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特許7443234強化用繊維にポリアリールエーテルケトンを含浸させる方法及びこのようにして得られる半完成製品
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  • 特許-強化用繊維にポリアリールエーテルケトンを含浸させる方法及びこのようにして得られる半完成製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】強化用繊維にポリアリールエーテルケトンを含浸させる方法及びこのようにして得られる半完成製品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20240227BHJP
   C08J 3/03 20060101ALI20240227BHJP
   D06M 15/39 20060101ALI20240227BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08J3/03
D06M15/39
D06M101:40
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020537056
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 FR2018052244
(87)【国際公開番号】W WO2019053379
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】1758625
(32)【優先日】2017-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ル ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】スゲラ ファビアン
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-238596(JP,A)
【文献】特開平04-012894(JP,A)
【文献】特開2008-044165(JP,A)
【文献】特表2019-508523(JP,A)
【文献】国際公開第2017/117087(WO,A1)
【文献】特開2017-114942(JP,A)
【文献】特開2016-210954(JP,A)
【文献】特開2013-001891(JP,A)
【文献】特開2006-282743(JP,A)
【文献】特開2000-355629(JP,A)
【文献】特開昭64-079235(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0148753(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0221223(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28
99/00
C08J5/04-5/10
5/24
D06M13/00-15/715
D06M101/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程:
a. アルコール、ケトン、アルデヒド、カルボン酸エステル、グリコール及びエーテルから選択される1質量%~40質量%の少なくとも1種の揮発性有機化合物と、場合により界面活性剤とを含む水相に分散した粉末形態のPAEK樹脂を含む分散液を調製すること;
b. 強化用繊維を前記水性分散液と接触させること;
c. 分散液が含浸した前記繊維を乾燥させること;及び
d. 半完成製品を形成するために、前記樹脂の融解に十分な温度まで前記含浸繊維を加熱すること
を含む、PAEK樹脂と強化用繊維とを含む半完成製品の調製プロセスであって、
前記分散液の水相が、Brookfield DV2T Extra粘度計で6.8秒-1の剪断応力下25℃で測定して0.1~25Pa・秒である動的粘度を有すること;及び
前記界面活性剤が存在するとき、その含有量が分散樹脂の質量に対して1質量%未満であり、かつ
前記分散液中の粉末PAEK樹脂が、ISO規格13 320に準拠して測定して、20~100μmの中位径D50を有する、
ことを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記揮発性有機化合物が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール及びその混合物から選択されるアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びその混合物から選択されるグリコール、アセトン等のケトン、エーテル、酢酸メチル、酢酸エチル及び酢酸プロピルから選択されるカルボン酸エステル並びにその混合物である、請求項に記載の調製プロセス。
【請求項3】
前記揮発性有機化合物が、前記水相の水と共沸混合物を形成する、請求項1又は2に記載の調製プロセス。
【請求項4】
前記強化用繊維が炭素繊維である、請求項1~3のいずれか1項に記載の調製プロセス。
【請求項5】
前記分散液の水相が、Brookfield DV2T Extra粘度計で6.8秒-1の剪断応力下25℃で測定して0.1~5Pa・秒である動的粘度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の調製プロセス。
【請求項6】
前記PAEK樹脂が、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、 ポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンエーテルケトン)(PEEKEK)、ポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)(PEEEK)及びポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)、その混合物及びその互いのコポリマー又はPAEKファミリーの他のメンバーとのそのコポリマーから成る群より選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の調製プロセス。
