(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】支援システム、および支援方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240227BHJP
【FI】
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2022515010
(86)(22)【出願日】2021-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2021025272
(87)【国際公開番号】W WO2023281565
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2022-03-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄野 貴也
【合議体】
【審判長】伏本 正典
【審判官】松尾 俊介
【審判官】松田 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-072536(JP,A)
【文献】特開2019-102006(JP,A)
【文献】特開2014-027780(JP,A)
【文献】特開2005-278335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザに指定された対象エリアに含まれる一以上の電力設備に関する情報であって、
前記電力設備の
過去の運用状況と、
対象エリアにおける電力の需要量と、
前記対象エリアに供給可能な電力量と、
前記対象エリアの現在及び将来の気象情報と、
前記電力設備の定格を示す情報と、を取得する情報取得部と、
前記対象エリアにおける電力の需要量を供給可能な複数の送配電計画を生成し、
前記複数の送配電計画を一つずつ抽出して、抽出した送配電計画に対応する、前記電力設備に関する複数の指標を導出し、前記複数の指標のそれぞれの時系列の推移を予め設定された第1基準に適用して、前記指標ごとのスコアを導出する設備容量評価部と、
前記電力設備の
過去の運用状況から得られた
前記電力設備の寿命に対する損失と、記憶装置から読み出した前記電力設備の寿命に対する損失である寿命損失
を導出する演算手法とに基づいて、
前記送配電計画を実行した場合の前記寿命損失を導出し、
前記寿命損失の
累計値と前記電力設備の維持に関するコストとが対応付けられた
設備コストモデルを適用して、前記寿命損失
の累計値に対する寿命損失スコアを導出する設備
余寿命評価部と、
前記対象エリアにおける電力の需要量を供給可能な送配電計画のうち
前記指標ごとのスコアおよび前記寿命損失スコアを統合した統合スコアが第2基準を満たす前記送配電計画を抽出する最適化処理部と、
を備える支援システム。
【請求項2】
前記複数の指標は、変圧器の絶縁温度、前記変圧器の巻線温度、および送電の効率に関する指標を含む、
請求項1に記載の支援システム。
【請求項3】
ダイナミックレイティング技術を用いて前記電力設備のリアルタイムの設備容量を求める、
請求項1または2に記載の支援システム。
【請求項4】
前記対象エリアは、
ユーザの操作に基づいて指定される、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の支援システム。
【請求項5】
前記第2基準を満たす前記送配電計画とは異なるバックアップ用の前記送配電計画を取得する、
請求項1から4のうちいずれか1項に記載の
支援システム。
【請求項6】
コンピュータが、
ユーザに指定された対象エリアに含まれる一以上の電力設備に関する情報であって、
前記電力設備の
過去の使用度合と、
対象エリアにおける電力の需要量と、
前記対象エリアに供給可能な電力量と、
前記対象エリアの現在及び将来の気象情報と、
前記電力設備の定格を示す情報と、を取得し、
前記対象エリアにおける電力の需要量を供給可能な複数の送配電計画を生成し、
前記複数の送配電計画を一つずつ抽出して、抽出した送配電計画に対応する、前記電力設備に関する複数の指標を導出し、前記複数の指標のそれぞれの時系列の推移を予め設定された第1基準に適用して、前記指標ごとのスコアを導出し、
前記電力設備の
過去の運用状況から得られた
前記電力設備の寿命に対する損失と、記憶装置から読み出した前記電力設備の寿命に対する損失である寿命損失
を導出する演算手法とに基づいて、
前記送配電計画を実行した場合の前記寿命損失を導出し、
前記寿命損失の
累計値と前記電力設備の維持に関するコストとが対応付けられた
設備コストモデルを適用して、前記寿命損失
の累計値に対する寿命損失スコアを導出
し、
前記対象エリアにおける電力の需要量を供給可能な送配電計画のうち
前記指標ごとのスコアおよび前記寿命損失スコアを統合した統合スコアが第2基準を満たす前記送配電計画を抽出する、
支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備構築計画・運用支援システム、及び設備構築計画・運用支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
時々刻々と変動するエネルギーの需要に対して供給を行うため、10分先、1時間先、12時間先、翌日、1週間先、1ヶ月先又は1年先など、さまざまな時間断面の需要と発生の予測と、供給の計画及び制御とからなるエネルギー管理が行われている。さらにそれらエネルギー需要と供給の予測や計画に応じて、エネルギー管理に関わる設備構築計画が行われている。エネルギー需要は気温等の自然現象、及び人の社会生活パターンの影響を受け確率的に変動する。また、エネルギー供給に関わる発電も、再エネ発電への風、日照の影響、火力発電では燃料の熱価により発電量が影響を受ける。
【0003】
特許文献1には、変圧器のダイナミックレイティングにより、送変電設備能力を効率的に活用することができる制御装置、制御方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、変圧器のダイナミックレイティングに則した収益性評価による設備計画方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-182822号公報
【文献】特開2019-102006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明は、電力系統上の単一の変圧器の運用限界値に着眼しており、電力会社の支社店や各管轄管内というような面的に広がりをもつ、送電線等の関連設備をも含むエリア内の包括的な設備容量に則した設備計画、及びその運用が難しい。
【0007】
特許文献2の発明では、変圧器のダイナミックレイティングに則した収益性評価による設備計画方法が記されているが、同じく送電線等の関連設備をも含むエリア内の包括的な設備容量に則した設備計画、及びその運用を支援することができない場合があった。
【0008】
