(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】車載機器制御装置および車両制御システム
(51)【国際特許分類】
G06F 8/00 20180101AFI20240228BHJP
B60R 16/023 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
G06F8/00
B60R16/023 Z
(21)【出願番号】P 2020032215
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中矢 祐介
【審査官】▲はま▼中 信行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-270399(JP,A)
【文献】特開2010-237895(JP,A)
【文献】特開2006-193016(JP,A)
【文献】特開平04-207652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0028993(US,A1)
【文献】特開2017-147680(JP,A)
【文献】特開2014-113952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0201205(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 8/00- 8/38
B60R 16/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサ及び複数のデバイスを有する車両の車載機器制御装置であって、
前記センサからの出力が入力されるとともに、該センサからの出力に基づく制御信号を前記デバイスまたは前記車両内の車載ネットワークに出力する制御部を備え、
前記制御部は、ソフトウェア構成として、
ハードウェア抽象化機能とこれらのデバイスドライバを含むデバイスドライバ層と、
前記デバイスドライバ層の上位に設けられたミドルウェア層と、を有し、
前記ミドルウェア層は、
前記デバイスドライバまたは前記車載ネットワークと
通信パケットのやり取りをするための複数の
通信パケットポートと、
ルーティングモジュールとを備え、
前記ルーティングモジュールは、
前記
通信パケットポートの相互間の接続関係が定義された第1ルートモジュールと、
前記
通信パケットポートの相互間の接続関係および当該接続関係で示された接続の途中において前記センサから出力される通信データに対して実行される所定の処理が定義された加工用モジュールを含む第2ルートモジュールと、
前記第1ルートモジュールまたは第2ルートモジュールのどちらを選択するかが定義された選択モジュールとを含み、
前記第1ルートモジュールと第2ルートモジュールのうち、前記選択モジュールの示すルートモジュールにしたがって前記
通信パケットポート間の
通信パケットを転送させる、ことを特徴とする車載機器制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載機器制御装置において、
前記加工用モジュールは、
前記通信データに対してフィルタ処理をするフィルタモジュールと、
前記通信データの物理量を異なる物理量に変換させる変換モジュールと、
を含み、
前記所定の処理は、前記フィルタモジュールによるフィルタ処理と、前記変換モジュールによる物理量への変換処理とを含む、ことを特徴とする車載機器制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車載機器制御装置において、
前記制御部は、前記車両に複数設けられており、
前記複数の制御部を統括的に制御する中央コントローラを更に備え、
前記ルーティングモジュールは、前記通信データを前記中央コントローラに送信することなく、前記デバイスに出力させる通信経路を選択可能に構成されている、ことを特徴とする車載機器制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車載機器制御装置である第1車載制御装置が搭載された第1ECUと、
請求項1に記載の車載機器制御装置である第2車載制御装置が搭載された第2ECUを備え、
前記第1ECUの前記ルートモジュールは、前記複数の
通信パケットポートの接続関係の定義として、前記第1ECUの前記デバイスドライバから前記第1ECUのアプリケーション層を介さずに前記車載ネットワークに
通信パケットを伝送する定義を含み、
前記第2ECUの前記ルートモジュールは、前記複数の
通信パケットポートの接続関係の定義として、前記車載ネットワークから前記第2ECUのアプリケーション層を介さずに前記第2ECUの前記デバイスドライバに
通信パケットを伝送する定義を含み、
前記第1ECUに接続されたセンサの出力が、前記第1ECUのアプリケーション層および前記第2ECUのアプリケーション層を介さずに、前記第2ECUに接続されたデバイスに出力されるように構成されている
ことを特徴とする車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、車載機器制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年では、国家的に自動運転システムの開発が進められており、車両に備えられたアクチュエータのほぼ全てが電子制御されるようになっている。これらアクチュエータの制御を行う制御装置は、AUTOSAR(AUTomotive Open System ARchitecture)の規格に準拠するソフトウェア構造を有することが多い。
【0003】
例えば特許文献1には、ランタイム環境を介して接続された複数のAUTOSARソフトウェア要素を有するAUTOSARソフトウェアシステムに関し、AUTOSARソフトウェア要素をバイパスする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、AUTOSARのような階層的ソフトアーキテクチャにおいて、アプリケーションは、ペリフェラル毎のデバイスドライバが提供しているAPI(Application Programing Interface)を呼び出し、各I/Oとのやり取りを行う。
【0006】
ここで、例えば、あるECU(ここでは、第1ECUという)がI/Oを介してセンサ/スイッチから受信した通信データを、車載ネットワーク上にある他のECU(ここでは、第2ECUという)のI/Oに接続されたアクチュエータを動作させるために転送する場面を想定する。従来技術では、例えば、第1ECUにおいてセンサから受信した通信データを車載ネットワークを介して第2ECUに転送するために、そのデータの受け渡しに対するAPI(Application Programming Interface)を使うプログラムを作成する必要があった。また、第2ECUでは、車載ネットワークを介して第1ECUから受信した通信データをアクチュエータに送信するために、そのデータの出力に対するAPIを使うプログラムを作成する必要があった。
