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特許7443410鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造および鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法
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  • 特許-鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造および鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造および鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240227BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20240227BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20240227BHJP
   C04B 41/71 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E01D22/00 A
C23F11/00 F
C23F11/00 H
C04B41/71
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022058049
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023149462
(43)【公開日】2023-10-13
【審査請求日】2023-09-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】山岸 隆典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-057203(JP,A)
【文献】特開2003-120041(JP,A)
【文献】特開2005-336952(JP,A)
【文献】特開2005-344433(JP,A)
【文献】特開2008-156152(JP,A)
【文献】特開平11-217942(JP,A)
【文献】特開2008-087979(JP,A)
【文献】特開昭60-204683(JP,A)
【文献】特開2003-013608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 22/00
C23F 11/00
C04B 41/71
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去して形成されるコンクリート除去部と、露出した鉄筋の周囲を覆う防錆剤として亜硝酸リチウムを含む断面修復材A、及び該断面修復材Aにプライマー層を介して積層される亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材とを有し、該補修材が前記コンクリート除去部に充填されてなる鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造であって、前記プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m である、鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造
【請求項2】
前記プライマー層が、アクリル系樹脂又はエチレン-酢酸ビニル系樹脂を含有する請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項3】
前記断面修復材Aの厚みが5~50mmである請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項4】
前記鉄筋と前記断面修復材Aの間に防錆層をさらに有する請求項1~のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項5】
前記防錆層が亜硝酸リチウムを含有する請求項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項6】
前記防錆層の塗布量が300~5000kg/mである請求項又はに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項7】
前記断面修復材A及び断面修復材Bの主成分がモルタル組成物である請求項1~のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
【請求項8】
既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去する工程(I)、露出した鉄筋の周囲を防錆剤として亜硝酸リチウムを含有する断面修復材Aで覆う工程(II)、該断面修復材Aの表面にプライマー層形成材料を塗布し、プライマー層を形成する工程(III)、該プライマー層上に亜硝酸リチウム非含有の断面修復材Bを積層する工程(IV)を有する、鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法であって、前記プライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/m である鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法
