(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20240228BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240228BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20240228BHJP
B23K 26/22 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/00 N
B23K26/082
B23K26/22
(21)【出願番号】P 2019084276
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸男
(72)【発明者】
【氏名】都藤 智仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聖也
(72)【発明者】
【氏名】日高 勇樹
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-173146(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129231(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0141158(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0106470(US,A1)
【文献】国際公開第2020/170413(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属部材をレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、
レーザ光を発振し、当該発振されたレーザ光を溶接箇所に集光するレーザ光照射ステップと、
前記レーザ光のスポットを走査する走査ステップと、
を備え、
前記レーザ光のスポットを所定箇所を中心としてその周りを周回させながら外側に向かって連続的に走査することにより金属部材を溶融させた平面視ドット状の溶接部を形成するとともに、前記溶接部の外周部分での前記レーザ光の照射による入熱量が、前記外周部分よりも内周側の少なくとも一部領域である内周部分の入熱量よりも低くなるようにし、さらに、
前記レーザ光の照射出力を一定に保っ
たままで、前記外周部分でのレーザ光の焦点を前記内周部分に比してぼかすことにより、前記外周部分の入熱量が前記内周部分の入熱量よりも低くなるように
し、
前記周回の径方向において、前記溶接部には、前記外周部分と前記内周部分との間に位置する環状の第1環状部分と、前記外周部分と前記第1環状部分との間に位置する環状の第2環状部分と、がさらに含まれ、
前記第1環状部分の入熱量が前記内周部分よりも低く、前記第2環状部分の入熱量が前記第1環状部分および前記外周部分よりも高くなるようにする、
レーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
前記レーザ光のスポットの走査軌跡を、前記外周部分の方が前記内周部分よりも密度が疎になるようにする、
レーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のレーザ溶接方法において、
前記レーザ光のスポットの走査速度を、前記外周部分の方が前記内周部分よりも速くなるようにする、
レーザ溶接方法。
【請求項4】
複数の金属部材をレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、
レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記レーザ光を溶接箇所に集光する集光部と、
前記レーザ光のスポットを走査する走査部と、
前記レーザ発振器および前記走査部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記レーザ光のスポットを、所定箇所を中心としてその周りを周回させながら外側に向かって連続的に走査することにより金属部材を溶融させた平面視ドット状の溶接部を形成するとともに、前記溶接部の外周部分での前記レーザ光の照射による入熱量が、前記外周部分よりも内周側の少なくとも一部領域である内周部分の入熱量よりも低くなるように前記レーザ発振器および前記走査部を制御し、さらに、
前記制御部は、前記レーザ光の照射出力を一定に保っ
たままで、前記外周部分でのレーザ光の焦点を前記内周部分に比してぼかすことにより、前記外周部分の入熱量が前記内周部分の入熱量よりも低くなるように
し、
前記周回の径方向において、前記溶接部には、前記外周部分と前記内周部分との間に位置する環状の第1環状部分と、前記外周部分と前記第1環状部分との間に位置する環状の第2環状部分と、がさらに含まれ、
前記制御部は、前記第1環状部分の入熱量が前記内周部分よりも低く、前記第2環状部分の入熱量が前記第1環状部分および前記外周部分よりも高くなるように前記レーザ発振器および前記走査部を制御する、
レーザ溶接装置。
【請求項5】
請求項
4に記載のレーザ溶接装置において、
前記制御部は、前記レーザ光のスポットの走査軌跡を、前記外周部分の方が前記内周部分よりも密度が疎になるようにする、
レーザ溶接装置。
【請求項6】
請求項
4又は請求項
5に記載のレーザ溶接装置において、
前記制御部は、前記レーザ光のスポットの走査速度を、前記外周部分の方が前記内周部分よりも速くなるようにする、
レーザ溶接装置。
【請求項7】
複数の金属部材をレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、
レーザ光を発振し、当該発振されたレーザ光を溶接箇所に集光するレーザ光照射ステップと、
前記レーザ光のスポットを走査する走査ステップと、
を備え、
前記レーザ光のスポットを所定箇所を中心としてその周りを周回させながら外側に向かって連続的に走査することにより金属部材を溶融させた平面視ドット状の溶接部を形成するとともに、前記溶接部の外周部分での前記レーザ光の照射による入熱量が、前記外周部分よりも内周側の少なくとも一部領域である内周部分の入熱量よりも低くなるようにし、
前記周回の径方向において、前記溶接部には、前記外周部分と前記内周部分との間に位置する環状の第1環状部分と、前記外周部分と前記第1環状部分との間に位置する環状の第2環状部分と、がさらに含まれ、
前記第1環状部分の入熱量が前記内周部分よりも低く、前記第2環状部分の入熱量が前記第1環状部分および前記外周部分よりも高くなるようにする、
レーザ溶接方法。
【請求項8】
複数の金属部材をレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、
レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記レーザ光を溶接箇所に集光する集光部と、
前記レーザ光のスポットを走査する走査部と、
前記レーザ発振器および前記走査部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記レーザ光のスポットを、所定箇所を中心としてその周りを周回させながら外側に向かって連続的に走査することにより金属部材を溶融させた平面視ドット状の溶接部を形成するとともに、前記溶接部の外周部分での前記レーザ光の照射による入熱量が、前記外周部分よりも内周側の少なくとも一部領域である内周部分の入熱量よりも低くなるように前記レーザ発振器および前記走査部を制御し、
前記周回の径方向において、前記溶接部には、前記外周部分と前記内周部分との間に位置する環状の第1環状部分と、前記外周部分と前記第1環状部分との間に位置する環状の第2環状部分と、がさらに含まれ、
前記制御部は、前記第1環状部分の入熱量が前記内周部分よりも低く、前記第2環状部分の入熱量が前記第1環状部分および前記外周部分よりも高くなるように前記レーザ発振器および前記走査部を制御する、
レーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士の接合には、レーザ溶接技術が用いられることがある。レーザ溶接を用いた金属部材の接合は、レーザ光の照射により金属部材の一部を溶融させ、凝固させることでなされる。レーザ溶接を用いて金属部材同士を接合する場合には、抵抗溶接などを用いる場合に比べて、溶接速度が速く、熱影響が少ない、という優位性がある。また、レーザ溶接を用いて金属部材同士を接合する場合には、金属部材に対して非接触で溶接を行うことができ、加工効率が高く、連続溶接による剛性アップを図ることが可能である。
【0003】
例えば、特許文献1には、2つのステップを実行してレーザ溶接を行い、互いの間に隙間を空けて重ね合わされた2枚の板材を接合する方法が開示されている。具体的に特許文献1に開示の方法では、先ず、レーザ光のスポットを走査して第1所定領域の金属部材を溶融させる。次に、第1所定領域の外周部分である第2所定領域にレーザ光を照射して、当該領域の金属部材を溶融し、溶融金属を第1所定領域の溶接痕の上に流し込む。
【0004】
特許文献1では、上記のように2つのステップを実行して溶接を行うことで、第1所定領域にできる窪み部の深さを浅くすることができ、溶接部の外周部分の肉厚が薄くなってしまうのを抑制し、溶接強度の低下を抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、作業効率の観点から改善の余地がある。具体的に、上記特許文献1に開示の技術では、第1所定領域の金属部材を溶融・凝固してできた溶接痕の上に第2所定領域の溶融金属を流し込むため、時間的に分かれた2つのステップを実行する必要があり、作業時間が長くならざるを得ず、作業効率が低くなると考えられる。
【0007】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、金属部材同士の間に隙間があるような場合であっても、高い接合強度での金属部材同士の接合を高い作業効率で可能なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るレーザ溶接方法は、複数の金属部材をレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、レーザ光を発振し、当該発振されたレーザ光を溶接箇所に集光するレーザ光照射ステップと、前記レーザ光のスポットを走査する走査ステップと、を備え、前記レーザ光のスポットを、所定箇所を中心としてその周りを周回させながら外側に向かって連続的に走査することにより金属部材を溶融させた平面視ドット状の溶接部を形成するとともに、前記溶接部の外周部分での前記レーザ光の照射による入熱量が、前記外周部分よりも内周側の少なくとも一部領域である内周部分の入熱量よりも低くなるようにし、さらに、前記レーザ光の照射出力を一定に保ったままで、前記外周部分でのレーザ光の焦点を前記内周部分に比してぼかすことにより、前記外周部分の入熱量が前記内周部分の入熱量よりも低くなるようにし、前記周回の径方向において、前記溶接部には、前記外周部分と前記内周部分との間に位置する環状の第1環状部分と、前記外周部分と前記第1環状部分との間に位置する環状の第2環状部分と、がさらに含まれ、前記第1環状部分の入熱量が前記内周部分よりも低く、前記第2環状部分の入熱量が前記第1環状部分および前記外周部分よりも高くなるようにする。
【0009】
先ず、上記態様に係るレーザ溶接方法は、複数の金属部材をレーザ溶接により接合するので、抵抗溶接などを用いる場合に比べて、溶接速度が速く、熱影響が少なく、また、金属部材に対して非接触で溶接を行うことができ、加工効率が高く、連続溶接による剛性アップを図ることが可能である。
【0010】
次に、上記態様に係るレーザ溶接方法では、走査ステップにおいて、レーザ光のスポットを所定箇所を中心としてその周りを周回させて当該部分の金属部材を溶融・攪拌して、溶接部を形成するので、仮に溶接前の状態で金属部材同士の間に隙間が空いていたとしても、溶融金属が金属部材間の隙間に流れ込むことになる。よって、上記態様に係るレーザ溶接方法では、溶接前の状態で金属部材間に隙間があった場合にも、溶融金属が金属部材同士の間の隙間を埋めるので、えぐれ(アンダーフィル)や溶け落ちの発生を抑制することができる。
【0011】
また、上記態様に係るレーザ溶接方法では、溶接部の形成において、外周部分での入熱量を内周部分での入熱量よりも低くなるようにしているので、溶接部の外周部分の肉厚が薄くなってしまったり、当該薄肉化することに起因して生じる急冷により脆弱組織となったり、残留応力が大きくなったりすることなどを抑制することができる。
【0012】
さらに、上記態様に係るレーザ溶接方法では、走査ステップにおいて、外周部分まで連続的にレーザ光のスポットを走査する構成としているので、時間的に分かれた2つのステップを実行して外周部分の入熱量を内周部分の入熱量よりも低くする上記特許文献1に開示の技術に比べて、作業時間が長くなるのを抑えることができ、よって作業効率の低下を抑制することができる。
【0013】
また、外周部分での入熱量を低く抑えることで該部分の薄肉化を抑制することができるとともに、溶接部に外周部分と内周部分との間に第1環状部分および第2環状部分が含まれ、内周部分よりも第1環状部分の方が入熱量が低く、外周部分および第1環状部分よりも第2環状部分の方が入熱量が高くなるようにすることで(周回の径方向に入熱量の強弱をつけることにより)、広範囲での溶接を行う場合においても、投入エネルギ量を抑えることが可能である。
