(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】微細気泡発生用ノズル、該微細気泡発生用ノズルを用いて液体に微細気泡を含む気泡を混合させる方法、および該微細気泡発生用ノズルを備えた生物反応装置
(51)【国際特許分類】
B01F 21/20 20220101AFI20240228BHJP
B01F 25/40 20220101ALI20240228BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B01F21/20
B01F25/40
C12M1/04
(21)【出願番号】P 2019169059
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2021-11-26
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】新谷 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】国友 信秀
(72)【発明者】
【氏名】樋口 正守
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】金 公彦
【審判官】松井 裕典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-69213(JP,A)
【文献】特開2013-626(JP,A)
【文献】特開2018-117578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 21/00-25/90
C12M 1/00- 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を混合させ、前記微細気泡を含有する液体とするための微細気泡発生用ノズルであって、
円筒形の内周面を有するノズル本体部と、前記ノズル本体部の内周面に気体を供給する気体供給部とからなり、
前記ノズル本体部は、上流側ノズル部材、下流側ノズル部材、および前記ノズル部材の間に配される接続部材から構成され、前記3つの部材をボルト・ナット等の締着手段により着脱可能に締着固定して形成されており、
前記上流側ノズル部材の上流側には液体が流入する流入口が設けられ、
前記下流側ノズル部材の下流側には前記微細気泡を含む気泡を混合させた液体を放出する放出口が設けられ、
前記上流側ノズル部材の下流側端部と、前記下流側ノズル部材の上流側端部により、前記ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続してスリットが形成されることを特徴とする、微細気泡発生用ノズル。
【請求項2】
液体に、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を混合させ、前記微細気泡を含有する液体とするための微細気泡発生用ノズルであって、
円筒形の内周面を有するノズル本体部と、前記ノズル本体部の内周面に気体を供給する気体供給部とからなり、
前記ノズル本体部は、上流側ノズル部材、n個(nは2以上の整数を表す)の中間ノズル部材、下流側ノズル部材、および前記複数のノズル部材それぞれの間に配される接続部材から構成され、前記全ての部材をボルト・ナット等の締着手段により着脱可能に締着固定して形成されており、
前記上流側ノズル部材の上流側には液体が流入する流入口が設けられ、
前記下流側ノズル部材の下流側には前記微細気泡を含む気泡を混合させた液体を放出する放出口が設けられ、
1)前記上流側ノズル部材の下流側端部と、上流側から1番目に位置する前記中間ノズル部材の上流側端部、
2)前記上流側からm番目(mは1以上n未満の整数を表す)に位置する前記中間ノズル部材の下流側端部と、上流側から(m+1)番目に位置する前記中間ノズル部材の上流側端部、および
3)前記上流側からn番目に位置する前記中間ノズル部材の下流側端部と、前記下流側ノズル部材の上流側端部
により、前記ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続してスリットが形成されることを特徴とする、微細気泡発生用ノズル。
【請求項3】
前記スリットが、前記ノズル本体部の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜する角度θを鋭角としたことを特徴とする、請求項1または2に記載の微細気泡発生用ノズル。
【請求項4】
前記放出口付近における前記
下流側ノズル部材の内径が、下流側に向けて漸次拡張されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズル。
【請求項5】
前記微細気泡発生用ノズルが、食品、醸造、バイオ医薬品、乳業、化学薬品等のサニタリー製品の製造設備に用いられるものであることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズル。
【請求項6】
前記微細気泡発生用ノズルが、化学反応に用いられるものであることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズル。
【請求項7】
前記微細気泡発生用ノズルが、生物反応に用いられるものであることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズル。
【請求項8】
前記請求項1~7のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズルを用いて、液体に、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を混合させる方法。
【請求項9】
培養液、および、好気性から嫌気性に至る微生物または細胞を含有する生物培養液を収容する培養槽と、
該培養槽から抜き出した生物培養液に、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を含有させる請求項1~4のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズルと、
該微細気泡を含有させた生物培養液を前記培養槽に還流する管路と、
を備えることを特徴とする、生物反応装置。
【請求項10】
