IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】静電潜像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20240228BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20240228BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
G03G9/097 365
G03G9/08
G03G9/087 331
G03G9/087 325
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019170093
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021047301
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 隼也
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 達矢
(72)【発明者】
【氏名】藤野 香
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-034163(JP,A)
【文献】特開2016-061999(JP,A)
【文献】特開2006-330278(JP,A)
【文献】特開平10-171156(JP,A)
【文献】特開2014-174262(JP,A)
【文献】特開2018-146935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも非晶性樹脂(I)、結晶性材料、離型剤及び外添剤からなるトナー粒子を含む静電潜像現像用トナーであって、
前記結晶性材料が、非晶性樹脂(II)セグメントと結晶性ポリエステルセグメントが結合したハイブリッド結晶性ポリエステル、又は脂肪酸アミドであり、
前記結晶性材料の融点が70~120℃の範囲内であり、かつ、
損失弾性率の極大を示す温度をTmaxとしたとき、前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が4.0×10~1.0×10Paの範囲内であることを特徴とする静電潜像現像用トナー。
【請求項2】
ターフェニル、アビエチン酸又は流動パラフィンを含有することを特徴とする請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項3】
前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が、5.0×10~1.0×10Paの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項4】
前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が、6.0×10~1.0×10Paの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項5】
前記非晶性樹脂(II)セグメントが、スチレンアクリル樹脂セグメントであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項6】
前記非晶性樹脂(I)が、非晶性ビニル樹脂を含有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項7】
前記結晶性材料に対する、前記ターフェニル、前記アビエチン酸又は前記流動パラフィンの質量比の値が、0.08~0.30の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項8】
少なくとも非晶性樹脂、結晶性材料、離型剤及び外添剤からなるトナー粒子を含む静電潜像現像用トナーであって、
前記結晶性材料が、スチレンアクリル樹脂セグメントと結晶性ポリエステルセグメントが結合したハイブリッド結晶性ポリエステルであり、
前記結晶性材料の融点が70~120℃の範囲内であり、
前記静電潜像現像用トナーが、流動パラフィンを含有し、
前記流動パラフィンの分子量が、240~550の範囲内であり、かつ、
損失弾性率の極大を示す温度をTmaxとしたとき、前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が4.0×10~1.0×10Paの範囲内であることを特徴とする静電潜像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電潜像現像用トナーに関する。より詳しくは、低温定着性と低印字率の画像を長期にわたり出力した場合の画像の安定性とを両立できる静電潜像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成に用いられる静電潜像現像用のトナー(以下、単に「トナー」ともいう。)として、プリント速度の高速化や画像形成装置の省エネルギー化を図るために、定着時の熱エネルギーを低減させることが求められている。これに対応して、より一層の低温定着性に優れたトナーが望まれている。
【0003】
低温定着性の要求に対して、結着樹脂の溶融温度や溶融粘度を下げることが必要とされ、結晶性ポリエステル樹脂等の結晶性樹脂を添加することで低温定着性を向上させた静電潜像現像用トナーが提案されている。
【0004】
しかしながら、このようなトナーを用いると、トナーの耐熱保管性や、画像の保存性が悪化するという問題があった。この対策のため、結晶性樹脂の融点や含有量、非晶性樹脂の熱物性を制御することで、トナーの耐熱保管性や、画像の保存安定性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、トナーのバルクとしての溶融温度や溶融粘度をコントロールしても、昨今のロングライフ化が要求されている中で、画像の安定性にいまだ問題を残しており、特に、現像機内でのトナーの入れ替わりが少ない低印字率の画像を長期にわたり出力した場合、従来のトナーではトナーの帯電性能や流動性能が悪化してしまうため、いわゆる捨て焼きなどにより現像機内のトナーをリフレッシュする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-251564号公報
【文献】特開2017-9630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、低温定着性と低印字率の画像を長期にわたり出力した場合の画像の安定性とを両立できる静電潜像現像用トナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、結晶性材料を用いて低温定着性を上げたトナーにおいて、耐熱保管性が維持できるまでトナー表面のガラス転移温度を高めたとしても、トナー表面に固着させる外添剤がトナー内部へ埋没していることがわかった。本発明者らは、トナーのガラス転移温度の設計だけではなく、トナーの室温(樹脂のガラス状態)における弾性率を高く設計することにより、外添剤のトナー内部への埋没を抑制でき、低印字率の画像であっても、長期にわたり出力画像の変動の少ない安定な画像が得られることを見いだした。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.少なくとも非晶性樹脂(I)、結晶性材料、離型剤及び外添剤からなるトナー粒子を含む静電潜像現像用トナーであって、
前記結晶性材料が、非晶性樹脂(II)セグメントと結晶性ポリエステルセグメントが結合したハイブリッド結晶性ポリエステル、又は脂肪酸アミドであり、
前記結晶性材料の融点が70~120℃の範囲内であり、かつ、
損失弾性率の極大を示す温度をTmaxとしたとき、前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が4.0×10 ~1.0×10 Paの範囲内であることを特徴とする静電潜像現像用トナー。
【0010】
2.ターフェニル、アビエチン酸又は流動パラフィンを含有することを特徴とする第1項に記載の静電潜像現像用トナー。
【0011】
3.前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が、5.0×10 ~1.0×10 Paの範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の静電潜像現像用トナー。
【0012】
4.前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が、6.0×10 ~1.0×10 Paの範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の静電潜像現像用トナー。
【0013】
5.前記非晶性樹脂(II)セグメントが、スチレンアクリル樹脂セグメントであることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の静電潜像現像用トナー。
【0014】
6.前記非晶性樹脂(I)が、非晶性ビニル樹脂を含有することを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の静電潜像現像用トナー。
【0015】
7.前記結晶性材料に対する、前記ターフェニル、前記アビエチン酸又は前記流動パラフィンの質量比の値が、0.08~0.30の範囲内であることを特徴とする第2項に記載の静電潜像現像用トナー。
【0016】
8.少なくとも非晶性樹脂、結晶性材料、離型剤及び外添剤からなるトナー粒子を含む静電潜像現像用トナーであって、
前記結晶性材料が、スチレンアクリル樹脂セグメントと結晶性ポリエステルセグメントが結合したハイブリッド結晶性ポリエステルであり、
前記結晶性材料の融点が70~120℃の範囲内であり、
前記静電潜像現像用トナーが、流動パラフィンを含有し、
前記流動パラフィンの分子量が、240~550の範囲内であり、かつ、
損失弾性率の極大を示す温度をT max としたとき、前記T max における貯蔵弾性率が4.0×10 ~1.0×10 Paの範囲内であることを特徴とする静電潜像現像用トナー。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記手段により、低温定着性と低印字率の画像を長期にわたり出力した場合の画像の安定性とを両立できる静電潜像現像用トナーを提供することができる。
【0018】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
トナーに温度を加えると、分子運動が最も束縛から解放される温度(Tmax)よりも高い温度域において、急激に粘度を下げる効果があり、この温度Tmaxを制御することにより、優れた低温定着性が得られる。
【0019】
しかし、Tmaxを制御しても、低印字率の画像を長期にわたり出力した場合の画像の安定性は不十分であった。その原因は、Tmaxよりも低い温度域においても、結晶性材料の一部が非晶性結着樹脂に相溶し貯蔵弾性率が低くなっているため、外添剤がトナー内部に埋没してしまうためであると推察している。トナーを特定以上の弾性率にすることにより、トナー内部に埋没することを抑制し、出力画像の安定性を向上することができるものと推察している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の静電潜像現像用トナーは、少なくとも非晶性樹脂(I)、結晶性材料、離型剤及び外添剤からなるトナー粒子を含む静電潜像現像用トナーであって、前記結晶性材料が、非晶性樹脂(II)セグメントと結晶性ポリエステルセグメントが結合したハイブリッド結晶性ポリエステル、又は脂肪酸アミドであり、前記結晶性材料の融点が70~120℃の範囲内であり、かつ、損失弾性率の極大を示す温度をTmaxとしたとき、前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が4.0×10 ~1.0×10 Paの範囲内であることを特徴とする。この特徴は、下記各実施態様(形態)に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0021】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、弾性率向上剤を含むことが好ましい。
