(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240228BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/01 125
B41J2/01 501
B41J2/18
(21)【出願番号】P 2019142067
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2022-06-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】奥田 一平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 忠
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014074(JP,A)
【文献】特開2019-018432(JP,A)
【文献】特開2015-058657(JP,A)
【文献】特開2018-015968(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0051182(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置を用いる、インクジェット記録方法であって、
色材を含有する水系着色インク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる着色インク付着工程と、
水系クリアインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させるクリアインク付着工程と、
前記水系着色インク組成物及び前記水系クリアインク組成物が付着した記録媒体を加熱する工程と、を備え、
前記水系クリアインク組成物は、ワックス粒子と、
樹脂粒子と、を含有し、
前記ワックス粒子は、平均粒子径が
200nm以上500nm以下であり、
前記加熱する工程により、前記記録媒体に前記樹脂粒子の樹脂の皮膜が形成され、
前記記録媒体は、低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体であり、
前記記録媒体は、前記皮膜が形成された状態で、記録物として用いられ、
前記インクジェット記録装置は、前記水系クリアインク組成物を循環する循環路を有し、
前記循環路は、前記水系クリアインク組成物を貯留するサブタンクを有し、
前記サブタンクで、液体容器から供給された前記水系クリアインク組成物と循環された前記水系クリアインク組成物とが混合され、前記水系クリアインク組成物の液面と空気層との間に気液界面が生成され、
前記インクジェット記録装置は、夜間又は休日の待機中に、前記水系クリアインク組成物を循環させ、
前記クリアインク付着工程は、循環路を循環させた前記水系クリアインク組成物を吐出する、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記水系クリアインク組成物は、前記ワックス粒子を1質量%以上含有する、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記ワックス粒子の平均粒子径が、
200nm以上300nm以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記樹脂粒子の樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂の何れかを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
凝集剤を含む処理液を前記記録媒体へ付着させる工程を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記水系クリアインク組成物が、含窒素系溶剤を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記記録媒体が、
塗工紙である低吸収性記録媒体
、又は
プラスチック類のフィルムかプレート及び金属類のプレート、の何れかである非吸収性記録媒体
、である、請求項1~6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記循環路が、
前記インクジェットヘッドから前記水系クリアインク組成物を帰還させる循環帰路、及び、前記インクジェットヘッドへ前記水系クリアインク組成物を供給するインク流路から前記水系クリアインク組成物を帰還させる循環帰路、の少なくとも一方を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記水系クリアインク組成物を循環する循環路内に、気液界面が生成される、請求項1~8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記待機中の前記水系クリアインク組成物の循環は、連続する時間として10分以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記待機中の、前記水系クリアインク組成物の前記循環帰路の循環量が、1つの前記インクジェットヘッドあたり、0.5g/分以上12g/分以下である、請求項
1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記インクジェット記録装置は、前記水系着色インク組成物を循環する循環路を有し、
前記着色インク付着工程は、記録中に循環路を循環させた前記水系着色インク組成物を吐出する、請求項1~11のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
色材を含有する水系着色インク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる第1のインクジェットヘッドと、
水系クリアインク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる第2のインクジェットヘッドと、
前記水系クリアインク組成物を循環させる循環路と、
を備え、
請求項1~12のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法で記録を行う、インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、吐出安定性等について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、ワックスを含有するインク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
着色インク組成物の印刷後、その印刷面にクリアインク組成物を印刷して表面を覆う場合がある。クリアインクに、ワックス粒子を含ませて、記録物の表面の耐擦性を向上させる場合に、ヘッドフィルタの詰まりなどの問題が発生した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、クリアインク組成物を循環させることにより、優れた記録物の耐摩擦性を示し、異物の発生が抑制されることを見出して、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置を用いる、インクジェット記録方法であって、色材を含有する水系着色インク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる着色インク付着工程と、水系クリアインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させるクリアインク付着工程と、を備え、前記水系クリアインク組成物は、ワックス粒子を含有し、前記インクジェット記録装置は、前記水系クリアインク組成物を循環する循環路を有し、前記クリアインク付着工程は、循環路を循環させた前記水系クリアインク組成物を吐出する、インクジェット記録方法に関する。
【0007】
上述のインクジェット記録方法は、好ましくは凝集剤を含む処理液を前記記録媒体へ付着させる工程を備える。
【0008】
また、本発明は、色材を含有する水系着色インク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる第1のインクジェットヘッドと、水系クリアインク組成物を吐出して記録媒体へ付着させる第2のインクジェットヘッドと、前記水系クリアインク組成物を循環させる循環路と、を備え、上述のインクジェット記録方法で記録を行う、インクジェット記録装置に関する。
【0009】
上述の水系クリアインク組成物は、好ましくはワックス粒子を1質量%以上含有する。そして、ワックス粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以上500nm以下である。上述の水系クリアインク組成物は、好ましくは樹脂粒子を含み、好ましくは含窒素系溶剤を含む。
【0010】
上述の記録媒体は、好ましくは低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体である。
【0011】
上述の循環路は、好ましくは、インクジェットヘッドへ水系クリアインク組成物を供給するインク流路から、水系クリアインク組成物を循環させる循環帰路、及び、インクジェットヘッドから、前記水系クリアインク組成物を循環させる循環帰路の少なくとも一方を含む。上述のインクジェット記録装置は、好ましくは水系クリアインク組成物を循環する循環路内に、気液界面が生成される。また、上述のインクジェット記録装置は、好ましくは待機中に、前記水系クリアインク組成物を循環させる。待機中の、水系クリアインク組成物の前記循環帰路の循環量は、好ましくは、1つのインクジェットヘッドあたり、0.5~12g/分である。
【0012】
インクジェット記録装置は、水系着色インク組成物を循環する循環路を有し、且つ、着色インク付着工程は、循環路を循環させた前記着色インク組成物を吐出することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるインクジェット記録装置の構成図である。
【
図3】インクジェットヘッドの部分的な分解斜視図である。
【
図5】インクジェットヘッドにおけるインクの循環の説明図である。
【
図6】インクジェットヘッドのうち循環液室の近傍の平面図及び断面図である。
【
図7】第2実施形態におけるインクジェットヘッドの部分的な分解斜視図である。
【
図8】第2実施形態における循環液室の近傍の平面図及び断面図である。
【
図9】第3実施形態における循環液室の近傍の平面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
本実施形態のインクジェット記録方法は、インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置を用いる、インクジェット記録方法であって、色材を含有する水系着色インク組成物(以下、単に「着色インク組成物」ともいう。)をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる着色インク付着工程と、水系クリアインク組成物(以下、単に「クリアインク組成物」ともいう。)をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させるクリアインク付着工程と、を備える。当該水系クリアインク組成物は、ワックス粒子を含有する。また、当該インクジェット記録装置は、クリアインク組成物を循環する循環路を有し、クリアインク付着工程は、循環路を循環させた前記水系クリアインク組成物を吐出する。
【0016】
以上の構成によれば、優れた記録物の耐摩擦性を示し、異物の発生が抑制される、インクジェット記録方法を提供することができる。また、以上の構成によれば、ヘッドからのインク組成物の吐出安定性を向上させることができる。さらに、以上の構成によれば、ブリードが抑制されることにより、記録物のムラが抑制される。加えて、以上の構成によれば、記録物の画像ズレが抑制される。
【0017】
なお、色材を含有する着色インク組成物は、乾燥によって、インクジェットヘッド内でインク組成物が増粘する、又は、インク組成物中に沈殿物等の異物が生じることにより、インクの吐出不良の原因になると考えられている。これに対して、インク組成物を循環する循環路を有するヘッドで、インク組成物を循環させ新しいインク組成物と混合して再度、ノズルに供給することで、吐出不良が抑制される。これは、インク組成物の循環によって、インク組成物中の成分の凝集が抑制されるため、増粘や異物の発生が抑制されると考えられている。インク組成物の増粘や異物発生の原因となる成分は、主に顔料と考えられおり、インク組成物の乾燥によって顔料の分散安定性が低下することで、凝集物になり異物化すると考えられる。
【0018】
一方、着色インク組成物の印刷後、その印刷面にクリアインク組成物を印刷して表面を覆うことにより、優れた耐擦性が得られる。クリアインクは、インクジェット記録装置において循環する必要はないと考えられていた。クリアインクは、増粘及び異物発生の主な原因となる顔料を含有しないためである。しかしながら、実際に、インクジェット記録装置を運転すると、クリアインクを吐出するインクジェットヘッドであっても、吐出安定性の低下や、ヘッドのフィルタ詰り等の異物発生に起因する課題を有していた。そこで、その原因の究明を試みた所、クリアインクに、記録物の表面の耐擦性を向上させるために、ワックス粒子を含む場合に、ワックス粒子が、インク流路内で異物化しやすく、当該異物がヘッドフィルタのつまりの原因となることがわかった。そこで、ワックスを含むクリアインクを用いるインクジェット記録方法において、インク組成物を循環する循環路を有するヘッドを用いることで、記録物の優れた耐摩擦性を得ながら、異物の発生を抑制する点で優れていた。
【0019】
インクジェット記録装置
本実施形態のインクジェット記録装置は、ラインプリンタであってもよいし、シリアルプリンタであってもよい。ラインプリンタは、インクジェットヘッドが被記録媒体の記録幅以上の長さに広く形成され、インクジェットヘッドが移動せずに被記録媒体上に液滴を吐出する方式のプリンタである。シリアルプリンタは、所定の方向に移動するキャリッジにインクジェットヘッドが搭載され、キャリッジの移動に伴ってインクジェットヘッドが移動することにより被記録媒体上に液滴を吐出する方式のプリンタである。
