(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】商用車用の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20240227BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20240227BHJP
B62D 7/14 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D6/00
B62D7/14 Z
(21)【出願番号】P 2022547975
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2021051954
(87)【国際公開番号】W WO2021156132
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】102020103150.5
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イェンス-ハウケ ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー コーガン
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0031295(US,A1)
【文献】特開2009-120097(JP,A)
【文献】特開2010-105457(JP,A)
【文献】特開2009-096213(JP,A)
【文献】特開2019-001273(JP,A)
【文献】特開2003-343682(JP,A)
【文献】特開平7-172332(JP,A)
【文献】特開昭62-218282(JP,A)
【文献】実開平5-26732(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
B62D 6/00
B62D 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用車用の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置であって、
2つのステアリング装置(1a,1b)を備え、前記ステアリング装置は、前記商用車の車輪(6a,6b,6c,6d)のための各ステアリングリンケージ(5a,5b)を操作するためのそれぞれ1つの駆動ユニット(4)を含み、各前記駆動ユニット(4)は、それぞれ1つの電気モータ(7)を有し、前記デュアルサーキットステアリング装置は、前記電気モータ(7)にエネルギを供給するための主電流供給部(8)を有している、デュアルサーキットステアリング装置において、
前記デュアルサーキットステアリング装置は、前記主電流供給部(8)の故障の際に
一方の前記ステアリング装置(1a)の電気モータ(7)にエネルギを供給するための少なくとも1つの非常用電流供給部(9)を有して
おり、他方の前記ステアリング装置(1b)が不動にセットされることを特徴とする、電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項2】
前記デュアルサーキットステアリング装置は、1つの電気モータ(7)につき、
独立した非常用電流供給部(9)を含む、請求項1記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項3】
前記非常用電流供給部(9)は、前記商用車の進行によって駆動されるように、且つ前記電気モータ(7)のうちの少なくとも1つにエネルギを供給するように構成されているジェネレータ(17)を有している、請求項1または2記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項4】
前記非常用電流供給部(9)は、前記電気モータ(7)に供給するためのエネルギ貯蔵部(11)を
有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項5】
前記非常用電流供給部(9)は、前記主電流供給部(8)の故障の際に、前記ステアリングリンケージ(5a,5b)からの戻し力の回生により前記エネルギ貯蔵部(11)を充電するように構成されている、請求項4記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項6】
前記エネルギ貯蔵部(11)はアキュムレータを有
する、請求項4または5記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項7】
各ステアリング装置(1a,1b)は、
閉鎖された固有のステアリングハウジング(12)を有していて、少なくとも1つのステアリングハウジング(12)には前記非常用電流供給部(9)ならびに各前記駆動ユニット(4)が配置されて