【0014】
従って、上記態様に係るレーザ溶接方法では、金属部材同士の間に隙間があるような場合であっても、高い接合強度での金属部材同士の接合を高い作業効率で行うことが可能である。
【0015】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記レーザ光のスポットの走査軌跡を、前記外周部分の方が前記内周部分よりも密度が疎になるようにする、との構成を採用することもできる。
【0016】
上記のような構成を採用する場合には、外周部分でのレーザ光走査軌跡の密度を、内周部分よりも疎になるようにすることで、レーザ光の出力を一定に維持しながら外周部分での入熱量を内周部分よりも低くすることが可能となる。
【0017】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記レーザ光のスポットの走査速度を、前記外周部分の方が前記内周部分よりも速くなるようにする、との構成を採用することもできる。
【0018】
上記のような構成を採用する場合には、外周部分でのレーザ光走査速度を、内周部分よりも速くなるようにすることで、外周部分での入熱量を内周部分よりも低くすることが可能となる。
【0019】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、複数の金属部材をレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記レーザ光を溶接箇所に集光する集光部と、前記レーザ光のスポットを走査する走査部と、前記レーザ発振器および前記走査部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記レーザ光のスポットを、所定箇所を中心としてその周りを周回させながら外側に向かって連続的に走査することにより金属部材を溶融させた平面視ドット状の溶接部を形成するとともに、前記溶接部の外周部分での前記レーザ光の照射による入熱量が、前記外周部分よりも内周側の少なくとも一部領域である内周部分の入熱量よりも低くなるように前記レーザ発振器および前記走査部を制御し、さらに、前記制御部は、前記レーザ光の照射出力を一定に保ったままで、前記外周部分でのレーザ光の焦点を前記内周部分に比してぼかすことにより、前記外周部分の入熱量が前記内周部分の入熱量よりも低くなるようにし、前記周回の径方向において、前記溶接部には、前記外周部分と前記内周部分との間に位置する環状の第1環状部分と、前記外周部分と前記第1環状部分との間に位置する環状の第2環状部分と、がさらに含まれ、前記制御部は、前記第1環状部分の入熱量が前記内周部分よりも低く、前記第2環状部分の入熱量が前記第1環状部分および前記外周部分よりも高くなるように前記レーザ発振器および前記走査部を制御する。
【0020】
先ず、上記態様に係るレーザ溶接装置は、複数の金属部材をレーザ溶接により接合するので、抵抗溶接などを用いる場合に比べて、溶接速度が速く、熱影響が少なく、また、金属部材に対して非接触で溶接を行うことができ、加工効率が高く、連続溶接による剛性アップを図ることが可能である。
【0021】
次に、上記態様に係るレーザ溶接装置では、レーザ光のスポットを所定箇所を中心としてその周りを周回させて当該部分の金属部材を溶融・攪拌して、溶接部を形成するので、仮に溶接前の状態で金属部材同士の間に隙間が空いていたとしても、溶融金属が金属部材間の隙間に流れ込むことになる。よって、上記態様に係るレーザ溶接装置では、溶接前の状態で金属部材間に隙間があった場合にも、溶融金属が金属部材同士の間の隙間を埋めるので、えぐれ(アンダーフィル)や溶け落ちの発生を抑制することができる。
【0022】
また、上記態様に係るレーザ溶接装置では、溶接部の形成において、外周部分での入熱量を内周部分での入熱量よりも低くなるようにレーザ発振器および走査部を制御することとしているので、溶接部の外周部分の肉厚が薄くなってしまったり、当該薄肉化することに起因して生じる急冷により脆弱組織となったり、残留応力が大きくなったりすることなどを抑制することができる。
【0023】
さらに、上記態様に係るレーザ溶接装置では、溶接部の形成において、外側に向かって連続的にレーザ光のスポットを走査する構成としているので、時間的に分かれた2つのステップを実行して外周部分の薄肉化を抑制する上記特許文献1に開示の技術に比べて、作業時間が長くなるのを抑えることができ、作業効率の低下を抑制することができる。
【0024】
従って、上記態様に係るレーザ溶接装置では、金属部材同士の間に隙間があるような場合であっても、高い接合強度での金属部材同士の接合を高い作業効率で行うことが可能である。
【0025】
上記態様に係るレーザ溶接装置において、前記制御部は、前記レーザ光のスポットの走査軌跡を、前記外周部分の方が前記内周部分よりも密度が疎になるようにする、との構成を採用することもできる。
【0026】
上記のような構成を採用する場合には、外周部分でのレーザ光走査軌跡の密度を、内周部分よりも疎になるようにすることで、レーザ光の出力を一定に維持しながら外周部分での入熱量を内周部分よりも低くすることが可能となる。
【0027】
上記態様に係るレーザ溶接装置において、前記制御部は、前記レーザ光のスポットの走査速度を、前記外周部分の方が前記内周部分よりも速くなるようにする、との構成を採用することもできる。
【0028】
上記のような構成を採用する場合には、外周部分でのレーザ光走査速度を、内周部分よりも速くなるようにすることで、外周部分での入熱量を内周部分よりも低くすることが可能となる。
【0029】
本発明の他の一態様に係るレーザ溶接方法は、複数の金属部材をレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、レーザ光を発振し、当該発振されたレーザ光を溶接箇所に集光するレーザ光照射ステップと、前記レーザ光のスポットを走査する走査ステップと、を備え、前記レーザ光のスポットを所定箇所を中心としてその周りを周回させながら外側に向かって連続的に走査することにより金属部材を溶融させた平面視ドット状の溶接部を形成するとともに、前記溶接部の外周部分での前記レーザ光の照射による入熱量が、前記外周部分よりも内周側の少なくとも一部領域である内周部分の入熱量よりも低くなるようにし、前記周回の径方向において、前記溶接部には、前記外周部分と前記内周部分との間に位置する環状の第1環状部分と、前記外周部分と前記第1環状部分との間に位置する環状の第2環状部分と、がさらに含まれ、前記第1環状部分の入熱量が前記内周部分よりも低く、前記第2環状部分の入熱量が前記第1環状部分および前記外周部分よりも高くなるようにする。
【0030】
