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特許7443394沸騰水型原子炉における炉心流量、炉心出力、および圧力を制限するための非常用復水器および/または給水の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】沸騰水型原子炉における炉心流量、炉心出力、および圧力を制限するための非常用復水器および/または給水の使用
(51)【国際特許分類】
   G21C 15/22 20060101AFI20240227BHJP
   G21C 15/02 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
G21C15/22 A
G21C15/02 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021559682
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 US2020024146
(87)【国際公開番号】W WO2020210010
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】16/381,147
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508177046
【氏名又は名称】ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー・アメリカズ・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】GE-HITACHI NUCLEAR ENERGY AMERICAS, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】ヘック,チャールズ リー
(72)【発明者】
【氏名】クック,マイケル エム.
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-246492(JP,A)
【文献】特開平03-220497(JP,A)
【文献】特開2020-165660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器と、
前記原子炉圧力容器内に配置された炉心と、
前記炉心を包囲する炉心シュラウドと、
前記原子炉圧力容器の内周面と前記炉心シュラウドとの間に配置された下降管領域と、
前記原子炉圧力容器の上端部に接続された蒸気ラインと、
前記原子炉圧力容器から蒸気を受承し、また、前記炉心上部の前記炉心シュラウド内にて復水を前記炉心シュラウドの上部プレナムまたは煙突領域の一方または両者に直接戻すとともに前記炉心シュラウドに直接接続される復水戻りラインを含む非常用復水器システムであって、前記非常用復水器システムは、いずれのタービンにも接続されず、前記復水戻りラインは、原子炉停止中に前記復水戻りラインを通る流れを開放する弁を含む、非常用復水器システムと、
を備える、沸騰水型原子炉システム。
【請求項2】
前記復水戻りラインは、前記下降管領域内の復水を戻す分岐部をさらに含む、請求項1に記載の沸騰水型原子炉システム。
【請求項3】
前記原子炉圧力容器からの蒸気を受承するタービンと、
前記タービンからの前記蒸気を受承する主復水器システムであって、同主復水器システムが、前記主復水器システムから復水を戻すための給水戻りラインによって、前記原子炉圧力容器に接続されている、主復水器システムと、
をさらに備える、請求項1に記載の沸騰水型原子炉システム。
【請求項4】
前記給水戻りラインは、前記炉心上部の前記炉心シュラウド内にて復水を、前記炉心シュラウドの上部プレナムまたは煙突領域の一方または両者に戻す、請求項3に記載の沸騰水型原子炉システム。
【請求項5】
前記給水戻りラインは、前記下降管内部の復水を戻す第1分岐部を含む、請求項4に記載の沸騰水型原子炉システム。
【請求項6】
前記給水戻りラインは、前記下降管内部の復水を戻す、請求項3に記載の沸騰水型原子炉システム。
【請求項7】
原子炉圧力容器と、
前記原子炉圧力容器内に配置された炉心と、
前記炉心を包囲する炉心シュラウドと、
前記原子炉圧力容器の内周面と前記炉心シュラウドとの間に配置された下降管領域と、
前記原子炉圧力容器の上端部に接続された蒸気ラインと、
前記原子炉圧力容器からの蒸気を受承するタービンと、
前記タービンからの蒸気を受承する主復水器システムであって、同主復水器システムから復水を戻すための給水戻りラインによって前記原子炉圧力容器に接続され、前記給水戻りラインは、前記炉心上部の前記炉心シュラウド内にて復水を、前記炉心シュラウドの上部プレナムまたは煙突領域の一方または両者に戻す、主復水器システムと、
