(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】モノイソシアネートを尿素に変換するための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 273/18 20060101AFI20240227BHJP
C07C 275/28 20060101ALI20240227BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C07C273/18
C07C275/28
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021531307
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 US2019059191
(87)【国際公開番号】W WO2020117408
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-17
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】521158196
【氏名又は名称】ダウ ポルトガル プロドゥトス キミコス, ソシエダト ウニペッソアル, エルディーエー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ヘフナー、ジュニア、ロバート イー.
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン、ヘルジ
(72)【発明者】
【氏名】クラム、ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】コスタ、アルメニオ
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-122660(JP,A)
【文献】Tetrahedron Letters,1972年,13(11),1065-1068
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニルイソシアネートを含む有機イソシアネートを、無極性の有機溶媒の存在下で1つ以上の尿素化合物に変換するための方法であって、前記有機イソシアネートの重量に基づいて、少なくとも0.025重量%の有機金属触媒の存在下で、液体の無極性溶媒中で前記有機イソシアネートの溶液を反応させることを含み、前記有機金属触媒は、少なくとも1つの有機配位子に結合された少なくとも1つの金属イオンを含み、前記金属イオンは、Co(II)、Mg(II)、Y(III)、Cr(III)、および3+の酸化状態であるランタニド系列の金属イオンのうちの1つ以上から選択されて、前記有機イソシアネートの少なくとも一部を前記1つ以上の尿素化合物に変換する、方法。
【請求項2】
前記金属イオンは、Co(II)またはMg(II)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの有機配位子は、アレーン配位子である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アレーン配位子は、シクロペンタジエニルまたはメチルシクロペンタジエニルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属触媒は、ビス(シクロペンタジエニル)Co(II)、ビス(シクロペンタジエニル)Mg(II)、ビス(シクロペンタジエニル)Cr(II)、トリス(シクロペンタジエニル)Gd(III)、トリス(シクロペンタジエニル)Y(III)、トリス(シクロペンタジエニル)La(III)、トリス(シクロペンタジエニル)Ru(III)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)Co(II)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)Mg(II)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)Cr(II)、トリス(メチルシクロペンタジエニル)Gd(III)、トリス(メチルシクロペンタジエニル)Y(III)、トリス(メチルシクロペンタジエニル)La(III)、トリス(メチルシクロペンタジエニル)Ru(III)、トリス(シクロペンタジエニル)ランタニド系列金属、およびトリス(メチルシクロペンタジエニル)ランタニド系列金属のうちの1つ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの有機配位子は、β-ジケトンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記金属触媒は、Co(II)アセチルアセトネートおよびビス(2,4-ペンタンジオナト)Mg(II)のうちの1つ以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
液体の無極性溶媒中の前記有機イソシアネートの前記溶液は、イソシアネート製造プロセスからのプロセスストリームであるか、またはそれを含み、前記プロセスストリームは、ポリアミンをプロセス溶媒中のホスゲン溶液と反応させることによって生成されるポリイソシアネート生成物から前記プロセス溶媒を分離することによって得られる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリアミンは、
メチレンジアニリン(MDA
)および/または
少なくとも3つのアニリン基を有するポリメチレンポリアニリン(PMDA
)である、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上の尿素化合物の少なくとも一部は、前記イソシアネート製造プロセスにリサイクルされ、ポリイソシアネートと反応して1つ以上のビウレット化合物を形成する、請求項
8または
9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の尿素化合物を前記ポリイソシアネートと反応させて1つ以上のビウレット化合物を形成する工程は、前記プロセス溶媒から前記ポリイソシアネート生成物を分離する工程の間に実行される、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の有機溶媒の少なくとも一部を、前記1つ以上の尿素化合物から分離する工程をさらに含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI
)および/またはポリマーMDI製造プロセスであって、
a)アニリンをホルムアルデヒドと反応させて、メチレンジアニリン(MDA)、少なくとも3つのアニリン基を有する1つ以上のポリメチレンポリアニリン(PMDA)、および未反応のアニリンの混合物を溶媒中で生成する工程と、
b)工程a)で生成した前記混合物からアニリンを蒸留して、前記MDA、PMDA、および残留アニリンを含有するプロセスストリームを生成する工程と、
c)工程b)からの前記プロセスストリームを無極性溶媒中でホスゲン化して、前記無極性溶媒、MDI、少なくとも3つのフェニルイソシアネート基を有する1つ以上のポリメチレンポリフェニルイソシアネート(PMDI)、およびフェニルイソシアネートを含有するイソシアネートプロセスストリームを形成する工程と、
d)蒸留によって、工程c)で得られた前記イソシアネートプロセスストリームからMDIおよびPMDIを分離して、前記無極性溶媒、溶媒ストリームの重量に基づいて0.2~10重量パーセントのフェニルイソシアネート、ならびに前記溶媒ストリームの重量に基づいて5重量パーセントまでのMDIおよび/またはPMDIを含有する前記溶媒ストリームを生成する工程と、
e)前記フェニルイソシアネートの重量に基づいて少なくとも0.025重量%の有機金属触媒の存在下で、工程d)で得られた前記溶媒ストリームを反応させる工程であって、前記有機金属触媒は、少なくとも1つの有機配位子に結合された少なくとも1つの金属イオンを含み、前記金属イオンは、Co(II)、Mg(II)、Y(III)、Cr(III)、および3+の酸化状態であるランタニド系列の金属イオンのうちの1つ以上から選択されて、前記フェニルイソシアネートの少なくとも一部を1,3-ジフェニル尿素および任意選択でアニリンに変換し、任意選択で前記有機金属触媒を熱的に失活させる、反応させる工程と、
f)工程e)から直接または間接的に工程d)へ、1,3-ジフェニル尿素、アニリン、および任意選択で無極性溶媒、および任意選択で前記触媒の前記熱失活による残留物をリサイクルする工程であって、それによって、前記1,3-ジフェニル尿素の少なくとも一部は、前記MDIおよび/またはPMDIの少なくとも一部と反応して、1つ以上のビウレット化合物を形成し、前記アニリンの少なくとも一部は、存在する場合、前記MDIおよび/またはPMDIの少なくとも一部と反応して、1つ以上の尿素化合物を形成する、リサイクルする工程と、を含む、製造プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノイソシアネートを尿素化合物に変換するための方法に関する。
【0002】
ポリイソシアネートは工業的に大量に生成される。ポリイソシアネートの主な用途は、ポリウレタンポリマーおよびポリ尿素ポリマーを作製するための原料としてである。
【0003】
モノイソシアネートは、製造プロセスの副生成物として生成されることがある。例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)またはポリマーMDIが製造されると、通常、少量のフェニルイソシアネートが生成される。「ポリマーMDI」は、MDIの1つ以上の異性体と、少なくとも3つのフェニルイソシアネート基を有する1つ以上のポリメチレンポリフェニルイソシアネートと、の混合物である。
【0004】
これらのモノイソシアネートは、通常、生成物から除去される。MDIまたはポリマーMDIの場合、フェニルイソシアネートは、生成物が反応溶媒から分離されるときに除去されることが多い。これにより、溶媒、大部分のフェニルイソシアネート、ならびに少量のMDIおよび/またはポリマーMDIを含有するストリームが生成される。
【0005】
溶媒は、一般に、リサイクルされるが、そうするためには、モノイソシアネートが時間とともに蓄積しないように、モノイソシアネートを溶媒から除去されなければならない。特にフェニルイソシアネートの場合には、潜在的毒物学的な懸念として、それを破壊するか、または無害な生成物に変換することが必要である。
【0006】
いくつかの従前のアプローチは、イソシアネート基の反応性を利用して、モノイソシアネートを、溶媒から容易に分離される固形物に変換してきた。したがって、EP1,773,755は、フェニルイソシアネートの三量体化を触媒して、トリス(フェニル)イソシアヌレートを形成することを記載している。US4,745,216は、フェニルイソシアネートを、アミノまたはヒドロキシル官能基を有するポリマービーズと反応させることを記載している。US4,405,527は、フェニルイソシアネートを、化学量論量以上の量のポリアミンまたはグリコールと反応させて、フェニルイソシアネートをウレタンまたは尿素に変換することを記載している。
【0007】
これらのアプローチはすべて、重大な欠点を有する。添加される原料の費用がある。これらの添加される原料は、不純物の別の発生源を意味し、この場合もやはり蓄積を避けるために、リサイクルされる前に、不純物自体が、溶媒から厳密に除去されなければならない。水は安価であるが、モノイソシアネートの尿素への低変換を伴う遅い反応をもたらす傾向があり、かつ別の汚染源であるモノアミン副生成物を生成する傾向もある。US4,405,527に記載の化学量論以上の量のポリアミンを添加することは、それらは多くの場合、完全に消費されないか、または除去されないので、特に問題となる可能性がある。これらのポリアミンが溶媒とともにリサイクルされる場合、それらは、場合によっては、所望のポリイソシアネートの生成物を消費し、収率を減少させ、粘度を増加させて生成物の他の特性を改変するより高い分子量の不純物を形成するといった不要な反応を進めてしまう。生成物中に残される場合、ポリアミンは、それらを除去すべきである場合、困難な分離課題を提示する。未反応のポリアミンはまた、ホスゲン化されて、所望の生成物から除去するのが非常に困難な望ましくないポリイソシアネート化学種を形成する可能性がある。
【0008】
Abramovitchは、Tetrahedron Letters No.11,pp.1065-1068(1972)において、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中でのフェニルイソシアネートのアニリンと1,3-ジフェニル尿素との混合物への熱変換を記載している。同参考文献は、DMSOをベンゼンを含む無極性炭化水素溶媒と置き換える場合には、このような反応が起こらないことを報告している。DMSOを溶媒として使用することは、工業的規模では実用的ではない。ホスゲン化溶媒は、典型的には、非極性炭化水素またはハロゲン化炭化水素である。DMSO中でフェニルイソシアネートを対称性のある尿素に変換するには、溶媒移行プロセスが必要であり、これは大規模で法外に高価である。
