(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】締結具および締結構造
(51)【国際特許分類】
F16B 21/02 20060101AFI20240228BHJP
F16B 5/06 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
F16B21/02 C
F16B5/06 Q
(21)【出願番号】P 2020048744
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上島 章
(72)【発明者】
【氏名】小畑 耕治
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-015609(JP,U)
【文献】特開2000-002216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 21/02
F16B 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部が互いに繋がって第1の被締結部材の第1の孔に該第1の被締結部材の第1面側から挿し込まれる挿込みの向きに延び、該第1の孔と、さらに、該第1の被締結部材の第2面側に配置された第2の被締結部材の第2の孔に挿し込まれる、弾性的に撓む腕部と、
前記挿込みの向きに関し、前記第1端部から延びる前記腕部の途中位置と並ぶ位置に設けられた、前記第1面に突き当てられる突当部とを有し、
前記腕部がさらに、前記挿込みの向きとは交わる向きに突き出た抜け止め用の突出部と、
前記第1の孔に挿し込まれさらに前記第2の孔に挿し込まれて該挿込みの向きを回転軸として締結角度に回転させることにより、前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との双方を前記突当部との間に挟んで互いを締結する締結部とを備え、
前記第1端部と一体の基部を有し、前記突当部が、前記腕部との間に空間を置いて前記基部につながっていることを特徴とする締結具。
【請求項2】
第1端部が互いに繋がって第1の被締結部材の第1の孔に該第1の被締結部材の第1面側から挿し込まれる挿込みの向きに延び、該第1の孔と、さらに、該第1の被締結部材の第2面側に配置された第2の被締結部材の第2の孔とに挿し込まれる複数の腕部と、
前記挿込みの向きに関し、前記第1端部から延びる前記腕部の途中位置と並ぶ位置に設けられた、前記第1面に突き当てられる突当部とを有し、
前記腕部がさらに、前記挿込みの向きとは交わる向きに突き出た抜け止め用の突出部と、
前記第1の孔に挿し込まれさらに前記第2の孔に挿し込まれて該挿込みの向きを回転軸として締結角度に回転させることにより、前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との双方を前記突当部との間に挟んで互いを締結する締結部とを備え、
前記腕部のうち前記突当部より前記第1端部側を互いに近づけるように押すことにより、前記腕部のうち前記突当部より前記締結部側を互いに近づけられることを特徴とする締結具。
【請求項3】
前記突出部が、前記第2面に接することで前記第1の孔からの抜け止めを担うことを特徴とする請求項1または2に記載の締結具。
【請求項4】
前記突当部が、前記腕部に触れずに該腕部を通過させる挿通孔と、前記第1面の、前記第1の孔の周りに一周に亘って接する突当面とを有することを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の締結具。
【請求項5】
前記突当部が、前記締結角度まで回転したときに前記第1面の窪みまたは孔に入り込む突起を有することを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の締結具。
【請求項6】
前記突当部が、片持ち梁形状に形成されて前記第1面と平行に広がる舌部を有し、前記突起が該舌部に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の締結具。
【請求項7】
前記突当部と基部とを繋ぐ部材を伸縮させることで、突当部と締結部の距離を調整することを特徴とする請求項1から6のうちのいずれか1項に記載の締結具。
【請求項8】
前記挿込みの向きを回転軸として180°回転させたときに、回転前と同一の形状となる対称性を有することを特徴とする請求項1から7のうちのいずれか1項に記載の締結具。
【請求項9】
前記請求項1に記載の締結具と、
前記第1の孔と前記第2の孔との間に、前記締結部を収容する空間を確保する空間確保部とを有することを特徴とする締結構造。
【請求項10】
