IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】C-5ステロール不飽和化の最適化
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20240228BHJP
   C12P 33/02 20060101ALI20240228BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20240228BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C12N1/19
C12P33/02 A
C12N9/02
C12N15/53 ZNA
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020557249
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 EP2019063079
(87)【国際公開番号】W WO2019224189
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】00629/18
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
【住所又は居所原語表記】Het Overloon 1, NL-6411 TE Heerlen,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ファレル, クリストファー, マーク
(72)【発明者】
【氏名】ラプラード, リサ, アン
(72)【発明者】
【氏名】レーマン, オットー, マーティン
(72)【発明者】
【氏名】トゥルーハート, ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】シュブルー, バスティアン, ジーン, ウルフギャング
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】China Biotechnology,2016年,Vol. 36, No. 6,p. 39-50
【文献】Database GenPept, Accession XP_002490491, [online],2017年,[2023年5月11日検索], インターネット<URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/254566761?sat=518&satkey=84754302>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12P 33/00 - 33/20
C12N 1/00 - 1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7-デヒドロコレステロール(7-DHC)の生成のための適切な宿主細胞において異種発現される、配列番号2によるポリペプチドと少なくとも90%の同一性を有するC5-ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵素を含むコレステロール産生酵母細胞であって、ラノステロール及び/又はラトステロールを含む副産物に対する7-DHCの比は、非修飾宿主細胞と比較して少なくとも5%だけ増加される、コレステロール産生酵母細胞。
【請求項2】
C5-ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵素を含み及び発現する、ステロールの総量に基づいて少なくとも84%の7-DHCを含むステロールミックスを産生する、請求項1に記載のコレステロール産生酵母細胞。
【請求項3】
コレスタ-7-エノール及び/又はラノステロールに対する7-DHCの比は、18又はそれを超える範囲である、請求項1又は2に記載のコレステロール産生酵母細胞。
【請求項4】
コレスタ-7-エノール及び/又はラノステロールに対する7-DHCの比は、少なくとも5%だけ増加される、請求項1又は2に記載のコレステロール産生酵母細胞。
【請求項5】
ERG5及びERG6は、不活化されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のコレステロール産生酵母細胞。
【請求項6】
ステロールΔ24-レダクターゼ活性を有するEC1.3.1.72から選択される異種酵素を発現する、請求項1~5のいずれか一項に記載のコレステロール産生酵母細胞。
【請求項7】
C8-イソメラーゼ活性を有する異種酵素を発現する、請求項1~6のいずれか一項に記載のコレステロール産生酵母細胞。
【請求項8】
酵母細胞によって産生されるステロールミックス中のコレスタ-7-エノール及び/又はラノステロールの量を低減するプロセスであって、C5-ステロールデサチュラーゼ活性を有する異種酵素を発現する工程を含み、前記酵素は、配列番号2によるポリペプチドと少なくとも90%の同一性を有する、プロセス。
【請求項9】
酵母細胞において、少なくとも84%の7-DHCを有するステロールミックスを生成するプロセスであって、
(a)ERG5及びERG6を不活化する工程、
(b)コレスタ-7,24-ジエノール、チモステロール又はトリエノールに対するステロールΔ24-レダクターゼ活性を有するEC1.3.1.72から選択される異種酵素を発現する工程、
(c)C5-ステロールデサチュラーゼ活性を有する異種酵素を発現する工程であって、前記酵素は、配列番号2によるポリペプチドと少なくとも90%の同一性を有する、工程、
(d)ステロール産生に適切な条件下で前記酵母細胞を培養する工程であって、ステロールミックス中に存在するコレスタ-7-エノール及び/又はラノステロールに対する7-DHCの比は、17.2を超える、工程
を含むプロセス。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ビタミンD3又はその誘導体/代謝産物の生物工学的生成に対する重要な中間体である7-デヒドロコレステロール(7-DHC)を生成するための改善された方法に関する。本発明は、改善されたC-5ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵素を発現する修飾宿主株並びにビタミンD3又はその誘導体及び/若しくは代謝産物を生成するプロセスにおけるその使用を特徴とする。
【0002】
ビタミンD3(コレカルシフェロール又はカルシオールとしても知られる)は、哺乳動物の皮膚においてプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール又は7-DHCとしても知られる)から合成され得、それは、コレステロール生合成の産物であり、紫外線に曝露されると、7-DHCは、プロビタミンD3に光化学的に変換され、体温において生物活性型ビタミンD3に異性化する。肝臓において、ビタミンD3は、生物学的に不活性な25-ヒドロキシビタミンD3(カルシジオール、カルシフェジオール、25-ヒドロキシコレカルシフェロール、25-OH-D3又はHyDとしても知られる)に変換され、それは、ビタミンD3の主要な循環形である。更なるヒドロキシル化が腎臓内で生じる。
【0003】
