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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】混合結合ドメイン
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20240227BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240227BHJP
   C40B 40/06 20060101ALI20240227BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240227BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20240227BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/13
C40B40/06
C12P21/08
C07K16/46
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021538274
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-01
(86)【国際出願番号】 NL2019050877
(87)【国際公開番号】W WO2020141973
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】18215995.4
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510340757
【氏名又は名称】メルス ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】コルネリス・アドリアーン・デ・クライフ
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0317765(US,A1)
【文献】特表2018-525014(JP,A)
【文献】特表2011-525808(JP,A)
【文献】特開2006-241026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-19/00
C12P 21/00-21/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファージであって、そのゲノム中に:
トリ重鎖可変領域をコードする核酸と;
IgV 1-39/IGJ 1、IgV 1-39/IGJ 5、IgV 3-15/IGJ 1、IgV 3-20/IGJ 1、及びIgV λ 3-21/IGJ λ 3から選択される、ヒト生殖細胞系列軽鎖可変領域をコードする核酸と、を含む、ファージ。
【請求項2】
前記核酸が、ヒト生殖細胞系列軽鎖可変領域(VL)と対合したトリ重鎖可変領域を含む、結合ドメイン又は多量体又はその変異体をコードする、請求項1に記載のファージ。
【請求項3】
前記結合ドメインがFabである、請求項2に記載のファージ。
【請求項4】
Fabが、定常軽鎖(CL)領域及びVL領域と対合したCH1及びVH領域を含む、請求項3に記載のファージ。
【請求項5】
CH1及びCL領域がヒトである、請求項4に記載のファージ。
【請求項6】
CH1及びCL領域がトリのものである、請求項4に記載のファージ。
【請求項7】
CH1がトリのものであり、CL領域がヒトである、請求項4に記載のファージ。
【請求項8】
前記トリ重鎖可変領域が、前記VH/VL界面においてヒトVL領域との少なくとも5の静電相互作用を含む、請求項2に記載のファージ。
【請求項9】
前記トリが、ニワトリ、シチメンチョウ、グラウス、ナンベイウズラ、ウズラ、ターミガン、ヤマウズラ、キジ、ヤケイ、ホウカンチョウ科のトリなどのキジ目、サカツラガン、アヒル又はダチョウである、請求項2に記載のファージ。
【請求項10】
前記トリが、ニワトリ、アヒル又はダチョウである、請求項9に記載のファージ。
【請求項11】
前記トリ重鎖可変領域が、配列番号100、配列番号101若しくは配列番号102を含むアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のファージ。
【請求項12】
請求項1又2に記載の複数のファージを含む、ファージディスプレイライブラリーであって、前記ライブラリーが少なくとも10個のファージを含む、ファージディスプレイライブラリー。
【請求項13】
ファージディスプレイライブラリーを調製するための方法であって、
トリを抗原で免疫化することと、
重鎖可変領域をコードする複数の核酸を前記トリから単離することと、
前記重鎖可変領域をコードする前記核酸並びにヒト生殖細胞系列軽鎖可変領域をコードする核酸を使用してファージディスプレイライブラリーを調製することと、を含み、
前記ヒト生殖細胞系列軽鎖可変領域が、IgV 1-39/IGJ 1、IgV 1-39/IGJ 5、IgV 3-15/IGJ 1、IgV 3-20/IGJ 1、及びIgV λ 3-21/IGJ λ 3から選択され、
それにより、トリ重鎖可変領域及びヒト生殖細胞系列軽鎖可変領域を含む結合ドメインを提示するファージディスプレイライブラリーを調製する、方法。
【請求項14】
抗原に対する結合特異性を有する結合ドメイン又は多量体又はその変異体を同定するための方法であって、
トリを抗原で免疫化することと、
重鎖可変領域をコードする複数の核酸を前記トリから単離することと、
前記重鎖可変領域及びヒト生殖細胞系列軽鎖可変領域をコードする前記核酸を使用してファージディスプレイライブラリーを調製することと、
前記抗原に結合するファージディスプレイライブラリー内のファージを同定することと、を含み、
前記ヒト生殖細胞系列軽鎖可変領域が、IgV 1-39/IGJ 1、IgV 1-39/IGJ 5、IgV 3-15/IGJ 1、IgV 3-20/IGJ 1、及びIgV λ 3-21/IGJ λ 3から選択され、
それにより、トリ重鎖可変領域及びヒト生殖細胞系列軽鎖可変領域を含み、前記抗原に対する結合特異性を有する、結合ドメイン又は多量体又はその変異体を同定する、方法。
【請求項15】
抗体を産生する方法であって、
(a)請求項又はに記載のファージから、又は請求項13に記載のファージディスプレイライブラリーからトリ重鎖可変領域をコードする核酸を単離することと;
(b)前記トリ重鎖可変領域をコードするDNAを、ヒト重鎖定常領域をコードするDNAに操作可能に連結することと;
(c)前記トリ重鎖可変領域DNA及びヒト生殖細胞系列軽鎖をコードするDNAを、宿主細胞に組み込むことと;
(d)細胞が、対合することができる、前記ヒト生殖細胞系列軽鎖と対合したヒト重鎖定常領域に操作可能に連結された前記トリ重鎖可変領域を含む抗体を発現するような条件下で、前記細胞を増殖させることと;
(e)抗体を回収することと;
を含
前記ヒト生殖細胞系列軽鎖可変領域が、IgV 1-39/IGJ 1、IgV 1-39/IGJ 5、IgV 3-15/IGJ 1、IgV 3-20/IGJ 1、及びIgV λ 3-21/IGJ λ 3から選択される、方法。
【請求項16】
前記抗体が多重特異性抗体である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体が二重又は三重特異性抗体である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体がヒト化の対象となる、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合ドメイン又は多量体又はその変異体、並びにかかる結合ドメイン又は多量体又はその変異体を作製するための方法に関する。結合ドメイン又は多量体又はその変異体は、ヒトに対して系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる可変領域を含み、かかる可変領域は、同族鎖のヒト可変領域と対合する。本発明はまた、ゲノム中に、結合ドメイン又は多量体又はその変異体をコードする核酸を含む、ペプチドディスプレイに好適なファージ又は他の生物;複数のかかる生物を含むディスプレイライブラリー、及びかかるディスプレイライブラリーを調製するための方法にも関する。更に、本発明は、かかる結合ドメイン又は多量体又はその変異体を産生する宿主細胞に関する。更に、本発明は、結合ドメイン又は多量体又はその変異体を含む医薬組成物;治療によるヒト又は動物の処置におけるその使用;並びに結合ドメイン又は多量体又はその変異体を使用して、医学的適応症に罹患しているヒト又は動物を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Kohler及びMilsteinによるハイブリドーマ技術の開発によって、ヒト疾患の予防及び処置のための抗体の使用への扉が開かれ、そして抗体の生成のために頻繁にマウスが選択された。
【0003】
当初、ヒトの治療のためにマウス抗体を直接使用する試みがなされていた。ヒトへのマウス抗体の投与に対して免疫原性応答を引き起こし、病気及び場合により死に至るヒト抗マウス抗体(HAMA)応答を起こした後に、免疫系を有し、またヒト可変領域及び/又は定常領域をコードする核酸を保有するトランスジェニックマウスが開発された。このマウスは抗体を生成することができ、次にこの抗体をヒト治療法の開発のために分析することができる。同様に、ファージディスプレイライブラリーが、核酸をコードするヒト免疫グロブリンを用いて生成される。かかるヒト化マウス及びファージディスプレイライブラリーは、今日の市場で成功を収めている一連の治療用抗体に寄与しており、更に多くの臨床開発が行われている。
【0004】
ヒトトランスジェニック動物についても以前より記載されてきた。ヒトトランスジェニック動物は、再構成された軽可変鎖又は重可変鎖を含むヒト共通免疫グロブリン鎖をコードし、及びかかる動物の生殖細胞系列における同族鎖の再構成されていない可変領域をコードする、核酸を保有する。かかるトランスジェニック動物は、免疫グロブリンの2つの同族鎖、例えば、再構成されていない重鎖又は軽鎖のうちの1つを介して生成される多様性を有する抗体を産生することができる。再構成されていない重鎖又は軽鎖は、B細胞の発達中に体細胞組換えを起こし、抗原曝露後に親和性成熟を起こす。MeMo(登録商標)マウス(例えば、国際公開第2009/15771号)などのこれらのトランスジェニック動物は、一連の抗原に対する抗体の多様なレパートリーを産生することができ、次に例えば、異なる抗原又は同じ抗原のエピトープに対して、かかるレパートリーの重鎖可変領域をコードする又はそれに基づく核酸を、二重特異性抗体であるBiclonics(登録商標)の大きなパネルをコードする宿主細胞に組み合わせることができる。これらの細胞は、分化した新規の生態を有する二重特異性抗体の効率的な産生について容易にスクリーニングすることができる(例えば、国際公開第2017/069628号)。
【0005】
ヒト化トランスジェニックマウスは医学的進歩をもたらし、更なる進歩の兆しを提供するが、マウスとヒトとの間の進化的類似性を考慮すると、ヒトに対して免疫学的に不明である抗原(例えば、自己抗原)にエピトープが存在する可能性があり、これはトランスジェニックマウス又はヒトと進化的に類似した他の動物に対して免疫学的に不明であることが類似し得る。ヒトとマウスは、所与の抗原について多くの保存されたドメインを共有している。このことが理由で、トランスジェニック動物を改変したり、潜在的に手間のかかる免疫化プロトコルに従事したりする余計な労力を加えずに、かかるトランスジェニック動物の免疫化により、低レベルの抗体が生じる、又は抗体が全く生じない場合につながる可能性がある。
【0006】
同様に、トランスジェニック生物の免疫化により抗体が生成される場合があるが、かかる抗体がヒト及びトランスジェニック動物に対して交差反応性ではなく、かかる抗体のアッセイ及び試験をあまり効率的にしない場合がある。更に、よりまれな例が存在し、げっ歯類やマウスなどの野生型動物の免疫化、及び同じ標的を有するヒト化免疫系によるトランスジェニック動物の免疫化により、種間で類似のエピトープに結合する抗体から構成される抗体レパートリーがもたらされ得る場合がある。(余白)
【0007】
したがって、ヒト抗原上の新規エピトープを認識する治療用抗体の生成が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、本発明者らは、ヒトと免疫化された動物との間の進化的類似性により、かかる動物がヒトに対して進化的に近い場合、かかる動物における免疫応答がもたらされることがあり、それがヒトレパートリーによって産生された抗体と同じ又は類似のエピトープを標的とする抗体を発現させ、かかるトランスジェニック動物によって同定されていない新規又はネオエピトープにつながると考える。すなわち、概して進化的類似性は、種間で異なるエピトープを認識する抗体レパートリーをもたらし、典型的には、種間で類似又は同一であるエピトープを認識する抗体をもたらすのではない。
【0009】
したがって、可変領域及び/又は相補性決定領域(CDR)を含む、キメラ又はヒト化結合ドメイン又は抗体などの、結合ドメイン又は抗体を得ること、並びに、ヒトに対して進化的に離れた種の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られた、該可変領域をコードする核酸を得ることが有益であり得る。これにより、新規抗体を生成することが可能になり得、これには、ヒト及びより進化的に近い種(例えば、げっ歯類及び他の哺乳動物種)からの可変領域を有するヒト、ヒト化又はキメラ抗体によって容易に同定されないエピトープに結合できるものが含まれる。可変領域を保有する結合ドメイン又は抗体の産生のための進化的に離れた種を用いること、及びかかる種の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる、該可変領域をコードする核酸を用いることにより、ヒト、ネズミ、カニクイザル交差反応性である抗体を生成することができる利点がもたらされる。
【0010】
かかる可変領域の潜在的な発生源の1つは、例えば、ニワトリ、アヒル、ダチョウなどの家畜化されたトリであり、制御された環境で容易に繁殖され、免疫化することができる。トリは3億年超の間、ヒトと共通の祖先を共有しておらず、主竜類の動物群において生き残った数少ない生物として知られている。ヒトに対して進化的に遠位にあるこの群の可変領域及び免疫系は、保存されている治療標的に結合することができる抗体の力価の生成に好適な免疫応答を与え、そして哺乳動物(例えば、ヒト、げっ歯類、及びカニクイザル)の間で免疫学的に不明又は損なわれ得る。更に、トリ、例えばニワトリ、アヒル、ダチョウの免疫化によって生成された抗体レパートリーは、マウス又は進化的にヒトに近い他の種(例えば、げっ歯類及びカニクイザル)の免疫化によって生成された抗体と比較した場合、固有のエピトープを同定することができる。
【0011】
理論に束縛されるものではないが、これは、ヒトとニワトリなどのトリとの間の進化的距離に起因し得る。例えば、ニワトリHCDR3配列におけるチロシンの異常に低い出現とシステインの異常に高い出現によって例示されるように、ニワトリ相補性決定領域(CDR)での異なるアミノ酸を用いることや、同じ抗原に対するヒト(及び進化的に関連性の高い種)に関して生じる抗原に対するレパートリーの異なる免疫原性応答により、ヒト免疫応答又は他の動物の中でもマウス、ラット、ウサギなどの採用される古典的なトランスジェニック動物の免疫応答と比較して、固有の抗体を生成することができる。
【0012】
以前より、ヒトとは非常に無関係な動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる可変領域及び/又はCDRを保有する抗体、例えばニワトリ抗体の使用による免疫原性のリスクは、かかる抗体を使用することへの障害であり、マウスなどのより進化的に近い種を用いることよりも大きいものと理解されている。トリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる配列を有する抗体のポリペプチドのヒト化により、かかる抗体の可変領域又は相補性決定領域をヒト抗体フォーマットに移植され得ることは、かかる抗体又はかかる可変領域を含む抗体をヒトの臨床開発又は治療環境で使用することへ障害と理解されている。
【0013】
更に、トリ(例えば、ニワトリ)抗体可変領域又は抗体ドメインをヒト抗体フォーマットと組み合わせてキメラニワトリ/ヒト抗体を生成する能力は、かかるレパートリーからのかかる抗体の不安定化及び/又は親和性及び有効性の喪失の可能性を伴い、かかる抗体及び宿主を用いて抗体を生成することの利点の有用性をここでもまた制限する、困難で不確実な行為と見なされてきた。
【0014】
したがって、少なくとも上記の理由により、同族鎖のヒト可変領域と対合するヒトに対して進化的に離れた動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる可変領域を含む、結合ドメイン又は多量体、例えば抗体及びその変異体;かかる結合ドメイン又は多量体、例えば抗体を作製する方法;それらをコードする核酸;かかる結合ドメインの可変領域を提示するディスプレイライブラリーの産生;かかる結合ドメイン又は多量体、例えば抗体のスクリーニング;それらを産生する宿主細胞の作製;並びにそれらを含む医薬品は、非常に望ましく、当該技術分野の進歩であり、かかる発明が本明細書に記載されている。
【0015】
多くのタンパク質を多様化させたトリとヒトとの間の進化的距離にもかかわらず、そしてトリの種の限られた数の機能的VH遺伝子セグメントがヒトVH遺伝子セグメントと一次アミノ酸配列で顕著な相同性を共有しないという事実にもかかわらず、本発明者らは、再構成可変領域を分析する場合、ニワトリ、アヒル、及びダチョウのVH遺伝子セグメントがヒトVH遺伝子セグメントと顕著な三次構造類似性を共有することを確認した。
【0016】
例えば、本発明者らは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、Her3に結合する配列番号7に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と、を含むMF3178(PDBエントリー5O4O)を有するヒトFabの結晶構造に基づいて生成されたヒト/ニワトリハイブリッドFabの3D相同性モデルを生成した。MF3178は、親VH1-02可変遺伝子セグメントに由来し、ヒト共通軽鎖を含む。モデルでは、ヒトVH領域は、ニワトリFabの構造から取得したニワトリVH領域のアミノ酸配列に基づいてモデル化されたVH領域によって置き換えられている。モデルの分析では、ニワトリVH領域とヒト共通軽鎖界面との間に24の非結合静電相互作用が存在するのに対し、MF3178と軽鎖の完全なヒト界面では20の非結合静電相互作用が確認された。これは、ニワトリVHとヒトVLとの間の界面が相補的であり、ヒト/ニワトリハイブリッドFabがこれらの相互作用によって安定化され、完全なヒトFabよりも安定であり得ることを示す。機能的ニワトリV遺伝子セグメントと、本明細書に例示されるMF3178が由来するヒトVH1-02遺伝子セグメントとの間の低レベルの一次アミノ酸配列相同性が、わずか43%の配列同一性しかないことを考えると、これは特に驚くべきことである。
【0017】
したがって、本発明者らは、本明細書において、ヒトVL領域と直接対合して新しいタイプのハイブリッド又はキメラ結合ドメインを形成する、トリによって生成された再構成VH領域を含む結合ドメインを記載する。かかるVH及びVL領域を含むFabを生成することができ、そのCH1及びCL領域は、両方ともヒトであってもよく、又は両方ともヒトから進化的に離れた動物(ニワトリ、アヒル、若しくはダチョウを含むトリなど)であってもよい。CH1領域は、進化的に離れた動物のものであり、CL領域はヒトである場合もある。CH1領域がヒトであり、CL領域が進化的に離れた動物のものである場合もある。
【0018】
例えば、ニワトリ重鎖可変領域は、ヒト重鎖可変領域と三次構造レベルで相同性を共有して、免疫化ニワトリから単離されたニワトリ再構成VH領域が、ヒト可変軽(VL)領域、好ましくは、VL領域と直接対合し得るようにする。このVL領域は、結合ドメイン、多量体、抗体、又は変異体のパネルを生成するための、共通鎖として機能することができ、かかるドメインの多様性及び対象となる抗原に結合する性質は、主にニワトリ重鎖可変領域によるものである。かかる混合結合ドメインは、B細胞成熟中にトリ可変領域及びヒト可変領域が共進化する必要なしに安定して形成することができるが、例えば、野生型の再構成トリ重鎖可変領域を用いて、それをヒト軽鎖、好ましくはヒト共通軽鎖と対合することによって、混合結合ドメインに容易に組み合わせることができる。この技術によりディスプレイライブラリーの産生が可能となり、このディスプレイライブラリーは、既知の抗原の新規結合の潜在的な同定のためのかかる混合結合ドメイン、及び乳動物種間で交差反応性である可能性のある混合結合ドメインの大規模スクリーニングを可能にする。
【0019】
このようにして、ヒト重鎖又は軽鎖可変領域、好ましくはヒト共通重鎖又は共通軽鎖可変領域などのヒト可変領域を、ニワトリ、アヒル、及びダチョウなどのトリの再構成可変重鎖又は軽鎖可変領域と対合することから、キメラ結合ドメイン、多量体、及び抗体を直接生成することが可能である。同族のトリ軽鎖可変領域ではなく、ヒト軽鎖可変領域、好ましくはヒト共通軽鎖可変領域の使用が好ましい。まず、ヒト共通軽鎖可変領域を使用することにより、結合ドメインの半分が、直ちにヒト化される。次に、ヒト共通軽鎖可変領域を使用することにより、ヒト共通軽鎖可変領域と対合する野生型トリ重鎖可変領域が同定され、その後、抗体、特に二重特異性抗体、又は多価多量体の効率的な生成に使用することができる。
【0020】
Fabは、共に展開しないドメイン構造を形成する必要がある重鎖及び軽鎖の部分で構成されており、進化的に離れた種からの重鎖及び軽鎖が組み合わされたときに、安定した結合ドメインを形成するように機能することは予想外である。ディスプレイ技術を使用することにより、別の抗体/動物/種に由来する(共通)軽鎖との関連で、(該動物を免疫化するために使用される)抗原に結合することができる、ヒトに対して系統発生的に遠位にある動物からの重鎖可変領域鎖の同定が可能になる。
【0021】
驚くべきことに、本明細書に記載されるように、対象となる抗原に結合する、ヒトに対して遠位にある動物からの抗体レパートリーに由来する重鎖可変領域をコードする核酸は、ヒト軽鎖と対合することができる。これにより、安定したVH/VL界面が得られ、これはネイティブVH/VL対合を含む抗体が結合する抗原に結合することができる。
【0022】
これらの結合ドメイン(一方のヒト可変領域と、対合するもう一方のトリ可変領域で構成される)をコードする核酸は、宿主細胞に容易に組み込むことができる。次に、かかる宿主細胞は、共通ヒト軽鎖とともに1つ以上の重鎖可変ドメインを発現し得る。これにより、多重特異性抗体を含む多量体の大きなパネルの産生が可能になり、多量体は、多様な一連の抗原に結合することができる。多量体には、ヒト可変遺伝子セグメントに基づく又はそれに由来する抗体、又は、ヒトに近い種、例えばげっ歯類、及び他の哺乳動物に基づく又はそれに由来する可変遺伝子セグメントに基づく又はそれに由来する抗体のパネルによって容易に同定されない可能性があるエピトープを標的とするものが含まれる。更に、ヒト可変領域と対合するヒトに対して遠位にある動物からの、対合する可変領域から構成されるかかる結合ドメインは、広範囲の哺乳動物(ネズミ、ヒト及びカニクイザルを含む)に存在する抗原に対して、完全にヒト可変領域よりも、又はヒトに系統発生的により近い免疫化動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる可変領域を有する抗体よりも容易に交差反応する。
【0023】
出願人らは、2つ以上の多様な免疫グロブリン可変鎖(重可変鎖又は軽可変鎖)及び共通可変鎖(重共通可変鎖又は軽共通可変鎖)をコードする核酸を含有する宿主細胞から二重特異性及び多重特異性抗体を発現する能力について、並びに、重鎖ヘテロ二量体の形成を促進するCH3操作などのFc領域の操作を使用することにより、かかる可変鎖を対合して、ホモ二量体抗体よりもかかる二重特異性及び多重特異性抗体を優先的に産生できる方法(国際公開第2013/157954号)について以前述べている。CH3操作電荷差又はノブインホールを含む、異なる重鎖のヘテロ二量体化を産生する他の手段も、当該技術分野において既知である。
【0024】
したがって、本明細書に開示される発明は、共通可変領域又は共通鎖、典型的にはヒト共通可変領域又は共通鎖、並びにヒトに対して系統発生的に遠位にある生物、例えばトリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られるに核酸によってコードされる同族可変領域又は同族鎖を含む、結合ドメイン及び多量体、例えば抗体に関する。例えば、共通鎖は、ヒト共通軽鎖などの共通軽鎖(cLC)であり得、同族可変領域は、ニワトリ、アヒル、ダチョウなどのトリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる重鎖可変領域(VH)であり得る。
【0025】
ヒト軽鎖可変領域、好ましくはヒト共通軽鎖可変領域を、トリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされるVH領域と対合すること(又はその逆)により、従来の抗体生成プラットフォームを介してアクセスできない又は結合しないエピトープにアクセスし得る結合ドメイン、多量体、及び抗体の産生が容易になる。これには、ヒト合成ファージディスプレイライブラリー及びヒト化免疫系を保有するトランスジェニック生物を用いることが含まれる。