また、前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が、5.0×10Pa以上であることが好ましく、6.0×10Pa以上であることがより好ましい。外添剤の埋没を抑制する効果が得ることができる。
さらに、本発明においては、前記結晶性材料が、脂肪酸アミド又は結晶性ポリエステルであることが耐熱保管性と低温定着性の両立の観点から好ましい。これらの化合物は、結着樹脂との適度な相溶性を示すためである。
本発明の実施態様としては、前記非晶性樹脂が、非晶性ビニル樹脂を含有することが長期にわたる画像の安定性から好ましい。結着樹脂がビニル樹脂であることで、結晶性材料との適度な相溶性を示すためである。
また、前記結晶性材料に対する前記弾性率向上剤の質量比の値が、0.08~0.30の範囲内であることが、トナーのガラス状態の弾性率を高める効果が得られることから好ましい。
また、弾性率向上剤が、流動パラフィンであることが、低温定着性と長期にわたる画像の安定性の観点から好ましい。流動パラフィンは、トナー溶融時の粘度を上げることなく、トナーのガラス状態の弾性率を高めることができるため好ましい。
【0022】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0023】
《本発明の静電潜像現像用トナーの概要》
本発明の静電潜像現像用トナーは、少なくとも非晶性樹脂(I)、結晶性材料、離型剤及び外添剤からなるトナー粒子を含む静電潜像現像用トナーであって、前記結晶性材料が、非晶性樹脂(II)セグメントと結晶性ポリエステルセグメントが結合したハイブリッド結晶性ポリエステル、又は脂肪酸アミドであり、前記結晶性材料の融点が70~120℃の範囲内であり、かつ、損失弾性率の極大を示す温度をTmaxとしたとき、前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が4.0×10 ~1.0×10 Paの範囲内であることを特徴とする。
【0024】
本発明の静電潜像現像用トナー(トナー)は、融点が70~120℃の範囲内である結晶性材料を含有する。融点が70℃を下回ると耐熱保管性が悪化する。融点が120℃を超えると低温定着性が悪化する。
【0025】
しかしながら、結晶性材料を用いて低温定着性を改善したトナーにおいて、耐熱保管性が維持できるまでトナー表面のガラス転移温度を高めたとしても、低印字率の画像を長期にわたり出力した場合の画像の安定性は不十分であった。その原因がTmaxよりも低い温度域においても、結晶性材料の一部が、非晶性結着樹脂に相溶しているため、貯蔵弾性率が低くなっており、そのため、外添剤がトナー内部に埋没してしまうためであることが推察された。発明者らは、トナーのガラス転移温度の設計だけではなく、トナーの弾性率を適切に設計することにより、低温定着性と長期にわたる出力画像の安定性とを両立できることを見いだした。
【0026】
[貯蔵弾性率及び損失弾性率]
動的粘弾性測定において、貯蔵弾性率は物体に外力とひずみにより生じたエネルギーのうち、物体の内部に保存する成分(弾性的挙動)であり、損失弾性率は外部へ拡散する成分(粘性的挙動)である。温度分散測定において、測定温度の上昇とともに、トナーを構成する樹脂の、複雑に絡み合った高分子鎖が、徐々に分子運動を開始し、損失弾性率の極大を示す温度Tmaxにおいて分子運動が最も束縛から解放されることが知られている。
【0027】
通常、結晶性材料を含むトナーは、Tmaxよりも高い温度域において、急激に粘度を下げる効果があり、低温定着性に優れる。しかし、Tmaxよりも低い温度域においても、結晶性材料の一部が、非晶性結着樹脂に相溶しているため、貯蔵弾性率が低くなる。そのため、外添剤が埋没しやすく、様々な画像不良の原因となっているものと推察される。
【0028】
maxにおける貯蔵弾性率が高いとは、樹脂の急激な粘度低下が開始する温度まで、高い弾性率を維持できていることを示している。すなわち、融点70~120℃の結晶性材料を含み、かつ、Tmaxにおける貯蔵弾性率が4.0×10Pa以上であるということは、低温定着性を有しながらも、ガラス転移温度以下においても高い弾性率を有しているので、外添剤のトナー内部への埋没を抑制でき、長期にわたり安定な画像が得られることを示している。
【0029】
本発明において、前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が、5.0×10Pa以上であることが好ましく、6.0×10Pa以上であることが、外添剤の埋没を抑制する効果が得られることから好ましい。Tmaxにおける貯蔵弾性率の上限は、使用する材料により決まるが、通常トナーに使用される材料においては、1.0×10Pa程度である。
【0030】
(貯蔵弾性率及び損失弾性率の測定方法)
トナー0.2gを計量し、圧縮成形機で25MPaの圧力を印加して加圧成型を行い、直径10mmの円柱状ペレットを作製する。レオメーター「ARES G2」(TA instrument社製)を使用し、直径8mmのパラレルプレートを上下セットで用いて、周波数1Hzの条件で測定を行う。
【0031】
サンプルセットを100℃にて行い、上記プレート間の隙間を一度1.4mmにセットした後にプレート間からはみ出したサンプルを掻き取り、1.1mmに上記隙間をセットする。その後、上記ペレットに軸力をかけつつ25℃まで冷却し、10分間静置した。その後、当該軸力を止め25℃から100℃まで貯蔵弾性率(G′)及び損失弾性率(G″)の昇温測定を行った。昇温速度は3℃/分で測定を行い、温度分散のカーブを得る。当該温度分散のカーブに基づいて、損失弾性率が極大を示す温度Tmax及び、Tmaxのときの貯蔵弾性率を測定することができる。
なお、昇温により、極大を示す温度が複数得られたときは、より低温側の極大を示す温度を、Tmaxとする。
【0032】
以下に詳細な測定条件を示す。
周波数(Frequency):1Hz
昇温速度(Ramp rate):3℃/分
軸力(Axicial force):0g
感度(sensitivity):10g
初期ひずみ(Initial strain):0.01%
ひずみ調整(Strain adjust):30.0%
最小ひずみ(Minimum strain):0.01%
最大ひずみ(Maximum strain):10.0%
最小トルク(Minimum torque):1g・cm
最大トルク(Maximum torque):80g・cm
測定間隔(Sampling interval):1.0℃/pt
【0033】
[融点]
本発明において用いられる結晶性材料は、融点が70~120℃の範囲内であり、示差操作熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する材料をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、DSCにおいて、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークを意味する。
トナーの融点は、以下のようにしてDSCで測定することができる。
結晶性材料をアルミニウム製パン(KITNO.B0143013)に5mg封入し、熱分析装置「Diamond DSC」(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、加熱する。1回目加熱時には、10℃/分の昇温速度で0℃から100℃まで昇温した際の吸熱ピークのピークトップ温度を結晶性材料の融点とする。なお、吸熱ピークが複数観測された場合には、最も高い温度に位置する吸熱ピークのピークトップ温度を融点とする。
【0034】
《本発明の静電潜像現像用トナーの詳細》
本発明の静電潜像現像用トナーは、少なくとも非晶性樹脂、結晶性材料、離型剤及び外添剤からなるトナー粒子を含む静電潜像現像用トナーであって、前記結晶性材料の融点が70~120℃の範囲内であり、かつ、損失弾性率の極大を示す温度をTmaxとしたとき、前記Tmaxにおける貯蔵弾性率が4.0×10Pa以上であることを特徴とする。
【0035】
本発明において、トナーは、トナー粒子の集合体であり、トナー粒子は、トナー母体粒子とその表面に付着する外添剤とによって構成される。
また、上記トナーは、一成分現像剤であってもよいし、二成分現像剤であってもよい。一成分現像剤は、トナー粒子のみから構成され、二成分現像剤は、トナー粒子とキャリア粒子とによって構成される。
【0036】
<トナー母体粒子>
本発明に係るトナー母体粒子は、結晶性材料と非晶性樹脂と離型剤とを少なくとも含有する。さらに、流動パラフィンを含有することが好ましい。
【0037】
[結晶性材料]
結晶性材料は、保管温度においてはトナー粉体の流動性を損なわず、かつ、加熱定着時にはトナーのシャープメルト又は迅速定着に寄与する材料である。
本発明に用いられる結晶性材料は、その融点が70~120℃の範囲内である。75~100℃の範囲内であることが好ましく、75~95℃の範囲内であることがさらに好ましい。融点が70℃を下回ると耐熱保管性が悪化する。融点が120℃を超えると低温定着性が悪化する。
このような材料のなかでも、結晶性材料が脂肪酸アミド又は結晶性ポリエステルであることが、耐熱保管性と低温定着性の両立の点から好ましい。両化合物は、結着樹脂との適度な相溶性を示すためである。
【0038】
(脂肪酸アミド)
本発明に用いられる脂肪酸アミドは、融点が70~120℃の範囲内である下記式(1)又は式(2)で表される飽和脂肪酸アミド系化合物が好ましく用いられる。
-CO-NH-R 式(1)
-CO-NH 式(2)
(式(1)及び式(2)中、R~Rは、2価の炭素数1~30の飽和炭化水素基を表す。R~Rは、同じでも異なっていてもよい。)
樹脂との相溶性により優れ、トナーの低温定着性をより向上させることができる観点から、式(2)で表される構造を有する末端に1級アミド基を有するモノアミド化合物が好ましい。
【0039】
融点が70~120℃の範囲内である前記飽和脂肪酸アミド系化合物としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘニン酸アミド、リグリノセリン酸アミド等の炭素数10~30を有する飽和の脂肪族をアミド化した1級アミド化合物、又は、N-パルミチルパルミチン酸アミド、N-パルミチルステアリン酸アミド、N-ステアリルアラキジン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-パルミチルオレイン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミドといった2級アミド化合物が挙げられる。
【0040】
前記飽和脂肪酸アミド系化合物は、単独でも又は2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
配合量はトナー全量に対して1~25質量%の範囲内であることが好ましい。さらに好ましくは3~10質量%の範囲内である。
1質量%以上であれば充分な低温定着効果が得られる。一方25質量%以下であれば、オフセット性及びトナーの耐熱保存性が良好である。
【0041】
(結晶性ポリエステル)
結晶性材料として結晶性ポリエステルを用いることが好ましい。結晶性ポリエステルは、結着樹脂としての機能も有することもできる。
本発明に用いられる結晶性ポリエステルは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる。
【0042】
上記多価カルボン酸の例には、ジカルボン酸が含まれる。このジカルボン酸は、一種でもそれ以上でもよく、脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、芳香族ジカルボン酸をさらに含んでいてもよい。脂肪族ジカルボン酸は、直鎖型であることが、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点から好ましい。
【0043】
上記脂肪族ジカルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、これらの低級アルキルエステル、及びこれらの酸無水物、が含まれる。中でも、低温定着性及び転写性の両立との効果が得られやすい観点から、炭素数6以上かつ16以下の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、さらに炭素数10以上かつ14以下の脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
【0044】
