(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240228BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20240228BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/045
B41J2/14 305
B41J2/14 613
B41J2/16 305
B41J2/16 507
B41J2/16 501
(21)【出願番号】P 2020035425
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 晃治
(72)【発明者】
【氏名】江口 秀幸
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-082681(JP,A)
【文献】特開2006-304588(JP,A)
【文献】特開2008-254202(JP,A)
【文献】特開2012-240366(JP,A)
【文献】特開2006-264283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズル孔を有するノズル板と、
前記ノズル孔に連通するインク室と、
前記インク室の壁面の一部をなす振動板と、
圧電部材と、当該圧電部材を挟む第1電極及び第2電極とを有し、前記振動板の前記インク室とは反対側に接する圧電素子と、
前記圧電素子の周囲に位置する絶縁層と、
一端が前記第2電極に接続された信号線と、
前記絶縁層の第1面上の第3電極及び第4電極と、
を備え、
前記第1電極は、前記圧電部材と前記振動板との間に位置し、
前記第2電極は、前記圧電部材の前記第1電極とは反対側に位置し、
前記第1面は、前記圧電部材の前記第2電極と接する面と同一平面内にあり、
前記信号線は、前記一端とは反対の他端が前記第4電極とつながり、
前記第1電極は、前記絶縁層を貫く貫通導体を介して前記第3電極とつながって
おり、
前記第3電極は、前記貫通導体上に位置している
ことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記振動板と前記ノズル板との間に位置して複数の前記インク室を各々分離する隔壁部を備え、
前記隔壁部は、金属部材である
ことを特徴とする請求項
1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
インクを吐出するノズル孔を有するノズル板と、
前記ノズル孔に連通するインク室と、
前記インク室の壁面の一部をなす振動板と、
圧電部材と、当該圧電部材を挟む第1電極及び第2電極とを有し、前記振動板の前記インク室とは反対側に接する圧電素子と、
前記圧電素子の周囲に位置する絶縁層と、
一端が前記第2電極に接続された信号線と、
前記絶縁層の第1面上の第3電極及び第4電極と、
前記振動板と前記ノズル板との間に位置して複数の前記インク室を各々分離する隔壁部と、
を備え、
前記第1電極は、前記圧電部材と前記振動板との間に位置し、
前記第2電極は、前記圧電部材の前記第1電極とは反対側に位置し、
前記第1面は、前記圧電部材の前記第2電極と接する面と同一平面内にあり、
前記信号線は、前記一端とは反対の他端が前記第4電極とつながり、
前記第1電極は、前記絶縁層を貫く貫通導体を介して前記第3電極とつながって
おり、
前記隔壁部は、金属部材であって電気めっき厚膜である
ことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記第3電極は、前記貫通導体上に位置していることを特徴とする請求項
3記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記第1電極は、複数の前記圧電部材に共通の共通電極であり、
前記第2電極は、複数の前記圧電部材に各々対応する個別電極である
ことを特徴とする請求項1
~4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記第2電極と前記信号線とは、一体の薄膜形状であることを特徴とする請求項1
~5のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
基板上に第1導電体層を形成し、当該第1導電体層上の所定範囲に圧電体層を形成し、前記所定範囲外に貫通孔を有する絶縁層を形成する第1形成ステップと、
前記圧電体層及び前記貫通孔の内側を含む前記絶縁層の表面に第1電極をなす第2導電体層及び振動板をなす部材の層を順番に形成し、前記基板に垂直な方向から見た平面視で前記振動板上に前記所定範囲に応じた範囲を囲う隔壁部を形成する第2形成ステップと、
前記基板を除去した後に前記第1導電体層をパターンエッチングして、前記圧電体層上の第2電極と、当該第2電極につながり前記絶縁層上に延びる信号線と、前記貫通孔内を貫通している前記第2導電体層と接触する第3電極と、前記信号線の他端をなす第4電極と、を同一の平面内で形成する第3形成ステップと、
