(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】先端デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 18/00 20060101AFI20240227BHJP
A61B 17/28 20060101ALI20240227BHJP
A61N 1/44 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
A61B18/00
A61B17/28
A61N1/44
(21)【出願番号】P 2020112980
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸介
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-166245(JP,A)
【文献】特表2019-516426(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0008579(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0066985(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0080413(US,A1)
【文献】米国特許第06348051(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0107786(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/00-18/04
A61B 17/00-17/94
A61N 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織に作用する作用部を自身の先端側に備え、長手方向に延びる作用部材と、
ガスを流す流路と前記流路の端部に設けられる放出口とを備えるとともに前記放出口を介して前記作用部側にガスを放出するガス誘導路と、第1電極と第2電極とを備えるとともに前記ガス誘導路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、を具備するプラズマ照射装置と、
を有し、
前記放出口の外側に前記作用部が設けられた先端デバイスであって、
前記放出口は、前記作用部の周囲に設けられ、少なくとも前記長手方向に対して交差する方向にガスを放出する
先端デバイス。
【請求項2】
前記作用部は、生体組織に作用する第1作用部と、生体組織に作用する第2作用部と、を含み、
前記作用部材は、前記第1作用部を自身の先端側に備える第1作用部材と、前記第2作用部を自身の先端側に備える第2作用部材と、を含み、
更に、前記第1作用部材及び前記第2作用部材を具備するとともに前記第1作用部と前記第2作用部とが接近及び離間自在に構成され、前記第1作用部と前記第2作用部との間で生体組織を挟んで把持する把持器具を有し、
前記第1作用部と前記第2作用部とが接近および離間する方向は、前記長手方向に対して交差する方向である
請求項1に記載の先端デバイス。
【請求項3】
前記プラズマ照射装置は、前記第1作用部及び前記第2作用部のうちのいずれかを取付対象として取り付けられ、
前記長手方向および前記長手方向に対して交差する方向と直交する直交方向において、前記取付対象の少なくとも一方側に前記放出口が配置されている
請求項2に記載の先端デバイス。
【請求項4】
前記放出口は、前記長手方向の開口幅のほうが前記長手方向および前記交差する方向と直交する直交方向の開口幅よりも大きくなっている
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の先端デバイス。
【請求項5】
複数の前記放出口が、前記作用部の周囲において前記長手方向に並んでいる
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の先端デバイス。
【請求項6】
前記プラズマ照射装置は、自身の外面形状が前記放出口に向かって縮径する縮径部を有し、
前記縮径部が前記作用部の周囲に配置されている
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の先端デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、特に患者に対する開腹開胸、腹腔鏡または内視鏡手術の後に積極的に止血するための、複数の止血要素を含む止血器具が開示されている。この止血器具は、凝固電極によって、生物組織の凝固温度より高い温度を生成する組織凝固用熱凝固止血装置と、絶縁器具が放電極と治療対象の組織の間に配置される生化学的止血装置と、治療対象の組織に凝血促進物質を供給するための供給器具と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の止血器具は、生体組織に作用する放電極の長手方向と同方向にガスを流すように管が配置され、照射されるプラズマの向きが放電極の長手方向と同一方向に規制されていたため、放電極近傍から長手方向と異なる方向(長手方向に対して交差する方向)にプラズマを照射することができなかった。また、特許文献1の止血器具では、プラズマの放出口が放電極よりも後端側に大きく離れた位置関係にあるときには放出口から放出されるプラズマの一部が放電極付近や生体組織付近まで到達しないことも懸念され、プラズマの安定供給の面で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、作用部材の長手方向に対して交差する方向にプラズマを照射することができ、且つ、生体組織に作用する作用部付近に安定的にプラズマを供給し得る先端デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つである先端デバイスは、
生体組織に作用する作用部を自身の先端側に備え、長手方向に延びる作用部材と、
ガスを流す流路と前記流路の端部に設けられる放出口とを備えるとともに前記放出口を介して前記作用部側にガスを放出するガス誘導路と、第1電極と第2電極とを備えるとともに前記ガス誘導路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、を具備するプラズマ照射装置と、
を有し、
前記放出口の外側に前記作用部が設けられた先端デバイスであって、
前記放出口は、前記作用部の周囲に設けられ、少なくとも前記長手方向に対して交差する方向にガスを放出する。
【0007】
上記先端デバイスは、作用部の周囲において作用部材の長手方向に対して交差する方向にガスを放出するように放出口が配置される。よって、上記先端デバイスは、作用部材の長手方向に対して交差する方向にプラズマを照射することができ、且つ、作用部の周囲に設けられた放出口から生体組織に作用する作用部付近に安定的にプラズマを供給することができる。
【0008】
