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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】双方向トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20240227BHJP
   F16D 41/20 20060101ALI20240227BHJP
   F16D 43/21 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
F16D7/02 F
F16D41/20 A
F16D43/21
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023110615
(22)【出願日】2023-07-05
【審査請求日】2023-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 高広
(72)【発明者】
【氏名】平田 真之
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特許第6967687(JP,B1)
【文献】国際公開第2021/260961(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/02
F16D 43/02-43/24
F16D 41/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定のハウジングと、前記ハウジング内で共通の中心軸を有する、片側部材と、他側部材と、円筒形状のリング部材とを具備し、
前記片側部材には軸方向に延びる片側係止片が、前記他側部材には軸方向に延びる他側係止片が夫々形成され、前記片側係止片及び前記他側係止片は、周方向に2つの間隙が存在するよう、組み合わされて配置されており、
前記リング部材の内周面には内側コイルばねが装着され、自由状態における前記内側コイルばねの外径は前記リング部材の内径よりも大きく、前記内側コイルばねは比較的小さな力で前記リング部材に密接せしめられていて、前記内側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの内側フック部を備え、前記2つの内側フック部の各々は前記2つの間隙の各々に挿入されており、
前記リング部材の外周面には外側コイルばねが装着され、自由状態における前記外側コイルばねの内径は前記リング部材の外径よりも小さく、前記外側コイルばねは比較的大きな力で前記リング部材に密接せしめられていて、前記外側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの外側フック部を備え、前記2つの外側フック部の各々は前記ハウジングの内周面に形成された凹部に挿入されており、
前記片側部材に回転トルクが付加されると、前記2つの内側フック部のいずれかが前記片側係止片により前記内側コイルばねが拡径する方向に押されると共に、前記2つの外側フック部のいずれかが前記凹部にて前記ハウジングにより前記外側コイルばねが拡径する方向に押され、前記片側部材は前記内側コイルばね及び前記リング部材と一体となって前記外側コイルばねによる比較的大きな制動トルクに抗して回転して前記他側部材に回転を伝達する一方、
前記他側部材に回転トルクが付加されると、前記2つの内側フック部のいずれかが前記他側係止片により前記内側コイルばねが縮径する方向に押されると共に、前記2つの外側フック部のいずれかが前記凹部にて前記ハウジングにより前記外側コイルばねが拡径する方向に押され、前記リング部材が前記外側コイルばねによって保持された状態で、前記他側部材は前記内側コイルばねによる比較的小さな制動トルクに抗して前記内側コイルばねと共に前記リング部材に対して回転して前記片側部材に回転を伝達する、双方向トルクリミッタ。
【請求項2】
前記片側係止片及び前記他側係止片の断面は共に前記中心軸周りに延在する円弧形状である、請求項1に記載の双方向トルクリミッタ。
【請求項3】
前記片側係止片における軸方向両側端部の周方向端部には切欠きが形成され、軸方向片側端部に形成された前記切欠きと軸方向他側に形成された前記切欠きとは周方向の互いに異なる側に位置し、前記片側係止片の周方向端面は前記切欠きが形成されている切欠き端面と前記切欠きが形成されていない非切欠き端面とに区画され、
前記片側部材が回転したときは、前記切欠き端面が前記2つの内側フック部のいずれかを押すと共に前記非切欠き端面が前記他側係止片の周方向端面を押して、前記切欠き端面により押された前記2つの内側フック部のいずれかは前記他側係止片の周方向端面から離隔する一方、前記他側部材が回転したときは、前記他側係止片の周方向端面が前記2つの内側フック部のいずれかと共に前記片側部材の前記非切欠き端面を押して、前記他側係止片により押された前記2つの内側フック部のいずれかは前記片側係止片の前記切欠き端面から離隔する、請求項2に記載の双方向トルクリミッタ。
【請求項4】
前記ハウジングには前記リング部材の軸方向両端部が遊嵌される円環形状の溝が設けられている、請求項1に記載の双方向トルクリミッタ。
【請求項5】
前記片側部材、前記他側部材、前記リング部材、前記内側コイルばね及び前記外側コイルばねは金属製であるが、前記ハウジングは合成樹脂製である、請求項1に記載の双方向トルクリミッタ。
【請求項6】
固定部材と、共通の中心軸を有する、片側部材と、他側部材と、円筒形状のリング部材とを具備し、
前記片側部材には軸方向に延びる片側係止片が、前記他側部材には軸方向に延びる他側係止片が夫々形成され、前記片側係止片及び前記他側係止片は、周方向に2つの間隙が存在するよう、組み合わされて配置されており、