ビタミンD3の工業的製造について、化学合成及び生物工学的合成のいずれも(原則的に)利用可能である。化学合成は、例えば、羊毛脂から単離されたコレステロールから開始され、それは、化学合成及び生物工学的合成のいずれでも重要な中間体である7-DHCに脱水素される。紫外線による曝露及び更なる精製/抽出工程により、7-DHCは、ビタミンD3に変換される。修飾酵母株を7-DHCの生合成に使用することができ、多段階酵素的プロセスにおいてアセチル-CoAが7-DHCに変換される。前記酵素的変換は、酵母の小胞体内で行われる。細胞膜で必要とされない、7-DHC及びその前駆物質などの過剰量のステロールは、酵母に対して毒性であり、したがって細胞小器官内にステリルエステル(いわゆる脂肪滴)として貯蔵され、細胞小器官からそれを更に単離することができる。遊離ステロールと脂肪滴に貯蔵されるステロール(主にステリルエステルの形態における)との平衡状態は、ステロールアシルトランスフェラーゼの作用など、数種類のタンパク質(酵素)の作用を介して誘発される。
【0004】
前記ステロールアシルトランスフェラーゼ酵素の非特異的作用のため、脂肪滴内に貯蔵されているステリルエステルプールは、比較的多様であり、限定されないが、例えばエルゴステロール、チモステロール、ラノステロール、ラトステロール、コレスタ-5,7,24(25)-トリエノール、コレスタ-8-エノール又は7-DHCのエステルなどが挙げられる。7-DHCのみがビタミンD3に更に処理され得る。
【0005】
したがって、7-DHCに対する高い生産性/特異性を有し、且つ/又は副産物/中間体、例えばチモステロール、ラノステロール又はラトステロール、特に脂肪滴内に貯蔵される、かかる中間体のエステルの蓄積が低減された、ステロールを生成することができる酵母などの宿主細胞を生成することが継続的な課題である。
【0006】
意外なことに、本発明者らは、ここで、宿主細胞における7-DHCの生産性、特にコレスタ-7-エノール及び/又はラトステロールに対する7-DHCの比が、宿主細胞内のC-5ステロールデサチュラーゼ活性の修飾、すなわちC-5ステロールデサチュラーゼ活性を有する異種酵素の発現により、7-DHCに対してシフトすることができ、それによりビタミンD3生成における重要な中間体としての7-DHCに対する宿主細胞の生産性が高くなることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、7-DHCを生成するプロセスにおけるC-5ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵素の使用であって、配列番号2と少なくとも45%、例えば少なくとも50、52、60、70、80、90、92、95、98又は100%までなどの同一性を有する前記ポリペプチドは、7-DHCの生成のための適切な宿主細胞において(異種)発現され、ラノステロール及び/又はラトステロールなどの副産物に対する7-DHCの比は、非修飾宿主細胞と比較して少なくとも5%だけ増加される、使用に関する。
【0008】
C-5ステロールデサチュラーゼ活性を示す、配列番号2によるポリペプチドであって、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むポリペプチドがピキア・パストリス(Pichia pastoris)から単離されている。
【0009】
「C-5ステロールデサチュラーゼ」、「C-5ステロールデサチュラーゼを有する酵素」、「デサチュラーゼ」又は「ERG3ホモログ」は、本明細書において区別なく使用され、コレスタ-7,24-ジエノールへのコレスタ-8-エノールの変換並びに/又はコレスタ-5,7,24-トリエノール及び/若しくは7-DHCへのコレスタ-7-エノールの変換を触媒することができる酵素を意味する。本明細書で定義される酵素は、かかるポリペプチドをコードするポリペプチドなど、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)のホモログERG3(配列番号8)である。
【0010】
例えば、7-DHCに対するコレスタ-7-エノール及び/又はコレスタ-5,7,24-トリエノールに対するコレスタ-7,24-ジエノールの酵素触媒作用と関連する「変換」、「酵素的変換」又は「不飽和化」という用語は、本明細書において区別なく使用され、本明細書で定義され、且つ当技術分野で公知のC-5ステロールデサチュラーゼの作用を意味する。
【0011】
デサチュラーゼは、単離状態で(例えば、無細胞システムで)使用され得るか、又は適切な宿主細胞において異種酵素若しくは内因性酵素のエクストラコピーとして導入及び発現され得る。したがって、適切な宿主細胞は、本明細書で定義されるデサチュラーゼ酵素の1つ、2つ又はそれを超えるコピーを発現し、それによりコレスタ-7-エノール及び/又はラノステロールと比較して7-DHCが増加し、且つ/又は7-DHCの比が向上する。前記宿主細胞は、本明細書において、遺伝子修飾された宿主細胞と呼ばれる。本明細書で言及される遺伝子非修飾又は非修飾宿主細胞は、内因性ERG3遺伝子によって発現される内因性C-5ステロールデサチュラーゼ活性のみを保有するそれぞれの宿主細胞である。
【0012】
本明細書で使用される、ビタミンD3中間体を特定化する「チモステロール」、「ラノステロール」、「ラトステロール」、「コレスタ-5,8,24(25)-トリエノール」、「コレスタ-5,7,24(25)-トリエノール」又は「7-DHC」という用語は、前記化合物の遊離型及びエステル型の両方を含む。本明細書で使用されるステロールミックスは、7-DHC及び「副産物」又は中間体、限定されないが、チモステロール、ラノステロール、ラトステロール、コレスタ-8-エノール、コレスタ-5,8,24(25)-トリエノール若しくはコレスタ-5,7,24(25)-トリエノールを含有する。
【0013】
本明細書で使用される「コレステロール産生酵母」は、もはやエルゴステロールを産生することはできないが、限定されないが、コレスタ-5,7,24(25)-トリエノール、コレスタ-5,8,24(25)-トリエノール、コレスタ-7,24(25)-ジエノール、コレスタ-8-エノール、7-DHC又はチモステロールを含むコレステロール生成物を産生することができる。特に、これは、erg5erg6ダブルノックアウトの導入によって達成され得る。
【0014】
本明細書で定義される適切なデサチュラーゼは、例えば、植物、ヒトなどの動物、藻類、酵母などの菌類又は細菌などの様々な起源から、好ましくは特にサッカロミセス属(Saccharomyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)、クルイベロミセス属(Klyveromyces)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、ピキア属(Pichia)、カンジダ属(Candida)、ペニシリウム属(Penicillium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、クリプトコックス属(Cryptococcus)、マグネポルテ(Magneporte)、メタリジウム属(Metarhizium)及び黒穂菌属(Ustilago)からなる群から選択される菌類から、より好ましくはS.セレビジエ(S.cerevisiae)、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)、K.ラクティス(K.lactis)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、P.パストリス(P.pastoris)、C.アルビカンス(C.albicans)、P.ロックフォルティ(P.roqueforti)、A.ニデュランス(A.nidulans)、C.ネオフォルマンス(C.neoformans)又はトウモロコシ黒穂病菌(U.maydis)から、最も好ましくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)から入手可能であり得る。
