(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】ベルト搬送装置、画像形成装置、記録材冷却装置
(51)【国際特許分類】
B65H 5/02 20060101AFI20240227BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B65H5/02 N
B65H5/02 T
G03G15/00 460
(21)【出願番号】P 2020069411
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 秀介
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107018(JP,A)
【文献】特開2014-237526(JP,A)
【文献】特開2014-237525(JP,A)
【文献】特開2009-63861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/02
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する第一ベルトと、前記第一ベルトを張架する第一ローラと、前記第一ローラを揺動し前記第一ベルトの回転方向に交差する幅方向に前記第一ベルトを往復移動させる第一ステアリング機構と、前記幅方向における前記第一ベルトの位置を検出する第一検出手段と、を有する第一ユニットと、
前記第一ベルトに当接して記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第二ベルトと、前記第二ベルトを張架する第二ローラと、前記第二ローラを揺動して前記幅方向に前記第二ベルトを往復移動させる第二ステアリング機構と、前記幅方向における前記第二ベルトの位置を検出する第二検出手段と、を有する第二ユニットと、
前記第一検出手段により検出される前記第一ベルトの位置と、前記第二検出手段により検出される前記第二ベルトの位置とに基づいて、前記第一ステアリング機構と前記第二ステアリング機構とをそれぞれ制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記第一ベルトの位置に基づき前記第一ローラの揺動角を求め、該第一ローラの揺動角を、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との位置ずれ量に基づいて補正して、前記第一ステアリング機構の制御を行い、
前記第二ベルトの位置に基づき前記第二ローラの揺動角を求め、前記第二ステアリング機構の制御を行う、
ことを特徴とするベルト搬送装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との位置ずれ量が大きいほど、前記第一ベルトの位置に基づき求めた前記第一ローラの揺動角を大きく補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載のベルト搬送装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との差分値に対して比例演算及び積分演算及び微分演算を行い、各演算の演算結果を加算した値に従って前記第一ローラの揺動角を補正する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト搬送装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第二ベルトの位置に基づき求めた前記第二ローラの揺動角を、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との位置ずれ量に基づいて補正して、前記第二ステアリング機構の制御を行う、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のベルト搬送装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との位置ずれ量が大きいほど、前記第二ベルトの位置に基づき求めた前記第二ローラの揺動角を大きく補正する、
ことを特徴とする請求項4に記載のベルト搬送装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との差分値に対して比例演算及び積分演算及び微分演算を行い、各演算の演算結果を加算し反転した値に従って前記第二ローラの揺動角を補正する、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のベルト搬送装置。
【請求項7】
加熱により記録材に対してトナー像を定着する定着装置を通過した記録材を冷却する記録材冷却装置であって、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のベルト搬送装置と、
前記第一ユニットと前記第二ユニットの少なくともいずれか一方に設けられ、前記第一ベルトと前記第二ベルトにより挟持搬送される記録材を冷却する冷却手段と、を備える、
ことを特徴とする記録材冷却装置。
【請求項8】
前記冷却手段は、前記第一ベルトと前記第二ベルトの少なくともいずれか一方の内周面に接触して放熱する放熱板である、
ことを特徴とする請求項7に記載の記録材冷却装置。
【請求項9】
記録材に画像形成する画像形成部を有する画像形成装置であって、
回転する第一ベルトと、前記第一ベルトを張架する第一ローラと、前記第一ローラを揺動し前記第一ベルトの回転方向に交差する幅方向に前記第一ベルトを往復移動させる第一ステアリング機構と、前記幅方向における前記第一ベルトの位置を検出する第一検出手段と、を有する第一ユニットと、
前記第一ベルトに当接して記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第二ベルトと、前記第二ベルトを張架する第二ローラと、前記第二ローラを揺動して前記幅方向に前記第二ベルトを往復移動させる第二ステアリング機構と、前記幅方向における前記第二ベルトの位置を検出する第二検出手段と、を有する第二ユニットと、
前記第一検出手段により検出される前記第一ベルトの位置と、前記第二検出手段により検出される前記第二ベルトの位置とに基づいて、前記第一ステアリング機構と前記第二ステアリング機構とをそれぞれ制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記第一ベルトの位置に基づき前記第一ローラの揺動角を求め、該第一ローラの揺動角を、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との位置ずれ量に基づいて補正して、前記第一ステアリング機構の制御を行い、
