(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20240228BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20240228BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/138 A
B60T17/18
(21)【出願番号】P 2020053649
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059458(JP,A)
【文献】特開2020-032962(JP,A)
【文献】特開2020-001439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00
B60T 13/138
B60T 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ブレーキ圧を供給可能な第1圧力供給部と、
前記第1圧力供給部に第1液路を介して接続され、前記第1液路から入力された液圧と第1ホイールシリンダの液圧との間に第1差圧を発生させる第1液圧出力部と、
前記第1圧力供給部とは独立して第2ブレーキ圧を供給可能な第2圧力供給部と、
前記第2圧力供給部に第2液路を介して接続され、前記第2液路から入力された液圧と第2ホイールシリンダの液圧との間に第2差圧を発生させる第2液圧出力部と、
前記第1液路と前記第2液路との間を接続する連通路に設けられ、前記連通路を開閉する電磁弁である連通制御弁と、
前記第1液路において、前記第1液路と前記連通路との接続部よりも前記第1圧力供給部側に設けられた電磁弁であるカット弁と、
前記第1差圧の目標値である第1目標差圧、及び前記第2差圧の目標値である第2目標差圧を設定する設定部と、
を備え、
前記設定部は、前記連通制御弁が閉弁し且つ前記カット弁が開弁した特定状態において、前記第1ブレーキ圧及び前記第2ブレーキ圧に基づいて前記第1目標差圧及び前記第2目標差圧を設定
し、
前記第2圧力供給部は、シリンダと、電気モータと、前記電気モータの駆動により前記シリンダ内を軸方向一方側に摺動するピストンと、前記ピストンを軸方向他方側に付勢する付勢部材と、を備える電動シリンダであり、
前記設定部は、前記特定状態が形成され且つ前記第2圧力供給部が非通電状態である場合、前記第2ブレーキ圧を0に設定して前記第1目標差圧及び前記第2目標差圧を設定する車両用制動装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記特定状態が形成され且つ前記第2圧力供給部が非通電状態である場合、前記第1ホイールシリンダの液圧と前記第2ホイールシリンダの液圧とが同圧となるように前記第1目標差圧及び前記第2目標差圧を設定する請求項
1に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許第5631937号明細書に記載されているように、マスタシリンダと、電動シリンダと、ESCアクチュエータと、を備えた車両用制動装置が知られている。この車両用制動装置は、2つの系統に対して、マスタシリンダとESCアクチュエータとで液圧を出力可能に構成されている。また、例えば特許第6202741号明細書にも、マスタシリンダ、電動シリンダ、及びESCアクチュエータを備えた車両用制動装置が開示されている。この装置において、マスタシリンダは1系統のみに接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5631937号明細書
【文献】特許第6202741号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、発明者は、ESCアクチュエータの各系統に入力される液圧が、車両用制動装置の状態(例えば正常状態又は失陥状態)によって変わり得ることに新たに着目した。各系統の入力液圧が異なっているにもかかわらず、差圧制御弁の目標差圧が両系統で同じ値に設定された場合、系統間でホイール圧に差が発生する。車両用制動装置が意図せずに系統間でホイール圧に差が生じることは、系統の配置によっては、車両の挙動安定性の低下につながる。
【0005】