【請求項9】
前記プライマー層形成材料がアクリル系樹脂又はエチレン-酢酸ビニル系樹脂を含有する請求項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
【請求項10】
前記工程(II)の後、前記工程(III)の開始前に、3時間以上の保持時間を有する請求項8又は9に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
【請求項11】
前記断面修復材Bが吹付法により積層される請求項8~10のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
【請求項12】
前記工程(I)の後、前記工程(II)の前に鉄筋に防錆剤を塗布して、防錆層を形成する工程を有する請求項8~11のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造および鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既設の鉄筋コンクリート構造物において、海岸部で飛来する空気中の塩分や凍結防止剤などの塩分がコンクリート表面から内部へ浸透して鉄筋を腐食させる塩害が問題となっている。塩害による鉄筋腐食が発生した既設鉄筋コンクリート構造物に対して、塩分(塩化物イオン)濃度が高くなっているコンクリート部分を除去し、補修材料を用いて修復し、鉄筋の更なる腐食を防止する断面修復工法が一般に行われている。
【0003】
この既設の鉄筋コンクリート構造物の断面修復工法については、種々の工法が提案されており、例えば、鉄筋腐食が発生している部位からコンクリートをはつり取って除去し、構造物内部に完全に埋設されている鉄筋を露出させ、その鉄筋の表面に亜硝酸リチウムに代表される亜硝酸系防錆剤などを塗布した後、コンクリートがはつり取られた欠損凹部に断面修復用の補修材料を充填して修復する方法が挙げられる。
例えば、引用文献1には、コンクリート構造物の修復部分のコンクリートをはつり取った後、はつり取られた部分と断面修復モルタルとの接着界面、及び露出した鉄筋表面の全面に、亜硝酸塩水溶液を塗布し、次いで、ポリマーセメントモルタルを塗布した後、断面修復モルタルを用いて断面修復することを特徴とする塩害劣化コンクリートの補修方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-120041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、亜硝酸リチウムを混合した断面修復材はコストがかかるため、鉄筋の近傍にのみ、亜硝酸リチウムを混合した断面修復材が用いられ、表層部分は亜硝酸リチウムを混合しない断面修復材を用いることが一般に行われている。
しかしながら、亜硝酸リチウムは保水性を持つことから、亜硝酸リチウムを混合した断面修復材と、亜硝酸リチウムを混合しない断面修復材との界面で水分が移動し、界面の付着力に影響することが確認された。
そこで本発明は、防錆効果の高い亜硝酸リチウムを混合した断面修復材と、亜硝酸リチウムを混合しない断面修復材の界面の付着力をさらに向上させた、鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造、および鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意検討したところ、本発明者らは下記本発明に想到し、当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0007】
[1]既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去して形成されるコンクリート除去部と、露出した鉄筋の周囲を覆う防錆剤として亜硝酸リチウムを含む断面修復材A、及び該断面修復材Aにプライマー層を介して積層される亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材とを有し、該補修材が前記コンクリート除去部に充填されてなる鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
[2]前記プライマー層が、アクリル系樹脂又はエチレン-酢酸ビニル系樹脂を含有する上記[1]に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
[3]前記断面修復材Aの厚みが5~50mmである上記[1]又は[2]に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
[4]前記プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/mである上記[1]~[3]のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
[5]前記鉄筋と前記断面修復材Aの間に防錆層をさらに有する上記[1]~[4]のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
[6]前記防錆層が亜硝酸リチウムを含有する上記[5]に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
[7]前記防錆層の塗布量が300~5000kg/mである上記[5]又は[6]に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