いる、請求項1から6までのいずれか1項記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項8】
前記ステアリングリンケージ(5a,5b)を操作するための力は、各前記電気モータ(7)のみから生じる、請求項1から
7までのいずれか1項記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項9】
前記デュアルサーキットステアリング装置は、前記商用車の無人運転のための自律走行制御システムによって前記電気モータ(7)を駆動制御するためのデータインタフェース(19)を含んでいる、請求項1から
8までのいずれか1項記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項10】
前記デュアルサーキットステアリング装置は、前記商用車の方向選択エレメントに配置されたセンサを有していて、前記センサは、目標操舵角を検出し、前記デュアルサーキットステアリング装置のモータ制御モジュール(18)に伝達し、前記モータ制御モジュールは、検出された前記目標操舵角に基づき前記電気モータ(7)を駆動制御
する、請求項1から
9までのいずれか1項記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項11】
前記ステアリングリンケージ(5a,5b)を操作するための各前記電気モータ(7)は、リニアアクチュエータ(16)を含
む、請求項1から
10までのいずれか1項記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項12】
各前記電気モータ(7)は、中空軸として形成されたロータ(13)を有し、前記ロータは、前記駆動ユニット(4)のスピンドルナット(14)に相対回動不能に接続されていて、前記スピンドルナット(14)は、前記ステアリングリンケージ(5a,5b)を操作するために、前記駆動ユニット(4)に含まれるねじスピンドル(15)を駆動するように構成されている、請求項1から
11までのいずれか1項記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置。
【請求項13】
請求項1から
12までのいずれか1項記載の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置を有していることを特徴とする商用車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念による商用車用の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置ならびに商用車に関する。
【0002】
商用車の操舵のためには、通常、液圧式のデュアルサーキットステアリング装置が使用される。このデュアルサーキットステアリング装置は、各固有のステアリングアクスルのための2つのステアリング装置から成り、この場合、運転者の操舵力は液圧により支援される。通常運転では、両ステアリング装置が、自動車の主エンジンによって駆動される液圧ポンプによって液圧支援を受ける。冗長的な設計のために、走行に依存して駆動される非常用ステアリングポンプが必要であり、主エンジンの故障時に、この非常用ステアリングポンプに切り替えられる。この場合、同時に、非常用ステアリングポンプが過剰に負荷されないように、両ステアリングアクスルの一方は液圧による支援から分離される。これにより、主エンジンの故障の際でも商用車の操舵可能性が保証される。
【0003】
液圧式のシステムは、電気的なステアリング支援に比べて複雑であるので、電気支援式のステアリング装置がますます頻繁に使用されている。この場合、運転者の操舵力は、米国特許出願公開第20120241244号明細書と同様に、ギヤを介して実際のステアリングアクスルに係合する電気モータによって支援される。液圧支援式の第1のステアリングアクスルと、電気的に操作される第2のステアリングアクスルとの組み合わせも公知である。このようなデュアルサーキットステアリング装置は、例えば独国特許出願公開第19910001号明細書に見ることができる。このステアリング装置により、商用車の第2の、頻繁には後方の軸のための液圧管路を省くことができる。省かれた液圧管路の代わりに、第2の軸に通じるケーブルが1つだけ必要である。
【0004】
一連の自律走行においては、運転者とステアリング装置との機械的な連結を完全に省き、ステアリング装置を、専ら電気モータを介して操作するステアリング装置も使用される。独国特許出願公開第102012212608号明細書には、そのために、直接にステアリングアクスルを駆動する中空軸として構成されたロータを備える電気モータが示されている。したがって、この車両は、運転者の関与なくステアリング装置を制御でき、自律走行運転、またはステアリング装置への車両の独立的な介入が可能となる。
【0005】
