(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】微小液滴の体積測定
(51)【国際特許分類】
G01N 1/20 20060101AFI20240227BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240227BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240227BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20240227BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
G01N1/20 B
G01N27/62 Z
H01J49/00 360
H01J49/04
H01J49/04 450
H01J49/16 500
(21)【出願番号】P 2020566918
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 IB2019054883
(87)【国際公開番号】W WO2019239332
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-13
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】コービー, トーマス アール.
(72)【発明者】
【氏名】リウ, チャン
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-194396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/20
G01N 27/62
H01J 49/00
H01J 49/16
H01J 49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体サンプルからサンプル液滴を分注する液滴分注器を較正する方法であって、前記方法は、
既知の較正物濃度の較正物を含む液体サンプルを提供することと、
前記液体サンプルから仮定された液滴サイズの液滴を分注することと、
捕捉プローブの進入口において輸送流体液体を用いて前記分注された液滴を捕捉することと、
前記仮定された液滴サイズの液滴をイオン化することと、
質量分析計を使用して、前記イオン化液滴中の較正物の較正物質量を測定することと、
前記仮定された液滴サイズに基づく予期される較正物質量を前記測定された較正物質量と比較することによって、実際の液滴サイズを決定することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記実際の液滴サイズが、ある閾値サイズを上回って前記仮定された液滴サイズから変動していることを決定することと、
前記液滴サイズ相違の大きさおよび符号のうちの少なくとも1つに基づいて、前記液滴分注器の少なくとも1つの液滴分注器パラメータを調節することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記以前に調節された少なくとも1つの液滴分注器パラメータを使用して、前記液体サンプルから後続の仮定された液滴サイズの後続液滴を分注することと、前記後続液滴をイオン化することと、前記イオン化された後続液滴中の較正物の後続較正物質量を測定することと、前記仮定された後続液滴サイズに基づく予期される後続較正物質量を前記測定された後続較正物質量と比較することによって、実際の後続液滴サイズを決定することと、前記実際の後続液滴サイズが前記閾値サイズを下回って前記仮定された液滴サイズから変動するまで、前記液滴分注器の前記少なくとも1つの液滴分注器パラメータを調節することとを繰り返し行うことをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分注された液滴を前記輸送流体
液体とともに前記質量分析計のイオン化チャンバに輸送するこ
と
をさらに含む、請求項1-3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記
液滴分注器は、音響液滴分注器を備えている、請求項1-4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記捕捉プローブは、サンプルを捕捉するために輸送流体
液体を外側導管を通してサンプル処理領域に供給し、輸送流体
液体および捕捉されたサンプルを受け取り、エレクトロスプレーイオン化源に輸送する同軸開放ポートプローブ(OPP)を備えている、請求項1-5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
基準化合物を前記輸送流体
液体に導入することをさらに含む、請求項1-6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
流体分注器によって分注される流体の体積を測定するためのシステムであって、前記システムは、
前記流体分注器から流体の分注された体積を受け取り、
輸送流体液体の中に捕捉するための捕捉プローブであって、
前記捕捉プローブは、進入口を有し、前記流体の分注された体積は、較正標準を含む、捕捉プローブと、
前記流体の捕捉された体積をイオン化するためのイオン化源と、
前記流体のイオン化された体積内に含まれる
較正物の質量を測定するための質量分析計と
を備えている、システム。
【請求項9】
前記捕捉
プローブの輸送流体
液体の中に導入された既知の濃度の基準化合物をさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記較正物の質量に基づいて、前記流体の測定された体積を決定するようにさらに動作可能である、請求項8または請求項
9に記載のシステム。
【請求項11】
前記較正物の前記測定された質量と前記基準化合物の測定された量との比率に基づいて、前記流体の前記測定された体積を決定するようにさらに動作可能である、請求項
9に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、微小液滴の分野に関する。特に、本願は、質量分析を使用して分注された微小液滴の体積を測定するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小流体分注は、検査のためにバルク流体サンプルから小体積の流体を抽出するための流体の制御および操作に関する。微小流体分注は、1980年代初頭に出現し、他の分野の中でもとりわけ、インクジェット印刷、DNAマイクロアレイ、ラボオンチップ技術、3D印刷ヘッド、医薬品ライブラリのマイクロタイタプレート複製および再フォーマット、個々の細胞および細胞溶解液の分注等の多様な範囲の分野において使用されている。
【0003】
微小流体分注は、成長および進化し続けており、現在、多くの場合、非接触方法を介して非常に精密な体積を送達する方法を介して、ますます小さい体積の流体を分注することが可能である。微小流体分注は、試薬が高価である分野、または限定された量において利用可能である分野、および、高速および高処理能力が望ましい用途において特に有用である。例として、高処理能力スクリーニング(HTS)および薬理学的に関連する投与/分布/代謝/排泄(ADME)性質の特性評価を含む薬物開発および発見が、次世代遺伝子配列決定に関連する分野を有するので、これらの理由から微小流体分注を取り入れている。より最近において、本発明者らは、質量分析計等の分析測定ツールにサンプルを導入するために、微小流体分注技術を組み込んでいる。
【0004】
微小流体分注の基本的動作は、比較的に大きい「バルク」サンプルからの小体積のサンプル材料の分離を伴う。サンプル材料は、異なる形態において、例えば、単一の分離した液滴、液滴の群、ミスト、またはサンプル材料の他の物理的配列として分注され得る。サンプル材料を分離するために使用される具体的機構に応じて、異なる分注形態が、各分注で多かれ少なかれ再現可能であり得る。
【0005】
例えば、液滴による分注が、ピコリットル範囲と同程度に小さい分離した液滴を分注するために使用されている。サンプルから低体積液滴を送達するための最も一般的なタイプのシステムのうちのいくつかは、噴射または動的デバイスとして広く特徴付けられ、例は、例えば、音響技術、圧電技術、圧力駆動技術、空気駆動ポンプ/弁技術、電場駆動技術等を含む。これらの分注デバイスの全ては、バルクサンプル流体から所望のサンプル体積を液滴または複数の液滴の形態において破壊するために、バルクサンプルの中に向けられる測定された量のエネルギーを伝達する。
【0006】
バルクサンプル流体から液滴を分注するために要求されるエネルギーの量は、バルク流体の流体性質に関連し、粘度および表面張力が、主要な考慮事項である。
分注デバイスによって発生させられ、バルクサンプル流体の中に伝達されるエネルギーを制御する分注パラメータは、バルクサンプル流体から抜け出すために十分にエネルギーを与えられた標的化液滴体積を送達するために、そのバルクサンプル流体の流体性質に具体的に合わせられる必要がある。
【0007】
問題の複雑さに起因して、所与のバルクサンプル流体に関する所望の液滴体積に対応する具体的分注パラメータの選択は、1つ以上の分注パラメータの経験的調整プロセス、すなわち、1つ以上の液滴を分注すること、1つ以上の液滴の分注された体積を測定すること、分注パラメータを調節すること、およびバルクサンプル流体に関する所望の液滴体積を一貫して送達する分注パラメータが識別されるまでその一続きを反復的に繰り返すことによって達成される。使用される分注技術にかかわらず、分注パラメータは、1つの分注パラメータの調節が他の分注パラメータの調整に影響を及ぼし得るので、多くの場合、互いに依存し、この調整プロセスを非常にパラメトリックにする。
【0008】
音響液滴分注は、1つのマイクロタイタプレートから別のものに液体サンプルを移すために、いわゆるプレート複製および再フォーマットのために商業的に使用される。分注器も、種々の構成の試験管からマイクロタイタプレートの中にサンプルを移すために開発されている。本発明者らは、質量分析計による質量分析のための収集および移送のために、制御された体積のサンプルを捕捉プローブの中に向けるために、音響液滴分注を使用している。
【0009】
液体分注の例として、音響液滴分注(ADD)は、マイクロタイタプレート内のサンプルウェルから、第2のマイクロタイタプレート内の対応するサンプルウェルに、非接触の体積的に正確かつ精密な液滴を移すために使用される技法である。音波の形態におけるエネルギーの使用は、条件が非常に制御されているとき、分離した液滴の形態における流体の移送が、非接触であり、体積的に正確かつ精密であることを可能にする。マイクロタイタプレート内の典型的なウェル密度は、マイクロタイタプレートあたり96、384、および1,536個のウェルであり、分注のための典型的な液滴体積は、1~20nL範囲内である。
【0010】
20nLより大きい体積は、これらの液滴の断片化が、流体不安定性に起因して脱離後に起こるであろうことを期待して分注されることができる。複数の液滴が、所望の分注体積に到達するように蓄積するために、標的ウェルに連続的に分注されることができる。製薬会社の研究および開発機関は、生物学的活性に関してスクリーニングするHTSアッセイおよび薬理学的性質を決定するADMEアッセイにおいてさらに試験されるように、それらの大規模薬物ライブラリから、典型的に、ジメチルスルホキシド中に溶解される小体積の化合物を分注するためにこの方法を広範に使用する。
【0011】
音響分注器は、例えば、RF電力を用いて通電される圧電振動子によって、金属レンズを通して、結合流体を通してサンプルウェルの底部に伝達される音波を生み出す。結合流体は、音波がガス状媒体を通して急速に減速するので、空隙が回避されなければならないので、金属レンズをサンプルウェルの底部に接続するために使用される。音波は、サンプルウェル(種々の適合性プラスチックまたは他の材料から成るのみならず、広い範囲の厚さおよび形状も有し得る)の底部を通して伝搬し、次いで、サンプルの流体を通して表面におけるメニスカスまで進行する。この時点で、音波が液体-ガスインターフェースにおいて減速するので、圧力擾乱が起こり、それは、適切な条件下で、表面の数センチメートル上方に、精密かつ再現可能な様式で既知の体積の液滴を正確に出射するであろう。
【0012】
空気圧または圧力ベースの液滴分注器等の他の液滴分注器の動作は、分注されている液体サンプルの物理的パラメータに基づいて、液滴分注において同様に変動し得る。
【0013】
分注器の動作は、その分注器タイプに関係するいくつかの物理的パラメータを調節することによって制御され得る。例えば、音響分注器は、液体サンプルから液滴を発生させるために、周波数、出力、方向、持続時間またはバースト率、集束場所等を変動させ得る。異なる流体性質および深さを伴う液体から所望の液滴体積を繰り返し送達するために、分注デバイスの動作パラメータを設定することにおいてこれらの物理的パラメータのために使用する値の内容を決定することは、較正と称されるプロセスである。サンプル、プレート、および環境性質における変動は、補償するために物理的パラメータの調節を必要とする。所望の液滴体積を送達するために、物理的パラメータのために使用する値の内容を決定することは、「較正」と称されるプロセスである。
【0014】