前記第二ベルトの位置に基づき前記第二ローラの揺動角を求め、該第二ローラの揺動角を、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との位置ずれ量に基づいて補正して、前記第二ステアリング機構の制御を行う、
ことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の回転するベルトにより記録材を挟持し搬送可能なベルト搬送装置、画像形成装置並びに記録材冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録材に画像形成する画像形成装置では、それぞれが複数のローラにより張架され、互いに当接し回転する一対の第一ベルトと第二ベルトとにより記録材を挟持搬送させるベルト方式の搬送装置が採用されている。例えば、未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置の場合、ローラ方式に比べて長い定着ニップ部を確保できる上記ベルト方式によって記録材が挟持搬送されることで、記録材が十分に加熱及び加圧されるようにしている(特許文献1)。また、排出後における記録材同士の接着を防止するために、定着装置から搬送される記録材を挟持搬送する一対のベルトの少なくとも一方を冷却し、トナー像定着後の記録材の温度を下げるようにしたベルト方式の記録材冷却装置が提案されている(特許文献2)。
【0003】
上記のベルト方式の場合、回転するベルトが回転方向に交差する幅方向においてローラ端側に寄り過ぎてしまうと、ベルトが他の部材などに接触してしまい、ベルトや接触した他の部材などが破損する虞がある。そこで、ベルト端部の幅方向位置をセンサ部に検出させ、その検出結果に基づきベルトを張架する複数のローラのうちの1つ(ステアリングローラと呼ばれる)を揺動させることにより、ベルトの寄りを調整するステアリング制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015‐59964号公報
【文献】特開2009‐181055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来では、第一ベルトの端部位置に基づいて第一ベルトのステアリング制御が行われ、第二ベルトの端部位置に基づいて第二ベルトのステアリング制御が行われている。それ故、各々のステアリング制御に従って第一ベルトと第二ベルトの一方は、他方の動きと関係なしに幅方向に動くことになる。その場合、第一ベルトと第二ベルトとが互いに反対向きへすれ違うように動いたときに、第一ベルトと第二ベルトとの相対速度差が大きくなりやすかった。そして、第一ベルトと第二ベルトの相対速度差が大きい状態のときに記録材が挟持搬送されると、相対速度差に起因して記録材にシワが生じ得る。特に、単位時間当たりに搬送する記録材の枚数を多くするために、各ベルトの回転速度を速くすると、ステアリング制御による各ベルトの幅方向への移動速度も速くなり、第一ベルトと第二ベルトとの相対速度差が大きくなりやすかった。
【0006】
本発明は上記問題に鑑み、記録材を挟持搬送する一対のベルトそれぞれをステアリング制御可能な構成の場合に、ステアリング制御に伴い幅方向に動く一対のベルトの相対速度差を抑制可能なベルト搬送装置、画像形成装置、記録材冷却装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るベルト搬送装置は、回転する第一ベルトと、前記第一ベルトを張架する第一ローラと、前記第一ローラを揺動し前記第一ベルトの回転方向に交差する幅方向に前記第一ベルトを往復移動させる第一ステアリング機構と、前記幅方向における前記第一ベルトの位置を検出する第一検出手段と、を有する第一ユニットと、前記第一ベルトに当接して記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第二ベルトと、前記第二ベルトを張架する第二ローラと、前記第二ローラを揺動して前記幅方向に前記第二ベルトを往復移動させる第二ステアリング機構と、前記幅方向における前記第二ベルトの位置を検出する第二検出手段と、を有する第二ユニットと、前記第一検出手段により検出される前記第一ベルトの位置と、前記第二検出手段により検出される前記第二ベルトの位置とに基づいて、前記第一ステアリング機構と前記第二ステアリング機構とをそれぞれ制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記第一ベルトの位置に基づき前記第一ローラの揺動角を求め、該第一ローラの揺動角を、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との位置ずれ量に基づいて補正して、前記第一ステアリング機構の制御を行い、前記第二ベルトの位置に基づき前記第二ローラの揺動角を求め、前記第二ステアリング機構の制御を行う、ことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る画像形成装置は、記録材に画像形成する画像形成部を有する画像形成装置であって、回転する第一ベルトと、前記第一ベルトを張架する第一ローラと、前記第一ローラを揺動し前記第一ベルトの回転方向に交差する幅方向に前記第一ベルトを往復移動させる第一ステアリング機構と、前記幅方向における前記第一ベルトの位置を検出する第一検出手段と、を有する第一ユニットと、前記第一ベルトに当接して記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第二ベルトと、前記第二ベルトを張架する第二ローラと、前記第二ローラを揺動して前記幅方向に前記第二ベルトを往復移動させる第二ステアリング機構と、前記幅方向における前記第二ベルトの位置を検出する第二検出手段と、を有する第二ユニットと、前記第一検出手段により検出される前記第一ベルトの位置と、前記第二検出手段により検出される前記第二ベルトの位置とに基づいて、前記第一ステアリング機構と前記第二ステアリング機構とをそれぞれ制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記第一ベルトの位置に基づき前記第一ローラの揺動角を求め、該第一ローラの揺動角を、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との位置ずれ量に基づいて補正して、前記第一ステアリング機構の制御を行い、前記第二ベルトの位置に基づき前記第二ローラの揺動角を求め、該第二ローラの揺動角を、前記第一ベルトの位置と前記第二ベルトの位置との位置ずれ量に基づいて補正して、前記第二ステアリング機構の制御を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記録材を挟持搬送する第一ベルトと第二ベルトのそれぞれをステアリング制御する場合に、ステアリング制御に伴い幅方向に動く第一ベルトと第二ベルトの相対速度差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】制御部について説明するための制御ブロック図。