本発明の目的は、装置の状態が変化した場合でも、適切に各系統のホイール圧を調圧することができる車両用制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用制動装置は、第1ブレーキ圧を供給可能な第1圧力供給部と、前記第1圧力供給部に第1液路を介して接続され、前記第1液路から入力された液圧と第1ホイールシリンダの液圧との間に第1差圧を発生させる第1液圧出力部と、前記第1圧力供給部とは独立して第2ブレーキ圧を供給可能な第2圧力供給部と、前記第2圧力供給部に第2液路を介して接続され、前記第2液路から入力された液圧と第2ホイールシリンダの液圧との間に第2差圧を発生させる第2液圧出力部と、前記第1液路と前記第2液路との間を接続する連通路に設けられ、前記連通路を開閉する電磁弁である連通制御弁と、前記第1液路において、前記第1液路と前記連通路との接続部よりも前記第1圧力供給部側に設けられた電磁弁であるカット弁と、前記第1差圧の目標値である第1目標差圧、及び前記第2差圧の目標値である第2目標差圧を設定する設定部と、を備え、前記設定部は、前記連通制御弁が閉弁し且つ前記カット弁が開弁した特定状態において、前記第1ブレーキ圧及び前記第2ブレーキ圧に基づいて前記第1目標差圧及び前記第2目標差圧を設定し、前記第2圧力供給部は、シリンダと、電気モータと、前記電気モータの駆動により前記シリンダ内を軸方向一方側に摺動するピストンと、前記ピストンを軸方向他方側に付勢する付勢部材と、を備える電動シリンダであり、前記設定部は、前記特定状態が形成され且つ前記第2圧力供給部が非通電状態である場合、前記第2ブレーキ圧を0に設定して前記第1目標差圧及び前記第2目標差圧を設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、装置の状態が特定状態になった場合、第1液圧出力部には第1ブレーキ圧が入力され、第2液圧出力部には第2ブレーキ圧が入力される。ここで、設定部は、第1ブレーキ圧と第2ブレーキ圧との差を認識した上で、第1目標差圧及び第2目標差圧を設定することができる。これにより、特定状態においても、例えば両系統のホイール圧を同レベル(例えば同圧)にすることが可能となる。本発明によれば、装置の状態が変化した場合でも、適切に各系統のホイール圧を調圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の車両用制動装置の構成図である。
【
図2】第1実施形態のアクチュエータの構成図である。
【
図3】第1実施形態の制御例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。また、説明に用いる各図は概念図である。
【0010】
<第1実施形態>
第1実施形態の車両用制動装置1は、
図1に示すように、上流ユニット11と、下流ユニットを構成するアクチュエータ3と、第1ブレーキECU901と、第2ブレーキECU902と、電源装置903と、を備えている。上流ユニット11は、下流ユニットに基礎液圧を供給可能に構成されている。
【0011】
上流ユニット11は、電動シリンダ(「第2圧力供給部」に相当する)2と、マスタシリンダ(「第1圧力供給部」に相当する)4と、第1液路51と、第2液路52と、連通路53と、ブレーキ液供給路54と、連通制御弁61と、マスタカット弁(「カット弁」に相当する)62と、を備えている。
【0012】
第1ブレーキECU901は、少なくとも上流ユニット11を制御する。第2ブレーキECU902は、少なくともアクチュエータ3を制御する。第1ブレーキECU901及び第2ブレーキECU902は制御装置を構成している。なお、
図1は、車両用制動装置1の非通電状態を表している。
【0013】
電動シリンダ2は、第1ホイールシリンダ81、82及び第2ホイールシリンダ83、84にブレーキ圧を供給可能な加圧ユニットである。第1実施形態において、マスタシリンダ4が供給する液圧(マスタ圧)は第1ブレーキ圧に相当し、電動シリンダ2が供給する液圧は第2ブレーキ圧に相当する。以下、電動シリンダ2の出力液圧を第2ブレーキ圧と称する。電動シリンダ2は、マスタシリンダ4とは独立して第2ブレーキ圧を供給可能に構成されている。
【0014】
第1ホイールシリンダ81、82は第1系統のホイールシリンダであり、第2ホイールシリンダ83、84は第2系統のホイールシリンダである。第1系統は第1液路51を介してブレーキ液が供給される系統であり、第2系統は第2液路52を介してブレーキ液が供給される系統である。第1実施形態では、第1ホイールシリンダ81は右前輪に設けられ、第1ホイールシリンダ82は左後輪に設けられ、第2ホイールシリンダ83は左前輪に設けられ、第2ホイールシリンダ84は右後輪に設けられている。つまり、第1実施形態の系統の配置は、クロス配管(X配管)となっている。
