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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】定着部材及び熱定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240227BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020068666
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2020177233
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019080421
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】前田 松崇
(72)【発明者】
【氏名】松本 真持
(72)【発明者】
【氏名】北野 祐二
(72)【発明者】
【氏名】今泉 陽
(72)【発明者】
【氏名】相馬 真琴
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016ー012128(JP,A)
【文献】特開2011-028252(JP,A)
【文献】特開2016ー102881(JP,A)
【文献】特開2009-263405(JP,A)
【文献】特開2006ー336668(JP,A)
【文献】特開2012-131916(JP,A)
【文献】特開2002ー268423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0253436(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体上の弾性層と、を有する定着部材であって、
該弾性層は、
ゴムと、
該ゴム中に分散された熱伝導性粒子と、
該ゴム中に分散された酸化鉄粒子と、を含み、
該熱伝導性粒子の該弾性層中の含有量が30体積%以上50体積%以下であり、
該酸化鉄粒子の該弾性層中の含有量が0.01体積%以上1.0体積%以下であり、
該熱伝導性粒子は、
酸化アルミニウム、金属ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種であり、
下記工程(i)~(v)によって求める該酸化鉄粒子の偏在指数Mが、0.2以上、0.8未満であることを特徴とする定着部材:
(i)該弾性層の厚さ方向の断面の任意の位置においた縦40μm、横59μmの長方形の領域の、縦682画素、及び横1024画素の解像度を有する画像内に存在する該酸化鉄粒子の重心座標を求める工程;
(ii)該画像に含まれる画素のうち、該熱伝導性粒子を表示する画素を除いた画素に対応する各点から、該各点に最も近接している該熱伝導性粒子の外表面までの距離を示すユークリッド距離マップを作成する工程;
(iii)該酸化鉄粒子の各々の該重心座標及び該ユークリッド距離マップを参照して、該酸化鉄粒子の各々について、該重心座標から、該重心座標に最も近接している該熱伝導性粒子の外表面までの距離の、0.1μmを区間長とした累積相対度数分布Gaを得る工程;
(iv)該ユークリッド距離マップを参照して、該画像における該熱伝導性粒子を表示する画素を除いた画素に対応する各点から、最も近接している該熱伝導性粒子の外表面までの距離の、0.1μmを区間長とした累積相対度数分布Grを得る工程;
(v)該熱伝導性粒子の外表面から距離が0.5μmまでの各区間について、該累積相対度数分布Gaの個数の値から、該累積相対度数分布Grの個数の値を減算した値を求め、各区間について得られた該値の総和を区間数5で除して得られる平均値を偏在指数Mとする。
【請求項2】
前記弾性層の任意の5箇所における厚さ方向の断面の各々から前記偏在指数Mを求めたとき、該5箇所のうち少なくとも3箇所における断面から導き出される該偏在指数Mが、0.2以上、0.8未満である請求項1に記載の定着部材。
【請求項3】
前記ゴムがシリコーンゴムである請求項1又は2に記載の定着部材。
【請求項4】
前記弾性層の前記基体と対向する側の表面とは反対側の表面上に直接または接着層を介して表層が設けられている請求項1~3のいずれか一項に記載の定着部材。
【請求項5】
前記熱伝導性粒子の体積平均粒径が、1μm以上100μm以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の定着部材。
【請求項6】
前記熱伝導性粒子の体積平均粒径が、3μm以上30μm以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の定着部材。
【請求項7】
前記酸化鉄粒子の体積平均粒径が、0.01μm以上0.50μm以下である請求項1~6のいずれか一項に記載の定着部材。
【請求項8】
前記定着部材が、エンドレス形状を有する定着ベルトである請求項1~7のいずれか一項に記載の定着部材。
【請求項9】
前記定着部材が、非輻射熱によって加熱された定着ベルトを用いて記録材上の未定着トナー像を定着する定着装置の該定着ベルトとして用いられるものである請求項1~8のいずれか一項に記載の定着部材。
【請求項10】
前記弾性層の厚さが、200μm~500μmである請求項8または9に記載の定着部材。
【請求項11】
加熱部材と、該加熱部材に対向して配置されている加圧部材とを有する熱定着装置であって、該加熱部材が、請求項1~10のいずれか一項に記載の定着部材であることを特徴とする熱定着装置。
【請求項12】
エンドレス形状を有する定着部材と、加圧部材と、該定着部材を非輻射熱または輻射熱で加熱するヒータとを備え、
未定着トナー像を有する記録材を、該定着部材と該加圧部材とで形成される定着ニップ部で加熱して未定着トナー像を該記録材に定着する定着装置であって、
該定着部材が、請求項8~10のいずれか一項に記載の定着部材である、ことを特徴とする定着装置。
【請求項13】
前記ヒータが、前記非輻射熱で前記定着部材を加熱するヒータであって、
前記定着ニップ部において、前記ヒータと前記加圧部材とで前記定着部材が挟持される請求項12に記載の定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真画像形成装置の熱定着装置に用いられる定着部材及び熱定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置の熱定着装置においては、加熱部材と該加熱部材に対向配置された加圧部材とで圧接部が構成されている。未定着のトナー像を保持した被記録材が、この圧接部に導入されると、未定着のトナーが加熱・加圧により溶融され、被記録材に当該画像が定着される。
加熱部材は、被記録材上の未定着のトナー像が接する部材であり、加圧部材は、加熱部材に対向配置される部材である。定着部材の形状としては、ローラ形状やエンドレスベルト形状を有する回転可能なものがある。これらの定着部材には、金属又は耐熱性樹脂等で形成された基体上に、例えば、架橋シリコーンゴムの如きゴムと、熱伝導性粒子とを含む弾性層を有するものが用いられている。
【0003】
近年、プリントスピードの高速化や装置の小型化が増々進み、それに伴って定着部材が有する弾性層の耐久性のさらなる向上が求められている。弾性層に求められる耐久性の一つとして、耐熱耐久性がある。弾性層は加熱環境下で繰り返し弾性変形するため、弾性層中のゴムが徐々に劣化し、軟化することで、破壊する場合がある。
特許文献1は、熱伝導性粒子に加えて、酸化鉄粒子を配合することで耐熱耐久性を向上させた定着ベルト用シリコーンゴム組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-028252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る定着ベルト用シリコーンゴム組成物を用いて形成された弾性層は、耐熱性が未だ十分ではなかった。また、シリコーンゴム組成物における酸化鉄粒子の配合量の増加は、硬化後のシリコーンゴムの耐熱性の改善に資するものの、当該シリコーンゴムの柔軟性の低下や、シリコーンゴム組成物の高粘度化による成形性の低下を招来する場合がある。
本開示の一態様は、耐熱性がより一層改善された定着部材の提供に向けたものである。また、本開示の他の態様は、耐久性に優れた熱定着装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、基体と、該基体上の弾性層と、を有する定着部材であって、該弾性層は、
ゴムと、
該ゴム中に分散された熱伝導性粒子と、
該ゴム中に分散された酸化鉄粒子と、を含み、
該熱伝導性粒子の該弾性層中の含有量が30体積%以上50体積%以下であり、
該酸化鉄粒子の該弾性層中の含有量が0.01体積%以上1.0体積%以下であり、
該熱伝導性粒子は、
酸化アルミニウム、金属ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種であり、
下記工程(i)~(v)によって求める該酸化鉄粒子の偏在指数Mが、0.2以上0.8未満である定着部材が提供される。
(i)該弾性層の厚さ方向の断面の任意の位置に置いた縦40μm、横59μmの長方形の領域の、縦682画素、及び横1024画素の解像度を有する画像内に存在する該酸化鉄粒子の重心座標を求める工程;
(ii)該画像に含まれる画素のうち、該熱伝導性粒子を表示する画素を除いた画素に対する各点から、該各点に最も近接している該熱伝導性粒子の外表面までの距離を示すユークリッド距離マップを作成する工程;
(iii)該酸化鉄粒子の各々の該重心座標及び該ユークリッド距離マップを参照して、該酸化鉄粒子について、該重心座標の各々から、該重心座標に最も近接している該熱伝導性粒子の外表面までの距離の、0.1μmを区間長とした累積相対度数分布Gaを得る工程;
(iv)該ユークリッド距離マップを参照して、該画像における該熱伝導性粒子を表示する画素を除いた画素に対応する各点について、該各点から、最も近接している該熱伝導性粒子の外表面までの距離の、0.1μmを区間長とした累積相対度数分布Grを得る工程;
