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特許7443224設計支援方法、設計支援システム、プログラム、及び記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】設計支援方法、設計支援システム、プログラム、及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/36 20200101AFI20240227BHJP
   G06F 30/398 20200101ALI20240227BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20240227BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20240227BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240227BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240227BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
G06F30/36
G06F30/398
H01L27/04 Z
H01L29/78 652P
H01L29/78 658A
H01L29/78 658L
H01L29/78 653C
H01L29/78 652M
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020201947
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089507
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】雁木 比呂
(72)【発明者】
【氏名】田口 安則
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-019181(JP,A)
【文献】特開2012-242986(JP,A)
【文献】特開2020-184123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
H01L 21/822
H01L 29/06
H01L 21/336
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子に関する複数の設計値を含む設計値群をシミュレータに入力し、
前記設計値群の入力に応じて前記シミュレータから出力される特性値群を取得し、前記特性値群は前記半導体素子の複数の特性値を含み、前記複数の特性値はオン抵抗を示す第1特性値及び耐圧を示す第2特性値を含み、
前記特性値群の一部の第1関数への入力により算出されるスコアと、前記設計値群と、のデータセットを1つ以上含む履歴データから、ベイズ推定による獲得関数を算出し、前記特性値群の前記一部は前記第1特性値及び前記第2特性値を含み、
前記獲得関数に基づいて新たな前記設計値群を生成する、
設計支援方法。
【請求項2】
前記設計値群の前記シミュレータへの入力、前記特性値群の取得、前記獲得関数の算出、及び前記新たな設計値群の生成を含む処理セットを繰り返し実行する、請求項1記載の設計支援方法。
【請求項3】
複数の前記処理セットは、第1処理セット及び第2処理セットを含み、
前記第1処理セットでは、
前記複数の設計値の一部が、前記獲得関数に基づいて算出され、
前記複数の設計値の前記一部と、固定された残りの前記設計値と、を含む前記新たな設計値群が生成され、
前記第2処理セットでは、
前記複数の設計値の別の一部が、前記獲得関数に基づいて算出され、
前記複数の設計値の前記別の一部と、固定された残りの前記設計値と、を含む前記新たな設計値群が生成される、
請求項2記載の設計支援方法。
【請求項4】
複数の前記第1処理セット及び複数の前記第2処理セットが実行される、請求項3記載の設計支援方法。
【請求項5】
前記第1処理セットの実行回数は、前記第2処理セットの実行回数よりも多い、請求項4記載の設計支援方法。
【請求項6】
前記複数の設計値の前記一部は、前記半導体素子の半導体層における不純物濃度を示す第1設計値を含む、請求項5記載の設計支援方法。
【請求項7】
前記スコアが基準値に達すると、前記複数の設計値の少なくとも一部が採り得る範囲を縮小する、請求項3~6のいずれか1つに記載の設計支援方法。
【請求項8】
前記第2処理セットは、前記第1処理セットの後に実行され、
前記複数の設計値の前記別の一部に含まれる前記設計値の数は、前記複数の設計値の前記一部に含まれる前記設計値の数よりも多い、請求項3~7のいずれか1つに記載の設計支援方法。
【請求項9】
前記第1処理セットは、前記スコアが基準値を達成する前に実行され、
前記第2処理セットは、前記スコアが基準値を達成した後に実行される、請求項8記載の設計支援方法。
【請求項10】
前記複数の設計値の前記一部は、複数の設計項目の一部の値をそれぞれ示し、
前記複数の設計値の前記別の一部は、前記複数の設計項目の別の一部の値をそれぞれ示し、
前記複数の設計項目の前記一部が抽出された後に、前記第1処理セットが実行され、
前記複数の設計項目の前記別の一部が抽出された後に、前記第2処理セットが実行され、
前記複数の設計項目の前記一部が抽出される確率は、前記複数の設計項目の前記別の一部が抽出される確率よりも高い、請求項3記載の設計支援方法。
【請求項11】
前記複数の設計値の前記一部は、前記半導体素子の半導体層における不純物濃度を示す第1設計値を含む、請求項10記載の設計支援方法。
【請求項12】
前記第1処理セットにおいて、前記複数の設計値の前記一部に含まれる前記設計値の数は、1であり、
前記第2処理セットにおいて、前記複数の設計値の前記別の一部に含まれる前記設計値の数は、1である、請求項3記載の設計支援方法。
【請求項13】
前記処理セットの実行回数と、それぞれの前記処理セットの実行時における前記スコアと、を出力する、請求項2~12のいずれか1つに記載の設計支援方法。
【請求項14】
前記設計値群は、前記半導体素子の半導体層における不純物濃度、前記半導体層の厚さ、及び前記半導体素子のゲート電極のピッチからなる群より選択された少なくとも1つの前記設計値を含む、請求項1~13のいずれか1つに記載の設計支援方法。
【請求項15】
前記特性値群は、スイッチング電荷、ゲート蓄積電荷、出力電荷、ゲートドレイン間蓄積電荷、ゲートソース間蓄積電荷、チャネル、及び閾値電圧からなる群より選択された少なくとも1つの前記特性値をさらに含む、請求項1~14のいずれか1つに記載の設計支援方法。
【請求項16】
半導体素子に関する複数の設計値を含む設計値群をシミュレータに入力し、
前記設計値群の入力に応じて前記シミュレータから出力される特性値群を取得し、前記特性値群は前記半導体素子の複数の特性値を含み、前記複数の特性値はオン抵抗を示す第1特性値及び耐圧を示す第2特性値を含み、
