(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】オイル潤滑軸受構造
(51)【国際特許分類】
F16C 9/02 20060101AFI20240228BHJP
F16C 3/14 20060101ALI20240228BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20240228BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20240228BHJP
F16N 31/00 20060101ALI20240228BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
F16C9/02
F16C3/14
F16C17/02 Z
F16C33/10 Z
F16N31/00 B
F01M1/06 A
(21)【出願番号】P 2019226206
(22)【出願日】2019-12-16
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】中尾 裕典
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/122331(WO,A1)
【文献】特開2013-210057(JP,A)
【文献】特開2009-204001(JP,A)
【文献】特開2018-145891(JP,A)
【文献】特開2017-032142(JP,A)
【文献】特開2006-329252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00-9/06
17/00-17/26,33/00,33/28
F16N 31/00
F01M 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円柱状の回転軸体と、
該回転軸体の径方向で前記回転軸体を支持するすべり軸受とを備えたオイル潤滑軸受構造であって、
前記回転軸体と前記すべり軸受との隙間に潤滑油を供給するオイル供給部と、
前記回転軸体と前記すべり軸受との
隙間の前記潤滑油を排出するオイル排出部とを備え、
前記回転軸体
の摺動面は、
摺動面全体が撥油性を有する撥油面で形成され、
前記オイル供給部は、
前記撥油面である前記
回転軸体の摺動面に開口形成され、
前記オイル排出部は、
前記すべり軸受の摺動面に開口形成された
オイル潤滑軸受構造。
【請求項2】
前記撥油面は、フッ素樹脂被膜で構成された
請求項1に記載のオイル潤滑軸受構造。
【請求項3】
前記フッ素樹脂被膜は、架橋フッ素樹脂で形成された
請求項2に記載のオイル潤滑軸受構造。
【請求項4】
前記回転軸体は、エンジンのクランクシャフトである
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のオイル潤滑軸受構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばエンジンのクランクシャフトのような回転軸体を、潤滑油、及びすべり軸受で支持するオイル潤滑軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸体を回転自在に支持する軸受として、回転軸体の外周面に対面する摺動面を有するすべり軸受と、すべり軸受との隙間に介在させた潤滑膜で構成された流体軸受が知られている。
例えば、特許文献1には、回転軸体であるクランクシャフトをフローティング状態で支持する流体軸受として、クランクシャフトの径方向に沿った径方向荷重を受け止めるすべり軸受と、すべり軸受との間に介在させた潤滑油(潤滑膜)とで構成された軸受構造が開示されている。
【0003】
ところで、特許文献1では、潤滑油(潤滑膜)の膜厚が薄い場合、クランクシャフトに加わる径方向荷重が大きいほど、油膜切れが発生し易くなる。そして、油膜切れが生じると、クランクシャフトとすべり軸受とが直接的に接して摺動することで、クランクシャフトやすべり軸受が摩耗するおそれがあった。
【0004】
そこで、潤滑油(潤滑膜)の膜厚を厚くすることが考えられるが、膜厚が厚くなるほど、潤滑油のせん断応力が大きくなるため、クランクシャフトとすべり軸受との間の摺動抵抗が増加するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑み、油膜切れの発生を阻止可能な膜厚の潤滑膜が介在する場合であっても、回転軸体とすべり軸受との間の摺動抵抗を抑制できるオイル潤滑軸受構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、略円柱状の回転軸体と、該回転軸体の径方向で前記回転軸体を支持するすべり軸受とを備えたオイル潤滑軸受構造であって、前記回転軸体と前記すべり軸受との隙間に潤滑油を供給するオイル供給部と、前記回転軸体と前記すべり軸受との隙間の前記潤滑油を排出するオイル排出部とを備え、前記回転軸体の摺動面は、摺動面全体が撥油性を有する撥油面で形成され、前記オイル供給部は、前記撥油面である前記回転軸体の摺動面に開口形成され、前記オイル排出部は、前記すべり軸受の摺動面に開口形成されたことを特徴とする。
【0008】
上記オイル供給部は、回転軸体とすべり軸受との隙間に対して、径方向から潤滑油を供給する供給部、あるいは回転軸体の軸方向から潤滑油を供給する供給部などのことをいう。
この発明により、油膜切れの発生を阻止可能な膜厚の潤滑膜が介在する場合であっても、回転軸体とすべり軸受との間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0009】
具体的には、撥油面は、油分に含有する空気の接触を許容しつつ、油分のみを離間させることができる。このため、回転軸体とすべり軸受との相対回転に伴って、回転軸体とすべり軸受との隙間に、空気を含有した潤滑油が供給されると、オイル潤滑軸受構造は、潤滑油に含有する空気を回転軸体の摺動面側に残すようにして、潤滑油を回転軸体の摺動面から離間させることができる。
【0010】