上記の先端デバイスにおいて、作用部は、生体組織に作用する第1作用部と、生体組織に作用する第2作用部と、を含んでいてもよく、作用部材は、第1作用部を自身の先端側に備える第1作用部材と、第2作用部を自身の先端側に備える第2作用部材と、を含んでいてもよい。更に、この先端デバイスは、第1作用部材及び第2作用部材を具備するとともに第1作用部と第2作用部とが接近及び離間自在に構成され、第1作用部と第2作用部との間で生体組織を挟んで把持する把持器具を有していてもよい。そして、第1作用部と第2作用部とが接近および離間する方向は、上記「長手方向に対して交差する方向」であってもよい。
この先端デバイスは、2つの作用部材によって生体組織を挟んで把持し得るものにおいて、作用部材の長手方向に対して交差する方向にプラズマを照射することができ、且つ、生体組織に作用する作用部付近に安定的にプラズマを供給することができる。しかも、放出口からプラズマを照射する方向(即ち、上記「長手方向に対して交差する方向」)が、第1作用部と第2作用部とが接近および離間する方向であるため、生体組織を挟み込む部分の近くにおいて挟み込む動作の方向に沿ったプラズマ照射を行い得る。
【0009】
上記の先端デバイスにおいて、プラズマ照射装置は、第1作用部及び第2作用部のうちのいずれかを取付対象として取り付けられていてもよい。そして、上記長手方向および上記長手方向に対して交差する方向と直交する直交方向において、取付対象の少なくとも一方側に放出口が配置されていてもよい。
この先端デバイスは、第1作用部及び第2作用部の接近・離間動作に干渉しにくい形で放出口を配置することができ、且つ、第1作用部及び第2作用部に挟まれる生体組織に対して作用部を避けた位置からより広い範囲に安定的にプラズマを供給しやすくなる。
【0010】
上記の先端デバイスにおいて、放出口は、長手方向の開口幅のほうが長手方向および交差する方向と直交する直交方向の開口幅よりも大きくなっていてもよい。
この先端デバイスは、放出口の開口が作用部材の長手方向に拡がっているため、作用部材の長手方向においてより広い範囲にわたってプラズマを照射することができる。
【0011】
上記の先端デバイスにおいて、複数の放出口が、作用部の周囲において長手方向に並んでいてもよい。
この先端デバイスは、複数の放出口が作用部材の長手方向に並んでいるため、作用部材の長手方向においてより広い範囲にわたってプラズマを照射することができる。
【0012】
上記の先端デバイスにおいて、プラズマ照射装置は、自身の外面形状が放出口に向かって縮径する縮径部を有していてもよい。そして、縮径部が作用部の周囲に配置されていてもよい。
この先端デバイスは、縮径部が作用部の周囲に配置されるため、スペース的な制約の大きい作用部付近に放出口を配置する上でスペース的なメリットが大きい構成となる。更に、放出口に向かって縮径する部分が設けられる形で小型化か図られていれば、作用部付近に放出口を設けたとしても作業性(特に、作用部付近を生体組織に作用させて細かい作業を行う際の作業性)の低下を抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、作用部材の長手方向に対して交差する方向にプラズマを照射することができ、且つ、生体組織に作用する作用部付近に安定的にプラズマを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態の先端デバイス及びその先端デバイスを備える手術用装置を概略的に示す概略図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の先端デバイスにおけるプラズマ照射装置の構造体を概念的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2の構造体を三分割した構成を概念的に示す分解斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2の構造体を第3方向(幅方向)中心位置にて第3方向と直交する方向に切断した切断面の断面構成を概略的に示す断面概略図である。
【
図5】
図5は、
図2の構造体を第2方向(厚さ方向)中心位置にて第2方向と直交する方向に切断した切断面の断面構成を概略的に示す断面概略図である。
【
図6】
図6は、
図2の構造体を
図5のA-A位置(沿面放電部の位置)にて第1方向と直交する方向に切断した切断面の断面構成を概略的に示す断面概略図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の先端デバイスにおける作用部付近の一部を拡大して概念的に示す拡大図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の先端デバイスの作用部付近の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の先端デバイス及びその先端デバイスを備える手術用装置を概略的に示す概略図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態の先端デバイスの作用部付近の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図11】
図11は、第4実施形態の先端デバイスにおけるプラズマ照射装置の構造体を概念的に示す斜視図である。
【
図12】
図12は、
図11の構造体を第2方向(厚さ方向)中心位置にて第2方向と直交する方向に切断した切断面の断面構成を概略的に示す断面概略図である。
【
図13】
図13は、第5実施形態の先端デバイスの作用部付近の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図14】
図14は、第5実施形態の先端デバイスにおけるプラズマ照射装置の構造体を概念的に示す斜視図である。
【
図15】
図15は、他の実施形態の先端デバイス(第1例)に用いられる構造体を例示する断面概略図であり、
図12とは異なる構造体において第2方向(厚さ方向)中心位置にて第2方向と直交する方向に切断した切断面の断面構成を概略的に示す断面概略図である。
【
図16】
図16は、他の実施形態の先端デバイス(第2例)における第2作用部付近を概略的に例示する説明図である。
【
図17】
図17は、他の実施形態の先端デバイス(第3例)における作用部付近を概略的に例示する説明図である。
【
図18】
図18は、他の実施形態の先端デバイス(第4例)における作用部付近を概略的に例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
1-1.手術用装置の概要
図1で示される手術用装置1は、施術対象の生体組織に対して切開、剥離又は止血を行い得る処置装置として構成されている。手術用装置1は、先端デバイス3と、超音波振動部12(駆動部)を制御する装置である制御装置5と、先端デバイス3内のガス誘導路30(
図4)に対してガスを供給するガス供給装置7と、プラズマ照射装置20に対して電圧を印加し得る電源装置9とを備える。
【0016】
制御装置5は、超音波振動部12に対して超音波振動を発生させるための電気信号を与える装置である。制御装置5は、先端デバイス3と制御装置5との間に介在する図示しない可撓性の信号ケーブルを介して超音波振動部12に電気信号を与え得る構成となっている。
【0017】
ガス供給装置7は、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの不活性ガス(以下、単にガスともいう)を供給する装置である。ガス供給装置7は、例えば、先端デバイス3とガス供給装置7との間に介在する可撓性の通気部材(