【
図6】本実施形態のステアリング制御部を示す回路図。
【
図8】本実施形態のステアリング制御部を用いた「ステアリング制御処理」の制御フローを示す図。
【
図9】本実施形態のステアリング制御によるベルトの動きを説明する図。
【
図10】従来のステアリング制御による(a)各ベルトの端部位置を示すグラフ、(b)相対速度差を示すグラフ、本願のステアリング制御による(c)各ベルトの端部位置を示すグラフ、(d)相対速度差を示すグラフ。
【
図11】従来のステアリング制御によるベルトの動きを説明する図であり、(a)外乱による寄り力が生じた場合、(b)外乱による寄り力に起因して相対速度差が大きくなった場合。
【
図12】画像形成装置の外部に記録材冷却装置を設けた例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<画像形成装置>
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本実施形態の画像形成装置について、
図1を用いて説明する。
図1に示す画像形成装置100は、電子写真方式のタンデム型のフルカラープリンタである。画像形成装置100は、それぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像を形成する画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdを有する。画像形成装置100は、装置本体100Aに接続された原稿読取装置(不図示)又は装置本体100Aに対し通信可能に接続されたパーソナルコンピュータ等の外部機器(不図示)からの画像情報に応じてトナー像を記録材Sに形成する。記録材Sとしては、普通紙、厚紙、ラフ紙、凹凸紙、コート紙等の用紙、プラスチックフィルム、布など、といった様々な種類のシート材が挙げられる。なお、本実施形態において、画像形成部Pa、Pb、Pc、Pd、中間転写ベルト20、ローラ(11、14~16)は記録材Sにトナー像を形成する画像形成手段を構成する。
【0012】
画像形成装置100の記録材の搬送プロセスについて説明する。記録材Sは給紙カセット10内に積載される形で収納されており、給紙ローラ13により画像形成タイミングに合わせて給紙カセット10から送り出される。給紙ローラ13により送り出された記録材Sは、搬送パス114の途中に配置されたレジストレーションローラ12へと搬送される。そして、レジストレーションローラ12において記録材Sの斜行補正やタイミング補正を行った後、記録材Sは二次転写部T2へと送られる。二次転写部T2は、二次転写内ローラ14と二次転写外ローラ11とにより形成される転写ニップ部であり、二次転写外ローラ11に二次転写電圧が印加されることに応じて記録材上にトナー像が転写される。
【0013】
以上説明した二次転写部T2までの記録材Sの搬送プロセスに対して、同様のタイミングで二次転写部T2まで送られて来る画像の形成プロセスについて説明する。まず、画像形成部について説明するが、各色の画像形成部Pa、Pb、Pc、Pdは、現像装置1a、1b、1c、1dで使用するトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外はほぼ同様に構成される。そこで、以下では、代表としてブラックの画像形成部Pdについて説明し、その他の画像形成部Pa、Pb、Pcについては説明を省略する。
【0014】
画像形成部Pdは、主に現像装置1d、帯電装置2d、感光ドラム3d、感光ドラムクリーナ4d、及び露光装置5d等から構成される。図中矢印R1方向に回転される感光ドラム3dの表面は、帯電装置2dにより予め表面を一様に帯電され、その後、画像情報の信号に基づいて駆動される露光装置5dによって静電潜像が形成される。次に、感光ドラム3d上に形成された静電潜像は、現像装置1dにより現像剤を用いてトナー像に現像される。そして、画像形成部Pdと中間転写ベルト20を挟んで配置される一次転写ローラ6dに一次転写電圧が印加されることに応じて、感光ドラム3d上に形成されたトナー像が、中間転写ベルト20上に一次転写される。感光ドラム3d上に僅かに残った一次転写残トナーは、感光ドラムクリーナ4dにより回収され、再び次の画像形成プロセスに備える。
【0015】
中間転写ベルト20は、二次転写内ローラ14、テンションローラ15、及び張架ローラ16によって張架され、図中矢印R2方向へと駆動される。本実施形態の場合、張架ローラ16は中間転写ベルト20を駆動する駆動ローラを兼ねている。画像形成部Pa~Pdにより並列処理される各色の画像形成プロセスは、中間転写ベルト20上に一次転写された上流の色のトナー像上に順次重ね合わせるタイミングで行われる。その結果、最終的にはフルカラーのトナー像が中間転写ベルト20上に形成され、二次転写部T2へと搬送される。なお、二次転写部T2を通過した後の二次転写残トナーは、転写クリーナ装置22によって回収される。
【0016】
以上、それぞれ説明した搬送プロセス及び画像形成プロセスをもって、二次転写部T2において記録材Sとフルカラートナー像のタイミングが一致し、二次転写が行われる。その後、記録材Sは定着装置30へと搬送され、所定の圧力と熱量が加えられて記録材上にトナー像が定着される。定着装置30は、トナー像が形成された記録材Sを挟持搬送することにより、搬送される記録材Sを加熱、加圧してトナー像を記録材Sに定着させる。即ち、加熱、加圧によって記録材Sに形成されたトナー像のトナーが溶融、混合され、フルカラーの画像として記録材Sに定着される。このようにして、一連の画像形成プロセスは終了する。なお、本実施形態の場合、トナー像が定着された記録材Sは定着装置30から記録材冷却装置50へと搬送されて冷却される。例えば、記録材Sの温度は記録材冷却装置50の直前で90℃程度であるが、記録材冷却装置50の通過後で約60℃程度まで低下される。
【0017】
トナー像が定着された記録材Sは、片面画像形成の場合、一対の排出ローラ105に挟持搬送されて、そのまま排出トレイ120上に排出される。他方、両面画像形成の場合、切り替え部材110(フラッパーなどと呼ばれる)によって、搬送経路が排出トレイ120に続く経路から両面搬送パス111へ切り替えられ、排出ローラ105に挟持搬送される記録材Sは両面搬送パス111へと送られる。その後、反転ローラ112によって先後端が入れ替えられ、両面パス113を介して再び搬送パス114へと送られる。その後の搬送ならびに裏面(二面目)の画像形成プロセスに関しては、上述と同様なので説明を省略する。
【0018】
<記録材冷却装置>
次に、本実施形態のベルト搬送装置について記録材冷却装置50を例に挙げ、
図2を用いて説明する。以下に説明する記録材冷却装置50は、ベルト冷却方式の冷却装置である。
