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特許7443173電力系統状態推定方法、電力系統状態推定プログラム、電力系統状態推定プログラムを記憶した記憶媒体、及び電力系統状態推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】電力系統状態推定方法、電力系統状態推定プログラム、電力系統状態推定プログラムを記憶した記憶媒体、及び電力系統状態推定装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20240227BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20240227BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20240227BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
G06Q50/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020117685
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022015070
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】村上 好樹
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松井 照久
(72)【発明者】
【氏名】星野 友祐
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-054048(JP,A)
【文献】特開2015-106316(JP,A)
【文献】特開2011-200040(JP,A)
【文献】特表2020-516213(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079554(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0035885(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 13/00
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の二箇所以上のN地点における二日以上の過去のM個の計測値であるM行N列の行列で示された系統実績データに基づき、各地点における過去のM個の計測値の分散とN地点間の相関に従ったN次元ベクトルの乱数をL組発生させて、N地点の系統状態を示すN次元ベクトルである系統状態の個別パターンをL組生成するパターン生成ステップと、
電力系統の一箇所以上から現在又は将来の計測値の値又はパターンを収集する計測ステップと、
前記現在又は将来の計測値の値又はパターンと類似する前記系統状態の個別パターンを選択する選択ステップと、
を備え、
前記パターン生成ステップは、
前記系統実績データに基づく各N地点の過去の計測値の頻度分布が反映された各地点の確率密度分布から、地点毎にL個の乱数を発生させる乱数発生ステップと、
N地点の過去のM個の計測値から分散共分散行列を作成する相関係数行列生成ステップと、
前記分散共分散行列に基づいて、地点毎の前記乱数をまとめたL行N列の電力系統の乱数行列を、互いの列間に相関を有するL行N列の乱数行列に変換する乱数変換ステップと、
を含むこと、
を特徴とする電力系統状態推定方法。
【請求項2】
前記選択ステップでは、前記個別パターンと各地点の現在又は将来の計測値との差異が小さくなる、前記個別パターンを選択すること、
を特徴とする請求項1記載の電力系統状態推定方法。
【請求項3】
前記差異は、各地点の現在又は将来の計測値と前記個別パターンにおける対応する地点の値との差の絶対値の合計、あるいは差の二乗和あるいはこれらに地点毎の重みを乗じた値であること、
を特徴とする請求項記載の電力系統状態推定方法。
【請求項4】
前記選択ステップでは、各地点の現在又は将来の計測値に与えられた誤差を加えた範囲に共通に収まる前記個別パターンを選択すること、
を特徴とする請求項1記載の電力系統状態推定方法。
【請求項5】
前記個別パターンの頻度分布、信頼区間又は両方を生成して実現確率を示す確率分布計算ステップを備えること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電力系統状態推定方法。
【請求項6】
系統のパラメータを変更して潮流計算を行い、系統のパラメータが変更された系統状態を算出する潮流計算ステップと、
前記潮流計算ステップによる系統状態と前記個別パターンとを比較して、前記系統のパラメータの最適値を決定する決定ステップを備えること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電力系統状態推定方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の電力系統状態推定方法をコンピュータで実行するための電力系統状態推定プログラム。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の電力系統状態推定方法をコンピュータで実行する電力系統状態推定プログラムを記憶したコンピュータ読取り可能な記憶媒体。
【請求項9】