例えば、音響分注器の場合、音響パラメータの較正が、正確かつ精密な液滴体積を再現可能に分注するために、要求される。液滴体積測定は、較正プロセスの中心となる。異なる流体性質を伴うサンプルは、独特の較正ファイルを要求し、独特の較正ファイルが、サンプルの異なる深さにおいて要求される。音波周波数、出力、エネルギー持続時間(繰り返しまたはバースト率)、焦点、および器具における圧電トランスデューサおよびレンズ要素の個々の特性の全ては、分注される液滴の体積に影響を及ぼす。規定された液滴体積を送達するためのこれらのパラメータの値は、バルク溶液の粘度および表面張力性質に強く依存する。この理由により、較正ファイルが、異なる粘度を有する異なる液体のために要求される。較正ファイルは、サンプルウェル内の特定の流体の異なる深さのためにも要求され得る。何故なら、エネルギーが、それが流体を通して、エネルギーが液滴を出射するために堆積させられる表面に進行するとき、放散するからである。較正ファイルは、圧電トランスデューサおよび関連付けられるレンズアセンブリの製造における変動に起因して、各個々の器具に特有である。
【0015】
較正は、物理的パラメータ(例えば、音響出力、周波数、繰り返しまたは「バースト」率、およびサンプル液体の表面の近傍の点へのレンズを用いた波の焦点)を調節することを伴う複数ステップの反復プロセスである。それらの値は、サンプル流体の粘度によって影響を受け、サンプル流体の粘度は、サンプル液体の表面張力、したがって、液滴を出射するために要求される出力を改変するであろう。サンプル、プレート、および環境性質における変動は、補償するために物理的パラメータの調節を必要とする。
【0016】
各体積測定後、音響出力、周波数、および繰り返しまたは「バースト」率の物理的パラメータは、反復的に調節され、体積測定は、繰り返される。正しい体積に近づくにつれて、より少ない調節が、要求される。最終的に、1つのみのパラメータが、微調整を必要とし、全ての他パラメータは、固定値のままであり、プロセスのパラメトリック性質を低減させる。いくつかの方法は、周波数および出力を固定した状態に保ち、バースト率および焦点距離のみを調節することを提供するが、全てのこれらのパラメータは、標的化液滴体積を達成するために調節され得る。
【0017】
加えて、波が表面まで進行しなければならない距離は、波の焦点の位置に影響を及ぼすであろうが、焦点の位置は、集束レンズを位置付けることによって制御される。距離は、ウェル内のサンプルの体積の関数であり、それは、サンプルが、分注され、蒸発し、または、アッセイの性質に起因してサンプル毎に変動するにつれて経時的に変化し得る。この距離は、各ウェルのために正確に決定され、レンズ位置によって調節されなければならない。これは、音波の反射が検出器としての役割も果たす圧電エミッタに戻るまでにかかる時間を測定することによって行われる。表面までの距離は、次いで、サンプル流体中の音速が既知である場合、計算されることができる。多くのタイプの流体混合物に関して、音速は、未知であるので、器具によって測定されなければならない。任意のサンプル流体中の音速を決定することは、較正プロセスの最初のステップである。これが既知のバルクサンプル組成物に関して決定されると、データは、記憶され、分析されるべき全てのウェルにおける流体深さを決定するために使用される。音速が特定の流体中で決定されると、それは、繰り返される必要性はない。
【0018】
従来の較正動作は、典型的に、工場または現場において保守エンジニアによって行われ、保守エンジニアは、一連の反復プロトコル、UV吸収化合物または発光蛍光体の標準化基準溶液、および光の透過、吸収、または放出を測定する分光光度計を採用し、液滴体積に変換され得る分注された液滴の濃度を決定する。所定の数の液滴、典型的に、10~200個の液滴が、発光または吸収基準溶液を含むサンプルから発射され、次いで、サンプルは、液滴の総体積をはるかに上回る既知の体積に希釈され、濃度が、分光光度計を用いて決定される。音響分注がプレート複製または再フォーマット用途のために使用されるとき、サンプル流体組成物が、明確に定義され、均一な、一般的に100%のDMSOであり、それ以外であることが殆どないので、較正は、概して、問題ではなかった。この溶媒中の医薬品ライブラリ化合物の濃度は、流体粘度に実質的に影響を及ぼすほど十分に高くない。
【0019】
流体組成物が明確に定義されず、サンプル間で変動し得る場合、新しい較正ファイルを作成するために使用されるパラメータは、十分に異なる流体性質を有するサンプルに遭遇する度に経験的に決定される必要があり得る。小さい変動は、水性溶媒中の生物学的溶質によって導入される流体性質に起因して、例えば、異なる患者からの血漿または培養の異なる時点において採取される発酵培地からのサンプルにおいて、大きい影響を及ぼし得る。異なる溶媒割合を有するサンプル、例えば、アルコールと水との異なる組み合わせは、異なる較正ファイルを必要とする。数パーセントの変動は、異なる較正ファイルを要求し得る。商業的に入手可能な音響的に分注されるプレートレプリケータ器具は、限定された数の液体に関して製造現場において確立された較正ファイルを提供する。
【0020】
新しい較正ファイルは、異なる材料組成および寸法を有する異なるタイプのサンプルプレートが使用されるときにも要求され、音波が横断するウェルの底部の厚さおよび組成は、特に重要である。加えて、別個の較正ファイルが、ウェル内の流体の異なる深さにおいて要求される。典型的に、いくつかの分注器に関して、100個の別個の較正ファイルが、384プレートウェルにおける流体の異なる深さにおいて記録されるであろう。
【0021】
較正ファイルは、記憶され、再使用され、サンプル組成およびプレートタイプが一定のままである限り、器具上で交換される必要性はない。全ての器具は、圧電発生器および金属(典型的に、アルミニウム)透過/集束レンズのわずかな差異に起因して、独特の設定を有するであろう。
【0022】
サンプル組成が広く変動し得、予測不能である状況において、較正問題は、深刻な障害である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本願の実施形態は、測定された液体サンプルが小さいサンプル液滴の形態においてバルク液体から分注され得、個々の液体サンプル液滴の各々の体積が正確に決定される必要がある液滴発生および分析の分野に関する。いくつかの実施形態において、体積決定は、バルク流体からサンプル液滴を分注する液滴発生器を較正するために使用され得る。いくつかの実施形態において、液滴発生器は、一貫した繰り返し可能な液滴分注を提供するために較正され得る。正確かつ精密な体積測定が、追加のサンプル操作のために、表面上での堆積のために、および液滴の成分に対する分析測定のために使用される予定の液滴のために要求される。
【0024】
いくつかの実施形態において、液滴の正確かつ精密な体積送達のための音響液滴分注器の較正のための方法および装置が、提供される。
【0025】
この理由により、堆積パラメータを迅速に較正する目的のためにリアルタイム様式で液滴体積を正確に測定し得るシステムが、非常に所望される。これは、流体性質がサンプル毎に予測不能な方法で変化し得る生物学的サンプルのために特に重要である。溶質の重量測定質量がサンプルからの液滴において測定されている用途に関して、その液滴の体積を同時に決定する手段が、その濃度を把握するために要求される。
【0026】
いくつかの実施形態において、既知の較正物濃度の較正物を含む液体サンプルを提供することと、液体サンプルから仮定された液滴サイズの液滴を分注することと、仮定された液滴サイズの液滴をイオン化することと、質量分析計を使用して、イオン化液滴中の較正物の較正物質量を測定することと、仮定された液滴サイズに基づく予期される較正物質量を測定された較正物質量と比較することによって、実際の液滴サイズを決定することとを含む液体サンプルからサンプル液滴を分注する液滴分注器を較正する方法が、提供される。
【0027】
いくつかの側面において、方法は、実際の液滴サイズがある閾値サイズを上回って仮定された液滴サイズから変動していることを決定することと、液滴サイズ相違の大きさおよび符号のうちの少なくとも1つに基づいて、液滴分注器の少なくとも1つの液滴分注器パラメータを調節することとを含み得る。いくつかの側面において、方法は、以前に調節された少なくとも1つの液滴分注器パラメータを使用して、液体サンプルから後続の仮定された液滴サイズの後続液滴を分注することと、後続液滴をイオン化することと、イオン化された後続液滴中の較正物の後続較正物質量を測定することと、仮定された後続液滴サイズに基づく予期される後続較正物質量を測定された後続較正物質量と比較することによって、実際の後続液滴サイズを決定することと、実際の後続液滴サイズが閾値サイズを下回って仮定された液滴サイズから変動するまで、液滴分注器の少なくとも1つの液滴分注器パラメータを調節することとを繰り返し行うことを含み得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、流体分注器によって分注される流体の体積を測定するためのシステムが、提供され、システムは、流体分注器から流体の分注された体積を受け取り、捕捉するための捕捉プローブであって、流体の分注された体積は、較正標準を含む、捕捉プローブと、流体の捕捉された体積をイオン化するためのイオン化源と、流体のイオン化された体積内に含まれる較正物の質量を測定するための質量分析計とを備えている。
【0029】
いくつかの側面において、システムは、捕捉流体の輸送流体の中に導入された既知の濃度の基準化合物をさらに含む。
【0030】
いくつかの側面において、システムは、較正物の質量に基づいて、流体の測定された体積を決定するようにさらに動作可能である。
【0031】
いくつかの側面において、システムは、較正物の測定された質量と基準化合物の測定された量との比率に基づいて、流体の測定された体積を決定するようにさらに動作可能である。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
液体サンプルからサンプル液滴を分注する液滴分注器を較正する方法であって、前記方法は、
既知の較正物濃度の較正物を含む液体サンプルを提供することと、
前記液体サンプルから仮定された液滴サイズの液滴を分注することと、
前記仮定された液滴サイズの液滴をイオン化することと、
質量分析計を使用して、前記イオン化液滴中の較正物の較正物質量を測定することと、
前記仮定された液滴サイズに基づく予期される較正物質量を前記測定された較正物質量と比較することによって、実際の液滴サイズを決定することと
を含む、方法。
(項目2)
前記実際の液滴サイズが、ある閾値サイズを上回って前記仮定された液滴サイズから変動していることを決定することと、
前記液滴サイズ相違の大きさおよび符号のうちの少なくとも1つに基づいて、前記液滴分注器の少なくとも1つの液滴分注器パラメータを調節することと
をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記以前に調節された少なくとも1つの液滴分注器パラメータを使用して、前記液体サンプルから後続の仮定された液滴サイズの後続液滴を分注することと、前記後続液滴をイオン化することと、前記イオン化された後続液滴中の較正物の後続較正物質量を測定することと、前記仮定された後続液滴サイズに基づく予期される後続較正物質量を前記測定された後続較正物質量と比較することによって、実際の後続液滴サイズを決定することと、前記実際の後続液滴サイズが前記閾値サイズを下回って前記仮定された液滴サイズから変動するまで、前記液滴分注器の前記少なくとも1つの液滴分注器パラメータを調節することとを繰り返し行うことをさらに含む、項目2に記載の方法。
(項目4)
捕捉プローブからの輸送流体を用いて前記分注された液滴を捕捉することと、
前記分注された液滴を前記輸送流体とともに前記質量分析計のイオン化チャンバに輸送することと
をさらに含む、項目1-3のいずれか1項に記載の方法。
(項目5)
前記流体分注器は、音響液滴分注器を備えている、項目1-4のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
前記捕捉プローブは、サンプルを捕捉するために輸送流体を外側導管を通してサンプル処理領域に供給し、輸送流体および捕捉されたサンプルを受け取り、エレクトロスプレーイオン化源に輸送する同軸開放ポートプローブ(OPP)を備えている、項目1-5のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
基準化合物を前記輸送流体に導入することをさらに含む、項目1-6のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
流体分注器によって分注される流体の体積を測定するためのシステムであって、前記システムは、
前記流体分注器から流体の分注された体積を受け取り、捕捉するための捕捉プローブであって、前記流体の分注された体積は、較正標準を含む、捕捉プローブと、
前記流体の捕捉された体積をイオン化するためのイオン化源と、
前記流体のイオン化された体積内に含まれる前記較正物の質量を測定するための質量分析計と
を備えている、システム。
(項目9)
前記捕捉流体の輸送流体の中に導入された既知の濃度の基準化合物をさらに含む、項目8に記載のシステム。
(項目10)
前記較正物の質量に基づいて、前記流体の測定された体積を決定するようにさらに動作可能である、項目8または項目10に記載のシステム。
(項目11)
前記較正物の前記測定された質量と前記基準化合物の測定された量との比率に基づいて、前記流体の前記測定された体積を決定するようにさらに動作可能である、項目10に記載のシステム。
【図面の簡単な説明】
【0032】
当業者は、下で説明される図面が例証のみを目的とし、本教示の範囲をいかようにも限定することを意図していないことを理解するであろう。
【0033】
【
図1A】