図2に示すように、記録材冷却装置50は、大きく分けて第一ユニット501Uと第二ユニット502Uとを備えている。第一ユニット501Uは無端状の第一ベルト501を有し、第二ユニット502Uは第一ベルト501と記録材Sを挟持して搬送する無端状の第二ベルト502を有している。第一ベルト501と第二ベルト502は例えば強度の高いポリイミド製で形成され、厚みが「100μm」、周長が「942mm」に設定されている。
【0019】
そして、第二ユニット502Uは、第二ベルト502を冷却するヒートシンク503を有している。本実施形態の場合、後述するヒートシンク503は、定着装置30(
図1参照)によりトナー像が形成された面側で記録材Sに当接する第二ベルト502の内周面に当接している。なお、ヒートシンク503によって第二ベルト502を冷却することに限らない。例えば、第二ベルト502に対し送風することで、第二ベルト502を冷却可能なベルトファンなどであってもよい。また、ヒートシンクやベルトファンによって、第一ベルト501が冷却されていてもよい。
【0020】
第一ベルト501は複数の第一ベルト張架ローラ501a~501eに掛け回され、第一ベルト張架ローラ501a~501eのうち少なくともいずれか1つがベルト駆動モータ511によって回転される。本実施形態の場合、ベルト駆動モータ511により回転される第一ベルト張架ローラ501eは、第一ベルト501を駆動する。これにより、第一ベルト501は図中矢印C方向に回転する。他方、第二ベルト502は複数の第二ベルト張架ローラ502a~502eに掛け回され、第一ベルト501に当接している。そして、第二ベルト張架ローラ502a~502eのうち少なくともいずれか1つがベルト駆動モータ511によって回転される。本実施形態の場合、ベルト駆動モータ511により回転される第二ベルト張架ローラ502eは、第二ベルト502を駆動する。これにより、第二ベルト502は図中矢印B方向に回転する。こうして、第一ベルト501と第二ベルト502とは、同一の駆動源であるベルト駆動モータ511により駆動ギア510を介して、冷却ニップ部T4において同一方向に回転される。
【0021】
第一ベルト張架ローラ501c、501e、第二ベルト張架ローラ502cは、第一ベルト501と第二ベルト502のテンションが約39.2N(約4kgf)になるように、第一ベルト501と第二ベルト502とを内周側から外側に向けて押圧する。そうするために、第一ベルト張架ローラ501cはバネ508aによって付勢され、第一ベルト張架ローラ501eはバネ508bによって付勢され、第二ベルト張架ローラ502cはバネ507aによって付勢されている。
【0022】
また、第一ベルト501の内周側には、ヒートシンク503に向かって第一ベルト501を加圧する加圧ローラ509a、509bが設けられている。加圧ローラ509a、509bは例えば9.8N(1kgf)の加圧力で第一ベルト501を加圧することで、第一ベルト501を介し第二ベルト502をヒートシンク503(詳しくは後述の受熱部503a)に確実に当接させている。
【0023】
トナー像が定着された記録材Sは、第一ベルト501と第二ベルト502との間に挟持され、これらの回転に従って搬送方向(図中矢印D方向)へと搬送される。その際に、記録材Sは、第一ベルト501と第二ベルト502とが当接することにより形成されるニップ部としての冷却ニップ部T4を通過する。本実施形態の場合、第二ベルト502がヒートシンク503により冷却されている。ヒートシンク503は、記録材Sを効率よく冷却するために、冷却ニップ部T4を形成する箇所において第二ベルト502の内周面に当接するように配置されている。記録材Sは、冷却ニップ部T4を通過する際に第二ベルト502を介して冷却される。例えば、記録材Sの温度が記録材冷却装置50を通過する前で90℃程度である場合、記録材冷却装置50を通過した後で60℃程度になるように、記録材Sは冷却される。この記録材Sの冷却に伴い、記録材S上のトナーが冷やされて固着される。
【0024】
冷却手段としてのヒートシンク503は、例えばアルミなどの金属で形成された放熱板である。ヒートシンク503は、第二ベルト502に接触して第二ベルト502から熱を奪うための受熱部503aと、熱を放熱するための放熱部503bと、受熱部503aから放熱部503bに熱を伝導するためのフィンベース503cとを有する。放熱部503bは、空気との接触面積を稼いで効率のよい放熱を促すために、多数の放熱フィンにより形成されている。例えば、放熱フィンは厚みが「1mm」、高さが「100mm」、ピッチが「5mm」に設定され、フィンベース503cは厚みが「10mm」に設定される。また、ヒートシンク503自体を強制的に冷却するために、ヒートシンク503(詳しくは放熱部503b)に向けて送風する冷却ファン513が設けられている。この冷却ファン513の風量は、例えば「2m3/min」に設定される。なお、ヒートシンク503の冷却は、冷却ファン513に限らない。
【0025】
このような記録材冷却装置50の場合、第一ベルト501と第二ベルト502(無端ベルト)を複数のローラで支持して回転させることから、回転中の無端ベルトが回転方向に交差する幅方向に移動する蛇行現象が発生し得る。これは、無端ベルトを支持するローラや無端ベルトの形状誤差、例えばローラの表面形状や無端ベルトの幅方向、周方向の精度のばらつきなど、あるいはローラの配置位置のずれなどを原因として生じ得る。無端ベルトの蛇行現象が生ずると、蛇行した無端ベルトが他の部品などに接触して破れるなどして破損し得る。それ故、無端ベルトの蛇行現象を抑制する必要がある。無端ベルトの蛇行を抑制するための代表的な技術の一つとして、ステアリング方式が知られている。ステアリング方式では、無端ベルトを支持する複数のローラのうち1つをステアリングローラとして揺動し、無端ベルトを幅方向に移動させることにより、無端ベルトの蛇行現象を抑制する。こうしたステアリング方式は、無端ベルトの蛇行をリブやガイド等によって物理的に抑えて収束させる方式に比べて無端ベルトに加わる力が小さく、高い信頼性と長寿命が得られる利点を有している。
【0026】
そこで、これら第一ベルト501と第二ベルト502をそれぞれ支持する複数のローラのうち1つをステアリングローラとして揺動し、第一ベルト501と第二ベルト502を幅方向に移動させることにより蛇行現象を抑制するようにしている。本実施形態の場合、第一ローラとしての第一ベルト張架ローラ501a、第二ローラとしての第二ベルト張架ローラ502aは、それぞれ第一ベルト501と第二ベルト502の寄りを制御するために設けられたステアリングローラである。第一ベルト張架ローラ501aは、第一ステアリング機構400によって、その回転軸線方向(幅方向)の中央部を回動支点として舵角が切られ揺動されることによって、第一ベルト501の蛇行をコントロールする。第二ベルト張架ローラ502aは、第二ステアリング機構410によって、その回転軸線方向(幅方向)の中央部を回動支点として舵角が切られ揺動されることによって、第二ベルト502の蛇行をコントロールする。
