(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】配管システムの設計方法、配管システムの設計支援装置、プログラム、および、配管システム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/18 20200101AFI20240228BHJP
G06F 113/14 20200101ALN20240228BHJP
【FI】
G06F30/18
G06F113:14
(21)【出願番号】P 2019222571
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】与謝 国平
(72)【発明者】
【氏名】原嶋 寛
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-291741(JP,A)
【文献】特開2017-194070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0212750(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
E03B 1/00 -11/16
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給源が供給する用水が流れる主管と前記主管から分岐して先端に閉止機構が設けられた複数の枝管とを備える配管システムの設計方法であって、
前記主管の中心から前記閉止機構までの長さであって枝管内径に対する相対値で表現される長さをデッドレグ長さとするとき、
前記複数の枝管の各々について、
前記配管システムの使用予測に基づいて、前記主管における前記枝管の接続部分を流れる前記用水の個別最小流速を求め、
前記個別最小流速に応じて前記デッドレグ長さの許容値を設定する
配管システムの設計方法。
【請求項2】
供給源が供給する用水が流れる主管と前記主管から分岐して先端に閉止機構が設けられた複数の枝管とを備える配管システムの設計支援装置であって、
前記主管の中心から前記閉止機構までの長さであって枝管内径に対する相対値で表現される長さをデッドレグ長さとするとき、
前記設計支援装置は、
前記複数の枝管の各々について、前記配管システムの使用予測に基づいて、前記主管における前記枝管の接続部分を流れる前記用水の個別最小流速を演算する演算部と、
前記複数の枝管の各々に、前記個別最小流速に応じて前記デッドレグ長さの許容値を設定する許容値設定部と、を有する
配管システムの設計支援装置。
【請求項3】
前記個別最小流速と前記許容値とを関連付けた許容値データを記憶する記憶部をさらに備え、
前記許容値設定部は、前記個別最小流速に基づいて前記許容値データから選択した値を前記許容値に設定する
請求項2に記載の配管システムの設計支援装置。
【請求項4】
供給源が供給する用水が流れる主管と前記主管から分岐して先端に閉止機構が設けられた複数の枝管とを備える配管システムの設計を支援する設計支援装置に、
前記主管の中心から前記閉止機構までの長さであって枝管内径に対する相対値で表現される長さをデッドレグ長さとするとき、
前記複数の枝管の各々について、前記配管システムの使用予測に基づいて、前記主管における前記枝管の接続部分を流れる前記用水の個別最小流速を求める処理と、
前記複数の枝管の各々に、前記個別最小流速に応じて前記デッドレグ長さの許容値を設定する処理と、を実行させる
プログラム。
【請求項5】
供給源が供給する用水が流れる主管と、
前記主管から分岐して先端に閉止機構が設けられた複数の枝管と、を備える配管システムであって、
前記複数の枝管の各々について、前記主管の中心から前記閉止機構までの長さであって枝管内径に対する相対値で表現される長さをデッドレグ長さとするとき、
前記複数の枝管の各々は、前記複数の枝管の各々について求められた流速であって、前記配管システムの使用予測に基づいて、前記主管に対する接続部分を流れる前記用水の個別最小流速に応じた許容値以下に前記デッドレグ長さが設定されており、
前記配管システムにおいて、前記供給源を基準とした前記主管の最上流に位置する前記枝管から前記主管の最下流に位置する前記枝管に向けて前記デッドレグ長さが単調減少している