【0007】
車両に搭載される車載機器は膨大であり、このような接続関係のAPIを使うプログラムを各車載機器(センサ、スイッチ、アクチュエータを含む)に対して作成するとソフトウェアの開発工数が増加する。さらに、デバイスの接続先のポートが変わったり、デバイスのI/Oの信号形態ややりとりする情報の態様が変わった場合等に、アプリケーションのAPIの呼び出しに係るソースコードを変更する必要があるので、その点においてもソフトウェアの開発工数が増加する要因となる。
【0008】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ソフトウェアの開発工数を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、複数のセンサ及び複数のデバイスを有する車両の車載機器制御装置を対象として、前記センサからの出力が入力されるとともに、該センサからの出力に基づく制御信号を前記デバイスに出力する制御部を備え、前記制御部は、ソフトウェア構成として、ハードウェア抽象化機能とこれらのデバイスドライバを含むデバイスドライバ層と、前記デバイスドライバ層の上位に設けられたミドルウェア層と、を有し、前記ミドルウェア層は、前記センサから出力される通信データの種類に応じて、該通信データをそのまま出力するか、又は、該通信データに対して所定の処理を行って出力するかを選択するルーティングモジュールと、前記通信データに対して所定の処理を行う加工用モジュールと、を有し、前記ルーティングモジュールは、前記アプリケーション層を経由させることなく、前記通信データを前記デバイスドライバに出力させる機能を有する。
【0010】
この態様によると、ミドルウェア層に、センサのデータの扱いと受け渡しを一元的に規定したルーティングモジュール及び加工用モジュールを設けている。これにより、アプリケーション毎のデータ受け渡し用のAPI関数プログラムが不要になり、ソフトウェアの開発工数を大幅に低減することができる。
【0011】
上記車載機器制御装置において、前記制御部は、前記車両に複数設けられており、前記複数の制御部を統括的に制御する中央コントローラを更に備え、前記ルーティングモジュールは、前記通信データを前記中央コントローラに送信することなく、前記デバイスに出力させる通信経路を選択可能に構成されている。
【0012】
この態様によると、中央コントローラを介することなく、制御部間で処理を完結させることができる。これにより、中央コントローラの処理負担を軽減させることができる。また、中央コントローラと制御部との間で伝送させるデータ量を少なくすることができるので、通信の混雑を緩和させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、車載機器制御装置の処理速度を向上させることができる。また、ソフトウェア開発の工数を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3A】車載機器制御装置の構成例を示す図である。
【
図3B】車載機器制御装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
(車両制御システム)
図1は車両制御システムの構成例を示す図である。
図1の車両制御システムは、車両1に搭載されているおり、複数のゾーンECU40と、複数のゾーンECU40を統括する中央コントローラ10とを備える。
【0017】
ゾーンECU40は、そのゾーンECU40と同じゾーンに配置された車載機器20を接続することができるように構成されている。また、ゾーンECU40は、車内のネットワーク(以下、車載ネットワークCNWという)を介して伝送される情報を中継するネットワークハブ装置としての機能を有する。
【0018】
車載ネットワークCNWは、リング状のネットワークである。なお、車載ネットワークCNWの通信方式は特に限定されない。以下では、車載ネットワークCNWは、CAN(Controller Area Network)通信のプロトコルに準拠したネットワーク(以下、単にCANという)であるものとする。なお、車載ネットワークCNWが、イーサネット(登録商標)のプロトコル)に準拠したネットワーク等の他の通信方式であってもよい。以下の説明では、車載ネットワークCNWを構成するCANバスにLの符号を付して説明する。また、説明の便宜上、Lの符号の後に番号(1~7)を付している。CANバスを特に区別しない場合には、単にCANバスLという場合がある。
【0019】
複数のゾーンECU40は、車両1内に複数のゾーンを画定し、そのゾーン毎に配置されている。本実施形態では、車両1を6つのゾーンに分け、各ゾーンにゾーンECU40が設けられる。以下において、説明の便宜上、車両1の左側の左サイドゾーンに配置されたゾーンECU40を第1ゾーンECU41といい、車両1の左後側の左リアゾーンに配置されたゾーンECU40を第2ゾーンECU42ということがある。第1ゾーンECU41と第2ゾーンECU42と間はCANバスL2で接続されている。
【0020】
〈車載機器〉
車載機器20は、センサデバイス200及び信号受信デバイスを含む入力機器と、アクチュエータ300とを含む。センサデバイス200は、センサの一例であり、アクチュエータ300はデバイスの一例である。
【0021】
《センサデバイス、信号受信デバイス》
センサデバイス200は、例えば、(1)車両1のボディ等に設けられかつ車外環境を撮影する複数のカメラ201、(2)車両1のボディ等に設けられかつ車外の物標等を検知する複数のレーダ202、(3)全地球測位システム(Global Positioning System:GPS)を利用して、車両1の位置(車両位置情報)を検出する位置センサ(図示省略)、(4)車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等の車両の挙動を検出するセンサ類の出力から構成され車両1の状態を取得する車両状態センサ(図示省略)、(5)車内カメラ等により構成され、車両1の乗員の状態を取得する乗員状態センサ203、(6)運転者の運転操作を検出する運転操作センサ206、(7)キーレス装置を作動させるためのセンサ211(以下、キーレスセンサ211という)を含む。運転操作センサ206は、例えば、アクセル開度センサ、操舵角センサ、ブレーキ油圧センサなどを含む。キーレスセンサ211は、例えば、キーレスリモコン80からの開錠/施錠信号を受信する受信装置と、鍵を所持した運転者が近づいたり、ドアノブに触れたことを検知する人感センサが含まれる。また、センサデバイス200には、乗員による操作を検出するスイッチが含まれる。スイッチは、例えば、乗員が電動ドアを開閉するためのドア開閉スイッチ212、電動パワーウィンドウを動作させるためのスイッチ、ウォッシャーレベルスイッチ、フードスイッチ等を含む。
【0022】
信号受信デバイスは、例えば、外部のネットワークや、他車両からの信号を受信する受信装置が含まれる。
【0023】
《アクチュエータ》