を含むことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルから所望のタイミング及び量のインクを吐出させるインクジェットヘッドがある。インクジェットヘッドには、ノズルが配置されたノズル基板と、吐出させるインクに圧力変動を付与する圧力室基板と、圧力変動を付与する機構を駆動する駆動部を有する駆動基板とが積層されたものがある。
【0003】
圧力付与機構の一つとしては、圧力室基板に設けられた圧電部材を挟んで位置する電極間に対し、駆動部が出力する電圧を印加する構成が知られている(例えば、特許文献1)。上記各電極には、それぞれ信号線が接続され、当該信号線の他端の接続電極が駆動部に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インク吐出解像度の向上に応じてノズル及び各ノズルに対応する圧力付与機構を高密度で配置する要求がある。したがって、圧力付与機構に接続される信号線やその接続電極の数も増加する。このような多数の接続電極と駆動部との接続位置が異なる複数の面内に位置すると、接続時に局所的なストレスがかかりやすく、信号線に影響を及ぼし、断線や劣化などを生じやすくなるという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より容易かつ確実に多数の信号線を接続することのできるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
インクを吐出するノズル孔を有するノズル板と、
前記ノズル孔に連通するインク室と、
前記インク室の壁面の一部をなす振動板と、
圧電部材と、当該圧電部材を挟む第1電極及び第2電極とを有し、前記振動板の前記インク室とは反対側に接する圧電素子と、
前記圧電素子の周囲に位置する絶縁層と、
一端が前記第2電極に接続された信号線と、
前記絶縁層の第1面上の第3電極及び第4電極と、
を備え、
前記第1電極は、前記圧電部材と前記振動板との間に位置し、
前記第2電極は、前記圧電部材の前記第1電極とは反対側に位置し、
前記第1面は、前記圧電部材の前記第2電極と接する面と同一平面内にあり、
前記信号線は、前記一端とは反対の他端が前記第4電極とつながり、
前記第1電極は、前記絶縁層を貫く貫通導体を介して前記第3電極とつながっており、
前記第3電極は、前記貫通導体上に位置している
ことを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記振動板と前記ノズル板との間に位置して複数の前記インク室を各々分離する隔壁部を備え、
前記隔壁部は、金属部材である
ことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、
インクを吐出するノズル孔を有するノズル板と、
前記ノズル孔に連通するインク室と、
前記インク室の壁面の一部をなす振動板と、
圧電部材と、当該圧電部材を挟む第1電極及び第2電極とを有し、前記振動板の前記インク室とは反対側に接する圧電素子と、
前記圧電素子の周囲に位置する絶縁層と、
一端が前記第2電極に接続された信号線と、
前記絶縁層の第1面上の第3電極及び第4電極と、
前記振動板と前記ノズル板との間に位置して複数の前記インク室を各々分離する隔壁部と、
を備え、
前記第1電極は、前記圧電部材と前記振動板との間に位置し、
前記第2電極は、前記圧電部材の前記第1電極とは反対側に位置し、
前記第1面は、前記圧電部材の前記第2電極と接する面と同一平面内にあり、
前記信号線は、前記一端とは反対の他端が前記第4電極とつながり、
前記第1電極は、前記絶縁層を貫く貫通導体を介して前記第3電極とつながっており、
前記隔壁部は、金属部材であって電気めっき厚膜である
ことを特徴とするインクジェットヘッドである。
また、請求項4記載の発明は、請求項3記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記第3電極は、前記貫通導体上に位置していることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5記載の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記第1電極は、複数の前記圧電部材に共通の共通電極であり、
前記第2電極は、複数の前記圧電部材に各々対応する個別電極である
ことを特徴とする。
【0012】
また、請求項6記載の発明は、請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記第2電極と前記信号線とは、一体の薄膜形状であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7記載の発明は、
基板上に第1導電体層を形成し、当該第1導電体層上の所定範囲に圧電体層を形成し、前記所定範囲外に貫通孔を有する絶縁層を形成する第1形成ステップと、