【請求項7】
前記PAEK樹脂が、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対して35%~100%の質量百分率のテレフタル酸単位を有するPEKKである、請求項1~6のいずれか1項に記載の調製プロセス。
【請求項8】
前記半完成製品が、プリプレグ又はテープから選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の調製プロセス。
【請求項9】
半完成製品の調製に有用な分散液であって、下記:
a. ISO規格13 320に準拠して測定して20~100μmの中位径D50を有する1質量%~50質量%の粉末形態のPAEK樹脂;
b. 前記樹脂の質量に対して計算された、0~1質量%の少なくとも1種の界面活性剤;
c. 分散液の水相に対して1質量%~40質量%のアルコール、ケトン、アルデヒド、カルボン酸エステル、グリコール及びエーテルから選択される少なくとも1種の揮発性有機化合物;
d. 0~1質量%の他の添加剤;及び
e. 残余の水
を含み、
前記水相は、Brookfield DV2T Extra粘度計で6.8秒-1の剪断応力下25℃で測定して0.1~25Pa・秒である動的粘度を有する、分散液。
【請求項10】
15質量%~35質量%のPAEK樹脂を含む、請求項に記載の分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[技術分野]
本特許出願は、熱可塑性マトリックスと強化用繊維とを含む半完成製品の製造の分野に関する。本特許出願は、該半完成製品及び複合部品の製造におけるその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術]
熱可塑性樹脂と強化用繊維を組み合わせた複合材料は、軽量なためのその優れた機械的性質に起因して、特に航空宇宙産業においてのみならず、自動車産業及びスポーツ用品産業においても、多くの分野で大変興味深い。
これらの複合材料は、一般的にロービング又は織物の一方向性シートの形態のプリプレグ等の樹脂被覆強化用繊維から成る半完成製品の圧密化によって製造される。
これらの半完成製品は、樹脂による繊維の含浸によって得ることができる。樹脂が溶媒に溶融、溶解できるか、或いは流動床中又は水溶液に分散した粉末形態であり得る種々のプロセスがある。含浸繊維は、引き続き、適切な場合、溶媒又は水溶液が除去されてから、残留樹脂を融かし、半完成製品を形成するために加熱される。
高融点を有するポリマー、例えばポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)については、水性分散液槽内での含浸が経済的及び環境的に有利である。
しかしながら、このプロセスは、繊維のコアに樹脂を含浸させるために、分散液内に繊維の均一な分布がもたらされる必要がある。
従って、特許出願WO 88/03468は、懸濁液を高粘性(少なくとも50Pa・秒)にし、適切な場合には、さらに界面活性剤を添加することによって懸濁液を安定化することを提案している。この文献は、含浸後の水性媒体の除去を促進するために少量の水混和性有機液体を添加することをさらに提案している。
同様の手法で、特許US 5 236 972は、水溶性ポリマー、湿潤剤に加えて、殺生物剤、可塑剤及び消泡剤を分散液に添加することを提案している。
【0003】
特許US 5 888 580は、逆に、ほとんど分散剤を含有せず、分散液中の樹脂の濃度及び滞留時間によって繊維への樹脂の充填を調節する低粘度分散液を提案している。しかしながら、該半完成製品から製造された複合部品は、高い多孔性及び最適でない機械的性質を有する。
この問題を克服するため、出願FR 3 034 425は、懸濁液を均一に保つために特殊なアルコキシル化アルコール界面活性剤、すなわち100回エトキシル化ステアリルアルコールを利用して熱可塑性樹脂を分散させ、撹拌装置を併用することを提案している。この結果として、著者らは、多孔性にすることなく複合製品を圧密化できると主張する。それにもかかわらず、この発明は、粘度上昇(viscosification)に関連する困難さを全て解決するとは限らず、その後の成形不良をもたらす可能性がある。これは、溶融状態では、過度に粘性のポリマー樹脂はもはや適切に流動できないからである。この理由から、所望形状、所望特性及び所望の表面外観を有する複合部品を達成するのは困難である。
特に、複合部品の複雑な部品への組み立て中に生成される表面の折り目の外観及び接合部の強度の問題を認めるのが一般的である。これらの欠陥は、圧密化を5バール未満の圧力で行なうと悪化する。
一般的に、高圧に頼ると非常に高価なオートクレーブを必要とするので、高圧に頼らずに複合部品を製造できるのが有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、これらの問題を克服すること及び上記欠陥を示さない複合部品に変換できる半完成製品の調製プロセスを提供することである。
本発明の別の目的は、低真空下、オートクレーブ外で圧密化できる半完成製品の調製プロセスを提供することである。
さらに詳細には、本発明の目的は、複合部品の製造に必要とされる熱サイクル後にほとんど変化しない粘度及び結晶化度を樹脂が有する半完成製品の該調製プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[発明の概要]
上記目的は、最小量の界面活性剤を含む粉末PAEK樹脂の水性分散液中で強化用繊維を含浸させる、本発明のプロセスによって達成された。