図1では図示を省略)を介して後述するガス誘導路30に不活性ガスを供給する。ガス供給装置7は、例えばボンベ等から供給される高圧ガスを減圧するレギュレータと、流量制御を行う制御部とを含む。
【0018】
電源装置9は、高周波電圧発生回路11に電力を供給する装置であり、昇圧トランスなどを含む回路である。
図1では、先端デバイス3と電源装置9との間に介在する可撓性の配線(電力線等)については図示を省略している。高周波電圧発生回路11は、後述する放電電極42(
図4)と接地電極44(
図4)との間に所望の電圧を印加する装置であり、接地電極44をグラウンド電位に保ちつつ、放電電極42と接地電極44との間に所定周波数の交流電圧を印加する。高周波電圧発生回路11は、高周波数(例えば、20kHz~300kHz程度)の高電圧(例えば、振幅が0.5kV~10kVの高電圧)を生成し得る回路であれば、公知の様々な回路を採用し得る。なお、高周波電圧発生回路11が発生させる高電圧の周波数は、一定値に固定された周波数であってもよく、変動してもよい。また、高周波電圧発生回路11が接地電極44と放電電極42との間に印加する電圧は、周期的に変化する電圧であればよく、正弦波の交流電圧であってもよく、非正弦波(例えば、矩形波、三角波など)の交流電圧であってもよい。なお、
図1では、高周波電圧発生回路11と放電電極42及び接地電極44との間の配線については図示を省略している。
【0019】
図1では、高周波電圧発生回路11がケース体14の内部に設けられた先端デバイス3及び手術用装置1が例示されているが、高周波電圧発生回路11がケース体14の外部(例えば、先端デバイス3の外部)に設けられていてもよい。
【0020】
先端デバイス3は、手術を行う術者によって把持されて使用される装置であり、主に、ケース体14、把持器具15、プラズマ照射装置20、超音波振動部12、などを備える。ケース体14、把持器具15、プラズマ照射装置20、及び超音波振動部12は、使用者に把持される把持ユニットとして一体的に構成されており、可撓性を有する部材を介して不活性ガスや電力が供給されるようになっている。
【0021】
ケース体14は、円筒状に構成され所定方向に延びており、主として、基部14Bと、基部14Bと一体的に構成されるとともに所定方向に延びる円筒状の延出部14Aとを備える。基部14Bの内部には、超音波振動部12などが収容されている。
【0022】
超音波振動部12は、公知の超音波振動子として構成され、上述した制御装置5によって所定の電気信号が与えられたときに駆動して超音波振動を発生させ、後述する第1作用部材16に対して超音波振動を伝達するように動作する。超音波振動部12は、駆動部の一例に相当し、第1作用部16A付近において生体組織を切開、剥離又は熱凝固止血する作用が生じるように第1作用部材16を駆動する。
【0023】
把持部60は、先端デバイス3を使用する使用者によって把持される部分であり、公知の可動機構を採用した可動部材変位機構として構成されている。把持部60は、ケース体14の基部14Bに固定されてケース体14と一体化された固定把持部62と、固定把持部62に対して相対移動可能に取り付けられる軸状の第2作用部材64とによって構成されている。
【0024】
把持器具15は、生体組織を挟んで把持するように使用し得る器具であり、第1作用部材16と第2作用部材64とを有する。
【0025】
第1作用部材16は、長手方向に延びる軸状の部材であり、生体組織に作用する第1作用部16Aを自身の先端側に備える部材である。第1作用部16Aは、第1作用部材16の先端部付近において固定刃として機能する部位である。第1作用部材16は、第1作用部16Aと、超音波振動部12から与えられた振動を第1作用部16Aに伝達する軸部16Bとを有し、超音波振動部12で発生した振動が軸部16Bを介して第1作用部16Aに伝達されることにより第1作用部16Aが振動する。第1作用部材16は、第1作用部16Aが生体組織に接近又は接触している状態で第1作用部16Aが振動することにより生体組織に対して切開作用、剥離作用又は止血作用を生じさせるように動作する。
【0026】
第2作用部材64は、可動部材として機能する軸状の部材であり、長手方向に延びる部材である。第2作用部材64は、生体組織に作用する第2作用部64Aを自身の先端側(一端側)に備える部材である。第2作用部64Aは、可動刃として機能する部位である。第2作用部材64は、自身の後端側(他端側)の端部付近に可動把持部64Cを備えている。把持器具15では、軸状の第2作用部材64が延出部14Aの先端部付近の回動軸Zを中心として回動可能とされ、第1作用部16Aと第2作用部64Aとが接近及び離間自在に構成されている。把持器具15は、可動把持部64Cを固定把持部62側に近づけようとする操作がなされることに応じて第2作用部64A(可動刃)が第1作用部16A(固定刃)に近づくように第2作用部材64が回動する。逆に、可動把持部64Cを固定把持部62から離間させようとする操作がなされることに応じて第2作用部64Aが第1作用部16Aから離れるように第2作用部材64が回動する。
【0027】
このように構成された先端デバイス3は、超音波振動を用いた生体組織の切開処置、剥離処置、止血処置を行いうる。例えば、第1作用部16A(固定刃)と第2作用部64Aとによって生体組織が挟み込まれたときに第1作用部16Aに超音波振動が伝達されることにより生体組織を切除することができる。また、超音波振動が伝達される第1作用部16Aを生体組織に接触させて摩擦熱を生じさせ、止血を行うこともできる。第1作用部材16に対して超音波振動を与えながら、又は与えずに、第1作用部16Aと第2作用部64Aとによって生体組織を挟持し、剥離処置を行うこともできる。このように、先端デバイス3では、超音波振動による切開、剥離又は熱凝固止血が可能となっており、更に、後述するプラズマ照射装置20からの低温プラズマの照射によって低侵襲な止血を併用することもできる。
【0028】
1-2.プラズマ照射装置の基本構成
図1に示されるように、プラズマ照射装置20は先端デバイス3の一部として組み込まれ、先端デバイス3の内部で誘電体バリア放電を生じさせる装置として構成されている。
図1で示される2つのプラズマ照射装置20は2つが同一の構成となっている。以下では、両プラズマ照射装置20の共通の構成について説明する。
【0029】
図2で示されるように、いずれのプラズマ照射装置20も、所定の立体形状(例えば、板状且つ直方体状)として構成された構造体20Aを有し、構造体20Aの長手方向の端部に形成された放出口34から低温プラズマPを照射するように構成されている。
【0030】
図3にて概念的に示されるように、構造体20Aは、厚さ方向中央部に誘電体層53が設けられ、誘電体層53よりも厚さ方向一方側に誘電体層54が設けられている。更に、構造体20Aは、誘電体層53よりも厚さ方向他方側に誘電体層51及び誘電体層52が設けられている。誘電体層51及び誘電体層52によって構成された誘電体領域の内部には、放電電極42及び接地電極44が埋め込まれている。
図3では、構造体20Aが3分割された構成が分解斜視図として概念的に示されているが、実際の構成は、誘電体層51、誘電体層52、誘電体層53、及び誘電体層54の各々が、一体的な誘電体部50(