前記原子炉圧力容器から蒸気を受承し、また、前記炉心上部の前記炉心シュラウド内にて復水を前記炉心シュラウドの上部プレナムまたは煙突領域の一方または両者に直接戻すとともに前記炉心シュラウドに直接接続される復水戻りラインを含む非常用復水器システムであって、前記非常用復水器システムは、いずれのタービンにも接続されず、前記復水戻りラインは、原子炉停止中に前記復水戻りラインを通る流れを開放する弁を含む、非常用復水器システムと、
を備える、沸騰水型原子炉システム。
【請求項8】
前記給水戻りラインは、前記下降管内部の復水を戻す第1分岐部を含む、請求項7に記載の沸騰水型原子炉システム。
【請求項9】
前記復水戻りラインは、前記下降管領域内の復水を戻す分岐部をさらに含む、請求項7に記載の沸騰水型原子炉システム。
【請求項10】
原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内に配置された炉心と、前記炉心を包囲する炉心シュラウドと、前記原子炉圧力容器の内面と前記炉心シュラウドとの間に配置された下降管領域と、前記原子炉圧力容器の上端部およびタービン直接接続された第1の蒸気ラインと、前記タービンから蒸気を受承する第1の復水器システムと、前記タービンに接続されていない第2の蒸気ラインであって、前記原子炉圧力容器の前記上端部、並びに前記第1の復水器システムとは別体の第2の非常用復水器システムに直接接続されている第2の蒸気ラインとを有し、前記原子炉圧力容器から蒸気が前記第2の蒸気ラインを通って前記第2の非常用復水器システムに送られる沸騰水型原子炉システムの出力制限方法であって、
前記炉心の縦方向真上の前記炉心シュラウド内の位置における復水を解放するために、前記第1の復水器システムおよび前記第2の非常用復水器システムからの復水を、前記炉心シュラウドの上部プレナムまたは煙突領域の一方または両者に戻すステップを含む、沸騰水型原子炉システムの出力制限方法。
【請求項11】
前記戻すステップは、前記炉心シュラウド内の前記復水を戻し、また、前記下降管領域内の復水を戻す分岐部を含む復水戻りラインを介して、前記第2の非常用復水器システムから前記復水を戻す、請求項10に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、沸騰水型原子炉における炉心流量、炉心出力、および圧力を制限するための非常用復水器および/または給水の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このセクションでは、必ずしも先行技術ではない、本開示に関連する背景情報を提供する。
【0003】
沸騰水型原子炉は、発電用の軽水炉である。炉心の核分裂で熱が発生し、それによって冷却水が沸騰して蒸気が発生する。蒸気は直接タービンの駆動に使われた後、復水器で冷却されて液体の水に戻される。この水を続いて炉心に戻してループを完成させる。
【0004】
従来の沸騰水型原子炉では、給水は下降管や環状領域に入り、湿分分離器から出た水と合流する。これは、沸騰水型原子炉の正常な動作の一部である。この給水は、湿分分離器からの飽和水をサブクールにして、炉心に入る水の温度を低減する。この水は下降管または環状領域を流れるが、これは、背の高いシュラウドで炉心と隔てられている。水は続いてジェットポンプや内部循環ポンプを経て、さらなるポンプの力(水頭)を得る。水は続いて下部炉心プレートを通って核心部に移動し、燃料要素が水を加熱する。
【0005】
炉心からの加熱により熱ヘッドが発生し、再循環ポンプが原子炉圧力容器内の水を再循環させるのを支援する。沸騰水型原子炉では、ポンプを使わず、サーマルヘッド(thermal head)のみで原子炉圧力容器内の水を循環させる設計が可能である。しかしながら、再循環ポンプからの強制的な再循環ヘッド(recirculation head)は、出力を制御するのに非常に有効であり、通常では不可能なより高い出力レベルを可能にする。熱出力レベルは、再循環ポンプによる強制的な再循環を増減させることで変化する。
【0006】
沸騰水型原子炉の下降管領域に冷えた復水を戻す場合、復水の戻る場所が混合液水位よりも低い位置にあるため、蒸気を直接凝縮させる性能が制限される。このように下降管に冷水が加わることで、炉心流量が増加する。炉心流量が増加することで炉心出力が上昇し、冷えた復水が炉心の入口温度を低減することで出力がさらに上昇する。
【0007】
一方、炉心バレル内の復水を炉心の上に戻すと、炉心流量および炉心出力が低減される。沸騰水型原子炉では、下降管内の高濃度の水と炉心バレル内の低濃度の流体とのマノメーター効果により、自然循環が行われる。このマノメーター効果は、ジェットポンプや外部再循環ループによる強制循環のない沸騰水型原子炉では、煙突のある上部プレナムの高さを炉心よりも高くすることで、意図的に誇張されている。非常用復水器システムの復水が炉心の上の低濃度領域に戻ることで、マノメーター効果が低減され、炉心流量が低減され、炉心ボイドが増加し、結果として炉心出力が低下する。炉心の上の領域は蒸気の質がより高いため、冷えた非常用復水器システムの復水領域の戻りは、蒸気を凝縮させるのに非常に効果的であり、これにより、マノメーターの炉心側の流体濃度がさらに高まる。また、蒸気を直接凝縮することで、原子炉圧力容器の圧力が急速に低減される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