詳細には、水混和性揮発性有機化合物を添加することによって、界面活性剤及び/又は増粘剤の量を制限できることが認められた。詳細には、これらの化合物は、分散液の粘度を高めて、それを安定化できるようにする。その一方で、これらに化合物は、それらの揮発性のために樹脂中に残留しない。
さらにこれらの水混和性揮発性有機化合物は消泡効果を有し得ることが認められた。この効果は、消泡剤等の添加剤の存在をさらに減らせるようにする。特に、これらの添加剤は、圧密化中に有害なこともあり、さらに繊維とマトリックスの間の接着を妨害することもある。
【0006】
厳密に言えば、本発明は、PAEKをベースとする複合部品の品質が特に半完成製品中の樹脂の粘度及び後のその変化によって決まるという知見に基づいている。実際に、PAEKベース半完成製品の製造及び圧密化に必要な高温(一般的に300℃超)では、プロセス中に導入される化合物が分解して反応性実体を与える可能性があり、これらは、分岐を含めたPAEK鎖の伸長反応を引き起こす可能性がある。それに起因する分子量の増加は次に樹脂の粘度を上昇させる。
実際に、PAEKベース半完成製品中に存在しがちな種々の薬剤の系統的研究は、一方で、分散液に用いる添加剤が熱サイクル後の粘度上昇の主要因を構成し、その一方で、この効果はその用量に応じて非常に変動することを明らかにした。
これに基づいて、低用量で界面活性剤を使用すると、樹脂の粘度変化を制限できるようになり、かつ所要の品質の複合部品を得られるようになることを検証することができた。
【0007】
この仮説に拘束されることを望むものではないが、PAEK樹脂中でそれを融かすのに必要とされる高温の影響下では多くの化合物、特に有機化合物は分解すると推定される。この分解中に生じた反応性実体、特にラジカルは、次にポリマーと反応し、分岐を含めた鎖伸長反応をもたらす可能性があり、ポリマーの分子量、ひいてはその粘度をも高める。実際に、樹脂が高粘度を有すると、樹脂はもはや繊維を完全には含浸させられず、被覆できず、半完成製品の互いの良好な接着を確保できず、型壁に順応もできず、得られる複合製品の品質に影響を与える。さらに分散液中の添加剤の存在は、樹脂の結晶化温度及び結晶化度に悪影響を及ぼすこともあり、ひいてはその後の複合材の成形中及びその特性に難事をもたらすことがある。
【0008】
その結果として、第一態様によれば、本発明の主題は、下記段階:
a. 少なくとも1種の揮発性有機化合物と、場合により界面活性剤とを含む水相に分散した粉末形態のPAEKベース樹脂を含む分散液を調製すること;
b. 強化用繊維を前記水性分散液と接触させること;
c. 分散液が含浸した繊維を乾燥させること;及び
d. 半完成製品を形成するために、樹脂の融解に十分な温度まで含浸繊維を加熱すること
を含む、PAEKベース樹脂と強化用繊維とを含む半完成製品の調製プロセスにおいて、
Brookfield DV2T Extra粘度計で6.8秒-1の剪断応力下25℃で測定された、25Pa・秒未満である動的粘度を有すること;及び
界面活性剤が存在するとき、その含有量が分散樹脂の質量に対して1質量%未満である
こと
を特徴とする、調製プロセスである。
【0009】
好ましくは、揮発性有機化合物は、アルコール、ケトン、アルデヒド、カルボン酸エステル、グリコール及びエーテル、特に、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール及びその混合物から選択されるアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びその混合物から選択されるグリコール、アセトン等のケトン、エーテル、酢酸メチル、酢酸エチル及び酢酸プロピルから選択されるカルボン酸エステル並びにその混合物から選択される。
有利には、揮発性有機化合物は、水相の水と共沸混合物を形成する。
好ましくは、強化用繊維は炭素繊維である。
分散液の水相は、好ましくは、Brookfield DV2T Extra粘度計で6.8秒-1の剪断応力下25℃で測定された、0.1~5、特に0.300~3、非常に特に0.5~2Pa・秒である動的粘度を有する。
【0010】
本発明のプロセスは、PAEK樹脂が、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンエーテルケトン)(PEEKEK)、ポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)(PEEEK)及びポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)、その混合物及びその互いのコポリマー又はPAEKファミリーの他のメンバーとのそのコポリマーから成る群より選択されるときに特に有用である。特に、PAEK樹脂は、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対して、35%~100%の質量百分率のテレフタル酸単位を有するPEKKであってよい。有利には、分散液中の粉末PAEK樹脂は、ISO規格13 320に準拠して測定して、1~300μm、好ましくは5~100μm、非常に特に10~50μmの中位径D50を有する。
有利には、調製される半完成製品はプリプレグ又はテープである。
【0011】
さらに、第二態様によれば、本発明の1つの対象は、半完成製品の調製に有用な分散液であって、下記:
a. 1~300μmの数平均粒径を有する1質量%~50質量%のPAEKベース樹脂;
b. 樹脂の質量に対して計算された、0~1質量%の少なくとも1種の界面活性剤;
c. 1質量%~50質量%の少なくとも1種の揮発性有機化合物;
d. 0~1質量%の他の添加剤;及び
e. 残余の水
を含み、
水相中の添加剤(c)及び(d)の総計は、分散液の4質量%未満となると理解される、
分散液である。
【0012】
好ましくは、本発明の分散液は、15質量%~35質量%のPAEKベース樹脂を含む。