第1端部が互いに繋がって第1の被締結部材の第1の孔に該第1の被締結部材の第1面側から挿し込まれる挿込みの向きに延び、該第1の孔と、さらに、該第1の被締結部材の第2面側に配置された第2の被締結部材の第2の孔に挿し込まれる、弾性的に撓む腕部と、
前記挿込みの向きに関し、前記第1端部から延びる前記腕部の途中位置と並ぶ位置に設けられた、前記第1面に突き当てられる突当部とを有し、
前記腕部がさらに、前記挿込みの向きとは交わる向きに突き出た抜け止め用の突出部と、前記第1の孔に挿し込まれさらに前記第2の孔に挿し込まれて該挿込みの向きを回転軸として締結角度に回転させることにより、前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との双方を前記突当部との間に挟んで互いを締結する締結部とを備える締結具と、
前記第1の孔と前記第2の孔との間に、前記締結部を収容する空間を確保する空間確保部とを有することを特徴とする締結構造。
【請求項11】
第1の被締結部材の第1の孔に該第1の被締結部材の第1面側から挿し込まれ、さらに、該第1の被締結部材の第2面側に配置された第2の被締結部材の第2の孔に挿し込まれる腕部と、該腕部が該第1の孔および該第2の孔に挿し込まれたときに該第1面に突き当てられる突当部と、を備えた締結具、および
前記第1の孔と前記第2の孔との間に
、締結部を収容する空間を確保する空間確保部を備え、
前記第2の孔が、前記腕部を前記第1の孔に挿し込んでさらに挿込みの向きを回転軸として回転させることにより挿込み可能な形状を有し、
前記締結具が、前記第1の孔および前記第2の孔に挿し込んだ状態で挿込みの向きを回転軸として締結角度に回転させることにより、前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との双方を前記突当部との間に挟んで互いを締結する前記締結部をさらに備えたことを特徴とする締結構造。
【請求項12】
一対の前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との締結用に、前記締結具を複数個使用していることを特徴とする請求項9から11のうちのいずれか1項に記載の締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結具および締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、2つの部品の孔に挿し込んで回転させることにより、それら2つの部品を締結する締結具が開示されている。締結を外した時、その締結具が一方の部品から抜け止めされることが好ましい。この特許文献1の締結具を使って抜け止めを実現するには、一方の部材に挿し込んだ後、挿し込んだ側から別部品を追加することなどが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平6-18706号公報
【文献】特開2010-270770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、別部品を追加することなく抜け止めの機能を実現した締結具および締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、
第1端部が互いに繋がって第1の被締結部材の第1の孔に該第1の被締結部材の第1面側から挿し込まれる挿込みの向きに延び、該第1の孔と、さらに、該第1の被締結部材の第2面側に配置された第2の被締結部材の第2の孔に挿し込まれる、弾性的に撓む腕部と、
前記挿込みの向きに関し、前記第1端部から延びる前記腕部の途中位置と並ぶ位置に設けられた、前記第1面に突き当てられる突当部とを有し、
前記腕部がさらに、前記挿込みの向きとは交わる向きに突き出た抜け止め用の突出部と、前記第1の孔に挿し込まれさらに前記第2の孔に挿し込まれて該挿込みの向きを回転軸として締結角度に回転させることにより、前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との双方を前記突当部との間に挟んで互いを締結する締結部とを備え、
前記第1端部と一体の基部を有し、前記突当部が、前記腕部との間に空間を置いて前記基部につながっていることを特徴とする締結具である。
請求項2に係る発明は、
第1端部が互いに繋がって第1の被締結部材の第1の孔に該第1の被締結部材の第1面側から挿し込まれる挿込みの向きに延び、該第1の孔と、さらに、該第1の被締結部材の第2面側に配置された第2の被締結部材の第2の孔とに挿し込まれる複数の腕部と、
前記挿込みの向きに関し、前記第1端部から延びる前記腕部の途中位置と並ぶ位置に設けられた、前記第1面に突き当てられる突当部とを有し、