配管システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デッドレグが形成される枝管を有する配管システムの設計方法、配管システムの設計支援装置、該設計支援装置にインストールされるプログラム、および、配管システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、精密機械部品、電子部品等を生産する工場には、各所に設置されたユースポイントに用水を供給する配管システムが設けられている。配管システムは、供給源が供給する用水が流れる主管と主管から分岐する枝管とを備えている。枝管の一例は、先端に閉止機構として開閉弁が設けられてユースポイントまで用水を運ぶ配管である。枝管の他の例は、先端に閉止機構として計器が設けられた配管である。こうした枝管においては、用水が滞留した状態にあるとき、その用水の滞留に起因した水質の低下が懸念されるデッドレグが形成される。こうしたデッドレグによる水質の低下を抑えるべく、非特許文献1参照には、日本厚生労働省の指針として、主管の中心から枝管の先端の閉止機構までの距離を示すデッドレグ長さを枝管内径の6倍以内にすること、可能であれば3倍以内にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】GMP構造設備要求比較 製造用水設備 001:デッドレグの定義と設定、[online]、一般社団法人 製剤機械技術学会 ホームページ、[平成30年6月28日検索]インターネット、〈URL:https://www.seikiken.or.jp/gmp/gmp_hikaku/hikaku.html#yousui001〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した配管システムにおいて、日本厚生労働省の指針を遵守しつつ枝管の配管長についての自由度が向上させるためには枝管の大径化が必要である。しかしながら、枝管の大径化はシステム全体のコストを高くする。そのため、こうした配管システムにおいては、コストの上昇とデッドレグに起因する水質の低下とを抑えることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する配管システムの設計方法は、供給源が供給する用水が流れる主管と前記主管から分岐して先端に閉止機構が設けられた複数の枝管とを備える配管システムの設計方法であって、前記主管の中心から前記閉止機構までの長さであって枝管内径に対する相対値で表現される長さをデッドレグ長さとするとき、前記複数の枝管の各々について、前記配管システムの使用予測に基づいて、前記主管における前記枝管の接続部分を流れる前記用水の個別最小流速を求め、前記個別最小流速に応じて前記デッドレグ長さの許容値を設定する。
【0006】
上記課題を解決する配管システムの設計支援装置は、供給源が供給する用水が流れる主管と前記主管から分岐して先端に閉止機構が設けられた複数の枝管とを備える配管システムの設計支援装置であって、前記主管の中心から前記閉止機構までの長さであって枝管内径に対する相対値で表現される長さをデッドレグ長さとするとき、前記設計支援装置は、前記複数の枝管の各々について、前記配管システムの使用予測に基づいて、前記主管における前記枝管の接続部分を流れる前記用水の個別最小流速を演算する演算部と、前記複数の枝管の各々に、前記個別最小流速に応じて前記デッドレグ長さの許容値を設定する許容値設定部と、を有する。
【0007】
上記課題を解決するプログラムは、供給源が供給する用水が流れる主管と前記主管から分岐して先端に閉止機構が設けられた複数の枝管とを備える配管システムの設計を支援する設計支援装置に、前記主管の中心から前記閉止機構までの長さであって枝管内径に対する相対値で表現される長さをデッドレグ長さとするとき、前記複数の枝管の各々について、前記配管システムの使用予測に基づいて、前記主管における前記枝管の接続部分を流れる前記用水の個別最小流速を求める処理と、前記複数の枝管の各々に、前記個別最小流速に応じて前記デッドレグ長さの許容値を設定する処理と、を実行させるプログラムである。
【0008】
上記課題を解決する配管システムは、供給源が供給する用水が流れる主管と、前記主管から分岐して先端に閉止機構が設けられた複数の枝管と、を備える配管システムであって、前記複数の枝管の各々について、前記主管の中心から前記閉止機構までの長さであって枝管内径に対する相対値で表現される長さをデッドレグ長さとするとき、前記供給源を基準とした前記主管の最上流に位置する前記枝管から前記主管の最下流に位置する前記枝管に向けて前記デッドレグ長さが単調減少している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、配管システムのコストの上昇とデッドレグに起因する水質の低下とを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】デッドレグ長さの評価に用いた試験用配管システムの概略構成を示す図。