しかしながら、電気支援式の、または純粋に電気的に作動されるステアリング装置では、主電流供給部が故障すると、車両の操舵は、パワーアシストなしで困難にしか行えなくなる、またはもはや全く不可能になる。
【0006】
本発明の課題は、従来技術を起点として、商用車用の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置の作動を、故障に対してより効果的に保証することである。
【0007】
この課題は、請求項1の上位概念の特徴を有する電気機械式デュアルサーキットステアリング装置に関しては、請求項1の特徴部記載の特徴により解決される。この課題は、商用車に関しては、請求項14の特徴を有する商用車により解決される。
【0008】
本発明にとって重要であるのは、主電流供給部が故障した場合に、ステアリング装置のうちの少なくとも1つに電気エネルギを供給する非常用電流供給部が作動させられ、これによって商用車の安全な操舵が可能であり続けることである。これにより、冗長設計された液圧式のデュアルサーキットステアリング装置の利点が、手間が少なく省メンテナンスな電気機械式デュアルサーキットステアリング装置の利点と組み合わせられる。
【0009】
本発明による電気機械式デュアルサーキットステアリング装置は、商用車のためのものであり、商用車の車輪用の各ステアリングリンケージを操作するための各1つの駆動ユニットを有した2つのステアリング装置を含んでいる。これらの2つのステアリング装置は、好ましくは、商用車の異なる2つの軸に取り付けられている。これにより、商用車の走行挙動が改善され、旋回サークルが小さくなる。車輪のステアリングリンケージは、例えば、各車輪の車輪ハブに作用することができ、これにより、回転軸線を中心として車輪を回転させることができ、これにより車両の操舵が可能となる。この場合、第1の車軸の車輪は、第2の車軸の車輪と同じ方向に回転することができ、これによって、より高速での改善された走行挙動が得られる。しかしながら、両車軸の車輪を逆向きに回転させることもでき、これにより、低速においてより小さな旋回サークルが得られる。
【0010】
本発明によれば、ステアリング装置の各駆動ユニットは、各1つの電気モータを含んでいる。さらに、本発明によるデュアルサーキットステアリング装置は、電気モータに電気エネルギを供給するための主電流供給部を含んでいる。電気モータは、ステアリング装置のステアリングシャフトを操作することができる。この場合、電気モータはステアリングシャフトに直接係合することができる、またはギヤによって接続することができる。その他の連結も考えられる。電気モータは、ステアリングシャフトを旋回させることができ、この場合、旋回運動はステアリング装置のステアリングギヤによって、ステアリングリンケージの1つのステアリングロッドの並進運動に変換される。このようにして、車輪のステアリングリンケージが操作される。
【0011】
この電気機械式デュアルサーキットステアリング装置は、デュアルサーキットステアリング装置が、主電流供給部の故障の際に少なくとも1つの電気モータにエネルギを供給するための少なくとも1つの非常用電流供給部を有していることを特徴としている。商用車の主電流供給部が故障した場合には、非常用電流供給部がステアリング装置の1つのまたは複数の電気モータに電気エネルギを供給することにより、非常用電流供給部が商用車の操舵性を維持することができる。したがって、車両を例えば安全に静止させることができる、または非常用電流供給部の設計に応じて妨げられることなく引き続き運転することができる。
【0012】
非常用電流供給部が過剰に消耗されないように、すべての電気モータに電流を供給しないことが有利な場合がある。したがって、例えば一方のステアリング装置を不動にセットし、商用車を操舵するために、他方のステアリングのみを使用することができる。それゆえ、デュアルサーキットステアリング装置の好ましい実施形態は、非常用電流供給部が、1つの電気モータのみにエネルギを供給するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
しかしながら、非常用電流供給にとって可能であるならば、両ステアリング装置に電気エネルギを供給することもできる。したがって、デュアルサーキットステアリング装置の別の好ましい実施形態では、デュアルサーキットステアリング装置は、主電流供給部の故障の際に、すべての電気モータにエネルギを供給するための1つの非常用電流供給部を有していることが想定されている。非常用電流供給部のシステムを可能な限り簡単に維持し、すべての構成部品を二重に構成する必要がないようにするためには、ステアリング装置のすべての電気モータに電気エネルギを供給する1つの非常用電流供給部を構成することが有利であり得る。これにより、この非常用電流供給部から各電気モータへのケーブル接続を設けるだけでよい。この場合、個々のステアリング装置のための個別の周辺部材を省くことができる。
【0014】
