(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】産業用制御装置の入力モジュール
(51)【国際特許分類】
G05B 19/05 20060101AFI20240228BHJP
G05B 9/02 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
G05B19/05 L
G05B9/02 A
(21)【出願番号】P 2019138794
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】前川 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】花井 喬
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-57239(JP,A)
【文献】特開2011-51539(JP,A)
【文献】特開2012-248232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/04 -19/05
G05B 9/00 - 9/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から入力されるデジタル信号に応じた2値の内部信号を出力する入力回路と、前記内部信号に基づいて前記デジタル信号の値を判定し、その判定結果を外部へ出力する判定部と、を備える産業用制御装置の入力モジュールであって、
前記入力回路は、
前記デジタル信号および所定の周期で値が変化する2値のクロック信号を入力し、それら各信号の論理
積を表す論理
積信号を出力する論理
積回路と、
一方の主端子が前記内部信号のハイレベルに対応する第1電圧が供給される第1供給線に接続されるとともに他方の主端子が前記内部信号のロウレベルに対応する第2電圧が供給される第2供給線に接続されるものであり且つ前記論理
積信号がハイレベルのときにオンされるとともに前記論理
積信号がロウレベルのときにオフされるスイッチング素子を備え、前記スイッチング素子の前記他方の主端子の信号を前記内部信号として出力する信号出力部と、
を備え、
前記判定部は、
前記内部信号が所定の継続時間以上ロウレベルであると前記デジタル信号がロウレベルであると判定し、
前記内部信号がロウレベルからハイレベルに転じた後に再びロウレベルに転じると前記デジタル信号がハイレベルであると判定し、
前記内部信号がロウレベルからハイレベルに転じた後、再びロウレベルに転じないと前記入力回路に固着故障が発生していると判定する産業用制御装置の入力モジュール。
【請求項2】
前記判定部は、前記内部信号がロウレベルからハイレベルに転じた後、そのハイレベルである期間が、前記クロック信号がハイレベルとなる期間に対応した第1時間だけ継続し、その後、ロウレベルに転じた後、そのロウレベルである期間が、前記クロック信号がロウレベルとなる期間に対応した第2時間だけ継続すると、前記デジタル信号がハイレベルであると判定する請求項1に記載の産業用制御装置の入力モジュール。
【請求項3】
前記判定部は、前記内部信号がハイレベルからロウレベルに転じた後に再びハイレベルに転じると前記デジタル信号がハイレベルであると判定する請求項1または2に記載の産業用制御装置の入力モジュール。
【請求項4】
前記判定部は、前記内部信号がハイレベルからロウレベルに転じた後、そのロウレベルである期間が前記クロック信号がロウレベルとなる期間に対応した第2時間だけ継続し、その後、ハイレベルに転じた後、そのハイレベルである期間が、前記クロック信号がハイレベルとなる期間に対応した第1時間だけ継続すると、前記デジタル信号がハイレベルであると判定する請求項3に記載の産業用制御装置の入力モジュール。
【請求項5】
前記判定部は、前記内部信号のレベルが前記クロック信号の周期の半分未満の時間で繰り返し変化した場合には、その変化は無かったものとみなす補間処理を実行することができる請求項1から4のいずれか一項に記載の産業用制御装置の入力モジュール。
【請求項6】
前記デジタル信号は、その値の判定結果が与えられる外部のCPUモジュールにより制御される制御対象の動作を非常停止させるための非常停止スイッチの操作に応じて値が変化する信号であり、
前記判定部は、前記補間処理を所定の設定時間継続して実行すると、前記デジタル信号の値の判定を停止するとともに、前記デジタル信号の値の判定結果として前記非常停止スイッチが操作された場合と同様の判定結果を前記CPUモジュールへ出力する請求項5に記載の産業用制御装置の入力モジュール。
【請求項7】
前記設定時間は、前記非常停止スイッチが操作されてから前記制御対象の動作が停止されるまでの時間の上限として予め規定された規定時間から、少なくとも前記CPUモジュールが前記制御対象の動作を非常停止するための処理に要する所要時間を減じた時間に設定されている請求項6に記載の産業用制御装置の入力モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から与えられるデジタル信号を入力する産業用制御装置の入力モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばプログラマブルロジックコントローラなどの産業用制御装置では、各種のセンサ、各種のスイッチなどから出力されるデジタル信号を、その産業用制御装置の動作全般を制御するCPUモジュールへと取り込むための入力モジュールが設けられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
産業用制御装置の入力モジュールでは、機能安全の観点から、その入力モジュール内における回路の故障を検出すること、つまり自己診断の機能が要求されている。特に、後述する入力回路の固着故障の検出を可能にすることは、産業用制御装置の安全性を向上するうえで非常に重要となる。以下、このような入力回路の固着故障、それにより生じる問題などについて説明する。
【0005】
すなわち、入力モジュールは、外部から入力されるデジタル信号を内部のマイクロコンピュータに入力可能なレベルに変換し、そのレベル変換後の2値の内部信号をマイクロコンピュータへ出力する入力回路を備えている。なお、本明細書では、マイクロコンピュータのことをマイコンと省略することがある。入力回路は、その出力段に例えばNPN形バイポーラトランジスタなどのスイッチング素子を備えている。
【0006】
このようなスイッチング素子の一方の主端子(例えばコレクタ)は、内部信号のハイレベルに対応する電源電圧(例えば3.3V)が供給される電源線に接続され、その他方の端子(例えばエミッタ)は、内部信号のロウレベルに対応するグランド(例えば0V)に接続される。この場合、スイッチング素子は、デジタル信号がハイレベルのときにオンされるとともに、デジタル信号がロウレベルのときにオフされるようになっており、その他方の端子の信号が内部信号としてマイコンへ出力される。
