(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】漏水量測定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 1/52 20060101AFI20240228BHJP
G01M 3/04 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
G01F1/52 B
G01M3/04 E
(21)【出願番号】P 2020028137
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】及川 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健一
(72)【発明者】
【氏名】柳川 敏治
(72)【発明者】
【氏名】入江 功四郎
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-044631(JP,A)
【文献】実開昭52-019280(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/52
G01F 1/002
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
漏水が導入される水槽と、
前記水槽の底に立設されるとともに、前記水槽内の漏水が越流する切欠き状の越流部が
形成される堰板と、
前記水槽内の漏水の水位を検出する水位センサと、
前記水槽を冷却する冷却装置と、を備え
、
前記冷却装置は、前記水槽が収容されるとともに、前記水槽の外側において冷却媒体が収容される冷却槽を有する
漏水量測定装置。
【請求項2】
前記水槽に接続され、前記水槽に前記漏水を導入する導水管を更に備え、
前記冷却装置が、
前記冷却槽に接続される冷却管を有し、
前記導水管の一部が前記冷却管内に配され、前記導水管の外側且つ前記冷却管の内側に
前記冷却媒体が収容される
請求項
1に記載の漏水量測定装置。
【請求項3】
制御部を更に備え、
前記冷却装置が、
前記冷却管に通じる排出口を有し、前記冷却媒体を保管する冷却媒体保管槽と、
前記排出口を開閉する開閉器と、
前記冷却槽の排出部を開閉するドレイン弁と、
前記水槽内の前記漏水の温度を検出する温度センサと、を有し、
前記温度センサによって検出された温度が所定閾値を超える場合に、前記制御部が前記
開閉器及び前記ドレイン弁を開き、前記開閉器及び前記ドレイン弁の開放時から所定時間
経過したら、前記制御部が前記開閉器及び前記ドレイン弁を閉じる
請求項
2に記載の漏水量測定装置。
【請求項4】
前記冷却媒体保管槽の底が前記排出口に向けて下りに傾斜している
請求項
3に記載の漏水量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム堤体の漏水量を測定する漏水量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム堤体の継ぎ目部等から漏水が生じるところ、漏水はダム堤体の安定性に密接な関係にある。そのため、漏水量はダム堤体の安全管理上最も重要な測定項目であり、漏水量の測定値は管轄官庁に報告することが義務づけられている。ダム堤体内部にはダム堤体の保守点検用の監査廊が設置されており、その監査廊には、三角堰方式の漏水量測定装置(例えば、特許文献1~3参照)が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-44631号公報
【文献】特開2014-178174号公報
【文献】特開2017-194292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、漏水中には、バクテリア及び溶存態金属等の不純物が含まれているため、不純物の付着物が漏水量測定装置の三角堰の切欠き状の越流部に形成されてしまう。このような付着物が発生した状態では、漏水量を正確に測定することができない。また、付着物の除去の為に定期的な清掃が必要であり、清掃頻度の削減が望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、三角堰等の堰板の越流部における付着物の発生を抑えられることが可能な漏水量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、漏水が導入される水槽と、前記水槽の底に立設されるとともに、前記水槽内の漏水が越流する切欠き状の越流部が形成される堰板と、前記水槽内の漏水の水位を検出する水位センサと、前記水槽を冷却する冷却装置と、を備え、前記冷却装置が、前記水槽が収容されるとともに、前記水槽の外側において冷却媒体が収容される冷却槽を有する、漏水量測定装置が提供される。
