IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡エムシー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-中空糸膜モジュール 図1
  • 特許-中空糸膜モジュール 図2
  • 特許-中空糸膜モジュール 図3
  • 特許-中空糸膜モジュール 図4
  • 特許-中空糸膜モジュール 図5
  • 特許-中空糸膜モジュール 図6
  • 特許-中空糸膜モジュール 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20240228BHJP
   B01D 63/04 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D63/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019234410
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102194
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 倫宏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】三原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】勝部 幹夫
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-119788(JP,A)
【文献】特開2015-160157(JP,A)
【文献】米国特許第04670145(US,A)
【文献】特開2008-086906(JP,A)
【文献】特開2019-025405(JP,A)
【文献】国際公開第2004/069391(WO,A1)
【文献】特開平06-218242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器、
前記圧力容器内に直列に配置された複数の中空糸膜エレメント、および、
前記複数の中空糸膜エレメントを連結するコネクター
を備える中空糸膜モジュールであって、
前記圧力容器は、
長手方向の一端側に設けられたフィード液の供給ポートと、
長手方向の他端側に設けられたフィード液の排出ポートと、
透過水の回収ポートと、を含み、
前記複数の中空糸膜エレメントの各々は、
複数の中空糸膜と、
前記複数の中空糸膜エレメントの長手方向に設けられた二重芯管と、を含み、
前記二重芯管は、多孔分配管と、前記多孔分配管の内部に配置された内管と、を有し、
前記多孔分配管の内壁と前記内管の外壁とによって形成される外流路は、前記供給ポートおよび前記排出ポートに連通しており、
前記内管の内壁によって形成される内流路は、前記回収ポートに連通しており、
前記コネクターは、互いに連通していない第1流路および第2流路を含み、
前記複数の中空糸膜エレメントの間において、
前記複数の中空糸膜エレメントの前記外流路同士は前記第1流路を介して接続され、
前記複数の中空糸膜エレメントの前記内流路同士は前記第2流路を介して接続され、かつ、前記複数の中空糸膜の中空部前記内流路前記第2流路を介して連通されている、
中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記複数の中空糸膜エレメントの間において、前記圧力容器の内壁の内側に長手方向に連通する空隙を有している、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記第2流路は、前記内流路を接続するための主流路と、前記中空糸膜エレメントの前記中空部と前記主流路とを連通させる分岐流路と、を有する、請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記中空糸膜エレメントが円柱状の形状を有し、10~28cmの外径を有し、1000~2000mmの全長を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記複数の中空糸膜エレメントは、複数の中空糸膜が前記二重芯管の周りに螺旋状に巻回されてなる中空糸膜巻上げ体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュールに含まれる複数の中空糸膜エレメントを連結するためのコネクター。
【請求項7】
