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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】非水電解質電池及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240227BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240227BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240227BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240227BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240227BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240227BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/485
H01M10/0569
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022579239
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2021004113
(87)【国際公開番号】W WO2022168233
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 夏希
(72)【発明者】
【氏名】西尾 尚己
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】原 諒
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/108106(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105539(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/129756(WO,A1)
【文献】特開2016-066461(JP,A)
【文献】特開2008-041402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1.2、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として含む正極と、
Li反応電位に対し0.5V以上高い電位で反応する負極活物質を含む負極と、
非水電解質とを含み、
前記負極活物質は、Li 4+x Ti 5 12 (xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)で表されるスピネル型チタン酸リチウム、Li 2+x Ti 3 7 (xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)で表されるラムスデライト型チタン酸リチウム、Nb 2 TiO 7 で表されるニオブチタン複合酸化物、又は、P、V、Sn、Cu、NiおよびFeからなる群より選択される少なくとも1種類の元素とTiとを含有する金属複合酸化物を含み、
下記(1)式と(2)式を満たす、非水電解質電池。
3≦A/B≦15 (1)
1.2≦a/b≦2.4 (2)
但し、Aは前記正極活物質の平均一次粒子径であり、Bは前記負極活物質の平均一次粒子径であり、aは前記正極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径で、bは前記負極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径である。
【請求項2】
前記正極活物質の平均一次粒子径Aは2μm以上6μm以下であり、前記負極活物質の平均一次粒子径Bは0.15μm以上1μm以下である、請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記正極の細孔メディアン径aは、0.15μm以上0.22μm以下であり、前記負極の細孔メディアン径bは、0.08μm以上0.15μm以下である、請求項1または2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記正極は、CuKα線を使用した粉末X線回折パターンにおいて、2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークの半値幅が0.06°以上0.14°以下であり、かつ下記(3)式を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
1.3≦C/D (3)
但し、Cは、前記粉末X線回折パターンの2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける積分強度で、Dは、前記粉末X線回折パターンの2θ=44.4±1°の範囲内のピークにおける積分強度である。
【請求項5】
前記非水電解質は、ジエチルカーボネートおよびジフルオロリン酸塩を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
【請求項6】
前記負極の表面に対する光電子分光測定によって得られるスペクトルにおいて、689~680eVの範囲内に現れるF1sのピーク強度のうち、684~680eVの範囲内に現れるLi-F結合に帰属されるピーク強度の割合が20%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質電池を含む、電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非水電解質電池及び電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池は近年、ハイブリッド自動車や電気自動車のほか、電動航空機や電力貯蔵用などの大型システムへの適用が期待されており、大容量特性、大電流出力特性、また高温環境下における長寿命性などの向上が求められている。非水電解質電池の活物質として、大容量特性に優れる活物質としては、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなどがある。正極にニッケルコバルトマンガン酸リチウム、負極にチタン酸リチウムを用いた電池等では、サイクル時に正極のニッケルコバルトマンガン酸リチウム粒子の割れや岩塩型等の劣化構造への変化などが発生し寿命が悪いという課題がある。
ニッケルコバルトマンガン酸リチウムは、粒子形状の細かい一次粒子が凝集した、二次粒子を形成する多結晶系が一般的であるが、このような比表面積の高い正極を用いると、特に高電位を使用するサイクルやカレンダ試験において正極と電解液の酸化反応が起こりやすく、ガス発生や抵抗上昇が顕著である。
また、負極活物質としてLi反応電位に対し0.5V以上高い電位で反応する、例えばスピネル型チタン酸リチウム(LiTi12)を用いると、リチウムデンドライトの析出を抑制できる。その結果、短絡、自己放電及び発火などの危険性を回避することができ、寿命性能に優れた電池を作製することが可能になることが知られている。また、比表面積を大きくすることで高出力化が可能になる。しかし、比表面積を大きくすると負極に吸着する水分量が増える。負極に付着した水分は、電池作動中、電極反応によって電気分解されて水素および酸素を生成するため、ガス発生量が多くなってしまう。また非水電解質に含まれているリチウム化合物と反応して負極上にフッ化リチウム(LiF)を生成し得る。LiFが電極上に存在すると、電極活物質へのリチウムの挿入を妨げるため、好ましくない。さらに、LiFは電気抵抗成分であるため、電気抵抗を増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2018-098218号公報
【文献】日本国特表2018-515884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、優れた寿命性能を示す非水電解質電池及び電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、正極と、負極と、非水電解質とを含む非水電解質電池が提供される。正極は、LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1.2、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として含む。負極は、Li反応電位に対し0.5V以上高い電位で反応する負極活物質を含む。負極活物質は、Li 4+x Ti 5 12 (xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)で表されるスピネル型チタン酸リチウム、Li 2+x Ti 3 7 (xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)で表されるラムスデライト型チタン酸リチウム、Nb 2 TiO 7 で表されるニオブチタン複合酸化物、又は、P、V、Sn、Cu、NiおよびFeからなる群より選択される少なくとも1種類の元素とTiとを含有する金属複合酸化物を含む。非水電解質電池は、下記(1)式と(2)式を満たす。
