、適切ではない。
【0167】
縮合物の製造において用いられる希釈溶剤の沸点としては、40℃~200℃が好ましく、50℃~200℃がより好ましく、60℃~250℃がさらに好ましく、60℃~230℃が特に好ましい。希釈溶剤の沸点が40℃以上である場合、低温で還流状態となって、反応の妨げとなる虞が無く、200℃以下である場合、高すぎないため反応後に取り除くことが容易であり、分液抽出等の煩雑な工程を組み込む必要が無いという利点を有する。
【0168】
縮合物の製造において用いられる希釈溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール(PGMEとも称する。)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。これら希釈溶剤は、1種のみを単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0169】
縮合物の製造における希釈溶剤の使用量は、水および希釈溶剤の合計量100重量%として、シラン化合物(I)および(II)合計量が90重量%以下となる量であることが好ましく、30重量%~80重量%となる量がより好ましく、40重量%~80重量%となる量であることが特に好ましい。希釈溶剤の使用量が前記範囲内であれば、反応系中におけるシラン化合物の濃度が低下することなく、反応速度が低下する虞がない。シラン化合物と水との相溶性を向上させる効果、および反応の進行に伴う系中の粘度上昇を抑え反応速度の低下を抑制する効果が期待できるため、希釈溶剤の使用量としては、適切な量を選択することが重要である。
【0170】
(温度)
縮合物の製造における反応温度は、40~200℃の範囲が好ましく、50~250℃の範囲がより好ましく、60~230℃の範囲がさらに好ましい。反応温度が40℃以上である場合、中性塩の触媒活性が低下することなく、反応時間が大幅に増加する虞がない。反応温度が200℃以下である場合、有機置換基が副反応を起こして失活してしまう虞がない。
【0171】
(金属酸化物粒子)
コーティング層は、必要に応じて、金属酸化物粒子をさらに含んでいてもよい。コーティング層が金属酸化物粒子を含む場合、得られるコーティング層はハードコート性が非常に優れるという利点を有する。
【0172】
金属酸化物粒子としては、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、酸化スズ(SnO)、ジルコニア(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタニア(TiO)、ITO(スズ・酸化インジウム)、酸化アンチモン(Sb、Sb)および、これらの複合粒子等を挙げることができる。これら金属酸化物粒子は、1種のみを使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0173】
金属酸化物粒子としては、これら金属酸化物粒子の中でも高硬度であることから、シリカ、アルミナ、ジルコニアおよび酸化アンチモンが好ましい。入手のしやすさ、コストおよび表面硬度などからシリカ粒子およびアルミナ粒子がさらに好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。
【0174】
金属酸化物粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、10nm~100nm以下であることが好ましく、10nm~40nm以下であることがより好ましく、10nm~30nm以下であることがさらに好ましく、10nm~20nm以下であることが特に好ましい。金属酸化物粒子の平均粒子径が100nm以下である場合、得られるコーティング層の透明性が損なわれる虞がない。金属酸化物粒子は、上述のように平均粒子径が小さいことが好ましく、換言すれば、微粒子であることが好ましい。
【0175】
金属酸化物粒子としては、以下のような市販品を使用することもできる。シリカとしては、(a)分散品(溶剤分散ゾル)として市販されているコロイダルシリカとして、メタノールシリカゾル、IPA-ST、MEK-ST、NBA-ST、XBA-ST、DMAC-ST、MIBK-ST、ST-UP、ST-OUP、ST-20、ST-40、ST-C、ST-N、ST-O、ST-50、ST-OL等[以上、日産化学工業(株)製]、並びにOSCALシリーズおよびELECOMシリーズ[以上、日揮触媒化成(株)製]等;および(b)粉体状で市販されているシリカ粒子として、アエロジル130、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルOX50等[以上、日本アエロジル(株)製]、シルデックスH31、H32、H51、H52、H121、H122等[以上、旭硝子(株)製]、E220A、E220等[以上、日本シリカ工業(株)製]、SYLYSIA470[富士シリシア(株)製]、並びにSGフレ-ク[日本板硝子(株)製]等を挙げることができる。アルミナとしては、(a)分散品として市販されているアルミナ粒子として、NANOBYK-3601、NANOBYK-3602、NANOBYK-3610等[以上、ビックケミー・ジャパン(株)製];(b)イソプロパノール分散品として市販されているアルミナ粒子として、AS-150I等[住友大阪セメント(株)製];および(c)トルエン分散品として市販されているアルミナ粒子として、AS-150T[住友大阪セメント(株)製]等を挙げることができる。ジルコニアとしては、トルエン分散品として市販されているジルコニア粒子として、HXU-110JC[住友大阪セメント(株)製]等を挙げることができる。また、アルミナ粒子、チタニア粒子、酸化スズ粒子、酸化インジウム粒子、酸化亜鉛粒子等の粉末および溶剤分散品として、商品名ナノテック[シーアイ化成(株)製]等も使用することができる。
【0176】
金属酸化物粒子の市販品として、ELECOM V-8802およびELECOM V-8804[以上、日揮触媒化成(株)製]は、コーティング層形成用組成物における金属酸化物粒子の分散性が高く、その結果、得られるコーティング層が、透明性、硬度および耐摩耗性に優れたものとなるため、好ましい。
【0177】
縮合物100重量部に対する金属酸化物粒子の含有量(使用量)は、0重量部~100重量部が好ましく、30重量部~80重量部がより好ましく、35重量部~80重量部がより好ましく、35重量部~75重量部がさらに好ましく、40重量部~70重量部が特に好ましい。金属酸化物粒子の前記含有量が100重量部以内である場合、コーティング層を形成できない虞、およびコーティング層の透明性および/または耐摩耗性が低下する虞がない。
【0178】
(その他添加剤)
コーティング層は、コーティング層の物性を調整するために、さらに各種の添加剤を適宜含んでいてもよい。コーティング層は、例えば、無機フィラー、無機顔料、有機顔料、可塑剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤、消泡剤等の通常塗料に用いられる添加剤をさらに含有することができる。
【0179】
(2-4.その他の層)
本積層体は、さらにその他の層(膜ともいえる)を含んでいてもよい。その他の層としては、例えば、高屈折率層、低屈折率層(反射防止コーティング層と称される場合もある。)、および帯電防止層などが挙げられる。その他の層は、基材のプライマー層が積層された面と反対側の面(すなわち基材の下側)に設けられてもよく、コーティング層のプライマー層が積層された面と反対側の面(すなわちコーティング層の上側)に設けられてもよい。
【0180】
(2-5.積層体の物性)
(透明性)
本積層体の透明性は、ヘイズ(Hz)によって評価できる。ヘイズ(Hz)は、積層体についてJIS K7361に準拠した色差計のD65光源を用いて測定できる。ヘイズ(Hz)が小さいほど、積層体が透明であり、すなわち透明性に優れることを意図する。本積層体は、ヘイズ(Hz)が、1.00以下であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましく、0.80以下であることがより好ましく、0.70以下であることがより好ましく、0.65以下であることがより好ましく、0.60以下であることがより好ましく、0.55以下であることがさらに好ましく、0.50以下であることが特に好ましい。
【0181】
(耐摩耗性)
本積層体の耐摩耗性は、スチールウール摩擦試験の前後における、当該積層体のヘイズ(Hz)の差によって評価できる。スチールウール摩擦試験は、積層体をコーティング層の上から、スチールウールを使用して所定の力をかけて、所定の回数、擦る試験である。スチールウールの摩擦により積層体に傷が入ると、積層体のヘイズが大きくなる。従って、チールウール摩擦試験の前後における、当該積層体のヘイズ(Hz)の差(ΔHz)が小さいほど、積層体が耐摩耗性に優れることを意図する。本積層体は、例えば、200gの力をかけ、100往復の条件にて実施するスチールウール摩擦試験の前後において、当該積層体のヘイズ(Hz)の差(ΔHz)が、1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.6以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましい。