【0015】
電動シリンダ2は、シリンダ21と、電気モータ22と、ピストン23と、出力室24と、付勢部材25と、を有する。電気モータ22は、回転運動を直線運動に変換する直動機構22aを介してピストン23に接続されている。電動シリンダ2は、シリンダ21内に単一の出力室24が形成されているシングルタイプの電動シリンダである。
【0016】
ピストン23は、電気モータ22の駆動によりシリンダ21内を軸方向に摺動する。ピストン23は、軸方向一方側に開口し軸方向他方側に底面を有する有底円筒状に形成されている。つまり、ピストン23は、開口を形成する筒状部分と、底面(受圧面)を形成する円柱部分と、を備えている。
【0017】
出力室24は、シリンダ21とピストン23により区画されピストン23の移動により容積が変化する。出力室24は、リザーバ45及びアクチュエータ3に接続されている。ピストン23は、出力室24とリザーバ45との間を連通させる連通領域、及び出力室24とリザーバ45との間を遮断する遮断領域で構成された摺動領域を摺動する。連通領域は、出力室24の容積が最大となるピストン23の初期位置を含んでいる。遮断領域は、軸方向において、連通領域よりも大きい。
【0018】
付勢部材25は、出力室24に配置され、ピストン23を軸方向他方側に(初期位置に向けて)付勢するばねである。電動シリンダ2が非通電状態になると、電気モータ22が停止し、付勢部材25によりピストン23は初期位置に戻される。
【0019】
アクチュエータ3は、第1ホイールシリンダ81、82を調圧可能に構成された第1液圧出力部31と、第2ホイールシリンダ83、84を調圧可能に構成された第2液圧出力部32と、を備える調圧ユニット(下流ユニット)である。アクチュエータ3は、電動シリンダ2に接続されている。
【0020】
第1液圧出力部31は、第1液路51から入力された液圧と第1ホイールシリンダ81、82の液圧との間に第1差圧を発生させることで第1ホイールシリンダ81、82を加圧するように構成されている。第2液圧出力部32は、第2液路52から入力された液圧と第2ホイールシリンダ83、84の液圧との間に第2差圧を発生させることで第2ホイールシリンダ83、84を加圧するように構成されている。
【0021】
アクチュエータ3は、いわゆるESCアクチュエータであって、各ホイールシリンダ81~84の液圧を独立に調圧することができる。アクチュエータ3は、第2ブレーキECU902の制御に応じて、例えばアンチスキッド制御(ABS制御とも呼ばれる)、横滑り防止制御(ESC)、又はトラクションコントロール等を実行する。第1液圧出力部31と第2液圧出力部32とは、アクチュエータ3の液圧回路上、互いに独立している。アクチュエータ3の構成については後述する。
【0022】
マスタシリンダ4は、第1液路51を介して、第1液圧出力部31にマスタ圧(マスタ室41aの液圧)を供給可能な圧力供給ユニットである。より詳細に、マスタシリンダ4は、リザーバ45に接続され、ブレーキ操作部材Zの操作量(ストローク及び/又は踏力)に応じて機械的にアクチュエータ3の第1液圧出力部31にブレーキ液を供給するユニットである。マスタシリンダ4は、第1液圧出力部31を介して第1ホイールシリンダ81、82を加圧可能に構成されている。マスタシリンダ4は、シリンダ41と、ピストン42と、を備えている。
【0023】
シリンダ41は、有底円筒状の部材である。シリンダ41には、入力ポート411と出力ポート412が形成されている。ピストン42は、ブレーキ操作部材Zの操作量に応じて、シリンダ41内を摺動するピストン部材である。ピストン42は、軸方向一方側に開口し軸方向他方側に底面を有する有底円筒状に形成されている。
【0024】
シリンダ41内には、ピストン42により単一のマスタ室41aが形成されている。換言すると、マスタシリンダ4には、シリンダ41とピストン42とにより1つのマスタ室41aが形成されている。マスタ室41aの容積は、ピストン42の移動により変化する。ピストン42が軸方向一方側に移動すると、マスタ室41aの容積が小さくなり、マスタ圧が増大する。マスタ室41aには、ピストン42を初期位置に向けて(軸方向他方側に)付勢する付勢部材41bが設けられている。ブレーキ操作が解除されると、付勢部材41bによりピストン42が初期位置に戻される。第1実施形態のマスタシリンダ4は、シングルタイプのマスタシリンダである。
【0025】