前記特性値群の一部の第1関数への入力により算出されるスコアと、前記設計値群と、のデータセットを1つ以上含む履歴データから、ベイズ推定による獲得関数を算出し、前記特性値群の前記一部は前記第1特性値及び前記第2特性値を含み、
前記獲得関数に基づいて新たな前記設計値群を生成する、
処理装置を備えた設計支援システム。
【請求項17】
前記処理装置は、前記設計値群の前記シミュレータへの入力、前記特性値群の取得、前記獲得関数の算出、及び前記新たな設計値群の生成を含む処理セットを繰り返し実行する、請求項16記載の設計支援システム。
【請求項18】
処理装置に、
半導体素子に関する複数の設計値を含む設計値群をシミュレータに入力させ、
前記設計値群の入力に応じて前記シミュレータから出力される特性値群を取得させ、前記特性値群は前記半導体素子の複数の特性値を含み、前記複数の特性値はオン抵抗を示す第1特性値及び耐圧を示す第2特性値を含み、
前記特性値群の一部の第1関数への入力により算出されるスコアと、前記設計値群と、のデータセットを1つ以上含む履歴データから、ベイズ推定による獲得関数を算出させ、前記特性値群の前記一部は前記第1特性値及び前記第2特性値を含み、
前記獲得関数に基づいて新たな前記設計値群を生成させる、
プログラム。
【請求項19】
前記処理装置に、前記設計値群の前記シミュレータへの入力、前記特性値群の取得、前記獲得関数の算出、及び前記新たな設計値群の生成を含む処理セットを繰り返し実行させる、請求項18記載のプログラム。
【請求項20】
請求項18又は19に記載のプログラムを記憶した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、設計支援方法、設計支援システム、プログラム、及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子について、設計を支援できる技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Synopsys社TCAD Optimizer User Guide L-2016.03
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、半導体素子の設計を支援可能な、設計支援方法、設計支援システム、プログラム、及び記憶媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る設計方法では、半導体素子に関する複数の設計値を含む設計値群をシミュレータに入力する。前記設計方法では、前記設計値群の入力に応じて前記シミュレータから出力される特性値群を取得する。前記特性値群は、前記半導体素子の複数の特性値を含む。前記複数の特性値は、オン抵抗を示す第1特性値及び耐圧を示す第2特性値を含む。前記設計方法では、前記特性値群の一部の第1関数への入力により算出されるスコアと、前記設計値群と、のデータセットを1つ以上含む履歴データから、ベイズ推定による獲得関数を算出する。前記特性値群の前記一部は、前記第1特性値及び前記第2特性値を含む。前記設計方法では、前記獲得関数に基づいて新たな前記設計値群を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係る設計支援システムの機能構成を表すブロック図である。
図2図2は、実施形態に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
図3図3は、ハードウェア構成を例示する模式図である。
図4図4は、実施形態に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
図5図5は、半導体素子の構造を例示する模式的断面図である。
図6図6は、設計項目を例示する表である。
図7図7は、設計項目と半導体素子との対応を示す模式図である。
図8図8は、特性項目を例示する表である。
図9図9は、別の半導体素子の構造を例示する模式的断面図である。
図10図10は、実施形態の第1変形例に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
図11図11は、実施形態及び第1変形例に係る設計支援方法による結果を例示するグラフである。
図12図12(a)~図12(c)は、第1変形例に係る設計支援システムによる出力例である。
図13図13は、第1変形例に係る設計支援システムによる出力例である。
図14図14(a)及び図14(b)は、第1変形例に係る設計支援システムによる出力例である。
図15図15は、実施形態の第2変形例に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
図16図16は、実施形態の第3変形例に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。本願明細書と各図において、既に説明したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
図1は、実施形態に係る設計支援システムの機能構成を表すブロック図である。
実施形態に係る設計支援システム1は、半導体素子に関する1つ以上の設計項目の設計値を探索するために用いられる。設計支援システム1は、シミュレータ30を用いて、設計値を探索する。
【0009】
図1に示すように、設計支援システム1は、抽出部10、スコア算出部11、ベイズ推定部12、獲得関数算出部13、設計値算出部14、ファイル生成部15、命令生成部16、入力部17、出力部18、及び記憶部20を含む。
【0010】
シミュレータ30は、半導体素子に関する設計値群の入力を受け付ける。設計値群は、複数の設計項目の値をそれぞれ示す複数の設計値を含む。設計支援システム1による対象の半導体素子は、例えば、Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor(MOSFET)、Insulated Gate Bipolar Transistor(IGBT)、ダイオードなどである。設計支援システム1は、電力の制御及び供給を行うパワー半導体素子に、特に好適である。複数の設計項目は、各半導体層の不純物濃度、各半導体層の厚さ、その他の要素の寸法などである。
【0011】
シミュレータ30は、設計値群の入力に応じて、特性値群を出力する。特性値群は、複数の特性項目の値をそれぞれ示す複数の特性値を含む。複数の特性項目は、オン抵抗、耐圧、スイッチング電荷などである。シミュレータ30により、入力された設計値群が実際に半導体素子に適用されたときに、どのような特性値群が得られるかを確かめることができる。
【0012】
抽出部10は、シミュレータ30から特性値群が出力されると、特性値群から一部の特性値を抽出する。抽出部10は、抽出された一部の特性値をスコア算出部11に送信する。
【0013】
スコア算出部11は、記憶部20にアクセスし、第1関数を取得する。スコア算出部11は、第1関数に前記一部の特性値を入力し、スコアを算出する。第1関数は、特性値からスコアを算出するための関数であり、ユーザにより予め設定される。スコア算出部11は、算出されたスコアを、第1関数に入力した特性値を含む特性値群と、その特性値群の基となった設計値群と、に紐付けて記憶部20に保存する。