【0182】
耐摩耗性は、コーティング層そのものの硬さにも影響を受けるが、積層体の積層方向に対する硬さにも影響を受け、積層体の積層方向に対する硬さが硬いほど、耐摩耗性に優れ、すなわち上述したΔHzが小さいと推察される。積層体の積層方向に対する硬さは、コーティング層そのものの硬さ以外に、基材の硬さ、プライマー層の厚さ、後述する混成領域Cの量および後述する混成領域Dの量等に影響を受け得る。それ故に、基材が硬いほど、プライマー層の厚さが薄いほど、混成領域Cの量が少ないほど、および/または混成領域Dの量が少ないほど、積層体は耐摩耗性に優れ、すなわち上述したΔHzが小さいと推察される。なお、本発明の一実施形態は、かかる推察に限定されない。
【0183】
(密着性)
本積層体の密着性は、コーティング層に対する剥離試験を行い得られた結果によって評価できる。剥離試験の方法については、下記実施例にて詳述する。
【0184】
(接触角)
本発明者は、驚くべきことに、(a)積層体のコーティング層上におけるコーティング層と水との接触角と、(b)当該積層体の耐摩耗性と、が、相関関係にあることを独自に見出した。積層体のコーティング層上におけるコーティング層と水との接触角(以下、コーティング層の接触角とも称する。)とは、積層体のコーティング層上に配置された水滴と当該コーティング層との接触角を意図する。
【0185】
コーティング層上におけるコーティング層および水の接触角は、Xより大きくX+20以下が好ましく、Xより大きくX+18以下がより好ましく、Xより大きくX+16以下がより好ましく、Xより大きくX+14以下がより好ましく、Xより大きくX+14未満がより好ましく、X+1~X+12がより好ましく、X+1~X+10がより好ましく、X+1~X+8がさらに好ましく、X+2~X+6がよりさらに好ましく、X+3~X+5が特に好ましい。当該構成によると、得られる積層体が、コーティング層の密着性優れ、かつ、耐摩耗性に優れるものとなる。
【0186】
ここで、前記接触角は、コーティング層上に配置された水滴と当該コーティング層との接触角であり、Xは、以下のようにして得られた積層体(X)(PETおよびコーティング層からなる積層体(X))のコーティング層(X)上に配置された水滴と当該コーティング層(X)との接触角である:積層体(X)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)上に、溶剤としてプロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME)のみを含むコーティング層形成用組成物を塗布した後、当該PETを80℃の環境下に2分放置して得られた積層体とする。積層体(X)の製造において、コーティング層形成用組成物を塗布したPETを80℃の環境下に2分放置することにより、コーティング層形成用組成物中のPGMEはほぼ全て除去され得る。
【0187】
積層体(X)は、プライマー層を含んでいないため、コーティング層(X)中にプライマー層の構成材料(例えば(メタ)アクリロニトリル重合体など)は含まれない。また、コーティング層(X)の形成に用いるコーティング層形成用組成物は、溶剤としてはPGMEのみを含み、PGMEはPETを溶解させない。そのため、得られたコーティング層(X)にPETは含まれない。すなわち、積層体(X)に含まれるコーティング層(X)は、コーティング層そのものと言える。従って、かかるコーティング層(X)を用いて測定された接触角の値は、コーティング層そのものと水滴との接触角と言える。
【0188】
コーティング層の接触角のXとの差は、積層体に積層されたコーティング層の親水性および/または疎水性が、コーティング層そのもの(すなわちコーティング層(X))の親水性および/または疎水性からどの程度変化しているかを反映しているといえる。すなわち、コーティング層の接触角のXとの差は、コーティング層の純度を反映しているといえる。混成領域Dの量は、コーティング層の純度に影響を与え得るため、混成領域Dの量が少ないほど、コーティング層の接触角のXとの差は小さくなると推察される。なお、本発明の一実施形態は、かかる推察に限定されない。
【0189】
〔3.積層体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法は、(a)アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を含む重合体、および(b)第一溶剤を含む、プライマー層形成用組成物を、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含む基材上に塗布する工程Aと、前記プライマー層形成用組成物から前記第一溶剤を除去することによりプライマー層を形成する工程Bと(a)下記一般式(I)で表される化合物(I)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合させて得られる縮合物、および(b)第二溶剤を含む、コーティング層形成用組成物を、前記プライマー層上に塗布する工程Cと、前記コーティング層形成用組成物から前記第二溶剤を除去することによりコーティング層を形成する工程Dとを有する:
-(SiR (OR3-a)・・・一般式(I);
一般式(I)中、Rは末端がエポキシ構造含有基で置換された炭素数1~10のアルキル基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基からなる群から選ばれる1価の炭化水素基または水素原子であり、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、aは0~2の整数である。
【0190】
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法では前記第二溶剤は以下の条件を満たす:
条件;前記第二溶剤のみが塗布された前記プライマー層を80℃で2分間放置したとき、当該プライマー層は溶解しない。
【0191】
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法を、単に本製造方法ともいう。
【0192】
本製造方法は上述した構成を有するため、耐摩耗性、透明性およびコーティング層の密着性に優れる積層体を提供できるという利点を有する。
【0193】
以下、本製造方法に関する各工程について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、〔2.積層体〕の項の記載を援用する。
【0194】
(3-1.工程A)
工程Aは、プライマー層形成用組成物を基材上に塗布する工程である。
【0195】
工程Aでは、すでに製造(調製)された基材を使用してもよく、工程Aがさらに基材を調製する基材調整工程含んでいてもよい。
【0196】
(基材調整工程(基材の製造方法))
基材調整工程では、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含む基材形成用組成物を使用して、基材を製造する。基材は、公知の加工方法により製造できる。
【0197】
基材は、公知の加工方法により製造できる。基材の公知の加工方法の具体例としては、溶融加工法、カレンダー成形法、プレス成形法、および溶剤キャスト法等が挙げられる。溶融加工法としては、インフレーション法およびTダイ押出法等が挙げられる。また、溶剤キャスト法では、基材形成用組成物を溶剤に溶解および分散させた後、得られた分散液を、ベルト状の支持体上に流涎する。次いで、流涎された分散液から溶剤を除去する(例えば揮発させる)ことにより、基材を得る。これらの方法の中では、溶剤を使用しない溶融加工法が好ましく、Tダイ押出法が特に好ましい。溶融加工法によれば、(a)表面性に優れた基材を高い生産性で製造でき、かつ(b)溶剤による自然環境および作業環境への負荷、並びに製造にかかるエネルギーおよびコストを低減することができる。
【0198】
基材は、厚さが10μm~700μmであるフィルムであってもよい。上述した基材の製造方法において、基材形成用組成物を適宜フィルム状に成型加工することにより、アクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂を含むフィルム状の基材(以下、基材フィルムと称する場合もある。)を製造することができる。また、基材フィルムの製造において、必要に応じて、基材形成用組成物をTダイ押出法でフィルム状に成形加工するときに、溶融状態のフィルム(基材形成用組成物)両面を冷却ロールまたは冷却ベルトに同時に接触させても(挟み込んでも)よい。これにより、表面性のより優れた基材フィルムを得ることができる。この場合、溶融状態のフィルムを、基材形成用組成物のガラス転移温度-5℃以下、好ましくはガラス転移温度-10℃以下の温度に維持した冷却ロールまたは冷却ベルトに同時に接触させるのが好ましい。
【0199】
このような挟み込みを行うためのロールの少なくとも一方として、例えば、特開2000-153547号公報および特開平11-235747号公報等に開示されたような弾性を有する金属スリーブを有するロールを使用することがより好ましい。そのようなロールを使用して、低い挟み込み圧力を用いてフィルム(基材形成用組成物)にロール鏡面の転写を行うことにより、平滑性に優れかつ内部歪のより少ない基材フィルムを得ることができる。