前記リング部材の外周面には外側コイルばねが装着され、自由状態における前記外側コイルばねの内径は前記リング部材の外径よりも小さく、前記外側コイルばねは比較的小さな力で前記リング部材に密接せしめられていて、前記外側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの外側フック部を備え、前記2つの外側フック部の各々は前記2つの間隙の各々に挿入されており、
前記リング部材の内周面には内側コイルばねが装着され、自由状態における前記内側コイルばねの外径は前記リング部材の内径よりも大きく、前記内側コイルばねは比較的大きな力で前記リング部材に密接せしめられていて、前記内側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの内側フック部を備え、前記2つの内側フック部の各々は前記固定部材に設けられた係止手段に係止自在であり、
前記片側部材に回転トルクが付加されると、前記2つの外側フック部のいずれかが前記片側係止片により前記外側コイルばねが縮径する方向に押されると共に、前記2つの内側フック部のいずれかが前記係止手段により前記内側コイルばねが縮径する方向に押され、前記片側部材は前記外側コイルばね及び前記リング部材と一体となって前記内側コイルばねによる比較的大きな制動トルクに抗して回転して前記他側部材に回転を伝達する一方、
前記他側部材に回転トルクが付加されると、前記2つの外側フック部のいずれかが前記他側係止片により前記外側コイルばねが拡径する方向に押されると共に、前記2つの内側フック部のいずれかが前記係止手段により前記内側コイルばねが縮径する方向に押され、前記リング部材が前記内側コイルばねによって保持された状態で、前記他側部材は前記外側コイルばねによる比較的小さな制動トルクに抗して前記外側コイルばねと共に前記リング部材に対して回転して前記片側部材に回転を伝達する、双方向トルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は双方向トルクリミッタ、殊に接続された2つの部材の一方から回転トルクが付加された際に回転を開始する回転トルクの大きさと他方から回転トルクが付加された際に回転を開始する回転トルクの大きさとを変化させることができる双方向トルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
上記した双方向トルクリミッタの一例として、本願の出願人による下記特許文献1に示すとおりの双方向トルクリミッタが存在する(以下では、この双方向トルクリミッタのことを「先行双方向トルクリミッタ」と称すことがある)。先行双方向トルクリミッタは、固定のハウジングと、ハウジング内で共通の中心軸を有する、片側部材と、他側部材と、外輪と、内輪とを具備している。片側部材には軸方向に延びる片側係止片が、他側部材には軸方向に延びる他側係止片が夫々形成され、片側係止片及び他側係止片は、周方向に2つの間隙が存在するよう、組み合わされて配置されている。外輪の外周面には外側コイルばねが装着されている。自由状態における外側コイルばねの内径は外輪の外径よりも小さく、外側コイルばねは比較的小さな力で外輪に密接せしめられている。外側コイルばねが外輪に密接することによって生じるトルクを外側保持トルクと称すると、かかる外側保持トルクは比較的小さい。外側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの外側フック部を備え、2つの外側フック部の各々は上記した2つの間隙の各々に挿入されている。内輪の外周面には内側コイルばねが装着されている。自由状態における内側コイルばねの内径は内輪の外径よりも小さく、内側コイルばねは比較的大きな力で内輪に密接せしめられている。内側コイルばねが内輪に密接することによって生じるトルクを内側保持トルクと称すると、かかる内側保持トルクは比較的大きい。内側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの内側フック部を備え、2つの内側フック部の各々は外輪の内周面に形成されたフック溝に挿入されている。
【0003】
そして、片側部材に回転トルクが付加されると、片側係止片が2つの外側フック部のうちの一方を外側コイルばねが拡径する方向に押す。外側コイルばねは外輪の外周面に装着されていることから、外輪は外側コイルばねと共に回転しようとして、内側コイルばねが備える2つの内側フック部のうちの一方を内側コイルばねが拡径する方向に押す。このとき、外側保持トルクは内側保持トルクよりも小さいことから、片側部材に付加された上記回転トルクが外側保持トルクよりも大きい場合には、内側コイルばねが内輪に対して滑るよりも先に外側コイルばねが外輪に対して滑る。つまり、内側コイルばねが内輪に対して回転を開始するよりも先に、従って外輪は内側コイルばねによって保持された状態で、外側コイルばねが外輪に対して回転を開始する。そして、片側係止片によって押された外側フック部が他側係止片に当接した後は、片側係止片が外側フック部を介して他側係止片を押して、片側部材と外側コイルばねと他側部材とは一体となって回転する。つまり、片側部材に付加された回転が他側部材に伝達される。なお、片側部材に付加された上記回転トルクが外側保持トルクよりも小さい場合には片側部材は回転せず外側保持トルクにより保持される。
【0004】