第三態様によれば、本発明の1つの対象は、本発明のプロセスによって得ることができる、PAEKベース樹脂と強化用繊維とを含む半完成製品である。有利には、半完成製品は、PAEK樹脂の質量平均分子量MWが、375℃で20分間の加熱処理後にサイズ排除クロマトグラフ分析により測定して、100%より多く増加しないことを特徴とする。
最後に、第四態様によれば、本発明の1つの対象は、複合材の製造のための上記半完成製品の使用である。
[図面の簡単な説明]
本発明は、下記説明及び以下に示す図面を考慮してさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】激しく撹拌し、5分間静置した後の例12~14の分散液(左手側:比較例12の分散液、中央:例13の分散液、右手側:例14の分散液)の外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態の説明]
用語の定義
用語「半完成製品」は、複合材料の製造で中間製品として用いる、樹脂と強化用繊維とを含む製品を表すよう意図される。これらの製品は、特に一方向性シート、ロービング又は織物、或いは繊維/マトリックス混合物の形態のプリプレグであり得る。
その後、複合部品の製造のため、手動若しくは自動ドレープ成形によるか又は自動繊維配置によって半完成製品をアセンブルし、圧密化によって成形することができる。複雑な複合部品の集合体を得るため、このようにして製造された複合部品をさらに変換することができる。従って、新たな熱サイクルを利用して一般的にオートクレーブ内で行なわれるプロセスである、複合部品を同時圧密化するか、又は局所加熱によって部品を互いに溶接することができる。
用語「樹脂」は、適切な場合は、通常の添加剤、特にフィラー及び機能性添加剤と共に添加される1種以上のポリマーを主に含む組成物を表すよう意図される。
用語「分散液」は、液相と固相とを含む不均一組成物を表すよう意図される。本発明のプロセスに利用される分散液においては、液相は水性であり、熱安定性の界面活性剤及び適切な場合には他の添加剤をも含有する。固相は、粉末形態のPAEK樹脂を含むか又は本質的にそれから成る。
用語「界面活性剤」は、親水性部分と親油性部分を有し、液相中に樹脂粉末を分散させ、それを撹拌の存在下又は非存在下で懸濁状態で維持することができる化合物を表すよう意図される。この化合物は、分散液による繊維の湿潤にも役立ち得る。
用語「有機化合物」は、少なくとも元素炭素及び下記元素の1つ以上を含有する化合物を表すよう意図される:水素、ハロゲン、酸素、硫黄、リン、ケイ素又は窒素。但し、一酸化炭素及び炭酸塩及び炭酸水素塩は除外する。
用語「揮発性化合物」は、本文書の文脈では、大気圧におけるその沸点が200℃未満、好ましくは150℃未満、さらに好ましくは120℃未満、非常に特に100℃未満である化合物を意味すると理解される。
【0015】
分散液
提案プロセスに用いる分散液は、本発明によれば、中に粉末形態のPAEK樹脂が分散している水相を含む。
PAEK樹脂は、本質的に少なくとも1種のポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)を含む。ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)は、下記式の単位を含む。
(-Ar-X-)及び(-Ar1-Y-)
式中:
- Ar及びAr1は、それぞれ二価芳香族基を表し;
- Ar及びAr1は、好ましくは、任意に置換されていてもよい1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、4,4'-ビフェニレン、1,4-ナフチレン、1,5-ナフチレン及び2,6-ナフチレンから選択可能であり;
- Xは電子求引基を表し;それは好ましくはカルボニル基及びスルホニル基から選択可能であり、
- Yは、酸素原子、硫黄原子又はアルキレン基、例えば-CH2-及びイソプロピリデンから選択される基を表す。
【0016】
これらのX及びY単位において、X基の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、さらに特に少なくとも80%はカルボニル基であり、Y基の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、さらに特に少なくとも80%は酸素原子を表す。好ましい実施形態によれば、X基の100%がカルボニル基を表し、Y基の100%が酸素原子を表す。
さらに優先的には、ポリ(アリーレンエーテルケトン)(PAEK)は下記:
-下記式IA、式IB:
【0017】
【化1】
【0018】
【化2】
式IB
【0019】
の単位、及びその混合物を含む、PEKKとも呼ばれるポリ(エーテルケトンケトン);
-下記式II:
【0020】
【化3】
式II
【0021】
の単位を含む、PEEKともよばれるポリ(エーテルエーテルケトン)
(これらの結合は、完全にパラ(式II)であってよく、同様に、下記式III及びIV:
【0022】
【化4】
式III
【0023】
或いは
【0024】
【化5】
式IV
【0025】
の2つの例に従って、エーテル及びケトンのところでこれらの構造に部分的又は完全にメタ結合、又は下記式V:
【0026】
【化6】
式V
【0027】
に従ってオルト結合を導入することができる);
-下記式VI:
【0028】
【化7】
式VI
【0029】
の単位を含む、PEKとも呼ばれるポリ(エーテルケトン)
(同様に、結合は完全にパラであってよいが、部分的又は完全にメタ結合(下記式VII及びVIII):
【0030】
【化8】
式VII
【0031】
又は
【0032】
【化9】
式VIII
【0033】
を導入することもできる);
-下記式IX:
【0034】
【化10】
式IX
【0035】
の単位を含む、PEEKKとも呼ばれるポリ(エーテルエーテルケトンケトン)
(同様に、エーテル及びエステルのところでこれらの構造にメタ結合を導入することができる);