【0200】
また、溶融加工法により基材を製造する場合に、溶融状態の基材用樹脂組成物をフィルターおよび/またはメッシュを通過させてもよい。これにより、基材用樹脂組成物中の異物、例えば環境由来の異物、溶融加工時の樹脂劣化物、重合スケール等、を低減あるいは除去することができる。その結果、表面欠陥および/または内部欠陥の少ない、外観の優れた基材を製造することが出来る。このようなフィルターおよびメッシュは従来公知のものが広く使用できる。例えば、異物および欠陥を著しく低減させる場合には、好ましくは目開きが20ミクロン以下、より好ましくは10、5ミクロン以下のリーフディスク型フィルターおよびプリーツフィルターなどを使用することが望ましい。
【0201】
基材調製工程にて使用できる溶剤、すなわち基材形成用組成物を溶解する溶剤としては、特に限定されず、従来公知の溶剤を使用できる。
【0202】
(プライマー層形成用組成物)
プライマー層形成用組成物は、(a)アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を含む重合体((メタ)アクリロニトリル重合体)、および(b)第一溶剤を含む。
【0203】
(メタ)アクリロニトリル重合体については、(2-2.プライマー層)にて詳述した重合体を使用でき、ここでは説明を省略する。
【0204】
(第一溶剤)
第一溶剤としては、(a)メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、および(b)酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル(BuOAC)などのエステル系溶剤、などが挙げられる。
【0205】
プライマー層形成用組成物を基材上に塗布した後、基材とプライマー層との界面において、基材の表面がプライマー層形成用組成物に含まれる第一溶剤により、わずかに溶かされる場合(以下、場合Cとする)がある。場合Cでは、基材の構成材料(例えばアクリル系樹脂および/またはポリカーボネート系樹脂などの樹脂)とプライマー層の構成材料(例えば(メタ)アクリロニトリル重合体など)とが混ざり合った混成領域(混成領域Cと称する場合もある。)が形成され得る。その結果、場合Cでは、最終的に得られるプライマー層は、基材上にから剥離され難いという利点を有する。
【0206】
第一溶剤としては、MIBKおよびシクロヘキサノンなどのケトン系溶剤であり、かつ極性が低い溶剤が好ましい。極性が低い溶剤は空気中の水分を吸収しないためプライマー層の白化を抑制できる。そのため、当該構成によると、コーティング層の外観に優れる積層体を提供することができる。
【0207】
上述した第一溶剤は、1種を単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0208】
プライマー層形成用組成物中の第一溶剤の含有量は、特に限定されない。プライマー層形成用組成物(100重量%)中の第一溶剤の含有量は、例えば、5重量%~25重量%が好ましく、10重量%~25重量%がより好ましく、10重量%~20重量%がさらに好ましく、10重量%~15重量%が特に好ましい。プライマー層形成用組成物(100重量%)中の第一溶剤の含有量が、(a)5重量%以上である場合、所望の膜厚のプライマー層を得るために多量の第一溶剤を必要とすることが無いため、生産コストおよび環境負荷が小さいという利点を有し、(b)25重量%以下である場合、プライマー層形成用組成物の粘度が高くなりすぎないため、取り扱いおよび塗布が容易になるという利点を有する。
【0209】
(プライマー層形成用組成物の塗布方法)
プライマー層形成用組成物を基材上に塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、キスコート法、ワイヤーバーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0210】
工程Aにおいて、基材上に塗布するプライマー層形成用組成物の厚さは特に限定されない。工程Aは、基材上に、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上、特に好ましくは1.0μm以上の厚さにてプライマー層形成用組成物を塗布する工程を含むことが好ましい。当該構成によると、コーティング層の密着性により優れる積層体が得られるという利点を有する。
【0211】
工程Aは、基材上に、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.8μm以下、特に好ましくは1.5μm以下の厚さにてプライマー層形成用組成物を塗布する工程を含むことが好ましい。当該構成によると、耐摩耗性および透明性により優れる積層体が得られるという利点を有する。
【0212】
(3-2.工程B)
工程Bにおいて、基材上に塗布されたプライマー層形成用組成物から第一溶剤を除去することにより、基材上にプライマー層が形成される。工程Bにおいて、基材上に塗布されたプライマー層形成用組成物から第一溶剤を除去する方法としては、特に限定されない。例えば、工程Aで得られた基材(プライマー層形成用組成物が塗布された基材)を高温環境下で一定時間放置することにより、プライマー層形成用組成物中の第一溶剤を揮発させることができる。その結果、基材上に塗布されたプライマー層形成用組成物から第一溶剤を除去することができる。なお、工程Bにおいて、プライマー層形成用組成物中の第一溶剤は、少なくとも一部分が除去されればよいが、除去される量が多いほど好ましい。
【0213】
工程Bにおいて、プライマー層形成用組成物が塗布された基材を放置する温度としては、第一溶剤の少なくとも一部分を除去することができる限り特に限定されない。プライマー層形成用組成物が塗布された基材を放置する温度としては、20℃~150℃が好ましく、40℃~140℃がより好ましく、50℃~130℃がさらに好ましく、60℃~120℃が特に好ましい。当該構成によると、(a)第一溶剤の除去効率に優れ、かつ(b)基材および得られるプライマー層に変形などの悪影響が生じない、という利点を有する。
【0214】
工程Bにおいて、プライマー層形成用組成物が塗布された基材を高温環境下で放置する時間としては、第一溶剤の少なくとも一部分を除去することができる限り特に限定されない。プライマー層形成用組成物が塗布された基材を高温環境下で放置する時間としては、6秒間~30分間が好ましく、30秒間~10分間がより好ましく、1分間~5分間が特に好ましい。当該構成によると、(a)第一溶剤の除去効率に優れ、かつ(b)基材および得られるプライマー層に変形などの悪影響が生じない、という利点を有する。
【0215】
得られたプライマー層中に残存する第一溶剤は、工程Cで塗布されるコーティング層形成用組成物と混ざり、その結果、得られるコーティング層の物性(透明性および耐摩耗性など)が変化する場合がある。優れた透明性および耐摩耗性を有する積層体を得るために、工程Bでは、プライマー層形成用組成物に含まれる第一溶剤が可能な限り除去されることが好ましい。工程Bは、プライマー層形成用組成物が塗布された基材を、80℃で2分間以上放置する工程を有することが好ましい。当該構成によると、(a)第一溶剤がより多く除去され、かつ(b)基材および得られるプライマー層に変形などの悪影響が生じない、という利点を有する。
【0216】
(3-3.工程C)
工程Cは、コーティング層形成用組成物をプライマー層上に塗布する工程である。
【0217】
(コーティング層形成用組成物)
コーティング層形成用組成物は、(a)前記一般式(I)で表される化合物(I)を含むシラン化合物を、加水分解および縮合させて得られる縮合物、および(b)第二溶剤を含む。
【0218】
縮合物については、(2-3.コーティング層)にて詳述した縮合物を使用でき、ここでは説明を省略する。
【0219】
(第二溶剤)
第二溶剤は、以下の条件を満たす限り、特に限定されない。
【0220】
条件;第二溶剤のみが塗布されたプライマー層を80℃で2分間放置したとき、当該プライマー層は溶解しない。
【0221】
第二溶剤としては、例えば、好ましくは、(a)プロピレングリコールモノエチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール、PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(PGMEA)、BuOACなどのエステル系溶剤、および(b)MIBKなどのケトン系溶剤、などが挙げられる。
【0222】
コーティング層形成用組成物をプライマー層上に塗布した後、プライマー層とコーティング層との界面において、プライマー層の表面がコーティング層形成用組成物に含まれる第二溶剤により、わずかに溶かされる場合(以下、場合Dとする)がある。場合Dでは、プライマー層の構成材料(例えば(メタ)アクリロニトリル重合体など)とコーティング層の構成材料(例えば縮合物など)とが混ざり合った混成領域(混成領域Dと称する場合もある。)が形成され得る。混成領域Dが多い程、最終的に得られるコーティング層は、プライマー層上にから剥離され難い。混成領域Dが少ない程、最終的に得られる積層体は、接触角のXとの差が小さくなり、かつ耐摩耗性および透明性に優れる。
【0223】