3≦A/B≦15 (1)
1.2≦a/b≦2.4 (2)
但し、Aは正極活物質の平均一次粒子径であり、Bは負極活物質の平均一次粒子径であり、aは正極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径で、bは負極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径である。
【0006】
他の実施形態によると、電池パックが提供される。電池パックは、実施形態に係る非水電解質電池を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】SOC(state of charge)が0%から100%までの正極電位と負極電位の変化例を示す電位曲線。
図2】SOCが0%から100%までの正極電位と負極電位の変化の別の例を示す電位曲線。
図3】実施形態に係る非水電解質電池の一例の分解斜視図。
図4図3に示す非水電解質電池に用いられる電極群の部分展開斜視図。
図5】実施形態に係る電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
図6】実施例3及び比較例1の正極について、粉末X線回折パターンを示す図。
図7】実施例3及び比較例1の正極について、粉末X線回折パターンを示す図。
【実施形態】
【0008】
ニッケルコバルトマンガン酸リチウムはサイクルに伴い粒子割れや岩塩型等の劣化構造への変化などが発生し寿命が悪いという課題がある。そこで、一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなるリチウム複合金属化合物からなるリチウム二次電池用正極活物質において、一次粒子の粒子間隙にリチウム含有タングステン酸化物が存在することで粒子割れを抑制することが検討されている。また、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム一次粒子が凝集してなる二次粒子状のコアを中心に表面へ向かって放射状に配向されたロッド型のニッケルコバルトマンガン酸リチウム粒子を含む中間層により、寿命及び安定性を改善することが試みられている。しかしながら、これらの技術による寿命改善の効果は十分でない。
【0009】
発明者らは、鋭意研究の結果、正極にニッケルコバルトマンガン酸リチウム、負極にチタン酸リチウムを用いた電池において、サイクル時に正極の放電容量が減少することで放電時の正極電位が徐々に低くなり、粒子割れや遷移金属の還元による岩塩型等の劣化構造への変化が発生することで電池の寿命が悪くなるということを突き止めた。また活物質一次粒子径が小さくなるほど比表面積が増加するために自己放電量は大きくなる関係であることが分かった。この知見を踏まえ、LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1.2、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として含む正極と、Li反応電位に対し0.5V以上高い電位で反応する負極活物質を含む負極とを含む非水電解質電池において、下記(1)式と(2)式を満たすことで負極の自己放電量を大きくし、かつ正極の自己放電量を小さくすることで正負極充放電バランスが変化し、SOC0%時の正極電位が上昇することで正極の過放電が抑制されて寿命性能が向上するということを見出した。
3≦A/B≦15 (1)
1.2≦a/b≦2.4 (2)
但し、Aは正極活物質の平均一次粒子径であり、Bは負極活物質の平均一次粒子径であり、aは正極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径で、bは負極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径である。
【0010】
図1及び図2を参照して説明する。図1及び図2は、それぞれ、正極と負極の充放電曲線であり、SOCが0%での電池電圧が1.5Vで、SOCが100%における電池電圧が2.7Vである。正極の充放電曲線をPで、負極の充放電曲線をNで示す。電池に例えばSOCが100%の状態でエージングを施す場合、上記構成により負極の自己放電量を大きくし正極の自己放電量を小さくすると、図1に例示される通り、一定時間のエージング後の負極のSOCは正極のSOCよりも小さくなる。その後、充放電を施すと、図2に示す通り、正極と負極のSOCの差が小さくなるように負極の充放電曲線Nが右側(SOC100%側)にシフトする。その結果、SOCが0%での負極電位が上昇する。SOCが0%での電池電圧は1.5Vと一定のため、負極電位の上昇に伴い、正極電位が上昇する。従って、正極が過放電に陥った際の正極電位の低下が抑制されるため、粒子割れ及び遷移金属の還元による岩塩型等の劣化構造への変化を抑えることができ、寿命性能が向上される。また、正極一次粒子径が大きいため、正極の比表面積が低くなる。そのため、高電位を使用するサイクルやカレンダにおいても正極と非水電解質の酸化反応を抑制することができるため、寿命性能の向上を達成することができる。
【0011】
負極の一次粒子径を小さく、かつ正極の一次粒子径を大きくすることが寿命向上に寄与する。上記(1)式における正極活物質平均一次粒子径Aと負極活物質平均一次粒子径Bの比率A/Bが3未満の場合、正極と負極の自己放電量の差が小さいため、負極の充放電曲線のシフトによる正極の過放電抑制を十分に得られない。A/Bが15超過の場合、負極の自己放電量が正極の自己放電量と比較して著しく過剰となり、負極の充放電カーブが著しく右に移動する。その結果、SOC100%時の正極電位が必要以上に上昇し、寿命性能が悪化してしまう。以上の理由によりA/Bを上記(1)式の範囲に設定する。A/Bのより好ましい範囲は、3以上12以下である。
【0012】
また、正負極細孔メディアン径比率を上記(2)式の通りに適正化することは、自己放電量の制御に貢献している。上記(1)式を満たしていても上記(2)式のa/bが1.2未満であると、正極と負極の自己放電量の差が小さくなるため、正極の過放電を十分に抑制することはできない。一方、a/bが2.4超過の場合、負極の自己放電量が正極の自己放電量と比較し著しく過剰となり、負極の充放電カーブが著しく右に移動し、SOC100%時の正極電位が過度に上昇し、寿命性能が悪化してしまう。以上の理由によりa/bを上記(2)式の範囲に設定する。a/bのより好ましい範囲は、1.2以上2.0以下である。
(第1の実施形態)
以下、実施形態の非水電解質電池の詳細を説明する。非水電解質電池は、正極と、負極と、非水電解質とを含む。また、非水電解質電池は、セパレータと、外装部材とをさらに備えることができる。実施形態に係る非水電解質電池は、電極群を具備することができる。電極群は、正極と、負極とを備える。電極群は、更に、正極及び負極の間に位置したセパレータを備えることができる。正極は、電極群と電気的に接続した正極集電タブを含むことができる。また、負極は、電極群と電気的に接続した負極集電タブを含むことができる。実施形態に係る非水電解質電池は、外装部材を更に具備することができる。電極群は、この外装部材内に収納され得る。外装部材は、非水電解質を更に収納することができる。非水電解質は、外装部材内に収納された電極群に含浸され得る。実施形態に係る非水電解質電池は、外装部材に電気的に接続された正極端子及び負極端子を更に具備することができる。正極端子は、正極の正極集電タブに電気的に接続され得る。負極端子は、負極の負極集電タブに電気的に接続され得る。
正極、負極、非水電解質、セパレータ及び外装部材について、説明する。
(1)正極
正極は、集電体と、集電体の少なくとも一面に形成される正極活物質含有層とを含む。集電体が例えばシート形状を有する場合、活物質含有層は、集電体の少なくとも一方の主面上に担持され得る。活物質含有層は、LixNi1-y-zCoyMnz2、ここで0<x≦1.2、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1、で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として含む。活物質含有層は、活物質以外の物質、例えば、導電剤、結着剤を含み得る。
【0013】