このセクションは、開示内容の一般的な概要を示すものであり、その全容や特徴のすべてを包括的に開示するものではない。
【0009】
1台以上の熱交換器で構成される非常用復水器システム(ICS)は、液体の復水を沸騰水型原子炉(BWR)の原子炉圧力容器(RPV)に戻す。通常、復水は沸騰水型原子炉圧力容器の下降管領域に戻される。本開示では、炉心の上方にある炉心シュラウド内の復水を、沸騰水型原子炉の上部プレナムまたは煙突領域に戻す。
【0010】
非常用復水器システムは、分離事象後に原子炉圧力容器の圧力を低減する。復水が原子炉圧力容器の下降管領域に戻ることで炉心出力が増加すると、非常用復水器システムの効果が低減される。原子炉圧力容器の圧力上昇は、分離事象がスクラムの失敗または遅延と同時に発生した場合(原子炉停止)、特にスクラム失敗事象ATWSの場合には、許容できないほど大きくなる可能性がある。一方、非常用復水器システムの復水を炉心上部の領域に戻すと、非常用復水器システムの効果が飛躍的に高まり、発生するピーク圧力が大幅に低下する。このように圧力を下げることで、より高速のプライマリースクラム機構が故障したり、著しく劣化したりした場合に想定されるスクラム失敗事象ATWSのシナリオにおいて、これに代わるより低速のスクラム機構が機能するための追加の時間を確保することができる。
【0011】
非常用復水器システムの復水は、下降管ではなく、炉心上部の炉心バレル内の沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に戻される。これにより、非常用復水器システムの効果が高まり、結果として発生する圧力上昇の大きさを大幅に低減することができ、したがって、原子炉圧力容器内の流体在庫を保持する安全逃し弁の開放を回避できる。水の在庫が枯渇しないため、高圧の緊急炉心冷却システムの必要性がなくなる。原子炉圧力容器および付属の配管は、より低い圧力に設計することができる。封じ込めサイズを小さくしたり、設計圧力および温度を低減したりすることができる。逃がし弁を介した原子炉圧力容器のブローダウンによる格納容器への動的負荷を排除することができる。スクラム失敗事象ATWSを、より低速の代替的スクラム機構で緩和することで、中性子を観測する流体を注入して反応度を制御するバックアップシステム、すなわちホウ酸水注入制御システムを不要にすることができる。
【0012】
また、本明細書に記載されている説明から、さらなる応用分野が明らかになるであろう。本概要の説明および具体的な例は、例示のみを目的とすることを意図しており、本開示の範囲を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、原子炉と、本発明による復水器分離システムおよび給水戻りシステムとを含む原子力発電システムを示す概略図である。
図2図2は、復水を上部プレナムに戻す場合と下降管に戻す場合の3つの非常用復水器列の原子炉圧力容器の圧力を比較したグラフである。
図3図3は、復水を上部プレナムに戻す場合と下降管に戻す場合の3つの非常用復水器列の炉心出力を比較したグラフである。
図4図4は、復水を上部プレナムに戻す場合と下降管に戻す場合の3つの非常用復水器列の炉心質量流量を比較したグラフである。
図5図5は、復水を上部プレナムに戻す場合と下降管に戻す場合の3つの非常用復水器列の炉心入口エンタルピーを比較したグラフである。
図6図6は、非常用復水器列の数を変えて、復水を上部プレナムに戻す場合の炉心出力を比較したグラフである。
図7図7は、非常用復水器列の数を変えて、復水を上部プレナムに戻す場合の炉心の質量流量を比較したグラフである。
図8図8は、非常用復水器列の数を変えて、復水を上部プレナムに戻す場合の原子炉圧力容器の圧力を比較したグラフである。
図9図9は、スクラム時間を変えて、復水を上部プレナムに戻す場合の3つの非常用復水器列の原子炉圧力容器の圧力を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に記載されている図面は、選択された実施形態の説明のみを目的としており、すべての可能な実施形態ではなく、本開示の範囲を限定することを意図していない。
【0015】
対応する参照符号は、図面の複数の図全体にわたって対応する部品を示している。
【0016】
以下、添付の図面を参照しながら、例示的な実施形態をより詳細に説明する。
【0017】