-下記式X:
【0036】
【化11】
式X
【0037】
の単位を含む、PEEEKとも呼ばれるポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)
(同様に、エーテル及びケトンのところでこれらの構造にメタ結合を導入できるが、下記式XI:
【0038】
【化12】
式XI
【0039】
に従ってビフェノール又はジフェニル結合を導入することもでき(次の名称におけるD型の単位;従って式XIは名称PEDEKに相当する)、カルボニル基及び酸素原子の他の配置も可能である)
から選択可能である。
【0040】
好ましくは、本発明に用いるPAEKは、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンエーテルケトン)(PEEKEK)、ポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)(PEEEK)及びポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)、その混合物及びその互いのコポリマー又はPAEKファミリーの他のメンバーとのそのコポリマーから成る群より選択される。PEEK及びPEKK並びにその混合物も特に好ましい。
有利には、1種以上のリン酸エステル又はリン酸塩の添加によって溶融状態のPAEKの安定性を改善することができる。
好ましくは、PAEK樹脂は、樹脂の質量に基づいて、限界を含めて50%超、好ましくは60%超、特に70%超、さらに好ましくは80%超、特に90%超に相当する少なくとも1種のポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む。残りの10質量%~50質量%は、場合によりPAEKのファミリーに属する他のポリマーから成り得る。
さらに好ましくは、PAEK樹脂は、本質的にPEKKから成る。
【0041】
有利には、PEKKは、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の合計に対して35%~100%、特に40%~95%、さらに好ましくは50%~90%、好ましくは60%~80%の質量百分率のテレフタル酸単位を有し、非常に特にこの比率は65%~75%である。
樹脂はさらに、上述したように、さらに他の通例の添加剤、例えばフィラーを含んでよい。さらに、樹脂は、任意に少量の機能性添加剤を含むことができる。それでもやはり、樹脂は、粘度変化のリスクを制限するため、熱の影響下で分解しやすい添加剤を持たないのが好ましい。
PAEK樹脂粉末の粒径は、懸濁液の安定性に影響を与える可能性がある。それは、強化用繊維の樹脂による含浸の質にも影響し得る。懸濁液の最適の均一性及び良好な含浸を確保するため、樹脂粉末を微粉化するのが好ましい。より詳細には、PAEK粉末が、ISO規格13 320に準拠して測定して、1~300μm、好ましくは5~100μm、非常に特に10~50μmの範囲にある中位径D50を有するのが好ましい。
好ましくは、分散液のPAEK樹脂粉末の含有量は、完成分散液の質量に対して有利には1質量%~50質量%、好ましくは10質量%~40質量%、非常に特に25質量%~35質量%である。
【0042】
上述したように、本発明のプロセスは、分散液がさらに少なくとも1種の界面活性剤を含むことを特徴とする。
界面活性剤として、イオン性又は非イオン性界面活性剤を選択することができる。好ましくは、それはイオン性界面活性剤、特にアニオン性界面活性剤である。
特に好ましい実施形態によれば、界面活性剤はホスファート基を含む。実際に、ホスファートは、水性分散液含浸プロセスに使用されるときに他の界面活性剤よりPAEK樹脂と反応する傾向が少ないように見える。
より詳細には、特にエトキシル化アルコールのファミリーからの界面活性剤、例えばエトキシル化アルコール及びそのリン酸とのモノエステル又はジエステルに言及することができる。エトキシル化アルコールは、特に6~24、特に10~16個の炭素原子を含有するアルコールである。好ましくは、これらは、リン酸とエトキシル化アルコールのモノエステルである。アルキルエーテルホスファート及びアルキルアリールエーテルホスファートが特に好ましい。
これらの界面活性剤の中で、最小限の短いアルキルオキシド単位、特にC1-C3アルキルオキシド単位を有するものが好ましい。特に、メチレンオキシド、エチレンオキシド及びがプロピレンオキシド単位は特に熱に敏感であり、ラジカルを発生させ得る。
【0043】
実際に、短いアルキルオキシド単位の含有量を減らすと、溶融状態における圧密化でのPEKKの品質を改善することが実証された。このような低減は、一方で界面活性剤の量を制御することによって、他方で短いアルキルオキシド単位の含有量が少ない界面活性剤を選択することによって得ることができる。
しかしながら、これらのアルキルオキシド単位は、PAEK粉末の良好な分散を確保するためにも特に有効である。従って、PAEKの質量に対して0.15質量%、好ましくは0.20質量%、特に0.30質量%の短いアルキルオキシド単位の含有量が特に有利であると推定される。
安定性の点では、少ない数、とりわけ50未満、特に5~40、さらに好ましくは10~30のアルキルオキシド単位を有する界面活性剤が好ましい。
下記式の界面活性剤が特に好ましい。
【0044】
【化13】
【0045】
上述したように、これらの式中のアルキルオキシド単位の数(数n)は、好ましくは50未満、特に5~40、さらに好ましくは10~30である。
このファミリーの化合物として、特に、名称Lanphos PE35でLankemによって、名称Cecabase RTでCeca Franceによって、及び名称Klearfac AA270でDeWolfによって販売されている界面活性剤に言及することができる。
