(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20240227BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240227BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20240227BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20240227BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20240227BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20240227BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20240227BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20240227BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
B01J37/02 101D
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01J23/46 311A
B01J35/57 E
B01J37/02 ZAB
F01N3/022 C
F01N3/035 A
F01N3/10 A
F01N3/24 E
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2023540836
(86)(22)【出願日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2023007009
(87)【国際公開番号】W WO2023167128
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2022031196
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】山本 恵太
(72)【発明者】
【氏名】松井 優
(72)【発明者】
【氏名】小原 恵津子
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-253961(JP,A)
【文献】特開2021-171676(JP,A)
【文献】特開2021-004579(JP,A)
【文献】特開2019-198838(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221216(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/94
B01J 21/00-38/74
F01N 3/00- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気経路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒の製造方法であって、
一方の端部のみが開口した第1セルと、他方の端部のみが開口した第2セルと、前記第1セルと前記第2セルとを仕切る多孔質な隔壁と、を有するウォールフロー構造の基材を準備すること、
測定温度25℃、せん断速度4s
-1
における粘度が1500mPa・s未満であって、前記隔壁の平均細孔径をXμmとしたとき、レーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径が0.15Xμm以下である粒子を含む触媒層形成用材料を準備すること、
前記触媒層形成用材料を、前記基材の前記第1セルが開口した端部に供給し、前記隔壁の延伸方向における前記隔壁の前記第1セルに面する範囲のうち、前記第2セルが開口した端部側に前記触媒層形成用材料が塗工されていない未塗工部が形成されるように、前記隔壁の延伸方向に沿って、前記触媒層形成用材料を前記基材の前記第1セルが開口した端部から所定の長さまで前記隔壁の内部に塗工すること、および
前記基材の前記第2セルが開口した端部から通風し、前記塗工された触媒層形成用材料を乾燥させること
を包含する、排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記隔壁の延伸方向において、前記触媒層形成用材料を前記隔壁に塗工する長さの割合が、前記隔壁の全体の長さの90%以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記通風の速度が10m/s以下である、請求項1
または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒層形成用材料が触媒金属を含み、
前記触媒金属が、Pt、Pd、Rhからなる群の少なくともいずれかを含む、請求項1
または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒の製造方法に関する。なお、本出願は2022年3月1日に出願された日本国特許出願2022-031196号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
車両エンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有毒な排ガス成分や、粒子状物質(PM:Particulate Matter)等が含まれている。これらの排ガス成分を効率よく除去するために、従来からウォールフロー型の排ガス浄化用触媒が利用されている。
【0003】
ウォールフロー型の排ガス浄化用触媒は、典型的には、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セルと、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セルと、両セルを仕切る多孔質な隔壁(リブ壁)とを備える基材と、排ガス成分を浄化可能な触媒を含む触媒層とを備える。内燃機関から排出された排ガスは、排ガス流入側の端部から入側セル内へと流入し、多孔質な隔壁の細孔内を通過して隣接する出側セルの排ガス流出側の端部から流出する。この間に、排ガスが触媒層(例えば触媒金属)と接触することで、排ガス成分を浄化(無害化)することができる。
【0004】
触媒層は、その成分や設けられる位置によって、排ガス浄化性能の向上や、圧力損失の上昇の抑制等に寄与する。例えば、特許文献1および特許文献2には、触媒層が隔壁の内部(詳細には、隔壁の細孔の壁面)に形成されており、かかる触媒層が隔壁の厚み方向において所定のセル側に偏析した排ガス浄化用触媒が開示されている。また、特許文献3には、触媒層を隔壁内部において所定のセル側に偏析させる製造技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/221214号
【文献】国際公開第2019/221217号