【
図2】流速が0.5m/sの場合における測定結果の一例を示すグラフ。
【
図3】流速が1.0m/sの場合における測定結果の一例を示すグラフ。
【
図4】流速が1.5m/sの場合における測定結果の一例を示すグラフ。
【
図5】配管システムの一実施形態を模式的に示す図。
【
図6】配管システムの設計手順の一例を示すフローチャート。
【
図7】設計支援システムの一実施形態を示すブロック図。
【
図8】(a)変形例において主管に枝管が鋭角状に接続された状態を模式的に示す図、(b)変形例において主管に枝管が鈍角状に接続された状態を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1~
図8を参照して、配管システムの設計方法、配管システムの設計支援装置、該設計支援装置にインストールされるプログラム、および、配管システムの一実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態の配管システムの設計方法では、試験用配管システムを用いてデッドレグ長さについて評価し、その評価結果に基づいてデッドレグ長さの許容値を設定する。そして、その設定されたデッドレグ長さの許容値に基づいて配管システムを設計することによりコストの上昇とデッドレグに起因する水質の低下とを抑える。
【0013】
(試験用配管システム)
図1に示すように、試験用配管システム10は、清浄な無色水を供給する供給源11を有している。供給源11は、無色水を貯留するタンク12と、タンク12内の無色水を主管15に供給するポンプ13とで構成されている。ポンプ13は、定量型ポンプであり、予め設定された流量の無色水を主管15に供給する。主管15は、主管内径Aに基づく一定の流路断面積を有する配管であって、供給源11を基準として無色水を循環可能に構成されている。試験用配管システム10は、主管15におけるポンプ13の下流側の部分とタンク12とを接続する第1バイパス管16を有している。第1バイパス管16には、第1バイパス弁17が配設されている。試験用配管システム10は、第1バイパス弁17の調整により、主管15を流れる無色水の流量が調整可能に構成されている。
【0014】
試験用配管システム10は、主管15に対する第1バイパス管16の接続部分よりも下流側に主管15における流量を測定する流量測定部20を有している。試験用配管システム10の流量測定部20は、主管15から分岐する2つの流路である第1流量測定路21と第2流量測定路22とを有している。第1流量測定路21には、大流量用の流量計である第1流量計23と第1流量計23の上流側にて第1流量測定路21を調整する第1調整弁24とが配設されている。第2流量測定路22には、小流量用の流量計である第2流量計25と第2流量計25の上流側にて第2流量測定路22を調整する第2調整弁26とが配設されている。試験用配管システム10は、第1流量計23および第2流量計25の測定値に基づいて第1調整弁24で粗調整し、第2調整弁26で微調整することにより、流量測定部20を通過する無色水の流量が精度よく調整される。
【0015】
試験用配管システム10は、流量測定部20の下流側に試験部29を有している。試験部29は、枝管30、第1遮断弁31、および、第2遮断弁32を有している。先端が閉止された閉止機構としての枝管30は、主管15の接続部分35に、カプラにより接続された直線状の配管である。枝管30は、枝管30よりも上流側に位置する主管15に対する角度θが90°に設定された配管である。枝管30は、デッドレグが形成される部位である。このデッドレグが形成される部分の長さは、デッドレグ長さとして表現される。デッドレグ長さは、枝管30の内径である枝管内径Dに対する相対値で示される長さであり、例えば6Dといったかたちで表現される。
【0016】
第1遮断弁31および第2遮断弁32は、主管15を開閉可能な開閉弁である。第1遮断弁31は主管15の接続部分35に対する上流側に配設されており、第2遮断弁32は主管15の接続部分35に対する下流側に配設されている。
【0017】