出力ポート412は、マスタ室41aと第1液路51とを連通させる。入力ポート411は、ピストン42の筒状部分に形成された貫通孔421を介して、マスタ室41aとリザーバ45とを連通させる。マスタ室41aの容積が最大となるピストン42の初期位置において、入力ポート411と貫通孔421とはオーバーラップし、マスタ室41aとリザーバ45とが連通する。ピストン42が初期位置から軸方向一方側に所定量(オーバーラップ距離)移動すると、マスタ室41aとリザーバ45との接続が遮断される。
【0026】
マスタシリンダ4には、シミュレータカット弁44を介してストロークシミュレータ43が接続されている。ストロークシミュレータ43は、ブレーキ操作部材Zの操作に対して反力(負荷)を発生させる装置である。ストロークシミュレータ43は、例えばシリンダ、ピストン、及び付勢部材により構成される。ストロークシミュレータ43とシリンダ41の出力ポート412とは、液路43aにより接続されている。シミュレータカット弁44は、液路43aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。
【0027】
(液路と電磁弁)
第1液路51は、マスタ室41aと第1液圧出力部31とを接続している。第2液路52は、電動シリンダ2と第2液圧出力部32とを接続している。連通路53は、第1液路51と第2液路52とを接続している。
【0028】
連通制御弁61は、連通路53に設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。連通制御弁61は、電動シリンダ2による第1液圧出力部31へのブレーキ液の供給を許可又は禁止する。連通制御弁61は、閉弁時の第1ホイールシリンダ81、82から電動シリンダ2へのブレーキ液の逆流を防ぐため、弁体が弁座よりも第1ホイールシリンダ81、82側(第1系統側)に配置されている。これにより、連通制御弁61閉弁時に第1ホイールシリンダ81、82の液圧が電動シリンダ2の出力圧よりも高くなっても、弁体には弁座に押し付けられる方向に力が加わるため(セルフシールされ)、閉弁が維持される。
【0029】
マスタカット弁62は、第1液路51のうち、第1液路51と連通路53との接続部50と、シリンダ41との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。換言すると、マスタカット弁62は、第1液路51における接続部50よりもマスタシリンダ4側の部分に設けられている。マスタカット弁62は、マスタシリンダ4から第1液圧出力部31へのブレーキ液の供給を許可又は禁止する。
【0030】
ブレーキ液供給路54は、リザーバ45と電動シリンダ2の入力ポート211とを接続している。入力ポート211は、2つのシール部材の間に形成されている。なお、リザーバ45は、ブレーキ液を貯留し、内部の圧力は大気圧に保たれている。また、リザーバ45の内部は、各々ブレーキ液が貯留された2つの部屋451、452に区画されている。リザーバ45の一方の部屋451にはマスタシリンダ4が接続され、他方の部屋452にはブレーキ液供給路54を介して電動シリンダ2が接続されている。リザーバ45は、2つの部屋でなく、2つの別々のリザーバで構成されてもよい。
【0031】
(アクチュエータの構成例)
アクチュエータ3の構成例について、第1ホイールシリンダ81に接続された液路を例に簡単に説明する。アクチュエータ3の第1液圧出力部31は、
図2に示すように、主に、液路311と、差圧制御弁312と、保持弁313と、減圧弁314と、ポンプ315と、電気モータ316と、リザーバ317と、還流液路317aと、圧力センサ75と、を備えている。
【0032】
液路311は、第1液路51と第1ホイールシリンダ81とを接続している。圧力センサ75は、液路311に設置されている。圧力センサ75は、第1液路51から第1液圧出力部31への入力液圧を検出する。差圧制御弁312は、ノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブである。差圧制御弁312の開度(電磁力による閉弁側への力)が制御されることで、上下流間に差圧を発生させることができる。第1液路51から第1ホイールシリンダ81へのブレーキ液の流通のみを許可するチェックバルブ312aが差圧制御弁312と並列に設けられている。
【0033】