図1Aおよび1Bは、本教示の実施形態の概略図である。
【
図1B】
図1Aおよび1Bは、本教示の実施形態の概略図である。
【0034】
【
図2】
図2は、本教示のシステムのある実施形態を図示する。
【0035】
【
図3】
図3A、3B、および3Cは、本教示の実施形態の種々の向きおよび構成を図示する。
【0036】
【
図4】
図4A、4B、4C、および4Dは、本教示の捕捉プローブの種々の実施形態を図示する。
【0037】
【
図5】
図5および6は、本教示の代替実施形態を図示する。
【
図6】
図5および6は、本教示の代替実施形態を図示する。
【0038】
【
図7】
図7は、サンプルウェルに結合される音響分注器の断面図を描写する。
【0039】
【
図8】
図8は、微小液滴を捕捉プローブの中に分注する液滴分注器の別の実施形態を図示する。
【0040】
【
図9】
図9は、較正物を含むサンプルの測定された信号を図示する。
【0041】
【0042】
【
図11】
図11は、質量分析計内の基準化合物の信号を図示する。
【0043】
【0044】
【0045】
【
図14】
図14は、原位置動態測定のある実施形態を図示する。
【0046】
【
図15】
図15は、原位置動態測定におけるある例からのデータを図示する。
【0047】
【
図16】
図16は、質量分析のためのサンプルウェルからの高周波数分注のある例からの測定データを図示する。
【0048】
【
図17】
図17は、捕捉プローブの中に注入された血漿に関するいかなるイオン抑制も図示しない測定データを図示する。
【0049】
【
図18】
図18は、捕捉プローブの中に注入されたインターフェース活性剤(Tween 20)に関するいかなるイオン抑制も図示しない測定データを図示する。
【0050】
【
図19】
図19は、捕捉プローブのサンプル処理領域の中への液滴分注を図示する簡略化された概略図である。
【0051】
【発明を実施するための形態】
【0052】
いくつかの実施形態において、システムおよび方法が、バルクサンプル流体からのサンプル液滴の分注および分注された液滴の体積測定のために提示される。いくつかの分野において、正確かつ精密な体積測定は、追加のサンプル操作、表面上での堆積、および液滴の成分に対する分析測定のために使用されるために予定される液滴のために要求される。
【0053】
上で記述される問題を例証する目的のために、本願は、音響ベースの非接触分注器を伴う実装を詳細に説明する。本願および例は、主として、音響微小流体分注デバイスを採用する実装を対象とするが、本願は、限定ではないが、音響技術、圧電技術、圧力駆動技術、空気駆動ポンプ/弁技術、および電場駆動技術を含む多種多様な分注技術を想定する。
【0054】
いくつかの実施形態において、システムおよび方法は、個々の液体液滴の体積をピコリットル~マイクロリットル範囲内で正確かつ精密に測定するために提示される。いくつかの実施形態において、システムおよび方法は、液体の流動する流れにおいて微小分注液滴を捕捉し、測定のためにそれらを質量分析計の大気圧イオン源に輸送することを含み得る。液滴および輸送流体中の較正化合物と基準化合物との重量測定質量を決定することによって、各液滴の体積が、決定されることができる。測定は、液滴が10Hzと同程度に高い速度において分注されるとき、リアルタイム体積測定が生じるために十分に高速である。システムおよび方法は、溶媒およびサンプル組成から独立して動作させられ得、多種多様な源からの生物学的流体に適用可能である。
【0055】
本明細書に説明される方法発明は、既知の濃度におけるサンプルに添加される基準標準の重量測定質量を測定するために、質量分析計を使用して、分注された液滴の体積を決定すること、および較正することを伴う。較正パラメータは、液滴が発射される度に調節されることができ、その体積は、質量分析計によって測定され、それらを標的化値に至らせるためのパラメータ調節が、続く。質量分析計は、分析的な測定ツールでもあるので、較正は、サンプル粘度が発酵例で記述されるように非常に予測不能である状況において較正が要求される場合、分析測定に先立って各サンプルに対して行われることができ、別様に「オンザフライ較正」と称される。較正パラメータが、標的化分注体積からわずかしか外れず、小さい偏差をもたらす場合、各サンプルを再較正することの代替は、分析測定中に質量分析計を用いて体積を測定し、わずかな体積の不一致を記録し、後の濃度計算においてそれを考慮することである。
【0056】
本明細書に説明される実施形態は、体積測定のために分注された液滴を捕捉するために、質量分析計へのインターフェースとして捕捉プローブを使用して実装され得る。好適な捕捉プローブの例は、いくつかのSciex許諾対象特許のトピックであり、分析測定のために分注された液滴を捕捉するために成功裏に使用されている「開放ポートプローブ」(OPP)を含む。例えば、第US9,632,066 BS号「Open Port Sampling Interface」、第US2016/0299041 A1号「Capture Probe」、および第US9,153,425 B2号「Device for High Spatial Resolution Chemical Analysis of a Sample and Method for High Spatial Resolution Chemical Analysis」(全てが参照することによって組み込まれる)を参照されたい。本発明は、OPPを含む捕捉プローブに関する新しい使用を説明する。
【0057】
いくつかの実施形態において、捕捉プローブは、内部標準を輸送流体に導入するために修正され得る。サンプル中の基準標準と輸送流体中の内部標準との間の応答比は、各液滴中の該基準標準の質量、したがって、その体積を計算するために使用されることができる。応答比は、質量分析計性能が経時的に変化するとき、一定のままであり、ドリフトを受けないであろう。これは、液滴体積を継続ベースで計算するために使用される基準標準濃度対MS応答(ピークエリア)の較正曲線を構築すべき要件を無効にする。輸送流体中の内部標準を使用するこのアプローチは、測定正確度も改良する。
【0058】
個々に分注された液滴の体積を迅速に決定する能力は、それらの溶質の重量測定質量が、質量分析計によって決定されるとき、サンプル中の溶質の濃度を正確かつ精密に決定する手段を提供する。これは、液滴分注器を較正する手段を提供し、システムは、多種多様な液滴発生器のために適切である。これは、分注されるべきサンプルの流体性質が、予測不能であり、リアルタイムベースで分注器のパラメータの再較正を要求するとき、特に重要である。それは、測定が液滴内の成分に対して行われるべきであり、液滴中のそれらの成分の濃度が決定される必要があるときにも重要である。
【0059】
プレート複製と異なり、分析測定のために質量分析計の中にサンプルを導入する手段としての音響分注は、異なる組成(多くの場合、未知の組成)、したがって、異なる粘度のサンプルに遭遇し得る。質量分析は、プレート複製ツールと対照的に、多種多様な用途およびサンプルタイプのための分析測定ツールであるので、サンプル毎に必要に応じて物理的パラメータを迅速かつ自動的に調節する手段を有することが、有利であろう。サンプル毎に較正するこの能力を「オンザフライ較正」と称する。
【0060】
特に、サンプル毎に組成において広く変動し得る生物学的および発酵生成物のために音響分注を使用することが、本発明者らによって提案される。サンプル組成が変動するであろう状況の例は、広範囲に及ぶ。分注されるべきサンプルは、異なる濃度のアルコール、アセトニトリル、またはクロロホルムまたはヘキサン等の水中で不混和性の溶媒を有する流体の抽出を伴う液液または固相抽出技法を伴う調製プロトコルに由来し得る。血漿サンプル中のタンパク質沈殿は、一般的であり、タンパク質が溶液から離脱するようにするために、相当な量の有機溶媒を水性媒体に添加することを伴う。これらのような状況において、結果として生じる溶媒組成のある程度の理解が、理解され、ある程度予測可能であるが、それにもかかわらず、これらの多種多様な媒体のための較正手順が、ユーザにアクセス可能にされなければならない。
【0061】
サンプル組成、したがって、粘度が予測不能な様式で根本的に変化し得る状況が、一般的である。哺乳類、酵母、および細菌細胞生育からの生化学反応生成物の監視が、一例である。細胞の寿命サイクルの変化中、培地は、そのバルク化学組成において大いに変化する。発酵または培養時間の開始および終了時に存在する培地は、音響的に分注され得るが、分注は、中間期間中、失敗することが報告されている。豊富な複合糖質がこれらの失敗期間中に生成され、元々の較正パラメータを不適正にするほど十分に高い粘度変化をもたらすことが考えられる。このタイプの状況に対処する唯一の方法は、「オンザフライ較正」である。
【0062】
典型的に、分光光度計が、既知の濃度の分注された較正化合物からの光の透過、吸収、または放出を測定するために使用される。それは、較正されるべきサンプル溶媒またはマトリクス中に溶解されたUV吸収または発光蛍光体較正化合物の既知の濃度を伴う標準化基準溶液を利用する。
【0063】
分光光度計は、濃度感知検出器であるので、それらは、例えば、ランベルト・ベールの法則に表される関係を使用して、分注されたサンプルの濃度を測定する。手順は、所定の数(典型的に、100~200個)の液滴をウェル内に分注し、その後、既知の体積の希釈液を用いてウェル内の滴の凝集集合体を希釈することを伴う。希釈液は、分光光度ベースのプレートリーダを用いた測定を可能にするために、蓄積された液滴よりはるかに多い。ある場合、ピペット操作誤差が、この時点で測定に導入され得る。
【0064】
本説明から明白であり得るように、従来の分光光度的較正プロトコルは、液滴の集合体から平均体積を測定し、従って、個々の液滴体積を測定しない。
【0065】
希釈液を加えた液滴の合計体積の正確な計算が、蓄積された液滴の体積を計算可能であるために要求される。合計体積が添加された希釈液の体積に等しいとそれが仮定するので、追加の誤差が、方法を使用して導入される。これは、システムがまだ較正されていないので、液滴が寄与する体積が未知であることによる。この誤差は、希釈液の体積が、分注された液滴のそれよりはるかに大きい場合、最小化されるが、それにもかかわらず、誤差である。この誤差の源は、バルク溶液の体積(すなわち、希釈液を加えた分注された液滴の合計体積)が、既知の体積の希釈液を添加することによってではなく、既知の体積まで至らされた場合に理論的に排除されることができるが、それは、煩雑であり、正確な体積測定マーキングを有するバイアルにおいて液滴を捕捉することを要求し、マーキングの位置の変動およびマーキングへの液体メニスカスの照準合わせは、大きい誤差の源であり得る。較正が進むにつれて、各ステップは、繰り返され、標的化液滴体積は、徐々に収束させられ、したがって、合計体積が分注された液滴の体積を加えた希釈液の体積としてより正確に決定されることができるので、この誤差の源を減少させる。
【0066】
これらの誤差の源、および反復的繰り返し較正を実施することによってそれらを補正するためにかかる時間の両方を回避する手段は、各液滴中の較正化合物の質量を直接測定し、既知の較正物濃度から液滴体積を計算することである。これは、分光光度的アプローチを用いて可能ではない。提案される質量分析ベースの較正システムは、各液滴中の較正化合物の質量を直接測定する。
【0067】
より大きい体積に希釈される蓄積された液滴の濃度の分光光度的決定は、既知の濃度の染料から調製される標準曲線の構築を要求する。分注されるサンプルは、実質的に希釈されるが、測定されている未知物質と同じ溶媒中で異なる較正物濃度を調製することが、最良の実践である。これは、サンプル中の成分による光の放出または吸光度に対する減衰または増幅が起こり得るからである。消光現象は、信号を減衰させ、発光現象は、信号を増幅させ、その両方は、標準曲線の線の方程式を改変するであろう。
【0068】
この理由により、新しい標準曲線が、較正されるべき新しい各液体タイプおよび各サンプルマトリクスに関して要求される。これは、関与する時間および労力を追加し、サンプル毎の迅速な較正のために自動化されているプロセスの妨げになる。提案される質量分析ベースの較正システムは、分注されるべきサンプルタイプまたは体積にかかわらず、液滴体積を計算するために使用され得る単一標準曲線を都合よく提供するマスタ標準曲線の概念を導入する。
【0069】
合計希釈サンプル中の染料の濃度の分光光度的決定は、この濃度値を達成するために分注された較正物の質量を計算することを可能にする。分注された液滴中の較正物の元々の濃度を把握すると、分注された液滴の蓄積された体積が、計算されることができる。分注された液滴の数で除算される計算された蓄積された体積は、平均液滴体積を提供する。この値は、分注された液滴のその母集団内の体積変動のいかなる指示も提供しない。繰り返された測定が、同じ平均値を提供する場合、依然として、工程内誤差のいかなる指示も、存在しない。液滴は、平均値付近で大小両方であり得る。
【0070】
この質量分析ベースの較正システムは、分注時、直ちに各個々の液滴の体積を測定し、液滴毎の変動性の正確な査定と、それを補正する手段とを提供する。
【0071】
ウェル内の流体の深さは、下で説明されるように迅速に決定され得る。方法は、ソナーの原理に基づく。
【0072】