試験部29は、第1遮断弁31、枝管30、および、第2遮断弁32をバイパスするように主管15に接続された第2バイパス管36を有している。第2バイパス管36には、第2バイパス弁37が配設されている。第2バイパス弁37は、第1遮断弁31および第2遮断弁32の双方が開状態にあるときに閉状態に制御され、第1遮断弁31および第2遮断弁32の双方が閉状態にあるときに開状態に制御される。
【0018】
試験用配管システム10は、試験部29の下流側に排水管38を有している。排水管38は、主管15から分岐してその下流端が開放された配管である。排水管38には、排水管38を開閉可能な排水弁39が配設されている。試験用配管システム10は、主管15に対する排水管38の接続部分の下流側に循環弁40を有している。
【0019】
試験用配管システム10は、試験状態と非試験状態とを有する。試験状態においては、第1遮断弁31および第2遮断弁32の双方が開状態、第2バイパス弁37が閉状態、排水弁39が開状態、循環弁40が閉状態にある。一方、非試験状態においては、第1遮断弁31および第2遮断弁32の双方が閉状態、第2バイパス弁37が開状態にある。
【0020】
すなわち、試験用配管システム10は、試験状態においては、試験部29に流入した無色水が主管15の接続部分35を流通したのち排水管38を通じて外部へと排水されるように構成されている。また、試験用配管システム10は、非試験状態においては、試験部29に流入した無色水が主管15の接続部分35ではなく第2バイパス管36を流通し、枝管30および接続部分35を交換可能に構成されている。
【0021】
(評価方法)
上述した試験用配管システム10を用いて行ったデッドレグ長さの評価方法について説明する。本実施形態においては、非試験(非循環)状態に制御して接続部分35および枝管30を所定濃度の色水で満たしたのち、試験用配管システム10を試験状態に制御し、その後の枝管30における色水の濃度変化に基づいてデッドレグ長さについて評価した。
【0022】
具体的には、まず、デッドレグ長さを所望の試験長さの枝管30を初期濃度2.4mmol/Lのメチレンブルー水溶液で満たし、試験用配管システム10を試験状態に制御した。そして、所望の測定時間が経過するたびに枝管30の先端部から試験液を採取し、その採取した試験液を分光測定することによりメチレンブルーの濃度を測定することによりデッドレグ長さを評価した。分光測定は定量下限が0.00064mmol/Lである分光測定器を用いた。
【0023】
なお、本実施形態では、呼び径50Aの塩化ビニル管で主管15を構成し、呼び径40Aの塩化ビニル管で枝管30を構成した。また、デッドレグ長さの試験長さを日本厚生労働省の指針を満たす3D,6D、試験流速を主管15の腐食速度が抑えられる流速である0.5m/s、1.0m/s、1.5m/sとしてデッドレグ長さを評価した。試験流速は、流量測定部20の測定流量と主管15の流路断面積Sとに基づいて演算した。そして、各試験条件について、60sec後における測定濃度が初期濃度に対する1/10以下となるか否かに応じて良否を判定した。
【0024】
(評価結果)
図2,3,4に測定結果の一例を示す。
図2は試験流速が0.5m/sである場合の測定結果を示し、
図3は試験流速が1.0m/sである場合の測定結果を示している。
図4は、試験流速が1.5m/sである場合の測定結果を示している。なお、
図2~4に示されるプロットは、得られた測定結果のうち主要な測定結果を示している。また、図中の二点鎖線は、60sec後における測定濃度が初期濃度に対する1/10となる良否境界線を示している。この二点鎖線よりも下側に位置するプロットが良判定のプロットである。
【0025】
図2に示すように、試験流速0.5m/s、デッドレグ長さ3Dの条件下においては、30sec経過後の測定濃度が初期濃度の1/10よりも低いこと、60sec経過後の測定濃度が初期濃度の1/100よりも低いことが認められた。すなわち、試験流速0.5m/sのもとでデッドレグ長さ3Dについて良判定が得られた。
【0026】
また、試験流速0.5m/s、デッドレグ長さ6Dの条件下においては、60sec後の測定濃度が初期濃度の1/10よりも高いこと、測定濃度が初期濃度の1/10以下まで低下するのに120sec程度必要であることが認められた。すなわち、試験流速0.5m/sのもとでデッドレグ長さについて否判定が得られた。
【0027】