前記培養槽から抜き出し、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を含有させた後に前記培養槽に還流する生物培養液の量を、1分間当たり、前記培養槽に収容された生物培養液の量の1%以上80%未満に設定することを特徴とする、請求項9に記載の生物反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、液体に、空気、酸素等の気体のウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を混合させ、気体の微細気泡を含有する液体とするために用いられる微細気泡発生用ノズル、この微細気泡発生用ノズルを用いて液体に微細気泡を含む気泡を混合させる方法、およびこの微細気泡発生用ノズルを備えた生物反応装置に関するものであって、特に、分解・組立てを短時間で簡単に行うことができ、付着物・異物を簡単に点検・除去できる微細気泡発生用ノズルを特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
液体に含有される微細気泡による、液体の溶存酸素濃度(DO)を高める作用、滅菌・殺菌作用等に着目して、微細気泡を含有する液体は、シャワー水、浴槽水、洗濯水、洗浄水等として利用され、また、食品プラント、パルププラント、化学プラント等の各種産業から発生する廃水、家庭からの生活廃水等の廃水処理の分野、生物反応[微生物または細胞(以下、「微生物等」ともいう。)を培養して、微生物等に反応生成物を生成させたり、微生物等を増殖させる反応]や魚介類の養殖の分野において利用されている。
【0003】
本件発明の「微細気泡」とは、「ファインバブル」および/または「ウルトラファインバブル」を意味する。「通常の気泡」は水中を急速に上昇して表面で破裂して消えるのに対し、「ファインバブル」といわれる直径100μm未満の微小気泡は、水中で縮小していって消滅し、この際に、フリーラジカルと共に、直径1μm未満の極微小気泡である「ウルトラファインバブル」を発生し、この「ウルトラファインバブル」はある程度の長時間水中に残存する。本件発明においては、ISO(国際標準化機構)により規格化されているように、個数平均直径が100μm未満の気泡を「ファインバブル」ともいい、個数平均直径が1μm未満の気泡を「ウルトラファインバブル」ともいう。ファインバブルの気泡径を測定する方法としては、画像解析法、レーザー回折散乱法、電気的検知帯法、共振式質量測定法、光ファイバープローブ法等が一般に用いられ、ウルトラファインバブルの気泡径を測定する方法としては、動的光散乱法、ブラウン運動トラッキング法、電気的検知帯法、共振式質量測定法等が一般に用いられている。
【0004】
このような気体の微細気泡を含有する液体は、筒状体からなるノズル本体部内を流れる液体に対して、ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に設けられた複数の噴出口から気体を吹き込むことにより、気体の微細気泡を含有する液体を得ている。(特許文献1および2)
【0005】
例えば、特許文献1には、[
図14]にその外観を模式図で示すように、泥土の曝気装置110が開示されており、この曝気装置110では、筒状体からなるノズル本体部111の流入口112から泥土を流入させ、放出口113から放出すると共に、ノズル本体部111の中心軸に垂直な面に沿って、側面に設けられた複数の空気噴出口114から圧縮空気を吹き込み、泥土に微細気泡を混合させている。この曝気装置110においては、[
図15]および[
図16]の模式図に示すように、ノズル本体部111内を流れる泥土に吹き込まれた圧縮空気は、気体の複数の帯A’を形成してノズル本体部111の内面に沿って流れ、放出口113付近で微細気泡B’となる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および2に開示されるような、ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に設けられた複数の噴出口から気体を吹き込む微細気泡発生用ノズルでは、ノズル本体部内を流れる液体に対して吹き込まれた気体が複数の帯状を形成してノズル本体部の内面に沿って流れるため、微細気泡の生成効率が悪く、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることは難しい。
【0007】
また、特許文献3には、[
図17]に示すように、各種汚水に微細化した気泡を吹き込み浄化する曝気装置120として、加圧給水管121を接続した吸い込みゾーンを形成する第1段ノズル部材122に、1段もしくは複数段よりなる気泡熟成ゾーンのノズル部材123、124を同一軸心上に配設、連結固定して構成し、各段ノズル部材接合位置に吸気管より吸気するリングスリット状の各段ノズル125、126を夫々形成すると共に、各段ノズル位置において各段ノズル部材122、123、124の通水路径を順次経段毎に太い径となるよう異径段差を形成した曝気装置が記載されている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献3に開示されるような曝気装置120では、各段ノズル部材122、123、124の通水路径が異径段差に形成されていることから、管路内面に安定して空気の薄層を形成することはできない。さらに、上記曝気装置120は、あくまでも各種汚水の浄化に用いられるものであって、付着物・異物を簡単に点検・除去することができず、特に、製品の安全性が必要とされるサニタリー製品(食品、醸造、バイオ医薬品、乳業、化学薬品等の製品)製造設備のラインにおいて用いることは非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-121988号公報
【文献】特開2006-034235号公報
【文献】特開平8-290192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本件発明者等は、先に、微細気泡の生成効率を向上させ、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることのできる、筒状体からなる簡単な形状・構造のノズル本体部を有する微細気泡発生用ノズルの発明について、国際出願を行ったところである。(PCT/JP2018/13730およびPCT/JP2019/14150、以下、「先の国際出願」ともいう。)