【0014】
記憶部20は、履歴データを保存する。履歴データは、1つ以上のデータセットを含む。それぞれのデータセットは、設計値群とスコアの組み合わせを含む。記憶部20に新たなデータセットが保存されると、ベイズ推定部12は、記憶部20にアクセスし、それまでに得られた履歴データを取得する。ベイズ推定部12は、履歴データから、スコアの代理モデルを推定し、獲得関数算出部13に送る。獲得関数算出部13は、スコアの代理モデルから、獲得関数を算出する。獲得関数算出部13は、獲得関数を設計値算出部14に送る。
【0015】
設計値算出部14は、獲得関数に基づいて、新たな設計値を算出する。設計値算出部14は、記憶部20に算出した設計値を保存するとともに、ファイル生成部15に算出した設計値を送る。
【0016】
ファイル生成部15は、シミュレータ30に入力するためのファイルを生成する。ファイルは、設計値群のデータを含む。例えば、設計値算出部14が算出する新たな設計値の数は、設計値群に含まれる設計値の数と同じである。この場合、設計値算出部14によって、新たな設計値群が生成される。設計値算出部14が算出する新たな設計値の数は、設計値群に含まれる設計値の数より少なくても良い。算出される新たな設計値の数が設計値群に含まれる設計値の数より少ない場合、ファイル生成部15は、不足している設計値を適宜追加する。この場合、ファイル生成部15によって、新たな設計値群が生成される。ファイル生成部15は、シミュレータ30に設計値群を入力する。
【0017】
命令生成部16は、シミュレータ30にシミュレーションを実行させるための実行命令を生成する。命令生成部16は、所定のタイミングでシミュレータ30に実行命令を送る。
【0018】
シミュレータ30は、ファイル生成部15から入力された設計値群を用いて、シミュレーションを実行する。シミュレータ30は、シミュレーションの結果得られた新たな特性値群を、抽出部10に出力する。
【0019】
入力部17は、ユーザがデータを入力するために用いられる。ユーザは、入力部17を用いて、設計支援システム1の処理に必要なデータを記憶部20に保存する。
【0020】
出力部18は、設計値、特性値、及びスコアからなる群より選択される少なくとも1つを示すデータを、ユーザに向けて出力する。例えば、出力部18は、設計値群の入力、特性値群の取得、スコアの算出、及び新たな設計値群の生成を含む処理セットの繰り返し回数と、特性値と、の関係を表示する。以降では、処理セットを「試行」とも呼ぶ。出力部18は、試行が繰り返し実行された後の設計値群を反映した、半導体素子の構造図を表示しても良い。
【0021】
図2は、実施形態に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
図2に示す設計支援方法DMにおいて、ファイル生成部15は、設計値群をシミュレータ30に入力する(ステップS1)。抽出部10は、特性値群を取得する(ステップS2)。スコア算出部11は、特性値群の一部を第1関数へ入力し、スコアを算出する。ベイズ推定部12は、設計値群とスコアのデータセットを1つ以上含む履歴データから、ベイズ推定によるスコアの代理モデルを推定する。獲得関数算出部13は、スコアの代理モデルから、獲得関数を算出する(ステップS3)。設計値算出部14は、獲得関数に基づいて新たな設計値群を生成する(ステップS4)。
【0022】
ステップS1~S4を含む試行が繰り返されることで、半導体素子の設計値が探索される。
【0023】
図3は、ハードウェア構成を例示する模式図である。
実施形態に係る設計支援システム1は、図3に示すハードウェア構成により実現可能である。図3に示す処理装置90は、CPU91、ROM92、RAM93、記憶装置94、入力インタフェース95、出力インタフェース96、及び通信インタフェース97を含む。
【0024】
ROM92は、コンピュータの動作を制御するプログラムを格納している。ROM92には、上述した各処理をコンピュータに実現させるために必要なプログラムが格納されている。RAM93は、ROM92に格納されたプログラムが展開される記憶領域として機能する。
【0025】
CPU91は、処理回路を含む。CPU91は、RAM93をワークメモリとして、ROM92又は記憶装置94の少なくともいずれかに記憶されたプログラムを実行する。プログラムの実行中、CPU91は、システムバス98を介して各構成を制御し、種々の処理を実行する。
【0026】
記憶装置94は、プログラムの実行に必要なデータや、プログラムの実行によって得られたデータを記憶する。
【0027】
入力インタフェース(I/F)95は、処理装置90と入力装置95aとを接続する。入力I/F95は、例えば、USB等のシリアルバスインタフェースである。CPU91は、入力I/F95を介して、入力装置95aから各種データを読み込むことができる。
【0028】
出力インタフェース(I/F)96は、処理装置90と出力装置96aとを接続する。出力I/F96は、例えば、Digital Visual Interface(DVI)やHigh-Definition Multimedia Interface(HDMI:登録商標)等の映像出力インタフェースである。CPU91は、出力I/F96を介して、出力装置96aにデータを送信する。出力装置96aは、データを出力する。
【0029】
通信インタフェース(I/F)97は、処理装置90外部のサーバ97aと、処理装置90と、を接続する。通信I/F97は、例えば、LANカード等のネットワークカードである。CPU91は、通信I/F97を介して、サーバ97aから各種データを読み込むことができる。
【0030】
記憶装置94は、Hard Disk Drive(HDD)及びSolid State Drive(SSD)から選択される1つ以上を含む。入力装置95aは、マウス、キーボード、マイク(音声入力)、及びタッチパッドから選択される1つ以上を含む。出力装置96aは、モニタ、プリンタ、スピーカ、及びプロジェクタから選択される1つ以上を含む。タッチパネルのように、入力装置95aと出力装置96aの両方の機能を備えた機器が用いられても良い。
【0031】
例えば、処理装置90は、図1に示した抽出部10、スコア算出部11、ベイズ推定部12、獲得関数算出部13、設計値算出部14、ファイル生成部15、及び命令生成部16として機能する。記憶装置94は、記憶部20として機能する。入力装置95aは、入力部17として機能する。出力装置96aは、出力部18として機能する。
【0032】
シミュレータ30としては、Synopsys社製のTechnology Computer-Aided Design(TCAD)、又はSILVACO社製のTCADを用いることができる。例えば、Synopsys社製のTCADについては、Sentaurus ProcessのソフトウェアとSentaurus Deviceのソフトウェアとを組み合わせて用いることができる。SILVACO社製のTCADについては、AthenaのソフトウェアとAtlasのソフトウェアとを組み合わせて用いることができる。
