(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】液体肥料の製造方法、及び液体肥料
(51)【国際特許分類】
C05G 5/27 20200101AFI20240228BHJP
C05F 1/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C05G5/27
C05F1/00
(21)【出願番号】P 2020034001
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019042094
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519082197
【氏名又は名称】有限会社上田産業
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】上田 徳七
(72)【発明者】
【氏名】上田 征司
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-178091(JP,A)
【文献】特開平08-081291(JP,A)
【文献】特開平07-069766(JP,A)
【文献】特開平04-037679(JP,A)
【文献】特開平06-092764(JP,A)
【文献】特開2006-124258(JP,A)
【文献】特開昭63-260885(JP,A)
【文献】米国特許第05393318(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B
C05C
C05D
C05F
C05G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも魚類を原料とする液体肥料の製造方法であって、
(a)魚類を加熱し、懸濁物を得る加熱工程
(b)前記懸濁物から生成された
油層、水層、及び固形層のうち、前記油層を分離
し、前記水層及び固形層を得る分離工程
(c)油層分離後の前記
水層及び固形層に、酸を添加する第1酸性化工程
(d)酸を添加した前記
水層及び固形層に含まれる微生物を発酵させ、発酵物を得る発酵工程
(e)前記発酵物を加温し、さらに酸を添加する第2酸性化工程
を含む、液体肥料の製造方法
【請求項2】
前記魚類が、ラウンド
である、並びに/又は、魚類の内臓及び/若しくは頭を含む水産加工残渣である、請求項1に記載の液体肥料の製造方法
【請求項3】
前記分離工程(b)以外の分離工程を含まない、請求項1又は2に記載の液体肥料の製造方法
【請求項4】
前記第2酸性化工程が、前記発酵物を加温し沸騰状態として酸を添加する工程である、
請求項1~
3いずれか一項に記載の液体肥料の製造方法
【請求項5】
前記酸が、リン酸である、
請求項1~
4いずれか一項に記載の液体肥料の製造方法
【請求項6】
前記第2酸性化工程が、酸を添加してpHを3以下とする工程である、
請求項1~
5いずれか一項に記載の液体肥料の製造方法
【請求項7】
前記第2酸性化工程で得られた液体が、清澄である、
請求項1~
6いずれか一項に記載の液体肥料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも魚類、好ましくはラウンド、並びに/又は、魚類の内臓及び/若しくは頭を含む水産加工残渣を原料とする液体肥料の製造方法、及び当該製造方法で製造された液体肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