【0011】
本件発明は、先の微細気泡発生用ノズル(以下、「先の微細気泡発生用ノズル」ともいう。)を改良したものであり、特に、分解・組立てを短時間で簡単に行うことができ、付着物・異物を簡単に点検・除去できることを特徴とするものである。
【0012】
すなわち、本件発明の課題は、微細気泡の生成効率を向上させ、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることができると共に、付着物・異物を簡単に点検・除去できる、簡単な形状・構造の微細気泡発生用ノズルを提供すること、この微細気泡発生用ノズルを用いた液体に微細気泡を含む気泡を混合させる方法を提供すること、およびこの微細気泡発生用ノズルを備えた生物反応装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本件発明者等は、先の出願の発明の微細気泡発生用ノズルにおける、付着物・異物の点検・除去について鋭意検討し、分解・組立てを短時間で簡単に行うことができ、付着物・異物を簡単に点検・除去できる微細気泡発生用ノズルを見出し、本件発明を成したものである。
【0014】
本件発明の要旨を以下に示す。
(1)液体に、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を混合させ、前記微細気泡を含有する液体とするための微細気泡発生用ノズルであって、
円筒形の内周面を有するノズル本体部と、前記ノズル本体部の内周面に気体を供給する気体供給部とからなり、
前記ノズル本体部は、上流側ノズル部材、下流側ノズル部材、および前記ノズル部材の間に配される接続部材から構成され、前記3つの部材をボルト・ナット等の締着手段により着脱可能に締着固定して形成されており、
前記上流側ノズル部材の上流側には液体が流入する流入口が設けられ、
前記下流側ノズル部材の下流側には前記微細気泡を含む気泡を混合させた液体を放出する放出口が設けられ、
前記上流側ノズル部材の下流側端部と、前記下流側ノズル部材の上流側端部により、前記ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続してスリットが形成されることを特徴とする、微細気泡発生用ノズル。
【0015】
(2)液体に、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を混合させ、前記微細気泡を含有する液体とするための微細気泡発生用ノズルであって、
円筒形の内周面を有するノズル本体部と、前記ノズル本体部の内周面に気体を供給する気体供給部とからなり、
前記ノズル本体部は、上流側ノズル部材、n個(nは2以上の整数を表す)の中間ノズル部材、下流側ノズル部材、および前記複数のノズル部材それぞれの間に配される接続部材から構成され、前記全ての部材をボルト・ナット等の締着手段により着脱可能に締着固定して形成されており、
前記上流側ノズル部材の上流側には液体が流入する流入口が設けられ、
前記下流側ノズル部材の下流側には前記微細気泡を含む気泡を混合させた液体を放出する放出口が設けられ、
1)前記上流側ノズル部材の下流側端部と、上流側から1番目に位置する前記中間ノズル部材の上流側端部、
2)前記上流側からm番目(mは1以上n未満の整数を表す)に位置する前記中間ノズル部材の下流側端部と、上流側から(m+1)番目に位置する前記中間ノズル部材の上流側端部、および
3)前記上流側からn番目に位置する前記中間ノズル部材の下流側端部と、前記下流側ノズル部材の上流側端部
により、前記ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続してスリットが形成されることを特徴とする、微細気泡発生用ノズル。
【0016】
(3)前記スリットが、前記ノズル本体部の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜する角度θを鋭角としたことを特徴とする、(1)または(2)に記載の微細気泡発生用ノズル。
【0017】
(4)前記放出口付近における前記下流側ノズル部材の内径が、下流側に向けて漸次拡張されていることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズル。
【0018】
(5)前記微細気泡発生用ノズルが、食品、醸造、乳業、バイオ医薬品、化学薬品等のサニタリー製品の製造設備に用いられるものであることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズル。
【0019】
(6)前記微細気泡発生用ノズルが、化学反応に用いられるものであることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズル。
【0020】
(7)前記微細気泡発生用ノズルが、生物反応に用いられるものであることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズル。
【0021】
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズルを用いて、液体に、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を混合させる方法。
【0022】
(9)培養液、および、好気性から嫌気性に至る微生物または細胞を含有する生物培養液を収容する培養槽と、
該培養槽から抜き出した生物培養液に、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を含有させる(1)~(4)のいずれかに記載の微細気泡発生用ノズルと、
該微細気泡を含有させた生物培養液を前記培養槽に還流する管路と、
を備えることを特徴とする、生物反応装置。
【0023】
(10)前記培養槽から抜き出し、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含む気泡を含有させた後に前記培養槽に還流する生物培養液の量を、1分間当たり、前記培養槽に収容された生物培養液の量の1%以上80%未満に設定することを特徴とする、(9)に記載の生物反応装置。
【発明の効果】
【0024】