電力系統の二箇所以上のN地点における二日以上の過去のM個の計測値であるM行N列の行列で示された系統実績データを記憶する記憶部と、
前記系統実績データに基づき、各地点における過去のM個の計測値の分散とN地点間の相関に従ったN次元ベクトルの乱数をL組発生させて、N地点の系統状態を示すN次元ベクトルである系統状態の個別パターンをL組生成するパターン生成部と、
電力系統の一箇所以上の地点の現在又は将来の計測値の値又はパターンと類似する前記系統状態の個別パターンを選択するパターン選択部と、
を備え、
前記パターン生成部は、
前記系統実績データに基づく各N地点の過去の計測値の頻度分布が反映された各地点の確率密度分布から、地点毎にL個の乱数を発生させる乱数発生部と、
N地点の過去のM個の計測値から分散共分散行列を作成する相関係数行列生成部と、
前記分散共分散行列に基づいて、地点毎の前記乱数をまとめたL行N列の電力系統の乱数行列を、互いの列間に相関を有するL行N列の乱数行列に変換する乱数変換部と、
を含むこと、
を特徴とする電力系統状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力系統の状態を推定する方法、当該方法を実行するためのプログラム、当該プログラムを記憶する記憶媒体、及び電力系統の状態を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は発電設備の多くが電力会社によって管理されていた。そのため、電力会社は需要を予測しながら、電力の需給バランスを保持し、電力品質を確保してきた。近年は電力会社の管理外の分散電源が電力系統に多く連系してきている。電力会社の管理外の分散電源としては、太陽光発電及び風力発電等の自然エネルギー発電、並びに電気自動車等の蓄電池が挙げられる。
【0003】
これら分散電源は、日射量並びに風向及び風速によって発電量が変化し、また連系点、連系時刻及び容量などが変化する。そのため、これら分散電源の普及は、分散電源の出力を差し引いた電力系統の正味の電力負荷の不確実性を増加させており、需給バランスの維持を複雑化させている。
【0004】
電力会社は電力系統の状態を推定することで、将来の電力系統の状態を予測して電力系統の安定化対策を事前に行ったりする。電力系統の状態は、例えばノード(母線)の電圧、電流、位相差、有効電力、無効電力若しくは力率等の電気量、地点間の線路の有効電力潮流、無効電力潮流若しくは送電損失等の電力潮流、電力系統の状態に影響を与える電力需要実績や日射量等の気象、又はこれらの複合である。
【0005】
電力系統の状態推定方法としては、電力系統の各地点に計測装置を設置し、計測装置の計測値を収集して潮流計算する方法がある。既存の計測装置だけではなく、位相計測装置を採用することで電力系統の状態推定精度を向上させることも期待されている。また、電力系統の状態推定方法としては、電力会社管理外の分散電源の不確実性を考慮すべく種々の確率分布に従って、電力シミュレータで潮流方程式を解くことで系統状態を推定する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-77034号公報
【文献】特開2018-64375号公報
【文献】国際公開第2015/079554号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電力系統に計測装置を十分に設置できていない場合、電力系統の構成や潮流条件によっては、状態推定の計算が収束しない虞があり、また収束した場合であっても計測値と推定値とに大きな解離が発生する虞がある。換言すると、計測値の質及び量が大きな影響を与える推定方式では、多くの計測装置や位相計測装置を設置しなくてはならず、電力系統の状態推定に大きなコストを必要とする。しかも、需要や分散電源による不確実性が大きくなった場合には、高精度な状態推定が困難となる。
【0008】
確率分布に従った電力シミュレータで潮流方程式を解く系統状態の推定方法では、正規分布を用いる問題点は提起されているものの、正規分布を用いた方法が提示されるのみで、また自然エネルギー発電の出力変動以外で非正規分布を用いるメリットがうまく組み込まれていない。
【0009】
本実施形態は、上記のような問題を解決すべく、高価な計測装置や複雑なシミュレータを用いることなく、電力系統の状態を推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の電力系統状態推定方法は、電力系統の二箇所以上のN地点における二日以上の過去のM個の計測値であるM行N列の行列で示された系統実績データに基づき、各地点における過去のM個の計測値の分散とN地点間の相関に従ったN次元ベクトルの乱数をL組発生させて、N地点の系統状態を示すN次元ベクトルである系統状態の個別パターンをL組生成するパターン生成ステップと、電力系統の一箇所以上から現在又は将来の計測値の値又はパターンを収集する計測ステップと、前記現在又は将来の計測値の値又はパターンと類似する前記系統状態の個別パターンを選択する選択ステップと、を備えること、を特徴とする。
【0011】
前記パターン生成ステップは、前記系統実績データに基づく各N地点の過去の計測値の頻度分布が反映された各地点の確率密度分布から、地点毎にL個の乱数を発生させる乱数発生ステップと、N地点の過去のM個の計測値から分散共分散行列を作成する相関係数行列生成ステップと、前記分散共分散行列に基づいて、地点毎の前記乱数をまとめたL行N列の電力系統の乱数行列を、互いの列間に相関を有するL行N列の乱数行列に変換する乱数変換ステップと、を含むようにしてもよい。