アクチュエータ300は、駆動系のアクチュエータ、操舵系のアクチュエータ、制動系のアクチュエータなどを含む。駆動系のアクチュエータの例としては、エンジン、トランスミッション、モータが挙げられる。制動系のアクチュエータの例としては、ブレーキが挙げられる。操舵系のアクチュエータの例としては、ステアリングが挙げられる。また、アクチュエータ300は、例えば、サイドドアをロックするためのドアロック装置301、電動でドアを開閉させるドア開閉装置302、前照灯FLの点灯を制御する点灯制御装置310、エアバック装置311、音響装置312等を含む。
【0024】
〔中央コントローラ〕
図2に示すように、中央コントローラ10は、CPU100と、メモリ160と、接続部170とを備える。中央コントローラ10は、単一のIC(Integrated Circuit)により構成されてもよいし、複数のICにより構成されてもよい。
【0025】
中央コントローラ10は、車載ネットワークCNWを介して各ゾーンECU40と相互に通信できるように構成されている。前述のとおり、各ゾーンECU40には、車載機器20が接続される。すなわち、中央コントローラ10は、アクチュエータ300やセンサデバイス200等と電気的に接続される。そして、中央コントローラ10は、例えば、センサデバイス200により得られた情報に基づいてアクチュエータ300および車両制御システムの各部を制御する。
【0026】
〈CPU〉
CPU100は、メモリ160からプログラムを読み出して実行することにより各種の処理をおこなう。具体的には、例えば、センサデバイス200で検出された検出データを読み取ったり、諸機能を実現するために各種の演算処理を行ったり、アクチュエータ300を制御するための制御信号を生成して出力する。CPU450は、マイクロコンピュータ(いわゆるマイコン)で実現されていてもよいし、SoC(System-on-Chip)で実現されてもよい。
【0027】
-ハードウェア-
CPU100は、ハードウェアの構成として、メモリ160に格納されたプログラムにしたがって各種の演算処理を実行する演算処理部と、接続部170とを備える。
【0028】
接続部170は、複数の通信ポート(図示省略)を有し、車載ネットワークCNWを構成するCANバスが接続可能に構成されている。
図2の例では、接続部170には、第1ゾーンECU41と接続するためのCANバスL1と、左フロントゾーンに配置されたゾーンECU40と接続するためのCANバスL5と、右フロントゾーンに配置されたゾーンECU40と接続するためのCANバスL7と、右サイドゾーンに配置されたゾーンECU40と接続するためのCANバスL4が接続される。すなわち、中央コントローラ10は、車載ネットワークCNWにおいて、4つのゾーンECU40と接続される。接続部170は、ゾーンECU40との双方向通信のためのフロントエンド回路としての機能を有し、例えば、アナログ/デジタル変換回路やドライバ回路/レシーバ回路等が内蔵される。なお、中央コントローラ10に接続されるゾーンECU40の数は特に限定されない。
【0029】
-ソフトウェア-
CPU100は、ソフトウェアの構成として、最上位のアプリケーション層110と、アプリケーション層110の下位にあるランタイム環境140と、ランタイム環境140の下位にあるデバイスドライバ層150とを有する。CPU100は、いわゆるAUTOSARに準拠したソフトウェア構造を採用してもよい。この場合、アプリケーション層110は、AUTOSARのアプリケーション層に対応し、例えば、1または複数のSWC(Software Component)モジュールで構成される。ランタイム環境140は、AUTOSARのRTEに相当する。そして、デバイスドライバ層150は、AUTOSARのComplex Driver及びMCAL(Microcontroller Abstraction Layer)を含むBSW(Basic Software)に相当する。
【0030】
〈アプリケーション層〉
アプリケーション層110は、車載機器20に対する諸機能を実現するためのアプリケーション111が実装されている。アプリケーション111は、車外環境認識モジュール113と、運転操作認識モジュール114と、車両挙動推定モジュール115と、乗員状態推定モジュール116と、走行制御モジュール120とを含む。
【0031】
《車外環境認識モジュール》
車外環境認識モジュール113は、複数のカメラ201の出力と、複数のレーダ202の出力と、位置センサ(図示省略)の出力と、車外通信部(図示省略)の出力と、車両挙動推定モジュール115の出力に基づいて、車両の外部環境を認識する。車外環境認識モジュール113は、車外環境認識手段の一例である。
【0032】
例えば、車外環境認識モジュール113は、深層学習により生成された学習モデルを用いて、上記の出力から車両の外部環境を示す車外環境情報を生成する。深層学習では、多層ニューラルネットワーク(Deep Neural Network)が用いられる。多層ニューラルネットワークの例としては、CNN(Convolutional Neural Network)が挙げられる。
【0033】
具体的には、車外環境認識モジュール113は、カメラ201により得られた画像に対して画像処理を行うことで、走行路などの車両が移動可能な領域を表す二次元マップデータを生成する。また、車外環境認識モジュール113は、レーダ202の検出結果に基づいて、車両の周辺に存在する物体に関する情報である物体情報を取得する。車外環境認識モジュール113は、前記物体情報を基に、車両の周辺に存在する物体のうち車両の走行及び停車をする過程において障害となり得る路上障害物を認識する。物体の例としては、時間経過により変位する動体と、時間経過により変位しない静止体とが挙げられる。動体の例としては、自動四輪車、自動二輪車、自転車、歩行者などが挙げられる。静止体の例としては、標識、街路樹、中央分離帯、センターポール、建物などが挙げられる。また、物体情報には、物体の位置座標、物体の速度などが含まれる。尚、車外環境認識モジュール113は、レーダ202の検出結果に加えて又は代えてカメラ201により得られた画像に基づいて物体情報を取得してもよい。そして、車外環境認識モジュール113は、二次元マップデータと物体情報とを統合することで、車外環境を表す統合マップデータ(三次元マップデータ)を生成する。二次元マップデータ、物体情報、統合マップデータは、車外環境情報の一例である。
【0034】
《運転操作認識モジュール》
運転操作認識モジュール114は、運転操作センサ206の出力に基づいて車両に加えられる運転操作を認識する。例えば、運転操作認識モジュール114は、深層学習により生成された学習モデルを用いて、運転操作センサ206の出力から車両に加えられる運転操作を示すデータを生成する。
【0035】
《車両挙動推定モジュール》
車両挙動推定モジュール115は、車両状態センサ(図示省略)の出力に基づいて車両の挙動(例えば速度や加速度やヨーレートなど)を推定する。例えば、車両挙動推定モジュール115は、深層学習により生成された学習モデルを用いて、車両状態センサの出力から車両の挙動を示すデータを生成する。