【0026】
更に、ヒトから系統発生的に遠位にある動物、好ましくはニワトリなどのトリから、ヒト鎖、好ましくはヒト共通鎖と対合する可変領域を含む結合ドメイン、多量体、及び抗体の生成は、二重特異性及び多重特異性多量体、例えば抗体、及び変異体の生成に有用である。ヒト鎖、好ましくはヒト共通鎖を使用することにより、結合ドメインの半分を即座にヒト化することができる。ヒトから系統発生的に遠位にある動物は、本明細書では「本発明での使用に好適な動物」と呼ばれ得る。
【0027】
全ての高等脊椎動物と同様に、トリ(ニワトリなど)のVH/VL領域の一次多様性は、V(D)J組換えと、それに続く親和性成熟によって生み出される。
【0028】
V(D)J組換えに利用できる複数の機能的V、D、及びJ遺伝子セグメントを有するヒト及びマウスなどの哺乳動物とは対照的に、ニワトリ、アヒル、ダチョウなどの様々なトリは、一連の機能的D遺伝子セグメントに加えて、それぞれVH、JH、VL、及びJLに、限られた数の機能的遺伝子セグメントのみを含有する。実際に、ニワトリ及びダチョウは、1つの機能的V遺伝子セグメントしか有していない。例えば、アヒルは、1つ又は2つのみの機能的重鎖V遺伝子セグメントを有する場合がある。
【0029】
組換えVH及びVL領域が、対応するV(D)配列(の一部)を含む一連の偽遺伝子との相同組換えを介して多様化される遺伝子変換プロセスにより、ニワトリにおいて免疫レパートリーの更なる多様化が生まれる。これらの非機能的偽遺伝子は、組換えシグナル配列、プロモーター、シグナルペプチド、及びKozak翻訳開始部位を欠いている。生成されたVH及びVL領域の体細胞超変異と組み合わされて、このプロセスは、非常に多様なCDRを有するニワトリ抗体レパートリーにつながるが、フレームワーク(FW)配列は、元の機能的遺伝子と非常に類似したままであり;ニワトリはJH/JL偽遺伝子を有さないため、FW4には変異が導入されていないか、限られている。ニワトリでは、主な抗体アイソタイプはIgYであり、これは哺乳動物のIgGと構造的及び機能的に類似しているため、IgGとして誤ってラベル付けされることがよくある(Renaud et al.,Cell 40,283-291,1985;Renaud et al.,Cell 48,379-388,1987;Renaud et al.,Cell 59,171-183,1989;and Wu et al.,The Journal of Immunology 188,322-333,2012)。
【0030】
本発明者らは、Her3に結合するヒトFab MF3178(PDBエントリー5O4O)の結晶構造に基づいて生成されたヒト/ニワトリハイブリッドFab(以下の例を参照)の3D相同性モデルを産生し、本明細書に開示しており、アミノ酸配列に基づくVH領域は、配列番号1に記載の配列を有する。MF3178は、親VH1-02可変遺伝子セグメントに由来し、IgVκ1-3901/IGJκ101共通軽鎖と対合される。
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTGYYMHWVRQAPGQGLEWMGWINPNSGGTNYAQKFQGRVTMTRDTSISTAYMELSRLRSDDTAVYYCARDHGSRHFWSYWGFDYWGQGTLVTVSS(配列番号1)
【0031】
モデルでは、ヒトVH領域は、ニワトリFabの構造から得られたニワトリVH領域のアミノ酸配列(配列番号2)に基づいてモデル化されたVH領域によって置き換えられている(PDB 4GLR;Shih et al.J.Biological Chemistry 287,44425-44434,2012)。驚くべきことに、モデルの分析では、ニワトリVH領域とIgV1-3901/IGJ01の共通軽鎖界面との間に存在する24の非結合静電相互作用を示したが、20の非結合静電相互作用はMF3178の完全なヒト界面(図4A参照)及び軽鎖で同定される。したがって、本明細書に記載されているのは、安定した界面を形成することができる多数の接触残基及び静電相互作用を有する、ヒト同族可変領域に直接対合する野生型ニワトリ可変領域から得られる混合結合ドメインである。
【0032】
キメラニワトリVH領域/ヒトcLC界面では、10の静電相互作用は、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabのヒトVH及びVL界面の界面と比較して同一であり、ニワトリVH領域とヒト共通軽鎖との間の相互作用の2つは、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabのニワトリVH領域及びヒトVH領域における同等の位置に見られる相同残基間で形成される。更に、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabのヒトVH/VL相互作用と比較して、ニワトリVH領域/ヒト共通軽鎖界面には、より多くの水素結合(6ではなく12)が存在し、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabの完全ヒト結合ドメインよりも、ニワトリVH領域とヒトVL界面との間の安定性の潜在能力が高いことを示している。
【0033】
同様に、本発明者らは、限定された機能的V遺伝子セグメントを有するアヒルに関して、再構成重鎖可変領域がヒトcLCとの相互作用を生み出し、様々な接触点と静電相互作用を生成することを実証した。ヒトVHは、Genbankアクセッション番号A46529(配列番号3)のアミノ酸1~133の構造から得られたアヒルVHのアミノ酸配列に基づいてモデル化されたVHによって置き換えられている。
【0034】
驚くべきことに、モデルの分析では、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabの完全なヒト界面で特定された20の非結合静電相互作用と比較して、アヒルVH領域とヒトIgV1-3901/IGJ01共通軽鎖可変領域界面との間に存在する28の非結合静電相互作用が示され(図10aを参照)、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabの同じ位置に見られるヒト重鎖/ヒト軽鎖に対するアヒル重鎖/ヒト軽鎖を比較するときに、これらの相互作用のうち12は同一であり、1つは同等である。
【0035】
限定された機能的V遺伝子セグメントを有するダチョウについては、ダチョウの再構成重鎖可変領域がヒトcLCとの相互作用を生み出し、様々な接触点と静電相互作用を生成することが更に実証されている。ヒトVHは、Genbankアクセッション番号AFN02388.1(配列番号4)の構造から取得したダチョウVH領域のアミノ酸配列に基づいてモデル化されたVH領域によって置き換えられ、14の非結合静電相互作用が、ダチョウVH領域と共通軽鎖界面との間に存在する。
【0036】
キメラダチョウVH領域/ヒトcLC界面では、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabのヒトVH及びVLと比較して、静電相互作用の7つが同一であり、ダチョウVH領域とヒトVLとの間の相互作用の1つは、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabの同じ位置において、ヒト重鎖/ヒト軽鎖に見られる相同残基間で形成される。
【0037】
したがって、本発明者らは、トリの組換え及び親和性成熟重鎖可変領域、例えばニワトリ重鎖可変領域が、ヒト軽鎖可変領域、好ましくは共通軽鎖可変領域又は共通軽鎖、より好ましくは生殖細胞系列軽鎖可変領域又は軽鎖、例えばIgV1-3901/IGJ01と直接対合して、Fab、F(ab’)n又はscFvドメインなどの機能的結合ドメインを得ることができ、これらには二価抗体及び多価抗体並びに他の多量体の生成が含まれ、例えばトランスジェニック生物又は広範な抗体操作で起こるB細胞発達及び親和性成熟を介したニワトリVH及びヒトVLの共進化を必要としないと判断した。
【0038】
原則として、本明細書に記載される技術及び教示に従い、任意の進化的に離れた動物、例えばニワトリなどのトリの抗体を取得し、同族のニワトリ軽鎖又は軽鎖可変領域を、ヒト軽鎖又は軽鎖可変領域、特にヒト共通軽鎖又はヒト共通軽鎖可変領域に置き換えることができる。
【0039】
したがって、トリの組換え及び親和性成熟重鎖可変領域と、軽鎖ヒト可変領域、特に共通軽鎖との間の構造的相同性により、キメラライブラリーを生成することができ、そこから、トリ重鎖可変領域が親和性及び特異性に優勢である抗体を選択することができる。ヒト共通鎖で構成され、野生型トリ再構成鎖と対合するライブラリーの生成により、野生型同族鎖と対合していない場合、対象となる抗原に特異的に結合できる野生型トリ再構成鎖の同定を可能にする。したがって、このライブラリーは、二重特異性抗体又は多価多量体の効率的な生成のために、それらをコードする該重鎖及び核酸の同定を可能にする。
【0040】
すなわち、本明細書に開示される発明は、例えば、多量体又は抗体の形態をとることができる新しい混合結合ドメインを含み、これは、ヒトVL領域と対合する、ヒトから系統発生的に遠位にある動物、例えばトリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされるVH領域を含む。典型的には、かかる動物は、V遺伝子セグメントの限定されたレパートリー、例えば、1つ、2つ、3つ、又は4つの重鎖V遺伝子セグメントのみを有する動物である。それはまた、例えば、ヒトV領域と構造的に類似しているV領域を有する動物であり得る。
【0041】
好ましくは、かかる結合ドメインは、ヒト軽鎖、例えばヒト共通軽鎖、より好ましくは生殖細胞系列軽鎖可変領域又は軽鎖、例えばIgV1-3901/IGJ01を含む。かかる結合ドメイン、又はかかる結合ドメインを組み込んだ抗体、多量体、若しくは変異体は、治療としての使用に直接好適であり得る、又はCDR移植及び他の修飾を含む更なるヒト化の対象となり得る。
【0042】
したがって、本発明によれば、結合ドメイン、多量体、抗体、又はその変異体が提供され、これは、ヒトから系統発生的に遠位にある動物(「本発明で使用するのに好適な動物」)の、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域を含み、その可変領域はヒト可変領域と対合する。かかる結合ドメインにおいて、本発明での使用に好適な動物のVH領域とヒトVLとの間の接触点の数は、ヒトVH領域及びヒトVL結合ドメイン、例えば本明細書に例示されるような、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabの間に存在するものと実質的に類似及び/又は好ましくは少なくとも同数であり得る。
【0043】
かかる結合ドメイン、多量体、抗体、又は変異体のレパートリーは、例えば、ライブラリーの形で作製され得る。かかる結合ドメイン、多量体、抗体、又は変異体のレパートリーはまた、例えば、本発明での使用に好適な動物の抗体の同族軽鎖又は軽鎖可変領域を、ヒト軽鎖又は軽鎖可変領域、特にヒト共通軽鎖又はヒト共通軽鎖可変領域で置き換えることによって作製され得る。結合ドメイン、多量体、抗体、又は変異体は、所望の特異性を有するように選択され得る。
【0044】
したがって、本発明によれば、結合ドメイン、多量体、抗体、又はその変異体が提供され、これは、ヒトから系統発生的に遠位にある動物の、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域を含み、その可変領域はヒト可変領域と対合する。本発明はまた、かかる結合ドメイン、多量体、抗体、又は変異体のレパートリーも含む。
【0045】
したがって、本明細書に開示される発明によれば、結合ドメイン、多量体、抗体、又はその変異体であって、ヒト可変領域と対合する、ヒトから系統発生的に遠位にある動物の、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域を含み、かかる結合ドメインは、4、好ましくは5、好ましくは8、より好ましくは10以上の静電相互作用を含み、静電相互作用は、ヒト重鎖/ヒト軽鎖可変領域界面の結合ドメイン、例えば本明細書に例示されるような、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabに存在する電気的相互作用と同一又は同等である、結合ドメイン、多量体、抗体、又はその変異体が提供される。
【0046】
ヒトから系統発生的に遠位にある該動物は、上記のようなトリ、好ましくはニワトリ、アヒル及びダチョウであり得る。
【0047】
本発明はまた、混合結合ドメインを調製するための方法であって、
ヒトから系統発生的に遠位にある動物、例えばトリを抗原に曝露することと;
かかる動物からの重鎖又は軽鎖可変領域をコードする核酸を単離することと;
単離された核酸によってコードされる重鎖又は軽鎖可変領域を、ヒト重鎖又は軽鎖可変領域と対合させることと、を含み、それにより、混合結合ドメインを形成する、方法を提供する。
【0048】
混合結合ドメインは、抗体又はその変異体、特に、二重特異性又は三重特異性抗体などの多重特異性抗体の調製に使用することができる。
【0049】
本発明はまた、抗体又はその変異体を調製するための方法であって、
ヒトから系統発生的に遠位にある動物、例えばトリを抗原に曝露することと;
重鎖又は軽鎖可変領域をコードする核酸配列を、抗原に結合することができるかかる動物から単離することと;
重鎖又は軽鎖可変領域が、トリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる単離された遺伝物質によってコードされる、ディスプレイライブラリーを調製することと、を含み、該重鎖又は軽鎖可変領域が、混合結合ドメインを形成するヒト同族鎖可変領域と対合する、方法を提供する。
【0050】
該ライブラリーは、ファージ、酵母、リボソーム、又は当技術分野で知られているペプチドディスプレイ用の他のべセルから構成され得る。
【0051】
本発明のライブラリー、例えばファージディスプレイライブラリーを使用して、同族鎖可変領域と結合することができるトリからの重鎖又は軽鎖可変領域を同定又は選択することができる。ヒト(共通)軽鎖又は重鎖と組み合わされたときに、ライブラリー内のトリからの重鎖又は軽鎖のどちらが、最終的にトリを免疫化するために使用される抗原に結合できるかを判定するために、選択が行われる。
【0052】
本発明はまた、
本発明のファージであって、そのゲノム中に、トリの、少なくとも一部、重鎖領域に基づく、重鎖領域に由来する、又は重鎖領域から得られる重鎖可変領域をコードする核酸配列と、ヒト軽鎖可変領域をコードする核酸配列と、を含む、ファージ;
本発明の複数のファージを含むファージディスプレイライブラリー;
ファージディスプレイライブラリーを調製するための方法であって、
トリを抗原で免疫化することと、
抗原に結合することが可能な、かかる動物からの重鎖可変領域をコードする複数の核酸配列を単離することと、
核酸配列を使用してファージディスプレイライブラリーを調製することと、を含み、
それにより、ファージディスプレイライブラリーを調製する、方法;
ファージディスプレイライブラリーを調製するための方法であって、
トリを抗原で免疫化することであって、かかる動物は、VH/VL界面においてヒトVL可変領域との5、好ましくは8、より好ましくは10の静電相互作用を含む機能的VH遺伝子セグメントを含む、免疫化することと、
抗原に結合することが可能な、かかる動物からの重鎖可変領域をコードする複数の核酸配列を単離することと、
核酸配列を使用してファージディスプレイライブラリーを調製することと、を含み、
それにより、ファージディスプレイライブラリーを調製する、方法;
本発明のファージディスプレイライブラリーを使用することによる、結合ドメイン又は多量体又はその変異体を同定するための方法;
トリの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる、2つ以上の重鎖可変領域をコードする核酸を含む宿主細胞であって、該重鎖可変領域は、ヒト軽鎖と対合するエピトープに結合することができ、好ましくは、コードされた各重鎖可変領域は、同じ又は異なる標的又は標的上のエピトープに結合することができる、宿主細胞;
トリの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる、2つ以上の重鎖可変領域をコードする核酸であって、該重鎖可変領域は、ヒト軽鎖と対合するエピトープに結合することができ、発現及び多量体化して、可変結合ドメイン、好ましくは多量体、抗体、又はその変異体、より好ましくは多重特異性多量体、抗体、又はその変異体を形成することができる、核酸;
本発明のいずれか1つによる抗体と、薬学的に許容される担体及び/又は希釈剤と、を含む、医薬組成物;
治療によるヒト又は動物の身体の処置に使用するための本発明の抗体;並びに、
医学的適応症に罹患しているヒト又は動物を処置するための方法であって、ヒト又は動物に治療有効量の本発明の抗体を投与することを含む、方法、を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】AlignXを介して得られた、1つの機能的ニワトリVH遺伝子セグメント(VH1)によってコードされるアミノ酸配列と、7つのVHファミリーのそれぞれを表す47のヒト生殖細胞系列VH遺伝子セグメントとのタンパク質配列アラインメントを示す。各ヒトVH遺伝子セグメントに対する同一性のパーセンテージは、括弧内に示されている。AlignXは、Vector NTI Advance 11.5.2ソフトウェアのコンポーネントであり、デフォルト設定を使用してアラインメントが得られる。
図2】ニワトリVH1遺伝子セグメント及びヒトVH1-02遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列のタンパク質配列アラインメントを示す。Kabat番号付けによるCDR残基を破線で示す。
図3】唯一の機能的ニワトリJH及び6つのヒトJH遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列のタンパク質配列アラインメントを示す。Kabat番号付けによるCDR残基を破線で示す。
図4】ニワトリVH領域とヒト共通軽鎖領域との間の界面のモデルの構造分析を示す。 (図4A) 重鎖可変領域(配列番号1)及びIgV1-3901/IGJ01共通軽鎖の軽鎖可変領域(配列番号7)を含むHer3(PDB 5O4O)を標的とするヒトFab MF3178における非共有の静電相互作用の分析、及びこれをハイブリッド相同モデルと比較したものを示す。ハイブリッド相同性モデルでは、MF3178のヒトVHのアミノ酸配列が、ニワトリVH領域(配列番号2;PDB 4GLR)の対応する配列によって置き換えられる。アスタリスクは、ヒトFab界面のアミノ酸間の相互作用が、キメラFabにおけるニワトリVH領域(配列番号2)のアミノ酸と、IgV1-3901/IGJ01共通軽鎖の軽鎖可変領域(配列番号7)との間の相互作用と同一又は同等である場合を示す。ヒトVH/ヒトcLC界面における20の相互作用と比較して、ニワトリVH領域とヒト共通軽鎖可変領域との間の24の静電相互作用が観察され、ニワトリVH/ヒトcLC界面間の相互作用の13が、MF3178のヒトVH/ヒトcLCと同等又は同一である。上の方の表は、ハイブリッドモデル(ニワトリVH-ヒトVL)及びヒトFab(ヒトVH-ヒトVL)のVHとVLとの間の非結合相互作用(水素結合、塩橋、疎水性相互作用)の合計を示す。同一の相互作用(完全に同一の残基が関与する)及び同等のもの(異なる残基を有する同じ位置)が一覧表示される。鎖Aは軽鎖である。鎖Bは重鎖である。Kabatの番号付けを使用した。 (図4B) 左:MF3178のヒトVH/ヒトcLC界面の三次構造の構造アラインメントが示され(PDB 5O4O;明灰色)、ニワトリVH領域/ヒトVL界面(暗灰色)のハイブリッド相同性モデルにオーバーレイされたものであり、高度な構造類似性を示す。VH領域の残基とVLとの間の非結合相互作用は、破線(MF3178の場合は黒色、相同性モデルの場合は灰色)として示される。 (図4B) 右:相同性モデルでThr110とGln12との間に形成された水素結合の描写が示され、MF3178のヒトVH/ヒトcLC界面の三次構造(PDB 5O4O;明灰色)と比較して、ニワトリVH領域/ヒトcLC界面のハイブリッド相同性モデル(暗灰色)にオーバーレイされたものである。ニワトリFabのVHのモデル(PDB 4GLR)は、I110Tの位置変化を反映するように変更され、これは、核酸レベルでのBstEIIクローニング部位の導入を反映するために行われる。I110Tの位置変化の導入により、反対側のβ鎖上にGln12で形成された水素結合が保存される。 (図4C) 明灰色のヒトFab MF3178(PDB 5O4O)と、暗灰色のニワトリFab(PDB 4GLR)とのVL-VH領域の構造アラインメントが示され、MF3178のヒトVH/VLと、キメラニワトリVH(配列番号2)及びVk1-39 cLC界面の軽鎖可変領域(配列番号7)との間の同様の立体配座相互作用を示す。
図5】AlignXを介して得られた、1つの推定機能的ダチョウVH遺伝子セグメント(XP_009669322.1-配列番号13)によってコードされるアミノ酸配列と、7つのVHファミリーのそれぞれを表す47のヒト生殖細胞系列VH遺伝子セグメントとのタンパク質配列アラインメントを示す。各ヒトVH遺伝子セグメントに対する同一性のパーセンテージは、括弧内に示されている。AlignXは、Vector NTI Advance 11.5.2ソフトウェアのコンポーネントであり、デフォルト設定を使用してアラインメントが得られる。
図6】ダチョウVH遺伝子セグメント(XP_009669322.1-配列番号13)によってコードされるアミノ酸配列と、ヒトVH3-23及びヒトVH3-74遺伝子セグメントとのタンパク質配列アラインメントを示す。Kabat番号付けによるCDR残基には下線が引かれている。
図7A】重鎖可変領域(配列番号1)及びIgV1-3901/IGJ01共通軽鎖の軽鎖可変領域(配列番号7)を含むHer3(PDB 5O4O)を標的とするヒトFab MF3178における非共有の静電相互作用の分析、及びこれを、ハイブリッド相同性モデルと比較したものを示す。ハイブリッド相同性モデルでは、MF3178のヒトVH領域のアミノ酸配列が、ダチョウVH領域の対応する配列(配列番号4)によって置き換えられている。アスタリスクは、MF3178界面のアミノ酸間の相互作用が、ダチョウVH領域(配列番号4)のアミノ酸と、IgV1-3901/IGJ01共通軽鎖の軽鎖可変領域(配列番号7)のアミノ酸と間の相互作用と同一又は同等である場合を示す。ヒトVH/ヒトcLC界面での20の相互作用と比較して、ダチョウVH領域とヒト共通軽鎖領域での14の静電相互作用が観察され、ダチョウVH/ヒトcLC界面間の8つの相互作用は、MF3178のヒトVH/ヒトcLCと同等又は同一である。上の方の表は、ハイブリッドモデル(ニワトリVH-ヒトVL)及びヒトFab(ヒトVH-ヒトVL)のVHとVLとの間の非結合相互作用(水素結合、塩橋、疎水性相互作用)の合計を示す。同一の相互作用(完全に同一の残基が関与する)及び同等のもの(異なる残基を有する同じ位置)が一覧表示される。鎖Aは軽鎖である。鎖Bは重鎖である。Kabatの番号付けを使用した。
図7B】ダチョウ重鎖可変領域、及びIgV1-3901/IGJ01共通軽鎖の可変領域(配列番号5、CL領域を含む全長共通軽鎖配列)を含む、共通軽鎖と対合するヒトCH1から構成されるキメラ結合ドメインを示す。
図7C】ダチョウ重鎖可変領域、ヒト共通軽鎖領域界面における静電相互作用を示し、図7aに示されている相互作用のグラフ表示を示す。
図8】AlignXを介して得られた、1つの推定機能的アヒルVH遺伝子セグメント(XP_021132877.1-配列番号12)によりコードされるアミノ酸配列と、7のVHファミリーのそれぞれを表す47のヒト生殖細胞系列VH遺伝子セグメントとのタンパク質配列アラインメントを示す。各ヒトVH遺伝子セグメントに対する同一性のパーセンテージは、括弧内に示されている。AlignXは、Vector NTI Advance 11.5.2ソフトウェアのコンポーネントであり、デフォルト設定を使用してアラインメントが得られる。
図9】アヒルVH遺伝子セグメント(XP_021132877.1-配列番号12)によってコードされるアミノ酸配列と、ヒトVH4-59、VH4-61、VH4-39、及びVH4-31遺伝子セグメントとのタンパク質配列アラインメントを示す。Kabat番号付けによるCDR残基には下線が引かれている。
図10A】重鎖可変領域(配列番号1)及びIgV1-3901/IGJ01共通軽鎖の軽鎖可変領域(配列番号7)を含むHer3(PDB 5O4O)を標的とするヒトFab MF3178における非共有の静電相互作用の分析、及びこれをハイブリッド相同性モデルと比較したものを示す。ハイブリッド相同性モデルでは、MF3178のヒトVH領域のアミノ酸配列が、アヒルVH領域の対応する配列(配列番号3)によって置き換えられる。アスタリスクは、MF3178界面のアミノ酸間の相互作用が、アヒルVH(配列番号3)のアミノ酸と、IgV1-3901/IGJ01共通軽鎖の軽鎖可変領域(配列番号7)のアミノ酸との間の相互作用と同一又は同等である場合を示す。アヒルVH領域とヒト共通軽鎖領域での28の静電相互作用が、ヒトVH/ヒトcLC界面での20の相互作用と比較して観察され、アヒルVH/ヒトcLC界面間の13の相互作用は、MF3178のヒトVH/ヒトcLCと同等又は同一である。上の方の表は、ハイブリッドモデル(アヒルVH-ヒトVL)及びヒトFab(ヒトVH-ヒトVL)のVHとVLとの間の非結合相互作用(水素結合、塩橋、疎水性相互作用)の合計を示す。同一の相互作用(完全に同一の残基が関与する)及び同等のもの(異なる残基を有する同じ位置)が一覧表示される。鎖Aは軽鎖である。鎖Bは重鎖である。Kabatの番号付けを使用した。