【0007】
このような構成において、スイッチング素子の他方の端子が電源線などと短絡する固着による故障(固着故障)が生じるおそれがある。なお、以下の説明では、このような固着のことをHigh固着と称することがある。High固着による故障が生じると、入力回路から出力される内部信号は、デジタル信号のレベルにかかわらず、常時ハイレベルとなる。そうすると、デジタル信号がロウレベルとなっているにもかかわらず、マイコンでは、デジタル信号がハイレベルであると誤判定するおそれがある。
【0008】
産業用制御装置では、産業用のロボットが制御対象となる場合があり、この場合、入力モジュールは、ロボットの動作を非常停止するための非常停止スイッチの操作状態を表すデジタル信号の入力にも用いられる。一般に、非常停止スイッチとしては、常閉型のスイッチが用いられており、デジタル信号は、非常停止スイッチが操作されていない状態ではハイレベル(例えば24V)となり、非常停止スイッチが操作されている状態ではロウレベル(例えば0V)となる。
【0009】
したがって、入力回路においてHigh固着による故障が生じていると、入力モジュールのマイコン、ひいてはCPUモジュールが、非常停止スイッチが操作されてデジタル信号がロウレベルになっているにもかかわらず、デジタル信号がハイレベルである、つまり非常停止スイッチが操作されていないと誤った判定をしてしまうおそれがある。産業用制御装置において、このような誤判定は、生じてはならないことであり、確実に発生を防止する必要がある。
【0010】
そこで、入力モジュールにおいて、単一のデジタル信号を入力するための経路を敢えて冗長化した構成、つまり入力回路などを複数系統設けた構成(マルチチャネル構成)としておき、単一のデジタル信号を入力する際(単一チャネルモードのとき)に内部をマルチチャネル構成にしてHigh固着を検出することが考えられる。しかし、このような構成を採用した場合、入力モジュールの回路構成が複雑化して製造コストが増加するといった別の問題が生じることになる。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、構成が複雑化することなく、入力回路の固着故障を検出することができる産業用制御装置の入力モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の産業用制御装置の入力モジュールは、入力回路および判定部を備える。入力回路は、外部から入力されるデジタル信号に応じた2値の内部信号を出力する。判定部は、入力回路から出力される内部信号に基づいてデジタル信号の値を判定し、その判定結果を外部へ出力する。この場合、入力回路は、論理積回路および信号出力部を備えている。論理積回路は、デジタル信号および所定の周期で値が変化する2値のクロック信号を入力し、それら各信号の論理積を表す論理積信号を出力する。
【0013】
信号出力部は、一方の主端子が内部信号のハイレベルに対応する第1電圧が供給される第1供給線に接続されるとともに他方の主端子が内部信号のロウレベルに対応する第2電圧が供給される第2供給線に接続されるスイッチング素子を備えている。スイッチング素子は、論理積信号がハイレベルのときにオンされるとともに論理積信号がロウレベルのときにオフされる。信号出力部は、このようなスイッチング素子の他方の主端子の信号を内部信号として出力する。
【0014】
上記構成において、入力回路から出力される内部信号のレベルは、スイッチング素子の他方の端子が第1供給線に短絡するHigh固着による故障が生じていないとき、つまり正常時には、デジタル信号の値(レベル)に応じて次のように変化する。すなわち、正常時におけるデジタル信号がロウレベルである期間、論理積信号がロウレベルとなってスイッチング素子がオフされるため、内部信号は常にロウレベルとなる。そこで、判定部は、内部信号が所定の継続時間以上ロウレベルであるとデジタル信号がロウレベルであると判定する。これにより、判定部は、正常時におけるデジタル信号がロウレベルである期間、内部信号に基づいて、その値を正しく判定することができる。
【0015】
また、正常時におけるデジタル信号がハイレベルである期間、論理積信号はクロック信号と同様の周期でレベルが交互に変化する信号となる。そのため、正常時におけるデジタル信号がハイレベルである期間、スイッチング素子は、クロック信号と同様の周期でオンオフを繰り返すことになり、これに伴い、内部信号は、クロック信号と同様の周期でレベルが交互に変化する信号となる。そこで、判定部は、内部信号がロウレベルからハイレベルに転じた後に再びロウレベルに転じるとデジタル信号がハイレベルであると判定する。これにより、判定部は、正常時におけるデジタル信号がハイレベルである期間、内部信号に基づいて、その値を正しく判定することができる。
【0016】
これに対し、スイッチング素子の他方の端子が第1供給線に短絡するHigh固着による故障が生じているとき、つまり固着故障発生時には、入力回路から出力される内部信号のレベルは、上述したようにデジタル信号のレベルに応じて変化することはなく、デジタル信号のレベルにかかわらず常にハイレベルとなる。そこで、判定部は、内部信号がロウレベルからハイレベルに転じた後、再びロウレベルに転じないと入力回路に固着故障が発生していると判定する。
【0017】
つまり、上記構成では、判定部は、内部信号がロウレベルからハイレベルに転じた後、再びロウレベルに転じるか否かにより、正常時においてデジタル信号がハイレベルとなっているのか、あるいは、固着故障が生じているのか、を正しく切り分けることができる。このような構成によれば、デジタル信号のレベルを精度良く判定することができるとともに、入力回路の固着故障を検出することができる。また、この場合、単一のデジタル信号を入力するための経路を冗長化したマルチチャネル構成とする必要はなく、単一チャネルの構成を維持したままで、固着故障を検出することが可能となる。したがって、上記構成によれば、構成が複雑化することなく、入力回路の固着故障を検出することができるという優れた効果が得られる。
【0018】
上述したように、内部信号がロウレベルからハイレベルに転じた後、再びロウレベルに転じるか否かにより、正常時においてデジタル信号がハイレベルとなっているのか、あるいは、固着故障が生じているのか、を切り分ける判定手法、つまり内部信号の立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジに基づいた判定手法では、次のようなケースにおいて誤判定が生じる可能性がある。