上記一般式で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、単位質量当りの容量が大きく、また、4.2V(vs.Li/Li)以上の正極電位まで使用することにより大きな容量を得ることができる。一般式中のモル比xは、正極がリチウムイオンを吸蔵放出することで変動し得る。より好ましい範囲は0.9≦x≦1.2である。
【0014】
また、一般式におけるy、z、y+zのさらに望ましい範囲は、それぞれ、0.05≦y≦0.22、0.07≦z≦0.30、0.2≦y+z≦0.5である。
【0015】
一般式LixNi1-y-zCoyMnz2で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、粒子の形態を有する。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の粒子は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の単結晶粒子であることが望ましい。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の平均一次粒子径Aは2μm以上6μm以下の範囲にすることができる。平均一次粒子径Aを2μm以上にすることにより、正極と非水電解質との副反応が寿命性能に及ぼす影響を少なくすることができる。一方、平均一次粒子径Aを6μm以下にすることにより、粒子内で濃度勾配が起こることが寿命性能に及ぼす影響を少なくすることができる。よって、平均一次粒子径Aを2μm以上6μm以下にすることにより、電池の寿命性能をさらに向上することができる。平均一次粒子径Aのより好ましい範囲は3.5μm以上4.5μm以下である。
【0016】
正極の細孔メディアン径aは、0.15μm以上0.22μm以下の範囲にすることが望ましい。細孔メディアン径aを0.15μm以上にすることにより、正極内のLiイオン拡散を良好な状態にすることができる。また、細孔メディアン径aを0.22μm以下にすることにより、正極の非水電解質保持量を少なくして正極と非水電解質との副反応を抑制することができる。それに加え、正極活物質の比表面積が小さいので、導電剤と結着剤の配合量を減らせて正極活物質含有層中の空隙体積量を増やすことができる。従って、細孔メディアン径aを0.15μm以上0.22μm以下にすることにより、電池の寿命性能と出力性能をさらに向上することができる。細孔メディアン径aのより好ましい範囲は0.16μm以上0.20μm以下である。
【0017】
正極は、CuKα線を使用した粉末X線回折パターンにおいて、2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークの半値幅が0.06°以上0.14°以下であり、かつ下記(3)式を満たすことが望ましい。
【0018】
1.3≦C/D (3)
但し、Cは、粉末X線回折パターンの2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける積分強度である。Dは、粉末X線回折パターンの2θ=44.4±1°の範囲内のピークにおける積分強度である。
【0019】
CuKα線を使用した粉末X線回折パターンにおいて、2θが18.7±1°に現れるピークは、上記一般式で表わされるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の(003)面に由来するピークである。一方、2θが44.4±1°に現れるピークは、上記一般式で表わされるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の(104)面に由来するピークである。2θが18.7±1°に現れるピークの半値幅を0.06°以上0.14°以下にすることにより、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の結晶子が大きいものとなる。また、C/Dを1.3以上にすることにより、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物におけるカチオンミキシング、リチウムイオンのサイトに他のカチオンが混入する現象を抑制することができる。上記条件を満たすリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として含む電池は、正極でのリチウムイオンの吸蔵放出反応が円滑に生じるため、上記(1)式と(2)式の規定による寿命性能向上が顕著に表れる。C/Dの上限値は5にすることができる。
【0020】
C/Dは、たとえば正極活物質の製造過程である焼成条件により調整できる。具体的には焼成温度と焼成雰囲気により制御することができる。一般に、正極活物質の合成は700℃以上の高温で行われるが、加熱時間の長時間化は、カチオンミキシングを促進する傾向にあるため好ましくない。特に、焼成温度が1000℃を超えるとカチオンミキシングが生じ、結晶性が低下してしまう。また焼成雰囲気は、カチオンミキシングを抑制するためには、酸化性雰囲気とすることが好ましい。
【0021】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑え得る。導電剤としては、カーボン材料を含むことが好ましい。カーボン材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維などを挙げることができる。活物質含有層は、上記カーボン材料の1種若しくは2種以上を含むことができる。
【0022】
導電剤は、例えば、粒子、繊維の形状を有する。導電剤粒子の平均粒径は、20nm以上100nm以下であることが好ましい。活物質含有層において、導電剤が占める割合は、例えば、3質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0023】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、又はフッ素系ゴムが含まれる。使用する結着剤の種類は、1種又は2種以上にすることができる。活物質含有層において、結着剤が占める割合は、1質量%以上1.8質量%以下であることが好ましい。
【0024】
正極活物質含有層の密度は、3.2g/cm3以上3.8g/cm3以下であることが好ましい。
【0025】
集電体としては、例えば金属箔又は合金箔を用いることができる。金属箔の例としては、アルミニウム箔、ステンレス箔及びニッケル箔などを挙げることができる。合金箔の例としては、アルミニウム合金、銅合金及びニッケル合金などを挙げることができる。
【0026】
正極は、例えば、以下の方法で作製される。活物質、導電剤及びバインダを溶媒(例えば、N-メチルピロリドン(NMP))とともに混練してスラリーを調製する。得られたスラリーを集電体に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより正極を得る。正極活物質含有層の細孔メディアン径は、例えば、正極活物質の一次粒子径、導電剤と結着剤の配合量、及び密度を調整することで目的値に収めることができる。正極活物質の一次粒子径を大きくすることは、正極の細孔メディアン径aを大きくすることに寄与する。正極活物質含有層の密度の増減、導電剤と結着剤の配合量の増減は、それぞれ、正極の細孔メディアン径aの調整に寄与する。また、必要に応じ、プレス前か、プレス後に所定の幅に裁断する工程を行っても良い。
(2)負極
負極は、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質含有層とを含む。また、負極活物質含有層は、負極活物質に加え、導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0027】
以下に、負極活物質、導電剤、結着剤及び負極集電体について説明する。
【0028】
負極活物質は、Li反応電位に対し0.5V以上高い電位で反応する活物質を含むことが好ましい。このような負極を具備した実施形態に係る非水電解質電池は、充放電によるリチウムの析出を抑えることができる。よって、このような非水電解質電池は、急速充放電特性により優れる。Li反応電位は、リチウムイオンが吸蔵放出される電位で、標準水素電極の電位を基準とした場合に-3.045V(vs.SHE)で表される。負極活物質としては、例えば、Li4+xTi512(xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)で表されるスピネル型チタン酸リチウム(Li反応電位に対する反応電位が1.55V)、Li2+xTi37(xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)で表されるラムスデライト型チタン酸リチウム(Li反応電位に対する反応電位が1.75V)、Nb2TiO7で表されるニオブチタン複合酸化物(Li反応電位に対する反応電位が1.0~1.7V)、又は、P、V、Sn、Cu、NiおよびFeからなる群より選択される少なくとも1種類の元素とTiとを含有する金属複合酸化物などを用いる。P、V、Sn、Cu、NiおよびFeからなる群より選択される少なくとも1種類の元素とTiとを含有する金属複合酸化物は、例えば、TiO2-P25、TiO2-V25、TiO2-P25-SnO2、又は、TiO2-P25-MO(MはCu、Ni及びFeからなる群より選択される少なくとも1つの元素)である。これらの金属複合酸化物は、充電によりリチウムが挿入されることでリチウムチタン複合酸化物に変化する。リチウムチタン複合酸化物のうち、スピネル型チタン酸リチウムがサイクル特性に優れ、好ましい。