【0027】
第一ベルト501と第二ベルト502それぞれの回転経路の一箇所には、第一ベルト501の端部位置を検出する第一検出手段としての第一センサ部390と、第二ベルト502の端部位置を検出する第二検出手段としての第二センサ部391とが配設される。これらセンサ部(390、391)の出力信号に基づいて、回転中の第一ベルト501と第二ベルト502それぞれの端部位置が検出されるようにしている。そして、各ベルトの端部位置に基づいて上述したステアリング機構(400、410)が制御され、ステアリングローラ(501a、502a)の揺動角(舵角とも呼ぶ)の調整が行われる。なお、センサ部(390、391)としては、例えばベルト端部に当接しベルトの幅方向の動きに追従して揺動可能に設けられたセンサフラグを複数の光学センサに検出させ、これら光学センサの検出状態に基づいてベルトの端部位置を特定するものが挙げられる。
【0028】
<ステアリング機構>
ここで、ステアリング方式に基づいて無端ベルトの蛇行を抑制可能な第一ステアリング機構400、第二ステアリング機構410について、
図3を用いて説明する。ただし、第一ステアリング機構400と第二ステアリング機構410とは同一の構成であってよいことから、ここでは第一ステアリング機構400を例に説明する。
【0029】
図3に示すように、第一ステアリング機構400は、ステアリングモータ401、ウォーム402、ウォームホイール403、フォーク板404を有している。ステアリングモータ401は、例えば正逆方向の任意の方向に所望の回転角に回転可能なステッピングモータである。ステアリングモータ401が回転すると、ステアリングモータ401の回転軸に取り付けられたウォーム402が回転される。
【0030】
ウォーム402の回転は、ウォームホイール403とフォーク板404とが一体形成された駆動変換部450によって、回転軸部405を揺動中心とするステアリングモータ401の回転軸線方向への揺動に変換される。即ち、ウォームホイール403はウォーム402に噛合されており、ウォーム402の回転に従ってステアリングモータ401の回転軸線方向へ往復移動可能に設けられている。そうするために、ウォームホイール403の噛合面は、ウォーム402に対し回転軸線方向の中央部で噛合うように円弧状に形成されている。このようにして、ステアリングモータ401の回転に従ってウォーム402とウォームホイール403とを介し、駆動変換部450が回転軸部405を揺動中心に揺動し得る。
【0031】
また、第一ステアリング機構400は、ステアリング操作軸406、ステアリングローラ支持アーム351、ベアリング部352を有している。これらステアリング操作軸406とステアリングローラ支持アーム351と、ベアリング部352とは一体的に形成され、ステアリングローラ(第一ベルト張架ローラ501a、
図2参照)に取り付けられる。ベアリング部352は、ステアリングローラの回転軸を回転自在に支持している。ステアリングローラ支持アーム351は回動可能に設けられて、ベアリング部352を保持することでステアリングローラを回動可能に支持する。
【0032】
ステアリングローラ支持アーム351には、上記した駆動変換部450に嵌合されるステアリング操作軸406が固定されている。ステアリング操作軸406は駆動変換部450のフォーク板404に嵌合され、駆動変換部450に嵌合された状態に維持されたまま駆動変換部450と共に動き得る。このように、駆動変換部450の揺動に連動してステアリングローラの傾きが変化する。ここでは、ステアリングモータ401を駆動することによって、第一ベルト張架ローラ501aの第一ベルト張架ローラ501bに対する配設角度(揺動角)を無段階に変化させ得る。こうして、ステアリングローラの揺動角が調整されると、回転中の無端ベルトが幅方向に往復移動されるので、無端ベルトを幅方向の所定範囲内に位置づける、無端ベルトのステアリング制御を実現できる。無端ベルトは、ステアリングモータ401を正回転させてステアリングローラを傾けた場合と、ステアリングモータ401を逆回転させてステアリングローラを傾けた場合とで、移動方向が正反対となるようにして往復移動される。
【0033】
<制御部>
図1に示すように、画像形成装置100は制御部600を備えている。制御部600について、
図2を参照しながら
図4を用いて説明する。ただし、制御部600には図示した以外にも画像形成装置100を動作させるためのモータや電源等の各種機器が接続されているが、ここでは発明の本旨でないのでそれらの図示及び説明を省略する。
【0034】
制御手段としての制御部600は、画像形成動作などの各種制御を行うものであり、例えばCPU601(Central Processing Unit)と、メモリ602とを有する。メモリ602は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などにより構成されている。メモリ602は、画像形成装置100を制御するための各種プログラムや各種データなどが記憶される。CPU601はメモリ602に記憶されている各種プログラムを実行可能であり、各種プログラムを実行して画像形成装置100を動作させ得る。本実施形態の場合、CPU601は、メモリ602に記憶されている「画像形成ジョブ処理(プログラム)」(不図示)や後述する「ステアリング制御処理(プログラム)」(
図8参照)などを実行可能である。なお、メモリ602は、例えば各種プログラムの実行に伴う演算結果などを一時的に記憶することもできる。
【0035】
制御部600には入出力インタフェースを介して、操作部40が接続されている。操作部40は、ユーザによる画像形成ジョブ処理などの各種プログラムの開始指示や、記録材Sのサイズ(A3、B4など)等の各種データの入力などを行うことが可能に、例えばタッチパネル式の液晶画面(表示部)などを有している。この液晶画面にはソフトウェアキーを含む各種画面を表示可能であり、ユーザによるソフトウェアキーへのタッチ操作に応じて予め割り当て済みの各種プログラムの開始指示などの各種機能が実行され得る。また、液晶画面はユーザに報知するために、画像形成装置の動作状況やエラー情報などの各種情報を表示可能である。操作部40から画像形成ジョブの開始指示がなされた場合、制御部600(詳しくはCPU601)はメモリ602に記憶されている「画像形成ジョブ」を実行する。制御部600は、「画像形成ジョブ」の実行に基づいて画像形成装置100を制御する。
【0036】
上述したステアリング制御を行うため、制御部600には、入出力インタフェースを介して、第一ステアリング機構400、第二ステアリング機構410、第一センサ部390、第二センサ部391、ステアリング制御部200が接続されている。詳しくは後述するように、本実施形態のステアリング制御部200では、第一センサ部390と第二センサ部391の両方の検出結果に基づいて、第一ステアリング機構400を制御するための第一制御量を求める。制御部600は、ステアリング制御部200により求められた第一制御量に応じて、第一ステアリング機構400のステアリングモータ401(