図6)の一部として構成されている。
【0031】
図4に示されるように、構造体20Aは、ガス誘導路30と、沿面放電部40とを備える。
【0032】
ガス誘導路30は、ガスを導入する導入口32と、ガスを放出する放出口34と、導入口32と放出口34との間に設けられる流路36と、を有する。流路36の端部(先端部)に設けられるとともに流路36を流れたガスを放出するように機能する。流路36は、先端側に配された放出口34に向かってガスを流すように機能し、少なくとも沿面放電部40が設けられた領域において第1方向に沿ってガスを流すように配置される。ガス誘導路30は、先端デバイス3の外部に設けられたガス供給装置7(
図1)から管路7Aを介して供給される不活性ガスを導入口32から導入し、導入口32側から導入されたガスを流路36内の空間を通して放出口34に誘導する誘導路となっている。なお、
図4では、導入口32に向けてガスを供給するための管路7Aが二点鎖線によって概念的に示されている。先端デバイス3では、放出口34の外側に第1作用部16A及び第2作用部64Aが配置されている。そして、ガス誘導路30は、放出口34から第2作用部64A側にガスを放出する流路構成をなし、ガスと共に低温プラズマPを放出口34から第2作用部64A側に放出するように機能する。
【0033】
図4で示されるように、本明細書では、プラズマ照射装置20においてガス誘導路30が延びる方向が第1方向であり、第1方向と直交する方向のうち誘電体部50の厚さ方向が第2方向であり、第1方向及び第2方向と直交する方向が第3方向(
図6)である。
図4の構成では、誘電体部50と放電電極42と接地電極44とが一体的に設けられた構造体20Aの長手方向が第1方向である。そして、構造体20Aを第1方向と直交する平面方向に切断した切断面(
図6)での構造体20Aの短手方向が第2方向であり、この切断面の長手方向が第3方向(
図6)である。第3方向(
図6)は構造体20Aの幅方向であり、第2方向は構造体20Aの高さ方向又は厚さ方向である。なお、以下の説明では、第1方向において放出口34側が構造体20Aの先端側であり、第1方向において導入口32側が構造体20Aの後端側である。
【0034】
図4で示されるように、構造体20Aは、所定方向(第1方向)に沿ってガスを流すようにガス誘導路30が構成され、この所定方向(第1方向)と直交する第2方向を積層方向とする構成で第1電極の一例に相当する放電電極42と第2電極の一例に相当する接地電極44と誘電体部50とが積層された構成をなす。
【0035】
沿面放電部40は、放電部の一例に相当し、誘電体層51と、誘電体層51を介在させて互いに対向して配置される放電電極42及び接地電極44と、を有する。沿面放電部40は、放電電極42と接地電極44との電位差に基づく電界をガス誘導路30内で発生させて沿面放電による低温プラズマ放電をガス誘導路30内で発生させるように機能する。具体的には、沿面放電部40は、接地電極44の電位を一定の基準電位(例えば、0Vのグラウンド電位)に保ちつつ、周期的に変化する電圧が放電電極42に印加されることに応じて流路36内で沿面放電を発生させ、低温プラズマを生じさせる。
【0036】
沿面放電部40は、放電電極42又は接地電極44の一方が直接又は他部材を介して流路36の空間に面しつつ、周期的に変化する電圧が放電電極42に印加されることに応じて流路36内で沿面放電を発生させるものである。なお、「放電電極42又は接地電極44の一方が直接流路36に面する構成」とは、放電電極42又は接地電極44の一方が流路36内の空間に露出し当該一方が流路の内壁の一部をなすような構成が該当する。また、「放電電極42又は接地電極44の一方が他部材を介して流路36に面する構成」とは、放電電極42又は接地電極44のうちの一方が流路36に近い位置に配置されるとともに当該一方の一部又は全部が他部材によって覆われる構成が該当する。このように他部材を介する構成では、当該他部材が流路の内壁の一部をなし、上記の「一方」の主面が流路36に向いて配置される。なお、
図4で示される構成は、放電電極42が上記の「一方」に該当し、「放電電極42が他部材を介して流路36に面する構成」であるが、
図4では、他部材の一例に相当する誘電体層52が省略された形で示されている(
図5、
図6参照)。
【0037】
1-3.ガス誘導路及び沿面放電部の具体的構成
図5で示されるように、ガス誘導路30を構成する流路36は、第2方向(
図4)両側及び第3方向両側が囲まれた空間が第1方向に続くように構成されている。流路36は、第1方向に沿って延びる第1流路36Aと、第1流路36Aの下流側に設けられる第2流路36Bと、第1流路36Aの上流側に設けられる第3流路36Cとを備える。第1流路36Aは、構造体20Aにおいて第1方向の第1領域AR1に設けられている。第2流路36Bは、構造体20Aにおいて第1方向の第2領域AR2に設けられ、縮幅流路37Aと一定流路37Bとを備える。第3流路36Cは、構造体20Aにおいて第1方向の第3領域AR3に設けられ、拡幅流路38Aと一定流路38Bとを備える。
図5では、第1方向において第1流路36Aが設けられる範囲が第1領域AR1として表され、第1方向において第2流路36Bが設けられる範囲が第2領域AR2として表され、第1方向において第3流路36Cが設けられる範囲が第3領域AR3として表されている。
【0038】
図5のように、第2流路36Bは、第1流路36Aと放出口34との間において第1流路36Aよりも狭い幅で構成されている。第2流路36Bにおいて縮幅流路37Aは、第1方向において第2領域AR2の一部領域AR21にわたって設けられている。そして、縮幅流路37Aは、放出口34に近づくにつれて内壁面の幅が次第に狭くなっている。縮幅流路37Aの高さは、領域AR21の全範囲にわたって一定である。一定流路37Bは、第1方向において第2領域AR2の一部領域AR22にわたって設けられている。一定流路37Bの高さ及び幅は、領域AR22の全範囲にわたって一定である。
【0039】
図5のように、第3流路36Cは、導入口32と第1流路36Aとの間において第1流路36Aよりも狭い幅で構成されている。第3流路36Cにおいて拡幅流路38Aは、第1方向において第3領域AR3の一部領域AR31にわたって設けられ、第1流路36Aに近づくにつれて内壁面の幅が次第に大きくなっている。拡幅流路38Aの高さは、領域AR31の全範囲にわたって一定である。一定流路38Bは、第1方向において第3領域AR3の一部領域AR32にわたって設けられている。一定流路38Bの高さ及び幅は、領域AR32の全範囲にわたって一定である。
【0040】
図5のように、構造体20Aは、第1方向の所定範囲にわたって第1方向と直交する切断面の外形形状が一定形状となる第1定形部22及び第2定形部26を有する。更に、構造体20Aは、第1方向と直交する切断面の外形形状が先端側となるにつれて小さくなるように自身が縮径する縮径部24を有する(