特許文献1、2の発明のどちらも変圧器周辺の温度情報をベースとしたダイナミックレイティングを指向しているが、面的な設備容量や発電をも含めた種々の制約(複数の設備を含めた種々の制約)、かつ気象や社会的活動をベースとした需給予測等の情報に乏しく、時間的中長期断面かつ面的な設備容量限界値超過や寿命予測による設備構築計画やその運用を支援することができない場合があった。
【0009】
本発明は、以上の点を考慮したものであり、発電や送配電設備などの電力設備の構築計画とその運用をより適切に支援することができる設備構築計画・運用支援システム又は設備構築計画・運用支援方法を提供することを目的とする。例えば、支援システムに、電力系統潮流計算に関わるシミュレーション範囲拡大と精度向上に寄与するパラメータを与え、管理エリア内の将来のエネルギーの需要量及び/又は発電量を予測する需給予測部を設け、需給予測部のリアルタイムな予測結果に基づいて、面的な所謂ダイナミックレイティングにより管理エリア内の電力需給制御と、電力設備構築の投資計画と、その運用システムとの連係機能を設けるものであってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の支援システムは、情報取得部と、設備容量評価部と、設備余寿命評価部と、最適化処理部とを備える。情報取得部は、ユーザに指定された対象エリアに含まれる一以上の電力設備に関する情報であって、前記電力設備の過去の運用状況と、対象エリアにおける電力の需要量と、前記対象エリアに供給可能な電力量と、前記対象エリアの現在及び将来の気象情報と、前記電力設備の定格を示す情報と、を取得する。設備容量評価部は、前記対象エリアにおける電力の需要量を供給可能な複数の送配電計画を生成し、前記複数の送配電計画を一つずつ抽出して、抽出した送配電計画に対応する、前記電力設備に関する複数の指標を導出し、前記複数の指標のそれぞれの時系列の推移を予め設定された第1基準に適用して、前記指標ごとのスコアを導出する。設備余寿命評価部は、前記電力設備の過去の運用状況から得られた前記電力設備の寿命に対する損失と、記憶装置から読み出した前記電力設備の寿命に対する損失である寿命損失を導出する演算手法とに基づいて、前記送配電計画を実行した場合の前記寿命損失を導出し、前記寿命損失の累計値と前記電力設備の維持に関するコストとが対応付けられた設備コストモデルを適用して、前記寿命損失の累計値に対する寿命損失スコアを導出する。最適化処理部は、前記対象エリアにおける電力の需要量を供給可能な送配電計画のうち前記指標ごとのスコアおよび前記寿命損失スコアを統合した統合スコアが第2基準を満たす前記送配電計画を抽出する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】支援装置10が実行する処理の概念を示す図。
【
図5A】変圧器及び送電線に関する情報の内容の一例を示す図。
【
図5B】評価対象期間と最適解算出期間との一例を示す図。
【
図6A】設備容量評価部32が行う評価について説明するための図(その1)。
【
図6B】設備容量評価部32が行う評価について説明するための図(その2)。
【
図7】余寿命の評価(その2)について説明するための図。
【
図10】設備構築計画最適化算出部62により抽出された送配電計画に関する情報の一例を示す図。
【
図11】情報出力部70に表示されるメンテンナンスや撤去、新規設置などのスケジュールの一例を示す図。
【
図12】情報出力部70に表示されるトータルコスト最適化算出部66が算出したコストを示す情報について説明するための図。
【
図13】2実施形態の設備構築計画・運用支援システム1の構成の一例を示す図。
【
図14】第3実施形態の演算モデルについて説明するための図。
【
図15】第4実施形態の設備構築計画・運用支援システム1Aの構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の設備構築計画・運用支援システム及び設備構築計画・運用支援方法を、図面を参照して説明する。
【0013】
<概要>
エネルギー供給に関わる発電と送配電設備は、再エネ発電への風、日照の影響、温湿度、火力発電では燃料の熱価等により発電効率が影響を受け、その運用状況に設備寿命が影響を受ける。この影響を加味した発送配電設構の築備計画とその運用計画の生成が必要とされる。本実施形態の支援装置は、電力設備の更新計画やその運用において、環境変化とエネルギー需給のリアルタイムな変化に追従応答可能な予測精度及び計画精度で、人の社会的経済活動や電力システム環境の変化を踏まえた効率的運用、及び電力設備の更新を適切かつ柔軟に計画する。これにより、計画期間内の設備に対する投資対効果の向上や、設備更新、及びその運用に係るコストの平準化を実現する。また、電力系統における送電容量を決める様々な要因は下記であるが、
・ 同期安定性
・ 電圧安定性・電圧上下限
・ 周波数維持・需給バランス
・熱的送電容量制約etc.
最も小さな送電容量制約の要因でボトルネック的に送電容量は支配される。
【0014】
支援装置は、電力設備、たとえば複数の電力変圧器や送電線周辺の外気温、湿度、日射、降雨量、積雪深、気圧、風速、風向、などのセンシングデータによる広域かつ面的な所謂ダイナミックレイティングによる面的設備容量と製品寿命に対する余寿命、及び設備の経済的な収益性を評価し、設備計画を作成、運用を制御してもよい。 さらには、支援装置は、現在かつ将来の気象情報など、電力の需要と発生に関わる周辺情報をインターネット上のSNS情報などからピックアップ・分析して、設備構築計画と設備運用のシミュレーション範囲拡大と精度向上に寄与するパラメータとして与えてもよい。
【0015】
このように、設備構築計画・運用支援システムに、電力設備とその設備の運用状態に関わるモデル化をより高精細にしたのち、設備計画とその運用のシミュレーション範囲拡大と精度向上に寄与する複数電気設備のセンシング情報及び電力の需要と発生に関わる周辺情報をパラメータとして与え、管理エリア内の将来のエネルギーの需要量及び/又は発電量を予測する需給予測部を設け、需給予測部のリアルタイムな予測結果に基づいて、管理エリア内の電力需給制御と、電力設備構築の投資計画と、その運用システムとの連係機能を設ける。
【0016】
設備の経済的な収益性の評価について、設備の経済的な収益性に則した動的システムは、複数変圧器や送電線など電力設備全体の標準化されたパラメータ、経済的なパラメータ、技術的なデータと、初期投資からのデータをベースに、電力設備の総所有コストを減価償却期間の関数として、決定された需要を満足させるための投資合計における電力設備の収入を得て、電力設備の総合的な経済的収益性を決定するために、電力設備の収入及び電力設備の総所有コストとを評価し、設備計画を作成、運用を制御する。
【0017】
<第1実施形態>
[支援装置の機能構成の概要]
支援装置は、例えば、それぞれ管理エリア内のエネルギーの需要及び/又は供給を予測し、かつ、動的な設備容量の評価(ダイナミックレイティング)に基づいて、当該管理エリア内の設備計画の最適化、及び当該設備の運用効率の最適化支援システムに適用できるものである。
【0018】