一方、他側部材に回転トルクが付加されると、他側係止片が2つの外側フック部のうちの一方を外側コイルばねが縮径する方向に押す。これにより、外側コイルばねと外輪との密接は増強され、外輪は外側コイルばねと一体となって回転しようとする。外側コイルばねは外輪の外周面に装着されていることから、外輪は外側コイルばねと共に回転しようとして、内側コイルばねが備える2つの内側フック部のうちの一方を内側コイルばねが拡径する方向に押す。そのため、他側部材に付加された上記回転トルクが内側保持トルクより大きいと、内側コイルばねが内輪に対して滑る。つまり、内側コイルばねが内輪に対して回転を開始し、他側部材と外側コイルばねと外輪と内側コイルばねとが一体となって内輪に対して回転する。そして、他側係止片によって押された外側フック部が片側係止片に当接した後は、他側係止片が外側フック部を介して片側係止片を押して、他側部材と外側コイルばねと片側部材と(更に外輪と内側コイルばねと)は一体となって回転する。つまり、他側部材に付加された回転が片側部材に伝達される。なお、他側部材に付加された上記回転トルクが内側保持トルクよりも小さい場合には他側部材は回転せず内側保持トルクにより保持される。
【0005】
つまり、先行双方向トルクリミッタにあっては、片側部材から他側部材に回転トルクを伝達するときと、他側部材から片側部材に回転トルクを伝達するときとで滑り出す、つまり回転を開始する回転トルクの大きさが異なり、前者の方が後者よりも小さく設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6967687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
而して、上記特許文献1に示された双方向トルクリミッタにあっては、部品点数が多く、組立工程や重量、更にコストの点で改善の余地がある。また、内輪の外周面に装着された内側コイルばねの内側フック部を外輪の内周面に形成されたフック溝に挿入する際に位置合わせをする必要があり、組立工程が煩雑である。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、先行双方向トルクリミッタの構造を見直して、これよりも部品点数が少なく且つ組立容易な新規の双方向トルクリミッタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記主たる技術的課題を解決する双方向トルクリミッタとして、固定のハウジングと、前記ハウジング内で共通の中心軸を有する、片側部材と、他側部材と、円筒形状のリング部材とを具備し、
前記片側部材には軸方向に延びる片側係止片が、前記他側部材には軸方向に延びる他側係止片が夫々形成され、前記片側係止片及び前記他側係止片は、周方向に2つの間隙が存在するよう、組み合わされて配置されており、
前記リング部材の内周面には内側コイルばねが装着され、自由状態における前記内側コイルばねの外径は前記リング部材の内径よりも大きく、前記内側コイルばねは比較的小さな力で前記リング部材に密接せしめられていて、前記内側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの内側フック部を備え、前記2つの内側フック部の各々は前記2つの間隙の各々に挿入されており、
前記リング部材の外周面には外側コイルばねが装着され、自由状態における前記外側コイルばねの内径は前記リング部材の外径よりも小さく、前記外側コイルばねは比較的大きな力で前記リング部材に密接せしめられていて、前記外側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの外側フック部を備え、前記2つの外側フック部の各々は前記ハウジングの内周面に形成された凹部に挿入されており、
前記片側部材に回転トルクが付加されると、前記2つの内側フック部のいずれかが前記片側係止片により前記内側コイルばねが拡径する方向に押されると共に、前記2つの外側フック部のいずれかが前記凹部にて前記ハウジングにより前記外側コイルばねが拡径する方向に押され、前記片側部材は前記内側コイルばね及び前記リング部材と一体となって前記外側コイルばねによる比較的大きな制動トルクに抗して回転して前記他側部材に回転を伝達する一方、
前記他側部材に回転トルクが付加されると、前記2つの内側フック部のいずれかが前記他側係止片により前記内側コイルばねが縮径する方向に押されると共に、前記2つの外側フック部のいずれかが前記凹部にて前記ハウジングにより前記外側コイルばねが拡径する方向に押され、前記リング部材が前記外側コイルばねによって保持された状態で、前記他側部材は前記内側コイルばねによる比較的小さな制動トルクに抗して前記内側コイルばねと共に前記リング部材に対して回転して前記片側部材に回転を伝達する、双方向トルクリミッタが提供される。
【0010】
好ましくは、前記片側係止片及び前記他側係止片の断面は共に前記中心軸周りに延在する円弧形状である。この場合には、前記片側係止片における軸方向両側端部の周方向端部には切欠きが形成され、軸方向片側端部に形成された前記切欠きと軸方向他側に形成された前記切欠きとは周方向の互いに異なる側に位置し、前記片側係止片の周方向端面は前記切欠きが形成されている切欠き端面と前記切欠きが形成されていない非切欠き端面とに区画され、前記片側部材が回転したときは、前記切欠き端面が前記2つの内側フック部のいずれかを押すと共に前記非切欠き端面が前記他側係止片の周方向端面を押して、前記切欠き端面により押された前記2つの内側フック部のいずれかは前記他側係止片の周方向端面から離隔する一方、前記他側部材が回転したときは、前記他側係止片の周方向端面が前記2つの内側フック部のいずれかと共に前記片側部材の前記非切欠き端面を押して、前記他側係止片により押された前記2つの内側フック部のいずれかは前記片側係止片の前記切欠き端面から離隔するのがよい。前記ハウジングには前記リング部材の軸方向両端部が遊嵌される円環形状の溝が設けられているのがよい。好適には、前記片側部材、前記他側部材、前記リング部材、前記内側コイルばね及び前記外側コイルばねは金属製であるが、前記ハウジングは合成樹脂製である。
【0011】