図10B】アヒル重鎖可変領域、及び可変領域IgV1-3901/IGJ01を含むヒト共通軽鎖(配列番号5)と対合するヒトCH1から構成される、混合結合ドメインを示す。
図10C】アヒル重鎖可変領域、ヒト共通軽鎖可変領域界面での静電相互作用を示し、図10aで示した相互作用のグラフ表示を示す。
図11】単一の機能的ニワトリVH遺伝子セグメント(NCBIアクセッション番号M30319)を含むゲノムDNA配列を示す。VHリーダーをコードするDNAは明灰色で強調表示されている。成熟したVHをコードするDNAは暗灰色で強調表示されている。成熟配列は、VH遺伝子セグメントのアミノ酸配列からリーダー配列を引いたものである。強調表示された領域の上流と下流の配列は、遺伝子間配列を表す。
図12】機能的ニワトリJH遺伝子セグメント(NCBIアクセッション番号M30320)を含むゲノムDNA配列を示す。JHをコードするDNAには下線が引かれている。JHセグメントのDNAには、開始と末端に部分的なコドンが含まれているため、アミノ酸の翻訳よりも大きいことに留意されたい。
図13】cDNAからこのVH遺伝子を増幅するために使用されるフォワードプライマーchVH-FWの注釈付き配列を示す。成熟したVHの開始をコードするDNAは灰色で強調表示されている。
図14】フォワードプライマーchVH-FW(配列番号15)、機能的ニワトリVHの一部、及びベクターMV1511の一部のDNAアラインメントを示す。SfiI部位のクローニング部位が示されている。成熟したVHの最初のコドンに下線が引かれている。
図15】cDNAからこのVH遺伝子を増幅するために使用されるリバースプライマーchVH-RV(配列番号16)の注釈付き逆相補配列を示す。JHの末端をコードするDNA(実際にはプライマー配列全体)は明灰色で強調表示されている。ニワトリJH遺伝子セグメントから離れた変異には下線が引かれている。
図16】リバースプライマーchVH-RV、機能的ニワトリJHの一部、及びベクターMV1511の一部の逆相補体(rc)のDNAアラインメントを示す。BstEII部位のクローニング部位が示されている。
図17A】ヒト共通軽鎖IGKV1-39/jk1のアミノ酸配列(配列番号5)である。
図17B】共通軽鎖可変ドメインDNA配列(配列番号6)及びヒト共通軽鎖IGKV1-39/jk1のアミノ酸配列(配列番号7)である。
図17C】軽鎖定常領域DNA配列(配列番号8)及びヒト共通軽鎖IGKV1-39/jk1のアミノ酸配列(配列番号9)である。
図17D】ヒト共通軽鎖可変ドメインIGKV1-39/jk5のアミノ酸配列(配列番号10)である。
図17E】IGKV1-39のV領域(配列番号11)のアミノ酸配列である。
図18】ファージディスプレイベクターMV1511の概略図を示す。
図19A】ヒト共通軽鎖IGKV3-15/jk1のアミノ酸配列(配列番号87)である。
図19B】ヒト共通軽鎖IGKV3-20/jk1のアミノ酸配列(配列番号88)である。
図19C】ヒト共通軽鎖IGLV3-21/jl3のアミノ酸配列(配列番号89)である。
図19D】IGKV3-15のV領域のアミノ酸配列(配列番号90)である。
図19E】IGKV3-20のV領域のアミノ酸配列(配列番号91)である。
図19F】4GLRのニワトリ可変重鎖領域及びヒトCH1領域のアミノ酸配列(配列番号92)である。
図19G】ヒト共通軽鎖IGKV1-39/jk5及びカッパ定常領域のアミノ酸配列(配列番号93)である。
図19H】ヒト共通軽鎖IGKV3-15/jk1及びカッパ定常領域のアミノ酸配列(配列番号94)である。
図19I】ヒト共通軽鎖IGKV3-20/jk1及びカッパ定常領域のアミノ酸配列(配列番号95)である。
図19J】ヒト共通軽鎖IgVλ3-21/IGJλ3及びラムダ定常領域のアミノ酸配列(配列番号96)である。
図19K】IGLV3-21のV領域のアミノ酸配列(配列番号97)である。
図20】Her3を標的とするMF3178を含む重鎖(PDB 5O4O;配列番号1)及びヒトCH1領域、並びにヒトIgV1-3901/IGJ01共通軽鎖(配列番号5)を含むヒトFabにおける非共有の静電相互作用の分析を示す(列はヒトVH-ヒトVLで示される)。ヒトVH-ヒトCH1と、ヒトIgV1-3901/IGJ01共通軽鎖との間の35の静電相互作用が観察され、そのうち24がVH-VL界面に存在する。これを以下に比較する。 1)配列番号2(ニワトリFab PDB 4GLRから)に記載のアミノ酸配列を有するニワトリVH領域含む重鎖と、同族ニワトリVL(ニワトリFab PDB 4GLRから)及びヒトカッパ定常領域(ニワトリVH-ニワトリVLで示される列)を有するヒトCH1領域を含む、Fabの相同性モデル。ニワトリVH-ヒトCH1と、ニワトリVL-ヒトカッパ定常領域との間の50の静電相互作用が観察され、そのうち29がVH-VL界面に存在する。 2)配列番号2(ニワトリFab PDB 4GLRから)に記載のアミノ酸配列を有するVH領域を含む重鎖を含むFabと、共通軽鎖Vk3-15/JK1のアミノ酸配列(配列番号94)(Vk3-15/JK1/Ckappaで示される列)を含む軽鎖を有するヒトCH1と、のハイブリッド相同性モデル。ニワトリVH-ヒトCH1と、ヒト共通軽鎖Vk3-15/JK1との間の31の静電相互作用が観察され、そのうち19がVH-VL界面に存在する。 3)配列番号2(ニワトリFab PDB 4GLRから)に記載のアミノ酸配列を有するVH領域を含む重鎖を含むFabと、共通軽鎖Vk3-20/JK1のアミノ酸配列(配列番号95)(VK3-20/JK1/Ckappaで示される列)を含む軽鎖を有するヒトCH1と、のハイブリッド相同性モデル。ニワトリVH-ヒトCH1と、ヒト共通軽鎖Vk3-20/JK1との間の47の静電相互作用が観察され、そのうち25がVH-VL界面に存在する。 4)配列番号2(ニワトリFab PDB 4GLRから)に記載のアミノ酸配列を有するVH領域を含む重鎖を含むFabと、共通軽鎖Vk1-39/JK5のアミノ酸配列(配列番号93)(Vk1-39/JK5/Ckappaで示される列)を含む軽鎖を有するヒトCH1と、のハイブリッド相同性モデル。ニワトリVH-ヒトCH1と、ヒト共通軽鎖Vk1-39/JK5との間の45の静電相互作用が観察され、そのうち21がVH-VL界面に存在する。 5)配列番号2(ニワトリFab PDB 4GLRから)に記載のアミノ酸配列を有するVH領域を含む重鎖を含むFabと、共通軽鎖V13-21/Jl3のアミノ酸配列(配列番号96)(VL3-21/JL3/Clambdaで示される列)を含む軽鎖を有するヒトCH1と、のハイブリッド相同性モデル。ニワトリVH-ヒトCH1と、ヒト共通軽鎖Vl3-21/Jl3との間の44の静電相互作用が観察され、そのうち23がVH-VL界面に存在する。 鎖Aは軽鎖である。鎖Bは重鎖である。Kabatの番号付けを使用した。VHとVLの間の相互作用は、イタリック体で示されている。
図21】還元(R)及び非還元(N)条件下でのSDS-PAGEブロットを示す。キメラFabは1、4、及び6で示され、ヒトFabは10で示される。Cは、Fabの存在の陽性対照として機能するヒトFabである。
図22】ヒト対照FabにおけるVHのアミノ酸配列(配列番号98)を示す。
図23A】還元(R)及び非還元(N)条件下でのウエスタンブロットを示す。キメラFabは、レーン3及び4(精製済み)、並びにレーン7及び8(未精製)にロードされる。ヒトFabは、レーン1及び2(精製済み)、並びにレーン5及び6(非精製)にロードされる。Fabは、ProtL-HRPを使用して識別される。
図23B】還元(R)及び非還元(N)条件下でのウエスタンブロットを示す。キメラFabは、レーン3及び4(精製済み)、並びにレーン7及び8(未精製)にロードされる。ヒトFabは、レーン1及び2(精製済み)、並びにレーン5及び6(非精製)にロードされる。Fabはα-myc-HRPを使用して識別される。
図24】マウスCXCR4の野生型アミノ酸の全長配列を示す。
図25A】それぞれ、マウスCXCR4陽性対照及びヒトCXCR4陽性対照を示す。
図25B】それぞれ、マウスCXCR4陽性対照及びヒトCXCR4陽性対照を示す。
図25C】3つの異なるニワトリVH-ヒトVLFabの、マウス及びヒトCXCR4への結合に関するフローサイトメトリーの結果を示す。
図25D】3つの異なるニワトリVH-ヒトVLFabの、マウス及びヒトCXCR4への結合に関するフローサイトメトリーの結果を示す。
図25E】3つの異なるニワトリVH-ヒトVLFabの、マウス及びヒトCXCR4への結合に関するフローサイトメトリーの結果を示す。
図26A】マウス及びヒトCXCR4に結合するヒトVLと対合するニワトリVHを含む、第1のキメラFabの重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号100)を示す。
図26B】マウス及びヒトCXCR4に結合するヒトVLと対合するニワトリVHを含む、第2のキメラFabの重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号101)を示す。
図26C】マウス及びヒトCXCR4に結合するヒトVLと対合するニワトリVHを含む、第3のキメラFabの重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号102)を示す。
図27A】PDB 5O4Oのヒト重鎖可変領域、及びIgV1-39/IGJ1共通軽鎖の可変領域(配列番号5、CL領域を含む全長共通軽鎖配列)を含む、共通軽鎖と対合するヒトCH1から構成される結合ドメインを示す。
図27B】PDB 4GLRのニワトリ重鎖可変領域、及びIgV3-15/IGJ1共通軽鎖の可変領域(配列番号26、CL領域を含む全長共通軽鎖配列)を含む、共通軽鎖と対合するヒトCH1から構成される結合ドメインを示す。
図27C】PDB 4GLRのニワトリ重鎖可変領域、及びIgV3-20/IGJ1共通軽鎖の可変領域(配列番号95、CL領域を含む全長共通軽鎖配列)を含む、共通軽鎖と対合するヒトCH1から構成される結合ドメインを示す。
図27D】PDB 4GLRのニワトリ重鎖可変領域、及びIgV1-39/IGJ5共通軽鎖の可変領域(配列番号93、CL領域を含む全長共通軽鎖配列)を含む、共通軽鎖と対合するヒトCH1から構成される結合ドメインを示す。
図27E】PDB 4GLRのニワトリ重鎖可変領域、及びIgVL3-21/IIGJl3共通軽鎖の可変領域(配列番号96、CL領域を含む全長共通軽鎖配列)を含む、共通軽鎖と対合するヒトCH1から構成される結合ドメインを示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
「抗体」は、抗原上のエピトープに結合する1つ以上のドメインを含有するタンパク質の免疫グロブリンクラスに属するタンパク質分子を意味し、かかるドメインは、抗体の可変領域に由来するか又は配列相同性を共有する。
抗体結合は、特異性及び親和性を含む異なる性質を有する。特異性は、どの抗原又はそのエピトープが結合ドメインによって特異的に結合されているかを判定する。親和性は、特定の抗原又はエピトープへの結合の強度についての尺度である。本明細書では、抗体の「特異性」は、特定の抗原に対するその選択性を指し、「親和性」は、抗体の抗原結合部位とそれが結合するエピトープとの間の相互作用の強度を指すことに注意しておくとよい。
【0055】
したがって、本明細書で使用する場合、「結合特異性」は、抗原決定基と反応する個々の抗体結合部位の能力を指す。典型的には、本発明の抗体の結合部位は、Fab部分に位置し、重鎖及び軽鎖の超可変領域から構築される。
【0056】
「親和性」は、単一抗原結合部位とその抗原との間の相互作用の強度である。抗原に対する本発明の抗体の単一抗原結合部位は、解離定数(K)で表すことができる。典型的には、治療用途のための抗体は、Kが1×10-10Mまで低下した親和性、又は更にはより高い親和性(すなわち、更に低いK)を有し得る。
【0057】
「抗原」は、宿主生物において(抗体を産生するために)免疫応答を誘導することができる、及び/又は抗体によって標的化されることができる分子である。分子レベルにおいて、抗原は、抗体の抗原結合部位によって結合される能力を特徴とする。また、抗原の混合物は「抗原」とみなすことができ、すなわち、当業者であれば、時には腫瘍細胞の溶解物、又はウイルス粒子が「抗原」として示されてもよく、その一方で、かかる腫瘍細胞溶解物又はウイルス粒子の調製は、多くの抗原決定基が存在することを認識するであろう。抗原は、少なくとも1つ、多くの場合、より多くのエピトープを含む。
【0058】
「エピトープ」又は「抗原決定基」は、免疫グロブリン又は抗体が特異的に結合する抗原上の部位である。エピトープは、タンパク質の3次フォールディング(それぞれ、いわゆる直鎖及び立体構造エピトープ)によって並置された連続アミノ酸又は非連続アミノ酸から形成することができる。連続的な直鎖アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒に曝露されて保持される一方で、3次フォールディングにより形成されるエピトープは、構造が、典型的には、変性溶媒による処理で失われる。エピトープは、典型的には、固有の空間的コンフォメーションにおいて3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個のアミノ酸を含んでもよい。
【0059】
用語「重鎖」又は「免疫グロブリン重鎖」は、任意の生物の免疫グロブリン重鎖定常領域配列を含み、特に明記されない限り、重鎖可変ドメイン(VH)を含む。重鎖可変ドメインという用語は、特に明記されない限り、3つの重鎖CDR及び4つのフレームワーク(FR)領域を含む。重鎖の断片としては、CDR及びFR、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。典型的な重鎖は、可変ドメイン(N末端からC末端へ)、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを有する。重鎖の機能的断片は、抗原を特異的に認識することができ、少なくとも1つのCDRを含む断片を含む。
【0060】
用語「軽鎖」は、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン、又はV(又はその機能的断片)、及び免疫グロブリン定常ドメイン、又は任意の生物からのC(又はその機能的断片)配列を含む。特に明記されない限り、用語「軽鎖」は、ヒトのカッパ、ラムダ、及びこれらの組み合わせから選択される軽鎖を含み得る。軽鎖可変(V)ドメインは、典型的には、特に明記されない限り、3つの軽鎖CDR及び4つのFR領域を含む。概して、全長軽鎖は、N末端からC末端に、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を含むVドメイン、及び軽鎖定常ドメインを含む。本発明で使用することができる軽鎖としては、例えば、重鎖によって選択的に結合したエピトープに選択的に結合しないものが挙げられる。
【0061】
本発明の抗体で使用するのに好適な軽鎖には、既存の抗体ライブラリー(ウェットライブラリー又はin silico)で、最も一般的に使用される軽鎖をスクリーニングすることにより同定できるものなどの共通軽鎖が含まれ、該軽鎖は、重鎖のエピトープ結合ドメインの親和性及び/又は選択性を実質的に阻害しないが、一連の重鎖と対合するのにも適している。例えば、好適な軽鎖は、そのゲノムに組み込まれた共通軽鎖を有するMeMo(登録商標)などのトランスジェニック動物由来のものを含み、これは、重鎖に多様性を有し、該抗原への曝露時に抗原に特異的に結合することができる共通軽鎖抗体の大きなパネルを生成するために使用することができる。
【0062】
本発明による用語「共通軽鎖」は、同一であり得る、又はいくつかのアミノ酸配列の違いを有し得る軽鎖を指し、本発明の抗体の結合特異性は影響を受けない、すなわち、その違いは機能的結合領域の形成に実質的に影響を与えない。
【0063】
例えば、本明細書において使用される共通鎖の定義の範囲内で、同一ではないが機能的に同等である可変鎖を調製又は発見することが可能である(例えば、保存的アミノ酸変化、同族鎖と対合する場合に結合特異性に寄与しないか、又は部分的にのみ寄与する領域におけるアミノ酸の変化などを導入及び試験することにより)。したがって、かかる変異体は、異なる同族鎖を結合し、機能的抗原結合ドメインを形成することも可能である。したがって、本明細書において使用する場合、用語「共通軽鎖」は、重鎖との対合後に得られる抗体の結合特異性を保持しながら、同一であり得る又はいくつかのアミノ酸配列の差異を有し得る軽鎖を指す。特定の共通軽鎖とかかる機能的に同等である変異体との組み合わせは、用語「共通軽鎖」に包含される。国際公開第2004/009618号及び同第2009/157771号を参照して、共通軽鎖の使用について詳細に説明する。
【0064】
「Fab」は、可変領域を含む結合ドメイン、典型的には、対合する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む結合ドメインを意味する。Fabは、定常軽ドメイン(CL)及びVLドメインと対合するCH1及びVHドメインを含む、定常領域ドメインを含み得る。かかる対合は、例えば、CH1ドメイン及びCLドメインにおいてジスルフィド架橋を介した共有結合として行ってもよい。
【0065】
「単鎖可変断片」(scFv)は、リンカー、例えばペプチドリンカー、例えば長さが約10~約25のアミノ酸を介して接続されるVHドメイン及びVLドメインを含む結合ドメインを意味する。
【0066】
本明細書において、「接続された」という用語は、一次アミノ酸配列によって互いに接合されるドメインを指す。例えば、ベース抗体部分は、リンカーを介して追加の結合ドメイン(又は追加の結合ドメインから追加の結合ドメイン)に接続されてもよい。同様に、CH1ドメインは可変重領域に接続されてもよく、CLドメインは可変軽領域に接続されてもよい。
【0067】
次に、「対合」は、本発明のポリペプチド間における、これらが多量体化することができるような相互作用を指す。混合結合ドメインなどの抗体鎖又はポリペプチドのドメインは、共有結合又は非共有相互作用を介して、例えば、ファンデルワールス力、水素結合、水媒介在水素結合、塩橋若しくは他の静電力、芳香族側鎖間の引力相互作用、ジスルフィド結合の形成、又は当業者に知られている他の力を介して、相互作用及び対合して界面を形成し得る。
【0068】
本明細書における核酸又はアミノ酸配列について言及する場合、「パーセント(%)同一性」は、最適な比較目的のために配列をアラインメントした後、選択された配列中の残基と同一である候補配列中の残基の割合として定義される。核酸配列を比較するパーセント配列同一性は、デフォルト設定を使用してVector NTI Program Advance 10.5.2ソフトウェアのAlignXアプリケーションを使用して求められる。この設定には、変更されたClustalWアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.(1994)Nuc.Acid Res.22:4673~4680)、swgapdnarntスコアマトリックス、15のギャップオープンペナルティ、及び6.66のギャップエクステンションペナルティを用いる。アミノ酸配列は、デフォルト設定を使用して、Vector NTI Program Advance 11.5.2ソフトウェアのAlignXアプリケーションとアラインメントされる。この設定には、変更されたClustalWアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.,1994)、blosum62mt2スコアマトリックス、10のギャップオープニングペナルティ、及び0.1のギャップエクステンションペナルティを用いた。
【0069】
「複数」とは、2つ以上を意味する。
【0070】
本明細書に記載の抗体の「変異体」は、抗体の機能的部分、誘導体及び/又は類似体を含み得る。これには、抗体模倣体、モノボディ、アプタマーが含まれる。
【0071】
変異体は、典型的には、抗体の結合特異性、例えば二重特異性抗体の特異性を維持する。変異体は、本明細書に記載されるような結合ドメイン、多量体又は抗体の機能的部分又は誘導体であり得る。
【0072】
本明細書に記載の結合ドメイン、多量体又は抗体の機能的部分は、かかる結合ドメイン、多量体又は抗体と同じ標的に結合する可変ドメインを含む部分である。
【0073】
本明細書に記載の抗体の機能的誘導体は、連結領域によって連結された、1つの標的に結合する可変ドメインと、もう1つの標的に結合する可変ドメインとを含むタンパク質である。可変ドメインは、かかる可変ドメイン、又はFab断片若しくはリンカーを介して一緒に連結されたVH及びVLを含む単鎖Fv(scFv)断片などの可変ドメイン様分子であってもよい。可変ドメイン様分子の他の例は、いわゆる単一ドメイン抗体断片である。単一ドメイン抗体断片(single-domain antibody fragment、sdAb)は、単一の単量体可変抗体領域を有する抗体断片である。抗体全体と同様に、これは特定の抗原に選択的に結合することができる。わずか12~15kDaの分子量しか有さない場合、単一ドメイン抗体断片は、2つの重鎖タンパク質及び2つの軽鎖で構成される共通抗体(150~160kDa)よりもはるかに小さく、更にはFab断片(約50kDa、1つの軽鎖と半分の重鎖)及び単鎖可変断片(約25kDa、2つの可変領域、1つは軽鎖から、1つは重鎖から)よりも小さい。単一ドメイン抗体自体は、正常な抗体よりもはるかに小さいことはない(典型的には、90~100kDaである)。単一ドメイン抗体断片は、大部分が、ラクダに見られる重鎖抗体から遺伝子操作され、これらはVHH断片(ナノボディ(登録商標))と呼ばれる。一部の魚類もまた、VNAR断片と呼ばれる単一ドメイン抗体断片を得ることができる重鎖のみの抗体(IgNAR、「免疫グロブリン新抗原受容体」)も有する。代替のアプローチは、ヒト又はマウスからの共通免疫グロブリンG(IgG)からの二量体可変ドメインを単量体に分割することである。単一ドメイン抗体へのほとんどの研究は、現在、重鎖可変ドメインに基づくが、軽鎖に由来するナノボディも、標的エピトープに特異的に結合することが示されている。可変ドメイン様分子の他の非限定的な例は、VHH、ヒトドメイン抗体(Domain Antibody、dAb)及びユニボディである。好ましい機能的部分は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む可変ドメインを含む部分である。このような可変ドメインの非限定的な例は、F(ab)-断片及び単鎖Fv断片である。可変ドメイン(様)結合の二重特異性フォーマットは、例えば、2つの異なるscFvに結合されたヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin、HSA);二量体化モチーフを介して一緒に結合された2つの異なるscFv、又はscFv断片の二量体化をもたらすために、螺旋束又はコイルドコイルなどの自己会合二次構造を含む二重特異性ミニ抗体(Morrison(2007)Nat.Biotechnol 25:1233-34)である。scFvをリンカーに結合するための好適なHSAリンカー及び方法の例は、国際公開第第2009/126920号に記載されている。
【0074】
機能的誘導体は、抗体模倣体、ポリペプチド、アプタマー、又はこれらの組み合わせであり得る。これらのタンパク質又はアプタマーは、典型的には、1つの標的に結合する。本発明のタンパク質は、2つ以上の標的に結合する。これらの抗体、抗体模倣体、ポリペプチド及びアプタマーの任意の組み合わせは、当該技術分野において既知の方法によって一緒に連結され得ることを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態では、本発明の結合分子は、コンジュゲート又は融合タンパク質である。
【0075】
抗体模倣体は、抗体と同様に、抗原に特異的に結合することができるが、抗体に構造的に関連しないポリペプチドである。抗体模倣体は、通常、約3~20kDaのモル質量を有する人工ペプチド又はタンパク質である。抗体に対する共通の利点は、より良好な溶解性、組織浸透、熱及び酵素に対する安定性、並びに比較的低い生産コストである。抗体模倣体の非限定的な例は、アフィボディ分子(典型的には、プロテインAのZドメインに基づく)、アフィリン(典型的には、ガンマ-B結晶質又はユビキチンに基づく)、アフィマー(典型的には、シスタチンに基づく)、アフィチン(典型的には、スルホロブス・アシドカルダリス(Sulfolobus acidocaldarius)からのSac7dに基づく)、アルファボディ(典型的には、三重螺旋コイルドコイルに基づく)、アンチカリン(典型的には、リポカリンに基づく)、アビマー(典型的には、様々な膜受容体のAドメインに基づく)、DARPin(典型的にはアンキリン反復モチーフに基づく)、フィノマー(典型的にはFyn7のSH3ドメインに基づく)、kunitzドメインペプチド(典型的には、様々なプロテアーゼ阻害剤のKunitzドメインに基づく)、及びモノボディ(典型的にはフィブロネクチンのIII型ドメインに基づく)である。
【0076】