【文献】日本国特許出願公開第2019-198837号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、触媒層を隔壁内部に偏析させて形成させると、触媒層が隔壁の細孔が閉塞または狭小しやすくなるため、圧力損失が上昇し易い傾向がある。そのため、圧力損失の上昇を抑制する観点からは、触媒層は隔壁内部により均一に形成されていることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、隔壁の厚み方向に対して均一性の高い触媒層を有する排ガス浄化用触媒の製造方法を提供することにある。
【0008】
本開示により、内燃機関の排気経路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒の製造方法が提供される。かかる排ガス浄化用触媒製造方法は、一方の端部のみが開口した第1セルと、他方の端部のみが開口した第2セルと、上記第1セルと上記第2セルとを仕切る多孔質な隔壁と、を有するウォールフロー構造の基材を準備すること、触媒層形成用材料を、上記基材の上記第1セルが開口した端部に供給し、上記隔壁の延伸方向における上記隔壁の上記第1セルに面する範囲のうち、上記第2セルが開口した端部側に上記触媒層形成用材料が塗工されていない未塗工部が形成されるように、上記隔壁の延伸方向に沿って、上記触媒層形成用材料を上記基材の上記第1セルが開口した端部から所定の長さまで上記隔壁の内部に塗工すること、および、上記基材の上記第2セルが開口した端部から通風し、上記塗工された触媒層形成用材料を乾燥させることを包含する。
かかる製造方法によれば、触媒層形成用材料が塗工されていない未塗工部側の端部(第2セルの開口部)から通風させて、塗工された触媒層形成用材料の乾燥を行う。第2セルに導入された乾燥風は、第2セルの奥側に向かう流路と、未塗工部を通過して第1セル内に流れる流路とに分岐する。これにより、塗工された触媒層形成用材料を、第1セルと接する表面と、第2セルと接する表面とから同時に乾燥することができる。その結果、塗工された触媒層形成用材料の偏析が生じるのを抑制し、隔壁の厚み方向に対して均一性の高い触媒層を有する排ガス浄化用触媒を製造することができる。
【0009】
また、ここで開示される排ガス浄化用触媒製造方法の好ましい一態様では、上記隔壁の延伸方向において、上記触媒層形成用材料を上記隔壁に塗工する長さの割合が、隔壁全体の長さの90%以下である。かかる構成によれば、未塗工部の長さの割合が高くなるため、乾燥風が未塗工部を通過し易くなり、より均一に塗工された触媒層形成用材料を乾燥させることができる。その結果、隔壁の厚み方向に対して均一性がより高い触媒層を有する排ガス浄化用触媒を製造することができる。
【0010】
また、ここで開示される排ガス浄化用触媒製造方法の好ましい一態様では、測定温度25℃、せん断速度4s-1における上記触媒層形成用材料の粘度が1500mPa・s未満である。これにより、触媒層形成用材料を塗工し易くなる。
【0011】
また、ここで開示される排ガス浄化用触媒製造方法の好ましい一態様では、上記隔壁の平均細孔径をXμmとしたとき、レーザ回折・散乱法に基づく上記触媒層形成用材料に含まれる粒子の平均粒子径が0.15Xμm以下である。これにより、触媒層形成用材料を隔壁内部に塗工し易くなる。
【0012】
また、ここで開示される排ガス浄化用触媒製造方法の好ましい一態様では、上記通風の速度が10m/s以下である。これにより、隔壁の厚み方向に対して均一性のより高い触媒層を有する排ガス浄化用触媒を製造することができる。
【0013】
また、ここで開示される排ガス浄化用触媒製造方法の一態様では、上記触媒層形成用材料が触媒金属を含み、上記触媒金属が、Pt、Pd、Rhからなる群の少なくともいずれかを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、排ガス浄化装置とその周辺の構造を示す模式図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の隔壁の延伸方向に沿った断面を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、従来の排ガス浄化用触媒の製造技術の一例を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、ここで開示される排ガス浄化用触媒の製造技術を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る排ガス浄化用触媒の隔壁の延伸方向に沿った断面を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係る排ガス浄化用触媒の隔壁の延伸方向に沿った断面を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、例1における排ガス浄化用触媒の隔壁のSEM画像である。
【
図9】
図9は、例2における排ガス浄化用触媒の隔壁のSEM画像である。
【
図10】
図10は、例1および例2における排ガス浄化用触媒の隔壁の平均ネック径を示すグラフである。
【
図11】
図11は、例1および例2における排ガス浄化用触媒の圧力損失上昇率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を適宜参照しつつ、ここで開示される技術について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲に関してA~B(ここでA、Bは任意の数値)と記載されている場合、A以上B以下を意味し、Aより大きくBより小さい範囲を包含する。
【0016】
図1は、排ガス浄化装置1とその周辺の構造を示す模式図である。排ガス浄化装置1は、内燃機関(エンジン)2の排気系に設けられている。内燃機関2には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給される。内燃機関2は、この混合気を燃焼させ、燃焼エネルギーを力学的エネルギーへと変換する。このとき、燃焼された混合気は排ガスとなって排気系に排出される。本実施形態の内燃機関2は、自動車のガソリンエンジンを主体として構成されている。ただし、内燃機関2は、ガソリンエンジン以外のエンジン(例えばディーゼルエンジンなど)であってもよい。
【0017】
排ガス浄化装置1は、内燃機関2から排出される排ガスに含まれる有害成分、例えば、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を浄化するとともに、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集する。排ガス浄化装置1は、内燃機関2と排気系とを連通する排気経路(エキゾーストマニホールド3および排気管4)と、エンジンコントロールユニット(ECU)7と、触媒部5と、フィルタ部6と、を備えている。なお、図中の矢印は、排ガスの流通方向を示している。
【0018】
本実施形態の排気経路はエキゾーストマニホールド3と排気管4とで構成されている。内燃機関2の排気系と連通する排気ポート(図示せず)には、エキゾーストマニホールド3の一端が接続されている。エキゾーストマニホールド3の他端は、排気管4に接続されている。
【0019】