【0015】
好ましい実施形態において、C-5ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵素は、ピキア(Pichia)、特にピキア・パストリス(Pichiapastoris)、例えば配列番号1によるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質などから入手可能であり、より好ましくは、前記タンパク質は、配列番号2によるポリペプチドである。
【0016】
更なる実施形態において、C-5ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵素は、ペニシリウム属(Penicillium)、特にペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、例えば配列番号3によるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質などから入手可能であり、より好ましくは、前記タンパク質は、配列番号4によるポリペプチドである。
【0017】
一実施形態において、C-5ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵素は、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、特にシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、例えば配列番号5によるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質などから入手可能であり、より好ましくは、前記タンパク質は、配列番号6によるポリペプチドである。
【0018】
他の実施形態において、C-5ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵素は、サッカロミセス属(Saccharomyces)、特にサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、例えば配列番号7によるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質などから入手可能であり、より好ましくは、前記タンパク質は、UniProtKB P32352に由来する配列番号8によるポリペプチドであり、前記酵素は、宿主としてS.セレビジエ(S.cerevisiae)を使用した場合、追加的に且つ/又は内因性ERG3の代わりに発現される。
【0019】
本明細書に開示される配列、並びにステロールミックス中の7-DHCの蓄積、並びに/又はコレスタ-7-エノール及び/若しくはラトステロールの低減の向上、すなわちステロールミックス中に存在する7-DHCが少なくとも84%、例えば85、90、92、95、97又は100%などになることに基づき、本明細書で定義されるC-5ステロールデサチュラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする更に適切な遺伝子を容易に推定することができ、本明細書に定義されるC-5ステロール、特にコレスタ-7-エノール及びコレスタ-7,24-ジエノールの不飽和化にそれを使用することができる。したがって、本発明は、新規なデサチュラーゼを同定する方法であって、配列番号8によるポリペプチドと少なくとも44%、例えば48、50、52、60、70、80、90、92、95、98%又は100%までなどの同一性を有するポリペプチドは、新規なC-5ステロールデサチュラーゼのスクリーニングプロセスでプローブとして使用され、コレスタ-7-エノール及び/又はラトステロールと比べて7-DHCの生成に好ましく、適切な宿主株によって産生されるステロールミックス中の7-DHCは、少なくとも約84%となる、方法に関する。デサチュラーゼの作用により、生成されるステロールの総量に基づいてステロールミックス中の7-DHCが少なくとも約84%となり、且つ/又はコレスタ-7-エノール及び/若しくはラトステロールに対する7-DHCの比が増加する限り、C-5ステロールデサチュラーゼ活性を有し、且つ本明細書に記載のいずれかのポリペプチドが7-DHCの生成に使用され得る。
【0020】
本発明は、特に、7-DHCを生成するプロセスにおける、かかる新規なデサチュラーゼ酵素、特に異種酵素の使用であって、コレスタ-7-エノール、チモステロール、コレスタ-8-エノール又はラトステロールを含むステロールミックス中の副産物の産生は、本明細書に記載の前記デサチュラーゼの作用により、ステロールの総量に基づいて約16%以下、例えば15、12、10、8、5、3%以下に低減され、特に7-DHCの量に対してコレスタ-7-エノール及び/又はラトステロールのパーセンテージが低減される、使用に関する。このプロセスは、前記異種デサチュラーゼを発現する適切なコレステロール産生酵母細胞で実施され得、好ましくは前記酵素をコードする遺伝子が異種発現され、すなわち前記宿主細胞に導入される。(既知の)適切な化学的又は生物工学的メカニズムの作用により、7-DHCは、ビタミンD3に更に変換される。宿主細胞中で発現されるERG3ホモログのコピー数が1を超えて増加すると、副産物のパーセンテージを更に低減することができる。
【0021】
「配列同一性」、「同一性%」という用語は、本明細書において区別なく使用される。本発明の目的では、2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列の配列同一性のパーセンテージを決定するために、最適な比較のために配列がアライメントされることが本明細書において定義される。2つの配列間のアライメントを最適化するために、比較される2つの配列のいずれかにギャップが導入され得る。かかるアライメントは、比較される配列の完全長をわたって行うことができる。代わりに、アライメントは、より短い長さにわたり、例えば約20、約50、約100以上の核酸/塩基又はアミノ酸にわたり行われ得る。配列同一性は、報告されるアライメント領域にわたる2つの配列間の同一マッチのパーセンテージである。2つのアミノ酸配列間又は2つのヌクレオチド配列間の配列同一性%は、2つの配列のアライメントのためのNeedleman及びWunschアルゴリズム(Needleman,S.B.and Wunsch,C.D.(1970)J.Mol.Biol.48,443-453)を用いて決定され得る。アミノ酸配列とヌクレオチド配列とのいずれもアルゴリズムによってアライメントすることができる。Needleman-Wunschアルゴリズムは、コンピュータープログラムNEEDLEにおいて実現されている。本発明の目的では、EMBOSSパッケージからのNEEDLEプログラムが使用された(バージョン2.8.0以上、EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite(2000)Rice,Longden and Bleasby,Trends in Genetics 16,(6)pp276-277,http://emboss.bioinformatics.nl/)。タンパク質の配列に関して、置換行列にEBLOSUM62が使用される。ヌクレオチド配列について、EDNAFULLが使用される。使用される任意のパラメーターは、ギャップオープンペナルティ10及びギャップ伸長ペナルティ0.5である。これらの異なるすべてのパラメーターによってわずかに異なる結果が生じるが、2つの配列の同一性の全体的なパーセンテージは、異なるアルゴリズムを使用した場合に有意に変化しないことを当業者は理解するであろう。