第二溶剤としては、コーティング層の密着性に優れ、かつ耐摩耗性および透明性に優れる積層体が得られることから、PGME、BuOACおよびMIBKが好ましく、PGMEが特に好ましい。PGMEは、熱による揮発速度が速い。そのため、第二溶剤がPGMEである場合、第二工程においてコーティング層形成用組成物が塗布された基材を高温環境下で放置する時間を短くすることができる。その結果、コーティング層形成用組成物、プライマー層および基材への熱ダメージを減らすことができる。
【0224】
上述した第二溶剤は、1種を単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0225】
コーティング層形成用組成物中の第二溶剤の含有量は、特に限定されない。コーティング層形成用組成物(100重量%)中の第二溶剤の含有量は、例えば、1重量%~99重量%が好ましく、10重量%~95重量%がより好ましく、15重量%~90重量%がさらに好ましく、20重量%~85重量%が特に好ましい。当該構成によると、第二溶剤を含むコーティング層形成用組成物の粘度が安定しており、コーティング層形成用組成物の取り扱い性が優れたものとなる。その結果、コーティング層形成用組成物の塗布方法に依存することなく、コーティング層の外観性に優れる積層体を得ることができる。
【0226】
コーティング層に含まれる縮合物は、コーティング層形成中および形成後に、縮合物中のエポキシ構造を介して架橋構造が形成され、硬化物となることが好ましい。縮合物を容易に硬化させることができることから、コーティング層形成用組成物は光酸発生剤、光増感剤および/またはラジカル発生剤を含むことが好ましい。
【0227】
(光酸発生剤)
光酸発生剤は、活性エネルギー線に暴露されることにより酸を発生する化合物である。光酸発生剤は、たとえば、強酸、オニウム塩類、鉄-アレン錯体類、シラノール-金属キレート錯体類、スルホン酸誘導体、有機ハロゲン化合物類などが挙げられる。光酸発生剤としては、また、特開平5-134412号公報に示される放射線の照射により酸を発生する化合物が挙げられる。
【0228】
縮合物を含むコーティング層形成用組成物中の安定性が高く、かつ入手し易いことから、光酸発生剤としては、オニウム塩類である芳香族スルホニウム塩または芳香族ヨードニウム塩が好ましい。硬化が速く、かつ密着性に優れることから、芳香族スルホニウム塩または芳香族ヨードニウム塩のカウンターアニオンが、フルオロフォスフェート系アニオン、フルオロアンチモネート系アニオンまたはフルオロボレート系アニオンであることが好ましい。特に、芳香族スルホニウム塩または芳香族ヨードニウム塩のカウンターアニオンがフルオロフォスフェート系アニオンまたはフルオロアンチモネート系アニオンであることが好ましい。このような好ましい光酸発生剤としては、ジフェニル(4-フェニルチオフェニル)スルホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート、または、ジフェニル(4-フェニルチオフェニル)スルホニウム・ヘキサフルオロアンチモネートが挙げられる。
【0229】
光酸発生剤の使用量は、生成する酸の発生量および発生速度に応じて適宜調整され得る。コーティング層形成用組成物中の、縮合物(固形分)100重量部に対する光酸発生剤の含有量は、0.05~30.00重量部であることが好ましく、0.10~10.00重量部であることがより好ましい。コーティング層形成用組成物中の、縮合物(固形分)100重量部に対する光酸発生剤の含有量が、(a)0.05重量部以上である場合、生成する酸が不足することなく、得られるコーティング層の硬度および/または耐摩耗性が充分となり、(b)30.00重量部以下である場合、得られるコーティング層の外観の低下および/または当該コーティング層の着色などの問題が発生しないという利点がある。
【0230】
(ラジカル発生剤)
シラン化合物が、化合物(I)に加えて、化合物(II)として化合物(II-1)を含み、かつ、Rに含まれる置換基がラジカル発生剤によって反応性を発現する場合、コーティング層形成用組成物はラジカル発生剤を含んでいることが好ましい。化合物(II-1)のRに含まれる置換基がラジカル重合性を有する場合、ラジカル発生剤は、化合物(II-1)の重合開始剤として作用する。
【0231】
ラジカル発生剤としては、特に限定されるものではなく、一般的に光および/または熱エネルギーを与えることでラジカルを発生させる化合物として知られているものはすべて使用できる。
【0232】
発生させるラジカル種として使用できるものは、炭素ラジカル、酸素ラジカル、チイルラジカル、等がある。チイルラジカルを発生させる化合物は貯蔵安定性に乏しく、また一般的な重合禁止剤を用いて重合を禁止(停止)し難い。そのため、ラジカル種としては炭素ラジカルまたは酸素ラジカルが好ましく、ラジカル源としては、炭素ラジカルまたは酸素ラジカルを発生させるものが好ましい。ラジカル発生剤としては、例えば、光ラジカル発生剤、熱ラジカル発生剤等を用いることができる。
【0233】
(光ラジカル発生剤)
光ラジカル発生剤は、活性エネルギー線に暴露されることによりラジカルを発生する化合物である。光ラジカル発生剤は、例えば化合物(II-1)に対する重合開始剤として作用する。
【0234】
光ラジカル発生剤の具体例としては、カルボニル化合物、硫黄化合物、およびアシルフォスフィンオキサイド等を挙げることができる。カルボニル化合物としては、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p-メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等が挙げられる。硫黄化合物としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。アシルフォスフィンオキサイドとしては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これら光ラジカル発生剤は1種のみを使用しても良く、硬化速度等を考慮して2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0235】
光ラジカル発生剤は、市販品として入手することができる。例えば、IRGACURE127、IRGACURE184、IRGACURE819などのIRGACUREシリーズ、並びに、DAROCUR1173、DAROCUR TPOなどのDAROCURシリーズ[以上、BASF社製]、KAYACURE DETX-S、KAYACURE CTXなどのKAYACUREシリーズ[以上、日本化薬(株)製]、TAZ-101、TAZ-110などのTAZシリーズ[以上、みどり化学(株)製]等が市販されている。
【0236】
光ラジカル発生剤の使用量は、生成するラジカルの発生量、および目的の分子量に応じて適宜調整され得る。コーティング層形成用組成物中の、縮合物100重量部に対する光ラジカル発生剤の含有量は、0.05重量部~50.00重量部が好ましく、0.10重量部~30.00重量部がより好ましい。コーティング層形成用組成物中の、縮合物100重量部に対する光ラジカル発生剤の含有量が、(a)0.05重量部以上である場合、生成するラジカルが不足することなく、縮合物が充分に硬化するため、得られるコーティング層中にタックが生じることがなく、(b)50.00重量部以下である場合、得られるコーティング層の着色性および耐候性が低下するなどの問題が発生する虞がない。
【0237】
(熱ラジカル発生剤)
熱ラジカル発生剤は、加熱することによりラジカルを発生する化合物である。熱ラジカル発生剤は、例えばシラン化合物(II-1)に対する重合開始剤として作用する。
【0238】
熱ラジカル発生剤の具体例としては、代表的な重合開始剤を例示すると、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーカーボネート、アゾ化合物等を挙げることができる。ジアシルパーオキサイドとしては、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等が挙げられる。パーオキシエステルとしては、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。パーカーボネートとしては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。これら熱ラジカル発生剤は1種のみを使用しても良く、硬化速度等を考慮して2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0239】
熱ラジカル発生剤の使用量は、生成するラジカルの発生量、および目的の分子量に応じて適宜調整され得る。コーティング層形成用組成物中の、縮合物100重量部に対する熱ラジカル発生剤の含有量は、0.05重量部~50.00重量部が好ましく、0.10重量部~30.00重量部がより好ましい。コーティング層形成用組成物中の、縮合物100重量部に対する熱ラジカル発生剤の含有量が、(a)0.05重量部以上である場合、生成するラジカルが不足することなく、縮合物が充分に硬化するため、得られるコーティング層中にタックが生じることがなく、(b)50.00重量部以下である場合、得られるコーティング層の着色性および耐候性が低下するなどの問題が発生する虞がない。