前記腕部がさらに、前記挿込みの向きとは交わる向きに突き出た抜け止め用の突出部と、
前記第1の孔に挿し込まれさらに前記第2の孔に挿し込まれて該挿込みの向きを回転軸として締結角度に回転させることにより、前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との双方を前記突当部との間に挟んで互いを締結する締結部とを備え、
前記腕部のうち前記突当部より前記第1端部側を互いに近づけるように押すことにより、前記腕部のうち前記突当部より前記締結部側を互いに近づけられることを特徴とする締結具である。
【0006】
請求項3に係る発明は、前記突出部が、前記第2面に接することで前記第1の孔からの抜け止めを担うことを特徴とする請求項1または2に記載の締結具である。
【0008】
請求項4に係る発明は、前記突当部が、前記腕部に触れずに該腕部を通過させる挿通孔と、前記第1面の、前記第1の孔の周りに一周に亘って接する突当面とを有することを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の締結具である。
【0009】
請求項5に係る発明は、前記突当部が、前記締結角度まで回転したときに前記第1面の窪みまたは孔に入り込む突起を有することを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の締結具である。
【0010】
請求項6に係る発明は、前記突当部が、片持ち梁形状に形成されて前記第1面と平行に広がる舌部を有し、前記突起が該舌部に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の締結具である。
【0011】
請求項7に係る発明は、前記突当部が、前記挿込みの向きについて位置調整可能であることを特徴とする請求項1から6のうちのいずれか1項に記載の締結具である。
【0012】
請求項8に係る発明は、前記挿込みの向きを回転軸として180°回転させたときに、回転前と同一の形状となる対称性を有することを特徴とする請求項1から7のうちのいずれか1項に記載の締結具である。
【0013】
請求項9に係る発明は、
前記請求項1に記載の締結具と、
前記第1の孔と前記第2の孔との間隔を、前記締結部を収容する空間を確保する空間確保部とを有することを特徴とする締結構造である。
【0014】
請求項10に係る発明は、
第1端部が互いに繋がって第1の被締結部材の第1の孔に該第1の被締結部材の第1面側から挿し込まれる挿込みの向きに延び、該第1の孔と、さらに、該第1の被締結部材の第2面側に配置された第2の被締結部材の第2の孔に挿し込まれる、弾性的に撓む腕部と、
前記挿込みの向きに関し、前記第1端部から延びる前記腕部の途中位置と並ぶ位置に設けられた、前記第1面に突き当てられる突当部とを有し、
前記腕部がさらに、前記挿込みの向きとは交わる向きに突き出た抜け止め用の突出部と、前記第1の孔に挿し込まれさらに前記第2の孔に挿し込まれて該挿込みの向きを回転軸として締結角度に回転させることにより、前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との双方を前記突当部との間に挟んで互いを締結する締結部とを備える締結具と、
前記第1の孔と前記第2の孔との間に、前記締結部を収容する空間を確保する空間確保部とを有することを特徴とする締結構造である。
請求項11に係る発明は、
第1の被締結部材の第1の孔に該第1の被締結部材の第1面側から挿し込まれ、さらに、該第1の被締結部材の第2面側に配置された第2の被締結部材の第2の孔に挿し込まれる腕部と、該腕部が該第1の孔および該第2の孔に挿し込まれたときに該第1面に突き当てられる突当部とを備えた締結具、および
前記第1の孔と前記第2の孔との間に、締結部を収容する空間を確保する空間確保部を備え、
前記第2の孔が、前記腕部を前記第1の孔に挿し込んでさらに挿込みの向きを回転軸として回転させることにより挿込み可能な形状を有し、
前記締結具が、前記第1の孔および前記第2の孔に挿し込んだ状態で挿込みの向きを回転軸として締結角度に回転させることにより、前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との双方を前記突当部との間に挟んで互いを締結する前記締結部をさらに備えたことを特徴とする締結構造である。
【0015】
請求項12に係る発明は、一対の前記第2の被締結部材と前記第1の被締結部材との締結用に、前記締結具を複数個使用していることを特徴とする請求項9から11のうちのいずれか1項に記載の締結構造である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1および請求項2の締結具によれば、別部品を追加することなく抜け止めの機能を実現した締結具を提供可能である。