モノボディは、分子スカフォールドとしてフィブロネクチンIII型ドメイン(fibronectin type III domain、FN3)を使用して構築される合成結合タンパク質である。モノボディは、標的結合タンパク質を作製するための抗体の単純かつロバストな代替物である。「モノボディ」という用語は、ヒトフィブロネクチンの第10のFn3ドメインを使用して、モノボディ概念を実証する最初の論文を公開したKoideのグループによって、1998年に作り出された。
【0077】
モノボディ及び他の抗体模倣体は、典型的には、スキャフォールドの部分が、分子ディスプレイ及びファージディスプレイ、mRNAディスプレイ、及び酵母表面ディスプレイなどの指向進化技術を使用して多様化されるコンビナトリアルライブラリーから生成される。多数の抗体模倣体は、それらのそれぞれの標的に対して高い親和性及び高い特異性を有する。
【0078】
アプタマーは、特定の標的分子に結合するオリゴヌクレオチド又はペプチド分子である。アプタマーは、通常、大きなランダム配列プールから選択することによって作製されるが、天然アプタマーもリボスイッチ中に存在する。アプタマーは、巨大分子として基本研究及び臨床目的の両方に使用することができる。
【0079】
「非結合」相互作用は、共有結合によって結合されていない原子間で作用する。したがって、これらは電子の共有を伴わない結合であるが、分子間又は分子内の電磁相互作用のより分散した変化を伴う。非結合相互作用としては、水素結合、イオン相互作用、ハロゲン結合などの静電相互作用が挙げられる。ファンデルワールス力は、永久双極子又は誘導双極子(又は多重極子)が関与する静電相互作用のサブセットである。これらには、永久双極子-双極子相互作用、双極子-誘導双極子相互作用、及び誘導双極子-誘導双極子相互作用が含まれる。塩橋は、水素結合及びイオン結合の2つの非共有相互作用の組み合わせである。疎水性相互作用は、より強い水-水相互作用により、強制的に結合される非極性(非イオン化性)炭化水素分子の相互作用である。
【0080】
本明細書及び添付の特許請求の範囲を通して、「含む(comprise)」、「含む(include)」、及び「有する(having)」という単語、並びに「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」などの変形は、包括的に解釈されるべきである。すなわち、これらの単語は、文脈によって許される場合、具体的に列挙されていない他の要素又は整数の可能な包含を伝えることを意図している。
【0081】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書では、2つ以上の(すなわち、1つ又は少なくとも1つ)文法的対象の物品を指すために使用される。一例として、「要素」は、1つの要素又は2つ以上の要素を意味し得る。
【0082】
可変領域、結合ドメイン、多量体、及び抗体
本発明は、結合ドメイン、及び結合ドメインを含む多量体、例えば抗体、又はそのいずれかの変異体に関する。典型的には、本発明の結合ドメインは、ヒトに対して系統発生的に遠位にある生物、例えばトリ、好ましくはニワトリ、アヒル、又はダチョウの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域を含む。その可変領域は典型的には、ヒト可変領域と対合する。したがって、本明細書に開示される本発明の結合ドメインは、キメラ、又はヒト化又は混合結合ドメインであり得る。
【0083】
典型的には、可変領域は、トリ、好ましくはニワトリ、アヒル又はダチョウの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされ、コードされる可変領域は重鎖可変領域であり、軽鎖可変領域であるヒト可変領域と安定して対合することができる。あるいは、トリ、好ましくはニワトリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域は、軽鎖可変領域であり得、重鎖可変領域であり得るヒト可変領域と対合することができる。
【0084】
核酸への言及における、「基づく」とは、核酸配列が、それが基づく核酸と同じアミノ酸をコードすることを意味し、その基づく核酸配列又は発生源に一致する特定のコドンに関係なく、遺伝子コードにおける冗長性を考慮し、同じ残基をコードする代替コドンを提供する。「由来する」とは、対象となる生物の核酸から核酸が、クローニングされ得るか、又は合成的に産生され得その発生源の配列情報と一致すことを意味する。
【0085】
結合ドメインは、可変領域、Fvドメイン、Fabドメイン、修飾Fabドメイン若しくはscFv、又はそれらのいずれかの機能的断片を含んでもよい。
【0086】
トリ
本明細書に記載の本発明の結合ドメインは、キジ目、例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、グラウス(grouse)、ナンベイウズラ、ウズラ、ターミガン(ptarmigan)、ヤマウズラ、キジ、ヤケイ、ホウカンチョウ科のトリ、サカツラガン、アヒル、又はダチョウを含むトリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる、免疫グロブリン可変領域又はその一部分を含む。
【0087】
本明細書に記載の本発明の結合ドメインは、ヒトに対して系統発生的に遠位にある動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域、好ましくは重鎖可変領域を含み、かかる可変領域は、ヒトVH及びVL界面間に存在するもの、例えば、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabのもの(図4aを参照)、と実質的に同じ数の非結合静電相互作用、及び好ましくはより多くのかかる相互作用を含む。
【0088】
本明細書に記載の本発明の結合ドメインは、好ましくは、可変領域、好ましくは重鎖可変領域を含む混合結合ドメインであり、ヒトに対して系統発生的に遠位にある動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされ、ヒト鎖、好ましくはヒトVLと対合しており、VH/VL界面は、VH/VL界面で少なくとも5、好ましくは10以上の相互作用を有し、これは、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabの同じ位置に見出されるヒトVH及び共通VLと比較して、相同であり、好ましくは同一である。
【0089】
本明細書に記載の本発明の結合ドメインは、ヒトに対して系統発生的に遠位にある動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域を含み、ヒト可変領域をコードする。
【0090】
本明細書に記載の本発明の結合ドメインは、トリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされるVH領域を含むことができ、これはヒト軽鎖領域との界面を形成し、該結合ドメインのVH/VL界面は、VH領域とヒトVL領域との間の少なくとも4、好ましくは5、好ましくは8、より好ましくは10の静電接触点を含み、これはヒトVH領域/ヒトVL領域結合ドメイン界面の静電接触点と同一又は同等であり、好ましくは、該ヒトVLは、IgV1-3901/IGJ01共通軽鎖(配列番号7);IgV1-39/IGJ5共通軽鎖(配列番号10);IgV3-15/IGJ1共通軽鎖(配列番号87);IgV3-20/IGJ1共通軽鎖(配列番号88);又はIgVλ3-21/IGJλ3共通軽鎖(配列番号89)のものであり、最も好ましくは、ヒトVLは、IgV1-3901/IGJ01共通軽鎖(配列番号7)のものであり、好ましくは、コンパレーターヒト結合ドメインは、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabである。
【0091】
あるいは、本明細書に記載の本発明の結合ドメインは、トリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされるVH領域を含み、これはヒト軽鎖領域との界面を形成し、該結合ドメインのVH/VL界面は、VH領域とヒトVL領域との間の少なくとも14、より好ましくは24の静電接触点、より好ましくは28の静電接触点を含み、好ましくは、該ヒトVLは、IgV1-3901/IGJ01共通軽鎖(配列番号7);IgV1-39/IGJ5共通軽鎖(配列番号10);IgV3-15/IGJ1共通軽鎖(配列番号87);IgV3-20/IGJ1共通軽鎖(配列番号88);又はIgVλ3-21/IGJλ3共通軽鎖(配列番号89)のものであり、最も好ましくは、ヒトVLは、IgV1-3901/IGJ01共通軽鎖(配列番号7)のものである。
【0092】
本明細書に開示される発明によれば、結合ドメイン又は多量体、例えば抗体、又はその変異体が存在し、これは、ヒトから系統発生的に遠位にある動物の、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域を含み、ヒト可変領域と対合する場合、かかる可変領域は、ヒトVH及びヒトVL界面に存在するもの、好ましくは、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabにおいて見られるようなもの、と実質的に同じ可変領域界面における静電接触点を含み、VH、VL界面でのヒトVL可変領域との4、好ましくは5、好ましくは8、より好ましくは10の静電相互作用、好ましくはIgV1-3901/IGJ01軽鎖、IgV1-39/IGJ5軽鎖、IgV3-15/IGJ1軽鎖、IgV3-20/IGJ1軽鎖、又はIgVλ3-21/IGJλ3共通軽鎖、最も好ましくは、IgV1-3901/IGJ01又はIgV1-3901/IGJ05軽鎖を含み、かかる動物は、ニワトリ、ダチョウ、又はアヒルである。
【0093】
本発明の結合ドメイン、多量体、又は抗体の定常領域は、典型的にはヒト定常領域(例えば、CH1、CH2、CH3及びCL)であるが、げっ歯類若しくは他のキメラ定常領域、又はヒトから系統発生的に遠位にある動物の、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域と同じ生物若しくは発生源からの定常領域を含み得る。
【0094】
結合ドメイン又は多量体、例えば抗体、又は本発明の変異体は、可変領域が、トリの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされるものであり得、この核酸は、B細胞の発達を介して及び/又はかかる動物の抗原曝露への応答を含むV(D)J組換えをされている。該結合ドメインは、該可変領域が、ヒト軽鎖可変領域、好ましくは共通軽鎖と対合する重鎖可変領域であり、より好ましくはIgV1-3901/IGJ01軽鎖(配列番号1)NO:5)、IgV1-39/IGJ5軽鎖(配列番号93)、IgV3-15/IGJ1軽鎖(配列番号94)、IgV3-20/IGJ1軽鎖(配列番号95)、又はIgVλ3-21/IGJλ3共通軽鎖(配列番号96)、最も好ましくはIgVκ1-3901/IGJκ01共通軽鎖(配列番号5)を含むものであり得る。
【0095】
本発明の結合ドメイン又は多量体、例えば抗体、又はその変異体は、可変領域が、トリの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされるものであり得、この核酸は、かかる動物の抗原曝露への応答を含むV(D)J組換えをされている。該結合ドメインは、該可変領域が、ヒト重鎖可変領域、好ましくは共通重鎖と対合する軽鎖可変領域であるものであり得る。
【0096】
本発明の結合ドメイン又は多量体、例えば抗体、又はその変異体は、可変領域がヒト化され、その結果、CDRがトリの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされるものであり得、この核酸は、B細胞の発達を介して及び/又はかかる動物の抗原曝露への応答を含むV(D)J組換えをされている。
【0097】
本発明による多量体は、本明細書に記載されるような少なくとも1つの結合ドメインを含む。本発明による多量体は、一価、二価、又は多価の多量体又は抗体であり得る。
【0098】
本明細書に開示される本発明の二価又は多価の抗体又は多量体は、1つ、2つ、又は好ましくは3つ以上の標的に結合することができ、標的は抗原又は所与の抗原のエピトープであり得る。
【0099】
動物の免疫化
本発明の結合ドメイン又は多量体、例えば抗体、又はその変異体は、ヒトに対して系統発生的に遠位にある動物、例えば対象となる抗原又はエピトープで免疫化されたトリの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域を含む。したがって、可変領域は、該抗原又はエピトープに対して特異性を有する。
【0100】
トリ、例えば、ニワトリ、アヒル、又はダチョウなどの多様な一連の動物を免疫化する方法は、当業者によく知られている。好適な免疫化プロトコルは、典型的には、B細胞の選択的増殖を引き起こすプロトコルである。つまり、一次免疫化及びブースター免疫化は、対象となる抗原又はエピトープに結合する抗体を産生するB細胞の選択的増殖を引き起こすように設計されている。免疫化プロトコルは、例えば、一次免疫化及びその後の各ブースター免疫化中に、異なる形態の抗原又は断片を使用し得る。例えば、抗原は、細胞の膜、組換えタンパク質、別のタンパク質に融合された組換えタンパク質、タンパク質のドメイン、又はタンパク質のペプチド上に発現され得る。免疫化プロトコルは、一次免疫化及び/又はブースター免疫化中にアジュバントの使用を含み得る。
【0101】
アジュバントは、バイスタンダーB細胞の非特異的増殖の程度を制限するためにのみ一次免疫化中に使用することができる。バイスタンダーB細胞は、B細胞の表面に発現している抗体受容体に抗原が結合するステップなしで活性化される細胞である。例えば、Fc融合タンパク質による免疫化により、多くの場合、強力な抗Fc応答がもたらされ、ここで全てのB細胞の最大約70%が、対象となる抗原ではなく、融合タンパク質のFc部分に反応することが当技術分野で知られている。免疫化に使用される抗原によって活性化されたB細胞を優先的に増殖させるために、免疫化プロトコルは、アジュバントなしで使用され得る。
【0102】
本発明の結合ドメインでの使用に好適な可変領域をコードする核酸は、任意の好適な組織から、例えば、卵から、リンパ組織から、又は骨髄から(すなわち、B細胞を産生する組織から)回収することができる。
【0103】
したがって、本発明の結合ドメイン又は多量体又はその変異体を産生するための方法は、例えば、B細胞の集団からの抗体、又はトリから得られた卵若しくは血清からの抗体の可変領域をコードする核酸を単離するステップを少なくとも含み得、該トリは抗原で免疫化されており、その結果、対象となる抗原又はエピトープと反応するB細胞の選択的クローン増殖が優先的に誘導される。トリなどの好適な動物は、タンパク質の形態の抗原で、又は核酸配列の形態の抗原で免疫化され得、これはトリが該核酸配列で免疫化されたときに抗原を発現することができる。
【0104】
トリは、例えば、筋肉内ワクチン接種によって、又は遺伝子銃(Gene-Gun)プラスミド免疫化によって、又は当技術分野で知られている他の任意の手段によって免疫化され得る。B細胞の選択的クローン増殖を誘導する好ましい方法は、DNAタトゥーワクチン接種である。「DNAタトゥーワクチン接種」という用語は、プラスミドDNAをロードした固体振動針により、皮膚を繰り返し穿刺し、表皮と真皮上部の両方を傷つけ、皮膚の炎症を引き起こし、その後治癒する侵襲的処置を指す(Bins et aI.,Nat Med 11:899-904,2005;Pokorna et al.,Genet.Vaccines Ther.6:4,2008)。該DNAは、トリにおける発現のために最適化されたコドンであってもよく、遺伝子サイレンシングを防止するように設計された配列を含んでもよい。
【0105】
ニワトリの免疫化プロトコルは当技術分野で知られている。例えば、Schade et al.,ATLA Altern.Lab.Anim.24(1996)925-934を参照されたい。また、http://gallusimmunotech.com/igy-polyclonal-antibodies-immunization-protocol、及びhttps://www.thermofisher.com/nl/en/home/life-science/antibodies/custom-antibodies/custom-antibody-production/custom-polyclonal-antibody-production/custom-chicken-polyclonal-antibody-production-protocols.htmlも参照されたい。ニワトリの免疫化を行う商業的に利用可能な会社としては、例えば、Aves Labs Inc.,Davids Bio,Creative Biolabs,Lampire Biological Laboraties,Integral Molecular,Aldevron,Innovagen and Capralogicsが挙げられる。
【0106】
アヒル及びダチョウも同様に免疫化することができる。簡単に言うと、アヒルとダチョウは、抗原とフロイント完全アジュバントとを含む混合物の皮下注射又は筋肉内注射を受けることができる。次に、抗原とフロイント不完全アジュバントとの混合物を用いてブースターショットを投与することができる。
【0107】
最初のアヒルの免疫化から1週間後、アヒルの卵を回収し始め、4℃での保管することができる。ブースターショットは4週間ごとに繰り返すことができ、各ブースター注射の7日後に血清を分析することができる。その後の手順には、卵黄からのIgYの水抽出と、それに続く脱脂、塩析、脱塩、濃縮の短いプロトコルが含まれる。抗体溶液のタンパク質濃度は、280nmでの吸光度によって決定できる。
【0108】
最初のダチョウ免疫化の1週間後、頸静脈から採取した血液サンプルから血清抗体レベルを測定できる。ブースターは1週間おきに投与され得る。4週間で、卵黄抗体レベルはアガロースゲルでの沈殿反応によって測定できる。アヒルの免疫化及び抗体単離は、例えば、米国特許第6680376(B2)号及びオーストラリア特許第784900号、並びにChiou et al.,Clinical Toxicology.2008,46:539-544に記載されおり、ダチョウの免疫化及び抗体単離は、例えば、Adachi et al.,Exp Ther Med.2011,2:41-45及び国際公開第2007026689号に記載されている。
【0109】
代表的な免疫化プロトコルは、免疫化前の少なくとも1つの卵又は血清の収集のステップを含み得る。これらの卵から回収されたIgYは、対照として使用できる。0日目に、例えば、0.02~0.5mgの抗原(例えば、フロイント完全アジュバント、Specol、リポペプチド(Pam-Cys-Ser-[Lys]、例えば、250μgの量で)を、皮下及び/又は筋肉内で、複数の部位でニワトリの胸部組織に注入する。抗原/アジュバントの総量は約1mlであり得、アジュバントはその容量の半分から3分の2であり得る。ウサギを免疫化するために使用されるのと同程度の量の抗原が使用される。抗原の免疫原性に応じて、1回又は2回又は3回又は4回以上のブースト免疫化後にのみ、高い抗体価(最大1:100,000~1:1,000,000)が達成され得る。したがって、ブースター免疫化は、不完全フロイントアジュバントと約半分の量の抗原(初期の免疫化と比較して)を使用して、10、20、及び30日目に実行され得る。30日目までに卵又は血清中の特異抗体を検出する必要がある。長期間の抗体産生にわたって、例えば、ニワトリは追加のブースター免疫化を受けることがある。ニワトリなどのトリの場合、雌のトリは通常約72週間連続して産卵し、その後、産卵量が低下する。卵又は血清は必要に応じて回収することができ、次いで、抗体は卵から、典型的には卵黄から回収することができる。
【0110】
様々なIgY抽出方法が、例えば、De Meulenaer & Huyghebaert(Food Agricult.Immunol.2001;13:275-288;レビューについては、Schade et al.Altern.Lab Anim.2005;33:129-154も参照されたい)により詳細に検討される。概して、これらの方法は3つの主要な群に分けることができる。
1.沈殿法:硫酸アンモニウム又は硫酸ナトリウム、ポリエチレングリコール(PEG)、カプリル酸、及びカラギーナンを伴う。
2.クロマトグラフィー法:親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、チオフィリック(thiophylic)相互作用クロマトグラフィー、及びゲル濾過クロマトグラフィー。
3.限外濾過。
IgY調製物の純度は、方法の組み合わせによって高めることができる。例えば、PEG沈殿を親和性クロマトグラフィーと組み合わせたり、硫酸アンモニウム沈殿をイオン交換クロマトグラフィーと組み合わせたりすることができる。場合によっては、最終的な用途に応じて、IgYの水抽出物で十分な場合がある。好適な方法の任意の組み合わせを使用して、IgY調製物を回収することができる。
【0111】
トランスジェニック動物
本発明の利点は、本発明に好適な免疫化動物の可変領域及び核酸をヒト可変領域と直接対合して、混合結合ドメインを直接形成することができるので、ヒトに対して系統発生的に遠位にあるトランスジェニック動物を生成しないで済むようにしてくれることである。したがって、混合結合ドメインのファージディスプレイライブラリーは、ヒトIg遺伝子座又はDNAを含むかかる動物のトランスジェニック品種を生成する必要なしに、本発明での使用に好適な動物の野生型抗体レパートリーから直接生成され得る。ファージは、免疫化された動物からの可変領域及び同族のヒト可変領域を含む混合結合ドメインを表示する。
【0112】
任意選択で、本発明の結合ドメイン又は多量体又はその変異体が生成され得るように免疫化されるヒトに対して系統発生的に遠位にある動物は、例えば本明細書に記載のトランスジェニックトリの生成によるトランスジェニック動物であり得る。かかるトランスジェニック動物は、少なくともそのB細胞系統において、免疫グロブリン軽鎖又は重鎖をコードする核酸を含み得る。
【0113】
トランスジェニックトリは、重鎖又は軽鎖をコードする配列が、それがDNA再構成及び/又は体細胞超変異に対して抵抗性をもたらす手段を備えているものであり得る。
【0114】
核酸は、好ましくは、ヒト、ヒト様、又はヒト化免疫グロブリン鎖をコードする。好ましくは、トランスジェニック動物は、核酸配列が、ヒトVK配列又はヒトVラムダ配列である配列をコードする軽鎖をコードするものであり得る。好ましくは、軽鎖は、例えば本明細書に記載されるように、ヒト共通軽鎖である。
【0115】
例えば、ニワトリは重鎖遺伝子座及びラムダ軽鎖遺伝子座を有するが、カッパ軽鎖遺伝子座を有さない。例えば、ヒト共通軽鎖は、ニワトリの重鎖遺伝子座又はラムダ軽鎖遺伝子座に組み込まれ得る。
【0116】
トリなどの非ヒト動物を調製するための方法は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2009/15771号に既に記載されている。トランスジェニックニワトリを生成するための方法は、Ching et al.,MABS 2018,10(1),71-80に見出すことができる。
【0117】
本発明の結合ドメイン、多量体、例えば抗体、又はその変異体を作製するための方法
本発明は、本発明の結合ドメイン又は多量体又はその変異体を調製するための方法に関する。該方法は、
本発明での使用に好適な動物を抗原で免疫化することと;
該動物から、抗原に結合する可変領域をコードする核酸を単離することと;
該核酸によってコードされる可変領域を得て、該可変領域を同族のヒト可変領域と対合することと;を含み、
それにより、混合結合ドメイン、多量体、抗体、又はその変異体を調製する。
【0118】
動物からの可変領域コードする核酸、又は、動物の核酸に基づく、核酸に由来する、若しくは核酸から得られる核酸、及び同族のヒト可変領域をコードする核酸を発現することによって、かかる対合を行うことができ、その結果、コードされた可変領域が対合することによって、結合ドメインを生成することができる。
【0119】
これは、結合ドメインの2つの可変領域をコードする2つの核酸を、該結合ドメインを発現する好適な細胞で発現させることによって実施することができる。
【0120】
本発明は、本発明の様々な混合結合ドメインを表示するディスプレイライブラリーを調製するための方法に関する。該方法は、核酸を、ファージ若しくは酵母などの生物、又はペプチドディスプレイ用の他のべセルに組み込むことと、本発明の混合結合ドメインをコードすることと、を含み、該生物は、該生物又はべセルの表面上に該結合ドメインを発現及び表示する。複数の結合ドメイン、典型的には複数の異なる結合ドメインは、ファージディスプレイライブラリーを使用することにより、ファージ(各ファージが1つの結合ドメインを表示する)などの複数の生物の表面に表示され得る。
【0121】
したがって、ディスプレイライブラリーにおいて、免疫化された動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる複数の可変領域は、複数のヒト可変領域と対合するか、又はヒト共通鎖可変領域と対合する。ディスプレイライブラリーは、例えば、Fabファージディスプレイライブラリーであり得る。
【0122】
ファージディスプレイライブラリー内のファージは、免疫化された動物からの可変領域及び同族のヒト可変領域を含む混合結合ドメインを表示する。
【0123】
