(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】硬貨処理装置及び現金取扱装置
(51)【国際特許分類】
G07D 1/00 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
G07D1/00 Z GBL
(21)【出願番号】P 2019210666
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174104
【氏名又は名称】奥田 康一
(72)【発明者】
【氏名】西濃 信晴
【審査官】永安 真
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-160571(JP,U)
【文献】特開2004-213561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬貨が集積される集積空間を形成する集積部と、
前記集積部と共に前記集積空間を形成し、当該集積空間に面した円盤面を有する回転体を回転させて前記集積空間内の前記硬貨を分離する分離部と、
前記分離部により分離された前記硬貨を、前記円盤面と連なる搬送面に対向させながら搬送路に沿って搬送方向へ搬送する搬送部と、
前記円盤面と対向する範囲の外側であって、前記搬送路における前記搬送面と対向する位置に、当該搬送面との間に所定の間隔を空けて配置された規制部材と
を具え、
前記規制部材は、
前記搬送面と対向する規制部材搬送面と、
前記搬送路の前記搬送方向における上流側に面し、前記搬送方向に対して所定の傾斜角度で傾斜する規制面と
を具え、
前記搬送部の前記搬送面は、前記円盤面を延長した仮想的な平面に対し、前記搬送方向に沿って進むに連れて当該仮想的な平面から遠ざかる方向に傾斜し、
前記規制部材搬送面は、前記搬送方向に関する上流側に形成され前記円盤面とほぼ平行な搬送面上流部と、当該搬送方向に関する下流側に形成され前記搬送方向に沿って進むに連れて前記仮想的な平面
に近づく方向に傾斜した搬送面下流部とを有する
ことを特徴とする硬貨処理装置。
【請求項2】
前記分離部の前記回転体は、前記円盤面から前記集積空間内へ突出した突起をさらに具え、
前記所定の傾斜角度は、前記規制面及び前記突起の間に前記硬貨が挟まった際に、当該硬貨の外周円のうち当該突起と当接する突起当接箇所における接線である突起当接接線の前記搬送方向に対する傾斜角度である突起当接角度よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の硬貨処理装置。
【請求項3】
前記所定の傾斜角度は、前記規制面に当接した硬貨を、前記搬送部により搬送されるべき他の硬貨の進行経路外へ進行させる角度に設定されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬貨処理装置。
【請求項4】
前記所定の傾斜角度は、45度以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の硬貨処理装置。
【請求項5】
前記所定の傾斜角度は、30度以下である
ことを特徴とする請求項4に記載の硬貨処理装置。
【請求項6】
前記分離部の前記回転体は、前記円盤面から前記集積空間側へ突出する突起をさらに具え、
前記規制部材は、前記回転体の回転に伴い前記突起が移動する際の軌跡と対向する範囲の外側に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の硬貨処理装置。
【請求項7】
前記規制部材は、前記集積空間において前記硬貨が集積される範囲の前記搬送部側に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の硬貨処理装置。
【請求項8】
前記規制部材搬送面は、前記搬送面との間隔が、前記硬貨の厚さに換算して1枚分以上2枚分未満である
ことを特徴とする請求項1に記載の硬貨処理装置。
【請求項9】
前記搬送面下流部は、前記搬送路の前記搬送面とほぼ平行である
ことを特徴とする請求項1に記載の硬貨処理装置。
【請求項10】
前記規制部材搬送面は、前記搬送面上流部及び前記搬送面下流部の間に、前記仮想的な平面に対する傾斜角度が当該搬送面下流部よりも大きい搬送面中流部をさらに有する
ことを特徴とする請求項1に記載の硬貨処理装置。
【請求項11】
使用者の操作を受け付ける操作部と、
請求項1乃至請求項10の何れかに記載の硬貨処理装置と
を具えることを特徴とする現金取扱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬貨処理装置及び現金取扱装置に関し、例えば使用者に紙幣や硬貨を投入させて所望の取引を行う現金自動預払機(ATM:Automatic Teller Machine)に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金融機関等で使用される現金自動預払機等においては、使用者との取引内容に応じて、例えば使用者に紙幣や硬貨等の現金を入金させ、また使用者へ現金を出金するものが広く普及している。この現金自動預払機としては、例えば硬貨に関する処理を行う硬貨処理装置を内部に有するものがある。硬貨処理装置は、例えば使用者との間で硬貨の授受を行う入出金部、集積された硬貨を1枚ずつに分離する分離部、硬貨を搬送する搬送部、投入された硬貨の金種や真偽等を識別する識別部(認識部とも呼ぶ)、及び金種ごとに硬貨を収納する収納部等を有している。
【0003】
このうち分離部は、例えば硬貨よりも十分に大きい直径を有する円盤と、円盤の一面との間に空間を形成するように設けられた集積タンクとを有し、該円盤と該集積タンクとの間に硬貨を集積する集積空間を形成するものがある。この分離部は、円盤を回転させると、該円盤の表面に立設された突起(爪状の部材)により、集積空間内の硬貨を1枚ずつ拾い上げるようにして分離し、搬送部等に順次引き渡すことができる。
【0004】
しかしながらこの分離部では、1個の突起に2枚以上の硬貨が引っかかった場合、これらの硬貨を1枚ずつに分離できずに搬送部等に引き渡し、詰まり等の障害を発生させる恐れがあった。そこで分離部のなかには、円盤の表面と対向する位置に、当該表面から硬貨1枚分よりも僅かに広い間隔を空けて規制部材を設け、当該規制部材によって2枚目以降の硬貨を引き剥がすものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、かかる構成の分離部では、例えば硬貨の末尾側(進行方向と反対側の部分、例えば硬貨が前方向へ進行している場合の後側)が突起に当接する一方、先端側が他の硬貨に乗り上げる等して円盤の表面から浮き上がり、規制部材に当接する可能性、すなわち突起と規制部材との間に硬貨を挟んだ状態となる可能性がある。この場合、分離部では、円盤が回転できずに停止してしまうため、硬貨の分離処理を継続できなくなる、という問題があった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、簡易な構成により硬貨を円滑に分離し得る硬貨処理装置及び現金取扱装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明の硬貨処理装置においては、硬貨が集積される集積空間を形成する集積部と、集積部と共に集積空間を形成し、当該集積空間に面した円盤面を有する回転体を回転させて集積空間内の硬貨を分離する分離部と、分離部により分離された硬貨を、円盤面と連なる搬送面に対向させながら搬送路に沿って搬送方向へ搬送する搬送部と、円盤面と対向する範囲の外側であって、搬送路における搬送面と対向する位置に、当該搬送面との間に所定の間隔を空けて配置された規制部材とを設け、規制部材には、搬送面と対向する規制部材搬送面と、搬送路の搬送方向における上流側に面し、搬送方向に対して所定の傾斜角度で傾斜する規制面とを設け、搬送部の搬送面は、円盤面を延長した仮想的な平面に対し、搬送方向に沿って進むに連れて当該仮想的な平面から遠ざかる方向に傾斜し、規制部材搬送面は、搬送方向に関する上流側に形成され円盤面とほぼ平行な搬送面上流部と、当該搬送方向に関する下流側に形成され搬送方向に沿って進むに連れて仮想的な平面に近づく方向に傾斜した搬送面下流部とを有するようにした。
【0009】
また本発明の現金取扱装置においては、使用者の操作を受け付ける操作部と、上述した硬貨処理装置とを設けるようにした。
【0010】
本発明は、集積空間内の硬貨を分離して搬送部に受け渡す際に、他の硬貨に重なることにより、或いは異物等の存在により、先頭側が搬送面から大きく離れている硬貨を、搬送部において規制部材の規制面に当接させ、搬送方向と異なる方向へ進行させることができる。これにより本発明は、2枚以上の硬貨が同時に搬送部に受け渡されて詰まりを発生させることや、回転体と規制部材との間に硬貨を挟んで停止させることを未然に防止できる。また本発明は、規制部材搬送面の搬送面下流部を、搬送部の搬送面と同様に、円盤面に対し傾斜させたため、該送部により硬貨を搬送面に沿わせるようにして安定的に搬送することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易な構成により硬貨を円滑に分離し得る硬貨処理装置及び現金取扱装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】現金自動預払機の構成を示す略線的斜視図である。
【
図3】上分離部の外観構成を示す略線的斜視図である。
【
図5】第1の実施の形態による上分離部の内部構成を示す略線的断面図である。
【
図6】第1の実施の形態による上分離部の内部構成を示す略線的断面図である。
【
図7】第1の実施の形態による規制部材の構成を示す略線的斜視図である。
【
図8】硬貨集積空間に硬貨を集積した様子を示す略線図である。
【
図9】傾斜円盤上における正常状態の1枚の硬貨を示す略線図である。
【
図10】正常状態の1枚の硬貨を受け渡す様子を示す略線図である。
【
図11】傾斜円盤上における重畳状態の2枚の硬貨を示す略線図である。
【
図12】重畳状態の2枚の硬貨を受け渡す様子を示す略線図である。
【
図13】傾斜円盤上における傾斜状態の1枚の硬貨を示す略線図である。
【
図14】傾斜状態の1枚の硬貨を受け渡す様子を示す略線図である。
【
図15】仮想的な分離部の動作を示す略線図である。
【
図16】第2の実施の形態による上分離部の内部構成を示す略線的断面図である。
【
図17】第2の実施の形態による上分離部の内部構成を示す略線的断面図である。
【
図18】第2の実施の形態による規制部材の構成を示す略線的斜視図である。
【
図19】第2の実施の形態による硬貨の搬送を示す略線図である。
【
図20】第1の実施の形態による硬貨の搬送を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。
【0014】
[1.第1の実施の形態]