単一のサンプルタイプに関して、異なる較正ファイルが、ウェル内の異なる液体レベルのために必要とされると理解されるとき、タスクを較正するために要求される時間および労力は、指数関数的に増加する。音波のエネルギーは、それらが流体を通して進行するにつれて、放散し、したがって、音波の出力および/または持続時間を増加させることが、深さが増加するにつれて、要求される。出力は、トランスデューサに印加される電圧、または、代替として、エネルギーが表面に堆積させられる時間の長さ(時として、バースト率と称される)を変動させることによって調整される。表面は、堆積させられるエネルギーを瞬間的に貯蔵するので、より長い時間は、より多くのエネルギーを堆積させるであろう。実践において、電圧およびバースト率の両方が、標的化体積を達成するための出力を提供するために、微調整される。
【0073】
典型的に、100個もの別個の較正ファイルが、384ウェルプレート内の同数の深さ場所のために要求される。各液体レベルにおいて、上で概説される較正手順が、呼び出され、すなわち、100~200個の液滴が、分注され、収集され、希釈され、音響パラメータの各反復の間に蛍光によってそれらの濃度に関して測定されるので、固有の量子力学的問題が、存在し、すなわち、測定は、測定されているものを歪める。異なる深さにおける較正が、確立されることを試みるが、同時に、深さは、変化しており、較正パラメータを改変している。液滴体積測定は、100~200個の分注された液滴に対して十分な量、液体レベルを低減させ、分注過程の開始時、次いで、終了時に異なる出力設定を要求する。これを補正するために、各レベルにおける較正手順は、数回繰り返され、誤差を平均化する。
【0074】
本質量分析ベースの較正システムは、体積測定およびパラメータ調節が個々のナノリットルサイズの液滴に対して実施されるので、量子力学的問題を回避する。単一の滴による液体レベル変化は、無視できる。
【0075】
音響液滴分注は、分注されるべき液体の深さが、較正目的およびサンプルのルーチン分注の両方のために、迅速かつ動的に測定され得ることを要求する。深さを測定することは、滴を分注することを要求せず、したがって、放出される滴の体積を測定することを伴わない。したがって、深さを測定するための手順は、液滴体積を測定および較正するためにとられるアプローチにかかわらず、同じである。較正またはルーチン分注のこの側面は、説明される液滴体積測定に対する分光光度的または質量分析アプローチのいずれを用いても同じである。しかしながら、サンプルウェル内の液体深さ対液体体積関係を考慮すると、質量分析アプローチの利点が、存在し、したがって、深さ測定の詳細な説明が、下で含まれる。
【0076】
液体レベルは、分注、蒸発、またはサンプリング方法論からの枯渇に起因して、各サンプルウェル内で変動し得、したがって、通常の実験室動作において、各ウェル内のサンプルの体積は、著しく変動し得る。メニスカスまでの距離の知識が、表面またはその近傍の音波の焦点を数百ミクロン以内に設定し、各サンプルのための液滴出射点にエネルギーを集中させるために要求される。音響出力要件も、深さが増加するとともに増加する。したがって、深さ測定が、音響トランスデューサアセンブリ上のレンズが分注事象の前に適切な焦点距離に機械的に位置付けられることを可能にし、正しい音響較正ファイルが呼び出されることを可能にするために、各サンプルウェルに関して要求される。このアプローチは、サンプル液体および液体を含むプレートの底部を通した音速が決定または把握されることを要求する。音速は、音波が、表面から反射し、音波検出器としての役割も果たす圧電送信機に戻るまでにかかる時間を計算することによって、直接測定され得る。
【0077】
サンプルウェル内の流体の深さは、2つの理由から決定されなければならない。
【0078】
第1に、異なる較正ファイルが、典型的な深さ変動に応じて、異なる液体深さのために典型的に要求される。例えば、384ウェル密度プレートからの分注された流体の各200nL後の較正ファイルが、典型的に作成される。これは、サンプルウェル内の可能である流体深さの全範囲を対象にするために、ウェルあたり約100~200個の較正ファイルに達するであろう。音波の出力は、それらが流体を横断するにつれて、徐々に放散するので、異なる流体深さにおける表面に同じ出力を送達することは、より大きい深さのためにより高いエネルギーを要求する。出力は、トランスデューサに印加される電圧、または代替として、エネルギーが表面の中に堆積させられる時間の長さ(時として、バースト率と称される)を変動させることによって調整される。表面は、堆積させられるエネルギーを瞬間的に貯蔵するので、より長い時間は、より多くのエネルギーを堆積させるであろう。実践において、電圧およびバースト率の両方が、標的化体積を達成するための出力を提供するために、微調整されるが、正しい値が、収束させられるにつれて、1つのパラメータは、固定されたままであり得る一方、残りのものは、設定を微調整するために使用される。
【0079】
第2に、レンズ焦点合わせが、ルーチンサンプリングに関する異なる液体深さのために要求される。サンプル液滴を効果的に射出するために、較正された音波は、サンプル液体の表面またはその近傍の点(典型的に、表面の数百ミクロン以内)にレンズを用いて集束させられる必要がある。音波を表面の200μm上方の点に集束させることが、一般的な実践である。焦点は、集束レンズの物理的位置によって制御される。距離は、ウェル内のサンプルの体積およびウェル幾何学形状の関数である。サンプルの流体レベルは、サンプルが、分注され、蒸発し、または実験室動作の性質に起因してサンプル毎に変動するにつれて、経時的に変化し得る。この距離は、各ウェルに関して正確に決定され、レンズ位置によって調節されなければならない。これは、各サンプルが、分注される直前に決定されることができるか、または、これは、選択された1つ以上のウェルからの分注に先立って、プレート内のサンプルウェルの全てを連続的に処理することによってバッチモードとして実施され得る。
【0080】
深さ測定は、サンプルウェルの底部を通して上に送達される音波の反射が、音波のエミッタおよび検出器の両方としての役割を果たす圧電トランスデューサに戻るまでにかかる時間を測定することによって実施される。放出される音波の一部の反射は、透過媒体が固体から液体、ガスに状態が変化する各点において起こる。反射は、ウェルプレートの底部から、固体ウェルプレート底部からサンプル液体への遷移部から、および、最も激しい反射が観察される液体サンプルの表面におけるメニスカスから起こる。これは、既知のプレート底部厚さおよび既知の液体深さが、試験されるとき、音速がプレート底部および液体サンプルの両方を通して決定されることを可能にする。
【0081】
音速が、ある材料および厚さのプレートを通して決定されると、それらの値は、このタイプの全てのプレートに関して一定のままであり、情報は、記憶される。音速が、液体媒体を通して決定されると、それは、このバルク組成物の全てのサンプルに関して一定のままであり、情報は、記憶される。レンズの機械的再焦点合わせを含む全プロセスは、約数十ミリ秒かかり、それは、この測定が、分注に先立って、全サンプルウェルに対して行われることを可能にする。
【0082】
プレートレプリケータ用途は、典型的に限定された数の異なる溶媒タイプに遭遇し、100%ジメチルスルホキシドが、医薬品ライブラリを記憶するために最も一般的に使用されるものであり、従って、サンプルを通した音速は、典型的に一貫する。明確に特徴付けられたプレートも、標準である。したがって、多数の較正ファイルを作成し、多くの異なるシステム内で音速を測定する要件は、この用途の分野において広範ではない。
【0083】
生物学的流体を分析し、それらの中に溶解される化合物の数量を測定し、それらの分子量およびそれらの化学結合断片化パターンに基づいて化合物を同定するための質量分析計の使用を伴う提案される用途は、完全に異なる事柄である。異なる流体性質を伴うほぼ無限の数のサンプルが、生物学的および工業的プロセスから遭遇され、全てが、独特の較正ファイルを要求する。
【0084】
例として、本発明者らは、発酵プロセス中に経時的に収集された発酵生成物に対してADD-OPPを実施し、流体性質が、較正の仮定された流体性質からはずれるほど発酵中に十分に変化するので、測定が一貫しないことを観察した。類似する問題が、音響液滴射出がいくつかのサンプルに関して機能し、他のサンプルに関して誤った測定結果をもたらすほど十分な偏差を示し得る血清等の生物学的生成物を測定するときに生じた。
【0085】
包括的であるために、以下は、システムにおける音速およびウェル内の流体の深さを決定するためのプロトコルの例である。このプロトコルを実施するために、液滴は、分注されず、相遷移からの音波反射に関する時間のみが、測定される。
【0086】
(a)既知のサンプル体積(既知の距離または経路長さ)、音速が既知であるサンプル組成、および、この測定がすでに確立されているプレートに関する反射時間を測定する。これは、ベースラインパラメータを確立およびチェックする。
【0087】
(b)既知の体積(例えば、所与のサンプルウェル幾何学形状に関する既知の深さおよび既知の経路長さの)、既知のサンプル組成、および未知のプレートに関する反射時間を測定する。(a)からの結果と(b)からの結果とを比較することによって、これは、このプレートの底部を通した音波の音速および飛行時間を確立する。これは、このタイプ、すなわち、同じ製造業者、同じ型式(プレート厚さ)、同じ材料(プラスチックのタイプ)の全ての残りのプレートで一定のままであろう。このプレートは、ここで、データベースに恒久的に記録される既知のプレートである。
【0088】
(c)既知の体積(例えば、所与のサンプルウェル幾何学形状に関する既知の深さおよび既知の経路長さ)、未知のサンプル組成、および既知のプレートに関する反射時間を測定する。(b)からの結果と(c)からの結果とを比較することによって、これは、新しい流体のこの深さを通した音波の飛行時間、したがって、この媒体中の音速を提供する。これは、この時点から、流体のこのバルク組成を使用して一定のままであろう。この深さ測定は、ここで、全てのウェルに対して行われることができ、その後、正しい較正ファイルをロードし、要求される場合、レンズ位置を適切に調節し、ウェルあたり数十ミリ秒のタイムフレーム内で液滴を脱離させる。
【0089】
(d)サンプルリザーバの流体体積対流体深さ関係を確立する。ウェルプレートの異なるモデルおよび型式は、サンプルリザーバの異なる幾何学形状を有し、それは、液体の異なる深さレベルを占有する液体の異なる体積に変換する。体積と深さとの間のこの関係は、サンプルウェルが、空の状態に接近しているときを把握するために、特に重要である。深さ測定から残りの体積を把握することは、ウェルが、空の状態に近づきすぎて、さらなる分注が信頼できないと見なされる前、分注され得るさらなる液滴の数を把握することを可能にする。いくつかの実施形態において、提案されるシステムは、各ウェル内のサンプル体積の推定値を維持し、特定のウェルに関する推定されるサンプル体積/流体高さが、小さすぎ(すなわち、そのサンプルウェル幾何学形状に関する閾値を下回る)、そのウェルからの意図される液滴射出を可能にすることができない場合、指示を提供するように動作可能であり得る。
【0090】
較正パラメータが、信頼できる液滴体積を送達するために確立された後、この関係の表が、異なるウェルプレート設計のために準備され得る。定義された数の既知の体積の液滴が、分注され、深さは、再測定される。このプロセスは、サンプルが、分注のためのその最小実行可能体積に到達するまで、継続される。典型的に、約100個の液滴が、深さ測定毎に分注され、レベルあたり100~500nlに達する。
【0091】
この質量分析ベースの較正システムは、各液滴の体積を正確に測定するので、流体体積対流体深さ関係を確立することは、システムが滴あたり既知の体積を正確に分注することを要求しない。代わりに、この質量分析ベースの較正システムは、捕捉プローブによって捕捉された分注された滴の数をカウントし、各液滴の体積を測定/確認することのみを要求する。故に、この質量分析ベースの較正システムは、流体深さ測定を実施するために、完全に較正された分注システムが定位置にあることを要求しない。
【0092】
質量分析計システムの中にサンプルを音響的に分注する目的は、以下の性能メトリックを達成することであろう。
【0093】
1.高速。現在のHPLC方法より10~100倍速いサンプル導入速度を達成する。サンプルあたり約数百ミリ秒の速度が、要求される。
【0094】
2.サンプルの相互汚染に起因する誤差の回避。表面への直接のサンプル接触がない。例えば、追加のピペット操作を回避することによって、「非接触」である。
【0095】
3.単一の分析測定のための少量のサンプルの消費(低ナノリットル体積が好ましい)。
【0096】
4.サンプル導入の速度に関する柔軟な制御。質量分析測定の要件に応じて、サンプルあたりデータ入手時間を数百ミリ秒から数十秒に延長することができる。
【0097】
5.ロバストかつ信頼性がある。失敗を伴わずに長い期間にわたって高速サンプル導入速度を持続することが可能であろう。1日あたり少なくとも100,000個のサンプルの連続的動作が可能である。
【0098】
6.サンプル事前浄化に関する要件なし。血液、血漿、発酵培地等の直接分析が、可能であるが、それは、新しい感度限界を導入し得る。
【0099】
7.定量的に精密かつ正確。分注される体積の変動および質量分析計信号の変動性の係数は、合計で<10%である。
【0100】
8.検出および定量の低い限界。nMが低い。十億分率が低い。
【0101】
9.広範な範囲の化学種に適用可能。分子は、分子量において<50amu~100,000amu超に及ぶ。
【0102】
10.それらの性質が予測可能ではなく、分析の時間の前に必ずしも既知でもない多種多様なサンプル流体の受け入れ。タンパク質、多糖類、アルコール等の流体性質を改変し得る高濃度の溶質を含む水性および非水性。音響分注器は、これを行うためにサンプル毎に調整または較正される必要がある。これを行うために、各分注中、または少なくともサンプリング期間内に、液滴あたりのサンプル体積を測定する手段が、要求される。