【0240】
また、光ラジカル発生剤と熱ラジカル発生剤とは混合して用いても構わない。光ラジカル発生剤を用いる場合には、3級アミン等の公知の重合促進剤を光ラジカル発生剤と組み合わせて使用することができる。
【0241】
(光増感剤)
光増感剤は、光酸発生剤の感光性を向上させることができる。ラジカル発生剤が活性エネルギー線を照射することで性能を発現する場合には、光増感剤は、ラジカル発生剤の感光性を向上させることができる。光増感剤は、使用する光酸発生剤およびラジカル発生剤では吸収できない波長域の光を吸収できるものがより効率的である。そのため、使用する光酸発生剤およびラジカル発生剤の吸収波長域と重なりが少ない吸収波長域を有する光増感剤を使用することが好ましい。
【0242】
光増感剤としては、特に限定されない。光増感剤としては、例えば、アントラセン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、ベンゾイン誘導体等が挙げられる。光増感剤としては、これらの中でも、酸化電位が低く、電子移動に関与する一重項あるいは三重項状態の励起エネルギーの高いものが理想的である。光増感剤としては、光誘起電子供与性の観点から、アントラセン誘導体、チオキサントン誘導体、および、ベンゾフェノン誘導体が好ましい。光増感剤としては、より詳しくは、9,10-ジアルコキシアントラセン、2-アルキルチオキサントン、2,4-ジアルキルチオキサントン、2-アルキルアントラキノン、2,4-ジアルキルアントラキノン、p,p’-アミノベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-アルコキシベンゾフェノン、ベンゾインエーテル等が挙げられる。光増感剤としては、さらに具体的には、アントロン、アントラセン、9,10-ジフェニルアントラセン、9-エトキシアントラセン、ピレン、ペリレン、コロネン、フェナントレン、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2-ベンゾイル安息香酸ブチル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン-i-ブチルエーテル、9-フルオレノン、アセトフェノン、p,p’-テトラメチルジアミノベンゾフェノン、p,p’-テトラエチルアミノベンゾフェノン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、フェノチアジン、アクリジンオレンジ、ベンゾフラビン、セトフラビン-T、2-ニトロフルオレン、5-ニトロアセナフテン、ベンゾキノン、2-クロロ-4-ニトロアニリン、N-アセチル-p-ニトロアニリン、p-ニトロアニリン、N-アセチル-4-ニトロ-1-ナフチルアミン、ピクラミド、アントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、3-メチル-1,3-ジアザ-1,9-ベンズアンスロン、ジベンザルアセトン、1,2-ナフトキノン、3,3’-カルボニル-ビス(5,7-ジメトキシカルボニルクマリン)、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン等が挙げられる。これら光増感剤は、1種のみを使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0243】
光増感剤の使用量は、目的とする硬化速度に応じて適宜調整すればよい。コーティング層形成用組成物中の、光酸発生剤100重量部に対する光増感剤の含有量は、0.1重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がより好ましく、また、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましい。コーティング層形成用組成物中の、光酸発生剤100重量部に対する光増感剤の含有量が、(a)0.1重量部以上である場合、目的とする光増感剤の効果を十分に得ることができるため、得られるコーティング層の硬度および/または耐摩耗性が充分となり、(b)10重量部以下である場合、得られるコーティング層が着色する虞、およびコストアップに繋がる虞がない。
【0244】
(脂環式エポキシ化合物)
コーティング層形成用組成物は、脂環式エポキシ化合物をさらに含んでいてもよい。脂環式エポキシ化合物は、反応性希釈剤として使用することができ、活性エネルギー線照射前のコーティング層形成用組成物の取り扱い性および作業性を上げることができる。脂環式エポキシ化合物としては、例えば、(a)3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ダイセル化学工業株式会社製:商品名「セロキサイド2021P」)、イプシロン-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ダイセル化学工業株式会社製:商品名「セロキサイド2081」)、1,2,8,9-ジエポキシリモネン(例えば、ダイセル化学工業株式会社製:商品名「セロキサイド3000」)、ビニルシクロヘキセンモノオキサイド1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン(例えば、ダイセル化学工業株式会社製:商品名「セロキサイド2000」)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(例えば、ダイセル化学工業株式会社製:商品名「EHPE-3150」)、ビス-(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート等の脂環式エポキシ化合物、(b)環状脂肪族炭化水素に直接または炭化水素を介してエポキシが付加したエポキシ化合物、および(c)トリグリシジルイソシアヌレート等のヘテロ環含有のエポキシ化合物、等の脂環式エポキシド等を挙げることができる。脂環式エポキシ化合物としては、これらの中では、エポキシシクロヘキシル基を有するエポキシ化合物が好ましく、低粘度の液状化合物である3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートがより好ましい。
【0245】
コーティング層形成用組成物中の、縮合物100重量部に対する脂環式エポキシ化合物の使用量は、0重量部~100重量部が好ましく、0重量部~50重量部がより好ましい。コーティング層形成用組成物中の、縮合物100重量部に対する脂環式エポキシ化合物の使用量が100重量以下である場合、得られるコーティング層の硬度および/または耐摩耗性が低下する虞がない。
【0246】
(コーティング層形成用組成物の製造方法)
コーティング層形成用組成物の製造方法としては、特に限定されない。コーティング層形成用組成物の製造方法としては、例えば、(a)(a-1)縮合物および第二溶剤、並びに、任意で光酸発生剤、光増感剤、ラジカル発生剤および/または脂環式エポキシ化合物を準備し、(a-2)必要であれば遮光して、ハンドミキサーおよびスタティックミキサー等を用いてこれら原料を混合し、(a-3)プラネタリーミキサー、ディスパー、ロール、およびニーダーなどを用いて、常温または加熱下で得られた混合物を混練する方法;および(b)(b-1)縮合物、並びに、任意で光酸発生剤、光増感剤、ラジカル発生剤および/または脂環式エポキシ化合物を準備し、(b-2)任意の適した溶剤を少量使用して、これら原料の各々を溶解し、得られた溶液を混合する方法、等の通常の方法が挙げられる。
【0247】
(コーティング層形成用組成物の塗布方法)
コーティング層形成用組成物を基材上に塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、キスコート法、ワイヤーバーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0248】
工程Cにおいて、プライマー層上に塗布するコーティング層形成用組成物の厚さは特に限定されない。工程Cは、プライマー層上に、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、特に好ましくは0.10μm以上の厚さにてコーティング層形成用組成物を塗布する工程を含むことが好ましい。プライマー層上に0.01μm以上の厚さにてコーティング層形成用組成物を塗布することにより、所望の耐摩耗性および/または耐薬品性を有する積層体を提供することができる。
【0249】
工程Cは、基材上に、好ましくは30.00μm以下、より好ましくは20.00μm以下、特に好ましくは10.00μm以下の厚さにてコーティング層形成用組成物を塗布する工程を含むことが好ましい。当該構成によると、余剰なコーティング層形成用組成物の形成による余剰な第二溶剤の揮発を抑制することができる。その結果、環境負荷が小さく、低コストであり、かつ耐摩耗性、透明性およびコーティング層の密着性に優れる、積層体を提供することができる。
【0250】
(3-4.工程D)