また、本発明の他の一態様に係るレーザ溶接装置は、複数の金属部材をレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記レーザ光を溶接箇所に集光する集光部と、前記レーザ光のスポットを走査する走査部と、前記レーザ発振器および前記走査部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記レーザ光のスポットを、所定箇所を中心としてその周りを周回させながら外側に向かって連続的に走査することにより金属部材を溶融させた平面視ドット状の溶接部を形成するとともに、前記溶接部の外周部分での前記レーザ光の照射による入熱量が、前記外周部分よりも内周側の少なくとも一部領域である内周部分の入熱量よりも低くなるように前記レーザ発振器および前記走査部を制御し、前記周回の径方向において、前記溶接部には、前記外周部分と前記内周部分との間に位置する環状の第1環状部分と、前記外周部分と前記第1環状部分との間に位置する環状の第2環状部分と、がさらに含まれ、前記制御部は、前記第1環状部分の入熱量が前記内周部分よりも低く、前記第2環状部分の入熱量が前記第1環状部分および前記外周部分よりも高くなるように前記レーザ発振器および前記走査部を制御する、レーザ溶接装置。
【発明の効果】
【0031】
上記の各態様では、金属部材同士の間に隙間があるような場合であっても、高い接合強度での金属部材同士の接合を高い作業効率で行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るレーザ溶接装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】溶接前の板材の配置状態を示す模式側面図である。
【
図3】第1実施形態に係るレーザ溶接装置を用いたレーザ溶接方法を説明するための模式平面図である。
【
図4】
図3のIV-IV線断面を示す模式断面図である。
【
図5】
図4のA部を拡大して示す模式断面図である。
【
図6】比較例に係るレーザ溶接方法を用いて溶接を行った場合の溶接部の外周部分の構成を示す模式断面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るレーザ溶接方法を説明するための模式平面図である。
【
図8】(a)は、本発明の第3実施形態に係るレーザ溶接方法を説明するための模式平面図であり、(b)は、本発明の第4実施形態に係るレーザ溶接方法を説明するための模式平面図である。
【
図9】(a)は、本発明の第5実施形態に係る溶接形態を示す模式図であり、(b)は、本発明の第6実施形態に係る溶接形態を示す模式図であり、(c)は、本発明の第7実施形態に係る溶接形態を示す模式図である。
【
図10】(a)は、本発明の第8実施形態に係る溶接形態を示す模式図であり、(b)は、本発明の第9実施形態に係る溶接形態を示す模式図であり、(c)は、本発明の第10実施形態に係る溶接形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0034】
[第1実施形態]
1.レーザ溶接装置1の概略構成
本発明の第1実施形態に係るレーザ溶接装置1の概略構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係るレーザ溶接装置1の概略構成を示す模式図である。
【0035】
図1に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接装置1は、レーザ発振器10と光路11と集光部(走査部)12とを備える。レーザ発振器10は、当該レーザ発振器10に接続されたコントローラ(制御部)15からの指令に従ってレーザ光を発振する。
【0036】
レーザ発振器10で発振されたレーザ光は、光路11を通り集光部12へと伝搬される。集光部12では、伝搬されてきたレーザ光が板材積層体500における板材(金属部材)501の表面に集光される(スポットが形成される)。そして、集光部12は、コントローラ15からの指令に従って、板材501の表面でレーザ光のスポットを走査する。
【0037】
なお、本実施形態では、光路11の一例として光ファイバーケーブルを用いているが、これ以外にもミラーを用いた光反射による伝搬など、種々の光路を採用することができる。ここで、本実施形態では、溶接の対象としての板材積層体500は、板材(金属部材)501と板材(金属部材)502との積層体である。
【0038】
また、レーザ溶接装置1は、溶接ロボット13と、該溶接ロボット13の駆動に係る駆動回路部14と、を備える。溶接ロボット13は、その先端部分に集光部12が取り付けられており、駆動回路部14に接続されたコントローラ15からの指令に従って、集光部12を3次元で移動させることができる。
【0039】
2.板材積層体500の概略構成
板材積層体500の概略構成について、
図2を用い説明する。
図2は、板材積層体500を構成する板材501,502の溶接前における配置状態を示す模式側面図である。
【0040】
板材501と板材502とは板厚方向(Z方向)に重ね合わされているが、溶接前のこれらの間には、
図2に示すように、例えば最大で1mm程度の隙間Gが存在する。
【0041】
3.レーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接
本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接について、図を用いて説明する。
図3は、レーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接方法を説明するための模式平面図である。
【0042】
図3に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いた溶接では、コントローラ15がレーザ発振器10にレーザ光を発振する旨の指令(レーザ光照射ステップの実行指令)を出した状態で、レーザ光のスポットが周回中心(所定箇所)Ax
LB1を中心としてその周りを周回するように集光部12を制御する。即ち、コントローラ15は、板材積層体500の溶接において、所謂、レーザスクリュ溶接を実行するように集光部12を制御してレーザ光のスポットの走査を行い(走査ステップの実行指令)、溶接部100における板材501,502の溶融・攪拌を実行する。
【0043】
図3に示すように、本実施形態では、平面視(
図3の紙面に垂直な方向から見た場合)略円形の溶接部100を形成するものである。そして、レーザ光のスポットの走査は、周回中心Ax
LB1側から溶接部100の外側に向かって連続的に行う。即ち、溶接部100の形成においては、上記特許文献1に開示の技術のように時間的に分かれた2つのステップを実行するのではなく、時間的に連続してレーザ光のスポットを走査する。
【0044】
ここで、