前記コネクターを構成する材料は、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂からなる群から選択される1種以上である、請求項6に記載のコネクター。
【請求項8】
前記材料の線膨張係数は、11×10-5/℃以下である、請求項7に記載のコネクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、海水淡水化等の逆浸透処理用の大型プラントにおいて、プラントをコンパクト化する方法の1つとしては、逆浸透膜モジュールの圧力容器の長さを長くし、その中に収容される中空糸膜エレメントの数を多くすることで、逆浸透膜モジュール当たりの中空糸膜の比率を高める(圧力容器の比率を低下させる)ことが考えられる。これにより、逆浸透膜モジュール当たりの膜面積が増加するため、所定の処理量に対して必要なプラントへのモジュール本数を少なくすることが可能となる。
【0003】
例えば、特許文献1(特表平9-511447号公報)、特許文献2(特表平7-500281号公報)および非特許文献1(DuPont社 Permasep,"The Hollow-Fiber Cartridge- Development and Commercialization of an Entirely New Reverse Osmosis Devise/Technology" Technical Paper, 1997)には、圧力容器内に複数の中空糸膜エレメントを収容し、それぞれの中空糸膜エレメントを接続してなる逆浸透膜モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平9-511447号公報
【文献】特表平7-500281号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】DuPont社 Permasep,"The Hollow-Fiber Cartridge- Development and Commercialization of an Entirely New Reverse Osmosis Devise/Technology" Technical Paper, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の先行技術文献に開示された複数の中空糸膜エレメントを備える逆浸透膜モジュールにおいては、圧力容器の内壁と各中空糸膜モジュールとの間が一部でシールされている。そして、フィード液(海水等)が中空糸膜モジュールに供給され、最初の中空糸膜モジュールを通過して濃縮されたフィード液(濃縮液)も次段の中空糸膜エレメントに供給される。
【0007】
しかし、2段目以降の中空糸膜エレメントには、濃縮されたフィード液が供給されるため、得られる透過水の量が次第に減少し、逆浸透膜モジュール全体の処理効率(造水効率)が低下してしまうという問題がある。このため、逆浸透膜モジュール全体の処理効率を向上させる観点から、複数の中空糸膜エレメントの全てに濃縮されていない(フレッシュな)フィード液が供給されることが望ましい。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、複数の中空糸膜エレメントを備える中空糸膜モジュールにおいて、全体の処理効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 圧力容器、
前記圧力容器内に直列に配置された複数の中空糸膜エレメント、および、
前記複数の中空糸膜エレメントを連結するコネクター
を備える中空糸膜モジュールであって、
前記圧力容器は、
長手方向の一端側に設けられたフィード液の供給ポートと、
長手方向の他端側に設けられたフィード液の排出ポートと、
透過水の回収ポートと、を含み、
前記複数の中空糸膜エレメントの各々は、
複数の中空糸膜と、
前記複数の中空糸膜エレメントの長手方向に設けられた二重芯管と、を含み、
前記二重芯管は、多孔分配管と、前記多孔分配管の内部に配置された内管と、を有し、
前記多孔分配管の内壁と前記内管の外壁とによって形成される外流路は、前記供給ポートおよび前記排出ポートに連通しており、
前記内管の内壁によって形成される内流路は、前記回収ポートに連通しており、
前記コネクターは、互いに連通していない第1流路および第2流路を含み、
前記複数の中空糸膜エレメントの間において、
前記複数の中空糸膜エレメントの前記外流路同士は前記第1流路を介して接続され、
前記複数の中空糸膜エレメントの前記内流路同士は前記第2流路を介して接続され、かつ、前記複数の中空糸膜の中空部と前記内流路も前記第2流路を介して連通している、
中空糸膜モジュール。
【0010】