図3に示すように、試験流速1.0m/s、デッドレグ長さ3Dの条件においては、15sec後に測定濃度が初期濃度に対する1/10以下まで低下すること、45sec後に測定濃度が初期濃度に対する1/100以下まで低下することが認められた。また、試験流速1.0m/s、デッドレグ長さ6Dの条件においては、60sec経過後に測定濃度が初期濃度に対する1/10以下まで低下することが認められた。すなわち、試験流速1.0m/sのもとではデッドレグ長さ3D,6Dの双方について良判定が得られた。
【0028】
図4に示すように、試験流速1.5m/s、デッドレグ長さ3Dの条件においては、15sec後に測定濃度が初期濃度に対する1/10以下まで低下すること、45sec後に測定濃度が初期濃度に対する1/100以下まで低下することが認められた。また、試験流速1.5m/s、デッドレグ長さ6Dの条件においては、60sec経過後に測定濃度が初期濃度に対する1/10以下まで低下することが認められた。すなわち、試験流速1.5m/sのもとではデッドレグ長さ3D,6Dの双方について良判定が得られた。
【0029】
こうしたデッドレグ長さの評価を通じて、本発明者らは、接続部分35における流速が大きいほど枝管30にメチレンブルー水溶液が滞留しにくいこと、すなわち枝管30における用水が清浄に保たれやすいことを見いだした。そして本発明者らは、主管15に対して枝管30のなす角度θが90°である場合について様々な条件のもとでデッドレグ長さの評価を行い、接続部分35の流速とデッドレグ長さの許容値との関係性を見いだした。
【0030】
(配管システムの設計手順)
図5および
図6を参照して、配管システムの設計手順について配管システムの一例を用いて説明する。
図5は、本実施形態で設計予定の配管システムを示す図である。
図6は、配管システムの設計手順の一例を示すフローチャートである。
【0031】
図5においては、配管システムの使用状態における配管図とともに一部のユースポイントについて各時刻における使用量を示す使用予測情報を示している。また、
図5に示す配管システムにおいては、
図1に示した試験用配管システムと同様の機能を有する部分については同様の符号を付すことによりその詳細な説明は省略する。
【0032】
図5に示すように、配管システム41は、タンク12とポンプ13とで構成された供給源11によって用水が主管15に供給される。主管15の各所には、枝管30が接続されている。枝管30の一例は、各ユースポイントに向かって用水が流れる配管であって、その先端には閉止機構として開閉弁42Aが配設されている。枝管30の他の例は、主管15を流れる用水の性状を計測するための配管であって、その先端には閉止機構として計器42Bが配設されている。主管15には、第1バイパス管16の接続部分と最上流の枝管30との間に、主管15における用水の流通を制御する流通制御弁43が配設されている。なお、主管15および枝管30の一例は、JISに規定された配管用ステンレス鋼管である。
【0033】
図6に示すように、配管システム41を設計する際、最初にルート設計(ステップS101)が行われる。ルート設計では、例えば各ユースポイントまでの枝管30の配管長(設計長さ)がより短くなるように主管15の配管ルートと各枝管30の配管ルートとが設定される。
【0034】
次のステップS102では、使用予測が行われる。使用予測では、各ユースポイントに対して各時刻における用水の使用量を予測した使用予測情報が設定される。使用予測情報は、各ユースポイントの使用予測に関する情報である使用情報に基づいて設定される。使用情報は、例えば、各ユースポイントにおける用水の用途などで構成される。また、使用予測では、各ユースポイントの使用予測情報に基づいて配管システム41全体としての用水の使用量が時刻ごとに算出され、時刻ごとの使用量のなかから配管システム41における最大使用量と最小使用量とが設定される。
【0035】
次のステップS103では、主管設計が行われる。主管設計では、配管システム41の最小使用量および最大使用量に基づいて、主管15の最小流速および最大流速の双方が腐食速度の抑えられる腐食抑制範囲に収まるようにポンプ13の供給量Qと主管15の内径である主管内径Aとが設定される。なお、ここでいうポンプ13の供給量Qは、第1バイパス管16によってタンク12に還流される用水を含まない量である。また、主管内径Aは、JISに規定された配管用ステンレス鋼管のサイズに基づく値、すなわち呼び径および呼び厚さに基づく値である。
【0036】