例示された実施形態は、この開示が徹底され、当業者に範囲を十分に伝えることができるように提供されている。本開示の実施形態を完全に理解できるように、特定の構成要素、装置、および方法の例など、複数の具体的な詳細が記載されている。具体的な詳細を採用する必要がないこと、例示的な実施形態が多くの異なる形態で具現化されてもよいこと、そしていずれも本開示の範囲を制限するものと解釈してはならないことは、当業者には明らかであろう。いくつかの例示的な実施形態では、周知のプロセス、周知の装置構造、および周知技術は詳細に説明されていない。
【0018】
本明細書で使用されている用語は、様々な実施形態を説明するためのみのものであり、例示された実施形態を限定することを意図していない。本明細書では、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに他を示す場合を除き、複数形も含むことを意図している。本明細書で使用されている「comprises」、「comprising」、「including」、および「having」という用語は、記載された特徴、整数、ステップ、操作、要素、および/またはコンポーネントの存在を特定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。本明細書に記載されている方法ステップ、プロセス、および操作は、実行順序として明確に特定されていない限り、議論または図示された特定の順序で実行することが必ずしも必要であると解釈されるものではない。また、追加または代替のステップを採用してもよいことを理解すべきである。
【0019】
ある要素や層が、他の要素や層に対して「on」、「engaged to」、「connected to」、または「coupled to」と呼ばれる場合、他の要素や層の上に直接設けられても、他の要素や層に直接接続していても、または結合していてもよいし、あるいは介在する要素や層が存在していてもよい。一方、ある要素が他の要素または層に「directly on」、「directly engaged to」、「directly connected to」、または「directly coupled to」などと表現される場合、そこには介在する要素または層は存在しない。要素間の関係を表すその他の用語も同様に解釈されるべきである(例えば、「between」と「directly between」、および「adjacent」と「directly adjacent」など)。本明細書では、「および/または」という用語には、関連付けられるリストの項目の1つまたは複数の任意およびすべての組み合わせが含まれる。
【0020】
本明細書では、様々な要素、コンポーネント、領域、層、および/またはセクションを説明するために、第1、第2、第3などの用語が使用されることがあるが、これらの要素、コンポーネント、領域、層、および/またはセクションは、これらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、ある要素、コンポーネント、領域、層、あるいはセクションを、他の領域、層、あるいはセクションと区別するためにのみ使用される。本明細書で使用されている「第1」、「第2」などの数値用語は、文脈上明確に示されない限り、順序や順番を意味するものではない。したがって、後述する第1の要素、構成要素、領域、層、またはセクションは、例示した実施形態の教示から逸脱することなく、第2の要素、構成要素、領域、層、またはセクションと呼ぶことができる。
【0021】
本明細書では、説明を容易にするために、例えば、「inner」、「outer」、「beneath」、「below」、「lower」、「above」、「upper」などの空間的に相対的な用語を使用して、図示のように、ある要素または特徴の、他の1つ以上の要素または1つ以上の特徴との関係を説明することができる。空間的に相対的な用語は、図に描かれている配向に加えて、使用時や操作時における装置の様々な配向を包含することを意図している。例えば、図の装置を裏返すと、他の要素や特徴の「below」または「beneath」と記載された要素は、他の要素や特徴の「above」に配向されたものといえる。このように、「below」という例示的な用語は、上および下の両者の配向を包含し得る。装置は他の配向(90度回転させたり、他の配向にしたり)でもよく、本明細書で使用される空間的に相対的な記述子はそれに応じて解釈される。
【0022】
図1を参照すると、沸騰水型原子炉10は、発電機16を駆動するタービン14に蒸気を供給する原子炉圧力容器12を備える。タービン14からの蒸気は、復水器システム18に導かれる。復水器システム18からの水は、原子炉圧力容器12に戻される。原子炉圧力容器12は、炉心20がシュラウド22の内部にあるように、半径方向に2つの基本領域に分割されており、これにより下降管24内の下降流を炉心20を介して上方に方向転換できるようになっている。
【0023】