図2も参照)。第1定形部22の先端側に縮径部24が続き、縮径部24の先端側に第2定形部26が続く構成で設けられている。第1定形部22の先端位置は縮径部24の後端位置であり、縮径部24の先端位置は第2定形部26の後端位置である。第1定形部22は、第1領域AR1及び第3領域AR3に設けられ、外壁面の幅(第3方向の長さ)及び外壁面の高さ(第2方向の長さ)が一定となっている。縮径部24は、第2領域AR2の一部領域AR21に設けられ、外壁面の高さ(第2方向の長さ)が一定であり、外壁面の幅(第3方向の長さ)が先端側となるにつれて小さくなるように縮径する形状をなす。第2定形部26は、第2領域AR2の一部領域AR22に設けられ、外壁面の幅(第3方向の長さ)及び外壁面の高さ(第2方向の長さ)が一定となっている。第1定形部22、縮径部24、第2定形部26はいずれも外壁面の高さが同一の所定高さとなっている。一方、第1定形部22の外壁面の幅は、第2定形部26の外壁面の幅よりも大きく、縮径部24の外壁面の最大幅(後端の幅)と同一となっている。第2定形部26の外壁面の幅は、縮径部24の外壁面の最小幅(先端の幅)と同一となっている。
【0041】
このように構成された流路36に対して、接地電極44は、流路36に沿うように第1方向に直線状に延びており、第1方向の所定領域に配置されている。接地電極44は、自身の先端側の一部が放電電極42よりも放出口34側に配置されている。接地電極44の一部は、第1方向において第2流路36Bの配置領域AR2に位置しており、
図5の例では、接地電極44の先端が縮幅流路37Aの先端(一定流路37Bの後端)よりも先端側に位置し、第1方向において一定流路37Bの配置領域AR22に位置している。接地電極44の後端は、第1流路36Aの先端よりも後端側に位置し、放電電極42の先端よりも後端側且つ放電電極42の後端よりも先端側に位置している。接地電極44は、第3方向において第1流路36Aの配置領域AR1内に自身の少なくとも一部(
図5では自身の全部)が位置する。より具体的には、接地電極44は、第3方向において一定流路37Bの配置領域AR4内に自身の少なくとも一部(
図5では自身の一部)が位置し、第3方向において放出口34の形成領域内に自身の少なくとも一部(
図5では自身の一部)が位置する。
【0042】
図5のように、放電電極42は、直線状に構成された複数本(具体的には、3本)の直線状電極部42Aを備え、これら直線状電極部42Aが流路36に沿うように第1方向に直線状に延びており、各々の直線状電極部42Aがライン状の電極として機能する。各々の直線状電極部42Aは、一定の幅且つ一定の厚さの導体によって構成され、第1方向の所定領域に配置されている。複数本の直線状電極部42Aは後端部で連結され、互いに電気的に接続され、互いに同電位とされる。放電電極42は、第1方向において第1流路36Aの配置領域(第1領域AR1)及び第3流路36Cの配置領域(第3領域AR3)に跨るように位置する。即ち、放電電極42の先端は、第1流路36Aの先端よりも後端側に位置し、放電電極42の後端は第1流路36Aの後端よりも後端側(具体的には、第3流路36Cの先端と後端との間)に位置する。更に、各々の直線状電極部42Aの幅(第3方向の長さ)は、接地電極44の幅(第3方向の長さ)よりも小さくなっている。放電電極42の全体は、第3方向において接地電極44の配置領域AR5内に収まっている。
【0043】
図6で示されるように、誘電体部50は、誘電体層51、誘電体層52、誘電体層53、誘電体層54を備え、全体として中空状に構成されている。
【0044】
誘電体層51は、流路36の空間よりも第2方向(厚さ方向)一方側に配置されるとともに接地電極44が埋め込まれるように構成される。誘電体層52は、セラミック材料によって放電電極42を覆うように構成されたセラミック保護層であり、誘電体層51よりも流路空間側において放電電極42を覆うように配置される。誘電体層51及び誘電体層52は、流路36における第2方向一方側の内壁部を構成する。
図6の例では、放電電極42及び接地電極44が誘電体層51を介して互いに対向している。放電電極42は、誘電体層52を介して流路36に面しており、誘電体部50内において第2方向の第1位置に第1の厚さで配置されている。接地電極44は、誘電体部50内において第2方向の第2位置に第2の厚さで配置されており、放電電極42に対して流路36とは反対側に設けられるとともに放電電極42よりも流路36から離れている。このような構成により、流路36内の空間の第2方向一方側に沿面放電部40が配置されている。
【0045】
誘電体層54は、流路36の空間よりも第2方向(厚さ方向)他方側に配置され、流路36における第2方向他方側の内壁部を構成する。誘電体層53は、第2方向において誘電体層51と誘電体層54との間に配置され、流路36における第3方向一方側の側壁部及び第3方向他方側の側壁部を構成する。このように、流路36は、誘電体層51、誘電体層52、誘電体層53、及び誘電体層54により画成されている。
【0046】
誘電体層51、誘電体層52、誘電体層53、及び誘電体層54の材料は、例えばアルミナなどのセラミック、ガラス材料や樹脂材料を好適に用いることができる。なお、機械的強度が高いアルミナを誘電体として用いることで、沿面放電部40の小型化を図りやすくなる。
【0047】
1-4.プラズマ照射装置の配置
図7のように、プラズマ照射装置20の構造体20Aは、第2作用部64Aに固定されており、第2作用部64Aの周囲に放出口34(
図8)が配置されている。そして、構造体20Aの内部で発生した低温プラズマPは、第2作用部64A付近に配置された放出口34から第2作用部64Aの周囲及び第1作用部16Aの周囲に照射されるようになっている。なお、
図7では、第1作用部16Aと第2作用部64Aとが接触するときの第1作用部材16の位置が二点鎖線によって概念的に示されている。
【0048】
図7のように、各プラズマ照射装置20の放出口34は、第2作用部64Aの周囲において、第2作用部材64の長手方向に対して交差する方向にガスを放出する構成をなしている。より具体的には、いずれの放出口34も、第2作用部64Aにおけるプラズマ照射装置20の配置領域AR6(複数の構造体20Aが取り付けられる領域)が延びる延出方向に対して交差する方向(より具体的には直交する方向)にガスを放出するように配置されている。
【0049】
図8では、先端デバイス3における第1作用部16A及び第2作用部64A付近の構成を簡略的に示している。
図8のように、先端デバイス3では、第1作用部16Aと第2作用部64Aとが、所定の平面方向に沿って接近及び離間する構成をなしている。具体的には、第1作用部材16に対して第2作用部材64が回動するときの回動軸と直交する方向が上記平面方向となっており、第1作用部材16及び第2作用部材64が上記平面方向に沿って延びている。そして、第1作用部16Aの先端と第2作用部64Aの先端とが、上記平面方向のうちの1つの方向(接近・離間方向)に沿って接近及び離間する構成をなしている。
【0050】
先端デバイス3は、上記平面方向と直交する方向(以下、直交方向ともいう)において、取付対象となる第2作用部64Aの一方側に2つの構造体20Aが取り付けられている。この直交方向は、「第2作用部材64の長手方向」および「接近・離間方向」と直交する方向である。そして、取付対象(第2作用部64Aを)に対して上記直交方向の一方側に複数(