この界面活性剤は、遊離酸形態で使用できるが、好ましくは中和される。中和は、前もって又は分散液状態のままで適量の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを添加することによって行うことができる。
本発明によれば、分散液は、分散させるべき樹脂の質量に対して計算される、1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、特に0.4質量%以下、非常に特に0.3質量%以下の界面活性剤を含む。
数種の界面活性剤を添加するのが有利なことがある。特に、PAEK樹脂粉末の良好な分散を確保できるようにする1種の界面活性剤と、強化用繊維とPAEK樹脂粉末の親和性を改善するための別の界面活性剤とを選ぶことができる。
本発明の特定の実施形態によれば、分散液は界面活性剤を含有しない。
【0046】
分散液の水相は、必要ならば、少量の他の通常の添加剤、例えば増粘剤、消泡剤又は殺生物剤を含むことができる。それでもやはり、半完成製品中の添加剤の存在及び関連する潜在的問題を制限するため、分散液は、最小含有量の他の添加剤を含むのが好ましい。しかしながら、好ましくは、分散液の水相は、他の通常の添加剤を含有せず、特に増粘剤を含有しない。好ましくは、他の添加剤の量は、完成分散液の4質量%、特に3質量%、非常に特に2質量%を超えないことになる。
分散液の水相は、主に水から成る。分散液の水相は、少なくとも60質量%、好ましくは70質量%、さらに好ましくは80質量%、非常に特に90質量%の水を含む。分散液を調製するために用いる水は、好ましくは脱塩水である。
【0047】
本発明によれば、分散液は、さらに1種以上の揮発性有機化合物を含む。これらの化合物は、特にアルコール、ケトン、アルデヒド、カルボン酸エステル、グリコール及びエーテルのファミリーから選択可能である。
好ましくは、揮発性有機化合物は、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール及びその混合物から選択されるアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びその混合物から選択されるグリコール、アセトン等の選択されたケトン、エーテル、酢酸メチル、酢酸エチル及び酢酸プロピルから選択されるカルボン酸エステル並びにその混合物である。
水と共沸混合物を形成してそれらの除去を容易にする揮発性有機化合物、例えばエタノール、酢酸メチル、酢酸プロピル及びその混合物が特に好ましい。
【0048】
既に述べたように、該揮発性有機化合物を水相に添加すると、分散液中でPAEK樹脂を安定化するために必要とされる界面活性剤の含有量を減らすか又は排除することさえできるようになり、圧密工程中のPAEKの有害な熱分解を制限できるようになる。さらに、これらの化合物は、分散粒子のより良好な湿潤を確保することによって分散液の粘度上昇を可能にし得る。しかしながら、それらの揮発性は、後で樹脂の融解中に分解して反応性実体を与えるリスクを冒す通例の非揮発性添加剤とは異なり、それらが樹脂中に残留しないようにする。
分散液の水相は、好ましくは少なくとも1質量%~50質量%、特に5質量%~40質量%、さらに好ましくは10質量%~30質量%、非常に特に15質量%~25質量%の1種以上の揮発性化合物を含む。
得られた分散液は、好ましくは、Brookfield DVT2T Extra粘度計で6.8秒-1の剪断応力下25℃で測定して、0.1Pa・秒~20Pa・秒、特に0.1~5Pa・秒、特に0.3~3Pa・秒、非常に特に0.5~2Pa・秒の動的粘度を有する。
分散液の調製プロセスは、それ自体既知の様式で行なうことができる。より詳細には、例えば、適切な撹拌装置を備えた適切な容積の容器に、所要量の水を導入し、その後引き続き界面活性剤と、適切な場合には他の1種又は複数の添加剤とを添加することによって、分散液を調製することができる。必要ならば、均一溶液が得られるまで混合物を撹拌する。引き続き水溶液に粉末PAEK樹脂を導入してから安定分散液が得られるまで撹拌を行なう。
【0049】
強化用繊維
強化用繊維は、原理上は、半完成製品の製造に習慣的に使用されているいずれの繊維であってもよい。
本発明によれば、強化用繊維は、複合材料製部品の製造で強化材として使用できる全ての繊維から選択可能である。
従って、強化用繊維は、特にガラス繊維、石英繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、シリカ繊維、金属繊維、例えば鋼繊維、アルミニウム繊維又はホウ素繊維、セラミック繊維、例えば炭化ケイ素又は炭化ホウ素繊維、合成有機繊維、例えばアラミド繊維又は頭字語PBOでさらに良く知られるポリ(p-フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、又はPAEK繊維、或いは該繊維の混合物であり得る。
好ましくは、強化用繊維は、炭素繊維又はガラス繊維、さらに特に炭素繊維である。
【0050】
好ましい実施形態によれば、繊維は、他の化合物と組み合わせても、半完成製品中及び複合材中のPAEKの粘度の顕著な変化をもたらさない。
繊維にはサイズを塗らないのが好ましい。サイズを塗るときには、特にサイズがマトリックスに有害な分解生成物を生成しないという点で、マトリックスにサイズが適しているのが好ましい。
水性分散液経路での含浸による半完成製品の製造に用いる強化用繊維は、一般的に連続的である。
好ましくは、それらは、一方向性繊維の形態、例えば、炭素繊維については直径が6~10μmある、例えば数千の個々のフィラメント(典型的に3000~48000)をまとめる糸の形態で提供される。このタイプの繊維はロービングという名称で知られている。
それにもかかわらず、異なる方法、例えば、マット形態で、或いはロービングを織ることによって得られる織物の形態でこれらの繊維を配置することもできる。
【0051】
半完成製品の製造プロセス