具体的には、ポンプ13の供給量Qおよび主管内径Aは、ポンプ13の供給量Qを最小使用量Qu1で減算した最大流量Qd1を、主管内径Aに基づく流路断面積Sで除算した値である最大流速v1(=Qd1/S)が腐食抑制範囲の上限値よりも小さくなるように設定される。また、ポンプ13の供給量Qおよび主管内径Aは、ポンプ13の供給量Qを最大使用量Qu2で減算した最小流量Qd2を、主管内径Aに基づく流路断面積Sで除算した値である最小流速v2(=Qd2/S)が腐食抑制範囲の下限値よりも大きくなるように設定される。なお、主管15が配管用ステンレス鋼管である場合、腐食抑制範囲の下限値は0.3m/s、好ましくは0.5m/sであり、腐食抑制範囲の上限値は2.0m/s、好ましくは1.5m/sである。
【0037】
主管設計(ステップS103)が終了すると枝管設計(ステップS104)が行われる。枝管設計では、各枝管30のデッドレグ長さの許容値が設定される。
枝管設計では、主管15に対する各枝管30の接続部分35について、当該接続部分35よりも上流側に位置するユースポイントの使用予測情報に基づいて時刻ごとの流量が演算され、その演算された時刻ごとの流量の最小値が個別最小流量として演算される。そして、その個別最小流量に基づいて、個別の最小流速である個別最小流速v3が演算される。個別最小流速v3は、供給源11を基準とした主管15の上流側に位置する接続部分35ほど大きくなる。こうして演算された個別最小流速v3と上述した評価結果とに基づいて各枝管30のデッドレグ長さの許容値が設定される。
【0038】
具体的には、例えば上流側からn番目に位置するユースポイントPをユースポイントP(n)とする。このとき、最も上流側に位置するユースポイントP(1)に対応する接続部分35については、開閉弁42Aが閉状態にあるときにポンプ13の供給量Qが流れるため、ポンプ13の供給量Qを個別最小流量Qd3(1)として個別最小流速v3(1)が演算される。この個別最小流速v3(1)は、配管システム41の最大流速v1と等しい。すなわち、ユースポイントP(1)に対応する接続部分35については、配管システム41の最大流速v1を個別最小流速v3(1)としてデッドレグ長さの許容値が設定される。
【0039】
また、nが2以上のユースポイントP(n)に対応する接続部分35については、ユースポイントP(1)からユースポイント(n-1)までの使用予測情報に基づく部分的な最大使用量Qu2(1~n-1)をポンプ13の供給量Qから減算した値が個別最小流量Qd3(n)として演算される。そして、個別最小流量Qd3(n)を主管15の流路断面積Sで除算した値(=Qd3(n)/S)を個別最小流速v3(n)としてデッドレグ長さの許容値が設定される。
【0040】
デッドレグ長さの許容値は、供給源11を基準とした主管15の上流側に位置する接続部分35ほど個別最小流速v3が大きくなるため、上流側に位置する枝管30から下流側に位置する枝管30に向けて単調減少するように設定される。ここでいう単調減少は、最上流に位置する枝管30のデッドレグ長さが最下流に位置する枝管30のデッドレグ長さよりも大きく、かつ、各枝管30のデッドレグ長さが1つだけ上流側に位置する枝管30のデッドレグ長さ以下であることをいう。
【0041】
枝管設計(ステップS104)が終了すると詳細仕様の設定(ステップS105)が行われる。詳細仕様の設定では、主管15について、各弁の設置位置や継ぎ手の設置位置、部分的な配管長などが設定される。また、各枝管30について、配管長とデッドレグ長さの許容値とに基づいて各枝管30のサイズなどが設定される。
【0042】
図5に示すように、こうした設計手順を経て設計された配管システム41においては、供給源11を基準とした主管15の上流部分15aにはデッドレグ長さ6Dの枝管30が接続され、主管15の中流部分15bにはデッドレグ長さ4.5Dの枝管30が接続される。また、主管15の下流部分15cにはデッドレグ長さ3Dの枝管30が接続される。なお、枝管30のうち、供給源11を基準とした最上流に位置する枝管30は第1枝管であり、供給源11を基準とした最下流に位置する枝管30は第2枝管である。
【0043】
(設計支援システム)
図7に示すように、上述した設計手順のうち使用予測(ステップS102)、主管設計(ステップS103)、および、枝管設計(ステップS104)は、設計支援システム45によって具現化可能である。設計支援システム45は、設計支援装置48を中心に構成されている。設計支援システム45は、設計支援装置48のほか、設計支援装置48に対して各種情報を入力する入力装置46、設計支援装置48が出力する各種情報を表示可能な表示装置47を含んで構成される。
【0044】