(v)熱伝導性粒子の外表面から距離が0.5μmまでの各区間について、該累積相対度数分布Gaの個数の値から、該累積相対度数分布Grの個数の値を減算した値を求め、各区間について得られた該値の総和を区間数5で除して得られる平均値を偏在指数Mとする。
【0007】
また、本開示の他の態様によれば、加熱部材と、該加熱部材に対向して配置されている加圧部材とを有する熱定着装置であって、該加熱部材が、上記の定着部材である熱定着装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、耐熱性がより一層改善された定着部材を得ることができる。また、本開示の他の態様によれば、耐久性に優れた熱定着装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一態様に係る定着部材の弾性層中の熱伝導性粒子と酸化鉄粒子の分散状態の説明図である。
図2】本開示の一態様に係る定着部材の概略断面図である。
図3】コロナ帯電器の(a)俯瞰図と(b)断面図である。
図4】表層を積層する工程の一例の模式図である。
図5】弾性層中の熱伝導性粒子と酸化鉄粒子について偏在指数Mを導出する過程の一例を示す図である。
図6】各酸化鉄粒子から最も近い熱伝導性粒子の外表面までの距離値のヒストグラム図である。
図7】酸化鉄粒子-熱伝導性粒子間距離の累積相対度数分布Gaを示す図である。
図8】酸化鉄粒子がランダム分布だった場合の累積相対度数分布Grを示す図である。
図9】累積相対度数分布GaとGrを比較した図である。
図10】加熱ベルト-加圧ベルト方式の熱定着装置の一例を示す断面模式図である。
図11】加熱ベルト-加圧ローラ方式の熱定着装置の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、特許文献1に係る定着ベルト用シリコーンゴム組成物の検討結果を踏まえ、定着部材の弾性層の柔軟性の低下や成形性の低下を招来する酸化鉄粒子の配合量の増加に依らずに、弾性層の耐熱耐久性の向上を図ることを目的として更なる検討を行った。その結果、弾性層中の熱伝導性粒子の近傍に酸化鉄粒子を偏在させることで、上記の目的をよく達成し得ることを見出した。
【0011】
本開示の一態様に係る定着部材は、基体と、該基体上の弾性層と、を有する定着部材であって、
該弾性層は、
ゴムと、
該ゴム中に分散された熱伝導性粒子と、
該ゴム中に分散された酸化鉄粒子と、を含み、
該熱伝導性粒子の該弾性層中の含有量が30体積%以上50体積%以下であり、
該酸化鉄粒子の該弾性層中の含有量が0.01体積%以上1.0体積%以下であり、
該熱伝導性粒子は、
酸化アルミニウム、金属ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種であり、
下記工程(i)~(v)によって求める該酸化鉄粒子の偏在指数Mが、0.2以上、0.8未満である;
(i)該弾性層の厚さ方向の断面の任意の位置に置いた縦40μm、横59μmの長方形の領域の、縦682画素、及び横1024画素の解像度を有する画像内に存在する該酸化鉄粒子の重心座標を求める工程;
(ii)該画像に含まれる画素のうち、該熱伝導性粒子を表示する画素を除いた画素に対応する各点から、該各点に最も近接している該熱伝導性粒子の外表面までの距離を示すユークリッド距離マップを作成する工程;
(iii)該酸化鉄粒子の各々の該重心座標及び該ユークリッド距離マップを参照して、該酸化鉄粒子について、該重心座標の各々から、該重心座標に最も近接している該熱伝導性粒子の外表面までの距離の、0.1μmを区間長とした累積相対度数分布Gaを得る工程;
(iv)該ユークリッド距離マップを参照して、該画像における該熱伝導性粒子を表示する画素を除いた画素に対応する各点について、該各点から、最も近接している該熱伝導性粒子の外表面までの距離の、0.1μmを区間長とした累積相対度数分布Grを得る工程;
(v)該熱伝導性粒子の外表面から距離が0.5μmまでの各区間について、該累積相対度数分布Gaの個数の値から、該累積相対度数分布Grの個数の値を減算した値を求め、各区間について得られた該値の総和を区間数5で除して得られる平均値を偏在指数Mとする。
【0012】
図1に示すように、弾性層4中の熱伝導性粒子7の近傍に酸化鉄粒子8が偏在していることで弾性層の耐熱耐久性が向上する。そのメカニズムは以下のように推定される。
弾性層4を構成するゴムの劣化による軟化の主要因の一つとして、熱伝導性粒子7中から拡散されるアルカリ、アルカリ土類金属イオン等の不純物による劣化が挙げられる。これら不純物によりゴムの結合が切断されることで、ゴムが軟化する。
酸化鉄粒子8はこれら不純物をトラップすることで劣化による軟化を抑制する効果があると考えられる。そのため、図1(b)に示すように、酸化鉄粒子8を不純物の発生源である熱伝導性粒子7の近傍に偏在させることで、不純物をより効率的にトラップすることができ、ゴムの劣化による軟化の更なる抑制ができたものと考えられる。
【0013】
本開示の一態様に係る定着部材及び本開示の他の態様に係る熱定着装置について、以下に具体的な構成に基づき詳細に説明する。
【0014】
(1)定着部材の構成概略
本開示の一態様に係る定着部材の詳細について図面を用いて説明する。
本開示の一態様に係る定着部材は、加熱部材または加圧部材であってよく、例えば、ローラ形状やエンドレスベルト形状の如き回転可能な部材(以降、各々、「定着ローラ」、「定着ベルト」ともいう)とすることができる。なお、本開示に係る定着ベルトとは、定着フィルムを包含する。
図2(a)は、定着ベルトの周方向の断面図であり、図2(b)は、定着ローラの周方向の断面図である。図2(a)及び図2(b)に示すように、定着部材は、基体3と、基体3の外表面上の弾性層4と、該弾性層4の外表面上の表層(離型層)6とを有する。また、弾性層4と表層6との間に、接着層5を有することもでき、この場合、表層6は、弾性層4の外周面に接着層5により固定されている。
【0015】
(2)基体
基体の材質は特に限定されず、定着部材の分野で公知の材料を適宜用いることができる。基体を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅の如き金属やステンレス鋼の如き合金、ポリイミドの如き樹脂が挙げられる。
ここで、熱定着装置が、定着部材の加熱手段として、誘導加熱方式により、基体を加熱する熱定着装置である場合、基体は、ニッケル、銅、鉄、及び、アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される。中でも、特に、発熱効率の観点から、ニッケルや鉄を主成分とした合金が好適に用いられる。なお、主成分とは、対象物(ここでは基体)を構成する成分のうち、最も多く含まれる成分を意味する。
【0016】
基体の形状は、定着部材の形状に応じて適宜選択することができ、例えば、エンドレスベルト形状、中空円筒状、中実円柱状、フィルム状等、様々な形状とすることができる。
【0017】
定着ベルトの場合、基体の厚さは、例えば、15μm以上80μm以下とすることが好ましい。基体の厚みを、上記の範囲内とすることで、強度及び可撓性を高いレベルで両立させ得る。また、基体の弾性層に対向する側とは反対側の表面上には、例えば、定着ベルトの内周面が他部材と接する場合における定着ベルトの内周面の摩耗を防ぐための層や、他部材との摺動性を向上させるための層を設けることもできる。
【0018】
基体の弾性層と対向する側の表面は、弾性層との接着性等の機能を付与するために表面処理を施してもよい。表面処理の例としては、例えば、ブラスト処理、ラップ処理、研磨の如き物理的処理や、酸化処理、カップリング剤処理、プライマー処理の如き化学的処理が挙げられる。また、物理的処理及び化学的処理を併用してもよい。
【0019】
特に、架橋シリコーンゴムを含む弾性層を用いる場合には、基体と弾性層の密着性向上のために、基体の外表面をプライマーで処理することが好ましい。プライマーとしては、例えば、有機溶剤中に添加剤を適宜配合し分散された塗料状態のものを用いることができる。このようなプライマーは市販されているものを用いても良い。上記添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリコーンポリマー、水素化メチルシロキサン、アルコキシシラン、加水分解・縮合・付加などの反応促進触媒、酸化鉄等の着色剤等を挙げることができる。このプライマーを基体の外表面に塗布し、乾燥や焼成のプロセスを経てプライマー処理が施される。
【0020】
プライマーは、例えば、基体の材質、弾性層の種類や架橋時の反応形態などによって適宜選択可能である。例えば、弾性層を構成する材料が不飽和脂肪族基を多く含む場合には、該不飽和脂肪族基との反応によって接着性を付与するため、プライマーとしてはヒドロシリル基を含有する材料が好んで用いられる。また、弾性層を構成する材料がヒドロシリル基を多く含む場合には、反対にプライマーとしては不飽和脂肪族基を含有する材料が好んで用いられる。そのほかにも、プライマーとしては、アルコキシ基を含有する材料など、被着体である基体及び弾性層の種類に応じて適宜選択可能である。
【0021】
(3)弾性層
弾性層は、熱定着装置においてニップを確保するために定着部材に柔軟性を付与するための層である。なお、定着部材を、紙上のトナーと接する加熱部材として用いる場合には、弾性層は、定着部材の表面が、紙の凹凸に追従し得るような柔軟性を付与するための層としても機能する。
弾性層は、マトリックスとしてのゴムと、該ゴム中に分散された粒子とを含む。より具体的には、弾性層は、ゴムと、熱伝導性粒子と、酸化鉄粒子とを含み、ゴムの原料(ベースポリマー、架橋剤等)と、熱伝導性粒子と、酸化鉄粒子とを少なくとも含む組成物を硬化させた硬化物から構成される。
【0022】
上述した弾性層の機能を発現させる観点から、弾性層は、熱伝導性粒子を含むシリコーンゴム硬化物から構成されることが好ましく、付加硬化型のシリコーンゴム組成物の硬化物から構成されることがより好ましい。
シリコーンゴム組成物は、例えば、熱伝導性粒子、酸化鉄粒子、ベースポリマー、架橋剤及び触媒、並びに、必要に応じて、添加剤を含むことができる。シリコーンゴム組成物は液状のものが多いため、熱伝導性粒子が分散しやすく、熱伝導性粒子の種類や添加量に応じて、その架橋度を調整することで、作製する弾性層の弾性を調整し易いため好ましい。