[1-1.現金自動預払機の構成]
図1に外観を示すように、現金取扱装置としての現金自動預払機1は、箱状の筐体2を中心に構成されており、例えば金融機関や各種商業施設等に設置され、使用者(すなわち金融機関や商業施設の顧客等)との間で、入金処理や出金処理等の現金に関する取引を行う。
【0015】
筐体2は、その前側に使用者が対峙した状態で紙幣の投入やタッチパネルによる操作等をしやすい箇所に応対部3が設けられている。応対部3は、使用者との間で例えば現金やカード等を直接やり取りすると共に、取引に関する情報の通知や操作指示の受付を行うようになっており、通帳入出口4、カード入出口5、硬貨入出金口6、紙幣入出金口7及び操作表示部8等が設けられている。
【0016】
通帳入出口4は、通帳が挿入され、また排出する部分である。通帳入出口4の奥側には、通帳の裏表紙等に設けられた磁気記録部から磁気情報を読み取り、また該通帳に取引の内容を記録する通帳処理部(図示せず)が設けられている。カード入出口5は、キャッシュカード等の各種カードが挿入または排出される部分である。カード入出口5の奥側には、各種カードに磁気記録された口座番号等の読み取りを行うカード処理部(図示せず)が設けられている。
【0017】
硬貨入出金口6は、使用者によって入金される硬貨が投入されると共に、使用者へ出金する硬貨が排出される部分である。紙幣入出金口7は、使用者によって入金される紙幣が投入されると共に、使用者へ出金する紙幣が排出される部分である。この硬貨入出金口6及び紙幣入出金口7は、それぞれシャッタを駆動することにより開放又は閉塞するようになっている。操作部としての操作表示部8は、取引に際して操作画面や取引内容等を表示する液晶表示パネルと、使用者の入力操作を検知するタッチセンサとが一体化されたタッチパネルである。
【0018】
以下では、現金自動預払機1のうち使用者が対峙する側を前側とし、その反対を後側とし、当該前側に対峙した使用者から見て左及び右をそれぞれ左側及び右側とし、さらに上側及び下側を定義して説明する。
【0019】
筐体2の内部には、現金自動預払機1全体を統括制御する主制御部9や、取引対象である硬貨に関する種々の処理を行う硬貨処理装置10、及び紙幣に関する種々の処理を行う紙幣処理装置(図示せず)等が設けられている。主制御部9は、図示しないCPU(Central Processing Unit)を中心に構成されており、図示しないROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリ等から所定のプログラムを読み出して実行することにより、入金処理や出金処理等の種々の処理を行う。また主制御部9は、内部にRAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブやフラッシュメモリ等でなる記憶部を有しており、この記憶部に種々の情報を記憶させる。
【0020】
硬貨処理装置10は、全体として直方体に類似した形状に構成されており、図示しないスライドレールを介して筐体2に取り付けられている。また筐体2の前面側又は後面側には、開閉可能な扉(図示せず)が設けられている。このため現金自動預払機1は、保守作業等が行われる場合、筐体2の前面側又は後面側の扉を開放した上で、硬貨処理装置10を前方又は後方へスライドさせることにより、該硬貨処理装置10を該筐体2の外部に位置させ、また該筐体2の内部に収納させることができる。
【0021】
[1-2.硬貨処理装置の構成]
硬貨処理装置10は、
図2に模式的な右側面図を示すように、硬貨処理装置筐体11の内部に、硬貨に関する種々の処理を行う複数の部分が組み込まれている。この硬貨は、例えば銅及びニッケルの合金やアルミニウム等、十分な強度を有する非磁性体の材料でなり、薄い円板形状に形成されている。因みに硬貨処理装置10では、直径や厚さが異なる複数種類の硬貨を取り扱うことが想定されている。
【0022】
硬貨処理装置筐体11の内部には、比較的上側ないし中央付近に、入出金部13、シュート部14、上分離部15、認識搬送部16、受渡部17、ピンベルト搬送部18、6個のスタッカ部21、出金搬送部22、及び一時保留部23が設けられている。また硬貨処理装置筐体11の内部には、比較的下側に、硬貨制御部12、補充回収庫24、第1補充リジェクト庫25、第2補充リジェクト庫26、リジェクト庫27、取忘取込庫28及び下分離部29が設けられている。
【0023】
硬貨制御部12は、主制御部9と同様、図示しないCPUを中心に構成されており、図示しないROMやフラッシュメモリ等から所定のプログラムを読み出して実行することにより、入金取引や出金取引等に関する種々の処理を行い、硬貨処理装置10を統括制御する。また硬貨制御部12は、内部にRAM及びフラッシュメモリ等でなる記憶部を有しており、この記憶部に種々の情報を記憶させる。
【0024】
入出金部13は、使用者との間で硬貨を受け渡すことにより、該使用者に硬貨を入金させ、又は該使用者に硬貨を出金する。該入出金部13は、上側に開口部を有し硬貨を収容する収容器13A、該開口部を開閉するシャッタ13B等、及び収容器13A内における硬貨の有無等を検知するセンサ(図示せず)を有している。
【0025】
入出金部13は、シャッタ13Bを開放した状態で使用者により硬貨が収容器13Aに投入されると、該シャッタ13Bを閉塞し、硬貨を収容器13A内からシュート部14に引き渡して該シュート部14内を下降させ、上分離部15内に到達させる。また入出金部13は、シャッタ13Bを閉塞した状態で、後述するピンベルト搬送部18から硬貨が搬送されてくると、該硬貨を収容器13A内に収容した後、シャッタ13Bを開放して使用者に受け取らせる。
【0026】
上分離部15は、下側の比較的大きい容積を占める部分である集積分離部15Aと、該集積分離部15Aから上方に突出するように形成された分離搬送部15Bとにより構成されている。この上分離部15は、集積分離部15Aに硬貨を集積すると共に、この硬貨を1枚ずつに分離して分離搬送部15Bにより上方向へ搬送し、さらに搬送路に沿って後方向へ搬送して認識搬送部16に引き渡す。
【0027】
認識搬送部16は、シュート部14の右側に位置しており、硬貨を搬送しながら撮像し、得られた画像信号を基に当該硬貨の金種や真偽、或いは損傷の程度等を基に当該硬貨が取扱可能であるか否かを判定する。そのうえで認識搬送部16は、得られた判定結果を当該硬貨の認識結果として硬貨制御部12に通知すると共に、当該硬貨を受渡部17に引き渡す。受渡部17は、認識搬送部16から受け取った硬貨をピンベルト搬送部18に引き渡す。
【0028】
ピンベルト搬送部18は、スタッカ部21の前側下部、下側、後側及び上側をそれぞれ前ピンベルト搬送部18F、下ピンベルト搬送部18L、後ピンベルト搬送部18R及び上ピンベルト搬送部18Uにより取り囲み、硬貨を搬送する経路である搬送経路を形成している。ピンベルト搬送部18は、硬貨の盤面と当接し搬送経路に沿って進行するよう案内する搬送ガイドと、概ね該搬送経路に沿って走行するピンベルトとにより構成されている。このピンベルトには、硬貨の末尾側から搬送方向へ付勢するピンが設けられている。ピンベルト搬送部18は、ピンベルトを走行させることにより、受渡部17から受け取った硬貨を搬送経路に沿って搬送し、入出金部13の収容器13A内へ放出することができる。
【0029】
またピンベルト搬送部18には、スタッカ部21の前側下部及び下側に配置された部分における複数箇所に、硬貨の搬送経路を分岐させる分岐部19がそれぞれ設けられている。各分岐部19の左側には、硬貨を案内する案内部30がそれぞれ設けられている。
【0030】
各分岐部19は、それぞれ回動可能な案内板及びアクチュエータ等(何れも図示せず)を有しており、硬貨制御部12の制御に基づいて案内板を回動させることにより、硬貨を引き続きピンベルト搬送部18に沿って進行させるか、或いは各案内部30へ分岐させるかを切り替える。各案内部30は、それぞれ補充回収庫24、第1補充リジェクト庫25又は第2補充リジェクト庫26、一時保留部23、リジェクト庫27及び取忘取込庫28等へ硬貨を進行させる。
【0031】
さらにピンベルト搬送部18には、6個のスタッカ部21のそれぞれ上側となる6箇所に、スタッカ分岐部20が設けられている。各スタッカ分岐部20の左側には、硬貨をスタッカ部21へ案内する案内部31が設けられている。各スタッカ分岐部20は、各分岐部19と同様に構成されており、硬貨制御部12の制御に基づいて案内板を回動させることにより、硬貨を引き続きピンベルト搬送部18に沿って進行させるか、或いは各スタッカ部21へ分岐させるかを切り替える。
【0032】
スタッカ部21は、それぞれ所定の金種の硬貨と対応付けられており、上側に設けられた案内部31と、該案内部31の下側において硬貨を上下方向に沿って積み重ねるように集積する集積部32と、該集積部32の下側から硬貨を繰り出す繰出部33とを有している。このスタッカ部21は、ピンベルト搬送部18により搬送された硬貨をスタッカ分岐部20から受け取ると、該硬貨を案内部31により集積部32へ案内して集積させる。またスタッカ部21は、硬貨制御部12の制御に基づき、集積部32に集積している硬貨を繰出部33により1枚ずつ繰り出し、下方の出金搬送部22又は一時保留部23へ落下させる。
【0033】
出金搬送部22は、ピンベルト搬送部18の右側、すなわち
図2における紙面の手前側に位置しており、上側及び前側が開放された中空の直方体のように構成され、内部に硬貨を収容し得る空間を形成している。また出金搬送部22は、底部にベルトやプーリ等でなるベルト搬送機構が組み込まれており、スタッカ部21から繰り出された硬貨をベルト上に載置若しくは集積する。この出金搬送部22は、ベルトの上に硬貨が載置若しくは集積された状態で、該ベルトの上側部分を前方へ向けて走行させることにより、該硬貨を前側の一時保留部23へ落下させる。
【0034】
一時保留部23は、出金搬送部22の後端を下げると共に前端を持ち上げ、さらに左右の側板を三角形状としたような構成となっており、その内部に硬貨を収容する空間を形成すると共に、底部にベルト搬送機構が組み込まれている。このため一時保留部23は、スタッカ部21から繰り出された硬貨や出金搬送部22から搬送されてきた硬貨を、内部空間のベルト上に載置若しくは集積させる。また一時保留部23は、ベルトの上に硬貨が載置若しくは集積された状態で、該ベルトの上側部分を前斜め上方へ向けて走行させることにより、該硬貨を前側の上分離部15へ繰り出し、その内部へ落下させる。
【0035】
補充回収庫24は、内部に硬貨を集積する集積部や、該集積部に集積されている硬貨を搬送する搬送機構等を有している。この補充回収庫24は、案内部30により案内されてきた硬貨を集積し、また内部に集積している硬貨を後方へ繰り出して下分離部29に引き渡す。第1補充リジェクト庫25及び第2補充リジェクト庫26は、それぞれ内部に硬貨を集積する空間を有しており、案内部30により案内されてきた硬貨を集積する。リジェクト庫27及び取忘取込庫28は、それぞれ内部に硬貨を集積する空間を有しており、案内部30により案内されてきた硬貨をそれぞれ集積する。