入力装置46は、図示されない入力インターフェースを介して設計支援装置48に電気的に接続されている。入力装置46は、例えば、キーボードやマウスなどで構成されており、設計者が設計支援装置48に各種情報を入力可能に構成されている。設計者は、入力装置46を通じて必要な情報、例えば、ステップS102の使用予測において必要な使用情報を設計支援装置48に入力する。
【0045】
表示装置47は、図示されない出力インターフェースを介して設計支援装置48に電気的に接続されている。表示装置47は、設計支援装置48が実行した処理の結果など表示する。表示装置47による表示内容の一例は、使用情報の入力画面である。表示装置47による表示内容の他の例は、ポンプ13の供給量Qを示すポンプ情報、主管15のサイズや最大流速v1、最小流速v2などを示す主管情報、各枝管30の個別最小流速v3やデッドレグ長さの許容値を示す枝管情報などである。
【0046】
設計支援装置48は、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、或いは、それらの組み合わせ、を含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0047】
設計支援装置48は、媒体49が記憶する配管システムの設計支援プログラムがインストールされたコンピュータである。設計支援装置48は、制御部50と記憶部51とを備えている。制御部50は、入力装置46を介して入力された情報のほか、記憶部51に記憶されている各種情報や設計支援プログラムに基づいて各種処理を実行する。
【0048】
制御部50は、設計支援プログラムの実行により機能する機能部として、取得部52、処理部53、出力部54を備えている。
取得部52は、入力装置46を通じて入力された各種情報を取得し、その取得した各種情報を記憶部51の所定領域に格納する。
【0049】
処理部53は、記憶部51に記憶されている各種情報と設計支援プログラムにしたがって各種の処理を実行する。
処理部53は、使用情報の入力画面を表示装置47に表示させるとともに、その入力画面を通じて入力された使用情報に基づく使用予測情報を各ユースポイントについて生成する。処理部53は、その生成した使用予測情報に基づいて配管システム41における最小使用量と最大使用量とを設定する。
【0050】
処理部53は、配管システム41の最小使用量と最大使用量とに基づいてポンプ13の供給量Qと主管内径Aとを設定する。処理部53は、演算部として機能し、各ユースポイントについて個別最小流速v3を演算する。
【0051】
処理部53は、許容値設定部として機能し、演算した個別最小流速v3に基づいてデッドレグ長さの許容値を設定する。デッドレグ長さの許容値に関連して、記憶部51は、各種情報の1つとして、個別最小流速v3とデッドレグ長さの許容値とを関連付けた許容値データを記憶している。許容値データは、上述したデッドレグ長さの評価結果に基づくテーブルであり、個別最小流速v3ごとに、あるいは、個別最小流速v3の範囲ごとにデッドレグ長さの許容値が規定されている。処理部53は、個別最小流速v3に対応する値を許容値データから選択することにより、各枝管30に対してデッドレグ長さの許容値を設定する。
【0052】
出力部54は、処理部53が実行する各処理にしたがって、使用情報の入力画面のほか、使用情報に基づく設計支援結果であるポンプ情報や主管情報、枝管情報などを表示装置47に表示する。こうして表示装置47に表示されたポンプ情報や主管情報、枝管情報などに基づいて、設計者は配管システム41の詳細な仕様を決定する。
【0053】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、主管15の接続部分35における個別最小流速v3に基づいてデッドレグ長さの許容値を設定した。具体的には、個別最小流速v3が大きいほどデッドレグ長さの許容値が大きくした。こうした構成によれば、個別最小流速v3に基づく許容値の範囲内において枝管30の設計長さを満たす最小値を枝管内径Dに設定することができる。これにより、枝管30の設計長さを満たしつつ枝管30の小径化を図ることができる。その結果、コストの上昇とデッドレグに起因する水質の低下とを抑えることができる。
【0054】
(2)本実施形態では、枝管30における色水の濃度が初期濃度の1/10となるデッドレグ長さを良判定とした。こうした構成によれば、枝管30の先端に設けられた閉止機構が閉状態であったとしても枝管30内における用水の滞留を十分に抑えることができる。その結果、デッドレグに起因する水質の低下をより効果的に抑えることができる。