つまり、オイル潤滑軸受構造は、回転軸体とすべり軸受との相対回転に伴って、潤滑油に含有する空気を分離することができる。このため、オイル潤滑軸受構造は、撥油面である回転軸体の摺動面に接する薄膜の空気層と、すべり軸受の摺動面に接する油層とで構成された潤滑膜を、空気供給部を別途設けることなく、回転軸体とすべり軸受との隙間に形成することができる。
【0011】
これにより、オイル潤滑軸受構造は、潤滑油のみで潤滑膜を形成した場合に比べて、油層の膜厚を抑えた潤滑膜を形成できるため、油層のせん断応力を抑えることができる。
【0012】
さらに、例えば、径方向荷重が比較的小さい場合、オイル潤滑軸受構造は、油層と空気層とによって、回転軸体をフローティング状態で支持することになる。この場合、オイル潤滑軸受構造は、潤滑油に比べて粘性抵抗の低い空気層により、回転軸体とすべり軸受との間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0013】
さらにまた、径方向荷重が比較的大きく空気層の維持が困難な場合であっても、オイル潤滑軸受構造は、油層と回転軸体の摺動面との間の摩擦抵抗を撥油面によって低減できるため、回転軸体とすべり軸受との間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0014】
したがって、オイル潤滑軸受構造は、油膜切れの発生を阻止可能な膜厚の潤滑膜が介在する場合であっても、回転軸体とすべり軸受との間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0015】
さらにこの発明は、前記回転軸体と前記すべり軸受との間に介在する前記潤滑油を排出するオイル排出部を備え、前記オイル供給部は、前記撥油面である前記回転軸体の摺動面に開口形成され、前記オイル排出部は、すべり軸受の摺動面に開口形成されたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、オイル潤滑軸受構造は、オイル供給部からオイル排出部へ潤滑油を確実に流動させることができる。
具体的には、すべり軸受の摺動面に接する油層は、回転軸体の摺動面へ向けて押圧された場合であっても、撥油面、及び空気層によって流動が阻害され、回転軸体の摺動面に接することができない。
【0017】
このため、例えば、オイル供給部がすべり軸受の摺動面に開口形成され、オイル排出部が撥油面である回転軸体の摺動面に開口形成された場合、オイル供給部から供給された潤滑油は、空気層を超えてオイル排出部へ流入することができない。
【0018】
これに対して、オイル供給部が撥油面である回転軸体の摺動面に開口形成されことにより、オイル潤滑軸受構造は、空気層に供給された潤滑油を、回転軸体及びすべり軸受の相対回転と、撥油面との協働によって、含有する空気を分離しながら油層へ流動させることができる。
【0019】
さらに、すべり軸受の摺動面に開口形成されたオイル排出部が油層に接するため、オイル潤滑軸受構造は、油層の潤滑油をスムーズにオイル排出部に排出することができる。
よって、オイル潤滑軸受構造は、オイル供給部からオイル排出部へ潤滑油を確実に流動させることができ、回転軸体とすべり軸受との間に安定した潤滑膜を形成することができる。
【0020】
また、この発明の態様として、前記撥油面は、フッ素樹脂被膜で構成されてもよい。
この構成によれば、オイル潤滑軸受構造は、より高い撥油性を発揮する撥油面を形成することができる。このため、オイル潤滑軸受構造は、空気層と油層からなる潤滑膜をより確実に形成することができる。
よって、オイル潤滑軸受構造は、回転軸体とすべり軸受との間の摺動抵抗を確実に抑制することができる。
【0021】
また、この発明の態様として、前記フッ素樹脂被膜は、架橋フッ素樹脂で形成されてもよい。
この構成によれば、オイル潤滑軸受構造は、撥油面の耐摩耗性をより向上することができる。このため、オイル潤滑軸受構造は、撥油面を長期にわたって確保することができる。
よって、オイル潤滑軸受構造は、回転軸体とすべり軸受との間の摺動抵抗を長期にわたって抑制することができる。
【0022】
また、この発明の態様として、前記回転軸体は、エンジンのクランクシャフトであってもよい。
この構成によれば、オイル潤滑軸受構造は、径方向荷重の変動幅が大きいクランクシャフトであっても、空気層を有する潤滑膜と撥油面との協働によって摺動抵抗を安定して抑えることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明により、油膜切れの発生を阻止可能な膜厚の潤滑膜が介在する場合であっても、回転軸体とすべり軸受との間の摺動抵抗を抑制できるオイル潤滑軸受構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図4】メタル軸受、及びブロック油路の外観を示す外観斜視図。
【
図5】A-A矢視断面におけるメインジャーナルの軸受構造の説明図。
【
図6】
図1中のC-C矢視断面におけるメインジャーナルの軸受構造の説明図。
【
図7】B-B矢視断面におけるピンジャーナルの軸受構造の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施形態のオイル潤滑軸受構造は、潤滑膜、及びすべり軸受で、回転軸体をフローティング状態で支持する、所謂、流体軸受構造である。このようなオイル潤滑軸受構造が適用された多気筒エンジンについて、
図1から
図7を用いて詳しく説明する。
【0026】
なお、
図1は多気筒エンジン1の断面図を示し、
図2は
図1中のA-A矢視断面図を示し、
図3は
図1中のB-B矢視断面図を示し、
図4はメタル軸受30、及びブロック油路24の外観斜視図を示している。
さらに、
図5はA-A矢視断面におけるメインジャーナル11の軸受構造の説明図であり、
図5(a)は径方向に沿った断面における断面図を示し、
図5(b)は
図5(a)中の二点鎖線で囲われたD部を拡大した要部拡大断面図を示している。
【0027】
さらにまた、
図6は
図1中のC-C矢視断面におけるメインジャーナル11の軸受構造の説明図であり、
図6(a)は径方向に沿った断面における断面図を示し、
図6(b)は