上記芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及び4,4′-ビフェニルジカルボン酸が含まれる。中でも、入手容易性及び乳化容易性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸又はt-ブチルイソフタル酸が好ましい。
【0045】
結晶性ポリエステルにおける上記ジカルボン酸由来の構成単位に対する脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位の含有量は、結晶性ポリエステルの結晶性を十分に確保する観点から、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0046】
上記多価アルコール成分の例には、ジオールが含まれる。ジオールは、一種でもそれ以上でもよく、脂肪族ジオールであることが好ましく、それ以外のジオールをさらに含んでいてもよい。脂肪族ジオールは、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点から、直鎖型であることが好ましい。
【0047】
上記脂肪族ジオールの例には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール及び1,20-エイコサンジオールが含まれる。中でも、低温定着性及び転写性の両立との効果が得られやすい観点から、炭素数が2以上かつ12以下の脂肪族ジオールが好ましく、さらに炭素数が4以上かつ6以下の脂肪族ジオールがより好ましい。
【0048】
その他のジオールの例には、二重結合を有するジオール、及びスルホン酸基を有するジオール、が含まれる。具体的には、二重結合を有するジオールの例には、2-ブテン-1,4-ジオール、3-ブテン-1,6-ジオール及び4-ブテン-1,8-ジオールが含まれる。
【0049】
結晶性ポリエステルにおけるジオール由来の構成単位に対する脂肪族ジオール由来の構成単位の含有量は、トナーの低温定着性及び最終的に形成される画像の光沢性を高める観点から、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0050】
結晶性ポリエステルのモノマーにおける上記ジオールと上記ジカルボン酸との割合は、ジオールのヒドロキシ基[OH]とジカルボン酸のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]で2.0/1.0以上かつ1.0/2.0以下であることが好ましく、1.5/1.0以上かつ1.0/1.5以下であることがより好ましく、1.3/1.0以上かつ1.0/1.3以下であることが特に好ましい。
【0051】
上記結晶性ポリエステルを構成するモノマーは、直鎖脂肪族モノマーを50質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましい。芳香族モノマーを用いた場合には、結晶性ポリエステルの融点が高くなる傾向が高く、分岐型の脂肪族モノマーを用いた場合には、結晶性が低くなる傾向が高い。したがって、上記モノマーに直鎖脂肪族モノマーを用いることが好ましい。トナー中において結晶性ポリステルの結晶性を維持する観点から、直鎖脂肪族モノマーを50質量%以上使用することが好ましく、80質量%以上使用することがより好ましい。
【0052】
結晶性ポリエステルは、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸及び多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより合成することができる。
【0053】
結晶性ポリエステルの合成に使用可能な触媒は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウムなどの第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウムなどの金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;及び、アミン化合物;が含まれる。
【0054】
具体的には、スズ化合物の例には、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、及びこれらの塩が含まれる。チタン化合物の例には、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド;ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;及び、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどのチタンキレートが含まれる。ゲルマニウム化合物の例には、二酸化ゲルマニウムが含まれ、アルミニウム化合物の例には、ポリ水酸化アルミニウムなどの酸化物、アルミニウムアルコキシド、及びトリブチルアルミネート、が含まれる。
【0055】
結晶性ポリエステルの重合温度は、150℃以上かつ250℃以下であることが好ましい。また、重合時間は、0.5時間以上かつ10時間以下であることが好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
【0056】
トナー母体粒子に対する結晶性ポリエステルの含有量は、十分な低温定着性を得る観点から、2質量%以上かつ20質量%以下であることが好ましく、7質量%以上かつ15質量%であることがより好ましい。当該含有量が2質量%以上であれば、十分な可塑効果が得られ、低温定着性十分となる。当該含有量が20質量%以下であれば、トナーとしての熱的安定性や物理的なストレスに対する安定性が十分である。上記の好ましい範囲又はより好ましい範囲では、例えば、非晶性樹脂の構成や適切な製造法を選択することにより、好ましい粘弾性に制御することがより容易になる。
【0057】
また、上記結晶性ポリエステルの数平均分子量(Mn)は、8500以上かつ12500以下であることが好ましく、9000以上かつ11000以下であることがより好ましい。重量平均分子量MwやMnが大きければ、定着画像の強度が不足したり、現像液撹拌中に結晶性樹脂が粉砕されたり、過度な可塑効果によりトナーのガラス転移温度Tgが低下して、トナーの熱的安定性が低下したりすることがない。また、上記Mw及びMnが大きすぎなければ、シャープメルト性が発現し難くなったり、定着温度が高くなりすぎることがない。上記Mw及びMnは、以下のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した分子量分布から求めることができる。
【0058】
試料を濃度0.1mg/mLとなるようにテトラヒドロフラン(THF)中に添加し、40℃まで加温して溶解させた後、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して、試料液を調製する。GPC装置HLC-8220GPC(東ソー社製)及びカラム「TSKgelSuperH3000」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてTHFを流速0.6mL/分で流す。キャリア溶媒とともに、調製した試料液100μLをGPC装置内に注入し、示差屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出する。そして、単分散のポリスチレン標準粒子の10点を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出する。このとき、データ解析において、上記フィルター起因のピークが確認された場合には、当該ピーク前の領域をベースラインとして設定する。
【0059】
(ハイブリッドポリエステル)
なお、上記結晶性ポリエステルの構造、構成モノマーは、結晶性ポリエステルの結晶化度や融解熱量に影響を与える。結晶性ポリエステルの結晶化度を定着に好ましい範囲に調整する観点から、上記結晶性ポリエステルは、ハイブリッド結晶性ポリエステル(以下、単に「ハイブリッド樹脂」ともいう。)であることが好ましい。ハイブリッド樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。又はイブリッド樹脂は、上記結晶性ポリエステルの全量と置き換えられていてもよいし、一部と置き換えられていても(併用されていても)よい。
【0060】
ハイブリッド樹脂は、結晶性ポリエステルセグメント(ポリエステル重合セグメントともいう)と、結晶性ポリエステル以外の樹脂ユニット(他の重合セグメントともいう)が化学的に結合した樹脂である。本実施の形態では、ハイブリッド樹脂は、結晶性ポリエステルセグメントと、非晶性樹脂セグメントとが化学的に結合した樹脂である。結晶性ポリエステルセグメントとは、上記結晶性ポリエステルに由来する部分を意味する。すなわち、前述した結晶性ポリエステルを構成する分子鎖と同じ化学構造の分子鎖を意味する。また、非晶性樹脂セグメントとは、非晶性樹脂に由来する部分を意味する。すなわち、後述する非晶性樹脂を構成する分子鎖と同じ化学構造の分子鎖を意味する。
【0061】
ハイブリッド樹脂の重量平均分子量Mwは、十分な低温定着性及び優れた長期保管安定性を確実に両立し得るという観点から、5000以上かつ100000以下であると好ましく、7000以上かつ50000以下であるとより好ましく、8000以上かつ20000以下であると特に好ましい。ハイブリッド樹脂のMwを100000以下とすることにより、十分な低温定着性を得ることができる。一方、ハイブリッド樹脂のMwを5000以上とすることにより、トナー保管時において当該ハイブリッド樹脂と非晶性樹脂との相溶が過剰に進行することが抑制され、トナー同士の融着による画像不良を効果的に抑制することができる。
【0062】
結晶性ポリエステルセグメントは、例えば、結晶性ポリエステルセグメントによる主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂であってもよいし、結晶性ポリエステルセグメントを他成分からなる主鎖に共重合させた構造を有する樹脂であってもよい。当該結晶性ポリエステルセグメントは、前述した多価カルボン酸及び多価アルコールから、前述した結晶性ポリエステルと同様に合成され得る。
【0063】
上記ハイブリッド樹脂における結晶性ポリエステルセグメントの含有量は、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与する観点から、80質量%以上かつ98質量%未満であることが好ましく、90質量%以上かつ95質量%未満であるとより好ましく、91質量%以上かつ93質量%未満であることがさらに好ましい。なお、ハイブリッド樹脂中(又はトナー中)の各セグメントの構成成分及びその含有量は、例えば、核磁気共鳴(NMR)やメチル化反応熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析法(P-GC/MS)などの公知の分析方法を利用することにより特定することができる。
【0064】
結晶性ポリエステルセグメントは、モノマーに不飽和結合を有するモノマーをさらに含むことが、非晶性樹脂セグメントとの化学的な結合部位を当該セグメント中に導入する観点から好ましい。不飽和結合を有するモノマーは、例えば二重結合を有する多価アルコールであり、その例には、メチレンコハク酸、フマル酸、マレイン酸、3-ヘキセンジオイック酸、3-オクテンジオイック酸などの二重結合を有する多価カルボン酸;2-ブテン-1,4-ジオール、3-ブテン-1,6-ジオール及び4-ブテン-1,8-ジオールが含まれる。上記結晶性ポリエステルセグメントにおける上記不飽和結合を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は、0.5質量%以上かつ20質量%以下であることが好ましい。
【0065】
上記ハイブリッド樹脂は、ブロック共重合体であってもよいし、グラフト共重合体であってもよいが、グラフト共重合体であることが、結晶性ポリエステルセグメントの配向を制御しやすくなり、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与する観点から好ましく、結晶性ポリエステルセグメントがポリエステル以外の重合セグメントを主鎖とし、ポリエステル樹脂セグメントを側鎖として櫛形状にグラフト化されていることが好ましい。すなわち、ハイブリッド樹脂は、主鎖として上記非晶性樹脂セグメントを有し、側鎖として上記結晶性ポリエステルセグメントを有するグラフト共重合体であることが好ましい。