また、上記主たる技術的課題は、固定部材と、共通の中心軸を有する、片側部材と、他側部材と、円筒形状のリング部材とを具備し、
前記片側部材には軸方向に延びる片側係止片が、前記他側部材には軸方向に延びる他側係止片が夫々形成され、前記片側係止片及び前記他側係止片は、周方向に2つの間隙が存在するよう、組み合わされて配置されており、
前記リング部材の外周面には外側コイルばねが装着され、自由状態における前記外側コイルばねの内径は前記リング部材の外径よりも小さく、前記外側コイルばねは比較的小さな力で前記リング部材に密接せしめられていて、前記外側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの外側フック部を備え、前記2つの外側フック部の各々は前記2つの間隙の各々に挿入されており、
前記リング部材の内周面には内側コイルばねが装着され、自由状態における前記内側コイルばねの外径は前記リング部材の内径よりも大きく、前記内側コイルばねは比較的大きな力で前記リング部材に密接せしめられていて、前記内側コイルばねは周方向の異なる角度位置に2つの内側フック部を備え、前記2つの内側フック部の各々は前記固定部材に設けられた係止手段に係止自在であり、
前記片側部材に回転トルクが付加されると、前記2つの外側フック部のいずれかが前記片側係止片により前記外側コイルばねが縮径する方向に押されると共に、前記2つの内側フック部のいずれかが前記係止手段により前記内側コイルばねが縮径する方向に押され、前記片側部材は前記外側コイルばね及び前記リング部材と一体となって前記内側コイルばねによる比較的大きな制動トルクに抗して回転して前記他側部材に回転を伝達する一方、
前記他側部材に回転トルクが付加されると、前記2つの外側フック部のいずれかが前記他側係止片により前記外側コイルばねが拡径する方向に押されると共に、前記2つの内側フック部のいずれかが前記係止手段により前記内側コイルばねが縮径する方向に押され、前記リング部材が前記内側コイルばねによって保持された状態で、前記他側部材は前記外側コイルばねによる比較的小さな制動トルクに抗して前記外側コイルばねと共に前記リング部材に対して回転して前記片側部材に回転を伝達する、双方向トルクリミッタによっても解決されうる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の双方向トルクリミッタにあっては、内側コイルばね及び外側コイルばねは共通のリング部材の内周面及び外周面に夫々装着されている。一方、先行双方向トルクリミッタにあっては、内側コイルばねは内輪の外周面に外側コイルばねは外輪の外周面に夫々装着、つまり内側コイルばね及び外側コイルばねは異なる2つのリング部材の外周面に夫々装着されていた。本発明の双方向トルクリミッタにおけるリング部材は、先行双方向トルクリミッタにおける内輪及び外輪を集約したものであり、これにより本発明の双方向トルクリミッタによれば先行双方向トルクリミッタよりも部品点数を1点削減することができる。本発明の双方向トルクリミッタにあっては更に、外側コイルばね及び内側コイルばねとリング部材との間での位置合わせは不要であるため、組立工程が簡略化される。先行双方向トルクリミッタの場合、内側コイルばねと外輪とを別途位置合わせする必要がある。
【0013】
予め言及しておくと、内側コイルばね及び外側コイルばねが共通のリング部材の内周面及び外周面に夫々装着されている双方向トルクリミッタとして、本願の出願人が本願に先立って出願して既に公開された特開2002-155973号公報に示される双方向トルクリミッタが存在する(以下これを「参考双方向トルクリミッタ」とする)。然しながら、この参考双方向トルクリミッタは、正回転と逆回転とで回転を開始する回転トルクの大きさを変化させるものであり、本発明の双方向トルクリミッタ及び上記特許文献1に示される先行双方向トルクリミッタとは全く異質のものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に従って構成された双方向トルクリミッタの構造を示す図。
図2図1に示す双方向トルクリミッタを分解して構成部品毎に配列した図。
図3図1に示す双方向トルクリミッタの内部構造を、シールドを除去して示す図。
図4図1に示す双方向トルクリミッタのハウジングを単体で示す図。
図5図1に示す双方向トルクリミッタの片側部材を単体で示す図。
図6図1に示す双方向トルクリミッタの他側部材を単体で示す図。
図7図1に示す双方向トルクリミッタにおいて片側部材に回転トルクが付加された状態を示す図。
図8図1に示す双方向トルクリミッタにおいて他側部材に回転トルクが付加された状態を示す図。
図9】本発明に従って構成される双方向トルクリミッタの変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に従って構成された双方向トルクリミッタの好適実施形態を示す添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0016】
図1乃至図3を参照して説明すると、全体を番号2で示す双方向トルクリミッタは、固定のハウジング4と、このハウジング4内で共通の中心軸oを有する、片側部材6と、他側部材8と、リング部材10とを具備している。
【0017】