【0036】
下分離部29は、補充回収庫24の後側に隣接する位置に配置されている。この下分離部29は、上分離部15と類似した構成となっているものの、硬貨処理装置筐体11に対する取付方向が、該上分離部15とは相違している。この下分離部29は、補充回収庫24から硬貨を受け取って内部に集積し、また集積されている硬貨を1枚ずつに分離して1枚ずつ上方へ搬送し、一時保留部23内へ放出する。
【0037】
[1-3.各種処理における硬貨の搬送]
次に、硬貨処理装置10において硬貨の搬送を伴う種々の処理、すなわち入金処理及び出金処理等における硬貨の搬送や集積等について説明する。ここでは、現金自動預払機1と使用者との間で入金取引及び出金取引を行う場合における硬貨処理装置10での各処理についてそれぞれ説明する。
【0038】
現金自動預払機1(
図1)において使用者との間で入金取引が行われる場合、硬貨処理装置10は、前段の入金計数処理により、使用者に入金された硬貨の金種等を認識しながら枚数を計数し、これに続く後段の入金収納処理により、各硬貨を適切な収納箇所へ搬送して収納する。具体的に硬貨処理装置10は、前段の入金計数処理において、使用者に入出金部13に硬貨を投入させると、シュート部14、上分離部15、認識搬送部16、受渡部17及びピンベルト搬送部18を順次介して一時保留部23に収容する。
【0039】
このとき硬貨処理装置10は、認識搬送部16による各硬貨の認識結果を基に入金額を集計して操作表示部8(
図1)に表示し、使用者に入金取引を継続するか、又は中止するかを選択させる。硬貨処理装置10は、使用者により継続が選択されると、後段の入金収納処理を行い、中止が選択されると、入金取引を中止し、後述する出金処理の場合と同様に硬貨を入出金部13へ搬送して返却する。
【0040】
硬貨処理装置10は、後段の入金収納処理において、硬貨を一時保留部23から上分離部15、認識搬送部16、受渡部17、ピンベルト搬送部18及びスタッカ分岐部20を順次介してスタッカ部21へ搬送して集積させる。このとき硬貨処理装置10は、認識搬送部16による各硬貨の認識結果を基に、当該硬貨の金種に応じたスタッカ部21へ搬送する。
【0041】
また、現金自動預払機1(
図1)において使用者との間で出金取引が行われる場合、硬貨処理装置10は、出金処理により、使用者に指示された金額の硬貨を入出金部13へ搬送して出金する。具体的に硬貨処理装置10は、操作表示部8(
図1)を介して使用者から出金取引を開始する旨や出金額の操作入力を受け付けると、出金処理を開始し、出金額に応じた硬貨の金種及び枚数を各スタッカ部21から出金させ、出金搬送部22を介して一時保留部23内に集積させる。続いて硬貨処理装置10は、一時保留部23、上分離部15、認識搬送部16、受渡部17及びピンベルト搬送部18を順次経由して硬貨を入出金部13へ搬送して収容させ、使用者に受け取らせる。
【0042】
因みに硬貨処理装置10は、入金処理及び出金処理の他、補充回収庫24からスタッカ部21へ硬貨を補充する補充処理や、該スタッカ部21から補充回収庫24へ硬貨を回収する回収処理等も行い得るようになっている。
【0043】
[1-4.上分離部の構成]
次に、上分離部15の構成について説明する。
図3(A)及び(B)に斜視図を示すと共に
図4(A)及び(B)に模式的な前側面図及び右側面図を示すように、上分離部15は、全体の中央乃至左側に位置する分離部フレーム40を中心として、下側の集積分離部15A及び上側の分離搬送部15Bが一体に構成されている。分離部フレーム40は、金属製の板状部材が適宜切削されると共に屈曲された構成となっており、その内部に複数のギアや軸、或いはモータ等の部品が組み込まれている。
【0044】
[1-4-1.集積タンク及び傾斜円盤の構成]
この分離部フレーム40のうち集積分離部15Aに相当する部分には、集積タンク41及び傾斜円盤45等の種々の部品が取り付けられている。
図4におけるA1-A2断面図及びB1-B2断面図を
図5(A)及び(B)にそれぞれ示すように、傾斜円盤45は、全体として円盤状に形成されており、右側の表面である円盤面45Sが右上側を向くように傾斜し、且つ傾斜円盤中心軸45Xを回転中心として回転可能に支持されている。因みに
図5(A)及び(B)では、説明の都合上、一部の部品を簡略化し、若しくは省略している。
【0045】
集積タンク41は、傾斜円盤45の右側に位置しており、例えば所定の樹脂材料が成型された成型部品として構成されている。この集積タンク41は、全体として椀の中心軸を傾斜円盤中心軸45Xに一致させるように傾斜させたような立体形状となっており、外周部分において円盤面45Sの直近に位置し、傾斜円盤中心軸45Xに近づくに連れて該円盤面45Sから遠ざかるような曲面を形成している。
【0046】
また集積タンク41は、傾斜円盤45の右側に、該円盤面45Sとの間に空間(以下これを硬貨集積空間50と呼ぶ)を形成しながら、該円盤面45Sを概ね全体的に覆っている。集積タンク41における後上側には、比較的大きく開口された受入開口部41Aが形成されており、シュート部14及び一時保留部23(
図2)と接続される。上分離部15は、シュート部14又は一時保留部23から受入開口部41Aを介して硬貨CNが引き渡されると、この硬貨CNを硬貨集積空間50内に集積させる。
【0047】
因みに上分離部15は、1回の取引において取り扱いが可能な最大枚数(例えば100枚)の硬貨CNが入出金部13に投入され、シュート部14を介して落下してきた場合、硬貨集積空間50の概ね下半分、すなわち円盤面45Sの中心よりも概ね下側となる範囲に硬貨CNを集積するように設計されている。
【0048】
また集積タンク41における下側部分には、硬貨集積空間50と外部の空間とを連通させる排出口41Bが形成されており、該排出口41Bの近傍に排出扉42、排出扉駆動部43及び排出ダクト44が設けられている。
【0049】
排出扉42は、集積タンク41の排出口41Bを閉塞し得る板状の部分を中心に構成されている。この排出扉42は、集積タンク41における硬貨集積空間50の外側であって排出口41Bの右上側部分に対し、所定の回動機構(図示せず)を介して取り付けられている。このため排出扉42は、集積タンク41に対し、前後方向に沿った中心線(図示せず)を中心として回動することができる。
【0050】
排出扉駆動部43は、集積タンク41における硬貨集積空間50の外側であって排出口41Bの後側に位置しており、モータや複数のギア等の組み合わせにより構成されている。この排出扉駆動部43は、硬貨制御部12の制御に基づき、排出扉42に対して駆動力を供給する。排出ダクト44は、排出口41Bの概ね下側に設けられており、複数の板状部材等の組み合わせにより、該排出口41Bから右下方向へ硬貨CNを進行させるようになっている。
【0051】
このため排出扉42は、排出扉駆動部43から駆動力が供給され、後側から見て(
図5(B))反時計回りに回動すると、集積タンク41の排出口41Bを閉塞し、硬貨集積空間50内に硬貨CNを集積させる。また排出扉42は、排出扉駆動部43の駆動力により時計回りに回動すると、集積タンク41の排出口41Bを開放し、硬貨集積空間50内に集積されていた硬貨CN等を排出口41Bから下方へ排出させる。このとき該排出口41Bから排出された硬貨CN等は、排出ダクト44に沿って下降し、筐体2の前面に設けられた前面排出口2H(
図1)から外部へ排出される。
【0052】
回転体としての傾斜円盤45は、
図5(A)に示したように、硬貨CNと比較して十分に大きい直径でなる円盤状に形成されており、右側の表面である円盤面45Sが概ね平坦に形成されている。因みに傾斜円盤45は、例えば硬度が比較的高い金属板を切削加工することにより製造されている。この傾斜円盤45は、傾斜円盤中心軸45Xが水平方向に対して上方へ、具体的には右斜め上方を向くようにして、傾斜している。このため円盤面45Sは、上側部分を鉛直方向に対して左方向へやや倒したように傾いている。
【0053】
さらに傾斜円盤45は、傾斜円盤中心軸45Xを回転中心として回転可能に支持されており、モータやギア等の組み合わせでなる円盤駆動部46から駆動力が供給される。この傾斜円盤45は、硬貨制御部12の制御に基づき円盤駆動部46から駆動力が供給されると、傾斜円盤中心軸45Xを回転中心として矢印R1方向(
図5(A)の時計回り、以下これを正回転方向とも呼ぶ)又はその反対の矢印R2方向(以下これを逆回転方向とも呼ぶ)に回転する。
【0054】
傾斜円盤45の円盤面45Sには、法線方向である右斜め上方向に突出する複数の分離突起47が設けられている。分離突起47は、傾斜円盤45の外周をほぼ均等に複数に分割し、円盤面45Sにおける外周からやや内側に離れた箇所に取り付けられている。
【0055】
この分離突起47は、全体として直方体に類似した形状に構成されており、詳細には、外周側よりも内周側の方が細い楔形に類似した形状となっている。すなわち分離突起47は、円盤面45Sにおける傾斜円盤中心軸45Xと外周45Tとを結ぶ放射方向に関して比較的長く、周方向に関して比較的短く、左右方向に十分に短く(すなわち薄く)なっている。また分離突起47における左右方向の長さ(すなわち厚さ)は、1枚の硬貨の厚さと同等以下となっている。
【0056】
さらに傾斜円盤45は、外周のうち各分離突起47の近傍となるそれぞれの箇所に、外周から中心方向へ向かってえぐられるように切り欠かれた切欠部48が形成されている。切欠部48は、右方向から見て、傾斜円盤45の外周45Tを一辺とする三角形に類似した形状となっており、該傾斜円盤45の傾斜円盤中心軸45Xに近い頂点の近傍において、分離突起47とほぼ隣接している。
【0057】
また、傾斜円盤45には、互いに隣接する分離突起47同士の間であって、外周45Tの内側となる部分に、硬貨分離エリア45Aがそれぞれ形成されている。説明の都合上、
図5(A)では、1箇所の硬貨分離エリア45Aのみを破線で囲っている。
【0058】
傾斜円盤45では、1箇所の硬貨分離エリア45Aにおいて、1枚の硬貨CNがその板面(すなわち表面又は裏面)を傾斜円盤45の円盤面45Sと対向及び当接させた状態(以下これを表面当接状態と呼ぶ)で収まる一方、2枚以上の硬貨CNが表面当接状態とならないよう、各部の長さや間隔等が適切に設定されている。
【0059】
これに加えて傾斜円盤45には、円盤面45Sにおける各切欠部48の周縁、すなわち外周の近傍部分付けられている。残留攪拌突起49は、全体として円柱形状であり、その中心軸を傾斜円盤45の円盤面45Sから右斜め上方に向け、円盤面45Sの法線方向に沿わせている。また残留攪拌突起49は、円盤面45Sからの高さが分離突起47と同等となっている。
【0060】
[1-4-2.搬送部の構成]