【0019】
すなわち、入力回路において生じた固着故障が、固着した状態と固着していない状態とが繰り返されるような微小な固着故障の場合、内部信号は、正常時におけるデジタル信号がハイレベルであるときと同様、レベルが交互に変化する信号になる可能性がある。そのため、内部信号の各エッジに基づいた判定手法では、判定部は、微小な固着故障が生じているにもかかわらず、それを検出することができず、デジタル信号がハイレベルになっていると誤って判定してしまうおそれがある。そこで、請求項2に記載の産業用制御装置の入力モジュールでは、このような誤判定の発生を防止するため、判定部が次のような判定手法を実施するようにしている。
【0020】
すなわち、請求項2に記載の判定部は、内部信号がロウレベルからハイレベルに転じた後、そのハイレベルである期間が、クロック信号がハイレベルとなる期間に対応した第1時間だけ継続し、その後、ロウレベルに転じた後、そのロウレベルである期間が、クロック信号がロウレベルとなる期間に対応した第2時間だけ継続すると、デジタル信号がハイレベルであると判定する。
【0021】
正常時においてデジタル信号がハイレベルであるとき、内部信号がハイレベルとなる期間はクロック信号がハイレベルとなる期間と同様の時間になるとともに、内部信号がロウレベルとなる期間はクロック信号がロウレベルとなる期間と同様の時間になる。これに対し、微小な固着故障が生じている場合、内部信号がハイレベルとなる期間はクロック信号がハイレベルとなる期間とは異なる時間になる可能性が高く、また、内部信号がロウレベルとなる期間はクロック信号がロウレベルとなる期間とは異なる時間になる可能性が高い。したがって、上述したように、内部信号の各エッジだけでなく、内部信号がハイレベルとなる期間およびロウレベルとなる期間をも考慮した判定手法によれば、微小な固着故障が生じているにもかかわらずデジタル信号がハイレベルになっていると誤って判定する誤判定の発生を確実に防止することができる。
【0022】
前述したように、正常時におけるデジタル信号がハイレベルである期間、内部信号は、クロック信号と同様の周期でレベルが交互に変化する信号となる。そこで、請求項3に記載の産業用制御装置の入力モジュールでは、判定部は、内部信号がロウレベルからハイレベルに転じた後に再びロウレベルに転じるとデジタル信号がハイレベルであると判定する。これにより、判定部は、正常時におけるデジタル信号がハイレベルである期間、内部信号に基づいて、その値を正しく判定することができる。
【0023】
請求項4に記載の産業用制御装置の入力モジュールでは、判定部は、内部信号がハイレベルからロウレベルに転じた後、そのロウレベルである期間がクロック信号がロウレベルとなる期間に対応した第2時間だけ継続し、その後、ハイレベルに転じた後、そのハイレベルである期間が、クロック信号がハイレベルとなる期間に対応した第1時間だけ継続すると、デジタル信号がハイレベルであると判定する。このような判定手法によれば、請求項2に記載の判定手法と同様に、微小な固着故障に起因する誤判定の発生を防止することができる。
【0024】
上記構成では、正常時における内部信号のレベルは、クロック信号の周期の半分の期間(1/2周期)において変化することはない。言い換えると、内部信号のレベルが、クロック信号の1/2周期より短い期間において変化した場合、その変化はノイズなどの影響によるものであると考えられる。判定部が、このようなノイズなどの影響による内部信号の変化をも正確に捉えて、それに基づいてデジタル信号のレベルなどを判定すると、その判定精度が低下したり、誤判定が発生したりするおそれがある。
【0025】
そこで、請求項5に記載の産業用制御装置の入力モジュールでは、判定部は、内部信号のレベルがクロック信号の周期の半分未満の時間で繰り返し変化した場合には、その変化は無かったものとみなす補間処理を実行することができるようになっている。判定部は、このような補間処理を行うことにより、ノイズなどの影響により内部信号が変化したとしても、その変化を無視して、内部信号のレベルが変化前のレベルを維持していると判断してデジタル信号の値などの判定を行うことができる。このように、上記構成によれば、ノイズなどの影響を受けることなく判定部による判定が行われるため、ノイズなどの影響による判定精度の低下を抑制するとともに誤判定の発生を防止することができる。
【0026】
請求項6に記載の産業用制御装置の入力モジュールにおいて、デジタル信号は、外部のCPUモジュールにより制御される制御対象の動作を非常停止させるための非常停止スイッチの操作に応じて値が変化する信号である。外部のCPUモジュールは、入力モジュールから、上記デジタル信号の値の判定結果が与えられるものである。このような構成において、前述した補間処理を無制限に実行可能とした場合、次のような問題が生じるおそれがある。
【0027】
すなわち、入力モジュールに対してノイズが継続的に重畳している場合、内部信号のレベルがノイズの影響により継続的に変化する可能性がある。このような場合、判定部は、補間処理を継続的に実行することになるが、そうすると、比較的長い期間にわたってデジタル信号のレベルを正しく判定することができなくなり、CPUモジュールにおいても、非常停止スイッチの操作状態を正しく判断することができなくなってしまう。仮に、このような期間に、制御対象において何らかの異常が生じるなどして非常停止スイッチが操作されたとしても、CPUモジュールは、その操作を検出することができず、制御対象の動作を非常停止することができない。
【0028】
そこで、請求項6に記載の判定部は、補間処理を所定の設定時間継続して実行すると、言い換えると、補間処理の継続時間が設定時間に達すると、デジタル信号の値の判定を停止するとともに、デジタル信号の値の判定結果として非常停止スイッチが操作された場合と同様の判定結果をCPUモジュールへ出力する。このようにすれば、判定部がノイズなどの影響により比較的長い期間にわたってデジタル信号のレベルを判定することができなくなった場合、CPUモジュールは、非常停止スイッチが操作された場合と同様の処理、つまり制御対象の動作を非常停止するための処理を実行する。したがって、上記構成によれば、判定部がノイズなどの影響によりデジタル信号のレベルを判定することができない期間に非常停止スイッチが操作された場合、CPUモジュールは、その操作を検出することはできないものの、制御対象の動作を非常停止することができるため、安全性を良好に維持することができる。
【0029】