【0036】
例えば、車両挙動推定モジュール115において用いられる学習モデルは、車両6軸モデルである。車両6軸モデルは、走行中の車両の「前後」「左右」「上下」の3軸方向の加速度と「ピッチ」「ロール」「ヨー」の3軸方向の角速度とをモデル化したものである。すなわち、車両6軸モデルは、車両の動きを古典的な車両運動工学的な平面上のみ(車両の前後左右(X-Y移動)とヨー運動(Z軸)のみ)で捉えるのではなく、4つの車輪にサスペンションを介して乗っている車体のピッチング(Y軸)およびロール(X軸)運動とZ軸の移動(車体の上下動)の、合計6軸を用いて車両の挙動を再現する数値モデルである。
【0037】
《乗員状態推定モジュール》
乗員状態推定モジュール116は、乗員状態センサ203の出力に基づいて運転者の状態(例えば運転者の健康状態や感情や姿勢など)を推定する。例えば、乗員状態推定モジュール116は、深層学習により生成された学習モデルを用いて、乗員状態センサの出力から運転者の挙動を示すデータを生成する。そして、乗員状態推定モジュール116は、例えば、運転者の体調異常を検出する。
【0038】
《走行制御モジュール》
走行制御モジュール120は、車外環境認識モジュール113の出力と、運転操作認識モジュール114の出力と、車両挙動推定モジュール115の出力と、乗員状態推定モジュール116の出力とに基づいて、各ゾーンECU40に対して、アクチュエータ300を制御するための制御信号を出力する。走行制御モジュール120は、経路生成モジュール121と、経路決定モジュール122と、車両運動決定モジュール123と、アクチュエータ制御モジュールとを有する。
【0039】
《経路生成モジュール》
経路生成モジュール121は、車外環境認識モジュール113の出力に基づいて、車両の走行目標となる目標位置に車両を走行させるための1または複数の候補経路を生成する。候補経路は、車両が走行可能な経路であり、目標経路の候補である。候補経路には、例えば、車外環境認識モジュール113により認識された路上障害物を回避する走行経路が含まれる。
【0040】
例えば、経路生成モジュール121は、ステートラティス法を用いて候補経路を生成する。具体的な図示は省略するが、経路生成モジュール121は、車外環境認識モジュール113により認識された走行路上に多数のグリッド点からなるグリッド領域を設定し、車両の進行方向へ向けて複数のグリッド点を順に連結することで多数の走行経路を設定する。また、経路生成モジュール121は、複数の走行経路の各々に経路コストを付与する。例えば、走行経路における車両の安全性が高くなるにつれて、その走行経路に付与される経路コストが小さくなる。そして、経路生成モジュール121は、複数の走行経路の各々に付与された経路コストに基づいて、複数の走行経路の中から1または複数の走行経路を候補経路として選択する。
【0041】
また、経路生成モジュール121は、運転者の体調異常が検出された場合のような緊急時における退避走行制御では、車両を緊急停車させる停車位置を探索して目標位置に設定し、停車位置までの退避経路を生成する。
【0042】
《経路決定モジュール》
経路決定モジュール122は、車外環境認識モジュール113の出力、運転操作認識モジュール114の出力、乗員状態推定モジュール116の出力の少なくとも1つに基づいて、経路生成モジュール121により生成された1または複数の候補経路の中から目標経路となる候補経路を選択する。例えば、経路決定モジュール122は、運転者が正常な状態(通常走行状態)において、複数の候補経路のうち運転者が最も快適であると感じる候補経路を選択する。
【0043】
また、経路決定モジュール122は、運転者の体調異常が検出された場合のような緊急時における退避走行制御では、経路生成モジュール121により生成された退避経路を目標経路として選択する。
【0044】
《車両運動決定モジュール》
車両運動決定モジュール123は、経路決定モジュール122により目標経路として選択された候補経路に基づいて目標運動を決定する。この目標運動は、目標経路に追従して走行するために必要となる車両の運動のことである。この例では、車両運動決定モジュール123は、目標運動を達成するための駆動力と制動力と操舵量である目標駆動力と目標制動力と目標操舵量をそれぞれ導出する。例えば、車両運動決定モジュール123は、車両6軸モデルに基づいて目標経路における車両の動きを演算し、その演算結果に基づいて目標運動を決定する。
【0045】
《アクチュエータ制御モジュール》
アクチュエータ制御モジュールは、車両運動決定モジュール123により決定された目標運動に基づいてアクチュエータ300を制御するための制御信号を生成して、ランタイム環境140に出力する。アクチュエータ制御モジュールは、PT制御モジュール124と、ブレーキ制御モジュール125と、操舵制御モジュール126とを有する。PT制御モジュール124は、目標駆動力を示す駆動指令値を駆動系のアクチュエータに送信する。ブレーキ制御モジュール125は、目標制動力を示す制動指令値を制動系のアクチュエータに送信する。操舵制御モジュール126は、目標操舵量を示す操舵指令値を操舵系のアクチュエータに送信する。
【0046】
〈ランタイム環境〉
ランタイム環境は、アプリケーション111とデバイスドライバ層150に実装されたソフトウェアとを抽象化して接続するように構成される。ランタイム環境は、周知構成のものを用いることができる。
【0047】
〈デバイスドライバ層〉
デバイスドライバ層150には、例えば、オペレーティングシステムや、デバイスドライバが実装される。デバイスドライバは、車載ネットワークCNWの通信プロトコルに準拠した通信ドライバ(図示省略)を含む。例えば、車載ネットワークがCANの場合、通信ドライバとしてCANドライバを設ける。デバイスドライバ層150に実装されるソフトウェアは、周知構成のものを用いることができる。
【0048】
-メモリ-
メモリ160は、記憶領域として、CPU100を動作させるためのプログラムが記憶されたコード領域と、CPU100での処理結果等のデータを記憶する書き換え可能なデータ領域とを備える。具体的に、コード領域には、前述のアプリケーション111、ランタイム環境、オペレーティングシステム及びデバイスドライバを動作させるためのプログラムが格納されている。なお、後述するゾーンECU40のメモリ460のように、メモリ160のデータ領域にマッピングテーブルを設けて、データ領域のデータを変更することによりアプリケーション111とデバイスドライバとの間の通信経路を変更できるようにしてもよい。
【0049】
〔車載機器制御装置〕
車載機器制御装置400は、1または複数のゾーンECU40に搭載される。すなわち、車載機器制御装置400は、すべてのゾーンECU40に搭載されてもよいし、複数のゾーンECU40のうちの一部のゾーンECU40に搭載されてもよい。また、車載機器制御装置400が、ゾーンECU40の下位に接続された、各アクチュエータ専用に設けられた専用ECU(図示省略)に搭載されてもよい。専用ECUは、例えば、エンジンを駆動するためのエンジン駆動用ECUが例示される。中央コントローラ10及び各ECUは、単一のIC(Integrated Circuit)により構成されてもよいし、複数のICにより構成されてもよい。