【0012】
前記パターン生成ステップでは、各地点の過去の計測値から分散共分散行列を含んでN次元の正規分布に従った確率密度分布から、前記乱数を発生させるようにしてもよい。
【0013】
この方法をコンピュータで実行するための電力系統状態推定プログラム、当該電力系統状態推定プログラムを記憶したコンピュータ読取り可能な記憶媒体も、本実施形態の一態様である。
【0014】
また、電力系統の二箇所以上のN地点における二日以上の過去のM個の計測値であるM行N列の行列で示された系統実績データを記憶する記憶部と、前記系統実績データに基づき、各地点における過去のM個の計測値の分散とN地点間の相関に従ったN次元ベクトルの乱数をL組発生させて、N地点の系統状態を示すN次元ベクトルである系統状態の個別パターンをL組生成するパターン生成部と、電力系統の一箇所以上の地点の現在又は将来の計測値の値又はパターンと類似する前記系統状態の個別パターンを選択するパターン選択部と、を備える電力系統状態推定装置も本実施形態の一態様である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電力系統状態推定方法を実現する電力系統状態推定装置の概念図である。
図2】系統状態が推定される電力系統のモデルである。
図3】ノードの負荷が消費した有効電力の24時間変化の14日分の記録である。
図4】ノードの自然エネルギー発電が出力した有効電力の24時間変化の14日分の記録である。
図5】電力系統のモデルに対する潮流計算を示す模式図である。
図6】午前6時の各ノードの電圧を14日分プロットした結果である。
図7】15時の各ノードの電圧を14日分プロットした結果である。
図8】15時の5つのノードの14日間の電圧の相関を示す。
図9】15時の全ノードの14日間の電圧の相関を示す。
図10】計測値xの発生頻度の分布を表すグラフである。
図11】累積分布関数yを示すグラフである。
図12】系統実績データと乱数行列の関係を示す図である。
図13】(a)は系統状態パターンを示すグラフであり、(b)は系統状態パターンの頻度分布を示すグラフであり、(c)は信頼区間を示すグラフである。
図14】第1の実施形態の電力系統状態推定装置の詳細構成を示すブロック図である。
図15】電力系統状態推定装置の動作を示すフローチャートである。
図16】第2の実施形態に係り、選択される系統状態パターンのグラフである。
図17】第3の実施形態の電力系統状態推定装置の詳細構成を示すブロック図である。
図18】第4の実施形態の電力系統状態推定装置の詳細構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態の電力系統状態推定方法及び装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態の電力系統状態推定方法を実現する電力系統状態推定装置の概念図である。電力系統状態推定装置1は、電力系統の系統状態を確率的に導き出す。この電力系統状態推定装置1は、現在の電力系統の状態を推測し、または将来の電力系統の状態を推測するために用いることができる。
【0017】
この電力系統状態推定装置1は、記憶部2とパターン生成部3とパターン選択部4を備えている。記憶部2は、系統状態の系統実績データ7を記憶している。パターン生成部3は、記憶部2の系統実績データ7が持つ統計的特徴に倣って、系統状態パターン8を多数生成する。パターン選択部4は、系統状態パターン8から、電力系統の一部を実測して得た実測パターン91と類似する選択パターン92を選択する。電力系統状態推定装置1は、選択パターン92を以て導かれた電力系統の系統状態とする。
【0018】
系統状態は、同一時刻における電力系統内の母線や母線間の線路等のような複数の地点の電気に関わる状態のまとまりである。電気に関わる状態は、例えば、電力系統内の各母線の電圧、電流、位相差、有効電力、無効電力若しくは力率等の電気量、地点間の線路の有効電力潮流、無効電力潮流若しくは送電損失等の電力潮流、電力需要実績、又は日射量等の気象である。即ち、系統実績データ7は、系統状態の実績値である。但し、系統実績データ7は、線路インピーダンスや送電容量制約等を考慮した潮流計算によって得てもよい。系統状態パターン8は、系統状態のパターンである。
【0019】
(アルゴリズム)
この電力系統状態推定装置1が実行する電力系統状態推定方法について、電力系統の各母線の電圧を系統状態として例に用いて説明する。図2は、系統状態が推定される電力系統のモデルである。この電力系統は、最上流の変電所と11個のノード110の合計12個のノード(地点)を有している。各ノード110は母線である。各ノード110は、線路120で接続されている。各ノード110には、太陽光発電等の自然エネルギー発電設備130と電力を消費する負荷140が接続されている。
【0020】
本実施形態では記憶部2内に、図3に示すように、各ノード110において、負荷140が消費した有効電力Pの24時間変化が14日分記録されている。また無効電力Qもノード110毎に記録されている。更に、図4に示すように、各ノード110において、自然エネルギー発電130が出力する有効電力Pの24時間変化が14日分記録されている。なお、本実施形態では全てのノードに計測器があると仮定しているが、計測器がないノードは除外して考えるか、近隣のノードの値から内挿して記録してもよい。
【0021】
