(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】弾性表面波デバイス
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240227BHJP
【FI】
H03H9/25 A
(21)【出願番号】P 2020110754
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】320009163
【氏名又は名称】NDK SAW devices株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 徳丞
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-066989(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/142976(JP,A1)
【文献】特開2008-205043(JP,A)
【文献】特開2004-079721(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/188760(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0153409(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108389957(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106688180(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一面に設けられたIDTと、
前記圧電基板上に設けられ、前記IDTが配置された領域を囲む壁部と、
当該壁部の上面の一部のみに重なって、前記壁部に囲まれた領域の開口を塞ぐ天板部と、
前記圧電基板の一面に設けられ、前記IDTに接続される位置から、前記壁部に囲まれた領域の外部に引き出されるように設けられた引出電極と、
前記壁部の外部に引き出された部分の前記引出電極上に積層されることにより当該引出電極と電気的に接続され、前記壁部の側面を介して前記天板部の上面まで引き回される電極配線と、
少なくとも前記天板部の上面を覆うように設けられた保護膜と、
前記天板部の側面と前記壁部の上面のうち当該天板部に重ならない領域とがなす一の段部を被覆することで前記電極配線に形成される他の段部と、
を備え、
前記保護膜が前記天板部の上面より広い領域を覆うように設けられる場合には、当該保護膜は、前記引出電極上に前記電極配線が積層されている領域を避けて設けられ
、当該保護膜の下端は前記他の段部上に位置し、前記電極配線において当該他の段部よりも上側における部位が前記保護膜に被覆されることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記保護膜は、感光性エポキシ樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記保護膜の線膨張係数が52ppm/℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記保護膜に覆われていない領域の前記電極配線の表面に、前記保護膜よりも線膨張係数が小さい材料からなる電極保護膜を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の弾性表面波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IDT(Inter Digital Transducer)を備えた弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの通信機器の小型化が急速に進んでいる。このような機器の小型化を受けて、その構成部品である例えば、弾性表面波デバイス(surface acoustic wave device, SAWデバイス)などの電子部品の小型化が求められている。
弾性表面波デバイスを小型化した構造としては、ウエハレベルチップサイズパーケージ(WL-CSP)型の構造が知られている。WL-CSP型の弾性表面波デバイスは、例えば特許文献1に記載されているように圧電基板の表面に櫛歯電極を設け、櫛歯電極の作動空間を形成するように櫛歯電極の周囲に外囲壁層と、天井板を設けて中空構造とした構成となっている。そして櫛歯電極と接続された引出し配線を圧電基板の外縁まで引き出し、さらに当該引出し配線と接続され、天井板の上面に設けられた実装端子とを接続する側面配線を設けた構成が記載されている。また特許文献2には、櫛形電極の周囲を素子カバーにより囲み、カバー部材の外面に櫛形電極と電気的に接続された第1の電極を設けた弾性波装置において、カバー部材及び第1の電極を覆うようにエポキシ系の封止樹脂を設けた構成が記載されている。
【0003】
近年では、弾性波デバイスの動作の信頼性の向上が要求されており、製品に課される衝撃試験が厳しくなっている。そのためより丈夫で信頼性の高い弾性表面波デバイスを作成する技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-66989号公報
【文献】特開2015-39209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、弾性表面波デバイスにおいて、温度変化によって加わる応力の影響を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の弾性表面波デバイスは、圧電基板の一面に設けられたIDTと、