本開示に係る定着部材が定着ベルトである場合、弾性層の厚さは、例えば、200μm~500μmとすることが好ましい。
【0023】
(3-1)マトリックス
マトリックスは、弾性層において弾性を発現する機能を担う。マトリックスは、上記した弾性層の機能を発現させる観点から、シリコーンゴムを含むことが好ましい。シリコーンゴムは、非通紙部領域で240℃程度の高温になる環境においても柔軟性を保持できる高い耐熱性を有しており、好ましい。当該シリコーンゴムとしては、例えば、後述する付加硬化型の液状シリコーンゴムの硬化物(以降、「硬化シリコーンゴム」ともいう)を用いることができる。
【0024】
(3-1-1)付加硬化型の液状シリコーンゴム
付加硬化型の液状シリコーンゴムは、通常、下記成分(a)~(c)を含む:
成分(a):不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン;
成分(b):ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサン;
成分(c):触媒。
【0025】
以下、各成分について説明する。
(3-1-2)成分(a)
不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンは、ビニル基の如き不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンであり、例えば、下記構造式(1)及び構造式(2)に示すものが挙げられる。
【化1】
構造式(1)中、mは0以上の整数を示し、nは3以上の整数を示す。また、構造式(1)中、Rは、各々独立して、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基を表し、ただし、Rのうちの少なくとも1つはメチル基を表し、Rは、各々独立して、不飽和脂肪族基を表す。
【化2】
構造式(2)中、nは正の整数を示し、Rは、各々独立して、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基を表し、ただし、Rのうちの少なくとも1つはメチル基を表し、Rは、各々独立して、不飽和脂肪族基を表す。
【0026】
構造式(1)及び構造式(2)において、R及びRが表すことのできる、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基としては、例えば、以下の基を挙げることができる。
・非置換炭化水素基
アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)。
アリール基(例えば、フェニル基)。
・置換炭化水素基
置換アルキル基(例えば、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-シアノプロピル基、3-メトキシプロピル基)。
【0027】
構造式(1)及び構造式(2)で示されるオルガノポリシロキサンは、鎖構造を形成するケイ素原子に、直接結合したメチル基を少なくとも1つ有する。しかしながら、合成や取扱いが容易であることから、R及びRそれぞれの50%以上がメチル基であることが好ましく、すべてのR及びRがメチル基であることがより好ましい。
【0028】
また、構造式(1)及び構造式(2)中の、R及びRが表すことのできる不飽和脂肪族基としては、例えば、以下の基を挙げることができる。すなわち、不飽和脂肪族基としては、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等を挙げることができる。これらの基の中でも、合成や取扱いが容易かつ安価で、架橋反応も容易に行われることから、R及びRはいずれもビニル基であることが好ましい。
【0029】
成分(a)としては、成形性の観点から、粘度は100mm/s以上50000mm/s以下であることが好ましい。粘度(動粘度)は、JIS Z 8803:2011に基づき、毛管粘度計や回転粘度計等を用いて測定することができる。
【0030】
成分(a)の配合量は、弾性層の形成に用いる液状シリコーンゴム組成物を基準として、耐圧性の観点から40体積%以上、伝熱性の観点から70体積%以下とすることが好ましい。
【0031】
(3-1-3)成分(b)
ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンは、触媒の作用により、成分(a)の不飽和脂肪族基と反応し、硬化シリコーンゴムを形成する架橋剤として機能する。
成分(b)としては、Si-H結合を有するオルガノポリシロキサンであれば、いずれのものも用いることができる。特に、成分(a)の不飽和脂肪族基との反応性の観点から、1分子中における、ケイ素原子に結合した水素原子の数が平均3個以上のものが好適に用いられる。
【0032】
成分(b)の具体例としては、例えば、下記構造式(3)に示す直鎖状のオルガノポリシロキサン及び下記構造式(4)に示す環状オルガノポリシロキサンを挙げることができる。
【化3】
【0033】
構造式(3)中、mは0以上の整数を示し、nは3以上の整数を示し、Rは、各々独立して、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基を表す。
【化4】
【0034】
構造式(4)中、mは0以上の整数を示し、nは3以上の整数を示し、Rは、各々独立して、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基を表す。
【0035】
構造式(3)及び構造式(4)中のR及びRが表すことのできる不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基としては、例えば、上述した構造式(1)中のRと同様の基を挙げることができる。これらの中でも、合成や取扱いが容易で、優れた耐熱性が容易に得られることから、R及びRそれぞれの50%以上がメチル基であることが好ましく、すべてのR及びRがメチル基であることがより好ましい。
【0036】
(3-1-4)成分(c)
シリコーンゴムの形成に用いる触媒としては、例えば、硬化反応を促進するためのヒドロシリル化触媒を挙げることができる。ヒドロシリル化触媒としては、例えば、白金化合物やロジウム化合物などの公知の物質を用いることができる。触媒の配合量は適宜設定することができ、特に限定されない。
【0037】
(3-2)熱伝導性粒子
熱伝導性粒子は、それ自体の熱伝導率、比熱容量、密度、粒径等を考慮して選択される。無機物、特に金属、金属化合物等の伝熱特性を向上させる目的で用いられる熱伝導性粒子としては、以下を挙げることができ、複数種を組み合わせても良い。酸化アルミニウム、金属ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、及び炭化ケイ素。
【0038】
熱伝導性粒子については、シリコーンゴムへの親和性の観点から、表面処理を行ってもよい。具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の粒子表面に水酸基等の活性基を有するものは、シランカップリング剤やヘキサメチルジシラザン、シリコーンオリゴマー等で表面処理される。金属フィラーは、酸化膜を形成することで表面処理を行う。
【0039】
弾性層中の熱伝導性粒子の配合量は、弾性層の体積に対して、熱伝導性粒子の体積配合割合を30%以上50%以下とすることが好ましい。熱伝導性粒子の体積配合割合を30%以上にすることで、弾性層の高熱伝導化が見込め、50%以下とすることで弾性層の低硬度を確保することができる。
【0040】
熱伝導性粒子の粒径は、1μm以上100μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましい。ここでいう粒径とは、体積平均粒径を指す。
【0041】
(3-3)酸化鉄粒子
酸化鉄粒子の種類としては、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)のいずれか、若しくはその混合物でも良い。また、シリコーンゴムへの親和性の観点から、表面処理を行ってもよい。具体的には、シランカップリング剤やヘキサメチルジシラザン、シリコーンオリゴマー等で表面処理される。
【0042】
弾性層中の酸化鉄粒子の配合量は、弾性層の体積に対して、酸化鉄粒子の体積割合を0.01%以上1.0%以下とすることが好ましい。酸化鉄粒子の体積割合が0.01%以上であれば十分な耐熱性向上効果が得られ、1.0%以下であればゴム組成物の高粘度化による成形性の悪化を抑制することができる。
【0043】
酸化鉄粒子としては、形状は特に限定されるものではなく、球状、粉砕形状、不定形状のいずれでも良いが、粒径については平均粒径が0.01μm以上0.50μm以下の範囲内であることが好ましい。平均粒径が0.01μm以上であればゴム組成物の高粘度化による成形性の悪化を抑制することができ、また平均粒径が0.50μm以下であれば十分な耐熱性向上効果が得られる。ここでいう粒径も、体積平均粒径を指す。
【0044】
(3-4)
弾性層中の硬化シリコーンゴムの組成は、赤外分光分析装置(FT-IR)(例えば、商品名:Frontier FT IR、PerkinElmer社製)を用いた全反射(ATR)測定を行うことにより確認可能である。シリコーンの主鎖構造であるケイ素-酸素結合(Si-O)は、伸縮振動に伴い波数1020cm-1付近に強い赤外吸収を示す。さらに、ケイ素原子に結合したメチル基(Si-CH)は、その構造に起因する変角振動に伴い、波数1260cm-1付近に強い赤外吸収を示すことから、その存在を確認することが可能である。
【0045】
弾性層における硬化シリコーンゴム及び熱伝導性粒子、酸化鉄粒子の含有量は、熱重量測定装置(TGA)(例えば、商品名:TGA851、Mettler-Toledo社製)を用いることにより確認可能である。弾性層を剃刀等で切り出し、20mg程度を正確に秤量して、装置で使用するアルミナパンに入れる。試料の入ったアルミナパンを装置にセットし、窒素雰囲気下、室温から800℃まで20℃毎分の昇温速度で加熱し、さらに800℃で1時間定温する。窒素雰囲気中では、昇温に伴い、硬化シリコーンゴム成分は酸化されずにクラッキングにより分解・除去されるため、試料の重量が減少する。こうして測定前後の重量を比較することにより、弾性層に含まれていた硬化シリコーンゴム成分の含有量、及び熱伝導性粒子、酸化鉄粒子の含有量を確認することができる。