図1は、支援装置10の機能構成の一例を示す図である。支援装置10は、電力設備(例えば送変電設備)の設備構築計画の立案やその運用に関わる制御等を支援する装置である。支援装置10は、例えば、情報取得部20、評価部30、需要予測部40、発電予測部50、最適化計画算出部60、及び情報出力部70と、記憶部100とを備える。情報取得部20、評価部30、需要予測部40、発電予測部50、及び最適化計画算出部60うち一部又は全部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサが、記憶部100に記憶されたプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。また、これらの構成要素の機能のうち一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部:circuitryを含む)によって実現されていてもよいし、SoC(システムオンチップ: System on Chip)のようにシステムの動作に必要な機能のすべてを、一つの半導体チップに実装されていてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されていてもよい。
【0019】
なお、上記の各機能部は、個別に分散して演算を行う分散演算型、物理的なロケーションに依存しない、クラウド環境での分散演算でもよい。または、物理的ハードウェアとクラウド環境を組み合わせたハイブリッド構成でもよい。評価部30、需要予測部40、発電予測部50、および最適化算出部の一部または全部は、「生成部」の一例である。なお、特許請求の範囲にける「設備計画・運用支援システム」は、支援装置10などのように各機能を一つの装置として構成するものであってもよいし、個別に分散して演算を行う分散演算型、物理的なロケーションに依存しない、クラウド環境での分散演算を行う構成であってもよい。
【0020】
プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶部100に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM、USBメモリなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。また、プログラムは、外部の装置によりネットワークNWなどの通信を介して提供され、機能の増強や改善のためにインストールされてもよい。記憶部100には、上述したネットワークNWを介して得られた情報や各種演算処理に用いられる一以上のモデル情報110が記憶されている。以下、各機能構成の概要について説明し、詳細な処理については後述する。
【0021】
情報取得部20は、各種情報を取得する。各種情報とは、電力設備に含まれる変圧器や送電線(地中送電線、架空送電線など)に関する情報や、環境情報(天候情報や気候情報)など種々の情報を含む。各種情報の詳細については後述する。情報取得部20は、ネットワークを介して各種情報を取得してもよいし、オペレータが入力した各種情報を取得してもよい。ネットワークとは、例えば、ネットワークNWは、例えば、インターネット、WAN(Wide Area Network)、プロバイダ装置、無線基地局などを含む。
【0022】
評価部30は、例えば、設備容量評価部32及び設備余寿命評価部34を備える。設備容量評価部32は、指定されたエリアにおける設備を利用した送電を行ったときの設備の状態を評価する。評価とは、例えば、設備にとってその機能と性能要件を喪失し得る損耗に与える負荷度合が閾値以上となることを評価したり、負荷度合の程度を示したりすることである。例えば、動的に変動する容量に対する負荷度合が評価される。
【0023】
設備余寿命評価部34は、電力設備の余寿命を推定演算して評価する。評価する余寿命は、例えば、設備の余寿命や、所定の条件で運用された場合にその機能と性能要件を喪失するまでの余寿命などである。
【0024】
需要予測部40は、指定されたエリアにおける電力の需要(需要量の一例)を予測する。発電予測部50は、発電設備において発電される電力であって、指定されたエリアに供給可能な電力量を予測する。
【0025】
最適化計画算出部60は、例えば、設備構築計画最適化算出部62、設備運用計画最適化算出部64、及びトータルコスト最適化算出部66を備える。設備構築計画最適化算出部62は、例えば、電力設備の新規設置や除去、補修・修繕などのメンテナンスに伴う個々の設備の電気的絶縁、停止などの計画を算出する。
【0026】
設備運用計画最適化算出部64は、例えば、電力設備が受ける負荷が閾値以下となり、必要な電力を必要な設備に送電可能である計画や、更に効率的に設備に送電を行うことができる計画を算出する。「効率的に」とは、送電ロスが小さい(又は所定割合以下)であることである。トータルコスト最適化算出部66は、コストを算出する。コストとは、複数の変圧器や送電線、その他電気設備の追加コストや、除去コスト、初期メンテナンスコスト、その他のメンテナンスに掛かるコストなどである。
【0027】
最適化計画算出部60は、例えば、設備構築計画最適化算出部62、設備運用計画最適化算出部64、及びトータルコスト最適化算出部66の算出結果を参照して、ユーザに提案する一以上の計画を算出する。
【0028】
情報出力部70は、生成された情報を表示する表示部である。
【0029】
[支援装置の処理の概要]
支援装置10は、対象エリア内の電気設備、たとえば複数の変圧器や送電線のリアルタイムな設備容量を求める手段としてダイナミックレイティングを適用する。ダイナミックレイティングの動的な設備容量の評価は、対象エリア内の複数の変圧器、送電線に適用する。また、変圧器、送電線に限定することなく、その他設備容量を動的に評価する手段があれば、その手段に応じたアルゴリズムが適用される。
【0030】
図2は、支援装置10が実行する処理の概念を示す図である。
(1)支援装置10は、各種情報を取得する。各種情報とは、系統パラメータや、外気温、エリアの電力設備に流れる導電電流、環境情報(外気温、湿度、日射、降雨量、積雪深、気圧、風速、風向、などの種々の天候情報や気象情報)、気象予測情報などである。また、各種情報には、電力設備の設置運用開始からの経年、過去の電力設備の運用状況又は電力設備のそれぞれの余寿命(又は劣化度合)などの情報、電力設備の属性(諸元や仕様、他装置との連携関係の情報等)を含む。劣化度合は、「使用度合」の一例である。
【0031】
(2)支援装置10は、演算ロジック及びサブ演算ロジックを用いて、各種演算を行う。演算ロジックは、系統潮流シミュレーションをはじめ、対象のエリアにおける設備に、効率的に、電力設備の寿命が長くなるように、更に設備容量の範囲内で電力を供給する計画を生成するためのロジックである。サブ演算ロジックは、各種情報の一部又は全部が入力されると、絶縁油温度や、媒体温度、電力設備の寿命、送電の効率、送電線の弛度などを出力するモデル(例えば、シミュレーションモデルや機械学習モデル)や評価目的関数である。演算ロジックは、サブ演算ロジックにより出力された情報が入力されると、上述した計画を出力するモデル(例えば、シミュレーションモデルや機械学習モデル)や評価目的関数などである。なお、サブ演算ロジックと演算ロジックとは統合されてもよい。(2)の具体例については後述する。