【0033】
実施形態の利点を説明する。
例えば、半導体素子の設計値は、人がシミュレータを用いて試行錯誤しながら決定される。しかし、半導体素子は多くの設計項目を含み、人への負担が大きい。さらに、半導体素子の特性、特に、オン抵抗及び耐圧は、種々の設計項目の影響により変動する。このため、入力した設計値に対する特性値を評価し、次の設計値を決定するためには、専門的な知識及び経験が必要である。人によって、設計値に対する特性値の評価にばらつきも生じる。
【0034】
実施形態によれば、シミュレータ30への設計値群の入力、シミュレータ30からの特性値群の取得、評価、及び新たな設計値群の生成が、自動的に繰り返される。このため、人の負担を軽減できる。専門的な知識及び経験を必要とせず、特性値の評価のばらつきも抑制できる。
【0035】
実施形態によれば、新たな設計値群は、ベイズ推定による獲得関数に基づいて生成される。ベイズ推定が多数の設計値を含む半導体素子の設計に適用される場合、応答曲面法又は人による設計に比べて、初期探索に多くの時間が必要となる。しかし、発明者は、ベイズ推定が、半導体素子の設計に特に好適であることを見出した。ベイズ推定は、結果的に、半導体素子の設計値を、より短い時間で、より望ましい値に設定することを可能とする。
【0036】
以降では、具体例を参照して、実施形態に係る設計支援システム1を説明する。
図4は、実施形態に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
図4に示す設計支援方法DM0において、ユーザは、探索する設計項目と、それぞれの設計項目の探索する範囲と、を設定する(ステップS10)。初期サンプリングが実行される(ステップS11)。初期サンプリングでは、設計値算出部14が、設定値群をランダムに設定し、ファイル生成部15が、設定値群をシミュレータ30に入力する。抽出部10は、シミュレータ30が出力した特性値群から、一部の特性値を抽出する。スコア算出部11は、抽出された一部の特性値に基づくスコアを算出する。初期サンプリングでは、設計値群の入力、特性値群の取得、スコアの算出、及び新たな設計値群の生成を含む試行が繰り返される。例えば、初期サンプリングは、10回~30回繰り返される。初期サンプリングの繰り返しにより、設計値群とスコアのデータセットが記憶部20に繰り返し保存される。
【0037】
ベイズ推定部12は、記憶部20に保存された複数のデータセットから、スコアの代理モデルを推定する(ステップS12)。獲得関数算出部13は、スコアの代理モデルから、獲得関数を算出する(ステップS13)。設計値算出部14は、獲得関数に基づいて複数の設計値を算出し、新たな設計値群を生成する(ステップS14)。ファイル生成部15は、設計値群を含むファイルを生成し、シミュレータ30に入力する(ステップS15)。抽出部10は、シミュレータ30から出力された特性値群を取得し(ステップS16)、一部の特性値を抽出する(ステップS17)。スコア算出部11は、抽出された一部の特性値を第1関数に入力し、スコアを算出する(ステップS18)。出力部18は、試行の結果を表示する(ステップS19)。ベイズ推定部12は、終了条件が充足されたか判定する(ステップS20)。終了条件が充足されるまで、ステップS12~S19の試行が繰り返される。終了条件の一例として、ステップS12~S19の繰り返し回数が規定回数に達すること、又はスコアが予め設定された目標値に達すること、が設定される。
【0038】
ステップS14における設計値群の生成、ステップS15における設計値群の入力、ステップS16における特性値群の取得、及びステップS18におけるスコアの算出を含む試行が繰り返される。試行の繰り返しにより、半導体素子に関する好ましい設計値が探索される。
【0039】
図5は、半導体素子の構造を例示する模式的断面図である。
実施形態に係る設計支援システム1により、図5に示す半導体素子100の構造に関する設計値が探索される。半導体素子100は、MOSFETである。
【0040】
半導体素子100は、第1電極101、第2電極102、n形半導体層111、n-形半導体層112、p形半導体層113、n形半導体層114、絶縁層120、フィールドプレート電極(以下、FP電極という)121、及びゲート電極122を含む。各半導体層のp形とn形は、反転されても良い。
【0041】
第1電極101と第2電極102は、互いに離れている。第1電極101から第2電極102に向かう方向をZ方向とする。n形半導体層111は、第1電極101と第2電極102との間に設けられる。n形半導体層111は、第1電極101と電気的に接続される。n-形半導体層112は、n形半導体層111と第2電極102との間に設けられる。n-形半導体層112におけるn形不純物濃度は、n形半導体層111におけるn形不純物濃度よりも低い。p形半導体層113は、n-形半導体層112と第2電極102との間に設けられる。n形半導体層114は、p形半導体層113と第2電極102との間に設けられる。
【0042】
絶縁層120は、Z方向においてn形半導体層111と第2電極102との間に設けられる。絶縁層120は、Z方向に対して垂直なX方向において、n-形半導体層112の一部、p形半導体層113、及びn形半導体層114の一部と並ぶ。FP電極121の周りには、絶縁層120の一部が設けられる。n-形半導体層112の一部からFP電極121への方向は、X方向に沿う。ゲート電極122は、Z方向において、FP電極121と第2電極102との間に設けられる。ゲート電極122の周りには、絶縁層120の別の一部が設けられる。ゲート電極122からp形半導体層113及びn形半導体層114への方向は、X方向に沿う。第2電極102は、p形半導体層113、n形半導体層114、及びFP電極121と電気的に接続され、ゲート電極122とは電気的に分離される。
【0043】
半導体素子100では、FP電極121は、第1部分121a及び第2部分121bを含む。第2部分121bは、第1部分121aとゲート電極122との間に設けられる。第2部分121bの幅(X方向における長さ)は、第1部分121aの幅よりも広い。ゲート電極122は、FP電極121から離れ、FP電極121とは電気的に分離されている。第2電極102は、コンタクト部102aを含む。コンタクト部102aは、p形半導体層113に向けて突出している。
【0044】
第2電極102に対して第1電極101に正の電圧が印加された状態で、ゲート電極122に閾値以上の電圧が印加される。これにより、p形半導体層113にチャネル(反転層)が形成され、半導体素子100がオン状態となる。電子は、チャネルを通って第2電極102から第1電極101へ流れる。ゲート電極122に印加される電圧が閾値よりも低くなると、p形半導体層113におけるチャネルが消滅し、半導体素子100がオフ状態になる。
【0045】