【0050】
図3A及び
図3Bは、車載機器制御装置400の構成例を示すブロック図である。車載機器制御装置400は、例えば、CPU450(プロセッサ)とメモリ460とにより構成される。本実施形態では、
図3Aの車載機器制御装置400は第1ゾーンECU41に搭載され、
図3Bの車載機器制御装置400は第2ゾーンECU42に搭載されているものとする。なお、以下の説明において、
図3A及び
図3Bにおいて、共通の構成について共通の符号を付しており、重複する説明や個別の説明を省略する場合がある。また、
図3Aと
図3Bとを区別して説明しない場合に、単に
図3と呼ぶことがある。
【0051】
〈CPU〉
図3A及び
図3Bに共通して、CPU450は、メモリ460からプログラム462を読み出して実行することにより各種の処理をおこなう。具体的に、CPU450は、例えば、センサデバイス200で検出された検出データを読み取ったり、諸機能を実現するために各種の演算処理を行ったり、アクチュエータ300を制御するための制御信号を生成して出力する。CPU450は、制御部の一例である。なお、CPU450の具体的な態様は、特に限定されない。例えば、マイクロコンピュータ(いわゆるマイコン)で実現されていてもよいし、SoC(System-on-Chip)で実現されてもよい。
【0052】
《ハードウェア》
図3A及び
図3Bに共通して、CPU450は、ハードウェアの構成として、メモリ460に格納されたプログラムにしたがって各種の演算処理を実行する演算部と、ペリフェラル機能ユニット480とを備える。ここでいうペリフェラルとは、中央コントローラ10及び/またはゾーンECU40と組み合わせて利用される車載機器20を指すものとする。
【0053】
ペリフェラル機能ユニット480は、ペリフェラル、すなわち、車載機器20を機能させるための1または複数のペリフェラル機能部481を備える。
図3に示すように、ペリフェラル機能部481には、例えば、アナログデジタルコンバータ481a(以下、ADC481aという)、デジタル入力部481b、デジタル出力部481c及びPWM制御部481dが含まれる。なお、ペリフェラル機能部481として、
図3の構成481a~481dの一部が搭載されてもよいし、他の構成が含まれていてもよい。なお、以下において、ADC481a、デジタル入力部481b、デジタル出力部481c及びPWM制御部481dの各ペリフェラル機能を特に区別しないで説明する場合、単にペリフェラル機能部481と記載する。
【0054】
ペリフェラル機能部481は、それぞれ、複数のチャネルを有する。各チャネルには、車載機器20の入出力部(例えば、I/O接続用のコネクタ)が接続できるように構成されている。
図3では、上記チャネルとして、ADC481aに入力用のチャネルCHa1,CHa2が、デジタル入力部481bに入力用のチャネルCHb1,CHb2が、デジタル出力部481cに出力用のチャネルCHc1,CHc2が、PWM制御部481dに出力用のチャネルCHc1,CHc2が、それぞれ設けられている例を示している。なお、チャネル数は、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。また、単一のペリフェラル機能部481に、入力用及び出力用の両方のチャネルが設けられていてもよい。
【0055】
《ソフトウェア》
図3Bに示すように、第2ゾーンECU42のCPU450は、ソフトウェアの構成として、アプリケーション層420と、ミドルウェア層430と、デバイスドライバ層440とを有する。
図3Aに示すように、第1ゾーンECU41のCPU450は、第2ゾーンECU42のCPU450から、アプリケーション層420を省いた構成となっている。すなわち、第1ゾーンECU41のCPU450は、ミドルウェア層430と、デバイスドライバ層440とを有する。
【0056】
図3A及び
図3Bに共通して、CPU450は、いわゆるAUTOSARに準拠したソフトウェア構造を採用してもよい。この場合、
図3Bのアプリケーション層420は、AUTOSARのアプリケーション層に対応し、例えば、1または複数のSWC(Software Component)モジュールで構成される。また、
図3A及び
図3Bに共通して、デバイスドライバ層440及びミドルウェア層430は、AUTOSARのBSW(Basic Software)に相当し、デバイスドライバ層440はAUTOSARのMCAL(Microcontroller Abstraction Layer)に相当する。なお、ミドルウェア層をComplex Driverとして実装してもよい。
【0057】
図3Bの第2ゾーンECU42において、アプリケーション層420には、車載機器20に対する諸機能を実現するためのアプリケーション421が実装される。アプリケーション421には、周知構成のものが採用できる。アプリケーション421の具体例について、後ほど説明する。
【0058】
図3A及び
図3Bに共通して、デバイスドライバ層440には、ミドルウェア層430で処理されるソフトウェアのコマンドをハードウェア用のコマンドに変換するデバイスドライバユニット441が実装される。
【0059】
デバイスドライバユニット441には、ペリフェラル機能ユニット480に含まれるペリフェラル機能部481毎のデバイスドライバが実装される。前述のとおり、
図3の例では、ペリフェラル機能部481として、ADC481a、デジタル入力部481b、デジタル出力部481c及びPWM制御部481dが含まれる。そこで、デバイスドライバユニット441には、ADC481aのためのデバイスドライバであるADCドライバ441aと、デジタル入力部481b及びデジタル出力部481cのためのデバイスドライバであるDIOドライバ441bと、及びPWM制御部481dのためのデバイスドライバであるPWMドライバ441dとが含まれる。すなわち、ADCドライバ441aはADC481aに接続され、DIOドライバ441bはデジタル入力部481b及びデジタル出力部481cに接続され、PWMドライバ441dはPWM制御部481dに接続される。
【0060】
また、デバイスドライバユニット441には、車載ネットワークCNWと接続するための通信ドライバ441eが含まれる。通信ドライバ441eは、車載ネットワークCNWの通信プロトコルに準拠したものとなる。例えば、車載ネットワークがCANの場合、通信ドライバ441eとしてCANドライバを設ける。なお、本開示の技術が適用できる車載ネットワークの通信プロトコルは、CANに限定されず、例えば、イーサネット等の他の通信プロトコルであってもよい。
【0061】
デバイスドライバは、ハードウェア依存性のあるソフトウェアである。一般的に、デバイスドライバ層440には、ハードウェアに依存しないソフトウェア(例えば、オペレーティングシステム等)も実装されるが、本願発明との関連性が低いので、本実施形態では、図示及び説明を省略している。