【0007】
以上によれば、水槽及びその内側の漏水が冷却装置によって冷却されるため、漏水中のバクテリアが非活性化し、バクテリアの繁殖及び代謝産物の生成が抑えられる。よって、越流部におけるバクテリア及びその代謝産物の付着物の発生を抑えることができる。
【0008】
好ましくは、前記漏水量測定装置が、前記水槽に接続され、前記水槽に前記漏水を導入する導水管を更に備え、前記冷却装置が、前記冷却槽に接続される冷却管を有し、前記導水管の一部が前記冷却管内に配され、前記導水管の外側且つ前記冷却管の内側に前記冷却媒体が収容される。
【0009】
以上によれば、漏水が水槽に導入される前に冷却されるため、越流部におけるバクテリア及びその代謝産物の付着物の発生の抑制効果が高い。
【0010】
好ましくは、前記漏水量測定装置が、制御部を更に備え、前記冷却装置が、前記冷却管に通じる排出口を有し、前記冷却媒体を保管する冷却媒体保管槽と、前記排出口を開閉する開閉器と、前記冷却槽の排出部を開閉するドレイン弁と、前記水槽内の前記漏水の温度を検出する温度センサと、を有し、前記温度センサによって検出された温度が所定閾値を超える場合に、前記制御部が前記開閉器及び前記ドレイン弁を開き、前記開閉器及び前記ドレイン弁の開放時から所定時間経過したら、前記制御部が前記開閉器及び前記ドレイン弁を閉じる。
【0011】
以上によれば、冷却槽内の冷却媒体の冷却効果の低下によって水槽内の漏水の温度が上昇すると、ドレイン弁が開くことによって、冷却槽内の冷却媒体が排出され、開閉器が開くことによって、冷却媒体保管槽内の冷却媒体が冷却槽に供給される。これにより、水槽内の漏水を引き続き冷却することができる。
【0012】
好ましくは、前記冷却媒体保管槽の底が前記排出口に向けて下りに傾斜している。
【0013】
以上によれば、ポンプ等の動力源が無くとも、冷却媒体保管槽内の冷却媒体が重力により自然に供給される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、漏水中のバクテリアを非活性化させることができ、漏水量測定装置の越流部におけるバクテリア及びその代謝産物の付着物の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】貯水池の深層の冷水を汲み上げるサイフォン原理の説明図である。
【
図4】水温と溶存態鉄の低減量との関係を示したグラフである。
【
図5】水温と溶存態マンガンの低減量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているところ、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0017】
図1は漏水量測定装置1の側面図であり、
図2は漏水量測定装置1の平面図である。
【0018】
漏水量測定装置1は、水槽10、堰板14、導水管20、冷却装置30、制御部90、水温センサ91及び水位センサ92を備える。冷却装置30は、冷却槽31、冷却管41、冷却媒体誘導管42、開閉器45、牽引材46、プーリー47、ウィンチ48、排出管51、ドレイン弁52及び温度センサ93を有する。
【0019】
水槽10は、長方形型の底板と、底板の上流側の短辺に立設された端板11と、底板の両方の長辺にそれぞれ立設された側板12,13とを有するとともに、上面が開放された直方体箱状に設けられている。水槽10は、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属材料からなる。
【0020】
上流側の端板11には導水管20が接続されている。ダム堤体からの漏水が導水管20に集められて、導水管20を通って水槽10に導入されて、水槽10に貯留される。導水管20には水温センサ91が設けられている。水温センサ91は、導水管20内の漏水の温度を検出して、検出温度を表す信号を制御部90に出力する。制御部90は、水温センサ91によって検出される温度をストレージに所定周期で記録したり、電気通信回線を介して管理サーバ等に所定周期で送信したりする。