本件発明の微細気泡発生用ノズルは、簡単な形状・構造を有し、微細気泡の生成効率を向上させ、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることができると共に、分解・組立てを短時間で簡単に行うことができ、付着物・異物を簡単に点検・除去できる。
【0025】
また、本件発明の該微細気泡発生用ノズルを用いて液体に微細気泡を含む気泡を混合させる方法は、簡単かつ経済的に、微細気泡含有率を効率良く十分に高めて、液体に微細気泡を含む気泡を混合できると共に、該微細気泡発生用ノズルの付着物・異物を簡単に点検・除去でき効率の低下を防止できる。
【0026】
また、本件発明の該微細気泡発生用ノズルを備えた生物反応装置は、簡単かつ経済的に、微細気泡含有率を効率良く十分に高めて、液体に微細気泡を含む気泡を混合させることができ、該微細気泡発生用ノズルの付着物・異物を簡単に点検・除去でき効率の低下を防止でき、微生物等が受けるストレス・ダメージを低減し、生物反応を効率的、経済的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本件発明の第1実施形態の微細気泡発生用ノズルの、組立て前の状態を示す断面模式図である。
【
図2】
図1の組立て後の状態を示す断面模式図である。
【
図3】本件発明の微細気泡発生用ノズルの組立てに用いられる、締着手段の一例であるボルト・ナットを示す外観模式図である。
【
図4】本件発明の第2実施形態の微細気泡発生用ノズルの、組立て前の状態を示す断面模式図である。
【
図5】
図4の組立て後の状態を示す断面模式図である。
【
図6】本件発明の微細気泡発生用ノズルの応用例を示す、微生物等の培養装置の模式図である。
【
図7】先の微細気泡発生用ノズルの第1実施形態の外観を示す模式図である。
【
図8】先の微細気泡発生用ノズルの第1実施形態の断面を示す模式図である。
【
図9】
図8における、I-I断面を示す模式図である。
【
図10】気体供給部を設けた、
図7の微細気泡発生用ノズルの外観を示す模式図である。
【
図11】先の微細気泡発生用ノズルの第2実施形態の断面を示す模式図である。
【
図12】先の微細気泡発生用ノズルの第3実施形態の断面を示す模式図である。
【
図13】先の微細気泡発生用ノズルの第4実施形態の断面を示す模式図である。
【
図14】特許文献1の微細気泡発生用ノズルの外観を示す模式図である。
【
図15】特許文献1の微細気泡発生用ノズルの断面を示す模式図である。
【
図16】
図15における、II-II断面を示す模式図である。
【
図17】特許文献3の曝気装置の部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本件発明の実施形態を、添付の図面も参照しながら詳細に説明するが、本件発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
1.先の微細気泡発生用ノズル
まず、本件発明の微細気泡発生用ノズルの基礎となる先の微細気泡発生用ノズルについて説明する。
【0030】
<先の微細気泡発生用ノズル>
先の微細気泡発生用ノズルは、[
図7]~[
図9]に示すように、流入口2から供給され、ノズル本体部1内を流れる液体に対して、ノズル本体部1の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して設けられたスリット4から気体を吹き込み、吹き込まれた気体は、ノズル本体部1の内面に沿って気体の連続する幅広の薄膜A(以下、「薄層A」ともいう。)として流れ、微細気泡Bが徐々に形成されると共に、放出口3付近で多量の微細気泡Bとなるものである。
【0031】
[
図7]~[
図9]に示すような先の微細気泡発生用ノズルでは、筒状体からなるノズル本体部1内を流れる液体に対して、ノズル本体部1の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して設けられたスリット4から吹き込まれた気体は、薄層Aを形成してノズル本体部1の内面に沿って流れ、微細気泡Bが徐々に形成されると共に、放出口3付近で多量の微細気泡Bが形成されるため、微細気泡の生成効率を向上させ、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることができる。
【0032】
先の微細気泡発生用ノズルにおけるノズル本体部1の筒状体の断面形状は、円形または矩形にできるが、円形とするのが好ましい。断面形状を円形とすることにより、薄層Aの厚さを均等なものとでき、液体の微細気泡含有率を効率良く高められる傾向にある。ノズル本体部1の筒状体の断面形状は、[
図9]に示すように真円形であってもよいし、略真円形または楕円形であってもよい。
【0033】
なお、先の微細気泡発生用ノズルにおいて、スリット4は、「ノズル本体部1の中心軸に垂直な面(以下、「垂直面」ともいう。)に沿って設けられる」が、これは、垂直面に大凡沿って設けられることを意味する。
【0034】
また、筒状体からなるノズル本体部1には、その中心軸に沿って棒状体、好ましくは断面形状が円形の棒状体を配することが好ましい。これにより、ノズル本体部1への液体の供給量が同じであっても、ノズル本体部1内を流れる液体の流速(以下、「液体の流速」ともいう。)を高くできるので、薄層Aを安定的に形成することができ、また、ウルトラファインバブル乃至ファインバブルの微細気泡を含有する液体を効率良く生成できる。
【0035】
先の国際出願の発明の微細気泡発生用ノズルを用いて、薄層Aを円滑に形成するためには、
1)液体の流速、および
2)ノズル本体部1内の液体の流れに直交する方向への、スリット4から吹き込まれる気体の流速(以下、「気体の流速」ともいう。)
のバランスを適切なものとすることが必要である。液体の流速に比べ気体の流速が大きすぎる場合には、ノズル本体部1の中心軸近くまで気体が吹き込まれ、薄層Aを形成するのが困難となる。一方、液体の流速に比べ気体の流速が小さすぎる場合には、液体がスリット4からノズル本体部1の外部に漏れ出すこととなる。
【0036】
<先の微細気泡発生用ノズルにおける気体供給部>
[
図10]に示すように、先の微細気泡発生用ノズルにおいては、スリット4に加圧された気体(例えば、加圧された空気および/または酸素)を供給する気体供給部5が接続される。好適には、気体供給部5は、スリット4を囲むように、ノズル本体部1の外部に気密に設けられる。
【0037】