Li反応電位に対し0.5V以上高い電位で反応する負極活物質は、粒子の形態を有する。粒子の形態は、一次粒子であっても、一次粒子が凝集した二次粒子であっても良い。負極活物質に単独の一次粒子と、二次粒子の双方が含まれていても良い。負極活物質の平均一次粒子径Bは0.15μm以上1μm以下の範囲にすることができる。平均一次粒子径Bを0.15μm以上にすることにより、ガス発生が寿命性能に及ぼす影響を少なくすることができる。一方、平均一次粒子径Bを1μm以下にすることにより、負極の自己放電量が適切なものとなり、過放電抑制による寿命性能の向上が顕著になる。よって、平均一次粒子径Bを0.15μm以上1μm以下にすることにより、電池の寿命性能をさらに向上することができる。平均一次粒子径Bのより好ましい範囲は0.3μm以上0.8μm以下である。
【0029】
正極活物質の平均一次粒子径Aを2μm以上6μm以下にし、かつ負極活物質の平均一次粒子径Bを0.15μm以上1μm以下にすることにより、副反応と過放電の双方を抑制することができるため、電池の寿命性能をさらに向上することができる。
【0030】
負極の細孔メディアン径bは、0.08μm以上0.15μm以下の範囲にすることが望ましい。細孔メディアン径bを0.08μm以上にすることにより、負極内のLiイオン拡散を良好な状態にすることができる。また、細孔メディアン径bを0.15μm以下にすることにより、負極活物質粒子間並びに負極活物質粒子と導電剤間の接触抵抗を小さくすることができる。それに加え、負極活物質の比表面積が小さいので、導電剤と結着剤の配合量を減らせて負極活物質含有層中の空隙体積量を増やすことができる。従って、細孔メディアン径bを0.08μm以上0.15μm以下にすることにより、電池の寿命性能と出力性能をさらに向上することができる。細孔メディアン径bのより好ましい範囲は0.09μm以上0.14μm以下である。
【0031】
正極の細孔メディアン径aを0.15μm以上0.22μm以下にし、かつ負極の細孔メディアン径bを0.08μm以上0.15μm以下にすることにより、副反応と接触抵抗を抑えつつ、正極と負極でのLiイオン拡散を良好なものにすることができるため、電池の寿命性能と出力性能をさらに向上することができる。
【0032】
負極の表面に対する光電子分光測定(XPS;X-ray Photoelectron Spectrometry)によって得られるスペクトルにおいて、689~680eVの範囲内に現れるF1sのピーク強度のうち、684~680eVの範囲内に現れるLi-F結合に帰属されるピーク強度の割合が20%以下であることが望ましい。XPSスペクトルにおいて、689~685eVの範囲内に現れるピークはC-F結合に帰属され、684~680eVの範囲内に現れるピークはLi-F結合に帰属される。C-F結合は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダに由来する。上記割合を満たすことにより、負極のLiF含有量を少なくすることができるため、負極に残留した水分に由来するガス発生を抑制して寿命性能を高めることができる。ここで、負極の表面は、負極活物質含有層の表面(例えば主面)である。負極表面上のLiFは、負極に吸着した水分、もしくは負極バインダとしてポリフッ化ビニリデンが含まれている場合にはポリフッ化ビニリデンの熱分解生成物が、非水電解質に含まれているリチウム化合物と反応することで生成し得る。負極に吸着した水分、ポリフッ化ビニリデンの熱分解生成物の生成は、製造の際の負極の乾燥条件によって制御することができる。負極の乾燥温度は、例えば、90℃以上110℃以下にすることができる。乾燥温度が低いと、負極に残留する水分量が多くなるため、LiF生成量が増加する傾向がある。また、乾燥温度が高いと、LiF生成が促進される傾向がある。
【0033】
負極活物質含有層の密度は2.0g/cm3以上2.4g/cm3以下にすることができる。
【0034】
導電剤の例としては、アセチレンブラック、カーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が挙げられる。
【0035】
結着剤の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、及びスチレンブタジェンゴムが挙げられる。
【0036】
負極活物質がリチウムイオンを吸蔵及び放出できる物質である場合、負極集電体としては、負極活物質のリチウムイオン吸蔵及び放出電位において電気化学的に安定である材料を用いることができる。負極集電体は、銅、ニッケル、ステンレス及びアルミニウムから選択される少なくとも1種類から作られる金属箔、又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される少なくとも1種類の元素を含むアルミニウム合金から作られる合金箔であることが好ましい。負極集電体の形状は、電池の用途に応じて、様々なものを用いることができる。
【0037】
負極は、例えば、以下の方法によって作製することができる。まず、負極活物質、結着剤及び必要な場合には導電剤を、汎用されている溶媒、例えばN-メチルピロリドン(NMP)中で懸濁させ、負極作製用スラリーを調製する。得られたスラリーを、負極集電体上に塗布する。塗布したスラリーを乾燥させ、乾燥後の塗膜をプレスをすることによって、負極集電体と、この負極集電体上に形成された負極活物質含有層とを含む負極を得ることができる。負極活物質含有層の細孔メディアン径は、例えば、負極活物質の一次粒子径、導電剤と結着剤の配合量、及び密度を調整することで目的値に収めることができる。負極活物質の一次粒子径を大きくすることは、負極の細孔メディアン径bを大きくすることに寄与する。負極活物質含有層の密度の増減、導電剤と結着剤の配合量の増減は、それぞれ、負極の細孔メディアン径bの調整に寄与する。また、必要に応じ、プレス前か、プレス後に所定の幅に裁断する工程を行っても良い。
【0038】
(3)セパレータ
セパレータとしては、絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、ポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、及びビニロンのようなポリマーで作られた多孔質フィルム又は不織布を用いることができる。セパレータの材料は1種類であってもよいし、又は2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0039】
セパレータの厚さは、5μm以上20μm以下にすることができる。
【0040】
(4)電極群
電極群は、正極、セパレータ及び負極を積層したものを捲回した捲回型構造であってもよいし、複数の正極及び複数の負極を間にセパレータを介して交互に積層させたスタック型構造であってもよいし、又はその他の構造を有していてもよい。
【0041】
(5)非水電解質
非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解される電解質塩とを含む。非水電解質の例として、非水電解液、ゲル状非水電解質が挙げられる。
【0042】
電解質塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、Li(CF3SO22N(ビストリフルオロメタンスルホニルアミドリチウム;通称LiTFSI)、LiCF3SO3(通称LiTFS)、Li(C25SO22N(ビスペンタフルオロエタンスルホニルアミドリチウム;通称LiBETI)、LiClO4、LiAsF6、LiSbF6、ビスオキサラトホウ酸リチウム{LiB(C242、通称;LiBOB}、ジフルオロ(トリフルオロ-2-オキシド-2-トリフルオロ-メチルプロピオナト(2-)-0,0)ホウ酸リチウム{LiBF2OCOOC(CF32、通称;LiBF2(HHIB)}のようなリチウム塩を用いる。これらの電解質塩は一種類で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。電解質塩としては、LiPF6、LiBF4又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0043】