[8]前記断面修復材A及び断面修復材Bの主成分がモルタル組成物である上記[1]~[7]のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造。
[9]既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去する工程(I)、露出した鉄筋の周囲を防錆剤として亜硝酸リチウムを含有する断面修復材Aで覆う工程(II)、該断面修復材Aの表面にプライマー層形成材料を塗布し、プライマー層を形成する工程(III)、該プライマー層上に亜硝酸リチウム非含有の断面修復材Bを積層する工程(IV)を有する、鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
[10]前記プライマー層形成材料がアクリル系樹脂又はエチレン-酢酸ビニル系樹脂を含有する上記[9]に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
[11]プライマー層形成材料の不揮発分の塗布量が、5~50g/mである上記[9]または[10]に記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
[12]前記工程(II)の後、前記工程(III)の開始前に、3時間以上の保持時間を有する上記[9]~[11]のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
[13]前記断面修復材Bが吹付法により積層される上記[9]~[12]のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
[14]前記工程(I)の後、前記工程(II)の前に鉄筋に防錆剤を塗布して、防錆層を形成する工程を有する上記[9]~[13]のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、亜硝酸リチウムを混合した断面修復材と、亜硝酸リチウムを混合しない断面修復材の界面の付着力を向上させた、鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造、および鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の断面修復構造を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造]
本発明の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造(以下、「本発明の断面修復構造」と記載することがある。)は、既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去して形成されるコンクリート除去部と、露出した鉄筋の周囲を覆う防錆剤として亜硝酸リチウムを含む断面修復材A、及び該断面修復材Aにプライマー層を介して積層される亜硝酸リチウム非含有断面修復材Bを含む補修材とを有し、該補修材が前記コンクリート除去部に充填されてなる。
【0011】
以下、本発明の鉄筋コンクリート構造物の断面修復構造について、図1を参照しつつ詳細に説明する。
<コンクリート除去部>
既設鉄筋コンクリート構造物は、コンクリート30の内部に鉄製の鉄筋20が埋設された構造を有する。鉄筋20からコンクリート外表面までが所定の厚みの表層コンクリート32によって被覆されている。コンクリート除去部は、既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリート32をはつり取って、既設鉄筋コンクリート構造物の外表面を部分的に欠損させた部位である。ここで、欠陥部とは、塩化物イオン濃度が高く、コンクリート内部の鉄筋の腐食が認められるか、または鉄筋の腐食が予測される箇所のことをいう。
上記コンクリート除去部には、以下に詳述する補修材10が未硬化の状態で充填され、硬化され、コンクリート除去部であった箇所が補修材10によって復元される。
【0012】
<補修材>
補修材10は、亜硝酸リチウムを含む断面修復材A(以下、「断面修復材A」と記載することがある。図1中の11)、亜硝酸リチウム非含有断面修復材B(以下、「断面修復材B」と記載することがある。図1中の12)、及びプライマー層13を有する。
【0013】
(亜硝酸リチウム含有断面修復材A)
亜硝酸リチウム含有断面修復材A(図1中の11)は、修復材中に亜硝酸リチウムを含有することが特徴である。断面修復材Aを構成する主な材料としては、例えば、ポリマーセメントモルタルを含むモルタル組成物が挙げられ、断面修復材Aはモルタル組成物および亜硝酸リチウムを含有するものが好適に用いられる。
ポリマーセメントモルタルの種類については特に制限はなく、各種のポリマーセメントモルタルを使用することができる。ポリマーセメントモルタルは、セメントにセメント混和用ポリマーを加えたものであり、該ポリマーの含有量はセメント100質量部に対して、1~30質量部であることが好ましい。ポリマーの含有量が1質量部以上であると、鉄筋の腐食物質である塩化物イオンがコンクリート30から鉄筋20へ移動することを抑制することができる。一方、30質量部以下であると、相対的にセメントの含有量が多くなり、鉄筋との付着性が良好となる。以上の観点から、ポリマーの含有量は、2~15質量部であることがより好ましく、3~10質量部であることがさらに好ましい。
【0014】