排気管4の途中には、触媒部5とフィルタ部6とが配置されている。本実施形態においては、フィルタ部6には、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)が配置されている。しかしながら、フィルタ部6は、内燃機関2の構成に合わせてGPF以外のフィルタを採用することができ、例えばディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)であってもよい。ここで開示される排ガス浄化用触媒は、例えば、フィルタ部6として採用することができる。触媒部5の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。触媒部5は、例えば、従来公知の酸化触媒(酸化触媒DOC)、三元触媒、NOx吸着還元触媒(LNT)などであってもよい。触媒部5は、例えば、担体と、該担体に担持された貴金属、例えば、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などを備えていてもよい。なお、触媒部5は必ずしも必要ではなく省略することもできる。また、フィルタ部6の下流側には、他の触媒をさらに配置することもできる。
【0020】
ECU7は、排ガス浄化装置1と内燃機関2とを制御する。ECU7の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。ECU7は、例えば、デジタルコンピュータである。ECU7には、入力ポート(図示せず)が設けられている。ECU7は、排ガス浄化装置1や内燃機関2の各部位に設置されているセンサ(例えば圧力センサ8)と電気的に接続されている。これにより、各々のセンサで検知した情報が上記入力ポートを介して電気信号としてECU7に伝達される。また、ECU7には、出力ポート(図示せず)が設けられている。ECU7は、出力ポートを介して制御信号を送信する。ECU7は、例えば内燃機関2から排出される排ガスの量などに応じて、排ガス浄化装置1の起動と停止とを制御する。
【0021】
以下、ここで開示される排ガス浄化用触媒の一実施形態について詳細に説明する。
図2は、一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図3は、一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の隔壁の延伸方向に沿った断面を模式的に示す図である。なお、本明細書にて参照する各図における符号Aは「排ガスの流通方向」を示す。また、符号Xは「隔壁の延伸方向」を示し、符号Yは「隔壁の厚み方向」を示す。
【0022】
図2および3に示すように、本実施形態において、排ガス浄化用触媒100は、基材10と、第1触媒層20と、第2触媒層30とを備えている。排ガス浄化用触媒100は、排ガスに含まれる排ガス成分を浄化する機能を有する。また、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集する機能を有する。
【0023】
基材10は、排ガス浄化用触媒100の骨組みを構成する。
図2に示すように、本実施形態では、排ガスの流通方向Aに沿って伸びる円筒形の基材10が用いられている。なお、基材の外形は、円筒形に限定されず、楕円筒形、多角筒形などであってもよい。また、基材10の全長や容量も、特に限定されず、内燃機関2(
図1参照)の性能や排気管4の寸法等に応じて適宜変更することができる。また、基材10には、排ガス浄化用触媒の基材に使用され得る従来公知の素材を特に制限なく使用できる。かかる基材10の素材の一例として、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)、チタン酸アルミニウムなどのセラミックや、ステンレス鋼などの合金に代表されるような高耐熱性素材が挙げられる。例えば、コージェライトは、熱衝撃に対する耐久性に優れているため、高温の排ガスが供給されやすいガソリンエンジン用のパティキュレートフィルタ(GPF)の基材の素材として特に好適に使用できる。
【0024】
本実施形態における基材10は、ウォールフロー型のハニカム基材である。本明細書において、ハニカム構造とは、流体(例えば排ガス)の流路となるセルが複数集合した構造のことをいう。
図2および3に示すように、基材10は、一方の端部10bのみが開口した第1セル12と、他方の端部10aのみが開口した第2セル14と、第1セル12と第2セル14とを仕切る多孔質な隔壁16とを備えている。本実施形態においては、第1セル12は、排ガス流出側の端部10bのみが開口した出側セルである。また、第2セル14は、排ガス流入側の端部10aのみが開口した入側セルである。第1セル12は、排ガス流入側の端部10aが封止部12aで塞がれ、かつ、排ガス流出側の端部10bが開口したガス流路である。第2セル14は、排ガス流入側の端部10aが開口し、かつ、排ガス流出側の端部10bが封止部14aで塞がれたガス流路である。また、隔壁16は、排ガスが通過可能な細孔が複数形成された仕切り材である。この隔壁16は、第1セル12と第2セル14とを連通させる細孔を複数有している。なお、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒100では、隔壁16の延伸方向Xに垂直な断面における第1セル12(第2セル14)の形状が正方形である(
図2参照)。しかし、隔壁16の延伸方向Xに垂直な断面における当該入側セル(出側セル)の形状は、正方形に限定されず、種々の形状を採用できる。例えば、平行四辺形、長方形、台形などの矩形状、三角形状、その他の多角形状(例えば、六角形、八角形)、円形など種々の幾何学形状であってもよい。
【0025】
基材10の隔壁16は、PM捕集性能や圧損抑制性能などを考慮して形成されていることが好ましい。例えば、隔壁16の厚みは、100μm~350μm程度が好ましい。さらに、隔壁16の気孔率は、20体積%~70体積%程度が好ましく、50体積%~70体積%がより好ましい。かかる気孔率は、水銀圧入法によって測定することができる。
【0026】
隔壁16の通気性を十分に確保して圧損の増大を抑えるという観点から、隔壁16の細孔の平均細孔径は、8μm以上が好ましく、12μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。一方、適切なPM捕集性能を確保するという観点から、隔壁16の細孔の平均細孔径の上限値は、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。なお、かかる平均細孔径は、隔壁16内部に触媒層を有していない部分(触媒層形成前の隔壁の場合を含む)における数値範囲である。また、かかる平均細孔径は、パームポロメータを用いたバブルポイント法によって測定された値であり、貫通孔における平均細孔径のことをいう。
【0027】
図3に示すように、第1触媒層20は、隔壁16内部の少なくとも第2セル14と接する領域に、排ガス流出側の端部10bから隔壁16の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている。なお、本明細書において、「触媒層が隔壁の内部に形成されている」とは、触媒層が隔壁の外部(典型的には表面)ではなく、隔壁の内部(具体的には、隔壁の細孔の壁面)に主として存在することをいう。より具体的には、例えば第1触媒層20が形成された隔壁16の断面において、延伸方向Xにおける隔壁16の全体の長さL
