(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】包装用容器の気密検査治具
(51)【国際特許分類】
G01M 3/26 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
G01M3/26 N
(21)【出願番号】P 2023038105
(22)【出願日】2023-02-22
【審査請求日】2023-02-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 4年12月20日に新生製缶株式会社にサンプルを提供
(73)【特許権者】
【識別番号】000167831
【氏名又は名称】株式会社ヒロハマ
(72)【発明者】
【氏名】関 利治
(72)【発明者】
【氏名】末吉 健人
(72)【発明者】
【氏名】白坂 和歌子
(72)【発明者】
【氏名】岡 由紀子
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-164191(JP,U)
【文献】中国実用新案第209979164(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密着体と、軸棒に略錐体がついた形状の突刺槍と、を有する治具であって、前記突刺槍はその尖端が治具の一端になる位置に設けられ、前記密着体は前記突刺槍の略錐体部の底面である顎部の上方に設けられるとともに、使用の際は前記突刺槍を容器に突き刺したあと前記突刺槍の略錐体部と前記密着体で容器材料を挟み込むことで容器に密着固定させる包装用容器の気密検査治具において、
前記突刺槍には、その前記略錐体部の外周面の少なくとも一部分に径方向内側に窪んだ溝部が形成され、前記突刺槍の中心軸を含む軸方向の同一断面において、前記溝部の下に位置する前記略錐体部の外周面の最大外径あるいは最大幅が前記溝部の上に位置する前記略錐体部の外周面の最大外径あるいは最大幅よりも小さいことを特徴とする包装用容器の気密検査治具。
【請求項5】
前記突刺槍の略錐体部と前記密着体で容器材料を挟み込んだ状態で、前記密着体の容器密着面側に、容器の治具突き刺し面から離れるように凹む空隙部が設けられており、前記突刺槍の軸に対して垂直方向の断面でみたとき、前記空隙部の容器に密着している外周縁が、前記略錐体部の最大外周縁よりも大きいことを特徴とする、請求項3に記載の包装用容器の気密検査治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、塗料、化学品、燃料油などの運搬や保管に使われる金属製缶の気密性を検査する治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製造される包装用容器に対しては、内容物の漏洩の発生を防ぐために気密検査が行われており、これまでに様々な検査方法が確立されてきた。一例としては、包装用容器に孔を開け、この孔にエビナットをかしめたあと、ここに接続治具を介して圧縮空気又は水の供給用チューブをつなぎ容器に内圧をかけていく方法がある。空圧検査の場合は、容器を水没させて気泡の発生で漏洩を検出するか、漏洩しやすいと思われる箇所に石鹸水を塗布して泡の膨らみで漏洩を検出する。水圧検査の場合は、水の漏れで確認する。
【0003】
上記の検査方法では、包装用容器にドリルで孔を開けたり、ナッターでエビナットをかしめたり、エビナット-チューブ間の接続治具を取り付けたりといった工程があるため手間がかかり、作業性に改善余地があった。また、検査の準備段階で、必要な工具や部品を全て揃えておくことやドリルを使用するための電源の確保が必要であった。
【0004】
そこで、上記のような手間を省くことを目的とした非特許文献1の手持ち治具が知られている。構成としては、支持棒、支持棒の一端に尖端を備える矢じり型の穂、他端には圧力計、穂の上方に密着ゴム、支持棒の上部に圧縮空気又は水の供給用接続口、さらに支持棒には穂を上げ下げするためのレバー、が設けられている。
【0005】
この治具の使用方法は、まずレバーを倒して矢じりを下げた状態にしてから包装用容器に穂を突き刺す。レバーを元の位置に戻すと穂が上がり、密着ゴムと穂の根元顎部で容器の材料が挟みこみまれ、容器に治具が固定される。次いで、支持棒上部から圧縮空気又は水を送り込むと、穂の側面の小孔から容器内に圧縮空気又は水が送りこまれ内圧をかけることができる。
【0006】