【0066】
なお、ハイブリッド樹脂には、さらにスルホン酸基、カルボキシ基、ウレタン基などの官能基が導入されていてもよい。上記官能基の導入は、上記結晶性ポリエステルセグメント中でもよいし、上記非晶性樹脂セグメント中であってもよい。
【0067】
上記非晶性樹脂セグメントは、結着樹脂を構成する非晶性樹脂とハイブリッド樹脂との親和性を高める。それにより、ハイブリッド樹脂が非晶性樹脂中に取り込まれやすくなり、トナーの帯電均一性がより一層向上する。ハイブリッド樹脂中(又はトナー中)の非晶性樹脂セグメントの構成成分及びその含有量は、例えばNMRやメチル化反応P-GC/MSなどの公知の分析方法を利用することにより特定することができる。
【0068】
また、非晶性樹脂セグメントは、前述した非晶性樹脂と同様に、DSCの1回目の昇温過程におけるガラス転移温度(Tg)が、30℃以上かつ80℃以下であることが好ましく、40℃以上かつ65℃以下であることがより好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、前述した方法で測定することができる。
【0069】
非晶性樹脂セグメントは、結着樹脂に含まれる非晶性樹脂(本実施の形態では、ビニル樹脂)と同種の樹脂で構成されることが、結着樹脂との親和性を高め、トナーの帯電均一性を高める観点から好ましい。このような形態とすることにより、ハイブリッド樹脂と非晶性樹脂との親和性がより向上する。「同種の樹脂」とは、繰り返し単位中に特徴的な化学結合を有する樹脂同士のことを意味する。
【0070】
「特徴的な化学結合」とは、物質・材料研究機構(NIMS)物質・材料データベース(http://polymer.nims.go.jp/PoLyInfo/guide/jp/term_polymer.html)に記載の「ポリマー分類」に従う。すなわち、ポリアクリル、ポリアミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリジエン、ポリエステル、ポリハロオレフィン、ポリイミド、ポリイミン、ポリケトン、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリフェニレン、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリビニル及びその他のポリマーの計22種によって分類されたポリマーを構成する化学結合を「特徴的な化学結合」という。
【0071】
また、樹脂が共重合体である場合における「同種の樹脂」とは、共重合体を構成する複数のモノマー種の化学構造において、上記化学結合を有するモノマー種を構成単位としている場合、特徴的な化学結合を共通に有する樹脂同士を意味する。したがって、樹脂自体の示す特性が互いに異なる場合や、共重合体中を構成するモノマー種のモル成分比が互いに異なる場合であっても、特徴的な化学結合を共通に有していれば同種の樹脂とみなす。
【0072】
例えば、スチレン、ブチルアクリレート及びアクリル酸によって形成される樹脂(又は樹脂セグメント)と、スチレン、ブチルアクリレート及びメタクリル酸によって形成される樹脂(又は樹脂セグメント)とは、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有しているため、これらは同種の樹脂である。さらに例示すると、スチレン、ブチルアクリレート及びアクリル酸によって形成される樹脂(又は樹脂セグメント)と、スチレン、ブチルアクリレート、アクリル酸、テレフタル酸及びフマル酸によって形成される樹脂(又は樹脂セグメント)とは、互いに共通する化学結合として、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有している。したがって、これらは同種の樹脂である。
【0073】
非晶性樹脂セグメントの例には、スチレン-アクリル系樹脂ユニット、ビニル樹脂ユニット、ウレタン樹脂ユニット及びウレア樹脂ユニットが含まれる。中でも、熱可塑性を制御しやすいと観点から、ビニル樹脂ユニットであることが好ましい。ビニル系樹脂ユニットは、前述したビニル系樹脂と同様にして合成され得る。
【0074】
非晶性樹脂セグメントにおけるスチレン単量体に由来する構成単位の含有量は、40質量%以上かつ90質量%以下であることが、ハイブリッド樹脂の可塑性を制御することが容易となる観点から好ましい。また、同様の観点から、非晶性樹脂セグメントにおける(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有量は、10質量%以上かつ60質量%以下であることが好ましい。
【0075】
さらに、非晶性樹脂セグメントは、前述した両性化合物をモノマーにさらに含有することが、上記結晶性ポリエステルセグメントとの化学的な結合部位を上記非晶性樹脂セグメントに導入する観点から好ましい。非晶性樹脂セグメントにおける上記両性化合物に由来する構成単位の含有量は、0.5質量%以上かつ20質量%以下であることが好ましい。
【0076】
上記ハイブリッド樹脂における上記非晶性樹脂セグメントの含有量は、ハイブリッド樹脂に十分な結晶性を付与する観点から、3質量%以上15質量%未満であることが好ましく、5質量%以上10質量%未満であることがより好ましく、7質量%以上9質量%未満であることがさらに好ましい。
【0077】
上記ハイブリッド樹脂は、例えば、以下に示す第1から第3の製造方法によって製造することができる。
【0078】
第1の製造方法は、あらかじめ合成された非晶性樹脂セグメントの存在下で結晶性ポリエステルセグメントを合成する重合反応を行ってハイブリッド樹脂を製造する方法である。
【0079】
この方法では、まず、上述した非晶性樹脂セグメントを構成する単量体(好ましくは、スチレン単量体や(メタ)アクリル酸エステル単量体などのビニル単量体)を付加反応させて非晶性樹脂セグメントを合成する。次に、非晶性樹脂セグメントの存在下で、多価カルボン酸と多価アルコールとを重合反応させて結晶性ポリエステルセグメントを合成する。このとき、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させるとともに、非晶性樹脂セグメントに対し、多価カルボン酸又は多価アルコールを付加反応させることにより、ハイブリッド樹脂が合成される。
【0080】
上記第1の製造方法において、結晶性ポリエステルセグメント又は非晶性樹脂セグメント中に、これらセグメントが互いに反応可能な部位を組み込むこと好ましい。具体的には、非晶性樹脂セグメントの合成時、非晶性樹脂セグメントを構成する単量体の他に、前述した両性化合物も使用する。当該両性化合物が結晶性ポリエステルセグメント中のカルボキシ基又はヒドロキシ基と反応することにより、結晶性ポリエステルセグメントは、非晶性樹脂セグメントと化学的かつ定量的に結合する。また、結晶性ポリエステルセグメントの合成時、そのモノマーに、前述した不飽和結合を有する化合物をさらに含有させてもよい。
【0081】
上記第1の製造方法により、非晶性樹脂セグメントに結晶性ポリエステルセグメントが分子結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド樹脂を合成することができる。
【0082】
第2の製造方法は、結晶性ポリエステルセグメントと非晶性樹脂セグメントとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド樹脂を製造する方法である。
【0083】
この方法では、まず、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させて結晶性ポリエステルセグメントを合成する。また、結晶性ポリエステルセグメントを合成する反応系とは別に、上述した非晶性樹脂セグメントを構成する単量体を付加重合させて非晶性樹脂セグメントを合成する。このとき、結晶性ポリエステルセグメント及び非晶性樹脂セグメントの一方又は両方に、結晶性ポリエステルセグメントと非晶性樹脂セグメントとが互いに反応可能な部位を前述のようにして組み込むことが好ましい。
【0084】
次に、合成した結晶性ポリエステルセグメントと非晶性樹脂セグメントとを反応させることにより、結晶性ポリエステルセグメントと非晶性樹脂セグメントとが分子結合した構造のハイブリッド樹脂を合成することができる。
【0085】
また、上記反応可能な部位が結晶性ポリエステルセグメント及び非晶性樹脂セグメントのいずれにも組み込まれていない場合は、結晶性ポリエステルセグメントと非晶性樹脂セグメントとが共存する系において、結晶性ポリエステルセグメント及び非晶性樹脂セグメントの両方と結合可能な部位を有する化合物を投入する方法を採用してもよい。それにより、当該化合物を介して結晶性ポリエステルセグメントと非晶性樹脂セグメントとが分子結合した構造のハイブリッド樹脂を合成することができる。
【0086】
第3の製造方法は、結晶性ポリエステルセグメントの存在下で非晶性樹脂セグメントを合成する重合反応を行ってハイブリッド樹脂を製造する方法である。
【0087】
この方法では、まず、多価カルボン酸と多価アルコールとを縮合反応させて重合を行い、結晶性ポリエステルセグメントを合成しておく。次に、結晶性ポリエステルセグメントの存在下で、非晶性樹脂セグメントを構成する単量体を重合反応させて非晶性樹脂セグメントを合成する。このとき、上記第1の製造方法と同様に、結晶性ポリエステルセグメント又は非晶性樹脂セグメントに、これらセグメントが互いに反応可能な部位を組み込むことが好ましい。
上記の方法により、結晶性ポリエステルセグメントに非晶性樹脂セグメントが分子結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド樹脂を合成することができる。
【0088】
上記第1から第3の製造方法の中でも、第1の製造方法は、非晶性樹脂鎖に結晶性ポリエステル鎖をグラフト化した構造のハイブリッド樹脂を合成しやすいことや生産工程を簡素化できるため好ましい。第1の製造方法は、非晶性樹脂セグメントをあらかじめ形成してから結晶性ポリエステルセグメントを結合させるため、結晶性ポリエステルセグメントの配向が均一になりやすい。したがって、上記トナーに適したハイブリッド樹脂を確実に合成する観点から好ましい。
【0089】
[非晶性樹脂]
本発明のトナーは結着樹脂として、非晶性樹脂を含有する。非晶性樹脂は、結晶性樹脂とは異なり結晶性を有さない樹脂である。例えば、非晶性樹脂は、非晶性樹脂又はトナー粒子の示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有する樹脂である。
【0090】
上記非晶性樹脂のTgは、35℃以上かつ80℃以下であることが好ましく、特に45℃以上かつ65℃以下であることが好ましい。
上記ガラス転移温度は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418-82に規定された方法(DSC法)にしたがって測定することができる。測定には、DSC-7示差走査カロリメーター(パーキンエルマー社製)、TAC7/DX熱分析装置コントローラ(パーキンエルマー社製)などを用いることができる。
【0091】
非晶性樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。非晶性樹脂の例には、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂及びスチレン-アクリル変性ポリエステルなどの非晶性ポリエステルが含まれる。本実施の形態では、非晶性樹脂は、熱可塑性を制御しやすい観点から、非晶性樹脂として非晶性ビニル樹脂(以下単に「ビニル樹脂」ともいう。)を含むことが好ましい。
【0092】
上記ビニル樹脂は、例えばビニル化合物の重合体であり、その例には、アクリル酸エステル樹脂、スチレン-アクリル酸エステル樹脂、及び、エチレン-酢酸ビニル樹脂が含まれる。中でも、熱定着時の可塑性の観点から、スチレン-アクリル酸エステル樹脂(スチレンアクリル樹脂)が好ましい。
【0093】
スチレンアクリル樹脂は、少なくとも、スチレン単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成される。スチレン単量体は、CH=CH-Cの構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有するスチレン誘導体を含む。