ところで上分離部15では、下側の集積分離部15Aにおいて、傾斜円盤45の概ね下半分の範囲において、集積タンク41の一部分が外周45Tの外側に極めて近接した位置に位置している。これに加えて上分離部15には、傾斜円盤45における前側部分の上側に、分離搬送部15Bの一部である搬送部51が配置されている。この搬送部51は、傾斜円盤45の前端近傍から上方向へ向かい、やがて後方へ向かうように湾曲する搬送路Wを形成している。
【0061】
具体的に搬送部51は、
図5のC1-C2断面図を
図6に示すと共に斜視図を
図7に示すように、搬送路Wの一部に沿うようにして、前搬送ガイド52、左搬送ガイド53及び54、後搬送ガイド55、右搬送ガイド56及び規制部材57により、硬貨CNを搬送するための空間(以下これを搬送空間SCとも呼ぶ)を形成している。
【0062】
前搬送ガイド52は、後側面(すなわち搬送路W側の面)が平面状に形成されており、その下端において、集積タンク41の内側面と連続するように配置されている。説明の都合上、以下では前搬送ガイド52の後側面を前搬送面FSとも呼ぶ。この前搬送面FSは、搬送部51において搬送空間SC内で搬送路Wに沿って硬貨を搬送すべき方向である搬送方向と平行な平面となっている。因みに前搬送ガイド52の上端は、傾斜円盤45の上端よりも高い位置に到達している。
【0063】
前搬送ガイド52の後側における左寄りには、左搬送ガイド53及び54が設けられている。左搬送ガイド53の右側面(すなわち搬送空間SC側の面)は、傾斜円盤45の円盤面45Sを上方向へ延長した仮想的な平面に対し、上側へ進むに連れて左側へ進む方向に僅かに傾斜した平面状に形成されており、その下端が傾斜円盤45の円盤面45Sよりも僅かに左側に位置している。すなわち左搬送ガイド53の右側面は、傾斜円盤45の円盤面45Sと僅かな段差を形成しながら連なり、且つ傾きが僅かに異なる平面となっている。
【0064】
また左搬送ガイド53は、前側部分を前搬送ガイド52に当接させており、下後側部分が傾斜円盤45の外周45Tに沿った緩やかな円弧状に形成されている。さらに左搬送ガイド53の後側部分は、法線を概ね後方向に向けた平面状に形成されており、右方向から見た場合に概ね上下方向に沿った直線状となっている。
【0065】
左搬送ガイド54は、左搬送ガイド53の後側に、該左搬送ガイド53からやや離れた位置に設けられている。左搬送ガイド54は、左搬送ガイド53の右側面とほぼ平行な平面状に形成されている。以下では、左搬送ガイド53の右側面と、左搬送ガイド54の右側面のうち前側部分とにより形成される平面を、左搬送面LSとも呼ぶ。
【0066】
左搬送ガイド54の下後側部分は、傾斜円盤45の外周45Tに沿った緩やかな円弧状の曲面として形成されている。また左搬送ガイド54の前側部分は、左搬送ガイド53の後側部分からやや後ろへ離れており、法線を概ね前方向に向けた平面状に形成され、右方向から見た場合に概ね上下方向に沿った直線状となっている。これにより上分離部15には、左搬送ガイド53及び54の間に、概ね搬送路Wに沿った溝形状(以下これを溝部59と呼ぶ)が形成されている。
【0067】
後搬送ガイド55は、左搬送ガイド54の後側に設けられている。後搬送ガイド55は、概ね薄い平板状に形成されており、右側から見て前上側と後下側とを結ぶように傾斜して配置されている。
【0068】
因みに搬送部51では、前搬送ガイド52及び左搬送ガイド53が1個の部品として構成され、また左搬送ガイド54及び後搬送ガイド55が1個の部品として構成されており、それぞれ分離部フレーム40(
図3等)に取り付けられている。
【0069】
右搬送ガイド56は、左搬送ガイド53及び54の右側における上側の約1/2乃至1/3の範囲に位置している。この右搬送ガイド56は、金属板を切削及び屈曲させた部品や樹脂材料を成型した部品等の組み合わせにより構成されている。なお
図6及び
図7では、右搬送ガイド56の一部を省略している。
【0070】
右搬送ガイド56の左側面(すなわち搬送空間SC側の面、以下これを右搬送面RSと呼ぶ)は、左搬送ガイド53及び54の右側面、すなわち左搬送面LSとほぼ平行な平面状に形成されている。また右搬送ガイド56は、右搬送面RSと左搬送面LSとの間に、硬貨CNの厚さに換算して1枚分以上2枚分未満となるような間隔を隔てている。
【0071】
規制部材57は、右搬送ガイド56の下側であって、且つ左搬送ガイド53の右側に位置している。換言すれば、規制部材57は、傾斜円盤45の円盤面45Sと対向する範囲の外側であり、且つ該傾斜円盤45の回転により分離突起47が通過する軌跡と対向する範囲の外側に位置している。また規制部材57は、傾斜円盤45の円盤面45Sにおける中心よりも上側であり、硬貨集積空間50内に集積可能な最大枚数(例えば100枚)の硬貨CNが集積される範囲よりも上側に位置している。
【0072】
この規制部材57は、全体として左右方向に薄い板状に形成されており、右側から見て、上下方向に長い長方形から後側下端近傍を大きく切り落とすと共に前側上端を切り落としたような、いびつな四角形状となっている。また規制部材57は、例えばステンレスにより構成されている。
【0073】
さらに規制部材57は、左側面である規制部材搬送面57S(すなわち搬送空間SC側の面)を傾斜円盤45の円盤面45Sとほぼ平行な平面状としており、右搬送ガイド56の左側面の真下よりも僅かに左側に位置させている。また規制部材57は、規制部材搬送面57Sと左搬送面LSとの間に、硬貨CN1枚分以上2枚分未満となるような間隔を隔てている。さらに規制部材57は、前側面が前搬送ガイド52の後側面(すなわち前搬送面FS)と当接若しくは極めて近接しており、後側面が左搬送ガイド53の後側面のほぼ右側に位置している。また規制部材57は、上側面が右搬送ガイド56の下面と当接若しくは近接している。
【0074】
これに加えて規制部材57は、後下側の側面である規制面57Rが、前搬送ガイド52の後側面である前搬送面FSに対して所定の規制面傾斜角度αだけ傾斜している(
図5(A))。この規制面傾斜角度αは、例えば約20度に設定されている。また規制面57Rは、傾斜円盤45の円盤面45Sの法線と平行な平面となっている。さらに規制面57Rは、左搬送ガイド53の下後側部分(すなわち傾斜円盤45の外周45Tに沿った部分)よりも上側に位置している。換言すれば、規制部材57は、円盤面45Sの中心よりも上側であり、集積可能な最大枚数の硬貨CNが硬貨集積空間50内に集積された状態において当該硬貨CNに埋もれないような位置に、配置されている。
【0075】
また規制部材57は、右側面の前端近傍において取付部材58と連接されている。取付部材58(
図7)は、薄板状の部材を屈曲させたような構成となっており、中継部58A及び取付部58Bを有している。中継部58Aは、前後方向に短い直方体若しくは長方形の薄板状に形成されており、その左端が規制部材57と接続されている。取付部58Bは、上下方向に短い直方体若しくは長方形の薄板状に形成されており、後端が中継部58Aの上端と接続されている。この取付部58Bには、上下方向に貫通する取付孔(図示せず)が形成されており、所定の取付ねじにより右搬送ガイド56の所定部分に固定されている。すなわち規制部材57は、一体に構成された取付部材58を介して、右搬送ガイド56の下側に取り付けられている。
【0076】
因みに取付部58Bの取付孔は、傾斜円盤45の円盤面45Sの法線に沿った方向、すなわち概ね左右方向に長い長孔となっている。このため搬送部51では、左右方向に関し、右搬送ガイド56に対する取付部材58の取付位置を変化させることにより、規制部材57の規制部材搬送面57Sと左搬送ガイド53の右側面(すなわち左搬送面LS)との間隔、すなわち搬送空間SCにおける左右方向の長さを、容易に調整することができる。
【0077】
[1-4-3.ピンベルトの構成]
一方、分離部フレーム40の内部における傾斜円盤45の左側には、ベルトプーリ61が配置されている(
図5)。ベルトプーリ61は、全体として扁平な円盤状に形成されており、その直径が傾斜円盤45の直径よりも僅かに小さくなっている。このベルトプーリ61は、傾斜円盤45と一体に回転する。
【0078】
また上分離部15には、ベルトプーリ61の上側に前プーリ62、上プーリ63及び後プーリ64が設けられている。前プーリ62は、ベルトプーリ61の前上側に位置している。上プーリ63は、前プーリ62の後上側に位置している。後プーリ64は、上プーリ63の後下側であり、ベルトプーリ61の上側に位置している。前プーリ62、上プーリ63及び後プーリ64は、それぞれ分離部フレーム40により回転可能に支持されており、またそれぞれの右側の表面が、ベルトプーリ61における右側の表面と同一の平面上若しくはその近傍に位置している。
【0079】
さらに上分離部15には、ベルト65が設けられている。ベルト65は、樹脂やゴム等の可撓性を有する材料で構成された無端ベルトであり、ベルトプーリ61及び上プーリ63の周囲を周回すると共に、前プーリ62及び後プーリ64の周側面にも当接するように張架されている。
【0080】
またベルト65には、所定間隔ごとにピン66が取り付けられている。ピン66は、中心軸を傾斜円盤中心軸45Xとほぼ平行に向けた円柱状に形成されており、その右端(すなわち先端)が傾斜円盤45の円盤面45Sよりも右側に突出し、分離突起47の右面とほぼ同等の位置に到達している。以下では、ベルト65及び複数のピン66をまとめてピンベルトとも呼ぶ。
【0081】
上分離部15では、ベルト65におけるピン66の取付間隔や取付位置が、傾斜円盤45における切欠部48の位置に合わせて設定されている。このためピン66は、ベルト65がベルトプーリ61の外周面に当接している場合、該ピン66の突出部が傾斜円盤45の切欠部48に入り込み、該切欠部48内で傾斜円盤中心軸45Xに近い箇所、すなわち分離突起47に近接した箇所に位置する。
【0082】
ピン66は、傾斜円盤45が傾斜円盤中心軸45Xを中心に回転すると、切欠部48に入り込んだ状態を維持したまま、該傾斜円盤45及びベルトプーリ61と一体に回転する。すなわちピン66は、傾斜円盤45の外周45Tと同期して円弧状に走行する。また上分離部15では、ベルト65が前プーリ62の前端近傍から上プーリ63の前端近傍にかけて張架された部分において、溝部59に沿ってベルト65を進行させる。このときピン66は、右端近傍を左搬送面LS(すなわち左搬送ガイド53及び54の右側面)よりも右側へ、すなわち搬送空間SC内へ突出させている。
【0083】
[1-5.上分離部による硬貨の分離及び搬送]
次に、
図8(A)及び(B)に示すように、上分離部15に複数の硬貨CNが集積されている状態で、1枚の硬貨CNを他の硬貨から分離して搬送する様子について説明する。ここでは、硬貨CNの流れに着目した場合に上流側となる集積分離部15Aから下流側となる分離搬送部15Bに対し、当該硬貨CNを受け渡す際の状態を3通り想定して、それぞれについて説明する。
【0084】
[1-5-1.正常状態の1枚の硬貨を受け渡す場合]
まず、