【0046】
また、弾性層の断面をエネルギー分散型X線分析(EDS)(例えば、商品名:X-MAXN80、OXFORD社製)を行うことで、熱伝導性粒子、酸化鉄粒子の成分を同定することができる。
【0047】
(4)接着層
接着層は、弾性層と、表層とを接着させるための層である。接着層に用いる接着剤は、既知のものから適宜選択して使用することができ、特に限定されない。しかしながら、扱いやすさの観点から、自己接着成分が配合された付加硬化型シリコーンゴムを用いることが好ましい。
この接着剤は、例えば、自己接着成分と、ビニル基に代表される不飽和脂肪族基を分子鎖中に複数有するオルガノポリシロキサンと、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンと、架橋触媒としての白金化合物とを含有することができる。弾性層表面に付与された該接着剤を付加反応により硬化することによって、表層を弾性層に接着させる接着層を形成することができる。
【0048】
なお、上記自己接着成分としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
・ビニル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロキシ基、ヒドロシリル基(SiH基)、エポキシ基、アルコキシシリル基、カルボニル基、及びフェニル基からなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種以上の官能基を有するシラン。
・ケイ素原子数が2個以上30個以下、好ましくは4個以上20個以下の、環状又は直鎖状のシロキサン等の有機ケイ素化合物。
・分子中に酸素原子を含んでもよい、非ケイ素系(即ち、分子中にケイ素原子を含有しない)有機化合物。ただし、1価以上4価以下、好ましくは2価以上4価以下のフェニレン構造等の芳香環を1分子中に1個以上4個以下、好ましくは1個以上2個以下含有する。かつ、ヒドロシリル化付加反応に寄与し得る官能基(例えば、アルケニル基、(メタ)アクリロキシ基)を1分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上4個以下含有する。
【0049】
上記の自己接着成分は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、接着剤中には、粘度調整や耐熱性確保の観点から、本開示の趣旨に沿う範囲内においてフィラー成分を添加することができる。当該フィラー成分としては、例えば、以下のものを挙げることができる。シリカ、アルミナ、酸化鉄、酸化セリウム、水酸化セリウム、カーボンブラック等。
【0050】
接着剤に含有される各成分の配合量は特に限定されず、適宜、設定することができる。このような付加硬化型シリコーンゴム接着剤は市販もされており、容易に入手することができる。接着層の厚みは20μm以下であることが好ましい。接着層の厚みを20μm以下とすることで、本態様に係る定着ベルトを加熱ベルトとして熱定着装置に用いた際に、熱抵抗を容易に小さく設定でき、内面側からの熱を効率的に記録材に伝え易い。
【0051】
(5)表層
定着部材は、弾性層の基体と対向する側の表面とは反対側の表面上に直接または接着層を介して表層が設けられていることが好ましい。
表層は、定着部材の外表面へのトナーの付着を防止する離型層としての機能を発現させるうえで、フッ素樹脂を含有させることが好ましい。表層の形成には、例えば、以下に例示する樹脂をチューブ状に成形したものを用いることができる。
テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等。
上記例示した樹脂材料中、成形性やトナー離型性の観点から、PFAが特に好適に用いられる。
【0052】
表層の厚みは、10μm以上50μm以下とすることが好ましい。表層の厚みをこの範囲内とすることで、定着部材の適度な表面硬度を維持し易い。
【0053】
(6)定着部材の製造方法
本態様に係る定着部材は、例えば、以下の工程を含む製造方法によって製造することができる。
【0054】
(6-1)基体を用意する工程
まず、上述した材質で構成される基体を用意する。基体の形状は上述したように適宜設定でき、例えば、エンドレスベルト形状とすることができる。この基体の内面には、断熱性や摺動性等の種々の機能を定着部材に付与するための層を適宜形成することができ、基体の外表面にも接着性等の種々の機能を基体に付与するために、表面処理を施すことができる。
【0055】
(6-2)弾性層形成工程
弾性層形成工程は以下の工程を有することができる。
(i)熱伝導性粒子、酸化鉄粒子、並びに、シリコーンゴムの原料(例えば、ベースポリマー、架橋剤及び触媒)を含む、弾性層用の組成物を調製する工程(弾性層用の組成物の調製工程)。
(ii)基体上に該組成物を含む層を形成する工程(組成物層の形成工程)。該組成物を、金型成形法、ブレードコート法、ノズルコート法、リングコート法の如き方法で、基体上に適用し、該組成物の層を形成する。
(iii)組成物層を硬化させて、弾性層を形成する工程(硬化工程)。
【0056】
(6-3)酸化鉄粒子を熱伝導性粒子近傍に偏在させる工程
酸化鉄粒子を熱伝導性粒子近傍に偏在させる手法としては、弾性層用の組成物の調製工程の前に、酸化鉄粒子と熱伝導性粒子を事前に粉体同士で混合することで、熱伝導性粒子表面に酸化鉄粒子を付着させる手法が挙げられる。また、組成物層の形成工程の後に、組成物層が未硬化の状態で電場、磁場等の外場を印加することで、熱伝導性粒子に酸化鉄粒子を引き寄せさせる手法が挙げられる。以下それぞれの手法について詳しく説明する。
【0057】
(6-3-1)熱伝導性粒子と酸化鉄粒子の事前混合
熱伝導性粒子と酸化鉄粒子をシリコーンゴム原料と共に混合して弾性層用の組成物を調製すると、粒子は均一に分散され、熱伝導性粒子の近傍に酸化鉄粒子が偏在することはない。
熱伝導性粒子と酸化鉄粒子を紛体同士で事前に混合することで、熱伝導性粒子の表面に酸化鉄粒子を付着させておき、その後シリコーンゴム原料と混合することで、熱伝導性粒子の近傍に酸化鉄粒子を偏在させることができる。
【0058】
粉体の混合方法としては、ロッキングミキサーのような容器回転型乾式混合機を用いても良く、スーパーミキサーやヘンシェルミキサーのような撹拌翼型乾式混合機を用いても良い。
撹拌翼型乾式混合機を用いる場合は、せん断力が掛かりすぎないように比較的低速で長時間撹拌することが好ましい。
【0059】
熱伝導性粒子と酸化鉄粒子が効果的に付着するように、両粒子は同種の表面処理剤で処理されていることが好ましい。同種の表面処理剤で処理されることで、両粒子の親和性が向上し、効果的に付着される。
【0060】
(6-3-2)電場による酸化鉄粒子偏在
熱伝導性粒子、酸化鉄粒子、並びに、シリコーンゴムの原料を含む組成物層の形成工程の後に、組成物層が未硬化の状態で電場を印加することで、熱伝導性粒子近傍に酸化鉄粒子を偏在させることができる。
組成物に電場を印加すると、熱伝導性粒子や酸化鉄粒子は誘電分極を起こし、静電引力によって相互作用が発生し、より小径である酸化鉄粒子が熱伝導性粒子に引き寄せられる。
熱伝導性粒子近傍に酸化鉄粒子を偏在させる一実施形態として、コロナ帯電器を用いる方法を説明する。なお、コロナ帯電方式には、コロナワイヤーと被帯電体の間にグリッド電極を持つスコロトロン方式と、グリッド電極を持たないコロトロン方式があるが、被帯電体の表面電位の制御性の観点から、スコロトロン方式が好ましい。
【0061】
図3(a)はコロナ帯電器の俯瞰図であり、図3(b)はコロナ帯電器の断面図である。コロナ帯電器2は、図3(a)及び図3(b)に示すように、ブロック201及び202、シールド203及び204、並びに、グリッド206を備える。また、ブロック201とブロック202の間に放電ワイヤ205が張架されている。不図示の高圧電源により、放電ワイヤ205に高電圧を印加して、シールド203及び204への放電によって得られるイオン流を、グリッド206に高電圧を印加することによって制御して、組成物層の表面を帯電させる。この時、基体3もしくは基体3を保持する中子1が接地されている(不図示)ため、組成物層の表面電位を制御することで、組成物層に所望の電場を発生させることが可能となる。
【0062】
コロナ帯電器2を、図3(a)に示すように、組成物層401の幅方向に沿って近接して対向させて配置する。そして、コロナ帯電器2のグリッド206に電圧を印加し、放電させた状態で、中子1を回転させて、外周面に組成物層401を有する基体3を、例えば100rpmで20秒間回転させることによって、組成物層401の外表面を帯電させる。組成物層401の外表面とグリッド206との距離は1mm以上10mm以下とすることができる。このようにして組成物層の表面を帯電させて、組成物層内に電場を生じさせる。その結果、熱伝導性粒子近傍に酸化鉄粒子を偏在させることができる。
【0063】
グリッド206に印加する電圧は、熱伝導性粒子と酸化鉄粒子に有効な静電的相互作用を発生させる観点から、絶対値として0.3kV以上3kV以下、特には、0.6kV以上2kV以下の範囲が好ましい。印加する電圧の符号はワイヤに印加する電圧の符号と等しくすれば、マイナスでもプラスでも電界の方向は逆になるものの、得られる効果は同じであり、交流印加でも良い。
【0064】
組成物層の表面の長手方向における電位制御の範囲としては、定着部材の通紙域以上であることが好ましい。例えば、図3(a)に示される構成を用いることができ、グリッド206に電圧を印加している間は、組成物層401を有する基体の中心軸を回転軸として回転させながら行うことで組成物層の全体を帯電させることが可能である。なお、定着ベルトの回転数としては10rpm以上500rpm以下、処理時間としては5秒以上の処理時間を設けることが好ましい。
【0065】