本発明の製造プロセスは、上記分散液を利用することによって、通常の機器で常法により行なうことができる。上述したように、分散液中の低用量での界面活性剤の存在は、樹脂の分子量、ひいてはその粘度を高める能力がある反応性実体の形成を制限し、それによって複合部品中の欠陥の出現を減らすことを可能にする。
より詳細には、半完成製品は、上記水性分散液槽への強化用繊維の導入及び槽内での強化用繊維の循環によって得られる。PAEK樹脂が含浸した繊維を次に槽から取り出し、例えば赤外線加熱炉内で乾燥させることによって水を取り除く。次にPAEK樹脂による繊維の被覆を可能にするため、この乾燥含浸繊維を樹脂が融けるまで加熱する。適切な場合、得られた被覆繊維を引き続き例えばカレンダー仕上げによって成形する。この工程は、半完成製品にテクスチャーを持たせ、そのプロポーショニングを確保できるようにし得る。
【0052】
好ましくは、本発明の半完成製品は、1質量%~99質量%、好ましくは30質量%~90質量%、特に50質量%~80質量%、特に60質量%~70質量%の強化用繊維を含む。
有利には、これらの半完成製品は、PAEK樹脂の質量平均分子量MWが、空気中375℃で20分間の熱処理後にサイズ排除クロマトグラフ分析で測定して、100質量%より多く増加しないことを特徴とする。
本発明のプロセスに従って得られる半完成製品は、特に複合部品の製造に使用可能である。
複合部品は、例えば、最初に、特に予含浸半完成製品を型内で配置又はドレープ成形することによって予成形品を製造することによって得られる。次に圧密化によって複合部品が得られる。この工程中に、予成形品は、融解によって半完成製品をアセンブルするために、一般的にオートクレーブ内で加圧下で加熱される。好ましくは、本発明に従って製造された半完成製品は、オートクレーブの外部で、例えば加熱炉内に設置された真空バッグ内で圧密化され得る。
本発明のプロセスに従って製造された半完成製品は、樹脂を融かすためにそれらの製造に必要とされる高い温度にもかかわらず、その粘度がほとんど変化しなかった樹脂を特徴とする。
複合部品の製造プロセスにおいて、半完成製品は、複合部品を形成し、及び/又は複合部品を成形するためにそれらを一緒にアセンブルするため、圧力下又は真空下で、種々の熱サイクルにさらされる。
本発明のプロセスに従って製造された複合製品は、特に、それらの製造に必要とされる高い温度にもかかわらず、その粘度がほとんど変化しなかった樹脂を特徴とする。
これらの工程中、半完成製品が型の形状を確かに取り入れることを保証するためにはマトリックスの過剰に高くない粘度が必須である。マトリックスの該粘度は、圧密化中の良好な流動を確保し、ひいては折目等の表面欠陥を防止できるようにもする。
以下の実施例で本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例
【0053】
[実施例]
実施例1~9:界面活性剤の用量に応じた結晶化温度の変化
PEKK樹脂(KEPSTAN 7002、Arkema Franceにより販売)への熱サイクルの影響を、種々の界面活性剤の用量を変えて結晶化温度を測定することによって研究した。粘度と同様に、結晶化温度は、分岐反応を含めた伸長反応によって悪影響を受ける。詳細には、ポリマーの平均分子量が増加すると、粘度は上昇し、結晶化温度は下がる。
【0054】
以下の界面活性剤について研究した:
-Sigma Aldrich販売のBrij S 100:ポリエチレングリコール(100)モノオクタデシルエーテル
-Lankem販売のLanphos PE35:リン酸とC13アルコールのモノエステル
-中和されたLanphos PE35:下記プロトコルに従って水酸化ナトリウム溶液の添加により中和されたLanphos PE35:
1wt%のPE35 Naの水溶液の調製
蒸留水(97.7g)を満たしたビーカーにLamphos PE35(1g)及び1モル/lのNaOH溶液(1.3g)を導入し、清澄溶液が得られるまで混合物を10分間激しく撹拌する。1M NaOH溶液の量は、0.95当量の水酸化ナトリウム(PE 35の水溶液の酸塩基滴定により決定)に相当する。
【0055】
これらの界面活性剤を含浸させたPEKKサンプルを以下のように調製した:
(1000-X)gの水とXgの界面活性剤とをフラスコに導入することによって、界面活性剤のX質量%の水溶液を調製する。
次に、250mlの一ツ口丸底フラスコ内で調製した(3×X)gの、界面活性剤の1質量%溶液に、界面活性剤/PEKKの質量比がX%になるように3gのPEKK粉末(名称Kepstan 7002PTでArkema Franceにより販売、D50=20μm)を導入する。次に10mlの蒸留水を加え、マグネチックスターラーを用いて混合物を10分間激しく撹拌する。最後に、得られた分散液からロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ、粉末を真空下120℃で2時間乾燥させて界面活性剤含浸PEKK粉末を回収する。
【0056】
例として、実施例3については以下のとおり:
-3gのPEKK
-3×0.8=2.4gの、Brij S100の1質量%水溶液
-10gの蒸留水
熱サイクル後に走査熱量測定法(DSC)によってPEKKの結晶化温度を測定する。この熱サイクル中に、界面活性剤含浸粉末は窒素下380℃で30分間加熱される。
下表1の結果は、全てのサンプルについて熱サイクル後の結晶化温度の顕著な低下を明らかにしている。同じ比率で樹脂の粘度が上昇し、得られた半完成製品の加工時の困難さを引き起こすと合理的に仮定することができる。
さらに、所与の界面活性剤について、0.25質量%~1.25質量%で調べた含有量に関して、用量を増やすと、熱サイクル後の結晶化温度が著しく低下する。
【0057】
表1:界面活性剤含浸PEKKの結晶化温度
*界面活性剤の質量/PEKKの質量
【0058】
最後に、等用量では、結晶化温度への影響は、選んだ界面活性剤によって決まることが分かる:Lanphos PE35界面活性剤は、非常に穏やかな低下を引き起こすが、高質量比のエチレンオキシドを有するBrij S100界面活性剤については、低下が非常に著しい。