【0009】
本発明は、フェニルイソシアネートを含む有機イソシアネートを、無極性有機溶媒の存在下で1つ以上の尿素化合物に変換するための方法である。本方法は、有機イソシアネートの重量に基づいて、少なくとも0.025重量%の有機金属触媒の存在下で、液体の無極性溶媒中で有機イソシアネートの溶液を反応させることを含み、有機金属触媒は、少なくとも1つの有機配位子に結合された少なくとも1つの金属イオンを含み、金属イオンは、Co(II)、Mg(II)、Y(III)、Cr(III)、および3+の酸化状態であるランタニド系列の金属イオンのうちの1つ以上から選択されて、有機イソシアネートの少なくとも一部を1つ以上の尿素化合物に変換する。
【0010】
有機金属触媒は、驚くべきことに、有機イソシアネートの反応を促進するのに有効である。有機イソシアネートの少なくとも1つのイソシアネート基は、触媒の存在下で反応して、対応するアミノ基を形成すると考えられる。このアミノ基は、有機イソシアネートの別の分子のイソシアネート基と反応して尿素を形成することができる。重要なことに、この反応は、溶媒が工業規模のイソシアネート生成プロセスにおいて、典型的に使用されるような無極性型である場合でさえ、良好な速度で起こる。これは、本発明の非常に重要な経済的利点を表す。
【0011】
多くの場合、このようにして形成された尿素化合物(複数可)は、液体の無極性溶媒中で少なくとも部分的に可溶なままであり、これは、固/液分離工程を実行する必要性を低減または除去することができる。
【0012】
さらに、前述のプロセスで形成された尿素化合物およびアニリン(存在する場合)を、各々少量ずつ、ポリイソシアネート生成プロセスの中へと戻してリサイクルできることが見出されている。尿素化合物(複数可)は、プロセス溶媒からポリイソシアネートを分離するために通常使用される蒸留プロセスの条件下でポリイソシアネートと反応することができ、少量のビウレット含有種を形成する。リサイクルされる尿素の量が少ない場合、これらビウレット化合物は、イソシアネートの当量および官能性などの生成物の特性に最小限の影響しか及ぼさない。したがって、これらの種を含有する生成物は、すべてではないにしてもほとんどの用途において、未変性ポリイソシアネートと直接置換することができる。尿素化合物を形成するために反応しなかった任意の残留アニリンも、同様に、プロセス溶媒からポリイソシアネートを分離するために通常使用される蒸留プロセスの条件下で、ポリイソシアネートと反応し、少量の尿素含有種を形成し得る。工業規模のポリイソシアネート設備で生成されるフェニルイソシアネートの副生成物の量は、通常、非常に少ないので、本発明は、フェニルイソシアネートの副生成物のすべてではないにしても大部分をリサイクルすることができる手段を提供し、それによって、それから形成されるフェニルイソシアネートおよび/または尿素および/またはアニリンを処理する必要性を排除しないにしても大幅に低減する。
【0013】
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、尿素化合物を過剰のポリイソシアネートと反応させて、ビウレット-および尿素-変性ポリイソシアネート組成物を生成する工程をさらに含む。
【0014】
特定の実施形態では、本発明は、MDIおよび/またはポリマーMDIの製造プロセスであって、
a)アニリンをホルムアルデヒドと反応させて、メチレンジアニリン(MDA)、少なくとも3つのアニリン基を有する1つ以上のポリメチレンポリアニリン(PMDA)、および未反応のアニリンの混合物を溶媒中で生成する工程と、
b)工程a)で生成した混合物からアニリンを蒸留して、MDA、PMDA、および残留アニリンを含有するプロセスストリームを生成する工程と、
c)工程b)からのプロセスストリームを無極性溶媒中でホスゲン化して、無極性溶媒、MDI、少なくとも3つのフェニルイソシアネート基を有する1つ以上のポリメチレンポリフェニルイソシアネート(PMDI)、およびフェニルイソシアネートを含有するイソシアネートプロセスストリームを形成する工程と、
d)蒸留によって、工程c)で得られたイソシアネートプロセスストリームからMDIおよびPMDIを分離して、無極性溶媒、溶媒ストリームの重量に基づいて0.2~10重量パーセントのフェニルイソシアネート、ならびに溶媒ストリームの重量に基づいて5重量パーセントまでのMDIおよび/またはPMDIを含有する溶媒ストリームを生成する工程と、
e)フェニルイソシアネートの重量に基づいて、少なくとも0.025重量%の有機金属触媒の存在下で、工程d)で得られた溶媒ストリームを反応させる工程であって、有機金属触媒は、少なくとも1つの有機配位子に結合された少なくとも1つの金属イオンを含み、金属イオンは、Co(II)、Mg(II)、Y(III)、Cr(III)、および3+の酸化状態であるランタニド系列の金属イオンのうちの1つ以上から選択されて、フェニルイソシアネートの少なくとも一部を1,3-ジフェニル尿素および任意選択でアニリンに変換し、任意選択で有機金属触媒を熱的に失活させる、反応させる工程と、
f)工程e)から直接または間接的に工程d)へ、1,3-ジフェニル尿素、アニリン、および任意選択で無極性溶媒、および任意選択で触媒の熱失活による残留物をリサイクルする工程であって、それによって、1,3-ジフェニル尿素の少なくとも一部は、MDIおよび/またはPMDIの少なくとも一部と反応して、1つ以上のビウレット化合物を形成し、アニリンの少なくとも一部は、存在する場合、MDIおよび/またはPMDIの少なくとも一部と反応して、1つ以上の尿素化合物を形成する、リサイクルする工程と、を含む、製造プロセスである。
【0015】
出発物質である有機イソシアネートは、フェニルイソシアネートを含み、このフェニルイソシアネートは、本発明の目的のために、1つのイソシアネート基のみを有する化合物であり、このイソシアネート基は、芳香環(好ましくはベンゼン環)の環炭素に直接結合される。フェニルイソシアネートは、非置換であり得、すなわち、以下の構造を有するフェニルイソシアネートであり、
【化1】