放電ワイヤ205には、ステンレススチール、ニッケル、モリブデン、タングステンなどの材質を適宜用いることができるが、金属の中で非常に安定性の高いタングステンを用いることが好ましい。
なお、シールド203及び204の内側に張架される放電ワイヤ205の形状は特に限定されず、例えば、ノコギリ歯のような形状のものや、放電ワイヤを垂直に切断した際の断面形状が円形のもの(円断面形状)を用いることができる。
放電ワイヤ205の(ワイヤに対して垂直に切断した際の切断面における)直径は、40μm以上100μm以下とすることが好ましい。放電ワイヤ205の直径が40μm以上であれば、放電によるイオンの衝突による放電ワイヤの切断や断裂を容易に防ぐことができる。また、放電ワイヤ205の直径が100μm以下であれば、安定したコロナ放電を得る際に、放電ワイヤ205に対して適度な印加電圧をかけることができ、オゾンの発生を容易に防ぐことができる。
【0066】
図3(b)に示すように、平板状のグリッド206は、放電ワイヤ205と、基体3上に配される組成物層401との間に配置することができる。ここで、組成物層401表面の帯電電位を均一にする観点から、組成物層401表面と、グリッド206との間の距離は、1mm以上10mm以下の範囲とすることが好ましい。
【0067】
放電ワイヤ205には清掃部材として清掃パッド(不図示)を備えることが好ましい。清掃パッドはスポンジ等の柔らかい部材を使用することができ、放電ワイヤ205を両側から挟むように配置することが可能である。図3(b)に示すように、スクリュ207からの駆動を受けて、キャリッジ208を介して清掃パッドがコロナ帯電器長手方向に移動可能な機構を設けることが有効である。
【0068】
(6-4)弾性層上に接着層を形成する工程
(6-5)弾性層上に表層を形成する工程
図4は、シリコーンゴムを含む弾性層4上に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を用いて形成した接着層5を介して表層6を積層する工程の一例を示す模式図である。まず、基体3の外周面に形成された弾性層4の表面に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を塗布する。さらにその外表面に、表層6を形成するためのフッ素樹脂チューブを被覆し、積層させる。なお、フッ素樹脂チューブの内面は、予め、ナトリウム処理やエキシマレーザ処理、アンモニア処理等を施すことで、接着性を向上させることができる。
【0069】
フッ素樹脂チューブの被覆方法は特に限定されないが、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を潤滑材として被覆する方法や、フッ素樹脂チューブを外側から拡張し、被覆する方法などを用いることができる。また、不図示の手段を用いて、弾性層4とフッ素樹脂からなる表層6との間に残った、余剰の付加硬化型シリコーンゴム接着剤を、扱き出すことで除去することもできる。扱き出した後の接着層5の厚みは、伝熱性の観点から20μm以下とすることが好ましい。
【0070】
次に、電気炉などの加熱手段にて所定の時間加熱して、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を硬化・接着させることにより、弾性層4上に、接着層5及び表層6を形成することができる。なお、加熱時間や加熱温度等の条件については、用いた接着剤等に応じて適宜設定することができる。得られた部材の幅方向の両端部を所望の長さに切断することで、定着部材を得ることができる。
【0071】
<弾性層中の熱伝導性粒子近傍への酸化鉄粒子の偏在状態の確認>
酸化鉄粒子の偏在状態は、弾性層の断面画像を用いて、熱伝導性粒子と酸化鉄粒子のユークリッド距離マップを作成し、偏在指数Mを導出することで確認できる。以下その手法について説明する。
【0072】
まず、測定用サンプルを作製する。定着部材から、例えば、縦5mm、横5mm、厚みが定着部材の全厚みである試料を、定着部材の任意の箇所から採取する。得られた試料について、任意の厚さ方向の断面を露出させるように、イオンミリング装置(商品名:IM4000、日立ハイテクノロジー社製)を用いて研磨加工する。イオンミリングによる断面の研磨加工では、試料からの粒子の脱落や研磨剤の混入を防ぐことができ、また、研磨痕の少ない断面を形成することができる。
【0073】
続いて、弾性層の厚さ方向の任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:FE-SEM SIGMA500 VP、Zeiss社製)で観察し、断面の画像を取得する(図5(a))。観察条件は、例えば、5000倍の反射電子像モードで、反射電子像取得条件は、加速電圧:8.0kV、ワーキングディスタンス:8mmである。
この反射電子像では、ゴムと熱伝導性粒子と酸化鉄粒子のそれぞれの構成元素に応じて明暗差が異なっている。このような明暗差による3値化は、画像の輝度を256階調に分類することによって実現可能である。
【0074】
反射電子像のこうした特徴を利用して、定着部材の断面画像から酸化鉄粒子のみ抽出された第一の画像(図5(b))と、熱伝導粒子のみ抽出された第二の画像(図5(c))を取得する。具体的には、例えば、まず、MediaCybernetics社製画像解析ソフトImageProPlusで反射電子像を読み込み、画像の輝度分布を求める。次いで、求めた輝度分布の輝度範囲を設定することでゴムと熱伝導粒子と酸化鉄粒子とが判別可能な3値化ができ、酸化鉄粒子のみ抽出された第一の画像と、熱伝導粒子のみ抽出された第二の画像が取得できる。
ゴムと熱伝導性粒子と酸化鉄粒子とを判別する手法は、反射電子像における明暗差を用いるものには限られない。例えば、まず、SEM-EDS(Scanning Electron Microscope Energy Dispersive X-ray Spectrometry)により同一視野の元素マッピング画像を取得する。その後、反射電子像と照らし合わせて画像中の各粒子を同定することによっても精度良くゴム、熱伝導性粒子及び酸化鉄粒子を判別できる。
【0075】
上述の手順により同一の画角内において、酸化鉄粒子のみを抽出した第一の画像と、熱伝導性粒子のみを抽出した第二の画像から、偏在指数Mを導出する手法について説明する。
これらの画像にはデジタル画像処理技術を適用して偏在指数化を実施することから、画像は全て格子状に画素の並んだ一般的なデジタル画像フォーマットであることが前提となる。また、2値化画像である第一の画像及び第二の画像は輝度情報のみのグレースケール画像であり、その後これらの画像に対して画像処理を実施して得られる画像は、断りのない限り全て同一フォーマットのグレースケール画像である。
【0076】
まず、第一の画像に対する画像処理手順を説明する。第一の画像上の輝点は酸化鉄粒子を表している。酸化鉄粒子1粒は複数画素にまたがる形で構成されているが、どの範囲が1つの粒子であるか、を識別するため、粒子のラヴェリング処理を実施した。ラヴェリングとは2値化された画像において、高輝度部が連結した塊一つ一つに番号を付与する処理である。
連結の判定法は一般的に2種類の方法があり、画素の上下左右のみ繋がりを有効とする4連結と、さらに斜め方向の繋がりも有効とする8連結がある。ここでは、4連結により繋がりを判定した上で、第一の画像に対してラヴェリング処理を実施し、酸化鉄粒子毎に数字(ラヴェル)が付与した例について述べる。
【0077】
この酸化鉄粒子と熱伝導性粒子の位置関係を指標化するにあたり、酸化鉄粒子の空間上の存在位置を座標として取得する必要がある。なお、取得する座標値は画素単位での座標系である。座標系は画像の左上の角を原点(0,0)としており、右をプラス方向に取った軸をx軸、下をプラス方向に取った軸をy軸とした座標系を定義する。画像は1024×682画素のサイズであり、左上を(0,0)、右下を(1023、681)とした座標系となる。
酸化鉄粒子は小さいながらも大きさを持つため、1つの酸化鉄粒子は複数の画素にまたがっている。本実施例では粒子の位置を表す座標値として、粒子を構成する複数画素の重心座標を適用している。酸化鉄粒子を構成する各画素の座標を(x、y)とすると、重心座標(x、y)は以下の式1で決定される。
【数1】
この式に基づき、ラヴェリングされた酸化鉄粒子毎の座標を導出し、得られた座標値の小数点以下を四捨五入して整数化した値を重心座標データとして出力・保存する。座標値を整数化するのは、この重心座標データに記載された座標情報を、後述する熱伝導性粒子と酸化鉄粒子の粒子間距離を導出する処理において利用するためである。
【0078】
次に、第二の画像に対する処理手順を説明する。最初に熱伝導性粒子部分が最大輝度、それ以外の部分が輝度値0となっている2値化画像に対して、コントラストを反転する処理を実施し、第三の画像を取得する。この処理は、前述の3値化処理を行う際に初めから熱伝導性粒子部が輝度値0となるような2値化画像を得るようにした場合には実施の必要はない。いずれの場合にせよ、熱伝導性粒子部が輝度値0、それ以外の部分は最大輝度となっているのが第三の画像(図5(d))である。
この第三の画像を使って、画像内の全画素について最も近い熱伝導性粒子の外表面までのユークリッド距離を求め、その距離の値をそれぞれの画素の輝度値に置き換えたユークリッド距離マップ像を取得する。ユークリッド距離とは、2つの画素の座標をそれぞれ(x、y)、(x、y)としたとき、以下の式2で与えられる距離値のことである。
【数2】
座標系は酸化鉄粒子について重心座標データを取得した時と同様に画素単位での座標系であり、ユークリッド距離の単位も画素単位の大きさとなる。第三の画像に対応したユークリッド距離マップは図5(e)のようになる。
【0079】
ユークリッド距離マップ像を取得するには、いくつかのアルゴリズムが知られている。
最も単純なアルゴリズムとしては、注目する画素から、輝度値が0となっている熱伝導性粒子に対応する全ての画素との間のユークリッド距離値を求め、その値の中で最も小さな値を検索する、という手法である。このアルゴリズムを使うと、画素数の2乗のオーダーの回数だけ画素間距離の値を計算することになるため、計算量が多く時間のかかる処理となる。そのため、少ない計算量で同じ結果が得られるようなアルゴリズムが多数開発されている。ここでは、逐次型距離変換と呼ばれる手法を適用した例を説明する。