図3参照)を正転又は逆転し、また回転角を変化させ得る。こうして、ステアリングローラ(第一ベルト張架ローラ501a)の揺動角が決まる。
【0037】
また、本実施形態のステアリング制御部200では、第一センサ部390と第二センサ部391の両方の検出結果に基づいて、第二ステアリング機構410を制御するための第二制御量を求める。制御部600は、ステアリング制御部200により求められた第二制御量に応じて、第二ステアリング機構410のステアリングモータ401(
図3参照)を正転又は逆転し、また回転角を変化させ得る。こうして、ステアリングローラ(第二ベルト張架ローラ502a)の揺動角が決まる。このように、制御部600は第一ステアリング機構400、第二ステアリング機構410をそれぞれ制御して、第一ベルト501、第二ベルト502のそれぞれを幅方向に移動させ得る。本実施形態のステアリング制御部200については、詳細を後述する(
図6乃至
図8参照)。
【0038】
<PID制御部>
ところで、従来のステアリング制御部は、第一のPID制御部と第二のPID制御部とを有し、制御部600はそれらPID制御部から出力されるそれぞれのPID制御量に基づいて各ベルトのステアリング制御を行っていた。制御部600は第一のPID制御部から出力されるPID制御量に基づいて第一ステアリング機構400を制御し、第二のPID制御部から出力されるPID制御量に基づいて第二ステアリング機構410を制御していた。各PID制御部から出力されるPID制御量はステアリングローラ(501a、502a)の揺動角を制御するためのものであり、具体的には第一ステアリング機構400と第二ステアリング機構410の各ステアリングモータ401(
図3参照)の制御値である。
【0039】
ここで、PID制御部(Proportional Integral Differential Controller)について、
図2を参照しながら
図5を用いて説明する。なお、第一、第二のPID制御部は同じ構成であって同じ信号制御を行う回路であってよいことから、ここでは第一ステアリング機構400を制御する第一のPID制御部を例に説明する。
【0040】
図5に示すPID制御部201は、まずベルトターゲット位置から第一センサ部390により検出される現在のベルトの端部位置(現在位置とも呼ぶ)を減算し、第一ベルト位置差分量を求める。ベルトターゲット位置は、装置本体100Aの前側板と後側板との間をステアリングローラに沿って幅方向に移動する第一ベルト501の中央が、前側板と後側板との間の中央位置と一致するときに、ベルト端部が位置する箇所を指す(後述の
図11(a)参照)。なお、ベルトターゲット位置はメモリ602(
図4参照)に記憶されている。
【0041】
上記の第一ベルト位置差分量に比例ゲインを乗算して、第一ベルト比例制御量を求める。また、上記の第一ベルト位置差分量に積分ゲインを乗算し、積算値を加算することによって、第一ベルト積分制御量を求める。このとき、次回の第一ベルト積分制御量を演算するために、求めた第一ベルト積分制御量を積算値に置き換える(更新する)。さらに、上記の第一ベルト位置差分量に微分ゲインを乗算し、前回値を減算することによって、第一ベルト微分制御量を求める。このとき、次回の第一ベルト微分制御量を演算するために、第一ベルト位置差分量に微分ゲインを乗算した値を前回値に置き換える(更新する)。そして、各々求めた第一ベルト比例制御量、第一ベルト積分制御量、第一ベルト微分制御量を加算して、第一ベルト501に関するPID制御量を求めて出力する。
【0042】
こうして、従来では第一センサ部390の検出結果のみに基づいて、ベルト端部がベルトターゲット位置にできる限り位置付けられるように、ステアリングローラの揺動角を調整して、第一ベルト501が前後の側板に接触するほど寄り切らないようにしている。なお、ベルトターゲット位置とベルト端部位置とに基づいてステアリング制御量を求めることができれば、上述したPID制御に限らず、PI制御やP制御によって求める構成であってもよい。なお、ベルトターゲット位置は同じ値に維持されなくてもよく、例えば画像形成した記録材Sの枚数が所定枚数(例えば1000枚)増えるごとに変動させてもよい。
【0043】
ただし、第一ベルト501や第二ベルト502には、何らかの要因(例えば、各ユニット(501U、502U)を組み立てる際の歪み、ステアリングモータ401の固有振動など)により、所謂「外乱による寄り力」が生じ得る。この「外乱による寄り力」が生じる故に、従来では第一ベルト501と第二ベルト502との相対位置差、つまりは第一ベルト501の位置と第二ベルト502の位置との位置ずれ量が大きくなりやすかった。これについて、
図2を参照しながら
図11(a)及び
図11(b)に示す従来例を用いて説明する。なお、
図11(a)及び
図11(b)に記した「X」位置は、上述したベルトターゲット位置(以下、単にターゲット位置と呼ぶ)を示す。
【0044】
図11(a)に示す例では、第一ベルト501、第二ベルト502それぞれのベルト端部位置が、ターゲット位置よりも図中左側に位置している。それ故、第一ベルト501、第二ベルト502はそれぞれ、PID制御によってターゲット位置に向けて図中右側へ移動されるように、ステアリングローラ(501a、502a)の揺動角が調整される。そうすると、第一ベルト501にはPID制御による寄り力(P1)が生じ、第二ベルト502にはPID制御による寄り力(P2)が生じる。なお、第一ベルト501に生じる寄り力(P1)と、第二ベルト502に生じる寄り力(P2)とは、センサ部(390、391)によって検出される各ベルトの端部(51a、52a)の位置と、ターゲット位置(X)との間隔によって異なる。ここでは、第一ベルト501の端部51aの方が第二ベルト502の端部52aよりもターゲット位置(X)との間隔が大きいことから、第一ベルト501に生じる寄り力(P1)の方が第二ベルト502に生じる寄り力(P2)よりも大きい。
【0045】
そして、仮に何らかの要因により、第一ベルト501には前側板801に向かう外乱による寄り力(F1)が生じ、第二ベルト502には後側板802に向かう外乱による寄り力(F2)が生じる場合がある。この場合、第一ベルト501において、外乱による寄り力(F1)がPID制御による寄り力(P1)よりも大きいと、それらの合力(G1)は外乱による寄り力(F1)と同じ向きとなり、第一ベルト501は前側板801に向かって移動する。他方、第二ベルト502においては、外乱による寄り力(F2)とPID制御による寄り力(P2)との合力(G2)がすべて同じ向きとなるので、第二ベルト502は後側板802に向かって移動する。こうして、第一ベルト501と第二ベルト502とが互いに反対向きに移動し、第一ベルト501の端部51aと第二ベルト502の端部52aとの相対位置差は、
図11(a)のときよりも大きくなり得る。