前記圧電基板上に設けられ、前記IDTが配置された領域を囲む壁部と、
当該壁部の上面の一部のみに重なって、前記壁部に囲まれた領域の開口を塞ぐ天板部と、
前記圧電基板の一面に設けられ、前記IDTに接続される位置から、前記壁部に囲まれた領域の外部に引き出されるように設けられた引出電極と、
前記壁部の外部に引き出された部分の前記引出電極上に積層されることにより当該引出電極と電気的に接続され、前記壁部の側面を介して前記天板部の上面まで引き回される電極配線と、
少なくとも前記天板部の上面を覆うように設けられた保護膜と、
前記天板部の側面と前記壁部の上面のうち当該天板部に重ならない領域とがなす一の段部を被覆することで前記電極配線に形成される他の段部と、
を備え、
前記保護膜が前記天板部の上面より広い領域を覆うように設けられる場合には、当該保護膜は、前記引出電極上に前記電極配線が積層されている領域を避けて設けられ、当該保護膜の下端は前記他の段部上に位置し、前記電極配線において当該他の段部よりも上側における部位が前記保護膜に被覆されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の弾性表面波デバイスは、圧電基板の表面に設けたIDTを囲むように壁部を設けると共に、IDTを囲む領域を塞ぐように天板部を設けている。さらに圧電基板の一面にIDTに接続される位置から、前記壁部に囲まれた領域の外部に引き出される引出電極を設け、壁部の外部の引出電極上に積層されることにより当該引出電極と電気的に接続され、前記天板部の上面まで引き回される電極配線を設けている。そして天板部の上面を覆う保護膜を設けるにあたって、保護膜が前記天板部の上面より広い領域を覆うように設けられる場合には、当該保護膜は、前記引出電極上に前記電極配線が積層されている領域を避けて設けている。そのため弾性表面波デバイスを温度変化にさらしたときに、保護膜と、圧電基板及び引出電極と、の伸縮量の差に基づく応力によって電極配線及び引出電極の接続部分の近辺の圧電基板の割れを抑制することができ、割れによる電極配線と引出電極との間の断線を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】従来の弾性表面波デバイスの構成例を示す説明図である。
【
図4】従来の弾性表面波デバイスにて破断が発生する様子を示す説明図である。
【
図5】他の例に係る弾性表面波デバイスの縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係る弾性表面波デバイスについて説明する。
図1~
図3は、夫々弾性表面波デバイスの縦断側面図、及び平面図を示している。弾性表面波デバイスは、例えばタンタル酸リチウムで構成された矩形平板状の圧電基板10を備えている。圧電基板10の一面のほぼ中央には、例えばチタン(Ti)を下地とし、アルミニウム(Al)を積層した櫛形電極(IDT)2が設けられている。なお実際の弾性表面波デバイスにおいては、多数本のIDT2が設けられるが、
図1、
図3等では、IDT2の配置数を減らし、簡略化して記載している。
【0010】
また圧電基板10の表面には、2本の引出電極4が設けられている。2本の引出電極4は、各々一端がIDT2のバスバーに接続され、各引出電極4の他端は、圧電基板10の長辺方向一端側及び他端側に夫々引き出されている。引出電極4は、IDT2と同様にTiを下地とし、Alを積層して構成される一方、IDT2よりも厚く形成されている。なお
図1、
図2中の符号11は、層間絶縁膜である。
【0011】
また圧電基板10上には、IDT2の振動する作動空間を確保するための例えば感光性ポリイミドなどの樹脂で構成された平面視矩形状のカバー部材3が設けられている。カバー部材3は、圧電基板10上におけるIDT2が配置された領域を囲む壁部31と、壁部31上に設けられ、当該壁部31に囲まれた領域の開口を塞ぐ天板部32と、を備えている。壁部31は、圧電基板10中央領域を囲むように設けられた矩形環状の部材である。圧電基板10の長辺方向に沿ってみたとき、前記中央領域を挟んで対向するように配置され、当該圧電基板10の短辺方向に沿って伸び2つの壁部31は、各々引出電極4を横断するように配置されている。
即ち引出電極4は、IDT2に接続される位置から、壁部31に囲まれた領域の外部に引き出されるように設けられているといえる。なお明細書中では、2本の引出電極4における壁部31の外側の部分を端子部4Aと呼ぶ。
【0012】
また弾性表面波デバイスは、各端子部4Aに電気的に接続され、壁部31の側面を介して天板部32の上面まで引き回される電極配線6を備えている。電極配線6は、例えば銅(Cu)の電解メッキによって形成される。また本例では、電極配線6は、端子部4Aの全体を覆うように、当該端子部4A(引出電極4)上に積層されている。
【0013】
さらに本例の弾性表面波デバイスには、その構成部材(引出電極4や壁部31、天板部32など)を衝撃や腐食から保護するため、例えば感光性エポキシ樹脂で構成された保護膜8が設けられている。この保護膜8は、少なくとも天板部32の上面を覆うように設けられる。この保護膜8は、天板部32の上面よりも広い領域を覆うように設けられてもよく、
図1、
図2に示す例では、前記天板部32の側面も保護膜8によって覆われている。
【0014】
一方、実施の形態に係る保護膜8は、天板部32の上面よりも広い領域を覆うように設けられる場合であっても、引出電極4上に電極配線6が積層されている領域である端子部4Aを避けて設けられる。この点に関し