図9(A)及び(B)に示すように、集積分離部15Aにおいて傾斜円盤45の円盤面45S上に形成された硬貨分離エリア45Aに1枚の硬貨CNが収まった状態であり(以下これを正常状態と呼ぶ)、当該硬貨CNを上流側の当該集積分離部15Aから下流側の分離搬送部15Bに受け渡そうとする場合について説明する。なお
図9(B)は、
図9(A)におけるD1-D2断面図である。
【0085】
上分離部15は、まず円盤駆動部46(
図3)から供給される駆動力によって傾斜円盤45を矢印R1方向(すなわち正回転方向)に回転させる。これにより上分離部15は、硬貨集積空間50内に集積された硬貨を分離突起47により適宜攪拌しながら、
図9(A)に示したように、該分離突起47に硬貨CNを1枚ずつ引っ掛け、当該硬貨CNを硬貨分離エリア45A内に収める。このとき硬貨CNは、左側の盤面を傾斜円盤45の円盤面45Sに当接させると共に、周側面のうち末尾側(進行方向と反対側の部分、例えば硬貨が前方向へ進行している場合の後側)の一部を後側の分離突起47に当接させ、下側の一部を集積タンク41の内側面に当接させる。
【0086】
さらに上分離部15は、傾斜円盤45を引き続き回転させることにより、硬貨CNにおける左側の盤面を該傾斜円盤45の円盤面45Sに当接させ、且つ該硬貨CNの周側面を分離突起47及び集積タンク41に当接させた状態を維持しながら、該集積タンク41の内側面に沿って摺動させ、前上方へ持ち上げていく。
【0087】
やがて上分離部15は、
図10(A)に示すように、硬貨CNが傾斜円盤45の前端付近に到達すると、該硬貨CNの前端部分を前搬送ガイド52の後側面、すなわち前搬送面FSに当接させ、分離突起47が該硬貨CNの後下側から前上方向へ力を加えるように、換言すれば駆動力を供給するようになる。これにより上分離部15は、傾斜円盤45の回転に伴って硬貨CNの前端を前搬送面FSに摺動させながら、該硬貨CNを上方向へ移動させることができる。
【0088】
上分離部15は、引き続き傾斜円盤45を回転させると、
図10(B)に示すように、該硬貨CNの左側面を傾斜円盤45の円盤面45Sに当接させた状態から、左搬送ガイド53及び54の右側面、すなわち左搬送面LSに当接させた状態となる。このとき上分離部15では、硬貨CNの中心が円盤面45Sと左搬送面LSとの境界部分を通過した段階で、当該硬貨CNを上流側の集積分離部15Aから下流側の分離搬送部15Bに引き渡すことになる。
【0089】
さらに上分離部15は、
図10(C)に示すように、硬貨CNの前端近傍を前搬送面FSに摺動させ、左側面を左搬送面LSに摺動させ、且つ右側面の一部を規制部材57の規制部材搬送面57Sに対向させた状態、すなわち該硬貨CNを搬送空間SC内に到達させた状態とする。
【0090】
その後、上分離部15は、ベルト65をさらに走行させることにより、分離突起47から引き継いでピン66を硬貨CNの後下側に当接させて該硬貨CNに力を作用させ、さらに該ピン66を該分離突起47から徐々に引き離し、左搬送ガイド53及び54の隙間である溝部59に沿って上方向へ進行させる。これにより上分離部15は、硬貨CNを搬送路Wに沿って上方向へ進行させることができ、その後、該硬貨CNを搬送路Wに沿って後方向へ搬送してから認識搬送部16(
図2)に引き渡す。
【0091】
このように上分離部15は、1枚の正常状態の硬貨CNを集積分離部15Aから分離搬送部15Bへ受け渡す場合、当該硬貨CNを搬送空間SC内へ進行させ、搬送路Wに沿って搬送させることができる。
【0092】
[1-5-2.重畳状態の2枚の硬貨を受け渡す場合]
次に、
図9(A)及び(B)と対応する
図11(A)及び(B)に示すように、2枚の硬貨CN1の右側に硬貨CN2が重なった状態であり(以下これを重畳受渡状態と呼ぶ)、これら2枚の硬貨CNを上流側の集積分離部15Aから下流側の分離搬送部15Bに受け渡そうとする場合について説明する。なお
図11(B)は、
図11(A)におけるE1-E2断面図である。
【0093】
ここでは、例えば傾斜円盤45の円盤面45S上に形成された硬貨分離エリア45Aに1枚目の硬貨CN1が収まっているものの、該硬貨CN1の右側面に、右方向へ突出したバリ等の突出部分CN1Pが形成され、この突出部分CN1Pに2枚目の硬貨CN2が引っかかっているものとする。
【0094】
上分離部15は、このような状態で傾斜円盤45を回転させることにより、
図10(A)と対応する
図12(A)に示すように、2枚の硬貨CN1及びCN2が重なった状態のまま、両者を傾斜円盤45の前端付近に到達させる。このとき上分離部15では、硬貨CN1及びCN2の前端部分が前搬送ガイド52の前搬送面FSに当接し、分離突起47が左側の硬貨CN1の後下側から前上方向へ力を加えるようになる。また上分離部15では、硬貨CN1の突出部分CN1Pから硬貨CN2に対して前上方向へ向かう力を加えるようになる。これにより上分離部15は、硬貨CN1及びCN2の前端を前搬送面FSにそれぞれ摺動させる。
【0095】
やがて上分離部15は、
図12(B)に示すように、右側の硬貨CN2の前上側端部が規制部材57の規制面57Rに当接し、該規制面57Rからその法線方向、すなわち後ろ斜め下方向へ向かう力を受ける。このため硬貨CN2は、該規制面57Rから受けた力のうち、後方向へ向かう成分の作用により、硬貨CN1に対して後方向へ進行し始める。すなわち上分離部15では、硬貨CN2が硬貨CN1に対して後側へ移動していくことになる。
【0096】
その後、上分離部15は、
図12(C)に示すように、傾斜円盤45の回転に伴って硬貨CN1を上方向へ進行させる。これにより上分離部15は、硬貨CN1に関し、
図10(C)の硬貨CNと同様に、前端近傍を前搬送面FSに摺動させ、左側面を左搬送面LSに摺動させ、且つ右側面の一部を規制部材57の規制部材搬送面57Sに対向させた状態、すなわち該硬貨CN1を搬送空間SC内に到達させた状態とする。
【0097】
その一方で上分離部15は、硬貨CN2に関し、硬貨CN1の上方向への移動に伴って上方向へ移動させると共に、前搬送面FSに対して傾斜している規制面57Rにより、徐々に後方向へ押し出され、やがて重心の移動等に伴って硬貨CN1の突出部分CN1Pにより支えられなくなり、硬貨集積空間50内へ落下していく。すなわち上分離部15は、硬貨CN2を、搬送部51における搬送方向である上方向と異なる方向へ進行させる。
【0098】
その後、上分離部15は、ベルト65をさらに走行させることにより、分離突起47から引き継いでピン66が硬貨CNの後下側に、すなわち該硬貨CNの重心よりも後側に当接し、該硬貨CNに力を作用させるようになる。さらに上分離部15は、ベルト65を走行させることにより、分離突起47に隣接していたピン66を該分離突起47から徐々に引き離し、硬貨CNを搬送路に沿って上方向及び後方向へ搬送した後、認識搬送部16(
図2)に引き渡す。
【0099】
その後、上分離部15は、
図10の場合と同様、ベルト65をさらに走行させることにより、分離突起47から引き継いでピン66を硬貨CN1の後下側に当接させて該硬貨CN1に力を作用させ、さらに該ピン66を該分離突起47から徐々に引き離し、左搬送ガイド53及び54の隙間である溝部59に沿って上方向へ進行させる。これにより上分離部15は、硬貨CN1を搬送路Wに沿って上方向へ進行させることができ、その後、該硬貨CN1を搬送路Wに沿って後方向へ搬送してから認識搬送部16(
図2)に引き渡す。
【0100】
ところで上分離部15では、傾斜円盤45を比較的高速に回転させる場合があり、このとき硬貨CN2が比較的高速で規制部材57の規制面57Rに衝突することになる。この場合、上分離部15では、硬貨CN2が規制面57Rにおいて反射され、該規制面57Rに対して、入射角度に応じた反射角度を形成するような方向へ、すなわち後斜め上方向へ弾かれるようにして進行していく。
【0101】
このように上分離部15は、2枚の硬貨CN1及びCN2が重なった重畳状態で集積分離部15Aから分離搬送部15Bへ受け渡そうとした場合、左側の硬貨CN1を搬送部51により搬送路Wに沿って搬送する一方、右側の硬貨CN2を該硬貨CN1から分離して後方向へ進行させ、硬貨集積空間50内へ戻すことができる。
【0102】
[1-5-3.傾斜状態の1枚の硬貨を受け渡す場合]
次に、
図9(A)及び(B)と対応する
図13(A)及び(B)に示すように、硬貨CNの左側面(盤面)が傾斜円盤45の円盤面45Sに対して傾斜した状態であり(以下これを傾斜状態と呼ぶ)、この硬貨CNを上流側の集積分離部15Aから下流側の分離搬送部15Bに受け渡そうとする場合について説明する。なお
図13(B)は、
図13(A)におけるF1-F2断面図である。
【0103】
ここでは、例えば傾斜円盤45の円盤面45S上に形成された硬貨分離エリア45Aに硬貨CNが収まり、該硬貨CNの後端が分離突起47に当接しているものの、該硬貨CNと円盤面45Sとの間に異物Qが挟まっており、該硬貨CNの先頭側(進行方向側)が分離突起47の右端よりも右側へ大きく飛び出ているものとする。
【0104】
上分離部15は、このような状態で傾斜円盤45を回転させることにより、
図10(A)と対応する
図14(A)に示すように、硬貨CNの左側面が円盤面45Sに対して傾斜した状態のまま、当該硬貨CNを傾斜円盤45の前端付近に到達させる。このとき上分離部15では、硬貨CNの前端部分が前搬送ガイド52の前搬送面FSに当接し、下端近傍が分離突起47に当接している。これにより上分離部15は、傾斜円盤45の回転に伴って硬貨CNの前端を前搬送面FSに摺動させながら、該硬貨CNを上方向へ移動させることができる。
【0105】
上分離部15は、引き続き傾斜円盤45を回転させると、
図14(B)に示すように、硬貨CNの前上側端部が規制部材57の規制面57Rに当接し、該規制面57Rからその法線方向、すなわち後ろ斜め下方向へ向かう力を受ける。このため硬貨CNは、
図12の硬貨CN2と同様に、該規制面57Rから受けた力のうち、後方向へ向かう成分の作用により、搬送路Wに沿った方向(概ね上方向)に対し後方向へ進行し始める。すなわち上分離部15では、硬貨CNが搬送路Wから外れる方向へ移動していくことになる。
【0106】
ここで上分離部15において、硬貨CNの外周円のうち下端近傍が分離突起47と当接している箇所(以下これを突起当接箇所CNRと呼ぶ)における、当該硬貨CNの仮想的な接線(以下これを突起当接接線とも呼ぶ)と前搬送面FSとのなす角度を、突起当接角度βとする。上分離部15では、傾斜円盤45が矢印R1方向(図の時計回り)に回転するため、該傾斜円盤45の回転に伴い、突起当接角度βが徐々に増加していくことになる。また上分離部15では、上述したように、規制部材57の規制面57Rが前搬送面FSに対して規制面傾斜角度αをなしている。これに加えて上分離部15では、規制面傾斜角度αに対して突起当接角度βが大きくなるよう、各部の取付位置や長さ等が設定されている。
【0107】