図6(a)中の二点鎖線で囲われたE部を拡大した要部拡大断面図を示している。
【0028】
加えて、
図7はB-B矢視断面におけるピンジャーナル12の軸受構造の説明図であり、
図7(a)は径方向に沿った断面における断面図を示し、
図7(b)は
図7(a)中の二点鎖線で囲われたF部を拡大した要部拡大断面図を示している。
また、図中の矢印Xはクランクシャフト10の回転中心に沿った方向(以下、「軸方向X」とする)を示している。
【0029】
また、
図1中において、クランクシャフト10の軸方向Xに沿った縦断面で、多気筒エンジン1を図示するとともに、図示を明確にするため、エンジンブロック20及びピストン2の詳細な図示を省略している。
また、図示を明確にするため、
図5(a)及び
図6(a)中において、メタル軸受30のオイル溝部31aを省略している。なお、
図2中において、上下方向に対して交差する方向に延びる分岐油路24b及び供給孔30aを、図示を明確にするため、
図5及び
図6中では上下方向に延びる形状で図示している。
【0030】
まず、本実施形態における多気筒エンジン1は、
図1に示すように、4気筒エンジンである。この多気筒エンジン1は、
図1に示すように、クランクシャフト10と、エンジンブロック20と、クランクシャフト10を回転自在に支持する5つのメタル軸受30と、クランクシャフト10に回転自在に連結された4つのコンロッド40とを備えている。
【0031】
クランクシャフト10は、例えば、軸方向Xの一端がクランクプーリー(図示省略)に連結され、他端が変速機(図示省略)に連結される回転軸体である。なお、クランクシャフト10は、
図1に示すように、軸方向Xの一端側(
図1中の左側)から見て時計回りの回転方向R1に回転するものとする。
【0032】
このクランクシャフト10は、
図1に示すように、エンジンブロック20に回転自在に支持されたメインジャーナル11と、コンロッド40を回転自在に支持する4つのピンジャーナル12と、これらを連結する4組のクランクアーム13とで一体形成されている。
【0033】
メインジャーナル11は、
図1及び
図2に示すように、軸方向Xに延びる略円柱状で、軸方向Xに所定間隔を隔てて同軸上に配置された5つの回転軸体で構成されている。このメインジャーナル11の外周面は、後述するメタル軸受30に、潤滑膜V(
図5参照)を介して径方向で対面するとともに、親油性を有する摺動面に形成されている。
【0034】
具体的には、メインジャーナル11は、
図1に示すように、軸方向Xの一端側(
図1中の左側)から順に第1メインジャーナル111、第2メインジャーナル112、第3メインジャーナル113、第4メインジャーナル114、及び第5メインジャーナル115の5つの回転軸体で構成されている。
このうち、第2メインジャーナル112、第3メインジャーナル113、及び第4メインジャーナル114は、各気筒(図示省略)間に位置している。
【0035】
さらに、第2メインジャーナル112の内部、及び第4メインジャーナル114の内部には、
図1及び
図2に示すように、径方向中心をとおって径方向に延びるとともに、メタル軸受30との隙間に連通する貫通孔が開口形成されている。この貫通孔は、メタル軸受30との隙間に介在する潤滑油を排出する排出路11aとして形成されている。
【0036】
また、4つのピンジャーナル12は、
図1及び
図3に示すように、メインジャーナル11を構成する5つの回転軸体の間を、軸方向Xに延びる略円柱状の回転軸体であって、メインジャーナル11に対して径方向外側にオフセットした状態で配設されている。
【0037】
このピンジャーナル12の外周面は、後述するコンロッド40に、潤滑膜W(
図7参照)を介して径方向で対面する摺動面に形成されている。
なお、メインジャーナル11が回転方向R1に回動した際、4つのピンジャーナル12は、軸方向Xの一端側(
図1中の左側)から見て、メインジャーナル11を回転中心とした時計回りの回転方向R1に回動する。
【0038】
このような4つのピンジャーナル12の内部には、
図1及び
図3に示すように、径方向中心をとおって径方向に延びるとともに、コンロッド40との隙間に連通する貫通孔が開口形成されている。この貫通孔は、コンロッド40との隙間に潤滑油を供給する供給路12aとして形成されている。
【0039】
さらに、ピンジャーナル12の外周面には、供給路12aを除く周面全体に、撥油性を有する撥油被膜12b(
図7(b)参照)が形成されている。この撥油被膜12bは、撥油性を有するフッ素樹脂被膜、より好ましくは、撥油性、及び高い耐摩耗性を有する架橋フッ素樹脂被膜で構成されている。
ここで、「撥油性を有する」とは、撥油被膜12bが形成される基材面(ピンジャーナル12の外周面)よりも撥油性が高いこという。
【0040】
なお、4つのピンジャーナル12のうち、第1メインジャーナル111と第2メインジャーナル112との間に位置するピンジャーナル12を、第1ピンジャーナル121とし、第2メインジャーナル112と第3メインジャーナル113との間に位置するピンジャーナル12を第2ピンジャーナル122とする。
【0041】
さらに、第3メインジャーナル113と第4メインジャーナル114との間に位置するピンジャーナル12を、第3ピンジャーナル123とし、第4メインジャーナル114と第5メインジャーナル115との間に位置するピンジャーナル12を第4ピンジャーナル124とする。
【0042】
また、4組のクランクアーム13は、
図1に示すように、1つのピンジャーナル12をメインジャーナル11に連結する一対のクランクアーム13を、軸方向Xに所定間隔を隔てて4つ配置して構成している。
具体的には、4組のクランクアーム13は、
図1に示すように、一対の第1クランクアーム131、一対の第2クランクアーム132、一対の第3クランクアーム133、及び一対の第4クランクアーム134で構成されている。
【0043】
一対の第1クランクアーム131は、
図1に示すように、第1メインジャーナル111、及び第2メインジャーナル112から、それぞれ径方向外側へ向けて延設された略平板状に形成されている。この一対の第1クランクアーム131は、第1ピンジャーナル121における軸方向Xの両端を相対回転不可の状態で支持している。