非常用復水器システム30は、非常用復水器システムの蒸気供給ライン32と連通している。非常用復水器システムからの復水は、システム停止中に原子炉圧力容器12に再び導入される。
【0024】
復水器システム18からの供給水は、当該技術分野で周知のように、1つまたは複数のライン34を介して、炉心シュラウド22の半径方向外側の原子炉圧力容器12の下降管領域24に導入される。供給水の分配には、当該技術分野で周知のように、スパージャーの配管を利用することができる。非常用復水器システム30からの復水も、通常、1つまたは複数のライン36を介して、炉心シュラウド22の半径方向外側の原子炉圧力容器12の下降管領域24に導入される。復水の分配には、当該技術分野で周知のように、スパージャーの配管を利用することができる。
【0025】
例示的な実施形態は、1つまたは複数のライン40(そのうちの1つが示されている)を使用して、炉心シュラウド22内の非常用復水器システム30の復水の全てまたは一部を、原子炉圧力容器12の煙突42または上部プレナム44領域のいずれかに戻すための戻りライン40を含む。非常用復水器システム30の復水の流れは、炉心シュラウド22内に戻されるライン40を通り、炉心の流れを低減し、一般的に炉心出力を低減する原因となる。非常用復水器システム30への蒸気供給は、原子炉圧力容器12内で通常の運転水位よりも高い位置で行われる。非常用復水器システム30の蒸気供給部32は、1つまたは複数の別体のライン32からの供給であってもよいし、タービン14に接続されている1つまたは複数の主蒸気ライン50から抽出してもよい。通常、供給水34は、蒸気分離器(図示しない)の高さ位置程度で、上部プレナムの上方の下降管領域24に戻される。
【0026】
少なくとも1つの実施形態は、炉心シュラウド22内の給水を原子炉圧力容器12の煙突42または上部プレナム44のいずれかに選択的に供給するための制御弁53を備えた代替的給水ライン52を含む。また、炉心シュラウド22の内側に向けられた給水の部分は、炉心流量を低減することで炉心出力を低減する傾向にあり、下降管から炉心に入る水の温度を低減することで出力を上げる原因にはならない。炉心出力は、1つまたは複数の代替的供給ライン52を介して炉心シュラウド22の内部に導かれる給水の流量を少量調整することによって調整することができる。これは、非常用復水器システム30の動作の有無に関わらず生じる可能性がある。供給水は、非常用復水器システム30の復水と同様に、当該技術分野で周知のように、スパージャー配管によって分配されてもよい。
【0027】
自然循環式沸騰水型原子炉の事故シナリオとして、スクラム失敗事象ATWSを想定したシミュレーション結果を示す。スクラム失敗事象のシナリオは、1秒でタービン停止弁が急激に閉じられ、スクラム信号が発生することから開始する。油圧スクラムの機構は故障すると想定されているので、残されたスクラムの方法は、制御棒の駆動モーターで制御ブレードを炉心に打ち込むことのみである。このスクラムは、油圧スクラムに比べて格段に遅い。スクラムの速度は一定で、タービン停止弁のトリップ信号と想定される短い電子的遅延時間から制御ブレードが直線的に挿入される。スクラム時間とは、最初に炉心から完全に引き出された制御ブレードが完全に挿入されるまでの経過時間と定義される。シミュレーションでは、指定された数の非常用復水器30の復水戻し弁54はまた、タービン停止値トリップ信号で開き始め、10秒後に全開まで直線的にストロークを完了する。
【0028】
シミュレーション結果は3つの組に分かれている。図2乃至図5に最初の結果を示す。これらの結果はすべて、30秒のスクラム時間を有しているので、非常用復水器の復水が下降管領域24ではなく上部プレナム領域44に戻されたときの応答を比較するために、同じ基準を使用することができる。上部プレナム44は、燃料チャネルの出口から蒸気分離器の入口までの炉心20の上方の領域であり、煙突42の存在によって誇張されている場合がある。上述のシミュレーションでは、非常用復水器戻り40の評価は、下降管24または上部プレナム44に戻された非常用復水器30の両者について、原子炉圧力容器の底面から13.02mの高さとなっている。上部プレナム44への戻りは、燃料チャネルの出口から3.73mの高さ、または煙突42の中間の高さに相当する。図2に示す圧力応答は、下降管24と比較して、非常用復水器の戻り40が上部プレナム44に入ったときに、非常用復水器が原子炉圧力容器の圧力を低減するのにどれだけ効果的であるかを明確に示している。実際、この図では30秒のスクラム時間が選択されているが、これは下降管戻り36があるケースでは、より長いスクラム時間を使用すると、原子炉圧力容器12の圧力が許容できないほど高くなるためである。
【0029】