【0103】
性能メトリック1-3。音響的に駆動されるプレートレプリケータ器具が、サンプルへのいかなる直接物理的接触も伴わず、数Hzにおいて低ナノリットル液滴体積を分注する能力を実証した。残りの6つの属性を達成するために、音響的に発生させられた液滴を質量分析計イオン源に結合するために使用されるアプローチが、機能し始めるであろう。
【0104】
性能メトリック4-9。音響的に発生させられた液滴をエレクトロスプレー質量分析計イオン源に移すためのアプローチが、開発されており、それは、液体の流れを通して液滴を輸送する(開放ポートプローブ(OPP)と称される)。このインターフェースは、第WO2019/104235(PCT/US2018/062337)号(参照することによって本明細書に組み込まれる)により詳細に説明されている。下で説明されるいくつかの追加の修正を伴うこのインターフェースは、下でより詳細に説明されるように、上記の性能メトリック4-9を達成する。
【0105】
性能メトリック4。OPPは、流動する溶媒の流れの中の個々の分注された液滴を捕捉および併合することによって、音響分注器からの別々のデジタル信号をイオンの連続ビームに変換することができる。これは、液滴が、典型的な捕捉プローブ溶媒流量/体積に関して10Hz以上の速度においてOPPの中に分注されるときに起こる。そうすることにおいて、サンプル導入時間は、質量分析計入手方法に調節されることができる。例えば、より長い期間にわたる信号平均化が、検出限界を下げるための手段として使用されることができる。SWATH等の走査モードを使用して複雑な生物学的サンプル中の全ての成分のMS/MSと結合されるイオン移動度分離は、サンプル導入時間に対する動的制御を用いて実践的になる。少量のサンプルが、比較的に長い期間にわたってであっても、音響液滴分注を使用して消費される。さらに、様々なウェルサイズが、適応され得、より大きいウェル体積は、ウェルからの長いサンプリング時間を支援する。
【0106】
性能メトリック5。OPP輸送流体は、ガス圧力降下ポンプを使用して送達され、それは、いかなる機械的可動部分も欠いているので、非常に信頼性がある。加えて、流体輸送管の開口は、大きく、目詰まりに本質的に耐性がある。
【0107】
性能メトリック6。OPPは、音響的に分注された液滴を>100倍(またはそれを上回る)に希釈し、それは、サンプル浄化ステップが回避されることを可能にする。エレクトロスプレーイオン化プロセスの抑制は、サンプルが、この程度に希釈されるときに起こらず、希釈は、サンプリング後およびイオン化前に瞬間的である。血液サンプルは、直接注入されることができ、生化学反応が、反応混合物の成分を擾乱することなく、進行中に監視されることができる。
【0108】
性能メトリック7。OPPは、10%未満のCVを提供する高い精密さおよび正確度を有することが歴史的に示されている標準エレクトロスプレーイオン源の中にサンプルを送達する。音響分注の正確度および精密さは、ここで、ウェルとしての役割を果たす。
【0109】
性能メトリック8。OPPは、効率的な分子のイオンへの変換および真空システムの中へのイオンの輸送を伴う高感度を有することが歴史的に示されている標準エレクトロスプレーイオン源の中にサンプルを送達する。流量は、高感度およびロバストな動作の両方を支援し、1分あたり数十~2、300マイクロリットルのマイクロ流範囲内である。
【0110】
性能メトリック9。OPPは、質量分析のために使用される任意のイオン源の最も高い化合物対象範囲を有することが歴史的に示されている標準エレクトロスプレーイオン源の中にサンプルを送達する。
【0111】
しかしながら、性能メトリック10は、音響分注器を較正するために使用される現在のアプローチによって対処されることができない。質量分析計によって測定されている生物学的システムが、一般的に、分析され、流体は、流体性質および粘度の広範なスペクトルを有し、反応または培養中に予測不能な方法で経時的に変化し得る。質量分析は、プレート複製ツールと対照的に、多種多様な用途およびサンプルタイプのために使用される分析測定ツールであり、したがって、有用であるようにサンプル毎に必要に応じて、物理的パラメータを迅速かつ自動的に調節する手段を有する必要があるであろう。ADD-MSが実行可能な技法であるために、異なる粘度のサンプルに遭遇したときに音響パラメータを較正し、正確かつ精密な体積を自動的に送達する手段がある。サンプル毎に較正するこの能力を「オンザフライ較正」と称する。
【0112】
サンプル組成が変動するであろう状況の例は、広範囲に及び、オンザフライ較正を必要とする。血液サンプルは、ヘマトクリットに応じて、広く異なる粘度を有し得る。防腐剤が血液または血漿に添加される場合、またはある程度の浄化がサンプルを保全するために行われる場合、アルコール、酸、塩、または他の賦形剤等の粘度改変添加剤が、それらの流体性質に影響を及ぼすであろう。尿サンプルの粘度は、個人の健康の状態によって広く影響される。異なる種からの生物学的流体の性質は、大いに変動する。
【0113】
サンプル組成、したがって、粘度が予測不能な様式で経時的に根本的に変化し得る状況が、一般的である。培養時間にわたる発酵および細胞生育培地の監視が、良好な例である。細胞の寿命サイクルの変化中、培地は、そのバルク化学組成において実質的に変化する。発酵または培養時間の開始および終了時に存在する培地は、音響的に分注され得るが、分注は、中間期間中に失敗することが報告されている。豊富な複合糖質が、これらの失敗期間中に生成され、元々の較正パラメータを不適正にするほど十分に高い粘度変化をもたらすことが考えられる。このタイプの状況に対処する唯一の方法は、オンザフライ較正である。
【0114】
本発明は、マイクロ分注技術を用いて分注される個々の液滴の体積を測定する方法および装置を提示する。それは、オンザフライ較正を可能にし、それは、個々の液滴中の較正物の質量を直接測定するために、質量分析計を利用し、液滴を捕捉し、それらを大気圧イオン化質量分析計に輸送し、基準化合物を送達し、結果として生じる液滴体積測定の正確度および精密さを高めるために、修正されたOPPを利用する。
【0115】
質量感知対濃度感知アプローチ。質量分析計は、質量感知検出器であるのみならず、それらの質量/電荷比に基づいて、分子の分子量を測定するデバイスでもある。質量分析計によるサンプル中の化合物の量または質量の決定は、それらが、イオン化と呼ばれるプロセスである電子の不足または過剰のいずれかを誘発することによって正味電荷を与えられた後、サンプル中のその化合物の分子の数をカウントすることによって行われる。同様に、放射線同位体検出器が、単位時間あたりの核崩壊粒子の数をカウントすることによって、サンプル中の化合物の質量を直接測定する。大抵の場合、分光学的方法は、例えば、ランベルト・ベールの法則に表される関係を利用して、光の吸収、透過、または放出から溶液中の分子の濃度を直接決定する。
【0116】
液滴中の既知の濃度の較正化合物の質量の直接測定は、その液滴の体積を直接提供する。液滴中の既知の濃度の較正化合物の濃度を測定することは、その体積についての情報を直接提供しない。その体積は、液滴の体積寄与が有意ではないはるかに大きい既知の体積まで液滴を希釈し、濃度対分光光度信号の較正曲線から希釈されたサンプルの濃度を読み取ることによって、間接的に推定されることができる。これは、元々の液滴中の較正化合物の質量を提供するであろう。方法は、間接的であり、追加の液滴操作を要求し、したがって、リアルタイム体積測定に修正可能ではない。実践において、いくつかの液滴が、カウントされ、収集され、合計の質量の計算は、各液滴の厳密な体積ではなく、平均液滴体積を提供することによって行われる。
【0117】
各液滴中の較正物の捕捉、輸送、およびイオン化。システムおよび方法は、較正から生成されるイオンをカウントするために、大気圧イオン化および質量分析計を使用して、個々の液滴体積の直接決定を提供する。これは、未知の体積の液滴中の既知の濃度の較正物化合物の質量(量)を測定し、それによって、その液滴の体積を直接決定することによって行われる。液滴は、較正物分子のイオン化のために大気圧イオン源の中に液相において導入され、質量分析計を用いたカウントが続く。イオン化の好ましい方法は、エレクトロスプレーおよび大気圧化学イオン化であるが、それらに限定されない。
図1Aは、本教示の種々の実施形態による、例示的質量分析器具100を提示する。質量分析器具100は、所与のサンプルから着目イオンを分離および検出するための電気機械器具である。質量分析器具100は、システムコンポーネントの制御を実行すること、および質量分析器具100によって発生させられたデータを受信および管理することの両方のためのコンピューティングリソース130を含む。
図1Aの実施形態において、コンピューティングリソース130は、別個のモジュール、すなわち、システムコンポーネントに指図し、それを制御するためのコントローラ135、および検出された着目イオンのデータ報告を受信し、組み立てるためのデータハンドラ140を有するものとして図示される。要件に応じて、コンピューティングリソース130は、描写されるそれらを上回るまたは下回るモジュールを備え得、集中化され得、または、要件に応じてシステムコンポーネントを横断して分散され得る。典型的に、イオン検出器125によって発生させられた検出されたイオン信号は、制御情報および種々のシステムコンポーネントの他のプロセス情報に基づいて、1つ以上の質量スペクトルの形態においてフォーマットされる。データ分析装置(
図1Aに図示せず)を使用する後続データ分析が、続けて、質量分析器具100によって実施される質量分析の結果を解釈するために、データ報告に対して(例えば、質量スペクトルに対して)実施され得る。
【0118】
いくつかの実施形態において、質量分析器具100は、
図1Aに図示されるようなコンポーネントのうちのいくつかまたは全てを含み得る。本願の目的のために、質量分析器具100は、図示されるコンポーネントの全てを含むと見なされることができるが、コンピューティングリソース130は、サンプル分離/送達コンポーネント105に対する直接制御を有していないことも、それにデータ取り扱いを提供しないこともある。
【0119】
本願の文脈において、分離/送達システム105は、送達システムを備え、送達システムは、測定可能な量のサンプル、典型的に、分析物および付随の溶媒サンプリング流体の組み合わせをイオン源115に送達することが可能であり、イオン源115は、送達されたサンプルをイオン化するために分離システム105の下流に配置される。質量分析装置120は、質量分析のためにイオン源115から発生させられたイオンを受け取る。質量分析装置120は、イオン源115から受け取られた発生させられたイオンから着目イオンを選択的に分離し、イオン検出器125に着目イオンを送達するように動作可能であり、イオン検出器125は、データハンドラ140に検出されたイオンを示す質量分析計信号を発生させる。
【0120】
イオン源115が当技術分野で公知であるような種々の構成を有し得ることも理解されたい。本願は、エレクトロスプレープロセス等、液滴形態におけるサンプルをイオン化することによって動作するイオン化源を主に対象とする。
【0121】
本願の目的のために、質量分析器具100のコンポーネントは、単一のシステムとして動作すると見なされ得る。従来、コントローラ135およびデータハンドラ140の関連するコンポーネントとともに、質量分析装置120およびイオン検出器125の組み合わせは、典型的に質量分析計と称され、サンプル分離/送達デバイスは、別個のコンポーネントと見なされ得る。しかしながら、分離システム105等、コンポーネントのうちのいくつかは、「別個」であると見なされ得るが、質量分析器具100の全てのコンポーネントは、所与のサンプルを分析するために、協調して動作することを理解されたい。
【0122】
図1Bは、本教示の実施形態が実装され得る例示的コンピューティングリソース130を図示するブロック図である。コンピューティングリソース130は、質量分析器具100のコンポーネントと動作可能に通信する単一のコンピューティングデバイスを備え得るか、または複数の分散コンピューティングデバイスを備え得る。この例において、コンピューティングリソース130は、バス152または情報を通信するための他の通信機構と、情報を処理するためにバス152と結合される少なくとも1つの処理要素150とを含む。理解されるであろうように、少なくとも1つの処理要素150は、単一のプロセッサとして、または分散配列においてパッケージ化され得る複数の処理要素またはコアを備え得る。さらに、いくつかの実施形態において、複数の仮想処理要素150が、質量分析器具100に関する制御または管理動作を提供するために提供され得る。
【0123】
コンピューティングリソース130は、少なくとも1つの処理要素150による使用のためにバス152に結合される図示されるようなランダムアクセスメモリ(RAM)または他のダイナミックメモリコンポーネントであり得る揮発性メモリ150を含む。コンピューティングリソース130は、少なくとも1つの処理要素150による使用のために情報および命令を記憶するためにバス152に結合される図示される読み取り専用メモリ(ROM)または他のスタティックメモリコンポーネント等のスタティック不揮発性メモリ160をさらに含み得る。記憶ディスクまたは記憶メモリ等の記憶コンポーネント165が、提供され、少なくとも1つの処理要素150による使用のために情報および命令を記憶するためにバス152に結合されるものとして図示される。理解されるであろうように、いくつかの実施形態において、記憶コンポーネント165は、ネットワーク化ディスクまたはコンピューティングリソース130に利用可能な他の記憶リソース等の分散記憶コンポーネントを備え得る。