請求項7に記載の産業用制御装置の入力モジュールにおいて、設定時間は、規定時間から少なくとも所要時間を減じた時間に設定されている。規定時間は、非常停止スイッチが操作されてから制御対象の動作が停止されるまでの時間の上限として予め規定された時間である。また、所要時間は、CPUモジュールが制御対象の動作を非常停止するための処理に要する時間である。このようにすれば、仮に、補間処理が最初に実行された時点において非常停止スイッチが操作されていたとしても、その操作された時点から規定時間が経過する時点までに、制御対象の動作を確実に非常停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1実施形態に係るPLCの構成を模式的に示す図
【
図2】第1実施形態に係る入力モジュールの具体的な構成例を模式的に示す図
【
図3】第1実施形態に係るクロック信号を模式的に示す図
【
図4】第1実施形態に係る入力回路の固着故障を説明するための図
【
図5】第1実施形態に係る論理
積回路の第1具体構成例を模式的に示す図
【
図6】第1実施形態に係る論理
積回路の第2具体構成例を模式的に示す図
【
図7】第1実施形態に係る判定部による判定に関する処理の流れを示す図
【
図8】第1実施形態に係る規定時間を説明するための図
【
図9】第1実施形態に係る設定時間を説明するための図
【
図10】第1実施形態に係る正常時にデジタル信号がハイレベルであるときの判定を説明するための図その1
【
図11】第1実施形態に係る正常時にデジタル信号がハイレベルであるときの判定を説明するための図その2
【
図12】第1実施形態に係る固着故障発生時の判定を説明するための図
【
図13】第2実施形態に係る入力モジュールの具体的な構成例を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について
図1~
図12を参照して説明する。
【0032】
<全体構成>
図1に示すように、産業用制御装置であるプログラマブルロジックコントローラ1は、入力モジュール2、CPUモジュール3、図示しない出力モジュールなどを備えている。なお、本明細書では、プログラマブルロジックコントローラのことをPLCと省略することがある。PLC1は、例えば産業用のロボットなどの制御対象4の動作を制御する。入力モジュール2およびCPUモジュール3を含めたPLC1を構成する各モジュールは、バス通信ラインを介して、それぞれの間で通信可能に構成されている。
【0033】
入力モジュール2は、外部から与えられるデジタル信号をCPUモジュール3へと取り込むためのデジタル入力モジュールであり、入力回路5およびマイコン6などを備えている。この場合、入力モジュール2は、制御対象4の動作を非常停止するための非常停止スイッチ7の操作に応じて値が変化するデジタル信号Saの入力に用いられる。非常停止スイッチ7は、常閉型のスイッチであり、その一方の端子は入力モジュール2の端子台に設けられた端子8に接続され、その他方の端子は入力モジュール2の端子台に設けられた端子9に接続されている。
【0034】
入力モジュール2のマイコン6は、端子8に対し、デジタル信号Saのハイレベルに対応する電圧(例えば24V)を常時供給するようになっている。この場合、非常停止スイッチ7の他方の端子の信号、つまり入力モジュール2の端子9に与えられる信号が、デジタル信号Saに相当する。上記構成では、デジタル信号Saは、非常停止スイッチ7の操作状態を表す信号となる。具体的には、デジタル信号Saは、非常停止スイッチ7が操作されていない状態ではハイレベル(例えば24V)となり、非常停止スイッチ7が操作されている状態ではロウレベル(例えば0V)となる。
【0035】
入力回路5は、端子9を介して与えられるデジタル信号Saに応じた2値の内部信号Pinを出力する。具体的には、入力回路5は、デジタル信号Saをマイコン6に入力可能なレベルに変換し、そのレベル変換後の2値の内部信号Pinをマイコン6へ出力する。なお、この場合、入力回路5は、後述するようにフォトカプラを備えた構成となっており、これにより、入力モジュール2の外部の非常停止スイッチ7と入力モジュール2の内部のマイコン6との間の絶縁を図る役割も担っている。
【0036】
マイコン6は、内部信号Pinに基づいてデジタル信号Saの値(レベル)を判定し、その判定結果を外部へ出力する判定部10を有する。判定部10は、マイコン6のCPUがROMに格納されているコンピュータプログラムを実行してコンピュータプログラムに対応する処理を実行することにより実現されている、つまりソフトウェアにより実現されている。なお、判定部10は、ハードウェア、または、ソフトウェアとハードウェアとの協働により実現することもできる。判定部10は、このような判定結果を表すデータDaをCPUモジュール3へ送信する。詳細は後述するが、判定部10は、入力回路5のHigh固着による固着故障を検出する機能を有しており、固着故障が検出された場合には、その旨を上記判定結果としてCPUモジュール3へ送信する。
【0037】
前述したように、CPUモジュール3には、入力モジュール2から、デジタル信号Saの値の判定結果を表すデータDaが与えられる。CPUモジュール3は、このようなデータDaに基づいて非常停止スイッチ7の操作状態を認識(検出)する。CPUモジュール3は、非常停止スイッチ7が操作されていないと認識すると、制御対象4の動作を通常通りに制御する。CPUモジュール3は、非常停止スイッチ7が操作されていると認識すると、制御対象4の動力を停止させるなどして、その動作を非常停止させる。また、CPUモジュール3は、データDaに基づいて入力回路5のHigh固着による固着故障が発生していると認識すると、制御対象4の動作を停止させるための処理を実行するとともに、固着故障の発生をユーザに報知するための処理を実行する。
【0038】
<入力モジュール2の具体的構成>
入力モジュール2の具体的な構成は、例えば
図2に示すような構成となっている。
図2に示すように、入力回路5は、論理
積回路11、発振回路12およびフォトカプラ13を備えている。論理
積回路11は、デジタル信号Saおよびクロック信号Sbを入力し、それら各信号の論理
積を表す論理
積信号Scを出力する。発振回路12は、上記したクロック信号Sbを生成する。
図3に示すように、クロック信号Sbは、所定の周期で値が交互に変化する2値の信号である。この場合、クロック信号Sbのデューティ比は、生成の容易性から、50%とされている。なお、
図3など、2値の信号を示す図面では、ハイレベルのことをHレベルと省略するとともに、ロウレベルのことをLレベルと省略している。
【0039】
フォトカプラ13は、信号出力部として機能するものであり、発光ダイオード14およびNPN形のフォトトランジスタ15を備えている。発光ダイオード14のアノードは論理積回路11の出力端子に接続され、そのカソードは一次側のグランドGND1に接続されている。フォトトランジスタ15は、スイッチング素子に相当するものであり、その一方の主端子であるコレクタは、電源線16に接続されている。電源線16は、内部信号Pinのハイレベルに対応する第1電圧である電源電圧Vcc(例えば3.3V)が供給されるものであり、第1供給線に相当する。