また、請求項1の締結具によれば、基部がない締結具と比べ、締結、締結解除の作業性が向上する。
また、請求項2の締結具によれば、腕部のうち突当部より第1端部に近い側を互いに近づけるように押すことにより、腕部のうち突当部より締結部側を互いに近づけることができる。
【0017】
請求項3の締結具によれば、第2の被締結部材からの締結を解除して第1の被締結部材を取り外したときに、締結具が第1の被締結部材から抜け落ちることが防止される。
【0019】
請求項4の締結具によれば、突当面が一周には広がっていない場合と比べ、突当部を第1面に安定的に突き当てることができる。
【0020】
請求項5の締結具によれば、突起がない場合と比べ、締結状態が安定的に維持される。
【0021】
請求項6の締結具によれば、突起の部分に弾性を持たせることができる。
【0022】
請求項7の締結具によれば、1種類の締結具を使って、様々な厚みの第2の被締結部材および第1の被締結部材を締結することができる。
【0023】
請求項8の締結具によれば、対称性のない締結具と比べ、操作しやすい。
【0024】
請求項9、10、11および12の締結構造によれば、別部品を追加することなく抜け止めの機能を実現した締結具を提供可能であるとともに、第1の被締結部材を第2の被締結部材から容易に取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態としての締結具の使用法を示した説明図である。
【
図2】本発明の第1実施形態としての締結具の斜視図である。
【
図3】
図2に示した締結具を使った締結構造の模式断面図である。
【
図4】本発明の締結構造の一実施形態を示した断面斜視図である。
【
図8】締結具の第2実施形態を示した平面図(A)および側面図(B)である。
【
図9】締結具の第3実施形態を示した平面図(A)および側面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態としての締結具の使用法を示した説明図である。
【0028】
この
図1には、締結具1と、パネル2と、板金3とが示されている。板金3は、機器のフレームの一部を構成している部品である。パネル2は、その板金2に固定されて機器の外面を形成する部品である。締結具1は、パネル2を板金
3に固定する部品である。このパネル2は、必要に応じて板金3から取り外す必要があり、着脱可能な構造となっている。
【0029】
パネル2には、長孔21が形成されている。締結具1を、パネル2の、図示のおもて面22側から長孔21に挿し込んで、締結具1の、鍔のように広がった突当部11を、パネル2のおもて面22の、その長孔21の周囲の壁部22aに突き当てる。板金3は、パネル2のうら面23側に配置されている。この板金3には、パネル2の長孔21と連通する長孔31が形成されている。締結具1は、パネル2の長孔21に続いて板金3の長孔31にも挿し込まれる。こうして、締結具1を双方の長孔21,31に挿し込んで突当部11を壁部22aに突き当てると、締結具1は、その先端の締結部12が板金3の長孔31を突き抜けた位置まで挿し込まれる。その状態で締結具1を回転させる。すると、締結部12が抜け止めされ、パネル2と板金3は、突当部11と締結部12とに挟まれて固定された状態となる。パネル2を板金3から取り外す際は、締結具1を固定された状態から回転させて、長孔31から抜き取る。すると、パネル2は、板金3への固定から解放され、パネル2を板金3から取り外すことができる。
【0030】
ここで、パネル2は、本発明にいう第1の被締結部材の一例に相当し、パネル2の長孔21は、本発明にいう第1の孔の一例に相当する。また、パネル2のおもて面22は、長孔21の周囲の壁部22aを含め、本発明にいう、第1の被締結部材の第1面の一例に相当し、パネル2のうら面23は、本発明にいう、第1の被締結部材の第2面の一例に相当する。さらに、板金3は、本発明にいう第2の被締結部材の一例に相当し、板金3の長孔31は、本発明にいう第2の孔の一例に相当する。
【0031】
図2は、本発明の第1実施形態としての締結具の斜視図である。ここで、
図2(A),(B)は、互いに異なる向きから見たときの斜視図である。
【0032】
また、
図3は、
図2に示した締結具を使った締結構造の模式断面図である。ここで、
図3(A)は、
図2(B)に示した矢印X-Xに沿う断面図、
図3(B)は、
図2(B)に示した矢印Y-Yに沿う断面図である
。図3(A)では、突当部11は、パネル2の壁部22aから未だ離れている。これに対し、
図3(B)は、突当部11をパネル2の壁部22aに突き当てて締結具1を回転させることにより、パネル2を板金3に固定した状態を示している。