図1乃至図3と共に図4を参照して説明すると、ハウジング4は図4(a)に示されるハウジング本体12と図4(b)に示されるシールド14とを含んでいる。図示の実施形態においては、ハウジング本体12及びシールド14は共に適宜の合成樹脂により夫々一体的に形成される。ハウジング本体12は軸方向に対して垂直に配置される円形の端板16と、この端板16の外周縁から軸方向片側に延びる円筒形状の外周壁18とを備えている。端板16の中央部には軸方向他側に膨出する断面円形の膨出部20が形成されている。膨出部20の軸方向片側面の中央には円形の凹所22が設けられていて、凹所22の円形底面の中央には軸方向に貫通する円形の穴24が形成されている。端板16の軸方向片側面には凹所22の外周縁を囲繞する円環形状の残留突条26が存在し、残留突条26の内側には円形の窪み28が、外側には円環形状の溝30が夫々設けられている。端板16の軸方向他側面の外周縁部には軸方向に突出する円弧形状の突起32が周方向に等角度間隔をおいて6つ配設されている。突起32を介してハウジング4は図示しない壁等に固定される。外周壁18の内周面には、内径を局所的に増大せしめてなる円弧形状の凹部34が周方向に間隔をおいて複数個(図示の実施形態においては6個)形成されている。凹部34は軸方向に延在している。複数個の凹部34の各々の周方向長さは必ずしも同一ではなく、適宜に変更されている。凹部34が形成されていない周方向角度領域における外周壁18の内周面の軸方向延出端部には周方向に延在する段部36が形成されている。外周壁18の軸方向延出端面には、軸方向片側に向かって連続して更に軸方向に延出する円弧形状の延出片38が周方向に等角度間隔をおいて複数個(図示の実施形態においては6個)形成されている。図示の実施形態においては、延出片38は凹部34が形成されている周方向角度領域と略対応している。延出片38の内周面の軸方向延出端部には周方向に延在する係止突条40が形成されている。
【0018】
シールド14は軸方向に対して垂直に配置される円板形状の支持壁42と、この支持壁42の外周縁から軸方向片側に延びる円筒形状の装着壁44とを備えている。支持壁42の中央には軸方向に貫通する円形の穴46が形成されている。支持壁42の軸方向他側面の外周縁部には穴46の外周縁を囲繞する円環形状の外側突条48及び内側突条50が形成されていて、外側突条48と内側突条50との間には円環形状の溝51が設けられている。装着壁44の外径は支持壁42の外径よりも大きい。装着壁44の外周面には、外径を局所的に増大せしめてなる円弧形状の凸部52が形成されている。凸部52はハウジング本体12に形成された延出片38の数に対応して複数個、従って図示の実施形態においては6個形成されており、複数個の凸部52は周方向に等角度間隔をおいて配置されている。周方向に隣接する2つの凸部52の周方向間隔は延出片38の周方向長さと対応する。周方向に隣接する2つの凸部52の間における装着壁44の外周面には、周方向に延在する被係止突条54が形成されている。シールド14をハウジング本体12に装着させる際には、周方向に隣接する2つの凸部52の間にハウジング本体12の延出片38を整合せしめた後に、シールド14をハウジング本体12の端板16に向かって軸方向に強制せしめ、延出片38の係止突条40が被係止突条54を弾性的に乗り越えさせる。シールド14がハウジング本体12に装着された状態にあっては、ハウジング本体12の段部36にシールド14の支持壁42の外周縁部が当接せしめられると共に、ハウジング本体12の外周壁18の軸方向端面(延出片38を除く)にシールド14の凸部52が当接せしめられる。
【0019】
図1乃至図3と共に図5を参照して説明を続ける。図示の実施形態においては、片側部材6は金属製であって、粉末冶金により一体的に形成される。片側部材6は駆動側及び従動側の外部機器のいずれか一方(かかる外部機器は図示していない)に接続される円筒形状の片側接続部56と、この片側接続部56の外周面に付設された片側係止片58とを備えている。片側接続部56は軸方向に貫通していて、内周面にはセレーションの如き接続内歯60が形成されている。図1のA-A断面図に示されているとおり、片側接続部56の軸方向片側端部はハウジング本体12の端板16に形成された凹所22に嵌め合わされ回転可能に軸支される。片側係止片58は片側接続部56の外周面の軸方向中間部から片側接続部56の軸方向他側端を超えて軸方向他側に延びている。片側係止片58の断面は中心軸o回りに延在する円弧形状である。片側係止片58における軸方向両側端部の周方向端部には夫々切欠き62及び64が形成されていて、片側係止片58の周方向端面は切欠き62又は64が形成されている切欠き端面65aと切欠き62又は64が形成されていない非切欠き端面65bとに区画される。図示の実施形態においては、切欠き62は図5左図における時計方向下流端部にのみ、切欠き64は図5右図における時計方向下流端部にのみ形成されている。従って、軸方向の一方から見た場合、切欠き62及び64は夫々周方向の反対側に位置する。
【0020】
図1乃至図3と共に図6を参照して説明を続ける。図示の実施形態においては、他側部材8も金属製であって、粉末冶金により一体的に形成される。他側部材8は駆動側及び従動側の外部機器のいずれか他方(かかる外部機器は図示していない)に接続される円筒形状の他側接続部66と、他側接続部66の軸方向片側端に接続された円板形状の中間部68と、中間部68の外周面に付設された他側係止片70とを備えている。他側接続部66及び中間部68は共通して軸方向に貫通している。他側接続部66の外周面にはセレーションの如き接続外歯72が形成されている。図1のA-A断面図に示されているとおり、中間部68はシールド14の支持壁42に形成された穴46に配置せしめられて片側部材6の片側接続部56を軸方向に支持する。他側係止片70は中間部68の外周面の軸方向中間部から中間部68の軸方向片側端を超えて軸方向片側に延びている。他側係止片70の断面は中心軸o回りに延在する円弧形状である。必ずしも明確には図示されていないが、他側係止片70の軸方向他側端面はシールド14の支持壁42と対向し、これにより片側部材6及び他側部材8が軸方向に移動してハウジング4から脱落することが阻止される。ここで、図3を参照することによって理解されるとおり、片側係止片58及び他側係止片70は、周方向に2つの間隙74a及び74bが存在するよう、組み合わせて配置される。
