(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】セパレータを製造するためのコーティングスラリー、電気化学デバイスのためのセパレータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/403 20210101AFI20240227BHJP
H01M 50/411 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/429 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240227BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20240227BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20240227BHJP
C08J 9/36 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
H01M50/403 D
H01M50/411
H01M50/414
H01M50/417
H01M50/42
H01M50/423
H01M50/426
H01M50/429
H01M50/434
H01M50/44
H01M50/443 E
H01M50/449
H01G11/52
C08J9/36 CES
(21)【出願番号】P 2020554429
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(86)【国際出願番号】 CN2019081002
(87)【国際公開番号】W WO2019192474
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】201810288160.9
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518289715
【氏名又は名称】上海恩捷新材料科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI ENERGY NEW MATERIALS TECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.155,Nanlu Road,Pudong New District,Shanghai 201399,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】チェン,アレックス
(72)【発明者】
【氏名】ワン,リアンジー
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ヨンルー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シーシュエ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,カンカン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シェンユウ
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-516423(JP,A)
【文献】特表2015-512124(JP,A)
【文献】特開2017-208338(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098684(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/040562(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/065258(WO,A1)
【文献】特開2016-033913(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106784535(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108539095(CN,A)
【文献】特開2015-103404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01G 11/52
C08J 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学デバイスのためのセパレータを製造するためのコーティングスラリーであって、
第1の構造単位及び少なくとも1つの第2の構造単位を含む少なくとも1つのコポリマーであって、30%~70%の範囲の結晶化度を有する少なくとも1つのコポリマーと、
少なくとも1つの増粘剤と、
少なくとも1つのバインダーと、
水と、を含み、
前記少なくとも1つのコポリマーは、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びジメチルカーボネート(DMC)の、EC:DEC:DMC=1:1:1の重量比の非水性電解質混合物中で5%~30%の範囲の膨潤比を有し、
前記少なくとも1つのコポリマーは、テトラフルオロエチレンから誘導される第1の構造単位と、フッ化ビニリデン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリレート、2-クロロエチルビニルエーテル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)から選択される要素から誘導される少なくとも1つの第2の構造単位とを含み、
界面接着力を低下させる量の無機粒
子を含まない、コーティングスラリー。
【請求項2】
前記少なくとも1つのコポリマーは、前記少なくとも1つのコポリマーの全重量を基準として0.1重量%~20重量%の、テトラフルオロエチレンから誘導される前記第1の構造単位を含む、請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項3】
前記少なくとも1つのコポリマーは、ポリフッ化ビニリデン-コ-テトラフルオロエチレンである、請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項4】