wの1/10の長さの範囲におけるコート量全体を100%としたとき、隔壁の内部に存在するコート量分が、典型的には80%以上、例えば85%以上、好ましくは90%以上、さらには95%以上、特には実質的に100%である状態のことをいう。したがって、例えば隔壁の表面に触媒層を配置しようとした際に触媒層の一部が意図せずに隔壁の内部へ浸透するような場合とは明確に区別されるものである。
【0028】
触媒層のコート量の分布(所定の領域における触媒層のコート量の割合)は、隔壁16の断面の電子顕微鏡観察画像において、触媒層形成部分のピクセル数を用いることにより測定することができる。具体的には、以下の手順に基づいて測定することができる。
(a)検査対象の排ガス浄化用触媒を分解し、基材の隔壁を樹脂で包埋した試料片を準備する。
(b)試料片を削り、隔壁の断面を露出させる。そして、露出した隔壁の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、断面SEM観察画像(反射電子像、例えば観察倍率150倍)を得る。
(c)二次元画像解析ソフト(例、製品名:ImageJ(登録商標))を使用し、上記断面SEM観察画像に自動2値化処理を行い、触媒層だけを映した2値画像を得る。
(d)上記2値画像において確認された所定の領域内の「触媒層の総ピクセル数」をカウントする。そして、カウントしたピクセル数を基づいて、触媒層の分布を測定することができる。
【0029】
第1触媒層20は、隔壁16の延伸方向Xと直交する隔壁16の厚み方向Yにおいて、隔壁16の厚み全体にわたって形成されている。また、第1触媒層20は、隔壁16の厚み方向に高い均一性をもって形成されている。具体的には、隔壁16を厚み方向Yで2等分したときの2領域をそれぞれ第1領域(例えば、図中の第1セル12側の領域)と、第2領域(例えば、図中の第2セル14側の領域)としたとき、第1領域に含まれる第1触媒層20のコート量を、第2領域に含まれる第1触媒層20のコート量で除した値は、例えば、0.33以上3以下であって、好ましくは0.33以上0.5以下若しくは2以上3以下、より好ましくは0.5以上2以下であり得る。これにより、隔壁16の細孔が触媒層によって局所的に狭小または閉塞することを防ぐことができるため、圧力損失の上昇を抑制することができる。なお、本明細書において、第1領域に含まれる第1触媒層20のコート量を、第2領域に含まれる第1触媒層20のコート量で除した値は、隔壁の断面SEM観察画像における触媒層形成部のピクセル数を用いて算出したものである(上述の方法を参照)。
【0030】
第1触媒層20は、隔壁16の延伸方向Xにおいて、基材10の端部10bから形成されている。また、第1触媒層20は、隔壁16の全長Lwよりも短い長さで形成されている。第1触媒層20の延伸方向Xにおける長さ(平均長さ)L1は、圧力損失を低減する観点から、例えば隔壁16の全長Lwの95%以下(即ちL1≦0.95Lw)であって、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下であり得る。また、浄化性能向上等の観点から、第1触媒層20の長さL1は、例えば隔壁16の全長Lwの10%以上(すなわちL1≧0.1Lw)、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上である。
【0031】
また、第1触媒層20は、少なくとも一種の排ガス成分を酸化若しくは還元し得る触媒として機能する触媒を含み得る。かかる触媒としては、例えば、三元触媒や、SCR触媒等が挙げられる。
【0032】
三元触媒に用いられる触媒金属としては、例えば、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)等の白金族元素に属する金属があるいはその他の酸化若しくは還元触媒として機能する金属が挙げられる。このなかでも、PdおよびPtは、一酸化炭素および炭化水素の浄化性能(酸化浄化能)に優れ、RhはNOxの浄化性能(還元浄化能)に優れるため、これらは三元触媒として特に好ましい触媒金属である。これらに加えて、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)その他のアルカリ土類金属、アルカリ金属、遷移金属等からなる金属を助触媒成分として併用してもよい。触媒金属の電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径は、好ましくは0.5nm~50nmであり、より好ましくは1nm~20nmであり得るが特に限定されない。かかる平均粒子径は、電子顕微鏡観察によって観察される画像において、少なくとも100個の触媒金属粒子の粒子径(円相当径)を測定したときの算術平均である。
【0033】
第1触媒層20において、上記触媒金属は担体に担持されて存在し得る。かかる担体としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、セリア(CeO2)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)等が挙げられる。また、イットリア(Y2O3)等の希土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物等であり得る。また、酸素を吸蔵・放出可能な酸素ストレージ能(OSC:oxygen storage capacity)を有する無機酸化物(いわゆるOSC材)等であり得る。OSC材としては、例えば、セリア-ジルコニア複合酸化物(CZ又はZC複合酸化物)等が挙げられる。また、耐熱性向上の観点から、例えばイットリウム(Y)、ランタン(La)、ニオブ(Nb)、プラセオジム(Pr)その他の希土類元素を含む酸化物が微量添加されたセリア、セリア-ジルコニア複合酸化物等のOSC材を好ましく採用することができる。なお、担体は、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記担体の形状(外形)は特に制限されないが、より大きい比表面積を確保できるという観点から、粉末状のものが好ましく用いられる。例えば、担体の平均粒子径(レーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径)は、例えば20μm以下、典型的には10μm以下、例えば7μm以下が好ましい。上記担体の平均粒子径が大きすぎる場合は、該担体に担持された貴金属の分散性が低下する傾向があり、触媒の浄化性能が低下するため好ましくない。上記平均粒子径は、例えば5μm以下、典型的には3μm以下であってもよい。一方、担体の平均粒子径が小さすぎると、該担体からなる担体自体の耐熱性が低下するため、触媒の耐熱特性が低下し、好ましくない。したがって、通常は平均粒子径が凡そ0.1μm以上、例えば0.5μm以上の担体を用いることが好ましい。上記担体における触媒金属の担持量は特に制限されないが、第1触媒層20の触媒金属を担持する担体の全質量に対して0.01質量%~10質量%の範囲(例えば0.1質量%~8質量%、典型的には0.2質量%~5質量%)とすることが適当である。上記触媒金属の担持量が少なすぎると、触媒金属により得られる触媒活性が不十分となることがあり、他方、触媒金属の担持量が多すぎると、触媒金属が粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。
【0035】