【0040】
フォトトランジスタ15の他方の主端子であるエミッタは、二次側のグランドGND2に接続されている。グランドGND2は、内部信号Pinのロウレベルに対応する第2電圧(例えば0V)が供給されるものであり、第2供給線に相当する。このような構成によれば、フォトトランジスタ15は、論理積信号Scがハイレベルのときにオンされるとともに、論理積信号Scがロウレベルのときにオフされる。
【0041】
上記構成では、このようにオンオフされるフォトトランジスタ15のエミッタの信号、つまりフォトカプラ13の出力信号が、内部信号Pinとして、マイコン6へと出力される。
図4に示すように、上記構成において、フォトカプラ13の出力端子、つまりフォトトランジスタ15のエミッタが電源線16と短絡する固着による故障が、前述した入力回路5のHigh固着による固着故障に相当する。
【0042】
<論理
積回路11の具体的構成>
論理
積回路11の具体的な構成としては、
図5または
図6に示すような構成を採用することができる。すなわち、
図5に示す第1具体構成例のように、端子9とフォトカプラ13の入力端子(発光ダイオード14のアノード)との間に介在するスイッチ17により論理
積回路11を構成することができる。この場合、スイッチ17は、クロック信号Sbがハイレベルのときにオンされるとともに、クロック信号Sbがロウレベルのときにオフされる。
【0043】
また、
図6に示す第2具体構成例のように、端子9からフォトカプラ13の入力端子へと至る信号線18に直列に介在する抵抗19と、その抵抗19のフォトカプラ13側の端子とグランドGND1との間に介在するスイッチ20と、により論理
積回路11を構成することができる。この場合、スイッチ20は、クロック信号Sbがハイレベルのときにオフされるとともに、クロック信号Sbがロウレベルのときにオンされる。このような構成によれば、フォトカプラ13の入力は、スイッチ20のオンオフに応じて、ロウレベルまたはハイインピーダンス状態となる。なお、上記構成では、スイッチ20がオンされるときに信号線18からグランドGND1へと流れる電流は、抵抗19により制限される。
【0044】
<判定部10の具体的な機能>
マイコン6は、内部信号Pinのレベルを所定のサンプリング周期毎に取得するようになっている。なお、このサンプリング周期は、クロック信号Sbの周期に比べて十分に短い時間となっている。判定部10は、このように取得された内部信号Pinの値に基づいて、デジタル信号Saの値を判定するとともに、入力回路5のHigh固着による固着故障を検出する。以下、このような判定部10による判定手法について具体的に説明する。
【0045】
判定部10は、内部信号Pinが所定の継続時間Ta以上ロウレベルであると判断すると、デジタル信号Saがロウレベルであると判定する。なお、継続時間Taは、クロック信号Sbの周期よりも十分に長い時間に設定されている。そして、判定部10は、内部信号Pinがロウレベルからハイレベルに転じた後、そのハイレベルである期間が第1時間T1だけ継続し、その後、再びロウレベルに転じた後、そのロウレベルである期間が第2時間T2だけ継続すると、デジタル信号Saがハイレベルであると判定する。
【0046】
または、判定部10は、内部信号Pinがハイレベルからロウレベルに転じた後、そのロウレベルである期間が第2時間T2だけ継続し、その後、再びハイレベルに転じた後、そのハイレベルである期間が第1時間T1だけ継続すると、デジタル信号Saがハイレベルであると判定する。本実施形態では、第1時間T1は、クロック信号Sbがハイレベルとなる期間THに対応した時間、具体的には期間THと同程度の時間に設定されている。また、本実施形態では、第2時間T2は、クロック信号Sbがロウレベルとなる期間TLに対応した時間、具体的には期間TLと同程度の時間に設定されている。この場合、クロック信号Sbは、デューティ比が50%の信号であるため、第1時間T1および第2時間T2は、いずれもクロック信号Sbの周期の1/2の時間となる。
【0047】
言い換えると、判定部10は、内部信号Pinがロウレベルからハイレベルに変化する立ち上がりエッジを検出した後に内部信号Pinがハイレベルである期間が時間T1だけ継続し、その後、内部信号Pinがハイレベルからロウレベルに変化する立ち下がりエッジを検出した後に内部信号Pinがロウレベルである期間が時間T2だけ継続すると、デジタル信号Saがハイレベルであると判定する。または、判定部10は、立ち下がりエッジを立ち下がりエッジを検出した後に内部信号Pinがロウレベルである期間が時間T2だけ継続し、その後、立ち上がりエッジを検出した後に内部信号Pinがハイレベルである期間が時間T1だけ継続すると、デジタル信号Saがハイレベルであると判定する。
【0048】
さらに、判定部10は、内部信号Pinがロウレベルからハイレベルに転じた後、再びロウレベルに転じないと、あるいは、再びロウレベルに転じたとしても、そのロウレベルである期間が時間T2だけ継続しないと、入力回路5に固着故障が発生していると判定する。言い換えると、判定部10は、立ち上がりエッジを検出した後に内部信号Pinがハイレベルである期間が時間T1だけ継続し、その後、立ち下がりエッジが検出されないと、あるいは、立ち下がりエッジを検出した後に内部信号Pinがロウレベルである期間が時間T2未満であると、入力回路5に固着故障が発生していると判定する。
【0049】
このような判定を実現するための具体的な処理の内容としては、例えば
図7に示すようなものを採用することができる。なお、
図7などでは、各信号のレベルについて、ハイレベルのことを「H」と省略するとともに、ロウレベルのことを「L」と省略する。まず、ステップS100では、内部信号Pinについて継続時間Ta以上継続するロウレベルが検出されたか否かが判断される。ここで、継続時間Ta以上継続するロウレベルが検出された場合、ステップS100で「YES」となり、ステップS200に進む。ステップS200では、デジタル信号Saがロウレベルであると判定される。ステップS200の実行後、本処理が終了となる。
【0050】
一方、継続時間Ta以上継続するロウレベルが検出されない場合、ステップS100で「NO」となり、ステップS300に進む。ステップS300では、内部信号Pinについて時間T1だけ継続するハイレベルが検出されたか否かが判断される。ここで、時間T1だけ継続するハイレベルが検出された場合にはステップS400に進み、そのハイレベルが検出されない場合にはステップS500に進む。ステップS400では、内部信号Pinについて時間T2だけ継続するロウレベルが検出されたか否かが判断される。