【0046】
図11(b)に示すように、第一ベルト501の端部51aと第二ベルト502の端部52aとの相対位置差が大きくなると、第一ベルト501と第二ベルト502のそれぞれはPID制御によってターゲット位置(X)に戻される。この際に、各ベルトのベルト端部(51a、52a)が前側板と後側板のそれぞれに接触し摺擦されるのを防ぐため、ステアリング制御に伴い第一ベルト501と第二ベルト502とは互いにすれ違う方向にすばやく移動される。例えば、第一ベルト501が前側板801に大きく寄っていると、第一ベルト501をターゲット位置に速やかに戻すため(合力G1参照)、第一ベルト501にはPID制御によってステアリングローラ(501a)を大きく切る寄り力(P1)が生じる。また、第二ベルト502をターゲット位置に速やかに戻すため(合力G2参照)、第二ベルト502にはPID制御によってステアリングローラ(502a)を大きく切る寄り力(P2)が生じる。ただし、第一ベルト501と第二ベルト502とがすれ違う向きにすばやく移動されている(つまり相対速度差が大きい)ときに、記録材Sが挟持搬送されると、搬送中の記録材Sに対し幅方向の端部から中央に向かって押す力が働き、記録材Sにシワが生じ得る。
【0047】
<ステアリング制御部>
上述のように、従来では、第一ベルト501の端部51aと第二ベルト502の端部52aとの相対位置差が大きくなりやすく、そうなった場合に、第一ベルト501と第二ベルト502との相対速度差が大きくなって記録材Sにシワが生じる虞があった。そこで、本実施形態では、第一ベルト501と第二ベルト502との相対位置差が大きくなるのを抑制すべく、第一ベルト501と第二ベルト502の両者をできる限り一体的に往復移動させる。第一ベルト501と第二ベルト502との相対位置差が大きくなるのを抑制できれば、第一ベルト501と第二ベルト502との相対速度差を小さくでき、もって記録材Sにシワが生じ難くなる。そうするために、本実施形態では、ステアリング制御の際に、従来と同様のPID制御部による制御に加えて、ユニゾン制御部による制御を行うようにしている。以下、そうした制御を実現する本実施形態のステアリング制御部200について、
図2及び
図4を参照しながら
図6乃至
図8を用いて説明する。
【0048】
図6に示すように、本実施形態のステアリング制御部200は、第一PID制御部201、第二PID制御部202の他に、ユニゾン制御部203を有している。第一PID制御部201、第二PID制御部202については、既に説明したとおりであるので(
図5参照)、ここでの説明を省略する。第一センサ部390により検出される現在の第一ベルト501の端部位置(現在位置)と、第二センサ部391により検出される現在の第二ベルト502の端部位置(現在位置)は、ユニゾン制御部203に入力される。ユニゾン制御部203は後述するように、入力された第一ベルト501の端部位置と第二ベルト502の端部位置とに基づいて、第一制御補正量と第二制御補正量を出力する。
【0049】
そして、ステアリング制御部200は、第一PID制御部201から出力される第一PID制御量を、ユニゾン制御部203から出力される第一制御補正量により補正し、これを第一制御量として出力する。また、ステアリング制御部200は、第二PID制御部202から出力される第二PID制御量を、ユニゾン制御部203から出力される第二制御補正量により補正し、これを第二制御量として出力する。制御部600はステアリング制御部200から出力される第一制御量に基づいて第一ステアリング機構400を制御し、第二制御量に基づいて第二ステアリング機構410を制御する。つまり、上記の第一制御補正量、第二制御補正量、第一制御量、第二制御量は、第一PID制御量や第二PID制御量と同様に、ステアリングローラ(501a、502a)の揺動角を制御するためのものである。
【0050】
上記のユニゾン制御部203について、
図7を用いて説明する。
図7に示すユニゾン制御部203は、第一ベルト501の端部位置から第二ベルト502の端部位置を減算し、ベルト相対位置差分量(差分値)を求める。次に、上記のベルト相対位置差分量に比例ゲインを乗算する比例演算を行って、ユニゾン比例制御量を求める。また、上記のベルト相対位置差分量に積分ゲインを乗算し、積算値を加算する積分演算を行って、ユニゾン積分制御量を求める。このとき、次回のユニゾン積分制御量を演算するために、求めたユニゾン積分制御量を積算値に置き換える(更新する)。さらに、上記のベルト相対位置差分量に微分ゲインを乗算し、前回値を減算する微分演算を行って、ユニゾン微分制御量を求める。このとき、次回のユニゾン微分制御量を演算するために、ベルト相対位置差分量に微分ゲインを乗算した値を前回値に置き換える(更新する)。そして、各々求めたユニゾン比例制御量、ユニゾン積分制御量、ユニゾン微分制御量を加算して、第一制御補正量を求めて出力する。また、これらユニゾン比例制御量、ユニゾン積分制御量、ユニゾン微分制御量(演算結果)を加算し反転(例えば「‐1」を乗算)した値を、第二制御補正量として出力する。
【0051】
<ステアリング制御処理>
図8に、上述したステアリング制御部200を用いた「ステアリング制御処理」の制御フローを示す。なお、ここに示す「ステアリング制御処理」は、第一ベルト501及び第二ベルト502の回転開始から回転停止されるまで、制御部600によって繰り返し実行される。
【0052】
図8に示すように、制御部600は、第一センサ部390の検出結果に基づき第一ベルト501の端部位置を検出すると共に(S1)、第二センサ部391の検出結果に基づき第二ベルト502の端部位置を検出する(S2)。そして、制御部600は、ステアリング制御部200に検出した第一ベルト501の端部位置を入力することで、上記した第一PID制御部201による第一PID制御量の演算を実行する(S3)。また、制御部600は、ステアリング制御部200に検出した第二ベルト502の端部位置を入力することで、上記した第二PID制御部202による第二PID制御量の演算を実行する(S4)。次に、制御部600は、上記したユニゾン制御部203による第一制御補正量及び第二制御補正量の演算を実行する(S5、S6)。そして、制御部600は上述のように、ステアリング制御部200から出力される第一制御量に基づき第一ステアリング機構400を制御し(S7)、ステアリング制御部200から出力される第二制御量に基づき第二ステアリング機構410を制御する(S8)。
【0053】
上述したステアリング制御部200を用いた「ステアリング制御処理」による、本実施形態における第一ベルト501及び第二ベルト502の動きについて、
図9乃至
図10(d)を用いて説明する。
図9は、上述した従来の場合と同様に、第一ベルト501や第二ベルト502に「外乱による寄り力」が生じたときにおける(
図11(a)参照)、第一ベルト501と第二ベルト502の動きを説明するための図である。
図10(a)乃至