気体供給部5に供給される気体の圧力(以下、「気体の圧力」ともいう。)は、基本的には、液体がスリット4からノズル本体部1の外部に漏れ出さないようにするために、ノズル本体部1内を流れる液体の圧力よりも高くすることが好ましい。
【0038】
一方、気体の圧力を高くするとこれに伴い気体の流速が大きくなるため、気体の圧力を高くしすぎると、液体の流速に比べ気体の流速が大きくなりすぎ、薄層Aを形成するのが困難となる傾向にある。
【0039】
気体の圧力は、これらの要素を考慮して適切な値を設定できるが、通常は、液体がスリット4からノズル本体部1の外部に漏れ出さない圧力(例えば、1.5atm)を下限値とし、3.0atmを上限値とするのが好ましい。
【0040】
<先の微細気泡発生用ノズルにおけるスリット>
先の微細気泡発生用ノズルにおけるスリット4は、[
図7]~[
図8]および[
図11]~[
図13]に示すように、ノズル本体部1の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して設けられた細孔である。
【0041】
スリット4の間隙は、液体の流速、気体の流速、気体の圧力も考慮して、薄層Aを形成できる適切な値を設定できる。
【0042】
また、スリット4の間隙は、狭すぎると微細気泡Bの生成効率が低下し、広すぎると放出口3付近で薄層Aから微細気泡Bが形成されにくくなるので、これらの要素も考慮して適切な値を設定できる。
【0043】
スリット4の間隙は、これらの要素を考慮して適切な値を設定できるが、通常は0.5mm~2.0mm、好ましくは0.5mm~1.5mm、より好ましくは0.5mm~0.8mmの範囲に設定できる。
【0044】
液体の微細気泡含有率を効率良く高めるためには、気体の流速を大きくして気体の吹き込み量を増加することが好ましいが、一方で、気体の流速を液体の流速に比べて大きくするに伴い、薄層Aを形成するのが困難となる。
【0045】
上記の「液体の微細気泡含有率の向上」と「薄層Aの安定的な形成」とを両立させるためには、スリット4をノズル本体部1の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜させることが好ましい。これにより、気体の流速自体を大きくしても、薄層Aの形成を妨げる、ノズル本体部1内の液体の流れに直交する方向への気体の流速を低減できる作用が生じる。ノズル本体部1の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜する角度θ(以下、「傾斜角度θ」ともいう。)は、液体の流速、気体の流速等に応じて薄層Aを安定的に形成できるように鋭角とできる。傾斜角度θは、上記作用を考慮して、0°以上80°以下とするのが好ましく、60°以上80°以下とするのがより好ましく、70°以上80°以下とするのがさらに好ましい。
【0046】
また、上記の「液体の微細気泡含有率の向上」と「薄層Aの安定的な形成」とを両立させるためには、スリット4をノズル本体部1に複数段設けることも好ましい。これにより、気体の流速自体を大きくしなくても、気体の吹き込み量を増加できる。スリット4の段数は、気体の吹き込み量を増加する観点からは多い方が好ましいが、多すぎるとノズルの構造が複雑になり製造コスト・メンテナンスコストが高くなることから、これらの要素を考慮して適宜設定できる。スリット4の段数は、通常、1~3段とするのが好ましい。
【0047】
<先の微細気泡発生用ノズルにおけるスリット>
先の微細気泡発生用ノズルにおけるスリット4は、[
図7]および[
図8](先の微細気泡発生用ノズルの第1実施形態)に示すように、ノズル本体部1を1本の筒状体1aで形成し、一部に接続部を残して筒状体の周面を切削して形成することもできるし、また、[
図11](先の微細気泡発生用ノズルの第2実施形態)、[
図12](先の微細気泡発生用ノズルの第3実施形態)および[
図13](先の微細気泡発生用ノズルの第4実施形態)に示すように、ノズル本体部1を2本以上の筒状体1b、1c等で形成し、これらの筒状体1b、1c等の接続部に形成することもできる。
【0048】
[
図11]に示す先の微細気泡発生用ノズルの第2実施形態では、ノズル本体部1を2本の断面形状が円形の筒状体1b、1cで形成し、これらの筒状体1b、1c等の接続部に傾斜角度θのスリット4を形成しているが、この第2実施形態では、断面積の小さいスリット4が長くなることに伴い、スリット4の洗浄がやりにくくなる、ノズル本体部1内に供給される気体の圧力が圧力損失により低下する等の懸念がある。
【0049】
[
図12]に示す先の微細気泡発生用ノズルの第3実施形態は、上記懸念を解消するものであり、断面形状が円形の筒状体1cにおいて、断面形状が円形の筒状体1bとの接続部の先端部を切除することにより、スリット4の長さを短くしたものである。これにより、スリット4の洗浄を容易にし、ノズル本体部1内に供給される気体の圧力損失を低減できる。
【0050】
<先の微細気泡発生用ノズルにおける放出口>
先の微細気泡発生用ノズルにおいては、[
図8]に示すように、放出口3付近で、薄層Aがノズル本体部1の内面から離れて微細気泡Bが形成されるが、薄層Aがノズル本体部1の内面から離れやすくするために、放出口3付近におけるノズル本体部1の内径を、下流側に向けて漸次拡張できる。
【0051】
また、[
図13]に示す先の微細気泡発生用ノズルの第4実施形態のように、放出口3付近におけるノズル本体部1の内面に凹凸を形成し、液体の流れに乱流を生じさせることにより、微細気泡Bの形成を促進できる。ノズル本体部1の内面に凹凸を形成する手段としては、ノズル本体部1の内面を切削して凹部を形成する手段、ノズル本体部1の内面にコイル状の部材を接合して凸部を形成する手段等が挙げられる。
【0052】
2.本件発明の微細気泡発生用ノズル
本件発明の微細気泡発生用ノズルは、上記の先の微細気泡発生用ノズルを基礎として改良したものであり、分解・組立てを短時間で簡単に行うことができ、付着物・異物を簡単に点検・除去できることを特徴とするものである。
【0053】
<本件発明の微細気泡発生用ノズルの第1実施形態>
本件発明の微細気泡発生用ノズルの第1実施形態は、[
図1]~[
図3]に示すように、ノズル本体に1段のスリットを設けたものであり、[
図1]は組立て前の状態を示す断面模式図であり、[
図2]は[
図1]の組立て後の状態を示す断面模式図であり、[
図3]は[
図2]の組立てに用いられる、締着手段の一例であるボルト・ナットを示す断面模式図である。
【0054】
第1実施形態の微細気泡発生用ノズルでは、[