半導体素子100がオフ状態に切り替わると、第2電極102に対して第1電極101に印加される正の電圧が増大する。このとき、絶縁層120とn-形半導体層112との界面からn-形半導体層112に向けて空乏層が広がる。この空乏層の広がりにより、半導体素子100の耐圧を高めることができる。又は、半導体素子100の耐圧を維持しつつ、n-形半導体層112におけるn形不純物濃度を高め、半導体素子100のオン抵抗を低減できる。
【0046】
図6は、設計項目を例示する表である。図7は、設計項目と半導体素子との対応を示す模式図である。
図6の表におけるセルピッチは、ゲート電極122のX方向におけるピッチCP(図7に示す)に対応する。ゲート酸化膜厚は、ゲート絶縁層120aのX方向における厚さT_Gに対応する。ソース深さは、n形半導体層114のZ方向における深さD_Sに対応する。ベース深さは、p形半導体層113とn形半導体層114との境界からp形半導体層113とn-形半導体層112との境界までのZ方向における深さD_Bに対応する。ゲート長は、ゲート電極122のZ方向における長さL_Gに対応する。ゲート深さは、n形半導体層114の上面からゲート電極122の下端までのZ方向における深さD_Gに対応する。ソース濃度は、n形半導体層114におけるn形不純物濃度C_Sに対応する。基板厚さは、n形半導体層111のZ方向における厚さT_Subに対応する。基板濃度は、n形半導体層111におけるn形不純物濃度C_Subに対応する。トレンチ底曲率は、絶縁層120の下端における曲率R_TBに対応する。コンタクト深さは、n形半導体層114の上面からコンタクト部102aの下端までのZ方向における深さD_TCに対応する。コンタクト半幅は、コンタクト部102aの幅の半分W_TCに対応する。ドリフト層厚さは、n-形半導体層112のZ方向における厚さT_Dに対応する。ドリフト層濃度は、n-形半導体層112におけるn形不純物濃度C_Dに対応する。ベース濃度は、p形半導体層113におけるp形不純物濃度C_Bに対応する。トレンチ傾斜角は、絶縁層120の側面とX方向との間の角度Taperに対応する。トレンチ半幅は、絶縁層120の幅の半分W_Tに対応する。ゲート/FP間距離は、FP電極121とゲート電極122との間のZ方向における距離D_GFPに対応する。FP1半幅は、第1部分121aの幅の半分W_FP1に対応する。FP1長は、第1部分121aのZ方向における長さL_FP1に対応する。FP2半幅は、第2部分121bの幅の半分W_FP2に対応する。FP2長は、第2部分121bのZ方向における長さL_FP2に対応する。トレンチ底FP厚は、絶縁層120の下端のZ方向における厚さT_FPに対応する。
【0047】
図8は、特性項目を例示する表である。
図8の表において、オン抵抗RonAは、ゲート電極122に閾値よりも大きな電圧を印加し、半導体素子100がオン状態となったときの単位面積あたりのオン抵抗である。耐圧Vdssは、第2電極102に対するゲート電極122の電圧を0Vに設定したときの半導体素子100の耐圧である。耐圧Vdsxは、第2電極102に対するゲート電極122の電圧を-20Vに設定したときの半導体素子100の耐圧である。スイッチング電荷Qswは、半導体素子100のスイッチング状態において、ゲート電圧が、閾値Vth以上かつミラー電圧以下であるときに、ゲート電極122に蓄積される電荷の総量である。ゲート蓄積電荷Qgは、半導体素子100がオン状態のときに、ゲート電極122に蓄積される電荷量である。ゲートソース間蓄積電荷Qgsは、半導体素子100がオン状態のときに、ゲート電極122とソース電極102の間に蓄積される電荷量の一部である。ゲートドレイン間蓄積電荷Qgdは、半導体素子100がオン状態のときに、ゲート電極122とドレイン電極101の間に蓄積される電荷量の一部である。出力電荷Qossは、半導体素子100がオフ状態のときに、ドレイン電極に蓄積される電荷量の一部である。閾値Vthは、p形半導体層113にチャネル(反転層)を形成するために必要な、ゲート電極122への印加電圧である。チャネル長L_Chは、p型半導体層113とn形半導体層114との境界からp形半導体層113とn-形半導体層112との境界までのZ方向に沿う長さである。
【0048】
図6の例では、23個の設計項目が存在する。これら23個の設計項目について、実施形態に係る設計支援方法を適用可能である。図8の例では、12個の特性項目が存在する。これらの特性項目から、一部の特性項目が抽出される。抽出された一部の特性項目について、より良いスコアが得られる設計項目が探索される。例えば、前記一部の特性項目は、オン抵抗及び耐圧を含む。
【0049】
第1関数は、前記一部の特性項目の特性値の入力に応じて、スコアを出力する。一例として、第1関数f(x)は、以下の式1で表される。オン抵抗RonAの特性値(第1特性値)、耐圧Vdssの特性値(第2特性値の一例)、及び耐圧Vdsxの特性値(第2特性値の別の一例)が、第1関数f(x)に入力される。
【0050】
(式1)
f(x)=(1/30)×RonA+10×(ReLU(110-Vdss)+ReLU(90-Vdsx))
【0051】
式1において、「1/30」及び「10」は、ユーザにより適宜設定される値である。ReLUは、ランプ関数である。「110」は、Vdssの目標値である。「90」は、Vdsxの目標値である。式1に、シミュレータ30から出力される、RonA、Vdss、及びVdsxを入力することで、それらの特性値に対するスコアが得られる。
【0052】
例えば、式(1)を第1関数として用い、図6に表した設計項目について全部で1000回の試行が実行される。この探索により、熟練者が見出した設計値と同等の特性を発揮する設計値を探索することが可能である。より多くの試行回数を実行することで、熟練者よりも優れた特性を発揮する設計値を探索することが可能である。
【0053】
上述した通り、半導体素子の特性は、種々の設計項目の影響により変動する。例えば、半導体素子の特性では、一般的に、オン抵抗及び耐圧が重視される。オン抵抗には、各半導体層の濃度、各半導体層の厚さなどが影響する。特に、n-形半導体層112における不純物濃度(ドリフト層濃度)が、オン抵抗に影響する。n-形半導体層112における不純物濃度が高いほど、オン抵抗は低減する。一方で、耐圧は、n-形半導体層112における不純物濃度が低いほど、向上する。設計項目の一部において、オン抵抗と耐圧は、トレードオフの関係にある。
【0054】
特性値の改善を目的としたときに、設計項目同士が、相互に影響し合う場合もある。例えば、セルピッチが狭くなったとき、絶縁層120同士の間のn-形半導体層112が空乏化し易くなる。このため、耐圧を向上させることができる。又は、絶縁層120同士の間のn-形半導体層112が空乏化し易くなることに合わせてn-形半導体層112における不純物濃度を高めることで、耐圧を維持したまま、オン抵抗を低減することも可能である。すなわち、セルピッチの設計値が、n-形半導体層112における不純物濃度に影響しうる。
【0055】
シミュレータ30から得られたオン抵抗と耐圧に注意しながら、オン抵抗と耐圧の両方に影響する複数の設計項目を適切に設定することは、熟練者であっても大きな労力を要する。実施形態によれば、人による詳細な検討を必要とせずに、オン抵抗と耐圧の両方について、好ましい設計値を探索することが可能である。