この場合は太陽光発電を想定しているが、太陽光発電のデータは気象条件によって決まるため、位置が近いノード110では似たような波形になる場合が多い。出力は日によって異なるが、設備が一定であれば同じノード110では最大値は一定値を超えることはない。系統状態パターン8として有効電力のパターンを採用して将来の系統状態を推定する場合には、この系統実績データ7をパターン生成部3に入力すればよい。一方、ノード電圧が測定されておらず、ノード110の有効電力と無効電力からノード電圧を計算する必要がある場合には以下に述べるように潮流計算を実施する。以下ではノード電圧のパターンを系統状態パターン8とした場合の例を説明する。
【0022】
負荷140が消費した有効電力P、即ち電力需要から自然エネルギー発電130の有効電力P、即ち出力を差し引いたものが、各ノード110の正味の負荷となる。図5に示すように、これら負荷140が消費した有効電力Pと自然エネルギー発電130の有効電力Pに対して電力系統の潮流計算を行い、各ノード110の電圧を計算する。即ち、本例の系統状態を計算する。
【0023】
図6図7は、そのような系統状態の過去実績データの例である。図6は午前6時の各ノードの電圧を14日分プロットした結果であり、図7は15時の各ノードの電圧を14日分プロットした結果である。これらの結果から各ノードの電圧変化には一定のパターンがあることがわかる。例えば、図6に示すように、14日分の午前6時の各ノードの電圧を計算する。また、図7に示すように、14日分の15時の各ノードの電圧を計算する。そして、各計算結果を系統実績データ7として記憶部2に記憶させる。
【0024】
ここで、図6及び図7に示すように、電力系統の系統状態は、各母線の電圧の変化に一定のパターンがあることがわかる。また、図8は、15時の5つのノード110の14日間の電圧の相関を示している。図9は、15時の全ノード110の14日間の電圧の相関を示している。図8及び図9に示すように、各ノード110は系統状態の相関性が非常に高いことがわかる。
【0025】
そこで、パターン生成部3は、系統実績データ7からi番目のノード110の状態を示す個別実績データを複数日数分得て、この個別実績データが従うノード110別の確率密度分布を求める。このためには、まずノード110ごとに個別実績データの発生頻度に比例した確率密度分布を持つ乱数を発生させればよい。発生頻度の合計は個別実績データの数であるが、確率密度分布は積分が1になるように規格化された関数である。このような乱数を発生させる方法として、頻度分布から計算された累積分布関数の逆関数を用いる。但し、この関数は縦軸(頻度の累積数)に関して必ず値を持つ必要があるので、連続関数になるように工夫する必要がある。
【0026】
具体的には、個別実績データにおいてi番目のノード110の電圧の計測値xがXからXk+1の間にある頻度をFとする。このとき、図10に示す計測値xの発生頻度の分布を表す頻度分布関数Fは、xの確率密度関数の形状を近似した分布になり、下記数式(1)式で表すことができる。
【0027】
(数1)
F=F (X≦x≦Xk+1) …(1)
【0028】
一方、計測値xの累積分布関数yを、連続関数として定義するために、Y=0及びYを以下数式(2)で定義する。そして、累積分布関数yを以下数式(3)で表す。
【0029】
(数2)
【0030】
(数3)
【0031】
図11は、この累積分布関数yを示すグラフである。図11に示すように、上記数式(3)において、x=Xの時にはk=1とおいてy=Y=0、x=Xの時にはk=Lとおいて、y=YL-1となる。そして、累積分布関数yの逆関数、即ち確率密度関数xは、上記数式(3)から下記数式(4)となる。
【0032】
(数4)
【0033】
そこで、0以上YL-1以下の間の値を取る一様乱数yを発生させて、上記数式(4)に代入することにより、頻度分布関数Fに従ったX以上X以下の間の乱数を発生させることができる。このようにして発生された乱数は、i番目のノード110の過去の系統実績データ7と近似的に同じ平均値、同じ分散、および、同様の分布形状を有しており、過去の個別実績データの発生確率を近似的に再現したものとなる。なお、過去の系統実績データ7の数を増やし、頻度分布を計測する区分を増やすことにより、確率分布の近似精度を向上させることも可能である。
【0034】
以上の方法で、パターン生成部3は、i番目のノード110の乱数の組をL組発生させ、これをN個のノード110において繰り返す。これにより、L個の乱数がN個のノード110分だけ作成される。Lはパターンの数であり任意である。
【0035】
図12は、系統実績データ7を表す実績データ行列とパターン生成部3によって生成された乱数行列の例を図示したものである。この場合、パターン数Lは100であるが、Lの値は100には限らず、さらに大きな値でも構わない。また、この場合には、系統実績データ7や個別パターンは行ベクトルで示されているが、これらを列ベクトルで表示しても構わない。その場合、行の数が地点数Nに、列の数が実績データ数Mおよびパターン数Lになる。その場合、以下の説明では、行と列を転置させて同様な計算を進めることができる。
【0036】
ノード110はすべてのノード110を使用する必要はなく、一部のノード110のみを使用してもよい。一般に系統内のノード110の数は膨大であり、その中の代表的なノード110を選択してパターンを作成する方が現実的である。以下では、N個のノードのうちn個のノードを選択してパターンを生成する場合について述べる。
【0037】