図3に示すように、コントローラ15は、溶接部100の形成に際して、溶接部100の径方向に4つの領域Ar1~Ar4を設定し、領域Ar1~Ar4毎にレーザ光走査軌跡LN
1~LN
4の密度(疎密)を以ってレーザ光の照射を実行する。これにより、本実施形態に係るレーザ溶接では、径方向における入熱量が異なるようにレーザ溶接を行い、溶接部100を形成することとしている。
【0045】
具体的に、溶接部100の外周部分である第4走査領域Ar4でのレーザ光走査軌跡LN4の密度は、第1走査領域(内周部分)Ar1および第3走査領域(第2環状部分)Ar3でのレーザ光走査軌跡LN1,LN3の密度よりも低く(疎に)設定されている。これにより、第4走査領域(外周部分)Ar4でのレーザ光の照射密度が第1走査領域(内周部分)Ar1および第3走査領域(第2環状部分)Ar3でのレーザ光の照射密度よりも低くなり、第4走査領域Ar4での入熱量を第1走査領域Ar1および第3走査領域Ar3よりも低くすることができる。
【0046】
なお、本実施形態では、溶接部100の径方向において、第1走査領域Ar1と第3走査領域Ar3との間に設定された第2走査領域(第1環状部分)Ar2でのレーザ光走査軌跡LN2の密度を第1走査領域(内周部分)Ar1および第3走査領域(第2環状部分)Ar3でのレーザ光走査軌跡LN1,LN3の密度よりも低く(疎に)設定している。これによって、本実施形態に係るレーザ溶接では、第2走査領域(第1環状部分)Ar2でのレーザ光の照射密度を第1走査領域(内周部分)Ar1および第3走査領域(第2環状部分)Ar3でのレーザ光の照射密度よりも低く(疎に)し、第2走査領域(第1環状部分)Ar2での入熱量についても第1走査領域(内周部分)Ar1および第3走査領域(第2環状部分)Ar3よりも低くしている。
【0047】
4.溶接部100の形態
図3を用いて説明したようなレーザ光照射を行って形成された溶接部100の形態について、
図4~
図6を用いて説明する。
図4は、
図3のIV-IV線断面を示す模式断面図であり、
図5は、
図4のA部を拡大して示す模式断面図である。
図6は、比較例に係るレーザ溶接方法を用いて溶接を行った場合の溶接部の外周部分の構成を示す模式断面図である。
【0048】
図4に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接により形成された溶接部100は、周回中心Ax
LB1から径方向外側に向けて順に形成された、第1溶接領域101、第2溶接領域102、第3溶接領域103、第4溶接領域104を有している。第1溶接領域101は第1走査領域Ar1に、第2溶接領域102は第2走査領域Ar2に、第3溶接領域103は第3走査領域Ar3に、第4溶接領域104は第4走査領域Ar4に、それぞれ対応した領域に形成されている。
【0049】
そして、溶接部100においては、溶接前に空いていた隙間Gが溶融・凝固した金属部材で埋められた状態となっている。
【0050】
次に、
図5に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法を採用した場合には、溶接部100における径方向外側部分の外周部分104aにおいて、ブリッジ部の厚みTAの肉厚が薄肉化されるのが抑制されている。また、外周部分104aは、薄肉化が抑制されることで急冷され難く、脆弱組織化も抑制されている。
【0051】
一方、外周部分での入熱量を低くしなかった比較例の場合には、
図6に示すように、溶接部900の外周部分900aのブリッジ部の厚みTBが本実施形態に係るブリッジ部の厚みTAよりも薄くなってしまう。このため、溶接対象となる板材901,902の板厚や隙間Gが本実施形態と同じであったとしても、外周部分900aの薄肉化が生じ、これによって急冷されることで該部分に脆弱組織が形成されることになる。
【0052】
なお、溶接部100の第4溶接領域(外周部分)104は、最大で溶接部100の半径の50%程度に設定することができる。
【0053】
5.効果
本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接方法では、2枚の板材(金属部材)501,502をレーザ溶接により接合するので、抵抗溶接などを用いる場合に比べて、溶接速度が速く、熱影響が少なく、また、板材501,502に対して非接触で溶接を行うことができ、加工効率が高く、連続溶接による剛性アップを図ることが可能である。
【0054】
また、本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接方法では、レーザ光のスポットを周回中心AxLB1を中心としてその周りを周回させて当該部分の金属部材を溶融・攪拌して、溶接部100を形成するので、溶接前の状態で板材501,502同士の間に隙間Gが空いている場合においても、隙間Gに溶融金属が流れ込むことになる。よって、本実施形態の場合には、溶接前の状態で板材501,502同士の間に隙間Gが空いていた場合にも、溶融金属が凝固して隙間Gを埋め、えぐれ(アンダーフィル)や溶け落ちの発生を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接方法では、溶接部100の形成において、第4走査領域(外周部分)Ar4での入熱量を第1,第3走査領域(内周部分)Ar1,Ar3での入熱量よりも低くなるようにしているので、溶接部100の第4溶接領域(外周部分)104のブリッジ厚み(肉厚)TAが薄くなるのが抑制され、薄肉化に起因した急冷も避けられるので、該部分が脆弱組織化したり、残留応力が大きくなったりすることなどを抑制することができる。
【0056】
さらに、本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接方法では、溶接部100の形成において、第1走査領域Ar1から第4走査領域(Ar4)までレーザ光のスポットを連続的に走査することとしているので、時間的に分かれた2つのステップを実行してブリッジ部厚みが薄くなるのを抑制する上記特許文献1に開示の技術に比べて、作業時間が長くなるのを抑えることができ、作業効率の低下を抑制することができる。
【0057】