すなわち上分離部15では、硬貨CNを分離突起47及び規制部材57の間に挟んだような状態となるものの、規制面傾斜角度αよりも突起当接角度βの方が大きくなっている。また上分離部15では、規制部材57の近傍において、傾斜円盤45と一体に回転する分離突起47が後上方向へ移動する。このため上分離部15では、硬貨CNに対し、後方向の成分を含む力を作用させ、前搬送面FSから引き離し、後上方向へ進行させることができる。すなわち上分離部15は、傾斜状態の硬貨CNについても、搬送部51における搬送方向である上方向と異なる方向へ進行させることができる。
【0108】
その後、上分離部15は、
図14(C)に示すように、傾斜円盤45の回転に伴い、前搬送面FSに対して傾斜している規制面57Rに摺動させながら硬貨CNを進行させ、該硬貨CNを後上方向へ進行させる。やがて上分離部15では、硬貨CNの重心の移動等に伴い、分離突起47により当該硬貨CNを支えられなくなり、当該硬貨CNを硬貨集積空間50内へ落下させる。
【0109】
このように上分離部15は、先頭側が円盤面45Sから浮き上がった傾斜状態の硬貨CNが集積分離部15Aから分離搬送部15Bへ受け渡されようとした場合、当該硬貨CNの先頭側を規制部材57の規制面57Rに当接させて後方向へ進行させ、硬貨集積空間50内へ戻すことができる。
【0110】
[1-6.効果等]
以上の構成において、第1の実施の形態による現金自動預払機1の硬貨処理装置10は、上分離部15の搬送部51における右搬送ガイド56の下側に規制部材57を設けた。
【0111】
ここで、本実施の形態との比較用に、特許文献1に記載の硬貨操出部と同様に構成された、仮想的な分離部115を想定する。この分離部115は、
図15(A)に模式的な構成を示すように、上分離部15と同様の集積タンク41、傾斜円盤45及び分離突起47をそれぞれ有するものの、規制部材57に代わる規制部材157を有している。
【0112】
規制部材157は、上分離部15の規制部材57とは異なり、傾斜円盤45の円盤面45Sと対向する位置に設けられており、該円盤面45Sとの間に硬貨1枚分よりも僅かに長い隙間を形成している。また規制部材157の規制面157Rは、矢印R1方向(図の時計回り)に回転する円盤面45Sの進行方向に対し、約90度の角度をなしている。
【0113】
この分離部115では、上分離部15について
図11及び
図12を用いて説明した場合と同様に、2枚の硬貨CN11及びCN12が重なり、該硬貨CN11の突出部分(図示せず)に硬貨CN12が引っかかり、且つ硬貨CN11が分離突起47Aの回転方向側に当接した重畳状態で、傾斜円盤45が回転する可能性がある。
【0114】
このとき分離部115では、
図15(B)に示すように、円盤面45S側(すなわち左側)の硬貨CN11が規制部材157及び円盤面45Sの隙間を通過して矢印R1方向へ進行する一方、右側の硬貨CN12が規制部材157の規制面157Rに当接し、矢印R1方向への進行が規制される。
【0115】
この場合、分離部115では、傾斜円盤45が矢印R1方向へ回転して分離突起47Aが硬貨CN12の左側において重心よりも先頭側に到達すると、重力の作用により該硬貨CN12の末尾近傍が左側に、すなわち円盤面45S側に近接する。ここで分離部115では、次の分離突起47Bの回転方向側に次の硬貨CN13が当接した正常状態となっている場合、硬貨CN12の末尾近傍が硬貨CN13の先頭近傍に当接する。すなわち分離部115では、硬貨CN12の先頭近傍が分離突起47Aに乗り上げ、且つ末尾近傍が次の硬貨CN13から矢印R1方向へ力を受ける状態となる。
【0116】
分離部115は、この状態で傾斜円盤45がさらに矢印R1方向へ回転すると、
図15(C)に示すように、硬貨CN12の先端近傍が規制部材157の規制面157Rに当接する。すなわち分離部115では、規制面157R及び分離突起47Bの間に硬貨CN12及びCN13が挟まった状態となる。これを換言すれば、分離部115では、規制部材157により硬貨CN11から分離された硬貨CN12が、分離突起47Bによる次の硬貨CN13の進行経路と交差し、当該硬貨CN13と当接することになる。この場合、分離部115では、いわゆる「詰まり」が発生した状態となり、傾斜円盤45の回転が停止する。
【0117】
また分離部115では、上分離部15について
図13及び
図14に示した場合と同様に、硬貨CNと傾斜円盤45の円盤面45Sとの間に異物Qが挟まっている場合等に、当該硬貨CNの先頭近傍が該円盤面45Sから離れた傾斜状態となる可能性がある。このとき分離部115では、傾斜円盤45を矢印R1方向へ回転させると、
図15(D)に示すように、硬貨CNの先頭近傍が規制部材157及び円盤面45Sの間に入ることができず、規制面157Rに当接する。すなわち分離部115では、規制面157R及び分離突起47の間に硬貨CNが挟まった状態となる。この場合、分離部115では、いわゆる「詰まり」が発生した状態となり、やはり傾斜円盤45の回転が停止する。
【0118】
このように分離部115では、規制部材157が円盤面45Sと対向する位置に設けられ、且つ規制面157Rが円盤面45Sの進行方向に対して約90度の角度をなしているために、規制面157Rと分離突起47との間に硬貨CNを挟んでしまい、傾斜円盤45の回転を停止させる恐れがあった。
【0119】
これに対して本実施の形態による上分離部15では、搬送部51内であり円盤面45Sとは対向しない位置に規制部材57を設けた(
図5~
図7等)。また上分離部15では、規制部材57の規制面57Rが、硬貨CNが進行する方向に沿った前搬送面FSに対して規制面傾斜角度α(例えば約20度)をなしている。
【0120】
このため上分離部15では、
図11及び
図12に示したように、重畳状態の2枚の硬貨を集積分離部15Aから分離搬送部15Bに受け渡そうとする場合、左側の硬貨CN11を搬送空間SC内へ進行させる一方で、右側の硬貨CN2の当該搬送空間SC内への進行を規制部材57の規制面57Rにより規制し、且つ該硬貨CN2を後上方向へ進行させる。
【0121】
また上分離部15では、
図13及び
図14に示したように、傾斜状態の硬貨CNを集積分離部15Aから分離搬送部15Bに受け渡そうとする場合にも、規制部材57の規制面57Rにより当該硬貨CNの搬送空間SC内への進行を規制し、且つ該硬貨CNを後上方向へ進行させる。
【0122】
これにより上分離部15では、規制部材57により搬送空間SC内への進行を規制した硬貨CN2又は硬貨CNを、傾斜円盤45における次の分離突起47により運ばれて来る次の硬貨CN(図示せず)の進行経路外へ進行させることができる。すなわち上分離部15では、仮想的な分離部115において生じ得る
図15(C)のような状態となることを、未然に防止できる。換言すれば、上分離部15では、2枚の硬貨CNが同時に搬送空間SC内へ入り込もうとして該搬送空間SCにおける右搬送ガイド56の下端近傍に詰まることを未然に回避できる。
【0123】
これに加えて上分離部15では、前搬送面FSを基準として、規制面57Rの角度である規制面傾斜角度α(
図5)を、該規制面57R及び分離突起47の間に硬貨CNを挟んだ場合における突起当接箇所CNRを通る接線のなす角度である突起当接角度β(
図14(B))よりも小さい角度とした。換言すれば、上分離部15では、突起当接箇所CNRを通る接線に対し、規制面57Rを平行では無く、後方向へ進むに連れて当該接線から離れる方向に傾斜させた。
【0124】
このため上分離部15では、仮に規制面57R及び分離突起47の間に硬貨CNを挟んだとしても、傾斜円盤45の回転に伴って分離突起47を上後方向へ移動させた際に、当該硬貨CNを規制面57Rに沿って摺動させ、後方向へ進行させることができる。すなわち上分離部15では、該規制面57R及び分離突起47の間に硬貨CNを一時的に挟んだとしても、当該硬貨CNを直ちに後方向へ進行させ得るため、当該硬貨CNにより傾斜円盤45の回転を停止させる恐れが無い。
【0125】
他の観点から見ると、上分離部15では、集積分離部15A側において傾斜円盤45の回転に伴い、硬貨CNが集積タンク41の内周面に摺動しながら円軌道を描くように進行している段階において、当該硬貨CNに遠心力が作用する。すなわち上分離部15では、傾斜円盤45の前端近傍において、硬貨CNに対して概ね前方向へ向かう遠心力が作用している。
【0126】
すなわち、上述した仮想的な分離部115(
図15)では、硬貨CNに遠心力が作用しているため、当該硬貨を後方向、すなわち傾斜円盤45の回転中心である傾斜円盤中心軸45Xに近付く方向へ進行させるのは困難であった。このためこの分離部115では、規制部材157の規制面157Rに硬貨CNを当接させて上方向への進行を規制した場合、当該硬貨CNが集積タンク41の内周面に沿って下方向へ下降することになり、次の硬貨CNに当接する可能性が極めて高かった。
【0127】
これに対し、本実施の形態による上分離部15では、硬貨CNが集積分離部15Aから分離搬送部15Bに受け渡された後であって、当該硬貨CNが搬送部51の前搬送面FSに沿って概ね上方向へ直線的に進行しており、遠心力が作用しなくなった状態で、規制部材57の規制面57Rに当接させるようにした。このため上分離部15では、硬貨CNが規制面57Rに当接した際、当該硬貨CNを容易に後方向へ進行させることができる。
【0128】
さらに上分離部15では、搬送部51が傾斜円盤45における前端近傍及びその後側部分に隣接するように配置され、且つ該搬送部51内で搬送路Wが概ね上下方向に沿って形成されている。これに伴い上分離部15では、傾斜円盤45が矢印R1方向へ回転する場合、搬送部51の近傍において、分離突起47が後上方向へ移動しながら、その姿勢を矢印R1方向へ回転させるように、すなわち後側部分を徐々に下降させるように変化する。
【0129】
このため上分離部15では、仮に
図14(B)に示したように硬貨CNを分離突起47及び規制部材57の間に挟んだ状態となった場合、その後の傾斜円盤45の回転に伴い、突起当接角度βが徐々に拡大していき、規制面57Rの規制面傾斜角度αに対する相対的な角度も徐々に拡大していく。
【0130】
これにより上分離部15では、傾斜円盤45の回転に伴い、規制面57R及び分離突起47の間において硬貨CNを保持しにくくなり、その結果として当該硬貨CNを後方向へ進行させることができる。
【0131】
ところで上分離部15では、例えば
図11及び
図12に示した重畳状態において傾斜円盤45が比較的高速で回転した場合、右側の硬貨CN2が規制面57Rに勢い良く衝突して反射されることになる。
【0132】
ここで、仮に規制面57Rの規制面傾斜角度αを45度よりも大きい角度に設定した場合、該規制面57Rから該硬貨CN2に作用する力に上方向へ向かう成分が含まれなくなり、硬貨CN2が後下方向へ進行することになる。この場合、硬貨CN2は傾斜円盤45に設けられた他の分離突起47により搬送されてくる他の硬貨CNと衝突する可能性が高くなってしまう。
【0133】
