(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240228BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240228BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240228BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01L29/78 658H
H01L29/78 652T
H01L29/78 652H
H01L29/78 653A
H01L29/78 658E
H01L21/322 L
(21)【出願番号】P 2019217349
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】藤本 卓巳
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-080035(JP,A)
【文献】特開2019-140242(JP,A)
【文献】特開2017-168506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 21/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
順方向に電流が流れるpn接合を有する炭化珪素半導体装置であって、
炭化珪素からなる第1導電型の出発基板と、
前記出発基板の第1主面上に設けられた、前記出発基板よりも不純物濃度の低い炭化珪素からなる第1導電型の第1エピタキシャル層と、
前記出発基板の第1主面上に、前記第1エピタキシャル層を介して設けられた、前記第1エピタキシャル層よりも不純物濃度の低い炭化珪素からなる第1導電型の第2エピタキシャル層と、
前記出発基板の第1主面上に、前記第1エピタキシャル層および前記第2エピタキシャル層を介して設けられ、前記第2エピタキシャル層との間に前記pn接合を形成する、炭化珪素からなる第2導電型の第3エピタキシャル層と、
前記第3エピタキシャル層の内部に選択的に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記第3エピタキシャル層の、前記第1半導体領域を除く部分である第2導電型の第2半導体領域と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第2エピタキシャル層に達するトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体領域にオーミック接触する金属膜と、
前記金属膜を介して前記第1半導体領域および前記第2半導体領域に電気的に接続された第1電極と、
前記出発基板の第2主面に設けられた第2電極と、
を備え、
前記出発基板、前記第1エピタキシャル層、前記第2エピタキシャル層および前記第3エピタキシャル層の全体に正孔トラップが導入されており、
前記第2エピタキシャル層の少数キャリアライフタイムは70ns以下であ
り、
前記第1エピタキシャル層と前記出発基板との界面のホール密度は1×10
15
/cm
3
以下であることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記pn接合で形成される寄生ダイオードに順方向に流れるホール電流のホール密度は、前記第2エピタキシャル層の内部を、前記pn接合から、前記第1エピタキシャル層と前記出発基板との界面へ向かうにしたがって低くなっていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
順方向に電流が流れるpn接合を有する炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
炭化珪素からなる第1導電型の出発基板の第1主面上に、前記出発基板よりも不純物濃度の低い炭化珪素からなる第1導電型の第1エピタキシャル層を形成する第1工程と、
前記第1エピタキシャル層の上に、前記第1エピタキシャル層よりも不純物濃度の低い炭化珪素からなる第1導電型の第2エピタキシャル層を形成する第2工程と、
前記第2エピタキシャル層の上に、前記第2エピタキシャル層との間に前記pn接合を形成する炭化珪素からなる第2導電型の第3エピタキシャル層を形成する第3工程と、
前記第3エピタキシャル層にオーミック接触する金属膜を形成する第4工程と、
前記出発基板、前記第1エピタキシャル層、前記第2エピタキシャル層および前記第3エピタキシャル層の全体に、200kGy以上800kGy以下の照射量で電子線を照射する第5工程と、
前記第5工程の後、前記金属膜を介して前記第3エピタキシャル層に電気的に接続された第1電極を形成する第6工程と、
460℃以下の温度の熱処理により前記第1電極をシンタリングする第7工程と、
前記出発基板の第2主面上に第2電極を形成する第8工程と、
を含むことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第5工程では、500kGy以下の照射量で電子線を照射することを特徴とする請求項3に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程の後、前記第4工程の前に、