パターン生成部3は、n個のノード110におけるM個の個別実績データから、i番目のノード110の状態の平均値μと分散Vを計算しておく。そして、パターン生成部3は、平均μと分散Vを用いて各乱数の標準偏差が1及び平均が0になるように変数変換することで、乱数行列を正規化する(平均を引いてから標準偏差で割って規格化する)。このようにして、パターン生成部3は、正規乱数行列Gを得る。
【0038】
この段階では各ノード110の乱数の組は相関がなく互いに独立である。この結果、L行n列(L×n個)の成分を持つ乱数行列が得られる。そこで、パターン生成部3は、ノード110間の相関を考慮するための分散共分散行列Σを更に計算する。そして、パターン生成部3は、正規乱数行列Gに分散共分散行列Σを加味することで、各ノード110の相関関係を反映させ、系統状態パターン8である乱数行列G”を得る。
【0039】
まず、パターン生成部3は、ノード110間の共分散を計算する。これはノードiのM個の個別実績データとノードjのM個の個別実績データの共分散Vi,jを計算する。この場合、n個のノードから重複を許さず2個の組を選ぶ組み合わせの数であるn×(n-1)/2個の共分散を得る。
【0040】
パターン生成部3は、先に計算した分散Vと共分散Vi,jから以下数式(5)で示される分散共分散行列Σを生成する。行列式中、var(x)はi番目のノード110のM個の計測値xの分散を表し、cov(x,x)は、i番目のノード110のM個の計測値xとj番目のノード110のM個の計測値xの共分散を表す。
【0041】
(数5)
【0042】
そして、パターン生成部3は、分散共分散行列Σを規格化することでn×nの相関係数行列Rを得て、相関係数行列Rをコレスキー分解し、以下数式(6)のように上三角行列Tと下三角行列Tに分解する。
【0043】
(数6)
R=T …(6)
【0044】
その後、パターン生成部3は、以下数式(7)のように、正規乱数行列Gに上三角行列Tを右から掛けることにより、相関を持った正規乱数行列G’を生成する。
【0045】
(数7)
G’=GT …(7)
【0046】
更に、パターン生成部3は、以下数式(8)のように、標準偏差行列Sを右から掛け、平均値行列Aを加えることで、最終的に求める平均及び分散及び相関を持った乱数行列G”を得る。
【0047】
(数8)
G”=G’S+A …(8)
【0048】
上記数式(7)において、標準偏差行列Sは、各ノード110の標準偏差を対角線上におき、他の成分が0であるn行n列(n×n)の行列である。平均値行列Aは、平均値ベクトルμをL行並べたL行n列(L×n)の行列である。
【0049】
この乱数行列G”が系統状態パターン8であり、L個の各行ベクトル(1行n列)がノード110の推定値である系統状態の個別パターンに相当する。なお、ノード110の数が大きい場合や、ノード110の計測値xの相関が強い場合などは、数値計算上の問題として桁落ちによる誤差が大きくなり相関係数行列Rのコレスキー分解が困難な場合がある。この場合には、必要に応じて固有値分解や特異値分解を用いればよい。
【0050】
図13の(a)は、系統状態パターン8を示すグラフであり、(b)は、系統状態パターン8の頻度分布を示すグラフであり、(c)は、信頼区間を示すグラフである。図13に示すように、系統状態パターン8は、各ノード100で図7の系統実績データ7と同じ平均値、同じ標準偏差となり、かつ同じ確率分布で分布し、さらに、各ノード100間の相関も一致していることがわかる。また、図13の(c)の信頼区間を用いることによって系統状態を高精度にパターン化して確率的に推定することができることがわかる。しかも、図13の(b)に示すように、系統状態の実際と同じように、一定の範囲に収まって、正規分布のように無限に裾が広がらず、また電力需要や自然エネルギー出力のパターンを反映して特別な分布が再現されている。
【0051】
この系統状態パターン8を用いて、パターン選択部4は、電力系統の系統状態、即ち各ノード110の状態に相当する1個の個別パターンを得る。ここで、電力系統の系統状態を推定する対象日時において、p個のノード110で計測値xが得られたものとする。パターン選択部4は、このp個のノード110の計測値xのパターンと類似する系統状態パターン8を選択する。
【0052】
類似の基準としては各種の方法を用いることができるが、例えば、パターン選択部4は、以下数式(9)で定義される非類似度が小さな方から予め定められたパターン数だけ選択する。
【0053】
(数9)
【0054】
はi番目のノードの計測値であり、xj,iはj番目の系統状態パターン8におけるi番目のノードの推定値である。また、wはi番目のノードに対する重み係数である。各個別パターンは同じ確率で実現するとみなせるため、非類似度が一定値以内の選択された個別パターンの分布から確率分布や信頼区間を評価することができる。
【0055】
以上のような電力系統状態推定方法を実行する電力系統状態推定装置1の更なる詳細構成を説明する。電力系統状態推定装置1は、所謂コンピュータで構成され、CPUやMPUとも呼ばれるプロセッサ、RAMとも呼ばれるメモリ及びHDDやSSD等のストレージを備える。ストレージには、電力系統状態推定プログラムが記憶されており、この電力系統推定プログラムをメモリ上に展開し、プロセッサで適宜命令を解読して実行する。
【0056】
(構成)
図14は、この電力系統状態推定プログラムによって機能する電力系統状態推定装置1の詳細構成を示すブロック図である。図14に示すように、電力系統状態推定プログラムは、プロセッサが実行可能なオブジェクトコード又は機械語命令により記述されており、電力系統状態推定装置1となるコンピュータを、記憶部2、パターン生成部3及びパターン選択部4として機能させ、電力系統状態推定方法を実行させる。