そこで規制部材57は、規制面57Rの規制面傾斜角度αを、45度よりも小さい角度である約20度に設定した。このため上分離部15では、硬貨CN2が規制面57Rに衝突する際に、該規制面57Rから該硬貨CN2に作用する力に上方向へ向かう成分を含めることができる。これにより上分離部15では、硬貨CN2を規制面57Rに衝突させた後に後上方向へ進行させ、その後に重力の作用により後下方向へ進行させて硬貨集積空間50内へ落下させることができる。
【0134】
この結果、上分離部15では、規制面傾斜角度αを45度以上に設定した場合よりも後方へ、硬貨CN2を進行させることができ、傾斜円盤45に設けられた他の分離突起47により搬送されてくる他の硬貨CNに対して硬貨CN2が衝突する可能性を、格段に低減させることができる。
【0135】
また搬送部51では、規制部材57の規制部材搬送面57Sを傾斜円盤45の円盤面45Sとほぼ平行とした(
図6)。このため上分離部15では、正常状態(
図9及び
図10)の硬貨CNを集積分離部15Aから分離搬送部15Bに受け渡す際に、互いにほぼ平行な円盤面45S及び規制部材搬送面57Sの間に硬貨CNを挟むことができ、当該硬貨CNの姿勢を変化させること無く安定的に進行させることができる。
【0136】
これに加えて搬送部51では、左搬送ガイド53及び54の右側面である左搬送面LSを、円盤面45Sに対して上方向へ向かうに連れて左方向へ進む方向に傾斜させ、且つ右搬送ガイド56の左側面である右搬送面RSを該左搬送面LSとほぼ平行とし、両者の間隔を硬貨CNの厚さに換算して1枚分以上2枚分未満とした。このため搬送部51は、搬送路Wを上方向へ進むに連れて、左搬送面LSからのピン66の突出量を増加させることができ、このピン66により搬送空間SC内において硬貨CNを安定的に搬送することができる。
【0137】
また搬送部51では、規制部材57の規制面57Rを、左搬送ガイド53の下後側部分であり傾斜円盤45の外周45Tに沿った部分よりも上側に位置させた(
図7等)。これにより上分離部15では、規制部材57と一体の取付部材58を右搬送ガイド56に取り付けると共にその取付位置を調整する際に、例えば定規や調整治具の一端を左搬送ガイド53の右側面(すなわち左搬送面LS)に安定的に当接させた状態で、規制部材57の左側面である規制部材搬送面57Sの位置を、容易に調整させることができる。
【0138】
以上の構成によれば、第1の実施の形態による現金自動預払機1の硬貨処理装置10は、上分離部15の搬送部51内であり円盤面45Sとは対向しない位置に規制部材57を設け、該規制部材57の規制面57Rを前搬送面FSに対して傾斜させた。これにより上分離部15では、重畳状態にある右側の硬貨CN2や傾斜状態の硬貨CNのように左搬送面LSから大きく離れた硬貨CNを規制面57Rに当接させて後方向へ進行させ、搬送空間SC内へ入り込むことを規制できる。この結果、上分離部15では、硬貨CNを1枚ずつに分離して搬送する分離搬送処理において、当該硬貨CNの詰まりが発生することを未然に防止できる。
【0139】
[2.第2の実施の形態]
第2の実施の形態による現金自動預払機201(
図1)は、第1の実施の形態による現金自動預払機1と比較して、硬貨処理装置10に代わる硬貨処理装置210を有する点において相違するものの、他の点については同様に構成されている。硬貨処理装置210(
図2)は、第1の実施の形態による硬貨処理装置10と比較して、上分離部15に代わる上分離部215を有する点において相違するものの、他の点については同様に構成されている。
【0140】
[2-1.上分離部の構成]
図5(A)及び
図6とそれぞれ対応する
図16及び
図17に示すように、上分離部215は、第1の実施の形態による上分離部15と比較して、搬送部51に代わる搬送部251を有する点において相違するものの、他の点については同様に構成されている。なお
図17は、
図16におけるG1-G2断面図である。
【0141】
搬送部251は、第1の実施の形態による上分離部15と比較して、左搬送ガイド53及び54、右搬送ガイド56及び規制部材57に代わる左搬送ガイド253及び254、右搬送ガイド256及び規制部材257を有する点において相違するものの、他の点については同様に構成されている。
【0142】
左搬送ガイド253及び254は、傾斜円盤45の円盤面45Sを延長した仮想的な平面に対する右側面(すなわち左搬送面LS)の傾斜角度が、第1の実施の形態による左搬送ガイド53及び54よりも大きくなっている。また右搬送ガイド256は、傾斜円盤45の円盤面45Sを延長した仮想的な平面に対する左側面(すなわち右搬送面RS)の傾斜角度が、第1の実施の形態による右搬送ガイド56よりも大きく、且つ左搬送面LSと同等となっている。
【0143】
すなわち搬送部251は、第1の実施の形態による搬送部51と比較して、搬送空間SCに沿って上方向へ進行するに連れて左方向へ傾斜する度合が大きくなっている。これにより搬送部251では、特に搬送路Wの上側部分において、左搬送面LSに対するピン66の突出量が大きくなっている。
【0144】
規制部材257は、第1の実施の形態による規制部材57と比較して、左側面である規制部材搬送面57Sに代わる規制部材搬送面257Sを有する点において相違するものの、他の点については同様に構成されている。
【0145】
この規制部材257は、
図18に模式的な斜視図を示すように、規制部材搬送面257Sが互いに平行で無い3つの平面の組み合わせにより構成されている。具体的に規制部材搬送面257Sは、下側の搬送面上流部257SA、中ほどの搬送面中流部257SB、及び上側の搬送面下流部257SCに分割されている。
【0146】
また、搬送面上流部257SA及び搬送面中流部257SBの境界を形成する境界線257SL1、並びに搬送面中流部257SB及び搬送面下流部257SCの境界を形成する境界線257SL2は、何れも概ね前後方向に沿った直線状となっている。さらに、搬送面中流部257SBにおける上下方向の長さは、搬送面上流部257SA及び搬送面下流部257SCにおける上下方向の長さよりも十分に短くなっている。
【0147】
下側の搬送面上流部257SAは、上分離部215に取り付けられた場合に傾斜円盤45の円盤面45Sとほぼ平行となるような、すなわち第1の実施の形態における規制部材搬送面57Sにおける下側部分と同様の平面として形成されている。上側の搬送面下流部257SCは、上分離部215に取り付けられた場合に、右搬送ガイド256の左側面である右搬送面RSとほぼ平行となるような、すなわち搬送面上流部257SAに対して傾斜した平面となっている。中ほどの搬送面中流部257SBは、搬送面下流部257SCと同様に搬送面上流部257SAに対して傾斜しているものの、該搬送面上流部257SAに対する傾斜角度が、搬送面下流部257SCよりも大きくなっている。
【0148】
[2-2.上分離部による硬貨の分離及び搬送]
搬送部251は、1枚の正常状態の硬貨CNを上流側の集積分離部15Aから下流側の分離搬送部15Bに受け渡す場合、第1の実施の形態において
図9及び
図10に示した場合と同様の過程を経て、分離突起47やピン66により硬貨CNに上方向へ向かう力を作用させ、該硬貨CNを搬送空間SC内に到達させる。
【0149】
このとき搬送部251は、硬貨CNの先頭側である上側から前側に渡る部分(以下これを上前部分と呼ぶ)が、規制部材257の規制部材搬送面257Sと左搬送ガイド253の右側面である左搬送面LSの間に位置する。このため硬貨CNは、左右方向に関して規制部材搬送面257S及び左搬送面LSにより案内され、その姿勢を変化させていく。
【0150】
具体的に搬送部251は、まず
図17と対応する
図19(A)に示すように、硬貨CNの上前部分を規制部材257の搬送面上流部257SAにより案内する間、該硬貨CNが傾斜円盤45の硬貨分離エリア45A(
図9)に収まっていた場合と同様、該硬貨CNの左側面を円盤面45Sとほぼ平行とした姿勢を維持させる。
【0151】
やがて搬送部251は、
図19(B)に示すように、硬貨CNの上前部分を規制部材257の搬送面中流部257SBに到達させると、該硬貨CNを該搬送面中流部257SBと当接及び摺動させることにより、該硬貨CNの前端をさらに左側へ傾けた姿勢とする。このとき搬送部251では、硬貨CNの左側盤面における末尾側部分である下側が円盤面45Sから浮き上がるものの、該硬貨CNの周側面における末尾側部分をピン66に当接させた状態を維持する。
【0152】
さらに搬送部251は、
図19(C)に示すように、硬貨CNの上前部分が規制部材257の搬送面下流部257SCに到達すると、該硬貨CNの左側面を左搬送面LSとほぼ平行として、該硬貨CNを該左搬送面LSに当接及び摺動させながら上方向へ搬送していく。
【0153】
また搬送部251は、2枚の重畳状態の硬貨CN1及びCN2を上流側の集積分離部15Aから下流側の分離搬送部15Bに受け渡す場合、第1の実施の形態において
図11及び
図12に示した場合と同様に、左側の硬貨CN1を搬送路Wに沿って搬送する一方、右側の硬貨CN2を規制面57Rに当接させて硬貨集積空間50内に戻す。
【0154】
さらに搬送部251は、1枚の傾斜状態の硬貨CNを上流側の集積分離部15Aから下流側の分離搬送部15Bに受け渡す場合、第1の実施の形態において
図13及び
図14に示した場合と同様に、硬貨CNを規制面57Rに当接させて硬貨集積空間50内に戻す。
【0155】
[2-3.効果等]
以上の構成において、第2の実施の形態による現金自動預払機201の硬貨処理装置210は、上分離部215の搬送部251における右搬送ガイド256の下側に規制部材257を設けた。規制部材257には、第1の実施の形態における規制面57Rを有する他、規制部材搬送面257Sに互いの傾斜角度が異なる搬送面上流部257SA、搬送面中流部257SB、及び搬送面下流部257SCを設けた。
【0156】
このため上分離部215は、第1の実施の形態と同様、重畳状態にある右側の硬貨CN2(
図11及び
図12)や傾斜状態の硬貨CN(
図13及び
図14)を規制面57Rに当接させ、これらの硬貨CN2等が搬送空間SC内に入り込むことを回避し、詰まりの発生を未然に防止できる。
【0157】
ところで第1の実施の形態による上分離部15では、
図6等に示したように、規制部材57の規制部材搬送面57Sを、傾斜円盤45の円盤面45Sとほぼ平行な、一様な平面状としていた。その一方で上分離部15では、この円盤面45Sを延長した仮想的な平面に対し、左搬送面LSを、上側へ進むに連れて左方向へ離れていく方向に傾斜させ、これにより搬送空間SC内における該左搬送面LSからのピン66の突出量を増加させていた。このため上分離部15では、搬送空間SC内において、ピン66により、硬貨CNの末端近傍(すなわち下端近傍)に対して上方向へ向かう力を安定的に伝達することが期待できる。
【0158】
しかしながら上分離部15では、特に規制部材57の上端近傍において、搬送空間SCにおける左右方向の間隔が局所的に拡大されている。このため上分離部15では、