【0022】
上述のNEEDLEプログラムによってアライメントした後、問い合わせ配列と本発明の配列との配列同一性のパーセンテージが以下の通りに計算される:両方の配列における同一アミノ酸又は同一ヌクレオチドを示すアライメントの対応する位置の数は、アライメントにおけるギャップの総数を引いた後にアライメントの全長で割られる。本明細書で定義される同一性は、NOBRIEFオプションを使用することによってNEEDLEから得られ、「最長の同一性」としてプログラムのアウトプットで標識される。比較される両方のアミノ酸配列がそれらのアミノ酸のいずれにおいても違いがない場合、それらは、同一であるか又は100%の同一性を有する。本明細書において定義される植物に由来する酵素に関して、植物由来酵素は、例えば、葉緑体処理酵素(CPE)などの特異的酵素によって切断される、葉緑体標的シグナルを含有し得るという事実が当業者によって認識される。
【0023】
本明細書で定義されるERG3酵素/ホモログは、酵素活性を変化させないアミノ酸置換を保持する酵素も包含し、すなわち、その酵素は、野生型酵素に関して同じ特性を示し、C-5ステロールの不飽和化を触媒し、それによってステロールミックス中の7-DHCのパーセンテージが少なくとも約84%となる(7-DHCに対してコレスタ-7-エノール及び/又はラトステロールが減少する)。かかる変異は、「サイレント変異」とも呼ばれ、本明細書に記載の酵素の(酵素的)活性を変化させない。
【0024】
宿主細胞に応じて、C-5ステロール不飽和化に関与する、本明細書で定義されるポリヌクレオチドは、それぞれの宿主細胞における発現に対して最適化され得る。かかる修飾ポリヌクレオチドをどのように作製するかは、当業者に公知である。本明細書で定義されるポリヌクレオチドは、本明細書で定義されるそれぞれの活性を有するポリペプチドを依然として発現する限り、かかる宿主最適化核酸分子も包含する。例えば、配列番号9、10及び11にかかる宿主最適化ERG3ホモログの例を示す。
【0025】
したがって、一実施形態において、本発明は、宿主細胞の増殖若しくは発現パターン又は酵素に対して影響を及ぼさず、前記宿主細胞における発現に対して最適化される、本明細書で定義される(異種)ERG3ホモログをコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞に関する。特に、酵母、例えばコレステロール産生酵母細胞は、サッカロミセス属(Saccharomyces)、例えばサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)などから選択され、本明細書で定義されるERG3酵素をコードするポリヌクレオチドの1つ、2つ又はそれを超えるコピーは、配列番号9と少なくとも53%、例えば少なくとも58、60、70、80、90、92、95、98%又は100%までなどの同一性を有するポリヌクレオチド、例えば配列番号9、10又は11によるポリペプチドなどから選択される。
【0026】
本発明による核酸分子は、本発明によって提供される核酸配列の一部又は断片のみ、例えば配列番号1、3、5、7、9、10又は11で示される配列、例えばプローブ若しくはプライマーとして使用され得る断片又は本明細書で定義されるERG3ホモログの一部をコードする断片などを含み得る。プローブ/プライマーは、通常、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含み、それは、通常、好ましくは高度にストリンジェントな条件下において、配列番号1、3、5、7、9、10若しくは11によるヌクレオチド配列又はその断片若しくは誘導体の、少なくとも約12又は15、好ましくは約18又は20、より好ましくは約22又は25、更により好ましくは約30、35、40、45、50、55、60、65又は75個以上の連続ヌクレオチドとハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を含む。
【0027】
かかるハイブリダイゼーション条件の非限定的な好ましい例は、約45℃の6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でのハイブリダイゼーションに続き、50℃、好ましくは55℃、より好ましくは60℃、更により好ましくは65℃において1×SSC、0.1% SDS中で1回又は複数回洗浄することである。
【0028】
高度にストリンジェントな条件は、例えば、サケ精子DNA100pg/mlを含むか若しくは含まないDigEasyHyb溶液(ロシュ・ダイアグノスティックス社(Roche Diagnostics GmbH))などの溶液中又は50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、0.02%ドデシル硫酸ナトリウム、0.1%N-ラウロイルザルコシン及び2%ブロッキング剤(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を含む溶液中において、ジゴキシゲニン(DIG)標識DNAプローブ(DIG標識システム;ロシュ・ダイアグノスティックス社,68298 Mannheim,ドイツ(Germany)を使用して製造された)を使用して、42℃で2時間~4日間インキュベートし、続いて室温において2×SSC及び0.1%SDS中でフィルターを2回5~15分間洗浄し、次いで0.5×SSC及び0.1%SDS又は0.1×SSC及び0.1%SDS中で65~68℃において2回、15~30分間洗浄することを含む。
【0029】
本発明は、特に、7-DHC、ビタミンD3の中間体を生成するプロセスにおける、本明細書で定義されるC-5ステロールデサチュラーゼ活性を有する異種酵素の使用に関する。好ましくは、本発明の修飾酵素は、酵母、特にコレステロール産生酵母細胞、例えばサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces spp.)、ピキア属(Pichia spp.)、クルイウェロミセス属(Klyuveromyces spp.)、ハンゼヌラ属(Hansenula spp.)又はヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、好ましくはS.セレビジエ(S.cerevisiae)から選択される酵母など、適切な宿主細胞に導入され、且つ/又は発現される。修飾宿主は、ビタミンD3及び/又は25-ヒドロキシビタミンD3に更に変換され得る7-DHCを生成するために使用される。
【0030】
適切な宿主細胞を更に修飾して、ビタミンD3の生合成に対する重要な中間体である7-DHCの生成が更に増加され、且つ/又は副産物の蓄積が低減され得る。
【0031】