このように、包装用容器への孔開け、固定、及び圧供給用接続口の取り付けがこの治具1本で完結する。複数の工具を持ち替える手間がない分作業性が良くなるとともに、準備もこれ1本用意するだけでよい。ドリルを使わないため電源の確保の必要もなくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会,“圧力検缶機(ハンドキャンテスター)”,[online],[令和5年1月30日検索],インターネット<URL: https://www.jca-can.or.jp/testtool/makisime.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる非特許文献1の手持ち治具は、突き刺しにより垂れ下がった容器の材料を穂の根元額部にしっかりと引っ掛けるために、これらの接触面積がなるべく大きくなるよう容器に孔を開ける穂のサイズが大きめに設計されている。そのため、包装用容器に穂を突き刺しきるにはかなりの力を要し、刺し込み損なうことが多かった。中途半端に孔の開いてしまった包装用容器は検査には使えないため、処分せざるを得ず無駄にしてしまっていた。さらに、突き刺しが強い衝撃になるので圧力計が壊れやすいという欠点もあった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来の手持ち治具よりも小さな力で突き刺しができることと、容器の孔開け垂れ下げ部にしっかりと引っ掛かり容器と治具を密着させられること、を両立した包装用容器の気密検査治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係る包装用容器の気密検査治具は以下の特徴を有する。
【0011】
<1>密着体と、軸棒に略錐体がついた形状の突刺槍と、を有する治具であって、突刺槍はその尖端が治具の一端になる位置に設けられ、密着体は突刺槍の略錐体部の底面である顎部の上方に設けられている。使用の際は、突刺槍を容器に突き刺したあと、突刺槍の略錐体部と密着体で容器材料を挟み込むことで容器に密着固定させる。突刺槍には、その略錐体部の外周面の少なくとも一部分に径方向内側に窪んだ溝部が形成され、突刺槍の中心軸を含む軸方向の同一断面において、溝部の下に位置する略錐体部の外周面の最大外径(最大幅)が、溝部の上に位置する略錐体部の外周面の最大外径(最大幅)よりも小さい。
【0012】
非特許文献1の治具では、容器に孔を開ける突刺槍の略錐体部(穂)の最大外周縁のサイズが大きめに設計されているために、使用の際に突刺槍の略錐体部を突き刺しきるためには大きな力を要した。突き刺し損ないの可能性を低くするためには、略錐体部の最大外周縁のサイズを小さくすればよいが、このようにしてしまうと突き刺しによる容器材料の垂れ下がり部分の径(幅)も小さくなるため、略錐体部と材料の垂れ下がり部の接触面積が小さくなる。また、垂れ下がった材料の内径(内幅)は、材料のスプリングバックにより略錐体部の最大外周縁の外径(外幅)より若干小さくはなるが、その差は微々たるものである。この状態で密着体と突刺槍の略錐体部の距離を縮めて材料を挟み込んでいくと、接触面の少なさと、引っ掛かり部分の寸法差が僅少であることが相まって、引っ掛かりが弱くなり材料から突刺槍の略錐体部の顎部が外れてしまい、密着しきれず、容器材料と密着体の間から漏洩してしまう。
【0013】
上記<1>の構成によれば、突き刺しの際の作用としてまず略錐体部の溝部より下の外周縁が材料に接触しながら押し込まれることで、材料が裂かれていき孔が開けられる。次いで溝部にて材料の垂れ下がり根元にかかる負荷が開放される。この時点で材料は略錐体部の溝部より下の最大外周縁で孔開けされている状態になっている。その後、材料の垂れ下がり根元付近は略錐体部の溝部より上の外周縁では孔をさほど広げられることなく、瞬間的にここを乗り越えることになる。乗り越えた後の材料はスプリングバックにより元の孔径(孔幅)に復元される。これにより、材料を引っ掛ける部分である突刺槍の略錐体部の最大外周縁外径(最大外周縁外幅)と、引っ掛けられる側の垂れ下がった材料の内径(内幅)の差が大きくなるため、材料が突刺槍の略錐体部に引っ掛かりやすくなる。また、略錐体部の溝部の段差の角による抵抗も材料を引っ掛ける効果に寄与している。これによれば、突刺槍の略錐体部の最大外周縁のサイズを小さくして突き刺しやすくするとともに、容器の材料にしっかりと引っ掛かり密着させることが可能である。
【0014】