【0021】
図1乃至図3を参照して説明を続ける。図示の実施形態においては、リング部材10は金属製であって、所要軸方向幅及び径方向厚さ(板厚)を備えた円筒形状の剛体である。図1のA-A断面図に示されているとおり、リング部材10の軸方向片側端部はハウジング本体12の端板16に形成された円環形状の溝30に、軸方向他側端部はシールド14の支持壁42に形成された円環形状の溝51に夫々嵌め合わされ(遊嵌され)、リング部材10はハウジング4によって軸方向の両側から支持されている。
【0022】
かようなリング部材10の内周面には内側コイルばね76が装着されている。図3にあっては、容易に理解できるよう内側コイルばね76には薄墨を付している(後に言及する図7及び図8にあっても同様)。図示の実施形態においては、内側コイルばね76は断面が矩形である金属製の線材により構成されている。内側コイルばね76は、上記線材が螺旋状に巻回せしめられた内側巻回部78とこの内側巻回部78の軸方向両端において上記線材が径方向内側に向かって屈曲せしめられた2つの内側フック部80a及び80bとを備えている。自由状態における内側コイルばね76の外径つまり内側巻回部78の外径はリング部材10の内径よりも大きく、内側コイルばね76は比較的小さな力でリング部材10に密接せしめられている。内側コイルばね76がリング部材10に装着されて2つの内側フック部80a及び80bのいずれに何らの力も作用していない状態において、内側コイルばね76がリング部材10に密接することによって生じるトルクを内側保持トルクと称すると、かかる内側保持トルクは比較的小さい。2つの内側フック部80a及び80bは周方向の異なる角度位置に配置されていて、この2つの内側フック部80a及び80bの各々は、図3に示すとおり、上記した2つの間隙74a及び74bの各々に挿入される。内側コイルばね76には潤滑剤が塗布されている。
【0023】
また、リング部材10の外周面には外側コイルばね82が装着されている。図3にあっては、容易に理解できるよう外側コイルばね82にも薄墨を付している(後に言及する図7及び図8にあっても同様)。図示の実施形態においては、外側コイルばね82は内側コイルばね76と軸方向において整合して位置している。外側コイルばね82も断面が矩形である金属製の線材により構成されている。外側コイルばね82は、上記線材が螺旋状に巻回せしめられた外側巻回部84とこの外側巻回部84の軸方向両端において上記線材が径方向外側に向かって屈曲せしめられた2つの外側フック部86a及び86bとを備えている。軸方向の一方から見た線材の巻回方向は内側コイルばね76と外側コイルばね82とで同じである。自由状態における外側コイルばね82の内径つまり外側巻回部84の内径はリング部材10の外径よりも小さく、外側コイルばね82は比較的大きな力でリング部材10に密接せしめられている。外側コイルばね82がリング部材10に装着されて2つの外側フック部86a及び86bのいずれに何らの力も作用していない状態において、外側コイルばね82がリング部材10に密接することによって生じるトルクを外側保持トルクと称すると、かかる外側保持トルクは比較的大きい。2つの外側フック部86a及び86bは周方向の異なる角度位置に配置されていて、この2つの外側フック部86a及び86bの各々は、図3に示すとおり、ハウジング本体12の外周壁18の内周面に形成された複数個の凹部34のうちの2つに夫々挿入されている。外側コイルばね82にも潤滑剤が塗布されている。
【0024】
続いて、双方向トルクリミッタ2の作動について説明する。
最初に、片側部材6に図示しない上記一方の外部機器から時計方向(図1のA-A断面図の右方向から見て。以下同じ)に回転トルクが付加された場合について、図1及び図3と共に図7を参照して説明する。この場合には、片側係止片58は時計方向に回転してその周方向端面(更に詳しくは時計方向下流側の周方向端面)が内側コイルばね76の内側フック部80aを時計方向に押す。図示の実施形態においては、切欠き端面65aが内側フック部80aを押す。内側コイルばね76が装着されたリング部材10の外周面には外側コイルばね82も装着されていることから、内側フック部80aが時計方向に押されて内側コイルばね76と共にリング部材10が時計方向に回転しようとすると、外側フック部86aが凹部34にてハウジング4により反時計方向に押される。ここで、内側フック部80aが時計方向に押されると、内側コイルばね76つまり内側巻回部78は拡径せしめられ、内側巻回部78の外周面とリング部材10の内周面との密接は増強される。従って、リング部材10は内側コイルばね76と一体となって時計方向に回転しようとする。一方、外側フック部86aが反時計方向に押されると、外側コイルばね82つまり外側巻回部84は拡径せしめられ、外側巻回部84の内周面とリング部材10の外周面との密接は弱められる。このことから、片側部材6に付加された上記回転トルクが比較的大きい外側保持トルクよりも大きい場合には、リング部材10が外側コイルばね82に対して滑る。つまり、外側コイルばね82がハウジング4に保持された状態で、リング部材10が外側コイルばね82に対して回転を開始し、片側部材6と内側コイルばね76とリング部材10とが一体となって時計方向に回転を開始する。そして、片側係止片58の非切欠き端面65bが他側係止片70の周方向端面(更に詳しくは時計方向上流側の周方向端面)と当接した後にあっては、図7に示すとおり、片側部材6と内側コイルばね76とリング部材10とは他側部材8を伴ってこれらは一体となって時計方向に回転する。つまり、片側部材6に付加された時計方向の回転が他側部材8に伝達される。このとき、内側フック部80aは他側係止片70の周方向端面から離隔する。なお、片側部材6に付加された上記回転トルクが比較的大きい外側保持トルクよりも小さい場合には片側部材6は回転せず外側保持トルクにより保持される。