【0094】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH(R)=CHCOOR(Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数が1以上かつ24以下のアルキル基を表す)で表されるアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの他に、これらのエステルの構造中に公知の側鎖や官能基を有するアクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体を含む。
【0095】
スチレン単量体の例には、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン及びp-n-ドデシルスチレンが含まれる。
【0096】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート及びフェニルアクリレートなどのアクリル酸エステル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル;が含まれる。
【0097】
なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」とは、「アクリル酸エステル単量体」と「メタクリル酸エステル単量体」との総称であり、それらの一方又は両方を意味する。例えば、「(メタ)アクリル酸メチル」は、「アクリル酸メチル」及び「メタクリル酸メチル」の一方又は両方を意味する。
【0098】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、一種でもそれ以上でもよい。例えば、スチレン単量体と2種以上のアクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、スチレン単量体と2種以上のメタクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、及びスチレン単量体とアクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体とを併用して共重合体を形成すること、のいずれも可能である。
【0099】
上記非晶性樹脂の可塑性を制御する観点から、上記非晶性樹脂におけるスチレン単量体に由来する構成単位の含有量は、40質量%以上かつ90質量%以下であることが好ましい。また、上記非晶性樹脂における(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、10質量%以上かつ60質量%以下であると好ましい。
【0100】
上記非晶性樹脂は、上記スチレン単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の他の単量体に由来する構成単位をさらに含有していてもよい。他の単量体は、多価アルコール由来のヒドロキシ基(-OH)又は多価カルボン酸由来のカルボキシ基(-COOH)とエステル結合する化合物であることが好ましい。すなわち、非晶性樹脂は、上記スチレン単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシ基又はヒドロキシ基を有する化合物(両性化合物)がさらに重合してなる重合体であることが好ましい。
【0101】
上記両性化合物の例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等などのカルボキシ基を有する化合物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基を有する化合物;が含まれる。
【0102】
上記非晶性樹脂における上記両性化合物に由来する構成単位の含有量は、0.5質量%以上かつ20質量%以下であることが好ましい。
【0103】
上記スチレンアクリル樹脂は、公知の油溶性又は水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法によって合成することができる。油溶性の重合開始剤の例には、アゾ系又はジアゾ系重合開始剤、及び過酸化物系重合開始剤が含まれる。
【0104】
上記アゾ系又はジアゾ系重合開始剤の例には、2,2′-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、1,1′-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2′-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル及びアゾビスイソブチロニトリルが含まれる。
【0105】
過酸化物系重合開始剤の例には、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2-ビス-(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン及びトリス-(t-ブチルパーオキシ)トリアジンが含まれる。
【0106】
また、乳化重合法でスチレンアクリル樹脂の樹脂粒子を合成する場合には、重合開始剤として水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性重合開始剤の例には、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸とその塩、及び過酸化水素が含まれる。
【0107】
非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、非晶性樹脂の可塑性を制御しやすい観点から、5000以上かつ150000以下であることが好ましく、10000以上かつ70000以下であることがより好ましい。
【0108】
[弾性率向上剤]
本発明のトナーは、弾性率向上剤を含むことが好ましい。このような弾性率向上剤としてはターフェニル等の芳香族炭化水素化合物、環状構造を有するアビエチン酸等の有機酸及び流動パラフィン等が挙げられる。このような化合物を本発明に係る結晶性材料を含むトナー粒子に配合すると、トナーの貯蔵弾性率が増大し、外添剤のトナー粒子内部への埋没を抑制することができる。
中でも、弾性率向上剤が流動パラフィンであることが、低温定着性と長期にわたる画像の安定性の観点から好ましい。また、流動パラフィンは、トナー溶融時の粘度を上げることなく、トナーのガラス状態の弾性率を高めることができる。
前記結晶性材料に対する前記弾性率向上剤の質量比の値は、0.08~0.30の範囲内であることが好ましく、0.10~0.25の範囲内であることがより好ましい。
【0109】
(流動パラフィン)
本発明に用いられる「流動パラフィン」とは、沸点的には潤滑油留分に属する、極めて純度の高い液状飽和炭化水素の混合物であり、化学的に安定した不活性、非極性飽和炭化水素である。具体的にはパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素又はそれらを主成分とする有機性液体混合物である。なお、パラフィン系炭化水素とは、C2n+2で表される分子式を有する脂肪族炭化水素で、直鎖構造を有するものや、分枝構造を有するものであり、ナフテン系炭化水素とは、C2nで表される環式飽和炭化水素で、通常、炭素数5~6の環式構造を有するものである。これらは、一般に石油の高沸点留分から各精製工程を経て得られ、通常、パラフィン系炭化水素とナフテン系炭化水素の混合物として市販されている。
【0110】
流動パラフィンの好ましい物性としては、40℃における動粘度が4~200mm/sのもの、又はゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(以下GPCと略す)測定におけるピークトップ分子量が200~600の炭化水素化合物である。特に好ましくは、GPC測定におけるピークトップ分子量が240~550のものである。40℃における動粘度の測定は、JIS K2283に準拠し、「B型粘度計」((株)トキメック製)にて行う。
【0111】
[離型剤]
本発明に用いられる離型剤としては、公知のものを使用することができる。離型剤は一種でもそれ以上でもよい。離型剤の例には、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;及び、ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス、カルナウバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘネート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックス;が含まれる。上記離型剤は、ビニル系樹脂と相溶化しやすい。このため、上記離型剤の可塑効果により、上記トナーのシャープメルト性を高め、十分な低温定着性を得ることができる。上記離型剤は、十分な低温定着性を得る観点から、エステル系ワックス(エステル系化合物)であることが好ましく、さらに耐熱性及び低温定着性を両立させる観点から、直鎖状エステル系ワックス(直鎖状エステル系化合物)であることがより好ましい。
【0112】
上記離型剤の融点Tmrは、十分な高温保存性を得る観点から、60℃以上であることが好ましく、65℃以上であることがより好ましい。また、上記離型剤の融点Tmrは、十分なトナーの低温定着性を得る観点から、90℃以下であることが好ましく、75℃以下であることがより好ましい。また、上記トナーにおける離型剤の含有量は、1質量%以上かつ30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上かつ20質量%以下であることがより好ましい。
【0113】
なお、後述のブラックトナーにおける離型剤の含有量は、ブラックトナーの発熱ピーク温度と有彩色トナーの発熱ピーク温度との前述した良好な関係を達成する観点から、有彩色トナーのそれよりも5~20質量%少ないことが好ましい。
【0114】
[他の添加剤]
トナー母体粒子は、本実施の形態に係る効果を奏する範囲において、前述の結晶性材料、非晶性樹脂及び離型剤以外の他の成分をさらに含有していてもよい。例えば、上記トナー母体粒子が含有していてもよい上記他の成分の例には、着色剤及び荷電制御剤が含まれる。
【0115】
(着色剤)
上記着色剤は、一種でもそれ以上でもよい。典型的な着色剤の例には、マゼンタ、イエロー、シアン及びブラックの各色用の着色剤が含まれる。
【0116】
マゼンタ用の着色剤の例には、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同6、同7、同15、同16、同48:1、同53:1、同57:1、同60、同63、同64、同68、同81、同83、同87、同88、同89、同90、同112、同114、同122、同123、同139、同144、同149、同150、同163、同166、同170、同177、同178、同184、同202、同206、同207、同209、同222、同238及び同269が含まれる。
【0117】
イエロー用の着色剤の例には、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー12、同14、同15、同17、同74、同83、同93、同94、同138、同155、同162、同180及び同185が含まれる。
【0118】
シアン用の着色剤の例には、C.I.ピグメントブルー2、同3、同15、同15:2、同15:3、同15:4、同16、同17、同60、同62、同66及びC.I.ピグメントグリーン7が含まれる。
【0119】
ブラック用の着色剤の例には、カーボンブラック及び磁性体粒子が含まれる。カーボンブラックの例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びランプブラックが含まれる。磁性体粒子の磁性体の例には、鉄、ニッケル、コバルトなどの強磁性金属;これらの金属を含む合金、フェライト、マグネタイトなどの強磁性金属の化合物;二酸化クロム;及び、強磁性金属を含まないが熱処理することにより強磁性を示す合金;が含まれる。熱処理により強磁性を示す合金の例には、マンガン-銅-アルミニウム、マンガン-銅-スズなどのホイスラー合金が含まれる。
【0120】