<2> 上記<1>に記載の包装用容器の気密検査治具において、突刺槍の軸に対して垂直方向の断面をみたときに、略錐体部の最大外径(最大幅)を有する面の断面形状が長手と短手を有する。
【0015】
上記<2>の構成によれば、包装用容器に突刺槍を突き刺した後、密着体と突刺槍の略錐体部の距離を縮める前に、突刺槍をその軸を中心に適当な角度で回転させることで、突刺槍の軸方向から見たときに、容器に開いた孔の縁の短辺(引っ掛けられる側)から、突刺槍の略錐体部の最大外周縁の長辺(引っ掛ける側)までの距離が長くなるため、それだけ引っ掛かり部分の寸法差が大きくなり、より強固に引っ掛けることができる。
【0016】
<3> 上記<1><2>のいずれかに記載の包装用容器の気密検査治具において、密着体に孔を設けて、そこに突刺槍の軸棒部を通している構造であって、かつ突刺槍の軸棒部に径方向の厚みを部分的に大きくした出っ張り部を設ける。突刺槍の略錐体部と密着体で容器材料を挟み込む前の状態では、密着体の軸棒部を通す孔の内壁に出っ張り部が干渉せず、容器材料を挟み込みきって治具を密着固定させた状態では、密着体の軸棒部を通す孔の内壁に出っ張り部が干渉し、軸棒部の出っ張り部を設けていない外周面よりも密着体と強く密着するようになっている。
【0017】
包装用容器に内圧をかけた際に、治具内部から圧縮空気や水が漏れてしまうと容器内の圧力の上昇が遅くなり検査に時間がかかってしまったり、漏洩の誤検知に繋がったりするおそれがある。治具からの漏れを防ぐための1つの手段として、密着体に孔を設けてそこ
に突刺槍の軸棒部を通し、かつ突刺槍の軸棒部の外径(外幅)を密着体の孔の内径(内幅)よりも大きくしてこの部分を密着させる方法がある。しかし、密着が甘く漏れてしまう場合に、密着をさらに強くしようとしてこの径(幅)の差を大きくすると、密着体と突刺槍の略錐体部の距離を縮めて容器材料を挟み込んでいくときに大きな抵抗になるため、作業性が悪く密着体もすり減りやすい。
【0018】
上記<3>の構成によれば、突刺槍の軸棒部の外径(外幅)を部分的に膨らませているため、容器材料を突刺槍と密着体で挟み込みきった状態では、この膨らみが密着体の孔壁を押して密着が強くなるが、挟み込む前から途中段階までは、この膨らみは密着体に干渉しないためスムーズに密着体と突刺槍の略錐体部の距離を縮めていくことができる。
【0019】
<4> 上記<1>~<3>のいずれかに記載の包装用容器の気密検査治具において、突刺槍の略錐体部と密着体で容器材料を挟み込んだ状態で、密着体の容器密着面側に、容器の治具突き刺し面から離れるように凹む空隙部が設けられており、突刺槍の軸に対して垂直方向の断面でみたとき、空隙部の容器に密着している外周縁が、略錐体部の最大外周縁よりも大きい。
【0020】
治具の突刺槍を容器に突き刺すと、容器に孔が開き材料が垂れ下がる。次に治具を容器に密着固定するために、密着体と突刺槍の略錐体部の距離を縮めていき、この間で材料を挟み込んでいくが、このときに垂れ下がった材料が突刺槍の略錐体部に引っ掛かり、引っ掛かった部分を持ち上げながら潰していく形になる。この持ち上げにより、垂れ下げの根元付近の材料も同時に持ち上げられて、容器に開いた孔の縁周辺の、密着体が密着する面が盛り上がってしまうことがある。こうなると、盛り上がった容器材料に密着体が強く当たり押し上げられて、盛り上がった容器材料より外側に位置する容器材料と密着体の間の密着性が弱まってしまうおそれがあった。
【0021】
上記<4>の構成によれば、容器に開いた孔より大きい凹みを密着体に設けているため、容器材料が盛り上がったとしてもこの凹みの空間内で収まり、密着体が押し上げられることがなく、安定して容器と密着体全面が密着できる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、従来の手持ち治具よりも小さな力で突き刺しができることと、容器の孔開け垂れ下げ部にしっかりと引っ掛かり容器と治具を密着させられること、を両立した包装用容器の気密検査治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】 第1実施形態に係る包装用容器の気密検査治具を示す図で、(i)は平面図、(ii)は正面図、(iii)は底面図である。
【
図2】 第1実施形態に係る包装用容器の気密検査治具を示す図で、(iv)は左側面図、(v)は右側面図、(vi)は背面図である。
【
図3】 第1実施形態に係る包装用容器の気密検査治具を示す斜視図である。