5重量%~30重量%の固体物質を含み、及び前記固体物質は、70重量%~90重量%の前記少なくとも1つのコポリマー、1.5重量%~4重量%の前記少なくとも1つの増粘剤及び1重量%~6重量%の前記少なくとも1つのバインダーを含む、請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項5】
前記少なくとも1つの増粘剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリプロピレングリコール、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース及びそれらの塩から選択される、請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項6】
前記少なくとも1つの増粘剤は、ポリプロピレングリコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む、請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項7】
前記少なくとも1つのバインダーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、純アクリレートエマルジョン、ポリ[(アクリル酸)-コ-スチレン]、ポリビニルピロリドン、スチレン-ブタジエンゴム、エポキシ樹脂
、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体及びポリスルホンから選択される、請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項8】
少なくとも1つの湿潤剤、少なくとも1つの分散剤及び/又は少なくとも1つの消泡剤をさらに含む、請求項1に記載のコーティングスラリー。
【請求項9】
5重量%~30重量%の固体物質を含み、及び前記固体物質は、70重量%~90重量%の前記少なくとも1つのコポリマー、1.5重量%~4重量%の前記少なくとも1つの増粘剤、1重量%~6重量%の前記少なくとも1つのバインダー、0.5重量%~1.5重量%の前記少なくとも1つの湿潤剤及び0.5重量%~5重量%の前記少なくとも1つの分散剤を含む、請求項8に記載のコーティングスラリー。
【請求項10】
前記少なくとも1つの湿潤剤は、硫酸化油、脂肪酸塩、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ダイズレシチン、チオール、ヒドラジド及びチオールアセタールから選択される、請求項8に記載のコーティングスラリー。
【請求項11】
前記少なくとも1つの分散剤は、シリケート、アルカリ金属リン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、メチルペンタノール、セルロース誘導体、ポリアクリルアミド、グアーガム及び脂肪酸ポリグリコールエステルから選択される、請求項8に記載のコーティングスラリー。
【請求項12】
前記少なくとも1つの消泡剤は、モノステアリン酸グリセリル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、乳化シリコーン油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンペンタエリトリトールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル及びポリジメチルシロキサンから選択される、請求項8に記載のコーティングスラリー。
【請求項13】
請求項1に記載のコーティングスラリーを製造する方法であって、
前記少なくとも1つのコポリマー及び前記少なくとも1つの増粘剤を混合して、第1の混合物を得ることと;
前記第1の混合物を前記水中に分散させて、第2の混合物を得ることと;
前記少なくとも1つのバインダーを前記第2の混合物中に加えることと
を含む方法。
【請求項14】
電気化学デバイスのためのセパレータを製造する方法であって、
請求項1に記載のコーティングスラリーを製造することと;
多孔質ベース膜の少なくとも1つの側の上に前記コーティングスラリーを塗布して、湿潤コーティング層を得ることと;
前記湿潤コーティング層から水を除去することと
を含む方法。
【請求項15】
前記多孔質ベース膜は、ポリオレフィンベースの多孔質膜又は不織多孔質膜を含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[1] 本出願は、2018年4月3日に出願された中国特許出願公開第201810288160.9号(その内容が参照により本明細書に援用される)に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
技術分野
[2] 本開示は、電気化学分野に関し、特にセパレータを製造するためのコーティングスラリー、電気化学デバイスのためのセパレータ及びその製造方法並びにそのセパレータを含む電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
[3] エネルギー貯蔵の市場が成長するとともに、電池及び他の形態の電気化学デバイスが一層注目されている。例えば、例えば携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、電動工具、電気自動車などにおけるエネルギー源としてリチウム二次電池が広範に使用されている。
【0004】
[4] 電気化学デバイスの電極組立体は、通常、正極、負極及び正極と負極との間に配置される透過性膜(すなわちセパレータ)を含む。正極及び負極は、セパレータによって互いに直接接触することが防止され、それによって内部短絡が回避される。その間、電流回路が閉じるように、イオン電荷担体(例えば、リチウムイオン)がセパレータ中のチャネルを通してセパレータを通過することができる。セパレータは、電気化学デバイス中の重要な構成要素であり、なぜなら、その構造及び性質は、例えば、内部抵抗、エネルギー密度、出力密度、サイクル寿命及び安全性などの電気化学デバイスの性能に大きい影響を与えることがあるからである。
【0005】