図1]~[
図2]に示すように、円筒形の内周面を有するノズル本体部1が、上流側ノズル部材6、下流側ノズル部材7、および上流側ノズル部材6および下流側ノズル部材7の間に配される接続部材8を、[
図3]に示すようなボルト・ナット等の締着手段9により着脱可能に締着固定して形成される。[
図2]では、ボルト・ナット等の締着手段9は、手前の上下2箇所および奥の上下2箇所の4箇所に設けられている。
【0055】
上流側ノズル部材6の上流側には液体が流入する流入口2が設けられ、下流側ノズル部材7の下流側には微細気泡を含む気泡を混合させた液体を放出する放出口3が設けられ、また、接続部材8には気体供給部([
図10]の気体供給部5参照)との接続口8’が設けられている。
【0056】
そして、上流側ノズル部材6、接続部材8および下流側ノズル部材7がこの順で締着固定されると、上流側ノズル部材6の下流側端部6’と、下流側ノズル部材7の上流側端部7’により、[
図8]および[
図11]~[
図13]に示されるような、ノズル本体部1の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続したスリット4が形成される。
【0057】
第1実施形態の微細気泡発生用ノズルは、先の微細気泡発生用ノズルのように、微細気泡の生成効率を向上させ、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることができると共に、ノズル本体部1の構成部材である、上流側ノズル部材6、下流側ノズル部材7、および接続部材8をボルト・ナット等の締着手段9により着脱可能に締着固定するようにしたことにより、複雑でない形状・構造を有し、分解・組立てを短時間で簡単に行うことができ、付着物・異物を簡単に点検・除去できる優れたものである。
【0058】
微細気泡発生用ノズルはスリット4に異物が付着すると性能が低下するが、第1実施形態の微細気泡発生用ノズルでは、ノズル本体部1の付着物・異物を簡単に点検・除去できるので、微細気泡発生用ノズルの性能低下を未然に防止できる。特に、サニタリー製品(食品、醸造、乳業、バイオ医薬品、化学薬品等の製品)製造設備のラインにおいては、製品の安全性が必要とされるが、第1実施形態の微細気泡発生用ノズルは、複雑でない形状・構造を有し、分解・組立てを短時間で簡単に行えることから、洗浄・滅菌を短時間で行うことができ、また、洗浄・滅菌が不十分な箇所も生じない。
【0059】
さらに、第1実施形態の微細気泡発生用ノズルは、複雑でない形状・構造を有し、分解できることから、内面の研磨処理が容易に行える。接液部を十分に研磨処理して平滑化することにより、汚れの付着を低減させて洗浄性を向上できる。また、微細気泡発生用ノズルの材質がステンレスである場合には、電解研磨を行うことにより、ステンレス表面にクロムを濃縮させて耐食性を向上できる。
【0060】
<本件発明の微細気泡発生用ノズルの第2実施形態>
本件発明の微細気泡発生用ノズルの第2実施形態は、[
図4]~[
図5]に示すように、ノズル本体に3段のスリットを設けたものであり、[
図4]は組立て前の状態を示す断面模式図であり、[
図5]は[
図4]の組立て後の状態を示す断面模式図である。
【0061】
第2実施形態の微細気泡発生用ノズルでは、[
図4]~[
図5]に示すように、円筒形の内周面を有するノズル本体部1が、上流側ノズル部材6、2個の中間ノズル部材10-1および10-2、下流側ノズル部材7、ならびに、前記4個のノズル部材6、10-1、10-2および7のそれぞれの間に配される接続部材8-1、8-2および8-3を、[
図5]に示すようなボルト・ナット等の締着手段9により着脱可能に締着固定して形成される。[
図5]では、ボルト・ナット等の締着手段9は、手前の上下2箇所および奥の上下2箇所の4箇所に設けられている。
【0062】
上流側ノズル部材6の上流側には液体が流入する流入口2が設けられ、下流側ノズル部材7の下流側には微細気泡を含む気泡を混合させた液体を放出する放出口3が設けられ、また、各接続部材8-1、8-2および8-3には気体供給部([
図10]の気体供給部5参照)との接続口8-1’、8-2’および8-3’が設けられている。
【0063】
そして、上流側ノズル部材6、接続部材8-1、中間ノズル部材10-1、接続部材8-2、中間ノズル部材10-2、接続部材8-3、および下流側ノズル部材7をこの順で締着固定した際には、
1)上流側ノズル部材6の下流側端部6’と、中間ノズル部材10-1の上流側端部10-1’
2)中間ノズル部材10-1の下流側端部10-1’’と、中間ノズル部材10-2の上流側端部10-2’、および
3)中間ノズル部材10-2の下流側端部10-2’’と、下流側ノズル部材7の上流側端部7’により、[
図8]および[
図11]~[
図13]に示されるような、ノズル本体部1の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続した3段のスリット4が形成される。
【0064】
第2実施形態の微細気泡発生用ノズルでは、上流側ノズル部材6と下流側ノズル部材7との間に、2個の中間ノズル部材(10-1および10-2)および3個の接続部材(8-1、8-2および8-3)を配して、3段のスリットを設けているが、同様の考え方に基づいて、中間ノズル部材をn個、接続部材を(n+1)個配することにより、(n+1)段のスリットを設けることができる。なお、nは1以上の整数である。
【0065】
第2実施形態の微細気泡発生用ノズルは、先の微細気泡発生用ノズルのように、微細気泡の生成効率を向上させ、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることができ、第1実施形態の微細気泡発生用ノズルのように、複雑でない形状・構造を有し、分解・組立てを短時間で簡単に行うことができ、付着物・異物を簡単に点検・除去できると共に、複数段のスリットを設けることにより、微細気泡を含有する液体をより効率良く生成できる優れたものである。
【0066】
また、第2実施形態の微細気泡発生用ノズルは、上流側ノズル部材6と下流側ノズル部材7との間に配する、中間ノズル部材および接続部材の数を変更することにより、スリットの段数を簡単かつ自由自在に変更できるので、必要とされる条件に応じて、微細気泡発生用ノズルの性能を設定できる。
【0067】
<本件発明の微細気泡発生用ノズルにおいて用いられるボルト・ナット等の締着手段>