【0057】
また、電力系統状態推定プログラムは、電力系統状態推定装置1となるコンピュータをパターン生成部3において、頻度分布生成部31、乱数発生部32、平均・分散計算部33、乱数行列生成部34、共分散計算部35、相関係数行列生成部36及び乱数変換部37として機能させ、系統状態パターン8の生成方法を実行させる。
【0058】
この電力系統状態推定プログラムは、SDカード、USBメモリ、CD-ROM、DVD-ROM又はブルーレイディスク等の可搬記憶媒体に記憶されている。電力系統状態推定装置1は、これら可搬記憶媒体を読み取り可能なドライブを更に備え、ストレージに電力系統状態推定プログラムをインストールしている。また、電力系統状態推定装置1は、無線や有線を介してインターネットやLAN等のネットワーク内のコンピュータと通信をする通信回路を備えており、ネットワーク上の記憶媒体となって電力系統状態推定プログラムを記憶したコンピュータから電力系統状態推定プログラムをダウンロードしてストレージにインストールするようにしてもよい。
【0059】
記憶媒体に格納されている電力系統状態推定プログラムは、様々なソースコードプログラム言語で書き込まれ、次いでストレージにインストールされる際には、プロセッサに相応しい実行可能機械コード若しくは命令にコンパイル又はアセンブルされ、若しくはインタプリタにより実行され、オペレーティングシステムに組み込まれてもよい。
【0060】
頻度分布生成部31は主にプロセッサを含み構成され、系統実績データ7からノード110の個別実績データを抽出し、計測値xがXからXk+1の間にある頻度Fを計算しておく。乱数発生部32は主にプロセッサを含み構成され、頻度分布生成部31が計算した頻度Fと上記数式(4)の確率密度分布を用いて、系統実績データ7と近似的に同じ平均値、同じ分散及び同じ分布の乱数を発生させる。
【0061】
平均・分散計算部33は、主にプロセッサを含み構成され、各ノード110の状態の平均値μと分散Vを計算する。乱数行列生成部34は、主にプロセッサを含み構成され、平均・分散計算部33の平均値μと分散Vを用いて、乱数発生部32の乱数を正規化し、正規乱数行列Gを得る。
【0062】
共分散計算部35は、主にプロセッサを含み構成され、各ノード110間の共分散Vi,jを計算する。相関係数行列生成部36は、主にプロセッサを含み構成され、平均・分散計算部33の分散Vと共分散計算部35の共分散Vi,jとを用いて分散共分散行列Σを生成し、分散共分散行列Σを規格化して相関係数行列Rを得る。
【0063】
乱数変換部37は、主にプロセッサを含み構成され、乱数行列生成部34の正規乱数行列Gを相関係数行列生成部36の相関係数行列Rを用いて、上記数式(6)乃至(8)に倣って変換し、系統状態パターン8である乱数行列G”を得る。
【0064】
パターン選択部4は、主にプロセッサを含み構成され、キーボードやマウス等の操作部、又は通信回線を介して入力されてきたp個のノード110の計測値xが作り出すパターンと類似する系統状態パターン8を上記数式(9)の非類似度関数Is(j)に従って所定数選択する。
【0065】
この電力系統状態推定装置1は、更に確率分布計算部38と結果記憶部39をそなえるようにしてもよい。確率分布計算部38は、主にプロセッサを含み構成され、系統状態パターン8の頻度分布のデータ、及び信頼区間のデータを生成し、パターン選択部6が選択した系統状態パターン8の発生確率を計算する。即ち、電力系統状態推定装置1は、推定される系統状態パターン5を発生確率がわかる要素と共に提示できる。
【0066】
結果記憶部39は、主にストレージを含み構成され、パターン選択部6が選択した系統状態パターン8、パターン、確率分布計算部38の各種計算結果を記憶する。この結果記憶部39内のデータは、例えば表示ディスプレイに表示させたり、プリンタに出力させたり、ネットワーク内の他のコンピュータへ送信するようにしてもよい。
【0067】
図15は、このような電力系統状態推定装置1の動作を示すフローチャートである。電力系統状態推定装置1の動作が開始されると、記憶部2から系統実績データ7が読み出される(ステップS01)。
【0068】
次いで、頻度分布生成部31は、推定対象の時刻と一致する時刻及びノード110別の個別実績データを抽出し、計測値xが各区間の頻度Fをノード110別に計算する(ステップS02)。乱数発生部32は、ノード110別の頻度Fと上記数式(4)の確率密度分布関数xを用いて、各ノード110の状態を示す乱数を発生させる(ステップS03)。
【0069】
平均・分散計算部33は、推定対象の時刻と一致する時刻及びノード110別の個別実績データを抽出し、各ノード110の状態の平均値μと分散Vを計算する(ステップS04)。乱数行列生成部34は、平均値μと分散Vを用いて、発生させた乱数を正規化し、正規乱数行列Gを得る(ステップS05)。
【0070】
共分散計算部35は、推定対象の時刻と一致する時刻の系統実績データ7を読み出し、各ノード110間の共分散Vi,jを計算する(ステップS06)。相関係数行列生成部36は、分散Vと共分散Vi,jとを用いて分散共分散行列Σを生成し(ステップS07)、分散共分散行列Σを規格化して相関係数行列Rを得る(ステップS08)。
【0071】
乱数変換部37は、正規乱数行列Gを相関係数行列Rを用いて、上記数式(6)乃至(8)に倣って変換し、系統状態パターン8である乱数行列G”を得る(ステップS09)。
【0072】