ファージディスプレイは、ヒトからの同族可変領域と対合し得る免疫化された動物からの可変領域の選択を可能にする。したがって、結合ドメインは、このプロセスで半分ヒト化される。免疫化された動物からの可変領域が抗原への結合を引き起こす結合ドメインは、例えば、抗原を使用して選択され得る。
【0124】
細胞及びファージディスプレイライブラリーにおける結合ドメインの発現は、以下により詳細に記載される。
【0125】
本発明はまた、抗体又はその断片の混合結合ドメインを産生するための方法を提供する。該方法は、ヒト軽鎖可変領域、特にヒト共通軽鎖可変領域を、ヒトから系統発生的に遠位にある動物、例えばトリに基づく、トリに由来する、又はトリから得られる核酸によってコードされる重鎖可変領域と組み合わせることを含む。あるいは、該方法は、ヒト重鎖可変領域、特にヒト共通重鎖可変領域を、ヒトから系統発生的に遠位にある動物、例えばトリに基づく、トリに由来する、又はトリから得られる核酸によってコードされる軽鎖可変領域と組み合わせることを含み得る。
【0126】
本発明はまた、トランスジェニック動物を使用することにより、キメラ免疫グロブリン結合ドメインをコードする核酸を産生する方法を提供する。該方法は、
(a)動物のゲノムがその生殖細胞系列において、再構成されていない免疫グロブリン重鎖V、D、及びJ遺伝子セグメントと、ヒト再構成共通軽鎖とを含み、抗原に応答して動物が、再構成免疫グロブリン重鎖可変領域によってコードされる重鎖可変領域を含む抗体を産生する、動物を準備することと;
(b)動物を抗原に曝露することにより、動物の免疫応答を刺激することと;
(c)抗体の重鎖可変領域をコードする核酸を単離することと;
(d)抗体の重鎖可変領域をコードするDNAを、細胞内のヒト重鎖定常領域をコードするDNAに操作可能に連結することと;
(e)該ヒト再構成共通軽鎖をコードするDNAを該細胞に組み込むことと;
(f)細胞が、重鎖可変領域及びヒト重鎖定常領域、並びに対合することができるヒト共通軽鎖を含む結合ドメインを発現するような条件下で、細胞を増殖させることと;
(g)結合ドメインを回収することと;を含む。
【0127】
かかる方法は、再構成可変領域を使用して、本発明の結合ドメインを生成するために好適な動物の同定を含み得、該動物の核酸によってコードされる再構成可変領域とヒトVL領域界面との間の接触点の数を決定するステップを含む。好ましくは、可変領域をコードする核酸が選択され、これは、ヒト/動物可変領域界面における、ヒトVH及びヒトVL界面に存在するもの、好ましくは、配列番号1を有する重鎖可変領域及び配列番号7を有する軽鎖可変領域を含むヒトFabの界面におけるもの、と実質的に同じ静電接触点を含み、4、好ましくは5、好ましくは8、より好ましくは10の、該界面でのヒトVL領域との静電相互作用を含む。
【0128】
ディスプレイライブラリー技術
ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイなどの様々な形態のディスプレイ技術が、当技術分野で知られており、本明細書に記載の結合ドメインを使用するために、本明細書に記載の本発明に包含される。
【0129】
以下の考察はファージディスプレイに焦点を合わせているが、かかる説明は限定的ではなく、本明細書で提供される説明に基づいて、他の形態のディスプレイ技術に容易に適用することができる。
【0130】
ファージディスプレイは、細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージを使用するタンパク質-タンパク質相互作用、タンパク質-ペプチド相互作用、及びタンパク質-DNA相互作用の研究などに使用される屈指の技術である。本明細書に記載のプロトコルの多くは、ファージディスプレイライブラリーの構築及び対象となる抗原に結合するためのファージのパニングのための標準プロトコルであり、Antibody Phage Display:Methods and Protocols(編集者:Philippa M.O’Brien,Robert Aitken)に記載されている。ライブラリーは、当技術分野で知られている手順、例えば、Kramer et al.2003 (Kramer et al.2003.Nucleic Acids Res.31(11):e59)によって記載されているように、ヘルパーファージ株としてVCSM13(Stratagene)を使用するものに従って、増殖及び採取することができる。ファージは、当技術分野で知られている手順、例えば、Kramer et al.2003 (Kramer et al.2003.Nucleic Acids Res.31(11):E59)によって記載されているように、ヘルパーファージ株としてVCSM13を使用するものに従って、増殖及び処理することができる。
【0131】
例示的な技術において、対象となるタンパク質をコードする核酸、例えば、可変領域をコードする核酸は、ファージコートタンパク質遺伝子に組み込まれ、ファージによりタンパク質をその外側に「表示」させ、一方で、その内部にタンパク質をコードする核酸を含む。このようにして、遺伝子型と表現型との間の関係が確立される。
【0132】
抗体の発見に関して、ファージディスプレイでは、VH及び/又はVL領域の大きな集合(ライブラリー)が、繊維状バクテリオファージ粒子の表面に発現し、その結果、それらが対合して結合ドメインを形成する場合がある。これらのライブラリーから、抗原及び表示された結合ドメインとの結合相互作用を介して、ファージを選択することができる。
【0133】
したがって、表示されるファージは、他のタンパク質、ペプチド若しくはDNA配列、又は他の形態の標的部分に対してスクリーニングされて、表示されるVH、VL、又は結合ドメインとそれらの他の部分との間の相互作用を検出することができる。このようにして、VH、VL、又は結合ドメインの大きなライブラリーを、自然選択に類似したin vitro選択と呼ばれるプロセスでスクリーニング及び増幅することができる。
【0134】
したがって、本発明の結合ドメインは、ファージ上に表示され得る。典型的には、かかる結合ドメインの可変領域の1つは、本明細書に記載の免疫化された動物の、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸から得られる、又は核酸に由来し、また、ヒト可変領域、好ましくは共通鎖、より好ましくは共通軽鎖を含む。したがって、結合ドメインを表示するファージは、動物を免疫化するために使用された抗原を使用して選択され得る。
【0135】
したがって、本発明は、ファージであって、そのゲノム中に、ヒトに対して系統発生的に遠位にある動物、好ましくはトリ、より好ましくはニワトリ、アヒル又はダチョウの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる第1の可変領域をコードする核酸配列と、第2のヒト可変領域をコードする核酸配列と、を含むファージを提供する。好ましくは、第2の可変領域は、該第1の可変領域と対合することができる。
【0136】
本発明はまた、ファージを調製するための方法であって、そのゲノム中に、ヒトに対して系統発生的に遠位にある動物、好ましくはトリ、より好ましくはニワトリ、アヒル又はダチョウの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる第1の可変領域と、該第1の可変領域と対合することができる第2のヒト可変領域をコードする核酸配列と、を含む、方法も提供する。かかる方法は、
トリを抗原で免疫化することと;
該動物から、第1の可変領域をコードする核酸を単離することと;
ファージのゲノムに、該核酸と、第1の可変領域と対合することができる第2のヒト可変領域をコードする核酸とを組み込むことと;を含み、
それによって、ファージを調製する。
【0137】
より全般的には、本発明によれば、ファージディスプレイを使用して結合ドメインを生成するための方法が提供される。かかる方法は、
(a)本明細書に記載されているトリなどの抗原で好適な動物を免疫化することと、
(b)可変領域をコードする1つ以上の核酸を動物から得ることと、
(c)各ファージが、対合することができる2つの可変領域を表示するように、1つ以上の核酸を、同族ヒト可変領域をコードする核酸と共に1つ以上のファージに組み込むことと、
(d)(a)で使用された抗原に結合することができる結合ドメインを表示するファージを選択することと、を含み得る。
【0138】
以下は、ステップをより詳細に説明するものであり、ファージディスプレイスクリーニングにおいて用いて、ポリペプチド、この場合、対合した可変ドメインを含む結合ドメインを同定することができ、これは所望の標的タンパク質又はDNA配列に高い親和性で結合する。このプロセスは免疫選択を再現することができ、このアプローチを使用して多くの異なる結合特異性を有する抗体が単離される(Hoogenboom,H.R.,et al.(2005).Nat.Biotechnol.,23,1105)。
【0139】
1.標的タンパク質(すなわち、動物を免疫化するために使用される抗原)は、典型的には、例えば、マイクロタイタープレートのウェルに固定化される。
【0140】
このステップでは、標的タンパク質は、動物を免疫化するために使用される任意の抗原であり得、これに対して、抗体を生成することが望まれる。本発明で使用することができる動物の種類、及びそれらを免疫化するための方法を本明細書に記載する。
【0141】
2.可変配列をコードする1つ以上の核酸が、標的タンパク質で免疫化された動物から単離される。
【0142】
しかしながら、典型的には、対象となる抗原に結合することができる異なる可変領域をコードする多数の核酸配列が、動物から単離される。典型的には、単離される核酸は、VH配列をコードする核酸である。
【0143】
動物からの核酸の単離は、典型的には、動物からの適切な組織、例えば、脾臓、骨髄、又はリンパ節組織、すなわち、B細胞を含む組織の回収から始まる。細胞懸濁液は、かかる組織から調製することができ、その後、可変配列をコードする核酸を細胞懸濁液から単離することができる。例えばTrisolを使用して好適な細胞懸濁液を調製するための方法は、当技術分野で周知である。所望であれば、脾臓B細胞画分は、脾臓B細胞を、例えば、CD19選択に基づく陽性選択によって精製することができる。次に、当技術分野で周知の方法に従って、細胞からRNAを調製し、該RNAからcDNAを合成することができる。
【0144】
次に、cDNAからの可変領域コード配列を特異的に増幅するPCRプライマーセットが使用される(典型的には、VHコード配列が増幅される)。このアプローチは、De Haard et al.(J Biol Chem.1999 Jun 25;274(26):18218-30)に記載されており、ニワトリ用の特定のプライマーセットが、実施例に記載されている。典型的には、プライマーは、VHをコードする増幅された核酸の5’’及び3’末端に固有の制限酵素部位を導入して、ファージミドなどの適した(stuaible)ファージディスプレイベクターへの核酸のクローニングを容易にするように設計されている。
【0145】
3.動物から得られたVH領域などの可変領域をコードする核酸を使用して、ファージディスプレイライブラリーを生成することができる。
【0146】
ファージミドベクターを使用して、本発明の結合ドメインの発現を、細菌細胞中に又はファージの表面に誘導することができる。ファージミドは、f1ファージからのf1複製起点を含むプラスミドである。これは、繊維状ファージM13と組み合わせてクローニングベクターの一種として使用できる。ファージミドはプラスミドとして複製することができ、ウイルス粒子に単鎖DNAとしてパッケージすることもできる。ファージミドには、二本鎖複製の複製起点(ori)と、単鎖複製及びファージ粒子へのパッケージングを可能にするf1 oriが含まれている。
【0147】
したがって、ファージミドを使用してDNA断片をクローニングし、形質転換及びエレクトロポレーションなどの様々な技術によって細菌宿主に導入することができる。「ヘルパー」ファージによるファージミドを含む細菌宿主の感染は、単鎖DNA複製及びファージミドDNAのファージ粒子へのパッケージングを可能にするために必要なウイルス成分を提供する。「ヘルパー」ファージは、最初に宿主細胞の線毛に付着し、次いで、付着後、ファージゲノムを宿主細胞の細胞質に輸送することによって、細菌宿主に感染する。細胞内では、ファージゲノムが細胞質で単鎖ファージミドDNAの産生を引き起こす。次に、このファージミドDNAは、ファージ粒子にパッケージされる。ssDNAを含有するファージ粒子は、細菌の宿主細胞から細胞外環境に放出される。
【0148】
したがって、本発明に好適な免疫化動物から単離された可変領域をコードする(又はかかる動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる)核酸は、同族可変領域をコードする核酸と共にファージミドベクターにクローニングされ得る。すなわち、各ファージミドは、動物から単離された可変領域をコードする核酸と、その同族可変領域、例えば、cLCの可変領域をコードする核酸とを含む。ファージミドがファージにパッケージされたときにFab断片が表示され得るようにするために、定常領域も存在することが好ましい場合がある。
【0149】
ライブラリーを生成するために、多数のファージミドを好適な細菌細胞に形質転換又はトランスフェクトすることができる。ライブラリーからファージをレスキューするために、ヘルパーファージ、例えば、VCSM13が細菌細胞に添加され、その後、当業者に周知の技術を使用してファージが回収される。
【0150】
4.次に、得られたファージディスプレイライブラリーを、対象となる標的、すなわち抗原を含有するマイクロタイタープレートに加え、ファージが該標的に結合する時間を確保した後、皿を洗浄することができる。
【0151】
5.標的分子と相互作用するファージディスプレイタンパク質は、皿に付着したままであり、他の全ては洗い流される。
【0152】
6.付着したファージを溶出及び使用して、好適な細菌宿主の感染によって、より多くのファージを作製することができる。新しいファージは、初期混合物中に存在するものよりも、かなり少ない無関係なファージ(すなわち、非結合)を含有する、濃縮された混合物を構成する。
【0153】
7.ステップ4~6は、任意選択で1回以上繰り返すことができ、結合タンパク質においてファージライブラリーを更に濃縮することができる。
【0154】
8.相互作用するファージ内の核酸(本発明に好適な動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる可変領域をコードする)を配列決定して、相互作用するタンパク質又はタンパク質断片を同定することができる。
【0155】
したがって、特に、ファージディスプレイライブラリーを調製するための方法は、
トリの動物を抗原で免疫化することと;
複数の可変領域をコードする複数の核酸を、該動物から単離することと;
該核酸によってコードされる可変領域の少なくとも一部分がヒト可変領域と対合する、該核酸を使用してファージディスプレイライブラリーを調製することと、を含み、
それにより、Fabファージディスプレイライブラリーを調製する。
【0156】
したがって、本発明の一態様は、結合ドメインの集団を産生するための方法を提供する。該方法は、少なくとも、
a)B細胞の集団を準備するステップと、
b)核酸を該B細胞から単離するステップと、
c)該サンプル中の免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする核酸配列を増幅するステップと、
d)本質的に全ての増幅産物を少なくとも部分的に配列決定するステップと、
e)ステップd)からの全ての配列の頻度分析を実行するステップと、
f)所望のVH配列を選択するステップと、
g)宿主細胞に、該所望のVH配列の少なくとも1つと、ヒト軽鎖可変領域をコードする少なくとも1つの核酸とを含む少なくとも1つのベクターを提供するステップと、
h)該宿主細胞を培養し、VH及びVLポリペプチドの発現を可能にするステップと、
i)該結合分子を得るステップと、を含む。
【0157】
あるいは、ステップc)及びd)は、代替ステップc’及びd’、すなわちc’)VH領域配列に特異的な核酸プローブでプローブすることによりVH領域特異的DNA配列についてスクリーニングされるcDNAライブラリーを構築するステップ、及びd’)VHインサートを含むクローンの少なくとも部分的な配列決定するステップによって置き換えることができる。
【0158】
本発明は更に、ファージディスプレイライブラリーを開発し、対象となる標的に結合する可変領域を同定するためにスクリーニングする際の抗体の産生を含む。本方法は、
a)上記の抗原に結合することができる結合ドメインを表示するファージの重鎖可変領域をコードする核酸を単離することと;
b)可変領域をコードするDNAを、ヒト重鎖定常領域をコードするDNAに操作可能に連結することと;
c)該可変領域DNA及びヒト共通軽鎖をコードするDNAを、宿主細胞に組み込むことと;
d)細胞が、対合することができる、ヒト共通軽鎖と対合するヒト重鎖定常領域に操作可能に連結された可変領域を含む抗体を発現するような条件下で、細胞を増殖させることと;
e)抗体を回収することと;を含む。
【0159】
多くの場合、ファージディスプレイライブラリーから得られた抗体は、高親和性抗体を得るためにin vitro親和性成熟に供される(Hoogenboom,H.R.,et al.(2005).Nat.Biotechnol.,23,1105)。
【0160】
本発明のファージ、例えば上記の手順によって同定されたファージは、典型的には、トリの、少なくとも一部、核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる可変領域、及びヒト可変領域を表示することが可能であり、該可変領域は、互いに対合する。
【0161】
本発明によるファージディスプレイライブラリーは、複数のファージミド又はファージを含む。本発明のファージディスプレイライブラリーは、それぞれがトリからの異なる可変領域をコードする最大1010個の核酸、例えば、それぞれがトリからの異なる可変領域をコードする最大10個又は最大10個の核酸を含み得る。本発明のファージディスプレイライブラリーにおいて、実質的に全てのファージは、例えば、Fabの形態で、本発明の結合ドメインを表示する。
【0162】
例えば、FACS分析の使用によって、当業者に周知の方法に従って、免疫化に使用される抗原に結合することができる結合ドメインを同定するために、ファージライブラリーをスクリーニングすることができる。したがって、動物を免疫化するために使用される抗原に対して親和性及び特異性を有する結合領域は、該抗原を使用してスクリーニングすることによって同定され得る。ライブラリーに表示される結合領域の画分は、免疫化するのに使用される抗原に実際に結合し得る。免疫化された動物に由来するいくつかの可変領域は、抗原に結合しない(すなわち、異なる特異性を有する)可能性があり、他の場合、結合領域が代替のVH-VL CDR対合のために、親和性又は特異性を失ったVH/VL対が形成される可能性がある。
【0163】
共通鎖
本発明の結合ドメイン又はその多量体、例えば抗体が、ヒトに対して系統発生的に遠位にある動物、好ましくはトリ、より好ましくはニワトリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされる一連の重鎖可変領域と結合して、機能的抗原結合ドメインを有する抗体を形成することができる共通軽鎖(可変領域)を有することは、本発明の好ましい態様である。(国際公開第2004/009618号、同第2009/157771号)。
【0164】
本発明の多価抗体において使用するための共通軽鎖(可変領域)は、好ましくはヒト軽鎖(可変領域)である。共通軽鎖(可変領域)は、好ましくは生殖細胞系列配列を有する。好ましい生殖細胞系列配列は、ヒトレパートリーで頻繁に使用され、良好な熱力学的安定性、収率、及び溶解度を有する軽鎖可変領域である。好ましい生殖細胞系列軽鎖は、再構成生殖細胞系列ヒトカッパ軽鎖IgVκ1-3901/IGJκ101(図17A;配列番号5)である。共通軽鎖可変領域は、好ましくは、再構成生殖細胞系列ヒトカッパ軽鎖IgVκ1-3901/IGJκ101の可変領域である(図17B;配列番号6及び7)。共通軽鎖は、好ましくは、0~5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加、又はこれらの組み合わせを有する、図17B、又は17Dに示されるような(それぞれ配列番号7又は10)軽鎖可変領域を含む。
【0165】
別の好ましい共通軽鎖は、ヒトカッパ軽鎖IgVκ1-39/IGJκ5(図19G;配列番号25)である。好ましくは、本発明の抗体は、ヒトカッパ軽鎖IgVκ1-39/IGJκ5の可変領域を含む。
【0166】
更に好ましい共通軽鎖は、ヒトカッパ軽鎖IgVκ3-15/IGJκ1(図19H;配列番号94)である。好ましくは、本発明の抗体は、ヒトカッパ軽鎖IgVκ3-15/IGJκ1の可変領域を含む。
【0167】
更に好ましい共通軽鎖は、ヒトカッパ軽鎖IgVκ3-20/IGJκ1(図19I;配列番号95)である。好ましくは、本発明の抗体は、ヒトカッパ軽鎖IgVκ3-20/IGJκ1の可変領域を含む。
【0168】
更に好ましい共通軽鎖は、ヒトラムダ軽鎖IgVλ3-21/IGJλ3(図19J;配列番号96)である。好ましくは、本発明の抗体は、ヒトカッパ軽鎖IgVλ3-21/IGJλ3の可変領域を含む。
【0169】
共通軽鎖は、好ましくは、軽鎖定常領域、好ましくはカッパ軽鎖定常領域を更に含む。共通軽鎖をコードする核酸は、共通軽鎖タンパク質を発現するために使用される細胞系に対してコドン最適化され得る。コード核酸は、生殖細胞系列核酸配列から逸脱し得る。
【0170】
本発明の結合ドメイン又はその多量体、例えば多価抗体で使用するための共通軽鎖(可変領域)は、ヒトラムダ軽鎖IgVλ3-21/IGJλ3(図19J)などのラムダ軽鎖であり得る。したがって、これは本発明の文脈でも提供される。本発明の共通軽鎖は、カッパ又はラムダ軽鎖の定常領域を含み得る。これは、好ましくは、カッパ軽鎖の定常領域であり、好ましくは、該共通軽鎖は生殖細胞系列軽鎖であり、好ましくは、IgVK1-39遺伝子セグメントを含む再構成生殖細胞系列ヒトカッパ軽鎖、例えば、再構成生殖細胞系列ヒトカッパ軽鎖IgV1-3901/IGJ01(図17A);ヒトカッパ軽鎖IgVκ1-39/IGJκ5(図19G);ヒトカッパ軽鎖IgVκ3-15/IGJκ1(図19H);又はヒトカッパ軽鎖IgVκ3-20/IGJκ1(図19I)である。当業者は、「共通」が、アミノ酸配列が同一ではない軽鎖の機能的等価物を指すことも認識するであろう。該軽鎖の多くの変異体が存在し、機能的結合領域の形成に実質的に影響を与えない変異(欠失、置換、付加)が存在する。
【0171】
IgVκ1-39は、免疫グロブリン可変カッパ1-39遺伝子についての短縮形である。この遺伝子はまた、免疫グロブリンカッパ可変1-39、IGKV1-39、IGKV1-39としても知られる。この遺伝因子についての外部Idsは、HGNC:5740、Entrez Gene:28930、Ensembl:ENSG00000242371である。IgVκ1-39の好ましいアミノ酸配列を図17に示す。これはV領域の配列を列挙している。V領域は、5つのJ領域のうちの1つと組み合わせることができる。図17は、J領域と組み合わせたIgVκ1-39についての2つの好ましい配列を記載している。接合された配列は、IGKV1-39/jk1及びIGKV1-39/jk5として示され、代替名は、IgVκ1-3901/IGJκ101又はIgVκ1-3901/IGJκ501である(imgt.orgでのIMGTデータベースの世界的なウェブによる命名法)。これらの名称は例示的なものであり、遺伝子セグメントの対立遺伝子変異体を包含する。
【0172】
IgVκ3-15は、免疫グロブリン可変カッパ3-15遺伝子についての短縮形である。この遺伝子はまた、免疫グロブリンカッパ可変3-15、IGKV315、IGKV3-15としても知られている。この遺伝因子についての外部Idsは、HGNC:5816、Entrez Gene:28913、Ensembl:ENSG00000244437である。IgVκ3-15の好ましいアミノ酸配列を図19D(配列番号90)に示す。これはV領域の配列を列挙している。V領域は、5つのJ領域のうちの1つと組み合わせることができる。V領域は、5つのJ領域のうちの1つと組み合わせることができる。図19Aは、J領域と組み合わせたIgVκ3-15についての好ましい配列を記載している。接合された配列は、IGKV3-15/jk1として示され、代替名は、IgVκ3-1501/IGJκ101である(imgt.orgでのIMGTデータベースの世界的なウェブによる命名法)。この名称は例示的なものであり、遺伝子セグメントの対立遺伝子変異体を包含する。
【0173】
IgVκ3-20は、免疫グロブリン可変カッパ3-20遺伝子についての短縮形である。この遺伝子はまた、免疫グロブリンカッパ可変3-20、IGKV320、IGKV3-20としても知られている。この遺伝因子についての外部Idsは、HGNC:5817、Entrez Gene:28912、Ensembl:ENSG00000239951である。IgVκ3-20の好ましいアミノ酸配列を図19E(配列番号91)に示す。これはV領域の配列を列挙している。V領域は、5つのJ領域のうちの1つと組み合わせることができる。図19Bは、J領域と組み合わせたIgVκ3-20についての好ましい配列を記載している。接合された配列は、IGKV3-20/jk1として示され、代替名は、IgVκ3-2001/IGJκ101である(imgt.orgでのIMGTデータベースの世界的なウェブによる命名法)。この名称は例示的なものであり、遺伝子セグメントの対立遺伝子変異体を包含する。