モルタル組成物に用いるセメントとしては、特に制限されるものではなく、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、耐硫酸塩、中庸熱、低熱)、混合セメント(高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント)、白色ポルトランドセメント、微粉セメントなどを使用することができる。またセメント用混和材として、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉等を使用してもよいし、さらに、必要に応じて、カルシウムスルホアルミネート(CSA)系等の膨張材等を添加してもよい。
セメント混和用ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム等のゴムラテックスや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、スチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体等の樹脂エマルジョン等が挙げられる。
ポリマーの形態としては、再乳化型粉末タイプや液体タイプがあり、下地部分との付着性改善、さらに、モルタルの耐久性向上のために使用できる。
【0015】
また、モルタル組成物に添加し得るその他成分としては、石灰砂、珪砂などの砂、膨張材、促進材、急硬材、ポリプロピレンファイバー、ビニロンファイバーなどのファイバー、ポリオール系等の収縮低減剤、メチルセルロースや粘土鉱物等の増粘剤、減水剤、消泡剤等が挙げられる。
砂に関しては、セメント100質量部に対して、50~300質量部の範囲であることが好ましい。当該範囲であると断面修復材Aの強度が十分なものとなる。以上の点から、砂の含有量は、セメント100質量部に対して、80~250質量部の範囲であることがさらに好ましい。
また、その他の成分に関しては、必要に応じて添加すればよく、セメント100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲で添加することができる。
【0016】
<モルタル組成物の作製方法>
モルタル組成物は、上述のセメント、砂、その他の成分を所定の配合で混合することで作製できる。
混合装置としては、既存の如何なる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサー,オムニミキサー,プロシェアミキサー,ヘンシェルミキサー,V型ミキサー及びナウターミキサー等が挙げられる。
【0017】
断面修復材Aの厚みとしては、本発明の効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、5~50mmの範囲であることが好ましい。断面修復材Aの厚みが5mm以上であると、塩化物イオンに対する優れた遮断効果が発揮され、50mm以下であるとコスト的なメリットがある。以上の観点から、断面修復材Aの厚みは5~50mmの範囲であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明では、防錆剤として亜硝酸リチウムを用いる。亜硝酸リチウムは、水溶性防錆材であり、断面修復材Aの主成分であるモルタルに混合されて使用される。また、亜硝酸リチウムは、防錆性能が高く、鉄筋の表面に不動態被膜を形成するイオン成分を有し、アルカリ性を高めるアルカリ金属イオンを有することから、特に好ましい。コンクリートのアルカリシリカ反応を抑制する効果も付与することができる。
なお、亜硝酸リチウムは、コンクリート除去部に充填される前の未硬化状態の断面修復材Aにあらかじめ混合されていることが好ましい。
断面修復材Aは、図1に示されるように、露出した鉄筋20の周囲を覆うように配され、鉄筋20に対して、防錆性能を発揮する。
【0019】
断面修復材A中の亜硝酸リチウムの固形分の含有量は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、主成分であるポリマーセメントモルタル100質量部に対して、0.5~30質量部であることが好ましい。亜硝酸リチウムが0.5質量部以上であると、十分な防錆効果が得られ、30質量部以下であれば、相対的にポリマーセメントモルタルの含有量が多くなり、断面修復材の十分な強度が得られる。以上の観点から、亜硝酸リチウムの固形分の含有量は、1~15質量部であることがさらに好ましい。
【0020】
(亜硝酸リチウム非含有断面修復材B)
亜硝酸リチウム非含有断面修復材B(図1中の12)は、後に詳述するプライマー層13を介して、前記亜硝酸リチウム含有断面修復材Aに積層される。断面修復材Bは硝酸リチウムを含有しないことが特徴である。このような態様をとることで、亜硝酸リチウムの使用量を減らすことができ、かつ少ない亜硝酸リチウムの使用量で、鉄筋に対して十分な防錆効果を付与することができる。
断面修復材Bを構成する材料としては、亜硝酸リチウムを含まない点を除いて、断面修復材Aと同様の材料を用いることが好ましい。断面修復材Aと同様のモルタル組成物を主成分とすることで、断面修復材Aとの密着性が向上し、断面修復材Aと断面修復材Bの界面の付着力が向上する。
【0021】
(プライマー層)
本発明の断面修復構造は、断面修復材Aにプライマー層を介して断面修復材Bが積層されることが特徴である。断面修復材Aと断面修復材Bの間にプライマー層を有することで、断面修復材Aと断面修復材Bの密着性が向上し、断面修復材Aと断面修復材Bの界面の付着力が向上する。
また、プライマー層により、亜硝酸イオンがコンクリート表面31に向けて拡散することがなく、鉄筋20に対する防錆効果が長時間にわたって維持される。
【0022】
プライマー層を構成する材料としては、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に限定されないが、上記効果を奏するものとして、アクリル系樹脂又はエチレン-酢酸ビニル系樹脂(以下「EVA」と記載する。)が好適に挙げられる。アクリル系樹脂又はEVAを用いることで、断面修復材Aと断面修復材Bの密着性が向上し、亜硝酸イオンの拡散も抑制される。