非水電解質における電解質塩濃度は、1モル/L以上3モル/L以下の範囲内にすることが好ましい。電解質塩の濃度がこの範囲内にあると、非水電解質において電解質塩濃度の上昇による粘度増加の影響を抑えつつ、高負荷電流を流した場合の性能をより向上することが可能になる。
【0044】
非水溶媒は、特に限定されない。非水溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC)などの環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)やジメチルカーボネート(DMC)あるいはメチルエチルカーボネート(MEC)もしくはジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート、ジフルオロリン酸塩、1,2-ジメトキシエタン(DME)、γ-ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeHF)、1,3-ジオキソラン、スルホラン、又は、アセトニトリル(AN)を用いる。これらの溶媒は一種類で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。非水溶媒は、ジエチルカーボネートおよびジフルオロリン酸塩を含むことが望ましい。特に高電位を使用する充放電サイクル及びカレンダ(貯蔵、保存)において、正極と非水電解質との酸化反応が起こりやすく、ガス発生や抵抗上昇が顕著である。ジエチルカーボネートは、正極上での非水電解質の酸化反応によるガス発生を抑制することができる。一方、ジフルオロリン酸塩は、非水電解質におけるLi塩の分解反応を抑制することができる。ジエチルカーボネートおよびジフルオロリン酸塩を含む非水電解質を含む電池は、正極と非水電解質の酸化反応および支持塩の分解反応を抑制することができるため、寿命性能をさらに改善することができる。ジフルオロリン酸塩の例に、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウムが含まれる。
【0045】
(6)外装部材
外装部材は、例えば、ラミネートフィルム又は金属製容器が用いられる。ラミネートフィルムの板厚、金属製容器の板厚は、それぞれ、0.5mm以下にし得る。また、外装部材としては、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレン系樹脂、フッ素系樹脂等からなる樹脂製容器を用いてもよい。
【0046】
外装部材の形状すなわち電池形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型等が挙げられる。また、電池は、例えば、携帯用電子機器等に積載される小型用途、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型用途のいずれにも適用することができる。
【0047】
ラミネートフィルムの例には、樹脂層と、樹脂層間に介在された金属層とを含む多層フィルムが挙げられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装部材の形状に成形することができる。
【0048】
金属製容器は、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属を含む場合、その量は100ppm以下にすることが好ましい。
【0049】
次に、実施形態に係る非水電解質電池の例を、図面を参照しながら更に詳細に説明する。図3は、実施形態の非水電解質電池の一例の分解斜視図である。図3に示す電池は、密閉型の角型非水電解質電池である。図3に示す非水電解質電池は、外装缶1と、蓋2と、正極外部端子3と、負極外部端子4と、電極群5とを備える。外装缶1と蓋2とから外装部材が構成されている。外装缶1は、有底角筒形状をなし、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄あるいはステンレスなどの金属から形成される。
【0050】
図4は、図3に示す非水電解質電池に用いられる電極群の部分展開斜視図である。図4に示すように、偏平型の電極群5は、正極6と負極7がその間にセパレータ8を介して偏平形状に捲回されたものである。正極6は、例えば金属箔からなる帯状の正極集電体と、正極集電体の長辺に平行な一端部からなる正極集電タブ6aと、少なくとも正極集電タブ6aの部分を除いて正極集電体に形成された正極材料層(正極活物質含有層)6bとを含む。一方、負極7は、例えば金属箔からなる帯状の負極集電体と、負極集電体の長辺に平行な一端部からなる負極集電タブ7aと、少なくとも負極集電タブ7aの部分を除いて負極集電体に形成された負極材料層(負極活物質含有層)7bとを含む。
【0051】
このような正極6、セパレータ8及び負極7は、正極集電タブ6aが電極群の捲回軸方向にセパレータ8から突出し、かつ負極集電タブ7aがこれとは反対方向にセパレータ8から突出するよう、正極6及び負極7の位置をずらして捲回されている。このような捲回により、電極群5は、図4に示すように、一方の端面から渦巻状に捲回された正極集電タブ6aが突出し、かつ他方の端面から渦巻状に捲回された負極集電タブ7aが突出している。非水電解質(図示しない)は、電極群5に含浸されている。
【0052】
図3に示すように、正極集電タブ6a及び負極集電タブ7aは、それぞれ、電極群の捲回中心付近を境にして二つの束に分けられている。導電性の挟持部材9は、略コの字状をした第1,第2の挟持部9a,9bと、第1の挟持部9aと第2の挟持部9bとを電気的に接続する連結部9cとを有する。正負極集電タブ6a,7aは、それぞれ、一方の束が第1の挟持部9aによって挟持され、かつ他方の束が第2の挟持部9bによって挟持される。
【0053】
正極リード10は、略長方形状の支持板10aと、支持板10aに開口された貫通孔10bと、支持板10aから二股に分岐し、下方に延出した短冊状の集電部10c、10dとを有する。一方、負極リード11は、略長方形状の支持板11aと、支持板11aに開口された貫通孔11bと、支持板11aから二股に分岐し、下方に延出した短冊状の集電部11c、11dとを有する。
【0054】
正極リード10は、集電部10c、10dの間に挟持部材9を挟む。集電部10cは、挟持部材9の第1の挟持部9aに配置されている。集電部10dは、第2の挟持部9bに配置されている。集電部10c、10dと、第1,第2の挟持部9a,9bと、正極集電タブ6aとは、例えば超音波溶接によって接合される。これにより、電極群5の正極6と正極リード10が正極集電タブ6aを介して電気的に接続される。
【0055】
負極リード11は、集電部11c、11dの間に挟持部材9を挟んでいる。集電部11cは、挟持部材9の第1の挟持部9aに配置されている。一方、集電部11dは、第2の挟持部9bに配置される。集電部11c、11dと、第1,第2の挟持部9a,9bと、負極集電タブ7aとは、例えば超音波溶接によって接合される。これにより、電極群5の負極7と負極リード11が負極集電タブ7aを介して電気的に接続される。
【0056】
正負極リード10,11および挟持部材9の材質は、特に指定しないが、正負極外部端子3,4と同じ材質にすることが望ましい。正極外部端子3には、例えば、アルミニウムあるいはアルミニウム合金が使用され、負極外部端子4には、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、ニッケル、ニッケルメッキされた鉄などが使用される。例えば、外部端子の材質がアルミニウム又はアルミニウム合金の場合は、リードの材質をアルミニウム、アルミニウム合金にすることが好ましい。また、外部端子が銅の場合は、リードの材質を銅などにすることが望ましい。
【0057】
矩形板状の蓋2は、外装缶1の開口部に例えばレーザでシーム溶接される。蓋2は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄あるいはステンレスなどの金属から形成される。蓋2と外装缶1は、同じ種類の金属から形成されることが望ましい。正極外部端子3は、正極リード10の支持板10aと電気的に接続され、負極外部端子4は、負極リード11の支持板11aと電気的に接続されている。絶縁ガスケット12は、正負極外部端子3,4と蓋2との間に配置され、正負極外部端子3,4と蓋2とを電気的に絶縁している。絶縁ガスケット12は、樹脂成形品であることが望ましい。
【0058】
以下、活物質の組成、平均一次粒子径、細孔メディアン径、非水電解質中の成分の特定、光電子分光法、活物質含有層の密度の測定方法を記載する。まず、電池から電極を取り出す方法について説明する。
【0059】
まず、測定対象の電池を用意する。測定対象の電池は、定格容量の80%以上の放電容量を有するものとする。すなわち、劣化が過剰に進行した電池は測定対象としない。
【0060】