かつ/または、環炭素のうちのいずれか1つ以上を置換され得る。置換フェニルイソシアネートの中には、2-クロロフェニルイソシアネート、3-クロロフェニルイソシアネート、および4-クロロフェニルイソシアネートを含むフェニルイソシアネートのモノクロロ異性体、2,4-ジクロロフェニルイソシアネート、2,6-ジクロロフェニルイソシアネート、3,4-ジクロロフェニルイソシアネート、および3,5-ジクロロフェニルイソシアネートを含むジクロロフェニルイソシアネート、ならびにp-クロロメチルフェニルイソシアネートおよびo-クロロメチルフェニルイソシアネートなどのクロロアルキル置換フェニルイソシアネートがある。上記の任意の2つ以上の混合物(上記のようなフェニルイソシアネートおよび任意の1つ以上の置換フェニルイソシアネートの混合物を含む)を使用し得る。
【0016】
有機イソシアネートは、1つ以上のポリイソシアネート化合物を含む他のイソシアネート化合物を含み得る。特に興味深いのは、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)であり、これは2,2’-、2,4’-、または4,4’-異性体のうちの任意の1つ以上、および少なくとも3つのフェニルイソシアネート基を有する1つ以上のポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ならびにポリマーMDIであり得る。また、有用なのは、尿素、ウレタン、カルボジイミド、ウレジオン、アロファネート、および/またはビウレット基を含むように変性された上記のいずれかである。
【0017】
出発物質である有機イソシアネートとして、フェニルイソシアネートと1つ以上の他の有機イソシアネートとの混合物を使用することができる。このような混合物では、他の有機イソシアネート(複数可)が少しでも存在する場合、モノイソシアネートと比較して比較的少量でも存在することが好ましい。他の有機イソシアネート(複数可)が少しでも存在する場合、出発物質であるイソシアネート溶液の重量の少なくとも0.0001%、少なくとも0.1%、少なくとも0.2%、少なくとも0.5%、少なくとも1%、または少なくとも1.5%を構成し得、その5%まで、4%まで、または3%までを構成し得る。
【0018】
有機イソシアネート(複数可)は、1つ以上の無極性有機溶媒に溶解される。溶媒は一般に、少なくとも60℃の沸点(1つの標準大気圧で)を有し、(i)有機イソシアネートのための溶媒、(ii)イソシアネート基が全くない溶媒、および(iii)イソシアネート基およびプロセス条件下で形成する反応生成物(アミンなどの中間体を含む)に対して不活性、すなわち非反応性であることをさらに特徴とする。好適な溶媒の例には、モノクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、およびm-ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族化合物、様々なトリクロロベンゼン異性体、それらの混合物などが挙げられる。他の好適な溶媒には、例えば、ベンゼン、トルエン、パラ-キシレン、およびハロゲン化または非ハロゲン化することができる様々な脂肪族炭化水素、その任意の2つ以上の混合物などが挙げられる。
【0019】
有機イソシアネート(複数可)は、好ましくは溶媒(複数可)中に幾分か希釈された溶液として存在する。有機溶媒(複数可)は、例えば、溶媒(複数可)および有機イソシアネート(複数可)の総合重量の少なくとも90%を構成し得る。特定の実施形態では、有機溶媒(複数可)がその重量の少なくとも95%を構成し得、その99.8%まで、99.5%まで、99%まで、または98.5%までを構成し得る。
【0020】
フェニルイソシアネート(複数可)は、例えば、出発溶液の重量の10%まで、5%まで、4%まで、または3%までを構成し得る。特定の実施形態では、フェニルイソシアネート(複数可)は、出発溶液の重量の少なくとも0.2%、少なくとも0.5%、少なくとも1%、または少なくとも1.5%を構成する。
【0021】
出発溶液は、ポリイソシアネート製造施設からのプロセスストリームであり得るか、またはプロセスストリームを含み得る。ポリイソシアネートは、溶液中でポリアミンをホスゲンと反応させることによって製造されることがある。ポリイソシアネートの生成物から溶媒を分離すると、溶媒に加えて、少量のモノイソシアネート(複数可)および場合によっては少量のポリイソシアネートを含有するプロセスストリームが生成されることがある。このようなプロセスストリームは、本発明のプロセスにとって有用な出発溶液である。
【0022】
特定の実施形態では、プロセスストリームは、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)製造施設から取得される。MDIおよびポリマーMDIは、アニリンをホルムアルデヒドとともに縮合し、最終的にメチレンジアニリン(MDA)および/または3つ以上のアニリン基を有するポリメチレンポリアニリン(PMDA)を生成し、これらが、次に、溶液中のホスゲンと反応させられて、対応するポリイソシアネートを生成することによって、工業的に作製される。少量の未反応のアニリンがホスゲン化されて、フェニルイソシアネートを生成する。生成物が反応溶媒から分離される場合、溶媒、少量のフェニルイソシアネート、ならびに多くの場合、少量のMDIおよび/またはPMDIを含有するプロセスストリームが生成される。このプロセスストリームが、本発明のプロセスの有用な出発溶液である。
【0023】
触媒は、Co(II)、Mg(II)、Y(III)、Cr(III)、および3+の酸化状態のランタニド系列(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、またはLu)の金属イオンのうちの1つ以上から選択される少なくとも1つの金属イオンを含む有機金属触媒である。Co(II)およびMg(II)が、特に好ましい。
【0024】
金属イオンは、少なくとも1つの有機配位子に(ハプティック型共有結合によるものを含む共有結合、陰イオン、またはそれ以外で)結合され、加えて、1つ以上の無機配位子および/または陰イオンに結合されて電荷のバランスをとり、静電的に中性の化合物または錯体を形成し得る。
【0025】
有機配位子の実施例には、例えば、アレーン配位子が含まれ、それは4以上、特に5、6、7、または8員環のうちの少なくとも1つの環を有し得る。環は例えば、ホウ素または窒素などの1つ以上のヘテロ原子を含有し得る。このようなアレーン配位子は、例えば、メチルペンタジエニル、ジカルボリド、シクロオクタテトラエン、フラーレンなどの、フェニル、置換フェニル、シクロペンタジエニル、および置換シクロペンタジエニルであり得る。アレーン配位子は、必要に応じてポリマー構造に結合され得、このことは、不均一触媒を提供するために行われ得る。配位子は、好ましくは窒素原子を含まない。