前記第3エピタキシャル層の表面領域に第1導電型の第1半導体領域を選択的に形成して、前記第3エピタキシャル層の、前記第1半導体領域を除く部分を第2導電型の第2半導体領域として残す第9工程と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第2エピタキシャル層に達するトレンチを形成する第10工程と、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第11工程と、を行い、
前記第4工程では、前記第1半導体領域および前記第2半導体領域にオーミック接触する前記金属膜を形成し、
前記第6工程では、前記金属膜を介して前記第1半導体領域および前記第2半導体領域に電気的に接続された前記第1電極を形成し、
前記第5工程の後、前記第6工程の前に、460℃以下の温度環境下で、前記第3エピタキシャル層の表面から、前記トレンチの側壁の前記ゲート絶縁膜に390nm以下の波長の紫外線を照射する第12工程を行うことを特徴とする請求項3または4に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化珪素(SiC)を半導体材料として用いた縦型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型電界効果トランジスタ)では、p型ベース領域とn-型ドリフト領域とのpn接合で形成される寄生ダイオード(ボディダイオード)に順方向電流が流れると、n+型出発基板(バルク結晶基板)の基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)が当該n+型出発基板上のn-型ドリフト領域となるn-型エピタキシャル層内に拡張して積層欠陥が発生することが知られている。
【0003】
そこで、MOSFETと、当該MOSFETに逆並列接続されたショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)と、を同一の半導体基板(半導体チップ)に内蔵し、寄生ダイオードの順方向バイアス時にSBDに順方向電流が流れ、寄生ダイオードに順方向電流が流れない構成とした装置が提案されている。また、n+型ドレイン領域となるn+型出発基板と、n-型ドリフト領域となるn-型エピタキシャル層と、の間に、少数キャリア(ホール(正孔))のライフタイム(寿命)の短い再結合促進層としてn型エピタキシャル層(n型バッファ領域)を配置することで、寄生ダイオードのホール密度が低減され、n+型出発基板からの積層欠陥成長を抑制可能である。
【0004】
従来の炭化珪素半導体装置の構造について説明する。
図8は、従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図8には、
図9の活性領域141に配置された単位セル(素子の構成単位)の構造を示す。また、
図9は、従来の炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見た状態を示す平面図である。
図9には、従来の炭化珪素半導体装置110の寄生ダイオード130に順方向電流を流して測定した積層欠陥132のPL(Photo Luminescence:フォトルミネッセンス)像を模式的に示す。
図10は、
図8の切断線AA-AA’におけるネットドーピング濃度分布およびキャリア(ホールおよび電子)密度分布を示す特性図である。
【0005】
図8,9に示す従来の炭化珪素半導体装置110は、炭化珪素を半導体材料として用いた半導体基板(半導体チップ)120のおもて面側にトレンチゲート構造を備えた縦型MOSFETである。半導体基板120は、n
+型出発基板121(n
+型ドレイン領域101)のおもて面上にn型バッファ領域102、n
-型ドリフト領域103およびp型ベース領域104となる各エピタキシャル層122~124を順に積層したエピタキシャル基板である。p型エピタキシャル層124の内部において半導体基板120のおもて面(p型エピタキシャル層124側の主面)の表面領域に、n
+型ソース領域105およびp
+型コンタクト領域106がそれぞれ選択的に設けられている。
【0006】
この従来の炭化珪素半導体装置110について、
図10の(a)~(c)の横軸に、それぞれ半導体基板120内のネットドーピング濃度分布、寄生ダイオード130に順方向に流れるホール電流のホール密度分布、および寄生ダイオード130に流れる電子電流の電子密度分布を示す。
図10の縦軸の符号d101~d104は半導体基板120のおもて面(深さd100)からの深さであり、それぞれn
+型ソース領域105とp型ベース領域104との界面までの深さ、p型ベース領域104とn
-型ドリフト領域103とのpn接合面126までの深さ、n
-型ドリフト領域103とn型バッファ領域102との界面までの深さ、および後述するEpi/Sub界面125までの深さである。
【0007】
p型ベース領域104とn
-型ドリフト領域103とのpn接合(pn接合面126)で形成される寄生ダイオード130に順方向電流が流れると、n
+型出発基板121とエピタキシャル層122~124との界面(以下、Epi/Sub界面とする)125のBPD131やn
+型出発基板121内のBPD131がエピタキシャル層122~124内に拡張して積層欠陥132(三角形状積層欠陥132a、帯状積層欠陥132b)が発生することが確認されている(
図8,9)。寄生ダイオード130のホール電流のホール密度および電子電流の電子密度ともに、n
-型ドリフト領域103からn型バッファ領域102にわたって一定である(
図10(b),10(c))。
【0008】
n
-型ドリフト領域103のネットドーピング濃度は、p型ベース領域104とn
-型ドリフト領域103とのpn接合面126(深さd102)から、n