なお、本明細書において、レーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径とは、レーザ回折・光散乱法に基づく粒度分布測定によって得られた体積基準の粒度分布おいて、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D50粒子径、メジアン径ともいう。)をいう。
【0036】
上記担体に触媒金属粒子を担持させる方法としては特に制限されない。例えば触媒金属塩(例えば硝酸塩)や触媒金属錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液に上記担体を含浸させた後、乾燥させ、焼成することにより調製することができる。
【0037】
また、第1触媒層20に含まれ得る触媒として例示されるSCR触媒としては、例えば、ゼオライト触媒やパナジウム触媒が挙げられる。SCR触媒は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を浄化することができる。ゼオライト触媒としては特に限定されないが、金属元素を担持したβ型ゼオライト、シリコンアルミノリン酸塩(SAPO)系ゼオライト、ZSM-5型ゼオライト、Cu-Y型ゼオライト等が例示される。例えば、好適なゼオライトの構造を国際ゼオライト学会(IZA:International Zeolite Association)が定めるコードで示すと、AEI、AFT、AFX、AST、BEA、BEC、CHA、EAB、ETR、GME、ITE、KFI、LEV、THO、PAU、UFIが、SAS、SAT、SAV挙げられる。これらの1種または2種以上を併用してもよい。上記ゼオライトに担持される金属元素としては、銅、鉄、銀などが例示される。例えば、銅を担持したSAPO系ゼオライトや、鉄を担持したβ型ゼオライトの使用が特に好ましい。
【0038】
第1触媒層20は、隔壁16の内部に形成されるため、第1触媒層20に含まれる粒子(例えば、触媒を担持した担体粒子)の平均粒子径は、隔壁16の平均細孔径よりも小さい。隔壁16の平均細孔径をXμmとしたとき、第1触媒層20に含まれる粒子のレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径は、例えば0.15Xμm以下であって、好ましくは0.10Xμm以下、0.07Xμm以下であり得る。また、特に限定されるものではないが、かかる平均粒子径は、例えば、0.01Xμm以上であり得る。
【0039】
第1触媒層20のコート密度(すなわち、第1触媒層20の質量を基材の長さL1部分の体積(セル通路の体積も含めた全体の嵩体積)で割った値)は特に限定されないが、概ね350g/L以下にすることが適当である。圧力損失低減等の観点から、第1触媒層20のコート密度は、好ましくは300g/L以下、より好ましくは250g/L以下、さらに好ましくは200g/L以下である。また、第1触媒層20のコート密度は、例えば180g/L以下であってもよく、160g/L以下であってもよい。また、第1触媒層20のコート密度の下限は特に限定されないが、浄化性能向上等の観点から、好ましくは30g/L以上、より好ましくは50g/L以上、さらに好ましくは75g/L以上である。例えば第1触媒層20のコート密度が90g/L以上、典型的には100g/L以上であってもよい。
【0040】
第1触媒層20が形成された部分における隔壁16の細孔の平均細孔径(ネック径)は、特に限定されるものではないが、圧力損失の上昇を低減させる観点から、好ましくは12μm以上、より好ましくは13μm以上である。一方、適切なPM捕集性能を確保するという観点から、第1触媒層20が形成された部分における隔壁16の平均細孔径の上限値は、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。なお、かかる平均細孔径は、パームポロメータを用いて、バブルポイント法によって測定された値であり、貫通孔における平均細孔径のことをいう。
【0041】
本実施形態では、第2触媒層30は、隔壁16の第2セル14と接する側の表面において、基材10の端部10aから延伸方向Xに沿って、隔壁16の全長Lwよりも短い長さで形成されている。しかしながら、第2触媒層30の延伸方向の長さ(平均長さ)L2は、特に限定されない。浄化性能向上等の観点から、第2触媒層30の長さL2は、Lwの10%以上(すなわちL2≧0.1Lw)、15%以上、20%以上、25%以上であり得る。また、圧力損失を低減する等の観点から、第2触媒層30の長さL2は、例えば、上記Lwの60%以下(すなわちL2≦0.6Lw)、55%以下、50%以下、40%以下であり得る。なお、第2触媒層30は、排ガス浄化性能の向上等を目的に任意に形成される触媒層であり、必須の構成ではない。
【0042】
第2触媒層30は、隔壁16の延伸方向Xにおいて、第1触媒層20と重なる部分(オーバーラップ部分)を有していてもよい。換言すれば、条件:Lw<L1+L2<2Lwを具備していてもよい。これにより、排ガス浄化用触媒100に流入した排ガスが、触媒層が形成されていない部分を通過して、未浄化のまま排出されることを防止することができ得る。オーバーラップ部分の長さは、特に限定されるものではないが、例えば、隔壁16の全体の長さLwの2%~60%であって、好ましくは5%~40%、より好ましくは10%~20%である。
【0043】
延伸方向Xと直交する厚み方向Yにおいて、第2触媒層30の厚み(平均厚み)は特に限定されないが、例えば、隔壁16の厚みの5%以上であって、好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である。このような第2触媒層30の厚みの範囲内であると、第2セル14の開口部を排ガス流入側としたとき、上流側の隔壁16内への排ガスの侵入(ひいては第2触媒層30のみを通過する排ガス流れ)を抑制して、排ガス浄化性能を向上させることができる。第2触媒層30の厚みの上限は特に限定されないが、圧力損失を低減する等の観点からは、好ましくは隔壁16の厚みの50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下であり得る。
【0044】
第2触媒層30に含まれ得る成分(例えば、触媒、助触媒、担体など)は、上述した第1触媒層20に含まれ得る成分として例示したものから選択することができる。ただし、第2触媒層30が隔壁16の表面に形成されるよう、隔壁16の平均細孔径をXμmとしたとき、第2触媒層30に含まれる粒子のレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径は0.3Xμm以上、好ましくは0.5Xμm以上で有り得る。また、第2触媒層30のコート密度は特に限定されず、例えば、上述の第1触媒層20のコート密度として例示した範囲と同様であってよい。
【0045】
本開示により、排ガス浄化用触媒の製造方法が提供される。ここで開示される排ガス浄化用触媒の製造方法の一態様では、基材を準備する基材準備工程と、触媒層形成用材料を基材へ塗工する塗工工程と、塗工された触媒層形成用材料を乾燥させる乾燥工程とを含む。また、ここで開示される排ガス浄化用触媒の製造方法は、乾燥した触媒層形成用材料を焼成して、触媒層を形成する焼成工程を含み得る。また、ここで開示される排ガス浄化用触媒の製造方法は、他の触媒層を形成する第2触媒層形成工程を含み得る。