【0062】
図3A及び
図3Bに共通して、ミドルウェア層430は、アプリケーション421とデータをやり取りするための1または複数の第1通信パケット431と、デバイスドライバとデータをやり取りするための1または複数の第2通信パケット432と、車載ネットワークとデータをやり取りするための外部通信パケット433と含むルーティングモジュール434が実装される。
【0063】
図3の例では、第1通信パケット431として、IO_1,IO_2,…IO_X(Xは自然数)が実装されている。第2通信パケット432として、(1)ADCドライバ441aとデータをやり取りするためのADC_1,ADC_2,…ADC_L(Lは自然数)、(2)DIOドライバ441bとデータをやり取りするためのDI_1,DI_2,…DI_M(Mは自然数)及びDO_1,DO_2,…DO_N(Nは自然数)、(3)PWMドライバ441dとデータをやり取りするためのPWM_1,PWM_2,…PWN_Q(Qは自然数)が実装されている。外部通信パケット433として、SIG_A,SIG_Bが実装されている。
【0064】
ここで、外部通信パケット433は、車載ネットワークにデータを転送するために、車載ネットワークCNWに適合するようなパケット構成になっている。例えば、車載ネットワークCNWがCANの場合、通信パケットSIG_A,SIG_Bは、通信ドライバ441eを介して、他のゾーンECU40や中央コントローラ10との間で、CAN通信プロトコルに準拠した通信ができるように構成されている。より具体的には、通信パケットSIG_A,SIG_Bには、例えば、CAN通信の「標準フォーマット」または「拡張フォーマット」のデータフレームを作成するために、センサデバイス200から取得したデータのサイズ調整処理や、形式変換等のデータ加工処理が施されて格納される。また、通信パケットSIG_A,SIG_Bでは、CANバスLを介して信号を受信した場合に、そのデータフレームから、アクチュエータ300を動作させるために必要な情報を取り出すデータ取得処理をして、通信パケットIOに伝送する。上記のサイズ調整処理、データ加工処理及び/又はデータ取得処理は、それぞれ、例えば、コード領域461で定義されていてもよいし、データ領域465において、書き換え可能な形式等で保存されていてもよい。
【0065】
また、具体的に図示はしないが、
図3では、以下の接続関係がある。通信パケットADC_1はADC481aのチャネルCHa1に、通信パケットADC_2はADC481aのチャネルCHa2にそれぞれ接続される。通信パケットDI_1はデジタル入力部481bのチャネルCHb1に、通信パケットDI_2はデジタル入力部481bのチャネルCHb2にそれぞれ接続される。通信パケットDO_1はデジタル出力部481cのチャネルCHc1に、通信パケットDO_2はデジタル出力部481cのチャネルCHc2にそれぞれ接続される。通信パケットPWM_1はPWM制御部481dのチャネルCHd1に、通信パケットPWM_2はPWM制御部481dのチャネルCHd2にそれぞれ接続される。
【0066】
ルーティングモジュール434は、メモリ460に格納された、第1ルートモジュール466と第2ルートモジュール467のうち、選択モジュール468で選択されたモジュールのマッピングモジュールに基づいて、ルーティングモジュール434内の通信パケット同士の通信経路を生成する。個別の通信経路の生成例については、後ほど説明する。
【0067】
なお、図示しないが、
図3Bのミドルウェア層430において、アプリケーション層420とルーティングモジュール434との間に、ランタイム環境(RTE)が実装されていてもよい。ランタイム環境は、アプリケーション421とデバイスドライバ層440に実装されたソフトウェアとを抽象化して接続するように構成される。
【0068】
〈メモリ〉
図3A及び
図3Bに共通して、メモリ460は、記憶領域として、CPU450を動作させるためのプログラム462が記憶されたコード領域461と、CPU450での処理結果及び第1ルートモジュール466、第2ルートモジュール467及び選択モジュール468等のデータが記憶された書き換え可能なデータ領域465とを備える。
【0069】
《コード領域》
コード領域には、例えば、車載機器制御装置400の設計段階において、あらかじめ作成されたプログラム462がコンパイルされて実装されている。例えば、
図3Aのケースにおいて、第1ゾーンECU41のコード領域461には、ルーティングモジュール434の基本的な枠組みや、デバイスドライバユニット441の各ドライバを構成するプログラム462が格納されている。例えば、
図3Bのケースにおいて、第2ゾーンECU42のコード領域461には、第2ゾーンECU42のアプリケーション421を動作させるためのプログラム462が格納されている。また、第2ゾーンECU42のプログラム462として、第1ゾーンECU41のコード領域461と同様のプログラムが格納されている。
【0070】
《データ領域》
前述のとおり、データ領域465には、第1ルートモジュール466、第2ルートモジュール467及び選択モジュール468を含むデータが格納されている。
【0071】
第1ルートモジュール466は、第1通信パケット431、第2通信パケット432及び/又は外部通信パケット433の相互間の接続関係を規定するモジュールである。
図3A及び
図3Bの例において、第1ルートモジュール466は、センサデバイス200から出力された通信データをそのまま通信ドライバ441eに出力するモジュールである。具体的には、第1ルートモジュール466は、第1通信パケット431、第2通信パケット432及び/又は外部通信パケット433の相互間の接続関係を規定するマッピングモジュール466aを含む。
【0072】
第2ルートモジュール467は、第1通信パケット431、第2通信パケット432及び/又は外部通信パケット433の相互間の接続関係を規定するモジュールである。また、
図3A及び
図3Bの例において、第2ルートモジュール467は、センサデバイス200から出力された通信データに対して所定の処理を行って出力する。所定の処理の内容は、特に限定されない。例えば、所定の処理には、通信データに対するフィルタ処理、通信データの物理量を異なる物理量に変換する物理量変換処理が含まれる。所定の処理は、データ領域465に格納された加工用モジュールで実行される。
図3A及び
図3Bの例では、上記の加工用モジュールとして、物理量変換モジュール467bと、フィルタモジュール467cとを備える例を示す。
【0073】
物理量変換モジュール467bは、マッピングモジュール467aで生成された通信経路を伝送されるデータに含まれる物理量データを物理量変換ルールに従って変換する。
図3Aの例では、物理量変換モジュール467bは、通信パケットADC_1と通信パケットIO_1との間で伝送されるデータについての物理量を変換する。また、通信パケットDI_2と通信パケットIO_2との間で伝送されるデータについては、物理量の変換を行わない。物理量変換モジュール467bの適用方法は、特に限定されないが、例えば、