(2) 前記複数の中空糸膜エレメントの間において、前記圧力容器の内壁の内側に長手方向に連通する空隙を有している、(1)に記載の中空糸膜モジュール。
【0011】
(3) 前記第2流路は、前記内流路を接続するための主流路と、前記中空糸膜エレメントの前記中空部と前記主流路とを連通させる分岐流路と、を有する、(1)または(2)に記載の中空糸膜モジュール。
【0012】
(4) 前記中空糸膜エレメントが円柱状の形状を有し、10~28cmの外径を有し、1000~2000mmの全長を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【0013】
(5) 前記複数の中空糸膜エレメントは、複数の中空糸膜が前記二重芯管の周りに螺旋状に巻回されてなる中空糸膜巻上げ体を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の中空糸膜エレメントを備える中空糸膜モジュールにおいて、全体の処理効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の中空糸膜モジュールの一例を示す断面模式図である。
図2】実施形態の中空糸膜モジュールの一例について、中空糸膜エレメントの連結部分を拡大して示す断面模式図である。
図3】実施形態で用いられるコネクターを示す斜視図である。
図4】実施形態で用いられるコネクターを示す正面図である。
図5図4のV-V断面を示す断面図である。
図6】実施形態で用いられる別のコネクターを示す斜視図である。
図7】反対側から見たときの図6のコネクターを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の中空糸膜モジュールの一例について図面を参照して説明する。なお、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0017】
<中空糸膜モジュール>
図1および図2を参照して、本実施形態の中空糸膜モジュールは、
圧力容器1、
圧力容器1内に直列に配置された複数の中空糸膜エレメント4、および、
複数の中空糸膜エレメント4を連結するコネクター7を備える。
【0018】
(圧力容器)
圧力容器1は、
長手方向の一端側に設けられたフィード液の供給ポート10aと、
長手方向の他端側に設けられたフィード液(濃縮されたフィード液:濃縮液)の排出ポート10bと、
透過水の回収ポート11と、を含む。
【0019】
なお、図1において、供給ポート10aは、圧力容器1を構成する壁部材13に設けられており、排出ポート10bおよび回収ポート11は、圧力容器を構成する別の壁部材14に設けられている。複数の中空糸膜エレメント4は、2つの壁部材13,14の間に直列に配置されている。
【0020】
(中空糸膜エレメント)
複数の中空糸膜エレメント4の各々は、
複数の中空糸膜41と、
複数の中空糸膜エレメント4の長手方向に設けられた二重芯管2と、を含む。
【0021】
二重芯管2は、多孔分配管21と、多孔分配管21の内部に配置された内管22と、を有する。
多孔分配管21の内壁と内管22の外壁とによって形成される外流路21aは、供給ポート10aおよび排出ポート10bに連通している。
内管22の内壁によって形成される内流路22aは、回収ポート11に連通している。
【0022】
1つの圧力容器1内に収納される中空糸膜エレメント4の数は2つ以上であり、特に限定されないが、好ましくは3つ以上である。
【0023】
複数の中空糸膜41は、中空糸膜エレメント4内に配置された二重芯管2の周囲に配置される。多孔分配管21および複数の中空糸膜41は、それらの両端で樹脂壁6によって液密に固定されている。
なお、複数の中空糸膜41の各々は少なくとも一方の端部(好ましくは両端)に開口を有する。
【0024】
多孔分配管21は、複数の孔21bを有する管状体である。多孔分配管21により、例えば、供給ポート10aから中空糸膜モジュール内に供給されたフィード液は、外流路21aおよび孔21bを介して、中空糸膜の外側42へ分配される。
【0025】
なお、フィード液とは、逆浸透処理、正浸透処理等の膜処理の処理対象液であり、水を含む液体であれば特に限定されず、溶液および懸濁液のいずれであってもよい。フィード液としては、例えば、海水、河川水、汽水、排水などが挙げられる。
【0026】
多孔分配管21において、孔21bは、放射状に各方向に設けられていることが好ましい。なお、多孔分配管21は、中空糸膜エレメント4の略中心に位置させることが好ましい。
【0027】