逐次型距離変換では2つの処理が実施される。第一の処理は画像の座標系の原点を画像左上とし、右方向をx軸、下方向をy軸としたとき、原点をスタート地点として右方向に1画素ずつ進む。1行分行き着いたらy方向に1行下がって左から右に向かって1画素ずつ進む。この過程で、以下の処理を逐次実施していく。すなわち、現在位置の画素値をI(x,y)、現在位置から見て1つ左の画素値をI(x-1,y)、現在位置から見て1つ上の画素値をI(x,y-1)とする。このとき、I(x,y)、I(x-1,y)+1及びI(x,y-1)+1の中の最小の値に現在位置の画素値を書き換える、という処理を逐次実施する。
画像の端部では左隣や上に位置する画素が存在しないケースが生まれるが、その場合は3つのうち存在している画素のみを対象に処理を実施する。
【0080】
この一連の処理を画像上の全画素について実施した後、以下に示す第二の処理を実施する。座標系は第一の処理と同じく画像の左上を原点とするが、画像の最も右下、すなわち第一の処理を実施したときの最終地点をスタート地点とする。第一の処理と逆に左方向に1画素ずつ進み、1行分行き着いたらy方向に1行上がり、右から左に向かって一画素ずつ進みながら、以下の処理を逐次実施していく。すなわち、現在位置の画素値をI(x,y)、現在位置から見て1つ右の画素値をI(x+1,y)、現在位置から見て1つ下の画素値をI(x,y+1)とする。このとき、I(x,y)、I(x+1,y)+1及びI(x,y+1)+1の中の最小の値に現在位置の画素値を書き換える、という処理を逐次実施する。
第二の処理は、第一の処理と反対の向きに動きながら同じ処理を実施している、と言える。このような処理アルゴリズムを使うと、前述の画素間距離を総当たりする手法で求められるユークリッド距離マップと同じ結果を、画素数×数倍程度のオーダーの計算量で求めることが可能である。上記で説明したアルゴリズム以外にもユークリッド距離マップを導出するアルゴリズムは複数種存在している。いずれの手法も計算の効率化を目的としており、得られる距離マップの値は変わらないため、上記以外のユークリッド距離マップ導出法を使用しても構わない。
【0081】
次に、前述の酸化鉄粒子についての重心座標データ及びユークリッド距離マップを用いて、熱伝導性粒子と酸化鉄粒子間距離についての累積相対度数分布Gaを得る工程について説明する。
まず、重心座標データに記録されている酸化鉄粒子毎の座標を参照し、その座標の位置でのユークリッド距離マップの値を参照・取得する。重心座標の値は画素単位で取得されているので、ユークリッド距離マップについても同様の座標系を使用する。ここでは、左上を(0、0)、右下を(1023、681)とした座標系を使用した例を説明する。
各重心座標における値は、その位置から最も近い熱伝導性粒子の外表面までの距離に相当し、単位は画素単位である。そのため、材料中での実距離に換算するためには、SEM画像の観察倍率・画像サイズに応じた1画素あたりのサイズを乗算する必要がある。図5に示すSEM画像では、1画素の長さが0.058μmに相当しているため、各参照値に0.058μmを乗算した値を実際の距離値とする。
【0082】
上記処理によって得られた酸化鉄粒子毎の熱伝導性粒子の外表面までの距離値について、ヒストグラムを作成する。作成するヒストグラムは横軸を距離、縦軸を頻度とし、横軸の各区間については、0以上0.1μm未満、0.1μm以上0.2μm未満・・・というように0.1μm刻みで区間を設定する。このようにして得られたヒストグラムを図6に示す。
このヒストグラムから、各区間の値を順々に加算し、各区間の値をその区間以下の度数の和となるようにすることで、累積度数分布が得られる。この累積度数分布で、区間値が最大のときに全点数を表すが、この値を100%として全ての度数を規格化したものを、累積相対度数分布Gaと呼ぶ。累積相対度数分布Gaは図7のようになる。
【0083】
上記のヒストグラム及び累積相対度数分布Gaには、熱伝導性粒子の近傍に酸化鉄粒子が偏在している場合と、そうでない場合とで相違する。具体的には、酸化鉄粒子から熱伝導性粒子の外表面までの距離が短いときの度数の割合が多くなるほど、熱伝導性粒子の近傍に酸化鉄粒子が偏在している状態を表す。
この酸化鉄粒子から熱伝導性粒子の外表面までの距離が短いときの度数の割合がどの程度多くなっているかを定量的に評価するため、酸化鉄粒子が完全にランダムに分布していたときの状態を基準として、そこからの差分を評価する。ランダム分布を基準とする考え方は空間統計学の分野では頻繁に利用され、まずは基準となるランダム分布したときにどのような累積度数分布になるかの期待値を以下のような手順で取得する。
【0084】
本実施形態では、酸化鉄粒子は第二の画像の熱伝導性粒子以外の部分にのみ存在し得るため、この熱伝導性粒子以外の部分にランダムに点を置いたときの、酸化鉄粒子-熱伝導性粒子間距離についての累積度数分布の期待値を取得する必要がある。そのため、第二の画像内からランダムに座標をピックアップし、そのときの座標における第三の画像から作成されたユークリッド距離マップ上の値を参照する。
このとき、参照されたユークリッド距離マップ上の値がどのような数値になるかは、距離値の分布に依存する。例えば、距離1が500画素、距離2が300画素、距離3が200画素で構成されるユークリッド距離マップが存在しているとすれば、50%の確率で距離1、30%の確率で距離2、20%の確率で距離3が選択される。このような環境下でランダムサンプリングを続けたとき、サンプリングされた点の50%は距離1、30%は距離2、20%は距離3という分布になるように漸近していく。すなわち、ランダム分布時のヒストグラムの期待値は、第三の画像から作成されたユークリッド距離マップ全体の距離値のヒストグラムと同じになる。そのため、第三の画像から作成されたユークリッド距離マップ上の距離値から累積相対度数分布Grを得ると、ランダム分布時の累積相対度数分布の期待値を得ることができる。なお、この累積相対度数分布Grの区間はGaを求めたときと同様に0.1μm刻みの区間を設定する。このようにして得られた累積相対度数分布Grは図8のようになる。
【0085】
前述の累積相対度数分布GaとGrについて、同じ区間同士の値を比較した結果を図9に示す。Gaの方がGrよりも、特に短い距離において大きな値を取っていることが分かる。これはランダム分布の期待値であるGrよりもGaの方がより短い距離に酸化鉄粒子が存在していることを示唆している。このGaとGrの値の差が短い距離において大きいほど、熱伝導性粒子近傍への酸化鉄粒子の偏在が強いことを示している。
【0086】
本開示においては、特に熱伝導性粒子からの距離が0.5μm以内に酸化鉄粒子が偏在していることにより顕著な効果が得られることから、0.5μm以内のGaとGrの差分を取得し、その平均値を取ったものを偏在指数Mと定義する。
偏在指数Mは以下の式3で表される。ここでdは熱伝導性粒子の外表面と酸化鉄粒子の距離を示す。
【数3】
以上の手法により偏在指数Mが導出される。
【0087】
偏在指数Mの値としては0.2以上0.8未満であれば、熱伝導性粒子の近傍に酸化鉄粒子が十分偏在していることとなる。その結果として、耐熱耐久性がより一層向上した定着部材を得ることができる。
弾性層の任意の5箇所における厚さ方向の断面の各々から偏在指数Mを求めたとき、それぞれの値をM1~M5とする。この時、5箇所のうち少なくとも3箇所における偏在指数Mが0.2以上0.8未満であることで、より耐熱耐久性の向上が図れる。
【0088】
(7)熱定着装置
本開示の他の態様に係る熱定着装置は、加熱部材と、該加熱部材に対向して配置されている加圧部材とを有する。すなわち、熱定着装置は、一対の加熱されたローラとローラ、ベルトとローラ、ベルトとベルト、といった回転体が互いに圧接されるように構成されている。熱定着装置の種類は、熱定着装置が搭載される電子写真画像形成装置全体としてのプロセス速度、大きさ等の条件を勘案して適宜選択される。
【0089】
熱定着装置においては、加熱された定着部材と加圧部材を圧接することでニップ部を形成し、このニップ部に、未定着トナーによって画像が形成された、被加熱体となる記録材を挟持搬送させる。未定着トナーによって形成された画像をトナー像と称する。ニップ部に記録材を挟持搬送させることにより、トナー像を加熱、加圧する。その結果、トナー像は溶融・混色され、その後、冷却されることによって記録材上に画像が定着される。
以下、熱定着装置の具体例を挙げて、その構成を説明するが、本開示の範囲及び用途はこれに限定されるものではない。
【0090】
(7-1)加熱ベルト-加圧ベルト方式の熱定着装置
図10は、一対の加熱ベルト11と加圧ベルト12といった回転体が圧接されている、いわゆるツインベルト方式の熱定着装置であり、加熱部材として加熱ベルトを備えた熱定着装置の一例の断面模式図である。加熱ベルトとしては、本開示の一態様に係る定着部材を用いることができる。
ここで、熱定着装置又はこれを構成している部材について、幅方向とは、図10の紙面に垂直の方向である。熱定着装置について、正面とは、記録材Sの導入側の面である。左右とは、装置を正面から見て左又は右である。ベルトの幅とは、装置を正面から見たときの左右方向のベルト寸法である。記録材Sの幅とは、搬送方向に直交する方向の記材体寸法である。さらに、上流又は下流とは、記録材の搬送方向に関して上流又は下流である。
【0091】
この熱定着装置は、定着部材としての加熱ベルト11と、加圧ベルト12とを備えている。加熱ベルト11と加圧ベルト12は、図2(a)に示すようなニッケルを主成分とした金属製の可撓性を有する基体を含む加熱ベルトを2つのローラに張架したものである。
【0092】
加熱ベルト11の加熱手段として、エネルギー効率の高い電磁誘導加熱により加熱可能な加熱源(誘導加熱部材、励磁コイル)を採用している。誘導加熱部材13は、誘導コイル13aと、励磁コア13bと、それらを保持するコイルホルダー13cと、から構成される。誘導コイル13aは、長円状に扁平巻きされたリッツ線を用い、誘導コイルの中心と両脇に突起した横E型の励磁コア13bの中に配置されている。励磁コア13bは、フェライト、パーマロイといった高透磁率で残留磁速密度の低いものを用いるので、誘導コイル13aや励磁コア13bでの損失を抑えられ、効率的に加熱ベルト11を加熱することができる。