[5] セパレータは、一般に、ポリマー微孔質膜によって形成される。例えば、ポリオレフィンベースの微孔質膜は、それらの好都合な化学安定性及び優れた物理的性質のため、リチウム二次電池中のセパレータとして広く使用されている。しかし、これらは、低い結晶化度、高い膨潤比、不良な接着性及び低い溶融温度を有することがあり、これらは、高い内部抵抗、不十分な伝導性及び高温下での破壊の原因となる。例えば、ポリオレフィン微孔質膜上に多孔質コーティング層を形成してコーティングされたセパレータを製造することなど、ポリオレフィンベースのセパレータの化学的及び物理的性質を改善するための種々の技術が開示されている。多孔質コーティング層により、コーティングされたセパレータの接着性及び/又は耐熱性を改善することができる。多孔質コーティング層の形成方法及び組成により、コーティングされたセパレータの多くの性質に影響が生じることがある。多孔質コーティング層は、通常、少なくとも1つのポリマー、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)ホモポリマー又はコポリマーを含む。現在、PVDF-コ-HFPは、一般に使用されるPVDFコポリマーであるが、PVDF-コ-HFPを用いて作製されたこのようなコーティング層及びコーティングされたセパレータは、低い結晶化度、高い膨潤比及び不良な接着性を有することがあり、これらは、高い内部抵抗、不十分なサイクル性能及び他の不十分な電気化学的デバイス性能の原因となる。
【0006】
[6] さらに、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーは、一般に水性系及び非水性系に分類される。非水性系は、汚染を引き起こすことがあり、複雑な技術的プロセスを伴うことがある。したがって、水性系ベースのポリマーがコーティングされたセパレータも重要となる。水性系ベースのセラミックコーティング層を有するセパレータと比較すると、水性系ベースのポリマーコーティング層を有するセパレータは、はるかに良好な結合能力を有し、極片、電極及びセパレータを互いに結合させることができる。したがって、水性系ベースのポリマーがコーティングされたセパレータを有する電池は、より強いことができ、その電池の組立体は、より便利であり得る。さらに、このような電池は、より小さい内部抵抗及びより良好なサイクル性能を有することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[7] したがって、種々の高性能電気化学デバイス中に使用される、良好な接着性、高い結晶化度及び小さい膨潤比などの改善された性質を有し、非水性系よりも汚染の発生がより少ないセパレータに対して一層高まる要求に適合するために、改良された水性系ベースのポリマーコーティング層、コーティングされたセパレータ及びその製造方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
[8] 本開示は、電気化学デバイスのためのセパレータを製造するためのコーティングスラリーを提供する。このコーティングスラリーは、例えば、30%~70%の範囲の結晶化度を有する少なくとも1つのコポリマーと、少なくとも1つの増粘剤と、少なくとも1つのバインダーと、水とを含み、この少なくとも1つのコポリマーは、第1の構造単位及び少なくとも1つの第2の構造単位を含む。
【0009】
[9] 本開示は、本明細書に開示されるコーティングスラリーを製造する方法であって、少なくとも1つのコポリマー、増粘剤及び水を混合して、第1の混合物を得ることと;少なくとも1つのバインダーを第1の混合物中に加えることとを含む方法をさらに提供する。
【0010】
[10] 本開示は、本明細書に開示されるコーティングスラリーを使用して、電気化学デバイスのためのセパレータを製造する方法をさらに提供する。特に、この方法は、本明細書に開示されるコーティングスラリーを製造することと;多孔質ベース膜の少なくとも1つの側の上にこのコーティングスラリーを塗布して、湿潤コーティング層を得ることと;湿潤コーティング層から水を除去することとを含む。
【0011】
[11] 本開示は、本明細書に開示される方法によって製造される、電気化学デバイスのためのセパレータをさらに提供する。特に、本明細書に開示されるセパレータは、多孔質ベース膜と、多孔質ベース膜の少なくとも1つの側の上に形成されるコーティング層とを含む。
【0012】
[12] 本開示は、正極、負極及び正極と負極との間に配置される、本明細書に開示されるセパレータを含む電気化学デバイスをさらに提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
[13] 本開示は、電気化学デバイスのためのセパレータを製造するためのコーティングスラリーの幾つかの代表的な実施形態を提供する。本開示の幾つかの実施形態では、本明細書に開示されるコーティングスラリーは、少なくとも1つのコポリマーと、少なくとも1つの増粘剤と、少なくとも1つのバインダーと、水とを含み、少なくとも1つのコポリマーは、水中に分散される。
【0014】
[14] 本明細書に開示される少なくとも1つのコポリマーは、例えば、30%~70%、例えば40%~60%の範囲の結晶化度を有することができる。ポリマーの結晶化は、それらの分子鎖の部分的な整列と関連する過程である。これらの鎖は、互いに折りたたまれ、ラメラと呼ばれる秩序領域を形成し、それらは、球晶と呼ばれるより大きい回転楕円体構造を構成する。結晶化は、ポリマーの光学的、機械的、熱的及び化学的性質に影響を与える。結晶化度は、種々の分析方法によって求めることができる。本明細書に開示されるように、少なくとも1つのコポリマーの結晶化度は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定される。本明細書に開示される少なくとも1つのコポリマーは、非水性電解質中で膨潤することがあり、これは、例えば、5%~30%、例えば10%~20%の範囲の、膨潤度とも呼ばれる膨潤比を有することができる。本明細書に開示される膨潤比は、膨潤後の少なくとも1つのコポリマーの重量変化を特徴付けるためのパラメータであり、
膨潤比(%)=(Ws-Wd)/Wd×100
によって計算することができ、式中、Wdは、膨潤前の少なくとも1つのコポリマーの重量であり、Wsは、少なくとも1つのコポリマーを非水性電解質中に7日間浸漬して得られた膨潤コポリマーの重量であり、この非水性電解質は、EC:DEC:DMC=1:1:1の重量比のエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びジメチルカーボネート(DMC)の混合物である。
【0015】