工程Dにおいて、プライマー層上に塗布されたコーティング層形成用組成物から第二溶剤を除去することにより、プライマー層上にコーティング層が形成され、積層体が製造される。工程Dにおいて、プライマー層上に塗布されたコーティング層形成用組成物から第二溶剤を除去する方法としては、特に限定されない。例えば、工程Cで得られた基材(基材上に形成されたプライマー層上にコーティング層形成用組成物が塗布された基材)を高温環境下で一定時間放置することにより、コーティング層形成用組成物中の第二溶剤を揮発させることができる。その結果、プライマー層上に塗布されたコーティング層形成用組成物から第二溶剤を除去することができる。なお、工程Dにおいて、コーティング層形成用組成物中の第二溶剤は、少なくとも一部分が除去されればよいが、除去される量が多いほど好ましい。
【0251】
工程Dにおいて、コーティング層形成用組成物が塗布された基材を放置する温度としては、第二溶剤の少なくとも一部分を除去することができる限り特に限定されない。コーティング層形成用組成物が塗布された基材を放置する温度としては、20℃~150℃が好ましく、40℃~140℃がより好ましく、50℃~130℃がさらに好ましく、60℃~120℃が特に好ましい。当該構成によると、(a)第二溶剤の除去効率に優れ、かつ(b)基材、プライマー層および得られるコーティング層に変形などの悪影響が生じない、という利点を有する。
【0252】
工程Dにおいて、コーティング層形成用組成物が塗布された基材を高温環境下で放置する時間としては、第二溶剤の少なくとも一部分を除去することができる限り特に限定されない。コーティング層形成用組成物が塗布された基材を高温環境下で放置する時間としては、6秒間~30分間が好ましく、30秒間~10分間がより好ましく、1分間~5分間が特に好ましい。当該構成によると、(a)第二溶剤の除去効率に優れ、かつ(b)基材、プライマー層および得られるコーティング層に変形などの悪影響が生じない、という利点を有する。
【0253】
(3-5.硬化工程)
本製造方法は、工程D中に、または工程D後に、コーティング層に含まれる縮合物を硬化(架橋)させる硬化工程をさらに含むことが好ましい。
【0254】
縮合物の硬化方法としては特に限定されず、(a)工程D中の基材または工程Dにて得られた基材を加熱する方法、および(b)工程D中の基材のコーティング形成用組成物もしくはコーティング層または工程Dにて得られた基材のコーティング層に光(例えば活性エネルギー線)を照射する方法、等が挙げられる。縮合物を効率的に硬化させることができることから、硬化工程は、工程D中の基材のコーティング形成用組成物もしくはコーティング層または工程Dにて得られた基材のコーティング層に光(例えば活性エネルギー線)を照射する工程を含むことが好ましい。
【0255】
活性エネルギー線としては、可視光、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、δ線などを挙げることができるが、反応速度が速く、活性エネルギー線発生装置が比較的安価であるという点からは、紫外線が最も好ましい。
【0256】
活性エネルギー線の照射量としては、50mJ/cm~10,000mJ/cmの積算光量が好ましく、100mJ/cm~2,000mJ/cmの積算光量がより好ましい。活性エネルギー線の照射量が50mJ/cm以上である場合、光量が十分量であるために、硬化に時間がかかりすぎることがなく、生産性が良好となる。活性エネルギー線の照射量が10,000mJ/cm以下である場合、綺麗に硬化し、基材を傷める虞がない。
【0257】
本積層体の製造方法は、上述した製造方法に限定されない。例えば、基材、プライマー層およびコーティング層の各々を別々に調製した後、それらをラミネート等の方法により、基材、プライマー層およびコーティング層の順に積層する方法によって、本積層体を製造することもできる。
【0258】
〔4.用途〕
本積層体および/または本製造方法にて得られる積層体は、様々な用途に使用できる。本積層体および/または本製造方法にて得られる積層体は、例えば、パソコン、スマートフォンおよびタブレット等のディスプレイおよび/または前面板、自動車等の窓ガラス、自動車等のランプの保護具材、自動車等の内蔵型情報表示機器の表示部、並びにフィルム等に好適に使用できる。
【0259】
本積層体および/または本製造方法にて得られる積層体を備える積層品もまた、本発明の一実施形態である。
【0260】
本積層体および/または本製造方法にて得られる積層体を備えるディスプレイもまた、本発明の一実施形態である。
【実施例
【0261】
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0262】
実施例および比較例で得られた各積層体に対する評価方法は、以下のとおりである。
【0263】
(密着性)
JIS規格K5600-5-6(ISO 2409:1992)に基づいて、積層体のコーティング層を1mm間隔でクロスカットし、直角の格子パターンを100マス分(10マス×10マス)形成した。当該格子パターン(100マス)の上からコーティング層にセロハン粘着テープ(NICHIBAN社製、セロテープ(登録商標);エルパック、LP-24、テープ幅24mm、粘着力4.01N/10mm)を、張り付けその後剥離する操作を4回行った。セロテープ(登録商標)の張り付けおよび剥離の1回毎に、コーティング層上に残っている格子パターンのマス数を計測した。結果を表1~4の密着性の欄に示す。
【0264】
(コーティング層の接触角)
積層体のコーティング層上に水滴を配置し、接触角測定装置(協和界面科学社製、CA-S 150)を用いて、コーティング層と水滴との静的接触角(θ/2法)を測定した。結果を表1~3に示す。ここで、比較例7は、基材がポリエチレンテレフタレート(PET)であり、プライマー層を含んでいない。比較例7は、第二溶剤としてPGMEを含むコーティング層形成用組成物を基材であるPET上に塗布した後、当該PETを80℃の環境下に2分放置して得られた積層体である。それ故に、比較例7は積層体(X)といえ、比較例7の接触角はXといえる。比較例7のコーティング層の接触角Xは55であった。ここで、実施例1~10および比較例1~15では、コーティング層形成用組成物の組成は第二溶剤以外全て同一である。実施例1~10および比較例1~15のコーティング層の接触角は、積層体(X)である比較例7のコーティング層の接触角X(55)よりどの程度大きいかを正(+)の値で示した。例えば実施例1の接触角の値は、X+8であり、これは実施例1の接触角の値が63(=55+8)であることを示す。
【0265】
(透明性)
透明性の評価は、ヘイズ(Hz)を測定することで行った。以下の実施例および比較例で得られた各積層体、および当該各積層体に対する耐摩耗試験後の各積層体について、JIS K7361に準拠した色差計(日本電色工業株式会社製、COH-400)のD65光源を用いて、ヘイズ(Hz)を測定した。ヘイズ(Hz)の値が小さいほど透明性に優れることを意図する。結果を表1~3に示す。
【0266】
(耐摩耗性試験)
消しゴム磨耗試験機[(株)光本製作所製]を用い、スチールウール#0000に200g/cmの荷重をかけて、得られた積層体のコーティング層上を100回往復させた。かかる耐摩耗性試験後に上述の方法で積層体のヘイズ(Hz)を測定した。耐摩耗性試験後のヘイズ(Hz)の値から耐摩耗性試験前(すなわち実施例および比較例で得られた積層体)のヘイズ(Hz)の値を引き、その差をΔHzとした。結果を表1~3に示す。
【0267】
実施例および比較例で用いた物質等は、以下のとおりである。
[基材]
B-1;下記製造例1で製造された基材であり、アクリル系樹脂およびグラフト共重合体粒子を含む基材。
B-2;ポリカーボネート樹脂(EC-100(住友ベークライト社製))
B-3;ポリエチレンテレフタレート(A-4100(東洋紡社製))
B-4;ポリイミドApical(25NPI)(カネカ社製)
[プライマー層]
プライマー層の形成に使用した重合体および第一溶剤は以下の通りである。
<重合体>
P-1;下記製造例5で製造された重合体
P-2;下記製造例6で製造された重合体
P-3;下記製造例7で製造された重合体
P-4;下記製造例8で製造された重合体
P-5;(メタ)アクリロニトリル重合体(STYLAC T8707(旭化成社製))
下記に記載の方法でNMRにて測定したところ、STYLAC T8707は、STYLAC T8707を構成する全構成単位100重量%中、アクリロニトリルおよび/または前記メタクリロニトリルに由来する構成単位を19重量%含むものであった。
P-6;(メタ)アクリロニトリル重合体(STYLAC T8701(旭化成社製))
下記に記載の方法でNMRにて測定したところ、STYLAC T8701は、STYLAC T8701を構成する全構成単位100重量%中、アクリロニトリルおよび/または前記メタクリロニトリルに由来する構成単位を24重量%含むものであった。
P-7;(メタ)アクリロニトリル重合体(STYLAC T789(旭化成社製))
下記に記載の方法でNMRにて測定したところ、STYLAC T789は、STYLAC T789を構成する全構成単位100重量%中、アクリロニトリルおよび/または前記メタクリロニトリルに由来する構成単位を30重量%含むものであった。
P-8;(メタ)アクリロニトリル重合体(STYLAC T709(旭化成社製))
下記に記載の方法でNMRにて測定したところ、STYLAC T709は、STYLAC T709を構成する全構成単位100重量%中、アクリロニトリルおよび/または前記メタクリロニトリルに由来する構成単位を34重量%含むものであった。