アクリル系樹脂としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物を1種または2種以上重合したもの、さらにこれらのモノマーと共重合可能なスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデンなどのビニル化合物と共重合させたもの等を用いることができる。なお、(メタ)アクリレートとは、メタクリレート及びアクリレートを意味する。
EVAとしては、エチレンと酢酸ビニルとを公知の方法で共重合したものであればよく、該共重合体中の酢酸ビニル含有量は、好ましくは20~90質量%、さらに好ましくは30~90質量%である。
【0023】
プライマー層の厚みとしては、上記効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、プライマー層を形成するためのプライマー層形成材料の不揮発分の塗布量として、5~50g/mであることが好ましい。プライマー層の厚みがこの範囲内であると、断面修復材Aと断面修復材Bの密着性が十分となり、かつ亜硝酸イオンの表面コンクリート方向への拡散も抑制される。以上の観点から、プライマー層の不揮発分の塗布量は、10g/m~40g/mの範囲であることがさらに好ましい。
【0024】
(防錆層)
本発明の断面修復構造は、鉄筋と上記断面修復材Aの間に防錆層をさらに有することが好ましい。防錆層を有することで、さらに鉄筋の防錆性を向上させることができる。防錆層に用いる材料としては、防錆効果のあるものであれば、特に制限はないが、断面修復材Aに用いられる亜硝酸リチウムを含有することが好ましい。亜硝酸リチウムは、上述のように優れた防錆効果を有し、かつ、アルカリ性を高める点からも好ましい。
亜硝酸リチウムはセメントと混合しセメントペーストとして、鉄筋に塗布することが好ましい。亜硝酸水溶液の濃度については、特に限定はないが、通常、10~50質量%程度の濃度の水溶液として用いればよい。
防錆層の塗布量としては、上記効果を効率的に得るとの観点から、固形分換算で、300~5000kg/mであることが好ましく、500~4000kg/mの範囲であることがさらに好ましい。この範囲であると防錆効果がより得られやすい。
防錆層の形成方法としては、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に限定されず、亜硝酸リチウムペーストを鉄筋に吹き付ける方法や、コテ、ヘラ、刷毛、又はローラー等で塗布する方法が挙げられる。
【0025】
<充填方法>
上記補修材をコンクリート除去部に充填する方法については、特に制限はなく、既存の種々の方法が適用可能である。例えば、未硬化状態の補修材をコンクリート除去部へ吹き付ける工法(吹き付け工法)や、未硬化状態の補修材をコンクリート除去部へコテで押さえる工法(左官工法)や、コンクリート除去部の外側にコンクリート型枠を設置して、コンクリート除去部とコンクリート型枠との間に未硬化状態の補修材を注入して、コンクリート除去部へ充填して硬化させる工法(グラウト工法)を用いることができる。
本発明では、施工の効率の点から、吹き付け工法が好ましい。具体的には、亜硝酸リチウム含有断面修復材を吹き付け施工し、硬化させた後にプライマー層形成材料を吹き付け塗工または刷毛塗りし、乾燥してプライマー層を形成した後に、亜硝酸リチウム非含有断面修復材を吹き付け施工する方法が好ましい。
【0026】
[鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法]
本発明の鉄筋コンクリート構造物の断面修復方法(以下、「本断面修復方法」と記載することがある。)は、以下の4つの工程を含む。
(I)既設鉄筋コンクリート構造物の欠陥部における表層コンクリートを鉄筋の少なくとも一部が露出するまで除去する工程。
(II)露出した鉄筋の周囲を防錆剤として亜硝酸リチウムを含有する断面修復材Aで覆う工程。
(III)該断面修復材Aの表面にプライマー層形成材料を塗布し、プライマー層を形成する工程。
(IV)該プライマー層上に亜硝酸リチウム非含有の断面修復材Bを積層する工程。
上記工程(II)における断面修復材Aで鉄筋の周囲を覆う工程、上記工程(III)におけるプライマー層形成材料を塗布する工程、及び工程(IV)における断面修復材Bを積層する工程は、既存のいかなる方法でもよい。具体的には、はけ塗り、コテ塗り、ローラー塗りなど人の手で塗布する方法や、リシンガンなどのスプレーガン等を用いて圧縮エアを用いて吹き付けて施工する方法、ポンプで圧送した断面修復材を型枠内にグラウトする方法、ポンプで圧送した断面修復材を圧縮エアを用いて吹き付けて施工する方法がある。但し、工程(IV)においては、大断面で施工する場合の施工効率化の点から、吹付法により積層することが好ましい。
【0027】
なお、上記工程(III)において用いるプライマー層形成材料は、プライマー層を構成する材料として上記した材料と同様であり、アクリル系樹脂又はエチレン-酢酸ビニル系樹脂を含むものである。また、プライマー層形成材料の塗布量は、不揮発分の塗布量として、5~50g/mであることが好ましい。塗布量がこの範囲内であると、本発明の効果を十分に発揮することができる。
なお、上記(II)及び(IV)の工程において使用される、断面修復材A及び断面修復材Bの材料は、上述の断面修復材A及び断面修復材Bの材料と同様である。
【0028】