水産加工残渣等の魚類を用いて、肥料を製造する際に、酸を利用する方法が開発されている。具体的には、酸を触媒として亜臨界水又は超臨界水で処理する方法(特許文献1参照)、水産系廃棄物を酸による加水分解処理して有機化合物を回収する方法(特許文献2参照)、多孔質有機廃棄物と魚類廃棄物とトレハロースに加えてクエン酸又はその塩との配合原料の発酵物からなる発酵堆肥(特許文献3参照)、重金属を含有する水産加工残滓の粉砕物に酢酸水溶液を加えて加熱処理した後、液状物を分離して残渣を得る工程を複数回繰り返す有機肥料の製造方法(特許文献4参照)、魚肉を無機酸の存在下に乾燥させる乾燥方法(特許文献5参照)、魚介類加工残滓に硝酸を添加し重金属を除去する方法(特許文献6参照)、魚類廃棄物を燃焼手段により灰化させ、木酢液や竹酢液を混入した肥料の製造方法(特許文献7参照)、魚の煮汁にクエン酸やイタコン酸等の有機酸を添加した液体肥料(特許文献8参照)、水産加工屑等の有機質原料をpH 3.0~6.0 の条件下で熟成させる肥料の製造方法(特許文献9参照)、魚の皮を脱脂し、リン酸で加水分解し、アンモニア等を加えて中和する液状肥料の製造方法(特許文献10参照)等が知られている。また、油脂分を分離することなく魚粉を得る方法として、魚類又は魚類の加工残渣と家禽類の卵を混合し加熱することを特徴とする魚粉の製造方法が知られている(特許文献11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-014737号公報
【文献】特開2009-183815号公報
【文献】特許第4195720号公報
【文献】国際公開第2007/108286号
【文献】特開2004-136239号公報
【文献】特開2001-137825号公報
【文献】特開2010-116286号公報
【文献】特開平08-081291号公報
【文献】特開平06-092764号公報
【文献】特開平04-037679号公報
【文献】特開2018-143136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
魚類を用いた液体肥料を製造する場合には、骨等の魚類の成分が固形物として残留する。固形物を分離するために遠心分離機等の動力設備が必要とされ、多大なコストが必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、魚類、好ましくはラウンド、並びに/又は、魚類の内臓及び/若しくは頭を含む水産加工残渣を原料としながら、遠心分離等の動力設備を必要とせず、効率的に液体肥料を製造する方法を提供する。
【0006】
すなわち、本発明は、少なくとも魚類を原料とする液体肥料の製造方法であって、(a)魚類を加熱し、懸濁物を得る加熱工程、(b) 懸濁物から生成された油層を分離する分離工程、(c)油層分離後の懸濁物に、酸を添加する第1酸性化工程、(d)酸を添加した懸濁物に含まれる微生物を発酵させ、発酵物を得る発酵工程、(e)発酵物を加温し、さらに酸を添加する第2酸性化工程を含む、液体肥料の製造方法である。本発明は分離工程(b)以外の分離工程を含まない。魚類は、好ましくは、ラウンド、並びに/又は、魚類の内臓及び/若しくは頭を含む水産加工残渣である。
【0007】
また、別の本発明は、(a)懸濁物から生成された油層、水層、及び固形層のうち、油層を分離し、水層及び固形層を得る分離工程、(b)水層及び固形層に酸を添加する第1酸性化工程工程、(c)水層又は固形層に含まれる微生物を発酵させる発酵工程を含む、液体肥料の製造方法である。
【0008】
また、別の本発明は、第2酸性化工程が、発酵物を加温し沸騰状態として酸を添加する工程である、液体肥料の製造方法である。
【0009】
また、別の本発明では、酸が、リン酸である。さらに別の本発明では、第2酸性化工程が、酸を添加してpHを3以下とする工程であり、第2酸性化工程で得られた液体が、清澄であり、第2酸性化工程で得られた液体が、γ-アミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid; GABA)やオーキシンを含有する。
【0010】