【0032】
(3)支援装置10は、演算ロジックの演算の結果に基づいて、エリアの設備構築計画や、エリアの設備運用計画、エリアのレジリエンス情報などを生成する。エリアの設備構築計画は、電気設備の撤去や、増設、補修・修繕などメンテナンスなどの計画である。設備運用計画とは、電気設備の運用の計画である。レジリエンス情報とは、最適な計画に対する代替計画(バックアップの計画や想定外の状況に対する対応案)である。
【0033】
支援装置10は、例えば、対象のエリア内の設備コスト、つまりアセットの設備と運用の両面の全体最適化を可能にする。支援装置10は、例えば、評価目的関数に、種々のパラメータを入力することで設備構築とその運用の最適解を算出する。例えば、支援装置10は、評価目的関数であるF(x1,x2,・・・,Xn)=F(設備の定格、設備の経年情報、時間断面(期間)、設備の位置情報、天候、送電線の弛み)の極大、もしくは極小を、種々の制約付き最適化手法で求める。
【0034】
また、支援装置10は、上述した評価目的関数のパラメータをシミュレーションモデルに適用して送配電計画を生成してもよい。支援装置10は、シミュレーションモデルの際、現在および将来の電力設備の設置状態および設置状態をパラメータとした電力設備の運用状態においてシミュレーションを行って送配電計画を生成してもよい。
【0035】
(4)ユーザは、支援装置10により提供された設備構築計画、設備運用計画、またはその両方のバランスを参照して、マクロな経営的意思決定が可能である。
【0036】
[支援装置の処理の具体例]
以下、支援装置10が実行する処理の具体例について説明する。支援装置10は、対象のエリアを決定する。対象のエリアは、予めシステム的に指定されたエリアであってもよいし、ユーザによって都度変更指定されるエリアであってもよい。
【0037】
(エリアの指定)
図3は、処理の具体例(1)を説明するための図である。例えば、支援装置10は、ユーザに
図3に示すような複数の変圧器やその他電気設備を含む変電所と複数の送電線との接続関係を示す接続情報を情報出力部70に出力させる。ユーザは、接続情報を参照して、所定の操作を行って対象のエリアを指定する。
図3の例では、変電所A-Dを含むエリアが選択されたものとする。これにより面的な広がりが指定される。
【0038】
変電所Aには、複数の変圧器が含まれる。複数の変圧器は、例えば、
図4に示すように設置された日(新旧)が異なっていたり、機能や性能的定格が異なっていたりする。また、各送電線も、設置された日(新旧)が異なっていたり、定格が異なっていたりする。すなわち、電気設備は、それぞれ異なる属性(例えば運用履歴や諸元、仕様など)を有する。
【0039】
支援装置10は、対象のエリアの変圧器及び送電線に関する情報を取得する。変圧器に関する各種情報は、例えば、記憶部100に記憶されている。
図5Aは、変圧器及び送電線に関する情報の内容の一例を示す図である。変圧器及び送電線に関する情報は、変圧器ID(識別情報)に対して、過去の運用状況を示す情報、基準定格、諸元及び位置情報が対応付けられた情報と、送電線IDに対して、過去の運用状況(使用度合)、基準定格、諸元及び位置情報が対応付けられた情報とが含まれる。記憶部100には、変圧器や送電線、その他の電気設備の接続関係を示す情報が記憶されていてもよい。この例は送電系統運用者(Transmission System Operator)に関わる構成の一例であって、配電運用者(Distribution System Operator)やその他エネルギーに関わる構成であってもよい。つまり、電圧階級やエネルギーインフラの事業者に依存しない。
【0040】
過去の運用状況とは、対象の変圧器又は送電線の劣化度合を推定するための情報である。過去の運用状況とは、例えば、時系列ごとに、対象が運用された天候(気温など)や、流れた電流値などが対応付けられた情報である。基準定格とは、基準とする条件において設定された定格である。例えば、基準定格に対応する電気設備の環境情報と、現在または将来の環境情報などとの乖離度合によって、ダイナミックレイティングによる設備容量は基準定格に対して変化する。諸元とは、その対象の詳細な仕様などの情報である。
【0041】
上記のように、エリアが指定されることで、単一の変圧器もしくは送電線が対象として後述する各種計画が生成されたり、広い範囲の複数の電力設備に対する各種計画が生成されたりする。
【0042】
(時間の指定)
例えば、支援装置10は、ユーザから設備容量に関わるダイナミックレイティングの評価対象期間と最適解算出期間の指定を受け付ける。評価対象期間とは、設備容量に関わるダイナミックレイティングの評価対象期間である。また、最適解算出期間とは、設備構築やその運用に関わる各種計画の期間である。
図5Bは、評価対象期間と最適解算出期間との一例を示す図である。例えば、現在から3か月後までの期間を受け付けると、支援装置10は、3か月後までの各種計画を生成する(例1)。すなわち、評価目的関数の対象の時間的断面の拡大又は縮小が可能であり、その期間に応じた電気設備の属性(例えば定格を示す情報)、運用状態が各種計画に反映される。これにより、評価目的関数の解は、短期断面での変圧器もしくは送電線の設備運用の効率最適化、あるいは寿命延伸もありうるし、非常に長い時間的断面での設備運用の効率最適化、あるいは寿命延伸もありうるという意味での全体最適解もありうる。全体最適解の例としては、ある面的エリア、または時間的断面、またはその両方を加味したうえでの、最適解は下記のような事項がある。
・設備構築に関わる投資の極小
・設備巡視・点検に関わる人的配置、もしくは人的工数の極小
・設備修繕・補修に関わる人的配置、もしくは人的工数の極小
・送配電ロスの極小
・CO2排出量の極小
・再エネ電源接続容量の極大
・天災などによるレジリエンス喪失リスクの極小
【0043】
また、
図5Bに示すように、評価対象期間と最適解算出期間とは必ずしも現在を分界点とする必要がなく、将来を分界点としてもよいし(例2)、ある時点(現在や最適解算出期間の始期)を起点に、その時点から遡って評価を行ってもよい(例3)。つまり、遡り評価期間の評価が行われる。遡り評価期間では、例えば、遡り評価期間において、電力設備の構築や運用に関して、「どのようにすべきであったか?」を示す分析結果や改善策などがユーザに提案される。
【0044】
(余寿命の評価(その1)
支援装置10の設備余寿命評価部34は、所定の評価モデルと過去の運用状況を用いて対象の変圧器又は送電線の劣化度合を取得する。この評価モデルは、過去の運用状況(時系列ごとに流れた電流値や気温など)が入力されると、入力された情報に応じた劣化度合を出力するものである。例えば、過去に使用度合が少ない対象の劣化度合は比較的小さい傾向である。例えば、過去に負荷が生じる傾向で対象が運用される傾向である場合、比較的劣化度合は大きい傾向である。負荷が生じるとは、基準定格を超えて又は定格付近で運用されるような状態や、環境に応じた定格を超えて又は定格付近で運用される状態である。設備余寿命評価部34は、劣化度合に基づいて、対象の余寿命を評価する。