【0020】
本実施形態のインクジェット記録装置は、インクカートリッジがキャリッジに搭載されたオンキャリッジタイプのプリンタであってもよいし、インクカートリッジがキャリッジの外部に設けられたオフキャリッジタイプのプリンタであってもよい。なお、以下の本実施形態のインクジェット記録装置では、ラインプリンタや、オフキャリッジタイプのプリンタを例に挙げて説明する。
【0021】
インクジェット記録装置は、クリアインク組成物を循環する循環路を有する。ワックス粒子を含むクリアインク組成物は、異物が発生しすく、ヘッドのフィルタ詰り等の原因となるが、クリアインク組成物を循環させることで、異物の発生が抑制される。循環路は、インクジェットヘッドへクリアインク組成物を供給するインク流路からクリアインク組成物を帰還させる循環帰路、及び、インクジェットヘッドからクリアインク組成物を帰還させる循環帰路、の少なくとも一方を含む。これらの中でも、異物の発生をより顕著に抑制する観点から、インクジェットヘッドからクリアインク組成物を帰還させる循環帰路を含むインクジェット記録装置が好ましい。なお、以下の本実施形態のインクジェット記録装置では、インクジェットヘッドからクリアインク組成物を帰還させる循環帰路を含む装置を例に挙げて説明する。インクジェット記録装置は、好ましくは着色インク組成物を循環する循環路を有する。
【0022】
――第1実施形態――
図1は、第1実施形態で用いるインクジェット記録装置100を例示する構成図である。第1実施形態で用いるインクジェット記録装置100は、インク組成物を媒体12に噴射するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルム又は布帛等の任意の材質の記録媒体が媒体12として利用され得る。
図1に例示されるとおり、インクジェット記録装置100には、インク組成物を貯留する液体容器14が設置される。例えばインクジェット記録装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、又はインク組成物を補充可能なインクタンクが液体容器14として利用される。色彩が相違する複数種のインク組成物が液体容器14に貯留されてもよい。液体容器14からサブタンク15へとインクを供給し、サブタンク内でインクを蓄積した後にインクジェットヘッドに供給してもよい。図示しないが、サブタンク15から、インクジェットヘッドにインクが供給される流路には、自己封止弁が設けられている。更にその下流には、異物を捕捉するフィルタが設けられていてもよい。
【0023】
図1に例示されるとおり、インクジェット記録装置100は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24とインクジェットヘッド26とを備える。制御ユニット20は、例えばCPU(Central Processing Unit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリ等の記憶回路とを含み、インクジェット記録装置100の各要素を統括的に制御する。搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで媒体12をY方向に搬送する。
【0024】
移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとでインクジェットヘッド26をX方向に往復させる。X方向は、媒体12が搬送されるY方向に交差(典型的には直交)する方向である。第1実施形態の移動機構24は、インクジェットヘッド26を収容する略箱型の搬送体242(キャリッジ)と、搬送体242が固定された搬送ベルト244とを具備する。なお、複数のインクジェットヘッド26を搬送体242に搭載した構成や、液体容器14をインクジェットヘッド26とともに搬送体242に搭載した構成も採用され得る。
【0025】
インクジェットヘッド26は、液体容器14から供給されるインクを制御ユニット20による制御のもとで複数のノズルN(噴射孔)から媒体12に噴射する。搬送機構22による媒体12の搬送と搬送体242の反復的な往復とに並行して各インクジェットヘッド26が媒体12にインクを噴射することで、媒体12の表面に所望の画像が形成される。なお、X-Y平面(例えば媒体12の表面に平行な平面)に垂直な方向を以下ではZ方向と表記する。各インクジェットヘッド26によるインクの噴射方向(典型的には鉛直方向)がZ方向に相当する。
【0026】
図1に例示されるとおり、インクジェットヘッド26の複数のノズルNはY方向に配列される。第1実施形態の複数のノズルNは、X方向に相互に間隔をあけて並設された第1列L1と第2列L2とに区分される。第1列L1及び第2列L2の各々は、Y方向に直線状に配列された複数のノズルNの集合である。なお、第1列L1と第2列L2との間で各ノズルNのY方向に位置を相違させること(すなわち千鳥配置又はスタガ配置)も可能であるが、第1列L1と第2列L2とで各ノズルNのY方向の位置を一致させた構成を以下では便宜的に例示する。インクジェットヘッド26においてY方向に平行な中心軸を通過するとともにZ方向に平行な平面(Y-Z平面)Oを以下の説明では「中心面」と表記する。
【0027】
図2は、Y方向に垂直な断面におけるインクジェットヘッド26の断面図であり、
図3は、インクジェットヘッド26の部分的な分解斜視図である。
図2及び
図3から理解されるとおり、第1実施形態のインクジェットヘッド26は、第1列L1の各ノズルN(第1ノズルの例示)に関連する要素と第2列L2の各ノズルN(第2ノズルの例示)に関連する要素とが中心面Oを挟んで面対称に配置された構造である。すなわち、インクジェットヘッド26のうち中心面Oを挟んでX方向の正側の部分(以下「第1部分」という)P1とX方向の負側の部分(以下「第2部分」という)P2とで構造は実質的に共通する。第1列L1の複数のノズルNは第1部分P1に形成され、第2列L2の複数のノズルNは第2部分P2に形成される。中心面Oは、第1部分P1と第2部分P2との境界面に相当する。
【0028】
図2及び
図3に例示されるとおり、インクジェットヘッド26は流路形成部30を備える。流路形成部30は、複数のノズルNにインクを供給するための流路を形成する構造体である。第1実施形態の流路形成部30は、第1流路基板32(連通板)と第2流路基板34(圧力室形成板)との積層で構成される。第1流路基板32及び第2流路基板34の各々は、Y方向に長尺な板状部材である。第1流路基板32のうちZ方向の負側の表面Faに、例えば接着剤を利用して第2流路基板34が設置される。
【0029】
図2に例示されるとおり、第1流路基板32の表面Faの面上には、第2流路基板34のほか、振動部42と複数の圧電素子44と保護部材46と筐体部48とが設置される(
図3では図示略)。他方、第1流路基板32のうちZ方向の正側(すなわち表面Faとは反対側)の表面Fbにはノズルプレート52と吸振体54とが設置される。インクジェットヘッド26の各要素は、概略的には第1流路基板32や第2流路基板34と同様にY方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤を利用して相互に接合される。第1流路基板32と第2流路基板34とが積層される方向や第1流路基板32とノズルプレート52とが積層される方向(あるいは板状の各要素の表面に垂直な方向)を、Z方向として把握することも可能である。
【0030】
ノズルプレート52は、複数のノズルNが形成された板状部材であり、例えば接着剤を利用して第1流路基板32の表面Fbに設置される。複数のノズルNの各々は、インク組成物を通過させる円形状の貫通孔である。第1実施形態のノズルプレート52には、第1列L1を構成する複数のノズルNと第2列L2を構成する複数のノズルNとが形成される。具体的には、ノズルプレート52のうち中心面OからみてX方向の正側の領域に、第1列L1の複数のノズルNがY方向に沿って形成され、X方向の負側の領域に、第2列L2の複数のノズルNがY方向に沿って形成される。第1実施形態のノズルプレート52は、第1列L1の複数のノズルNが形成された部分と第2列L2の複数のノズルNが形成された部分とにわたり連続する単体の板状部材である。第1実施形態のノズルプレート52は、半導体製造技術(例えばドライエッチングやウェットエッチング等の加工技術)を利用してシリコン(Si)の単結晶基板を加工することで製造される。ただし、ノズルプレート52の製造には公知の材料や製法が任意に採用され得る。
【0031】
図2及び
図3に例示されるとおり、第1流路基板32には、第1部分P1及び第2部分P2の各々について、空間Raと複数の供給路61と複数の連通路63とが形成される。空間Raは、平面視で(すなわちZ方向からみて)Y方向に沿う長尺状に形成された開口であり、供給路61及び連通路63はノズルN毎に形成された貫通孔である。複数の連通路63は平面視でY方向に配列し、複数の供給路61は、複数の連通路63の配列と空間Raとの間でY方向に配列する。複数の供給路61は、空間Raに共通に連通する。また、任意の1個の連通路63は、当該連通路63に対応するノズルNに平面視で重なる。具体的には、第1部分P1の任意の1個の連通路63は、第1列L1のうち当該連通路63に対応する1個のノズルNに連通する。同様に、第2部分P2の任意の1個の連通路63は、第2列L2のうち当該連通路63に対応する1個のノズルNに連通する。
【0032】
図2及び
図3に例示されるとおり、第2流路基板34は、第1部分P1及び第2部分P2の各々について複数の圧力室Cが形成された板状部材である。複数の圧力室CはY方向に配列する。各圧力室C(キャビティ)は、ノズルN毎に形成されて平面視でX方向に沿う長尺状の空間である。第1流路基板32及び第2流路基板34は、前述のノズルプレート52と同様に、例えば半導体製造技術を利用してシリコンの単結晶基板を加工することで製造される。ただし、第1流路基板32及び第2流路基板34の製造には公知の材料や製法が任意に採用され得る。以上の例示の通り、第1実施形態における流路形成部30(第1流路基板32及び第2流路基板34)とノズルプレート52とはシリコンで形成された基板を包含する。したがって、例えば前述の例示のように半導体製造技術を利用することで、流路形成部30及びノズルプレート52に微細な流路を高精度に形成できるという利点がある。
【0033】
図2に例示されるとおり、第2流路基板34のうち第1流路基板32とは反対側の表面には振動部42が設置される。第1実施形態の振動部42は、弾性的に振動可能な板状部材(振動板)である。なお、所定の板厚の板状部材のうち圧力室Cに対応する領域について板厚方向の一部を選択的に除去することで、第2流路基板34と振動部42とを一体に形成することも可能である。
【0034】
図2から理解されるとおり、第1流路基板32の表面Faと振動部42とは、各圧力室Cの内側で相互に間隔をあけて対向する。圧力室Cは、第1流路基板32の表面Faと振動部42との間に位置する空間であり、当該空間に充填されたインクに圧力変化を発生させる。各圧力室Cは、例えばX方向を長手方向とする空間であり、ノズルN毎に個別に形成される。第1列L1及び第2列L2の各々について、複数の圧力室CがY方向に配列する。
図2及び
図3に例示される通り、任意の1個の圧力室Cのうち中心面O側の端部は平面視で連通路63に重なり、中心面Oとは反対側の端部は平面視で供給路61に重なる。したがって、第1部分P1及び第2部分P2の各々において、圧力室Cは、連通路63を介してノズルNに連通するとともに、供給路61を介して空間Raに連通する。なお、流路幅が狭窄された絞り流路を圧力室Cに形成することで所定の流路抵抗を付加することも可能である。
【0035】
図2に例示されるとおり、振動部42のうち圧力室Cとは反対側の面上には、第1部分P1及び第2部分P2の各々について、相異なるノズルNに対応する複数の圧電素子44が設置される。圧電素子44は、駆動信号の供給により変形する受動素子である。複数の圧電素子44は、各圧力室Cに対応するようにY方向に配列する。任意の1個の圧電素子44は、
図4に例示されるとおり、相互に対向する第1電極441と第2電極442との間に圧電体層443を介在させた積層体である。なお、第1電極441及び第2電極442の一方を、複数の圧電素子44にわたり連続する電極(すなわち共通電極)とすることも可能である。第1電極441と第2電極442と圧電体層443とが平面視で重なる部分が圧電素子44として機能する。なお、駆動信号の供給により変形する部分(すなわち振動部42を振動させる能動部)を圧電素子44として画定することも可能である。以上の説明から理解されるとおり、第1実施形態のインクジェットヘッド26は第1圧電素子と第2圧電素子とを具備する。例えば、第1圧電素子は、中心面OからみてX方向の一方側(例えば
図2における右側)の圧電素子44であり、第2圧電素子は、中心面OからみてX方向の他方側(例えば
図2における左側)の圧電素子44である。圧電素子44の変形に連動して振動部42が振動すると、圧力室C内の圧力が変動することで、圧力室Cに充填されたインクが連通路63とノズルNとを通過して噴射される。
【0036】
図2の保護部材46は、複数の圧電素子44を保護するための板状部材であり、振動部42の表面(又は第2流路基板34の表面)に設置される。保護部材46の材料や製法は任意であるが、第1流路基板32や第2流路基板34と同様に、例えばシリコン(Si)の単結晶基板を半導体製造技術により加工することで保護部材46は形成され得る。保護部材46のうち振動部42側の表面に形成された凹部に複数の圧電素子44が収容される。
【0037】
振動部42のうち流路形成部30とは反対側の表面(又は流路形成部30の表面)には配線基板28の端部が接合される。配線基板28は、制御ユニット20とインクジェットヘッド26とを電気的に接続する複数の配線(図示略)が形成された可撓性の実装部品である。配線基板28のうち、保護部材46に形成された開口部と筐体部48に形成された開口部とを通過して外部に延出した端部が制御ユニット20に接続される。例えばFPC(Flexible Printed Circuit)やFFC(Flexible Flat Cable)等の可撓性の配線基板28が好適に採用される。