ここで、本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接方法では、第4走査領域Ar4における入熱量を第1,第3走査領域Ar1,Ar3における入熱量よりも低くするための一方策として、第4走査領域Ar4での第4レーザ光走査軌跡LN4の密度を、第1,第3走査領域Ar1,Ar3での第1,第3レーザ光走査軌跡LN1,LN3の密度よりも疎とし、これによって第4走査領域Ar4でのレーザ光の照射密度を第1,第3走査領域Ar1,Ar3よりも低くして入熱量を落としている。このような方法を採用する本実施形態ではレーザ光の出力を一定に維持しながら第4走査領域Ar4での入熱量を第1,第3走査領域Ar1,Ar3よりも低くすることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いたレーザ溶接方法では、周回中心AxLB1から径方向外側に向けてレーザ光のスポットを走査するに際して、第1走査領域Ar1と第3走査領域Ar3との間に、これら領域Ar1,Ar3でのレーザ光走査軌跡LN1,LN3よりも密度が疎な(入熱量を低くした)第2走査領域Ar2を設定している。このため、本実施形態では、第4走査領域Ar4よりも内周側で入熱量の強弱をつけることで、広範囲での溶接を行う場合においても、投入エネルギ量を抑えることが可能である。
【0059】
以上のように、本実施形態に係るレーザ溶接装置1およびこれを用いたレーザ溶接方法では、溶接前の状態で板材(金属部材)501,502同士の間に隙間Gが空いている場合であっても、高い接合強度での板材501,502同士の接合を高い作業効率で行うことが可能である。
【0060】
[第2実施形態]
図7は、本発明の第2実施形態に係るレーザ溶接方法を説明するための模式平面図である。
【0061】
図7に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、板材(金属部材)505の表面に対して、周回中心(所定箇所)Ax
LB2を中心としてその周りを周回するようにレーザ光のスポットを走査してレーザ光を照射する。これにより、レーザ光を照射した部分の金属部材を溶融・攪拌し、平面視略円形の溶接部105を形成する。
【0062】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、レーザ光のスポットの走査において、径方向の内周側の第1走査領域Ar5と、外周部分側の第2走査領域Ar6と、で走査軌跡LN5,LN6の密度に差異をつけている。即ち、本実施形態では、外周部分にあたる第2走査領域Ar6での第2レーザ光走査軌跡LN6が、内周側の第1走査領域Ar5での第1レーザ光走査軌跡LN5よりも疎になるように設定している。
【0063】
なお、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、第1レーザ光走査軌跡LN5から第2レーザ光走査軌跡LN6に連続するようにレーザ光のスポットの走査を実行する。
【0064】
以上のようなレーザ溶接方法でも、第1走査領域Ar5に対応する第1溶接領域106と、第2走査領域Ar6に対応する第2溶接領域107と、からなる溶接部105が形成される。本実施形態に係るレーザ溶接方法では、レーザ光のスポットの走査において、2つの領域Ar5,Ar6に分けてレーザ光の照射密度を変えている点で、上記第1実施形態と差異がある。
【0065】
しかしながら、本実施形態に係るレーザ溶接装置及びこれを用いたレーザ溶接方法においても、上記第1実施形態と同様に、溶接前の状態で板材(金属部材)同士の間に隙間Gが空いている場合であっても、高い接合強度での板材同士の接合を高い作業効率で行うことが可能である。
【0066】
[第3実施形態]
図8(a)は、本発明の第3実施形態に係るレーザ溶接方法を説明するための模式平面図である。
【0067】
図8(a)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、溶接しようとする板材(金属部材)のうちの一方の板材表面に対して、周回中心(所定箇所)Ax
LB3を中心としてその周りを周回するようにレーザ光のスポットを走査してレーザ光を照射する。これにより、レーザ光を照射した部分の金属部材を溶融・攪拌し、平面視で略角丸多角形(本実施形態では、一例として角丸四角形)の溶接部110を形成する。
【0068】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、レーザ光のスポットの走査において、周回中心Ax
LB3側である内側の第1走査領域Ar7と、外側の第2走査領域Ar8と、でレーザ光走査軌跡の密度に差異をつけている。具体的には、本実施形態でも、外周部分にあたる第2走査領域Ar8でのレーザ光走査軌跡が、内側の第1走査領域Ar7でのレーザ光走査軌跡よりも疎になるように設定している。ここで、
図8(a)に示すように、本実施形態では、第1走査領域Ar7および第2走査領域Ar8は、ともに平面視で略角丸多角形(本実施形態では、一例として角丸四角形)に設定されており、互いに相似形とされている。
【0069】
なお、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、第1走査領域Ar7でのレーザ光走査軌跡から第2走査領域Ar8でのレーザ光走査軌跡に連続するようにレーザ光のスポットの走査を実行する。
【0070】
以上のようなレーザ溶接方法でも、第1走査領域Ar7に対応する第1溶接領域111と、第2走査領域Ar8に対応する第2溶接領域112と、からなる溶接部110が形成される。本実施形態に係るレーザ溶接方法では、第1走査領域Ar7および第2走査領域Ar8の平面視形状が角丸多角形である点で、上記第1実施形態と差異がある。
【0071】
しかしながら、本実施形態に係るレーザ溶接装置及びこれを用いたレーザ溶接方法においても、上記第1実施形態と同様に、溶接前の状態で板材(金属部材)同士の間に隙間Gが空いている場合であっても、高い接合強度での板材同士の接合を高い作業効率で行うことが可能である。
【0072】
[第4実施形態]
図8(b)は、本発明の第4実施形態に係るレーザ溶接方法を説明するための模式平面図である。
【0073】
図8(b)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、溶接しようとする板材(金属部材)のうちの一方の板材表面に対して、周回中心(所定箇所)Ax
LB4を中心としてその周りを周回するようにレーザ光のスポットを走査してレーザ光を照射する。これにより、レーザ光を照射した部分の金属部材を溶融・攪拌し、平面視略楕円形の溶接部115を形成する。
【0074】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、レーザ光のスポットの走査において、周回中心Ax
LB4側である内側の第1走査領域Ar9と、外側の第2走査領域Ar10と、で走査軌跡の密度に差異をつけている。具体的には、本実施形態でも、外周部分にあたる第2走査領域Ar10でのレーザ光走査軌跡が、内側の第1走査領域Ar9でのレーザ光走査軌跡よりも疎になるように設定している。ここで、
図8(b)に示すように、本実施形態では、第1走査領域Ar9および第2走査領域Ar10は、ともに平面視略楕円形に設定されており、互いに相似形とされている。
【0075】