【0044】
一対の第2クランクアーム132は、
図1に示すように、第2メインジャーナル112、及び第3メインジャーナル113から、それぞれ径方向外側へ向けて延設された略平板状に形成されている。この一対の第2クランクアーム132は、第2ピンジャーナル122における軸方向Xの両端を相対回転不可の状態で支持している。
【0045】
一対の第3クランクアーム133は、
図1に示すように、第3メインジャーナル113、及び第4メインジャーナル114から、それぞれ径方向外側へ向けて延設された略平板状に形成されている。この一対の第3クランクアーム133は、第3ピンジャーナル123における軸方向Xの両端を相対回転不可の状態で支持している。
【0046】
一対の第4クランクアーム134は、
図1に示すように、第4メインジャーナル114、及び第5メインジャーナル115から、それぞれ径方向外側へ向けて延設された略平板状に形成されている。この一対の第4クランクアーム134は、第4ピンジャーナル124における軸方向Xの両端を相対回転不可の状態で支持している。
【0047】
このような4組のクランクアーム13の内部には、
図1に示すように、メインジャーナル11の排出路11aと、ピンジャーナル12の供給路12aとを連結する4つの連結油路13aが形成されている。
より詳しくは、4つの連結油路13aは、
図1に示すように、第2メインジャーナル112に隣接する第1クランクアーム131、及び第2クランクアーム132と、第4メインジャーナル114に隣接する第3クランクアーム133、及び第4クランクアーム134とに形成されている。
【0048】
また、エンジンブロック20は、
図1に示すように、クランクシャフト10を収容支持する部分と、コンロッド40に連結されたピストン2が収容される4つの気筒(図示省略)などを有する部分である。
このエンジンブロック20は、
図1に示すように、クランクシャフト10のメインジャーナル11を支持する支持部21を備えている。
【0049】
支持部21は、
図2に示すように、気筒などが設けられたブロック本体に一体形成されたサドル部22と、サドル部22とは別体で構成され、サドル部22に締結固定されたキャップ部23とで構成されている。
そして、サドル部22とキャップ部23とは、
図2に示すように、締結された状態において、後述するメタル軸受30の外径に略同じ内径で、軸方向Xに延びる略円形状の軸受孔21aを構成している。
【0050】
さらに、エンジンブロック20には、
図2及び
図4に示すように、軸受孔21aへ潤滑油を供給するブロック油路24が形成されるとともに、ブロック油路24に潤滑油を圧送するオイルポンプ25が設けられている。
【0051】
より詳しくは、ブロック油路24は、
図4に示すように、オイルポンプ25に連結された一端から軸方向Xに延びるメイン油路24aと、メイン油路24aから分岐しサドル部22をとおって軸受孔21aへ延びる4つの分岐油路24bとで構成されている。
【0052】
なお、分岐油路24bは、
図2に示すように、先端が後述するメタル軸受30の供給孔30aに連通している。
また、メタル軸受30は、
図1及び
図2に示すように、クランクシャフト10のメインジャーナル11を径方向に支持するすべり軸受である。このメタル軸受30は、
図1、
図2、及び
図4に示すように、メインジャーナル11の外周面(摺動面)に径方向で対向するとともに、摺動面をなす内周面を有する略円環状に形成されている。
【0053】
なお、メタル軸受30は、
図5(a)及び
図6(a)に示すように、径方向に沿った断面において、エンジンブロック20の軸受孔21aに略同じ外径と、メインジャーナル11の外径よりも僅かに大きい内径を有する略円環状に形成されている。
具体的には、メタル軸受30は、
図2及び
図4に示すように、軸方向Xから見て略半円状の第1メタル軸受31、及び第2メタル軸受32を径方向に組み付けて構成されている。
【0054】
このメタル軸受30は、
図2示すように、エンジンブロック20の軸受孔21aに装着された状態において、第1メタル軸受31の外周面がサドル部22に接触し、第2メタル軸受32の外周面がキャップ部23に接触するように配置されている。
【0055】
さらに、第1メタル軸受31の内周面には、
図2及び
図4に示すように、軸方向Xの略中央を径方向外側へ向けて凹設したオイル溝部31aが形成されている。このオイル溝部31aには、
図2に示すように、エンジンブロック20の分岐油路24bに連通する供給孔30aが開口形成されている。つまり、メタル軸受30の供給孔30aは、ブロック油路24とで、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間に潤滑油を供給する供給路を構成している。
【0056】
加えて、メタル軸受30の内周面には、
図5(b)及び
図6(b)に示すように、オイル溝部31aを含む周面全体に、撥油性を有する撥油被膜30bが形成されている。この撥油被膜30bは、撥油性を有するフッ素樹脂被膜、より好ましくは、撥油性、及び高い耐摩耗性を有する架橋フッ素樹脂被膜で構成されている。
ここで、「撥油性を有する」とは、撥油被膜30bが形成される基材面(メタル軸受30の内周面)よりも撥油性が高いこという。
【0057】
上述したような構成により、多気筒エンジン1には、メタル軸受30の内周面に潤滑油を供給する第1のオイル供給部と、ピンジャーナル12の外周面に潤滑油を供給する第2のオイル供給部とが連結されたオイル供給部5が構成されている。
【0058】
具体的には、オイル供給部5は、
図2に示すように、オイルポンプ25、ブロック油路24、及びメタル軸受30の供給孔30aによって、メタル軸受30の内周面、すなわち、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間に潤滑油を供給する第1のオイル供給部を構成している。
【0059】
さらに、オイル供給部5は、
図2及び
図3に示すように、第1のオイル供給部、メインジャーナル11の排出路11a、連結油路13a、及びピンジャーナル12の供給路12aによって、ピンジャーナル12の外周面、すなわち、ピンジャーナル12とコンロッド40との隙間に潤滑油を供給する第2のオイル供給部を構成している。