P-9;ポリメタクリル酸メチル(スミペックス(登録商標)EX(住友化学株式会社製))
P-10;ポリスチレン樹脂(PS680(PSジャパン社製))
P-11;ポリエステル系樹脂(8DL-100(大成ファインケミカル社製))
P-12;ポリエ-テル系樹脂(8UA-017(大成ファインケミカル社製))
P-13;ポリエステル系樹脂(8UA-140(大成ファインケミカル社製))
P-14;ポリカーボネート系樹脂(8UA-347A(大成ファインケミカル社製))
P-15;ポリエ-テル系樹脂(8UA-239(大成ファインケミカル社製))
P-16;ポリエステル系樹脂(8UA-318(大成ファインケミカル社製))
P-17;ニトロセルロース系樹脂(TOMAX FS-1031(日本加工塗料社製))
P-18;ニトロセルロース系樹脂(TOMAX FA-2033(日本加工塗料社製))
ここで、P-9~P-18の重合体は、アクリロニトリルおよび/または前記メタクリロニトリルに由来する構成単位を含んでいない。
<第一溶剤>
メチルイソブチルケトン(三菱ケミカル社製)
[コーティング層]
コーティング層の形成に使用した縮合物、第二溶剤およびその他の材料は以下の通りである。
<縮合物>
コーティング層に含まれる縮合物としては、下記製造例9で製造された縮合物を使用した。縮合物の製造に使用した材料は以下の通りである。
(シラン化合物)
(化合物(I))
A-186:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、分子量246.3
(中性塩)
塩化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製、特級、分子量95.2)
(塩基性化合物)
TEA:トリエチルアミン(和光純薬工業株式会社製、分子量101.2)
<(メタ)アクリレート化合物>
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業株式会社製、分子量578)
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業株式会社製、分子量296)
HDDA:ヘキサンジオールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、分子量226)
<光酸発生剤>
CPI-101A:サンアプロ株式会社製、トリアリールスルホニウム・SbF塩(有効成分50%の炭酸プロピレン溶液)
ALCH-TR:川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート
<ラジカル発生剤>
2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン:東京化成工業株式会社製、分子量164.2
<第二溶剤>
PGME:1-メトキシ-2-プロパノール(株式会社ダイセル製、分子量90)
BuOAC:酢酸ブチル(KHネオケム社製)
[基材の調製]
(製造例1;アクリル系樹脂を含む基材(B-1)の調製)
(1-1;グラフト共重合体粒子(A1)の調製)
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
・脱イオン水 200部
・ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム 0.24部
・ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレ-ト 0.15部
・エチレンジアミン四酢酸-2-ナトリウム 0.001部
・硫酸第一鉄 0.00025部
その後、重合装置内の気体を窒素ガスで充分に置換し、重合装置内に実質的に酸素のない状態とした後、重合装置内の温度を60℃にし、下記混合物(I)30部を10部/時間の割合で連続的に添加した。混合物(I)の添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、架橋エラストマー(Ac1)の粒子(平均粒子径80nm)のラテックスを得た。重合転化率は99.5%であった。
【0268】
混合物(I)の配合割合:
・ビニル単量体混合物(アクリル酸n-ブチル(BA)90重量%およびメタクリル酸メチル(MMA)重量10%) 10部
・アリルメタクリレート(AlMA) 1部
・クメンハイドロパーオキサイド(CHP) 0.2部
その後、重合装置にジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、重合装置内の温度を60℃にし、グラフトポリマー層(As1)形成のために、下記混合物(II)70部を10部/時間の割合で連続的に添加した。混合物(II)の添加終了後、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体粒子(A1)(平均粒子径90nm)のラテックスを得た。重合転化率は98.2%であった。得られたラテックスを目開き10μmのステンレス製メッシュで濾過した後、塩化カルシウムで塩析して、グラフト共重合体粒子(A1)を凝固させた。得られた凝固物を水洗、乾燥して、粉末状のグラフト共重合体粒子(A1)を得た。
【0269】
混合物(II)の配合割合:
・ビニル単量体混合物(MMA重量99%およびBA重量1%)70部、
・t-ドデシルメルカプタン(t-DM)0.5部
・CHP0.5部
(1-2;グラフト共重合体粒子(A2)の調製)
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
・脱イオン水 180部
・ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸 0.002部
・ホウ酸 0.4725部
・炭酸ナトリウム 0.04725部
・水酸化ナトリウム 0.0098部
その後、重合装置内の気体を窒素ガスで充分に置換し、重合装置内に実質的に酸素のない状態とした後、重合装置内の温度を80℃にした。その後、重合装置内に、(a)過硫酸カリウムの2%水溶液を過硫酸カリウム0.027部相当量添加し、(b)次いで、ビニル単量体混合物(MMA重量97%およびBA重量3%)27部と、メタクリル酸アリル0.036部とからなる混合物を81分かけて連続的に添加した。その後、さらに60分間重合を継続することにより、コア(架橋エラストマー(Bc1))の1層目となる重合物の粒子を得た。重合転化率は99.0%であった。
【0270】
その後、(a)水酸化ナトリウムの2%水溶液を水酸化ナトリウム0.0267部相当量添加し、(b)過硫酸カリウム2%水溶液を過硫酸カリウム0.08部相当量添加し、(c)次いでビニル単量体混合物(BA83重量%およびスチレン(St)重量17%)50部と、メタクリル酸アリル0.375部とからなる混合物を150分かけて連続的に添加した。その後、過硫酸カリウム2%水溶液を過硫酸カリウム0.015部相当量添加した。その後さらに、120分重合を継続することにより、1層目と2層目とからなるコア(架橋エラストマー粒子(Bc1))を得た。重合転化率は99.0%であり、架橋エラストマー粒子Bc1の平均粒子径は230nmであった。
【0271】
その後、(a)過硫酸カリウム2%水溶液を過硫酸カリウム0.023部相当量添加し、(b)ビニル単量体混合物(MMA80重量%およびBA重量20%)23部を45分かけて連続的に添加した。その後、さらに30分重合を継続することにより、コアとなる2層構造を有する架橋エラストマー粒子(Bc1)の表側にシェルとなるグラフトポリマー層(Bs1)を形成して、グラフト共重合体粒子(A2)のラテックスを得た。重合転化率は100.0%であり、グラフト共重合体粒子(A2)の平均粒子径は240nmであった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析して、グラフト共重合体粒子(A2)を凝固させた。得られた凝固物を水洗、乾燥して、白色粉末状のグラフト共重合体粒子(A2)を得た。
【0272】
(1-3;基材(B-1)の調製)
グラフト共重合体粒子(A1)34部と、グラフト共重合体粒子(A2)2部と、アクリル系樹脂(住友化学株式会社製、品名「スミペックス(登録商標)EX」、組成:メタクリル酸メチル(MMA)95重量%;メタクリル酸(MA)重量5%)64部とを、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。次いで、シリンダ温度を200℃~260℃に調整した口径58mmの単軸押出機((株)日本精鋼所製)を使用し、スクリュー回転数90rpm、吐出量130kg/時間にて、混合物を溶融混練した。得られた溶融混練物をストランド状に引き取り、水槽にて冷却後、ペレタイザーを用いて切断して、アクリル系樹脂組成物のペレットを得た。
【0273】
得られたアクリル系樹脂組成物のペレットを、Tダイ付口径90mmの単軸押出機を用いて、シリンダ設定温度180℃~240℃にて吐出量130kg/時間にて溶融混練した。得られた溶融混練物をダイス温度240℃にてTダイより吐出し、90℃に温調したキャストロールと60℃温調した冷却ロールとで冷却固化させた。以上の操作により、アクリル系樹脂を含む基材(B-1)(100mm×100mm、厚さ175μm)を得た。
【0274】
[プライマー層の形成に使用した重合体の調製]