【0124】
随意に、コンピューティングリソース130は、情報をコンピュータユーザに表示するために、バス152を介してディスプレイ170に結合され得る。キーボード等の随意のユーザ入力デバイス175が、情報およびコマンド選択を少なくとも1つの処理要素150に通信するために、バス152に結合され得る。マウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等の随意のグラフィカル入力デバイス180が、グラフィカルユーザインターフェース情報およびコマンド選択を少なくとも1つの処理要素150に通信するために、結合され得る。図示されるように、コンピューティングリソース130は、他のコンピューティングコンポーネントおよび質量分析器具100の種々のコンポーネントとの相互通信を可能にするために、シリアル接続、デジタル接続、ネットワーク接続、または他の入力/出力コンポーネント等の入力/出力(I/O)コンポーネント185をさらに含み得る。
【0125】
種々の実施形態において、コンピューティングリソース130は、ネットワーク化システムを形成するために、ネットワークを介して1つ以上の他のコンピュータシステムに接続されることができる。ネットワークは、私設ネットワークまたはインターネット等の公共ネットワークを含むことができる。ネットワーク化システムにおいて、1つ以上のコンピュータシステムが、データを記憶し、他のコンピュータシステムにサービス提供することができる。データを記憶およびサービス提供する1つ以上のコンピュータシステムは、クラウドコンピューティングシナリオにおいて、サーバまたはクラウドと称され得る。1つ以上のコンピュータシステムは、例えば、1つ以上のウェブサーバを含むことができる。サーバまたはクラウドに、およびそれからデータを送信および受信する他のコンピュータシステムは、例えば、クライアントまたはクラウドデバイスと称され得る。質量分析器具100の種々の動作は、分散コンピューティングシステムの動作によってサポートされ得る。
【0126】
コンピューティングリソース130は、コントローラ135を通して質量分析器具100のコンポーネントの動作を制御し、データハンドラ140を通して質量分析器具100のコンポーネントによって発生させられたデータを取り扱うよう動作可能であり得る。いくつかの実施形態において、分析結果は、少なくとも1つの処理要素150が、メモリ160または165内に含まれる命令を実行し、質量分析器具100から受信されたデータに対して動作を実施することに応答して、コンピューティングリソース130によって提供される。少なくとも1つの処理要素150によるメモリ155、160、165内に含まれる命令の実行は、本明細書に説明される方法を実施するように質量分析器具100を動作可能にする。代替として、有線回路が、本教示を実装するために、ソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路およびソフトウェアの任意の具体的組み合わせに限定されない。
【0127】
種々の実施形態によると、ある方法を実施するために処理要素150によって実行されるように、またはその方法を実行するように質量分析器具100を動作可能にするように構成される命令が、処理要素150にアクセス可能な非一過性コンピュータ読み取り可能な媒体上に記憶される。
【0128】
分析測定目的のために質量分析計に音響的に分注された液滴をインターフェース接続するためのデバイスおよび方法が、異なる原理に基づいて開発されている。例えば、第US9,664,647 B2号は、音響的に発生させられた液滴を大気圧ガスを通して質量分析計への進入口に輸送し、通過中にそれらを蒸発させる。米国特許出願第US2017/0243729 A1号は、電圧をバルク液体サンプルバルクに印加するそのテーマの別の変形例である。これらのアプローチのいずれも、分注された液滴の体積を測定することが可能であるための精密さまたは正確度を有することを実証しなかった。これらの開示のいずれも、分析測定目的のために質量分析計の中にサンプルを送達するための高速、非接触アプローチから所望される前の節に説明される性能メトリックの全てをもたらさない。
【0129】
液滴を質量分析計イオン源の中に輸送することに対する1つの好ましいアプローチは、導管または管を通して輸送流体の流動する流れの中に各液滴を捕捉することによる。各液滴は、捕捉および輸送デバイスの層流特性により、残りのものから分離されたままであり、層流特性は、液滴の拡散的広がりおよび併合を最小化する。
【0130】
図2は、各々が異なる機能を有する5つの主要コンポーネントを図示する本発明のある実施形態を描写する。第1のものは、サンプル分注デバイスであり、それによって、送達されるサンプルの量は、制御されることができる。本実施形態において、サンプル送達は、流体サンプルの表面の中にエネルギーを与え、それによって、既知かつ制御可能な体積の液滴を射出する音響波のバーストによって達成される。処理領域に進入するサンプルの量は、音響波パルスの出力、周波数、または持続時間を変化させることによって変動させられることができる。注入される量を変動させることによって、処理領域内のサンプルの希釈は、変更される。他のサンプル送達デバイスも、上で説明されるように、想定される。
【0131】
第2のコンポーネントは、サンプルが受け取られる捕捉プローブのサンプル処理領域であり、サンプルの濃度は、エレクトロスプレーイオン化のために最適であるように調節される。本実施形態において、サンプル処理コンポーネントは、サンプル処理および輸送のための流体を提供するための流体送達ポンプを含むOPPを備えている。この領域の中への輸送流体の流動は、ポンプを用いて変動させられることができ、それによって、サンプルの希釈および輸送の速度の程度を改変する。サンプル処理領域の容積は、サンプルが遭遇するであろう希釈の量に影響を及ぼすであろうその幾何学形状を改変することによって変更されることができる。これは、希釈比を増加または減少させるための効果的な方法であるが、物理的部分の置換または追加の機械的リンク機構を要求し得、それは、リアルタイムでの希釈比の迅速なオンライン修正に容易に適合可能ではないこともある。
【0132】
第3のコンポーネントは、イオン化コンポーネントを備え、それは、処理されたサンプルから荷電液滴を生み出すための設備を提供し、それは、ガス膨張領域を含み、ガス膨張領域は、処理領域から高電場が印加される荷電液滴発生領域にサンプルを引き込むための圧力降下を生み出す。荷電液滴への高電場の印加は、放電したサンプル液体をサンプルイオンに変換する。このガス流の制御は、処理領域から外への液体流を変動させ、それによって、処理領域内の希釈の程度を改変するための追加の手段を提供することを可能にするであろう。
【0133】
第4のコンポーネントは、サンプルイオンを受け取り、m/zによってサンプルイオンをフィルタ処理し、生み出されるイオンの数量を測定するための大気圧イオン化質量分析計である。
【0134】
システムは、発生させられた信号を解釈するためのデータおよびアルゴリズムを装備するコンピューティング要素と、サンプル分注デバイス、流体送達ポンプ、および加圧ガス源への制御通信リンクとによってサポートされる。信号が、測定され、分注された液滴体積が、発生させられた分析結果に基づいて決定された後、システムは、第4のコンポーネントである質量分析計による分析のために既知の体積の後続液滴を分注するために、サンプル分注デバイスの1つ以上のパラメータを調節するように動作可能であり得る。
【0135】
いくつかの側面において、実施形態は、サンプル処理領域と整列して意図されるサンプルウェルを位置付けるために、複数のサンプルウェルを含むサンプルウェルプレートを移動させるための運動コンポーネントをさらに含み得る。いくつかの実施形態において、サンプルウェルを位置付け、処理チャンバの中に音響的に発射するために要求される時間は、サンプルあたり約数十ミリ秒である。個々のサンプルは、処理チャンバとイオン生成点との間の移送ライン内にスタックされることができ、それらの時間における間隔は、パイプ内の溶液中の分子の拡散によってのみ限定され、典型的に、本発明のプロトタイプにおいて約数百ミリ秒である。これは、サンプルをほぼリアルタイムで発射し、その信号を検出し、抑制を査定するために基準と比較し、処理チャンバ内に適切な希釈を提供するためにある量を再発射し、線形分析物応答のためにイオン放出液滴中の正しい条件を提供し、抑制効果を回避することを可能にする。
【0136】
図3A、3B、および3Cは、コンポーネント間の異なる幾何学的関係を描写する。
図3Aは、垂直に上に向けられたサンプル処理コンポーネントと垂直に下に向けられた荷電液滴生み出しコンポーネントとを示す。これは、サンプルが重力または他の力を用いて処理コンポーネント内に堆積させられることを可能にする。
図3Bは、反対に垂直方向に向けられた同じ2つのコンパートメントを示す。
図3Cは、水平に構成された両方のコンパートメントを示す。サンプルが処理領域の中に導入されることができ、荷電液滴発生コンポーネントが、イオンがある手段によって質量分析計の進入開口に到着し得るように向けられるならば、垂直と水平との間の任意の角度が、使用されることができる。
【0137】
マイクロ分注技法が、重力と逆に、上向き方向に液滴を発射することによって自然に動作する場合、サンプル処理領域は、流体を下にして位置付けられ得る。このタイプの分注器での好ましい動作モードは、平衡を保たせられるべき流動のためのものであり、すなわち、捕捉リザーバの入口流は、出口流に等しく、したがって、それは、リザーバからサンプル上に溢れないであろう。それは、出口流をわずかに下回る入口流を用いて動作させられることもできる。
【0138】
重力の一般的な方向において、下に、またはある角度において液滴を分注する微小液滴分注器に関して、同じ処理領域は、上向きに面し得る。この状況において、動作モードは、均衡流動、流出を下回る流入、または流出を上回る流入のいずれを用いても、堀または排出路内で溢流を捕捉することができる。
【0139】
動作モードは、流動を視覚的に設定しながら、リザーバの条件を観察することによって、手動で制御されることができる。モードは、マシンビジョン、光偏向、導電率等のいくつかの方法のうちのいずれかを用いてリザーバの状態を監視し、情報を輸送流体送達ポンプに戻すようにフィードすることによって、自動的に制御されることができる。
【0140】
図4A、4B、4C、および4Dは、同軸に配列されない流体入口および出口管を有する類似するサンプル処理領域を提示する捕捉プローブの追加の実施形態を示す。
図4Aおよび
図4Bは、処理領域の中にサンプルを入れるための開口部を有する単一の管、または接合され、線形に配列され、または曲げられた2つの管を示す。いくつかの側面において、処理チャンバは、管を通して流動する処理流体をさらす開口を伴う単一の管を備え得る。
図4Cは、互いに平行に配列される入口および出口管を示す。
図4Dは、サンプル処理領域を画定し、次いで、作成するために、それらの間に間隙を伴って同じ線形に配列される2つの管を示す。いくつかの側面において、平面状溝付き面が、疎水性材料を用いて表面をコーティングすることによって流体を閉じ込めるために提供され得る。いくつかの側面において、処理領域は、壁なしで境を限られ、処理領域が2つの管の間で輸送するように、表面上の貯留された液体の表面張力のみによって限られ得る。処理チャンバ内に封入され、近く、または離れて互いに近接する2つの管の使用等、処理領域を提示する捕捉プローブに関する他の実施形態も、想定される。処理チャンバは、処理流体を供給する供給管およびトラフから処理流体を排出する排出管を伴う開放トラフの形態にある。
【0141】
液滴捕捉/輸送デバイスの好ましい実施形態は、ここで、開放ポートプローブ(OPP)と称され、それは、2つの同心同軸管の配列を伴い、内側管は、液滴をイオン化領域に輸送する導管であり、外側管は、サンプルの捕捉のために、ポンプから送達されている輸送流体(典型的に、溶媒)をサンプル処理領域における内側導管の進入口に向け、閉じ込め、捕捉されたサンプルを内側導管を通してイオン源に輸送する。内側導管の進入口におけるサンプル処理領域は、この領域の中に堆積させられる液滴を捕捉する役割を果たす流体を用いて充填される。この液滴捕捉リザーバの直径は、好ましくは、0.5~5mm範囲内であるが、より大きく、またはより小さくあり得る。このリザーバの容積は、好ましくは、0.2~2.0μL範囲内であるが、より大きく、またはより小さくあり得る。サンプル処理領域は、外側供給導管を通してポンプによって輸送流体を供給され、内側輸送導管を通してほぼ同じ速度で空にされる。この定常状態条件は、進入する液滴を迅速に混合および一掃する液滴捕捉リザーバ内に位置する恒久的な渦をもたらす。サンプル処理領域内のこの液滴捕捉リザーバの洗い流し速度は、好ましくは、パージされるべき捕捉領域の全体積に関して<1秒である。低ナノリットル範囲内でこのリザーバの中に分注される液滴は、サンプル処理領域を通した輸送流体の体積流量に応じて、100~1,000倍の倍率で瞬時に希釈されるであろう。この大きい希釈および効率的な迅速な混合は、多種多様なサンプル溶媒およびマトリクスに関して質量分析計信号を正規化し、様々な液滴体積に関して質量分析計信号を正規化するための重要な因子であり、それらは、下で説明されるべき標準曲線の作成を可能にするための重要な要件である。
【0142】