また、上記工程(I)の後、前記工程(II)の前に鉄筋に防錆剤を塗布して、防錆層を形成する工程を有することが、より防錆性を高めることができる点で好ましい。なお、防錆層を構成する材料等については、上述の通りである。
【0029】
さらに、本断面修復方法においては、工程(II)の後、工程(III)の開始前に、3時間以上の保持時間を有することが好ましい。該保持時間を有することで、より防錆効果を高めることができる。
【実施例
【0030】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(評価方法)
(1)付着強度の測定:供試体から直径73mmのコア供試体を採取し、引張り試験機で付着強度を測定した。なお、付着強度は3回測定を行った平均値を用いた。
(2)防錆性能の評価
試料サンプルの養生28日後の試験体を気温40℃、湿度95%の環境に150日暴露後、丸鋼を取り出し、防錆性能を確認した。評価基準は以下の通りである。
〇;錆が認められない。
△;錆がわずかに認められた。
×;錆が認められた。
【0032】
(使用材料)
(1)断面修復材の材料
断面修復材に用いた材料は、以下の通りである。表1に含有量を記載する。なお、後述するように、断面修復材の材料に亜硝酸リチウムを加えた断面修復材を断面修復材Aとし、亜硝酸リチウムを加えない断面修復材を断面修復材Bとする。
・普通セメント:デンカ社製の普通ポルトランドセメント
・砂:新潟県糸魚川市産石灰砂
・ファイバー:ビニロンファイバー、繊維長6mm
・膨張材:CSA#20(デンカ社製)
・粉末ポリマー:アクリル酸エステル系共重合体
・増粘剤:メチルセルロース
・プライマー層形成材料:RIS211E(EVA、デンカ社製)
【0033】
【表1】
【0034】
実施例1
上記表1に示される含有量の材料をハンドミキサーで混合し、断面修復材A及びBに用いる修復材(ポリマーセメントモルタル)を得た。次いで、該ポリマーセメントモルタル100質量部に対して、水を12質量部、亜硝酸リチウムの固形分含有量を3質量部配合し、断面修復材Aを得た。なお、断面修復材Bとしては、亜硝酸リチウムを混合しない点を除いて、断面修復材Aと同じポリマーセメントモルタルを用い該ポリマーセメントモルタル100質量部に対して、水を13.5質量部配合し、断面修復材Bを得た。
付着強度試験に使用する試験体として、300mm×300mm×60mmの歩道板を準備し、これに断面修復材Aを吹き付けた。断面修復材Aの厚みは30mmであった。続いて、断面修復材A上にプライマー層形成材料を刷毛で塗布した。プライマー層の不揮発分の塗布量は25g/mとした。プライマー層形成後、24時間経過後に断面修復材Bを吹き付けて試験サンプルを得た。
また防錆性能の評価に使用する試験体として100mm×100mm×40mmの型枠の中心位置に長さ100mmの丸鋼φ16mmを配置した。これに断面修復材Aを100mm×100mm×30mmとし吹き付けた。断面修復材Aの厚みは30mmであった。続いて、断面修復材A上にプライマー層形成材料を刷毛で塗布した。プライマー層の不揮発分の塗布量は25g/mとした。プライマー層形成後、24時間経過後に断面修復材Bを吹き付けて試験サンプルを得た。
上記で作製した試験サンプルについて、20℃、相対湿度60%の条件で7日間養生した後、上記方法にて、断面修復材Aと断面修復材Bの付着強度を測定した。結果を表2に示す。また防錆性能の評価結果を表2に示す。
また、プライマー層形成材料を吹き付けた後、断面修復材Bを吹き付けるまでの時間(以下、「打ち継ぎ時間」と記載する。)を4日間とした場合の評価結果を併せて記載する。なお、養生時間を28日間とした結果を併せて記載する。
【0035】
比較例1
実施例1において、プライマー層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、試験サンプルを得た。実施例1と同様にして、断面修復材Aと断面修復材Bの付着強度を測定した。結果を表2に示す。また防錆性能の評価結果を表2に示す。
【0036】
実施例2
実施例1において、亜硝酸リチウムの固形分含有量を0.5質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして試験サンプルを得た。
【0037】
比較例2
実施例2において、プライマー層を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、試験サンプルを得た。実施例2と同様にして、断面修復材Aと断面修復材Bの付着強度を測定した。結果を表2に示す。また防錆性能の評価結果を表2に示す。
【0038】
実施例3
実施例1において、亜硝酸リチウムの固形分含有量を30質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして試験サンプルを得た。
【0039】
比較例3
実施例3において、プライマー層を形成しなかったこと以外は、実施例3と同様にして、試験サンプルを得た。実施例3と同様にして、断面修復材Aと断面修復材Bの付着強度を測定した。結果を表2に示す。また防錆性能の評価結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、亜硝酸リチウムの使用量を抑えて、効果的に鉄筋防錆効果を得ることができ、低コストで鉄筋コンクリート構造物の修復を行うことができる。したがって、土木建築分野において、極めて有用な技術である。
【符号の説明】
【0042】
10 補修材
11 亜硝酸リチウム混入断面修復材A
12 亜硝酸リチウム非混入断面修復材B
13 プライマー層
20 鉄筋
30 コンクリート
31 コンクリート外表面
32 表層コンクリート
40 亜硝酸イオン
図1