-型ドリフト領域103とn型バッファ領域102との界面(深さd103)にわたって均一である(
図10(a))。ネットドーピング濃度が均一とは、プロセスのばらつきによって許容される誤差を含む範囲(例えば±5%以内)で同じネットドーピング濃度であることを意味する。符号107~109,111,113~115,142は、それぞれゲートトレンチ、ゲート絶縁膜、ゲート電極、層間絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極、ゲートパッドおよびエッジ終端領域である。符号112は、半導体基板120にオーミック接触する金属シリサイド膜(以下、オーミック電極とする)である。
【0009】
従来の炭化珪素半導体装置として、電子線照射によりドリフト領域に1×1013/cm3以上1×1015/cm3以下の濃度でZ1/2センターを導入し、ドリフト領域の少数キャリアライフタイムを0.1μsにした装置が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。下記特許文献1では、ベース領域からドリフト領域に注入されるホールをZ1/2センターにおいてドリフト領域内に存在する電子と再結合させることにより、ベース領域からドリフト領域に注入されるホールと、ドレイン電極からドリフト領域に注入される電子と、の再結合を抑制して、ドリフト領域内でのホールと電子との再結合に起因した積層欠陥の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の炭化珪素半導体装置110(
図8~10参照)において、n型バッファ領域102となるn型エピタキシャル層122を、p型ベース領域104から注入されるホール(少数キャリア)のライフタイムの短い再結合促進層として機能させるには、n型エピタキシャル層122の厚さを5μm~10μm程度とし、不純物濃度を2×10
18atoms/cm
3以上とする必要がある。しかし、n型エピタキシャル層122を厚さおよび不純物濃度を正確に制御して良好な膜質で成長させることが難しい。また、エピタキシャル層が高価であるため、半導体基板120の単価が増加する。
【0012】
また、上記特許文献1に記載の方法では、Z1/2センターをドリフト領域に導入するための電子線照射の照射量は多いが、この電子線照射後に、オーミック電極を形成するための高温(例えば950℃程度)熱処理がある。この高温熱処理によりドリフト領域内において少数キャリアライフタイムキラーとなるZ1/2センターの一部が消滅し、少数キャリアライフタイムが回復されて長くなってしまう。上記特許文献1に記載の方法では、ドリフト領域の少数キャリアライフタイムは0.1μsと長く、寄生ダイオードのホール密度を低減する効果がないため、積層欠陥の発生を抑制する効果は小さい。
【0013】
この発明は、上述した従来技術による課題を解消するため、製造が容易であって、積層欠陥の発生を抑制することができるとともに、電気的特性の変動を抑制することができる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、順方向に電流が流れるpn接合を有する炭化珪素半導体装置であって、次の特徴を有する。炭化珪素からなる第1導電型の出発基板の第1主面上に、前記出発基板よりも不純物濃度の低い炭化珪素からなる第1導電型の第1エピタキシャル層が設けられている。前記出発基板の第1主面上に、前記第1エピタキシャル層を介して、前記第1エピタキシャル層よりも不純物濃度の低い炭化珪素からなる第1導電型の第2エピタキシャル層が設けられている。
【0015】
前記出発基板の第1主面上に、前記第1エピタキシャル層および前記第2エピタキシャル層を介して、炭化珪素からなる第2導電型の第3エピタキシャル層が設けられている。前記第3エピタキシャル層は、前記第2エピタキシャル層との間に前記pn接合を形成する。前記第3エピタキシャル層の内部に、第1導電型の第1半導体領域が選択的に設けられている。第2導電型の第2半導体領域は、前記第3エピタキシャル層の、前記第1半導体領域を除く部分である。トレンチは、前記第1半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第2エピタキシャル層に達する。
【0016】
ゲート電極は、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられている。金属膜は、前記第1半導体領域および前記第2半導体領域にオーミック接触する。第1電極は、前記金属膜を介して前記第1半導体領域および前記第2半導体領域に電気的に接続されている。第2電極は、前記出発基板の第2主面に設けられている。前記出発基板、前記第1エピタキシャル層、前記第2エピタキシャル層および前記第3エピタキシャル層の全体に正孔トラップが導入されている。前記第2エピタキシャル層の少数キャリアライフタイムは70ns以下である。前記第1エピタキシャル層と前記出発基板との界面のホール密度は1×10
15
/cm
3
以下である。
【0017】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記pn接合で形成される寄生ダイオードに順方向に流れるホール電流のホール密度は、前記第2エピタキシャル層の内部を、前記pn接合から、前記第1エピタキシャル層と前記出発基板との界面へ向かうにしたがって低くなっていることを特徴とする。