【0060】
また、コンロッド40は、
図1及び
図3に示すように、クランクシャフト10のピンジャーナル12とピストン2とを連結する連結部材である。このコンロッド40は、
図3に示すように、一端がピストンピン3を介してピストン2に連結されたロッド本体41と、ロッド本体41に締結固定されたキャップ部42とで構成されている。
【0061】
そして、ロッド本体41とキャップ部42とは、
図1及び
図3に示すように、締結された状態において、ピンジャーナル12を径方向で支持するとともに、すべり軸受として機能するように構成されている。
【0062】
なお、メインジャーナル11が回転方向R1に回動した際、ピンジャーナル12に対してコンロッド40は、
図3に示すように、軸方向Xの一端側(
図1中の左側)から見て、ピンジャーナル12を回転中心とした時計回りの回転方向R2に回動する。
【0063】
具体的には、ロッド本体41とキャップ部42とは、
図3及び
図7(a)に示すように、互いに締結された状態において、ピンジャーナル12の外径よりも僅かに大径で、軸方向Xに延びる略円形状の軸受孔40aを構成している。
この軸受孔40aの周面は、ピンジャーナル12の外周面に、潤滑膜W(
図7参照)を介して径方向で対面するとともに、親油性を有する摺動面に形成されている。
【0064】
さらに、軸受孔40aの周面には、
図1及び
図7(a)に示すように、ピンジャーナル12との隙間の潤滑油を排出する排出路41aが開口形成されている。
排出路41aは、ロッド本体41の内部を他端側へ向けて延びるとともに、ピストンピン3が挿通されるピン孔41bに連通している。換言すると、排出路41aは、ピン孔41bに潤滑油を供給する供給路として形成されている。
【0065】
次に、上述した構成において、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間、及びピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間に介在する潤滑膜について、
図5から
図7を用いて説明する。なお、潤滑膜は、クランクシャフト10の回動に伴って形成されるものとする。
【0066】
メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間に形成される潤滑膜Vは、
図5(b)及び
図6(b)に示すように、径方向で隣接する二つの層で構成されている。より詳しくは、潤滑膜Vは、
図5(b)及び
図6(b)に示すように、メインジャーナル11の外周面に接した油層Voと、メタル軸受30の内周面(撥油被膜30b)に接する空気層Vaとで構成されている。
【0067】
油層Voは、メタル軸受30の供給孔30aを介して供給された潤滑油Sで構成されている。一方、空気層Vaは、潤滑油Sから分離した空気で構成されている。
このような潤滑膜Vは、メタル軸受30の撥油被膜30bと、潤滑油Sに作用するせん断応力によって形成される。
【0068】
より詳しくは、メタル軸受30の供給孔30aから流出した潤滑油Sは、供給孔30aからメタル軸受30の内周面に付着するように流動する。しかしながら、供給孔30aに連続する撥油被膜30bと、潤滑油Sに作用するせん断応力とによって、潤滑油Sは、メタル軸受30の内周面に付着し続けることができない。このため、潤滑油Sは、クランクシャフト10の回動に伴って、撥油被膜30bに弾かれるようにメインジャーナル11側へ移動する。
【0069】
この際、潤滑油Sが僅かに空気を含有しているため、潤滑油Sは、含有する空気をメタル軸受30側に残すように、メインジャーナル11側へ移動することになる。このため、潤滑油Sとメタル軸受30の撥油被膜30bとの隙間には、潤滑油Sから分離した空気の層(空気層Va)が形成される。
このようにして、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間には、メインジャーナル11に接する油層Voと、メタル軸受30に接する空気層Vaとで構成された潤滑膜Vが形成される。
【0070】
また、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間に形成される潤滑膜Wは、
図7(b)に示すように、径方向で隣接する二つの層で構成されている。より詳しくは、潤滑膜Wは、
図7(b)に示すように、ピンジャーナル12の外周面(撥油被膜12b)に接する空気層Waと、コンロッド40の軸受孔40aの周面に接する油層Woとで構成されている。
【0071】
油層Woは、ピンジャーナル12の供給路12aを介して供給された潤滑油Sで構成されている。一方、空気層Waは、潤滑油Sから分離した空気で構成されている。
このような潤滑膜Wは、ピンジャーナル12の撥油被膜12bと、潤滑油Sに作用するせん断応力によって形成される。
【0072】
より詳しくは、ピンジャーナル12の供給路12aから流出した潤滑油Sは、供給路12aからピンジャーナル12の外周面に付着するように流動する。しかしながら、供給路12aに連続する撥油被膜12bと、潤滑油Sに作用するせん断応力とによって、潤滑油Sは、ピンジャーナル12の外周面に付着し続けることができない。このため、潤滑油Sは、クランクシャフト10の回動に伴って、撥油被膜12bに弾かれるようにコンロッド40側へ移動する。
【0073】
この際、潤滑油Sが僅かに空気を含有しているため、潤滑油Sは、含有する空気をピンジャーナル12側に残すように、コンロッド40側へ移動することになる。このため、潤滑油Sとピンジャーナル12の撥油被膜12bとの隙間には、潤滑油Sから分離した空気の層(空気層Wa)が形成される。
このようにして、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間には、ピンジャーナル12に接する空気層Waと、コンロッド40の軸受孔40aに接する油層Woとで構成された潤滑膜Wが形成される。
【0074】
引き続き、上述した潤滑膜V,Wが形成された状態における潤滑油Sの流れについて、
図5から
図7を用いて詳述する。