さらに、本発明は、上述の製造方法によって製造された容器入りの液体肥料を提供する。すなわち、少なくとも魚類を原料とする容器入り液体肥料であって、魚類を加熱し、懸濁物を得、 懸濁物から生成された油層を分離し、油層分離後の懸濁物に、酸を添加し、酸を添加した懸濁物に含まれる微生物を発酵させ、発酵物を得、発酵物を加温し、さらに酸を添加して得られた液体が容器に充填されたことを特徴とする容器入り液体肥料である。液体は、清澄であり、また、γ-アミノ酪酸やオーキシンを含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体肥料の製造中に発生する沈殿物を効率良く分解することができ、遠心分離等の固液分離工程や、大規模な濾過設備を必要とせずに、液体肥料を製造することができる。また、本発明により製造された液体肥料は、野菜や柑橘類の育成に最適な成分を有しており、高品質の野菜や柑橘類の生産が、高い収率で可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の製造方法の製造過程を示す写真である。
【
図3】本発明の製造方法で製造された液体肥料の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、少なくとも魚類を原料とする液体肥料の製造方法であって、本発明の液体肥料の製造方法では、油層さえ分離すれば良く、その後に固液分離をせずに、固体成分の含有が少ない液体肥料を製造することができる。
【0014】
すなわち、本発明は、(a)魚類を加熱し、懸濁物を得る加熱工程、(b) 懸濁物から生成された油層を分離する分離工程、(c)油層分離後の懸濁物に、酸を添加する第1酸性化工程、(d)酸を添加した懸濁物に含まれる微生物を発酵させ、発酵物を得る発酵工程、(e)発酵物を加温し、さらに酸を添加する第2酸性化工程を含む。本発明の製造方法を示すフローチャートを
図1に示した。以下、本発明を工程毎に詳細に説明する。
【0015】
加熱工程(a)は、魚類を加熱し懸濁物を得る工程である。魚類は、ラウンド、並びに/又は、魚類の内臓及び/若しくは頭を含む水産加工残渣が用いられる。ラウンドとは、丸魚とも呼ばれ、水揚後に加工されていない、原型のままの状態の魚類を指し、好ましくはマイワシ、カタクチイワシ、サバ、ニシン等の小型の魚類がそのまま用いられる。
【0016】
また、水産加工残渣は、魚あらとも呼ばれ、少なくとも魚類の内臓及び/又は頭が含まれる。魚類は、天然で漁獲されたものでも、養殖で生産されたものでも良い。傷やサイズ等の問題から販売されなかった未利用魚や、一次加工や二次加工で発生する残渣、小売店で発生する残渣、賞味期限の問題から廃棄される水産系食品も含まれる。さらに、ラウンドや水産加工残渣を乾燥し粉末化した魚粉も用いることができる。また、ラウンドや水産加工残渣を混合して用いても良い。
【0017】
加熱工程(a)では、分離槽に収容した魚類を蒸気等の手段で加熱することで、加熱により魚類が柔らかい状態となり、略均一な懸濁物となる。加熱は、蒸煮であっても良い。また、加熱の前又は加熱の後に、魚類を35℃~40℃の温度に放置することで、魚類が有する消化酵素により自己消化され、懸濁物が得られやすくなる。自己消化では1時間~5時間放置することが好ましく、より好ましくは2時間である。
【0018】
懸濁物を放置することで、少なくとも油層が形成される。好ましくは、油層、水層、及び固形層(沈殿層)の3層が形成される。放置の時間は、1時間未満の短時間でも油層が形成されれば構わないが、好ましくは1時間~36時間であり、より好ましくは24時間である。
【0019】
分離工程(b)は、懸濁物に生成された油層を懸濁物から分離する工程である。より具体的には、分離工程(b)は、少なくとも油層が形成された懸濁物から、油層を分離し、水層及び固形層(沈殿層)を得る。油層は、懸濁物中の最上段に形成されるため、分離槽の下部に設けられた排水口から、水層及び固形層(沈殿層)を抜き取り、油層以外を発酵槽等の新たな槽に移すことで分離され、油層が分離された懸濁物を得ることができる。
【0020】
次に、第1酸性化工程(c)は、油層分離後の懸濁物に酸を添加する工程である。pHを低くし、乳酸菌等の有用な微生物の発酵に最適な条件とする。添加する酸は、具体的にはリン酸や乳酸が挙げられ、好ましくはリン酸である。リン酸は、植物の栄養となるためである。
【0021】
油層分離後の懸濁物の水層及び固形層(沈殿層)のpHは6~7であることが多いため、酸を添加して、pHを4~5とする。この際、非沸騰状態に加温して酸を添加することが好ましい。低温殺菌を行い、乳酸菌等の有用な微生物の選択的な発酵を促すためである。すなわち、第1酸性化工程(b)は、油層分離後の懸濁物を非沸騰状態で加温し、酸を添加する工程であり得る。