【0174】
IgVλ3-21は、免疫グロブリン可変ラムダ3-21遺伝子についての短縮形である。この遺伝子はまた、免疫グロブリンラムダ可変3-21、IGLV320、IGLV3-21としても知られている。この遺伝因子についての外部Idsは、HGNC:5905、Entrez Gene:28796、Ensembl:ENSG00000211662.2である。IgVλ3-21の好ましいアミノ酸配列を図19K(配列番号97)に示す。これはV領域の配列を列挙している。V領域は、5つのJ領域のうちの1つと組み合わせることができる。図19Jは、J領域と組み合わせたIgVλ3-21についての好ましい配列を記載している。接合された配列は、IGλV3-21/jk3として示され、代替名は、IgVλ3-21/IGJκ3である(imgt.orgでのIMGTデータベースの世界的なウェブによる命名法)。この名称は例示的なものであり、遺伝子セグメントの対立遺伝子変異体を包含する。
【0175】
共通軽鎖を産生する細胞は、例えば、再構成生殖細胞系列ヒトカッパ軽鎖IgVκ1-3901/IGJκ101及びラムダ定常領域に融合された前述の軽鎖の可変領域を含む軽鎖を産生することができる。本明細書では生殖系列配列を参照する場合、可変領域は生殖系列配列であることが好ましい。
【0176】
本発明の結合ドメイン又はその多量体、例えば抗体において使用するための好ましい共通軽鎖は、配列番号5に記載された配列を含むものである。
【0177】
本発明の結合ドメイン又はその多量体、例えば抗体において使用するための共通鎖は、重鎖であってもよく、これもまた本発明の文脈において提供される。共通重鎖は、二重特異性抗体を作製するために当該技術分野において使用されており、本明細書では3つ以上の結合ドメインを含む多価抗体を作製する際に使用することができ、該結合ドメインのうちの2つ以上は、当該技術分野において既知の共通重鎖を含む。例えば、重鎖可変ドメインが全てのライブラリーメンバーについて同じであり、したがって多様性が軽鎖可変ドメインに基づく抗体ライブラリーの使用は、例えば、国際出願PCT/US2010/035619号、及び同PCT/US2010/057780号に記載されており、これらはそれぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。共通重鎖を有する結合ドメインを生成するためのこれらの及び他の技術は、当業者によって作られ得、本発明で使用することができる。
【0178】
本発明の多量体の産生
本発明の多量体、例えば抗体は、上記ものなどの多量体を形成する2つ以上、例えば3つのタンパク質を一緒にコードする1つ以上の遺伝子構築物による個々の細胞の共トランスフェクションによって産生され得る。例えば、本発明に好適な免疫化動物の核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる、又は上記の方法によるディスプレイライブラリーからの1つ以上の重鎖可変領域と、抗体を産生するための共通軽鎖可変領域と、をコードする核酸配列で、宿主細胞は共トランスフェクトされ得る。あるいは、本発明の抗体は、1つ以上の軽鎖可変領域及び共通重鎖を一緒にコードする1つ以上の遺伝子構築物を用いた個々の細胞の共トランスフェクションによって産生され得る。多重特異性多量体、例えば二重特異性抗体が望まれる場合に、複数の重鎖可変領域又は複数の軽鎖領域を細胞から発現させることができる。
【0179】
二重特異性抗体などの多重特異性抗体が望まれる場合、ヘテロ二量体である抗体の産生に有利に働くいくつかの方法が公開されている。本発明において、細胞は、それぞれのホモ二量体の産生よりもヘテロ二量体の産生を優先することが好ましい。このことは、典型的には、ホモ二量体化よりもヘテロ二量体化(つまり、1つの重鎖を第2の重鎖と組み合わせる二量体化)を優先するように、重鎖の定常領域を修飾することによって達成される。好ましい実施形態では、本発明の抗体は、適合性ヘテロ二量体化ドメインを有する2つの異なる免疫グロブリン重鎖を含む。
【0180】
この適合性ヘテロ二量体化ドメインは、好ましくは、適合性免疫グロブリン重鎖CH3ヘテロ二量体化ドメインである。野生型CH3ドメインが使用される場合、2つの異なる重鎖(A及びB)と共通軽鎖との共発現は、3つの異なる抗体種、AA、AB及びBBをもたらすであろう。AA及びBBは、2つのホモ二量体抗体の表記であり、ABはヘテロ二量体抗体の表記である。所望のヘテロ二量体産物(AB)の割合を増加させるために、CH3操作を使用することができ、又は言い換えれば、以下に定義されるように、適合性ヘテロ二量体化ドメインを有する重鎖を使用することができる。当該技術分野では、重鎖のこのようなヘテロ二量体化が達成され得る様々な方法が記載されている。
【0181】
本明細書で使用するとき、用語「適合性ヘテロ二量体化ドメイン」は、操作ドメインA’が操作ドメインB’を有するヘテロ二量体を優先的に形成し、逆もまた同様であり、A’-A’とB’-B’との間のホモ二量体化が減少するように操作を受けたタンパク質ドメインを指す。
【0182】
米国特許出願公開第13/866,747号(現在、米国特許第9,248,181号として発行)、米国特許出願公開第14/081,848号(現在、米国特許第9,358,286号として発行)、国際公開第2013/157953号、及び国際公開第2013/157954号において、適合性ヘテロ二量体化ドメインを使用して多価抗体を産生するための方法及び手段が開示されている。本発明では、これらの手段及び方法を好適に採用することができる。具体的には、本発明の抗体は、好ましくは、本質的に二重特異性全長IgG分子のみを産生するための変異を含む。好ましい変異は、第1のCH3ドメイン又はそれに対応する位置におけるアミノ酸置換L351K及びT366K(EUナンバリング)(「KK-変異体」重鎖)、並びに第2のドメイン又はそれに対応する位置におけるアミノ酸置換L351D及びL368E(「DE-変異体」重鎖)である(又はその逆)。DE-変異体及びKK-変異体が優先的に対をなして、ヘテロ二量体(いわゆる「DEKK」二重特異性分子)を形成することが、本発明者らの米国特許第9,248,181号及び同第9,358,286号の特許、並びに国際公開第2013/157954号で以前に実証されている。DE-変異体重鎖のホモ二量体化(DEDEホモ二量体)又はKK-変異体重鎖のホモ二量体化(KKKKホモ二量体)は、同一の重鎖間のCH3-CH3界面における荷電残基間の反発力のために、ほとんど発生しない。
【0183】
国際公開第2019/190327号には、多価抗体、例えば、三重特異性又は多重特異性抗体の産生方法が記載されている。3つ以上の結合ドメインを含む多価抗体のモジュラーフォーマットが記載されている。これらのフォーマットでは、少なくとも1つの結合ドメインがベース抗体部分に接続され、該ベース抗体部分は2つの結合ドメインを含む。追加の結合ドメインは、可変領域、Fvドメイン、Fabドメイン、又は修飾Fabドメイン、又はそれらのいずれかの機能的断片を含んでもよい。ベース抗体部分は、例えば、全長抗体又はその断片であってもよいが、いずれの場合にも、2つの結合ドメインを含む。1つ以上の追加の結合ドメインは、リンカー(複数可)を介してベース抗体部分に接続され、ベース抗体部分のものに加えて1つ以上の結合部分を提供する。リンカーは、1つ以上の追加の結合ドメインをベース抗体部分に接続するために使用される。リンカーは、ペプチド領域、例えば、1つ以上のヒンジ領域及び/又はヒンジ領域に由来する1つ以上の領域を含む。本発明の結合ドメイン又は多量体は、かかる多価抗体に組み込まれ得る。
【0184】
核酸配列、ポリペプチド、ベクター、及び細胞
本発明は更に、本発明の抗体などの多量体の組み立てにおいて使用され得るポリペプチドをコードする核酸配列、かかる核酸配列を含むベクター、本発明の抗体などの多量体を産生できる細胞、及びかかる細胞を使用して抗体を含むかかる多量体を調製するための方法を提供する。
【0185】
本発明による抗体などの多量体は、典型的には、本発明の抗体などの多量体を形成するように一緒に組み立てるポリペプチドをコードする核酸配列を発現する細胞によって産生される。
【0186】
本発明の抗体などの多量体のポリペプチドを作製するために採用される核酸配列は、任意の好適な発現ベクター内に配置されてもよく、適切な状況では、単一の宿主細胞内の2つ以上のベクター内に配置されてもよい。
【0187】
概して、可変ドメインをコードする核酸配列は、適切なリンカー及び/又は定常領域でクローニングされ、配列は、発現に好適な細胞株において好適な発現構築物内のプロモーターと作動可能に連結して配置される。
【0188】
したがって、本発明は、抗体などの多量体を調製するための方法も提供する。該方法は、
本発明の抗体などの多量体に組み立てることができるポリペプチドをコードする1つ以上の核酸配列を含む細胞を準備することと、
該細胞を、ポリペプチドの発現及びそれらの組み立てを抗体などの多量体に提供する条件下で、培養することと、を含む。
【0189】
特に、細胞は、ヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる1つ以上の核酸配列を備えており、この核酸配列は免疫グロブリン重鎖又は軽鎖可変領域をコードする。細胞が免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする1つ以上の核酸配列を備えている場合、細胞はまた、免疫グロブリン軽鎖可変領域、好ましくは本明細書に記載されるものなどの共通軽鎖可変領域をコードする核酸を含む。細胞が免疫グロブリン軽鎖可変領域をコードする1つ以上の核酸配列を備えている場合、細胞はまた、免疫グロブリン重鎖可変領域、好ましくは共通重鎖可変領域をコードする核酸を含む。細胞は、重鎖及び/又は軽鎖定常領域をコードする1つ以上の核酸を更に含む。
【0190】
本発明の宿主細胞は、全発現免疫グロブリンに基づいて、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%の純度で、本発明の抗体などの多量体を産生することができる。
【0191】
本発明の宿主細胞は、本発明の抗体などの多量体を産生することができ、産生される多価抗体の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%は、全ての結合部位に対して同族の共通鎖と対合した可変再構成領域を含む。
【0192】
本発明の宿主細胞は、抗体を産生することができ、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%の発現した共通鎖は多価抗体と対合しており、遊離した会合していないタンパク質ではない。
【0193】
結合ドメイン又は多量体、例えば抗体、又はその変異体の発現
組換え宿主細胞における結合ドメイン、多量体、例えば抗体、又はその変異体の発現については、当該技術分野において記載されている。本発明の抗体の結合ドメイン及び軽鎖及び重鎖の場合の可変領域をコードする核酸分子は、染色体外コピーとして存在してもよく、及び/又は宿主細胞の染色体に安定的に組み込まれてもよい。後者が好ましいが、その場合には遺伝子サイレンシングを欠くことが知られている遺伝子座を標的とし得る。
【0194】
本発明の抗体などの多量体として組み立てるポリペプチドをコードしている核酸配列の発現を得るために、かかる発現を駆動することができる配列は、ポリペプチドをコードしている核酸配列に機能的に連結され得ることが、当業者には周知である。機能的な連結は、ポリペプチド又はその前駆体をコードする核酸配列が、これらの配列がポリペプチド又はその前駆体の発現を駆動できるように、発現を駆動することができる配列に連結されていることを説明することを意味する。有用な発現ベクターは、例えば、InvitrogenのpcDNAベクターシリーズなど、当該技術分野において利用可能である。対象となるポリペプチドをコードする配列が、コードされたポリペプチドの転写及び翻訳を調節する配列を参照して適切に挿入される場合、得られる発現カセットは、発現と呼ばれる対象となるポリペプチドを産生するのに有用である。発現を駆動する配列としては、プロモーター、エンハンサーなど、及びこれらの組み合わせが挙げられ得る。これらは、宿主細胞において機能することができ、それにより、それらに機能的に連結された核酸配列の発現を駆動することができる必要がある。プロモーターは、構成的であるか又は調節されていてもよく、ウイルス、原核生物、若しくは真核生物源、又は人工的に設計された物を含む様々な供給源から得ることができる。
【0195】
本発明の核酸配列の発現は、天然プロモーター若しくはその誘導体由来、又は完全に異種プロモーター由来であってもよい。真核細胞において発現するためのいくつかの周知の多用されるプロモーターは、ウイルス由来のプロモーター、例えば、アデノウイルス、例えば、E1Aプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーター、例えば、CMV最初期(IE)プロモーター、Simian Virus 40(SV40)由来のプロモーターを含む。好適なプロモーターはまた、例えばメタロチオネイン(MT)プロモーター、伸長因子Ia(EF-Ia)プロモーター、アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、ヒートショックプロモーターなどの、真核細胞に由来し得る。宿主細胞における本発明の核酸配列の発現を駆動することができる任意のプロモーター又はエンハンサー/プロモーターは、本発明において好適である。一実施形態では、発現を駆動することが可能な配列は、CMVプロモーターの領域、好ましくはCMV最初期遺伝子エンハンサー/プロモーターのヌクレオチド-735~+95を含む領域を含む。当業者であれば、本発明において使用される発現配列が、インスレーター、マトリックス付着領域、STARエレメントなどの発現を安定化又は増強することができるエレメントと好適に組み合わせられ得ることを認識するであろう。これは、発現の安定性及び/又はレベルを向上させることができる。
【0196】
組換え核酸配列を発現させるのに好適な任意の細胞を使用して、本発明の抗体などの多量体を生成することができる。好ましくは、該細胞は懸濁増殖に適合される。
【0197】
本発明の抗体などの多量体は、典型的には、本発明の好適な細胞を培養し、該培養物から該抗体などの該多量体を採取することによって、宿主細胞において発現させることができる。好ましくは、該細胞は、無血清培地中で培養される。本発明の抗体などの多量体は、細胞から回収され得るか、又は好ましくは、当業者に全般的に知られている方法によって細胞培養培地から回収され得る。
【0198】
更に、本発明による抗体などのアルティマーを製造するための方法によって得ることができる抗体などの多量体が提供される。抗体などのマルトマーは、好ましくは、培養培地から精製される。
【0199】
回収後、当該技術分野において既知の方法を使用して、培養物から抗体などの多量体を精製することができる。かかる方法としては、沈殿、遠心分離、ろ過、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、陽イオン及び/又は陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィーなどを挙げることができる。本発明の抗体などの多量体を分離する手段としてリンカー配列をベースとする親和性クロマトグラフィーを使用することができる。
【0200】
医薬組成物及び使用方法
また、本発明によって提供されるのは、本発明の結合ドメイン又は多量体、例えば抗体、又はその変異体、並びに薬学的に許容される担体及び/又は希釈剤を含む医薬組成物である。
【0201】
したがって、本発明は、治療によるヒト又は動物の身体の処置に使用するための、本発明の結合ドメイン又は抗体などの多量体、又は本明細書に記載のその変異体を提供する。
【0202】
本発明によって更に提供されるのは、医学的状態に罹患しているヒト又は動物を処置するための方法であり、該方法は、本明細書に記載されるように、治療有効量の結合ドメイン又は多量体、例えば抗体、又はその変異体をヒト又は動物に投与することを含む。
【0203】
患者に投与されるべき本発明による結合ドメイン又は多量体、例えば抗体、又はその変異体の量は、典型的には、治療用ウィンドウ内にあり、これは、治療効果を得るために十分な量が使用されるが、その量は、許容不可能な程度の副作用をもたらす閾値を超えないことを意味する。
【0204】
先行技術として与えられる特許文献又は他の事項への本明細書での言及は、その文献若しくは事項が既知であったこと、又はそれを含む情報が、特許請求の範囲のいずれかの優先日における共通の一般知識の一部であったことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0205】
本明細書に記載される各参考文献の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0206】
本発明の態様
1.ヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる核酸によってコードされる可変領域を含み、該可変領域がヒト可変領域と対合する、結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0207】
2.ヒトから系統発生的に遠位にある動物がトリである、態様1に記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0208】
3.多量体が抗体である、態様1又は2に記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0209】
4.抗体の定常領域がヒト定常領域である、態様3に記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0210】
5.ヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる核酸によってコードされる可変領域が、該動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる核酸によってコードされる再構成VDJ領域であり、ヒト可変領域は、軽鎖可変領域である、態様1~4のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0211】
6.ヒト共通軽鎖などの共通軽鎖を含む、態様5に記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0212】
7.ヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる核酸によってコードされる可変領域が、該動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる核酸によってコードされる再構成VJ領域であり、ヒト可変領域は、重鎖可変領域である、態様1~6のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0213】
8.共通重鎖を含む、態様7に記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0214】
9.トリが、VH領域をコードする機能的VH遺伝子セグメントを含み、VH領域が、VH/VL界面においてヒトVL領域との少なくとも5、好ましくは少なくとも8、より好ましくは少なくとも10の静電相互作用を含む、態様1~8のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0215】
10.トリが、ニワトリ、シチメンチョウ、グラウス、ナンベイウズラ、ウズラ、ターミガン、ヤマウズラ、キジ、ヤケイ、ホウカンチョウ科のトリ、サカツラガン、アヒル又はダチョウなどのキジ目である、態様2~9のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0216】
11.マウス及び/又はヒトCXCR4に、好ましくはヒトCXCR4に結合する、態様1~10のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0217】
12.ヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる核酸によってコードされる可変領域が、アミノ酸配列を含む重鎖可変領域であり、アミノ酸配列が、配列番号100、配列番号101若しくは配列番号102を含む、又はそれに対して少なくとも80%、85%、好ましくは少なくとも90%、95%、より好ましくは少なくとも97%、98%若しくは99%の配列同一性を有する、態様11に記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0218】
13.ヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる核酸によってコードされる可変領域が、ヒト化されている、態様1~12のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0219】
14.二重特異性抗体である、態様3~13のいずれか一態様に記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0220】
15.多重特異性抗体、例えば、三重特異性抗体である、態様3~14のいずれか1つに記載の結合ドメイン又はその変異体の多量体。
【0221】
16.結合ドメイン又は多量体又はその変異体を調製するための方法であって、
ヒトから系統発生的に遠位にある動物を抗原で免疫化することと、
可変領域をコードする核酸配列を該動物から単離することと、
可変領域を該単離された核酸配列から得ることと、
該動物からの可変領域をヒト可変領域と対合することと、を含み、
それにより、結合ドメイン又は多量体又はその変異体を調製する、方法。
【0222】
17.ヒトから系統発生的に遠位にある動物が、機能的VH遺伝子セグメントを含み、VH/VL界面においてヒトVL可変領域との、5、好ましくは8、より好ましくは10の静電相互作用を含む、態様16に記載の方法。
【0223】
18.該動物からの可変領域をコードする核酸配列が、重鎖可変領域をコードする核酸配列であり、ヒト可変領域が、軽鎖可変領域である、請求項16又は17に記載の方法。
【0224】
19.ヒトから系統発生的に遠位にある動物から単離された核酸配列によってコードされる可変領域が、再構成VDJ領域であり、ヒト可変領域は、軽鎖可変領域である、態様16~18のいずれか1つに記載の方法。
【0225】
20.共通軽鎖を含む、態様18又は19に記載の方法。
【0226】
21.ヒトから系統発生的に遠位にある動物から単離された核酸配列によってコードされる可変領域が、再構成VJ領域であり、ヒト可変領域が、重鎖可変領域である、態様1~18のいずれか1つに記載の方法。
【0227】
22.共通重鎖を含む、態様21に記載の方法。
【0228】
23.ヒトから系統発生的に遠位にある動物が、ニワトリ、シチメンチョウ、グラウス、ナンベイウズラ、ウズラ、ターミガン、ヤマウズラ、キジ、ヤケイ、ホウカンチョウ科のトリ、サカツラガン、アヒル又はダチョウをはじめとするキジ目などのトリである、態様16~22のいずれか1つに記載の方法。
【0229】
24.多量体が抗体であり、二重特異性抗体である、態様16~23のいずれか一項に記載の方法。
【0230】
25.多量体が、多重特異性抗体、例えば三重特異性抗体である、態様16~24のいずれか1つに記載の方法。
【0231】
26.ヒトから系統発生的に遠位にある動物が、少なくともそのB細胞系統において、免疫グロブリン軽鎖又は重鎖をコードする核酸を含むトランスジェニックニワトリである、態様16~25のいずれか1つに記載の方法。
【0232】
27.核酸をコードする重鎖又は軽鎖が、DNA再構成及び/又は体細胞超変異に対して抵抗性をもたらす手段を備える、態様26に記載の方法。
【0233】
28.核酸をコードする軽鎖の配列が、ヒトV配列である、態様27に記載の方法。
【0234】
29.ファージであって、そのゲノム中に:
可変領域をコードする核酸であって、ヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる、核酸と;
ヒト可変領域をコードする核酸と、を含む、ファージ。
【0235】
30.該動物からの可変領域をコードする核酸配列が、重鎖可変領域をコードする核酸配列であり、ヒト可変領域が、軽鎖可変領域である、態様29に記載のファージ。
【0236】
31.ファージが、核酸によってコードされる可変領域を表示することができ、該可変領域が互いに対合する、態様29又は30に記載のファージ。
【0237】
32.可変領域が互いに対合して、結合ドメインを形成する、態様29~31のいずれか1つに記載のファージ。
【0238】
33.結合ドメインが、Fabの形態である、態様29~32のいずれか1つに記載のファージ。
【0239】
34.態様29~33のいずれか1つに記載ファージを含むファージディスプレイライブラリーであって、ライブラリーが、少なくとも約10個のファージを含む、ファージディスプレイライブラリー。
【0240】
35.ファージディスプレイライブラリーを調製するための方法であって、
ヒトから系統発生的に遠位にある動物を抗原で免疫化することと、
可変領域をコードする複数の核酸を該動物から単離することと、
該可変領域をコードする該核酸を使用してファージディスプレイライブラリーを調製することと、を含み、
それにより、ファージディスプレイライブラリーを調製する、方法。