多孔分配管21の径は大きすぎると、中空糸膜モジュール内の中空糸膜が占める領域が減少し、結果として中空糸膜エレメント4または中空糸膜モジュールの膜面積が減少するため容積あたりの透水量が低下することがある。また、多孔分配管の径が小さすぎると、供給流体が多孔分配管内を流動する際に圧力損失が大きくなり、結果として中空糸膜にかかる有効差圧が小さくなり処理効率が低下することがある。また、強度が低下して、供給流体が中空糸膜層を流れる際に受ける中空糸膜の張力により多孔分配管が破損する場合がある。これらの観点から、中空糸膜エレメント4の断面積に対して多孔分配管の断面積(内管の断面積を除く)の占める面積の割合は、4~20%が好ましい。
【0028】
内管22は、多孔分配管21の内部において、中空糸膜エレメント4の長手方向に設けられた配管である。なお、内管22は、必ずしも中空糸膜エレメント4の長手方向に平行である必要はなく、中空糸膜エレメント4を長手方向に通過するような配管であればよい。
図1では、回収ポート11の反対側の内管22の一端(供給ポート10a側)は、プラグ61によって封止されている。ただし、供給ポート10a側にも回収ポート11が設けられていてもよい。
【0029】
本実施形態で用いられる中空糸膜を構成する半透膜としては、例えば、逆浸透膜(RO膜)、正浸透膜(FO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、限外ろ過膜(UF膜)と呼ばれる半透膜が挙げられる。半透膜は、好ましくは逆浸透膜または正浸透膜、ナノろ過膜である。なお、半透膜として逆浸透膜または正浸透膜、ナノろ過膜を用いる場合、フィード液の圧力は、好ましくは0.1~10.0MPaであり、より好ましくは0.5~9.0MPaである。
【0030】
通常、RO膜およびFO膜の孔径は約2nm以下であり、UF膜の孔径は約2~100nmである。NF膜は、RO膜のうちイオンや塩類の阻止率が比較的低いものであり、通常、NF膜の孔径は約1~2nmである。半透膜としてRO膜、FO膜またはNF膜を用いる場合、RO膜またはFO膜、NF膜の塩除去率は好ましくは90%以上である。
【0031】
半透膜を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。半透膜は、セルロース系樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂の少なくともいずれかを含む材料から構成されることが好ましい。
【0032】
セルロース系樹脂は、好ましくは酢酸セルロース系樹脂である。酢酸セルロース系樹脂は、殺菌剤である塩素に対する耐性があり、微生物の増殖を抑制できる特徴を有している。酢酸セルロース系樹脂は、好ましくは酢酸セルロースであり、耐久性の点から、より好ましくは三酢酸セルロースである。
【0033】
ポリビニルアルコール系樹脂は、好ましくは架橋ポリビニルアルコール樹脂である。
【0034】
中空糸膜としては、単層構造および同一または異なる素材からなる複合構造の膜が挙げられる。単層構造の膜は、中空糸膜の膜厚方向の構造均質性が高いことが好ましい。中空糸膜の膜厚方向の構造均質性の指標としては、例えば、上述した中空糸膜のラマン値が所定値以上の範囲にあることや、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて中空糸膜の横断面を膜厚方向に向かって連続的に観察した際に構造の変化が少ないことが挙げられる。
【0035】
中空糸膜の外径は、逆浸透処理、正浸透処理等の膜処理に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、100~300μmである。ただし、本実施形態において、中空糸膜には、内径が1mm以上の比較的大きい内径を有する中空糸状(チューブラー形状と呼ばれることもある)の半透膜も含まれる。
【0036】
中空糸膜の中空率は、逆浸透処理、正浸透処理等の膜処理に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、15~45%である。中空率が上記範囲より小さいと、中空部の流動圧損が大きくなり、所望の透過水量が得られない可能性がある。また、中空率が上記範囲より大きいと、浸透処理の際に十分な耐圧性を確保できない可能性がある。なお、中空率(%)は式:[中空率(%)=(内径/外径)×100]により求めることができる。
【0037】
なお、中空糸膜エレメントは、スパイラル型の平膜を用いたスパイラルエレメントと比べて、エレメント当たりの膜面積が大きい。このため、中空糸膜は、同じ透水量を得る際に単位膜面積あたりの処理量が極めて少なくて良く、スパイラル型に比べてフィード液によって生じる膜面の汚れを減少でき、膜の洗浄までの運転時間を長くすることができる。さらに、モジュール内の偏流が生じにくいため、浸透効率を高めることができる点で有利である。