図8では2つ)の放出口34が配置された構成となっている。複数の放出口34は、第2作用部64Aの周囲において第2作用部材64の長手方向に並んでおり、いずれの放出口34も、上述の接近・離間方向(第1作用部16Aと第2作用部64Aとが接近および離間する方向)に沿ってガスを放出するように配置されている。つまり、上述の接近・離間方向が、放出口34からガスを放出する方向であり、「第2作用部材64の長手方向に対して交差する方向」である。本構成では、上述の第1方向(
図5)が接近・離間方向に沿った方向となっており、ガス誘導路30(
図5)内を第1方向に沿って流れたガスが放出口34から放出されたとき、放出直後には大部分のガスが上述の接近・離間方向に沿って流れるようになっている。
【0051】
更に、先端デバイス3では、いずれの放出口34も、第2作用部材64の長手方向の開口幅W1のほうが上記直交方向(第2作用部材64の長手方向および接近・離間方向(ガス放出方向)と直交する方向)の開口幅W2よりも大きくなっている。
【0052】
また、プラズマ照射装置20の構造体20Aは、上述の縮径部24(自身の外面形状が放出口34に向かって縮径する部分)が第2作用部64Aの周囲に配置されている。具体的には、第2作用部64A近傍の隣接位置において第2作用部64Aに対して直交方向一方側に縮径部24及び第2定形部26が配置されており、第2作用部64A近傍での構造体20Aの嵩張りが抑えられている。
【0053】
1-5.本構成の効果の例示
先端デバイス3は、第2作用部64Aの周囲において第2作用部材64の長手方向に対して交差する方向にガスを放出するように放出口34が配置される。よって、先端デバイス3は、第2作用部材64の長手方向に対して交差する方向にプラズマを照射することができ、且つ、第2作用部64Aの周囲に設けられた放出口34から生体組織に作用する第2作用部64A付近に安定的にプラズマを供給することができる。
【0054】
更に、先端デバイス3は把持器具15を有し、把持器具15は、第1作用部材16の第1作用部16Aと第2作用部材64の第2作用部64Aとが接近及び離間自在に構成され、第1作用部16Aと第2作用部64Aとの間で生体組織を挟んで把持するように機能する。そして、この把持器具15における接近・離間方向(第1作用部16Aと第2作用部64Aとが接近および離間する方向)が、放出口34からのガスの放出方向(即ち、「長手方向に対して交差する方向」)となっている。この先端デバイス3は、2つの作用部材によって生体組織を挟んで把持し得るものにおいて、第2作用部材64の長手方向に対して交差する方向にプラズマを照射することができ、且つ、生体組織に作用する第1作用部16A及び第2作用部64A付近に安定的にプラズマを供給することができる。しかも、放出口34からプラズマを照射する方向(即ち、上記「第2作用部材64の長手方向に対して交差する方向」)が、第1作用部16Aと第2作用部64Aとが接近および離間する方向であるため、生体組織を挟み込む部分の近くにおいて挟み込む動作の方向に沿ったプラズマ照射を行い得る。
【0055】
先端デバイス3では、プラズマ照射装置20は、第1作用部16A及び第2作用部64Aのうちのいずれか(
図1等の例では第2作用部64A)を取付対象として取り付けられる。そして、第2作用部材64の長手方向およびプラズマの照射方向(即ち、上記長手方向に対して交差する方向)と直交する直交方向において、取付対象(第2作用部64A)の一方側に放出口34が配置されている。この先端デバイス3は、第1作用部16A及び第2作用部64Aの接近・離間動作に干渉しにくい形で放出口34を配置することができる。しかも、この先端デバイス3は、第1作用部16A及び第2作用部64Aに挟まれる生体組織に対して第2作用部64Aを避けた位置からより広い範囲に安定的にプラズマを供給しやすくなる。
【0056】
先端デバイス3では、放出口34は、第2作用部材64の長手方向の開口幅W1のほうが上記直交方向(上記長手方向および上記接近・離間方向(交差する方向)と直交する方向)の開口幅W2よりも大きくなっている。このように、先端デバイス3は、放出口34の開口が第2作用部材64の長手方向に拡がっているため、第2作用部材64の長手方向においてより広い範囲にわたってプラズマを照射することができる。
【0057】
更に、先端デバイス3では、複数の放出口34が、第2作用部64Aの周囲において第2作用部材64の長手方向に並んでいる。よって、第2作用部材64の長手方向においてより広い範囲にわたってプラズマを照射することができ、プラズマの照射態様を線状の照射から面状の照射に近づけることができる。
【0058】
更に、プラズマ照射装置20は、自身の外面形状が放出口34に向かって縮径する縮径部24を有しており、縮径部24が第2作用部64Aの周囲に配置されている。このように、先端デバイス3では、縮径部24が第2作用部64Aの周囲に配置されるため、スペース的な制約の大きい作用部付近に放出口34を配置する上でスペース的なメリットが大きくなる。更に、放出口34に向かって縮径する部分が設けられる形で小型化か図られていれば、第2作用部64A付近に放出口34を設けたとしても作業性(特に、作用部付近を生体組織に作用させて細かい作業を行う際の作業性)の低下を抑えることができる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。
図9は、第2実施形態の先端デバイス203を備える手術用装置201を例示している。なお、以下の説明では、先端デバイス203を備える手術用装置201において第1実施形態の先端デバイス3を備える手術用装置1(
図1)と同様の構成をなす部分については、手術用装置1(
図1)の該当部分と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。例えば、手術用装置201及び先端デバイス203においてプラズマ照射装置20は、第1実施形態の先端デバイス3に設けられたプラズマ照射装置20と同一の構成をなし、同一の機能を有する。また、ガス供給装置7及び電源装置9は、手術用装置1(
図1)に用いられるものと同一の構成をなす。なお、
図9では、電源装置9とプラズマ照射装置20との間に介在する高周波電圧発生回路11(
図1)については省略して示している。
【0060】
図8で示されるように、先端デバイス203は、生体組織に作用する作用部216Aを自身の先端側に備えるとともに長手方向に延びる作用部材216と、作用部材216を駆動させる制御装置205(駆動部)と、プラズマ照射装置20と、を備える。この先端デバイス203でも、プラズマ照射装置20は、先端デバイス203の一部として組み込まれている。そして、ガス誘導路30は、放出口34から作用部216A側にガスを放出する構成をなす。ケース体214、作用部材216、及びプラズマ照射装置20は、使用者に把持される把持ユニットとして一体的に構成されており、可撓性を有する部材を介して不活性ガスや電力が供給されるようになっている。
【0061】
制御装置205は、高周波電流を供給する高周波電流供給部として構成されており、駆動部の一例に相当する。作用部材216は、例えば金属材料などによって軸状に構成されており、制御装置205(高周波電流供給部)から供給される高周波電流が流れる電極部として機能する。作用部材216は、公知の電気メスとして機能させることができ、作用部材216(電極部)を介して流れる高周波電流により生体組織に対して切開作用、剥離作用又は熱凝固止血作用を生じさせ得る。なお、