上部プレナム44への非常用復水器戻り40が、下降管24への非常用復水器戻り36よりも、原子炉圧力容器12の圧力制御にはるかに効果的である理由は、図3の原子炉出力応答の比較から理解できる。早くも5秒後には、非常用復水器30の戻りが上部プレナム44に入っているときよりも出力がより低くなっていることがわかる。これは、上部プレナム44への非常用復水器戻り40が、図4に示すように約10秒後に炉心流量の減少を引き起こすのに対し、下降管24への非常用復水器戻り36は、制御ブレードが炉心出力を低減し始める約25秒まで炉心流量の減少を示さないためである。上部プレナム44への非常用復水器戻り40は、上部プレナム領域44の流体の濃度を高めることで炉心流量をより早めに抑制する。一方、下降管24への非常用復水器戻り36は、マノメーターの反対側にあるため、炉心流量が増加する傾向にあるが、この影響は軽微であると思われる。図5に下降管24への非常用復水器の冷たい復水の添加が炉心入口エンタルピーに与える影響を示す。炉心入口エンタルピーが減少することで、炉心20のボイドが低減し、出力が増加する。上部プレナム44に入った冷水は、最初は炉心入口エンタルピーに影響を与えないが、その後、上部プレナム44内の蒸気によって水が加熱されると、分離器の排水の流量が急増し、蒸気のキャリーアンダーが一時的に増加するため、20乃至50秒の時間枠で炉心入口エンタルピーが瞬間的に増加することになる。この炉心入口エンタルピーの増加は、スクラムが有効になるまでの間、炉心出力の増加を防ぐのに役立つ。復水の戻り量は、炉心出力、流量、エンタルピーの応答を決定する上で重要である。
【0030】
図2乃至図5に示した最初の結果は、4台の非常用復水器列のうちの3台が機能している場合のもので、安全解析のために1台の非常用復水器列の故障を想定していた。図6乃至図8に示す2つ目の結果は、運転中の非常用復水器列の数が、計算された原子炉圧力容器の圧力、炉心出力、および炉心流量応答にどのような影響を与えるかを示している。これらの結果はすべて、非常用復水器の戻りが上部プレナム44に入る120秒のスクラム時間に基づいている。30秒よりも長いスクラム時間は、14MPa(~2000psia)を超える許容できないほど高い原子炉圧力容器12の圧力につながるため、下降管24への非常用復水器戻り36については示されていない。
【0031】
図6の出力応答を見ると、非常用復水器30の3つの列は、スクラムが有効になり始める80秒前後の前に、炉心出力を制限するのに最も効果的であることがわかる。2つの非常用復水器列30からの復水の量は、図8に示すように原子炉圧力容器12の圧力上昇を制限するのに十分ではないので、上昇する圧力が炉心のボイドを崩壊させ、非常用復水器30の復水を上部プレナム44に戻すことの完全な利点を部分的に打ち消すことになる。4つの非常用復水器列をすべて使用すると、図7に示すように炉心の流れが抑制されて逆流するのに対し、3つの非常用復水器列では炉心の流れは抑制されるが逆流はしない。上部プレナム44(4つの非常用復水器列)に多量の水を加えると、水が加熱されて膨張し、分離器の排水を通って下降管24に戻る際に、後に炉心の流れが復活する。その後の流れの波は、図6に示した4つの非常用復水器列の曲線が示すように、炉心出力の好ましくない再上昇をもたらす。炉心出力が復活すると、図8の4つの非常用復水器列の曲線で示されるように、原子炉圧力容器12の圧力も上昇する。図8の曲線で示すように、原子炉圧力容器のピーク圧力は、3つの非常用復水器列で最も低くなることに留意する。図5乃至図7の応答を合わせると、沸騰水型原子炉10でスクラム失敗事象を緩和するためには、3つの非常用復水器列が望ましい数であることがわかる。
【0032】
図9に第3および最後の応答を示す。これらの計算では、復水が上部プレナム44に戻る3つの非常用復水器列をシミュレートし、スクラム時間を変化させた。図9の結果から、スクラム時間230秒の場合の原子炉圧力容器のピーク圧力~11.2MPaは、非常用復水器の復水が下降管24に戻る場合のスクラム時間30秒の場合のピーク圧力~14MPa(図2)を大きく下回っていることがわかる。本開示の重要な要素は、非常用復水器システム30の復水を、下降管24ではなく上部プレナム領域44に戻すことにある。そうすることで、原子炉圧力容器12から水の在庫を除去しなければ達成できない、スクラム失敗事象の緩和戦略を沸騰水型原子炉10において成功させることができる。
【0033】
前述の実施形態の説明は、例示および説明のために提供されている。網羅的ではなく、また開示内容を限定するものではない。特定の実施形態の個別の要素または特徴は、一般的にその特定の実施形態に限定されるものではなく、該当する場合には、具体的に示されていないか、または記載されていない場合であっても、交換可能であり、選択された実施形態で使用することができる。また、同じものでも、様々な変形がある。このような変形は、本開示から逸脱するものとはみなされず、すべてのこのような変更は、以下の本開示の範囲内に含まれることが意図されている。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9