【0038】
複数の中空糸膜は、多孔分配管の周りに中空糸膜または中空糸膜の束を螺旋状に巻上げることによって、中空糸膜が半径方向に積層されることにより形成された中空糸膜巻上げ体であることが好ましい。中空糸膜巻上げ体では、中空糸膜は交差状に配置される場合もある。一般的に、交差配置を取ることにより、中空糸膜の交差部に空隙が規則的に形成される。この規則的な空隙が存在するため、中空糸膜の外側を流れる流体中の非溶解成分や粒子成分等が、中空糸膜間に捕捉されることが少なく、圧力損失の増大が生じにくくなる。
【0039】
中空糸膜巻上げ体は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、特許4412486号公報、特許4277147号公報、特許3591618号公報、特許3008886号公報などに記載されているように、中空糸膜を45~90本またはそれ以上を集めて1つの中空糸膜集合体とし、さらにこの中空糸膜集合体を複数横に並べて偏平な中空糸膜束として、多数の孔を有する有孔分配管にトラバースさせながら巻き付ける。このときの有孔分配管の長さおよび回転速度、中空糸膜束のトラバース速度を調節することによって、巻き上げ体の特定位置の周面上に交差部が形成するように巻き上げる。
【0040】
また、中空糸膜エレメント4は、例えば、中空糸膜および多孔分配管の両端を樹脂で封止した後、樹脂の一部を切断し中空糸膜の両端部を開口させることで製造できる。例えば、上記の中空糸膜巻上げ体を、長さと交差部の位置を調整し、所定の位置で切断し、この巻き上げ体の両端部を接着した後、両側を切削して、中空糸膜の両端に開口を有する中空糸膜エレメントを作製することができる。
【0041】
(コネクター)
主に図2図5を参照して、コネクター7は、互いに連通していない第1流路71および第2流路72を含む。
複数の中空糸膜エレメント4の間において、
複数の中空糸膜エレメント4の外流路21a同士は第1流路71を介して接続され、
複数の中空糸膜エレメント4の内流路22a同士は第2流路72を介して接続され、かつ、複数の中空糸膜41の中空部41aと内流路22aも第2流路72を介して連通している。
【0042】
図2図5において、第2流路72は、内流路22aを接続するための主流路(図2における横方向の流路)と、中空糸膜エレメント4の中空部41aと主流路とを連通させる分岐流路(図2における孔73を介する縦方向の流路)と、を有している。
【0043】
なお、濃縮されたフィード液(濃縮液)が流れる間隙1aの横断面における断面積、および、供給水が流れる二重芯管の外流路の横断面における断面積は、圧力容器の内径基準断面積のそれぞれ5~18%および4~15%が好ましく、より好ましくは、それぞれ7~15%および6~12%(例えば12%と10%)であり、縮流圧損を発生させない構造である。これにより、透過水量低下を発生させる圧力損失を低く抑えることができる。
【0044】
図1および図2を参照して、環状部材5は、コネクター7,8の外周面に嵌合されている。環状部材5と中空糸膜エレメント4とは、スナップ51によって結合されている。
スナップ51は、中空糸膜エレメント4と環状部材5とを可逆的に装脱着でき、かつ固定可能とするために、中空糸膜エレメント4の端部と環状部材5とを外周面上で嵌め合い状態で固定する部材である。嵌め合い状態とは、スナップ51の一方の端部の凸部が中空糸膜エレメント4の端部(樹脂壁6の側面)に設けられた凹部に嵌め込まれ、スナップ51の他方の端部の凸部が環状部材5の側面に設けられた凹部に嵌め込まれた状態であり、外すような力を外部より強制的に加えれば外れるが、自然脱落するような構成ではない(国際公開第2005/011850号参照)。
【0045】
また、環状部材5の凹部52を介して、中空糸膜41の中空部41aとコネクター7の第2流路72(孔73)とが連通されている。
【0046】
主に図1図6および図7を参照して、連結された複数の中空糸膜エレメント4の端部においては、コネクター8が用いられる。コネクター8は、複数の中空糸膜エレメント4の二重芯管2同士を接続するコネクター7とは別のコネクターであり、コネクター7の長さ方向の半分に相当する部材である。排出ポート10b側において、コネクター8の第2流路82(突出部84)は回収ポート11に接続されており、第1流路81は円環状のプラグ62で封止されている。供給ポート10a側において、コネクター8の第2流路82(突出部84)は、プラグ61で封止されており、第1流路81は供給ポート10aに連通している。なお、供給ポート10a側のコネクター8は、支持壁63によって支持されている。