【0051】
ここで、時間T2だけ継続するロウレベルが検出された場合、ステップS400で「YES」となり、ステップS600に進む。ステップS600では、デジタル信号Saがハイレベルであると判定される。これに対し、時間T2だけ継続するロウレベルが検出されない場合、ステップS400で「NO」となり、ステップS700に進む。ステップS700では、入力回路5にHigh固着による固着故障が発生していると判定される。ステップS600またはS700の実行後、本処理が終了となる。一方、ステップS500では、内部信号Pinについて時間T2だけ継続するロウレベルが検出されたか否かが判断される。ここで、時間T2だけ継続するロウレベルが検出されない場合、ステップS500で「NO」となり、ステップS100に戻る。
【0052】
これに対し、時間T2だけ継続するロウレベルが検出された場合、ステップS500で「YES」となり、ステップS800に進む。ここで、時間T1だけ継続するハイレベルが検出された場合、ステップS800で「YES」となり、ステップS600に進み、デジタル信号Saがハイレベルであると判定される。これに対し、時間T1だけ継続するハイレベルが検出されない場合、ステップS800で「NO」となり、ステップS100に戻る。
【0053】
上記構成では、正常時における内部信号Pinのレベルは、クロック信号Sbの周期の半分の期間(1/2周期)において変化することはない。言い換えると、内部信号Pinのレベルが、クロック信号Sbの1/2周期より短い期間において変化した場合、その変化は入力モジュール2の入力回路5などに重畳するノイズなどの影響によるものであると考えられる。判定部10が、このようなノイズなどの影響による内部信号Pinの変化をも正確に捉えて、それに基づいてデジタル信号Saのレベルなどを判定すると、その判定精度が低下したり、誤判定が発生したりするおそれがある。
【0054】
そこで、判定部10は、内部信号Pinのレベルがクロック信号Sbの周期の半分未満の時間で繰り返し変化した場合、具体的には別のレベルに変化してから元のレベルに戻るように変化した場合には、その変化は無かったものとみなす補間処理を実行することができる。この補間処理とは、内部信号Pinの一方のエッジ(例えば立ち上がりエッジ)が検出された後、クロック信号Sbの1/2周期が経過する以前に内部信号Pinの他方のエッジ(例えば立ち下がりエッジ)が検出された場合に、その検出結果を無視して他方のエッジが検出される前のレベル(例えばハイレベル)が維持されていると検出結果を書き換える処理のことである。
【0055】
上記構成において、このような補間処理を無制限に実行可能とした場合、次のような問題が生じるおそれがある。すなわち、入力モジュール2に対してノイズが継続的に重畳している場合、内部信号Pinのレベルがノイズの影響により継続的に変化する可能性がある。このような場合、判定部10は、補間処理を継続的に実行することになるが、そうすると、比較的長い期間にわたってデジタル信号Saのレベルを正しく判定することができなくなり、CPUモジュール3においても、非常停止スイッチ7の操作状態を正しく判断することができなくなる。仮に、このような期間に、制御対象4において何らかの異常が生じるなどして非常停止スイッチ7が操作されたとしても、CPUモジュール3は、その操作を検出することができず、制御対象4の動作を非常停止することができない。
【0056】
そこで、判定部10は、補間処理を所定の設定時間Tb継続して実行すると、言い換えると、補間処理の継続時間が設定時間Tbに達すると、デジタル信号Saの値の判定を停止するとともに、デジタル信号Saの値の判定結果として非常停止スイッチ7が操作された場合と同様の判定結果を表すデータDaをCPUモジュール3へ出力する。このようにすれば、判定部10がノイズなどの影響により比較的長い期間にわたってデジタル信号Saのレベルを判定することができなくなった場合、CPUモジュール3は、非常停止スイッチ7が操作された場合と同様の処理、つまり制御対象4の動作を非常停止するための処理を実行することになる。
【0057】
本実施形態では、上述した設定時間Tbは、産業用制御装置であるPLC1に特有の事情に基づいて、次のように設定されている。すなわち、
図8に示すように、PLC1の仕様として、非常停止スイッチ7が操作された時点t0から実際に制御対象4の動作(動力)が停止される時点t1までのに要する時間の上限が、規定時間Tcとして予め規定されている。また、CPUモジュール3が制御対象4の動作を非常停止するための処理に要する所要時間Tdは、CPUモジュール3などの仕様に応じて予め定まっている。
【0058】
この点を踏まえ、設定時間Tbは、規定時間Tcから少なくとも所要時間Tdを減じた時間に設定されている。言い換えると、設定時間Tbは、下記(1)式を満たすような時間に設定されている。
Tc>Tb+Td …(1)
【0059】
このようにすれば、
図9に示すように、補間処理が最初に実行された時点taから規定時間Tcが経過した時点tbよりも少なくとも所要時間Tdだけ前の時点tcにおいて補間処理およびデジタル信号Saのレベルの判定が停止される。そして、これにより、時点tcから制御対象4の動作(動力)を停止するための処理が開始される。このようにすれば、仮に、補間処理の初回実施時点である時点taにおいて非常停止スイッチ7が操作されていたとしても、その時点taから規定時間Tcが経過する時点tbまでに、制御対象4の動作が確実に停止される。
【0060】
次に、本実施形態の作用について
図10~
図12を参照して説明する。
[1]正常時にデジタル信号Saがハイレベルであるときの判定
デジタル信号Saがハイレベルであるとき、判定部10は、次のようにして、それを判定する。
図10に示すように、デジタル信号Saがロウレベルからハイレベルに転じると、その時点t11から、内部信号Pinは、クロック信号Sbと同様の周期でレベルが交互に変化する信号となる。
【0061】
判定部10は、時点t11から内部信号Pinがハイレベルである期間が時間T1だけ継続したことを検出し、その後、時点12において内部信号Pinがロウレベルに転じてそのロウレベルである期間が時間T2だけ継続したことを検出すると、その時点t13において、デジタル信号Saがハイレベルであると判定する(Sa=「H」)。ただし、ノイズの影響などに起因して時点t11から内部信号Pinがハイレベルである期間が時間T1だけ継続してことを検出できない可能性がある。
【0062】
このような場合、判定部10は、