前記圧電体層及び前記貫通孔の内側を含む前記絶縁層の表面に第1電極をなす第2導電体層及び振動板をなす部材の層を順番に形成し、前記基板に垂直な方向から見た平面視で前記振動板上に前記所定範囲に応じた範囲を囲う隔壁部を形成する第2形成ステップと、
前記基板を除去した後に前記第1導電体層をパターンエッチングして、前記圧電体層上の第2電極と、当該第2電極につながり前記絶縁層上に延びる信号線と、前記貫通孔内を貫通している前記第2導電体層と接触する第3電極と、前記信号線の他端をなす第4電極と、を同一の平面内で形成する第3形成ステップと、
を含むことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従うと、インクジェットヘッドにおいて、より容易かつ確実に多数の信号線を接続することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のインクジェットヘッドの断面構造を説明する図である。
【
図2】インクジェットヘッドの製造工程の例を示した図である。
【
図3】インクジェットヘッドの製造工程の例を示した図である。
【
図4】インクジェットヘッドの製造工程の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のインクジェットヘッド100の断面構造を説明する図である。ここでは、(a)パッド電極151及び1つのノズル孔21を含む断面と、(b)接地電極152及び1つのノズル孔21を含む断面とをそれぞれ示す。ノズル孔21は、インクジェットヘッド100に複数適宜な配置間隔及び配列パターンで設けられ、
図1(a)、(b)に示すノズル孔21は、同一である必要はない。
【0017】
図1(a)に示すように、インクジェットヘッド100は、圧電素子11と、絶縁層12と、振動板13と、隔壁部14と、信号線15と、保護膜16と、ノズル板20(ノズル基板)などを備える。
【0018】
ノズル板20は、インクを吐出するノズル孔21を複数有する。ノズル板20は、例えば、ニッケル(Ni)であるが、これに限られない。例えば、SUS、シリコン(Si)基板、又はSOI(Silicon On Insulator)基板などであってもよい。
【0019】
振動板13、隔壁部14及びノズル板20をそれぞれ壁面として囲まれる範囲がインクを貯留し、当該インクに圧力変動を付与する圧力室145(インク室)をなす。なお、
図1(a)、(b)に示した各断面に垂直な方向には、図示略のインク流路があり、圧力室145に連通して当該圧力室145に供給されるインクが流れる。圧力室145の一面をなす振動板13が
図1の上下方向に振動することで、圧力室145内のインクに圧力変動が付与される。
【0020】
隔壁部14は、圧力室145の側面を囲う。圧力室145は、複数のノズル孔21のそれぞれに連通するように複数存在するので、隔壁部14は、これら複数の圧力室145を分離する。隔壁部14は、ここでは、金属部材であり、例えば、Ni又はNi合金の電気めっき厚膜である。合金には、例えば、コバルト(Co)、プラチナ(Pt)、鉄(Fe)、クロム(Cr)などが含まれていてもよく、さらに、銅(Cu)などが含まれていてもよい。圧力室145の形状は、特には限られないが、例えば、円柱形状であってもよい。あるいは、圧力室145は、2つの半円柱の間に角柱部分が組み合わされた形状などであってもよい。
【0021】
振動板13は、絶縁層131と、Niシード層132とが積層された構造を有する薄膜層である。絶縁層131は、例えば、Siの酸化物層や各種樹脂層などであり、圧電素子11の下部電極層113と隔壁部14とを電気的に分離する。Niシード層132は、隔壁部14を形成するためのNiを含む薄膜層である。
【0022】
振動板13は、圧力室145と反対側の面が圧電素子11に接し、圧電素子11の変形に応じて変形して振動を生じる。振動板13の振動は、剛性の大きい隔壁部14により端部で固定され、当該端部を節としたものとなる。
【0023】
絶縁層12は、振動板13上に配置されている下部電極層113上で、少なくとも圧電素子11の周囲において圧電部材112が位置しない部分を埋め込むように広がっている。また、絶縁層12は、圧電部材112の周縁を予め定められた幅で被覆する範囲まで広がっていてもよい。絶縁層12は、例えば、シリコン酸化物層(SiO2)や各種樹脂層である。絶縁層12は、水平方向に圧電部材112間を分離し、上下方向に下部電極層113と信号線15とを分離する。
【0024】
圧電素子11は、上部電極111(第2電極)と、圧電部材112と、下部電極層113(第1電極)とが順番に積層された構造を有する。圧電素子11は、その変形に応じて振動板13を振動させる。なお、下部電極層113も振動板13とともに振動し、その振動特性に寄与する。
【0025】