パターン選択部4は、上記数式(9)の非類似度関数Is(j)に従って、系統状態パターン8から、推定対象の時刻で計測されたp個のノード110の計測値xが作り出す実測パターン91と類似する選択パターン92を所定数選択する(ステップS10)。確率分布計算部38は、系統状態パターン8の頻度分布のデータ、及び信頼区間のデータを生成し、パターン選択部6が選択した選択パターン92の発生確率を計算する(ステップS11)。
【0073】
(効果)
以上のように、電力系統状態推定方法は、各地点の状態を示す系統状態パターン8を多数生成するパターン生成ステップと、電力系統の一箇所以上から現在又は将来の計測値を収集する計測ステップと、現在又は将来の計測値のパターンと類似する系統状態パターン8を選択する選択ステップとを備えるようにした。パターン生成ステップでは、電力系統の二箇所以上のN地点における複数日時の過去の計測値である系統実績データに基づき、各地点の計測値の相関に従った乱数を発生させるようにした。
【0074】
この方法を実現する電力系統状態推定装置1は、電力系統の二箇所以上のN地点における複数日時の過去の計測値である系統実績データ7を記憶する記憶部2と、系統実績データ7に基づき、各地点の計測値の相関に従った乱数を発生させて、各地点の状態を示す系統状態パターン8を多数生成するパターン生成部3と、電力系統の一箇所以上の地点の現在又は将来の計測値のパターンと類似する系統状態パターン8を選択するパターン選択部4とを備えるようにした。
【0075】
これにより、系統状態パターン8の作成後は、多数の計測装置が電力系統になくとも、また分散電源による不確実性があっても、現在又は将来の計測値が最低一個あれば電力系統の推定でき、低コストで電力系統の状態推定が可能となる。
【0076】
また、パターン生成ステップは、乱数発生ステップと相関係数行列生成ステップと乱数変換ステップとを含むようにした。乱数発生ステップでは、系統実績データ7に基づく地点の頻度分布が反映された各地点の確率密度分布から、地点毎に乱数を発生させる。相関係数行列生成ステップでは、各地点の計測値から分散共分散行列を作成する。乱数変換ステップでは、分散共分散行列に基づいて、地点毎の前記乱数をまとめた電力系統の乱数行列を、互いに相関を有する乱数行列に変換する。
【0077】
この方法を実現する電力系統状態推定装置1のパターン生成部3は、系統実績データ7に基づく地点の頻度分布が反映された各地点の確率密度分布から、地点毎に乱数を発生させる乱数発生部32と、各地点の計測値から分散共分散行列を作成する相関係数行列生成部36と、分散共分散行列に基づいて、地点毎の乱数をまとめた電力系統の乱数行列を、互いに相関を有する乱数行列に変換する乱数変換部37とを含むようにした。
【0078】
これにより、正規分布のように無限に裾が拡がらずに一定の範囲に収まるという電力系統の状態の特性、電力需要や自然エネルギー等の分散電源のパターンを反映した特別な分布を反映させて、系統状態パターン8を作成でき、このような電力系統で高精度な状態推定が可能となる。
【0079】
また、選択ステップでは、系統状態パターン8と各地点の現在又は将来の計測値との差の合計が小さくなる、系統状態パターン8を選択するようにした。系統状態パターン8は同じ確率で実現するとみなせるため、これにより、選択した系統状態パターン8の分布から確率分布や信頼区間を評価することができる。即ち、系統状態パターン8の頻度分布、信頼区間又は両方を生成して実現確率を示す確率分布計算ステップを備えるようにできる。
【0080】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態の電力系統状態推定方法及び装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。第1の実施形態と同一構成又は同一機能については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0081】
この電力系統状態推定装置1のパターン選択部4は、計測値xに規定の誤差を含めた一定の範囲を計算し、その範囲に包含される系統状態パターン5を選択する。規定の誤差は、状態の確率密度分布に倣えばよい。
【0082】
図16は、このパターン選択部4による選択を示す系統状態パターン5のグラフである。図16に示すように、電力系統はノードA、ノードB及びノードCの各母線より構成されているものとする。ノードAとノードCの2箇所で計測値xが得られている場合、パターン選択部4は、ノードAにおける誤差を含めた範囲に含まれる系統状態パターン5と、ノードBにおける誤差を含めた範囲に含まれる系統状態パターン5とに共通する系統状態パターン5を選択する。ノードAとノードBにおける誤差を含めた範囲に含まれる共通の系統状態パターン5がない場合には、上記数式(9)で定義される非類似度が小さな方から予め定められたパターン数だけ選択する。
【0083】
そして、確率分布計算部38が、系統状態パターン8の頻度分布のデータ、及び信頼区間のデータを生成し、パターン選択部6が選択した系統状態パターン8の発生確率を計算することで、電力系統状態推定装置1は、推定される系統状態パターン5を発生確率がわかる要素と共に提示できる。
【0084】
以上のように、選択ステップでは、各地点の現在又は将来の計測値に誤差を加えた範囲に共通に収まる系統状態パターンを選択するようにした。これにより、系統状態パターン8は同じ確率で実現するとみなせるため、選択した系統状態パターン8の分布から確率分布や信頼区間を簡単に評価できる。即ち、系統状態パターン8の頻度分布、信頼区間又は両方を生成して実現確率を示す確率分布計算ステップを備えるようにできる。