図11に示すように、時点t12において内部信号Pinがロウレベルに転じてそのロウレベルである期間が時間T2だけ継続したことを検出し、その後、時点t13において内部信号Pinがハイレベルに転じてそのハイレベルである期間が時間T1だけ継続したことを検出すると、その時点t14において、デジタル信号Saがハイレベルであると判定する。このように、判定部10は、正常時においてデジタル信号Saがロウレベルからハイレベルに転じると、その時点t11からクロック信号Sbの1周期後または1.5周期後には、デジタル信号Saがハイレベルであると判定することができる。
【0063】
[2]固着故障発生時の判定
入力回路5のHigh固着による固着故障発生時、判定部10は、次のようにして、それを判定する。
図12に示すように、入力回路5において
図4に示したような固着故障が発生すると、その時点t11にて内部信号Pinはロウレベルからハイレベルに転じる。なお、
図12には、正常時においてデジタル信号Saがハイレベルであるときの内部信号Pinの波形を点線で示している。
【0064】
ただし、この場合、内部信号Pinは、時点t11から時間T1だけ経過した時点12、さらには、その時点t12から時間T2だけ経過した時点13においてもロウレベルに転じることはない。そのため、判定部10は、時点t13において、入力回路5に固着故障が発生していると判定する(「固着故障」)。このように、判定部10は、入力回路5に固着故障が発生すると、その時点11からクロック信号Sbの1周期後には、固着故障が発生していると判定することができる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態の構成において、入力回路5から出力される内部信号Pinのレベルは、正常時には、デジタル信号Saの値(レベル)に応じて次のように変化する。すなわち、正常時におけるデジタル信号Saがロウレベルである期間、論理積信号Scがロウレベルとなってフォトカプラ13のフォトトランジスタ15がオフされるため、内部信号Pinは常にロウレベルとなる。そこで、判定部10は、内部信号Pinが継続時間Ta以上ロウレベルであるとデジタル信号Saがロウレベルであると判定する。これにより、判定部10は、正常時におけるデジタル信号Saがロウレベルである期間、内部信号Pinに基づいて、その値を正しく判定することができる。
【0066】
また、正常時におけるデジタル信号Saがハイレベルである期間、論理積信号Scはクロック信号Sbと同様の周期でレベルが交互に変化する信号となる。そのため、正常時におけるデジタル信号Saがハイレベルである期間、フォトトランジスタ15は、クロック信号Sbと同様の周期でオンオフを繰り返すことになり、これに伴い、内部信号Pinは、クロック信号Sbと同様の周期でレベルが交互に変化する信号となる。そこで、判定部10は、内部信号Pinがロウレベルからハイレベルに転じた後に再びロウレベルに転じると、または、内部信号Pinがハイレベルからロウレベルに転じた後に再びハイレベルに転じると、デジタル信号Saがハイレベルであると判定する。これにより、判定部10は、正常時におけるデジタル信号Saがハイレベルである期間、内部信号Pinに基づいて、その値を正しく判定することができる。
【0067】
これに対し、入力回路5に固着故障が生じている固着故障発生時には、入力回路5から出力される内部信号Pinのレベルは、上述したようにデジタル信号Saのレベルに応じて変化することはなく、デジタル信号Saのレベルにかかわらず常にハイレベルとなる。そこで、判定部10は、内部信号Pinがロウレベルからハイレベルに転じた後、再びロウレベルに転じないと入力回路5に固着故障が発生していると判定する。
【0068】
つまり、上記構成では、判定部10は、内部信号Pinがロウレベルからハイレベルに転じた後、再びロウレベルに転じるか否かにより、正常時においてデジタル信号Saがハイレベルとなっているのか、あるいは、固着故障が生じているのか、を正しく切り分けることができる。このような構成によれば、デジタル信号Saのレベルを精度良く判定することができるとともに、入力回路5の固着故障を検出することができる。また、この場合、単一のデジタル信号Saを入力するための経路を冗長化したマルチチャネル構成とする必要はなく、単一チャネルの構成を維持したままで、固着故障を検出することが可能となる。したがって、本実施形態によれば、構成が複雑化することなく、入力回路5の固着故障を検出することができるという優れた効果が得られる。
【0069】
判定部10による判定手法としては、内部信号Pinがロウレベルからハイレベルに転じた後、再びロウレベルに転じるか否かにより、正常時においてデジタル信号Saがハイレベルとなっているのか、あるいは、固着故障が生じているのか、を切り分ける、といった内部信号Pinの立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジだけに基づいた判定手法を採用することも可能である。しかし、このような判定手法では、次のようなケースにおいて誤判定が生じる可能性がある。
【0070】
すなわち、入力回路5において生じた固着故障が、固着した状態と固着していない状態とが繰り返されるような微小な固着故障の場合、内部信号Pinは、正常時におけるデジタル信号Saがハイレベルであるときと同様、レベルが交互に変化する信号になる可能性がある。そのため、内部信号Pinの各エッジに基づいた判定手法では、判定部10は、微小な固着故障が生じているにもかかわらず、それを検出することができず、デジタル信号Saがハイレベルになっていると誤って判定してしまうおそれがある。
【0071】
そこで、本実施形態の判定部10は、内部信号Pinがロウレベルからハイレベルに転じた後、そのハイレベルである期間が、クロック信号Sbがハイレベルとなる期間に対応した第1時間T1だけ継続し、その後、ロウレベルに転じた後、そのロウレベルである期間が、クロック信号Sbがロウレベルとなる期間に対応した第2時間T2だけ継続すると、または、内部信号Pinがハイレベルからロウレベルに転じた後、そのロウレベルである期間が第2時間T2だけ継続し、その後、ハイレベルに転じた後、そのハイレベルである期間が第1時間T1だけ継続すると、デジタル信号Saがハイレベルであると判定するようになっている。
【0072】
正常時においてデジタル信号Saがハイレベルであるとき、内部信号Pinがハイレベルとなる期間はクロック信号Sbがハイレベルとなる期間と同様の時間になるとともに、内部信号Pinがロウレベルとなる期間はクロック信号Sbがロウレベルとなる期間と同様の時間になる。これに対し、微小な固着故障が生じている場合、内部信号Pinがハイレベルとなる期間はクロック信号Sbがハイレベルとなる期間とは異なる時間になる可能性が高く、また、内部信号Pinがロウレベルとなる期間はクロック信号Sbがロウレベルとなる期間とは異なる時間になる可能性が高い。したがって、上述したように、内部信号Pinの各エッジだけでなく、内部信号Pinがハイレベルとなる期間およびロウレベルとなる期間をも考慮した判定手法によれば、微小な固着故障が生じているにもかかわらずデジタル信号Saがハイレベルになっていると誤って判定する誤判定の発生を確実に防止することができる。