保持弁313は、液路311のうち差圧制御弁312と第1ホイールシリンダ81との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。また、チェックバルブ313aが保持弁313と並列に設けられている。減圧弁314は、減圧液路314aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。減圧液路314aは、液路311のうち保持弁313と第1ホイールシリンダ81との間の部分と、リザーバ317とを接続している。
【0034】
ポンプ315は、電気モータ316の駆動力により作動する。ポンプ315は、ポンプ液路315aに設けられている。ポンプ液路315aは、液路311のうち差圧制御弁312と保持弁313との間の部分(以下「分岐部X」という)と、リザーバ317とを接続している。ポンプ315が作動すると、リザーバ317内のブレーキ液が分岐部Xに吐出される。
【0035】
リザーバ317は、調圧リザーバである。還流液路317aは、第1液路51とリザーバ317とを接続している。リザーバ317は、ポンプ315の作動により、リザーバ317内のブレーキ液が優先的に吸入され、リザーバ317内のブレーキ液が減少すると開弁して還流液路317aを介して第1液路51からブレーキ液が吸入されるように構成されている。
【0036】
第2ブレーキECU902は、アクチュエータ3により第1ホイールシリンダ81を加圧する場合、差圧制御弁312に目標差圧(第1ホイールシリンダ81の液圧>第1液路51の液圧)に応じた制御電流を印加し、差圧制御弁312を閉弁させる。この際、保持弁313は開弁しており、減圧弁314は閉弁している。また、ポンプ315が作動することで、第1液路51からリザーバ317を介して分岐部Xにブレーキ液が供給される。これにより、第1ホイールシリンダ81が加圧される。
【0037】
第1ホイールシリンダ81の液圧(以下「ホイール圧」ともいう)と第1液路51の液圧との差が目標差圧を超えて高くなろうとすると、力の大小関係から差圧制御弁312が開弁する。加圧後のホイール圧は、第1液路51の液圧と、目標差圧との和になる。このように、アクチュエータ3は、上流ユニット11からの入力液圧(基礎液圧)とホイール圧との間に差圧を発生させることで、ホイールシリンダ81~84を加圧する。アクチュエータ3は、加圧制御において、基礎液圧に影響を与えず、基礎液圧に対して付加圧(差圧分の液圧)を付加する。
【0038】
第2ブレーキECU902は、アンチスキッド制御等によりアクチュエータ3によりホイール圧を減圧する場合、減圧弁314を開弁させ且つ保持弁313を閉弁させた状態でポンプ315を作動させ、ホイールシリンダ81内のブレーキ液を減少させる。第2ブレーキECU902は、アクチュエータ3によりホイール圧を保持する場合、保持弁313及び減圧弁314を閉弁させる。電動シリンダ2又はマスタシリンダ4の作動のみによりホイール圧を加圧又は減圧する場合、第2ブレーキECU902は、差圧制御弁312及び保持弁313を開弁し、減圧弁314を閉弁させる。
【0039】
(ブレーキECU及び各種センサ)
第1ブレーキECU901及び第2ブレーキECU902(以下「ブレーキECU901、902」ともいう)は、それぞれCPUやメモリを備える電子制御ユニットである。各ブレーキECU901、902は、各種制御を実行する1つ又は複数のプロセッサを備えている。第1ブレーキECU901と第2ブレーキECU902とは、別個のECUであって、互いに情報(制御情報等)を通信可能に接続されている。
【0040】
第1ブレーキECU901は、電動シリンダ2及び各電磁弁61、62、44に制御可能に接続されている。第2ブレーキECU902は、アクチュエータ3に制御可能に接続されている。各ブレーキECU901、902は、各種センサの検出結果に基づいて各種制御を実行する。各種センサとして、車両用制動装置1には、例えば、ストロークセンサ71、圧力センサ72、73、75、レベルスイッチ74、車輪速度センサ(図示略)、及び加速度センサ(図示略)等が設けられている。
【0041】
ストロークセンサ71は、ブレーキ操作部材Zのストロークを検出する。車両用制動装置1には、各ブレーキECU901、902に一対一で対応するように、2つのストロークセンサ71が設けられている。ブレーキECU901、902は、それぞれ対応するストロークセンサ71からストローク情報を取得する。圧力センサ72は、マスタ圧を検出するセンサであって、例えば第1液路51のうちマスタカット弁62よりもシリンダ41側の部分に設けられている。圧力センサ73は、電動シリンダ2の出力液圧(第1ブレーキ圧)を検出するセンサであって、例えば第2液路52に設けられている。レベルスイッチ74は、リザーバ45に設けられ、リザーバ45の液面レベルが所定値未満になったことを検出する。