図10(d)は、従来のステアリング制御処理と本実施形態のステアリング制御処理とを比較するための、各ベルトの端部位置を示すグラフと、各ベルトの相対速度差を示すグラフである。
図10(a)及び
図10(b)が従来の場合を示し、
図10(c)及び
図10(d)が本実施形態の場合を示している。
【0054】
図9に示すように、第一ベルト501にはPID制御による寄り力(P1)と外乱による寄り力(F1)との合力に対し、上述したユニゾン制御部203から出力される第一制御補正量に相当する「ユニゾン制御による寄り力(H1)」が作用する。この「ユニゾン制御による寄り力(H1)」は、第一ベルト501の端部51aから第二ベルト502の端部52aへ向かう向きに作用する。他方、第二ベルト502にはPID制御による寄り力(P2)と外乱による寄り力(F2)との合力に対し、上述したユニゾン制御部203から出力される第二制御補正量に相当する「ユニゾン制御による寄り力(H2)」が作用する。この「ユニゾン制御による寄り力(H2)」は、第二ベルト502の端部52aから第一ベルト501の端部51aへ向かう向きに作用し、その大きさは「ユニゾン制御による寄り力(H1)」と同じである。即ち、上述したユニゾン制御部203では、第一ベルト501の端部51aと第二ベルト502の端部52aとを近づけるように、「ユニゾン制御による寄り力(H1、H2)」を作用させる。
【0055】
そのため、
図11(a)に示した従来の場合と比較すると、第一ベルト501においては、「ユニゾン制御による寄り力(H1)」を含めた合力(G1)が外乱による寄り力(F1)と反対向きとなり、第一ベルト501は後側板802に向かって移動する。他方、第二ベルト502においては、「ユニゾン制御による寄り力(H2)」を含めた合力(G2)が外乱による寄り力(F2)とPID制御による寄り力(P2)と同じ向きのままであるので、第二ベルト502は後側板802に向かって移動する。ただし、合力(G2)は従来よりも小さいため、後側板802に向かって移動する第二ベルト502の移動速度は遅くなる。それ故、本実施形態では、
図11(b)に示した従来のような、第一ベルト501の端部51aと第二ベルト502の端部52aとの相対位置差が大きくなるのを抑制することができる。
【0056】
図10(a)と
図10(c)を比較して理解できるように、本実施形態では従来に比べて、第一ベルト501の端部51aと第二ベルト502の端部52aとの相対位置差が小さくなる。つまり、PID制御にユニゾン制御を加えることで、第一ベルト501と第二ベルト502とは、互いの端部(51a、52a)が近い状態となるようにして幅方向に移動される。その結果、
図10(b)と
図10(d)を比較して理解できるように、本実施形態では第一ベルト501と第二ベルト502の相対速度差を従来よりも小さくでき、もって相対速度差に起因する記録材Sにシワが生じることを抑制し得る。
【0057】
以上のように、本実施形態の場合、第一ベルト501と第二ベルト502とは、各々がベルトターゲット位置に向かいつつ、第一ベルト501の端部51aと第二ベルト502の端部52aとの相対位置差(位置ずれ量)を小さくするように移動する。そうすると、第一ベルト501と第二ベルト502とは一体的に幅方向に移動するので、第一ベルト501と第二ベルト502とをすれ違う向きにすばやく移動することが生じ難くなる。その結果、第一ベルト501と第二ベルト502との相対速度差が大きい状態で記録材Sが挟持搬送されることがないので、記録材Sにシワが生じ難くなる。
【0058】
<他の実施形態>
なお、上述した実施形態では、第一センサ部390と第二センサ部391の両方の検出結果に基づいて、第一制御量及び第二制御量を求める例を示したが、これに限らない。例えば、第二制御量に関しては、従来と同様に第二センサ部391の検出結果に基づくPID制御により求めてもよい(つまりは、ユニゾン制御部203からの第二制御補正量を用いない)。ただし、上述したように、第一制御量及び第二制御量共に、PID制御とユニゾン制御とによって求めるようにした場合の方が、第一ベルト501と第二ベルト502との相対位置差が大きくなるのをより抑制できるので好ましい。
【0059】
なお、上述した実施形態では、画像形成装置100の装置本体100A内に記録材冷却装置50を設けた場合を例に示したが(
図1参照)、これに限らない。例えば、記録材冷却装置50は装置本体100Aの外部に設けられてもよい。
図12に、記録材冷却装置50を装置本体100Aの外部に設けた例を示す。
【0060】
図12に示すように、装置本体100Aには外部冷却装置としての外部冷却ユニット101が連結されている。外部冷却ユニット101は画像形成装置100の機能を拡張するために後付け可能な周辺機(オプションユニットなどと呼ばれる)の1つとして、画像形成装置100に連結可能に構成されている。外部冷却ユニット101は、画像形成装置100から排出される記録材Sを冷却して、定着前に比べて高い記録材Sの温度を所定温度以下に下げるために配設される。外部冷却ユニット101は、記録材Sを冷却するために上述した記録材冷却装置50を有している。
【0061】
外部冷却ユニット101により冷却された記録材Sは、排出ローラ85により外部冷却ユニット101から排出されて排出トレイ120に積載される。排出トレイ120は、外部冷却ユニット101や画像形成装置100に対し着脱自在に設けられている。即ち、排出トレイ120は、画像形成装置100に外部冷却ユニット101が連結されていない場合、画像形成装置100に装着されている(
図1参照)。そして、画像形成装置100に外部冷却ユニット101が連結される際に、作業者によって画像形成装置100から取り外されて外部冷却ユニット101に付け替えられる。なお、周辺機として、複数の外部冷却ユニット101が連結されてもよい。作業者は連結する外部冷却ユニット101の台数を増やすことによって、既存の画像形成装置100に対し記録材Sの冷却能力を向上させることが容易にできる。
【0062】
なお、本実施形態のベルト搬送装置は、ベルト方式の定着装置にも適用することができる。即ち、定着装置において一対の定着ローラの代わりに一対の定着ベルトを用い、これら一対の定着ベルトそれぞれをステアリング制御する場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0063】
50…ベルト搬送装置(記録材冷却装置)、100…画像形成装置、390…第一検出手段(第一センサ部)、391…第二検出手段(第二センサ部)、400…第一ステアリング機構、410…第二ステアリング機構、501…第一ベルト、501a…第一ローラ(第一ベルト張架ローラ、ステアリングローラ)、501U…第一ユニット、502…第二ベルト、502a…第二ローラ(第二ベルト張架ローラ、ステアリングローラ)、502U…第二ユニット、503…冷却手段(放熱板、ヒートシンク)、600…制御手段(制御部)、T4…ニップ部(冷却ニップ部)