本件発明の微細気泡発生用ノズルにおいて用いられるボルト・ナット等の締着手段としては、ノズルとして使用する際には、上流側ノズル部材、下流側ノズル部材、接続部材、中間ノズル部材等の構成部材(以下、「構成部材」ともいう。)を簡単かつ強固に締着することができ、また、付着物・異物を点検・除去したり、洗浄・滅菌を行う際には、簡単に分解できる公知の締着手段を用いることができる。
【0068】
締着の好適な一例としては、[
図3]に示すような、両端に雄ねじ部を有するボルトと、このボルトの雄ねじ部に螺合する2個のナットを用い、構成部材の貫通孔にボルトを通し、このボルトの両端にナットを螺合することにより、構成部材を締着することができる。また、各構成部材を、フェルール型配管継手の手法を用いて、シール性を高めて締着することもできる。また、配列した構成部材を両端から挟み付けるようにねじ締めして締着することもできる。
【0069】
<本件発明の微細気泡発生用ノズルの材質>
本件発明の微細気泡発生用ノズルの材質としては、通常のノズルの材質として用いられる公知のものを採用できる。
【0070】
好適には、SUS304(クロムとニッケルを成分に含むオーステナイト系ステンレス)、SUS316L(SUS304のニッケル含有量を高め、モリブデンを添加したオーステナイト系ステンレス)等のステンレスを用いることができる。ステンレスを用いた場合には、電解研磨により、微細気泡発生用ノズルの接液部をナノレベルの超平滑面とでき、汚れの付着を低減させ洗浄性を向上できる。また、電解研磨により、微細気泡発生用ノズルの接液部に、クロムが凝縮された酸化皮膜を形成でき、耐食性を向上できる。また、耐食性を向上させる観点から、微細気泡発生用ノズルの材質として、チタン、ハステロイ(登録商標)等の耐食性合金、テフロン(登録商標)等を用いることができる。また、耐摩耗性を向上させる観点から、微細気泡発生用ノズルの材質として、プラズマ窒化、ラジカル窒化等を施した窒化合金、高周波焼き入れ等の硬化処理を施した合金等を用いることができる。
【0071】
3.本件発明の微細気泡発生用ノズルの用途
本件発明の微細気泡発生用ノズルは、微細気泡の生成効率を向上させ、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることができるので、微細気泡による液体の溶存酸素濃度(DO)を高める作用、滅菌・殺菌作用等を利用した、
〇シャワー水、浴槽水、洗濯水、洗浄水等の製造・供給、
〇食品プラント、パルププラント、化学プラント等の各種産業から発生する廃水、家庭からの生活廃水等の廃水処理、
〇魚介類の養殖
〇化学反応、生物反応
等の幅広い分野で使用できる。
【0072】
さらに、本件発明の微細気泡発生用ノズルは、複雑でない形状・構造を有し、分解・組立てを短時間で簡単に行えることから、製品の安全性が必要とされるサニタリー製品(食品、醸造、乳業、バイオ医薬品、化学薬品等の製品)製造設備のラインにおいて好適に用いることができ、特に、製品の安全性が重視されるバイオ医薬品の製造プラントにおいて更に好適に用いることができる。すなわち、サニタリー製品の製造設備のラインでは、製品の安全性を確保するために、CIP洗浄(Cleaning In Place:定置洗浄)等の洗浄・滅菌が製品の変更毎および/または定期的に行われるが、本件発明の微細気泡発生用ノズルは、複雑でない形状・構造を有し、分解・組立てを短時間で簡単に行えることから、付着物・異物を簡単に点検・除去でき、洗浄・滅菌を短時間で行うことができ、また、洗浄・滅菌が不十分な箇所も生じない。
【0073】
さらに、本件発明の微細気泡発生用ノズルは、液体として固体触媒を分散させた反応液を用いる化学反応、液体として微生物等を含む培養液を用いる生物反応において好適に使用できる。すなわち、化学反応で用いられる固体触媒は壊れやすく、また、生物反応で用いられる微生物等はストレス・ダメージにより活性が低下するが、本件発明の微細気泡発生用ノズルでは、薄層Aが、固体触媒、微生物等がノズル本体部1の内面に衝突するのを防止するクッションの役割を果たすため、固体触媒が壊れたり、微生物等がストレス・ダメージを受けたりするのを低減できる。また、本件発明の微細気泡発生用ノズルでは、液体の流速を小さくしても微細気泡含有率を効率良く十分に高められるため、固体触媒が壊れたり、微生物等がストレス・ダメージを受けるのを低減できる。
【0074】
4.本件発明の微細気泡発生用ノズルを用いた生物反応装置
なかでも、本件発明の微細気泡発生用ノズルは、好気性から嫌気性に至る微生物または細胞(以下、「微生物等」ともいう。)を培養して、微生物等に反応生成物を生成させたり、微生物等を増殖させる生物反応装置において、特に好適に使用できる。
【0075】
[
図6]に示す生物反応装置では、
1)培養液および微生物等を含有する生物培養液11を培養槽12から抜き出す工程、
2)抜き出した生物培養液11を微細気泡発生槽13に供給して、微細気泡発生装置14により、微細気泡を含有させる工程、および
3)微細気泡を含有させた生物培養液11を還流管路を通じて培養槽12に戻す工程
により生物反応が行われるが、この「微細気泡発生装置14」として、本件発明の微細気泡発生用ノズルを用いることにより、[
図9]に示すように、薄層Aが微生物等のノズル本体部1の内面への衝突を防止するクッションの役割を果たし、微生物等が受けるストレス・ダメージを低減できる。
【0076】
さらに、「微細気泡発生装置14」として、本件発明の微細気泡含有率の高い液体を効率良く生成できる微細気泡発生用ノズルを用いることにより、培養槽12から抜き出し、微細気泡を含有させた後に培養槽12に還流する生物培養液11の量を、1分間当たり、培養槽12に収容された生物培養液11の量の1%以上80%未満、好ましくは33%以上60%未満と低く設定できるため、液循環により微生物等が受けるストレス・ダメージを軽減できる。
【0077】
なお、上記培養槽12に還流する生物培養液11の量は、少なすぎると、微生物等に十分な酸素を提供できなくなって微生物等の活性が低下し、多すぎると微生物等が受けるストレス・ダメージが増加することから、これらの要素を考慮して、微生物等の種類、生物培養液11中の微生物等の濃度等に応じて、適切な値を設定できる。
【0078】
<液体に微細気泡を含む気泡を混合させる方法>