【0019】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、順方向に電流が流れるpn接合を有する炭化珪素半導体装置の製造方法であって、次の特徴を有する。炭化珪素からなる第1導電型の出発基板の第1主面上に、前記出発基板よりも不純物濃度の低い炭化珪素からなる第1導電型の第1エピタキシャル層を形成する第1工程を行う。前記第1エピタキシャル層の上に、前記第1エピタキシャル層よりも不純物濃度の低い炭化珪素からなる第1導電型の第2エピタキシャル層を形成する第2工程を行う。前記第2エピタキシャル層の上に、前記第2エピタキシャル層との間に前記pn接合を形成する炭化珪素からなる第2導電型の第3エピタキシャル層を形成する第3工程を行う。
【0020】
前記第3エピタキシャル層にオーミック接触する金属膜を形成する第4工程を行う。前記出発基板、前記第1エピタキシャル層、前記第2エピタキシャル層および前記第3エピタキシャル層の全体に、200kGy以上800kGy以下の照射量で電子線を照射する第5工程を行う。前記第5工程の後、前記金属膜を介して前記第3エピタキシャル層に電気的に接続された第1電極を形成する第6工程を行う。460℃以下の温度の熱処理により前記第1電極をシンタリングする第7工程を行う。前記出発基板の第2主面上に第2電極を形成する第8工程を行う。
【0021】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第5工程では、500kGy以下の照射量で電子線を照射することを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第3工程の後、前記第4工程の前に、第9~11工程を行う。前記第9工程では、前記第3エピタキシャル層の表面領域に第1導電型の第1半導体領域を選択的に形成して、前記第3エピタキシャル層の、前記第1半導体領域を除く部分を第2導電型の第2半導体領域として残す。前記第10工程では、前記第1半導体領域および前記第2半導体領域を貫通して前記第2エピタキシャル層に達するトレンチを形成する。前記第11工程では、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する。
【0023】
前記第4工程では、前記第1半導体領域および前記第2半導体領域にオーミック接触する前記金属膜を形成する。前記第6工程では、前記金属膜を介して前記第1半導体領域および前記第2半導体領域に電気的に接続された前記第1電極を形成する。前記第5工程の後、前記第6工程の前に、460℃以下の温度環境下で、前記第3エピタキシャル層の表面から、前記トレンチの側壁の前記ゲート絶縁膜に390nm以下の波長の紫外線を照射する第12工程を行うことを特徴とする。
【0024】
上述した発明によれば、半導体基板の全体に電子線照射することで、ドリフト領域(第2エピタキシャル層)に正孔トラップが導入され、ドリフト領域の少数キャリアライフタイムを70ns以下に短くすることができる。これにより、第3エピタキシャル層と第2エピタキシャル層とのpn接合が順方向バイアスされたときに、当該pn接合で形成される寄生ダイオードに順方向に流れるホール電流のホール密度を低減させることができる。
【0025】
また、上述した発明によれば、ドリフト領域に導入された正孔トラップが電子線照射後の熱処理で消滅しないため、完成後の製品に、電子線照射により導入したままの欠陥濃度で正孔トラップが残る。このため、ドリフト領域の少数キャリアライフタイムを、電子線照射により導入された正孔トラップの欠陥濃度に基づいて実現可能な最短の少数キャリアライフタイムとすることができる。
【0026】
また、上述した発明によれば、電子線照射の照射量を規定することで、オン抵抗の増加を抑制することができる。また、上述した発明によれば、電子線照射により半導体基板の全体に正孔トラップを導入して、ドリフト領域に正孔トラップを導入するため、エピタキシャル層の厚さや不純物濃度を制御して少数キャリアライフタイムを短くする場合と比べて、少数キャリアライフタイムを制御性よく安定して短くすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、製造が容易であって、積層欠陥の発生を抑制することができるとともに、電気的特性の変動を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図2】
図1の切断線A-A’におけるネットドーピング濃度分布およびホール密度分布を示す特性図である。
【
図3】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図5】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
【
図7】実験例の順方向電流と積層欠陥の成長幅との関係を示す特性図である。
【
図8】従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図9】従来の炭化珪素半導体装置を半導体基板のおもて面側から見た状態を示す平面図である。
【
図10】
図8の切断線AA-AA’におけるネットドーピング濃度分布およびキャリア密度分布を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0030】
(実施の形態1)
実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図2は、
図1の切断線A-A’におけるネットドーピング濃度分布およびホール密度分布を示す特性図である。