【0038】
筐体部48は、複数の圧力室C(さらには複数のノズルN)に供給されるインクを貯留するためのケースである。筐体部48のうちZ方向の正側の表面が例えば接着剤で第1流路基板32の表面Faに接合される。筐体部48の製造には公知の技術や製法が任意に採用され得る。例えば樹脂材料の射出成形で筐体部48を形成することが可能である。
【0039】
図2に例示されるとおり、第1実施形態の筐体部48には、第1部分P1及び第2部分P2の各々について空間Rbが形成される。筐体部48の区間Rbと第1流路基板32の空間Raとは相互に連通する。空間Raと空間Rbとで構成される空間は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留する液体貯留室(リザーバー)Rとして機能する。液体貯留室Rは、複数のノズルNについて共用される共通液室である。第1部分P1及び第2部分P2の各々に液体貯留室Rが形成される。第1部分P1の液体貯留室Rは、中心面OからみてX方向の正側に位置し、第2部分P2の液体貯留室Rは、中心面OからみてX方向の負側に位置する。筐体部48のうち第1流路基板32とは反対側の表面には、液体容器14から供給されるインクを液体貯留室Rに導入するための導入口482が形成される。図示しないがRbの壁面には、インクを加熱するヒータが備えられていることが好ましい。
【0040】
図2に例示されるとおり、第1流路基板32の表面Fbには、第1部分P1及び第2部分P2の各々について吸振体54が設置される。吸振体54は、液体貯留室R内のインクの圧力変動を吸収する可撓性のフィルム(コンプライアンス基板)である。
図3に例示されるとおり、吸振体54は、第1流路基板32の空間Raと複数の供給路61とを閉塞するように第1流路基板32の表面Fbに設置されて液体貯留室Rの壁面(具体的には底面)を構成する。
【0041】
図2に例示されるとおり、第1流路基板32のうちノズルプレート52に対向する表面Fbには空間(以下「循環液室」という)65が形成される。第1実施液体の循環液室65は、平面視でY方向に延在する長尺状の有底孔(溝部)である。第1流路基板32の表面Fbに接合されたノズルプレート52により循環液室65の開口は閉塞される。
【0042】
図5は、循環液室65に着目したインクジェットヘッド26の構成図である。
図5に例示されるとおり、循環液室65は、第1列L1及び第2列L2に沿って複数のノズルNにわたり連続する。具体的には、第1列L1の複数のノズルNの配列と第2列L2の複数のノズルNの配列との間に循環液室65が形成される。したがって、
図2に例示されるとおり、循環液室65は、第1部分P1の連通路63と第2部分P2の連通路63との間に位置する。以上の説明から理解されるとおり、第1実施形態の流路形成部30は、第1部分P1における圧力室C(第1圧力室)及び連通路63(第1連通路)と、第2部分P2における圧力室C(第2圧力室)及び連通路63(第2連通路)と、第1部分P1の連通路63と第2部分P2の連通路63との間に位置する循環液室65とが形成された構造体である。
図2に例示されるとおり、第1実施形態の流路形成部30は、循環液室65と各連通路63との間を仕切る壁状の部分(以下「隔壁部」という)69を含む。
【0043】
なお、前述のとおり、第1部分P1及び第2部分P2の各々において複数の圧力室C及び複数の圧電素子44がY方向に配列する。したがって、第1部分P1及び第2部分P2の各々における複数の圧力室C又は複数の圧電素子44にわたり連続するように、循環液室65がY方向に延在すると換言することも可能である。また、
図2及び
図3から理解されるとおり、循環液室65と液体貯留室Rとが相互に間隔をあけてY方向に延在し、当該間隔内に圧力室Cと連通路63とノズルNとが位置するということも可能である。
【0044】
図6は、インクジェットヘッド26のうち循環液室65の近傍の部分を拡大した平面図及び断面図である。
図6に例示されるとおり、第1実施形態における1個のノズルNは、第1区間n1と第2区間n2とを含む。第1区間n1と第2区間n2とは同軸に形成されて相互に連通する円形状の空間である。第2区間n2は、第1区間n1からみて流路形成部30側に位置する。第2区間n2の内径d2は第1区間n1の内径d1よりも大きい(d2>d1)。以上のように各ノズルNを階段状に形成した構成によれば、各ノズルNの流路抵抗を所望の特性に設定しやすいという利点がある。また、
図6に例示されるとおり、第1実施形態における各ノズルNの中心軸Qaは、連通路63の中心軸Qbからみて循環液室65とは反対側に位置する。
【0045】
図6に例示されるとおり、ノズルプレート52のうち流路形成部30に対向する表面には、第1部分P1及び第2部分P2の各々について複数の循環路72が形成される。第1部分P1の複数の循環路72(第1循環路の例示)は、第1列L1の複数のノズルN(又は第1列L1に対応する複数の連通路63)に1対1に対応する。また、第2部分P2の複数の循環路72(第2循環路の例示)は、第2列L2の複数のノズルN(又は第2列L2に対応する複数の連通路63)に1対1に対応する。
【0046】
各循環路72は、X方向に延在する溝部(すなわち長尺状の有底孔)であり、インクを流通させる流路として機能する。第1実施形態の循環路72は、ノズルNから離間した位置(具体的には、当該循環路72に対応するノズルNからみて循環液室65側)に形成される。例えば、半導体製造技術(例えばドライエッチングやウェットエッチング等の加工技術)により複数のノズルN(特に第2区間n2)と複数の循環路72とが共通の工程で一括的に形成される。
【0047】
図6に例示される通り、各循環路72は、ノズルNのうち第2区間n2の内径d2と同等の流路幅Waで直線状に形成される。また、第1実施形態における循環路72の流路幅(Y方向の寸法)Waは、圧力室Cの流路幅(Y方向の寸法)Wbよりも小さい。したがって、循環路72の流路幅Waが圧力室Cの流路幅Wbよりも大きい構成と比較して循環路72の流路抵抗を大きくすることが可能である。他方、ノズルプレート52の表面に対する循環路72の深さDaは全長にわたり一定である。具体的には、各循環路72はノズルNの第2区間n2と同等の深さに形成される。以上の構成によれば、循環路72と第2区間n2とを相異なる深さに形成する構成と比較して、循環路72及び第2区間n2を形成しやすいという利点がある。なお、流路の「深さ」とは、Z方向における流路の深さ(例えば流路の形成面と流路の底面との高低差)を意味する。
【0048】
第1部分P1における任意の1個の循環路72は、第1列L1のうち当該循環路72に対応するノズルNからみて循環液室65側に位置する。また、第2部分P2における任意の1個の循環路72は、第2列L2のうち当該循環路72に対応するノズルNからみて循環液室65側に位置する。そして、各循環路72のうち中心面Oとは反対側(連通路63側)の端部は、当該循環路72に対応する1個の連通路63に平面視で重なる。すなわち、循環路72は連通路63に連通する。他方、各循環路72のうち中心面O側(循環液室65側)の端部は循環液室65に平面視で重なる。すなわち、循環路72は循環液室65に連通する。以上の説明から理解されるとおり、複数の連通路63の各々が循環路72を介して循環液室65に連通する。したがって、
図6に破線の矢印で図示されるとおり、各連通路63内のインクは循環路72を介して循環液室65に供給される。すなわち、第1実施形態では、第1列L1に対応する複数の連通路63と第2列L2に対応する複数の連通路63とが1個の循環液室65に対して共通に連通する。
【0049】
図6には、任意の1個の循環路72のうち循環液室65に重なる部分の流路長Laと、循環路72のうち連通路63に重なる部分の流路長(X方向の寸法)Lbと、循環路72のうち流路形成部30の隔壁部69に重なる部分の流路長(X方向の寸法)Lcとが図示されている。流路長Lcは、隔壁部69の厚さに相当する。隔壁部69は、循環路72の絞り部分として機能する。したがって、隔壁部69の厚さに相当する流路長Lcが長いほど、循環路72の流路抵抗が増大する。第1実施形態では、流路長Laが流路長Lbよりも長く(La>Lb)、流路長Laが流路長Lcよりも長い(La>Lc)、という関係が成立する。さらに、第1実施形態では、流路長Lbが流路長Lcよりも長い(Lb>Lc)という関係が成立する(La>Lb>Lc)。以上の構成によれば、流路長Laや流路長Lbが流路長Lcよりも短い構成と比較して、連通路63から循環路72を介して循環液室65にインクが流入しやすいという利点がある。
【0050】
以上に例示したとおり、第1実施形態では、圧力室Cが連通路63と循環路72とを介して間接的に循環液室65に連通する。すなわち、圧力室Cと循環液室65とは直接的には連通しない。以上の構成において、圧電素子44の動作により圧力室C内の圧力が変動すると、連通路63内を流動するインクのうちの一部がノズルNから外部に噴射され、残りの一部が連通路63から循環路72を経由して循環液室65に流入する。第1実施形態では、圧電素子44の1回の駆動により連通路63を流通するインクのうち、ノズルNを介して噴射されるインクの量(以下「噴射量」という)が、連通路63を流通するインクのうち循環路72を介して循環液室65に流入するインクの量(以下「循環量」という)を上回るように、連通路63とノズルと循環路72とのイナータンスが選定される。全部の圧電素子44を一斉に駆動した場合を想定すると、複数のノズルNによる噴射量の合計よりも、複数の連通路63から循環液室65に流入する循環量の合計(例えば循環液室65内の単位時間内の流量)のほうが多い、と換言することも可能である。
【0051】
具体的には、連通路63を流通するインクのうち循環量の比率が70%以上となる(噴射量の比率が30%以下)となるように、連通路63とノズルと循環路72との各々の流路抵抗が決定される。以上の構成によれば、インクの噴射量を確保しながら、ノズルの近傍のインク組成物を効果的に循環液室65に循環させることが可能である。概略的には、循環路72の流路抵抗が大きいほど、循環量が減少する一方で噴射量が増加し、循環路72の流路抵抗が小さいほど、循環量が増加する一方で噴射量が減少する、という傾向がある。
【0052】
図5に例示されるとおり、第1実施形態のインクジェット記録装置100は循環機構75を具備する。循環機構75は、循環液室65内のインクを循環するための機構である。第1実施形態の循環機構75は、循環液室65内のインクをサブタンク15に送液し、液体容器14内から供給されるインクと混合される。サブタンク15の内部には、インクが貯蓄される。サブタンク15内には、インクと空気との気液界面が形成される。クリアインク中に含まれるワックス粒子は、密度が低いので、当該インク中で浮きやすい。インク供給路やヘッド内において、空気層や、気泡が滞留する個所において、インクと空気の気液界面が生じ、ここで、同じインクが流れることなくとどまっていると、ワックスが気液界面で異物化する。インクがとどまらず流れていると異物は生じにくい。気液界面の生じる部分でインクを循環させることが、異物の発生防止のために好ましい。インク収容体からヘッドまでの間やヘッド内のいずれか一部である。例えば、サブタンク15、自己封止弁、フィルタ、流路中の角がある部分などが、気泡が付着し滞留することがある。このため、可能な限りヘッド内のノズルに近いほうまで循環させることが好ましい。例えば圧力室か圧力室より下流の個所である。記録中はインクが徐々に移動するので一か所にとどまらず、気液界面に同じインクが長期留まることがないが、待機中は、インクが気液界面にとどまるので、特に、異物化しやすく、循環が必要である。後述の実施例において、循環路なしでフィルタ詰りが発生した例では、サブタンク15の気液界面に異物の発生がみられこれがインクとともに一部ヘッドに流れていきヘッドのフィルタ詰りの原因になっていることが分かった。さらに自己封止弁の中にも小さな気泡が生じておりここでも異物の発生がみられた。
【0053】
第1実施形態の循環機構75は、例えば、循環液室65からインクを吸引する吸引機構(例えばポンプ)と、インクに混在する気泡や異物を捕集するフィルタ機構と、インクの加熱により増粘を低減する加温機構とを具備する(図示略)。循環機構75により気泡や異物が除去されるとともに増粘が低減されたインクが、循環機構75から導入口482を介して液体貯留室Rに供給される。以上の説明から理解される通り、第1実施形態では、液体貯留室R→供給路61→圧力室C→連通路63→循環路72→循環液室65→循環機構75→サブタンク15→導入口482→液体貯留室Rという経路でインクが循環する。
これらの経路の中でも、連通路63→循環路72→循環液室65→循環機構75→サブタンク15が循環帰路に相当する。液体容器から流れてきたインクとの合流点までである。循環において、循環帰路にインクが流通することを特に帰還という。
【0054】
上記の各図では、インクジェットヘッド内に供給されたインクが、ノズルから吐出されずに、循環帰路を通り、インクジェットヘッドの外へ排出し、サブタンクへ帰還する。つまり、インクジェットヘッドからインクを帰還させる循環帰路である。サブタンクへ帰還したインクは、再びインクジェットヘッドへ供給される。この場合、インクジェットヘッド内及びインクジェットヘッド外において、インクを循環させることが可能であり、インクの異物発生の抑制がより優れるので好ましい。
【0055】
一方、
図1において、サブタンクからインクジェットヘッドの方向へ向かいインク流路を流通したインクが、インクジェットジェットヘッド内に供給されることなく、インクジェットヘッドの手前のインク流路で分岐して、インクジェットヘッドからサブタンクの方向へ向かうインク流路となって、サブタンクに帰還してもよい。この場合、分岐点からサブタンクへ向かう流路が循環帰路である。つまり、インクジェットヘッドにインクを供給するインク流路からインクを帰還させる循環帰路である。この場合、分岐点からサブタンクに向かう間に循環機構があってもよい。この場合も、インクジェットヘッド外において、インクを循環させることが可能であり、インクの異物発生の抑制が優れる。
【0056】
なお、インクジェット記録装置が、インク組成物を循環する循環路を有する、と言うときの循環路は、