[15] 30%未満の結晶化度と、30%を超える膨潤比とを有するポリマーが、セパレータを製造するためのコーティングスラリー中に使用される場合、製造されたセパレータは、非水性電解質が含浸するときにその寸法が大きく増加することがあり、それによって接着性が低下する。弱い接着性又は結合特性を有するセパレータが電気化学デバイスの製造に使用されると、その電気化学デバイスは、高い内部抵抗及び不十分なサイクル寿命を有する場合がある。このような問題は、セパレータの製造のためのコーティングスラリー中に比較的高い結晶化度及び比較的低い膨潤比を有するポリマー材料を使用することによって解決可能である。本開示のコーティングスラリーは、比較的高い結晶化度及び比較的低い膨潤比を有する少なくとも1つのコポリマーを含み、そのため、このコーティングスラリーによって製造されたセパレータは、強い結合特性を有することができる。
【0016】
[16] コーティングスラリー中の異なる種類の少なくとも1つのコポリマーは、コーティングスラリーによって形成されるコーティング層の接着性に影響を与える場合がある。本開示の幾つかの実施形態では、本明細書に開示される少なくとも1つのコポリマーは、第1の構造単位及び少なくとも1つの第2の構造単位を含むことができる。幾つかの実施形態では、第1の構造単位は、テトラフルオロエチレン(TFE)から誘導され得る。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの第2の構造単位は、フッ化ビニリデン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリレート、2-クロロエチルビニルエーテル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)から選択される要素から誘導された。幾つかの実施形態では、少なくとも1つの第2の構造単位は、フッ化ビニリデンから誘導される第2の構造単位である。幾つかの実施形態では、本明細書に開示される少なくとも1つのコポリマーは、ポリフッ化ビニリデン-コ-テトラフルオロエチレン(PVDF-コ-TFE)、ポリテトラフルオロエチレン-コ-アクリル酸(PTFE-コ-PAA)、ポリテトラフルオロエチレン-コ-メタクリル酸メチル(PTFE-コ-PMMA)及びPVDF-コ-CTFEから選択され得る。
【0017】
[17] コポリマー中の第1の構造単位の重量パーセント値は、コポリマーの結晶化度及び膨潤比に影響を与えることがある。幾つかの実施形態では、コポリマー中の第1の構造単位の重量パーセント値は、例えば、0.1重量%~20重量%、例えば3重量%~15重量%、さらに例えば5重量%~10重量%の範囲であり得る。
【0018】
[18] 本明細書に開示される少なくとも1つのコポリマーは、粒子の形態であり得る。少なくとも1つのコポリマーの粒度は、本明細書に開示されるコーティングスラリーから形成されるコーティング層の性質に影響を与えることがある。幾つかの実施形態では、本明細書に開示される少なくとも1つのコポリマーは、例えば、0.1μm~20μm、例えば2μm~10μmの範囲の粒度を有する粒子の形態である。
【0019】
[19] 本開示の幾つかの実施形態では、コーティングスラリーは、例えば、PVDFホモポリマー、メタ-アラミド及びパラ-アラミドから選択される少なくとも1つのホモポリマーをさらに含む。メタ-アラミド又はパラ-アラミドがコーティングスラリー中に含まれる場合、そのコーティングスラリーから製造されるセパレータは、改善された耐熱性を有することができる。
【0020】
[20] 本明細書に開示されるコーティングスラリーは、例えば、5重量%~30重量%、例えば10重量%~20重量%の固体物質を含むことができる。本明細書に開示される固体物質は、水を除いたコーティングスラリー中のすべての成分を含む。固体物質は、例えば、70重量%~90重量%、例えば75重量%~85重量%の少なくとも1つのコポリマー、1.5重量%~4重量%、例えば2重量%~3重量%の少なくとも1つの増粘剤及び1重量%~6重量%、例えば2重量%~4重量%の少なくとも1つのバインダーを含むことができる。
【0021】
[21] 本明細書に開示される少なくとも1つの増粘剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリプロピレングリコール(PPG)、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース及びそれらの塩から選択され得る。塩としては、例えば、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC-Na)又はヒドロキシメチルセルロースのナトリウム塩が挙げられる。
【0022】
[22] 本開示の一実施形態では、コーティングスラリーは、PPG及びCMC-Naを増粘剤として含む。例えば、コーティングスラリーの固体物質は、固体物質の全重量を基準として0.5重量%~2重量%、例えば1重量%~1.5重量%のPPG及び1重量%~2重量%、例えば1.2重量%~1.8重量%のCMC-Naを含むことができる。
【0023】
[23] 本明細書に開示される少なくとも1つのバインダーは、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、純アクリレートエマルジョン、ポリ[(アクリル酸)-コ-スチレン]、ポリビニルピロリドン、スチレン-ブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体及びポリスルホンから選択され得る。
【0024】
[24] 本開示の幾つかの実施形態では、コーティングスラリーは、少なくとも1つの湿潤剤、少なくとも1つの分散剤及び/又は少なくとも1つの消泡剤をさらに含むことができる。このような場合、コーティングスラリーは、例えば、5重量%~30重量%、例えば10重量%~20重量%の固体物質を含むことができ、固体物質は、70重量%~90重量%、例えば75重量%~85重量%の少なくとも1つのコポリマー、1.5重量%~4重量%、例えば2重量%~3重量%の少なくとも1つの増粘剤、1重量%~6重量%、例えば2重量%~4重量%の少なくとも1つのバインダー、0.5重量%~1.5重量%、例えば0.8重量%~1.2重量%の少なくとも1つの湿潤剤及び0.5重量%~5重量%、例えば2重量%~4重量%の少なくとも1つの分散剤を含むことができる。本明細書に開示されるコーティングスラリーは、少なくとも1つのコポリマー、増粘剤及び水を混合して、第1の混合物を得ることと、次に少なくとも1つの分散剤及び/又は少なくとも1つの消泡剤、少なくとも1つのバインダー並びに少なくとも1つの湿潤剤を連続して第1の混合物に加えることとによって製造することができる。
【0025】