図1に示す実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10は、炭化珪素(SiC)を半導体材料として用いた半導体基板(半導体チップ)20のおもて面側に一般的なトレンチゲート構造を備えた縦型MOSFETである。
【0031】
半導体基板20は、炭化珪素を半導体材料として用いたn+型出発基板21のおもて面上に、n型バッファ領域2、n-型ドリフト領域3およびp型ベース領域(第2半導体領域)4となる各エピタキシャル層(第1~3エピタキシャル層)22~24が順に積層されたエピタキシャル基板である。半導体基板20のp型エピタキシャル層24側の主面をおもて面とし、n+型出発基板21側の主面(n+型出発基板21の裏面)を裏面とする。半導体基板20の全体に、Z1/2センター(正孔トラップ)が例えば5×1011/cm3以上2×1013/cm3以下程度の欠陥濃度で導入されている。
【0032】
n+型出発基板21は、n+型ドレイン領域1である。n型エピタキシャル層22は、n型バッファ領域2である。n型バッファ領域2は、少数キャリア(ホール(正孔))のライフタイム(寿命)の短い再結合促進層として機能する。n型バッファ領域2の厚さは、例えば0.1μm以上1.0μm以下程度である。n型バッファ領域2の不純物濃度は、例えば1×1017atoms/cm3以上1×1018atoms/cm3以下程度である。n型バッファ領域2の少数キャリアライフタイムは、n-型ドリフト領域3の少数キャリアライフタイムよりも低く、例えば100ns以下である。
【0033】
n-型エピタキシャル層23はn-型ドリフト領域3であり、深さ方向にn型バッファ領域2に接する。n-型ドリフト領域3の不純物濃度は、例えば1×1015atoms/cm3以上1×1017atoms/cm3以下程度である。n-型ドリフト領域3の少数キャリアライフタイムは、例えば70ns以下程度である。n型バッファ領域2内およびn-型ドリフト領域3内で、Z1/2センターは少数キャリア(ホール(正孔))ライフタイムキラーとなる。p型エピタキシャル層24の、後述するn+型ソース領域(第1半導体領域)5およびp+型コンタクト領域6を除く部分がp型ベース領域4である。
【0034】
p型ベース領域4は、半導体基板20のおもて面とn-型ドリフト領域3との間に設けられ、n-型ドリフト領域3に接する。p型ベース領域4とn-型ドリフト領域3とのpn接合(pn接合面26)で形成される寄生ダイオード30の順方向バイアス時、p型ベース領域4からn-型ドリフト領域3およびn型バッファ領域2にそれぞれ注入されるホールがそれぞれn-型ドリフト領域3内およびn型バッファ領域2内のZ1/2センターに存在する電子と再結合される。このため、n-型ドリフト領域3およびn型バッファ領域2の少数キャリアライフタイムは上記範囲内まで短くなっている。
【0035】
半導体基板20内のネットドーピング濃度、および、寄生ダイオード30に順方向に流れるホール電流(順方向電流)のホール密度をそれぞれ
図2の(a),(b)の横軸に対数(log)で示す。
図2の縦軸の符号d1~d4は半導体基板20のおもて面(d0=0μm)からの深さであり、それぞれn
+型ソース領域5とp型ベース領域4との界面までの深さ、p型ベース領域4とn
-型ドリフト領域3とのpn接合面26までの深さ、n
-型ドリフト領域3とn型バッファ領域2との界面までの深さ、および後述するEpi/Sub界面25までの深さである。
【0036】
寄生ダイオード30のホール電流のホール密度は、半導体基板20のおもて面(深さd0)から、p型ベース領域4とn-型ドリフト領域3とのpn接合面26(深さd2)まで一定であり、かつ最大値を示す。また、寄生ダイオード30のホール電流のホール密度は、n-型ドリフト領域3の少数キャリアライフタイムが短くなっていることで、p型ベース領域4とn-型ドリフト領域3とのpn接合面26から、n+型出発基板21とエピタキシャル層22~24との界面(Epi/Sub界面)25(深さd4)へ向かうにしたがって所定の減少率で直線的に低くなっている。
【0037】
上述した寄生ダイオード30のホール電流のホール密度分布となることで、Epi/Sub界面25でのホール密度が従来構造(
図10(b)参照)のEpi/Sub界面125(深さd104)でのホール密度と比べて2桁以上低減される。このため、Epi/Sub界面25でのホール密度を、積層欠陥が発生しないホール密度とすることができる。例えば、半導体基板20への電子線照射41(
図4参照)の照射量を300kGyとすると、寄生ダイオード30に順方向に流れるホール電流密度が1500A/cm
2となり、Epi/Sub界面25からドレイン側でのホール密度が1×10
15/cm
3以下程度となる。
【0038】
半導体基板20のおもて面とp型ベース領域4との間には、p型ベース領域4に接して、半導体基板20のおもて面に露出されるように、n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6がそれぞれ選択的に設けられている。p+型コンタクト領域6を設けずに、半導体基板20のおもて面にp型ベース領域4が露出されてもよい。トレンチ7は、半導体基板20のおもて面から深さ方向にn+型ソース領域5およびp型ベース領域4を貫通してn-型ドリフト領域3に達する。トレンチ7の内部に、ゲート絶縁膜8を介してゲート電極9が設けられている。
【0039】