図4は、従来の排ガス浄化用触媒の製造技術の一例を説明するための模式図である。
図5は、ここで開示される排ガス浄化用触媒の製造技術を説明するための模式図である。
【0046】
基材準備工程では、上述した排ガス浄化用触媒100の基材10を準備する。即ち、一方の端部10bのみが開口した第1セル12と、他方の端部10aのみが開口した第2セル14と、第1セル12と第2セル14とを仕切る多孔質な隔壁16と、を有するウォールフロー構造の基材10を準備する。ここで準備する基材10の構成の詳細は、上述した排ガス浄化用触媒100の基材10の構成と同様であってよい。
【0047】
塗工工程は、触媒層形成用材料を準備することを含み得る。触媒層形成用材料は、基材10の隔壁16の内部に触媒層を形成するための材料であり、ここでは、上述した第1触媒層20を形成するための材料である。触媒層形成用材料は、典型的には、隔壁16へ塗工可能なスラリー(ペーストまたはインクを包含する。以下同じ)であり得る。触媒層形成用材料は、少なくとも触媒と、当該触媒を分散させる分散媒とを含む。触媒としては、上述の第1触媒層20が含み得る触媒と同様であってよく、例えば、触媒金属であり得る。
分散媒としては、この種の触媒層形成用材料に用いられる分散媒を特に制限なく使用でき、例えば、水系溶媒(例えば、水、脱イオン水、純水等)を好適に使用することができる。
【0048】
また、触媒層形成用材料は、粘度調整用の増粘剤が含まれていてもよい。増粘剤としては、例えば、水溶性有機ポリマーを挙げることができる。
【0049】
触媒層形成用材料の粘度は、触媒層形成用材料を隔壁内部に塗工させやすくする観点から、例えば、2000mPa・s未満であって、好ましくは1500mPa・s未満、より好ましくは1000mPa・s以下(例えば1000mPa・s未満)である。また、特に限定されるものではないが、触媒層形成用材料の粘度は、例えば1mPa・s以上、10mPa・s以上、50mPa・s以上であり得る。なお、本明細書において、触媒層形成用材料の粘度は、E型粘度計(陶器産業株式会社製、TVE-35H)を用いて、ロータ種:1°34’×R24を使用し、測定温度25℃、せん断速度4s-1で測定したときの粘度のことをいう。
【0050】
触媒層形成用材料に含まれる粒子の平均粒子径は、触媒層形成用材料を隔壁16の内部に塗工させやすくする観点から、基材10の隔壁16の平均細孔径をXμmとしたとき、例えば、0.5Xμm未満であって、好ましくは0.15Xμm以下、より好ましくは0.1Xμm以下である。これにより、触媒層形成用材料に含まれる粒子が隔壁16の細孔内に侵入し、隔壁16の内部に触媒層を形成することができる。また、特に限定されるものではないが、触媒層形成用材料に含まれる粒子の平均粒子径は、例えば、0.01Xμm以上であって、好ましくは0.05Xμm以上、より好ましくは0.07Xμm以上である。なお、かかる平均粒子径は、レーザ回折・散乱法に基づいて測定した値のことをいう。
【0051】
触媒層形成用材料の塗工方法としては、例えば、吸引コート法が挙げられる。吸引コート法では、まず、基材10の第1セル12が開口した端部10b側に触媒層形成用材料を供給する。そして、端部10bとは反対側(即ち、第2セル14が開口した端部10a)から吸引を行い、供給された触媒形成用材料を基材10の内部に引き込む。これにより、隔壁16の延伸方向Xに沿って、基材10の第1セル12が開口した端部10bから所定の長さまで、隔壁16の内部に触媒層形成用材料を塗工する。このとき、隔壁16の延伸方向Xの長さ全体まで触媒層形成用材料を塗工しないように調整する。これにより、
図4および
図5に示すように、隔壁16に触媒層形成用材料が塗工された塗工部120と、触媒層形成用材料が塗工されていない未塗工部160とを形成することができる。なお、このとき、未塗工部160の少なくとも一部が、隔壁16の延伸方向Xにおいて、隔壁16の第1セル12に面する範囲に存在するように形成されるように塗工部120を形成する。換言すれば、隔壁16の延伸方向Xにおいて、未塗工部160が、封止部12aよりも長くなるように形成されるように塗工部120を形成する。また、塗工部120は、隔壁16の厚み方向Y全体にわたって形成されている。
【0052】
乾燥工程では、基材10の第2セル14が開口した端部10aから通風することで、塗工された触媒層形成用材料を乾燥させる。換言すれば、未塗工部160が形成されている側の基材10の端部から通風することで、塗工部120を乾燥させる。
【0053】
図4に示すように、従来の製造技術の一例では、乾燥風Fを基材10の端部10bにある第1セル12の開口部から、第1セル12の内部に通風させる。換言すれば、塗工部120が形成されている側の基材10の端部10bから乾燥風Fを導入する。乾燥風Fは、隔壁16のウェットな部分(塗工部120)をほとんど通過することができないため、第1セル12に導入された乾燥風Fのほとんどは、第1セル12の奥側(封止部12a側)へ流れ、隔壁16の未塗工部160を通過して、第2セル14の開口部から流出する。このような乾燥風Fの流路で塗工部を乾燥させると、塗工部120の第1セル12に接する表面の乾燥が顕著に促進される。これにより、塗工部120において、第2セル14側から第1セル12側へ触媒が移動し、乾燥が促進された第1セル12側に触媒が偏在した触媒偏在部21が形成され、第2セル14側に触媒量が触媒偏在部21よりも少ない触媒疎部22が形成される。このような触媒の偏在のメカニズムは、特に限定されるものではないが、塗工部120の第1セル12側の表面の乾燥が促進されることにより、毛細管現象によって第2セル14側の触媒が第1セル12側に集まるからと考えられる。
【0054】
一方で、
図5に示すように、ここで開示される技術では、乾燥風Fを基材10の端部10aにある第2セル14の開口部(即ち、未塗工部160が形成された側)から、第2セル14の内部に通風させる。第2セル14に導入された乾燥風Fは、第2セル14の奥側(封止部14a側)へ流れる流路と、隔壁16の未塗工部160を通過して、第1セル12へ流れる流路とに分岐する。これにより、塗工部120は、第1セル12と接する表面と、第2セル14と接する表面とを効率的に同時に乾燥することができる。その結果、塗工部120全体を均一性高く乾燥することができるため、塗工された触媒層形成用材料に含まれる触媒の偏析を抑制し、隔壁16の厚み方向に対して均一性の高い第1触媒層20を形成することができる。
【0055】
乾燥風Fの風速は、特に限定されるものではないが、触媒の偏析をより抑制する観点から、好ましくは10m/s以下であって、より好ましくは8m/s以下、さらに好ましくは6m/s以下である。また、乾燥速度を向上させる観点から、乾燥風Fの風速は、例えば、1m/s以上であって、好ましくは2m/s以上である。なお、「m/s」は、「m/秒」を示す。
【0056】
乾燥風Fの温度は、特に限定されるものではないが、例えば、50℃~200℃であって、好ましくは90℃~150℃であり得る。また、乾燥時間は、特に限定されるものではないが、例えば、1分~30分程度で乾燥を行うことができる。
【0057】