【0045】
(設備容量の評価)
支援装置10の設備容量評価部32は、需要予測部40の予測結果や、発電予測部50の予測結果などに基づいて、複数の送配電計画を生成する。送配電計画とは、どの変圧器や送電線にどの程度の電力を送電させるか時系列の計画である。例えば、設備容量評価部32は、網羅的に送配電計画を生成する。生成される送配電計画は、需要家の需要を満たす送配電計画である。
【0046】
設備容量評価部32は、例えば、複数の送配電計画のうち、1つずつ送配電計画を抽出し、その送配電計画に対応する各種指標を評価する。設備容量評価部32は、上記の劣化度合(過去の運用状況および将来の運用状況が加味された劣化度合)や、現在の気象情報、将来の気象情報などを用いて、各種指標を評価する。評価とは、例えば、各種指標を導出したり、各種指標に基づいて、その指標の良し悪しを評価したりすることである。各種指標とは、例えば、変圧器の絶縁油温度や、巻線温度、送電の効率、送電線の導体温度や弛度などの送配電計画を生成するために必要な評価指標である。各種指標には、上記の指標の他、種々の指標が含まれてもよい。
【0047】
図6Aは、設備容量評価部32が行う評価について説明するための図である。設備容量評価部32は、計画ごと、且つ対象エリアに含まれる所定の対象(例えば、変圧器又は送電線)ごとに評価を行う。設備容量評価部32は、時系列の各種指標の推移を示す情報を生成する。例えば、
図6Aに示すように変圧器の絶縁油温度の時系列の推移や、巻線温度の時系列の推移、送電に関する効率の時系列の推移などを示す情報を生成する。更に、設備容量評価部32は、時系列の推移を予め設定された基準に適用して、各時系列の推移に対してスコア(スコア1、スコア2、スコア3)を導出する。例えば、
図6Bに示すように絶縁体温度の時系列の推移や、導体温度の時系列の推移、送電に関する効率の時系列の推移などを示す情報を生成する。更に、設備容量評価部32は、時系列の推移を予め設定された基準に適用して、各時系列の推移に対してスコア(スコア4、スコア5、スコア6)を導出する。
【0048】
なお、上記の各種指標には、送電線の弛度(弛み)が含まれてもよい。例えば、送電線の弛みは、導体の熱によって発生し、例えば、外気温、日射、風の影響を受ける。弛みは、例えば、上記の影響の要因をパラメータとしたモデルによって求められる。また、送電線同士の短絡、樹木接触などのリスク回避が評価における制約条件として考慮されてもよい。
【0049】
(変圧器の絶縁油温度を求める手法)
設備容量評価部32は、例えば、下記の手法を用いて、絶縁油温度の時系列の推移を求める。まず、設備容量評価部32は、式(1)を用いて、時刻tにおける絶縁油温度θоt(t)を求める。「θоs」は、初期値の温度である。「θоL」は、(式2)により求められる絶縁油の最終到達温度である。「τ0」は温度変化の時定数である。
【0050】
【0051】
式(2)の「θa」は外気温である。「θо」は(式3)で求められる最高絶縁油上昇値[k]である。
【0052】
【0053】
(式3)の「θОN」は定格負荷時の最高絶縁油上昇値[k]を示す。「K」は負荷率(例えば、現在の電流値I[A]/定格負荷時の電流値IN[A])を示している。「R」は損失比(例えば、定格負荷時の負荷損/無負荷損)である。「m」は冷却方式により定まる定数である。
【0054】
【0055】
設備容量評価部32は、上記の考え方を利用して、絶縁油温度の時系列の推移を求めることができる。なお、絶縁油温度の時系列の推移の求め方は、(式1)-(式3)に限らず、その他のモデルや数式が利用されてもよい。
【0056】
(絶縁油温度を求める手法)
設備容量評価部32は、例えば、下記の手法を用いて、巻線温度の時系列の推移を求める。まず、設備容量評価部32は、式(4)を用いて、時刻tにおける巻線温度θgt(t)を求める。「θg」は、巻線温度上昇値[K]である。
【0057】
【0058】
(余寿命の評価(その2))
設備余寿命評価部34は、例えば、下記の(式5)を用いて、寿命損失[分/年]を求める。「T1」は対象期間の開始時刻であり、「T2」は対象期間の終了時刻である。「b」は寿命損失係数である。
【0059】
【0060】
設備余寿命評価部34は、例えば、上記の(式5)の考え方を用いて、上記の送配電計画を実行した場合の各対象の時系列の寿命損失を求める。設備余寿命評価部34は、過去の運用状況から得られた損失と、上記の手法により求めた寿命損失とを統合して、各対象の時系列の寿命損失を求める。
【0061】
図7は、余寿命の評価(その2)について説明するための図である。設備余寿命評価部34は、例えば、時刻ごとの寿命損失を導出したり、時刻ごとの寿命損失の累計値を導出したりする。更に、設備余寿命評価部34は、時系列の寿命損失を予め設定された基準に適用して、各時系列の推移に対してスコア(スコア7、スコア8)を導出する。
【0062】
設備余寿命評価部34は、例えば、寿命損失の累計値に対するスコアを導出する際、設備コストモデルが適用されてもよい。設備コストモデルとは、例えば、寿命損失の累計値とコストとが対応付けられたモデルである。寿命損失の累計値が第1閾値に到達した場合、初期メンテンナンスが必要なため、所定のコストが関連付けられ、寿命損失の累計値が第2閾値に到達した場合、定期メンテンナンスが必要なため、所定のコストが関連付けられている。また、設備コストモデルには、変圧器の撤去コストや、変圧器の交換コスト、送電線の交換コストなどが対応付けられている。
【0063】
図8は、設備コストモデルの一例を示す図である。例えば、寿命損失の累計値が大きくなるほど、コストの累計は大きい傾向となる。設備余寿命評価部34は、例えば、コストが大きいほど、寿命損失に関するスコアは小さい傾向で導出する。図示する例では、メンテンナンスや撤去に関するコストを示しているが、その他、補修や新規設置など種々のコストが含まれてもよい。
【0064】
なお、設備余寿命評価部34は、例えば、時刻Tにおける寿命損失及び寿命損失の累計値を求める際に、設備容量評価部32が求めた時刻T-1における各種指標を加味する。例えば、時刻T-1において対象の設備が稼働し、その稼働による寿命損失が、時刻Tにおいて求められる。また、設備容量評価部32も同様に、時刻T+1における各種指標を求める際に、時刻Tにおける寿命損失及び寿命損失の累計値が加味される。例えば、時刻Tにおける寿命損失が考慮された対象の設備を想定して、時刻T+1における各種指標が求められる(電力設備の性能の劣化度合が加味される)。また、上記の各時刻による予測される環境情報(天候、気候など)が考慮される。このような処理が繰り返されて各評価がされる。
【0065】
上記の手法は一例であり、その他、種々の手法により、時刻ごとの各種指標や、寿命損失、スコアが求められてもよい。
【0066】