【0025】
片側部材6が反時計方向に回転した場合には、片側係止片58が内側コイルばね76の内側フック部80bを押すと共にハウジング4が外側コイルばね82の外側フック部86bを押すことを除いて、片側部材6が時計方向に回転した場合と同じであるため、詳細な説明については省略する。なお、この場合も内側フック部80b及び外側フック部86bは共に夫々のコイルばねが拡径する方向に押される。そして、リング部材10が外側コイルばね82に対して回転を開始する回転トルクの大きさは、片側部材6が時計方向に回転した場合のそれと同一である。
【0026】
次に、他側部材8に図示しない上記他方の外部機器から反時計方向に回転トルクが付加された場合について、図1及び図3と共に図8を参照して説明する。この場合には、他側係止片70は反時計方向に回転してその周方向端面(更に詳しくは反時計方向下流側の周方向端面)が内側コイルばね76の内側フック部80aを反時計方向に押す。内側コイルばね76が装着されたリング部材10の外周面には外側コイルばね82も装着されていることから、内側フック部80aが反時計方向に押されて内側コイルばね76と共にリング部材10が反時計方向に回転しようとすると、外側フック部86bが凹部34にてハウジング4により時計方向に押される。ここで、内側フック部80aが反時計方向に押されると、内側コイルばね76つまり内側巻回部78は縮径せしめられ、内側巻回部78の外周面とリング部材10の内周面との密接は弱められる。さらに、外側フック部86bが時計方向に押されると、外側コイルばね82つまり外側巻回部84は拡径せしめられ、外側巻回部84の内周面とリング部材10の外周面との密接は弱められる。このことから、片側部材6に付加された上記回転トルクが比較的小さい内側保持トルクよりも大きい場合には、内側コイルばね76がリング部材10に対して滑る。つまり、リング部材10が外側コイルばね82に保持された状態で、内側コイルばね76がリング部材に対して回転を開始し、他側部材8と内側コイルばね76とが一体となって反時計方向に回転を開始する。その後に、図8に示すとおり、他側係止片70の周方向端面(更に詳しくは反時計方向下流側の周方向端面)が内側フック部80aと共に片側部材6の非切欠き端面65b(かかる非切欠き端面65bは反時計方向上流側に位置する)と当接してこれらを反時計方向に押し、他側部材8及び内側コイルばね76は片側部材6を伴ってこれらは一体となって反時計方向に回転する。つまり、他側部材8に付加された反時計方向の回転が片側部材6に伝達される。このとき、内側フック部80aは片側係止片58の切欠き端面65aからは離隔する。なお、他側部材8に付加された上記回転トルクが比較的小さい内側保持トルクよりも小さい場合には他側部材8は回転せず内側保持トルクにより保持される。
【0027】
他側部材8が時計方向に回転した場合には、他側係止片70が内側コイルばね76の内側フック部80bを押すと共にハウジング4が外側コイルばね82の外側フック部86aを押すことを除いて、他側部材8が反時計方向に回転した場合と同じであるため、詳細な説明については省略する。なお、この場合も内側フック部80bは内側コイルばね76が縮径する方向に、外側フック部86aは外側コイルばね82が拡径する方向に夫々押される。そして、内側コイルばね76がリング部材10に対して回転を開始する回転トルクの大きさは、他側部材8が反時計方向に回転した場合のそれと同一である。
【0028】
つまり、双方向トルクリミッタ2にあっては、片側部材6から他側部材8に回転トルクを伝達するときと、他側部材8から片側部材6に回転トルクを伝達するときとで滑り出す、つまり回転を開始する回転トルクの大きさが異なり、前者の方が後者よりも大きく設定される。このことから、例えば、片側部材6の片側接続部56に従動側外部機器であるハッチバックを、他側部材8の他側接続部66に駆動側外部機器である電動モーターを夫々接続すれば、電動モーターは比較的軽負荷でハッチバックを開閉動させることができる一方、ハッチバックが全開乃至中間角度位置にあるときには、ハッチバックの角度位置は風等の外乱による比較的軽負荷でバタつくことなく保持される。従って、本発明にかかる双方向トルクリミッタは角度位置保持装置として使用することもできる。
【0029】
かような性質を有する双方向トルクリミッタのうち、本発明の双方向トルクリミッタにあっては、内側コイルばね76及び外側コイルばね82は共通のリング部材10の内周面及び外周面に夫々装着されていることに起因し、例えば先行双方向トルクリミッタのように、2つの異なるリング部材(内輪及び外輪)の外周面に夫々内側コイルばね及び外側コイルばねを装着させる場合と比べて、部品点数を1点削減することができる。本発明の双方向トルクリミッタにあっては更に、外側コイルばね及び内側コイルばねとリング部材との間での位置合わせは不要であるため、組立工程が簡略化される。先行双方向トルクリミッタの場合、内側コイルばねと外輪とを別途位置合わせする必要がある。
【0030】
更に、図示の実施形態においては、片側部材6、他側部材8、リング部材10、内側コイルばね76及び外側コイルばね82は金属製であるが、ハウジング4は合成樹脂製であることから、内側コイルばね76の内側フック部80a又は80bに片側係止片58及び他側係止片70が当接する際には金属同士の衝突であるため音が発生するが、外側コイルばね82の外側フック部86a又は86bがハウジング4に当接する際には金属と合成樹脂との衝突であるため殆ど音は発生しない。ハウジング4が金属製である場合には、外側フック部86a又は86bとハウジング4とが衝突した際の音も加わり、作動時に発生する上記音が過剰に大きくなってしまう。片側部材及び他側部材を合成樹脂製とすることも考えられなくはないが、これらの部材は外部の部材に接続されるため比較的高い強度が要求され、金属製、特に粉末冶金により形成されることが好ましい。