【0073】
本実施形態の判定部10は、内部信号Pinのレベルがクロック信号Sbの周期の半分未満の時間で繰り返し変化した場合には、その変化は無かったものとみなす補間処理を実行することができるようになっている。判定部10は、このような補間処理を行うことにより、ノイズなどの影響により内部信号Pinが変化したとしても、その変化を無視して、内部信号Pinのレベルが変化前のレベルを維持していると判断してデジタル信号Saの値などの判定を行うことができる。このように、本実施形態によれば、ノイズなどの影響を受けることなく判定部10による判定が行われるため、ノイズなどの影響による判定精度の低下を抑制するとともに誤判定の発生を防止することができる。
【0074】
本実施形態の判定部10は、補間処理を所定の設定時間Tb継続して実行すると、デジタル信号Saの値の判定を停止するとともに、デジタル信号Saの値の判定結果として非常停止スイッチ7が操作された場合と同様の判定結果をCPUモジュール3へ出力するようになっている。このようにすれば、判定部10がノイズなどの影響により比較的長い期間にわたってデジタル信号Saのレベルを判定することができなくなった場合、CPUモジュール3は、非常停止スイッチ7が操作された場合と同様に制御対象4の動作を非常停止するための処理を実行する。したがって、本実施形態によれば、判定部10がノイズなどの影響によりデジタル信号Saのレベルを判定することができない期間に非常停止スイッチ7が操作された場合、CPUモジュール3は、その操作を検出することはできないものの、制御対象4の動作を非常停止することができるため、安全性を良好に維持することができる。
【0075】
上述した設定時間Tbは、非常停止スイッチ7が操作されてから制御対象4の動作が停止されるまでの時間の上限として予め規定された規定時間Tcから少なくともCPUモジュール3が制御対象4の動作を非常停止するための処理に要する所要時間Tdを減じた時間に設定されている。このようにすれば、仮に、補間処理が最初に実行された時点において非常停止スイッチ7が操作されていたとしても、その操作された時点から規定時間Tcが経過する時点までに、制御対象4の動作を確実に非常停止することができる。
【0076】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態に対し入力モジュールの具体的な構成が変更された第2実施形態について
図13を参照して説明する。
図13に示すように、本実施形態の入力モジュール31が備える入力回路32は、第1実施形態の入力回路5に対し、発振回路12が省かれている点が異なる。
【0077】
また、本実施形態の入力モジュール31が備えるマイコン33は、マイコン6が有する機能に加え、発振回路12と同様のクロック信号Sbを生成する機能を有する。この場合、入力回路32の論理積回路11は、デジタル信号Saと、マイコン33により生成されるクロック信号Sbと、を入力し、それら各信号の論理積を表す論理積信号Scを出力する。
【0078】
上記構成の入力回路32から出力される内部信号Pinは、第1実施形態の入力回路5から出力される内部信号Pinと同様の態様の信号となる。そのため、本実施形態のマイコン33の判定部10は、入力回路32から与えられる内部信号Pinに基づいて、第1実施形態のマイコン6の判定部10と同様の判定を行うことができる。したがって、本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0079】
マイコンは、その内部に発振回路を備えていることが一般的である。そのため、マイコン33は、元々備えている内部の発振回路を利用してクロック信号Sbを生成することができる。したがって、本実施形態の構成によれば、入力回路32に発振回路12を設ける必要がない分だけ、入力モジュール31の全体的な構成を簡素化することができるという効果が得られる。
【0080】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記各実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
【0081】
判定部10は、デジタル信号Saのレベル判定および固着発生の判定に関して、内部信号Pinの各エッジだけに基づいた判定手法を採用してもよい。このような判定手法によれば、微小な固着故障の発生を検出することができない可能性が生じるが、そもそも、微小な固着故障の発生は極めて稀なケースであるため、大きな問題が生じることはない。
【0082】
上記各実施形態では、判定部10は、内部信号Pinがロウレベルからハイレベルに転じた後に再びロウレベルに転じたという第1条件または内部信号Pinがハイレベルからロウレベルに転じた後に再びハイレベルに転じたという第2条件のうちいずれかを満たしたときにデジタル信号Saがハイレベルであると判定するようになっていたが、判定部10は、第1条件を満たしたときにだけデジタル信号Saがハイレベルであると判定してもよい。このようにした場合でも、正常時においてデジタル信号Saがハイレベルとなっているのか、あるいは、固着故障が生じているのか、を正しく切り分けることができる。
【0083】
論理積回路11の具体的な構成は、上記各実施形態で示したものに限らずともよく、適宜変更可能である。また、論理積回路11は、入力回路5、32内に配置されていればよく、その配置についても適宜変更することができる。
信号出力部としては、フォトカプラ13に限らずともよく、フォトカプラ13と同様の内部信号Pinを出力することができる構成であれば適宜変更可能である。例えば、前述した絶縁が不要である場合、論理積信号Scに基づいてフォトトランジスタ15と同様にオンオフされるスイッチング素子だけにより信号出力部を構成することもできる。
【0084】
本発明は、制御対象4の動作を非常停止させるための非常停止スイッチ7の操作に応じて値が変化するデジタル信号Saを入力する入力モジュール2、31だけでなく、外部から与えられるデジタル信号を入力する産業用制御装置の入力モジュール全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1…PLC、2、31…入力モジュール、3…CPUモジュール、4…制御対象、5、32…入力回路、7…非常停止スイッチ、10…判定部、11…論理積回路、13…フォトカプラ、15…フォトトランジスタ。