【0026】
いくつかの実施形態では、金属触媒が、金属イオンが2つまたは1つのそのようなアレーン基にそれぞれ結合される「サンドイッチ」または「ハーフサンドイッチ」化合物である。前者の場合、金属イオンはアレーン基の間に位置する。いずれにせよ、金属イオンは、カルボニル、炭化水素、ハロゲン化物、水酸化物、ニトロなどの1つ以上の他の配位子または陰イオンにさらに結合され得、2つの金属イオンが構造中に存在し得る。
【0027】
特定の実施形態では、金属触媒は、金属イオンが(任意選択で置換し得る)2つ以上のシクロペンタジエン環ならびに任意選択で1つ以上の他の配位子および/または陰イオンに結合されるメタロセンである。ビス(シクロペンタジエニル)金属化合物が特に好ましい。
【0028】
他の実施形態では、配位子のうちの1つ以上がβ-ジケトン、すなわち、少なくとも1つの
【化2】
部分を含むものであり、式中Rは、水素もしくは有機基(好ましくは水素)、または対応する互変異性のエノールである。そのようなβ-ジケトン配位子の実施例には、アセチルアセトネート、エチルアセトネート、ピロリジン-2,4-ジオン、および
【化3】
が含まれ、式中R
1は、ヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルであり、シクロヘキサン環は、炭素原子のうちの1つ以上で置換され得る。RおよびR
1基は、独立して、例えば、24個まで、12個まで、8個まで、6個まで、4個まで、または2個までの炭素原子を含有し得る。
【0029】
特定の金属触媒としては、ビス(シクロペンタジエニル)Co(II)、ビス(シクロペンタジエニル)Mg(II)、トリス(シクロペンタジエニル)Cr(III)、トリス(シクロペンタジエニル)Gd(III)、トリス(シクロペンタジエニル)Y(III)、トリス(シクロペンタジエニル)La(III)、トリス(シクロペンタジエニル)Ru(III)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)Co(II)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)Mg(II)、トリス(メチルシクロペンタジエニル)Cr(II)、トリス(メチルシクロペンタジエニル)Gd(III)、トリス(メチルシクロペンタジエニル)Y(III)、トリス(メチルシクロペンタジエニル)La(III)、Co(II)アセチルアセトネート、ビス(2,4-ペンタンジオナト)Mg(II)、および他のランタニド系列金属(Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、またはLu)のうちのいずれか1つ以上の対応する化合物が挙げられる。
【0030】
触媒の量は、イソシアネート(複数可)の重量に基づいて少なくとも0.025重量%である。好ましい量は、少なくとも0.035重量%である。どんなに多くの量も使用できるが、触媒の量が2重量%以下、1重量%以下、または0.5重量%以下でさえある場合、十分な結果が得られる。
【0031】
触媒は必要に応じて、無機または有機担体上に担持され得る。触媒はポリマー主鎖上に担持され得るか、またはポリマー主鎖に結合され得る。そのような場合、担体またはポリマー主鎖の重量は、イソシアネート(複数可)の単位重量当たりの触媒重量を算出する際に無視される。
【0032】
また、反応混合物は基本的に水を含まないことが好ましい。本発明の目的のために、反応混合物(またはその任意の成分を個々に)は、それがその総重量に基づいて、その0.05重量%以下を含有する場合、基本的に水を含まないと考えられる。反応混合物は、好ましくは0.01重量%以下の水を含有する。
【0033】
溶媒、有機イソシアネート、および触媒の混合物を、少なくとも0℃の温度で少なくとも5分間保持して、有機イソシアネートの少なくとも一部を尿素化合物に変換する。温度は、好ましくは、溶媒が反応の圧力条件下で、その沸点以下であり、かつ触媒が分解および/または失活する温度未満のままであるような温度である。温度は、好ましくは少なくとも20℃、少なくとも60℃、少なくとも70℃、または少なくとも80℃であり、例えば、225℃まで、180℃まで、150℃まで、130℃まで、120℃まで、110℃まで、または100℃までであり得る。採用される温度は、フェニルイソシアネートの1,3-ジフェニル尿素への所望の変換率、および特定の溶媒を使用する際に採用される特定の有機金属触媒の熱安定性に依存する。
【0034】
反応は、有機イソシアネート(複数可)の少なくとも一部を1つ以上の尿素化合物に変換するのに十分に長い時間実行される。ビウレット形成を含む他の副反応が幾分か少量発生することがあり、少量のアニリンが典型的に生成されるが、場合によっては尿素化合物への反応によって完全に消費される。好ましくは、反応は、有機イソシアネート(複数可)の出発物質の量が少なくとも3分の1または少なくとも2分の1を尿素化合物(および、存在する場合はビウレット化合物)に消費するのに十分な時間実行される。好適な反応時間は、60℃以上の温度で、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも20分、または少なくとも30分である。いくらでも長い時間を使ってもよいが、一般に12時間を超える反応時間は不要である。好ましい反応時間は、最0時間まで、8時間まで、または6時間までである。
【0035】
反応圧力は、亜大気圧から超大気圧まで相当な範囲に及び得る。圧力は、有機イソシアネートおよび溶媒が反応温度で揮発しないように十分に高くなければならない。絶対反応圧力は、例えば、少なくとも0.1気圧、少なくとも0.5気圧、少なくとも0.9気圧、および例えば、10気圧まで、5気圧まで、2気圧まで、または1.25気圧までであり得る。反応は、好ましくは、窒素、ヘリウム、またはアルゴンのような不活性雰囲気下で実行される。同様に、有機金属触媒の熱分解は、好ましくは窒素のような不活性雰囲気下で実施される。
【0036】
本発明はいかなる理論にも限定されないが、出発物質である有機イソシアネート化合物(複数可)のイソシアネート基の一部が、反応条件下で反応して、対応する第一級アミンを形成すると考えられる。特に、フェニルイソシアネートはアニリンに変換される。第一級アミン基はイソシアネート基に対して反応性が高く、したがって、未反応のイソシアネート化合物(複数可)と反応して、対応する尿素化合物(複数可)を形成する。上述のように、尿素化合物(複数可)がイソシアネートとさらに反応するにつれて、幾分か微量のビウレットの形成が多くの場合に見られる。一般に、反応時間がより長く、反応温度がより高ければ、少量の共生成物の形成に有利である。