図1において、サブタンクとインクジェットヘッドの間やインクジェットヘッド内に有する、インクを循環させる部分の全体をいう広義の循環路である。
図5等の循環路72は、広義の循環路の1部分である狭義の循環路である。
また、サブタンクは、タンク状のものとして設けられていなくてもよく、循環帰路を帰還したインクと液体容器から排出されたインクが合流できる合流点があればよい。
【0057】
図5から理解されるとおり、第1実施形態の循環機構75は、Y方向における循環液室65の両側からインクを吸引する。すなわち、循環機構75は、循環液室65のうちY方向の負側の端部の近傍と循環液室65のうちY方向の正側の端部の近傍とからインクを吸引する。なお、Y方向における循環液室65の一方の端部のみからインクを吸引する構成では、循環液室65の両端部間でインクの圧力に差異が発生し、循環液室65内の圧力差に起因して連通路63内のインクの圧力がY方向の位置に応じて相違し得る。したがって、各ノズルからのインクの噴射特性(例えば噴射量や噴射速度)がY方向の位置に応じて相違する可能性がある。以上の構成とは対照的に、第1実施形態では、循環液室65の両側からインクが吸引されるから、循環液室65の内部における圧力差が低減される。したがって、Y方向に配列する複数のノズルにわたりインクの噴射特性を高精度に近似させることが可能である。ただし、循環液室65内でのY方向における圧力差が特段の問題とならない場合には、循環液室65の一方の端部からインクを吸引する構成も採用され得る。
【0058】
前述のとおり、循環路72と連通路63とは平面視で重なり、連通路63と圧力室Cとは平面視で重なる。したがって、循環路72と圧力室Cとは平面視で相互に重なる。他方、
図5及び
図6から理解される通り、循環液室65と圧力室Cとは平面視で相互に重ならない。また、圧電素子44は、X方向に沿って圧力室Cの全体にわたり形成されるから、循環路72と圧電素子44とは平面視で相互に重なる一方、循環液室65と圧電素子44とは平面視で相互に重ならない。以上の説明から理解され通り、圧力室C又は圧電素子44は、循環路72に平面視で重なる一方、循環液室65には平面視で重ならない。したがって、例えば圧力室C又は圧電素子44が循環路72に平面視で重ならない構成と比較して、インクジェットヘッド26を小型化しやすいという利点がある。
【0059】
以上に説明したとおり、第1実施形態では、連通路63と循環液室65とを連通させる循環路72がノズルプレート52に形成される。したがって、ノズルNの近傍のインクを効率的に循環液室65に循環させることが可能である。また、第1実施形態では、第1列L1に対応する連通路63と第2列L2に対応する連通路63とが両者間の循環液室65に共通に連通する。したがって、第1列L1に対応する各循環路72が連通する循環液室と第2列L2に対応する各循環路72が連通する循環液室とを別個に設けた構成と比較して、インクジェットヘッド26の構成が簡素化される(ひいては小型化が実現される)という利点もある。
【0060】
――第2実施形態――
第2実施形態に係るインクジェット記録装置を説明する。なお、以下に例示する各形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0061】
図7は、第2実施形態におけるインクジェットヘッド26の部分的な分解斜視図であり、第1実施形態で参照した
図3に対応する。また、
図8は、インクジェットヘッド26のうち循環液室65の近傍の部分を拡大した平面図及び断面図であり、第1実施形態で参照した
図6に対応する。
【0062】
第1実施形態では、循環路72とノズルNとが相互に離間した構成を例示した。第2実施形態では、
図7及び
図8から理解されるとおり、循環路72とノズルNとが相互に連続する。すなわち、第1部分P1の1個の循環路72は第1列L1の1個のノズルNに連続し、第2部分P2の1個の循環路72は第2列L2の1個のノズルNに連続する。具体的には、
図8に例示されるとおり、各ノズルNの第2区間n2が循環路72に連続する。すなわち、循環路72と第2区間n2とは相互に同等の深さに形成され、循環路72の内周面と第2区間n2の内周面とが相互に連続する。X方向に延在する1個の循環路72の底面にノズルN(第1区間n1)が形成された構成とも換言され得る。具体的には、循環路72の底面のうち中心面Oとは反対側の端部の近傍にノズルNの第1区間n1が形成される。その他の構成は第1実施形態と同様である。例えば、第2実施形態においても、循環路72のうち循環液室65に重なる部分の流路長Laは、循環路72のうち流路形成部30の隔壁部69に重なる部分の流路長Lcよりも長い(La>Lc)。
【0063】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態では、各ノズルNの第2区間n2と循環路72とが相互に連続する。したがって、循環路72とノズルNとが相互に離間する第1実施形態の構成と比較して、ノズルNの近傍のインクを効率的に循環液室65に循環させることができるという効果は格別に顕著である。
【0064】
――第3実施形態――
図9は、第3実施形態におけるインクジェットヘッド26のうち循環液室65の近傍の部分を拡大した平面図及び断面図である。
図9に例示されるとおり、第3実施形態における第1流路基板32の表面Fbには、前述の第1実施形態と同様の循環液室65のほか、第1部分P1及び第2部分P2の各々に対応する循環液室67が形成される。循環液室67は、連通路63及びノズルNを挟んで循環液室65とは反対側に形成されてY方向に延在する長尺状の有底孔(溝部)である。第1流路基板32の表面Fbに接合されたノズルプレート52により、循環液室65及び循環液室67の各々の開口が閉塞される。
【0065】
第3実施形態の循環路72は、第1部分P1及び第2部分P2の各々において、循環液室65と循環液室67とにわたるようにX方向に延在する溝部である。具体的には、循環路72のうち中心面O側(循環液室65側)の端部は平面視で循環液室65に重なり、循環路72のうち中心面Oとは反対側(循環液室67側)の端部は循環液室67に平面視で重なる。また、循環路72は平面視で連通路63に重なる。すなわち、各連通路63は、循環路72を介して循環液室65及び循環液室67の双方に連通する。
【0066】
循環路72の底面にノズルN(第1区間n1)が形成される。具体的には、循環路72のうち平面視で連通路63に重なる部分の底面にノズルNの第1区間n1が形成される。第2実施形態と同様に、第3実施形態においても、循環路72とノズルN(第2区間n2)とが相互に連続する、と表現することも可能である。以上の説明から理解されるとおり、第1実施形態及び第2実施形態では循環路72の端部に連通路63及びノズルNが位置するのに対し、第3実施形態では、X方向に延在する循環路72のうちの途中の部分に連通路63及びノズルNが位置する。
【0067】
以上の説明から理解される通り、第3実施形態では、圧力室C内の圧力が変動すると、連通路63内を流動するインクの一部がノズルNから外部に噴射され、残りの一部が連通路63から循環路72を介して循環液室65及び循環液室67の双方に供給される。循環液室67内のインクは、循環液室65内のインクとともに循環機構75により吸引され、循環機構75により気泡や異物が除去されるとともに増粘が低減されてから液体貯留室Rに供給される。
【0068】
第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第3実施形態では、循環液室65に加えて循環液室67が形成されるから、第1実施形態と比較して循環量を充分に確保できるという利点がある。なお、
図9では、第2実施形態と同様に循環路72とノズルNとを連続させた構成を例示したが、第3実施形態において、第1実施形態と同様に循環路72とノズルNとを相互に離間させることも可能である。
また、第3実施形態において、循環液室65がなく、2つの循環液室67のみとしてもよい。つまり、第1部分P1及び第2部分P2の各々に対応する循環液室67のみを有する構造となる。このような構造の場合には第1部分P1と第2部分P2を循環するインクが混合しないような循環機構を構成することも可能である。
【0069】
-水系クリアインク組成物-
本実施形態の水系クリアインク組成物(以下、単に「クリアインク組成物」ともいう)は、ワックス粒子を含有する。ここで、「水系のインク組成物」とは、インクの主溶媒として少なくとも水を含むインク組成物である。例えばインク組成物の総質量に対する水の含有量が、30質量%以上のインク組成物である。水の含有量は、インク組成物の総質量に対して、50質量%以上が好ましく、60質量%以上が好ましい。
「クリアインク組成物」とは、記録媒体を着色するために用いる着色インク組成物ではなく、記録物の耐擦性や光沢感などを得るためなどの、他の目的で用いる補助インク組成物である。クリアインク組成物は、色材の含有量が、インク組成物の総量(100質量%)に対し、0.10質量%以下が好ましく、0.05質量%以下が好ましく、0質量%でもよい。
【0070】
――ワックス粒子――
本実施形態におけるワックス粒子は、記録物の優れた耐擦性を得るためにクリアインク組成物中に含まれる。しかしながら、ワックス粒子は密度が低いので、クリアインク組成物の液面に浮きやすく、インク流路、インクジェットヘッド内で、気液界面が生じたときに、気液界面に浮いてきて、気液界面異物が生じやすい。これに対して、本実施形態のインクジェット記録方法では、クリアインク組成物を循環させることで異物の発生を抑制する。ワックス粒子は、例えば、ワックスを水中に分散させた水系エマルション中に含まれるワックス粒子である。ワックス粒子は、例えば、ワックス及び界面活性剤Aを含有する。界面活性剤Aは、ワックスを分散するための界面活性剤である。
【0071】
ワックスとしては、特に限定されないが、例えば、炭化水素ワックス、及び脂肪酸と1価アルコール又は多価アルコールとの縮合物であるエステルワックスが挙げられる。炭化水素ワックスとしては、特に限定されないが、例えば、パラフィンワックス、及びポリオレフィンワックスが挙げられる。これらのワックスは1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。これらのワックスの中でも、耐擦性を向上させる観点から、炭化水素ワックスであることが好ましく、ポリオレフィンワックスであることがより好ましい。ポリオレフィンとしては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
炭化水素ワックスを用いると、耐擦性がより向上するが、ワックス粒子の分散安定性が損なわれやすく、異物が発生しやすくなる。これに対して、本実施形態のインクジェット記録方法では、クリアインク組成物を循環させることで異物の発生を抑制する。
【0072】
パラフィンワックスの市販品としては、例えば、AQUACER497、及びAQUACER539(以上製品名、BYK社製)が挙げられる。
【0073】
ポリオレフィンワックスの市販品としては、例えば、ケミパール S120、S650、S75N(製品名、三井化学株式会社製)、AQUACER501、AQUACER506、AQUACER513、AQUACER515、AQUACER526、AQUACER593、及びAQUACER582(製品名、BYK社製)が挙げられる。
【0074】
ワックスの数平均分子量は、好ましくは10,000以下であり、より好ましくは8,000以下であり、さらに好ましくは6,000以下であり、よりさらに好ましくは4,000以下である。ワックスの数平均分子量は、好ましくは1,000以上である。
【0075】
ワックスの融点は、好ましくは50℃以上200℃以下であり、より好ましくは70℃以上180℃以下であり、さらに好ましくは90℃以上180℃以下である。
【0076】
ワックス粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以上500nm以下であり、より好ましくは35nm以上300nm以下であり、より好ましくは、35~300nmであり、さらに好ましくは40nm以上120nm以下であり、特に好ましくは40~150nmである。
ワックス粒子の平均粒子径が当該範囲内であることで、記録物の耐擦性をより向上させることができるが、クリアインク組成物中で凝集しやすく異物が特に発生しやすくなる。本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、クリアインク組成物を循環させることで異物の発生を抑制することができる。平均粒子径は、特に明示がない限り体積基準のものである。測定方法としては、例えば、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、日機装株式会社社製のマイクロトラックUPA)が挙げられる。
【0077】
ワックス粒子の含有量は、クリアインク組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上4質量%以下である。ワックスの含有量が上記範囲内にあることにより、記録物の耐擦性をより向上させることができる。
【0078】
また、着色インク組成物のワックスの含有量よりもクリアインク組成物のワックスの含有量が多いことが好ましく、0.5質量%以上多いことが好ましく、1質量%以上多いことが好ましい。また、特に限定されないが、着色インク組成物のワックスの含有量よりもクリアインク組成物のワックスの含有量が10質量%以下多いことが好ましい。
【0079】
ワックスは、分散体(粒子)としてインクに含まれることが好ましい。ワックスの分散体は、アニオン分散性、ノニオン分散性等のものを用いることができる。ノニオン性の分散体は、ワックス粒子がノニオン性のものであるか、及び/又はノニオン性界面活性剤でワックス粒子を分散したことなどによって、ワックス分散液が全体としてノニオン性になっているものである。アニオン性の分散体は、同様に、ワックス粒子がアニオン性のものであるか、及び/又はアニオン性界面活性剤でワックス粒子を分散したことなどによって、ワックス分散液が全体としてアニオン性になっているものである。
このうち、耐擦性がより優れる点で、ノニオン分散性のワックス分散体が好ましいが、反面、異物の発生がしやすい傾向があるが、インクを循環させることで、優れた異物抑制が得られる。