まず、潤滑膜Vが形成されたメインジャーナル11とメタル軸受30との隙間では、
図5(b)及び
図6(b)の矢印L1で示したように、潤滑油Sが供給孔30aをとおって、空気層Vaに流入する。
【0075】
この際、空気層Vaに流入した潤滑油Sは、撥油被膜30bに付着することができない。このため、空気層Vaに流入した潤滑油Sは、
図5(b)及び
図6(b)の矢印L2で示したように、含有する空気を分離しながら油層Voに合流して、メインジャーナル11の外周面に沿って流動する。
【0076】
そして、油層Voを流動する潤滑油Sは、
図5(b)の矢印L3で示したように、排出路11aを介して、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間から排出される。
なお、排出路が形成されていない第1メインジャーナル111、第3メインジャーナル113及び第5メインジャーナル115において、潤滑油Sは、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間を軸方向Xへ流動して外部に排出される。
【0077】
また、潤滑膜Wが形成されたピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間では、
図7(b)の矢印L4で示したように、潤滑油Sが供給路12aをとおって、空気層Waに流入する。この際、空気層Waに流入した潤滑油Sは、撥油被膜12bに付着することができない。
【0078】
このため、空気層Waに流入した潤滑油Sは、
図7(b)の矢印L5で示したように、含有する空気を分離しながら油層Woに合流して、軸受孔40aの周面に沿って流動する。
そして、油層Woを流動する潤滑油Sは、
図7(b)の矢印L6で示したように、排出路41aを介して、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間から排出され、コンロッド40のピン孔41bとピストンピン3との隙間に供給される。
【0079】
このように、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間、及びピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間には、クランクシャフト10の回動が停止するまで、潤滑油Sが径方向へ向けて連続して流動することで、空気層Vaを有する潤滑膜V、及び空気層Waを有する潤滑膜Wが連続して形成される。
【0080】
以上のように、オイル潤滑軸受構造は、略円柱状のメインジャーナル11と、メインジャーナル11の径方向でメインジャーナル11を支持するメタル軸受30とを備えている。このオイル潤滑軸受構造は、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間に潤滑油を供給するオイル供給部5を備えたものである。そして、メタル軸受30の摺動面は、その全面が撥油性を有する撥油被膜30bで形成されたものである。
【0081】
これにより、オイル潤滑軸受構造は、油膜切れの発生を阻止可能な膜厚の潤滑膜Vが介在する場合であっても、メインジャーナル11とメタル軸受30との間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0082】
具体的には、撥油被膜30bは、油分に含有する空気の接触を許容しつつ、油分のみを離間させることができる。このため、メインジャーナル11とメタル軸受30との相対回転に伴って、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間に、空気を含有した潤滑油が供給されると、オイル潤滑軸受構造は、潤滑油に含有する空気をメタル軸受30の内周面側に残すようにして、潤滑油をメタル軸受30の内周面から離間させることができる。
【0083】
つまり、オイル潤滑軸受構造は、メインジャーナル11とメタル軸受30との相対回転に伴って、潤滑油に含有する空気を分離することができる。このため、オイル潤滑軸受構造は、撥油被膜30bであるメタル軸受30の内周面に接する薄膜の空気層Vaと、メインジャーナル11の外周面に接する油層Voとで構成された潤滑膜Vを、空気供給部を別途設けることなく、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間に形成することができる。
【0084】
これにより、オイル潤滑軸受構造は、潤滑油のみで潤滑膜を形成した場合に比べて、油層Voの膜厚を抑えた潤滑膜Vを形成できるため、油層Voのせん断応力を抑えることができる。
【0085】
さらに、例えば、径方向荷重が比較的小さい場合、オイル潤滑軸受構造は、油層Voと空気層Vaとによって、メインジャーナル11をフローティング状態で支持することになる。この場合、オイル潤滑軸受構造は、潤滑油に比べて粘性抵抗の低い空気層Vaにより、メインジャーナル11とメタル軸受30との間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0086】
さらにまた、径方向荷重が比較的大きく空気層Vaの維持が困難な場合であっても、オイル潤滑軸受構造は、油層Voとメタル軸受30の内周面との間の摩擦抵抗を撥油被膜30bによって低減できるため、メインジャーナル11とメタル軸受30との間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0087】
したがって、オイル潤滑軸受構造は、油膜切れの発生を阻止可能な膜厚の潤滑膜Vが介在する場合であっても、メインジャーナル11とメタル軸受30との間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0088】
また、オイル潤滑軸受構造は、略円柱状のピンジャーナル12と、ピンジャーナル12の径方向でピンジャーナル12を支持するコンロッド40の軸受孔40aとを備えている。このオイル潤滑軸受構造は、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間に潤滑油を供給するオイル供給部5を備えたものである。そして、ピンジャーナル12の摺動面は、その全面が撥油性を有する撥油被膜12bで形成されたものである。