次に、用意した電池を、開回路電圧が2.0~2.2Vになるまで放電する。次に、放電した電池を、内部雰囲気の露点が-70℃である、アルゴンを充填したグローブボックス内に移す。このようなグローブボックス内で、電池を開く。切り開いた電池から、電極群を取り出す。取り出した電極群が正極リード及び負極リードを含む場合は、正極と負極とを短絡させないように注意しながら、正極リード及び負極リードを切断する。
【0061】
次に、電極群を解体し、正極、負極及びセパレータに分解する。このようにして得られた電極(例えば正極)を、エチルメチルカーボネートを溶媒として用いて洗浄する。この洗浄では、分解して得られた部材をエチルメチルカーボネート溶媒に完全に浸し、その状態で60分間放置する。
【0062】
洗浄後、電極を真空乾燥に供する。真空乾燥に際しては、25℃環境において、大気圧から-97kpa以上となるまで減圧し、その状態を10分間保持する。このような手順で取り出した電極について、以下の方法で測定を行う。
[活物質の組成]
上記手順で取り出した正極及び負極の表面をそれぞれ蛍光X線(XRF)により測定することで活物質の組成を知ることができる。
[断面SEMによる正負極活物質平均一次粒子径の測定]
一次粒子は内部に結晶粒界を含まない単位粒子をいう。一次粒子の平均粒子径は、例えば電極断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察することで求めることができる。無作為に選出した30個の一次粒子の粒径として、例えば日鉄テクノロジー株式会社製の画像解析ソフトウェア「粒子解析」ver.3.5を用いる画像解析によって円相当径を算出し、得られた円相当径の平均値を平均一次粒子径とする。なお、粒子径は、典型的には当該粒子を同体積あるいは同断面積を有する球形と仮定した場合の、当該球形における直径である。
[水銀圧入法による正負極細孔メディアン径の測定]
上記手順で取り出した正極及び負極それぞれについて、水銀圧入法による細孔径分布測定を行うことで細孔メディアン径を算出する。
【0063】
電極から、短冊状の測定サンプルを複数切り出す。測定サンプルの寸法は、例えば、1.25cm×2.50cmとする。次いで、切り出した測定サンプルの質量を測定する。次に、測定装置のセル内に、16枚の測定サンプルを装入する。これらの測定サンプルを、初期圧約10kPa(約1.5psia、細孔直径約120μm相当)、最高圧414MPa(約59986psia、細孔直径約0.003μm相当)の条件で測定して、電極の細孔径分布曲線を得る。測定装置としては、例えば、島津製作所製マイクロメリティックス細孔径分布測定装置オートポア9520を用いる。
【0064】
次いで、同じ電極から切り出した別の測定サンプルから、例えばスパチュラを用いて活物質含有層を剥がし取り、集電体片を得る。次いで、この集電体片の質量を測定する。次いで、測定サンプルの質量から集電体片の質量を減ずることにより、測定サンプルに含まれる活物質含有層の質量を得る。次いで、上記の方法により得られた電極の細孔径分布曲線について、再計算を行い、活物質含有層の細孔径分布曲線に換算する。このようにして、活物質含有層の細孔径分布曲線を得る。以上のようにして得られた細孔径分布から、細孔メディアン径を求めることができる。ここで、細孔メディアン径は、各細孔径における粒子個数を示した細孔径分布における累積個数50%での細孔径を言う。
[正極の粉末X線回折測定]
測定装置には、(株)リガク製RINT Ultima+を用い、X線源にはCuKα線を用いる。詳細条件は以下の通り。
【0065】
出力:40kV、40mA、発散スリット:1°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット:1°、受光スリット:0.15mm、走査軸:2θ/θ、測定方法:連続測定範囲(2θ):10~90°及び70~140°、サンプリング幅:0.004°、スキャンスピード:0.400°/min。
【0066】
先に説明した方法で取り出した正極を、粉末X線回折装置のホルダの面積と同程度に切り出し、直接アルミニウムホルダーに貼り付けて測定する。
【0067】
上記条件で得られた粉末X線回折パターンにおいて、2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークの半値幅、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける積分強度、2θ=44.4±1°の範囲内のピークにおける積分強度を求める。
[非水電解質に含まれるジエチルカーボネートの測定]
上記手順で取り出した電極群から採取した非水電解質をガスクロマトグラフィー分析することで、非水電解質の溶媒中にジエチルカーボネートが含まれていることを確認することができる。
[非水電解質に含まれるジフルオロリン酸塩の測定]
上記手順で取り出した電極群から採取した非水電解質を用い、電気泳動法により測定試料に含まれているジフルオロリン酸塩を検出することで、非水電解質電池に含まれているジフルオロリン酸塩の量を求めることができる。電気泳動の条件の一例を以下に示す:キャピラリー:内径50μm、長さ72cm、印加電圧:-30kV、温度:15℃、泳動液:Agilent Technologies製無機陰イオン分析用バッファ、検出波長:Signal=350(±80)nm、ref=245(±10)nm(間接吸光度法)、測定時間:15min。なお、上記Agilent Technologies製無機陰イオン分析用バッファは、水、水酸化ナトリウム、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、トリエタノールアミン、臭化ヘキサメトニウムからなる。
[負極表面の光電子分光測定]
上述の方法で取り出した負極から、集電体に接していない表面部分を含む活物質含有層の測定サンプルを得る。次いで、測定サンプルを、X線光電子分光分析装置に装入する。分析装置としては、例えば、Thermo Fisher Scientific社製VG Theta Probeを用いる。
【0068】
測定に際しては、励起X線源として単結晶分光AlKα線を用いる。なお、単結晶分光AlKα線とは、色性をより良くするために、AlKα線を単結晶で分光した光である。この励起X線源を、X線スポットが800×400μmの楕円形になるように、測定サンプルにおいて集電体と接していない表面部分に照射して、X線光電子分光(XPS)スペクトルを得る。XPSスペクトルにおいて、横軸は光電子の結合エネルギーを示し、縦軸は単位時間当りに観測された光電子の個数を示す。
【0069】
ここで、XPS分析では、サンプルの表面からの例えば0~10nmの深さまでの領域を分析することができる。そのため、XPS分析によると、活物質含有層の表面から0~10nmの深さまでの領域の情報を得ることができる。言い換えると、測定サンプルのX線光電子分光スペクトルは、活物質含有層の表面についてのスペクトルであるということもできる。
【0070】
次に、689~680eVの範囲内に現れるF1sのピーク強度と、684~680eVの範囲内に現れるLi-F結合に帰属されるピーク強度の算出方法について説明する。
【0071】
XPSスペクトル上の各ピークの面積を算出する。具体的には、先ず、XPSスペクトル上の各元素のピークについて、ガウス関数を用いて複数のピークに分離する。次いで、分離後のピークについて、フィッティング解析を行う。次いで、フィッティング解析後の分離ピークを重ね合わせて更にフィッティング解析を行う。次いで、Shirley(シャーリー)法を用いてバックグラウンドを決定し、このバックグラウンドを、更なるフィッティング解析後のXPSスペクトルから差し引く。このようにして得られたXPSスペクトルから、各元素のピークの面積を算出する。689~680eVの範囲内に現れるF1sのピーク面積に対する、684~680eVの範囲内に現れるLi-F結合に帰属されるピーク面積の割合を、求めるピーク強度の割合とする。
[活物質含有層の密度の測定方法]
正極と負極の活物質含有層の密度は、それぞれ、以下の手順で測定することができる。まず、上述の方法で取り出した電極の厚みを、厚み測定機を用いて計測する。次に、裁断機を用いて、電極を1cm×1cmサイズに打ち抜き、電極試料を得る。次いで、この電極試料の質量を測定する。
【0072】
次に、電極試料から、活物質含有層を剥がし取り、集電体試料を得る。具体的には、例えば、電極試料をN-メチルピロリドンなどの溶媒に浸漬することにより、電極試料から活物質含有層を除去することができる。なお、活物質含有層を剥がすために用いる溶媒としては、集電体を侵食せず且つ活物質含有層を剥がすことができるものであれば、何を使用しても構わない。次いで、集電体試料の厚さと質量とを測定する。
【0073】