【0080】
――界面活性剤A――
ワックスの分散に用いる界面活性剤Aとしては、例えば、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、ノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤を用いることで、耐擦性がより向上するが、ワックス粒子の分散安定性が損なわれやすく、異物が発生しやすくなる。これに対して、本実施形態のインクジェット記録方法では、クリアインク組成物を循環させることで異物の発生を抑制する。
【0081】
ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアルキレンオキシドのエーテル類、高級脂肪族酸エステル類、高級脂肪族アミド類が挙げられる。
【0082】
ここで、高級とは炭素数9以上であり、好ましくは炭素数が9以上30以下であり、より好ましくは12以上20以下である。また、脂肪族は非芳香族の意味であり、鎖式脂肪族、環式脂肪族を含む。鎖式脂肪族の場合、炭素炭素二重結合を含んでいてもよいが、三重結合は含まないものとする。
【0083】
ポリアルキレンオキシドのエーテル類は、ポリアルキレンオキシド骨格の末端のエーテル酸素に対して脂肪族基やアリール基等が結合しエーテル結合を有する物質である。ポリアルキレンオキシドは、アルキレンオキシドが繰り返し構成されたものである。ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、それらの併用などがあげられ、併用の場合、それらの並び順は限られずランダムでもよい。アルキレンオキシドの平均付加モル数nとしては、特に限定されないが、例えば、5以上50以下が好ましく、10以上40以下がより好ましい。ポリアルキレンオキシドのエーテル類の脂肪族基は、好ましくは高級脂肪族基である。高級及び脂肪族は上述の定義による。脂肪族基は、分岐状であっても、直鎖状であってもよい。ポリアルキレンオキシドのエーテル類のアリール基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基等の多環アリール基が挙げられる。脂肪族基及びアリール基は、水酸基、エステル基等の官能基で置換されていてもよい。また、ポリアルキレンオキシドのエーテル類は、分子中にポリアルキレンオキシド鎖を複数個有する化合物でよく、分子中のポリアルキレンオキシド骨格の数は1~3が好ましい。
【0084】
ポリアルキレンオキシドのエーテル類としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルグルコシド、ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、及びポリオキシアルキレングリコールアルキルフェニルエーテルが挙げられる。
【0085】
高級脂肪族酸エステル類は、高級脂肪族の酸のエステルである。高級脂肪族は、上述の定義によるものであり、例えば水酸基やその他の官能基で置換されていてもよく、分枝構造を有していてもよい。高級脂肪族酸エステル類のアルコール残基の構造は、環状又は鎖状の有機基であればよく、炭素数は、好ましくは1以上30以下であり、より好ましくは2以上20以下であり、さらに好ましくは3以上10以下である。高級脂肪族酸エステル類は、ポリアルキレンオキシド骨格を有する複合型であってもよい。
【0086】
高級脂肪族酸エステル類としては、特に限定されないが、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びポリオキシアルキレンアセチレングリコールが挙げられる。
【0087】
高級脂肪族アミド類は、高級脂肪族のアミドである。高級脂肪族とは上述の定義のものであり、例えば、水酸基やその他の官能基で置換されていてもよく、分枝構造を有していてもよい。高級脂肪族アミン又はアミド類はポリアルキレンオキシド骨格を有する複合型であってもよい。
【0088】
高級脂肪族アミド類としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族アルキルアミド、脂肪酸アルカノールアミド、及びアルキロールアマイドが挙げられる。
【0089】
ノニオン性界面活性剤は、好ましくはHLB値が7以上18以下の界面活性剤であることが好ましい。
【0090】
ノニオン性界面活性剤の市販品としては、例えば、アデカトール TN-40、TN-80、TN-100、LA-675B、LA-775、LA-875、LA-975、LA-1275、OA-7(以上製品名、株式会社ADEKA製)、CL-40、CL-50、CL-70、CL-85、CL-95、CL-100、CL-120、CL-140、CL-160、CL-200、CL-400(以上製品名、三洋化成工業株式会社製)、ノイゲン XL-40、-41、-50、-60、-6190、-70、-80、-100、-140、-160、-160S、-400、-400D、-1000、ノイゲン TDS-30、-50、-70、-80、-100、-120、-200D、-500F、ノイゲン EA-137、-157、-167、-177、-197D、DKS NL-30、-40、-50、-60、-70、-80、-90、-100、-110、-180、-250、ノイゲン ET-89、-109、-129、-149、-159、-189、ノイゲン ES-99D、-129D、-149D、-169D、ソルゲン TW-20、-60、-80V、-80DK、エステル F-160、-140、-110、-90、-70(以上製品名、第一工業製薬株式会社製)、ラテムル PD-450、PD-420、PD-430、PD-430S、レオドール TW-L106、TW-L120、TW-P120、TW-S106V、TW-S120V、TW-S320V、TW-O106V、TW-O120V、TW-O320V、レオドール 430V、440V、460V、レオドールスーパー SP-L10、TW-L120、エマノーン 1112、3199V、4110V、3299RV、3299V、エマルゲン 109P、1020、123P、130K、147、150、210P、220、306P、320P、350、404、408、409PV、420、430、1108、1118S-70、1135S-70、1150S-60、4085、A-60、A-90、A-500、B-66(以上製品名、花王株式会社製)、ソルボンT-20、ソルボンS-10E、ペグノール 24-0(以上製品名、東邦化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0091】
カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、第1級、第2級及び第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、及びオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
【0092】
アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、高級脂肪酸塩、石けん、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、モノアルキルリン酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩、及びポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテルリン酸エステル塩が挙げられる。
【0093】
両性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アミノ酸系としてアルキルアミノ脂肪酸塩、ベタイン系としてアルキルカルボキシルベタイン、及びアミンオキシド系としてアルキルアミンオキシドが挙げられる。
【0094】
界面活性剤の分子量は、好ましくは10,000以下であり、より好ましくは7,000以下であり、さらに好ましくは5,000以下であり、さらに好ましくは3,000以下であり、さらに好ましくは1,000以下である。また、界面活性剤の分子量は、好ましくは100以上であり、より好ましくは200以上であり、さらに好ましくは300以上である。界面活性剤の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定装置を用い、ポリスチレンを標準ポリマーとして測定を行うことで、重量平均分子量として得ることができる。また、化学構造式が特定可能なものは計算で求めることができる。
【0095】
界面活性剤Aの含有量は、ワックス100質量部に対して、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは8質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以下である。
また、界面活性剤の含有量は、0質量部以上であり、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上である。
【0096】
クリアインク組成物中、界面活性剤Aの含有量は、クリアインク組成物の総質量に対して、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.6質量%以下であり、さらに好ましくは0.4質量%以下である。また、当該含有量は、0質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上である。
【0097】
――樹脂粒子――
本実施形態に用いるクリアインク組成物は、樹脂粒子を含有することが好ましい。クリアインク組成物は、樹脂粒子を含有することで、クリアインク組成物が付着した記録媒体を加熱すると、樹脂の被膜を形成することができる。樹脂粒子は、例えば、樹脂を水中に分散させた水系エマルション中に含まれる樹脂粒子である。
【0098】
樹脂としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、及びポリエステル系樹脂が挙げられる。これらの樹脂の中でも、アクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂は、アクリル系モノマーを少なくとも構成として重合させて得た樹脂である。アクリル系モノマーは、(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「メタクリル」及び「アクリル」の両方を含む概念である。アクリル系樹脂を、(メタ)アクリル系樹脂ともいう。
【0099】
(メタ)アクリル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂エマルションが挙げられる。アクリル樹脂エマルションとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単量体を重合させたもの、及び(メタ)アクリル系単量体と他の単量体とを共重合させたものが挙げられる。なお、上記の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体のうちいずれの形態であってもよい。アクリル樹脂エマルションの市販品としては、例えば、モビニール966A、972、8055A(以上製品名、日本合成化学工業株式会社製)、マイクロジェルE-1002、マイクロジェルE-5002(以上製品名、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001、ボンコート5454(以上製品名、DIC株式会社製)、SAE1014(製品名、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK-200(以上製品名、サイデン化学株式会社製)、ジョンクリル7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、62J、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(以上製品名、BASF社製)、及びNKバインダー R-5HN(製品名、新中村化学社製商品名)が挙げられる。これらの樹脂の中でも、(メタ)アクリル系樹脂又はスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体系樹脂であることが好ましく、アクリル系樹脂又はスチレン-アクリル酸共重合体系樹脂であることがより好ましく、スチレン-アクリル酸共重合体系樹脂であることがさらに好ましい。
【0100】
ウレタン系樹脂としては、例えばウレタン樹脂エマルジョンが挙げられる。ウレタン樹脂エマルジョンとしては、特に限定されないが、例えば、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、及び主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂が挙げられる。ウレタン樹脂エマルジョンの市販品としては、例えば、サンキュアー2710(製品名、日本ルーブリゾール株式会社製)、パーマリンUA-150(製品名、三洋化成工業株式会社製)、スーパーフレックス 460、470、610、700、860(以上製品名、第一工業製薬株式会社製)、NeoRez R-9660、R-9637、R-940(以上製品名、楠本化成株式会社製)、アデカボンタイター HUX-380、290K(以上製品名、株式会社ADEKA製)、タケラック W-605、W-635、WS-6021(以上製品名、三井化学株式会社製)、及びポリエーテル(大成ファインケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0101】
ポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリエステル系樹脂は、スルホ基(スルホン酸基)で置換されたスルホポリエステル樹脂(ポリスルホエステル樹脂)であってもよい。
【0102】
樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-35℃以上であり、より好ましくは0℃以上であり、さらに好ましくは20℃以上であり、よりさらに好ましくは35℃以上であり、さらにより好ましくは40℃以上である。また、樹脂のガラス転移温度は、好ましくは70℃以下であり、より好ましくは60℃以下である。ガラス転移温度は、例えば、樹脂の重合に用いるモノマーの種類や構成比、重合条件、樹脂の変性の少なくとも1種を変化させることにより変化させることができる。例えば、重合性官能基の数を減らし、樹脂の架橋密度を低くしたり、分子量の比較的大きなモノマー(炭素原子数の大きなモノマー)を用いたりすることにより、ガラス転移温度を調整することができる。重合条件としては、重合の際の温度、モノマーを含有させる媒体の種類、媒体中のモノマー濃度、並びに、重合の際に用いる重合開始剤及び触媒の種類及び使用量が挙げられる。樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121に基づいて、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定することができる。
【0103】
樹脂粒子の含有量は、ワックス100質量部に対して、好ましくは500質量部以下であり、より好ましくは400質量部以下であり、さらに好ましくは300質量部以下である。また、樹脂粒子の含有量は、0質量部以上であり、好ましくは50質量部以上であり、より好ましくは100質量部以上である。
【0104】
クリアインク組成物中、樹脂粒子の含有量は、クリアインク組成物の総質量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。また、当該含有量は、0質量%以上であり、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは2.0質量%以上であり、さらに好ましくは3.0質量%以上である。
【0105】
――消泡剤――
クリアインク組成物は、アセチレングリコール系消泡剤等の消泡剤を含有していてもよい。アセチレングリコール系消泡剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される1種以上が好ましい。アセチレングリコール系消泡剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズ、オルフィンE1010等のEシリーズ(以上製品名、エアープロダクツ社製)、サーフィノール 465、61、DF110D(以上製品名、日信化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0106】
クリアインク組成物中、消泡剤の含有量は、クリアインク組成物の総質量に対して、好ましくは10.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下である。また、当該含有量は、0質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上である。
【0107】
――水――
本実施形態に係るクリアインク組成物は、水を含有する。水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水が挙げられる。
【0108】
クリアインク組成物における、水の含有量は、クリアインク組成物の総量に対して、好ましくは10.0質量%以上であり、より好ましくは10.0質量%以上80.0質量%以下であり、より好ましくは15.0質量%以上75.0質量%以下であり、さらに好ましくは20.0質量%以上70.0質量%以下である。
【0109】
――水溶性有機溶剤――
本実施形態のクリアインク組成物は、粘度調整及び保湿効果の観点から、水溶性有機溶剤をさらに含有していてもよい。
【0110】
水溶性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、低級アルコール類、グリコール類、アセチン類、グリコール類の誘導体、含窒素系溶剤、β-チオジグリコール、及びスルホランが挙げられる。これらの中でも、耐擦性をより向上させる観点から、含窒素系溶剤又はグリコール類が含まれることが好ましく、グリコール類が含まれることが好ましく、含窒素系溶剤及びグリコール類が含まれることがより好ましい。
【0111】
クリアインク組成物は、窒素系溶剤を含むことが好ましい。含窒素系溶剤としては、分子中に窒素原子を有する溶剤であればよい。例えば、アミド系溶剤があげられる。アミド系溶剤としては、環状アミド類、非環状アミド類などがあげられる。環状アミド類は、特に限定されないが、例えば、2-ピロリドン、N-アルキル-2-ピロリドン、1-アルキル-2-ピロリドン、及びε-カプロラクタムが挙げられる。これらのピロリドン類があげられる。
非環状アミド類は、N,N-ジアルキルプロパンアミド類などがあげられ、特に、3-アルコキシ-N,N-ジアルキルプロパンアミドなどがあげられる。例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドなどがあげられる。
【0112】
含窒素系溶剤の含有量は、水溶性有機溶剤の合計含有量に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。また、含窒素系溶剤の含有量は、水溶性有機溶剤の合計含有量に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0113】
クリアインク組成物中、含窒素系溶剤の含有量は、クリアインク組成物の総質量に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上である。また、含窒素系溶剤の含有量は、クリアインク組成物の総質量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0114】
グリコール類としては、特に限定されないが、例えば、炭素数4以下のアルカンのジオール、炭素数4以下のアルカンのジオールが分子間の水酸基同士で縮合した縮合物等が挙げられる。縮合物の場合、縮合数は2~5が好ましい。グリコール類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びトリプロピレングリコールが挙げられる。
【0115】
グリコール類の含有量は、水溶性有機溶剤の合計含有量に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。また、グリコール類の含有量は、水溶性有機溶剤の合計含有量に対して、100質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下である。
【0116】
クリアインク組成物中、グリコール類の含有量は、クリアインク組成物の総質量に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。また、グリコール類の含有量は、クリアインク組成物の総質量に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0117】
低級アルコール類としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール、及び1,2-ヘキサンジオールが挙げられる。
【0118】
アセチン類としては、特に限定されないが、例えば、モノアセチン、ジアセチン、及びトリアセチンが挙げられる。
【0119】
グリコール類の誘導体としては、特に限定されないが、例えば、グリコール類のエーテル化物等が挙げられる。グリコール類の誘導体としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0120】
これらの水溶性有機溶剤の中でも、グリセリン、及び低級アルコール類が好ましく、グリセリン、及び1,2-ヘキサンジオールがより好ましい。
【0121】
クリアインク組成物が水溶性有機溶剤を含有する場合、その含有量は、クリアインク組成物の総量に対して、好ましくは1.0質量%以上50.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以上40.0質量%以下であり、さらに好ましくは10.0質量%以上30.0質量%以下である。
【0122】
水溶性有機溶剤は、標準沸点が150~280℃のものが好ましい。インク組成物は、標準沸点が280℃超の水溶性有機溶剤の含有量が、2質量%以下が好ましく、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下が好ましく、0質量%でもよい。
【0123】
――界面活性剤B――
本実施形態のクリアインク組成物は、インクジェット記録方式でインク組成物を安定に吐出させることができ、かつ、インク組成物の浸透を適切に制御できる観点から、好ましくは界面活性剤Bをさらに含有する。界面活性剤Bとしては、特に限定されないが、例えば、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0124】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、及びパーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。フッ素系界面活性剤の市販品としては、例えば、サーフロンS144、S145(以上製品名、AGCセイミケミカル株式会社製)、FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(以上製品名、住友スリーエム株式会社製)、FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(以上製品名、Dupont社製)、FT-250、251(以上製品名、株式会社ネオス製)が挙げられる。
【0125】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサン系化合物、及びポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上製品名、BYK社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上製品名、信越化学株式会社製)が挙げられる。
【0126】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、アセチレン化合物が、2個の水酸基を有するものがあげられる。アセチレン化合物は、アセチレンや、アセチレンがポリオキシアルキレン鎖で変性されたもの、などがあげられる。水酸基は、アセチレンや、ポリオキシアルキレン鎖などに有することができる。
【0127】
クリアインク組成物が界面活性剤を含有する場合、その含有量は、クリアインク組成物の総量に対して、好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上3.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上1.0質量%以下である。
【0128】
クリアインク組成物は、その他の添加剤として、pH調整剤、柔軟剤、ワックス、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防カビ・防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート化剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム)等の、種々の添加剤を適宜含有してもよい。
【0129】
クリアインク組成物における、固形分濃度は、好ましくは3.0質量%以上であり、より好ましくは5.0質量%以上であり、さらに好ましくは8.0質量%以上である。当該固形濃度は、好ましくは30.0質量%以下であり、より好ましくは25.0質量%以下であり、さらに好ましくは20.0質量%以下である。
【0130】
本実施形態において、クリアインク組成物は、上記した各成分を任意の順序で混合し、必要に応じてろ過等を行って不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。ろ過方法としては、遠心ろ過、フィルタろ過等を必要に応じて行なうことができる。
【0131】
-水系着色インク組成物-
本実施形態の水系着色インク組成物(以下、単に「着色インク組成物」ともいう)は、色材を含有する。着色インク組成物は、記録媒体を着色するために用いるインクである。
【0132】
色材は、顔料であっても、染料であってもよい。
【0133】
顔料は、有機顔料であっても、無機顔料であってもよい。有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料等の多環式顔料、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化クロム等の金属酸化物顔料、カーボンブラックが挙げられる。
【0134】
顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.(Colour Index Generic Name)ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、153、155、180、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101、104、105、106、108、112、114、122、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントブルー1、2、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36が挙げられる。
【0135】
黒色用の顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントブラック1、7(カーボンブラック)、11が挙げられる。
【0136】