【0241】
36.該動物からの可変領域をコードする複数の核酸配列が、重鎖可変領域をコードする核酸配列である、態様35に記載の方法。
【0242】
37.ファージディスプレイライブラリー内のファージが、ヒト軽鎖可変領域をコードする核酸配列を含む、態様35又は36に記載の方法。
【0243】
38.該動物からの可変領域をコードする複数の核酸を使用して、それぞれ該核酸を含む複数のファージを調製する、態様35~37のいずれか1つに記載の方法。
【0244】
39.ファージディスプレイライブラリーが、少なくとも1つのファージを含み、該ファージが、そのゲノム中に:
可変領域をコードする核酸であって、ヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる、核酸と;
ヒト可変領域をコードする核酸と、を含む、態様35~38のいずれか1つに記載の方法。
【0245】
40.可変領域が互いに対合して、結合ドメインを形成する、態様39に記載の方法。
【0246】
41.結合ドメインが、Fabの形態である、態様40に記載の方法。
【0247】
42.抗原に結合することができる、態様1~15のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体を同定するための方法であって、
ヒトから系統発生的に遠位にある動物を抗原で免疫化することと、
可変領域をコードする複数の核酸を該動物から単離することと、
該可変領域をコードする該核酸を使用してファージディスプレイライブラリーを調製することと、
抗原に結合することができるファージディスプレイライブラリー内のファージを同定することと、を含み、
それによって、抗原に結合することができる結合ドメイン又は多量体又はその変異体を同定する、方法。
【0248】
43.結合ドメイン又は多量体又はその変異体が、抗原に結合する、態様42に記載の方法。
【0249】
44.該動物からの可変領域をコードする複数の核酸配列が、重鎖可変領域をコードする核酸配列である、態様42又は43に記載の方法。
【0250】
45.ファージディスプレイライブラリー内のファージが、ヒト軽鎖可変領域をコードする核酸配列を含む、態様42~44のいずれか1つに記載の方法。
【0251】
46.核酸又は複数の核酸であって、ヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる重鎖可変領域を含むポリペプチドと;ヒト軽鎖可変領域を含むポリペプチドとをコードする、核酸又は複数の核酸。
【0252】
47.ポリペプチドが対合して、結合ドメイン又は多量体又はその変異体を形成することができる、態様46に記載の核酸又は複数の核酸。
【0253】
48.核酸又は複数の核酸が、重鎖可変領域を含む少なくとも2つのポリペプチドであって、その少なくとも1つはヒトから系統発生的に遠位にある動物に基づく、動物に由来する、又は動物から得られる、ポリペプチドと;ヒト軽鎖可変領域を含むポリペプチドとをコードする、態様46又は47に記載の核酸又は複数の核酸。
【0254】
49.重鎖可変領域を含む少なくとも2つのポリペプチド、及びヒト軽鎖可変領域を含むポリペプチドが、多量体に組み立てることができる、態様48に記載の核酸又は複数の核酸。
【0255】
50.多量体が、抗体、例えば二重特異性抗体又は多重特異性抗体である、態様49に記載の核酸又は複数の核酸。
【0256】
51.態様46~50のいずれか1つに記載の核酸又は複数の核酸を含む宿主細胞。
【0257】
52.ヒトから系統発生的に遠位にある動物が、ニワトリ、シチメンチョウ、グラウス、ナンベイウズラ、ウズラ、ターミガン、ヤマウズラ、キジ、ヤケイ、ホウカンチョウ科のトリ、サカツラガン、アヒル又はダチョウをはじめとするキジ目などのトリである、態様29~33のいずれか1つに記載のファージ、態様34に記載のファージディスプレイライブラリー、態様35~41のいずれか1つに記載のファージディスプレイライブラリーを調製するための方法、態様42~45のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体若しくはその変異体を同定するための方法、又は態様46~50のいずれか1つに記載の核酸又は複数の核酸、又は態様51に記載の宿主細胞。
【0258】
53.態様1~15のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体と、薬学的に許容される担体及び/又は希釈剤と、を含む、医薬組成物。
【0259】
54.態様1~15のいずれか1つに記載の抗体と、薬学的に許容される担体及び/又は希釈剤と、を含む、医薬組成物。
【0260】
55.治療によるヒト又は動物の身体の処置に使用するための、態様1~15のいずれか1つに記載の結合ドメイン又は多量体又はその変異体。
【0261】
56.医学的適応症に罹患しているヒト又は動物を処置するための方法であって、態様1~15のいずれか1つに記載の治療有効量の結合ドメイン又は多量体又はその変異体をヒト又は動物に投与することを含む、方法。
【0262】
57.ヒトから系統発生的に遠位にある動物であって、少なくともそのB細胞系統において、ヒト免疫グロブリン軽鎖又は重鎖をコードする核酸を含むトランスジェニック動物である、動物。
【0263】
58.ニワトリ、シチメンチョウ、グラウス、ナンベイウズラ、ウズラ、ターミガン、ヤマウズラ、キジ、ヤケイ、サカツラガン、アヒル又はダチョウである、態様57に記載の動物。
【0264】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、いかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0265】
実施例1.キメラニワトリVH-ヒトVL抗体
ファージディスプレイライブラリーを産生するために、これは、免疫化されたトリ、好ましくはニワトリ、アヒル又はダチョウの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られる核酸によってコードされるVH領域から構成される結合ドメインを表示し、かかるVH領域は、ヒト軽鎖可変領域、好ましくはcLCを有する多量体を形成し、VH領域はVL領域と対合できる必要がある。
【0266】
本明細書において、免疫化されたトリ、好ましくはニワトリの核酸に基づく、核酸に由来する、又は核酸から得られるVH領域のレパートリーは、ヒトVLと安定して対合できることが実証される。本明細書で例示されるヒトVLは、配列番号7;配列番号10;配列番号87;配列番号88;又は配列番号89に示されるアミノ酸配列を含む。
【0267】
抗体のFabは、重鎖及び軽鎖部分を含み、この部分は、対合したときに、展開しない結合ドメイン構造を形成する。本明細書において、可変領域が一次アミノ酸レベルで低い相同性を有するV遺伝子セグメントに由来する場合であっても、異なる種からの軽鎖及び重鎖可変領域が組み合わされたときであっても、かかる構造を組み立てることができることが実証される。
【0268】
これらの例では、Vector NTI Advance 11.5.2ソフトウェア(ThermoFisher Scientific)のAlignXコンポーネントを使用し、デフォルト設定を使用して、全ての配列同一性を決定した。2つの核酸配列間のパーセント配列同一性は、デフォルト設定を使用してVector NTI Program Advance 11.5.2ソフトウェアのAlignXアプリケーションを使用して求められた。この設定には、変更されたClustalWアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.(1994)Nuc.Acid Res.22:4673~4680)、swgapdnarntスコアマトリックス、15のギャップオープンペナルティ、及び6.66のギャップエクステンションペナルティを用いる。アミノ酸配列は、デフォルト設定を使用して、Vector NTI Program Advance 11.5.2ソフトウェアのAlignXアプリケーションを使用してアラインメントされる。この設定には、変更されたClustalWアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.,1994)、blosum62mt2スコアマトリックス、10のギャップオープニングペナルティ、及び0.1のギャップエクステンションペナルティを用いる。
【0269】
1.配列番号14の単一の機能的ニワトリVH1遺伝子セグメントは、図1に示されるタンパク質アラインメントに示されているように、ヒトVH遺伝子セグメントと相同である。機能的ニワトリVH1遺伝子セグメントは、ヒト遺伝子セグメントとの相同性が低いものでしかないことが分かる。ニワトリ遺伝子セグメント、及びヒトFab3178の配列番号1を有する重鎖可変領域が由来するヒトVH1-02遺伝子セグメントは、図2に示すタンパク質アラインメントに示されているように、わずか43%のアミノ酸同一性が得られた(以下を参照)。全ての配列比較は、デフォルト設定を使用して、Vector NTI Advance 11.5.2ソフトウェアのAlignXコンポーネントを使用して実施した。
【0270】
2.機能的ニワトリJH遺伝子セグメントのFW4領域は、ヒトJH遺伝子セグメントの対応する領域と相同であり、図3に示すタンパク質アラインメントに示されているように、全体で73%のアミノ酸同一性を有する。
【0271】
3.ヒト/ニワトリハイブリッドFabの3D相同性モデルを(図4を参照)、配列番号1を有するMF3178(PDBエントリー5O4O;VH1-02由来遺伝子[Geuijen et al.,2018]を含む)と、配列番号7を有するVLとを含むヒトFabの結晶構造に基づいて生成した。相同性モデリングに使用されたアルゴリズムは、MODELLER(https://salilab.org/modeller/)であった。全ての構造分析(モデリングを含む)は、デフォルト設定を使用し、Biovia Discovery Studioソフトウェア(http://accelrys.com/products/collaborative-science/biovia-discovery-studio/)を使用して実施した。
【0272】
モデルでは、ヒトVH領域は、ニワトリFab(PDB 4GLR;[Shih et al.,Shih et al.J.Biological Chemistry 287,44425-44434,2012])の構造から得られたニワトリVH領域のアミノ酸配列に基づいてモデル化されたVH領域によって置き換えられている。ニワトリFab PDB 4GLRの重鎖可変領域配列は、以下のとおりである。
AVTLDESGGGLQTPGGGLSLVCKASGFTLSSYQMMWVRQAPGKGLEWVAGITSRGGVTGYGSAVKGRATISRDNGQSTVRLQLNNLRAEDTGTYYCAKPALDSDQCGFPEAGCIDAWGHGTEVTVSS(配列番号2)
【0273】
モデルの分析により、ニワトリVHとヒトVLの間に24の非結合静電相互作用が存在するのに対し、完全ヒトテンプレートではわずか20しか同定されないことが示された(図4aを参照)。これらの相互作用のうち、10は、2つの構造間で同一であり、2は、同じ位置で見出される同等又は相同の残基間で形成される。興味深いことに、ヒトVH-ヒトVL界面と比較して、ニワトリVH-ヒトVL界面ではより多くの水素結合(6ではなく12)が見られ、ニワトリVH-cLC界面での安定した相互作用を示す。相互作用の詳細を図4aに示す。
【0274】
更に、ニワトリVH配列にI338T変異体を導入した(配列番号2)。この変異体は、核酸レベルでのBstEIIクローニング部位の導入を考慮するために追加された。これにより、以下で更に詳細に説明するように、野生型免疫化ニワトリ重鎖レパートリーの使用、及びそれらの重鎖可変領域をコードする核酸のファージディスプレイライブラリーへの直接導入が促進される。I110T変異体及び核酸のBstEIIクローニング部位を導入することにより、Q12で形成された水素結合が維持される(図4bを参照)。注目すべきことに、相同性モデルでは、位置12及び110は、それぞれFW1及びFW4にある。ヒト及びニワトリFab(PDB 5O4O及び4GLR)のVL-VH領域のオーバーレイを図4cに示す。1.27Åの原子位置の二乗平均平方根偏差(RMSD)を有する構造は、主にCDR及びループに位置する小さな差と同様である。全体として、相同性モデル及び構造解析は、ハイブリッドFabのフォールディングがヒトFabのフォールディングと類似していることを示しており、ヒトVH遺伝子セグメントとニワトリVH遺伝子セグメントとの間の相同性が一次アミノ酸レベルで低いという事実にかかわらず、ニワトリVHドメインとヒトVLドメインとの間の安定した相互作用を証明している。
【0275】
MF3178 PDBエントリー5O4Oを含むヒトFabのエネルギー最小化及び側鎖最小化結晶構造に基づく別のモデルでは、配列番号92を有するニワトリFab PDB 4GLR(Shih et al.J.Biological Chemistry 287,44425-44434,2012)の重鎖領域を、配列番号94;配列番号95;配列番号93;又は配列番号96を有するヒト軽鎖領域に対してモデル化した。結果を図20に示す。
【0276】
モデルの分析は、31の非結合静電相互作用がニワトリVH-ヒトCH1と配列番号94のヒトVL-CLとの間に存在することを示し、50の相互作用が完全なニワトリテンプレートで同定され、35の相互作用が完全なヒトテンプレートで同定された。ニワトリVH-ヒトCH1は、配列番号95のヒトVL-CLとの47の非結合静電相互作用;配列番号93のヒトVL-CLとの45の非結合静電相互作用;及び配列番号96のヒトVL-CLとの44の非結合静電相互作用を更に有する。
【0277】
このデータは、ニワトリVH領域がいくつかの異なるヒトVL領域と対合できることを示す。
【0278】
実施例2.キメラアヒルVH-ヒトVL抗体
ニワトリ重鎖可変領域をヒト共通軽鎖と直接対合する性質、及びヒトVH-VL界面と比較して、混合VH-VL界面で更に多数の安定した相互作用を生成するその性質を実証するとき、更にトリの種であるAnas platyrynchos(マガモ)を、上記のニワトリVHについて説明したようにモデル化した。
【0279】
アヒルVH遺伝子セグメントXP_021132877.1(配列番号12)によってコードされるアミノ酸配列は、図8に示すタンパク質アラインメントに示されているように、ヒトVH遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列と相同である。アヒルの推定機能的VH遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列と最も高い相同性を有するアミノ酸配列をコードするヒトVH遺伝子セグメントは、図9に示されるタンパク質アラインメントに示されているような、41%のアミノ酸同一性を有するヒトVH4-59、VH4-61、VH4-39及びVH4-31である。全ての配列比較は、デフォルト設定を使用して、Vector NTI Advance 11.5.2ソフトウェアのAlignXコンポーネントを使用して実施した。
【0280】
ヒト/アヒルハイブリッドFabの3D相同性モデル(図10を参照)を、実施例1に上述したように、配列番号1を有するMF3178(PDBエントリー5O4O;VH1-02由来遺伝子[Geuijen et al.,2018]を含む)を含むヒトFabの結晶構造に基づいて生成した。
【0281】
モデルでは、Genbankアクセッション番号A46529から取得したアヒルVHのアミノ酸配列に基づいてモデル化されたVHによって、ヒトVHを置き換えた。重鎖可変領域配列は以下のとおりである。
AETLDESGGGLVSPGGSLTLVCKGSGFTFSSNEMYWVRQAPGKGLEWVAGITTGGYTGYAPAVKGRFTISRNNGQSTLTLQMNSLKAEDTATYYCAKITGYANCAGYGCAADIDLWGHGTEVTVSS(配列番号3)
【0282】
モデルの分析により、アヒルVHとヒトVL界面の間に28の非結合相互作用が存在するのに対し、完全ヒトテンプレートではわずか20しか同定されないことが示された(図10aを参照)。これらの相互作用のうち、12は2つの構造間で同一であり、1つは混合VH-VL界面とヒトVH-VL界面との間の同じ位置で見出される同等又は相同の残基間で形成される。ヒトVH-ヒトVL界面と比較して、アヒルVH-ヒトVL界面ではより多くの水素結合(7ではなく12)が見られ、アヒルVH-cLC界面での安定した相互作用を示す。相互作用の詳細を図10aに示す。
【0283】
ヒト及びアヒルのFabのVL-VH領域のオーバーレイを図10bに示す。1.27Åの原子位置の二乗平均平方根偏差(RMSD)を有する構造は、主にCDR及びループに位置する小さな差と同様である。全体として、相同性モデル及び構造解析は、ハイブリッドFabのフォールディングがヒトMF3178テンプレートの重鎖に類似していることを示しており、アヒルVHドメインとヒトVLドメインとの間の安定した相互作用を証明している。
【0284】
実施例3.キメラダチョウVH-ヒトVL抗体
ニワトリ及びアヒルは、生物学的種類の家禽(系統群、Galloanserae)、すなわちキジ目及びガンカモ目を代表している。したがって、ヒト軽鎖可変領域(多価多量体フォーマットで共通軽鎖として使用され得る)と直接対合する、(アヒル及びニワトリに対してより遠位に関連する)非家禽のトリ種、すなわちダチョウ(Struthio camelus)の重鎖可変領域の能力を、上記の実施例1のニワトリVHについて記載したようにモデル化した。
【0285】
ダチョウVH遺伝子セグメントXP_009669322.1(配列番号13)によってコードされるアミノ酸配列は、図5に示すタンパク質アラインメントに示されているように、ヒトVH遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列と相同である。ダチョウVH遺伝子セグメントのコードされたアミノ酸と最も高い相同性を有するアミノ酸をコードするヒトVH遺伝子セグメントは、図6に示すタンパク質アラインメントに示されるように、76.5%のアミノ酸同一性を有するヒトVH3-73及びVH3-23である。全ての配列比較は、デフォルト設定を使用して、Vector NTI Advance 11.5.2ソフトウェアのAlignXコンポーネントを使用して実施した。
【0286】
ヒト/ダチョウハイブリッドFabの3D相同性モデル(図7を参照)を、上記の実施例1に記載のように、配列番号1を有するMF3178(PDBエントリー5O4O;VH1-02由来遺伝子[Geuijen et al.,2018]を含む)を含むヒトFabの結晶構造に基づいて生成した。
【0287】
モデルでは、Genbankアクセッション番号AFN02388から取得したダチョウVHのアミノ酸配列に基づいてモデル化されたVHによって、ヒトVHを置き換えた。重鎖可変領域配列は以下のとおりである。
AVQLVESGGGLQQPGGSLRLSCKGTGFTLSSFGMSWIRQAPGKGLEPVAGISSSGSDTYYADAVQGRFTISRDNGQSTLYLQMNGLKAEDTATYYCAKCATDWGSCGPWNLDAWGRGASVTVSS(配列番号4)
【0288】
モデルの分析により、ダチョウVHとヒトVL界面との間に14の非結合相互作用が存在することが示された(図7aを参照)。これらの相互作用のうち、7つは2つの構造間で同一であり、1つはヒトVH及びVL界面の同じ位置にある同等又は相同の残基間で形成される。ヒトVH-ヒトVL界面と比較して、ダチョウVH-ヒトVL界面では、ほぼ同じ数の水素結合(7ではなく6)が見られ、ダチョウVH-cLC界面での安定した相互作用を示す。相互作用の詳細を図7aに示す。
【0289】
ヒト及びダチョウのFabのVL-VH領域のオーバーレイを図7bに示す。1.27Åの原子位置の二乗平均平方根偏差(RMSD)を有する構造は、主にCDR及びループに位置する小さな差と同様である。全体として、相同性モデル及び構造解析は、ハイブリッドFabのフォールディングがヒトFabのフォールディングと類似していることを示しており、ヒトVH遺伝子セグメントとダチョウVH遺伝子セグメントとの間の相同性が一次アミノ酸レベルで低いという事実にかかわらず、ダチョウVHドメインとヒトVLドメインとの間の安定した相互作用を証明している。
【0290】
全体として、実施例1~3は、三次構造レベルでかなりの量の相同性が、ニワトリとヒト可変領域との間、アヒルとヒト可変領域との間、並びにダチョウとヒト可変領域との間に存在することを示し、これは、ニワトリ、アヒル及びダチョウからのV遺伝子セグメントが、一次アミノ酸レベルでのヒトV遺伝子セグメントとの比較的低い相同性を共有している場合であってもである。確かに、アヒルは一次アミノ酸レベルでニワトリよりもヒトV遺伝子セグメントとの相同性が低いが、(ニワトリと比較して)ヒトcLCとの接触点が更にモデル化されており、三次構造の相同性がより高いことを示す。一方、ダチョウは、一次アミノ酸レベルでニワトリよりもヒトV遺伝子セグメントとの相同性が高いが、ヒトcLCとのモデル化された接触点は少ない(ニワトリと比較して)。したがって、安定した結合ドメインは、再構成可変領域の間に形成され得る。
【0291】
実施例4:ファージディスプレイライブラリーの生成に使用するためのニワトリVH領域のベクターへの導入、又は宿主細胞への導入のためのプライマーの生成
市販のブロイラー(CB)近交系のゲノムニワトリ重鎖遺伝子座配列が公開されており(Reynaud et al.,Cell 59,171-183,1989)、アクセッション番号M30319(図11を参照)でNCBIデータベースに保存されている単一の機能的VH遺伝子セグメント(VH1)を含有する断片と、単一の機能的JH遺伝子セグメント(アクセッション番号M30320;図12を参照)を含有する断片と、が含まれている。
【0292】
ニワトリは1つの機能的VH遺伝子セグメント及び1つの機能的JH遺伝子セグメントのみを含むため、免疫化されたニワトリからのVH領域配列を増幅するには、単一のフォワードプライマー及び単一のリバースプライマーで十分である。
【0293】
chVH-FWという名称のフォワードプライマーは、以下のように設計された。
●プライマーchVH-FWの最初の33塩基(GTCCTCGCAACTGCGGCCCAGCCGGCCATGGCC)は、ヒト、マウス、又はラットのVH配列を増幅することが知られているフォワードプライマーの最初の33塩基と同一である(de Haard et al.,Journal of Biological Chemistry 274,18218-18230,1999)。この領域はリーダーペプチドの一部をコードし、ファージディスプレイに使用されるベクターに存在するSfiIクローニング部位を含有する。
●プライマーchVH-FWの最後の21塩基(GCCGTGACGTTGGACGAGTCC)は、単一の機能的ニワトリVH遺伝子セグメントの最初の21塩基と同一である。ニワトリから単離されたmRNA由来のVH配列には、通常、この領域には変異が全くないか、又はほとんど含まれない(Reynaud et al.,1989,supra)。このことは、この領域において、VH偽遺伝子(VH多様化においてドナー配列として機能する)は、アクセプターとして機能する機能的VH遺伝子セグメントと完全に又はほぼ同一であるという事実による。全く同じ21塩基が、他者(Andris-Widhopf et al.,Journal of Immunological Methods 242,159-181,2000)によって記述された同様のニワトリVH増幅フォワードプライマーに使用されている。
●SfiI部位に下線が引かれたプライマーchVH-FWの合計54塩基配列は、以下のとおりである。
【化1】
●プライマーchVH-FWの注釈付き配列を図13に示す。
図14のDNAアラインメントは、プライマーchVH-FWである機能的ニワトリVHの一部と、特定のファージディスプレイベクターMV1511の一部との間の相同性を示す。
●ベクターMV1511のリーダーをニワトリVH配列と組み合わせて、処理を補正することをin silicoで確認するために、SignalPツール(http://cbs.dtu.dk/services/SignalP)を使用して、MV1511リーダー及びニワトリVH1を含むタンパク質配列を分析した。結果は、予想される位置での予測される切断を示した。
【0294】
chVH-RVという名称のリバースプライマーを、以下のように設計した。
●ファージディスプレイベクターMV1511(図18を参照)には、ヒト、マウス、ラットのJHの対応する配列と高度に相同なJHの末端をコードする配列の一部として、BstEII及びXhoIクローニング部位が含まれている。機能的ニワトリVHには内部XhoIサイトが含まれているため(FW3-図11を参照)、XhoIを使用してニワトリVHのクローニングすることはできない。BstEII部位はニワトリVHには存在しないため、この部位は、JH配列の末端をコードするリバースプライマーに組み込まれている。これは、サイレント変異だけでは不可能である。BstEII部位を組み込むことで、単一のイソロイシンからスレオニンへの変異がもたらされ、これによりJH配列をVIVSSからVTVSSに変更する。VH結晶構造の分析(上記を参照)に基づいて、この変異体は抗体の構造及び結合特性に大きな影響を与えないと予測される。これは、クローニング目的、並びにヒト化目的のためのニワトリVH配列の変異体の例であるが、当業者は、ニワトリVH/ヒトVLドメインの結合の構造に大きな影響を及ぼさない追加の又は異なる変異体も組み込むことができることを理解している。