【
図5】
図4において一点鎖線で囲まれた領域Bの拡大図である。
【
図6】 第1実施形態に係る包装用容器の気密検査治具の使用方法を説明する断面図で、(a)は容器に突き刺した状態、(b)は容器材料を挟み込んで固定した状態の図である。
【
図7】 第1実施形態に係る包装用容器の気密検査治具の作用を示す図であって、容器に突き刺す段階の状態を示す説明図((I)~(IV))である。
【
図8】
図6(a)のC-C端面とD-D端面の外周縁を重ねた図である。
【
図9】 第1実施形態に係る包装用容器の気密検査治具による容器材料に開いた孔の縁と、略錐体部の最大外周縁の位置関係の一例を示す図である。
【
図10】 従来の包装用容器の気密検査治具を容器に突き刺す段階の状態を示す説明図((I)~(III))である。
【0024】
以下、本発明に係る第1実施形態の構成について、
図1、
図2、
図3、
図4および
図5を用いて説明する。第1実施形態における包装用容器の気密検査治具1は支持体2、突刺槍3、密着調節体4および密着体5を備える。これらは、外観では上から支持体2、密着調節体4、密着体5、突刺槍3の順に同軸上に配置されており、突刺槍3の尖端が気密検査治具1の一端に位置しているため、支持体2を手で持ち、振り下ろすことで容器に突き刺せるようになっている(
図1、
図2、
図3参照)。
【0025】
以下の説明で記す上下の方向は通常の使用状態に合わせて気密検査治具1の突刺槍3の尖端側を「下」、その反対側を「上」とする。また、特に断りがない限り、「径方向」「径」「外径」「内径」は軸棒部31の中心軸を中心とする放射方向を、「軸方向」は軸棒部31の中心軸に沿う方向を、「周方向」は軸棒部31の中心軸周りの方向を、「外周面」「内周面」は周方向の面を意味する。
【0026】
支持体2は円柱型であり、その一端には断面がT字の段円柱形状をした叩き部22がねじこまれている(
図4参照)。叩き部22は弾力性のある樹脂でできており、気密検査治具1を手で持ち振り下ろしたとき、突刺槍3の略錐体部32を容器へ突き刺しきれなかった場合にこの叩き部22をハンマー等で叩くことで、気密検査治具1を傷つけることなく略錐体部32を刺し込みきることができる。また、叩き部22を取り外して代わりに圧力計を取り付けることもでき、従来の手持ち治具の使用感に近づけることもできる。支持体2の円柱側面上方には圧縮空気又は水の供給口23および排出口24が取りつけられており、気密検査時にはここにチューブを挿して圧の供給または排出を行う。これらより下に位置する円柱側面は把持部21で、手で握りしめられる長さに設定されている。
【0027】
支持体2の、叩き部22の取り付けられていない側の一端には、支持体2の中心軸にねじ穴が形成されて突刺槍3と螺合されている(
図4参照)。支持体2の円柱側面下方に径方向中心に向かって形成されたねじ孔にねじ止めすることで、突刺槍3の雄ねじが形成された接続部31aが側面から固定されて、支持体2と突刺槍3の螺合が緩まないようになっている(
図5参照)。容器内に圧縮空気を送り込んだり、容器内の圧を排出したりするために、支持体2の圧縮空気又は水の供給口23および排出口24から、突刺槍3の通気孔33に繋がるように、支持体2の中心軸を通る通気孔25が設けられている(
図4参照)。
【0028】
突刺槍3は一本の槍状の棒で、柄の部分となる軸棒部31と矢じり部分となる略錐体部32からなる(
図5参照)。軸棒部31は、接続部31a、回転ストッパー31b、シャフト部31c、を有する。略錐体部32は、外周面32a、溝部32b、顎部32c、を有する。第1実施形態では、これらは金属材で一体成型されており、各部位の中心軸は同一である。
【0029】
接続部31aは、軸棒部31の上部(略錐体部32の反対側)の外周面に雄ねじが形成された部分である(
図5参照)。接続部31aが支持体2のねじ穴に螺合されるとともに、支持体2の円柱側面下方に径方向中心に向かって形成されたねじ孔からねじ止めされることで、支持体2と突刺槍3が接続固定される。さらに、密着調節体4の手回し皿41の中心軸に設けられた貫通のねじ孔に螺接され、こちらはねじ回転可能に組付けられるので、使用の際に略錐体部32を容器6に突き刺した後(
図6(a)参照)、ねじ回転で密着調節体4の位置を下げることで、略錐体部32の顎部32cに対して相対的に密着調節体4の密着体押し込み面43aが下がり、密着体5と略錐体部32で容器材料を挟みこむことができる(
図6(b)参照)。