図1、
図2に示す弾性表面波デバイスにおいては、保護膜8は、壁部31の側面、及び、端子部4Aを含む、壁部31に囲まれた領域の外部に位置する圧電基板10には形成されていない。
【0015】
以上に説明したように、保護膜8が設けられる領域を限定する理由について説明すると、近年では、弾性表面波デバイスの動作の信頼性の要求が高まっている。このため、製品の出荷の前に行う試験の条件が厳しくなっている。例えばJIS C 60068-2-14に基づいて設定される熱衝撃試験では、低温さらし温度、高温さらし温度に設定された低温槽、高温槽内に交互に弾性表面波デバイスを配置して、各温度雰囲気に交互に曝すことにより、熱衝撃を加える熱衝撃試験が規定されている。この熱衝撃試験においては、低温槽、高温槽内の雰囲気に弾性表面波デバイスを曝す時間、及び交互に曝すサイクル数が設定される。
【0016】
この点、近年では、低温さらし温度と、高温さらし温度との温度差がより大きな熱衝撃試験が行われる傾向にある。この観点で、低温さらし温度を、例えば-55℃、高温さらし温度を、例えば125℃に設定する場合を例示できる。また試験によっては、低温さらし温度を、例えば-60℃、高温さらし温度を、例えば150℃に設定する場合もある。そして各さらし温度に設定した低温槽の雰囲気に30分、常温雰囲気(25℃)に15分、高温槽内の雰囲気に30分ずつ弾性表面波デバイスをさらすサイクルを、750回繰り返す熱衝撃試験を想定する。このような試験を行い、例えば部材の破損などの不具合の発生した製品が除かれ、試験を合格した製品のみが出荷される。
【0017】
この熱衝撃試験を行ったときに、弾性表面波デバイスを構成する部材が温度変化に応じて伸縮するが、保護膜8を構成する感光性エポキシ樹脂は、例えば線膨張係数が50ppm/℃程度を示し、熱変化に対して大きく伸縮する。これに対して、例えば圧電基板10を構成するタンタル酸リチウムは、10ppm/℃程度であり、保護膜8と比較して線膨張係数が小さいため熱変化に対する伸縮が小さい。
【0018】
そのため、
図3に示すように、引出電極4(端子部4A)と電極配線6とが積層された領域までも覆うように保護膜8を設けた場合、保護膜8と電極配線6との伸縮量が相違することに伴い、保護膜8と電極配線6との界面付近で大きな応力が発生する。
【0019】
この応力により、引出電極4や圧電基板10に負荷が加わり、例えば
図4に示すように電極配線6及び引出電極4(端子部4A)の接続部分の下方側の圧電基板10に割れが発生することがある。圧電基板10の割れの発生に伴って、電極配線6や引出電極4(端子部4A)の接続部分が破損し、断線が発生することがある。
既述のように、近年では温度差の大きい熱衝撃試験が課されることから、線膨張係数の差に基づく保護膜8と、圧電基板10との間の応力が強くなる傾向にあり、より割れが発生しやすい傾向が想定される。そのため熱衝撃試験を行ったときに、
図3、
図4に示す構成の製品では歩留まりが低下してしまう懸念がある。
【0020】
これに対して実施の形態に係る弾性表面波デバイスにおいては、電極配線6と、引出電極4(端子部4A)とが積層された領域を避けて保護膜8を設けている。当該構成により、圧電基板10の割れや、電極配線6及び引出電極4(端子部4A)の断線を抑制することができる。
【0021】
特に感光性エポキシ樹脂は、線膨張係数が大きいことから、保護膜8の材料に感光性エポキシ樹脂を用いた弾性波デバイスは、温度が変化したときに保護膜8と圧電基板10との間の伸縮量が大きい。そのため圧電基板10を覆うように保護膜8を設けた場合に、圧電基板10が割れやすい。そのため保護膜8の材料に感光性エポキシ樹脂を用いた弾性波デバイスにおいて、圧電基板10上に引出電極4と電極配線6とが積層された領域が設けられている場合には、当該領域を避けるように保護膜8を設けることが好ましい。
このことは感光性エポキシ樹脂に限らず、例えば線膨張係数が52ppm/℃を超えるような材料により保護膜8を形成する場合においても同様である。
【0022】
一方で、感光性ポリイミドなどの樹脂で構成された天板部32や壁部31は、感光性エポキシ樹脂との線膨張係数の差が過度に大きくないため、温度差の大きな熱衝撃試験を行っても天板部32や壁部31に割れが生じるような応力は発生しにくい。また、圧電基板10と比較して樹脂は伸縮性も高いため、割れも生じにくい。
そこで、
図1、
図2に示す例では、天板部32の上面及び側面を覆うように保護膜8を設け、当該領域に設けられている構成部材を衝撃や腐食から保護している。従って、保護膜8を設ける領域をさらに広げ、壁部31の側面までも覆うように保護膜8を設けてもよい。但し、この場合においても、引出電極4と電極配線6とが積層された領域に保護膜8の下端部が接触しないように当該保護膜8を形成するか、前記積層された領域に接触するように形成された保護膜8の下端部を除去する処理を行う必要がある。
【0023】
このほか、
図5に示すように弾性表面波デバイスにおいて、電極配線6の保護膜8に覆われず露出している領域に、電極配線6を保護する電極保護膜9を設けてもよい。電極保護膜9は、例えばニッケル(Ni)/金(Au)メッキにより構成することができる。
図5に示す例では、電極配線6と引出電極4とが積層された領域及び、壁部31の外側面に形成された電極配線6の表面を覆うように電極保護膜9を設けている。このように電極配線6が保護膜8によって覆われていない領域に電極保護膜9を設けることで、部材同士の衝突等の衝撃による断線から電極配線6を保護することができる。
【符号の説明】
【0024】
10 圧電基板
2 IDT
31 壁部
32 天板部
4 引出電極
6 電極配線
8 保護膜