【0093】
励磁回路14から誘導加熱部材13の誘導コイル13aに高周波電流が流されると、加熱ベルト11の基体が誘導発熱して基体側から加熱ベルト11が加熱される。加熱ベルト11の表面温度がサーミスタ等の温度検知素子15により検知される。この温度検知素子15で検知される加熱ベルト11の温度に関する信号が制御回路部16に送られる。制御回路部16は、温度検知素子15から受信した温度情報が所定の定着温度に維持されるように、励磁回路14から誘導コイル13aに対する供給電力を制御して、加熱ベルト11の温度を所定の定着温度に調節する。
【0094】
加熱ベルト11は、ベルト回転部材としてのローラ17及び加熱側ローラ18によって張架されている。ローラ17と加熱側ローラ18は、それぞれ装置の不図示の左右の側板間に回転自由に軸受されて支持されている。
【0095】
ローラ17は、例えば、外径が20mmで、内径が18mmである厚さ1mmの鉄製の中空ローラであり、加熱ベルト11に張りを与えるテンションローラとして機能している。加熱側ローラ18は、例えば、外径が20mmで、径が18mmである鉄合金製の芯金に、弾性層としてのシリコーンゴム層が設けられた高摺動性の弾性ローラである。
【0096】
この加熱側ローラ18は、駆動ローラとして駆動源(モータ)Dから不図示の駆動ギア列を介して駆動力が入力されて、矢印の時計方向に所定の速度で回転駆動される。この加熱側ローラ18に上記のように弾性層を設けることで、加熱側ローラ18に入力された駆動力を加熱ベルト11へ良好に伝達することができるとともに、加熱ベルト11からの記録材の分離性を確保するためのニップ部を形成できる。加熱側ローラ18が弾性層を有することによって、加熱側ローラへの熱伝導も少なくなるためウォームアップタイムの短縮にも効果がある。
【0097】
加熱ベルト11は、加熱側ローラ18が回転駆動されると、加熱側ローラ18のシリコーンゴム表面と加熱ベルト11の内面との摩擦によってローラ17と共に回転する。ローラ17及び加熱側ローラ18の配置や大きさは、加熱ベルト11の大きさに合わせて選択される。例えば上記ローラ17及び加熱側ローラ18の寸法は、未装着時の内径が55mmの加熱ベルト11を張架できるように選択されたものである。
【0098】
加圧ベルト12は、ベルト回転部材としてのテンションローラ19と加圧側ローラ20によって張架されている。加圧ベルトの未装着時の内径は、例えば55mmである。テンションローラ19と加圧側ローラ20は、それぞれ装置の不図示の左右の側板間に回転自由に軸受させて支持させている。
【0099】
テンションローラ19は、例えば、外径が20mmで、径が16mmである鉄合金製の芯金に、熱伝導率を小さくして加圧ベルト12からの熱伝導を少なくするためにシリコーンスポンジ層を設けてある。加圧側ローラ20は、例えば、外径が20mmで、内径が16mmである厚さ2mmの鉄合金製とされた低摺動性の剛性ローラである。テンションローラ19、加圧側ローラ20の寸法も同様に、加圧ベルト12の寸法に合わせて選択されたものである。
【0100】
ここで、加熱ベルト11と加圧ベルト12との間にニップ部Nを形成するために、加圧側ローラ20は、回転軸の左右両端側が不図示の加圧機構により、矢印Fの方向に所定の加圧力にて加熱側ローラ18に向けて加圧されている。
【0101】
また、装置を大型化することなく幅広いニップ部Nを得るために、加圧パッドを採用している。すなわち、加熱ベルト11を加圧ベルト12に向けて加圧する第1の加圧パッドとしての定着パッド21と、加圧ベルト12を加熱ベルト11に向けて加圧する第2の加圧パッドとしての加圧パッド22である。定着パッド21及び加圧パッド22は、装置の不図示の左右の側板間に支持されて配設している。加圧パッド22は、不図示の加圧機構により、矢印Gの方向に所定の加圧力にて定着パッド21に向けて加圧されている。第1の加圧パッドである定着パッド21は、パッド基体とベルトに接する摺動シート(低摩擦シート)23を有する。第2の加圧パッドである加圧パッド22も、パッド基体とベルトに接する摺動シート24を有する。これは、パッドのベルト内周面と摺擦する部分の削れが大きくなるという問題があるためである。ベルトとパッド基体の間に、摺動シート23と24を介在させることで、パッドの削れを防止し、摺動抵抗も低減できるので、良好なベルト走行性、ベルト耐久性を確保できる。
【0102】
なお、加熱ベルトには非接触の除電ブラシ(不図示)、加圧ベルトには接触の除電ブラシ(不図示)を各々設けている。
【0103】
制御回路部16は、少なくとも画像形成実行時にはモータDを駆動する。これにより加熱側ローラ18が回転駆動され、加熱ベルト11が同じ方向に回転駆動される。加圧ベルト12は、加熱ベルト11に従動して回転する。ここで、ニップ最下流の部分をローラ対18、20により加熱ベルト11と加圧ベルト12を挟んで搬送する構成とすることで、ベルトのスリップを防止することができる。ニップ最下流の部分は、ニップ部での圧分布(記録材搬送方向)が最大となる部分である。
【0104】
加熱ベルト11が所定の定着温度に立ち上がって維持(温調という)された状態において、加熱ベルト11と加圧ベルト12間のニップ部Nに、未定着トナー像tを有する記録材Sが搬送される。記録材Sは、未定着トナー像tを担持した面を、加熱ベルト11側に向けて導入される。そして、記録材Sの未定着トナー像tが加熱ベルト11の外周面に密着したまま挟持搬送されていくことにより、加熱ベルト11から熱が付与され、また、加圧力を受けて記録材Sの表面に定着される。この際、加熱ベルト11の加熱された基体からの熱は、厚み方向の熱伝導性を高めた弾性層を通じて記録材Sに向けて効率よく輸送される。その後、記録材Sは、分離部材25によって、加熱ベルトと分離して搬送される。
【0105】
(7-2)加熱ベルト-加圧ローラ方式の熱定着装置
図11は、加熱ベルト-加圧ローラ方式の熱定着装置の例を示す模式図である。図11において、熱定着装置は、本開示の一態様に係る、エンドレス形状を有する定着ベルトとしての加熱ベルト11と、加圧ローラ33と、加熱ベルト11の内部に配置されたセラミックヒータ31とを具備する。セラミックヒータ31は、該定着ベルトを非輻射熱によって加熱するための加熱体である。なお、本開示に係る熱定着装置において、該定着ベルトを加熱するためのヒータとしては、本態様に示す非輻射熱で該定着ベルトを加熱するヒータに限定されるものではない。例えば、輻射熱によって該定着ベルトを加熱することができる、ハロゲンヒータの如きヒータを用いることもできる。
本態様において、定着部材は、非輻射熱によって加熱された定着ベルトを用いて記録材上の未定着トナー像tを定着する定着装置の該定着ベルトとして用いられるものである。
熱定着装置は、加熱ベルト11を保持するための耐熱性および断熱性を有するベルトガイド30を有し、ベルトガイド30が加熱ベルト11と接触する位置(ベルトガイド30の下面のほぼ中央部)に、加熱ベルト11を加熱するセラミックヒータ31を有する。セラミックヒータ31は、ガイド長手に沿って形成具備された溝部に嵌入して固定支持されている。そして、加熱ベルト11は、ベルトガイド30にルーズに外嵌されている。また、加圧用剛性ステイ32は、ベルトガイド30の内側に挿通してある。
【0106】
一方、加熱ベルト11に対向するように加圧ローラ33が配設されている。なお加圧ローラ33は、本例では弾性加圧ローラ、すなわち、芯金33aにシリコーンゴムの弾性層33bを設けて硬度を下げたものであり、芯金33aの両端部を装置の不図示の手前側と奥側のシャーシ側板との間に回転自由に軸受け保持させて配設されている。なお、弾性加圧ローラには、表面性を向上させるために、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)チューブを被覆している。
【0107】
加圧用剛性ステイ32の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ(不図示)を縮設することで、加圧用剛性ステイ32に押し下げ力を作用させている。これにより、定着ニップ部においては、耐熱樹脂製のベルトガイド30の下面に配設したセラミックヒータ31の下面と加圧ローラ33の上面とで、加熱ベルト11が挟持される。
【0108】
加圧ローラ33は、不図示の駆動手段により矢印のように反時計方向に回転駆動される。この加圧ローラ33の回転駆動による、加圧ローラ33と加熱ベルト11の外表面との摩擦力で、加熱ベルト11に回転力が作用して、加熱ベルト11はベルトガイド30の外回りに回転する(加圧ローラ駆動方式)。加熱ベルト11は、その内表面がニップ部Nにおいてセラミックヒータ31の下面に密着して摺動しながら、時計方向に加圧ローラ33の回転周速度にほぼ対応した周速度で回転する。
【0109】
プリントスタート信号に基づいて加圧ローラ33の回転が開始され、また、セラミックヒータ31のヒートアップが開始される。加圧ローラ33の回転による加熱ベルト11の回転周速度が定常化し、セラミックヒータの上面に設けた温度検知素子34の温度が所定温度、例えば180℃に立ち上がる。この瞬間に、ニップ部Nの加熱ベルト11と加圧ローラ33との間に被加熱材としての未定着トナー像tを担持した記録材Sがトナー像担持面側を加熱ベルト11側にして導入される。
そして、記録材Sは、ニップ部Nにおいて加熱ベルト11を介してセラミックヒータ31の下面に密着し、加熱ベルト11と一緒にニップ部Nを移動通過していく。その移動通過過程において、加熱ベルト11の熱が記録材Sに付与され、未定着トナー像tが記録材S面に加熱定着される。ニップ部Nを通過した記録材Sは、加熱ベルト11の外表面から分離して搬送される。
【0110】
加熱体としてのセラミックヒータ31は、加熱ベルト11及び記録材Sの移動方向に直交する方向を長手とする低熱容量の横長の線状加熱体である。セラミックヒータ31は、ヒータ基板31aと、該ヒータ基板31aの表面に、その長手に沿って設けた発熱層31bと、さらにその上に設けた保護層31cと、摺動部材31dと、を基本構成とするものが好ましい。ここで、ヒータ基板31aは、チッ化アルミニウム等により構成することができる。