【0030】
回転ストッパー31bは、接続部31aより下に位置し、接続部31aよりも大きい外径を有する径方向外側に円盤状に突出した部分である(
図5参照)。気密検査治具1を容器6に密着固定させる際に密着体5と略錐体部32の距離を近づけすぎてしまうと、容器材料の垂れ下がり部62の略錐体部32への引っ掛かりが外れてしまい材料を挟み込めなくなってしまうが、回転ストッパー31bがあることで、密着調節体4をねじ回転させて下に移動させていくと、回転ストッパー31bの上面が密着調節体4の手回し皿41の底面に当接し、それ以上は下に移動できなくなるため、必要以上に密着体5と略錐体部32の距離を近づけすぎて容器材料が挟み込めなくなることを回避できる。
【0031】
シャフト部31cは、回転ストッパー31bから軸方向下に延設された部分であり、延びた先では略錐体部32に繋がる(
図5参照)。また、シャフト部31cは密着体5に設けられた貫通の中心孔に通るように組付けられる。容器6に内圧をかけた際、気密検査治具1の内部から圧縮空気や水が漏れないように、気密検査治具1を容器6に密着固定した状態(
図6(b)参照)で、密着体5の中心孔を通る部分のシャフト部31cの外径は密着体5の中心孔の内径よりも若干大きく設定されており、密着体5の中心孔の内周面にシャフト部31cの外周面が密着される。
【0032】
シャフト部31cには、略錐体部32と密着体5で容器材料を挟み込む前の状態で(
図6(a)参照)密着体5に設けられた中心孔を通っている部分よりも径方向外側に突出したシャフト出っ張り部31c’が設けられている。シャフト出っ張り部31c’は、回転ストッパー31bと略錐体部32の間に位置するが、その上下位置は、略錐体部32と密着体5で容器材料を挟み込む前の状態(
図6(a)参照)では密着体5の中心孔にシャフト出っ張り部31c’が干渉せず、略錐体部32と密着体5で容器材料を挟みきって気密検査治具1を容器6に密着固定させた状態(
図6(b)参照)では、密着体5の中心孔にシャフト出っ張り部31c’が干渉する位置に設定されている。
【0033】
気密検査治具1の内部からの漏洩を止めるために、シャフト部31cのうち気密検査治具1の使用の際に密着体5の中心孔を通過する部分全ての外径と、密着体5の中心孔の内径との差を大きく設定すると、シャフト部31cの外周面と密着体5の中心孔の内周面が摺動時に大きな抵抗となり、手で密着調節体4をねじ回転させる作業に力を要したり、密着体5の中心孔の内周面がすり減りやすくなったり、密着体引掛部43bでの密着体5の引っ掛かりが外れてしまったりするおそれがある。シャフト出っ張り部31c’を設けることで、気密検査治具1と容器6を密着固定させた状態(
図6(b)参照)では、シャフト出っ張り部31c’が密着体5の中心孔の内周面を径方向外側に強く押して密着が強くなるが、密着固定させる前(
図6(a)参照)と密着固定を緩める際は、シャフト出っ張り部31c’と密着体5の接触が少なくなる方向に向かうので、摺動の抵抗が弱まりスムーズな作業が可能となる。
【0034】
シャフト部31cが軸方向下に延びた先で径方向外側に出っ張り段差を形成するが、これが略錐体部32の底面となる顎部32cである(
図5参照)。顎部32cの最外径を維持して下にストレートに延び(外周面32a)、そこから径方向内側に窪んだ溝部32bが形成される。溝部32bより下はストレートに下に延びて(外周面32a)、途中からテーパーで先細りになっている(外周面32a)。尖端は耐久性のために傾斜を少なくして潰れにくくなるようにしている。
【0035】
略錐体部32の中心軸と溝部32bを含む、軸方向に沿った同一断面において、溝部32bより下に位置する略錐体部の最大外径(32D)は、溝部32bより上に位置する略錐体部の最大外径(32E)よりも小さい(
図5、
図8参照)。この形状の作用について以下で説明する。
【0036】
図10のように溝部32bを設けていない従来の方法の場合は、略錐体部32を容器6に突き刺しきるまでの過程で、略錐体部32の外周面32aが容器材料に当接された状態を維持しているため、容器材料に孔を開けきる直前まで容器材料に押しひろげるような負荷をかけ続けていることになる(
図10(I)(II)参照)。容器材料に開いた孔のサイズは略錐体部32の最大外周縁の大きさ(P)とほぼ同等となる(
図10(III)参照)。(略錐体部32の最大外周縁とは、突刺槍3の軸に対して垂直方向の断面のうち、最も大きい外周縁を有する断面の外周縁である。)