【0047】
なお、図3図6および図7を参照して、溝71a,72a,81a,82a,84aには、Oリングが設置され、コネクター7,8と他の部材との接続部がシールされる。
また、図3図7においては、4つの第1流路71,81を有するコネクター7,8が示されているが、第1流路71,81の数は3つであってもよく、特に限定されない。
【0048】
コネクター7,8を構成する材料は特に限定されないが、例えば、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂などが挙げられる。
【0049】
コネクターは、5~40℃の海水中で使用されるため、部品が膨張すると他部品との嵌合が悪くなり、また収縮するとOリングシールが効かなくなるため、寸法変化率の小さい材料を用いることが好ましい。このため、寸法変化率に関係する吸水率、線膨張係数などが小さいことが好ましい。なお、既存の汎用樹脂材料の中で寸法変化率が比較的大きいポリアセタール(POM)よりも寸法変化率(吸水率、線膨張係数)が小さい材料を用いることがより好ましい。具体的には、材料の吸水率は0.22質量%以下であることが好ましい。材料の線膨張係数は11×10-5/℃以下であることが好ましい。
【0050】
また、コネクターは、最大で8年以上使用される場合があり、長期間に亘り強度を有する材料が好ましい。なお、発明者らの検討により長期使用しても破損し難いことが分かっているポリフェニレンエーテル(PPE)よりも、強度特性(引張強さ、曲げ強さ)が高い材料であることがより好ましい。具体的には、材料の引張強さは50MPa以上であることが好ましい。材料の曲げ強さは76MPa以上であることが好ましい。
【0051】
このような材料としては、特に、ポリフェニレンスルファイド(PPS)を好適に用いることができる。
【0052】
なお、環状部材5の構成材料も、コネクター7,8と同様の材料であることが好ましい。
【0053】
(中空糸膜モジュールの全体構成等)
複数の中空糸膜エレメント4の間において、圧力容器1の内壁の内側に長手方向に連通する空隙1aを有している(フィード液が隣り合う中空糸膜エレメント4の間で流通可能である)ことが好ましい。例えば、上述のスナップ51を用いて中空糸膜エレメント4同士を接続することにより、中空糸膜エレメント4と圧力容器1との間をOリング等でシールして中空糸膜エレメント4を固定する必要がないため、このような空隙1aを設けることが可能である。
【0054】
中空糸膜エレメントは、円柱状の形状を有することが好ましい。また、10~28cmの外径を有することが好ましい。また、1000~2000mmの全長を有することが好ましい。
【0055】
主に図1を参照して、所定の圧力を有するフィード液は、供給ポート10aから供給され、コネクター7の外流路21aを介して、孔21bから多孔分配管21の外側に流出し、中空糸膜41の外側42に供給される。中空糸膜41の外側42を中空糸膜エレメント4の径方向外側に流れて通過したフィード液は、空隙1aを介して排出ポート10bから外部に排出される。
これにより、中空糸膜41の外側42から中空糸膜41を透過して中空部41aに移動した水(透過水)は、中空糸膜41の両端の開口から流出する。さらに、透過水は、凹部52を通過して、コネクター7の孔73(分岐流路)を介して第2流路72(主流路)に流れ、内管22の内流路22aに流入する。その後、内流路22a内の透過水は、内管22が接続された回収ポート11から外部に取り出される。
【0056】
なお、図1においては、回収ポート11は中空糸膜エレメント4の長手方向の一端側に設けられているが、両端に設けられていてもよい。
【0057】
また、図1において、供給ポート10a、排出ポート10bおよび回収ポート11は、圧力容器1の両端部に設けられているが、このような形態に限定されず適宜変更することができ、例えば、外周部等に設けられていてもよい。
【0058】
本実施形態の中空糸膜モジュールによれば、複数の中空糸膜エレメント4の各々に対し、外流路21aを介して同じ濃度のフィード液が供給されるため、複数の中空糸膜エレメント4の全てにおいて逆浸透処理、正浸透処理等の膜処理の性能を有効に発揮させることができる。これにより、複数の中空糸膜エレメントを備える中空糸膜モジュールにおいて、全体の処理効率(例えば、造水効率)を向上させることができる。
【実施例
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(圧力損失の測定)