圧電部材112は、上部電極111及び下部電極層113に挟まれ、これらに印加される電圧(電位差)に応じて変形する。圧電部材112は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などである。圧電部材112は、圧力室145の位置に各々対応して位置している。圧電部材112は、インクジェットヘッド100の上方(
図1の上側)から見た平面視で、圧力室145に内包される範囲内に位置していてもよい。すなわち、圧電部材112は、平面視で圧力室145よりも小さくてよい。
【0026】
圧電部材112の上面(下部電極層113とは反対側の面)は、上下方向について絶縁層12の上面(下部電極層113とは反対側の面)と同一の平面内にある。ここでいう同一の面内には、製造上及び構造上生じ得る微小なずれ範囲を含んでよい。例えば、絶縁層12の通常の研磨精度や表面粗さなどに対応する1μm以下のずれ、特に10nm以下のずれは、同一平面内であるとされてよい。
【0027】
下部電極層113は、圧電部材112の下側の面に接する。下部電極層113は、導電性部材であり、例えば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、Ni、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)、銅(Cu)、金(Au)などが挙げられる。下部電極層113は、複数の圧電部材112(圧電素子11)にまたがって、すなわち、圧電部材112よりも広く広がる薄膜構造であり、これら複数の圧電部材112の下側の面に共通の電位、例えば、接地電位を印加する共通電極である。
【0028】
上部電極111は、各圧電部材112の上側の面にそれぞれ接する導電性部材であり、各圧電部材112に個別に駆動信号の電圧を印加する個別電極である。上部電極111は、平面視で圧電部材112と略同一のサイズ及び形状であってよい。上部電極111は、例えば、IrやPtなどであるがこれらに限られない。圧電部材112及び上部電極111の形状は、例えば、上記圧力室145の形状と相似かつ中心位置が同一であってよい。
【0029】
信号線15は、一端が上部電極111にそれぞれ接続され、圧電素子11の駆動信号を伝える。信号線15の上部電極111と反対側の端部(他端)は、パッド電極151(第4電極)であり、図示略の駆動基板の接続端子などが接続される接続電極である。信号線15及びパッド電極151は、絶縁層12の上面(第1面)上、すなわち、上部電極111と同一の面上に位置する薄膜形状の線であり、ここでは、当該上部電極111とひとつながり(一体)となっている。すなわち、パッド電極151を含む信号線15と上部電極111とは、一連の回路としてまとめて形成される。したがって、信号線15は、上部電極111と同一の材質及び同一の厚さであってもよい。
【0030】
保護膜16は、インクジェットヘッド100の上面を覆い、上部電極111及び信号線15を被覆する。保護膜16には、パッド電極151の接続用の開口が設けられていてよい。保護膜16は、絶縁性のものであり、例えば、各種樹脂膜であってもよい。
【0031】
図1(b)に示すように、下部電極層113は、絶縁層12を貫通する貫通導体153を介して接地電極152(第3電極)に接続されている。接地電極152は、駆動基板の接地端子などが接続される接続電極である。ここでは、例えば、下部電極層113及び振動板13を折り曲げて絶縁層12内を貫通させることで、下部電極層113の一部が貫通導体153とされている。上述のように、下部電極層113は、複数の圧電部材112に対して共通の電極であるので、貫通導体153及び接地電極152は、圧電部材112の数より少なくてよい。接地電極152は、ここでは、貫通導体153の直上に位置して当該貫通導体153と接触しているビアオンパッド構造となっている。複数の圧電部材112に対して1つの貫通導体153及び接地電極152が設けられていればよい。接地電極152は、絶縁層12上のパッド電極151と同一平面上に位置している。
【0032】
上記の各構成のうち、圧電素子11、絶縁層12、振動板13、隔壁部14、信号線15及び保護膜16が圧力室部材に含まれる。これらに対してノズル板20、インク流路に接続される流路部材及びインク貯留室、並びにパッド電極151に接続される駆動基板などが接合されたものがインクジェットヘッド100である。
【0033】
次に、本実施形態のインクジェットヘッド100の製造方法について説明する。
図2~
図4は、インクジェットヘッド100の製造工程の例を示した図である。ここでは、パッド電極151及び接地電極152の形成をまとめて説明するために、単一断面内にパッド電極151と接地電極152があるものとして示すが、インクジェットヘッド100内にこのような断面がなくてもよい。
【0034】
図2(a)に示すように、まず、基板50の一平面上に導電体層511(第1導電体層)を形成し、次いで、導電体層511上の所定範囲に圧電部材112(圧電体層)を配置、形成する。導電体層511は、上部電極111となる部分であり、上部電極111の材料と同一、すなわち、例えば、Ir、Ptなどである。圧電部材112は、例えば、所定範囲内を覆うレジストを用いたパターンエッチングにより形成されてよい。基板50は、例えば、シリコン(Si)などである。あるいは、その他平坦な導電体層511の薄膜を形成可能であり、かつ後で導電体層511から適切に除去可能なものであればよく、再利用可能なものでなくてもよい。