イオン源の内側のイオン化領域が、内側輸送導管の遠位端にある。ネブライザ管が、この領域内の液滴移送導管を包囲し、それを通して、高圧ガス(ネブライジングガス)が、輸送導管の退出口を包囲するノズル開口制限部に送達される。高圧ガス、典型的に空気または窒素がノズルから退出すると、それは、加速し、マッハ1の速さに接近する。ガスの剪断力は、液体を液滴のプルームに破壊する。退出口において膨張するガスも、サンプル処理領域から輸送導管を通して流体を引く移送導管の端部における局所圧力降下を生み出す。流体の速さは、1~1,000μL/分であるが、好ましくは、50~500μl/分であり得る。流動は、好ましくは、ガスの圧力、移送導管の内径、および流体の粘度によって決定される一定の速度に設定される。サンプル処理領域からの入口および出口流体流を均衡させるために、輸送流体を送達するポンプは、輸送導管の遠位端における退出口における流体の吸引によって生み出される流動に合致するように調節される。
【0143】
図5および6は、分析のために質量分析計にサンプル液滴を送達する代替実施形態を図示する。
図5は、イオン化のためにイオン化源に分注された液滴を輸送するコンベヤ上に液滴を分注する微小液滴分注器を図示する。
図6は、捕捉およびイオン化源への輸送のために開口サンプル処理領域において分注された微小液滴を受け取るピンホール開口サンプル処理領域を伴う線形捕捉プローブ(「線形OPP」)を図示する。
【0144】
図7は、同軸捕捉プローブ(OPP)のサンプル処理領域の中に微小液滴を分注しているサンプルウェルに結合される音響分注器の簡略化された断面図である。
図8は、小さいピンホール開口を通して液体サンプルを押し進めるために測定された力を採用する液滴分注器の代替実施形態である。
【0145】
質量に基づく体積測定は、較正化合物信号を使用する。液滴中の溶質を捕捉、輸送、およびイオン化する信頼性がある手段を用いて、液滴体積は、質量分析計によって各液滴中の測定される較正物の質量(量)に基づいて決定されることができる。これは、液滴中の較正物の質量(量)を質量分析計からの信号に関連付ける較正曲線を準備することによって行われる。
図9は、較正物を含むいくつかの捕捉および分析されたサンプルに関する測定された質量信号、強度を図示する。各測定のピークエリアは、各サンプル中に含まれる較正物の量に対して変動する。例えば、
図9からの質量測定データは、信号ピークエリアをサンプルの既知の較正物濃度に対してプロットすることによって、較正曲線に変換され得る(
図10)。
【0146】
標準曲線を作成するために使用される液滴の体積は、既知であり、測定されるべき液滴のサイズのおおよその範囲内でなければならない。例えば、測定されるべき液滴体積が、1~100nL範囲内である場合、5nLの較正曲線液滴に関する体積が、十分であろう。質量分析計は、その体積およびバルク溶媒組成にかかわらず、液滴中の較正物の質量を測定する。この測定は、OPP捕捉リザーバにおける大きい希釈係数によって大いに促進され、液滴体積および組成に起因する信号のわずかな変動が正規化されることを確実にする。バルクサンプル組成に起因するイオン化効率の抑制または増進等の現象は、OPP液滴捕捉リザーバにおいて排除される。
【0147】
較正曲線を構築するために使用される液滴の体積は、いくつかの方法で送達および決定されることができる。例えば、低nL体積範囲(1~10μg)内の音響的に分注された液滴は、その体積を決定するために、化学天秤上で重みづけされることができる。それは、従来の分光学的方法を使用しても行われ得る。圧電または圧力駆動デバイス等、他のタイプの事前較正されたマイクロ分注器も、この目的のために使用されることができる。単一の較正曲線が、構築されると、その単一の曲線は、異なる粘度を伴う多種多様なサンプル組成および様々な異なる液滴分注体積に関して音響分注パラメータを較正するために使用されることができる。分析測定のために分注されるべき各サンプルの液滴体積も、サンプルが較正化合物を含む限り、チェックされることができる。
【0148】
較正曲線は、質量分析計が単一の濃度の較正化合物に関して異なる信号レベルを有し得るので、特定の質量分析計に特定であろう。質量分析計において検出される信号も、イオン光学系がサンプルからの汚染を蓄積するにつれて、経時的に変化し得る。信号のドリフトが、サンプル負荷に応じて、1日の期間内で起こり得る。これは、特定のサンプル組成のために開発されたパラメータを使用して正確かつ精密な体積を送達する構成された音響パラメータの能力に影響を及ぼさないであろうが、それは、較正曲線の傾斜が、変化するであろうから、リアルタムに分注された各サンプルの体積を測定することに影響を及ぼすであろう。リアルタイム体積測定に関する目的は、サンプル粘度がサンプル毎に予測不能な方法で変化する場合、分注される体積が単一の組の音響分注パラメータの下で変動するであろうことである。最悪の場合のシナリオ下において、いくつかのサンプルは、それらの音響パラメータを用いて分注されることさえないであろう。これは、無信号条件により検出され、認められるであろうが、その時点でそれを補正するために何も行われることはできない。
【0149】
質量に基づく体積測定は、較正化合物と基準化合物との比率、すなわち、マスタ標準曲線を使用する。マスタ標準曲線の構築は、それが、質量分析計の信号ドリフトに関して異なる質量分析計の使用を補正し、以降、オンザフライ体積測定と称されるリアルタイム体積測定を可能にするので、好ましい実施形態である。オンザフライ体積測定は、液滴が分注される度にわずかな誤差を補正するのみならず、オンザフライ較正も可能にする。サンプルが、その流体性質が較正パラメータの範囲外であるので、分注されることができない場合、再較正が、迅速に行われ、正しい体積で液滴を発射するための正しい条件を確立することができる。
【0150】
較正化合物と基準化合物とのある比率を使用して準備された標準曲線は、マスタ標準曲線と称される。それは、分注されるべきサンプル中の既知の濃度の較正化合物を使用する曲線に類似する方式で準備される。較正化合物の正確な体積が、上で説明されるように、ほぼ最終標的化体積の広範な範囲内で分注されなければならず、分注パラメータは、最終標的化体積に達するために調節されるであろう。差異は、既知の濃度の基準化合物が、捕捉プローブの輸送流体に添加されることである。基準化合物は、捕捉プローブを供給するリザーバ内の輸送流体に添加され得るか、またはサンプル処理領域に供給される輸送流体の供給の補足物として注入され得る。確立されるべき関係は、分注される較正化合物の質量に対する基準化合物信号によって除算される較正化合物信号[C/R]の比率である(
図11参照)。理想的な状況は、較正化合物と基準化合物とが、互いに安定した同位体バリアントであるときである。これは、それらの化学性質の差異の結果として導入され得る全ての変動性を補正する(
図12参照)。
【0151】
マスタ標準曲線は、それが一度だけ準備されればよいので、そのように称される。較正および基準化合物の安定した同位体バリアントを用いて構築されると、それは、その動作寿命全体を通した性能劣化の異なる段階における質量分析計に適用可能であり、かつ異なるタイプの全ての質量分析計に適用可能である。この単一のマスタ標準曲線は、全ての溶媒組み合わせおよび異なるサンプル組成、および分析測定を行うときの液滴体積の変動に適用可能である。これに関する1つの理由は、捕捉プローブを採用する実施形態に関して、前に言及された捕捉プローブ(例えば、OPP)の大きい希釈体積に起因するイオン化プロセスに対する正規化効果である。他は、較正物と基準物とからの信号の比率が、体積、同位体バリアント、またはその他を測定するために使用されることである。
【0152】
マスタ標準曲線がサンプル毎に再構築される必要性がないので、それは、オンザフライ体積測定に適用可能であり、オンザフライ体積測定は、サンプル分注体積における偏差がサンプル濃度の計算中に考慮されることを可能にする。較正物化合物と基準化合物との比率は、マスタ標準曲線から体積を非常に迅速に、典型的に数十ミリ秒で決定するために使用されることができる。それは、オンザフライ較正も可能にする。未知の組成のサンプルに遭遇するとき、既存の準最適な較正ファイルを使用して分注される体積は、新しい較正ファイルの作成に頼ることなく、迅速に測定されることができる。分注される体積が、音響パラメータの標的範囲外である場合、典型的に、出力および持続時間が、調節され、体積は、再測定される。体積測定およびパラメータ調節の繰り返しが、標的体積が達成されるまで、個々の液滴に対して行われる。音響パラメータがこのサンプルに関して正しくないので、液滴が全く分注されない場合、信号の欠如が、検出され、迅速な再較正が、ここで可能である。このプロセスは、1秒あたり複数の反復測定および調節を用いて非常に高速であり、自動化されることができる。これにかかる時間は、標的化体積を達成するために要求されるパラメータ調節の反復の回数に依存するであろう。殆どの場合、これは、1秒もかからないであろう。サンプルは、殆ど必要とされない。非常に狭い間隔で非常に特殊な深さに関連付けられた較正ファイルが、容易に達成される。
【0153】
サンプルの流体性質が事例毎に変化し得るシナリオは、分析測定が、サンプルに対して要求されるときに一般的である。例えば、異なる生理学的状態を経験する患者からの血液は、広く変動するサンプル粘度を伴う異なるヘマトクリットを有するであろう。異なる疾患状態からのヒトの尿は、同様の変動性を示し、異なる種からの尿は、粘度スケールにおいて極値を表すであろう。貴重な医薬品および工業化学物質の生産のために使用される発酵培地およびバイオリアクタは、培地の寿命サイクルの異なる期間において、流体性質に重大な効果を及ぼす多糖類等の溶質の異なる濃度を有するであろう。
【0154】
マスタ標準曲線は、すでに説明された理由により、単一の溶媒から準備されることができる。理想的なマイクロ分注溶媒が、このアプローチの有用性および実用性を高めるための標準として使用されることができる。1つの理想的な溶媒は、ピコリットル~ナノリットル範囲内の非常に安定した液滴をもたらすために十分に高い粘度および表面張力を有するジメチルスルホキシド(DMSO)である。それは、蒸発に起因する誤差を最小化する高蒸気圧を有する。安定した再現可能な試験溶液およびプロトコルが、器具および方法検証および認証のために不可欠である。
【0155】
この単一のマスタ標準曲線がサンプルタイプ、サンプル分注体積、質量分析計、および質量分析計の条件にとらわれない理由は、2つある。第1の理由は、これらのシナリオにおける変動に起因するイオン化効率および質量分析計応答の変動が、較正物と基準化合物との応答の比率を使用することによって考慮されるからである。両方は、条件が、変化すると、等しく影響を受ける。較正物と基準化合物とが、互いに安定した同位体バリアントであるとき、全ての化学的効果は、それらが、電子/化学性質ではなく、それらの核性質においてのみ異なるので、排除される。実践において、最も豊富な同位体が、より多い消費により、輸送流体中の基準化合物として使用されるであろう。最も豊富でない同位体は、このより高価な試薬の非常に少ない量が使用されるであろうから、サンプル中の較正物であろう。
【0156】
第2の理由は、捕捉プローブおよび質量分析計のインターフェースの性質による。例えば、音響的に分注されたサンプルは、低ナノリットル範囲内である。OPP等の捕捉プローブは、捕捉時、それらを輸送流体中に100~500倍に瞬時に混合する。全ての実践的目的のために、エレクトロスプレーイオン化領域に送達されているものは、サンプルの組成の内容または典型的な範囲内の液滴体積にかかわらず、輸送流体である。
【0157】
図13は、同じ濃度(例えば、5μM)を伴うサンプルを導入し、合計分注体積(1~100nL)を変動させることによって導出される代替標準曲線実施形態を図示する。より高い分注体積は、例えば、上で説明されるように、高周波数の複数回分注によって達成され得る。
【0158】
本願の実施形態は、発酵分析および動態分析等のADE-OPPの新規の用途において有用に使用され得る。動態分析の解説が、下で説明される。
【0159】
本明細書に説明される装置および方法発明は、サンプル溶液が、静的平衡状態になり、時間とともにもはや変化していないときの測定を含む原位置動態測定を実施するように設計されるいくつかのコンポーネントから成るシステムのためである。
【0160】
溶液の化学性質およびそれらが経時的に変化する様子を理解することが、化学、生化学、および臨床化学の分野における基本的原則である。それらが、制御された様式で経時的に変化するときのみならず、それらが静的かつ最終平衡状態のままであるときの溶液の化学組成を監視する方法および装置が、開発されている。本発明によって可能にされる方法を「原位置動態」と称する。
【0161】
一実施形態において、化学的または生化学的反応が、例えば、規則的なサンプリング間隔において、少なくとも1つの反応ウェルから別々のナノリットル体積の液滴を分注することによって、時間間隔にわたって監視されることができる。本実施形態において、反応は、反応ウェル内で起こり、ウェル内の生成物は、反応が継続するにつれて、サンプリングされる。これは、各々が測定に関する異なる時点を表すいくつかの反応ウェルを調製し、各ウェル内の反応を適切な時点でクエンチし、一連のウェルの分析が続く従来のアプローチと対照的である。このアプローチは、調製されるべきサンプルウェルの数を増やし、それによって、高価な試薬および消耗品の費用を増加させ、その時点での測定の周波数および持続時間を限定し、クエンチプロセスに起因する実験アーチファクトを増加させる。この差異は、
図14に図示される。原位置動態研究からのデータが、
図15に示され、それは、代謝消費に起因する2つの薬物の消失を例証するヒト肝臓マイクロソームアッセイからの動態データを図示する。反応は、NADPH、すなわち、シトクロムP-450酵素のために必要な共同因子の有無別で行われた。
【0162】