【0056】
この例では、図6に示した複数の設計項目について、それぞれの設計値を探索した。図6に示す複数の設計項目の一部の設計値を探索し、他の設計項目は固定値に設定しても良い。n-形半導体層112における不純物濃度は、オン抵抗及び耐圧への影響が大きい。このため、n-形半導体層112における不純物濃度は、探索の対象であることが好ましい。
【0057】
図9は、別の半導体素子の構造を例示する模式的断面図である。
実施形態に係る設計支援システム1により、図9に示す半導体素子200の構造に関する設計値が探索されても良い。半導体素子200は、IGBTである。
【0058】
半導体素子200は、第1電極201、第2電極202、p形半導体層211、n形半導体層212、n-形半導体層213、p形半導体層214、n形半導体層215、及びゲート電極220を含む。各半導体層のp形とn形は、反転されても良い。
【0059】
第1電極201と第2電極202は、互いに離れている。第1電極201から第2電極202に向かう方向をZ方向とする。p形半導体層211は、第1電極201と第2電極202との間に設けられる。p形半導体層211は、第1電極201と電気的に接続される。n形半導体層212は、p形半導体層211と第2電極202との間に設けられる。n-形半導体層213は、n形半導体層212と第2電極202との間に設けられる。n-形半導体層213におけるn形不純物濃度は、n形半導体層212におけるn形不純物濃度よりも低い。p形半導体層214は、n-形半導体層213と第2電極202との間に設けられる。n形半導体層215は、p形半導体層214と第2電極202との間に設けられる。
【0060】
ゲート電極220は、Z方向においてn形半導体層212と第2電極202との間に設けられる。n-形半導体層213の一部、p形半導体層214、及びn形半導体層215の一部からゲート電極220に向かう方向は、X方向に沿う。n-形半導体層213とゲート電極220との間、p形半導体層214とゲート電極220との間、及びn形半導体層215とゲート電極220との間には、ゲート絶縁層220aが設けられる。第2電極202は、p形半導体層214及びn形半導体層215と電気的に接続され、ゲート電極220とは電気的に分離される。
【0061】
第2電極202に対して第1電極201に正の電圧が印加された状態で、ゲート電極220に閾値以上の電圧が印加される。これにより、p形半導体層214にチャネル(反転層)が形成される。電子は、チャネルを通って第2電極202からn-形半導体層213に流れる。正孔は、p形半導体層211を通って第1電極201からn-形半導体層213に流れる。n-形半導体層213において伝導度変調が生じ、n-形半導体層213の電気抵抗が減少する。これにより、半導体素子200がオン状態となる。ゲート電極220に印加される電圧が閾値よりも低くなると、p形半導体層214におけるチャネルが消滅し、半導体素子200がオフ状態になる。
【0062】
実施形態に係る設計支援システム1により、図9に示す半導体素子200について、半導体素子100と同様に、各半導体層における不純物濃度、各半導体層の厚さ、その他の各要素の寸法を探索可能である。例えば、n-形半導体層213におけるn形不純物濃度(ドリフト層濃度)、n-形半導体層213のZ方向における厚さ(ドリフト層厚さ)、ゲート電極220のX方向におけるピッチ(セルピッチ)、ゲート絶縁層220aのX方向における厚さ(ゲート酸化膜厚)、n形半導体層215のZ方向における深さ(ソース深さ)、p形半導体層214のZ方向における長さ(チャネル長)、ゲート電極220のZ方向における長さ(ゲート長)、n形半導体層215の上面からゲート電極220の下端までのZ方向における深さ(ゲート電極深さ)、n形半導体層215におけるn形不純物濃度(ソース濃度)、ゲート絶縁層220aの下端における曲率(トレンチ底曲率)、ゲート絶縁層220aの側面とX方向との間の角度(トレンチ傾斜角)、ゲート絶縁層220aの幅の半分(トレンチ半幅)などを探索できる。
【0063】
(第1変形例)
図10は、実施形態の第1変形例に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
図4に示す設計支援方法DM0では、1回の試行において、全ての設計項目の設計値が変更されうる。図10に示した第1変形例に係る設計支援方法DM1では、1回の試行において、一部の設計値のみが変更される。
【0064】
図10に示す設計支援方法DM1において、ステップS10及びS11は、図4に示した設計支援方法DM0と同様に実行される。設計値算出部14は、複数の設計項目から、一部の設計項目を抽出する(ステップS31)。抽出された設計項目について、初期サンプリングが実行される(ステップS32)。初期サンプリングでは、設計値算出部14が、抽出された設定項目の設計値をランダムに設定する。抽出されなかった残りの設計項目については、ステップS11の初期サンプリングにおいて最も良いスコアが得られた設計値が設定される。設計値算出部14は、設計値群を生成する。ファイル生成部15は、設定値群をシミュレータ30に入力する。抽出部10は、シミュレータ30が出力した特性値群から、一部の特性値を抽出する。スコア算出部11は、抽出された一部の特性値に基づくスコアを算出する。ステップS32の初期サンプリングでは、設計値群の入力、特性値群の取得、スコアの算出、及び新たな設計値群の生成を含む試行が繰り返される。例えば、ステップS32の初期サンプリングは、3回~10回繰り返される。初期サンプリングの繰り返しによって得られた設計値群とスコアのデータセットは、記憶部20に保存される。
【0065】
ステップS32の後は、図4に示すフローチャートと同様に、ステップS12~S19が実行される。ベイズ推定部12は、ステップS12~S18の試行回数が、規定回数に達したか判定する(ステップS33)。試行回数が規定回数に達すると、設計値算出部14は、終了条件が充足されたか判定する(ステップS34)。終了条件が充足されるまで、ステップS31、S32、S12~S19、及びS33が繰り返される。
【0066】
終了条件が充足されていない場合、ステップS31が再度実行され、複数の設計項目の一部が再度抽出される。抽出される設計項目の少なくとも一部は、直前のステップS31で抽出された設計項目の少なくとも一部と異なっていても良いし、直前のステップS31で抽出された設計項目の少なくとも一部と同じでも良い。
【0067】
終了条件の一例として、ステップS31、S32、S12~S19、及びS33の繰り返し回数が規定回数に達すること、又はスコアが予め設定された目標値に達すること、が設定される。例えば、ステップS34における規定回数が1000回であるとき、ステップS33における規定回数は、10回~30回の範囲に設定される。
【0068】