図9では、制御装置205(駆動部)がケース体214の外側に設けられた構成を概念的に示しているが、制御装置205は、ケース体214の内部又は外部においてケース体214と一体的に設けられていてもよい。
【0062】
先端デバイス203では、作用部材216を介して流れる高周波電流による生体組織の切開、剥離又は熱凝固止血と、プラズマ照射装置20からの低温プラズマの照射による低侵襲な止血とを共通の先端デバイス203によって行いうる。
【0063】
先端デバイス203でも、放出口34の外側に作用部216Aが設けられている。そして、放出口34は、作用部216Aの周囲に設けられ、少なくとも作用部材216の長手方向に対して交差する方向にガスを放出する構成をなしている。なお、
図9は、プラズマ照射装置20を第1方向に見た位置関係となっている。
【0064】
図9の例でも、放出口34は、作用部材216の長手方向の開口幅のほうが直交方向(長手方向および交差方向(放出口34からガスを放出する方向)と直交する方向)の開口幅よりも大きくなっている。上記交差方向(放出口34からガスを放出する方向)は、具体的には、構造体20Aにおける上記第1方向(
図5等)である。また、
図9の例でも、プラズマ照射装置20に縮径部(第1実施形態の縮径部24(
図2等)と同様の縮径部)が設けられているとよい。そして、この縮径部が作用部216Aの周囲に配置されているとよい。
【0065】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。
第1実施形態の先端デバイス3の説明では、上記直交方向の一方側にプラズマ照射装置20を設けた例(
図8)を示したが、
図10のように、第3実施形態の先端デバイス303は、上記直交方向の両側にプラズマ照射装置20が設けられている。なお、
図10の構成は、直交方向一方側だけでなく直交方向他方側にもプラズマ照射装置20を設けた点のみが第1実施形態の構成(
図8等)と異なり、その他の点は第1実施形態と同様である。このように第2作用部64Aに対して直交方向両側にプラズマ照射装置20が設けられ、直交方向両側に放出口34が配置されていれば、直交方向においてより広い範囲にわたってプラズマを照射することができる。
【0066】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態について説明する。
図11には、第4実施形態の先端デバイスに用いるプラズマ照射装置420が示されている。第4実施形態の先端デバイスは、
図1の先端デバイス3におけるプラズマ照射装置20に代えて
図11のプラズマ照射装置420を設けた構成とすることができる。なお、以下では、
図1の先端デバイス3においてプラズマ照射装置20に代えて
図11のプラズマ照射装置420を設けた構成を代表例として説明するが、プラズマ照射装置420は、上述又は後述のいずれの先端デバイスにも用いることができるものである。
【0067】
図11のように、プラズマ照射装置420の構造体420Aは、2つの放出口34を有しており、2つの放出口34からプラズマを放出し得る構成をなしている。
図12のように、構造体420Aは、第1実施形態の先端デバイス3で用いられる構造体20A(
図5等)を2つ備えた構成をなし、2つの構造体20Aを一体化させた構成をなしている。
図12の例では、構造体420Aの第3方向中間位置を一点鎖線Cで示しており、一点鎖線Cよりも一方側の領域及び他方側の領域がそれぞれ構造体20Aと同様の構成をなしている。なお、
図12では、接地電極44(
図5)に相当する電極を省略しているが、接地電極は、
図5と同様に各放電電極42に対向させてそれぞれ設けてもよく、両放電電極42に跨るように共通の接地電極を設けてもよい。なお、
図11、
図12で示す構造体420Aの外形はあくまで一例であり、外形については様々な形状とすることができる。
【0068】
図12で示すプラズマ照射装置420を第2作用部材64(
図8)に取り付ける場合、放出口34からのガスの向きが第2作用部材64(
図8)の長手方向に対して交差する方向となるように配置する。具体的には、構造体420Aにおける第1方向が第2作用部材64(
図8)の長手方向に対して交差する方向となるように配置する。例えば、構造体420Aにおける第1方向が、第2作用部材64(
図8)の長手方向に対して直交する方向となるように配置し、より望ましくは、構造体420Aにおける第1方向が上述の接近・離間方向に沿うように配置する。更には、構造体420Aに設けられた複数の放出口34が、第2作用部材64の長手方向に並ぶように配置するとよい。
【0069】
<第5実施形態>
次に、
図13等を参照し第5実施形態の先端デバイス503について説明する。
先端デバイス503は、プラズマ照射装置20の構成及び配置及び第1作用部材16及び第2作用部材64の具体的形状のみが第1実施形態の先端デバイス3(
図1等)と異なり、その他の構成及び機能は先端デバイス3と同一である。よって、第1実施形態と同一の点については、詳細な説明は省略する。また、先端デバイス503は、
図1で示す先端デバイス3と同様に手術用装置1に用いることができる。つまり、
図1の手術用装置1において先端デバイス3に代えて先端デバイス503を設けることができる。
【0070】
なお、先端デバイス503では、第1実施形態と同様に第1作用部材16に対して超音波振動部12からの超音波振動が与えられるようになっていてもよく、第2作用部材64に対して超音波振動部12からの超音波振動が与えられるようになっていてもよい。また、
図13の例では第1作用部材16及び第2作用部材64の具体的形状を第1実施形態と異ならせているが、第1実施形態と同様であってもよい。
【0071】
図14のように、プラズマ照射装置520の構造体520Aは、所定方向に並ぶ3つの放出口34を有しており、3つの放出口34からプラズマを放出し得る構成をなしている。なお、プラズマ照射装置520は、ガス誘導路30の流路構成や誘電体部50の外形などがプラズマ照射装置20と異なっているが、沿面放電部40の構成、機能はプラズマ照射装置20と同一である。
図13のプラズマ照射装置520は、導入口32から放出口34に向かって第1方向に沿ってガスを流しつつ、沿面放電部40が流路36内で発生させたプラズマを3つの放出口34から放出し得る構成となっている。ガス誘導路30における流路36は、沿面放電部40よりも先端側(第1方向において放出口34側)において3つの分岐流路に分岐しており、各分岐流路の端部に放出口34が設けられている。
【0072】
このように構成されたプラズマ照射装置520は、
図13のように第2作用部材64に取り付けられ、3つの放出口34からのガスの向きが第2作用部材64の長手方向に対して交差する方向となるように配置される。具体的には、構造体520Aの第1方向(
図14)が第2作用部材64の長手方向に対して交差する方向となるようにプラズマ照射装置520が配置される。
図13の例では、構造体520Aにおける第1方向(
図14が、第2作用部材64の長手方向に対して直交する方向となるようにプラズマ照射装置520が配置され、より具体的には、構造体520Aにおける第1方向が上述の接近・離間方向に沿うように配置されている。更に、