なお、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、第1走査領域Ar9のレーザ光走査軌跡から第2走査領域Ar10のレーザ光走査軌跡に連続するようにレーザ光のスポットの走査を実行する。
【0076】
以上のようなレーザ溶接方法でも、第1走査領域Ar9に対応する第1溶接領域116と、第2走査領域Ar10に対応する第2溶接領域117と、からなる溶接部115が形成される。本実施形態に係るレーザ溶接方法では、第1走査領域Ar9および第2走査領域Ar10の平面視形状が略楕円形である点で、上記第1実施形態と差異がある。
【0077】
しかしながら、本実施形態に係るレーザ溶接装置及びこれを用いたレーザ溶接方法においても、上記第1実施形態と同様に、溶接前の状態で板材(金属部材)同士の間に隙間Gが空いている場合であっても、高い接合強度での板材同士の接合を高い作業効率で行うことが可能である。
【0078】
[第5実施形態]
図9(a)は、本発明の第5実施形態に係る溶接形態を示す模式図である。
【0079】
図9(a)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、レーザ溶接を行うことにより、平面視略円形のスクリュ部121と、スクリュ部121に連続しX方向に平面視線状に延びる線状部122と、線状部122に連続し平面視略円形のスクリュ部123と、からなる溶接部(ナゲット)120を形成する。
【0080】
スクリュ部121およびスクリュ部123の形成については、上記第1実施形態に係る溶接部100の形成と同様の方法によりなされる。即ち、各スクリュ部121,123の外周部分への入熱量を内周側の領域よりも低くしている。また、本実施形態では、スクリュ部121.123の各形成に際してレーザ光の走査を連続的に行うのは勿論のこと、スクリュ部121の金属部材が凝固する前に、線状部122へのレーザ光の照射を連続して行い、線状部122の金属部材が凝固する前に、スクリュ部123へのレーザ光の照射を連続して行う。
【0081】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、以上のような方法でレーザ溶接を行うので、各スクリュ部121,123の形成に際して上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、スクリュ部121の金属部材が凝固する前に、線状部122へのレーザ光の照射を連続して行い、線状部122の金属部材が凝固する前に、スクリュ部123へのレーザ光の照射を連続して行うので、溶接前の状態において重ね合わせた金属部材同士の間に隙間が空いていた場合にも、スクリュ部121の形成で溶融された金属部材が、線状部122を形成しようとする部分の部材間の隙間に流れ込み、同様に、線状部122の形成で溶融された金属部材が、スクリュ部123を形成しようとする部分の部材間に流れ込む。よって、本実施形態では、金属部材間に隙間が空いていた場合にも、高い強度で接合することが可能である。
【0082】
[第6実施形態]
図9(b)は、本発明の第6実施形態に係る溶接形態を示す模式図である。
【0083】
図9(b)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、レーザ溶接を行うことにより、平面視略円形のスクリュ部126と、スクリュ部126に連続し平面視線状に延びる線状部127と、線状部127に連続し平面視略円形のスクリュ部128と、からなる溶接部(ナゲット)125を形成する。
【0084】
スクリュ部126およびスクリュ部128の形成については、上記第1実施形態に係る溶接部100の形成と同様の方法によりなされる。また、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、上記第5実施形態と同様に、溶接部125の形成に際して、スクリュ部126の金属部材が凝固する前に、線状部127へのレーザ光の照射を連続して行い、線状部127の金属部材が凝固する前に、スクリュ部128へのレーザ光の照射を連続して行う。
【0085】
図9(b)に示すように、本実施形態に係る溶接部125の線状部127は、スクリュ部126およびスクリュ部128に対する接続箇所が上記第5実施形態とは異なっている。即ち、本実施形態に係る溶接部125においては、線状部127がスクリュ部126およびスクリュ部128の各々における径方向の一方側端部(Y方向外縁部)において接線を形成するように接続されている。
【0086】
本実施形態に係るレーザ溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、溶接部125の形態が上記第5実施形態とは異なるが、上記第5実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0087】
[第7実施形態]
図9(c)は、本発明の第7実施形態に係る溶接形態を示す模式図である。
【0088】
図9(c)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接装置では、レーザ溶接を行うことにより、平面視略円形のスクリュ部131と、スクリュ部131に連続し平面視線状に延びる線状部132と、線状部132に連続し平面視略円形のスクリュ部133と、スクリュ部133に連続し平面視線状に延びる線状部134と、線状部134に連続し平面視略円形のスクリュ部135と、を含む溶接部(ナゲット)130を形成する。なお、
図9(c)では、3か所のスクリュ部131,133,135と2つの線状部132,134からなる溶接部130を形成する一例を示しているが、スクリュ部および線状部がさらに連続する形態とすることも勿論可能である。
【0089】
各スクリュ部131,133,135の形成については、上記第1実施形態に係る溶接部100の形成と同様の方法によりなされる。また、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、スクリュ部131の金属が凝固する前に線状部132に対するレーザ光の照射を、スクリュ部133の金属が凝固する前に線状部134に対するレーザ光の照射を行う。
【0090】
図9(c)に示すように、本実施形態に係る溶接部130は、溶接部130を構成するスクリュ部131,133,135の数、および線状部132,134の数が上記第5実施形態および上記第6実施形態とは異なっている。
【0091】
本実施形態に係るレーザ溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、溶接部130の形態が上記第5実施形態および上記第6実施形態とは異なるが、上記第5実施形態および上記第6実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では、上記第5実施形態および上記第6実施形態よりも多くのスクリュ部131,133,135および線状部132,134を含む溶接部130を形成することで、溶接速度の高速化を図りながら、より高い接合強度を確保することができる。