【0037】
これに対し、第1実施形態の場合(
図7参照)では、略錐体部32の外周面32aに溝部32bが形成されているため、溝部32bが容器材料の垂れ下がり根元部62の位置にくると、容器材料は押しひろげるような負荷から一時的に解放され、この時点で容器材料は、溝部32bより下に位置する略錐体部32の最大外周縁(32D’)で孔開けが完了した状態になる(
図7(III)参照)。
【0038】
さらに略錐体部32の位置が下がっていくと、容器6に開いた孔のサイズ(≒32D’)よりも大きい、溝部32bより上に位置する略錐体部32の最大外周縁(32E’=P)を、容器材料の垂れ下がり根元部62が乗り越えることになるが、気密検査治具1の突き刺し作業は勢いよく振り下ろして行うので、乗り越えは瞬間的なものである。そのため、容器材料の垂れ下がり根元部62は溝部32bより上に位置する略錐体部32の最大外周縁(32E’=P)による変形をさほど受けない。容器材料の垂れ下がり根元部62が溝部32bより上に位置する略錐体部32の最大外周縁(32E’=P)に当接している瞬間は、容器材料に開いた孔のサイズが一時的に広げられているが、ここを乗り越えた後は、材料のスプリングバックにより、容器材料に開いた孔のサイズが溝部32bより下に位置する略錐体部32の最大外周縁(32D’)で開けられた孔のサイズ近くまで復元される(
図7(IV)参照)。
【0039】
気密検査治具1を容器6に密着固定させる際は、容器材料の垂れ下がり根元部62に対して相対的に略錐体部32の位置を上げていき、略錐体部32と密着体5の間に容器材料を挟み込むが、
図10のように溝部32bがない場合では、引っ掛ける側である略錐体部32の最大外周縁のサイズ(P)と、引っ掛けられる側である容器材料に開いた孔のサイズがほぼ同等のため(
図10(III)参照)、引っ掛かりが弱く略錐体部32から容器材料が外れてしまって挟み込みができなくなるおそれがある。
【0040】
これに対し、第1実施形態の形状では、引っ掛ける側である略錐体部32の最大外周縁のサイズ(32E’=P)は、引っ掛けられる側である容器材料に開いた孔のサイズ(≒32D’)と差がつくため、容器材料の引っ掛かりが良くなる(
図7(IV)参照)。
【0041】
また、図示は省くが、容器材料の垂れ下がり方によっては、略錐体部32の溝部32bと外周面32aの繋ぎ目の段差による抵抗も材料を引っ掛ける効果に寄与する。
【0042】
気密検査治具1を容易に容器6に突き刺せるようにするためには、略錐体部32のサイズを小さくすることが望ましいが、通常はこれが小さいと、略錐体部32と容器材料の接触面積が少なくなるので気密検査治具1を容器6に密着固定させる際に容器材料が略錐体部32から外れて抜けやすくなってしまう。しかし第1実施形態では、容器材料への引っ掛かりがよい形状のため、略錐体部32のサイズを小さくすることが可能である。
【0043】
略錐体部32の、軸に対して垂直方向の断面形状は、円の両サイドを1対の平行な弦に沿って切り取った形状をしている(
図8、
図9参照)。断面形状の円の直径は2本の弦の距離よりも大きく、長手32Fと短手32Gがある。円弧と直線の繋ぎ目が角になっているため、略錐体部32が容器6に刺し込まれるとこの角で材料が切り裂かれて孔開けがスムーズになる。さらに、長手32Fと短手32Gのある断面形状をしているため、容器6に略錐体部32を突き刺した後、密着体5と略錐体部32の距離を縮める前に、略錐体部32を気密検査治具1ごと軸を中心に適当な角度(
図9では約90°)回転させることで、軸方向から見たときに、容器に開いた孔の縁の短幅(63A)(引っ掛けられる側)から、略錐体部32の最大外周縁の長幅(32F)(引っ掛ける側)までの距離が長くなるため、より強固に容器材料を引っ掛けることができる(
図9参照)。また、略錐体部32は略円錐の両サイドを、下の位置ほど細くなるように削ぎ落した形状になるが、削ぎ落としていない略円錐の状態よりも略錐体部32の最大外周縁のサイズが小さくなるため、容器6に略錐体部を突き刺しきりやすくなっている。
【0044】
突刺槍3には、支持体2の通気孔25に繋がる通気孔33が、軸棒部31の中心軸を通り、略錐体部32に差し掛かると径方向外側に延びて、略錐体部32の外周面まで繋がるように設けられている(
図3、
図5参照)。気密検査治具1の使用の際に、支持体2の圧縮空気又は水の供給口23から供給された圧は、この通気孔25と通気口33を通って容器内に送り込まれる。