したがって、本発明によるデュアルサーキットステアリング装置の好ましい実施形態によれば、デュアルサーキットステアリング装置は、デュアルサーキットステアリング装置が、1つの電気モータにつき、実質的に独立した1つの非常用電流供給部を含むことを特徴としている。この態様では、各ステアリング装置に対して固有の非常電流供給部が設けられている。これにより、主電流供給部が故障した場合にも、改善された走行挙動のような、デュアルサーキットステアリング装置のすべての利点が維持されるという利点が得られる。付加的に、このデュアルサーキットステアリング装置は、1つの非常用電流供給部が故障した場合でも、商用車を操舵可能に維持するという利点を提供する。
【0015】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置のさらなる好ましい実施形態は、非常用電流供給部が、商用車の進行によって駆動され、電気モータのうちの少なくとも1つにエネルギを供給するように構成されているジェネレータを有していることを特徴としている。この態様によれば、例えば商用車の駆動軸に連結されている付加的なジェネレータが設けられており、これにより、このジェネレータは、商用車が進行するとすぐに、商用車のエンジンが回転するかどうかには依存せずに、回転する。このようにして、走行運転中にエンジンの停止状態においても電気エネルギの供給を保証することができる。停止状態では、バッファ貯蔵部との組み合わせにより、同様に電気エネルギをステアリング装置に一時的に供給することが保証できるので、停止状態でも操舵支援もしくは操舵が可能であり、これについては以下でより詳細に説明する。
【0016】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置の別の好ましい実施形態によれば、デュアルサーキットステアリング装置は、非常用電流供給部が、電気モータに供給するためのエネルギ貯蔵部を含むことを特徴としている。さらに好ましくは、非常用電流供給部は、エネルギ貯蔵部を充電状態に保持するように構成されている。好ましくは、このエネルギ貯蔵部はコンデンサである。この場合、コンデンサは、非常運転中にステアリング装置を作動させるためのエネルギ源を形成している。コンデンサのサイズに応じて、ステアリング装置の作動を、商用車をただちに安全に停止させるための短い時間に設定することが、または容量がより大きい場合には、例えば、商用車を道路から安全な停車場所へと誘導するためにより長い時間に設定することができる。非常用電流供給部への直接の切換ができるようにするために、コンデンサは充電状態に保持されなければならない。
【0017】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置の好ましい実施形態は、非常用電流供給部が、主電流供給部の故障の際に、ステアリングリンケージからの戻し力の回生によりエネルギ貯蔵部を充電するように構成されていることを特徴としている。走行運転中で、商用車の車輪が変位した場合、車輪を中間位置の方向に再び押し戻そうとする戻し力が生じる。この戻し力は、回生により利用することができる。ステアリングリンケージの操作のために、電気モータは回転しなければならない。ステアリング装置の戻し力がステアリングシャフトを逆回転させるならば、必然的に電気モータが一緒に回転し、ジェネレータモードで再び電気エネルギを生成することができる。この電気エネルギを、コンデンサの充電のために利用することができる。したがって、好ましくは、電気モータは、ジェネレータモードにおいて戻し力による回転の際にエネルギ貯蔵部を充電するように構成されている。これにより、可能な非常用電流モードを延長することができる、またはより低コストに形成するためには小さな容量を有するより小さなコンデンサを設計することができる。さらに、コンデンサは、極めて高い電流により高速充電することができるので、回生によりエネルギを吸収するために良好に適している。
【0018】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置の好ましい実施形態によれば、デュアルサーキットステアリング装置は、非常用電流供給部がアキュムレータを含むことを特徴としている。上述した態様によりジェネレータが設けられているならば、エネルギ貯蔵部、および特にアキュムレータは、電気モータにエネルギを供給するためのジェネレータのための中間貯蔵部として機能することができる。このようにして、ステアリングリン装置にエネルギが供給される。
【0019】
場合によっては、ステアリング装置への供給のために、より大容量のエネルギ貯蔵部が必要とされる。好適にはアキュムレータは、リチウムイオン充電池、リチウムポリマー充電池、鉛蓄電池またはニッケル水素充電池である。このようなアキュムレータは、コンデンサに比べて容量が格段に大きくなっており、これにより非常用電流供給をより長く保証することができる。