[25] 本明細書に開示される少なくとも1つの湿潤剤は、例えば、硫酸化油、脂肪酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ダイズレシチン、チオール、ヒドラジド及びメルカプタールから選択される界面活性剤であり得る。
【0026】
[26] 本明細書に開示される少なくとも1つの分散剤は、例えば、シリケート、アルカリホスフェート、リン酸トリエチルヘキシル、ドデシル硫酸ナトリウム、メチルペンタノール、セルロース誘導体、ポリアクリルアミド、グアーガム及び脂肪酸ポリグリコールエステルから選択され得る。シリケートの一例は、ケイ酸ナトリウムである。本明細書に開示されるアルカリホスフェートは、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム及びピロリン酸ナトリウムの少なくとも1つであり得る。
【0027】
[27] 本明細書に開示される少なくとも1つの消泡剤は、例えば、モノステアリン酸グリセリル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、乳化シリコーン油、長鎖脂肪酸エステル錯体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンペンタエリトリトールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル及びポリジメチルシロキサンから選択され得る。
【0028】
[28] 本開示は、本明細書に開示されるコーティングスラリーを使用して、電気化学デバイスのためのセパレータを製造する方法の幾つかの代表的な実施形態をさらに提供する。一実施形態では、本明細書に開示される方法は、
(A)少なくとも1つのコポリマー及び少なくとも1つの溶媒を含む、本明細書に開示されるコーティングスラリーを製造することと;
(B)多孔質ベース膜の少なくとも1つの側の上にこのコーティングスラリーを塗布して、湿潤コーティング層を得ることと;
(C)湿潤コーティング層から少なくとも1つの溶媒を除去することと
を含む。
【0029】
[29] ステップ(A)では、前述のように、コーティングスラリーは、少なくとも1つのコポリマー、少なくとも1つの増粘剤、少なくとも1つのバインダー、水及び任意選択の成分を混合して、混合物を得ることによって製造することができる。少なくとも1つのコポリマーが水中に分散することを少なくとも理由として、コーティングスラリーは、懸濁液であり得る。
【0030】
[30] 本明細書に開示されるコーティングスラリーは、例えば、すべての成分、すなわち少なくとも1つのコポリマー、少なくとも1つの増粘剤、少なくとも1つのバインダー及び水を混合することによって製造することができる。これらの成分を加える順序は、コーティングスラリーの性質に影響することがある。一実施形態では、コーティングスラリーは、
(A1)少なくとも1つのコポリマー及び少なくとも1つの増粘剤を混合して、第1の混合物を得ることと;
(A2)第1の混合物を水中に分散させて、第2の混合物を得ることと;
(A3)少なくとも1つのバインダーを第2の混合物中に加えることと;
(A4)任意選択で、少なくとも1つの湿潤剤を第2の混合物中に加えることと
によって製造される。
【0031】
[31] ステップ(A1)において、少なくとも1つのコポリマー及び少なくとも1つの増粘剤の混合は、ペースト、すなわち第1の混合物を得るための撹拌及び/又は混練によって行うことができる。混合後、少なくとも1つの増粘剤は、少なくとも1つのコポリマーで包まれる場合がある。
【0032】
[32] ステップ(A2)において、第1の混合物を水中に分散させることで、第2の混合物が得られる。分散は、例えば、撹拌、混練又は粉砕によって行うことができる。幾つかの実施形態では、第1の混合物の分散を向上させるために、上記開示の少なくとも1つの分散剤及び/又は少なくとも1つの消泡剤を水中に加えることができる。
【0033】
[33] ステップ(B)において、ステップ(A)で製造されたコーティングスラリーが多孔質ベース膜の少なくとも1つの側の上に塗布される。ローラーコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング又はそれらの組み合わせなど、当技術分野において周知のあらゆるコーティング方法を使用して、多孔質ベース膜にコーティングスラリーをコーティングすることができる。ローラーコーティングの例としては、グラビアコーティング、シルクスクリーンコーティング及びスロットダイコーティングが挙げられる。コーティング速度は、例えば、5~100m/分、例えば15~80m/分の範囲内に制御することができる。多孔質ベース膜の両側にコーティングスラリーがコーティングされる場合、それらの両側は、同時に又は順次コーティングすることができる。
【0034】
[34] ステップ(C)において、熱蒸発、真空蒸発又はそれらの組み合わせなど、当技術分野において周知の用法により、湿潤コーティング層から水を除去することができる。少なくとも1つの溶媒が除去される場合、多孔質構造を有する乾燥コーティング層を形成することができる。
【0035】
[35] 本明細書に開示される熱蒸発は、閉じたオーブン中又は開放されたオーブン中で行うことができる。例えば、コーティングされた多孔質ベース膜を多段開放オーブン、例えば3段オーブンに予め決定された速度で通すことである。3段オーブンは、その第1段で45~55℃の範囲の温度、その第2段で55~65℃の範囲の温度及びその第3段で50~60℃の範囲の温度を有することができる。一例では、3段オーブンは、第1段、第2段及び第3段でそれぞれ50℃、60℃及び55℃の温度を有する。水は、熱蒸発及び真空蒸発の組み合わせで除去することもできる。例えば、湿潤コーティング層から水を除去するために、コーティングスラリーがコーティングされた多孔質ベース膜は、予め決定された時間にわたり、真空オーブンに入れることができる。真空オーブンの圧力及び温度は、除去される水の量によって決定することができる。
【0036】
[36] 本明細書に開示される方法により、多孔質ベース膜の少なくとも1つの側に乾燥した多孔質のコーティング層を形成することができる。上記開示の方法によって製造されるセパレータは、多孔質ベース膜と、多孔質ベース膜の少なくとも1つの側の上に形成されるコーティング層とを含む。
【0037】