これらp型ベース領域4、n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6、トレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9により、半導体基板20のおもて面側のおもて面素子構造としてトレンチゲート構造が構成される。層間絶縁膜11は、半導体基板20のおもて面の全面に設けられ、ゲート電極9を覆う。層間絶縁膜11を深さ方向に貫通して半導体基板20に達するコンタクトホール11aが設けられている。コンタクトホール11aにおいて半導体基板20のおもて面(n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6)にオーミック接触する金属シリサイド膜(オーミック電極)12が設けられている。
【0040】
オーミック電極12は、n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6にオーミック接触して、p型ベース領域4、n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6に電気的に接続されている。p+型コンタクト領域6が設けられていない場合、オーミック電極12は、p+型コンタクト領域6に代えてp型ベース領域4にオーミック接触する。ソース電極13は、オーミック電極12に接し、オーミック電極12に電気的に接続されている。ドレイン電極14は、半導体基板20の裏面(n+型出発基板21の裏面)の全面に設けられ、n+型ドレイン領域1に電気的に接続されている。
【0041】
次に、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10の製造方法について説明する。
図3は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図4は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、
図4に示すように、炭化珪素を半導体材料として用いたn
+型ドレイン領域1となるn
+型出発基板(半導体ウエハ)21のおもて面上に、n型バッファ領域2、n
-型ドリフト領域3およびp型ベース領域4となる各エピタキシャル層22~24を順にエピタキシャル成長させて半導体基板(半導体ウエハ)20を作製する。
【0042】
次に、半導体基板20のおもて面側に、一般的な方法により、おもて面素子構造として、p型ベース領域4、n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6、トレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9からなるトレンチゲート構造を形成する(ステップS1)。次に、ゲート電極9を覆うように、半導体基板20のおもて面上に層間絶縁膜11を形成する(ステップS2)。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより層間絶縁膜11を選択的に除去して、n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6を露出するコンタクトホール11aを形成する。
【0043】
次に、半導体基板20のおもて面の、コンタクトホール11aに露出する部分の表面、および層間絶縁膜11の表面に沿って、オーミック電極12の材料となる金属膜を形成する。オーミック電極12の材料となる金属膜は、半導体基板20中の珪素(Si)原子と反応してシリサイド化する例えばニッケル(Ni)膜やチタン(Ti)膜である。次に、例えば950℃以上の高温熱処理により、当該金属膜をシリサイド化して、コンタクトホール11aにおいて半導体基板20にオーミック接触するオーミック電極12(金属シリサイド膜)を形成する(ステップS3)。
【0044】
次に、大気中において、例えば半導体基板20のおもて面から半導体基板20の全体に電子線照射41する(ステップS4)。ステップS4の電子線照射41においては、電子線が半導体基板20をおもて面から深さ方向に突き抜けて裏面へ抜けるため、半導体基板20の全体にZ1/2センターが導入される。半導体基板20の全体に電子線照射41されればよく、電子線照射41を半導体基板20の側面や裏面から行ってもよい。電子線照射41の照射量は、例えば200kGy(=3.2×1014/cm2)以上800kGy(=1.28×1015/cm2)以下程度とする。
【0045】
電子線照射41の照射量が上記下限値以上であれば、n-型ドリフト領域3の少数キャリアライフタイムを70ns以下まで短くすることができ、寄生ダイオード30に順方向に流れるホール電流のホール密度が低減される。電子線照射41の照射量が上記上限値を超えると、半導体基板20内にZ1/2センターが増えすぎて、電子線照射41を行わない場合の2倍程度にオン抵抗が増加してしまう。好ましくは、電子線照射41の照射量を例えば500kGy以下程度にすることで、低オン抵抗を実現可能である。例えば、電子線照射41の照射量を400kGyとした場合、オン抵抗の増加を、電子線照射41を行わない場合の10%増加程度に抑えることができる。
【0046】
次に、半導体基板20のおもて面にソース電極13となる金属電極を形成する(ステップS5)。このとき、さらに、半導体基板20を裏面研削して製品厚さにした後、もしくは裏面研削せずに製造工程投入時のままの厚さで、半導体基板20の裏面にドレイン電極14となる金属電極を形成してもよい。次に、金属電極を焼結するための熱処理(シンタリング)を460℃以下程度の温度で行う(ステップS6)。電子線照射41の後に400℃を超える温度での熱処理を行わないため、半導体基板20内のZ
1/2センターが消滅しない。これにより、n型バッファ領域2およびn