【0020】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置のさらなる好ましい実施形態によれば、デュアルサーキットステアリング装置は、各ステアリング装置が、実質的に閉鎖された固有のステアリングハウジングを有していて、ステアリング装置の少なくとも1つのステアリングハウジングには非常用電流供給部ならびに各駆動ユニットが配置されていることを特徴としている。このような構造により、ステアリングギヤは、実質的にユニットとしてとどまっているので、ステアリング装置の別の大きなモジュールは生じない。しかしながら、ステアリング装置の個々の構成部分が、または非常用電流供給部が、ステアリングハウジングの外側に位置することを排除するものではない。好ましくは、エネルギ貯蔵部、特にコンデンサは、ステアリングハウジング内に配置されている。好ましくは、ジェネレータは、ステアリングハウジングの外側に、例えば、商用車の駆動軸上に配置されている。
【0021】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置の別の好ましい実施形態は、ステアリングリンケージを操作するための力が、各電気モータのみから生じることを特徴としている。車両を、例えば自律的に走行できるように、または自主的に操舵介入を行えるようにすべき場合には、ステアリングシステムは、運転者の操舵力を増幅させるだけでなく、その上さらに固有の力のみによってステアリング装置を操作できるようにすべきである。したがって、このような場合には、ステアリングリンケージを操作するための力は、電気モータのみから生じさせることができる。
【0022】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置の好ましい実施形態によれば、デュアルサーキットステアリング装置は、デュアルサーキットステアリング装置が、商用車の無人運転のための高度な自律走行制御システムによって電気モータを駆動制御するためのデータインタフェースを含んでいることを特徴としている。このような高度な自律走行制御システムは、「高自律運転システム(highly autonomous driving system)」と呼ばれる。無人走行モードのためには、ステアリング装置の目下の状態を検出および制御するために、ステアリングホイールおよびステアリング装置における種々のセンサが必要となる。このために、ステアリング装置にはデータインタフェースが必要であり、このデータインタフェースは、例えば操舵角、操舵力、エンジンパラメータ、制御命令またはこれに類するデータを処理する。このようにして、高自律運転システムは、ステアリング装置に介入し、ステアリング装置を読み出し、制御することができる。
【0023】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置の別の好ましい実施形態によれば、デュアルサーキットステアリング装置は、デュアルサーキットステアリング装置が、商用車の方向選択エレメントに配置されたセンサを有していて、このセンサは、目標操舵角を検出し、デュアルサーキットステアリング装置のモータ制御モジュールに伝達し、モータ制御モジュールは、検出された目標操舵角に基づき電気モータを駆動制御することを特徴としている。例えばステアリングホイールのような、車両の方向選択エレメントは、センサによって実際の位置を、ひいては目標操舵角を1つまたは複数のセンサによって検出し、ステアリング装置のモータ制御モジュールへと伝達する。これにより、制御モジュールはこの目標操舵角をモータ制御信号へと変換し、ステアリング装置を相応に操作することができる。これにより、商用車の方向選択エレメントと商用車の実際のステアリング装置との間の機械的な接続は、必ずしも必要ではない。好ましくは、目標操舵角は、実際の操舵角と比較される。これによりステアリング装置の電気モータの開ループ制御および閉ループ制御は改善されて、より高い走行快適性ならびに向上した安全性が得られる。
【0024】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置の好ましい実施形態は、ステアリングリンケージを操作するための各電気モータは、リニアアクチュエータを含むことを特徴としている。電気モータの回転運動をギヤによって並進運動に変換することを省くことができるように、リニアアクチュエータが提供される。これにより、その構造に基づき、ステアリングリンケージの操作に必要な並進運動が直接実施される。好ましくは、リニアアクチュエータは、ソレノイドを有している。この構造は、例えば振動式コイル構造に比べて、ステアリング装置を確実に操作することのできるより高い作動力をより簡単に得ることができるという利点を有している。ソレノイドの直接駆動により、ギヤ式駆動装置に比べて極めて高い作動速度と僅かな作動時間とが得られる。
【0025】