[37] 本明細書に開示される「少なくとも1つの側」は、多孔質ベース膜の一方の側又は両側の上にコーティング層が配置されることを意味し、そのコーティング層は、多孔質ベース膜に直接接触しても又は直接接触しなくてもよい。本明細書に開示されるセパレータは、積層構造を有することができる。本開示の幾つかの実施形態では、コーティング層は、多孔質ベース膜に直接接触しており、すなわち、コーティング層は、多孔質ベース膜の少なくとも1つの表面上に直接形成される。幾つかの実施形態では、多孔質ベース膜の一方の表面のみにコーティング層がコーティングされる場合、本明細書に開示されるセパレータは、2層構造を有することができる。多孔質ベース膜の両面にコーティング層がコーティングされる場合、セパレータは、3層構造を有することができる。幾つかの別の実施形態では、コーティング層は、多孔質ベース膜に直接接触しておらず、すなわち、本明細書に開示されるセパレータは、コーティング層と多孔質ベース膜との間に配置される少なくとも1つの追加層(例えば、接着層)をさらに含む。さらに別の一実施形態では、本明細書に開示されるセパレータは、コーティング層の外面上に配置される少なくとも1つの追加層(例えば、接着層)をさらに含むことができる。
【0038】
[38] 本明細書に開示されるコーティング層は、気体、液体又はイオンがコーティング層の一方の表面側から他方の表面側まで通過可能な細孔構造を有する。コーティング層中の細孔の平均サイズは、例えば、0.1~100μm、例えば1~10μmの範囲であり得る。コーティング層の多孔度は、例えば、10%~60%、例えば20%~40%の範囲であり得る。コーティング層は、例えば、50~400秒/100ml、例えば100~250秒/100mlの範囲の通気性を有することができる。さらに、多孔質ベース膜の一方の側の上のコーティング層は、例えば、0.5~5μm、例えば2~4μmの範囲の厚さを有することができる。
【0039】
[39] 本明細書に開示される多孔質ベース膜は、例えば、0.5~50μm、例えば0.5~20μm、さらに例えば5~18μmの範囲の厚さを有することができる。多孔ベース膜は、気体、液体又はイオンが一方の表面側から他方の表面側まで通過できる多数の細孔を内部に有することができる。
【0040】
[40] 本開示の幾つかの実施形態では、ポリオレフィンベースの多孔質膜が多孔質ベース膜として使用される。ポリオレフィンベースの多孔質膜中に含まれるポリオレフィンの例としては、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、ポリペンテン、ポリメチルペンテン(TPX)、それらのコポリマー及びそれらの混合物を挙げることができる。本明細書に開示されるポリオレフィンは、例えば、50,000~2,000,000、例えば100,000~1,000,000の範囲の重量平均分子量(Mw)を有することができる。ポリオレフィンベースの多孔質ベース膜中の細孔は、例えば、20~70nm、例えば30~60nmの範囲の平均孔径を有することができる。ポリオレフィンベースの多孔質ベース膜は、例えば、25%~50%、例えば30%~45%の範囲の多孔度を有することができる。さらに、ポリオレフィンベースの多孔質ベース膜は、例えば、50~400秒/100ml、例えば80~300秒/100mlの範囲の通気性を有することができる。さらに、ポリオレフィンベースの多孔質膜は、単層構造又は多層構造を有することができる。多層構造のポリオレフィンベースの多孔質膜は、異なる種類のポリオレフィン又は異なる分子量を有する同じ種類のポリオレフィンを含む少なくとも2つの積層されたポリオレフィンベースの層を含むことができる。本明細書に開示されるポリオレフィンベースの多孔質膜は、当技術分野において周知の方法により製造することができるか、又は市場で直接購入することができる。
【0041】
[41] 幾つかの別の実施形態では、不織膜が多孔質ベース膜の少なくとも一部を形成することができる。「不織膜」という用語は、内部でウェブ構造を形成する複数の不規則に分布した繊維を含む平坦なシートを意味する。これらの繊維は、一般に、互いに結合している場合も又は結合していない場合もある。繊維は、短繊維(すなわち10cm以下の長さの不連続な繊維)又は連続繊維であり得る。繊維は、1種類の材料を含むことができるか、又は異なる繊維の組み合わせ若しくはそれぞれ異なる材料から構成される類似の繊維の組み合わせのいずれかの複数の材料を含むことができる。本明細書に開示される不織膜の例は、寸法安定性を示すことができ、すなわち100℃に約2時間加熱した場合に5%未満の熱収縮を示すことができる。不織膜は、例えば、0.1~20μm、例えば1~5μmの範囲の比較的大きい平均孔径を有することができる。不織膜は、例えば、40%~80%、例えば50%~70%の範囲の多孔度を有することができる。さらに、不織膜は、例えば、500秒/100ml未満、例えば0~400秒/100mlの範囲、さらに例えば0~200秒/100mlの範囲の通気性を有することができる。不織膜の幾つかの例は、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、ポリペンテン、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ビスコース繊維、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンナフタレン(PEN)、セルロース繊維、それらのコポリマー及びそれらの混合物から選択されるものから形成される。一例では、PETから形成された不織膜が多孔質ベース膜として使用される。本明細書に開示される不織多孔質膜は、エレクトロブローイング、エレクトロスピニング若しくはメルトブローイングなど、当技術分野において周知の方法により製造することができるか、又は市場で直接購入することができる。
【0042】
[42] 本明細書に開示されるセパレータの厚さに関して特に限定されず、セパレータの厚さは、電気化学デバイス、例えばリチウムイオン電池の要求を考慮して制御することができる。
【0043】
[43] 本明細書に開示されるコーティングスラリーは、有機溶媒が使用されない水性スラリーである。したがって、本明細書に開示されるセパレータを製造する方法は、環境に優しい。本明細書に開示されるセパレータは、比較的高い結晶化度及び比較的低い膨潤比の少なくとも1つのコポリマーを含む、多孔質ベース膜の少なくとも1つの側の上のコーティング層を含む。コーティング層中に少なくとも1つのコポリマーが存在することで、セパレータは、非水性電解質を含浸させた後でも電極との優れた接着性及び良好な接触界面を有することができる。したがって、本開示のセパレータを使用する電気化学デバイスは、改善された機械的強度、低い内部抵抗及び改善されたサイクル性能を有することができる。本明細書に開示されるセパレータは、幅広い用途を有することができ、多くの据え置き型及び携帯型の装置中の高エネルギー密度及び/又は高出力密度の電池、例えば自動車用電池、医療機器用電池及び他の大型装置のための電池の製造に使用することができる。