発熱層31bは、例えばAg/Pd(銀/パラジウム)等の電気抵抗材料を、厚さ約10μm、幅1~5mmにスクリーン印刷等により塗工することで形成することができる。保護層31cは、ガラスやフッ素樹脂等で構成することができる。なお、熱定着装置に用いるセラミックヒータは、このようなものに限定されるわけではない。
【0111】
そして、セラミックヒータ31の発熱層31bの両端間に通電されることで、発熱層31bが発熱し、セラミックヒータ31が急速に昇温する。セラミックヒータ31は、ベルトガイド30の下面のほぼ中央部にガイド長手に沿って形成具備させた溝部に、保護層31c側を上向きに嵌入して固定支持させてある。加熱ベルト11と接触するニップ部Nには、セラミックヒータ31の摺動部材31dの面と加熱ベルト11の内表面が相互接触摺動する。
【0112】
以上のように、加熱ベルト11は、シリコーンゴムを含む弾性層の厚さ方向の熱伝導率を高めるとともに硬度も低く抑えている。このような構成により、加熱ベルト11は、未定着トナー像を効率的に加熱でき、かつ低硬度であるため、ニップ部Nにおいて記録材Sに高画質な画像を定着させることができる。
【実施例
【0113】
以下に、実施例を用いて本開示をより詳細に説明する。
[実施例1]
(1)液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製
まず、成分(a)として、シリコーンポリマー(商品名:DMS-V35、Gelest社製、粘度5000mm/s)を98.6質量部準備した。
該シリコーンポリマーは、分子鎖両末端にのみ不飽和脂肪族基であるビニル基を有し、その他不飽和脂肪族基を含まない非置換炭化水素基としてメチル基を有する。なお、該シリコーンポリマーは、前記構造式(2)において、Rがいずれもメチル基であり、Rがいずれもビニル基であるポリマーである。
【0114】
次いで、該シリコーンポリマーに、熱伝導性粒子として、表面を酸化処理した金属ケイ素(商品名:M-Si#600、キンセイマテック社製、平均粒径7μm)をシリコーン成分に対して35体積%となるように配合した。さらに酸化鉄粒子(商品名:トダカラー130ED、戸田工業社製、平均粒径0.20μm)をシリコーン成分に対して0.3体積%となるように配合し、十分に混合して混合物1を得た。
【0115】
次いで、硬化遅延剤である1-エチニル-1-シクロヘキサノール(東京化成工業社製)0.2質量部を同重量のトルエンに溶解したものを、混合物1中に添加して混合物2を得た。
次いで、成分(c)としてヒドロシリル化触媒(白金触媒:1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン、及び2-プロパノールの混合物)0.1質量部を、混合物2中に添加して混合物3を得た。
さらに、成分(b)として、シロキサン骨格が直鎖状で、ケイ素に結合した活性水素基を側鎖にのみ有するシリコーンポリマー(商品名:HMS-301、Gelest社製、粘度30mm/s)を、1.4質量部計量した。これを、混合物3に添加し、十分に混合することで、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を得た。
【0116】
(2)加熱ベルトの作製
基体として、内径55mm、幅420mm、厚さ65μmのニッケル電鋳製エンドレスベルトを用意した。なお、一連の製造工程中、エンドレスベルトは、その内部に中子を挿入して取り扱った。まず、基体の外周面に、プライマー(商品名:DY39-051A/B、東レ・ダウコーニング社製)を乾燥重量が50mgとなるように略均一に塗布し、溶媒を乾燥させた後、160℃に設定した電気炉で30分間の焼付け処理を行った。
【0117】
このプライマー処理された基体上に、リングコート法で、厚さ450μmのシリコーンゴム組成物層を形成した。次に、コロナ帯電器を、シリコーンゴム組成物層を外周面に有する基体の母線に沿って対向配置し、該基体を100rpmで回転させながら、シリコーンゴム組成物層の外表面を帯電させた。帯電条件は、コロナ帯電器の放電ワイヤへの供給電流を-150μA、グリッド電極電位を-950V、帯電時間を20秒、グリッド電極とシリコーンゴム組成物層の外表面との距離を4mmとした。
次いで、該基体を電気炉に入れ、温度160℃で1分間加熱して、該シリコーンゴム組成物層を一次硬化させた後、温度200℃で30分間加熱して該シリコーンゴム組成物層を二次硬化させて弾性層を形成した。
【0118】
次に、弾性層の表面に、接着層を形成するための付加硬化型シリコーンゴム接着剤(商品名:SE1819CV A/B、東レ・ダウコーニング社製)を、厚さがおよそ20μm程度になるように略均一に塗布した。これに、表層を形成するための内径52mm、厚み40μmのフッ素樹脂チューブ(商品名:NSE、グンゼ社製)を拡径しつつ積層した。その後、フッ素樹脂チューブの上からベルト表面を均一に扱くことにより、過剰の接着剤を弾性層とフッ素樹脂チューブの間から、5μm程度まで薄くなるように扱き出した。次いで、該基体を、電気炉に入れ、温度200℃で1時間加熱して接着剤を硬化させて、当該フッ素樹脂チューブを弾性層上に固定して加熱ベルトを得た。
【0119】
(3)偏在指数Mによる熱伝導性粒子と酸化鉄粒子の分散状態評価
作製した加熱ベルトの任意の5箇所から測定用サンプルを5個切り出し、各サンプルについて前記の方法によって偏在指数M1~M5を導出した。
【0120】
(4)加熱ベルトの評価
作製した加熱ベルトを、電子写真方式の複写機(商品名:imagePRESS(登録商標) C850、キヤノン社製)の熱定着装置に組み込んだ。そして、この熱定着装置を、上記複写機に装着した。この複写機を用いて、85枚/分の印刷速度で、A4用紙(商品名:GFC-081、キヤノン社製)を連続通紙した。
画像としては、片面にブラックのハーフトーン画像を形成し通紙した。耐久性評価としては、特に高温がかかる非通紙部について、弾性層の破壊によるベルト外観の変形を観測し、その時の通紙枚数で評価した。
【0121】
[実施例2]
実施例1におけるシリコーンゴム組成物の調製において、熱伝導性粒子を酸化マグネシウム(商品名:SL-WR;神島化学工業社製、平均粒径:10μm)に変更し、配合量を43体積%とした。それ以外は実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製し、加熱ベルトを作製した。また、得られた加熱ベルトについて、実施例1に係る加熱ベルトの評価と同様にして評価した。
【0122】
[実施例3]
実施例1におけるシリコーンゴム組成物の調製において、熱伝導性粒子を酸化アルミニウム(商品名:アルナビーズCB-P10;昭和電工社製、体積平均粒径:8μm)に変更し、配合量を50体積%とした。それ以外は実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製し、加熱ベルトを作製した。また、得られた加熱ベルトについて、実施例1に係る加熱ベルトの評価と同様にして評価した。
【0123】
[実施例4]
実施例1におけるシリコーンゴム組成物の調製において、熱伝導性粒子を酸化亜鉛(商品名:LPZINC-11;堺化学工業社製、体積平均粒径:11μm)に変更し、配合量を45体積%とした。それ以外は実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製し、加熱ベルトを作製した。また、得られた加熱ベルトについて、実施例1に係る加熱ベルトの評価と同様にして評価した。
【0124】
[実施例5]
実施例1におけるシリコーンゴム組成物の調製において、熱伝導性粒子を炭化ケイ素(商品名:緑色炭化ケイ素NG H-BD#1000;大平洋ランダム社製、体積平均粒径:13μm)に変更し、配合量を30体積%とした。それ以外は実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製し、加熱ベルトを作製した。また、得られた加熱ベルトについて、実施例1に係る加熱ベルトの評価と同様にして評価した。
【0125】
[実施例6]
(1)液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製
まず、実施例1で使用した金属ケイ素粒子と酸化鉄粒子とを事前に混合した。紛体混合機(商品名:スーパーミキサーピッコロ、カワタ社製)に、以下の材料を添加し、3000rpmで1時間混合した後、300rpmで24時間混合して紛体混合物1を得た。
・表面を酸化処理した金属ケイ素(商品名:M-Si#600、キンセイマテック社製、平均粒径7μm)を300g
・酸化鉄粒子(商品名:トダカラー130ED、戸田工業社製、体積平均粒径0.2μm)を5.7g
・ヘキサメチルジシラザン(和光純薬社製)を3.0g
【0126】
実施例1におけるシリコーンゴム組成物の調製において、混合物1の代わりに上記で得られた紛体混合物1を用い、配合量を35.3体積%とした。それ以外は実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製した。また、実施例1における加熱ベルトの作製において、コロナ帯電器を用いた帯電処理を行わなかった。それ以外は実施例1と同様にして加熱ベルトを作製し、得られた加熱ベルトについて、実施例1に係る加熱ベルトの評価と同様にして評価した。
【0127】
[比較例1~5]
実施例1~5において、コロナ帯電器による電場印加工程を省いた以外は同様にして加熱ベルトを作製した。
【0128】
【表1】
【0129】
表1の結果から、実施例と比較例を比較すると、5箇所のサンプリング位置のうち、少なくとも3箇所で偏在指数Mが0.2以上0.8未満であるとき、加熱ベルトの耐久性が向上していることがわかる。また、5箇所のサンプリング位置のうち、4箇所で0.2を超えた場合に耐久性がさらに向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0130】
1 中子
2 帯電器
3 基体
4 弾性層
5 接着層
6 表層
7 熱伝導性粒子
8 酸化鉄粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11