また、上述の各種指標に含まれる送電線の温度の導出手法の一例について説明する。架空導電線の温度が用いられる場合、以下の導体温度モデル(例えば、JCS0374:2003日本電線工業会・裸線許容電流の計算基準で規定されたモデル)が用いられてよい。例えば、架空送電線の温度は、使用される電線の種類やサイズ、流れる電流、気温、風、日射(気象条件)に影響される。架空送電線に流せる電流は電線の温度に依存する。例えば、式(6)は、定常状態の温度式であり、式(7)は過渡状態の温度式である。
【0067】
式(6)または式(7)に示す要素の意味について説明する。「I2Rac×10-5」は、電流による発熱[W/cm]である。「I」は通電電流[A]である。「Rac」は使用温度における交流抵抗[Ω/km]である。「qs」は日射からの吸熱[W/cm]である。「qr」は放熱による熱放散熱[W/cm]である。「qc」は対流による放熱散熱[W/cm]であり、例えば、風による影響である。式(6)に示すように、電流による発熱と日射からの吸熱との合計の熱量は、放熱による熱放散熱と、対流による熱放散熱との合計の熱量に相当する。「dθ/dt」は、経過時間あたりの温度変化であり、「C」は電線熱容量である。
【0068】
【0069】
【0070】
また、地中送電線ケーブルの導体温度は、種々の計算モデルによって求められてもよい。導体温度の計算モデルは、例えば、DRS熱解析モデル(IEC60287およびIEC60853-2)である。ケーブル管路の外側に光ファイバーケーブルが敷設された送電線ケーブルの導体温度を求める例について説明する。このケーブル管路は、電気回路で表すことができる。例えば、電気回路は、抵抗R1-抵抗R5が直列に接続される。抵抗R1の抵抗R2との反対側にはNode1が設けられ、抵抗R1と抵抗R2との間、抵抗R2と抵抗R3との間、抵抗R3と抵抗R4との間、抵抗R4と抵抗R5との間には、それぞれ、Node2、Node3、Node4、Node5が設けられている。各Nodeは、他のNodeに電気的に接続されている。Node1とNode2との間には、コンデンサC1およびコンデンサC2が接続され、Node3とNode4との間にはコンデンサC3およびコンデンサC4が接続され、コンデンサC4とNode5との間にはコンデンサC5が接続されている。各コンデンサは電気的に接続されている。この電気回路は、熱等価回路に相当し、電流は熱に対応し、電位差は温度差に対応する。抵抗R5のNode5とは反対側の地点Tp(t)から信号(例えば、DTS(Distributed Temperature Sensing: 光ファイバ温度分布計測装置)のパルスレーザーに対応する)が入力された場合、Node3では金属被ロス(Ws)が加味された出力となり、Node2では誘電損(Wd)が加味された出力となり、Node1では導体ロス(Wc)が加味された出力となる。これらの損失は、負荷電流から求められる。そして、コンデンサC1とコンデンサC2との間の出力は、導体温度計算値に相当する。このように、地中送電線ケーブルの導体温度を求めることができる。
【0071】
更に、熱拡散モデルと予測計算を行い、ケーブル導体温度を予測推定してもよい。熱拡散モデルは、例えば、熱拡散モデル(IEC60853-2)である。ケーブル表面温度は、式(8)により求められる。「θ(t)」はケーブル表面温度であり、「ρ」は熱抵抗である。「W」はケーブルの直径である。
【0072】
【0073】
式(8)により求められたケーブル表面温度計算(予測)の予測値から、更にケーブル導体温度を予測する。この予測は、例えば、C-Rラダー熱解析モデルを用いて行われる。
【0074】
上記のように、架空送電線や地中ケーブルの導体温度が求められる。
導体温度を求めるためのモデリング情報の高密度化、精度向上のため、いわゆるIoTによるセンシングの補完をしてもよい。たとえば、送電線ケーブル個別に付加する熱電対などの従来手法に代えて、赤外線カメラ、ドローンなどを活用したより広範囲かつ、評価対象の温度分布に応じたよりきめ細かい計測をしてもよい。
【0075】
(送配電計画に対する評価)
評価部30は、設備容量評価部32及び設備余寿命評価部34の評価の結果を統合して、送配電計画を評価する。「統合して、送配電計画を評価する」とは、設備容量評価部32及び設備余寿命評価部34が導出した指標やスコアを統計的な処理を行って送配電計画に対する指標やスコアを導出することである。評価部30は、例えば、送配電計画1-nに対する統合スコアを導出する。
【0076】
図9は、評価部30の処理の一例を示す図である。例えば、スコアの種別ごとに、対象エリアに含まれる電気設備のスコアを統計的に処理したスコアを求める。例えば、対象エリアに含まれる複数の電気設備のスコア1を統合して統合スコア1が導出される。スコア2-7についても同様に統合スコアが導出される。そして、統合スコア1-7に基づいて統合スコアが導出される。
【0077】
(最適化算出部が実行する処理)
最適化計画算出部60の設備構築計画最適化算出部62は、一以上の所望の送配電計画を算出する。設備構築計画最適化算出部62は、導出した統合スコア及び各スコアを参照して、所望の送配電計画を抽出する。所望の送配電計画とは、例えば、各スコアが閾値未満のものがなく、スコアが平均スコアよりも高く、更に統合スコアが基準以上のスコアである計画である。また、所望の送配電計画は、ユーザが指定した条件を満たす計画であってもよい。例えば、ユーザが効率を重視する場合、効率的な送配電計画が抽出され、ユーザが個々の設備の寿命損失を重視する場合、寿命損失が小さい送配電計画が抽出される。また、ユーザがバランスのとれた送配電計画を重視する場合、効率と寿命損失の小ささとがある程度担保された送配電計画が抽出される。
【0078】
図10は、設備構築計画最適化算出部62により抽出された送配電計画に関する情報の一例を示す図である。抽出された送配電計画に関する情報は、例えば、
図10に示すように情報出力部70に表示される。送配電計画に関する情報には、例えば、
図10に示すような各種指標の時系列の情報や、スコアが含まれる。
【0079】
設備運用計画最適化算出部64は、抽出された送配電計画が実行された場合の電力設備のメンテンナンスの計画や、撤去の計画、新規設置の計画など算出する。また、電力設備のメンテンナンスの計画や、撤去の計画、新規設置の計画を基に、送配電計画も算出できる。設備運用計画最適化算出部64は、寿命損失に基づいて、電力設備のメンテンナンスや撤去、新規装置などを計画する。例えば、設備運用計画最適化算出部64は、寿命損失がメンテンナンスタイミングや、撤去タイミングなどの定められたタイミングに到達する前に、メンテンナンスや撤去、新規設置などを行うスケジュールを生成する。このとき、設備運用計画最適化算出部64は、同じタイミング(例えば、同じ週)で所定の度合以上の管理者の負担が掛からないように、またはある特定のエリアに電力供給喪失、もしくは系統安定度喪失のリスクが伴わないことを全体最適化の制約条件として各処理のスケジュールを分散させる。
図11は、情報出力部70に表示されるメンテンナンスや撤去、新規設置などのスケジュールの一例を示す図である。
図11には、上述したスケジュールに加え、期間ごとのコスト(後述)を示す情報が含まれる。
【0080】