【0042】
第1ブレーキECU901は、ストロークセンサ71、圧力センサ72、73、及びレベルスイッチ74の検出結果を受信し、当該検出結果に基づいて電動シリンダ2及び各電磁弁61、62、44を制御する。第1ブレーキECU901は、圧力センサ72、73の検出結果及びアクチュエータ3の制御状態に基づいて、各ホイール圧を演算することができる。
【0043】
第2ブレーキECU902は、ストロークセンサ71及び圧力センサ75の検出結果を受信し、当該検出結果に基づいてアクチュエータ3を制御する。第2ブレーキECU902は、圧力センサ75及びアクチュエータ3の制御状態に基づいて、各ホイール圧を演算することができる。なお、各種センサは、ブレーキECU901、902の両方に検出結果を送信するように構成されてもよい。
【0044】
第2ブレーキECU902は、設定部91を備えている。設定部91は、第1差圧(第1液路51の液圧と第1ホイールシリンダ81、82の液圧との差圧)の目標値である第1目標差圧、及び第2差圧(第2液路52の液圧と第2ホイールシリンダ83、84の液圧との差圧)の目標値である第2目標差圧を設定する。設定部91の詳細は後述する。
【0045】
電源装置903は、各ブレーキECU901、902に電力を供給する装置である。電源装置903は、バッテリを備えている。電源装置903は、両ブレーキECU901、902に接続されている。つまり、第1実施形態では、2つのブレーキECU901、902に共通の電源装置903から電力が供給される。
【0046】
(通常制御)
第1ブレーキECU901は、状況に応じて、通常制御を実行する。通常制御は、連通制御弁61及びシミュレータカット弁44を開弁し且つマスタカット弁62を閉弁し、電動シリンダ2により第1ホイールシリンダ81、82及び第2ホイールシリンダ83、84の液圧を調整する制御(制御モード)である。
【0047】
通常制御は、マスタシリンダ4とホイールシリンダ81~84とを液圧的に切り離し、ブレーキECU901、902の制御によりホイール圧を調整するいわゆるバイワイヤモードを形成する。具体的に、第1ブレーキECU901は、マスタカット弁62が閉弁され且つシミュレータカット弁44及び連通制御弁61が開弁された状態で、ストロークセンサ71が検出したデータを基に電動シリンダ2を駆動させる。第1ブレーキECU901は、ストロークセンサ71の検出結果に基づいて目標減速度及び目標ホイール圧を設定し、実際のホイール圧が目標ホイール圧に近づくように電動シリンダ2を制御する。第2ブレーキECU902は、アンチスキッド制御等の実行に際してアクチュエータ3を作動させる。
【0048】
(特定状態における第2ブレーキECUによる制御)
第2ブレーキECU902の設定部91は、連通制御弁61が閉弁し且つマスタカット弁62が開弁した特定状態において、マスタ圧と第2ブレーキ圧とに基づいて第1目標差圧及び第2目標差圧を設定する。
【0049】
特定状態は、例えば第1ブレーキECU901が故障した場合に形成される。第1ブレーキECU901が故障すると、電磁弁61、62、44への制御が不能となり、電磁弁61、62、44への制御電流の印加が停止される。つまり、電磁弁61、62、44は、非通電状態となる。これにより、連通制御弁61は閉弁し、マスタカット弁62は開弁し、シミュレータカット弁44は閉弁する。
【0050】
また、第1ブレーキECU901が故障すると、電動シリンダ2も制御不能となり、電動シリンダ2への制御電流の印加も停止される。つまり、電動シリンダ2は、非通電状態となる。これにより、電気モータ22が停止し、ピストン23は付勢部材25により初期位置に戻される。
【0051】
電動シリンダ2のピストン23が初期位置に位置する場合、第2液圧出力部32とリザーバ45とが電動シリンダ2を介して連通する。これにより、第2ブレーキ圧は0(大気圧)となる。したがって、設定部91は、特定状態が形成され且つ電動シリンダ2が非通電状態である場合、第2ブレーキ圧を0に設定して第1目標差圧及び第2目標差圧を設定する。
【0052】
第2ブレーキECU902は、電気モータ22が停止してから所定時間経過後、ピストン23が初期位置に位置していると判断してもよい。所定時間は、付勢部材25の弾性力に基づいて予め設定されていてもよい。所定時間経過後、設定部91は第2ブレーキ圧を0に設定してもよい。
【0053】