【0045】
密着調節体4は、手回し皿41、手回しリング42、密着体押し込み皿43で構成される(
図4参照)。
【0046】
手回し皿41は断面がT字の段円柱形状で、中心軸には貫通のねじ孔が設けられており、突刺槍3の接続部31aとねじ回転可能に組付けられる(
図4、
図5参照)。手回しリング42は外径が手回し皿の外径と同一で略円筒形状をしている。手回し皿41の下段円柱の外径部に、手回しリング42のリング内径を嵌め込み、それぞれ径方向中心に向かって形成されたねじ穴(孔)にねじ止めすることで、手回し皿41と手回しリング42が一体的に固定されるので、気密検査治具1の使用の際にこれらは一体的にねじ回転される。これらが固定された状態でその断面は略逆凹形状をしており、手回しリング42の下端には径方向内側に肉厚を出っ張らせた押し込み皿引掛部42aがある(
図5参照)。
【0047】
手回し皿41と手回しリング42を組んだ断面略逆凹形状の中には略円筒形状の密着体押し込み皿43が配置されている(
図4、
図5参照)。密着体押し込み皿43の外周面下部は径方向内側に窪んでおりここが押し込み皿引掛部42aに係合され、かつ手回し皿41の底面と密着体押し込み皿43の上面は当接されるようになっているため(
図5参照)、気密検査治具1の使用の際に手回し皿41と手回しリング42が同時にねじ回転により上下に移動すると、その動きに追従して密着体押し込み皿43も上下に移動する(
図6(a)(b)参照)。
【0048】
密着体押し込み皿43の下には密着体5が当接配置されるが、密着体押し込み皿43の外周下部には密着体押し込み面43aより下に突出してそこから径方向内側に延びた密着体引掛部43bが形成され、密着体5の外周面に設けられた溝に係合される(
図5参照)。つまり、一体的に固定された手回し皿41と手回しリング42をねじ回転させて上下移動させると、密着体押し込み皿43を介して密着体5もその上下の動きに追従する(
図6(a)(b)参照)。密着体押し込み皿43の中心軸には、気密検査治具1の使用の際に、突刺槍3の回転ストッパー31bやシャフト部31cが通るように孔が設けられている(
図5参照)。
【0049】
密着体5は弾性体でできており、略円盤形状で中心軸には貫通の孔が設けられている。この孔には突刺槍3のシャフト部31cが通っており、この孔の内径はシャフト部31cの外径よりも小さく設定されており、密着体5の中心孔の内周面とシャフト部31cの外周面が密着することで、気密検査治具1の使用の際に治具内部から圧縮空気や水が漏洩することを防ぐ(
図6(b)参照)。密着体5の外周面上部には径方向内側に窪む溝が設けられ、この溝に密着調節体4の密着体引掛部43bが係合される(
図5参照)。
【0050】
密着体5の下底面は気密検査治具1の使用の際に容器6の材料に密着する容器密着面51である。密着体5の容器密着面51側には、中心軸が突刺槍3と同一で、軸方向上側に(容器6の材料から上に離れるように)凹む空隙部52が設けられている。空隙部52と容器密着面51との境界である空隙部52の外周縁(52A)は、略錐体部32の最大外周縁(=32E’)よりも大きい(
図1(iii)、
図5参照)。
【0051】
気密検査治具1の使用の際は治具の突き刺しによって垂れ下がった材料を略錐体部32で引っ掛け、密着体5と略錐体部32との距離を縮めてこの間に材料を挟み込んでいくが、この挟み込んでいく過程で容器材料の垂れ下がり根元部62付近の材料も持ち上げられて、容器6に開いた孔の縁周辺が盛り上がる(盛り上がった容器材料64)ことがある(
図6(b)参照)。密着体5に空隙部52を設けていない場合は、この盛り上がった容器材料によって密着体5全体が強く押し上げられて、盛り上がった容器材料より外側に位置する容器材料と密着体5との密着性が弱まってしまうおそれがあった。第1実施形態のように容器に開いた孔より大きい凹み(空隙部52)を密着体5に設けていれば、盛り上がった容器材料64はこの空隙部52の空間内に収まり、密着体5全体が押し上げられることがなく、安定して容器材料と密着体5の容器密着面51が密着できる。
【0052】
本発明による包装用容器の気密検査治具の使用の手順について、第1実施形態を例に説明する。支持体2の把持部21を片手で握りしめて、容器6を目掛けて一気に振り下ろす。容器6の治具突き刺し面61はなるべく平らな場所を選ぶ。突刺槍3の略錐体部32は先細りの錐体形状のため、略錐体部32が容器6に刺し込まれていくほど容器に開く孔の大きさもひろげられていくが(