例えば、設計支援方法DM1では、一部の設計値についての第1処理セットと、別の一部の設計値についての第2処理セットと、が実行される。第1処理セットでは、前記一部の設計値が、前記獲得関数に基づいて算出される。残りの設計値は、ベストスコアが得られる値に固定される。算出された一部の設計値と、固定された残りの前記設計値と、を含む新たな設計値群が生成される。複数の第1処理セットが実行され、前記一部の設計値が探索される。第2処理セットでは、前記別の一部の設計値が、前記獲得関数に基づいて算出される。残りの設計値は、ベストスコアが得られる値に固定される。算出された別の一部の設計値と、固定された残りの前記設計値と、を含む新たな設計値群が生成される。複数の第2処理セットが実行され、前記別の一部の設計値が探索される。
【0069】
第1変形例に係る設計支援方法DM1によれば、1回の試行で一部の設計項目のみが変更されるため、局所的な最適解が得られる可能性がある。例えば、設計支援方法DM1によって得られる設計値の特性は、設計支援方法DM0の試行を非常に多くの回数実行した場合に比べて、劣る可能性がある。しかし、発明者は、設計支援方法DM1によれば、実際に実行可能な試行回数の範囲内において、設計支援方法DM0に比べて、より良い特性値が得られ易いことを見出した。特に、ステップS31にて1つの設計項目のみが抽出され、1つの設計値について試行が順次実行されることが好ましい。これにより、限られた試行回数の範囲内において、より短い時間で、より良い特性値を得ることが可能である。
【0070】
図11は、実施形態及び第1変形例に係る設計支援方法による結果を例示するグラフである。
図11は、実施形態及び第1変形例に係る設計支援方法を用いて、複数の設計項目を探索したときの結果を示す。第1変形例に係る設計支援方法については、ステップS31において抽出される設計項目の数を「1」に設定している。図11において、横軸は、試行の回数を示す。縦軸は、それまでの試行において第1関数から出力された最小スコア(ベストスコア)を示す。
【0071】
実線は、図4に示した設計支援方法DM0による結果を示す。破線は、図10に示した設計支援方法DM1による結果を示す。グラフ中の関数f(x)は、第1関数である。設計支援方法DM0は、試行回数が少ないときに、設計支援方法DM1よりも早く、より小さいスコアを得ている。しかし、試行回数が200回を超えると、設計支援方法DM1は、設計支援方法DM0よりも小さいスコアを得ている。
【0072】
図11において、点線は、熟練者が長時間を掛けて設計した設計値によるスコアを示す。当該スコアは、「1」に設定されている。試行回数が400回に達すると、設計支援方法DM1によるスコアは、ほぼ「1」に達している。設計支援方法DM1では、試行回数をさらに増やすことで、スコア「1」を下回ることも可能である。
【0073】
出力部18は、図11に示すような、試行回数とスコアとの関係を表すグラフを表示しても良い。ユーザは、試行回数に応じてスコアがどのように改善されているか、容易に把握できる。
【0074】
図12(a)~図12(c)、図13図14(a)、及び図14(b)は、第1変形例に係る設計支援システムによる出力例である。
設計支援システム1は、図13に示す複数の設計項目について、第1変形例に係る設計支援方法を実行する。ステップS31において抽出される設計項目の数は、「1」に設定される。図12(a)~図12(c)は、出力部18によって表示されるグラフを示す。
【0075】
図12(a)~図12(c)において、横軸は、試行回数である。図12(a)のグラフの縦軸は、横軸に示されたそれぞれの回数の試行が実行されたときの最小スコア(ベストスコア)を示す。図12(b)のグラフの縦軸は、図13に示す表に含まれる複数の設計項目のうち、抽出される設計項目の識別番号を示す。図12(c)のグラフの縦軸は、抽出される設計項目の設計値を示す。複数の設計値は、同じ桁数で表示できるように、正規化されても良い。
【0076】
図12(a)に示すグラフが表示されることで、ユーザは、試行回数に応じてスコアがどのように改善されているか、容易に把握できる。図12(a)のグラフに加えて、図12(b)に示すグラフ及び図12(c)に示すグラフから選択される1つ又は2つが表示されることで、それぞれの試行回数において、どのような条件で試行されているか、ユーザが容易に把握できる。
【0077】
図12(b)のグラフに加えて、図13の表が表示されても良い。これにより、ユーザは、それぞれの試行回数において、どの設計項目が試行されているか、容易に把握できる。
【0078】
出力部18は、図14(a)又は図14(b)に示すような、半導体素子の構造図を表示させても良い。出力部18は、図12(a)のグラフを表示させるとともに、構造図を表示させる。表示される構造は、それまでのベストスコアが得られた設計値が反映される。例えば、図14(a)は、試行回数が200回のときの半導体素子の構造図ST1である。図14(b)は、試行回数が600回のときの半導体素子の構造図ST2である。構造図の表示により、ユーザは、ベストスコアが得られた構造を、容易に把握できる。
【0079】
図12(a)~図12(c)に示す例では、それぞれの設計項目についての試行回数が、同じである。それぞれの設計項目についての試行回数が、互いに異なっても良い。重要な設計項目についての試行回数は、他の設計項目についての試行回数よりも多く設定されることが好ましい。例えば、ドリフト層濃度についての試行回数は、他の設計項目についての試行回数よりも多く設定される。これにより、より好ましい特性値を、より少ない試行回数で得られる可能性を高めることができる。
【0080】
試行の繰り返し中に、得られたスコアに応じて、設計値の探索される範囲が変更されても良い。例えば、終了条件の目標値とは別に、スコアに対する基準値が、ユーザにより予め設定される。又は、設計値算出部14は、スコアの目標値に基づいて基準値を設定しても良い。試行の繰り返し中に、ベストスコアが基準値に達すると、設計値算出部14は、設計値の探索範囲を縮小する。例えば、設計値算出部14は、探索対象である全ての設計項目の設計値について、探索範囲を縮小する。
【0081】
縮小される探索範囲の割合は、ユーザにより予め設定される。例えば、スコアが基準値に達すると、探索範囲の上限及び下限の少なくともいずれかが、所定割合変動される。又は、獲得関数に基づいて、探索範囲が縮小されても良い。例えば、設計値算出部14は、獲得関数の出力が小さい範囲を、探索範囲から除外する。これにより、より好ましい特性値を、より少ない試行回数で得られる可能性を高めることができる。
【0082】
この例では、スコアが小さいほど、特性が良いことを示す。例えば、第1耐圧値に基づく第1スコアは、第2耐圧値に基づく第2スコアよりも小さい。第1オン抵抗に基づく第1スコアは、第2オン抵抗に基づく第2スコアよりも小さい。第1耐圧値は、第2耐圧値よりも大きい。第1オン抵抗は、第2オン抵抗よりも小さい。
【0083】
特性が良いほど、スコアは大きくても良い。例えば、第1耐圧値に基づく第1スコアは、第2耐圧値に基づく第2スコアよりも大きい。第1オン抵抗に基づく第1スコアは、第2オン抵抗に基づく第2スコアよりも大きい。第1耐圧値は、第2耐圧値よりも大きい。第1オン抵抗は、第2オン抵抗よりも小さい。
【0084】
(第2変形例)