上記トナー母体粒子中における上記着色剤の含有量は、適宜に、そして独立して決めることができ、例えば画像の色再現性を確保する観点から、1質量%以上かつ30質量%以下であることが好ましく2質量%以上かつ20質量%以下であることがより好ましい。また、着色剤の粒子の大きさは、体積平均粒径で、例えば10nm以上かつ1000nm以下であることが好ましく、50nm以上かつ500nm以下であることがより好ましく、80nm以上かつ300nm以下であることがさらに好ましい。当該体積平均粒径は、カタログ値であってもよく、また、例えば着色剤の体積平均粒径(体積基準のメジアン径)は、「UPA-150」(マイクロトラック・ベル株式会社製)によって測定することができる。
【0121】
(荷電制御財)
本発明に用いられる荷電制御剤として、公知のものを利用することができ、その例には、ニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、及びサリチル酸金属塩、が含まれる。上記トナーにおける荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して通常0.1質量部以上かつ10質量部以下であり、好ましくは0.5質量%以上かつ5質量%以下である。また、荷電制御剤の粒子の大きさは、数平均一次粒子径で例えば10nm以上かつ1000nm以下であり、好ましくは50nm以上かつ500nm以下であり、より好ましくは80nm以上かつ300nm以下である。
【0122】
<外添剤>
本発明に用いられる外添剤は、一種でもそれ以上でもよい。外添剤は、上述のトナー母体粒子の表面に付着してトナーとしての帯電性能や流動性、又はクリーニング性を向上させる。外添剤の例には、無機微粒子、有機微粒子及び滑剤が含まれる。
【0123】
上記無機微粒子における無機化合物の例には、シリカ、チタニア、アルミナ及びチタン酸ストロンチウムが含まれる。当該無機微粒子は、必要に応じて公知のシランカップリング剤やシリコーンオイルなどの表面処理剤によって疎水化処理されていてもよい。また、上記無機微粒子の大きさは、数平均一次粒径で20nm以上かつ500nm以下であることが好ましく、70nm以上かつ300nm以下であることがより好ましい。
【0124】
上記有機微粒子には、スチレンやメチルメタクリレートなどの単独重合体やこれらの共重合体による有機微粒子を使用することができる。上記有機微粒子の大きさは、数平均一次粒子径で10~2000nm程度であり、その粒子形状は、例えば球形である。
【0125】
上記滑剤は、クリーニング性や転写性をさらに向上させる目的で使用される。上記滑剤の例には、高級脂肪酸の金属塩が挙げられ、より具体的には、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩;オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウムなどの塩;パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウムなどの塩;リノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩;リシノール酸の亜鉛、カルシウムなどの塩;が含まれる。上記滑剤の大きさは、体積基準のメジアン径(体積平均粒径)で0.3μm以上かつ20μm以下であることが好ましく、0.5μm以上かつ10μm以下であることがより好ましい。
【0126】
上記滑剤の体積基準のメジアン径は、JIS Z8825-1(2013年)に準じて決定されうる。具体的には以下のとおりである。
【0127】
測定装置としては、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置「LA-920」(株式会社堀場製作所製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、LA-920に付属の専用ソフト「HORIBA LA-920 for Windows(登録商標) WET(LA-920) Ver.2.02」を用いる。また、測定溶媒としては、あらかじめ不純固形物などを除去したイオン交換水を用いる。
【0128】
測定手順は、以下の(1)~(11)のとおりである。
(1)バッチ式セルホルダーをLA-920に取り付ける。
(2)所定量のイオン交換水をバッチ式セルに入れ、バッチ式セルをバッチ式セルホルダーにセットする。
(3)専用のスターラーチップを用いて、バッチ式セル内を撹拌する。
(4)「表示条件設定」画面の「屈折率」ボタンを押し、ファイル「110A000I」(相対屈折率1.10)を選択する。
(5)「表示条件設定」画面において、粒子径基準を体積基準とする。
(6)1時間以上の暖気運転を行った後、光軸の調整、光軸の微調整、ブランク測定を行う。
【0129】
(7)ガラス製の100mL平底ビーカーに約60mLのイオン交換水を入れる。この中に分散剤として、「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業株式会社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.3mL加える。
【0130】
(8)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス株式会社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に約3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを約2mL添加する。
【0131】
(9)上記(7)のビーカーを上記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの位置を調整する。
【0132】
(10)上記(9)のビーカー内の水溶液に超音波を照射した状態で、約1mgの滑剤粒子を少量ずつ上記ビーカー内の水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、この際に滑剤粒子が固まりとなって液面に浮く場合があるが、その場合はビーカーを揺り動かすことで固まりを水中に沈めてから60秒間の超音波分散を行う。また、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となるように上記水温を適宜調節する。
【0133】
(11)上記(10)で調製した滑剤粒子が分散した水溶液を、気泡が入らないように注意しながら直ちにバッチ式セルに少量ずつ添加して、タングステンランプからの光の透過率が90%~95%となるように、上記の分散液の濃度を調整する。そして、粒度分布の測定を行う。得られた体積基準の粒度分布のデータに基づき50%積算径を求め、上記滑剤の体積基準のメジアン径とする。
【0134】
上記外添剤の粒径は、カタログ値であってもよく、実測値であってもよい。当該外添剤の体積平均粒径は、トナー母体粒子上の外添剤の一次粒子100個を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope(SEM))装置により観察し、観察された一次粒子の画像解析によって外添剤ごとの最長径及び最短径を測定し、この中間値から球相当径を求め、得られた球相当径の累積頻度における50%の径(D50v)として求めることができる。外添剤の体積平均粒径は、例えば粗大品の粉砕、分級又は分級品の混合によって調整することが可能である。
【0135】
上記トナー粒子における外添剤の含有量は、トナー粒子100質量部に対して0.1質量部以上かつ10.0質量部以下であることが好ましい。上記外添剤は、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機などの公知の種々の混合装置を使用してトナー母体粒子に添加することができる。
【0136】
<キャリア粒子>
本発明に用いられるキャリア粒子は、磁性粒子を含む。当該磁性粒子における磁性体の例には、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属;それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金;などの従来公知の材料が含まれる。中でも、上記磁性粒子は、フェライト粒子であることが好ましい。
【0137】
キャリア粒子には、上記磁性粒子とその表面を覆う樹脂層とを有する樹脂被覆型キャリア粒子であってもよいし、樹脂粒子中に上記磁性材料の微粒子が分散してなる磁性体分散型キャリア粒子であってもよい。樹脂被覆型キャリア粒子における被覆用の樹脂の例には、オレフィン樹脂、シクロヘキシルメタクリレート-メチルメタクリレート共重合体、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂及びフッ素樹脂が含まれる。また、磁性体分散型キャリア粒子の上記樹脂粒子を構成するための樹脂の例には、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル、フッ素樹脂及びフェノール樹脂が含まれる。
【0138】
キャリア粒子の大きさは、体積平均粒径で15μm以上かつ100μm以下であることが好ましく、25μm以上かつ60μm以下であることがより好ましい。上記トナーにおけるキャリア粒子の含有量は、例えば、トナー粒子濃度が6~8質量%となる量である。また、キャリア粒子の体積平均粒径は、例えば外添剤の粒子径と同様の方法によって測定することができる。
【0139】
上記トナー粒子の平均粒径は、定着時における加熱部材へのトナーの飛翔による定着オフセットの発生を抑制する観点、転写効率を高める観点、及びトナー流動性を高める観点から、体積平均粒径で3.0μm以上かつ8.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以上かつ7.5μm以下であることがより好ましい。トナー粒子の平均粒径は、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて体積平均粒径を測定することによって求めることができ、上記トナーの製造時の凝集、融着工程における凝集剤の濃度や溶剤の添加量、当該凝集、融着工程における融着時間、又は結着樹脂の組成、によって制御することができる。
【0140】
上記トナー粒子の平均円形度は、転写効率の向上の観点から、0.920以上かつ1.000以下であることが好ましく、0.940以上かつ0.995以下であることがより好ましい。上記平均円形度は、下記式で表される。下記式中、L0は粒子投影像の周囲長(μm)を表し、L1は粒子の円相当径から求めた円の周囲長(μm)を表す。上記平均円形度は、例えば、平均円形度の測定装置「FPIA-2100」(シスメックス株式会社製)を用いて測定することができる。
平均円形度=L1/L0
【0141】
上記トナー母体粒子は、その内部にラメラ構造を有することが、結晶性樹脂の再結晶化を容易にする観点、及びそれにより低温定着性とその他の上記特性とが両立しやすい観点から好ましい。例えば、結晶性ポリエステルは、低温定着性に大きく寄与するが、トナー中での存在状態によっては、当該結晶性ポリエステルによる低温定着性の向上効果を十分に発現できないことがある。結晶性ポリエステルのラメラ構造が所望の位置と大きさで存在していれば、それを起点に結着樹脂の溶融がより効果的に促進され、低温定着性の発現により効果的である。
【0142】
上記ラメラ構造とは、ラメラ状の結晶構造であり、結晶性樹脂の分子鎖の二以上層が積層された層状構造を意味する。図2Aは、上記トナーにおけるラメラ構造の一例を示す電子顕微鏡写真である。ラメラ構造の例には、結晶性樹脂の分子鎖の折り畳みによる結晶化で生じた層状構造、及び結晶性樹脂の分子鎖の結晶化で生じた層状構造、が含まれる。結晶性ポリエステルのラメラ構造は、ラメラ構造のドメイン部分、すなわち連続相であるマトリックス中に、閉じた界面(相と相との境界)を有する島状の相として存在する。
【0143】
結晶性樹脂が採り得るラメラ構造以外の分子レベルの構造の例には、糸状構造が含まれる。糸状構造は、上記分子鎖が上記の層状構造を構築するほどに集積していない構造を意味する。図2Bは、トナー中における糸状構造の一例を示す電子顕微鏡写真である。糸状構造における、トナー母体粒子が溶融を開始する際の起点(開始剤)としての能力は、ラメラ構造のそれに比べて低い。
【0144】
上記ラメラ構造は、例えば結着樹脂の材料(モノマー)の種類によって実現可能である。例えば、非晶性樹脂のモノマーに、スチレンアクリル樹脂であれば2-EHAなどの結晶性材料に近い構成のモノマーを用いることや、結晶性ポリエステルのモノマーにドデセニルコハク酸を用いることが、上記ラメラ構造を導入する有力な手段となり得る。