この新しい原位置動態方法が完全に可能にされるために、いくつかの条件が、満たされなければならない。開発した装置および方法は、これらの基準の全てを満たす。それは、検出器としての質量分析計の使用を伴い、質量分析計へのサンプル入口インターフェースは、本書の較正部分において前述で説明された開放ポートプローブ(OPP)と称される。サンプルは、本書の較正部分に前に説明された音響音波を使用して開放ポートプローブの中に分注される。開放ポートプローブは、ウェルまたは試験管から分注された液滴を捕捉し、内部標準が、本書の較正部分に同様に説明された信号を正規化するために、OPPの輸送流体に添加されることができる。
【0163】
満たされなければならない条件およびこれが達成される方法は、以下の通りである。
【0164】
1.「分注される体積は、」体積/拡散速度改変現象に起因して、反応を枯渇させない、または動態を改変しないように、「バルク反応に対して小さくなければならない」。この方法に関して、分注される体積は、低nL範囲内、典型的に1~20nLである一方、反応体積は、μL範囲内、多くの場合、数十~数百μLである。
【0165】
本書の較正部分に説明されるように、物理的パラメータが、音波を用いてこの体積範囲内で分注するために確立される。
【0166】
2.「分注は、」サンプルの相互汚染に起因して以前の測定によって影響されないように、各連続的時間測定のために「非接触であるべき」である。装置およびこれが可能にする方法は、非接触様式で分注し、ゼロサンプルキャリーオーバーシナリオをもたらす。
【0167】
音響エネルギーを用いた液滴の発射は、サンプルを引き出すためのピンまたはピペット等の物理的表面の使用を回避する。表面は、常時、問題のあるキャリーオーバーの源である。液滴は、開放ポートプローブの進入口における流体渦中に捕捉され、直ちに一掃される。この洗浄渦は、
図5に示される。選定される流体は、サンプルが非常に混和性であり、溶液から沈殿しないであろうものである。サンプルは、固体表面に決して接触しない。
【0168】
3.「サンプル分注は、高速」であり、反応の開始に近い、またはその後の任意の時間間隔のいずれかの任意の時点で分注されることが可能でなければならない。装置およびそれが可能にする方法は、1Hzを上回る、典型的に0.1~10Hz範囲内の速度において別々のサンプルを分注し、0.01~100Hzの広範な範囲にアクセスすることが可能であり得る。
図16は、約0.6Hzにおいて実行されているサンプルからのデータである。
【0169】
音響音波は、1kHzと同程度に高い周波数において液滴を分注することができるが、これらの液滴を別々の実体として質量分析計に移すことは、問題となる。それらが、開放ポートプローブの中に発射されると、それらは、輸送流体中でそれらを質量分析計に輸送する移送ライン内でスタックする。拡散現象は、これらの液滴がスタックされ得る空間および時間における近さの程度を限定する。現在の限定は、それらが、併合し始める前、1秒あたり約3つである。
【0170】
4.「反応の持続時間にわたる測定が中断されない連続的サンプリングが、要求される選択肢である。」情報が失われ得る状況において、高周波数においてサンプリングするときであっても、サンプルの連続的な中断のない流れが、可能でなければならない。本発明は、短い期間にわたって、または、ウェル内にサンプルが残っている限り、サンプルの連続的な流れを分注するであろう。
【0171】
中断のない連続的信号を達成するために、液滴は、それらが渦中で併合する速度において開放ポートプローブの中に発射される。これは、約5Hzまたはそれを上回る周波数において起こる。定常状態信号が、連続的に反応動態を監視するために要求されるような短いまたは長い期間にわたってもたらされる。液滴に捕捉プローブの輸送導管内で併合させる30Hzにおける液滴の分注からもたらされる連続的質量分析計信号を図示する
図16を参照されたい。この技法は、質量分析計レンズ、質量分析装置の調整、またはより長い期間を有することから利益を享受するデータ入手の方法の採用等の多くの他の目的のために有用である。これの例は、信号対雑音を増加させるための信号平均化、およびより長い積分時間を用いて達成されるより良好なイオン統計から利益を享受する正確な質量測定である。
【0172】
サンプル中の全ての化合物のための微分イオン移動度補償電圧値を有するデータを入手することが、サンプル導入の時間が任意の所望の値まで増加させられることができるとき、可能にされるであろう。SWATH等のデータ入手方法は、サンプル中に存在する全ての前駆体イオンに関する生成イオンスペクトルを取得する。サンプルの精密な化学組成についての膨大な量の情報が、もたらされるが、サンプルの全ての成分に関する良好な信号対雑音が達成されるために十分に長いサンプル導入時間を調節することが可能であることが、本発明によって可能にされる。微分イオン移動度走査をSWATHと組み合わせることは、直交分離技法を組み合わせることによって、サンプルの深い化学カバレッジを提供するであろう。しかし、これらの強力な技法は、サンプリング時間が、自動的に調節および制御されることができる場合にのみ実現されることができる。この音響注入アプローチを用いて、サンプリング時間は、信号平均化が、これを徐々に改良するにつれて、S/Nをオンザフライで測定することによって、各個々のサンプルに関して自動的に調節され、標的化値が、達成されると、音響分注を停止することができる。
【0173】
5.反応は、任意の方法で組成物を浄化または修正するための測定ツールによるいかなる要件も伴わずに、その元々の形態において分注されるべきである。例えば、事前浄化を伴わない生物学的流体、酵素、共同因子、緩衝剤、およびインターフェース活性剤の直接分析は、その媒体中での元々の反応の完全性を維持するために必要である。同様に、それらが、測定ツールと適合性があるように生理学的緩衝剤条件を修正するための要件は、結果が、もはや生物系を表していないことが可能であるので、回避されるべきである。
【0174】
サンプルが、質量分析計の中に導入される前のある程度のサンプル浄化を伴わない複雑な生物学的サンプルの直接分析は、イオン化抑制により、現在行われていない。イオン化抑制は、イオン化事象に関与する物理化学的プロセスの結果である。極めて高い濃度の内因性物質が存在するとき、エレクトロスプレーによるイオン化は、分析物を含む荷電液滴の表面が液滴からの分析物の電場放出を防止する不貫通性層によって遮断されるので、抑制される。同様に、極めて高い濃度の内因性物質が存在するとき、大気圧化学イオン化によるイオン化は、試薬イオン枯渇と呼ばれる現象によって抑制される。高い気相酸性度および塩基性度の内因性物質は、試薬イオン集団に存在する全ての電荷を消費し、バルク溶液成分と比較して、微量に存在する分析物に何も残さないであろう。
【0175】
図17のデータは、血漿が、捕捉プローブの中に直接注入されるとき、いかなる信号抑制も起こらないことを実証する例である。図示されるように、分析物信号は、類似するが、典型的に、血漿マトリクスは、イオン抑制および後続信号損失につながるであろう。
図18のデータは、Tween 20インターフェース活性剤を含む高処理能力スクリーニングアッセイが、質量分析計の中に直接注入されるとき、いかなる信号抑制も起こらないことを実証する例である。図示されるように、いかなる洗浄剤も伴わない左側の縦線は、群ごとに洗浄剤(Tween 20)を伴う右側の縦線に類似するピークエリアを有する。
【0176】
装置およびそれが可能にする方法は、以下の手段によって、質量分析計の中に注入することに先立ってサンプルを浄化する必要性を回避する。
図19は、開放ポートプローブの渦進入口の中に分注される2.5nL液滴を示す。渦体積は、約1μLであり、それは、瞬時の400倍希釈をもたらし、イオン化領域への即時の移送が続く。内因性物質の希釈は、それらのイオン化抑制効果に対抗する。
【0177】
6.測定を可能にする、または改良する目的のための反応の要件に無関係の化合物の添加は、結果を歪めないように回避されなければならない。一例は、測定の正確度および精密さを改良するための反応への内部基準標準の添加である。これは、着目酵素または触媒の活性に干渉するリスクを冒す。
【0178】
第2の例は、反応の進行を監視する二次的な間接的手段を提供するための反応成分に連結される光吸収または発光標識の使用である。これも、それらが、間接的な測定であり、標識が、多くの場合、酵素、輸送体、または受容体等の生物学的システムの重要な成分の活性を改変することが見出されるので、結果を混乱させるリスクを冒す。
【0179】
本発明は、標識の使用を伴わずに、質量分析計によって、着目成分の量を直接測定する。
図20のデータおよび対応する較正曲線は、方法の本質的な定量的性質を実証する。捕捉プローブサンプル処理領域の中に注入されるサンプルの異なる量は、比例して異なる信号につながり、較正曲線は、異なる信号から構築され得る。
【0180】
選択肢は、内部標準をサンプルに添加する(それは、結果を混乱させ得る)ことなく、サンプルからの信号を正規化するために内部標準を使用するために利用可能である。内部標準は、OPPインターフェースの輸送流体に添加される。内部標準と標的化分析物との間の応答比が、最初に測定および記録される。この関係は、次いで、その濃度が未知であるサンプル中の分析物の量を決定するために使用される。分析物の量は、質量分析計信号対分析物の濃度の較正曲線を事前確立し、次いで、そのグラフから未知のサンプルの濃度を読み取ることによって、輸送流体中の内部標準なしに決定されることができる。
【0181】
装置およびそれが可能にする方法は、生物学または化学において典型的に遭遇する酵素または触媒反応に対するいかなる修正も要求しない。既知の生物学的標的、酵素、受容体、生細胞ベース、またはその他に対する高処理能力スクリーニングアッセイは、血漿または他の生物学的流体の直接分析と同様の例である。測定は、反応への内部標準の添加を要求せず、測定は、例えば、蛍光体の使用で遭遇するような二次的な間接的検出に依存することなく、反応物質および/または生成物に対して直接行われる。
【0182】
7.「反応条件は、一貫したままでなければならず、それは、温度の重要なパラメータに対する制御を維持することを意味する。」温度制御が、特に、注意深い動態測定が行われるべきであるとき、一般的に使用される。各サンプルウェルは、有意義なデータを発生させるために、次のそれと正確に同じ温度に維持されなければならない。
【0183】
熱を全てのウェル、例えば、マイクロタイタプレートに均一に伝達する方法が、採用されており、それは、熱を均一に伝達するために、プレートの底部または上部全体を加熱する。OPPの中に音響的に分注されるウェルの場合、プレートの上部および底部領域の両方は、底部上の音響トランスデューサおよび上部上のOPPによって占有される。これは、この問題を解決するための古典的アプローチを不適切にする。
【0184】
圧電トランスデューサからの音波をウェルプレートの底部に効果的に結合するために、水のような液体媒体が、空隙を回避するために使用される。音響分注器の本実施形態の全ては、トランスデューサのレンズと各個々のウェルの底部との間の領域を浸水させる。本問題を解決するための装置の要素は、結合流体を用いてウェルプレートの底部全体を少量の結合液体で浸し、流体の温度を制御することである。このように、加熱および冷却の両方での一貫して均一な温度制御が、維持されることができる。本発明の本要素は、
図11に示される。
【0185】
音響分注を用いてサンプル温度を精密かつ正確に制御する能力は、動態測定以外の利益を有する。本仮特許出願の較正の節に説明されるように、音響分注パラメータは、特定の粘度値の溶液に特定である。粘度が変化すると、分注パラメータも、変化する。温度を一定に保ち、温度を安定させることは、粘度を安定させ、したがって、分注パラメータが較正から外れてドリフトすることを防止することに役立つ。
【0186】
加えて、サンプルを温めることは、それらの粘度を低減させる。音響的に分注され得る最大粘度溶液は、約100cpである。温度を効果的に上昇させる能力は、粘度が熱によって最大にあるそれらの粘度を低減させることによって、分注され得る溶液タイプの範囲を増加させるであろう。
【0187】
8.各ウェルに対して行われる測定のタイプは、柔軟性があり、制限されず、サンプル毎に迅速に切り替えられることが可能なままでなければならない。これは、原位置動態が、同時に多数の異なる反応の分析を可能にし、異なる反応物質、生成物、および共同因子が監視されることを要求するからである。各ウェルの分注中の複数の異なる化合物の分析のための能力が、利用可能でなければならない。例えば、異なるアッセイが、隣接するウェル内で実行されるので、96、384、1,536、または3,456ウェルマイクロタイタプレートの各ウェルに関して監視される化合物を変更すること。
【0188】
この方法は、質量分析計によって監視されている質量をウェル位置と同期させることによって、この要件を適応させる。この能力は、それらが、隣接するウェル内で監視される異なる質量チャネルを有するように思慮深く順序付けられる場合、サンプルウェル間のある程度の隣接するピーク重複を可能にすることによって、分析の速度も高める。
図12は、これの例であり、ピーク重複が起こっているが、異なる質量が監視されているので、隣接するサンプルからのいかなる信号干渉も存在しない。この構想は、クロマトグラフ分離のために設計された「スケジュールMRM」の技法と類似する。本発明において、MSデータ入手方法は、クロマトグラフ保持時間と同期させられないが、バイアル位置と同期させられる。方法を使用して、いくつかのサンプルからのデータが、単一のデータファイルにおいて、典型的に、マイクロタイタプレート内の全てのサンプルにおいて入手される。加えて、より高速な方法切り替え速度が、要求される(サブ秒分解能)。