本件発明の液体に微細気泡を含む気泡を混合させる方法は、上記の微細気泡発生用ノズルを用いて行うことができ、簡単かつ経済的に、微細気泡含有率を効率良く十分に高めて、液体に微細気泡を含む気泡を混合させることができる。
【0079】
つぎに、本件発明の微細気泡発生用ノズルについて実施例・比較例を用いて説明するが、本件発明はこれら実験例・比較実験例により限定されるものではない。
【0080】
<実施例1~2・比較例1~2>
以下の実施例1~2・比較例1~2では、表1に整理して示すように、次のような形状・構造の微細気泡発生用ノズルを用いた。
〇ノズル本体部:内径6.0mmの断面形状が円形の筒状体
〇ノズル本体部に設けられたスリットまたは孔:
[実施例1]ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して設けられた、ノズル本体部の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜する角度θが0°、間隙が0.8mmであるスリット
[実施例2]ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して設けられた、ノズル本体部の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜する角度θが75°、間隙が0.8mmであるスリット
[比較例1]ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して等間隔に設けられた、ノズル本体部の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜する角度θが0°、3個の直径1.0mmの孔
[比較例2]ノズル本体部の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して等間隔に設けられた、ノズル本体部の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜する角度θが0°、3個の直径2.0mmの孔
〇スリットまたは孔の段数:1段
【0081】
【0082】
実施例1~2、比較例1~2の微細気泡発生用ノズルに、ノズル本体部の一端の流入口から、10質量%の濃度のブドウ糖の水溶液(以下、「ブドウ糖水溶液」という。)を流速:16m/秒で供給すると共に、ノズル本体部に設けたスリットまたは孔から、空気を通気量:30L/分で供給して、空気の微細気泡を混合させたブドウ糖水溶液とした。
【0083】
得られた空気の微細気泡を混合させたブドウ糖水溶液のKLA[物質移動容量係数(/h)]を測定した。その結果を表2に示す。
【0084】
【0085】
KLA[物質移動容量係数(/h)]は、液体の溶存酸素濃度(DO)を表す指標として一般に用いられているものであり、この値が大きいほど液体の溶存酸素濃度が高いことを表している。すなわち、空気中の酸素が液体に溶けて溶存酸素になるには、気相の酸素分子O2が液体中に移動しなければならないが、この酸素移動速度OTRは、下記の一般式(1)で表されるので、KLAの値が大きいほど液体の溶存酸素濃度が高いことを表す。
OTR=KLA×(CS-C) ・・・(1)
この式(1)において、
OTR:酸素移動速度(mg/L・h)
KLA:物質移動容量係数(/h)
CS :酸素の水中への飽和溶解度(mg/L)
C :酸素の水中への溶解度(mg/L)である。
【0086】
実施例1~2(空気供給口の形状が「スリット」)と比較例1~2(空気供給口の形状が「孔」)との比較から、ノズル本体部に設ける空気供給口の形状を「スリット」とすることにより、「孔」とする場合(比較例1~2)に比べ、液体への溶存酸素濃度を格段に高くできることがわかる。
【0087】
さらに、実施例1(角度θが0°)と実施例2(角度θが75°)との比較から、スリットをノズル本体部の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜させることにより、液体への溶存酸素濃度を高められることがわかる。
【0088】
また、実施例2(空気供給口の形状が「スリット」)および比較例1(空気供給口の形状が「孔」)で得られた空気の微細気泡を混合させたブドウ糖水溶液における、空気の微細気泡の気泡径分布を画像解析法粒子径測定装置(マイクロトラックベル製)を用いて測定した。実施例2の上記気泡径分布を表3に示し、比較例1の上記気泡径分布を表4に示す。
【0089】
表3および表4に示す気泡分布は上記測定装置を用いて1分間測定したものであり、横軸は気泡の粒子径(μm)を示し、縦軸は測定された気泡の全数に対する各気泡径の気泡の割合(%)を示す。
【0090】
【0091】
【0092】
実施例2(空気供給口の形状が「スリット」)における空気の微細気泡の気泡径分布(表3)と、比較例1(空気供給口の形状が「孔」)における空気の微細気泡の気泡径分布(表4)との比較から、ノズル本体部に設ける空気供給口の形状を「スリット」とすることにより、「孔」とする場合に比べ、空気の微細気泡の気泡径を小さくかつ気泡径の分布をシャープにできることがわかる。
【符号の説明】
【0093】
1 ノズル本体部
1a 筒状体
1b 筒状体
1c 筒状体
2 流入口
3 放出口
4 スリット
5 気体供給部
6 上流側ノズル部材
6’ 上流側ノズル部材の下流側端部
7 下流側ノズル部材
7’ 下流側ノズル部材の上流側端部
8 接続部材
8’ 気体供給部との接続口
8-1 接続部材
8-1’ 気体供給部との接続口
8-2 接続部材
8-2’ 気体供給部との接続口
8-3 接続部材
8-3’ 気体供給部との接続口
9 締着手段の一例であるボルト・ナット
10-1 中間ノズル部材
10-1’ 中間ノズル部材の上流側端部
10-1’’ 中間ノズル部材の下流側端部
10-2 中間ノズル部材
10-2’ 中間ノズル部材の上流側端部
10-2’’ 中間ノズル部材の下流側端部
11 生物培養液
12 培養槽
13 微細気泡発生槽
14 微細気泡発生装置
110 曝気装置
111 ノズル本体部
112 流入口
113 放出口
114 空気噴出口
120 曝気装置
121 加圧給水管
122 第1段ノズル部材
123、124 1段もしくは複数段よりなる気泡熟成ゾーンのノズル部材
125、126 リングスリット状の各段ノズル
A (ノズル本体部の内面に沿って形成される)気体の連続する幅広の薄層
A’ (ノズル本体部の内面に沿って形成される)気体の複数の帯
B 微細気泡
B’ 微細気泡