【0033】
この締結具1は、基部10を有し、その基部10から2本の腕部13が片持ち梁形状に互いに平行に延びている。締結部12は、それら2本の腕部13の各々の一部として、各腕部13の先端部に形成されている。これらの締結部12は、
図1に示すパネル2の長孔21および板金3の長孔31へ挿込みの方向から見たときに、2本の腕部13の先端の2つの締結部12が一緒になってそれらの長孔21,31に挿し込まれるように、全体として縦長の形状となっている。
【0034】
また、2本の腕部13の基部10側の端部は、基部10により互いに繋がっている。これら2本の腕部13の、基部10により互いに繋がった端部は、本発明にいう第1端部の一例に相当する。
【0035】
また、2本の腕部13の各々には、突出部14が設けられている。これらの突出部14は、挿込みの向きとは交わる、長孔21,31の幅方向に突き出ている。これら2本の腕部13に設けられている突出部14の、突き出た先端部どうしの距離Lは、
図3(A)に示すように、パネル2の長孔21の幅w1よりも大きい。これら2本の腕部13は、適度に弾性的に撓むしなやかさを持っている。このため、腕部13が長孔21に挿し込まれる際には、2本の腕部13が互いに近づく向きに適度に撓み、これにより、突出部14が長孔21を通過する。なお、図
3(A)に示す通り、本実施形態では、突出部14の先端部どうしの距離Lは、板金3の長孔31の幅w2よりは狭い。したがって、腕部13は、板金3の長孔31を、その長孔31と干渉することなく通過することができる。
【0036】
また、この締結具1の基部10からは、腕部14とは別に、2本の梁部15が延びている。そして、それらの梁部15の先端に突当部11が設けられている。これらの梁部15は撓む必要はなく、剛体として形成されている。腕部13が延びる向きに関し、突当部11が設けられている位置は、腕部13が延びる途中位置と並ぶ位置である。この突当部11は、中央に孔11aが形成された略円環形状を有し、パネル2の壁部22aに一周に亘って突き当てられる突当面11bが形成されている。また、2本の腕部13は、突当部11とは干渉しないように突当部11との間に空間を置いて、中央の孔11aを通過している。すなわち、締結具1の挿し込み方向にむけて、基部10、突当部11、腕部13の順とされているため、パネル2に突当部11を突き当てた状態で、2本の腕部13を互いに近づく向きに撓ませられる。
【0037】
さらに、この突当部11は、その左右2か所に、片持ち梁形状に形成されてパネル2の壁部22aと平行に広がる舌部11cを有する。そして、この突当部11は、この舌部11cに、パネル2の壁部22aに向かって突き出た突起11dを有する。
【0038】
この締結具1をパネル2の長孔21および板金3の長孔31に挿し込んで突当部11をパネル2の壁部22aに突き当てる。このとき突起11dも壁部22aに突き当たる。すると、舌部11cが撓み、この突き出ている突起11dとともに突当面11bも、壁部22aに突き当てられる。
【0039】
突当部11の突当面11bを壁部22aに突き当てたのち、締結具1を挿込みの向きを回転軸として回転させる。そして、挿込み時の角度から90°回転した締結角度まで回転させると、突起11dが、壁部22aに形成された窪み24(
図1参照)に入り込む。この窪み24は、パネル2を貫通した孔であってもよい。突起11dが窪み24に入り込むときは、クリック感を伴って舌部11cの撓みが解消され、作業者に締結が完了したことを実感させる。
【0040】
図3(B)は、この締結作業が完了した状態を示している。パネル2と板金3は、締結具1の突当部11と締結部12とに挟まれて固定された状態となる。
【0041】
パネル2を板金3から取り外すときは、締結角度に回転させた姿勢にある締結具1を回転させる。90度回転させると、長孔21,31と締結部12が長孔21,31の形状と揃った姿勢となる。
図3(A)では、締結部12が長孔21,31の形状と揃った姿勢にある。
【0042】
締結具1は、挿込みの向きを回転軸として180°回転させると、回転前と同一の形状となる対称性を有する。したがって、締結具1を回転させるにあたっては、締結具1を締結時の回転の向きとは反対向きに回転させてもよく、あるいは、締結時の回転の向きと同じ向きに回転させてもよい。
【0043】
前述の通り、本実施形態では、板金3の長孔31の幅W2は、突出部14の先端部どうしの距離Lよりも広い。このため、締結具1を