図7(I)(II)参照)、略錐体部32の溝部32bより下に位置する略錐体部32の最大外周縁(32D’)で開けられた孔は、溝部32bがあることでさほど広げられることなく溝部32bより上に位置する略錐体部32の最大外周縁(32E’)を乗り越えることができる(
図7(III)(IV)参照)。次いで、支持体2が回転しないように片手で把持部21を押さえながら、もう片方の手で密着調節体4の最外径(手回し皿41と手回しリング42の最外径)を周方向にねじ回転し下方向に移動させ、密着体5の容器密着面51と略錐体部32の顎部32cとの距離を縮めていき、垂れ下がった容器材料を挟み込んでいく(
図6(b)参照)。引っ掛けられる側である容器材料に開いた孔のサイズ(≒32D’)は引っ掛ける側である略錐体部32の最大外周縁のサイズ(32E’)より小さいため(32E’>32D’)、容器材料がしっかりと引っ掛かり材料を挟み込んでいける(
図7(IV)参照)。密着体5の容器密着面51と容器6の治具突き刺し面61が十分に密着したら、支持体2の圧縮空気又は水の供給口23および排出口24にそれぞれチューブを挿して、排出側を塞いでから、供給口23から圧縮空気又は水を容器内に送り込んで気密検査を実施する。検査途中で密着体5の容器密着面51と容器6の治具突き刺し面61の間から漏洩する場合は、容器調節体4をさらにねじ回転で締め付けることで、密着を強くして漏れを止めることができる。
【0053】
上述した手順の、気密検査治具1を振り下ろして容器6に突き刺した後に、略錐体部32が容器6の治具突き刺し面61より下に潜った状態のまま気密検査治具1を周方向に約90°回転させる工程を追加すると、容器に開いた孔の縁の短幅(63A)(引っ掛けられる側)から、略錐体部32の最大外周縁の長幅(32F)(引っ掛ける側)までの距離が長くなるため、より強固に容器材料を引っ掛けることができる(
図9参照)。気密検査治具1を周方向に回転させる工程は失念しやすいが、第1実施形態のように略錐体部32に溝部32bを設けていれば、回転させなくても容器材料を引っ掛けることが可能である。
【0054】
以上、本発明の第1実施形態について説明したが、本発明の適用範囲はこれに限られるものではない。公知技術や慣用技術を組み合わせたり、一部を置換したり、当業者が容易に想到する改変例も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1 包装用容器の気密検査治具
2 支持体
21 把持部
22 叩き部
23 圧縮空気又は水の供給口
24 圧縮空気又は水の排出口
25 通気孔
3 突刺槍
31 軸棒部
31a 接続部
31b 回転ストッパー
31c シャフト部
31c’ シャフト出っ張り部
32 略錐体部
32a 外周面(略錐体部)
32b 溝部
32c 顎部
32D 溝部より下に位置する略錐体部の最大外径(最大幅)
32D’ 溝部より下に位置する略錐体部の最大外周縁
32E 溝部より上に位置する略錐体部の最大外径(最大幅)
32E’ 溝部より上に位置する略錐体部の最大外周縁
32F 長手(略錐体部)
32G 短手(略錐体部)
33 通気孔
4 密着調節体
41 手回し皿
42 手回しリング
42a 押し込み皿引掛部
43 密着体押し込み皿
43a 密着体押し込み面
43b 密着体引掛部
5 密着体
51 容器密着面
52 空隙部
52A 空隙部の外周縁
6 容器
61 治具突き刺し面
62 容器材料の垂れ下がり根元部
63 容器に開いた孔
63A 容器に開いた孔の縁の短幅
64 盛り上がった容器材料
P 略錐体部の最大外周縁の大きさ
【要約】
【課題】 小さな力で突き刺しができることと、容器材料にしっかりと引っ掛かり容器と治具を密着させられること、を両立した包装用容器の気密検査治具を提供する。
【解決手段】 密着体5と、軸棒に略錐体がついた形状の突刺槍3と、を有する治具であって、使用の際は突刺槍3を容器6に突き刺したあと略錐体部32と密着体5で容器材料を挟み込むことで容器6に密着固定させる包装用容器の気密検査治具1であって、突刺槍3には、その略錐体部32の外周面の少なくとも一部分に径方向内側に窪んだ溝部32bが形成され、突刺槍3の中心軸を含む軸方向の同一断面において、溝部32bの下に位置する略錐体部32の外周面32aの最大外径あるいは最大幅(32D)が溝部32bの上に位置する略錐体部32の外周面32aの最大外径あるいは最大幅(32E)よりも小さい。
【選択図】
図5