【0044】
[44] 本開示は、正極、負極及び正極と負極との間に配置される、本明細書に開示されるセパレータを含む電気化学デバイスの実施形態をさらに提供する。本開示の電気化学デバイス中に電解質がさらに含まれ得る。2つの電極間の物理的接触及び短絡の発生を防止するために、セパレータが正極と負極との間に挟まれる。セパレータの多孔質構造により、2つの電極間でのイオン電荷担体(例えば、リチウムイオン)の通過が保証される。さらに、セパレータは、電気化学デバイスに対する機械的支持体となることもできる。このような電気化学デバイスとしては、電気化学反応が起こるあらゆるデバイスが挙げられる。例えば、本明細書に開示される電気化学デバイスとしては、一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池及びキャパシタが挙げられる。幾つかの実施形態では、本明細書に開示される電気化学デバイスは、リチウム二次電池、例えばリチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、リチウム金属二次電池、リチウム空気二次電池及びリチウム硫黄二次電池である。本開示のセパレータを内部に有すると、本明細書に開示される電気化学デバイスは、前述のような改善されたサイクル寿命を示すことができる。
【0045】
[45] 本明細書に開示される電気化学デバイスは、当技術分野において周知の方法によって製造することができる。一実施形態では、正極と負極との間に本開示のセパレータを配置することによって電極組立体が形成され、その電極組立体中に電解質が注入される。電極組立体は、巻き取りプロセス又は積層(積み重ね)及び折りたたみのプロセスなど、当技術分野において周知の方法によって形成することができる。
【0046】
[46] ここで、以下の実施例が詳細に参照される。以下の実施例は、単に説明的なものであり、本開示がそれらに限定されるものではないことを理解されたい。
【実施例】
【0047】
[47]実施例1
[48] TFEから誘導される5重量%の構造単位と、フッ化ビニリデンから誘導される95重量%の構造単位とを含むPVDF-コ-TFEを調製した。0.9kgのPVDF-コ-TFE、1.6kgのCMC-Na(1重量%、溶媒:水)及び0.075kgのPPG溶液(12重量%、溶媒:水)を泡立て器で混合し、混練してペーストを得た。このペーストを17.25kgの水中に加えて第1の混合物を得た。第1の混合物の粉砕機による撹拌及び粉砕を3回行った。次に、バインダーとしての0.17kgのポリアクリル酸及び湿潤剤としての0.12kgのスルホコハク酸ラウリル二ナトリウムを第1の混合物中に加えて、固形分が5重量%のコーティングスラリーを得た。
【0048】
[49] 厚さが12μmのPE膜を多孔質ベース膜として使用した。30m/分の速度のグラビアコーティングプロセスにより、上記で作製したコーティングスラリーをPE膜の一方の表面上にコーティングした。第1段、第2段及び第3段においてそれぞれ50℃、60℃及び55℃の温度を有する3段オーブンに通すことにより、コーティングしたPE膜を乾燥させた。厚さが13μmのセパレータを作製した。
【0049】
[50] 上記で作製したセパレータを、正極としてのマンガン酸リチウム(LiMn2O4)と負極としての人造黒鉛との間に配置し、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びジメチルカーボネート(DMC)の、EC:DEC:DMC=1:1:1の重量比の電解質混合物を注入することにより、リチウムイオン電池を作製した。
【0050】
[51]実施例2
[52] TFEから誘導される10重量%の構造単位と、フッ化ビニリデンから誘導される90重量%の構造単位とを含むPVDF-コ-TFEを調製した。1.63kgのPVDF-コ-TFE、2.88kgのCMC-Na(1重量%、溶媒:水)及び0.136kgのPPG溶液(12重量%、溶媒:水)を泡立て器で混合し、混練してペーストを得た。ペーストを15kgの水中に加えて第1の混合物を得た。第1の混合物の粉砕機による撹拌及び粉砕を3回行った。次に、バインダーとしての0.3kgのポリアクリル酸及び湿潤剤としての0.15kgのスルホコハク酸ラウリル二ナトリウムを第1の混合物中に加えて、固形分が9重量%のコーティングスラリーを得た。
【0051】
[53] 実施例1で前述したものと同じ手順を用いて、セパレータ及びリチウムイオン電池を作製した。セパレータの厚さは、14μmであり、そのコーティング層の厚さは、2μmであった。
【0052】
[54]実施例3
[55] TFEから誘導される15重量%の構造単位と、フッ化ビニリデンから誘導される85重量%の構造単位とを含むPVDF-コ-TFEを調製した。3.5kgのPVDF-コ-TFE、2.5kgのCMC-Na(1重量%、溶媒:水)及び0.6kgのPPG溶液(12重量%、溶媒:水)を泡立て器で混合し、混練してペーストを得た。このペースト及び分散剤としての0.6kgのポリアクリルアミドを10kgの水中に加えて第1の混合物を得た。第1の混合物の粉砕機による撹拌及び粉砕を3回行った。次に、バインダーとしての0.6kgのポリアクリル酸及び湿潤剤としての0.13kgのスルホコハク酸ラウリル二ナトリウムを第1の混合物中に加えて、固形分が19重量%のコーティングスラリーを得た。
【0053】
[56] 実施例1で前述したものと同じ手順を用いて、セパレータ及びリチウムイオン電池を作製した。セパレータの厚さ、14μmであり、そのコーティング層の厚さは、2μmであった。
【0054】
[57]比較例1
[58] ヘキサフルオロプロピレン(HFP)から誘導される5重量%の構造単位と、フッ化ビニリデンから誘導される95重量%の構造単位とを含むPVDF-コ-HFPを調製した。0.9kgのPVDF-コ-HFP、1.6kgのCMC-Na(1重量%、溶媒:水)及び0.075kgのPPG溶液(12重量%、溶媒:水)を泡立て器で混合し、混練してペーストを得た。このペーストを17.25kgの水中に加えて第1の混合物を得た。第1の混合物の粉砕機による撹拌及び粉砕を3回行った。次に、バインダーとしての0.17kgのポリアクリル酸及び湿潤剤としての0.12kgのスルホコハク酸ラウリル二ナトリウムを第1の混合物中に加えて、固形分が5重量%のコーティングスラリーを得た。