【0089】
これにより、オイル潤滑軸受構造は、油膜切れの発生を阻止可能な膜厚の潤滑膜Wが介在する場合であっても、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0090】
具体的には、撥油被膜12bは、油分に含有する空気の接触を許容しつつ、油分のみを離間させることができる。このため、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの相対回転に伴って、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間に、空気を含有した潤滑油が供給されると、オイル潤滑軸受構造は、潤滑油に含有する空気をピンジャーナル12の外周面側に残すようにして、潤滑油をピンジャーナル12の外周面から離間させることができる。
【0091】
つまり、オイル潤滑軸受構造は、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの相対回転に伴って、潤滑油に含有する空気を分離することができる。このため、オイル潤滑軸受構造は、撥油被膜12bであるピンジャーナル12の外周面に接する薄膜の空気層Waと、軸受孔40aの周面に接する油層Woとで構成された潤滑膜Wを、空気供給部を別途設けることなく、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間に形成することができる。
【0092】
これにより、オイル潤滑軸受構造は、潤滑油のみで潤滑膜を形成した場合に比べて、油層Woの膜厚を抑えた潤滑膜Wを形成できるため、油層Woのせん断応力を抑えることができる。
【0093】
さらに、例えば、径方向荷重が比較的小さい場合、オイル潤滑軸受構造は、油層Woと空気層Waとによって、ピンジャーナル12をフローティング状態で支持することになる。この場合、オイル潤滑軸受構造は、潤滑油に比べて粘性抵抗の低い空気層Waにより、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0094】
さらにまた、径方向荷重が比較的大きく空気層Waの維持が困難な場合であっても、オイル潤滑軸受構造は、油層Woとピンジャーナル12の外周面との間の摩擦抵抗を撥油被膜12bによって低減できるため、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0095】
したがって、オイル潤滑軸受構造は、油膜切れの発生を阻止可能な膜厚の潤滑膜Wが介在する場合であっても、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの間の摺動抵抗を抑制することができる。
【0096】
また、オイル潤滑軸受構造は、メインジャーナル11とメタル軸受30との間に介在する潤滑油を排出する排出路11aを備えている。そして、オイル供給部5は、撥油被膜30bであるメタル軸受30の内周面に開口形成されたものである。一方、排出路11aは、メインジャーナル11の外周面に開口形成されたものである。
【0097】
この構成によれば、オイル潤滑軸受構造は、オイル供給部5(第1のオイル供給部)から排出路11aへ潤滑油を確実に流動させることができる。
具体的には、メインジャーナル11の外周面に接する油層Voは、メタル軸受30の内周面へ向けて押圧された場合であっても、撥油被膜30b、及び空気層Vaによって流動が阻害され、メタル軸受30の内周面に接することができない。
【0098】
このため、例えば、オイル供給部がメインジャーナル11の外周面に開口形成され、排出路が撥油被膜30bであるメタル軸受30の内周面に開口形成された場合、オイル供給部から供給された潤滑油は、空気層Vaを超えて排出路へ流入することができない。
【0099】
これに対して、オイル供給部5(第1のオイル供給部)が撥油被膜30bであるメタル軸受30の内周面に開口形成されことにより、オイル潤滑軸受構造は、空気層Vaに供給された潤滑油を、メインジャーナル11及びメタル軸受30の相対回転と、撥油被膜30bとの協働によって、含有する空気を分離しながら油層Voへ流動させることができる。
【0100】
さらに、メインジャーナル11の外周面に開口形成された排出路11aが油層Voに接するため、オイル潤滑軸受構造は、油層Voの潤滑油をスムーズに排出路11aに排出することができる。
よって、オイル潤滑軸受構造は、オイル供給部5(第1のオイル供給部)から排出路11aへ潤滑油を確実に流動させることができ、メインジャーナル11とメタル軸受30との間に安定した潤滑膜Vを形成することができる。
【0101】
また、オイル潤滑軸受構造は、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの間に介在する潤滑油を排出する排出路41aを備えている。そして、オイル供給部5は、撥油被膜12bであるピンジャーナル12の外周面に開口形成されたものである。一方、排出路41aは、軸受孔40aの周面に開口形成されたものである。
【0102】
この構成によれば、オイル潤滑軸受構造は、オイル供給部5(第2のオイル供給部)から排出路41aへ潤滑油を確実に流動させることができる。
具体的には、軸受孔40aの周面に接する油層Woは、ピンジャーナル12の外周面へ向けて押圧された場合であっても、撥油被膜12b、及び空気層Waによって流動が阻害され、ピンジャーナル12の外周面に接することができない。
【0103】
このため、例えば、オイル供給部が軸受孔40aの周面に開口形成され、排出路が撥油被膜12bであるピンジャーナル12の外周面に開口形成された場合、オイル供給部から供給された潤滑油は、空気層Waを超えて排出路へ流入することができない。
【0104】
これに対して、オイル供給部5(第2のオイル供給部)が撥油被膜12bであるピンジャーナル12の外周面に開口形成されことにより、オイル潤滑軸受構造は、空気層Waに供給された潤滑油を、ピンジャーナル12及びコンロッド40の軸受孔40aの相対回転と、撥油被膜12bとの協働によって、含有する空気を分離しながら油層Woへ流動させることができる。