【0092】
[第8実施形態]
図10(a)は、本発明の第8実施形態に係る溶接形態を示す模式図である。
【0093】
図10(a)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接装置では、レーザ溶接を行うことにより、平面視略円形のスクリュ部141と、スクリュ部141に連続し平面視線状に延びる線状部142と、からなる溶接部(ナゲット)140を形成する。
【0094】
スクリュ部141の形成については、上記第1実施形態に係る溶接部100の形成と同様の方法によりなされる。また、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、上記第5実施形態から上記第7実施形態と同様に、溶接部140の形成に際して、スクリュ部141の金属部材が凝固する前に、線状部142へのレーザ光の照射を連続して行う。
【0095】
本実施形態に係るレーザ溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、溶接部140の形態が上記第5実施形態から上記第7実施形態とは異なるが、上記第5実施形態などと同様の効果を得ることができる。
【0096】
[第9実施形態]
図10(b)は、本発明の第9実施形態に係る溶接形態を示す模式図である。
【0097】
図10(b)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接装置では、レーザ溶接を行うことにより、平面視略円形のスクリュ部146と、スクリュ部146に連続し平面視線状に延びる線状部147と、からなる溶接部(ナゲット)145を形成する。
【0098】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、溶接部145の線状部147の、スクリュ部146に対する接続箇所が上記第8実施形態とは異なり、スクリュ部146における径方向の一方側端部(Y方向外縁部)において接線方向に延びるように接続されている。
【0099】
なお、スクリュ部146の形成については、上記第1実施形態に係る溶接部100の形成と同様の方法によりなされる。また、本実施形態に係るレーザ溶接方法においても、上記第5実施形態から上記第8実施形態と同様に、溶接部145の形成に際して、スクリュ部146の金属部材が凝固する前に、線状部147へのレーザ光の照射を連続して行う。
【0100】
本実施形態に係るレーザ溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、溶接部145の形態が上記第8実施形態とは異なるが、上記第8実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0101】
[第10実施形態]
図10(c)は、本発明の第10実施形態に係る溶接形態を示す模式図である。
【0102】
図10(c)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接装置では、レーザ溶接により、平面視略円形のスクリュ部152と、該スクリュ部152から当該スクリュ部152の径方向の一方側に向けて離間するように(矢印B2で示すように)延びる平面視線状の線状部151と、スクリュ部152から径方向の他方側に向けて離間するように(矢印B1で示すように)延びる平面視線状の線状部153と、からなる溶接部150を形成する。
【0103】
なお、スクリュ部152の形成については、上記第1実施形態に係る溶接部100の形成と同様の方法によりなされる。また、本実施形態では、線状部151でのレーザ溶接の開始および線状部153でのレーザ溶接の開始との両方を、スクリュ部152の溶融金属が凝固する前に行う。
【0104】
本実施形態に係るレーザ溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、スクリュ部152から離間するように延びる2条の線状部151,153を形成する点、で上記第8実施形態および上記第9実施形態とは異なるが、上記第8実施形態などと同様の効果を得ることができる。
【0105】
[変形例]
上記第1実施形態から上記第10実施形態では、レーザ光のスポットを走査するために集光部12を制御することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、溶接ロボット13の先端部分を駆動制御することでレーザ光のスポットを走査してもよいし、X-Yテーブルなどを用いてレーザ光のスポットを走査させることとしてもよい。また、上記第1実施形態から上記第10実施形態では、集光部12を制御してレーザ光のスポットを移動させることとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、溶接に供される金属部材を移動させてレーザ光のスポットを走査することとしてもよい。
【0106】
また、上記第1実施形態から上記第10実施形態では、2つの金属部材同士の接合を行うこととしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、3つ以上の金属部材を接合するのにも本発明を適用すれば上記同様の効果を得ることができる。
【0107】
また、上記第1実施形態から上記第10実施形態では、レーザ光走査軌跡の疎密によって入熱量に差異をつけることとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、レーザ光の出射出力を制御することで、入熱量を変更することとしてもよいし、パルス幅を制御することで、入熱量を変更することとしてもよい。また、レーザ光の出射出力は一定に保ったままで、焦点をぼかすことにより、単位面積当たりのレーザ光の照射密度を変更することとしてもよい。また、レーザ光のスポットの走査速度を溶接部の外周部分で他の領域よりも速くすることで、該外周部分での入熱量を低くすることも可能である。
【0108】
また、本発明では、上記第1実施形態から上記第10実施形態を相互に組み合わせて適用することも可能である。
【符号の説明】
【0109】
1 レーザ溶接装置
10 レーザ発振器
12 集光部(走査部)
13 溶接ロボット
15 コントローラ(制御部)
100,105,110,115,120,125,130,140,145,150 溶接部
501,502,505 板材(金属部材)
AxLB,AxLB2,AxLB3,AxLB4 周回中心(所定箇所)
G 隙間
LN1~LN6 レーザ光走査軌跡