【0055】
[59] 実施例1で前述したものと同じ手順を用いて、セパレータ及びリチウムイオン電池を作製した。セパレータの厚さは、13μmであり、そのコーティング層の厚さは、1μmであった。
【0056】
[60]比較例2
[61] ヘキサフルオロプロピレン(HFP)から誘導される10重量%の構造単位と、フッ化ビニリデンから誘導される90重量%の構造単位とを含むPVDF-コ-HFPを調製した。2.17kgのPVDF-コ-HFP、3.84kgのCMC-Na(1重量%、溶媒:水)及び0.181kgのPPG溶液(12重量%、溶媒:水)を泡立て器で混合し、混練してペーストを得た。このペーストを13.5kgの水中に加えて第1の混合物を得た。第1の混合物の粉砕機による撹拌及び粉砕を3回行った。次に、バインダーとしての0.4kgのポリアクリル酸及び湿潤剤としての0.15kgのスルホコハク酸ラウリル二ナトリウムを第1の混合物中に加えて、固形分が12重量%のコーティングスラリーを得た。
【0057】
[62] 実施例1で前述したものと同じ手順を用いて、セパレータ及びリチウムイオン電池を作製した。セパレータの厚さは、14μmであり、そのコーティング層の厚さは、2μmであった。
【0058】
[63]比較例3
[64] ヘキサフルオロプロピレン(HFP)から誘導される15重量%の構造単位と、フッ化ビニリデンから誘導される85重量%の構造単位とを含むPVDF-コ-HFPを調製した。3.2kgのPVDF-コ-HFP、2.5kgのCMC-Na(1重量%、溶媒:水)及び分散剤としての0.6kgの??を10kgの水中に加えて第1の混合物を得た。第1の混合物の粉砕機による撹拌及び粉砕を3回行った。次に、バインダーとしての1kgのポリアクリル酸及び湿潤剤としての0.15kgのスルホコハク酸ラウリル二ナトリウムを第1の混合物中に加えて、固形分が31重量%のコーティングスラリーを得た。
【0059】
[65] 実施例1で前述したものと同じ手順を用いて、セパレータ及びリチウムイオン電池を作製した。セパレータの厚さは、14μmであり、そのコーティング層の厚さは、2μmであった。
【0060】
[66]比較例4
[67] TFEから誘導される5重量%の構造単位と、フッ化ビニリデンから誘導される95重量%の構造単位とを含むPVDF-コ-TFEを調製した。0.9kgのPVDF-コ-TFE、1.6kgのCMC-Na(1重量%、溶媒:水)及び0.075kgのPPG溶液(12重量%、溶媒:水)を泡立て器で混合し、混練してペーストを得た。0.5kgのアルミナ粉末を17.25kgの水中に分散させ、次に上記ペーストを加えて第1の混合物を得た。第1の混合物の粉砕機による撹拌及び粉砕を3回行った。次に、バインダーとしての0.17kgのポリアクリル酸及び湿潤剤としての0.12kgのスルホコハク酸ラウリル二ナトリウムを第1の混合物中に加えて、固形分が5.5重量%のコーティングスラリーを得た。
【0061】
[68] 実施例1で前述したものと同じ手順を用いて、セパレータ及びリチウムイオン電池を作製した。セパレータの厚さは、13μmであり、そのコーティング層の厚さは、1μmであった。
【0062】
[69] 実施例1~3及び比較例1~4のコポリマー、セパレータ及びリチウムイオン電池に対して、以下の方法を用いて試験を行った。
【0063】
[70] モデル番号TA DSC Q2000で示差走査熱量測定を用いて、コポリマーの結晶化度の試験を行った。
【0064】
[71] 以下の方法により、コポリマーの膨潤比の試験を行った。最初にコポリマーをDMAC中に溶解させ、次に水で抽出することによってDMACを除去して、多孔質膜を得た。この多孔質膜を切断して試料にして、その試料を秤量した。次に、試料をエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びジメチルカーボネート(DMC)の、EC:DEC:DMC=1:1:1の重量比の非水性電解質混合物中に7日間浸漬して、膨潤した試料を得て、これを秤量した。コポリマーの膨潤比は、
膨潤比(%)=(Ws-Wd)/Wd×100(%)
によって計算され、式中、Wdは、膨潤前の試料の重量であり、Wsは、膨潤した試料の重量である。
【0065】
[72] 以下の方法により、セパレータの界面接着力の試験を行った。セパレータを幅25mm及び長さ100mmの試料に切断し、ホットプレスのためのセパレータの2つの試料を積層し、ホットプレス機中1MPa、100℃において10m/分の速度でホットプレスを行った。積層した2つの試料を分離するために必要な引張力(単位:N)を測定した。接着力(N/m)=引張力/0.025mである。
【0066】
[73] AC電圧降下法を用いて、リチウムイオン電池の内部抵抗の試験を行った。リチウムイオン電池に1KHzの周波数及び50mAの電流を印加した。リチウムイオン電池の電圧をサンプリングした。整流及びフィルタリング後に演算増幅回路に通して、リチウムイオン電池の内部抵抗を計算した。
【0067】
[74] 以下の方法により、リチウムイオン電池のサイクル性能の試験を行った。室温において、リチウムイオン電池に対してそれぞれ0.5Cにおける充電及び放電を500サイクル行った。以下の式:
容量維持率(%)=(500サイクル後の容量/室温におけるサイクル試験前の容量)×100(%)
を用いて容量維持率を計算した。
【0068】
[75] 実施例1~3及び比較例1~4で作製したコポリマー、セパレータ及びリチウムイオン電池の試験結果を表1にまとめている。
【0069】
【0070】
[77] 表1中に示されるように、実施例1~3において、セパレータの作製に使用したコポリマーは、比較例1~3で使用したコポリマーよりも高い結晶化度及び低い膨潤比を有した。実施例1~3で作製したセパレータは、比較例1~3のものよりも良好な界面接着力を有した。実施例1~3で作製したリチウムイオン電池は、比較例3のものよりもはるかに低い内部抵抗及び良好なサイクル性能を有した。比較例1~3で作製したセパレータは、弱い界面接着力を有し、その結果として、対応するリチウムイオン電池は、高い内部抵抗及び不良なサイクル性能を有した。
【0071】
[78] 比較例4では、セパレータの作製中、コーティングスラリー中に無機フィラーを加えた。表1に示されるように、比較例4で作製したセパレータは、実施例1で作製したセパレータよりも低い界面接着力を有し、これは、コーティング層中に無機フィラーが存在することでセパレータの界面接着力が低下する場合があることを示している。