白色用の白色顔料としては、特に限定されないが、例えば、塩基性炭酸鉛であるC.I.ピグメントホワイト1、酸化亜鉛からなるC.I.ピグメントホワイト4、硫化亜鉛と硫酸バリウムとの混合物からなるC.I.ピグメントホワイト5、酸化チタンからなるC.I.ピグメントホワイト6、他の金属酸化物を含有する酸化チタンからなるC.I.ピグメントホワイト6:1、硫化亜鉛からなるC.I.ピグメントホワイト7、炭酸カルシウムからなるC.I.ピグメントホワイト18、クレーからなるC.I.ピグメントホワイト19、雲母チタンからなるC.I.ピグメントホワイト20、硫酸バリウムからなるC.I.ピグメントホワイト21、石膏からなるC.I.ピグメントホワイト22、酸化マグネシウム・二酸化ケイ素からなるC.I.ピグメントホワイト26、二酸化ケイ素からなるC.I.ピグメントホワイト27、及び無水ケイ酸カルシウムからなるC.I.ピグメントホワイト28が挙げられる。これらの中でも、発色性、隠性などに優れるため、酸化チタン(C.I.ピグメントホワイト6)が好ましい。
【0137】
これらの着色用の顔料の他に、パール顔料、メタリック顔料等の光輝顔料を用いてもよい。インク組成物中での顔料の分散性を高めるために、顔料に表面処理を施してもよい。顔料の表面処理とは、物理的処理又は化学的処理によって、顔料の粒子表面に、インク組成物の媒体と親和性を有する官能基を導入する方法である。例えば、後述の水系インク組成物に用いる場合は、カルボキシ基、スルホ基等の親水性基を導入することが好ましい。なお、これらの顔料は、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0138】
色材の含有量は、着色インク組成物の総質量に対して、好ましくは0.1質量%以上30.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上20.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下であり、よりさらに好ましくは1.5質量%以上10.0質量%以下であり、特に好ましくは2.0質量%以上5.0質量%以下である。また、色材の含有量は、着色インク組成物の総質量に対して、8.0質量%以上14.0質量%以下が好ましい。顔料の含有量を上記の範囲内とすることにより、記録媒体などに形成する画像などの発色を確保すると共に、インクジェットインクの粘度上昇や、インクジェットヘッドにおける目詰まりの発生を抑えることができる。
【0139】
着色インク組成物は、水溶性有機溶剤、上述の界面活性剤B、消泡剤、樹脂粒子、又はその他の添加剤を含んでいてもよい。これらの成分の例示及び含有量は、上述のクリアインク組成物と同様である。また、着色インク組成物は、その他の成分として、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート化剤等の、種々の添加剤を適宜添加することもできる。
【0140】
着色インク組成物は、ワックスを含んでいても、含んでいなくてもよい。着色インク組成物は、ワックスの含有量が、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以下であり、0質量%であってもよい。
【0141】
インクジェット記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法では、上述のインクジェット記録装置を用いる。本実施形態に係るインクジェット記録方法、上述の着色インク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる着色インク付着工程(以下、単に「着色インク付着工程」ともいう。)と、上述のクリアインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させるクリアインク付着工程(以下、単に「クリアインク付着工程」ともいう。)と、を備える。当該クリアインク付着工程は、循環路を循環させたクリアインク組成物を吐出する。
なお、記録方法におけるこれらの工程は、同時に実施されてもよいし、任意の順で実施されてもよいが、着色インク付着工程、クリアインク付着工程の順に行われることが好ましい。
【0142】
-着色インク付着工程-
着色インク付着工程において、上述の着色インク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる。
【0143】
――記録媒体――
記録媒体として、特に限定されないが、例えば、吸収性及び非吸収性いずれの記録媒体を用いてもよいが、記録媒体は、好ましくは、低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体である。
【0144】
本明細書における「吸収性記録媒体」は、インク組成物を吸収する性質を有する記録媒体を意味する。「低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体」は、インク組成物を全く吸収しない、又はほとんど吸収しない性質を有する記録媒体を意味する。定量的には、「低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体」は、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体である。「吸収性記録媒体」は、当該水吸収量が10mL/m2超えである記録媒体である。このブリストー法の詳細は、「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」の記載による。
【0145】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル(以下、「PVC」ともいう)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック類のフィルム又はプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレート又はプラスチック製のフィルム、ステンレス、真鋳等の合金のプレートが挙げられる。
低吸収性記録媒体としては、アナログ印刷などに用いることもできる塗工紙等が挙げられる。塗工紙は、表面にインク吸収性の低い塗工層が設けられた印刷用紙である。
【0146】
着色インク付着工程は、好ましくは循環路を循環させた着色インク組成物を吐出する。着色インク組成物を循環させることで、着色インク組成物中の成分の凝集を防止して異物の発生を抑制する。着色インク組成物の循環帰路の循環量(循環速度)は、1つのインクジェットヘッドあたり、好ましくは0.5g/分以上である。また、当該循環量(循環速度)は、1つのインクジェットヘッドあたり、好ましくは12g/分以下である。また、当該循環量(循環速度)は、1つのインクジェットヘッドあたり、好ましくは0.5g/分以上12g/分以下であり、より好ましくは1g/分以上9g/分以下であり、さらに好ましくは2g/分以上5g/分以下である。ここで1つのインクジェットヘッドは、1つのインク導入口から導入されたインクが吐出可能なノズルの群を1まとめにした単位とし、1まとめにしたノズルの群から帰還されるインクの量である。
【0147】
着色インクの循環は、記録中に行ってもよいし、後述する待機中に行ってもよい。着色インクに含む顔料などの成分は、ノズルで着色インクが乾燥することで、吐出安定性を低下させる傾向があり、記録中に循環を行うことが好ましい。
【0148】
-クリアインク付着工程-
クリアインク付着工程では、上述のクリアインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体へ付着させる。クリアインク付着工程において、記録媒体は、上述の着色インク付着工程を経て着色インクが付着した記録媒体であることが好ましい。ワックスは記録物の表面の滑りをよくすることで、記録物の耐擦性させることができる。クリアインク付着工程においては、着色インクが付着した面を覆うオーバーコートとして、クリアインクを付着させることが好ましい。
【0149】
クリアインク付着工程は、循環路を循環させたクリアインク組成物を吐出する。本発明者らは、クリアインク組成物においてもその成分の凝集等の理由により異物が発生することを見出した。そこでクリアインク組成物も、循環路により循環させることで、インクの吐出安定性を向上させることができる。クリアインク組成物の循環帰路の循環量は、上述の着色インク組成物の循環帰路の循環量と同様の範囲のものにすることができ、ただし、着色インク組成物の循環帰路の循環量とは独立したものにできる。
【0150】
循環路を循環させたクリアインク組成物を吐出するクリアインク付着工程は、記録中に循環路を循環させたクリアインク組成物を吐出させてもよいし、後述する待機中に循環路を循環させたクリアインク組成物を吐出させてもよい。クリアインク組成物の異物の発生をより抑制できる点で後者が好ましい。後者の場合、待機中に循環路において循環させたクリアインク組成物を、記録の開始後の初期の段階で吐出する。待機中に循環路において循環させたクリアインク組成物の吐出が終わった後、またはこれと同時に、待機中に循環路において循環させていないクリアインク組成物の吐出を行ってもよい。
【0151】
インクジェット記録装置は、待機中に、水系クリアインク組成物を循環させることが好ましい。「待機中」とは、インクジェット記録装置が、記録を行っていないときを意味する。記録中には、インクの流動があり気液界面等の異物が発生しやすい場所にインクが長時間留まることは比較的少ないが、待機中には、気液界面等の異物が発生しやすい場所にインクが長時間留まり、異物が発生しやすくなる。そのため、待機中にクリアインク組成物を循環させて異物の発生を防止することが好ましい。待機中は、例えば、夜間や休日などの記録を行っていないときであってもよい。また、記録と記録の間の、記録を行っていないとき、であってもよい。待機の時間は、連続する時間として、例えば、10分以上である。
【0152】
インクジェット記録装置が、循環路中に気液界面が生成されるものである場合、インクを循環させることにより、異物の発生の抑制ができ、好ましい。気液界面は、インクと空気の界面が生成されている場所であればよく、例えば、サブタンクのような空気層を有する場所、フィルタやインク流路などの気泡が生じてしまった場所、などがあげられる。
このうち気液界面の面積が大きく、異物発生の抑制の効果が大きい点で、空気層を有する気液界面が好ましい。1つの連続する気液界面の面積として、1cm2以上が好ましい。
【0153】
待機中のクリアインク組成物の循環帰路の循環量は、1つのインクジェットヘッドあたり、好ましくは0.5g/分以上である。また好ましくは12g/分以下である。また、当該循環帰路の循環量は、好ましくは0.5g/分以上12g/分以下であり、より好ましくは1g/分以上9g/分以下であり、さらに好ましくは2g/分以上5g/分以下である。
【0154】
インクジェット記録方法は、インクの付着工程のときに、記録媒体に付着したインクが直ちに乾燥するように、インクが付着する記録媒体が加熱されている一次乾燥工程を備えてもよい。一次乾燥工程は。プラテンに設けられたヒータ、プラテンの上方からIRを照射するIR炉、プラテンの上方から風を記録媒体に送る送風機構等を用いることができる。一次乾燥工程を用いる場合または用いない場合の、インクを記録媒体に付着する際の、ヘッドと対向する部分の記録媒体の表面温度は、45℃以下が好ましく、40℃以下が好ましく、38℃以下が好ましく、35℃以下が好ましい。また、20℃以上が好ましく、25以上が好ましく、28℃以上が好ましく、30℃以上が好ましい。該温度は、記録中の、ヘッドと対向する部分の記録媒体の表面温度の最高温度である。温度が上記範囲の場合、吐出安定性や画質がより優れる。
【0155】
インクジェット記録方法は、インクの付着工程のときに、ヘッドやインク流路に設けた、ヒータによりインクを加温して、加温されたインクを吐出する温調工程を備えてもよい。温調工程により、吐出するインクの温度を安定して粘度を一定にしたり、粘度を下げたりすることができる。これにより吐出安定性がより優れる。温調工程を行う場合又は行わない場合の、インク付着工程の、吐出するインクの温度は、45℃以下が好ましく、40℃以下が好ましく、38℃以下が好ましく、35℃以下が好ましい。また、20℃以上が好ましく、25℃以上が好ましく、28℃以上が好ましく、30℃以上が好ましい。
【0156】
インクジェット記録方法は、インクの付着工程が終わった後に、インクが付着した記録媒体を、さらに加熱する二次乾燥工程を備えてもよい。二次乾燥工程は、ヘッドよりも、記録媒体の搬送方向の下流側に設けた加熱機構で行うことができる、加熱機構は、ヒータ、IR炉、送風機構、などを用いることができる。二次乾燥工程の、記録媒体の表面温度は、120℃以下が好ましく、100℃以下が好ましく、80℃以下が好ましい。また50℃以上が好ましく、60℃以上が好ましく、70℃以上が好ましい。温度がこの範囲の場合、耐擦性がより優れる。
【0157】
-処理液付着工程-
本実施形態のインクジェット記録方法は、処理液を記録媒体へ付着させる処理液付着工程を有していてもよい。処理液の付着は、ローラー塗布、スプレー塗布、バーコート塗布、インクジェットヘッドから吐出する、などを用いることができる。インクジェットヘッドから吐出して付着が好ましい。処理液付着工程は、着色インク付着工程の前に行われることが好ましい。
【0158】
処理液は、好ましくはインク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する。処理液は、凝集剤がインク組成物と相互作用することにより、インク組成物に含まれる成分を凝集させインク組成物を増粘又は不溶化する。これにより、その後に付着させるインク組成物の着弾干渉、ブリードを抑制でき、ラインや微細像等を均質に描画することができる。処理液を用いる場合、インクの成分を凝集させることにより記録媒体上でのインクの流動を止めることができ、インクの蒸発率が低くとも画質が優れる点で好ましい。また、インクの蒸発率が低くても画質が優れるため、インクの蒸発率を低くすることができ、色差低減が優れ好ましい。
【0159】
――凝集剤――
凝集剤は、特に限定されないが、例えば、カチオン性樹脂、有機酸、多価金属塩が挙げられる。インク組成物に含まれる成分のうち、凝集剤により凝集する成分としては、上述の顔料、樹脂粒子に用いられる樹脂が挙げられる。
【0160】