【0145】
トナー母体粒子におけるラメラ構造の有無は、例えば、四酸化ルテニウム(RuO)によって染色したトナー母体粒子の切片(切片の厚さ:60~100nm)を透過型電子顕微鏡「JEM-2000FX」(日本電子株式会社社製)により断面観察することによって確認できる。
【0146】
また、上記トナー母体粒子は、耐熱性(例えば高温保存性)と低温定着性を両立しやすくする観点から、コア-シェル構造を有することが好ましい。
【0147】
上記トナー粒子を製造する方法は、限定されず、その例には、懸濁重合法、乳化重合凝集法、分散重合法など公知の重合方法が含まれる。上記トナー粒子は、例えばコア樹脂からなるコア粒子の表面がシェル樹脂からなるシェル層によって被覆されてなるコア-シェル構造の粒子であってもよく、このようなシェル層を有さない単層構造の粒子であってもよい。なお、コア-シェル構造の粒子である場合、シェル層を構成するシェル樹脂は、非晶性樹脂であることが好ましい。
【0148】
外添剤を添加して混合する乾式法により公知の外添剤をトナー母体粒子に添加してトナー粒子とするとき、外添剤の混合装置としては、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機などの公知の種々の混合装置を使用することができる。
【0149】
《トナーの製造方法》
以下、上記トナーの製造方法について、結晶性材料が結晶性ポリエステルの場合で、イエロートナーを製造する方法を例にして、具体例を詳述する。なお、イエロートナー以外のトナー、例えば、マゼンタトナー、シアントナー、ブラックトナーを製造する方法においては、使用する着色剤を変更すれば、イエロートナーを製造する方法を好適に採用できる。なお、本発明に係るトナーを製造する方法は、下記に限定されない。
【0150】
<着色剤微粒子の水系分散液の調製>
ドデシル硫酸ナトリウムをイオン交換水に撹拌溶解し、得られた水溶液にイエロー着色剤を添加し、分散処理することにより、イエロー着色剤の微粒子が分散されてなる着色剤微粒子の水系分散液が調製される。
【0151】
<離型剤含有非晶性ビニル樹脂の水系分散液の調製>
(第1重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム及びイオン交換水を仕込み、窒素気流下で撹拌しながら、昇温させ、過硫酸カリウムをイオン交換水に溶解させた開始剤水溶液を添加し、例えば、スチレン系単量体としてスチレン(St)、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn-ブチルアクリレート(BA)、カルボキシ基[-COOH]又はヒドロキシ基[-OH]を有する化合物としてメタクリル酸(MAA)などからなる単量体混合液を滴下後、加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液(1)を調製する。
【0152】
(第2重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウムをイオン交換水に溶解させた溶液を仕込み、加熱後、上記の樹脂微粒子の分散液(1)と、例えば、スチレン系単量体としてスチレン(St)、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn-ブチルアクリレート、カルボキシ基[-COOH]又はヒドロキシ基[-OH]を有する化合物としてメタクリル酸(MAA)、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート、離型剤(ベヘン酸ベヘネート(融点73℃))などからなる、単量体及び離型剤を溶解させた溶液を添加し、混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製する。
【0153】
次いで、この分散液に、過硫酸カリウムをイオン交換水に溶解させた開始剤水溶液を添加し、この系を加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液(2)を調製する。
【0154】
(第3重合)
樹脂微粒子の分散液(2)にイオン交換水を添加しよく混合したのち、過硫酸カリウムをイオン交換水に溶解させた開始剤水溶液を添加し、例えば、スチレン系単量体としてスチレン(St)、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn-ブチルアクリレート(BA)、カルボキシ基[-COOH]又はヒドロキシ基[-OH]を有する化合物としてメタクリル酸(MAA)、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネートなどからなる単量体混合液を滴下する。滴下終了後、加熱撹拌することにより重合を行った後、冷却し、離型剤含有非晶性ビニル樹脂の水系分散液が調製される。
【0155】
<結晶性ポリエステルの水系分散液の調製>
(結晶性ポリエステルの合成)
付加重合系樹脂セグメント(ここでは、スチレンアクリル樹脂セグメントとする。)の原料モノマー及びラジカル重合開始剤として、例えば、スチレン、n-ブチルアクリレート、アクリル酸、重合開始剤(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を滴下ロートに入れる。
【0156】
また、重縮合系樹脂セグメント(ここでは、結晶性ポリエステルセグメントとする。)の原料モノマーとして、例えば、脂肪族ジカルボン酸であるセバシン酸、脂肪族ジオールである1,12-ドデカンジオールを窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、加熱し溶解させる。
【0157】
次いで、撹拌下で、滴下ロートに入れた付加重合系樹脂セグメントの原料モノマー及びラジカル重合開始剤を、上記の加熱溶解させた重縮合系樹脂セグメントの材料溶液に滴下し、熟成を行ったのち、減圧下にて未反応の付加重合モノマーを除去する。その後、エステル化触媒を投入し、昇温し、常圧下にて反応させ、さらに減圧下にて反応を行う。さらに冷却したのち、減圧下にて反応させることにより、ハイブリッド樹脂である結晶性ポリエステルが得られる。
【0158】
(結晶性ポリエステルの水系分散液の調製)
上記合成例で得られた、結晶性ポリエステルを溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に撹拌しつつ、溶解させる。次に、この溶解液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加する。この溶解液を撹拌しながら、水を滴下混合することで乳化液を調製する。次いで、この乳化液から溶媒を蒸留除去することで、結晶性ポリエステルが分散された水系分散液が調製される。
【0159】
<イエロートナーの製造>
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、離型剤含有非晶性ビニル樹脂の水系分散液、イオン交換水を投入した後、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを調整する。
【0160】
その後、上記反応容器に、着色剤微粒子の水系分散液を投入し、次いで、塩化マグネシウム水溶液を添加し混合液を調製する。この混合液を昇温し、結晶性ポリエステルの水系分散液を上記混合液にさらに添加して凝集を進行させる。凝集粒子が所望の粒径になった時点で、非晶性ポリエステルの水系分散液を投入し、塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解した水溶液を添加して粒子の成長を停止させる。その後、上記混合液を加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させる。その後、冷却する。
【0161】
次いで、上記混合液を固液分離し、得られた固形分(トナー母体粒子)を洗浄したのち、乾燥させることにより、イエロートナー母体粒子が得られる。得られたトナー母体粒子に外添剤を添加することにより、イエロートナー粒子が製造される。
【0162】
上記イエロートナー粒子に対して、公知のフェライトキャリアを、例えばトナー濃度で6質量%以上かつ8質量%以下となる量で添加して混合することにより、イエロートナーが製造される。
【0163】
上記トナーは、電子写真方式における公知の画像形成方法に常法により用いられる。上記トナーは、前述したように、低温定着性に加えて、低印字率の画像を長期にわたり出力した場合であっても出力画像の変動が少なく画像の安定性が優れている。
【実施例
【0164】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0165】
〔実施例1〕
着色剤粒子分散液、結着樹脂粒子分散液、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を準備した。
【0166】
<着色剤粒子分散液の調製>
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を撹拌しながら、着色剤として「C.I.ピグメントブルー15:3」420質量部を徐々に添加した。撹拌装置CLEARMIX(エム・テクニック株式会社製、「CLEARMIX」は同社の登録商標)を用いて分散処理することにより、シアン発色する着色剤粒子分散液を調製した。当該分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が110nmであった。
【0167】
<結着樹脂粒子分散液の調製>
〈結着樹脂粒子分散液1の調製〉
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素ガス導入装置を備えた反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム4質量部及びイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃にして、下記単量体の混合液を2時間かけて滴下した。
【0168】
スチレン 570.0質量部
n-ブチルアクリレート 165.0質量部
メタクリル酸 68.0質量部
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂粒子分散液(1-a)を調製した。
【0169】
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム3質量部をイオン交換水1210質量部に溶解させた溶液を仕込み80℃に加熱した。加熱後、上記第1段重合により調製した樹脂粒子分散液(1-a)を固形分換算で60質量部と、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤を80℃にて溶解させた混合液と、を添加した。
【0170】
スチレン(St) 245.0質量部
2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA) 97.0質量部
メタクリル酸(MAA) 30.0質量部
パルミチン酸アミド 100.0質量部
流動パラフィン1 25.0質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 4.0質量部
ベヘン酸ベヘネート(離型剤、融点73℃) 100.0質量部
【0171】
循環経路を有する機械式分散機CLEARMIX(登録商標)(エム・テクニック株式会社製)により、1時間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液に、過硫酸カリウム5.2質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた重合開始剤の溶液、及びイオン交換水1000質量部を添加し、この系を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行って、樹脂粒子分散液(1-b)を調製した。
【0172】
(第3段重合)
上記第2段重合により得られた樹脂粒子分散液(1-b)に、過硫酸カリウム7質量部をイオン交換水130質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、82℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を1時間かけて滴下した。