【0022】
さらに、発酵工程(c)は、酸を添加した懸濁物に含まれる微生物を発酵させ、発酵物を得る工程である。発酵期間は、十分な発酵がなされれば良く、温度によっても変わるため限定されないが、3日から90日であり、好ましくは10日から30日である。発酵工程により固形層の分解が促進されると共に、γ-アミノ酪酸や、オーキシン、遊離アミノ酸等、肥料として有用な物質が産出される。
【0023】
第2酸性化工程(d)は、発酵物を加温し、さらに酸を添加する工程である。固形層の分解をさらに促進し、固形物をほとんど含有せず、清澄な液体状の組成物が得られる。当該組成物は、液体肥料として使用され、特に柑橘類の生育に最適である。本工程で得られる液体状の組成物は褐色を帯びることが好ましい。
【0024】
好ましくは、発酵物を加温して沸騰状態とし、沸騰状態の発酵物に酸を添加することが好ましい。酸を添加して、水産加工残渣のpHを3以下とする。好ましくは、酸添加後の水産加工残渣のpHは2.3~2.5である。添加する酸は、具体的にはリン酸や乳酸が挙げられ、リン酸であることが好ましい。
【0025】
本工程により得られた液体状の組成物には、遊離アミノ酸が多く含まれ、グルタミン酸、アスパラギン酸やアラニン等、甘味や酸味を感じる物質の含有率が高い。好ましくは、アスパラギン酸の含有率は0.4重量%~0.5重量%であり、アラニンの含有率は0.6重量%~0.9重量%である。また、γ-アミノ酪酸や、オーキシン等の植物の成長を促すホルモン、カルシウムやマグネシウム等の微量元素も含有する。
【0026】
さらに、本発明は、上述の製造方法によって製造された容器入りの液体肥料を提供する。すなわち、少なくとも魚類を原料とする容器入り液体肥料であって、魚類を加熱し、懸濁物を得、 懸濁物から生成された油層を分離し、油層分離後の懸濁物に、酸を添加し、酸を添加した懸濁物に含まれる微生物を発酵させ、発酵物を得、発酵物を加温し、さらに酸を添加して得られた液体が容器に充填されたことを特徴とする容器入り液体肥料である。
【0027】
液体肥料を収容する容器はユーザが使い易い容量であればよく、具体的には1L~20Lの容器に入れることが望ましい。また、液体は、清澄で、褐色を帯びることが望ましい。また、液体は、γ-アミノ酪酸や遊離アミノ酸等、肥料として有用な物質を多く含有する。さらに、液体は、オーキシン等の植物の成長を促すホルモンや、カルシウムやマグネシウム等の微量元素も含有する。
【実施例】
【0028】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0029】
魚肉練り製品の加工残渣を原料として液体肥料を製造した。まず、分離槽に収容した加工残渣を蒸気で加熱して懸濁物を得、24時間放置して油層、水層、及び固形層を得た。分離槽の下部に設けられた排水口から、水層及び固形層を発酵槽に移した。発酵槽では、水層及び固形層を50℃に加温し、50容量%リン酸液を添加した。リン酸添加後の水
層及び固形層を一部抜き取り、その外観を撮影した。得られた写真を
図2に示す。pH試験紙で水層のpHを測定したところ、pHは5であった。
【0030】
さらに、発酵槽においてリン酸を添加した水層及び固形層を2週間発酵させた。発酵終了後、加温して沸騰させながら、再び50容量%リン酸液を添加して、pHを3以下とした。得られた液体状組成物を一部抜き取り、その外観を撮影した。
図3に写真を示す通り、清澄且つ褐色であり、固形物をほとんど含んでいなかった。液体状組成物を樹脂製の容器に入れ、液体肥料が得られた。
【0031】
本実施例で製造された液体肥料を用いてミカンの栽培を行った。栽培されたミカンに含有される遊離アミノ酸を高速液体クロマトグラフ法により分析した結果を表1に示す。本実施例で製造された液体肥料を用いて栽培されたミカンは、酸味に関するアスパラギン酸や、旨味に関するセリンやグルタミン酸、甘味に関するアラニンの含有率が高く、苦味に関するアルギニンの含有率が低かったことから、高品質のミカンが栽培できることがわかった。
【0032】