-型ドリフト領域3に電子線照射41により導入したままの欠陥濃度でZ
1/2センターが残る。したがって、ステップS4の電子線照射41で得られたn
-型ドリフト領域3の少数キャリアライフタイムが維持される。その後、半導体基板20(半導体ウエハ)をダイシング(切断)して個々のチップ状に個片化することで、
図1の炭化珪素半導体装置10が完成する。
【0047】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、オーミック電極の形成後、ソース電極の形成前に、半導体基板(n+型出発基板およびエピタキシャル層)の全体に電子線照射する。これにより、半導体基板の全体にZ1/2センターが導入され、n-型ドリフト領域に導入された少数キャリアライフタイムキラーとなるZ1/2センターにより、n-型ドリフト領域の少数キャリアライフタイムを短くすることができる。これによって、p型ベース領域とn-型ドリフト領域とのpn接合が順バイアスされたときに、当該pn接合で形成される寄生ダイオードに順方向に流れるホール電流のホール密度が低減されるため、n+型出発基板からエピタキシャル層内への積層欠陥の発生を抑制することができる。
【0048】
また、実施の形態1によれば、オーミック電極を形成するための高温熱処理後に、電子線照射を行い、当該電子線照射後に460℃を超える温度での熱処理を行わない。このため、n-型ドリフト領域に導入されたZ1/2センターが、オーミック電極を形成するための高温熱処理や電子線照射後の熱処理によって消滅しない。これにより、完成後の炭化珪素半導体装置(製品)に、電子線照射により導入したままの欠陥濃度でZ1/2センターが残る。したがって、例えば上記特許文献1のように電子線照射後にオーミック電極を形成するための高温熱処理を行う場合と比べて、n-型ドリフト領域の少数キャリアライフタイムを短くすることができる。
【0049】
また、実施の形態1によれば、半導体基板への電子線照射を上記範囲内の照射量で行うことで、オン抵抗の増加を抑制することができるため、電子線照射による電気的特性の変動を抑制することができる。また、実施の形態1によれば、n-型ドリフト領域の少数キャリアライフタイムを短くすることで、MOSFETの寄生ダイオードの順方向バイアス時にn-型ドリフト領域に蓄積される少数キャリア(ホール)の電荷量を低減させることができる。これによって、MOSFETの寄生ダイオードの逆回復時に、n-型ドリフト領域からソース電極へ吐き出されるホールの電荷量を低下させることができ、MOSFETのスイッチング損失を低減させることができる。
【0050】
また、実施の形態1によれば、電子線照射により半導体基板の全体にZ1/2センターを導入することで、n-型ドリフト領域にZ1/2センターを導入して、n-型ドリフト領域の少数キャリアライフタイムを短くする。これにより、エピタキシャル層の厚さや不純物濃度を制御して少数キャリアライフタイムを短くする場合と比べて、n-型ドリフト領域の少数キャリアライフタイムを制御性よく安定して短くすることができ、かつコストを低減することができる。また、実施の形態1によれば、電子線照射により半導体基板の全体にZ1/2センターが導入されるため、n型バッファ領域においても、n型バッファ領域に導入されたZ1/2センターにより少数キャリアライフタイムを短くすることができる。
【0051】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。
図5は、実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図6は、実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の構造は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10(
図1,2参照)の構造と同じである。
【0052】
図5に示す実施の形態2にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法が
図3に示す実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置10の製造方法と異なる点は、電子線照射41(
図5のステップS14)してn
-型ドリフト領域の少数キャリアライフタイムを短くした後、金属電極を形成する(
図5のステップS16)前に、半導体基板20に紫外線(UV:Ultra Violet)照射42(
図5のステップS15、
図6)する点である。
【0053】
具体的には、実施の形態2においては、
図6に示すように、実施の形態1と同様に、おもて面素子構造の形成(ステップS11)、層間絶縁膜11の形成(ステップS12)、オーミック電極12の形成(ステップS13)および電子線照射41(ステップS14)を順に行う。次に、半導体基板20のおもて面から紫外線照射42することで、ステップS14の電子線照射41によってゲート絶縁膜8に生じたダメージを回復させる(ステップS15)。
【0054】
ステップS15の紫外線照射42においては、例えば、紫外線ランプを用いて、460℃以下程度(例えば300℃程度)の温度環境下で、半導体基板20のおもて面から例えば390nm以下程度の波長の紫外線を照射する。390nm以下の波長の紫外線は、炭化珪素のバンドギャップ(光学吸収端:3.26eV)のエネルギーに相当する波長よりも波長の短い光(電磁波)であり、炭化珪素を透過する。
【0055】