図3(A)の姿勢にまで回転させると、締結具1をそのまま板金3から抜き取りことができ、パネル2を板金3から取り外すことができる。ここで、パネル2の長孔21の幅w1は、突出部14の距離Lよりも狭い。このため、締結具1をパネル2から抜き取る操作を行わなければ、締結具1をパネル2に取り付けたままパネル2を取り外すことができる。締結具1をパネル2から取り外す必要があるときは、2本の腕部13を摘まんで互いに近づける向きに撓ませる。すると、突出部14どうしの距離Lがパネル2の長孔21の幅w1よりも狭まる。そして、そのまま、締結具1を長孔21から引き抜くことができる。
【0044】
図4は、本発明の締結構造の一実施形態を示した断面斜視図である。
【0045】
また、
図5は、
図4に示した締結構造の模式断面図である。
【0046】
ここには、複数の締結具1が示されている。また、ここには、パネル2と板金3が示されている。パネル2と板金3との間には、パネル2と一体の座面25が配置されている。この座面25は、パネル2のうら面23と板金3との間に、締結具1の締結部12を収容するスペースを確保するためのものである。この座面25は、本発明にいう空間確保部の一例に相当する。なお。この座面25は、板金3に固定されていてもよい。
【0047】
図1あるいは
図3に示したような、パネル2と板金3とを直接に接触させた状態で固定する構造であって、しかも、
図4あるいは
図5に示すように複数の締結具1で固定する構造を考える。この場合、パネル2を板金3から取り外すには、複数の締結具1の全てを取り外しの姿勢に回転させてから、それら複数の締結具1に関し、板金3から一斉に取り外す必要がある。
【0048】
これに対し、
図4,
図5に示す締結構造の場合、パネル2のうら面23と板金3との間に、締結具1の締結部12を収容するスペースが確保されている。このため、パネル2を板金3から取り外すにあたっては、
図4(C),
図5(C)に示すように板金3に固定された締結具1を、1つずつ板金3から外して、その締結部12を座面25で確保されたスペースに配置すればよい。板金3から外した後の締結具1の姿勢は、
図4(A),
図5(A)のような姿勢であってもよく、あるいは
図4(B),
図5(B)のような姿勢であってもよく、1つずつバラバラな姿勢であってもよい。このようにして、締結具1を1つずつ板金3から外し、全ての締結部12を板金3から外すことにより、パネル2を板金3から外すことができる。
【0049】
また、
図1に示す例では、パネル2の長孔21と板金3の長孔31は長手方向の向きが揃っている。2つの長孔21,31の長手方向の向きが揃っていることによって締結具1の締結部12を通過させることができる。
【0050】
これに対し、
図4,
図5に示す締結構造の場合、パネル2の長孔21は横長の孔であり、板金3の長孔31は、縦長の孔である。このため、締結時には、締結具1を次のように操作する。締結具1を、
図4(A),
図5(A)に示す姿勢にして、パネル2の長孔21に挿し込む。その次に、挿込みの向きを回転軸として90°回転させて、
図4(B),
図5(B)に示す姿勢にする。そして、その姿勢のまま、板金3の長孔31に挿し込んで、突当部11をパネル2のおもて面22に突き当てる。その状態で再び回転させると、
図4(C),
図5(C)のように、パネル2と板金3が突当部11と締結部12との間に挟まれて固定される。
【0051】
パネル2を板金3から取り外すときは、
図4(C),
図5(C)の状態にある締結具1を回して、締結部12の向きを板金3の長孔31と揃った姿勢とする。そして、板金3から引き抜いて、
図4(B),
図5(B)に示すように、締結部12を、座面25により確保された空間に配置する。ただし、締結具1を再び回転させて
図4(A),
図5(A)に姿勢にする必要はない。締結具1は、
図4(B),
図5(B)に示す姿勢にあるときは、パネル2の長孔21から抜け落ちることはない。パネル2を板金3に固定している締結具1が複数存在しているときは、それらのすべての締結具1を
図4(B),
図5(B)に示した状態とする。これにより、パネル2を板金3から取り外すことができる。
【0052】
なお、
図4,
図5に示した締結構造に採用されている締結具1は、
図2に示した締結具1と同一のものである。ただし、
図4,
図5に示した締結構造に採用する締結具は、
図2に示した締結具1と比べ、以下のように変更された構造を有する締結具であってもよい。すなわち、上述した通り、
図4(B),
図5(B)に示したように、締結部12が座面25により確保された空間に配置されてパネル2の長孔21の向きとは合わない向きにあるときは、締結具1はパネル2の長孔21から抜け落ちることはない。したがって、長孔21の形状等を工夫して摩擦等を利用することにより、意識的に姿勢を変えようとしない限り、
図4(B),
図5(B)の姿勢から
図4(A),
図5(A)の姿勢には容易には変更されないようにしておく。そうすれば、