(製造例5;重合体(P-1)の調製)
反応器として、撹拌機、温度計および還流冷却器を備えた4つ口フラスコ等を使用した。反応器に、溶媒として酢酸ブチルを50重量部仕込み、反応器内の気体を窒素ガスで充分に置換し、実質的に酸素のない状態とした後、反応器内の温度を90℃にした。その後、アクリルニトリルを5重量部、スチレンを95重量部、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)を0.1重量部、酢酸ブチルを16.7重量部混合した混合物を1時間かけて定量ポンプで反応器内に添加した。添加終了後、反応器中の原料を攪拌しながら5時間反応させ、重合体P-1を得た。その後室温に冷却し、重合体P-1に希釈溶剤として酢酸ブチルを166重量部加えた。かかる操作により重合体P-1を30重量%含む重合体溶液を得た。
【0275】
(製造例6;重合体(P-2)の調製)
混合物中のアクリロニトリルを10重量部、スチレンを90重量部に変更する以外は、重合体(P-1)の調製と同様の方法で重合体P-2を30重量%含む重合体溶液を得た。
【0276】
(製造例7;重合体(P-3)の調製)
混合物中のアクリロニトリルを20重量部、スチレンを80重量部に変更する以外は、重合体(P-1)の調製と同様の方法で重合体P-3を30重量%含む重合体溶液を得た。
【0277】
(製造例8;重合体(P-4)の調製)
混合物中のアクリロニトリルを20重量部、スチレンを80重量部、酢酸ブチルを4重量部、希釈溶剤としての酢酸ブチルを180重量部に変更する以外は、重合体(P-1)の調製と同様の方法で重合体P-4を30重量%含む重合体溶液を得た。
【0278】
(コーティング層の形成に使用した縮合物の調製)
[製造例9;縮合物の調製]
反応器として、撹拌機、温度計および還流冷却器を備えた4つ口フラスコ等を使用した。反応器に、化合物(I)としてA-186を100重量部仕込んだ。さらに、シラン化合物100重量部に対して、中性塩(触媒)として塩化マグネシウム0.10重量部(シラン化合物中の加水分解性シリル基1モルに対して0.001モル)、水11.0重量部(シラン化合物中の加水分解性シリル基1モルに対して0.5モル)および希釈溶剤としてPGME11.0重量部を反応器に仕込んだ。次に、反応温度130℃にて3時間、反応器中の原料を攪拌させながら反応(加水分解および縮合反応)させ、縮合物を含む溶液を得た。得られた縮合物はエバポレーターを用いて減圧脱揮および濃縮し、希釈溶剤としてPGMEを用いて50%溶液に調整した。
【0279】
(実施例1)
製造例5で得られた重合体溶液33.3重量部(固形分として、重合体P-110重量部相当)と第一溶剤であるメチルイソブチルケトン66.7重量部とを混合して、プライマー層形成用組成物を調製した。得られたプライマー層形成用組成物を、基材B-1上に、1.0μmの厚さにて、バーコーターを用いて塗布した。プライマー層形成用組成物が塗布された基材を、80℃に設定したオーブン中に2分間放置し、プライマー層形成用組成物から第一溶剤を除去することにより、基材B-1上にプライマー層を形成した。
【0280】
続いて、製造例9にて得られた縮合物47重量部と、第二溶剤であるPGME48重量部と、光酸発生剤であるCPI-101のPGME溶液5重量部とを用いて混合して、コーティング層形成用組成物を調製した。CPI-101のPGME溶液は、CPI-101を10重量%含むPGME溶液であり、CPI-101の1重量部とPGME9重量部とを混合して調製した。得られたコーティング層形成用組成物を、プライマー層が形成された基材上に、3μmの厚さにて、バーコーターを用いて塗布した。コーティング層形成用組成物が塗布された基材を、80℃に設定したオーブン中に2分間放置し、コーティング層形成用組成物から第二溶剤を除去することにより、プライマー層上にコーティング層を形成した。その後、空気雰囲気下で無電極UVランプにより、基材上のコーティング層に紫外線を照射(積算光量500mJ/cm)し、コーティング層に含まれる縮合物を硬化させた。以上の操作により、積層体を得た。得られた積層体について、密着性、透明性およびコーティング層の接触角を測定し、かつ、耐摩耗試験を実施し、耐摩耗試験後のヘイズ(Hz)を測定した。結果を表1に示す。
次に、
(実施例2~10および比較例1~15)
使用した基材、プライマー層の重合体、第一溶剤および第二溶剤を、表1~4に記載のように変更する以外は、実施例1と同様の方法により、積層体を得た。なお、実施例5~10、比較例1~4および比較例8~15のプライマー層形成用組成物については、上述したP-5~P-18の重合体をメチルイソブチルケトンと混合して、固形分として当該重合体を10重量部含むコーティング層形成用組成物を調製した。得られた積層体について、密着性、透明性およびコーティング層の接触角を測定し、かつ、耐摩耗試験を実施し、耐摩耗試験後のヘイズ(Hz)を測定した。結果を表1~4に示す。
【0281】
【表1】
【0282】
【表2】
【0283】
【表3】
【0284】
【表4】
【0285】
表1および2より、本発明の範囲内である実施例1~10は、耐摩耗性、透明性およびコーティング層の密着性に優れる積層体であることがわかる。
【0286】
実施例1~4の比較より、プライマー層に含まれる(メタ)アクリロニトリル重合体が(メタ)アクリロニトリル重合体を構成する全構成単位100重量%中、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を10重量%以上含み、かつ当該構成単位の含有量が多いほど、得られる積層体はコーティング層の密着性により優れることがわかる。
【0287】
実施例1~7の比較より、プライマー層に含まれる(メタ)アクリロニトリル重合体が(メタ)アクリロニトリル重合体を構成する全構成単位100重量%中、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルに由来する構成単位を10重量%以上含み、かつ当該構成単位の含有量が多いほど、得られる積層体はコーティング層の接触角がXとの差が小さいことがわかる。
【0288】
実施例1~8の結果より、積層体のコーティング層の接触角と耐摩耗性とが相関関係にあり、コーティング層の接触角がXとの差が小さいほど耐摩耗性のΔHzが小さい傾向があることがわかる。
【0289】
実施例8および9について説明する。実施例8と9とでは、コーティング層の第二溶媒のみが異なる。実施例9の接触角のXとの差は実施例8の接触角のXとの差よりも大きく、実施例9の耐摩耗性試験結果のΔHzは実施例8のΔHzよりも大きい。これは、実施例9で使用された第二溶媒(BuOAC)がPGMEよりもプライマー層を溶かすことにより、実施例9では実施例8よりも多くの混成領域Dが形成された結果であると推察される。
【0290】
実施例8および10について説明する。実施例8と10とでは、基材のみが異なる。実施例10の接触角のXとの差は実施例8の接触角のXとの差よりも大きく、実施例10の耐摩耗性試験結果のΔHzは実施例8のΔHzよりも大きい。これは、実施例10で使用された基材が、実施例8で使用された基材よりも柔らかいことに起因すると推察される。
【0291】
表3に示すように、比較例1の基材はポリエチレンテレフタレート(PET)であり、比較例2の基材はポリイミド(PI)であり、比較例1および2の基材は本発明の範囲外であった。比較例1および2ではプライマー層が基材に密着せず、その結果、比較例1および2の積層体はコーティング層の密着性に劣るものであった。
【0292】
表3および4に示す、比較例3、4および9~15について説明する。比較例3、4および9~15の基材は製造例1で製造された基材であり、本発明の範囲内であった。しかし、比較例3、4および9~15で使用しているプライマー層は、(メタ)アクリロニトリル重合体を含んでいない。そのため、比較例3、4および9~15で得られた積層体は、コーティング層の密着性に劣るものであった。
【0293】
表3に示す比較例5~7について説明する。比較例5の基材は製造例1で製造された基材であり、比較例6の基材はポリカーボネート系樹脂であり、比較例5および6の基材は本発明の範囲内であった。比較例7の基材はPETであり、本発明の範囲外であった。ここで、比較例5~7の積層体にはプライマー層を設けていない。プライマー層を設けていない場合、比較例5および6のように基材が本発明の範囲内であっても、比較例7のように基材が本発明の範囲外であっても、積層体はコーティング層の密着性に劣るものであった。
【0294】
表3に示す比較例8の基材は製造例1で製造された基材であり、本発明の範囲内であったが、比較例8で使用しているプライマー層は(メタ)アクリロニトリル重合体を含んでいない。比較例8で得られた積層体は、耐摩耗性試験の結果、ΔHzが5.98であり、耐摩耗性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0295】
本発明の一実施形態は、耐摩耗性、透明性およびコーティング層の密着性に優れる、積層体を提供することができる。そのため、本発明の一実施形態(例えば本積層体)は、例えば、パソコン、スマートフォンおよびタブレット等の前面板、自動車等の窓ガラス、自動車等のランプの保護具材、自動車等の内蔵型情報表示機器の表示部、並びにフィルム等に好適に使用できる。