【0105】
さらに、軸受孔40aの周面に開口形成された排出路41aが油層Woに接するため、オイル潤滑軸受構造は、油層Woの潤滑油をスムーズに排出路41aに排出することができる。
よって、オイル潤滑軸受構造は、オイル供給部5(第2のオイル供給部)から排出路41aへ潤滑油を確実に流動させることができ、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの間に安定した潤滑膜Wを形成することができる。
【0106】
また、撥油被膜30b,12bがフッ素樹脂被膜で構成されたことにより、オイル潤滑軸受構造は、より高い撥油性を発揮する撥油被膜30b,12bを形成することができる。このため、オイル潤滑軸受構造は、空気層Vaと油層Voからなる潤滑膜V、及び空気層Waと油層Woからなる潤滑膜Wをより確実に形成することができる。
【0107】
よって、オイル潤滑軸受構造は、メインジャーナル11とメタル軸受30との間の摺動抵抗、及びピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの間の摺動抵抗を確実に抑制することができる。
【0108】
また、フッ素樹脂被膜が架橋フッ素樹脂で形成されたことにより、オイル潤滑軸受構造は、撥油被膜30b,12bの耐摩耗性をより向上することができる。このため、オイル潤滑軸受構造は、撥油被膜30b,12bを長期にわたって確保することができる。
よって、オイル潤滑軸受構造は、メインジャーナル11とメタル軸受30との間の摺動抵抗、及びピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの間の摺動抵抗を長期にわたって抑制することができる。
【0109】
また、回転軸体が多気筒エンジン1のクランクシャフト10であることにより、オイル潤滑軸受構造は、径方向荷重の変動幅が大きいクランクシャフト10であっても、空気層Vaを有する潤滑膜Vと撥油被膜30bとの協働、及び空気層Waを有する潤滑膜Wと撥油被膜12bとの協働によって摺動抵抗を安定して抑えることができる。
【0110】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の回転軸体は、実施形態のピンジャーナル12に対応し、
以下同様に、
すべり軸受は、コンロッド40の軸受孔40aに対応し、
回転軸体の摺動面は、ピンジャーナル12の外周面に対応し、
撥油面は、撥油被膜12bに対応し、
オイル排出部は、排出路41aに対応し、
すべり軸受の摺動面は、軸受孔40aの周面に対応し、
エンジンは、多気筒エンジン1に対応するが、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0111】
例えば、上述した実施形態において、多気筒エンジン1のクランクシャフト10を用いてオイル潤滑軸受構造を説明したが、これに限定せず、適宜の回転軸体を潤滑膜、及びすべり軸受で支持するオイル潤滑軸受構造に適用してもよい。例えば、多気筒エンジンのカムシャフト、ピストンピン、オイルポンプ軸、あるいは過給機のタービン軸などを回転軸体とするオイル潤滑軸受構造に適用してもよい。
【0112】
また、多気筒エンジンにおけるオイル潤滑軸受構造に限らず、回転軸体が、潤滑膜、及びすべり軸受で支持された適宜の装置に適用してもよい。例えば、車両、航空機、あるいは船舶などの内燃機関や変速機に適用されてもよい。
【0113】
さらに、工作機械、組立機械、あるいは試験設備などにおいて、回転軸体を支持する軸受構造に適用されてもよい。なお、回転軸体とすべり軸受とは相対回転可能であればよく、例えば、すべり軸受が非回転で回転軸体が相対回転する構成、あるいは回転軸体が非回転ですべり軸受が回動する構成であってもよい。
【0114】
また、一端にオイルポンプ25が接続されたオイル供給部5によって、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間、及びピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間に潤滑油を供給する構成としたが、潤滑油が供給可能であれば、これに限定しない。
例えば、メインジャーナル11とメタル軸受30との隙間、または/およびピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間に対して、軸方向Xから潤滑油を供給するオイル供給部であってもよい。
【0115】
また、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間に介在する潤滑油を、コンロッド40に設けた排出路41aを介して排出したが、これに限定せず、潤滑油が軸方向Xに排出される構成であってもよい。より詳しくは、コンロッドに排出路を設けず、潤滑油が、ピンジャーナル12とコンロッド40の軸受孔40aとの隙間を介して、軸方向Xへ向けて排出される構成であってもよい。
【0116】
また、メインジャーナル11をメタル軸受30で支持する構成としたが、これに限定せず、すべり軸受であれば、適宜の素材で形成された軸受であってもよい。
また、コンロッド40の軸受孔40aをすべり軸受として機能するように構成したが、これに限定せず、メインジャーナル11と同様に、ピンジャーナル12と軸受孔40aとの間に、メタル軸受を介在させてもよい。この場合、メタル軸受には、コンロッド40の排出路11aに連通する排出孔を開口形成する。
【0117】
また、フッ素樹脂、または架橋フッ素樹脂の被膜で構成された撥油被膜30b,12bとしたが、これに限定せず、高い撥油性を有する撥油面を形成できるのであれば、適宜の構成であってもよい。例えば、フッ素樹脂とは異なる素材の被膜で構成された撥油被膜、あるいは周面に施した凹凸加工によって撥油性を高めた撥油面であってもよい。
【符号の説明】
【0118】
1…多気筒エンジン
5…オイル供給部
10…クランクシャフト
11…メインジャーナル
11a…排出路
12…ピンジャーナル
12b…撥油被膜
30…メタル軸受
30b…撥油被膜
40a…軸受孔
41a…排出路
S…潤滑油