図2に示した、抜け止め用の突出部14は不要となる。また、腕部13を弾性的に撓む構造としているのは、孔に挿し込んだ時に突出部14を通過させるためである。したがって、突出部14が不要になれば、腕部13を撓ませる必要がなく、したがって腕部13は剛体であってもよい。また、腕部13は1本でよい。
【0053】
ただし、
図2に示した構造の締結具1を採用して、
図4(A),
図5(A)の姿勢に変更されても、突出部14の作用により締結具1がパネル2から容易には抜け落ちない締結構造としてもよい。
【0054】
以下、締結構造の他の変形例について説明する。
【0055】
図6は、締結構造の第1変形例を示した図である。ここでは、
図3に示した締結構造との相違点について説明する。
【0056】
この
図6の場合、パネル2の長孔21の幅w1が突出部14の先端部どうしの距離Lよりも広く、一方、板金3の長孔31の幅w2は突出部14の距離Lよりも狭い。このため、
図6(B)のように板金3とパネル2とを固定している締結具1を回転させて
図6(A)に示す姿勢に変更しても、板金3から直ちに抜けることが防止される。第一実施形態を考慮すれば、抜け止め用の突出部は、締結解除の状態において、パネル2から抜け落ちないようにされてもよく、板金3から抜け落ちないようにされていてもよいことになる。
【0057】
この、板金3の長孔31の幅w2が狭いという構造と、
図4、
図5に示した、長孔21,31の向きが互いに異なっている構造とを組み合させると、突出部14の存在により板金3から直ちには抜けず、長孔21の向きの関係でパネル2からも抜け落ちにくい締結構造とすることができる。
【0058】
図7は、締結構造の第2変形例を示した図である。ここでも、
図3に示した締結構造との相違点について説明する。
【0059】
この
図7の場合、パネル2の長孔21と板金3の長孔31の幅w1,w2が同じ寸法であって、双方が突出部14の先端部どうしの距離Lよりも狭い。このため、突出部14は、板金3とパネル2との双方に対して抜け止めの作用を成す。
【0060】
この、パネル2の長孔21と板金3の長孔31の幅w1,w2の双方が狭いという構造と、
図4、
図5に示した、長孔21,31の向きが互いに異なっている構造とを組み合させると、板金3から直ちには抜けず、パネル2からもさらに抜け落ちにくい締結構造が実現する。
【0061】
図8は、締結具の第2実施形態を示した平面図(A)および側面図(B)である。ここでは、
図2に示した締結具1と共通する要素には
図2において付した符号をそのまま用い、
図2に示した締結具1との相違点について説明する。
【0062】
この
図8に示した締結具1は、
図2の締結具1の梁部15に代わり、突当部11と一体のスライドアーム11eと、基部10と一体のアーム受け部16を備えている。アーム受け部16には、スライドアーム11eを案内する案内溝16aが形成されている。スライドアーム11eは案内溝16a内をスライドする。このスライドにより突当部11と締結部12との間の距離Dが変化する。この距離Dを板金3とパネル2の、締結される部分の厚みに応じた距離に調整し、ビス17を案内溝16aの底面に食い込ませるようにねじ込んで、スライドアーム11eをアーム受け部16に固定する。締結具1に、このような、距離Dを調整する機能を持たせると、1種類の締結具1で、パネル2や板金3の厚みが異なる複数の用途に対応することができる。
【0063】
図9は、締結具の第3実施形態を示した平面図(A)および側面図(B)である。ここでも、
図2に示した締結具1と共通する要素には
図2において付した符号をそのまま用い、
図2に示した締結具1との相違点について説明する。
【0064】
この
図9の締結具1の、
図2の締結部1の基部10に相当する部分は、2本の腕部13の根元を互いに繋げているだけであって、この
図9に示した締結具1には、突当部11を固定している基部10は存在しない。そして、突当部11は2つに分かれていて、各々が各々の腕部13と一体化されている。このように、突当部11を固定している基部10がなくても、同等の機能を持つ締結具1を構成することができる。また、この
図9の締結具1の場合、パネル2のおもて面22側から見たときに、パネル2のおもて面22側に突き出る部分が小さくて済み、デザイン上有利である。
【0065】
以上の各実施形態および各変形例によれば別部品を追加することなく抜け止めの機能を有する締結具および締結構造が実現する。
【符号の説明】
【0066】
1 締結具
2 パネル
3 板金
10 基部
11突当部
11a 孔
11b 突当面
11c 舌部
11d 突起
11e スライドアーム
12 締結部
13 腕部
14 突出部
15 梁部
16 アーム受け部
16a 案内溝
17 ビス
21 長孔
22 おもて面
22a 壁部
23 うら面
24 窪み
25 座面
31 長孔