また、特定状態において、マスタシリンダ4は、ブレーキ操作部材Zの操作量に応じてマスタ圧を第1液圧出力部31に供給する。つまり、特定状態において第1液圧出力部31への入力液圧はマスタ圧である。設定部91は、特定状態において、このマスタ圧(例えば圧力センサ75の検出結果)を用いて第1目標差圧及び第2目標差圧を設定する。第1実施形態の設定部91は、特定状態が形成され且つ電動シリンダ2が非通電状態である場合、両系統のホイール圧が同圧となるように第1目標差圧及び第2目標差圧を設定する。
【0054】
図3を参照し、制御例を説明する。第2ブレーキECU902は、第1ブレーキECU901の故障を検出した場合(S101:Yes)、ストロークセンサ71及び圧力センサ75の検出結果に基づいてアクチュエータ3でホイール圧を調圧する(S102)。具体的に、第2ブレーキECU902は、ストロークセンサ71及び圧力センサ75の検出結果に基づいて目標減速度及び目標ホイール圧を演算する。そして、第2ブレーキECU902は、実際のホイール圧が目標ホイール圧に近づくように、マスタ圧及び第2ブレーキ圧に基づいて、第1目標差圧及び第2目標差圧を設定する(S103)。
【0055】
設定部91は、第1系統の目標ホイール圧とマスタ圧とに基づいて第1目標差圧を設定し、第2系統の目標ホイール圧と第2ブレーキ圧とに基づいて第2目標差圧を設定する。より具体的に、目標差圧を設定する際、設定部91は、圧力センサ75の検出結果に基づいて第1液圧出力部31の入力液圧をマスタ圧に設定し、第2液圧出力部32の入力液圧である第2ブレーキ圧を0に設定する。
【0056】
第1系統のホイール圧P1は、マスタ圧Pmに第1目標差圧ΔPt1を加えた値となる(P1=Pm+ΔPt1)。第2系統のホイール圧P2は、第2ブレーキ圧が0であるため、第2目標差圧ΔPt2の値となる(P2=0+ΔPt2)。例えば両系統の目標ホイール圧が同圧である場合、設定部91は、ΔPt2=ΔPt1+Pmを満たすように、第1目標差圧ΔPt1及び第2目標差圧ΔPt2を設定する。第2目標差圧ΔPt2は、目標ホイール圧に設定される。
【0057】
第1ブレーキECU901に関する故障は、例えば、ECUの故障や、電源装置903と第1ブレーキECU901との接続ラインの断線等が挙げられる。また、特定状態に切り替わる状況(又は制御によって切り替える状況)は、第1ブレーキECU901の故障以外にも、上流ユニット11が加圧制御を実行できなくなる故障や、上流ユニット11に含まれる電磁弁の断線等といった故障が発生した場合にも起こり得る。第2ブレーキECU902は、例えば、第1ブレーキECU901との通信が不成立(例えば返信がない又は同期できない等)になると、第1ブレーキECU901に関して故障が発生したと判定する。
【0058】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態によれば、特定状態が形成された場合、第1液圧出力部31にはマスタ圧が入力され、第2液圧出力部32には第2ブレーキ圧が入力される。ここで、設定部91は、マスタ圧と第2ブレーキ圧との差を認識した上で、第1目標差圧及び第2目標差圧を設定することができる。これにより、特定状態においても、例えば両系統のホイール圧を同レベル(例えば同圧)にすることも可能となる。本実施形態によれば、例えば第1ブレーキECU901の故障など装置の状態が変化した場合でも、適切に各系統のホイール圧を調圧することができる。
【0059】
また、第1実施形態では、特定状態が形成され且つ電動シリンダ2が非通電状態である場合、付勢部材25の付勢力により、電動シリンダ2のピストン23は初期位置に位置する。ピストン23が初期位置に位置する場合、電動シリンダ2はリザーバ45と連通するので、第2ブレーキ圧は0である。つまり、この場合、第2目標差圧の設定にあたり、第2液圧出力部32への入力液圧は0に設定される。一方、第1目標差圧は、マスタ圧を基に設定される。ブレーキ操作部材Zが操作されている場合、マスタ圧は0より大きい。ブレーキ操作部材Zが操作されていない場合、マスタ圧は0である。
【0060】
例えば両系統のホイール圧を同圧にする制御を実行する場合、設定部91は、第1目標差圧をマスタ圧分だけ第2目標差圧よりも小さく設定する。このように、第1実施形態によれば、適切に各系統のホイール圧を調圧することができる。また、例えば第1実施形態のように系統の配置がクロス配管である場合、制動時に両系統のホイール圧に差があると、車両の挙動安定性が低下し得る。しかしながら、第1実施形態によれば、両系統のホイール圧を精度良く同圧にすることができる。これにより、特定状態且つ電動シリンダ2非作動時の制動時において、車両の挙動安定性の低下が抑制される。