【0035】
次に、導電体層511上のうち貫通導体153が設けられる部分を除く圧電部材112に覆われていない部分(所定範囲外)から圧電部材112の周縁上にかけて、絶縁層12が形成される。(
図2(b))。貫通導体153が設けられる部分は、貫通孔となる。この貫通孔を有する絶縁層12は、例えば、感光性永久レジストを上記形成範囲に応じた形状に露光現像し、硬化することで得られてもよい。圧電部材112及び絶縁層12上、並びに貫通孔の内側のそれぞれ表面に沿って、下部電極層113(第2導電体層)が形成され、さらにこの下部電極層113上には、振動板13となる絶縁層131及びNiシード層132(振動板をなす部材の層)が形成される(
図2(c))。これにより、下部電極層113は、貫通孔の壁面に沿って折れ曲がって当該貫通孔内を上下に貫き、貫通導体153となる。
【0036】
Niシード層132上には、圧力室145となる領域を囲う隔壁部14が形成される(
図3(a))。隔壁部14は、貫通孔の内部の隙間にも入り込んでNiシード層132と接合されてよい。隔壁部14は、例えば、圧力室145の部分にレジストパターンを形成し、その周囲のNiシード層132上に電気めっきなどで形成される。その後、基板50が除去される(
図3(b))。この
図3(b)以降では、
図3(a)までに形成された構造を上下反転して示す。
【0037】
導電体層511をパターンエッチングして、基板50の表面に沿った同一平面上に位置する上部電極111、この上部電極111につながり絶縁層12上に延びる信号線15及びパッド電極151、並びに貫通導体153に接触する接地電極152を形成する(
図3(c))。すなわち、接地電極152が貫通導体153の直上に形成されるビアオンパッド構造となる。形成される信号線15には、パッド電極151を含む。パターンエッチングは、例えば、フォトリソグラフィーなどにより、上部電極111及び信号線15に当たる部分をマスクして行われればよい。なお、接地電極152及びパッド電極151の位置は、圧電素子11の直近である必要はない。駆動基板との接続位置で貫通導体153が設けられればよく、また、駆動基板との接続位置に合わせて信号線15が引き回されればよい。
【0038】
パッド電極151及び接地電極152を残して上面を保護する保護膜16を形成する(
図4(a))。保護膜16は、例えば、絶縁性部材を塗布した後に当該絶縁性部材を焼結することで形成される。
【0039】
圧力室145の位置にノズル孔21を合わせてノズル板20を上記構造(圧力室部材)に対して接合する(
図4(b))。接合は、各種接着部材などで行われてよい。接着部材は、例えば、インクに対して安定な樹脂系接着剤などであってもよい。
【0040】
図2(a)、(b)の処理が本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法における第1形成ステップを構成し、
図2(c)、
図3(a)の処理が第2形成ステップを構成し、
図3(b)、
図3(c)が第3形成ステップを構成する。
【0041】
その他、圧力室部材に対するインクの流路部材、インク貯留室や駆動基板などの接合は、従来周知の技術に基づいてなされればよい。
【0042】
以上のように、本実施形態のインクジェットヘッド100は、インクを吐出するノズル孔21を有するノズル板20と、ノズル孔21に連通する圧力室145と、圧力室145の壁面の一部をなす振動板13と、圧電部材112と、当該圧電部材112を挟む下部電極層113及び上部電極111とを有し、振動板13の圧力室145とは反対側に接する圧電素子11と、圧電素子11の周囲に位置する絶縁層12と、一端が上部電極111に接続された信号線15と、絶縁層12の第1面上の接地電極152及びパッド電極151と、を備える。下部電極層113は、圧電部材112と振動板13との間に位置し、上部電極111は、圧電部材112の下部電極層113とは反対側に位置する。第1面は、圧電部材112の上部電極111と接する面と同一平面内にあり、信号線15は、一端とは反対の他端がパッド電極151とつながり、下部電極層113は、絶縁層12を貫く貫通導体153を介して接地電極152とつながっている。
すなわち、インクジェットヘッド100では、外部に接続されるパッド電極151と接地電極152が同一平面上にあるので、製造時などに不要に強いストレスをかけず、容易かつ確実に圧電素子11へ配線をつなぐことができる。また、パッド電極151には、同一平面上の上部電極111から信号線15で接続されるので、上部電極111から他の層へ上下方向につなぐ貫通導体やパッドなどを設ける必要がなく、配線が容易かつスペースを節約することができる。
【0043】