従って、これらの結果を考慮して、適切な界面活性剤を選択し、低用量の界面活性剤を使用するのが有利であると思われる。
【0059】
実施例10:分散液の安定性に及ぼす揮発性有機化合物の効果
界面活性剤の量を特定の閾値を超えて減らすと、分散液はもはや適切に安定化され得ず、プリプレグ等の半完成製品の製造中に困難さを引き起こす可能性がある。
しかしながら、アルコール等の特定の揮発性有機化合物の添加は、水性媒体中のPAEK粉末の分散液を安定化するために必要とされる界面活性剤の用量を減らすか又は排除さえできるようにすることが認められた。
さらに詳細にこの効果を研究するため、33質量%のPEKK粉末と、可変含有量の界面活性剤及びイソプロパノールとを含有する水性分散液を調製した。水相に対して30質量%のイソプロパノール及びPEKKの質量に対して1質量%の界面活性剤をを含有する分散液について調製プロトコルを以下に説明する。
撹拌手段を備えた適切な容器に、6gのPEKK(Kepstan 7002PT、Arkema France販売、D50=20μm)を導入し、Xgの界面活性剤を添加する(Xは、界面活性剤/PEKK質量比=X%になるように)。次に、12gの水/イソプロパノール(100-n/n)(nはイソプロパノールの百分率であり、n=0~30)混合物を溶液に加え、得られた分散液を30分間マグネチックスターラーを用いて激しく撹拌する。このようにして生成された混合物を次に真空下120℃で12時間乾燥させる。
調製された各分散液を次にその調製60分後にその安定性について判定する。分散液を以下のようにみなす:
-PEKKが溶液に完全に分散しているときは、安定(+)、
-PEKKがよく分散しているが、壁に少し沈殿しているときは、かなり安定(o)、及び
-PEKKが完全には分散していないときは、不均一(-)。
生成された種々の分散液の組成及び安定性を下表2にまとめる。
【0060】
表2:PEKK粉末分散液の安定性
【0061】
アルコールとしてtert-ブタノールを用いて一連の試験を繰り返すと、同等の結果だった。
これらの結果は、PEKK粉末の分散剤として界面活性剤の一部又は全てさえをイソプロパノール又はtert-ブタノール等のアルコールに置き換え可能であることを実証する。
【0062】
実施例11:結晶化温度に及ぼす増粘剤の効果
熱サイクル後の結晶化温度の変化への増粘剤の存在の影響を以下のように研究した。
実施例1と同様であるが、6質量%のポリアクリル酸ナトリウム塩をも界面活性剤溶液に添加することによって、界面活性剤の0.1質量%溶液に含浸させたPEKK粉末を調製した。
分散液は非常に濃厚であり(約10Pa・秒の粘度)、多数の泡の存在のため使用前に脱気しなければならない。
界面活性剤と増粘剤を含浸させたPEKK粉末は、非常に低い熱安定性をも有する。詳細には、実施例1で述べた熱サイクルを受けた後、サンプルは、1質量%の界面活性剤含有量で調製した同等のサンプルよりずっと低い結晶化温度を有する。
従って、増粘剤は、高温にさらされたPAEK樹脂にとって、界面活性剤と同程度に有害であり、或いはさらに有害でさえあると認められる。
従って、その後の複合材料への変換で良い振る舞いをする半完成製品を調製することを視野に入れて、増粘剤のないPAEK粉末の水性分散液槽を使用するのが好ましい。
【0063】
実施例12~21:粘度の調整
分散液の水相の粘度に及ぼす揮発性有機化合物の効果を研究するため、実施例10で示したプロトコルに従って、可変含有量の界面活性剤及びイソプロパノールを有する分散液を調製した。
Brookfield DV2T Extra粘度計で6.8秒-1の剪断応力下25℃で分散液の動的粘度を測定した。
結果を下表3にまとめる。
【0064】
表3:界面活性剤及びイソプロパノールの含有量の関数としての動的粘度
*比較例
【0065】
結果は、界面活性剤及びイソプロパノールの含有量の適切な選択が、分散液の水相の粘度を広範囲にわたって変えられるようにすることを実証する。
従って、示した例では、これら2つのパラメーターに基づいて行動することによって、60~1000mPa・秒で粘度を調整することができる。
【0066】
実施例22:分散液中のアルコールの消泡効果
水性界面活性剤溶液中の揮発性有機化合物の消泡効果を研究するため、実施例12~14の分散液を3分間激しく撹拌した。分散液を5分間静置した後、分散液の外観を撮影した(図1参照)。
右側の容器中の溶液(20質量%のイソプロパノール)は、左側の容器(0質量%のイソプロパノール)又は中央の容器の溶液(10質量%のイソプロパノール)より泡が顕著に少ないと認められる。従って、この混合物では、イソプロパノールが消泡剤として作用する。
PEKK粉末の存在下において、満足できる消泡効果を得るためには10質量%のイソプロパノールで十分なので、この効果はさらにいっそう著しい。
従って、PAEK粉末分散液の水相に添加されたアルコールは、有効な消泡剤としても作用し、ひいては補足添加剤の添加を回避することができる。
【0067】
上記全ての研究から、界面活性剤の用量は、複合部品を与えるために半完成製品の圧密化に必要とされるものが代表的な熱サイクルにさらされるPAEK樹脂の粘度の変化に関する必須要因を構成することが分かる。さらに、上記実施例は、分散液の水相にアルコールを添加することの利点を実証する。詳細には、これは以下の三重の機能を有し得る:省いた界面活性剤を部分的に補償すること、増粘剤を添加せずに粘度を調整すること、及びあり得る消泡剤に取って代わること。
従って、本発明のプロセスによれば、場合によりアルコールと合わせて低用量で界面活性剤を使用し、半完成製品の製造中に用いるPAEK分散液中の他の添加剤をできる限り除去すると、PAEK樹脂の粘度を維持することによって、これらの半完成製品から得られる複合部品の良好な品質を確保できるようになる。
【0068】
[引用文献のリスト]
WO 88/03468
US 5 236 972
US 5 888 580
FR 3 034 425
図1