【0031】
さらにまた、図示の実施形態においては、片側部材6が回転したときは、切欠き端面65aが2つの内側フック部80a及び80bのいずれかを押すと共に非切欠き端面65bが他側係止片8の周方向端面を押して、切欠き端面65aにより押された2つの内側フック部の80a及び80bのいずれかは他側係止片70の周方向端面から離隔する一方、他側部材8が回転したときは、他側係止片70の周方向端面が2つの内側フック部80a及び80bのいずれかと共に片側部材6の非切欠き端面65bを押して、他側係止片70により押された2つの内側フック部80a及び80bのいずれかは片側係止片58の切欠き端面65aから離隔する。つまり、片側部材6及び他側部材8のいずれから回転トルクが付加された場合であっても、内側フック部80a及び80bが片側係止片58及び他側係止片70の周方向端面によって挟まれることは無く、片側部材6から他側部材8へ又はその逆への回転トルクの伝達経路上に内側フック部80a及び80bは位置しない。それ故に、上記回転トルクが付加された際に内側フック部80a及び80bに力が集中することが回避され、内側フック部80a及び80bの破損が防止される。
【0032】
以上、本発明に従って構成された双方向トルクリミッタについて添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、上述した実施形態においては、片側係止片58及び他側係止片70が組み合された際に生成される2つの間隙74a及び74bの各々に、内側コイルばね76が備える2つの内側フック部80a及び80bの各々が挿入されていたが、これに替えて、外側コイルばねが備える2つの外側フック部の各々が挿入されるようにしてもよい。かような変形例について図9を参照して説明する。図9図3に相当する図である。図9では図3と同一の構成については同一の番号に「´」を付して示し、その詳細な説明については省略する。本変形例にあっては、外側コイルばね82´の方が内側コイルばね76´よりも小さな力でリング部材10´に密接せしめられる。固定部材であるハウジング4´の中央には軸方向に直線状に延びる断面円弧形状の係止手段88´が形成されていて(従って係止手段88´は固定されている)、内側コイルばね76´は係止手段88´の外周面に沿って配置される。そして、片側部材6´及び他側部材8´のいずれかに回転トルクが付加されて内側コイルばね76´がリング部材10´と共に回転しようとする場合には、2つの内側フック部80a´及び80b´のいずれかが係止手段88´更に詳しくはその周方向端面によって内側コイルばね76´が縮径する方向に押される。従って、片側部材6´に回転トルクが付加されると、2つの外側フック部86a´及び86b´のいずれかが片側係止片58´により外側コイルばね82´が縮径する方向に押されると共に、2つの内側フック部80a´及び80b´のいずれかが係止手段88´により内側コイルばね76´が縮径する方向に押され、片側部材6´は外側コイルばね82´及びリング部材10´と一体となって内側コイルばね76´による比較的大きな制動トルクに抗して回転して他側部材8´に回転を伝達する。一方、他側部材8´に回転トルクが付加されると、2つの外側フック部86a´及び86b´のいずれかが他側係止片70´により外側コイルばね82´が拡径する方向に押されると共に、2つの内側フック部80a´及び80b´のいずれかが係止手段88´により内側コイルばね76´が縮径する方向に押され、リング部材10´が内側コイルばね76´によって保持された状態で、他側部材8´は外側コイルばね82´による比較的小さな制動トルクに抗して外側コイルばね82´と共にリング部材10´に対して回転して片側部材6´に回転を伝達する。なお、本変形例にあっては、係止手段88´は固定されていればこれは必ずしもハウジング4´に配設されている必要はなく、従ってハウジング4´は省略してもよい。ハウジング4´を省略した場合、係止手段88´はそれ自身が固定部材となるか、又は図示しない別途の固定部材の一部に設けられることとなる。
【0033】
また、図示の実施形態においては、片側係止片及び他側係止片の断面は共に中心軸周りに延在する円弧形状であって夫々単一の部材により構成されていたが、片側係止片及び他側係止片を夫々周方向に間隔をおいて配置された2つの柱状の部材に分けて構成してもよい。使用用途等によっては、全ての構成部材を合成樹脂製、又は金属製とすることもできる。更に、内側コイルばね及び外側コイルばねを構成する線材の断面も矩形ではなく円形であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
2:双方向トルクリミッタ
4:ハウジング
6:片側部材
8:他側部材
10:リング部材
34:(ハウジングの)凹部
58:片側係止片
70:他側係止片
74a及び74b:間隙
76:内側コイルばね
80a及び80b:内側フック部
82:外側コイルばね
86a及び86b:外側フック部
【要約】
【課題】部品点数が少なく且つ組立容易な新規の双方向トルクリミッタ、殊に接続された2つの部材の一方から回転トルクが付加された際に回転を開始する回転トルクの大きさと他方から回転トルクが付加された際に回転を開始する回転トルクの大きさとを変化させることができる双方向トルクリミッタを提供すること。
【解決手段】内側コイルばね76及び外側コイルばね82を共通のリング部材10の内周面及び外周面に夫々装着する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9