なお、隔壁16の延伸方向Xにおける塗工部120の長さは、上述の第1触媒層20の長さL1と同様である。即ち、塗工部120の延伸方向Xにおける長さ(平均長さ)は、例えば隔壁16の全長Lwの95%以下であって、好ましくは90%以下、80%以下、70%以下、60%以下であり得る。塗工部120の長さの割合が低いほど、未塗工部160の長さの割合が高くなるため、乾燥風Fが未塗工部160を通過し易くなり、より均一に塗工部120を乾燥させることができる。また、かかる塗工部120の長さは、特に限定されるものではないが、例えば、隔壁16の全長Lwの10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上である。
【0058】
焼成工程では、乾燥した塗工された触媒層形成用材料を焼成して、触媒層を形成する。焼成温度は、特に限定されるものではないが、例えば、400℃以上であって、好ましくは450℃以上、より好ましくは500℃以上である。焼成温度の上限値は、特に限定されるものではないが、例えば1000℃以下であって、800℃以下でもよく、600℃以下でもよい。焼成時間は、特に限定されるものではないが、例えば、30秒~5時間であってよく、好ましくは1分~1時間である。
【0059】
第2触媒層形成工程では、第1触媒層20とは異なる位置に第2触媒層30を形成する。第2触媒層30が形成される位置は、特に限定されず、製造する排ガス浄化用触媒の用途、種類に応じて適宜変更することができる。第2触媒層30の形成方法は、従来公知の方法と同様であってよく、エアブロー法、吸引コート法等であり得る。また、第2触媒層形成工程は、例えば、乾燥工程後や、焼成工程後等に行うことができる。
【0060】
ここで開示される製造方法は、さらに任意のその他の工程を含んでいてもよく、例えば、第3触媒層形成工程等を含んでいてもよい。第3触媒層は、例えば、第1触媒層および第2触媒層とは異なる位置に形成され得る。
【0061】
なお、
図3に示す実施形態では、第2触媒層30は、隔壁16の表面上に形成されているが、第2触媒層は、例えば、隔壁16の内部に形成されてもよい。
図6は、第2実施形態に係る排ガス浄化用触媒の隔壁の延伸方向に沿った断面を模式的に示す図である。
図6に示す排ガス浄化用触媒100Aでは、第2触媒層30Aが、隔壁16の第2セル14に接する表面側に偏析させて隔壁16内部に形成されている。このような第2触媒層30Aは、例えば、
図4で説明した従来の乾燥方法を用いて形成することができる。
【0062】
また、上述した塗工工程および乾燥工程の手順に従い、第2触媒層を第1触媒層20と同様にして形成することもできる。
図7は、第3実施形態に係る排ガス浄化用触媒の隔壁の延伸方向に沿った断面を模式的に示す図である。
図7に示す排ガス浄化用触媒100Bでは、第2触媒層30Bが、第1触媒層20にように、隔壁16の厚み方向Yに対して均一性の高い触媒層として形成されている。このような第2触媒層30Bの形成方法としては、例えば、まず、第2触媒層形成用材料を第1触媒層20が形成された側とは反対側(基材10の端部10a)から、隔壁16の延伸方向Xに沿って、所定の長さまで隔壁16の内部へ塗工する。これにより、第2触媒層形成用材料が塗工されていない未塗工部が、第1触媒層20が形成されている側(基材10の端部10b側)に形成される。このとき、当該未塗工部は、第1触媒層20の位置と重複し得る。次に、乾燥風Fを当該未塗工部側(基材10の端部10b側)から導入して、第2触媒層形成用材料が塗工された部分を乾燥させる。乾燥風Fは、隔壁16の乾燥した部分は容易に通過することができるため、当該未塗工部が第1触媒層20と重複していたとしても、乾燥風Fは隔壁16を容易に通過することができる。その結果、第2触媒層形成用材料の塗工部の第1セル12に接する表面と、第2セル14と接する表面とが効率的に同時に乾燥されるため、隔壁16の厚み方向Yにおいて均一性の高い第2触媒層30を形成することができる。
【0063】
以上、ここで開示される技術について、いくつかの実施形態について説明した。しかしながら、上述の実施形態は本技術の例示に過ぎず、本技術は、上述の実施形態に限定されない。
【0064】
ここで開示される排ガス浄化用触媒は、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等として使用することができる。
【0065】
以下、ここで開示される技術に関するいくつかの実施例について説明するが、ここで開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0066】
[試験1]
<基材の準備>
基材として、基材容積1.314L、長さ122mmのウォールフロー型の円筒状のハニカム基材(コージェライト製、セル数300cpsi、隔壁厚み8ミル(1ミルは1/1000インチ)、隔壁の平均細孔径15μm)を準備した。この基材を例1~12における排ガス浄化用触媒の基材として用いた。なお、基材の平均細孔径と触媒スラリーに含まれる粉末の平均粒子径の関係の説明のため、以下の説明では、かかる基材の隔壁の平均細孔径をXμmと記載する。
【0067】
<排ガス浄化用触媒の製造>
(例1)
硝酸Rh溶液と、アルミナ粉末と、イオン交換水とを混合して触媒層形成用材料としての触媒スラリーを準備した。かかる触媒スラリーに含まれる粒子の平均粒子径(D50粒子径)は0.07Xμmであった。なお、触媒スラリーに含まれる粒子の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置を用いて測定した。また、かかる触媒スラリーの粘度は、50mPa・sであった。触媒スラリーの粘度は、測定温度:25℃、せん断速度:4s-1の条件で測定した。
【0068】
次に、準備した触媒スラリーを基材の出側セル側の端部に供給し、入側セル側から吸引することで、隔壁内部に触媒スラリーを導入した。このとき、隔壁全長を100%として、触媒スラリーの塗工長が出側セル側の端部から60%の長さまでの領域となるようにした。そして、入側セル(即ち、触媒スラリー未塗工部側)から、90℃の風を4m/sの風速で導入し、導入された触媒スラリーを乾燥させた。その後、500℃で1時間焼成することにより、例1における排ガス浄化用触媒を作製した。
【0069】
(例2)
例1のうち、触媒スラリー導入後の乾燥を、出側セル(即ち、触媒スラリー塗工部側)から行った以外は同様にして、例2における排ガス浄化用触媒を作製した。
【0070】
<触媒層分布の評価>
排ガス浄化用触媒を分解し、隔壁を取り出した後、該隔壁を樹脂で包埋した。その後、隔壁の断面を露出させ、かかる断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクフィールディング製、TM4000Plus)を用いて観察し、SEM画像を得た。
図8に、実施例1における排ガス浄化用触媒の隔壁のSEM画像を示す。また、
図9に、比較例1における排ガス浄化用触媒の隔壁のSEM画像を示す。なお、
図8および9において、隔壁の上部が出側セル側であり、隔壁の下部が入側セル側である。得られたSEM画像から、隔壁の厚み方向の上端および下端を観察し、隔壁の厚みを確認した。さらに、得られたSEM画像を二次元画像解析ソフト(製品名:ImageJ(登録商標))を使用し、自動2化処理を行い、触媒層のみを映した2値画像を得た。この2値画像において、隔壁の厚みの上半分の領域(図中の第1領域)に存在する触媒層のピクセル数と、隔壁の厚みの下半分の領域(図中の第2領域)に存在する触媒層のピクセル数とを測定した。そして、「第1領域における触媒層のピクセル数」を「第2領域における触媒層のピクセル数」で除した値(均一性評価値)を求めた。かかる値が、0.5以上2以下であれば「◎(Excellent)」、0.33以上0.5未満若しくは2以上3以下であれば「〇(Good)」、0.33未満若しくは3より大きければ「×(Not good)」と判断した。結果を表1に示す。