●ニワトリJH遺伝子セグメントから離れた変異に下線が引かれ、BstEII部位は太字のイタリック体である、24塩基プライマーchVH-RVの配列は、以下のとおりである。
【化2】
●プライマーchVH-RVの逆相補体の注釈付き配列を図15に示す。
図16のDNAアラインメントは、chVH-RVの逆相補体であるニワトリJHの一部と、ベクターMV1511の一部との間の相同性を示す。プライマー全体は、対応するニワトリJH配列と92%同一(24塩基中22塩基)であり、最初の10塩基(5’側)及び最後の8塩基(3’側)は100%同一である。
【0295】
実施例6に詳細に記載されるように、プライマーchVH-FW及びchVH-RVを使用して、huPD-1で免疫化されたニワトリからのVH領域を増幅し、続いて、増幅されたVH領域を、ヒトCH1遺伝子及びヒトcLCを含有するベクターMV1511にクローニングすることにより、Fabファージディスプレイライブラリーを調製する。これらのライブラリーを使用して、実施例6に示すように、抗huPD-1Fabパネルを生成する。
【0296】
実施例5:ヒトPD-1による野生型ニワトリの免疫化
ニワトリのDNA免疫化を実施し得るようにするために、ヒトPD-1(huPD-1)の少なくとも一部分をコードする核酸を組み込んだ好適な発現ベクターを生成することができる。
【0297】
huPD-1をコードする核酸は、以下の配列番号17に示されている。しかし、この配列はニワトリでの発現のためにコドン最適化されている可能性があり、huPD-1の細胞外ドメインのみが発現されるように、配列の一部のみが使用され得る。細胞外ドメインの発現に向いている、好適なコドン最適化された核酸配列は、配列番号18に示されている。
【0298】
発現ベクターは、免疫化後のニワトリにおけるhuPD-1ポリペプチドの発現を駆動するのに好適なプロモーターなどの適切な制御要素を含み得る。
配列番号17
ATGCAGATCCCACAGGCGCCCTGGCCAGTCGTCTGGGCGGTGCTACAACTGGGCTGGCGGCCAGGATGGTTCTTAGACTCCCCAGACAGGCCCTGGAACCCCCCCACCTTCTCCCCAGCCCTGCTCGTGGTGACCGAAGGGGACAACGCCACCTTCACCTGCAGCTTCTCCAACACATCGGAGAGCTTCGTGCTAAACTGGTACCGCATGAGCCCCAGCAACCAGACGGACAAGCTGGCCGCCTTCCCCGAGGACCGCAGCCAGCCCGGCCAGGACTGCCGCTTCCGTGTCACACAACTGCCCAACGGGCGTGACTTCCACATGAGCGTGGTCAGGGCCCGGCGCAATGACAGCGGCACCTACCTCTGTGGGGCCATCTCCCTGGCCCCCAAGGCGCAGATCAAAGAGAGCCTGCGGGCAGAGCTCAGGGTGACAGAGAGAAGGGCAGAAGTGCCCACAGCCCACCCCAGCCCCTCACCCAGGCCAGCCGGCCAGTTCCAAACCCTGGTGGTTGGTGTCGTGGGCGGCCTGCTGGGCAGCCTGGTGCTGCTAGTCTGGGTCCTGGCCGTCATCTGCTCCCGGGCCGCACGAGGGACAATAGGAGCCAGGCGCACCGGCCAGCCCCTGAAGGAGGACCCCTCAGCCGTGCCTGTGTTCTCTGTGGACTATGGGGAGCTGGATTTCCAGTGGCGAGAGAAGACCCCGGAGCCCCCCGTGCCCTGTGTCCCTGAGCAGACGGAGTATGCCACCATTGTCTTTCCTAGCGGAATGGGCACCTCATCCCCCGCCCGCAGGGGCTCAGCTGACGGCCCTCGGAGTGCCCAGCCACTGAGGCCTGAGGATGGACACTGCTCTTGGCCCCTCTGATGA
【化3】
【0299】
huPD-1発現ベクターは、例えば好適なアジュバントに付着させることにより、免疫化のために調製することができる。次に、ニワトリ、典型的には白色レグホンニワトリをhuPD-1DNAで免疫化する。免疫化は、連続4週間にわたって週1回の頻度(0、7、14、21日目)で遺伝子銃を使用し、筋肉内である場合もあれば、皮内(アジュバントなし)である場合もある。好適な量のDNA、例えば120μgのDNAを各免疫ポイントに適用できる。したがって、一次免疫化は、2回、3回、4回、又はそれ以上のブースター免疫化で実施することができる。遺伝子銃によるニワトリの免疫化については、例えば、Witkowski et al.,J.Immunol.Methods.2009;341:146-153に記載されている。
【0300】
0日目に、免疫化されたニワトリ1羽あたり1つの卵又は血清が免疫前サンプルとして収集される。3回目又は4回目のブースター免疫化に続いて、例えば、ニワトリ1羽あたり1日1個の卵又は血清を数日間収集することができる。必要に応じて/所望の場合、8回の免疫化後又は更には12回の免疫化後に、卵/血清を収集することができる。
【0301】
IgY抗体は、当業者に周知の方法を使用して、収集された卵の卵黄又は血清から単離され得る。
【0302】
例えば、FACS分析により、IgYが明確なhuPD-1反応性を示すニワトリについては、脾臓細胞及び骨髄細胞を単離することができる。すなわち、脾臓及び骨髄を、標的タンパク質に対して著しい体液性応答が観察されるニワトリから除去する。次に、脾臓細胞と骨髄細胞の両方から細胞懸濁液を生成し、続いてこれらの細胞をTrizol LS試薬(Thermo Scientific c#10296028)で溶解し、使用するまで-80℃で保存し、存在するタンパク質を変性させる一方で、ニワトリVH又はVL領域のレパートリーをコードする核酸の抽出を可能にする。
【0303】
huPD-1とのIgY反応性は、FACS及びELISAを使用して分析することができる。FACSは、標的細胞としてhuPD-1をコードする発現ベクターで一過性にトランスフェクトされた好適な細胞、陰性対照細胞としての非トランスフェクト細胞、陽性対照抗体としての抗PD-1抗体、及び陰性対照としての抗破傷風毒素(TT)抗体を含み得る。ヒトIgGを検出するための二次抗体として、PEコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG(Invitrogen、カタログ番号H10104)を使用することができる。ニワトリIgYを検出するための二次抗体として、PEコンジュゲートヤギ抗ニワトリIgY(Jackson ImmunoResearch、カタログ番号103-117-008)を使用することができる。
【0304】
実施例6:脾臓及び骨髄(BM)からのライブラリー生成
ニワトリVH領域とヒトVL領域とのファージディスプレイライブラリーを生成するために、例えば実施例5に記載のプロトコルに従って産生されたhuPD-1免疫化ニワトリの脾臓細胞及び骨髄細胞からのTRIzolサンプルを使用して、個々のライブラリーを生成した。サンプルを使用してRNAを単離し、次いでオリゴ(dT)プライマーを使用してcDNAを合成した。複数の反応を実行して、後続のPCR反応に十分な材料を生成することができる。
【0305】
次に、生成されたcDNAサンプルをテンプレートとして使用して、2つのニワトリ特異的プライマーchVH-FW及びchVH-RV(図13図16及び配列番号を参照)を使用して、Marks et al.(J.Mol.Biol.222(3),581-97,1999)に基本的に記載されているように、VH遺伝子を増幅し、続いて消化した。
【0306】
各cDNAサンプルについて、後続のステップに十分なPCR産物を生成するために、複数のPCRを並行して(全てchVH-FW及びchVH-RVを使用して)行うことができる。10を超えるPCR又は更には20を超えるPCRが必要になる場合がある。
【0307】
この手順は、3ng/μLの最小濃度で、各cDNAサンプルに対して少なくとも20ngの精製された消化VHインサートを得ることを目的としている
【0308】
ファージディスプレイライブラリーは、プレートベースのプロトコルに従って作製された。要約すれば、 ファージ上にFab断片を表示するために、ファージミドベクターでPCR産物のクローニングを、基本的にde Haard et al.(J Biol Chem.1999 Jun 25;274(26):18218-30)に記載されているように行ったが、例外として、Fabごとに使用された配列番号5の軽鎖をベクターによってコードした。
【0309】
VH領域をコードする核酸をSfiI/BstEII消化ベクターにライゲーションし、得られたライゲーションベクターをTG1細胞に形質転換した。これにより、ライブラリーあたり>1E6cfu(コロニー形成単位)を得た。
【0310】
各ライブラリーのクローンのサブセットに対してコロニーPCRを実施して、VHインサート頻度を決定することができる。ライブラリーごとにクローンのサブセットに対してDNA配列決定を行い、VH配列の多様性を判断することもできる。
【0311】
実施例7:Fab検証
生成される全てのライブラリーについて、多数のランダムなクローンを採取及び使用して、基本的にJ.Mol.Bio.222(3),581-97,1991 and J.Biol.Chem.274(26),18218-30,1999に従って、可溶性Fabを調製した。完全にヒトのクローンが参照として含まれる。この手順により、可溶性Fabを含有する未精製のペリプラズム抽出物が得られる。
【0312】
Fabが適切に産生され、プロテインLに結合できることを確認するために、機器に取り付けられた別個のコンピュータ上のOctetソフトウェアによって制御されるOctet機器を含むForteBIO Octet-QKeシステムを使用することができる。このシステムは、Bio-Layer Interferometry(BLI)に基づいており、生体分子相互作用のリアルタイムの定量化と速度論的特性評価を可能にし、実質的に製造元の説明書(詳細についてはwww.fortebio.comを参照)に従って使用される。プロテインLバイオセンサー(ForteBIO、部品番号18-5085)を使用して、Fabの定量化を行う。
【0313】
NAb(商標)プロテインLスピンキットを使用して、上清からFabを精製し、SDS-PAGEゲルで直接Fabを分析できるようにした。上清及びプロテインL精製サンプルの濃度を測定した。
【0314】
未精製のFabの濃度は通常の範囲で、約50μg/mlであった。これは、ニワトリVH及びヒトVLを含むFabが正常な発現レベルをもたらすことを示す。
【0315】
タンパク質の完全性を確認するために、NuPAGE 4~12%Bis-Trisゲルを使用して、FabをSDS-PAGE及びウエスタンブロットに供した。検出抗体には、ヒトIgGのCH1ドメインを認識するHRP標識マウス抗体(Becton Dickinson、カタログ番号555788)を使用している。非還元条件では、無傷のFabに対して約50kDの単一バンドが予想され、ニワトリ重鎖とヒト共通軽鎖の正しい対合が示されるが、Fabの重鎖断片の還元条件では約25kDのバンドが予想される。
【0316】
図21は、精製されたキメラFab及び配列番号98のヒト対照Fabが同様の結果を与えることを示し、キメラFabの正しい重鎖-軽鎖の対合を示す。これらのFabの非還元サンプルには、無傷のFabの50kDのバンドに加えて、25kDのバンドが含まれている。25kDのサイズは、プロテインL精製の結果として対合していない軽鎖と一致している。プロテインLの精製により、無傷のFabと対合していない軽鎖との比率が変わる可能性がある。したがって、これらの結果を、検出にProtL-HRP(Ab108)及びα-myc(Ab217)を用いてウエスタンブロットによって更に確認した。結果を図23に示す。キメラFabは、配列番号98のヒト対照と同様の結果を与え、それにより、キメラFabの重鎖及び軽鎖の正しい対合を確認する。無傷のFabを示す50kDの予想されるバンドは、全てのFabに存在する。
【0317】
実施例8:免疫化ニワトリライブラリーからのPD-1Fabの選択
ファージディスプレイライブラリーのレスキュー
上記の実施例6で生成された全てのライブラリーは、この実施例におけるファージディスプレイの選択中に別々に使用される。
【0318】
この実施例で使用される全てのライブラリーは、一晩増殖させた後に細菌を採取することによってレスキューすることができ、その後、確立されたプロトコルに従ってファージを調製することができる(de Haard et al.,J.Biol.Chem.,274(26),18218-30,1999)。
【0319】
ファージディスプレイの選択
例えばこの実施例に記載されるように、いくつかの異なる選択ストラテジー(各々、huPD-1及びmoPD-1に対する組換えタンパク質及び細胞選択)を実施して、ファージを選択することができる。
【0320】
全ての選択ストラテジーについて、1回目の選択を実行できる。濃縮が観察されない場合、又はスクリーニング中のヒット率が20%未満の場合は、2回目の選択を行うことができる。かかる2回目の選択は、1回目と同じ選択ストラテジーを使用して、又は異なるフォーマットを使用して実行することができる。例えば、huPD-1組換えタンパク質での1回目の後、2回目は、huPD-1組換えタンパク質、又はmoPD-1組換えタンパク質、又は更には細胞発現されたhuPD-1若しくはmoPD-1で再度行うことができる。
【0321】
組換えタンパク質パニングの選択
いくつかの種のPD-1に融合したhuFcからなる組換えタンパク質、並びにビオチン化PD-1融合タンパク質を、選択に使用するために表1に示す。パニングの選択は、KingFisher Flexを使用して実行される。
【0322】
KingFisher Flex磁性粒子プロセッサは、マイクロプレート形式の磁性粒子の自動転送及び処理用に設計されている。KingFisher Flexシステムの技術は、使い捨ての特別に設計されたチップコームとプレートで覆われた磁気ロッドの使用に基づく(Kontermann R.and Dubel S.(2010)Antibody Engineering Vol.1,Springer-Verlag Berlin Heidelberg,p270を参照されたい)。
【0323】
ファージディスプレイの選択は、基本的に製造元の説明書に従って、KingFisher Flexを使用して半自動化された形式で実行される。ここでは、2つの異なる選択フォーマットについて説明する。1)「溶液中」の選択、すなわち可溶性組換えタンパク質の選択。及び2)ビオチン化細胞の選択。抗原は、典型的には、ビオチン化され、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズ又は抗ビオチン抗体でコーティングされた磁気ビーズに捕捉される。
【0324】
組換えビオチン化huPD-1及びmoPD-1、例えば市販のhuPD-1-huFc-ビオチン及びmoPD-1-moFc-ビオチン(表1を参照)を、5、0.5、及び0μg/ml(陰性対照として後者)で使用することができる。
【0325】
組換えタンパク質のhuFcドメインに特異的なバインダーの選択を避けるために、ライブラリーのインキュベーション中に100μg/mlのhulgG(Sigma、カタログ番号4506)を溶液に添加する。
【0326】
結合したファージを、1mg/mlトリプシンを使用して溶出する。
【0327】
その後、KingFisherからの溶出サンプルを、5μLの4mg/mlのAEBSF(Sigma-Aldrich、カタログ番号A8456)を含有する丸底96ウェルプレートの列に移して、トリプシンを不活性化する。
【0328】
スポット法によるファージ滴定を使用して、選択の濃縮/出力力価を決定することができる。簡潔に述べると、細菌は溶出したファージの希釈系列に感染し、適切な抗生物質を含有する寒天プレート上にこれらの液滴をスポットし、一晩インキュベートした後、出力力価を表すコロニーの数を計数する。
【0329】
【表1】
【0330】
細胞の選択
細胞の選択は、KingFisherを使用して、基本的に製造元の説明書に従い、以下の備考/変更を伴って実行される。
●選択は、huPD-1又はmoPD-1をコードする発現ベクターで一過性にトランスフェクトされたFreeStyle293-F細胞を使用して行うことができる。
●市販の抗体を使用してPD-1の発現を確認するための対照FACS(表2を参照)を実行した後、以下に説明するビオチン化を開始することができる。
○huPD-1を検出するために、huPD-1を認識するマウス抗体(Abcam、カタログ番号ab52587)を一次抗体として、PEコンジュゲートヤギ抗moIgG(Invitrogen、カタログ番号M30004-4)を二次抗体として使用できる。
○moPD-1を検出するために、PEコンジュゲートラット抗moPD-1抗体(ITK-Diagnostics、カタログ番号109103;Merus Ab0285)を使用できる。
●細胞は、EZ-Link(商標)Sulfo-NHS-Biotinキット(ThermoFisherカタログ番号21217)を使用してビオチン化できる。これには、ストレプトアビジン-PE(Caltag、カタログ番号SA1004-4)を検出試薬として用いて、FACSを使用したビオチン化効率を確認することが含まれる。同時に、上記のFACSを再度実行して、細胞上のPD-1が、ビオチン化後に依然として認識され得ることを確認することができる。
●結合したファージを、1mg/mlトリプシンを使用して溶出する。
●その後、KingFisherからの溶出サンプルを、5μLの4mg/mlのAEBSF(Sigma-Aldrich、カタログ番号A8456)を含有する丸底96ウェルプレートの列に移して、トリプシンを不活性化する。
●上記のスポット法によるファージ滴定を使用して、選択の濃縮/出力力価を決定することができる。
【0331】
【表2】
【0332】
スクリーニング
クローンをランダムに採取し、ファージとしてスクリーニングする。スクリーニングは、細胞発現huPD-1又はmoPD-1でFACSによって行われる。理由としては、これらが最も関連性の高い抗原フォーマットであるためである(組換えPD-1タンパク質でのELISAによるスクリーニングは、細胞発現PD-1に結合しないクローンをもたらし得る)。
【0333】
マスタープレート採取及びファージ産生
●各選択ストラテジーから、24又は48クローン(選択中に観察された濃縮に応じて)が、96ウェルマスタープレート(MP)に採取される。
○陰性対照として、MF1025(抗サイログロブリンFabドメインを含有するファージ)を各プレートの1つのウェルに接種することができる。
○各MPの1つのウェルはブランク(細菌なし)のままにする。これは、以下に説明するように、FACSスクリーニング中に陽性対照抗体を添加するために使用される。
【0334】
FACSを用いたファージスクリーニング
ファージFACSは、huPD-1又はmoPD-1をコードする発現ベクターで一過性にトランスフェクトされたFreeStyle293-F細胞を使用して実行される。1つのウェルを市販の陽性対照抗体(表2)に使用して、PD-1発現を確認する。huPD-1を検出するには、huPD-1を認識するマウス抗体(Abcam、カタログ番号ab52587)を一次抗体として使用でき、PEコンジュゲートヤギ抗moIgG(Invitrogen、カタログ番号M30004-4)を二次抗体として使用できる。また、moPD-1を検出するには、PEコンジュゲートラット抗moPD-1抗体(ITK-Diagnostics、カタログ番号109103)を使用できる。
【0335】
配列決定
FACSにおいてhuPD-1及び/又はmoPD-1に特異的に結合する全てのクローンのVH遺伝子を配列決定する。それらのCDR3配列に従って、配列を分析及びグループ化する。
【0336】
実施例9:二重特異性キメラニワトリVH/ヒトVL抗体を発現する宿主細胞の生成
少なくとも1つのキメラニワトリVH-ヒトVLによる二重特異性抗体は、軽鎖をコードする1つ又は複数のプラスミドと、二重特異性抗体の効率的なヘテロ二量体化及び形成を確実にするようにCH3遺伝子操作された2つの異なる重鎖との(一過性)トランスフェクションによって生成することができる。単一細胞におけるこれらの鎖の産生は、単一特異性抗体の形成よりも優先する、二重特異性抗体の形成をもたらす。
【0337】
したがって、2つの異なるVHをコードする核酸は、二重特異性抗体が単一の細胞で発現され得るように、再構成huVK1-39軽鎖と共に好適な発現ベクターにクローニングされ得る。VH領域の核酸の一方又は両方は、残りがヒト、例えば、1つの腕のニワトリVH-ヒトVL及び残りがヒト、若しくは2つの腕のニワトリVH-ヒトVL、又は任意の他の順列を有する、ニワトリ起源のものであり得る。
【0338】
参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第13/866,747号(現在、米国特許第9,248,181号として発行)、米国特許出願公開第14/081,848号(現在、米国特許第9,358,286号として発行)、及び国際出願PCT/NL2013/050294号(国際公開第2013/157954号として公開)において、適合性ヘテロ二量体化ドメインを使用して二重特異性抗体を産生するための方法及び手段が開示されている。本発明では、これらの手段及び方法を好適に採用することができる。具体的には、本発明の二重特異性抗体は、本質的に二重特異性全長IgG分子のみを産生するための変異を含むことが好ましい。好ましい変異は、第1のCH3ドメイン中のアミノ酸置換L351K及びT366K(EU番号付け)(「KK-変異体」重鎖)、及び第2のドメイン中のアミノ酸置換L351D及びL368E(「DE-変異体」重鎖)、又はその逆である。DE-変異体及びKK-変異体が優先的に対合して、ヘテロ二量体(いわゆる「DEKK」二重特異性分子)を形成することが、本発明者らの米国特許第9,248,181号及び同第9,358,286号の特許、並びに国際公開第2013/157954号で以前に実証されている。DE-変異体重鎖のホモ二量体化(DEDEホモ二量体)は、同一の重鎖間のCH3-CH3界面における荷電残基間の反発力のために、ほとんど発生しない。
【0339】
かかるアプローチは、本明細書に記載されるように、本発明での使用に好適な任意の動物に適用され得る。
【0340】
実施例10:マウスCXCR4による野生型ニワトリの免疫化
CXCR4は、GPCRクラスA、サブファミリーA1のケモカイン受容体である。それは、細胞外N末端及び細胞内C末端を有する7つの膜貫通螺旋を有する。このトポロジーにより、4つの細胞外ドメインをもたらす。マウス相同体は、ヒトCXCR4と91%の全体的な相同性を共有し、細胞外ドメインと67%の相同性を共有する。ニワトリ相同体は、ヒトCXCR4と82%の全体的な相同性を共有し、細胞外ドメインと48%を共有する。
【0341】
DNA及びリポ粒子免疫化の組み合わせを用いて、5羽のニワトリをマウスCXCR4で免疫化した。野生型全長配列マウスCXCR4(配列番号99)を、Integral Molecularによって合成及びクローニングした。プラスミドの検証は、一過性にトランスフェクトされたHEK293及びQT6細胞のフローサイトメトリーによって実行され、Mab21651(R&D Systems)が検出に使用された。
【0342】
血液、骨髄、脾臓からのB細胞を、抗体応答が最も高いニワトリから単離した。RNAを白血球から抽出し、DNAに合成し、重鎖及び軽鎖可変領域をコードするDNAを、PCRによって増幅した。増幅されたVH及びVL産物をMV1511ベクターにクローニングし(図18)、Fabファージミドを産生した。DNAを細菌に形質転換して、ファージライブラリーを生成し、ファージが配列番号5のヒト軽鎖を発現する。
【0343】
Fabファージライブラリーを、マウスCXCR4リポ粒子上でパニングした。クローンをリポ粒子ELISAによってスクリーニングした。バインダーを配列決定し、CDR3相同性に基づいてファミリーにグループ化した。3つのVHCDR3ファミリーからのFabを、ネイティブに折り畳まれたマウスCXCR4を発現するHEK293細胞を使用して、フローサイトメトリーにより検証した。続いて、これらのファミリーを、フローサイトメトリーによってヒトCXCR4への結合について試験した。陽性クローンを、標準的な方法に従ってIgGフォーマットに再クローニングした。ヒト及びマウスのCXCR4と交差反応する3つのVHCDR3ファミリーを同定した。結果を図25に示す。マウス及びヒトCXCR4結合抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号31、32及び33に示されている。
【0344】
ニワトリVH及びヒトVLを含む抗原特異的キメラ抗体を、機能的に対合した重鎖及び軽鎖を用いて生成した。
【0345】
【表3】
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A-01】
図10A-02】
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図18
図19A
図19B
図19C
図19D
図19E
図19F
図19G
図19H
図19I
図19J
図19K
図20-01】
図20-02】
図21
図22
図23A
図23B
図24
図25A
図25B
図25C
図25D
図25E
図26A
図26B
図26C
図27A
図27B
図27C
図27D
図27E
【配列表】
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