したがって、一実施形態において、本発明は、修飾C-5ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵母株に関し、更に、ERG5及びERG6は、不活化されている。酵母細胞は、前記酵母細胞内で発現することができる限り、コレスタ-7,24-ジエノール、チモステロール又はトリエノール(例えば、コレスタ-5,7,25-トリエノール)上で活性である異種C24-レダクターゼ、好ましくは植物又は脊椎動物ステロールΔ24-レダクターゼ、より好ましくは脊椎動物由来のレダクターゼ、更により好ましくはヒト、ブタ、イヌ、マウス、ラット、ウマ、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)又は既知のいずれかの源由来のレダクターゼなど、EC1.3.1.72から更に特に選択される、C24-レダクターゼ活性を有する異種酵素の発現によって修飾され得る。最も好ましくは、ステロールΔ24-レダクターゼは、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、ラット又はヒトから選択される。前記ステロールΔ24-レダクターゼ酵素を発現する配列は、公的に入手可能であり、限定されないが、UniProtKB/Swiss-Prot参照番号Q15392、Q60HC5、Q8VCH6、Q5BQE6、Q39085又はP93472(例えば、国際公開第2003064650号パンフレット)が挙げられる。
【0032】
他の実施形態において、本発明による宿主細胞は、例えば、C8-ステロールイソメラーゼ(ERG2)など、7-DHCの生合成に関与する内因性酵素のホモログの導入によって更に修飾され得、その結果、7-DHCの特異性及び/又は生産性が増加すると共に、限定されないが、チモステロール、ラノステロール及び/若しくはラトステロールなどの副産物又はビタミンD3中間体の蓄積が低減される。好ましくは、本明細書で定義される修飾宿主細胞は、異種ERG2を含み、ERG2は、好ましくは、トウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)(例えば、UniProtKB P32360に由来するポリペプチドなど)から選択される。
【0033】
更なる実施形態において、本発明による宿主細胞は、ステロールアシルトランスフェラーゼ活性、特にステロールアシルトランスフェラーゼアイソフォームAre1p及び/又はAre2pの活性において更に修飾され得、配列番号12によるポリペプチドにおける592及び/又は595から選択される残基に対応する位置での1つ又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0034】
したがって、本発明は、特定の実施形態において、ステロール、特に7-DHCを生成するプロセスにおいて使用される修飾酵母株であって、ERG5及びERG6は、不活化されており、任意選択的に、本明細書で定義されるC24-レダクターゼ活性を有する異種酵素を発現し、本明細書に記載のERG3ホモログを発現する、修飾酵母株に関する。かかる酵母株を使用すると、ステロールミックス中に存在する7-DHCのパーセンテージがステロールの総量に基づいて約84%以上、好ましくは例えば85、90、92、95、97又は100%の範囲である。
【0035】
特定の実施形態において、本発明は、7-DHCの生成に関して酵母細胞を改善するプロセスであって、その細胞は、例えば、本明細書で定義されるデサチュラーゼ酵素の1、2又はそれを超えるコピーを導入することにより、本明細書で定義される修飾宿主細胞、すなわち本明細書で定義されるERG3ホモログを発現する細胞、特にコレステロール産生酵母細胞、好ましくはERG5及びERG6が不活化されており、且つ任意選択的に、本明細書で定義されるC-24-レダクターゼ活性を有する異種酵素が発現され、且つ/又はARE1及び/若しくはARE2が本明細書に記載のように修飾され、且つ/又は任意選択的に、ERG2のホモログが発現される、酵母細胞であり、宿主細胞は、前記宿主細胞によって産生されるステロールの総量中の7-DHCのパーセンテージが、本明細書で定義される非修飾酵母株、すなわち野生型(内因性)ERG3活性のみを発現する酵母株と比較して少なくとも約84%だけ増加され、特にコレスタ-8-エノールを含む副産物に対する7-DHCの比が少なくとも2%だけ増加されるように改善される、プロセスに関する。
【0036】
特定の実施形態において、本発明は、7-DHCの生成に関して酵母細胞を改善するプロセスであって、その細胞は、特に、ERG5及びERG6が不活化されている酵母細胞などのコレステロール産生酵母細胞であり、且つ任意選択的に、本明細書で定義されるC-24-レダクターゼ活性を有する異種酵素が発現され、前記酵母細胞は、例えば、本明細書で定義されるデサチュラーゼ酵素の1つ、2つ又はそれを超えるコピーを導入することにより、本明細書で定義されるERG3ホモログを発現し、酵母細胞は、前記酵母によって産生されるステロールの総量中の7-DHCのパーセンテージが、ステロールの総量に基づいて且つ野生型(内因性)ERG3活性を発現する非修飾酵母株と比較して約81%以下から、少なくとも約84%、例えば85、90、92、95、97又は100%まで増加され、且つコレスタ-7-エノール、ラトステロール、及び/又はコレスタ-8-エノール、及び/又はチモステロールを含むステロールミックス中の副産物のパーセンテージがステロールの総量に基づいて約16%以下に低減され、すなわちコレスタ-7-エノール、ラトステロール、及び/又はコレスタ-8-エノール、及び/又はチモステロールが少なくとも約16%の範囲で低減されるように改善される、プロセスに関する。
【0037】
一実施形態において、本発明は、コレステロール産生酵母細胞における、7-DHCと、コレスタ-7-エノール(ラトステロール)及び/又はラノステロールのミックスとのステロールミックスを生成するプロセスであって、7-DHCのパーセンテージは、ラノ-/ラトステロールのパーセンテージと比較して、ステロールの総量に基づいて少なくとも約2%、例えば3、4、5、10、15、20、30、40%だけ増加され、前記コレステロール産生酵母細胞は、本明細書で定義される(異種)デサチュラーゼ、すなわち配列番号2と少なくとも45%、例えば少なくとも50、52、60、70、80、90、92、95、98又は100%までなどの同一性を有するポリペプチドを発現し、より好ましくは本明細書で定義されるそれぞれのコドン最適化ポリヌクレオチドによって発現され、例えば好ましくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、又はシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、又はサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、特にピキア・パストリス(Pichia pastoris)から入手可能である、プロセスに関する。
【0038】
一実施形態において、本発明は、コレステロール産生酵母細胞における、7-DHC及びコレスタ-8-エノールを含むステロールミックスを生成するプロセスであって、ステロールの総量に基づいて、コレスタ-8-エノールに対する7-DHCの比は、例えば、3、4、5又は少なくとも約10%など、少なくとも約2%だけ増加され、前記コレステロール産生酵母細胞は、本明細書で定義される(異種)デサチュラーゼ、すなわち配列番号2と少なくとも約45%、例えば少なくとも50、52、60、70、80、90、92、95、98又は100%までなどの同一性を有するポリペプチドを発現し、より好ましくは本明細書で定義されるそれぞれのコドン最適化ポリヌクレオチドによって発現され、例えば好ましくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)から入手可能である、プロセスに関する。
【0039】