次に、電極試料の厚みから集電体試料の厚みを減じて、活物質含有層の厚みを算出する。この厚みから、活物質含有層の体積を算出する。また、電極試料の質量から集電体試料の質量を減じて、活物質含有層の質量を算出する。次いで、活物質含有層の質量を活物質含有層の体積で除することにより、活物質含有層の密度(単位:g/cm3)を算出することができる。
【0074】
以上説明した第1の実施形態に係る電池は、LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1.2、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として含む正極と、Li反応電位に対し0.5V以上高い電位で反応する負極活物質を含む負極とを含む。この電池が、(1)式である3≦A/B≦15と、(2)式である1.5≦a/b≦2.4を満たすことにより、正極の過放電が抑制されて寿命性能を向上することができる。
【0075】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によれば、電池を含む電池パックが提供される。電池には、第1の実施形態に係る電池が使用される。電池パックに含まれる単電池の数は、1個または複数にすることができる。
【0076】
複数の電池は、電気的に直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて接続されて組電池を構成することができる。電池パックは、複数の組電池を含んでいてもよい。
【0077】
電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、電池の充放電を制御する機能を有する。また、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用することができる。
【0078】
また、電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、電池からの電流を外部に出力するため、及び電池に電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車の動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0079】
次に、第2の実施形態に係る電池パックの一例を、図面を参照して説明する。図5は、実施形態に係る電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0080】
図5に示す電池パックは、図3及び図4に示した構造を有する複数個の扁平型電池100を含む。これらの単電池100は、図5に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0081】
プリント配線基板には、図5に示すように、サーミスタ25、保護回路26及び外部機器への通電用端子27が搭載されている。
【0082】
組電池の単電池100の正極外部端子に正極側リード28が接続されており、正極側リード28はプリント配線基板の正極側コネクタ29と電気的に接続されている。組電池の別の単電池100の負極外部端子に負極側リード30が接続されており、負極側リード30はプリント配線基板の負極側コネクタ31と電気的に接続されている。これらのコネクタ29及び31は、プリント配線基板に形成された配線32及び33により保護回路26に電気的に接続されている。
【0083】
サーミスタ25は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路26に送信する。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34a及びマイナス側配線34bを遮断することができる。所定の条件の例は、例えばサーミスタ25から、単電池100の温度が所定温度以上であるとの信号を受信したときである。また、所定の条件の他の例は、単電池100の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池100又は単電池100全体について行われる。個々の単電池100を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。図5の電池パックでは、単電池100それぞれに電圧検出のための配線35が接続されており、これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0084】
図5に示した電池パックは複数の単電池100を直列接続した形態を有するが、第2の実施形態に係る電池パックは、電池容量を増大させるために、複数の単電池100を並列に接続してもよい。或いは、第2の実施形態に係る電池パックは、直列接続と並列接続とを組合せて接続された複数の単電池100を備えてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列又は並列に接続することもできる。
【0085】
また、図5に示した電池パックは複数の単電池100を備えているが、第2の実施形態に係る電池パックは1つの単電池100を備えるものでもよい。
【0086】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途としては、大電流特性でのサイクル特性が望まれるものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、車載用が好適である。
【0087】
本実施形態に係る電池パックを搭載した自動車において、電池パックは、例えば、自動車の動力の回生エネルギーを回収するものである。
【0088】
以上詳述した第2の実施形態の電池パックは、第1の実施形態の電池を含む。したがって、第2の実施形態に係る電池パックは、正極の過放電を抑制して寿命性能を向上することができる。
【実施例
【0089】
以下に例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、発明の主旨を超えない限り本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
(実施例1)
(正極の作製)
活物質として単粒子で形成されたリチウム含有ニッケルコバルトマンガン複合酸化物LiNi0.5Co0.2Mn0.32(以下、NCM523と称す)を準備した。導電助剤としてアセチレンブラック、並びに、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを準備した。これら活物質、導電助剤、及び結着剤を93:5:2の重量比でN-メチルピロリドン(NMP)に溶解および混合させてペーストを調製した。
ペースト状の分散液を正極塗液として、帯形状のアルミニウム箔からなる集電体の表裏両面に均一に塗布した。正極塗液の塗膜を乾燥させて正極活物質含有層を形成した。乾燥後の帯状体へのプレス成型を正極活物質含有層の密度が3.4g/cm3となるように行った。圧延後の電極を所定の寸法に裁断した。そこに集電タブを溶接して正極を得た。
(負極の作製)
負極活物質として、Li4Ti512で表されるスピネル型のリチウムチタン酸化物(以下、LTOと称す)、導電剤としてグラファイト、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを準備した。スピネル型のリチウムチタン酸化物のLi反応電位に対する反応電位は1.55Vである。これら負極活物質、導電剤、結着剤を94:4:2の重量比で、NMPに溶解および混合させてペーストを調製した。このペーストを負極塗液として、帯形状のアルミニウム箔からなる負極集電体の表裏両面に均一に塗布した。負極塗液を乾燥させて負極活物質含有層を形成した。乾燥後の帯状体にプレス成型を負極活物質含有層の密度が2.2g/cm3となるように行った。帯状体を所定の寸法に裁断した。そこに集電タブを溶接して負極を得た。
(電極群の作製)
2枚のセルロースからなる不織布セパレータを用意した。セパレータの厚みはいずれも10μmであった。次に、一方のセパレータ、正極、他方のセパレータ、及び負極をこの順で重ねて捲回体を形成した。これを連続して行い、かくして得られた捲回体をセパレータが最外周に位置するようにした。次いで得られた捲回体のコイルを加熱しながらプレスした。かくして、捲回型電極群を作製した。
(非水電解質の調製)
プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:2になるように混合して混合溶媒を調製した。この混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/Lの濃度で溶解した。得られた溶媒に、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を5000ppm添加して、非水電解質を調製した。
(電池の組み立て)