【0061】
また、車両用制動装置1が2つのブレーキECU901、902を備えているため、冗長性は向上する。一方のECUが故障しても、他方のECUにより電動シリンダ2又はアクチュエータ3が作動し、ホイール圧が調圧され、制動力が発揮される。このように、第1実施形態によれば、装置の状態が変化した場合でも、適切に各系統のホイール圧を調圧することができる。
【0062】
<第2実施形態>
第2実施形態の車両用制動装置では、
図4に示すように、電源装置903が、第1ブレーキECU901に電力を供給する第1電源903aと、第1電源903aから独立して第2ブレーキECU902に電力を供給する第2電源903bと、を備えている。例えば、第1電源903aは第1バッテリを備え、第2電源903bは第1バッテリとは別個の第2バッテリを備えている。これにより、一方の電源又は電源ラインが故障しても他方の電源により第1ブレーキECU901又は第2ブレーキECU902は作動する。つまり、故障等により一方の電源からの給電が停止しても、電動シリンダ2又はアクチュエータ3を作動させることができ、制動力を発生させることができる。第2実施形態によれば、冗長性がさらに向上する。第2実施形態によっても、装置の状態が変化した場合でも、適切に各系統のホイール圧を調圧することができる。
【0063】
<その他>
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、第1圧力供給部と第2圧力供給部とは異なるものでもよいし、同一のものでもよい。上記実施形態では第1圧力供給部の加圧源をマスタシリンダ4とし、第2圧力供給部の加圧源を電動シリンダ2としたが、それらの加圧源はそれぞれマスタシリンダ4と電動シリンダ2とに限定されるものではない。
また、例えば、
図3で示される制御において、目標差圧を設定する場合(S103)、第2ブレーキ圧を0に設定しなくてもよい。また、例えば、電動シリンダ2を非作動状態としてから経過した時間に応じて、推定された第2液路52内の液圧を用いて制御が実行されてもよい。この場合、時間の経過に応じて第2ブレーキ圧を0まで減少させてもよい。
また、第1液路51と第2液路52のうち一方で液漏れが発生している場合に、特定状態に切り替えられてもよい。また、特定状態は、何等かの故障があった場合にのみ形成されるものでなくてもよい。例えば車両用制動装置1は、上流ユニット11の状態にかかわらず特定状態に切り替えてもよい。
また、特定状態において、両系統のホイール圧が同圧となるように第1目標差圧及び第2目標差圧が設定されなくてもよい。車両の目標姿勢や、目標制動力に応じて、第1目標差圧と第2目標差圧とが設定されてもよい。例えば、第1ホイールシリンダ81、82と第2ホイールシリンダ83、84とで異なる圧力となるように、第1目標差圧及び第2目標差圧が設定されてもよい。
【0064】
また、例えば、アクチュエータ3は、ポンプ315に替えて電動シリンダを備えてもよい。また、車両用制動装置1は、電動シリンダ2に替えて、例えばポンプを含む加圧ユニットを備えてもよい。また、本発明は、例えば、回生制動装置を含む車両(ハイブリッド車や電気自動車)、自動ブレーキ制御を実行する車両、又は自動運転車両にも適用できる。
【0065】
特定状態は、故障時に限らず、制御により形成されてもよい。また、設定部91は、第1系統と第2系統とで異なるホイール圧となるように、第1目標差圧及び第2目標差圧を設定してもよい。また、系統の配置は、例えば第1系統のホイールシリンダが前輪に設けられ、第2系統のホイールシリンダが後輪に設けられるように、前後配管でもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…車両用制動装置、2…電動シリンダ(第2圧力供給部)、21…シリンダ、22…電気モータ、23…ピストン、24…出力室、3…アクチュエータ、31…第1液圧出力部、32…第2液圧出力部、4…マスタシリンダ(第1圧力供給部)、41…シリンダ41a…マスタ室、42…マスタピストン、51…第1液路、52…第2液路、53…連通路、54…ブレーキ液供給路、61…連通制御弁、62…マスタカット弁(カット弁)、81、82…第1ホイールシリンダ、83、84…第2ホイールシリンダ、901…第1ブレーキECU、902…第2ブレーキECU、91…設定部、903…電源装置、903a…第1電源、903b…第2電源。