一実施形態において、本発明は、コレステロール産生酵母細胞における、7-DHC及びチモステロールを含むステロールミックスを生成するプロセスであって、7-DHCのパーセンテージは、チモステロールのパーセンテージと比較して、ステロールの総量に基づいて例えば3、4、5又は少なくとも約10%など、少なくとも約2%だけ増加され、前記コレステロール産生酵母細胞は、本明細書で定義される(異種)デサチュラーゼ、すなわち配列番号2と少なくとも45%、例えば少なくとも50、52、60、70、80、90、92、95、98又は100%までなどの同一性を有するポリペプチドを発現し、より好ましくは本明細書で定義されるそれぞれのコドン最適化ポリヌクレオチドによって発現され、例えば好ましくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)から入手可能である、プロセスに関する。
【0040】
特定の実施形態において、本発明は、コレステロール産生酵母細胞における、7-DHC、チモステロール、コレスタ-8-エノール、ラノステロール及び/又はラトステロールを含むステロールミックスを生成するプロセスであって、7-DHCのパーセンテージは、ステロールミックス中の前記副産物のパーセンテージと比較して、例えば4、5、7、10、15%又はそれを超えるなど、少なくとも約2%だけ増加され、前記コレステロール産生酵母細胞は、本明細書で定義される(異種)デサチュラーゼ、すなわち配列番号2と少なくとも約45%、例えば少なくとも50、52、60、70、80、90、92、95、98又は100%までなどの同一性を有するポリペプチドを発現し、より好ましくは本明細書で定義されるそれぞれのコドン最適化ポリヌクレオチドによって発現され、例えば好ましくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)から入手可能である、プロセスに関する。
【0041】
本明細書で使用される、ステロールミックス内の7-DHCのパーセンテージ増加は、例えば、ERG3によって発現される、内因性C-5ステロールデサチュラーゼのみを発現する宿主細胞と比較した、本明細書で定義されるデサチュラーゼ活性を有する異種ポリペプチドを発現する宿主細胞によって産生された7-DHCの量として定義される。ステロール生成プロセスにおいて、前記宿主細胞、例えば酵母、特にコレステロール産生酵母細胞を使用した場合、前記宿主細胞によって産生されるステロールの総量に基づいて少なくとも約84%に7-DHCのパーセンテージを増加させることができる。本明細書で使用される「ERG3ホモログの発現」は、ERG3ポリペプチドのエクストラコピーの発現、すなわち内因性ERG3のエクストラコピーなど、ERG3の2つ以上のコピーの発現を含む。
【0042】
特定の実施形態において、本発明は、ステロールミックスを生成するプロセスであって、上述の酵母細胞が使用され、且つ前記ステロールミックス中に存在するコレスタ-8-エノール、及び/又はチモステロール、及び/又はラノステロール、及び/又はラトステロールのパーセンテージが低減される、すなわちステロールの総量に基づいて約16%以下の範囲であり、すなわちステロールミックス中の7-DHCの比が高くなる、プロセスに関する。
【0043】
本明細書で定義されるERG3ホモログ並びにビタミンD3前駆物質及び/又は中間体の生合成に必要な更なる遺伝子を発現することができる修飾宿主細胞は、ビタミンD3前駆物質7-DHCを生成するプロセスで使用される。それぞれのコレステロール産生宿主細胞に関して、好気性又は無気的条件下において且つ当業者に公知のように、適切な栄養で補われた水性媒体中で修飾宿主細胞が培養され得る。任意選択的に、かかる培養は、当技術分野で公知のように、タンパク質及び/又は電子の移行に関与する補因子の存在下にある。宿主細胞の培養/増殖は、バッチ、フェドバッチ、半連続又は連続式で行われ得る。宿主細胞に応じて、好ましくは、ビタミンD3及び7-DHCなどのその前駆物質の生成は、当業者に公知であるように様々であり得る。ビタミンD3の生成における7-DHC及び他の中間体の培養及び単離は、例えば、国際公開第2011067144号パンフレット又は国際公開第2017108799号パンフレットに記載されている。
【0044】
本明細書に記載の宿主細胞を用いて、C-5ステロールデサチュラーゼ活性の生産性/特異性を7-DHCに対してシフトすることができ、それにより、前記宿主細胞によって産生された総ステロール中の7-DHCの比が少なくとも約84%となり、適切な培養条件下において約110時間発酵させた後に産生される7-DHCの力価が約10g/lまでとなる。
【0045】
「ERG5」及び「Erg5p」、「ERG6」及び「Erg6p」という用語は、本明細書において区別なく使用され、それぞれの遺伝子erg3、erg5及びerg6によってコードされるポリペプチドを意味する。
【0046】
ERG5、ERG6、ERG3、ARE1、ARE2又はステロールΔ24-レダクターゼ(ERG4)をコードする遺伝子、本明細書において使用される酵母細胞の培養及び遺伝子操作は、公知であり、例えば米国特許第7608421号明細書に記載されている。
【0047】
本明細書で使用される「C-24-レダクターゼ」又は「Δ24-レダクターゼ」は、本明細書において区別なく使用される。酵母において、この酵素は、erg4によってコードされ、位置24の炭素原子のメチル基に対して活性である。したがって、前記位置でかかるメチル基を示さないトリエノールは、酵母ERG4に対して許容可能な基質ではない。
【0048】
「C-8ステロールイソメラーゼ」、「C-8ステロールイソメラーゼ活性を有する酵素」は、本明細書において区別なく使用され、コレスタ-7-エノールへのコレスタ-8-エノールの変換及び/又はコレスタ-7,24-ジエノールへのチモステロールの変換を触媒することができる酵素を意味する。酵母において、この酵素は、erg2によってコードされる。本発明による修飾宿主細胞において使用される好ましいERG2ホモログは、C-8ステロールイソメラーゼ活性を示す、配列番号14と少なくとも約41%、例えば少なくとも44、45、48、49、53、56、60、70、80、90、92、95、98%又は100%までなどの同一性を有するポリペプチドであり、C-8ステロールイソメラーゼ活性を示す配列番号14よるポリヌクレオチド、例えばトウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)から入手可能なかかるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドなどを含む。特に、前記ERG2ホモログの少なくとも1、2、3、5つなど、1つ又は複数のコピーは、本明細書で定義される修飾宿主細胞において発現される。
【0049】
本明細書で使用される、酵素に関する「特異的活性」又は「活性」とは、その触媒活性、すなわち所定の基質からの産物の形成を触媒するその能力を意味する。所定の時間内及び定義された温度において、タンパク質の定義された量当たりで消費される基質及び/又は生成される産物の量が特異的活性によって定義される。通常、特異的活性は、タンパク質1mg当たり1分当たりで消費される基質又は生成される産物μmolで表される。通常、μmol/分は、U(=単位)によって省略される。したがって、μmol/分/(タンパク質mg)又はU/(タンパク質mg)の特異的活性の単位定義は、本明細書全体を通して区別なく使用される。酵素がその触媒活性を生体内、すなわち本明細書で定義される宿主細胞内又は適切な基質の存在下において適切な(無細胞)システム内で発揮する場合、酵素は、活性である。当業者であれば、例えばHPLCなどによるなど、どのように酵素活性を測定するのかを知っている。
【0050】
本発明に関して、例えば、微生物、菌類、藻類又は植物などの生物は、原核生物の命名法の国際コード又は菌類、藻類若しくは植物の命名法の国際コード(メルボルンコード)によって定義される、同じ生理学的特性を有するかかる種の異名又はバソニムも包含する。