また、下部電極層113は、複数の圧電部材112に共通の共通電極であり、上部電極111は、複数の圧電部材112に各々対応する個別電極である。この場合、共通電極から接地電極152に接続する配線(貫通導体153)の数は、圧電部材112よりも少なくてよいので、トータルの貫通導体の数を低減し、配線を容易かつスペースを節約して行うことができる。
【0044】
また、上部電極111と信号線15とは、一体の薄膜形状である。同一面上に形成される上部電極111と信号線15を導電体膜のパターンエッチングなどで一体的に形成することで、精度よく省スペースで多数の信号線15を絶縁層12上に配置することができる。したがって、インクジェットヘッド100のノズル数が多い場合でも大型化を抑制しながら効率よく確実に配線することができる。
【0045】
また、接地電極152は、貫通導体153上に位置しているビアオンパッド構造を有する。したがって、絶縁層12上のスペースを節約することができ、駆動基板の接続端子などを無理なく接続することができる。
【0046】
また、インクジェットヘッド100は、振動板13とノズル板20との間に位置して複数の圧力室145を各々分離する隔壁部14を備え、隔壁部14は、金属部材である。隔壁部14は、その上方に位置する絶縁層12を支えるので、剛性が高く強固な金属部材で絶縁層12を支えることで、駆動基板の接続端子の接続時に周囲の構成にかかる不要なストレスを低減させることができ、配線の接続の確実性を高めることができる。
【0047】
また、隔壁部14は、電気めっき厚膜である。これにより、隔壁部14と振動板13のNiシード層132とをより強固に接合することができ、駆動基板の接続端子の接続時に隔壁部14が安定してより確実に絶縁層12など上層を支えることができる。よって、このインクジェットヘッド100では、より容易に、配線の接続の確実性を高めることができる。
【0048】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100の製造方法は、基板50上に導電体層511を形成し、当該導電体層511上の所定範囲に圧電部材112を形成し、所定範囲外に貫通孔を有する絶縁層12を形成する第1形成ステップと、圧電部材112及び貫通孔の内側を含む絶縁層12の表面に下部電極層113及び振動板13をなす絶縁層131及びNiシード層132を順番に形成し、基板50に垂直な方向から見た平面視で振動板13上に所定範囲に応じた範囲を囲う隔壁部14を形成する第2形成ステップと、基板50を除去した後に導電体層511をパターンエッチングして、圧電部材112上の上部電極111と、当該上部電極111につながり絶縁層12上に延びる信号線15と、貫通孔内を貫通している下部電極層113と接触する接地電極152と、信号線15の他端をなすパッド電極151と、を同一の平面内で形成する第3形成ステップと、を含む。
このような製造方法を含んで得られるインクジェットヘッド100により、信号配線に係る不要なストレスを低減させ、より容易かつ確実に多くの信号線を接続することができる。また、スペースを確保しやすく、駆動基板などをより容易かつ確実に圧力室基板に取り付け可能であり、多数のノズルを有するインクジェットヘッド100を適切に得ることができる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、下部電極層113が貫通孔内で上下方向に曲がって貫通導体153となるように形成されたが、貫通導体153は、下部電極層113と別個に形成されたものであってもよい。
【0050】
また、上記実施の形態では、圧電素子11の下側(振動板13の側)が共通電極であり、反対側が個別電極であるとして説明したが、反対であってもよい。
【0051】
また、上記実施の形態では、上部電極111と信号線15をパターンエッチングで一体的に形成するものとして説明したが、信号線15に電気めっきを行うなどにより膜厚を厚くしてもよい。また、上部電極111と信号線15が別個に形成されてはんだなどで接合されてもよい。
【0052】
また、上記実施の形態では、接地電極152が貫通導体153の直上にあるものとして説明したが、異なる位置に設けられ、貫通導体から接地電極152へ信号線が設けられてもよい。
【0053】
また、上記実施の形態では、隔壁部14としてNi又はNi合金層を電気めっきで生成するものとして説明したが、これに限られない。他の部材、例えば、ガラス基板やSi基板などであってもよく、この場合には、接着部材を介して振動板13に接合されてもよい。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0054】
11 圧電素子
111 上部電極
112 圧電部材
113 下部電極層
12 絶縁層
13 振動板
131 絶縁層
132 Niシード層
14 隔壁部
15 信号線
151 パッド電極
152 接地電極
153 貫通導体
16 保護膜
20 ノズル板
21 ノズル孔
50 基板
100 インクジェットヘッド
145 圧力室
511 導電体層