【0055】
(3)本実施形態では、設計支援装置48は、枝管30の各々について演算した個別最小流速v3に基づく値を許容値データから選択することによりデッドレグ長さの許容値を設定した。こうした構成によれば、デッドレグ長さの許容値を簡易な構成のもとで設定することができる。
【0056】
(4)本実施形態では、供給源11を基準とした上流側から単調減少するようにデッドレグ長さの許容値が設定される。こうした構成によれば、供給源11を基準とした上流側に位置する枝管30の小径化を図ることができる。その結果、コストの上昇とデッドレグに起因する水質の低下とを抑えることができる。
【0057】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・本実施形態において、デッドレグ長さは、所定濃度の色水が充填された主管15の接続部分35および枝管30に無色水を流し、60sec後の色水の濃度を計測した結果に基づいてデッドレグ長さを評価した。これに限らず、デッドレグ長さは、例えば、無色水の流通を開始してから枝管30における色水の濃度が目標濃度まで低下するまでに要する時間に基づいて評価されてもよい。
【0058】
・本実施形態において、デッドレグ長さは、所定濃度の色水が充填された主管15の接続部分35および枝管30に無色水を流し、60sec後の色水の濃度を計測した結果に基づいてデッドレグ長さを評価した。これに限らず、デッドレグ長さは、例えば、塩分濃度に基づいて評価されてもよい。
【0059】
・本実施形態では、試験用配管システム10を用いた実験によりデッドレグ長さを評価した。これに限らず、デッドレグ長さは流体解析を用いて評価されてもよいし、実験及び流体解析の双方を用いて評価されてもよい。
【0060】
・本実施形態では、設計支援装置48の処理部53は、許容値設定部として、記憶部51に記憶している許容値データに基づいてデッドレグ長さの許容値を設定した。これに限らず、処理部53は、個別最小流速v3を変数とする演算式によりデッドレグ長さの許容値を設定してもよい。
【0061】
・本実施形態では、設計支援装置48を用いて使用予測(ステップS102)、主管設計(ステップS103)、および、枝管設計(ステップS104)を行った。こうした構成に限らず、これら使用予測、主管設計、および、枝管設計における各種の演算等が設計者によって行われてもよい。また例えば、設計支援装置48は、配管可能な座標空間、ポンプ13の設置座標やユースポイントの設置座標などが入力されることにより、ルート設計(ステップS101)が実行可能に構成されてもよい。
【0062】
・本実施形態では、試験用配管システム10において、枝管30を主管15の延在方向に対して直交する方向に延びる配管とした。これに限らず、枝管30は、
図8(a)に示すように主管15に対して鋭角θaだけ屈曲する配管であってもよいし、
図8(b)に示すように主管15に対して鈍角θbだけ屈曲する配管であってもよい。こうした構成であっても、角度θごとに上述した評価方法に基づいてデッドレグ長さを評価し、その評価結果に基づいてデッドレグ長さの許容値を設定することができる。これにより、配管システムの配管についての自由度が飛躍的に向上する。なお、設計支援装置48による設計支援においては、各枝管30の角度θが入力されるとともに、角度θごとの許容値データを記憶部51に記憶していることが好ましい。
【0063】
・主管15および枝管30は、配管用ステンレス鋼管に限らず、例えば銅やアルミニウムなどの金属管であってもよいし、塩化ビニル管のような樹脂管であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…試験用配管システム、11…供給源、12…タンク、13…ポンプ、15…主管、15a…上流部分、15b…中流部分、15c…下流部分、16…第1バイパス管、17…第1バイパス弁、20…流量測定部、21…第1流量測定路、22…第2流量測定路、23…第1流量計、24…第1調整弁、25…第2流量計、26…第2調整弁、29…試験部、30…枝管、31…第1遮断弁、32…第2遮断弁、35…接続部分、36…第2バイパス管、37…第2バイパス弁、38…排水管、39…排水弁、40…循環弁、41…配管システム、42A…開閉弁、42B…計器、43…流通制御弁、45…設計支援システム、46…入力装置、47…表示装置、48…設計支援装置、49…媒体、50…制御部、51…記憶部、52…取得部、53…処理部、54…出力部。