カチオン性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン及びポリアリルアミン等のポリアリルアミン樹脂、アルキルアミン重合物、特開昭59-20696号、同59-33176号、同59-33177号、同59-155088号、同60-11389号、同60-49990号、同60-83882号、同60-109894号、同62-198493号、同63-49478号、同63-115780号、同63-280681号、特開平1-40371号、同6-234268号、同7-125411号、同10-193776号公報等に記載された1~3級アミノ基、4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。カチオン性樹脂の重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、更に5,000~10万程度が好ましい。カチオン性樹脂の重量平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定される。
【0161】
これらのカチオン性樹脂の中でも、カチオン性の、ポリアリルアミン樹脂、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂等、の、アミン系樹脂が、画質が優れる点で好ましい。ポリアリルアミン樹脂、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂は、それぞれポリマーの主骨格中に、ポリアリルアミン構造、ポリアミン構造、ポリアミド構造を有する樹脂である。
【0162】
有機酸としては、特に限定されないが、例えば、カルボン酸である。カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、マレイン酸、酢酸、リン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、及びクエン酸が挙げられる。このなかでも、1価又は2価以上のカルボン酸が好ましい。
【0163】
多価金属塩としては、無機酸の多価金属塩であっても、有機酸の多価金属塩であってもよい。多価金属塩としては、特に限定されないが、例えば、周期表の第2族のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13族からの土類金属(例えば、アルミニウム)、及びランタニド類(例えば、ネオジム)の塩が挙げられる。また、これら多価金属の塩としては、カルボン酸塩(例えば、蟻酸、酢酸、安息香酸塩)、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、多価金属塩としては、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩等)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硫酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、チオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩であることが好ましい。
【0164】
凝集剤の含有量は、処理液の総質量に対して、好ましくは0.1質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上25質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、よりさらに好ましくは1質量%以上7質量%以下である。凝集剤の含有量が上記範囲内であることにより、より画質に優れた記録物が得られる傾向にある。
【0165】
本実施形態で用いる処理液は、上述したインク組成物に用いられるのと同様の界面活性剤、水溶性有機溶剤及び水を、インク組成物とは独立して含んでもよい。また、その処理液は、その他の成分として、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート化剤等の、種々の添加剤を適宜添加することもできる。
【0166】
本実施形態のインクジェット記録方法は、上記各工程の他、従来のインクジェット記録方法が有する公知の工程を有していてもよい。
【実施例】
【0167】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0168】
-インク組成物の調製-
各材料を下記の表1に示す組成で混合し、十分に撹拌し、各インク組成物を得た。具体的には、各材料を均一に混合し、フィルタで不溶解物を除去することにより、各インクを調製した。なお、下記の表1中、数値の単位は質量%であり、合計は100.0質量%である。なお、顔料は予め、表中に記載しない水溶性スチレンアクリル系樹脂である顔料分散用樹脂と、2:1の有質量比で、水に混合して、ビーズミルで攪拌し、顔料分散液を調製し、これをインク調製に用いた。
【0169】
【0170】
シアン顔料:C.I.ピグメントブルー 15:3
白色顔料:酸化チタン顔料
BYK-348:シリコーン系界面活性剤「BYK-348」(製品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)
DF110D:アセチレングリコール系消泡剤「サーフィノールDF110D」(製品名、日信化学工業株式会社、有効分量32質量%)
62J:スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン「ジョンクリル62J」(製品名、BASF社製)
PD-7:カチオン性物質「カチオマスターPD-7」(製品名、四日市合成株式会社製)
ワックス粒子A:ポリエチレン系ワックス粒子(ノニオン分散性ワックスエマルジョン、平均粒子径40nm、東邦化学工業社製 E1000)
ワックス粒子B:ポリエチレン樹脂を合成し、ノニオン性界面活性剤を用いて水に分散させた。樹脂の合成条件や分散条件を調整して、さらに必要に応じてフィルタでの分級を用いて、平均粒子径200nmにした。得られた分散体をノニオン分散性ワックスエマルジョンとして使用した。
ワックス粒子C:ポリエチレン系ワックス粒子(アニオン分散性ワックスエマルジョン、平均粒子径40nm、BYKケミー社製、AQUACER507)
【0171】
-インクジェット記録装置-
ラインプリンタは、「L-4533AW」(製品名、セイコーエプソン株式会社製)を改造して、ラインプリンタとして使用した。
シリアルプリンタは、「SC-S80650」(製品名、セイコーエプソン株式会社製)を改造してシリアルプリンタとして使用した。
インクジェット記録中プラテンヒーターを作動させ、ヘッドと対抗する位置の記録媒体の記録面側表面温度(記録中の最高温度)は35℃であった。
ヘッドより下流に二次乾燥機構を備えさせた。メディア温度70℃(最高温度)で乾燥した。
ラインプリンタは、記録媒体搬送方向の上流側から、処理液ヘッド、着色インクヘッド、クリアインクヘッドの順で配置し、この順に各組成物を付着した。
シリアルプリンタは、記録媒体搬送方向の上流側から、処理液ヘッド(表1中に示されている場合のみ)、着色インクヘッド、クリアインクヘッドの順に配置し、この順に各組成物を付した。
付着量は、着色インク5mg/inch2、クリアインク1mg/inch2、処理液1mg/inch2とした。3液は順番に重ねて記録した。
ヘッドはノズル列のノズル密度1200dpiとした。
インクカートリッジからヘッドまでの間にサブタンクを備え、サブタンクからヘッドの間に自己封止弁を備える装置を使用した。ヘッドのインク組成物が流入してすぐの個所にメッシュ径10μmのフィルタを備えた。
【0172】
シリアルプリンタは、
図1のようなオフキャリッジタイプとした。
ヘッドは循環ヘッドであり、
図2以降のようなインクの循環可能なヘッドを用いた。記録中の1ヘッドあたりの循環帰路の循環速度を表中の値にして、記録中、循環した。ただし循環なしの例では循環路なしのヘッドを用いた。
ヘッドはヒータを備えヘッド内のインクの温度を調整して吐出可能なものにして、温度調整ありの例は記録中に温度を調整してインクの温度35℃で吐出した。なしの例は温調せず、記録中の吐出するインクの温度25℃とした。
【0173】
表中のフラッシングありの例は、シリアルプリンタの場合は、1パスごとに、記録媒体から離れた位置に設けられたフラッシングボックスに、インクジェットヘッドからフラッシングをおこなった。ラインプリンタの場合は、記録中、1分ごとに、記録を中断し、インクジェットヘッドをフラッシングボックスへ移動して、フラッシングを行い、フラッシング後、インクジェットヘッドを戻して記録を再開した。
フラッシングなしの例は、記録中、フラッシングを行わなかった。
このような記録条件で記録試験を行った。
【0174】
-インクジェット記録方法(実施例1~14、比較例1~7)
改造した装置を用いて、上記で調製したインク組成物のいずれかを表2に示す印刷条件でインクジェット法により吐出し、OPPフィルム「パイレン(登録商標)フィルム-OT」(東洋紡株式会社製、型番:P2111、厚さ20μm)に、各評価項目で示すパターンを付着させた。
【0175】
-評価-
――耐擦性――
上記の記録試験の条件で、記録媒体に、矩形のベタパターン(20cm×20cm)を連続して記録した。記録した矩形のベタパターン部分を、必要な大きさに切り出し、平織布を使用して学振式耐擦試験機「AB-301」(製品名、テスター産業株式会社製、荷重500g)で100回擦った際のインクの剥がれ度合を以下の評価基準で目視評価した。なお評価用のパターンの記録は、記録開始から1日経過後に記録したパターンを用いた。
評価基準
AA:ベタパターン部に剥がれなし。
A:ベタパターン部の面積の10%以下の剥がれあり。
B:ベタパターン部の面積の10%超30%以下の剥がれあり。
C:ベタパターン部の面積の30%超50%以下の剥がれあり。
D:ベタパターン部の面積の50%超の剥がれあり。
【0176】
――画像ズレ――
上記の記録試験の条件で、記録媒体搬送方向に延びる幅0.5mmの線を記録した。
シリアルプリンタのフラッシングありの例は、線の記録の途中でパス間フラッシングを行うようにして、フラッシングを行った後で線の続きを記録するようにした。ラインプリンタのフラッシングは、線の記録の途中でヘッドをフラッシングボックスまで移動してフラッシングして、ヘッドを戻して線の続きを記録した。フラッシングなしの例は、フラッシングを行わなかった。なお、記録を開始して1日経過後に試験をおこなった。
なお、シリアルプリンタでフラッシングをする場合、パス間でフラッシングを行うのでパス間の時間がやや長くなるだけであった。ラインプリンタでフラッシングをすると、ヘッドの移動により、記録位置が正確に合わなくなる場合がある。
評価基準
A:線の輪郭に直線になっていない部分が見えない。
B:線の輪郭に直線になっていない部分が若干見える。
C:線の輪郭に直線のずれが見える。
【0177】
――ブリード――
上記の記録試験の条件で、5cm×5cmの四角いベタパターンを記録し、目視で観察した。
A:ベタパターン中に濃淡ムラが見えない。
B:ベタパターン中に濃淡ムラが見える。
【0178】
――異物発生抑制性(ヘッドのフィルタ詰り)――
上記の記録試験の条件で、1日に記録を8時間行い、記録しない時間は、ノズルのキャップを閉めて、インク組成物を循環させた状態で待機した。待機中の循環量を表中の値とした。なお、循環量は、1つのヘッドあたりの、ヘッドから循環帰路に排出するインク量である。これを3か月間繰り返した。なお記録中もヘッドのインク組成物は循環させた。なお記録中の循環量は、表中に示す量(g/分)とした。ただし循環なしの例は、待機中と記録中、インクを循環せず行った。3か月後、ヘッドのフィルタを観察した。ヘッドのフィルタは、ヘッドのインク導入口付近に設けた。フィルタは10μmメッシュ径とした。
評価基準
A:フィルタに固形分状の異物が見えない。
B:フィルタに固形分状の異物が若干見える。
C:フィルタに固形分状の異物がかなり見える。
【0179】
――吐出安定性――
ヘッドのフィルタ詰り試験の記録の1日に1回、全ノズルの吐出検査を行った。3か月の記録のノズル吐出検査の平均値とした。検査はノズルチェックパターンを記録して行った。
A:不吐出ノズルなし。
B:不吐出ノズルがノズル全体の0.1%以下である。
C:不吐出ノズルがノズル全体の0.1%以上である。
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
以上の実施例及び比較例によれば、本実施形態のインクジェット記録方法である実施例は、何れも、優れた記録物の耐擦性を示し、ヘッドのフィルタ詰まりが抑制されることがわかる。これに対し、比較例は何れも、耐擦性とフィルタ詰り抑制の何れかが劣っていた。
【0184】
なお、表中には記載しなかったが、実施例1において、異物発生抑制性評価と吐出安定性評価において、待機中の循環は行い、記録中の循環は行わずに、あとは同様にして評価を行ったところ、クリアインクに関しては実施例1と同じ結果であり、着色インクに関しては、比較例1と同じ結果であった。また、実施例1において、異物発生抑制性評価と吐出安定性評価において、待機中の循環を行わず、記録中の循環は行い、あとは同様にして評価を行ったところ、クリアインクに関しては比較例1と同じ結果であり、着色インクに関しては、実施例1と同じ結果であった。このことから、クリアインクの異物抑制がより優れる点で、待機中の循環が好ましく、着色インクの吐出安定性がより優れる点で、記録中の循環が好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0185】
100…液体噴射装置、12…媒体、14…液体容器、15…サブタンク、20…制御ユニット、22…搬送機構、24…移動機構、242…搬送体、244…搬送ベルト、26…液体噴射ヘッド、28…配線基板、30…流路形成部、32…第1流路基板、34…第2流路基板、42…振動部、44…圧電素子、46…保護部材、48…筐体部、482…導入口、52…ノズルプレート、54…吸振体、61…供給路、63…連通路、65,67…循環液室、H…ヒータ、69…隔壁部、n1…第1区間、n2…第2区間、72…循環路、75…循環機構