【0037】
フェニルイソシアネートのみが存在する単純な場合では、尿素生成物は一般に1,3ージフェニル尿素である。置換フェニルイソシアネートは、対応する対称性のある尿素生成物を形成する傾向がある。
【0038】
ポリイソシアネートが存在し、かつ/またはイソシアネート化合物の混合物が存在する場合、尿素化合物のより複雑な混合物が形成される。
【0039】
本発明の利点は、有機金属触媒が多くの場合に熱的に失活できることである。熱失活工程は、尿素生成反応工程よりも高い温度で実行される。したがって、いくつかの実施形態では、尿素形成工程が第1のより低い温度で実行され、続いて、触媒失活工程が第2のより高い温度で実行される。第1のより低い温度は触媒が失活または分解する温度より低いが、第2のより高い温度は触媒が失活または分解するような温度である。第1のより低い温度は前述の通りであり得、第2のより高い温度は少なくとも100℃、少なくとも120℃、または少なくとも130℃であり得るが、いずれの場合も、尿素化合物が形成される第1のより低い温度よりも高い。好ましくはないが、1つ以上の化合物を添加して、有機金属触媒の失活を誘導することもまた、本発明の範囲内である。空気感応性有機金属触媒の場合、空気の導入は触媒を失活させるのに有用である。
【0040】
形成されるこれらの尿素化合物(複数可)は、溶媒に可溶であるか、部分的に可溶であるか、または不溶であり得る。尿素化合物の混合物が生成される場合、いくつかは可溶であるか、または部分的に可溶であり得、他は溶媒に不溶であり得る。固体の尿素は、デカンテーション、濾過、真空濾過、遠心分離、凝集、または沈殿などの任意の便利な固液分離技術によって溶媒から分離され得る。有機溶媒は尿素化合物から分離した後、出発物質であるイソシアネート化合物(複数可)が少しでも存在する場合には、還元された量が含有され、アミン化合物が存在する場合には、還元された量が含有される。工業用ポリイソシアネート製造装置では、この分離された有機溶媒は、ホスゲン化反応の下流のいずれかの時点において、ポリイソシアネート製造プロセスに戻してリサイクルされ、かつ/または本発明のプロセスに戻されリサイクルされ得る。有機溶媒から分離された尿素化合物はまた、有機金属触媒の失活によって得られた残留物を含み得る。
【0041】
有機溶媒から分離された尿素化合物は、廃棄され、燃焼され、または他の方法で処分され得る。有機イソシアネートを尿素化合物に変換することによって、イソシアネートの取り扱いおよび処分に関連する毒物学的および他の懸念が少なくとも部分的に軽減される。
【0042】
本発明のプロセスで生成される尿素化合物(複数可)は、特定の条件下でイソシアネート化合物と反応してビウレット化合物を形成することができる。同様に、任意の残留した未反応のアミン化合物(アニリンなど)も、イソシアネート化合物と反応して尿素化合物を形成することができる。したがって、本発明のいくつかの実施形態では、尿素化合物(複数可)の一部もしくはすべてを、ポリイソシアネートと組み合わせ、ポリイソシアネートと反応させて、尿素化合物(複数可)およびポリイソシアネートのうちの1つ以上の反応生成物に対応する1つ以上のビウレット化合物を含有する組成物を生成する。同様に、任意の未反応のアミン化合物の一部またはすべてを、ポリイソシアネートと組み合わせ、ポリイソシアネートと反応させて、1つ以上の尿素化合物を含有する組成物を生成する。
【0043】
ビウレット形成に好適な条件は、少なくとも100℃、または少なくとも120℃、および例えば、230℃まで、または200℃までなどの高温を含む。一般に、1~300分の反応時間が好適であり、より好適な反応時間は、1~120分、または5~60分である。圧力は、超大気圧、大気圧、または亜大気圧であり得る。反応は、上記のような溶媒中で実行することができる。上記の条件は、尿素形成にも好適である。
【0044】
このようなビウレット形成反応は、都合がよいことに、ホスゲン化工程の下流のいずれかの時点において、残留する任意の未反応のアミン化合物を加えた尿素化合物(複数可)を含有する無極性溶媒を、イソシアネート製造プロセスへと戻してリサイクルすることによって実行される。イソシアネート製造プロセスは、多くの場合、イソシアネート生成物をプロセス溶媒から分離する工程を含む。この分離は、多くの場合、蒸留によって実行され、この蒸留条件は典型的には温度、およびビウレットならびに尿素形成に好適な他の条件を含む。
【0045】
したがって、好ましいプロセスでは、残留する任意の未反応のアミン化合物を加えた尿素化合物を含有する無極性溶媒がイソシアネート製造プロセスにリサイクルされ、プロセス溶媒(リサイクルした溶媒を含む)、イソシアネート化合物、尿素化合物(1,3-ジフェニル尿素など)、およびアミン化合物(アニリンなど)を含有する結果として得られたプロセスストリームは、蒸留工程に供される。蒸留工程は、プロセス溶媒からのビウレット形成、尿素形成、およびポリイソシアネート生成物の回収が同時に達成されるように、ビウレット形成工程に関して上述したような温度で実行される。この蒸留工程は、必要に応じて亜大気圧で実行され得る。これはビウレットおよび尿素構造を含有する実質的に溶媒を含まないポリイソシアネート組成物、および溶媒を含有する留出物のストリームをもたらし、この留出物のストリームは典型的には少量のモノイソシアネート(複数可)および場合によっては溶媒とともに蒸留するポリイソシアネートを含有する。
【0046】
イソシアネート化合物に対する尿素化合物の重量比は、例えば、イソシアネート化合物100重量部当たり0.001~5重量部の尿素化合物など、低くあるべきである。より好ましい量は、同じ基準で、0.005~2.5部、0.01~1.5部、または0.01~1部である。イソシアネート化合物に対するアミン化合物(アニリンを含む)の重量比は、存在する場合、イソシアネート化合物の100重量部当たりのアミン化合物が0.001~5重量部など、低くあるべきである。より好ましい量は、同じ基準で、0.005~2.5部、0.01~1.5部、または0.01~1部である。
【0047】
前述の方法で尿素化合物をリサイクルすることになる場合、出発物質であるイソシアネート化合物の総重量の少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%がフェニルイソシアネートであることが好ましい。このようなフェニルイソシアネートから作製される尿素化合物は、低い分子量を有する傾向があり、その後のビウレット形成工程において、より低い分子量のビウレット化合物を形成する。