トータルコスト最適化算出部66は、送配電計画(Plan)ごとのコストを算出する。コストとは、電力設備の管理に関するコスト(メンテンナンスや撤去、新規設置などのコスト)である。トータルコスト最適化算出部66は、
図11で示したようなスケジュールごとに、期間ごとのコストを算出する。例えば、メンテンナンスや撤去、新規設置などの負担が大きいほど、コストは大きくなる。
【0081】
図12は、情報出力部70に表示されるトータルコスト最適化算出部66が算出したコストを示す情報について説明するための図である。
図12に示すように、コストを示す情報には、送配電計画の合計コストや、週のコストなどコストに関する情報が含まれる。また、コストを示す情報には、表示ボタンが含まれる。このボタンが操作されると、前述した
図11に示した情報が情報出力部70に表示される。
【0082】
なお、提案される送配電計画は、上記の例に加え(または代えて)、以下のような送配電計画であってもよい。例えば、劣化度合が高い(古い)設備に対して負担が掛からないように送電が行われる傾向の送配電計画である。この送配電計画は、例えば夜は劣化度合が高い設備を休止させたり、電力需要が低いと予測される時間帯は劣化度合が高い設備を休止させたりする送配電計画である。例えば、劣化度合が高い(古い)設備に対しても負担をかけてつかい切り、早期に撤去したり、新規の設備と入れ替えたりする送配電計画である。例えば、劣化度合が高い(古い)設備を撤去し、新規の設備に撤去した分の負荷を担わせ負担を大きくする送配電計画である。また、送電線や変電所の交換や構成の変更が提案される送配電計画が生成されてもよい。例えば、変電所Aの変圧器を新規の変圧器に交換する送配電計画が生成されてもよい。また、一部の設備(変圧器、送電線、その他の設備)がボトルネックとなり、条件を満たす送配電計画が生成できない場合や、ボトルネックが解消されれば、より好適な送配電計画が生成できる場合、設備の新設や、設備の交換、別送電ルートの新設、別送電ルートの検索などを提案する送配電計画が生成されてもよい。このように、上述した複数の処理が複合的に行われて送配電計画が生成され、提案されてもよい。
【0083】
なお、例えば、支援装置10は、ユーザの指定に応じて、またはユーザの要求の有無に関わらずユーザが要求する傾向の送配電計画を生成してもよい。また、支援装置10が、上記の送配電計画の生成に用いるモデル情報110が、上記のような各傾向の送配電計画を生成するように構成されていてもよいし、支援装置10が、各傾向に応じたパラメータをモデル情報110に適用(入力)することで、パラメータに対応する傾向の送配電計画をモデル情報110に出力させてもよい。
【0084】
支援装置10は、上述したように将来の対象エリアの気象情報を用いて送配電計画を生成するが、過去に予測した将来の気象情報が実際の気象の状態と異なる場合や、予測が以前の予測と異なる場合、この場合に利用されるレジリエンスが確保可能なバックアップの送配電計画を生成してもよい。バックアップの送配電計画とは、予測が外れた場合であっても、ある程度の品質(例えば電力供給の安定性、効率や設備に対する負荷の軽減)を満たす送配電計画である。例えば、支援装置10は、複数のバックアップの送配電計画のうち予め選択、又は事後的に選択されたバックアップの送配電計画を、送配電計画に代えて実行する。
【0085】
上記の送配電計画の生成に用いるモデル情報110が、上記のようなバックアップの送配電計画を生成するように構成されていてもよいし、支援装置10が、バックアップの送配電計画を生成するために用意したパラメータをモデル情報110に適用(入力)することで、パラメータに対応するバックアップの送配電計画をモデル情報110に出力させてもよい。
【0086】
最適化計画算出部60は、電力設備の総所有コストを減価償却期間の関数として決定された電力の需要を満足させるための投資コストの合計における電力設備の収入を得て電力設備の総合的な経済的収益性を決定するために、電気料金を含む電力設備の収入、及び発電燃料、設備投資費用を含む支出により電力設備の総所有コストを評価する。例えば、収入から、投資コストの合計や発電燃料、設備投資費用(メンテンナンスや撤去費用などを含む)などを減算した値に基づいて、運用に関する評価を行う。管理者は、この評価を参照して、どのような送電の計画及び設備投資の計画が適切であるかを判断することができる。
【0087】
以下は、電力設備の総所有コストの評価の一例である。ある時間的断面の収益は下記の関係式から導出可能である。
ある断面の収益 = 電力設備の収入(入)+ 発電燃料費(出)+設備投資費用(人的オペレーションも含む)(出)
これは発電事業の例で、設備投資費用は減価償却も考慮が必要である。
送配電事業者にとっては、下記となる。
ある断面の収益 = 電力設備の収入(託送料)(入)+設備投資費用(人的オペレーションも含む)(出)
また、総所有コストを構成する要素の代表例としては下記がある。
見えるコスト:設備投資費用、ソフトウェアのライセンス費用
見えにくいコスト:メンテナンス費、トレーニング費、設備のセットアップ費、修理・補修費
【0088】
以上説明した第1実施形態では、支援装置は、電力系統設備のモデル化のための情報量増加と精度向上により、ひいては将来の電気的諸現象など電力系統の振舞いのシミュレーションによる予測の精度向上、時々刻々と変化する周辺環境による影響の反映による将来のシミュレーションによる予測と実現象の誤差の抑制をする。更に、支援装置10は、これら現在、及び将来の電力系統上の諸現象のシミュレーションによる予測と実現象の誤差を最小化することにより、関連・連係する経営の意思決定問題を解決する種々システムと、現在、及び将来の電力系統上の諸現象のシミュレーションによる予測結果を共有することにより、それぞれの機能、装置、及びシステムが負う機能・性能を向上することができる。また、支援装置10は、将来の気象情報などが予測と異なる場合であっても、バックアッププランの実行によりエネルギー供給のレジリエンスを向上させることができる。また、支援装置10は、系統の実際の容量把握により空き容量増加、再エネ抑制を縮小したり、送配電網の混雑緩和により発電と消費間の最大効率を追求したりすることができる。
【0089】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、インターネット上のSNS(Social Networking Service)の情報が更に利用される。
図13は、第2実施形態の支援システム1の構成の一例を示す図である。支援装置10は、ネットワークNWを介して、取得した現在及び将来の環境情報(天候情報や気象情報)、社会の環境情報パターンを取得し、取得した情報を上述した各種処理に用いる。支援装置10の需要予測部40又は発電予測部50は、ネットワークNWを介して取得した情報により、対象エリア内のエネルギーの需要及び/又は供給を予測したり、電力設備が設置された環境を認識したり、予測したりすることができる。
【0090】