【0071】
<圧力損失測定>
圧力損失測定装置(ツクバリカセイキ製)を用いて、作製した排ガス浄化用触媒の圧力損失を測定した。具体的には、排ガス浄化用触媒の入側セルに空気を導入し、出側セルから排出される空気の排気量が7m
3/sになった際の、排ガス浄化用触媒の空気の導入側(入側)と排出側(出側)との差圧を測定した。また、触媒スラリーが塗工されていない基材に対しても同様にして、空気の導入側と排出側との差圧を測定し、かかる差圧を圧力損失(圧損)とした。そして、触媒層形成による圧力損失上昇率(%)を次式:
圧力損失上昇率(%)=排ガス浄化用触媒の圧損(kPa)÷基材の圧損(kPa)×100-100
により求めた。結果を
図10に示す。
【0072】
<ネック径測定>
作製した排ガス浄化用触媒の隔壁の触媒層形成部分を取り出し、かかる隔壁の貫通細孔径測定を行った。かかる測定は、パームポロメータ(PMI社製)を用いて、バブルポイント法に基づいて実施した。このようにして測定された貫通細孔径を平均ネック径とした。結果を
図11に示す。
【0073】
【0074】
図8および表1に示すように、例1のように、触媒スラリーが塗工されていない未塗工部側から乾燥風を導入して乾燥させることで、隔壁の厚み方向に対して均一性の高い触媒層が形成できることがわかる。一方で、
図9および表1に示すように、例2のように、触媒スラリーを塗工した側(触媒スラリーを導入した側)から乾燥風を導入した場合では、乾燥風が導入されたセル側の隔壁(
図9中、第1領域)に触媒層が偏析することがわかる。
【0075】
また、
図10に示すように、隔壁の厚み方向に均一性の高い触媒層が形成された例1の排ガス浄化用触媒は、触媒層の偏析が生じた例2の排ガス浄化用触媒よりも、隔壁の平均ネック径が大きいことが確かめられた。さらに、
図11に示すように、圧力損失上昇率は、例2の排ガス浄化用触媒よりも、例1の排ガス浄化用触媒の方が低いことが確かめられた。これらのことから、隔壁の厚み方向に均一性の高い触媒層を有する排ガス浄化用触媒では、隔壁のネック径の狭小が抑制されることで、導入された排ガスが隔壁を通過し易くなり、その結果、圧力損失の上昇が抑制されたと考えられる。
【0076】
[試験2]
試験2では、触媒スラリーの塗工長の割合について検討した。
【0077】
(例3)
例1のうち、隔壁全長を100%として、触媒スラリーの塗工長を入側セル側の端部から30%の長さまでの領域となるようにした以外は同様にして、例3における排ガス浄化用触媒を製造した。
【0078】
(例4)
例1のうち、隔壁全長を100%として、触媒スラリーの塗工長を入側セル側の端部から90%の長さまでの領域となるようにした以外は同様にして、例4における排ガス浄化用触媒を製造した。
【0079】
(例5)
例1のうち、隔壁全長を100%として、触媒スラリーの塗工長を入側セル側の端部から95%の長さまでの領域となるようにした以外は同様にして、例5における排ガス浄化用触媒を製造した。
【0080】
(例6)
例1のうち、隔壁全長を100%として、触媒スラリーの塗工長を入側セル側の端部から100%の長さまでの領域(即ち、全面)となるようにした以外は同様にして、例6における排ガス浄化用触媒を製造した。なお、例6では、乾燥の通風を出側セル側から実施したが、触媒スラリーの塗工長の割合が100%であるため、表2においては、スラリー塗工部側から通風したものとして示している。
【0081】
例3~6における排ガス浄化用触媒に対して、試験1と同様にして触媒層分布の評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
【0083】
表2に示すように、触媒スラリーの塗工長の割合が、隔壁全長の95%以下であるとき、隔壁の厚み方向に対して均一性の高い触媒層を形成できることがわかる。また、特に、触媒スラリーの塗工長の割合が、隔壁全長の90%以下であるとき、隔壁の厚み方向に対してより均一性に優れた触媒層を形成できることがわかる。これは、触媒スラリーの塗工長の割合が低いほど乾燥風が容易に通過することができる未塗工部の範囲が広くなるため、触媒スラリー塗工部を入側セルおよび出側セルの両方から、より均一に乾燥させ易くなったからだと考えられる。
【0084】
[試験3]
試験3では、触媒スラリーの粘度について検討した。
【0085】
(例7)
例1のうち、触媒スラリーの粘度が1mPa・sになるように調整した以外は同様にして、例7における排ガス浄化用触媒を製造した。なお、触媒スラリーの粘度は、イオン交換水の割合によって調整した。
【0086】
(例8)
例1のうち、触媒スラリーの粘度が1000mPa・sになるように調整した以外は同様にして、例8における排ガス浄化用触媒を製造した。なお、触媒スラリーの粘度は、イオン交換水の割合と、増粘剤の混合とによって調整した。
【0087】
(例9)
例1のうち、触媒スラリーの粘度が2000mPa・sになるように調整した以外は同様にして、例9における排ガス浄化用触媒を製造した。なお、触媒スラリーの粘度は、イオン交換水の割合と、増粘剤の混合とによって調整した。
【0088】
例7~9における排ガス浄化用触媒に対して、試験1と同様にして触媒層分布の評価を行った。結果を表3に示す。
【0089】
【0090】
表3に示すように、例9に示す触媒スラリーの粘度が2000mPa・s以上の場合には、触媒層分布が不均一になることがわかる。
【0091】
[試験4]
試験4では、触媒スラリーに含まれる粒子のD50粒子径について検討した。
【0092】
(例10)
例1のうち、アルミナ粉末のサイズを変更し、触媒スラリーに含まれる粒子のD50粒子径を0.10Xμmとした以外は同様にして、例10における排ガス浄化用触媒を製造した。
【0093】
(例11)
例1のうち、アルミナ粉末のサイズを変更し、触媒スラリーに含まれる粒子のD50粒子径を0.15Xμmとした以外は同様にして、例11における排ガス浄化用触媒を製造した。
【0094】
(例12)
例1のうち、アルミナ粉末のサイズを変更し、触媒スラリーに含まれる粒子のD50粒子径を0.5Xμmとした以外は同様にして、例12における排ガス浄化用触媒を製造した。
【0095】
例10~12における排ガス浄化用触媒に対して、試験1と同様にして触媒層分布の評価を行った。結果を表4に示す。
【0096】
【0097】
表4に示すように、隔壁の平均細孔径Xμmとしたとき、触媒スラリーに含まれる粒子のD50粒子径が0.15Xμm以下であることで、隔壁の厚み方向に対して均一性の高い触媒層を形成できることがわかる。また、特に、触媒スラリーに含まれる粒子のD50粒子径が0.10Xμm以下であるとき、隔壁の厚み方向に対してより均一性の高い触媒層を形成できることがわかる。これは、かかるD50粒子径であれば、触媒スラリーに含まれる粒子が、隔壁の細孔内に容易に侵入することができるからだと考えられる。
【0098】
以上、ここで開示される技術の試験例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。