図13の例では、構造体520Aに設けられた複数の放出口34が、第2作用部材64の長手方向に並ぶように配置されている。この例では、第2作用部64Aの直交方向両側に配置された2つのプラズマ照射装置520から上記長手方向に拡がるように面状にプラズマを照射することができ、把持器具15に把持される生体組織に対してより確実にプラズマを照射しやすくなる。
【0073】
なお、
図13の例では、構造体520Aは、第1方向の所定範囲にわたって第1方向と直交する切断面の外形形状が一定形状となる第1定形部522及び第2定形部526を有する。更に、構造体520Aは、第1方向と直交する切断面の外形形状が先端側となるにつれて大きくなるように自身が拡径する拡径部524を有する(
図14も参照)。そして、拡径部524及び第2定形部526が第2作用部64Aに隣接して固定されている。この例では、構造体520Aにおいて第2作用部64Aに対向する領域をより広く確保することができるため、構造体520Aを第2作用部64Aに対してより安定的に取り付けやすくなる。
【0074】
<他の実施形態>
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述又は後述の実施形態の特徴は、矛盾しない範囲であらゆる組み合わせが可能である。また、上述又は後述の実施形態のいずれの特徴も、必須のものとして明示されていなければ省略することもできる。更に、上述した実施形態を、次のように変更してもよい。
【0075】
第1、第3~第5実施形態の説明では、第2作用部材64にプラズマ照射装置が取り付けられた例が示されたが、いずれの構成のものでも、第1作用部材16にプラズマ照射装置が取り付けられてもよい。或いは、第1作用部材と第2作用部材の両方にプラズマ照射装置を取り付けられてもよい。
【0076】
第4実施形態の説明では、複数の放出口34を備えたプラズマ照射装置420が一例として示され、各々の放出口34から第1方向(構造体420Aの長手方向)に沿ってプラズマが放出される例が示されたが、プラズマの方向はこの例に限定されない。例えば、
図15で示されるプラズマ照射装置620のように、第1方向に対して傾斜した方向にプラズマが照射されてもよい。
図15のプラズマ照射装置620の構造体620Aでは、各放出口34付近の流路が第1方向に対して傾斜した傾斜流路となっている。そして、構造体620Aは、第3方向一方側の放出口34から放出されたプラズマが、第1方向一方側且つ第3方向他方側へと向かうように構成されている。更に、構造体620Aは、第3方向他方側の放出口34から放出されたプラズマが、第1方向一方側且つ第3方向一方側へと向かうように構成されている。なお、第4実施形態以外の構成でも、第1方向に対して傾斜した方向にプラズマが照射されるようになっていてもよい。
【0077】
上述した各実施形態の説明では、プラズマ照射装置を構成する構造体が直線状に形成された例が示されたが、プラズマ照射装置を構成する構造体は、取付対象の形状に合わせられていてもよい。例えば、第1作用部材又は第2作用部材若しくはいずれかの作用部材に近接する部材が湾曲面や屈曲面などの外面を有している場合に、この外面に合った外形形状で構造体が構成されていてもよい。具体的には、例えば、作用部材付近の構成が
図16のようになっていてもよい。
図16で示される先端デバイス703は、
図16のように湾曲した第2作用部64Aに合った形状で第4実施形態のプラズマ照射装置420(具体的には構造体420A)が湾曲している。そして、湾曲した構造体420Aが湾曲した第2作用部64Aに沿うように取り付けられ、複数の放出口34が湾曲した第2作用部64Aに沿って並んでいる。なお、先端デバイス703において、プラズマ照射装置420及び第2作用部64A以外の構成は、
図1等で示す先端デバイス3と同様である。
【0078】
第2実施形態の説明では、1つの作用部材216を備えた電気メスとして構成される先端デバイス203(
図9)が示されたが、1つの作用部材のみを備えた先端デバイスの例はこの例に限定されない。例えば、
図17で例示される先端デバイス803のように、作用部材216に対して複数(具体的には2つ)のプラズマ照射装置20が取り付けられていてもよい。そして、作用部216Aの周囲において複数の放出口34が所定方向(例えば、作用部材216の長手方向)に並んで配置されていてもよい。
図17の例でも、各放出口34は、作用部材216の長手方向に対して交差する方向にガスを放出するようになっており、具体的には、2つの放出口34から同方向(作用部材216の長手方向に対して直交する方向)にガスが放出されるようになっている。或いは、
図18で例示される先端デバイス903のようにプラズマ照射装置20が設けられていてもよい。この例でも、作用部材216に対して複数(具体的には3つ)のプラズマ照射装置20が取り付けられ、作用部216Aの周囲において複数の放出口34が所定方向(例えば、作用部材216の長手方向)に並んで配置されていてもよい。
図18の例でも、各放出口34は、作用部材216の長手方向に対して交差する方向にガスを放出するようになっているが、
図18の例では、3つの放出口34からのガスの放出方向がそれぞれ異なっている。
【0079】
上述した実施形態では、超音波振動や高周波電流の供給を行い得る先端デバイスを例示したが、他の電気的機能を有する先端デバイスに上述したいずれかの構成のプラズマ照射装置が組み込まれた構成であってもよい。或いは、電気的な機能を有さない既知の手術用器具(例えば、鉗子等)として構成される先端デバイスに上述したいずれかの構成のプラズマ照射装置が組み込まれた構成であってもよい。いずれの先端デバイスでも、放出口が作用部の周囲に設けられ、少なくとも作用部材の長手方向に対して交差する方向にガスを放出する構成であればよい。
【0080】
上記実施形態では、放電部の一例として沿面放電を行う沿面放電部を例示したが、放電部は、空間放電を行う空間放電部として構成されていてもよい。
【0081】
上述した実施形態では、駆動部が先端デバイスの一部を構成するケース体(作用部材が組み込まれるケース体)の内部に配置される例を示したが、駆動部がケース体の外部に配置されていてもよい。このように駆動部がケース体の外部に配置される場合、駆動部を先端デバイスの一部とみなしてもよく、駆動部を先端デバイスの一部とみなさなくてもよい。
【0082】
明細書において、「生体組織に作用する」とは、作用部材が生体組織に影響を及ぼし、切開と剥離と止血との少なくとも1つを為すことを意味する。上述した実施形態で例示された作用部材はあくまで一例であり、作用部材が生体組織に影響を及ぼし、切開、剥離、止血の少なくとも1つを行い得るようになっていれば、上述した実施形態以外の様々な構成を採用することができる。
【0083】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
3,203,303,503,703,803,903…先端デバイス
15…把持器具
16…第1作用部材(作用部材)
16A…第1作用部(作用部)
20,420,520,620…プラズマ照射装置
24…縮径部
30…ガス誘導路
34…放出口
36…流路
40…沿面放電部(放電部)
42…放電電極(第1電極)
44…接地電極(第2電極)
64…第2作用部材(作用部材)
64A…第2作用部(作用部)
216…作用部材
216A…作用部