【0173】
スチレン(St) 400.0質量部
アクリル酸n-ブチル(BA) 170.0質量部
メタクリル酸(MAA) 35.0質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 8.0質量部
【0174】
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、結着樹脂粒子分散液1を調製した。当該分散液中の結着樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が145nmであった。また、得られた結着樹脂の重量平均分子量は35000であり、ガラス転移温度(Tg)は37℃であった。
【0175】
〈結着樹脂粒子分散液2~18の調製〉
第2段重合時に投入する脂肪酸アミドの種類と量及び流動パラフィンの種類と量を、表Iに記載のとおりに変えた以外は、結着樹脂粒子分散液1の製造方法と同様にして、結着樹脂粒子分散液2~18を得た。なお、以下の表において、「-」は、上欄に示した材料を用いなかったことを表す。
また、表I中、以下の材料を用いた。
【0176】
パルミチン酸アミド:三菱ケミカル株式会社製
ステアリン酸アミド:東京化成工業株式会社製
ベヘン酸アミド:東京化成工業株式会社製
流動パラフィン1:モレスコホワイトP―100、株式会社MORESCO製
流動パラフィン2:モレスコホワイトP-350P、株式会社MORESCO製
アビエチン酸:東京化成工業株式会社製
m-ターフェニル:東京化成工業株式会社製
【0177】
【表1】
【0178】
〈結晶性ポリエステル樹脂の調製〉
下記のスチレンアクリル重合セグメントの原料単量体及びラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
【0179】
スチレン 36.0質量部
n-ブチルアクリレート 13.0質量部
アクリル酸 2.0質量部
ラジカル重合開始剤(ジ-t-ブチルパーオキサイド) 7.0質量部
また、結晶性ポリエステル重合セグメントの原料単量体を、窒素ガス導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
【0180】
テトラデカン二酸 440.0質量部
1,4-ブタンジオール 153.0質量部
次いで、撹拌下でスチレンアクリル重合セグメントの原料単量体を90分間かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応のスチレンアクリル重合セグメントの原料単量体を除去した。なお、このとき除去された原料単量体の量は、上記の仕込みの原料単量体に対してごく微量であった。その後、触媒としてチタンテトラブトキサイド(Ti(O-n-Bu))を0.8質量部投入し、235℃まで昇温し、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
【0181】
次いで、200℃まで冷却した後、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることにより、結晶性ポリエステル樹脂を得た。このようにして調製した結晶性ポリエステル樹脂は、ハイブリッド樹脂(ハイブリッド結晶性ポリエステル)であり、重量平均分子量が24500であり、融点が76℃であった。
【0182】
<結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製>
結晶性ポリエステル樹脂100質量部を、400質量部の酢酸エチルに溶解し、あらかじめ調製しておいた0.26質量%濃度のドデシル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合した。得られた混合液を撹拌しながら、超音波ホモジナイザーUS-150T(株式会社日本精機製作所製)によりV-LEVEL 300μAで30分間の超音波分散処理を行った。
【0183】
その後、40℃に加温した状態で、ダイヤフラム真空ポンプV-700(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を調製した。分散液中の結晶性ポリエステル樹脂粒子は、体積基準のメジアン径が160nmであった。
【0184】
《トナーの製造》
<トナー1の製造>
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、上記で調製した結着樹脂粒子分散液1を507質量部(固形分換算)、着色剤粒子分散液を32.5質量部(固形分換算)、イオン交換水500質量部を投入し、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。さらに、塩化マグネシウム・六水和物60.8質量部をイオン交換水により2倍に希釈した溶液を、撹拌しながら、30℃において10分間かけて添加した。3分間放置した後、60分間かけて80℃まで昇温させた。
【0185】
80℃に到達後、塩化マグネシウム・六水和物10質量部をイオン交換水により2倍に希釈した溶液を、撹拌しながら、30℃において10分間かけて添加した。粒径の成長速度が0.02μm/分となるように撹拌速度を調整し、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)により測定した体積基準のメジアン径が5.8μmになった時点で、撹拌速度を調整し、粒径成長を停止させ、塩化ナトリウム50.7質量部をイオン交換水250質量部に溶解させた水溶液を添加した後、そのまま撹拌し、フロー式粒子像測定装置「FPIA-3000」(シスメックス社製)を用い、平均円形度が0.970になった時点で反応液を10℃/分の冷却速度で25℃まで冷却し、トナー母体粒子1の分散液を得た。
【0186】
得られた分散液を固液分離し、脱水したトナーケーキを35℃のイオン交換水に再分散し、固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した。洗浄後、35℃で24時間乾燥させることにより、トナー母体粒子1(体積基準のメジアン径5.8μm)を得た。
【0187】
得られたトナー母体粒子1 100質量部に、疎水性シリカ粒子(数平均一次粒径:12nm、疎水化度:68)0.6質量部、疎水性酸化チタン粒子(数平均一次粒径:20nm、疎水化度:63)1.0質量部及びゾルゲルシリカ(数平均一次粒径:110nm、疎水化度:63)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)により回転翼周速40m/秒、32℃で20分間混合させた。混合後、45μmの目開きのふるいを用いて粗大粒子を除去し、トナー1を得た。
【0188】
<トナー2、3及び18の製造方法>
使用する結着樹脂粒子分散液1を、それぞれ結着樹脂粒子分散液2、結着樹脂粒子分散液3、結着樹脂粒子分散液18に変えた以外は、トナー1の製造と同様にして、トナー2、トナー3及びトナー18を得た。
【0189】
<トナー4の製造>
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、上記で調製した結着樹脂粒子分散液4を507質量部(固形分換算)、着色剤粒子分散液を32.5質量部(固形分換算)、イオン交換水500質量部を投入し、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。さらに、塩化マグネシウム・六水和物60.8質量部をイオン交換水により2倍に希釈した溶液を、撹拌しながら、30℃において10分間かけて添加した。3分間放置した後、60分間かけて80℃まで昇温させた。
【0190】
80℃に到達後、塩化マグネシウム・六水和物10質量部をイオン交換水により2倍に希釈した溶液を、撹拌しながら、30℃において10分間かけて添加し、5分間放置した後、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液44質量部(固形分換算)に、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩を10質量部(固形分換算)混合した溶液を、30分間かけて添加した。反応液の上澄みが透明になった時点で、粒径の成長速度が0.02μm/分となるように撹拌速度を調整し、コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)により測定した体積基準のメジアン径が5.8μmになった時点で、撹拌速度を調整し、粒径成長を停止させ、塩化ナトリウム50.7質量部をイオン交換水250質量部に溶解させた水溶液を添加した。
【0191】
その後、そのまま撹拌し、フロー式粒子像測定装置「FPIA-3000」(シスメックス社製)を用い、平均円形度が0.970になった時点で反応液を10℃/分の冷却速度で25℃まで冷却し、トナー母体粒子4の分散液を得た。以降の工程は、トナー1の製造方法と同様にして4トナー4を得た。
【0192】
<トナー5~17の製造方法>
結着樹脂粒子分散液の種類及び結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の量を、下記表IIのとおりに変えた以外は、トナー4の製造方法と同様にして、トナー5~17を得た。
【0193】
【表2】
【0194】
《トナーの評価》
<結晶性材料の融点>
トナーの製造に用いた結晶性材料の融点は前述した方法で求めた。
【0195】
<貯蔵弾性率>
損失弾性率の極大を示す温度をTmaxと、前記Tmaxにおける貯蔵弾性率は、前述した方法で求めた。
【0196】
<画像の安定性>
市販のカラー複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタ株式会社製)を用いて、低温低湿環境(温度10℃、湿度15%RH)で、A4版の上質紙(65g/m)上に、テスト画像として印字率が5%の帯状ベタ画像を形成する印刷を10万枚行い、印刷初期と10万枚印刷後に階調率32段階の階調パターンを出力し、この階調パターンにCCDによる読み取り値にMTF(Modulation Transfer Function)補正を考慮したフーリエ変換処理を施し、人間の比視感度に合わせたGI値(Graininess Index)を測定し、最大のGI値を求め、印刷初期と10万枚印刷後のGI値の変動値Δについて、下記の評価基準に従って出力画像の安定性を評価した。GI値は、小さいほど良く、小さいほど画像の粒状感が少ないことを表している。なお、このGI値は、日本画像学会誌39(2)、84-93(2000)に掲載されている値である。
【0197】
(評価基準)
◎:印刷初期と10万枚印刷後で、GI値の変動値Δが0.02未満(合格)
○:印刷初期と10万枚印刷後で、GI値の変動値Δが0.02以上0.04未満(合格)
△:印刷初期と10万枚印刷後で、GI値の変動値Δが0.04以上0.06未満(合格)
×:印刷初期と10万枚印刷後で、GI値の変動値Δが0.06以上(不合格)。
【0198】
<低温定着性>
低温定着性の評価は、市販の複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)において、定着装置を、定着用ヒートローラの表面温度を130~170℃の範囲で変更することができるように改造したものに現像剤を順次装填し、常温常湿(温度20℃、相対湿度50%RH)の環境下で、画像形成装置でA4サイズのNPI 128g/m(日本製紙株式会社製)にトナー付着量11.3g/mのベタ画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を130℃から2℃刻みで増加させるよう変更しながら170℃まで繰り返し行った。アンダーオフセットが発生しない定着温度を定着下限温度とし、低温定着性の指標とした。
【0199】
なお、トナー付着量11.3g/mのベタ画像は、高付着量画像出力時を再現するものである。アンダーオフセットとは、定着装置を通過する際に与えられた熱によるトナー層の溶融が不十分であるために記録紙等の転写材から剥離してしまう画像欠陥をいう。この定着下限温度が低ければ低い程、定着性が優れている。
以下の評価基準に基づいて評価した。△以上を合格とした。
【0200】
(評価基準)
◎:146℃以下
○:146℃を超え152℃以下
△:152℃を超え156℃以下
×:156℃を超える
【0201】
【表3】
【0202】
本発明のトナーは、低温定着性と低印字率の画像を長期にわたり出力した場合であっても出力画像の変動が少なく画像の安定性が優れていることが分かる。