例えば、電子線照射41のみを行う場合、MOSFETのゲートしきい値電圧Vthは、設計値から-0.6V程度低下する。一方、電子線照射41の後に、例えば254nmの波長の紫外線を用いて半導体基板20のおもて面から紫外線照射42を60分間行った場合、MOSFETのゲートしきい値電圧Vthの設計値からの低下を-0.1V程度まで抑制することができる。
【0056】
例えば254nmの波長の紫外線の炭化珪素への侵入長は1.0μmであり、半導体基板20のおもて面からチャネル(MOSFETのオン時にp型ベース領域4の、n-型ドリフト領域3とn+型ソース領域5とに挟まれた部分に形成されるn型の反転層)4aのソース側端部までの深さは1.0μm未満であるため、トレンチ7の側壁のゲート絶縁膜8の、チャネルに隣接する部分への紫外線の侵入は可能である。
【0057】
好ましくは、ステップS15の紫外線照射42においては、例えば250nm以上の波長の紫外線を半導体基板20に照射することがよい。紫外線照射42の紫外線の波長の好適な下限値を上記範囲とすることで、紫外線の炭化珪素への侵入長を1.0μmとすることができる。紫外線照射42に代えて、半導体基板20のおもて面からヘリウム(He)照射やプロトン(H+)照射を行った場合においても、紫外線照射42と同様の効果を得ることができる。
【0058】
紫外線照射42は、ソース電極13となる金属電極の形成(後述するステップS16)前に行う。その後、金属電極を形成し(ステップS16)、シンタリング(ステップS17)以降の工程を実施の形態1と同様に順に行うことで、
図1に示す炭化珪素半導体装置10が完成する。実施の形態2のステップS11~S14,S16,S17の処理は、それぞれ実施の形態1のステップS1~S6(
図3参照)の処理と同じ方法および条件で行えばよい。
【0059】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、電子線照射により実施の形態1と同様の効果を得るとともに、電子線照射後、ソース電極の形成前に、半導体基板のおもて面から紫外線照射を行うことで、MOSFETのゲートしきい値電圧の低下を抑制することができる。
【0060】
(実験例)
次に、MOSFETの寄生ダイオード30(
図1参照)に順方向に流れるホール電流(順方向電流)と、積層欠陥の成長幅と、の関係について検証した。
図7は、実験例の順方向電流と積層欠陥の成長幅との関係を示す特性図である。ここで、積層欠陥の成長幅とは、帯状積層欠陥(
図9の符号132bを参照)がn型のエピタキシャル層22,23内を半導体基板20のおもて面に平行な方向に成長する長さとした。
【0061】
図7の横軸には、MOSFETの寄生ダイオード30の順方向電流の電流値[A/cm
2]を示す。
図7の縦軸には、積層欠陥の成長幅(nエピ中の積層欠陥成長幅)として、帯状積層欠陥の、寄生ダイオード30に所定の順方向電流を流したときに成長した部分のみの長さを、寄生ダイオード30に所定の順方向電流を流す前の帯状積層欠陥の長さを基準とした百分率[%]で示す。
【0062】
上述した実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法にしたがって、それぞれ異なる照射量(120kGy~700kGyの範囲)で電子線照射41を行った複数の試料を用意した(以下、実験例とする)。これら実験例の複数の試料について、100℃の温度環境下で、MOSFETの寄生ダイオード30に流れる順方向電流の電流値と、n型のエピタキシャル層22,23内の積層欠陥の成長幅と、を測定した結果を
図7に示す。
【0063】
また、図示省略するが、DLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)法により、実験例のすべての試料について、半導体基板20中の正孔トラップを検出した。その結果、半導体基板20内にヘリウムやプロトンは検出されず、電子線照射41で導入されたZ1/2センターによりn-型エピタキシャル層23(n-型ドリフト領域3)の少数キャリアライフタイムが短くなっていることが確認された。
【0064】
図7に示す結果から、実験例について、電子線照射41の照射量が多い試料ほど、積層欠陥の成長幅が小さくなることが確認された。また、実験例の複数の試料のうち、寄生ダイオード30の順方向電流の電流値に対して、積層欠陥の成長幅(成長度合い)が低減されている試料は、電子線照射41の照射量を200kGy以上とした試料であることが確認された。
【0065】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本発明は、トレンチゲート構造を備えていればよく、MOSFETに限らず、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等の他のMOS型半導体装置にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法は、トレンチゲート型半導体装置に有用であり、特にトレンチゲート型MOSFETに適している。
【符号の説明】
【0067】
1 n+型ドレイン領域
2 n型バッファ領域
3 n-型ドリフト領域
4 p型ベース領域
5 n+型ソース領域
6 p+型コンタクト領域
7 トレンチ
8 ゲート絶縁膜
9 ゲート電極
10 炭化珪素半導体装置
11 層間絶縁膜
11a コンタクトホール
12 オーミック電極
13 ソース電極
14 ドレイン電極
20 半導体基板
21 n+型出発基板
22 n型エピタキシャル層
23 n-型エピタキシャル層
24 p型エピタキシャル層
25 Epi/Sub界面
30 寄生ダイオード
41 電子線照射
42 紫外線照射