上記のようにして得られた捲回型電極群の正極および負極にそれぞれ電極端子を装着した。アルミニウム製の角型容器に電極群を入れた。この容器の中に前述の非水電解質を注液し、容器に封をし、エージングを施すことで非水電解質電池を得た。なお、非水電解質電池の設計には、公称容量が26Ahとなる設計を用いた。
【0090】
正極活物質の平均一次粒子径A、正極活物質含有層の細孔メディアン径a、負極活物質の平均一次粒子径B、負極活物質含有層の細孔メディアン径b、A/B、a/b、粉末X線回折パターンにおける2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークの半値幅(XRD半値幅)、C/D、XPSによって得られるスペクトルにおいて689~680eVの範囲内に現れるF1sのピーク強度のうち、684~680eVの範囲内に現れるLi-F結合に帰属されるピーク強度の割合(負極LiF量)を、前述の方法で測定し、その結果を表1~表3に示す。負極上のLiFは、負極に吸着した水分もしくは負極バインダであるポリフッ化ビニリデンの熱分解生成物が、非水電解質に含まれているリチウム化合物と反応することで生成し得る。負極に吸着した水分や、ポリフッ化ビニリデンの熱分解生成物の生成は、製造の際の負極の乾燥条件、非水電解質の組成などによって制御することができる。
【0091】
(実施例2-9及び比較例1-5)
正極活物質と負極活物質の種類、正極活物質の平均一次粒子径A、正極活物質含有層の細孔メディアン径a、負極活物質の平均一次粒子径B、負極活物質含有層の細孔メディアン径b、A/B、a/b、XRD半値幅、C/D、非水電解質におけるジエチルカーボネートの有無、非水電解質中のジフルオロリン酸塩の含有量、負極LiF量を下記表1から表3に示すようにすること以外は、前述したのと同様にして非水電解質電池を得た。
【0092】
なお、表1において、NCM811は、LiNi0.8Co0.1Mn0.12、NCM111は、LiNi0.33Co0.33Mn0.332を示す。実施例7で用いた非水電解質は以下の通りである。プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で1:2になるように混合して混合溶媒を調製した。この混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/Lの濃度で溶解した。得られた溶媒に、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を1000ppm添加して、非水電解質を調製した。
【0093】
実施例8で用いた非水電解質は以下の通りである。プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:2になるように混合して混合溶媒を調製した。この混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/Lの濃度で溶解して非水電解質を調製した。
【0094】
図6に、実施例3及び比較例1の正極活物質について、前述した条件で測定した粉末X線回折パターンにおける2θが18°から19.5°の範囲のパターンを示す。実施例3の正極活物質では、XRDパターンの2θが18.7°にピークが表れ、比較例1の正極活物質では、XRDパターンの2θが18.8°にピークが表れている。
【0095】
図7に、実施例3及び比較例1の正極活物質について、前述した条件で測定した粉末X線回折パターンにおける2θが43.5°から45.5°の範囲のパターンを示す。実施例3の正極活物質では、XRDパターンの2θが44.4°にピークが表れ、比較例1の正極活物質では、XRDパターンの2θが44.5°にピークが表れている。
【0096】
得られた二次電池に対し、以下の条件でサイクル維持率を測定し、その結果を表4に示す。サイクル試験は、45℃の環境下で、500回の充放電サイクルに供した。この際、充電及び放電は、共に2Cの電流値で行った。1サイクル目の放電容量と、500サイクル目の放電容量とを測定した。かくして得られた500サイクル目の容量を1サイクル目の容量で割って得られた値を、サイクル維持率とした。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
表1~表4から明らかな通り、実施例1から9の電池は、比較例1から5の電池に比してサイクル維持率が高い。
【0102】
実施例1から9の比較により、実施例1から6の電池は、DECを含まない実施例7、ジフルオロリン酸塩を含まない実施例8、XPSピークの強度比が20%より大きい実施例9に比して、サイクル維持率が高いことがわかる。この結果から、ジエチルカーボネートおよびジフルオロリン酸塩を含む非水電解質、XPSピークの強度比が20%以下の負極は、それぞれ、電池の寿命性能改善に貢献することがわかる。
【0103】
一方、比較例1はA/Bが3未満、比較例2はA/Bが15を超える、比較例3,4はa/bが1.5未満、比較例5はa/bが2.4を超えているため、サイクル維持率が劣ったものとなった。
【0104】
以上に説明した少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、電池が提供される。電池は、LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1.2、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として含む正極と、Li反応電位に対し0.5V以上高い電位で反応する負極活物質を含む負極とを含む。この電池が、下記(1)式と(2)式を満たすことにより、正極の過放電が抑制されて寿命性能を向上することができる。
3≦A/B≦15 (1)
1.2≦a/b≦2.4 (2)
但し、Aは正極活物質の平均一次粒子径であり、Bは負極活物質の平均一次粒子径であり、aは正極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径で、bは負極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径である。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] Li x Ni 1-y-z Co y Mn z 2 ;0<x≦1.2、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を正極活物質として含む正極と、
Li反応電位に対し0.5V以上高い電位で反応する負極活物質を含む負極と、
非水電解質とを含み、
下記(1)式と(2)式を満たす、非水電解質電池。
3≦A/B≦15 (1)
1.2≦a/b≦2.4 (2)
但し、Aは前記正極活物質の平均一次粒子径であり、Bは前記負極活物質の平均一次粒子径であり、aは前記正極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径で、bは前記負極の水銀圧入法による細孔径分布における細孔メディアン径である。
[2] 前記正極活物質の平均一次粒子径Aは2μm以上6μm以下であり、前記負極活物質の平均一次粒子径Bは0.15μm以上1μm以下である、[1]に記載の非水電解質電池。
[3] 前記正極の細孔メディアン径aは、0.15μm以上0.22μm以下であり、前記負極の細孔メディアン径bは、0.08μm以上0.15μm以下である、[1]または[2]に記載の非水電解質電池。
[4] 前記正極は、CuKα線を使用した粉末X線回折パターンにおいて、2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークの半値幅が0.06°以上0.14°以下であり、かつ下記(3)式を満たす、[1]~[3]のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
1.3≦C/D (3)
但し、Cは、前記粉末X線回折パターンの2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける積分強度で、Dは、前記粉末X線回折パターンの2θ=44.4±1°の範囲内のピークにおける積分強度である。
[5] 前記非水電解質は、ジエチルカーボネートおよびジフルオロリン酸塩を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
[6] 前記負極の表面に対する光電子分光測定によって得られるスペクトルにおいて、689~680eVの範囲内に現れるF1sのピーク強度のうち、684~680eVの範囲内に現れるLi-F結合に帰属されるピーク強度の割合が20%以下である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
[7] [1]~[6]のいずれか1項に記載の非水電解質電池を含む、電池パック。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7