【0048】
特定の実施形態では、出発溶液は、MDIおよび/もしくはポリマーMDI製造施設からのプロセスストリームであるか、またはそれを含む。そのような生成施設は、ホスゲンがMDA、および/またはMDAと1つ以上のPMDAとの混合物と反応させられて、ポリイソシアネート化合物を生成するホスゲン化ユニットを含む。そのような生成施設はまた、アニリンとホルムアルデヒドとが反応させられて、MDAおよび/またはPMDAを生成する上流ユニットを含み得る。そのような生成施設では、典型的には、アニリンが過剰に存在し、過剰分が、生成物から蒸留されてリサイクルされる。蒸留ステップで除去されない少量のアニリンが、ホスゲン化ユニットに導入されて、フェニルイソシアネートに変換される。溶媒がMDIおよび/またはポリマーMDIから分離されると、フェニルイソシアネートのすべてまたは一部が溶媒内で濃縮されるプロセスストリームが形成される。これらの実施形態では、このプロセスストリームは、本発明の1,3-ジフェニル尿素およびアニリン形成プロセスで使用するための出発溶液のすべてまたは一部を形成する。
【0049】
このようなプロセスストリームは、有機溶媒(好ましくは塩素化したベンゼン化合物)、フェニルイソシアネート、ならびに任意選択であるが典型的には少量の2,4’-、4,4’-および/または2,2’-MDIを含む。フェニルイソシアネート含有量は、プロセスストリームの重量に基づいて、0.05~10重量%、より典型的には0.1~3重量%であり、MDIは、同じ基準で1重量%までを構成し得る。
【0050】
この特定の実施形態では、反応で形成される主な尿素化合物は、1,3-ジフェニル尿素であり、形成される主なアミン化合物は、アニリンである。このような場合には、少なくとも尿素化合物(複数可)、および好ましくは、有機金属触媒の失活から形成される生成物を含む全生成物を、前述のようにビウレットおよび尿素形成のために、ホスゲン化工程の下流のいずれかの時点において、イソシアネート製造プロセスへと戻してリサイクルすることが好ましい。ビウレットおよび尿素形成は、好ましくは、MDIおよび/またはPMDIがプロセス溶媒から分離されるフラッシングおよび/または蒸留工程の間に実行される。
【0051】
尿素化合物(複数可)が非極性溶媒から分離される場合、尿素化合物からの分離後の溶媒は、都合がよいことに、ホスゲン化の下流のイソシアネート製造プロセスのいずれかの時点において、プロセスへと戻してリサイクルされる。
【0052】
本発明によって形成された尿素およびアミンは、上記のように少量でMDIおよび/またはPMDI製造プロセスにリサイクルされる場合、未変性MDIおよび/またはPMDI生成物のように同じ方法で使用することができるビウレットおよび尿素含有イソシアネート生成物を生成する。MDIおよび/またはPMDIにリサイクルされる尿素およびアミンの量に応じて、生成物の粘度は、たとえ少しでもわずかに増加する。分子量(Mn、Mw、Mz)および多分散性(すべて1000分子量ポリエチレングリコール標準に対してGPCによって測定される)は、たとえ少しでも、すべてわずかに増加する。イソシアネート含有量および官能性は、わずかに減少する。一般に、イソシアネート化合物の100重量部当たり約1.0重量部未満である尿素化合物がリサイクルされる場合、ビウレットおよび尿素含有イソシアネート生成物の特性、有用性、または機能における著しい変化は検出されない。
【0053】
以下の実施例は、本発明を例解するために提供されるが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。すべての部およびパーセンテージは、特に指示がない限り重量による。
【0054】
実施例1~4
一般的手順:クロロベンゼン中に約2重量%のフェニルイソシアネート標準溶液を調製する。標準溶液のサンプルを、冷却コンデンサ(0℃)、熱電対/加熱マントル/温度コントローラーアセンブリ、オーバーヘッド窒素導入口(0.2LPM)、および磁気撹拌を備えた3口ネック、100ミリリットル、丸底ガラス反応器中の窒素下で触媒と組み合わせられる。結果として得られた混合物を9~12分かけて80℃に加熱し、その温度で維持する。反応の後に、定期的にサンプリングし、外部較正されたガスクロマトグラフを使用して、フェニルイソシアネート、アニリン、および1,3-ジフェニル尿素についてそれらの分析が続く。
【0055】
実施例1~4の各々では、触媒はビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)である。触媒の量(フェニルイソシアネート溶液の重量に対する百分率として)は、表1に報告されている通りである。
【表1】
【0056】
いずれの場合でも、フェニルイソシアネートの量は、反応の開始後数分以内に50%を超えて低減する。5~6時間の反応時間の後、フェニルイソシアネートの濃度は、いずれの場合でも約0.06%以下に低減する。ほぼ同量のアニリンが、その時に検出される。強い1,3-ジフェニル尿素のピークが、いずれの場合でも、約30~40分の反応時間で検出され始める。
【0057】
実施例2および4からの反応溶液は、各々さらなるプロセスの影響下に置かれて、熱的に触媒を失活させる。いずれの場合でも、溶液を13分かけて加熱して還流(133.7~133.9℃)する。いくつかの微細な茶色の粒子が、溶液中に懸濁しているのが観察され、これは触媒が熱的に失活したことを示している。還流させながら3時間加熱した後、加熱を中止し、反応器を室温まで冷却させる。75℃および0.9~1.6mm Hgの最終条件に操作されるロータリーエバポレーターを使用して、結果として得られた溶液の各々からクロロベンゼンを除去する。いずれの場合でも、褐色固体が回収され、それは主に1,3-ジフェニル尿素および失活した触媒残留物からなる。
【0058】
いずれの場合でも、重量比で、このようにして得られた固体0.5部を、商用グレードのポリマーMDI(PAPI(商標)27、The Dow Chemical Company製)100部と窒素下で組み合わせる。溶液を35分かけて100℃まで加熱し、その温度で20分間保持し、さらに16分かけて125℃まで加熱し、その温度で1時間保持する。ビウレット化合物は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量スペクトル(MALDI-TOF MS)分析によって確認されるように、これらの条件下で形成する。次に、いずれの場合でも、溶液を109℃に冷却し、真空濾過する。上澄み液は、室温で液体であるアンバーブラウン色の透明な溶液である。