更に、支援装置10の最適化計画算出部60は、ネットワークNWを介して取得した情報を用いて、各種計画を生成することができる。支援装置10は、電力系統の電圧、電流、及び系統設備のパラメータを使った系統の諸々の電気現象シミュレーシに対して、SNSの情報を取り込み、各種計画を生成してもよい。例えば、電気現象のシミュレーションとは、第1実施形態で説明した手法や他のシミュレーションモデルである。
【0091】
例えば、上記のシミュレーションモデルの厳密化、精度向上の観点で送電線周辺の気温、湿度、日射、風速などは実際の線路定数同定のための有益なパラメータとなる。現地の気温、湿度、日射、風速などはセンサの設置とそのセンサ情報を収集する通信網の整備が必要であるが、センサの設置と通信網の整備にはその密度と設備コストのバランスが大きな課題となる。しかし、SNS上での種々書込みや散在する情報を収集して所謂ビッグデータとして解析することで、公的機関が従来の手法で公開している気象情報や天候予報と同等以上の情報量と精度を達成することができる。
【0092】
以上説明した第2実施形態によれば、支援装置10は、上記のようにインターネット上のSNSの情報などが、ピックアップ・分析されてエネルギーの需要又は供給の予測に関する精度向上及び適切な各種計画の生成に寄与することができる。
【0093】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について説明する。第1及び第2実施形態では、複数のスコアを算出し、そのスコアを用いて運用計画等を生成するものとした。第3実施形態では、演算モデルを用いて運用計画を生成する。以下、第3実施形態について第1又は第2実施形態との相違点を中心に説明する。
【0094】
図14は、第3実施形態の演算モデルについて説明するための図である。第3実施形態の支援装置10は、電力系統に関する情報(例えば変圧器及び送電線を含む電力設備の情報)や、需要予測データ、設備コストモデル、気象情報、SNSからの情報を演算モデル(制約付き最適化アルゴリズム)に入力する。演算モデルは、上記の情報が入力されると、運用計画や運用計画に対応するコスト、メンテンナンスや撤去などの管理のスケジュールを出力する。制約とは、例えば、送電効率が閾値以上となることや、コストが閾値以下となること、電力設備に掛かる負荷が閾値以下となることなどの所望の制約である。
【0095】
演算モデルは、例えば、ニューラルネットワークなどの機械学習モデルである。この演算モデルは、例えば、学習データが学習された情報である。学習データは、例えば、運用計画、運用計画に対するコスト、及び管理のスケジュールの組み合わせに対して、演算モデルに入力される情報が対応付けられた情報である。演算モデルは、例えば、情報が入力されると、この入力された情報に対応する運用計画、運用計画に対するコスト、及び管理のスケジュールが出力されるように学習されたモデルである。
【0096】
以上説明した第3実施形態によれば、支援装置10が、演算モデルを用いることにより、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0097】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について説明する。第4実施形態では、設備構築計画・運用支援システムが、経営の意思決定問題を解決するために利用される端末装置(以下、端末装置)を有する。
【0098】
図15は、第4実施形態の設備構築計画・運用支援システム1Aの構成の一例を示す図である。設備構築計画・運用支援システム1Aは、支援装置10に加えて、端末装置200を備える。支援装置10は、生成した情報(各種計画)を端末装置200に提供する。この端末装置200は、例えば設備調達、燃料調達、配船計画、設備停止計画、人員配置計画などの各種処理に用いられる装置である。端末装置200は、支援装置10により提供された情報(各種計画)を用いて、各種処理を行う。端末装置200は、各種計画を読み込んで、処理を行ってよいし、各種計画に基づいてユーザが行った操作に応じて処理を行ってもよい。
【0099】
以上説明した第4実施形態によれば、支援装置10は、経営の意思決定問題を解決するための支援を行うことができる。
【0100】
(その他)
上述した例では、対象エリアには電力設備が含まれるものとして説明した。対象エリアには、下記の設備の一部又は全部を包含してもよい。すなわち、設備構築計画・運用支援システム1の処理は、管理エリアの大小、電圧階級の高低、事業領域、事業者には依存しない。
・HEMS=Home EMS:家庭用のEMS
・MEMS=Mansion EMS:集合住宅(マンション)用のEMS
・BEMS=Building EMS:商業ビル用のEMS
・FEMS=Factory EMS:工場用のEMS
・CEMS=Cluster/Community EMS:地域用のEMS
【0101】
また、設備構築計画・運用支援システム1は、具体的には下記機能要件を管理の対象とする。設備構築計画・運用支援システム1は、対象エリアの電力使用量の可視化、節電(CO2削減)のためのシステム・機器制御、ソーラー発電機等の再生可能エネルギーや蓄電器の制御等を行う。設備構築計画・運用支援システム1は、それぞれ管理対象は違うが、電力需要と電力供給の監視と制御をするというシステムの基本機能要件は共通であり、少なくとも、電気又は電力などのエネルギーの使用状況を「見える化」、「見える化」したエネルギーの使用状況の分析、燃料消費や設備稼働などの削減可能な個所を見つけ、燃料や運用コストの削減につなげる。
【0102】
(まとめ)
上述したように、支援装置10は、従来の変圧器や送電線個々のダイナミックレイティングの範囲を面的に広げ、かつ時間的断面の概念をも加味して、面的なエリア内と時間的断面での目的関数の最適解を求めることができる。これには、従来単独の変圧器や送電線の容量評価であったものを、面的かつ時間的断面の広がりを設けることができる。
【0103】
さらに、現在かつ将来の気象情報など、電力の需要と発生に関わる周辺情報をインターネット上のSNS情報などからピックアップ・分析してシミュレーション範囲拡大と精度向上に寄与するパラメータとして与え、管理エリア内の将来のエネルギーの需要量及び又は発電量を予測する需給予測部を設け、需給予測部のリアルタイムな予測結果に基づいて、管理エリア内の電力需給制御と、その他設備計画管理システム、設備運用システム、経理システムなど、エネルギー事業経営における経営の意思決定に関わる種々のシステムとの連係機能を設けるようにした。
【0104】
これにより設備構築計画・運用支援システムにおける電力設備のモデル化のための情報量増加と精度向上により、ひいては将来の電気的現象など電力系統設備の振舞いのシミュレーションによる予測の精度向上、時々刻々と変化する周辺環境による影響の反映による将来のシミュレーション予測と実現象の誤差を抑制し、設備投資の最適化と設備運用の効率化に寄与することができる。
【0105】
なお、第1実施形態から第4実施形態のうち、一部又は全部は任意に組み合わせてれ実施されてもよい。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。