図3Aに示すように、マッピングモジュール467aから物理量変換モジュール467bに通信データを渡して、その通信データに含まれる物理量データに対して物理量変換モジュール467b内の物理量変換ルールに従った演算が適用される。
【0074】
フィルタモジュール467cは、マッピングモジュール467aで生成された通信経路を伝送される通信データに対して所定のフィルタ処理を実行する。フィルタ処理の内容は、特に限定されないが、フィルタ処理として、例えば、所定の周波数範囲や、所定の条件を満たすノイズを除去するノイズ除去処理、信号の間引き処理等が含まれる。
【0075】
また、第2ルートモジュール467は、第1通信パケット431、第2通信パケット432及び/又は外部通信パケット433の相互間の接続関係を規定するマッピングモジュール467aを含む。マッピングモジュール467aでは、上記の接続関係の規定に加えて、加工用モジュールを通過させる通信データを規定する機能を有する。個別の通信経路の生成例及び加工用モジュールを含めた動作については、以下の「車載機器制御装置の動作例」で説明する。なお、フィルタモジュール467cの適用方法は、特に限定されないが、例えば、
図3Aに示すように、物理量変換モジュール467bからフィルタモジュール467cに通信データを渡して、その通信データに対してフィルタ処理を実行してもよいし、マッピングモジュール467aからフィルタモジュール467cに対して通信データを渡すようにしてもよい。フィルタモジュール467cでは、フィルタモジュール467c内のフィルタリングルールに従った演算が適用される。
【0076】
〔車載機器制御装置の動作例〕
次に、
図3A及び
図3Bを用いて、車載機器制御装置400の動作の一例を説明する。前述のとおり、
図3Aの車載機器制御装置400は第1ゾーンECU41に搭載され、
図3Bの車載機器制御装置400は第2ゾーンECU42に搭載されているものとする。
【0077】
なお、本動作例において、第1ゾーンECU41の通信パケットSIG_Aは、車載ネットワークCNWを介して、中央コントローラ10との間で通信パケットを送受信できるように構成されている。第1ゾーンECU41の通信パケットSIG_Bは、車載ネットワークCNWを介して、第2ゾーンECU42の通信パケットSIG_Aとの間で通信パケットを送受信できるように構成されている。なお、通信パケットSIG_A、SIG_Bを用いた双方向通信(相互間のデータの送受信)については、周知技術が適用できる。具体的に、例えば、車載ネットワークをCAN通信とする場合、データの有無にかかわらず通信パケットを周期的に送信すること、または、所定のトリガに応じて通信パケットを送信することが行われる。上記の通信パケットSIG_A、SIG_Bは、その両方に対応することができ、そのようなパケット通信に対応した構成になっている。
【0078】
また、本動作例では、第1ゾーンECU41は、カメラ201及びキーレスセンサ211の出力は、使用しない。したがって、第1ゾーンECU41のコード領域461には、カメラ201及びキーレスセンサ211に基づいたアクチュエータ300の制御に関する処理が含まれていない。また、第2ゾーンECU42のコード領域461には、ドアロック装置301に関する処理は含まれていない。
【0079】
第1ゾーンECU41には、主に車両1の左サイドゾーンに配置されたセンサデバイス200及びアクチュエータ300が接続される。
図1では、第1ゾーンECU41に、車両左側を撮像するカメラ201、キーレスセンサ211及びドア開閉スイッチ212、エアバック装置311及び音響装置312が接続された例を示している。
図3Aに示すように、カメラ201はADC481aのチャネルCHa1に接続され、キーレスセンサ211はデジタル入力部481bのチャネルCHa2に接続される。
図3Aでは、ドア開閉スイッチ212、エアバック装置311及び音響装置312の図示を省略している。
【0080】
第2ゾーンECU42には、主に車両1の左リアゾーンに配置されたセンサデバイス200及びアクチュエータ300が接続される。
図1では、第2ゾーンECU42に、車両左後方の障害物を検出するためのレーダ202、左サイドドアをロックするためのドアロック装置301、左サイドドアを自動で開閉させるためのドア開閉装置302及び音響装置312が接続された例を示している。
図3Bに示すように、ドアロック装置301はデジタル出力部481cのチャネルCHc1に接続され、ドア開閉装置302はPWM制御部481dのチャネルCHd1に接続されている。
図3Bでは、レーダ202及び音響装置312の図示を省略している。
【0081】
まず、
図3Aの第1ゾーンECU41において、カメラ201で撮影された画像の処理について説明する。カメラ201で撮影された画像信号がADC481aに受信されると、その画像信号は、ADCドライバ441aを介して、通信パケットADC_1としてルーティングモジュール434に送信される。第1ゾーンECU41の選択モジュール468では、第2ルートモジュール467が選択されている。したがって、第1ゾーンECU41では、ルーティングモジュール434として、第2ルートモジュール467のマッピングモジュール467aが適用される。
【0082】
第1ゾーンECU41のマッピングモジュール467aにおいて、通信パケットADC_1は、フィルタモジュール467cに送信され、所定のフィルタ処理が実行される。通信パケットADC_1は、フィルタ処理の後、物理量変換モジュール467bに送信され、物理量変換ルールに基づく変換処理が実行される。ここでは、例えば、物理量変換モジュール467bに物理量変換ルールとして、「D×2-1」の演算式が格納されているとする。そうすると、物理量変換モジュール467bでは、通信パケットADC_1に含まれる物理量に対して「D×2-1」の変換演算が実行される。変換演算の結果は、通信パケットIO_1を介して通信パケットSIG_Aに送信される。前述のとおり、第1ゾーンECU41の通信パケットSIG_Aは、通信ドライバ441eを介して中央コントローラ10の接続部170に送信される。そして、中央コントローラ10では、第1ゾーンECU41から受信したカメラ201の画像情報が、車外環境認識モジュール113に入力されて、前述の車外環境情報の生成に用いられる。なお、例えば、
図3Aの構成において、カメラ201から出力された画像信号をそのまま中央コントローラ10に送信したい場合には、選択モジュール468において、第1ルートモジュール466を選択するようにするとよい。このように、選択モジュール468において、適用対象とするルートモジュールを変更することにより、所定の加工処理を実行するか否かを選択することができる。これにより、コード領域の変更なしに、データの加工をするか否かを選択することができるので、ソフトウェアの開発工数を大幅に低減することができる。
【0083】
次に、