【0059】
上澄み液のイソシアネート含有量を滴定により判定する。比較のために、ある量のポリマーMDIを、それ自体で同様に加熱し、次いでそのイソシアネート含有量を測定する。粘度は、25.6℃および100℃で、コーンが40mm、ギャップが54μmの円錐平板粘度計を使用して測定する。回数および重量平均分子量は、1000mwのポリエチレングリコール標準に対して、ゲル透過クロマトグラフィによって測定される。結果は、表2に示すとおりである。
【表2】
【0060】
表2のデータが示すように、有機金属触媒の失活による少量(この場合、0.5重量%)の1,3-ジフェニル尿素含有残留物によってポリマーMDIを変性すると、イソシアネート含有量、粘度、および分子量の変化は、多くとも非常に小さな結果となる。イソシアネートの官能性も基本的には変化しない。データはまた、失活した有機金属触媒からの残留物がポリマーMDIの特性に、存在する場合でも、ほとんど影響を及ぼさないことを実証している。このデータは、少量の1,3-ジフェニル尿素との反応によって生成されるビウレット変性ポリイソシアネートが、未変性ポリイソシアネートと同じ方法および同じ用途において有用であることを示す。
【0061】
実施例5~6
実施例1~4のコバルト触媒を、様々な量のビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(II)で置き換えて、一般的な手順を繰り返す。触媒の量および結果を表3に示す:
【表3】
【0062】
表3のデータは、触媒濃度の効果を実証している。
【0063】
実施例7
0.020重量%のビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(II)の濃度を使用して、一般的な手順を繰り返す。溶液を16分間にわたって加熱して還流(133℃)し、外部較正されたガスクロマトグラフィ分析のためにサンプリングし、アニリンを検出することなしにフェニルイソシアネートが1.99重量%から1.80重量%に減少したことを実証している。いくつかの微細な橙黄色の粒子が、溶液中に懸濁していることが観察され、これは、触媒が熱的に失活していることを示している。さらに6時間、還流状態で加熱した後、フェニルイソシアネートおよびアニリンの濃度は変化しない。
【0064】
0.012重量%のビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(II)の濃度を使用して、一般的な手順を繰り返す。この溶液を12分間かけて80℃まで加熱し、80℃で7時間保持した後、外部較正したガスクロマトグラフィ分析のためにサンプリングし、0.014重量%のアニリンが検出されるとともに、フェニルイソシアネートが2.06重量%から1.74重量%へと減少したことを実証している。さらに16.35時間、還流状態で加熱した後、フェニルイソシアネートは、0.022重量%のアニリンが検出されるともに、1.44重量%に減少している。
【0065】
この結果は、133℃でのビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(II)の触媒の熱失活を実証しており、この温度に到達した後、フェニルイソシアネート濃度のさらなる減少はない。触媒濃度(0.012重量%)をより低くして採用する場合でさえ、80℃でフェニルイソシアネート濃度は低下し続ける。
【0066】
実施例8~13および比較サンプルC~N
実施例1~4の触媒の代わりに他の触媒を用いて、一般的な手順を繰り返す。結果を表4に示す。
【表4】
【0067】
表4のデータは、触媒選択の効果を示す。Cr(II)、Gd(III)、Y(III)、およびLa(III)シクロペンタジエニル化合物はすべて、有意な活性を呈する。Co(II)およびMg(II)は、ジオン配位子と錯体を形成すると、有意な活性を呈する。
【0068】
驚くべきことに、試験したCo(I)およびCo(III)化合物は、この反応において触媒活性を呈さず、これらの金属の酸化状態がそれらの触媒性能にとって重要であることを示唆している。同様に、無機Co(II)塩(二塩化コバルト)は十分に機能せず、有機配位子が触媒活性に重要であることを示唆している。同様に、Co(II)フタロシアニンdpは、明らかにCo(II)とフタロシアニンの窒素原子との間の部分的な結合のために、触媒活性を呈さない。
【0069】
試験された他の有機金属触媒は、十分に機能しないか、または全く機能しない。
【0070】
リサイクル方式モデル反応
本発明のプロセスで得られる尿素化合物およびアニリンのリサイクルの効果をさらにシミュレートし、評価するために、以下のモデル反応を実行する。
【0071】
クロロベンゼン(8.01グラム)中のアニリン(0.248グラム、2.663ミリ当量アミン)を、0.05重量%のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2重量%のフェニルイソシアネート、および97.95重量%のクロロベンゼン(25.072グラム、4.309NCOミリ当量)を組み合わせることによって調製された溶液と組み合わせる。使用されるジフェニルメタンジイソシアネートは、およそ50重量%の4,4’-および50重量%の2,4’-異性体混合物である。還流状態で保持した後、冷却し、スラリーをフリットガラス漏斗上で真空濾過し、真空オーブン中で100℃で乾燥させた後に、白色粉末を回収する。
【0072】
反応生成物の一部のマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI)-オービトラップ分析を完了させて、50~650ダルトン(Da)の領域を調べる。主なピーク強度は、213.1022Daでの(DPU)H+および235.0842Daでの(DPU)Na+(DPU=ジフェニル尿素)によるものである。小さなーピーク強度は、94.0651Daでの(アニリン)H+、354.1213Daでの(単一ビウレット結合を有するDPU)Na+、459.1792Daでの(ビス[尿素]MDI)Na+、および578.2163Daでの(単一ビウレット結合を有するビス[尿素]MDI)Na+によるものである。
【0073】
このデータによって、本発明のプロセスの反応生成物が、単一のビウレット結合を有するか、または全くない化合物を主に形成することが確認された。本発明のプロセスで生成された1,3-ジフェニル尿素の一部は、これらの条件下ではさらに反応しない。