【0051】
特に、本発明は、本発明の以下の実施形態を特徴とする:
1.7-DHCの生成のための適切な宿主細胞において(異種)発現される、配列番号2と少なくとも約45%、例えば少なくとも50、52、60、70、80、90、92、95、98又は100%までなどの同一性を有するC5-ステロールデサチュラーゼを有する酵素を含むコレステロール産生酵母細胞であって、ラノステロール及び/又はラトステローを含む副産物に対する7-DHCの比は、非修飾宿主細胞と比較して少なくとも約5%だけ増加される、コレステロール産生酵母細胞。
2.C5-ステロールデサチュラーゼ活性を有する酵素を含み、ステロールの総量に基づいて少なくとも約84%の7-デヒドロコレステロール(7-DHC)を含み、好ましくは少なくとも約85、88、90、92、95、97、98又は100%までの7-DHCを含むステロールミックスを産生する、上記の酵母細胞。
3.コレスタ-7-エノール及び/又はラノステロールに対する7-DHCの比は、約18の範囲である、上記のコレステロール産生酵母細胞。
4.コレスタ-7-エノール及び/又はラノステロールに対する7-DHCの比は、少なくとも約5%だけ増加される、上記のコレステロール産生酵母細胞。
5.配列番号2と少なくとも約45%、例えば少なくとも50、52、60、70、80、90、92、95、98又は100%までなどの同一性を有するC5-ステロールデサチュラーゼ活性を有する異種酵素を発現する、上記のコレステロール産生酵母細胞。
6.C5-ステロールデサチュラーゼ活性を有する異種酵素を発現し、前記酵素は、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス属(Saccharomyces)、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)などのヤロウイア属(Yarrowia)、K.ラクティス(K.lactis)などのクルイベロミセス属(Klyveromyces)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などのシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、P.パストリス(P.pastoris)などのピキア属(Pichia)、C.アルビカンス(C.albicans)などのカンジダ属(Candida)、P.ロックフォルティ(P.roqueforti)などのペニシリウム属(Penicillium)、A.ニデュランス(A.nidulans)などのアスペルギルス属、C.ネオフォルマンス(C.neoformans)などのクリプトコックス属(Cryptococcus)、マグネポルテ(Magneporte)、メタリジウム(Metarhizium)及びトウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)などの黒穂菌属(Ustilago)からなる群から選択される、上記のコレステロール産生酵母細胞。
7.ERG5及びERG6は、不活化されている、上記のコレステロール産生酵母細胞。
8.ステロールΔ24-レダクターゼ活性を有するEC1.3.1.72から選択される異種酵素を発現し、好ましくは、異種酵素は、植物又は脊椎動物に由来し、より好ましくはヒト、ブタ、イヌ、マウス、ラット、ウマ又はゼブラフィッシュ(Danio rerio)に由来する、上記のコレステロール産生酵母細胞。
9.C8-イソメラーゼ活性を有する異種酵素を発現し、好ましくは、異種酵素は、トウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)、より好ましくは配列番号14によるポリペプチドと少なくとも約42%、例えば少なくとも43、44、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、75、80、90、92、95、98又は100%までなどの同一性を有するポリペプチドから入手可能である、上記のコレステロール産生酵母細胞。
10.ステロールを生成するための、好ましくはビタミンD3前駆物質を生成するための、より好ましくは7-DHCを生成するための、上記のコレステロール産生酵母細胞の使用。
11.7-DHCは、ビタミンD3に更に変換される、上記のコレステロール産生酵母細胞の使用。
12.7-DHCは、25-ヒドロキシビタミンD3に更に変換される、上記の使用。
13.酵母細胞によって産生されるステロールミックス中のコレスタ-7-エノール及び/又はラノステロールの量を低減するプロセスであって、C5-ステロールデサチュラーゼ活性を有する異種酵素を発現する工程を含み、前記異酵素は、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス属(Saccharomyces)、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)などのヤロウイア属(Yarrowia)、K.ラクティス(K.lactis)などのクルイベロミセス属(Klyveromyces)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などのシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、P.パストリス(P.pastoris)などのピキア属(Pichia)、C.アルビカンス(C.albicans)などのカンジダ属(Candida)、P.ロックフォルティ(P.roqueforti)などのペニシリウム属(Penicillium)、A.ニデュランス(A.nidulans)などのアスペルギルス属(Aspergillus)、C.ネオフォルマンス(C.neoformans)などのクリプトコックス属(Cryptococcus)、マグネポルテ(Magneporte)、メタリジウム(Metarhizium)及びトウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)などの黒穂菌属(Ustilago)からなる群から選択され、好ましくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)又はサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)から選択される、プロセス。
14.酵母細胞において、ステロールミックス、好ましくはビタミンD3前駆物質、より好ましくは少なくとも約84%の7-DHCを有するステロールミックスを生成するプロセスであって、
(a)ERG5及びERG6を不活化する工程、
(b)コレスタ-7,24-ジエノール、チモステロール又はトリエノールに対するステロールΔ24-レダクターゼ活性を有するEC1.3.1.72から選択される異種酵素、好ましくは植物又は脊椎動物ステロールΔ24-レダクターゼ、より好ましくは脊椎動物ステロールD24-レダクターゼを発現する工程、