図15は、実施形態の第2変形例に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
図15に示す設計支援方法DM2では、ステップS31において抽出される設計項目に対して、重み付けが実行される。
【0085】
設計支援方法DM2では、ステップS10及びS11の後に、設計値算出部14が、それぞれの設計項目を重み付けする(ステップS41)。例えば、より重要な設計項目について、より大きな重みが設定される。設計値算出部14は、探索される設計項目を、確率に従って抽出する。確率は、重みに応じて設定される。重みが大きいと、抽出される確率は高くなる。以降は、図10に示す設計支援方法DM2と同様に、ステップS31、S32、S12~S19、S33、及びS34が実行される。
【0086】
この設計支援方法によれば、重要な設計項目が抽出され易くなる。例えば、特性値への影響が大きい半導体層における不純物濃度(特にドリフト層濃度)の重みが、別の設計項目の重みよりも大きく設定される。より好ましい特性値が得られる可能性を、高めることができる。
【0087】
例えば、設計支援方法DM2において、一部の設計項目が抽出される。抽出された一部の設計項目の値をそれぞれ示す一部の設計値について、第1処理セットが実行される。第1処理セットの後に、別の一部の設計項目が抽出される。抽出された別の一部の設計項目の値をそれぞれ示す別の一部の設計値について、第2処理セットが実行される。前記一部の設計項目が抽出される確率は、前記別の一部の設計項目が抽出される確率と異なる。例えば、前記一部の設計項目の1つの設計値(第1設計値)は、半導体層における不純物濃度を示す。前記一部の設計項目が抽出される確率は、前記別の一部の設計項目が抽出される確率よりも高い。
【0088】
又は、それぞれの設計項目が抽出される確率は同じであり、重みに応じて、ステップS33における規定回数が変化しても良い。重みが大きいほど、規定回数は、多く設定される。この設計支援方法によれば、重要な設計項目についての試行回数が多くなる。より好ましい特性値が得られる可能性を、高めることができる。
【0089】
例えば、設計支援方法DM2において、第1処理セットが繰り返される回数は、第2処理セットが繰り返される回数と異なる。前記一部の設計項目が半導体層における不純物濃度を含む場合、第1処理セットが繰り返される回数は、第2処理セットが繰り返される回数よりも多いことが好ましい。
【0090】
(第3変形例)
図16は、実施形態の第3変形例に係る設計支援方法を表すフローチャートである。
第3変形例に係る設計支援方法DM3では、ステップS10及びS11が、図4に示した設計支援方法DM0と同様に実行される。抽出される設計項目の数が、「1」に設定される(ステップS51)。図10に示した設計支援方法DM1と同様に、ステップS31、S32、S12~S19、S33、及びS34が実行される。ステップS51の直後、ステップS31では、1個の設計項目が抽出される。ステップS34において、終了条件が充足されていないと判定されると、設計値算出部14は、スコアが基準値を達成しているか判定する(ステップS52)。例えば、ステップS52では、それまでに得られたベストスコアが参照される。基準値は、ユーザにより予め設定される。又は、設計値算出部14は、スコアの目標値に基づいて基準値を設定しても良い。
【0091】
スコアが基準値を達成すると、抽出される設計項目の数が、「n」に設定される(ステップS53)。nは、1よりも大きい整数である。以降では、ステップS31で、n個の設計項目が抽出される。スコアが基準値を達成するまで、ステップS31で、1個の設計項目が抽出される。
【0092】
設計支援方法DM3によれば、設計支援方法DM2に比べて、初期の探索をより早く完了できる。設計支援方法DM2に比べて、後の探索において、局所的な最適解に陥り難くできる。
【0093】
例えば、設計支援方法DM3では、一部の設計値についての第1処理セットと、別の一部の設計値についての第2処理セットと、が実行される。第2処理セットは、第1処理セットの後に実行される。第1処理セットでは、前記一部の設計値が、前記獲得関数に基づいて算出される。第2処理セットでは、前記別の一部の設計値が、前記獲得関数に基づいて算出される。前記一部の設計値に含まれる設計値の数は、前記別の一部の設計値に含まれる設計値の数よりも多い。第1処理セットは、スコアが基準値を達成する前に実行される。第2処理セットは、スコアが基準値を達成した後に実行される。
【0094】
本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
【0095】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、設計支援システムに含まれる、抽出部、スコア算出部、ベイズ推定部、獲得関数算出部、設計値算出部、ファイル生成部、命令生成部、入力部、出力部、及び記憶部などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0096】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0097】
その他、本発明の実施の形態として上述した設計支援方法、設計支援システム、プログラム、及び記憶媒体を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての設計支援方法、設計支援システム、プログラム、及び記憶媒体も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0098】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0100】
1:設計支援システム、 10:抽出部、 11:スコア算出部、 12:ベイズ推定部、 13:獲得関数算出部、 14:設計値算出部、 15:ファイル生成部、 16:命令生成部、 17:入力部、 18:表示部、 20:記憶部、 30:シミュレータ、 90:処理装置、 91:CPU、 92:ROM、 93:RAM、 94:記憶装置、 95:入力インタフェース、 95a:入力装置、 96:出力インタフェース、 96a:出力装置、 97:通信インタフェース、 97a:サーバ、 98:システムバス、 100:半導体素子、 101:第1電極、 102:第2電極、 102a:コンタクト部、 111:n形半導体層、 112:n-形半導体層、 113:p形半導体層、 114:n形半導体層、 120:絶縁層、 120a:ゲート絶縁層、 121:フィールドプレート電極、 121a:第1部分、 121b:第2部分、 122:ゲート電極、 200:半導体素子、 201:第1電極、 202:第2電極、 211:p形半導体層、 212:n形半導体層、 213:n-形半導体層、 214:p形半導体層、 215:n形半導体層、 220:ゲート電極、 220a:ゲート絶縁層、 DM,DM0~DM3:設計支援方法、 ST1,ST2:構造図
図1
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