供給水タンク、高圧ポンプ、供給水圧力計、モジュール間差圧計、透過水流量計および濃縮水流量計を設置した試験設備に、中空糸膜モジュールを接続し、以下の測定条件で造水運転させた状態で、モジュール間差圧計にて測定を行った。測定条件は、供給水圧力5.39MPa、供給水濃度3.5重量%(塩化ナトリウム)、供給水温度25℃、回収率30%で実施した。なお、回収率は、透過水流量計の測定値を透過水と濃縮水の流量値の和で割り算した商を百分率に換算することで、算出した。
【0061】
(透水性能の測定)
上記試験設備に中空糸膜モジュールを接続し、上記の測定条件で造水運転させた状態で、透過水流量計にて測定を行った。
【0062】
(実施例1)
実施例1の中空糸膜モジュールは、圧力容器内に、コネクター(4つの第2流路を有する4つ孔型のコネクター:図3図7参照)を使用して連結された2本の中空糸膜エレメントを収納してなる中空糸膜モジュール(図1参照)である。なお、中空糸膜エレメントは、直径20cm、全長1016mmであり、図1に示されるような二重芯管を有し、二重芯管の外径は72mmである。
実施例1の中空糸膜モジュールを用いて、フィード液の圧力が5.39MPa、NaCl濃度が3.5質量%、温度が25℃である条件で、フィード液からの透過水の回収率が30質量%である逆浸透処理を実施した場合、中空糸膜モジュールの透水性能は35m/dayであり、圧力損失は16kPaであった。
【0063】
(実施例2)
実施例2の中空糸膜モジュールは、コネクターとして3つの第2流路を有する3つ孔型のコネクターを使用する点以外は、実施例1と同様の中空糸膜モジュールである。
実施例2の中空糸膜モジュールを用いて、実施例1と同様の条件で逆浸透処理を実施した場合、中空糸膜モジュールの透水性能は35m/dayであり、圧力損失は17kPaであった。
尚、この結果から、コネクターの第2流路の数が変わっても、性能は同程度に維持されることが分かる。
【0064】
(実施例3)
実施例3の中空糸膜モジュールは、実施例1と同様の圧力容器内に4本の中空糸膜エレメント(直径:20cm、全長:1,016mm)を収納する点以外は、実施例1と同様の中空糸膜モジュールである。
実施例3の中空糸膜モジュールを用いて、実施例1と同様の条件で逆浸透処理を実施した場合、中空糸膜モジュールの透水性能は69m/dayであり、圧力損失は17kPaであった。
尚、この透水性能は実施例1の透水性能の約2倍であり、3本以上の中空糸膜エレメントを連通させた中空糸膜モジュールにおいても十分な性能を発現できることが分かる。
【0065】
(実施例4)
実施例4の中空糸膜モジュールは、2本の中空糸膜エレメント(直径:28cm、全長:1400mm)を収納する点以外は、実施例1と同様の中空糸膜モジュールである。
実施例4の中空糸膜モジュールを用いて、実施例1と同様の条件で逆浸透処理を実施した場合、中空糸膜モジュールの透水性能は106m/dayであり、圧力損失は21kPaである。
【0066】
(比較例1)
比較例1の中空糸膜モジュールは、実施例4と同様の圧力容器内に、実施例4と同様の2本の中空糸膜エレメントを収納し、従来の連結部材を用いて連結してなる中空糸膜モジュールである。ここで用いた従来の連結部材は、連結される2つの中空糸膜エレメントの二重芯管同士を連通させることはできない。このため、各中空糸膜エレメントで独立にフィード液の供給および排出と透過水の回収が実施されるように、圧力容器のポートも変更されている。
比較例1の中空糸膜モジュールを用いて、実施例1と同様の条件で逆浸透処理を実施した場合、中空糸膜モジュールの透水性能は106m/dayであり、圧力損失は37kPaであった。
この結果から、実施例4と比較例1の透水性能が同じである場合、実施例4では比較例1よりも圧力損失が大きく低下することが分かる。このことから、実施例4の中空糸膜モジュールは比較例1よりも効率的に透水性能を発揮できることが分かる。すなわち、実施例4において、フィード液の圧力を上げれば当然、さらに高い透水性能を発揮できる。
【符号の説明】
【0067】
1 圧力容器、1a 空隙、10a 供給ポート、10b 排出ポート、11 回収ポート、13,14 壁部材、2 二重芯管、21 多孔分配管、21a 外流路、21b 孔、22 内管、22a 内流路、4 中空糸膜エレメント、41 中空糸膜、41a 中空部、42 中空糸膜の外側、5 環状部材、51 スナップ、52 凹部、6 樹脂壁、61,62 プラグ、63 支持壁、7,8 コネクター、71,81 第1流路、72,82 第2流路、73,83 孔、84 突出部、71a,72a,81a,82a,84a 溝。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7