図3Aの第1ゾーンECU41において、キーレスセンサ211の読み出し処理について説明する。キーレスセンサ211からの検出信号がチャネルCHb2から受信されると、検出信号は、デジタル入力部481b及びDIOドライバ441bを介して、通信パケットDI_2としてルーティングモジュール434に送信される。ルーティングモジュール434では、第2ルートモジュール467のマッピングモジュール467aが適用される。
【0084】
マッピングモジュール467aにおいて、通信パケットDI_2は通信パケットIO_2に送信される。そして、通信パケットIO_2は、通信パケットSIG_Bに送信される。前述のとおり、第1ゾーンECU41の通信パケットSIG_Bは、通信ドライバ441eを介して第2ゾーンECU42の通信パケットSIG_Aにデータを送信するように構成されている。
【0085】
このようにして、第1ゾーンECU41にアプリケーションを設けなくても、カメラ201で撮影された画像信号は中央コントローラ10に送信され、キーレスセンサ211の検出信号は第2ゾーンECU42に送信される。
【0086】
図3Bの第2ゾーンECU42において、第1ゾーンECU41からキーレスセンサ211の検出信号を受信すると、その受信信号は、通信ドライバ441eを介して通信パケットSIG_Aに格納される。第2ゾーンECU42の選択モジュール468では、第1ルートモジュール466が選択されている。したがって、第2ゾーンECU42では、ルーティングモジュール434として、第1ルートモジュール466のマッピングモジュール466aが適用される。
【0087】
第2ゾーンECU42のマッピングモジュール466aが適用されると、通信パケットSIG_Aは通信パケットIO_1に送信され、通信パケットIO_1は通信パケットIO_3を介して通信パケットDO_1に送信される。通信パケットDO_1は、DIOドライバ441b及びデジタル出力部481cのチャネルCHc1を介して、ドアロック装置301に出力される。そして、ドアロック装置301では、キーレスセンサ211からの出力信号に基づいて、ドアロック装置301の施錠/開錠処理を実行する。このように、第1ゾーンECU41に接続されたキーレスセンサ211の検出信号は、第2ゾーンECU42のアプリケーション421を通ることなく、ドアロック装置301に伝送されて、ドアロック装置301の施錠/開錠処理が実行される。
【0088】
以上のように、本実施形態によると、例えば、第1ゾーンECU41に接続された車載機器20(例えば、センサデバイス200)で得られたデータを、車載ネットワークCNWで接続された他のゾーンECU40(例えば、第2ゾーンECU42)で利用したい場合に、第1ゾーンECU41において、アプリケーションのプログラムコードでの手当なしに車載ネットワークCNWにデータを流すことができる。また、上記のように、第2ゾーンECUにおいて、車載ネットワークCNWで接続された第1ゾーンECU41で検出されたデータを利用する場合に、アプリケーション421を実行させる必要がない。これにより、ソフトウェアの設計工程及び検証工程を簡素化することができ、ソフトウェアの開発工数を大幅に低減することができる。また、アプリケーション421を介さずにゾーンECU40間でデータをやり取りすることができるので、車載機器制御装置400の処理速度を向上させることができる。
【0089】
また、例えば、第2ゾーンECU42において、キーレスセンサ211の検出信号に、加工処理を施したい場合には、選択モジュール468で第2ルートモジュール467を選択するようにし、加工用モジュールが適用されるようにするとよい。これにより、他のゾーンECU40のデータを使用する場合において、所定の加工処理が必要な場合においても、アプリケーション毎のデータ受け渡し用のAPI関数プログラムが不要であるとともに、加工処理のためにアプリケーション421を実行させる必要がない。これにより、上記の場合と同様に、ソフトウェアの開発工数を大幅に低減させることができるとともに、車載機器制御装置400の処理速度を向上させることができる。
【0090】
さらに、上記の実施形態では、車両内に複数のゾーンを画定し、そのゾーン毎にゾーンECU40を設け、そのゾーンECU40を統括的に制御する中央コントローラ10を設けている。前述のとおり、ゾーンECU40では、選択モジュール468の設定変更により、通信データをそのまま他のゾーンECU40に出力するか、又は、通信データに対して所定の処理を行って出力するかを選択することができるようにしている。すなわち、本実施形態の構成によると、センサデバイス200から出力される通信データの種類に応じて、所定の演算処理や加工処理を実行するか否かを選択することができるようになっている。これにより、車載ネットワークCNWに伝送させるデータを最適化させることができる。また、中央コントローラ10を介することなく、ゾーンECU40間で処理を完結させることができる。これにより、中央コントローラ10の処理負担を軽減させることができる。また、車載ネットワークCNWに伝送させるデータ量を少なくすることができるので、車載ネットワークCNWにおける通信の混雑を緩和させることができる。ここでのゾーンECU40は、制御部の一例である。
【0091】
ここでいう通信データの種類については、特に限定されるものではない。上記の実施形態では、例えば、カメラ201から出力された画像データのデータ容量が大きい場合に、そのデータに所定のフィルタ処理を行ってデータを軽くして車載ネットワークCNWに流し、キーレスセンサ211の検出信号のように軽いデータはそのまま車載ネットワークCNWに流す、といった選択ができるようになる。また、そのときに、専用のアプリケーションを用意したり、用意されたアプリケーションの変更をしたりする必要がない。
【0092】
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。また、前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【0093】
例えば、上記の
図3Bにおいて、第2ゾーンECU42のアプリケーション421は、第1ゾーンECU41でのキーレスセンサ211での検出結果を用いて、左サイドドアの開閉を制御するようにしてもよい。すなわち、アプリケーション421用のプログラムとして、第2ゾーンECU42のコード領域461に、通信パケットIO_1を介してキーレスセンサ211の検出結果の入力データを取得するプログラム及びその入力データに基づいて通信パケットIO_Xを介してドア開閉装置302を制御するための制御プログラムが格納されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
ここに開示された技術は、車載機器制御装置を設計するのに有用である。
【符号の説明】
【0095】
40 ゾーンECU(制御部)
200 センサデバイス(センサ)
300 アクチュエータ(デバイス)
400 車載機器制御装置
420 アプリケーション層
430 ミドルウェア層
434 ルーティングモジュール
440 デバイスドライバ層
467b 物理量変換モジュール
467c フィルタモジュール