本発明によるデュアルサーキットステアリング装置の別の好ましい実施形態は、各電気モータが、中空軸として形成されたロータを有し、このロータは、駆動ユニットのスピンドルナットに相対回動不能に接続されていて、スピンドルナットは、ステアリングリンケージを操作するために、駆動ユニットに含まれるねじスピンドルを駆動するように構成されていることを特徴としている。この実施形態は、電気モータと、ステアリング伝動機構のねじスピンドルとの間にさらなる伝動機構を必要としない。この場合、ロータは、スピンドルナットに接続されていて、これにより直接、ねじスピンドルを駆動する。モータが軸の周囲に実質的に省スペースに配置されていることが利点である。
【0026】
本発明による商用車は、本発明による電気機械式デュアルサーキットステアリング装置を有していることを特徴としている。
【0027】
本発明による電気機械式デュアルサーキットステアリング装置の好ましい構成、特徴、および利点は、本発明による商用車にも関するものであり、その逆も同様である。
【0028】
次に図面を参照しながら本発明を詳説する。これは例示的なものとしてのみ理解されるべきであり、本発明は、図示された実施例に限定されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】電気機械式デュアルサーキットステアリング装置を示す概略図である。
【
図2】本発明による電気機械式デュアルサーキットステアリング装置の第1の実施例のステアリング装置の断面図である。
【
図3】本発明による電気機械式デュアルサーキットステアリング装置の第2の実施例のステアリング装置の断面図である。
【
図4】本発明による電気機械式デュアルサーキットステアリング装置の第3の実施例のステアリング装置の平面図である。
【0030】
図1は、商用車用の電気機械式デュアルサーキットステアリング装置の基本的構造を概略図で示している。このデュアルサーキットステアリング装置は、2つのステアリング装置1a,1bを有していて、すなわち、特に、商用車の前方のステアリングアクスル2aおよび後方のステアリングアクスル2bのためにそれぞれ1つのステアリング装置1a,1bを有している。さらに、ここでは詳細には示していない形式でステアリング装置1a,1bに電気的に接続されている、商用車のステアリングホイールとして構成された方向選択エレメント3、ステアリング装置1a,1bをそれぞれのステアリングアクスル2a,2bに接続するステアリングリンケージ5a,5b、ならびに車輪6a,6b,6c,6dも示されている。この構造は、以下に説明するすべての実施例に当てはまる。以下の説明では、一方の個別のステアリング装置1a,1bについて説明するが、それぞれ他方のステアリング装置1a,1bも同一に構成されている。
【0031】
電気機械式デュアルサーキットステアリング装置の第1の実施例については、駆動ユニット4を備えたステアリング装置1aが
図2に示されており、この場合、駆動ユニット4は、ステアリング装置1aの、実質的に閉じられたステアリングハウジング12内に配置されている。この駆動ユニット4の電気モータ7には、通常運転では、主電流供給部8としての搭載電源網から電気エネルギが供給される。その他にステアリング装置1aは、電気モータ7用の非常用電流供給部9の、コンデンサ10として構成されたエネルギ貯蔵部11を有し、この非常用電流供給部9は、主電流供給部8が故障した場合に、電気モータ7に供給する。電気モータ7のロータ13は、各ステアリングリンケージ5a,5bを操作するためのスピンドルナット14とねじスピンドル15とを備えている。
【0032】
第2の実施例の駆動ユニット4を備えたステアリング装置1aが
図3に示されている。この第2の実施例は、基本的に第1の実施例に相当するが、ここでは電気モータ7が、各ステアリングリンケージ5a,5bを操作するための、ソレノイドとして構成されたリニアアクチュエータ16を有している。
【0033】
最後に、第3の実施例の駆動ユニット4を備えたステアリング装置1aが
図4に示されている。この実施例では、非常用電流供給部9は、コンデンサ10として構成されたエネルギ貯蔵部11と、ステアリングハウジングの外側に配置されたジェネレータ17とを有している。ジェネレータは、走行に依存して駆動され、その際、電気モータ7に給電し、中間貯蔵部として機能するコンデンサ10を充電する。このようにして、コンデンサ10は、充電状態で保持される。デュアルサーキットステアリング装置のこの実施例はさらに、モータ制御モジュール18を有し、このモータ制御モジュールには、方向選択エレメント3におけるセンサによって検出された目標操舵角が伝達される。これにより、モータ制御モジュール18は、検出された目標操舵角に応じて電気モータ7を駆動制御する。このようにして、ステア・バイ・ワイヤ機能が実現される。これに加えて、モータ制御モジュール18は、自律走行制御システムのためのデータインタフェース19も形成し、これによって、商用車の無人運転が可能になる。