【0021】
水槽10の下流側の端には、金属製の堰板14が底板の下流側の短辺に立設されている。この堰板14は水槽10の下流側の端板を構成しており、堰板14の高さは反対側の端板11及び側板12,13の高さよりも低い。堰板14の上縁の中央部には、三角形状に切り欠かれた越流部15が形成されている。水槽10内の漏水が越流部15を通って堰板14の外側に越流する。
【0022】
水槽10には、水槽10内の漏水の水位を検出する水圧式又はフロート式の水位センサ92が設けられている。水位センサ92は、水槽10内の漏水の水位を検出して、検出水位を表す信号を制御部90に出力する。制御部90は、水位センサ92によって検出される水位から漏水量(つまり、漏水の流量)を所定周期で算出する。そして、制御部90は、漏水量の算出の度に、漏水量をストレージに記録したり、電気通信回線を介して管理サーバ等に送信したりする。なお、水位センサ92が水槽10の上方に設けられてもよく、この場合、水位センサ92は水位センサ92から漏水の水面までの距離(その距離は水位に換算できる)を計測する超音波式、光学式又は電波式の測距計である。
【0023】
水槽10には温度センサ93が設けられている。温度センサ93は、水槽10内の漏水の温度を検出して、検出温度を表す信号を制御部90に出力する。制御部90は、温度センサ93によって検出された温度を監視する。
【0024】
水槽10は、上面が開放された直方体箱状の冷却槽31に収容されている。冷却槽31の上流側の端板32に冷却管41が接続されている。冷却槽31の下流側の端板33は堰板14と一体に形成されており、その端板33と堰板14が面一に設けられている。水槽10の高さは冷却槽31の高さよりも高い。
【0025】
冷却槽31には、雪、氷(特に小さな氷塊)、氷水又は冷水等の冷却媒体35が貯留される。堰板14、水槽10及びその内側の漏水が冷却媒体35によって冷却される。
【0026】
冷却槽31の一方の側板34の下部には、排出管51が接続されている。排出管51のうち冷却槽31に近位の部分には、電動式のドレイン弁52が設けられている。ドレイン弁52が開くと、冷却槽31内の冷却媒体35が排出管51を通って排出される。ドレイン弁52は制御部90によって制御される。
【0027】
冷却管41内には、導水管20の一部、具体的には導水管20のうち水槽10に近位な部分が収容されている。冷却管41には、冷却媒体35が貯留される。導水管20及びその内側の漏水が冷却媒体35によって冷却される。水温センサ91が冷却管41よりも上流側に設けられているため、水温センサ91によって検出される漏水の温度は冷却媒体35の影響を受けない。
【0028】
冷却管41と冷却媒体保管槽43の排出口44との間には冷却媒体誘導管42が連結されており、冷却管41が冷却媒体誘導管42を介して冷却媒体保管槽43の排出口44に通じている。冷却媒体保管槽43には、冷却媒体35が収容されている。冷却媒体保管槽43は断熱性及び保冷機能を有している。
【0029】
冷却媒体35は、ダム堤体の周辺の自然界から採取したものであることが好ましい。例えば、
図3に示すように、ダム堤体100によって堰き止められた貯水池102の深層の冷水がホース103を介してサイフォンの原理により冷却媒体保管槽43に供給されるものとしてもよい。このホース103の一端が貯水池102の深層にまで沈められており、ホース103が貯水池102からダム堤体100の上部及び監査廊101を経由して漏水量測定装置1の冷却媒体保管槽43まで引き回されている。
【0030】
冷却媒体保管槽43は傾けて設置されており、冷却媒体保管槽43の底は冷却媒体保管槽43の排出口44に向けて下りに傾斜している。冷却媒体誘導管42も冷却媒体保管槽43から冷却管41に向けて下りに傾斜している。
【0031】
排出口44には、その排出口44を開閉する鎧戸型の開閉器45が設けられている。開閉器45が牽引材46に連結され、その牽引材46がプーリー47によって電動式のウィンチ48に案内されている。牽引材46がウィンチ48に巻かれると、開閉器45が引き上げられて、排出口44が開放される。牽引材46がウィンチ48から繰り出されると、開閉器45が下降して、排出口44が閉塞される。ウィンチ48は制御部90によって制御される。
【0032】
以下に、漏水量測定装置1の動作について詳細に説明する。