(c)C5-ステロールデサチュラーゼ活性を有する異種酵素を発現する工程であって、前記酵素は、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロミセス属(Saccharomyces)、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)などのヤロウイア属(Yarrowia)、K.ラクティス(K.lactis)などのクルイベロミセス属(Klyveromyces)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などのシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、P.パストリス(P.pastoris)などのピキア属(Pichia)、C.アルビカンス(C.albicans)などのカンジダ属(Candida)、P.ロックフォルティ(P.roqueforti)などのペニシリウム属(Penicillium)、A.ニデュランス(A.nidulans)などのアスペルギルス属(Aspergillus)、C.ネオフォルマンス(C.neoformans)などのクリプトコックス属(Cryptococcus)、マグネポルテ(Magneporte)、メタリジウム(Metarhizium)及びトウモロコシ黒穂病菌(Ustilago maydis)などの黒穂菌属(Ustilago)からなる群から選択され、好ましくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)又はサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)から選択される、工程、
(d)ステロール産生に適切な条件下で前記酵母細胞を培養する工程であって、ステロールミックス中に存在するコレスタ-7-エノール及び/又はラノステロールに対する7-DHCの比は、17.2を超える、工程
を含むプロセス。
【0052】
以下の実施例は、単に例証となるものであり、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0053】
[実施例]
[実施例1:一般的方法、株及びプラスミド]
本明細書に記載のすべての基礎的分子生物学及びDNA操作手順は、一般に、Sambrookら(1989.Molecular Cloning:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory Press: New York)又はAusubelら(1998.Current Protocols in Molecular Biology.Wiley:New York)に準拠して実施した。使用されたS.セレビジエ(S.cerevisiae)株及びプラスミドの遺伝子型を表1及び2に示す。実施例4に記載のように、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)7-DHC産生酵母株Y2159を作製した。示されるすべての株は、MATαである。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
[実施例2:S.セレビジエ(S.cerevisiae)Y2159への様々なERG3ホモログのクローニング]
すべてのERG3カセットを以下のように作製した。オープンリーディングフレームを推定アミノ酸配列に基づいてコドン最適化し、5’-BamHI(GGATCCatg...)部位及び3’-EcoRI部位を用いて合成した。BamHI-EcoRI-消化ERG3断片をBamHI-EcoRI-消化pMB7621に挿入することにより、これらをクローン化し、それによりRKR1及びGAD1遺伝子間の染色体XIIIの右腕上に遺伝子間相遺伝子座INT66に標的化することが可能となる(およその位置769,000)。
【0057】
S.セレビジエ(S.cerevisiae)ERG3(配列番号7;プラスミドpMB7677)に加えて、合成される遺伝子は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)(配列番号9;プラスミドpMB7732)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)(配列番号10;プラスミドpMB7721)及びシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)(配列番号11;プラスミドpMB7681)からのERG3ホモログ(コドン最適化された)を含み、配列表を参照されたい。
【0058】
7-DHCの産生における異なるERG3遺伝子の影響を試験するために、選択マーカーとしてハイグロマイシン耐性(Hyg)及び制御因子として強い構成的TDH3-プロモーターを用いて、INT66遺伝子座において、上述の4つの種の1つを意味する4つの異なるSfiI産生断片でY2159株を形質転換した。
【0059】
30℃において、3日後、ハイグロマイシン200mg/Lを含むYPD寒天上で形質転換体を選択した。これらの形質転換から生じる株を上記の表1に示す。続いて、以下に記載のその7-DHC生産性及び総7-DHCステロール純度に関して、これらの株をアッセイした。
【0060】
[実施例3:形質転換株からのステロールのHPLC分析]
株を以下のように培養した。試験される株を最初にYPD寒天上にプレーティングし、30℃において48時間インキュベートした。YPD前培養物2mLをこれらのプレートから接種し、30℃において24時間ローラーホイール上で増殖させた。24穴マイクロタイタープレートにおいて、前培養物からYPD0.8mL+エタノール10g/Lを最終OD6000.5に接種した。マイクロタイタープレートを加湿環境内で30℃において増殖し、軌道3mmの振盪機で800rpmにおいて振盪した。接種から24及び48時間後、エタノール16μlをそれぞれのウェルにフィードとして添加した。接種から72時間後、ステロール含有量に関して細胞をサンプリングした。
【0061】
培養物からステロールを抽出し、以下のようにアッセイした。ガラスビーズを有する2mL Precellysチューブに全ブロス80マイクロリットルをピペットで移した。けん化溶液(エタノール中の5%KOH)800マイクロリットルを添加し、Precellys 24ホモジナイザーに試料を入れ、15秒/サイクルにおいて6500rpmで3サイクル攪拌した。次いで、氷酢酸60マイクロリットルを添加し、最高速度でチューブを1分間遠心した。ステロール含有量に関して、HPLCによって上澄をアッセイした。その結果を表3、4及び5に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
[実施例4:Y2159の作製]
XbaI部位を5’末端に(TCTAGAACAAAatg...)、PstI部位を3’末端に組み込んで、野生型S.セレビジエ(S.cerevisiae)ARE1をDNA2.0によって合成した。固有のXbaI及びPstI部位を用いて、erg4Δ::Hyg欠失プラスミドにこれをクローニングした。続いて、LEU2を使用して、KpnI-AgeIクローニングによってHygR部位を置換した。その結果がプラスミドpHyD459であった。
【0066】
ARE1から産生されたBsrGI-BsaI-切断PCR産物(配列番号16&17によるオリゴ)を、配列番号19及び20をBsrGI-PstI-切断pHyD459にアニーリングすることによって誘導された二本鎖オリゴとライゲートすることにより、S.セレビジエ(S.cerevisiae)ARE1変異バリアントpMB7584(F592L)を産生した。同様に、ARE1から産生されたBsrGI-BsaI-切断PCR産物(配列番号16&18によるオリゴ)を、配列番号21及び22をBsrGI-PstI-切断pHyD459にアニーリングすることによって誘導された二本鎖オリゴとライゲートすることにより、S.セレビジエ(S.cerevisiae)ARE1変異バリアントpMB7585(G595D)を産生した。本明細書で使用されるオリゴ並びに更なる配列は、表5に示す。
【0067】
【表6】
【配列表】
0007443657000001.app