図20(A)に示すように、搬送空間SCにおいて、振動等の要因により該硬貨CN21が右側へ浮き上がって該ピン66に乗り上げてしまい、該硬貨CN21を搬送し得なくなる可能性がある。そうすると上分離部15では、搬送空間SC内において該硬貨CN21が次に搬送されてくる硬貨CN22と当接し、規制部材搬送面57S及び左搬送面LSの間で重なった状態で挟まり、詰まりを発生させる恐れがあった。
【0159】
また上分離部15では、このような詰まりの発生を抑制するために、円盤面45Sを延長した仮想的な平面に対する左搬送面LSの傾斜角度を十分に大きくすることができず、これに伴って該左搬送面LSに対するピン66の突出量が不十分となり、搬送空間SC内で該ピン66により硬貨CNを安定的に搬送し得ない可能性があった。さらに上分離部15では、仮に搬送路Wに沿った搬送方向(すなわち概ね上下方向)の長さを延長した場合、左搬送面LSの傾斜角度を変更すること無く、該左搬送面LSに対するピン66の突出量を十分に大きくすることも可能であるが、構成の大型化を招くという新たな問題を生じてしまう。
【0160】
これに対して第2の実施の形態による上分離部215は、規制部材257の規制部材搬送面257Sにおける下流側(すなわち上側)に、搬送面上流部257SAと傾斜角度が異なる搬送面下流部257SCを設けた。このため上分離部215は、搬送空間SCにおける左右方向の間隔、すなわち左搬送面LSと、右搬送面RS又は搬送面下流部257SCとの間隔について、局所的に拡大された部分が形成すること無く、概ね一定としている。
【0161】
このため上分離部215は、搬送空間SC内でピン66により上方向へ向かう力を作用させている硬貨CNを大きく右方向へ浮き上がらせることを抑制でき、該硬貨CNが該ピン66に乗り上げることを防止できる。また上分離部215では、搬送面下流部257SCを設けたため、規制部材257の近傍において搬送中の硬貨CNの姿勢が変化する際にも、該搬送空間SCの左右方向に関する間隔を概ね一定とすることができる。
【0162】
この結果、上分離部215では、円盤面45Sを延長した仮想的な平面に対する左搬送面LSの傾斜角度を第1の実施の形態よりも大きくしているものの、搬送空間SC内において、ピン66により硬貨CNを安定的に搬送することができる。
【0163】
また規制部材257は、搬送面上流部257SA及び搬送面下流部257SCの間に搬送面中流部257SBを設け、搬送面上流部257SAに対する該搬送面中流部257SBの傾斜角度を、搬送面下流部257SCの傾斜角度よりも大きくした(
図17及び
図18)。
【0164】
これにより上分離部215では、仮に硬貨CNの右側に薄い異物が重なった状態で搬送され、搬送空間SC内へ侵入しようとした場合、この異物を搬送面中流部257SBに当接させて上方向への進行を阻止する一方、ピン66により上方向へ向かう力が加えられた硬貨CNをそのまま上方向へ搬送する、といった動作を期待できる。
【0165】
その他の点においても、第2の実施の形態による上分離部215は、第1の実施の形態による上分離部15と同様の作用効果を奏し得る。
【0166】
以上の構成によれば、第2の実施の形態による現金自動預払機201の硬貨処理装置210は、先頭側が左搬送面LSから大きく離れた硬貨CNを、規制面57Rに当接させて後方向へ進行させるため、該硬貨CNが搬送空間SC内へ入り込むことを規制できる。また上分離部215では、規制部材257の搬送面下流部257SCにより搬送空間SCにおける左右方向の間隔を拡大すること無く、円盤面45Sに対して左搬送面LSを比較的大きく傾斜させ得るため、該左搬送面LSからピン66を大きく突出させ、硬貨CNを安定的に搬送できる。この結果、上分離部215では、硬貨CNを1枚ずつに分離して搬送する分離搬送処理において、当該硬貨CNの詰まりが発生することを未然に防止できる。
【0167】
[3.他の実施の形態]
なお上述した第1の実施の形態においては、規制部材57を左右方向に薄い板状に構成する場合について述べた(
図6及び
図7等)。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば左右方向に十分な厚さを有する立体形状、すなわち直方体の一部を斜めに切削したような形状に構成しても良い。要は、規制部材57が規制部材搬送面57S及び規制面57Rを有していれば良い。この場合、規制部材搬送面57Sは、傾斜円盤45の円盤面45Sとほぼ平行であり、該円盤面45Sを延長した仮想的な平面との間に、硬貨CNの厚さに換算して1枚以上2枚未満の間隔を形成すれば良い。さらに規制部材57は、ステンレスに限らず、アルミニウム等の他の種々の金属材料や、種々の樹脂材料等、所定の強度を有する種々の材料により構成されていても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0168】
また上述した第1の実施の形態においては、規制部材57の規制面57Rを平面状とし、前搬送面FSに対する該規制面57Rの傾斜角度である規制面傾斜角度α(
図5及び
図14)を約20度とする場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば規制面傾斜角度αを少なくとも45度以下、好ましくは30度以下であり、且つ突起当接角度β(
図14(B))よりも小さくなるような、種々の角度としても良い。また、規制面57Rは平面状に限らず、例えば曲面状や、複数の平面を接合したような面であっても良い。要は、左搬送面LSから大きく離れた状態で搬送されてきた硬貨CNを、規制面57Rに沿って摺動させ、若しくは該規制面57Rに当接した際に反射させることにより、搬送空間SC内へ進行させること無く後方向へ進行させることができれば良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0169】
さらに上述した第1の実施の形態においては、規制部材57の規制面57Rを、傾斜円盤45の円盤面45Sの法線と平行な平面とする場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば該円盤面45Sを延長した仮想的な平面から遠ざかるに連れて前上方向へ近付く方向等、規制面57Rを傾斜円盤45の円盤面45Sの法線に対して種々の方向へ傾斜させても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0170】
さらに上述した第1の実施の形態においては、搬送部51(
図7)において、規制部材57の規制面57Rを、左搬送ガイド53の下後側部分であり傾斜円盤45の外周45Tに沿った部分よりも上側に位置させる場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば規制面57Rを左搬送ガイド53の下後側部分と同等の高さに位置させても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0171】
さらに上述した第2の実施の形態においては、規制部材257の規制部材搬送面257S(
図17及び
図18)において、搬送面上流部257SA及び搬送面下流部257SCの間に搬送面中流部257SBを設ける場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば搬送面中流部257SBを省略し、搬送面上流部257SAの上側に搬送面下流部257SCを隣接させるように設けても良い。
【0172】
さらに上述した第2の実施の形態においては、規制部材257の規制部材搬送面257S(
図18)において、境界線257SL1及び257SL2を、何れも概ね前後方向に沿った直線状とする場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば境界線257SL1及び257SL2を前後方向に対して互いに同一の角度で、若しくは互いに異なる角度で、それぞれ傾斜させても良い。また、境界線257SL1及び257SL2を直線状とせずに曲線状や折れ線状としても良い。
【0173】
さらに上述した第1の実施の形態においては、使用者との間で種々の取引を行う現金自動預払機1(
図1)の硬貨処理装置10に組み込まれる上分離部15に本発明を適用する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば硬貨処理装置10(
図2)の下分離部29に本発明を適用しても良い。或いは、例えば金融機関やスーパーマーケットの店舗内等に設置され、当該店舗の職員や係員等の操作に従って硬貨の計数や分類等の処理を行う現金管理装置等、硬貨を取り扱う種々の装置に本発明を適用しても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0174】
さらに本発明は、上述した各実施の形態及び他の実施の形態に限定されるものではない。すなわち本発明は、上述した各実施の形態と上述した他の実施の形態の一部又は全部を任意に組み合わせた実施の形態や、一部を抽出した実施の形態にもその適用範囲が及ぶものである。
【0175】
さらに上述した第1の実施の形態においては、集積部及び分離部としての集積分離部15Aと、搬送部としての搬送部51と、規制部材としての規制部材57とによって硬貨処理装置としての硬貨処理装置10を構成する場合について述べた。このうち規制部材については、規制部材搬送面としての規制部材搬送面57Sと、規制面としての規制面57Rとにより構成する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる集積部と、分離部と、搬送部と、規制部材とによって硬貨処理装置を構成し、規制部材を、その他種々の構成でなる規制部材搬送面と、規制面とにより構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明は、例えば使用者との間で硬貨に関する取引処理を行う現金自動預払機等で利用できる。
【符号の説明】
【0177】
1、201……現金自動預払機、8……操作表示部、9……主制御部、10、210……硬貨処理装置、15、215……上分離部、15A……集積分離部、15B……分離搬送部、16……認識搬送部、29……下分離部、29A……集積分離部、29B……分離搬送部、40……分離部フレーム、41……集積タンク、45……傾斜円盤、45A……硬貨分離エリア、45S……円盤面、45T……外周、45X……傾斜円盤中心軸、46……円盤駆動部、47……分離突起、50……硬貨集積空間、51、251……搬送部、52……前搬送ガイド、53、54、253、254……左搬送ガイド、55……後搬送ガイド、56、256……右搬送ガイド、57、257……規制部材、57R……規制面、57S、257S……規制部材搬送面、58……取付部材、59……溝部、65……ベルト、66……ピン、257SA……搬送面上流部、257SB……搬送面中流部、257SC……搬送面下流部、257SL1、257L2……境界線、CN……硬貨、FS……前搬送面、LS……左搬送面、RS……右搬送面、SC……搬送空間、W……搬送路、α……規制面傾斜角度、β……突起当接角度。