ダム堤体からの漏水が導水管20を通って水槽10に供給され、水槽10内の漏水が越流部15を越流している際に、ドレイン弁52が閉じているとともに、開閉器45が閉じている。そのため、冷却槽31及び冷却管41内の冷却媒体35が排出されず、堰板14、水槽10、導水管20及びそれらの中の漏水が冷却される。特に、堰板14、水槽10及び導水管20が金属製であるため、内側の漏水が効率よく冷却される。それゆえ、漏水中のバクテリア(例えば鉄酸化細菌、マンガン酸化細菌)が非活性化し、バクテリアの繁殖及び代謝産物の生成が抑えられる。よって、越流部15における付着物の発生を抑えられる。これにより、越流部15の形状を一定に保つことができ、常に一定の精度で水槽10の水位を測定することができ、ダム堤体からの漏水量の測定精度を高めることできる。
【0033】
ドレイン弁52及び開閉器45が閉じた時から所定時間経過するまでは、制御部90がドレイン弁52及び開閉器45の閉じた状態を維持するため、ドレイン弁52及び開閉器45のハンチング(無駄に開閉すること)が起こらない。ドレイン弁52及び開閉器45が閉じた時から所定時間経過した後、制御部90が温度センサ93の検出温度を所定の閾値と比較する。この所定時間の設定値については変更可能である。
【0034】
温度センサ93の検出温度が所定閾値(例えば10℃)以下であれば、制御部90がドレイン弁52及び開閉器45の閉じた状態を維持する。所定閾値の設定値については変更光可能である。
ドレイン弁52及び開閉器45が閉じている際、漏水と冷却媒体35の間での熱交換により、冷却媒体35の冷却機能が時間の経過に伴って徐々に低下するとともに、漏水及び冷却媒体35の温度が徐々に上昇する。そして、温度センサ93によって検出される漏水の温度が所定の閾値を超えると、制御部90がその旨を認識して、ドレイン弁52を開く。更に、制御部90がウィンチ48を作動させて、開閉器45を開く。そうすると、冷却槽31及び冷却管41内の冷却媒体35が排出管51を通って排出される。更に、冷却媒体保管槽43内の冷却媒体35が冷却媒体誘導管42を通って冷却管41及び冷却槽31に供給される。これにより、水槽10内の漏水を引き続き冷却することができる。ここで、冷却媒体保管槽43の底及び冷却媒体誘導管42が傾斜しているため、ポンプ等の動力源が無くとも、冷却媒体35が重力により冷却管41及び冷却槽31に自然に供給される。
【0035】
制御部90が、上述のようなドレイン弁52及び開閉器45の開放時に計時を開始する。制御部90による計時中は、上述のように冷却媒体保管槽43内の冷却媒体35が冷却槽31に供給されている。そして、計時時間が所定値を超えると、制御部90がドレイン弁52を閉じる。更に、制御部90がウィンチ48を作動させて、開閉器45が閉じる。
【0036】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。以下、上記実施形態からの変更点について幾つか説明する。
【0037】
上記実施形態では、水槽10及びその内側の漏水が冷却媒体35によって冷却される。それに対して、ペルチェ素子又は電動式冷却装置(例えば、冷凍サイクルの蒸発器)が水槽10の外面に設けられ、ペルチェ素子又は電動式冷却装置によって水槽10が冷却されてもよい。
【0038】
上記実施形態では、越流部15が三角形状の切欠きであったが、四角形状の切欠きであってもよい。
【実施例】
【0039】
バクテリアによる水中の溶存態鉄又は溶存態マンガンの低減量が温度変化によりどの程度変化するのかを実験により調べた。その結果を
図4及び
図5に示す。
【0040】
図4に示すように、低温の試験区ほど溶存態マンガンの低減量が小さい。従って、低温の試験区ほど溶存態マンガンが酸化しづらく、バクテリアの活性が低いことが分かる。
【0041】
図5に示すように、10℃の試験区の溶存態鉄の低減量が15℃の試験区の溶存態鉄の低減量よりも大きいものの、低温の試験区ほど溶存態鉄の低減量が小さい。従って、低温の試験区ほど溶存態鉄が酸化しづらく、バクテリアの活性が低いことが分かる。
【0042】
以上のことから、水槽10及びその内側の漏水を冷却すれば、越流部15における付着物の発生を抑えられることが分かる。
【符号の説明】
【0043】
1…漏水量測定装置
10…水槽
14…堰板
15…越流部
30…冷却装置
31…冷却槽
35…冷却媒体
41…冷却管
43…冷却媒体保管槽
44…排出口
45…開閉器
52…ドレイン弁
90…制御部
92…水位センサ
93…温度センサ