【0085】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態の電力系統状態推定方法及び装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。第1又は第2の実施形態と同一構成又は同一機能については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0086】
この電力系統状態推定装置1のパターン生成部3が実行する系統状態パターン5の作製方法について説明する。このパターン生成部3は、乱数を発生させるための確率密度分布を正規分布としている。即ち、i番目のノード110の状態は平均μ及び分散Vの正規分布に従って発生する。
【0087】
この場合、n個のノード110の状態を同時に予測するために、n次元の確率変数x=(x,x,x,・・・x)がn次元の正規分布に従う場合、xが満たす確率密度関数は、xの期待値ベクトルμ=(μ,μ,μ・・・μ)を用いて以下数式(10)のように表される。
【0088】
(数10)
【0089】
上記数式(10)において、Tは転置べクトルを示し、Σは上記数式(5)の分散共分散行列であり、Σ-1はΣの逆行列を示す。パターン生成部3は、この確率密度関数に従う乱数を発生させて系統状態パターン8とする。即ち、このパターン生成部3は、図17に示すように、上記数式(10)の演算により系統状態パターン8を生成する乱数発生部32と、乱数生成部32に対して分散共分散行列Σを提供するための平均・分散計算部33と共分散計算部35を備えている。
【0090】
以上のように、パターン生成ステップでは、各地点の計測値から分散共分散行列を含んでn次元の正規分布に従った確率密度分布から、前記乱数を発生させるようにした。この方法を実現する電力系統状態推定装置1のパターン生成部3は、各地点の計測値から分散共分散行列を含んでN次元の正規分布に従った確率密度分布から、乱数を発生させるようにした。このように、N次元の正規分布に従う確率密度分布によっても、最低1個の計測値から電力系統の状態を推定でき、低コスト化を達成できる。
【0091】
尚、乱数を発生させるための確率密度分布を正規分布に限る必要はなく、例えば、指数分布、ポアソン分布、対数正規分布やワイブル分布などを用いることもできる。尖度や歪度など分布を特徴づけるパラメータを用いることもできる。
【0092】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態の電力系統状態推定方法及び装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。第1乃至第3の実施形態と同一構成又は同一機能については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0093】
電力系統状態推定装置1は、計測値xが示すパターンに類似した系統状態パターン8を導き出し、この系統状態パターン8が発生する確率を頻度分布や信頼区間、更には標準偏差等の統計的な計算によって定量的に評価できるようにした。導き出された系統状態パターン8を確率的に把握することは、換言すれば電力系統の状態の不確実性を把握することになる。不確実性は電力系統の安定性や停電確率等に影響し、この電力系統推定装置1は、電力系統の安定性や停電リスクを確率的に評価でき、電力系統のリスク管理にも有益となる。
【0094】
そこで、電力系統状態推定装置1は、図18に示すように、潮流計算部5とパラメータ決定部6を備えている。潮流計算部5は、主にプロセッサを含み構成され、電力系統内の線路のインピーダンスや開閉器の状態などの系統パラメータを変更し、系統パラメータが変更された場合の電力系統の状態の評価対象93を潮流計算によって算出する。
【0095】
パラメータ決定部6は、潮流計算部5が計算した評価対象93と、各系統状態パターン8とを比較して、系統パラメータを変更した場合の電力系統の状態の安定度や停電確率などの各種リスクを評価する。パラメータ決定部6は評価によって最適な系統パラメータを決定する。
【0096】
即ち、この電力系統状態推定方法では、更に、系統のパラメータを変更して潮流計算を行い、系統のパラメータが変更された系統状態を算出する潮流計算ステップと、潮流計算ステップによる系統状態と系統状態パターンとを比較して、系統のパラメータの最適値を決定する決定ステップを備える。これにより、線路のインピーダンスや開閉器の状態などの系統パラメータを変更して各パターンの安定度や停電確率など各種リスクを評価でき、より効果的な系統運用が可能となる。
【0097】
(他の実施形態)
以上のように、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1 電力系統状態推定装置
2 記憶部
3 パターン生成部
31 頻度分布生成部
32 乱数発生部
33 平均・分散計算部
34 乱数行列生成部
35 共分散計算部
36 相関係数行列生成部
37 乱数変換部
38 確率分布計算部
39 結果記憶部
4 パターン選択部
5 潮流計算部
6 パラメータ決定部
7 系統実績データ
8 系統状態パターン
91 実測パターン
92 選択パターン
93 評価対象
110 ノード
120 線路
130 自然エネルギー発電設備
140 負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18