(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】分光分析装置、分光分析装置の動作方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20240228BHJP
G01N 21/552 20140101ALI20240228BHJP
【FI】
G01N21/41 101
G01N21/552
(21)【出願番号】P 2020063469
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】原 理紗
(72)【発明者】
【氏名】猿谷 敏之
(72)【発明者】
【氏名】村山 広大
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 芙美枝
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-090291(JP,A)
【文献】特表2015-513001(JP,A)
【文献】AKIFUMI IKEHATA,Quantitative Analyses of Absorption-Sensitive Surface Plasmon Resonance Near-Infrared Spectra,APPLIED SPECTROSCOPY,2006年,Vol.60 No.7,pp.747-751
【文献】池羽田晶文,吸収応答型表面プラズモン共鳴を用いた高感度近赤外分光法,分光研究,2004年,Vol.53 No.1,pp.30-31,https://doi.org/10.5111/bunkou.53.30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモンが発生する膜に配置された試料に照射光を照射して得られ、前記表面プラズモンの共鳴スペクトルと前記試料の吸収スペクトルとを含む分光スペクトルの情報を含む測定光を検出する検出部と、
前記分光スペクトルにおける、前記共鳴スペクトル及び前記吸収スペクトルが発生する波長帯域でのピーク波長と、所定の波長における吸光度とを導出し、前記ピーク波長と前記吸光度とから、前記試料における含有物質の比率を導出する処理部と、
を有
し、
前記処理部は、前記ピーク波長と前記吸光度のいずれか一方から導出する前記比率が他方から導出する前記比率と一致しないときには、所定の情報を出力する、
分光分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記処理部は、前記分光スペクトルを、前記試料が前記含有物質を含まない状態での分光スペクトルのベースラインにより補正して、前記吸光度を導出する、
分光分析装置。
【請求項3】
請求項1
又は2において、
前記検出部は、産業プロセスにおけるインラインでの前記試料を用いて前記測定光を検出する、
分光分析装置。
【請求項4】
表面プラズモンが発生する膜に配置された試料に照射光を照射して得られ、前記表面プラズモンの共鳴スペクトルと前記試料の吸収スペクトルとを含む分光スペクトルの情報を含む測定光を検出する工程と、
前記分光スペクトルにおける、前記共鳴スペクトル及び前記吸収スペクトルが発生する波長帯域でのピーク波長と、所定の波長における吸光度とを導出し、前記ピーク波長と前記吸光度とから、前記試料における含有物質の比率を導出する工程と、
前記ピーク波長と前記吸光度のいずれか一方から導出する前記比率が他方から導出する前記比率と一致しないときには、所定の情報を出力する工程と、
を含む、分光分析装置による動作方法。
【請求項5】
表面プラズモンが発生する膜に配置された試料に照射光を照射して得られ、前記表面プラズモンの共鳴スペクトルと前記試料の吸収スペクトルとを含む分光スペクトルの情報を含む測定光を検出する工程と、
前記分光スペクトルにおける、前記共鳴スペクトル及び前記吸収スペクトルが発生する波長帯域でのピーク波長と、所定の波長における吸光度とを導出し、前記ピーク波長と前記吸光度とから、前記試料における含有物質の比率を導出する工程と、
前記ピーク波長と前記吸光度のいずれか一方から導出する前記比率が他方から導出する前記比率と一致しないときには、所定の情報を出力する工程と、
をプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分光分析装置、分光分析装置の動作方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液等の試料の状態を分析する技術が知られている。例えば、特許文献1には、カールフィッシャー試薬を用いて試料中の水分量を測定する技術が開示されている。また、特許文献2には、試料に接触する金属層の内表面に光を入射させたときの表面プラズモン減少を利用して、試料の濃度、屈折率等を測定する技術が開示されている。そして、特許文献3には、水吸収計測チップに試料を滴下して光負荷膜を形成し吸光度を測定することで、試料の水分率を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-4611号公報
【文献】特開2015-175780号公報
【文献】特開2008-209170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術には、試料の水分率を測定する精度に向上の余地がある。また従来技術には、測定効率の向上の余地がある。
【0005】
そこで、本開示は、試料の状態の測定精度及び効率の向上を可能とする、分光分析装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における分光分析装置は、表面プラズモンが発生する膜に配置された試料に照射光を照射して得られ、前記表面プラズモンの共鳴スペクトルと前記試料の吸収スペクトルとを含む分光スペクトルの情報を含む測定光を検出する検出部と、前記分光スペクトルにおける、前記共鳴スペクトル及び前記吸収スペクトルが発生する波長帯域でのピーク波長と、所定の波長における吸光度とを導出し、前記ピーク波長と前記吸光度とから、前記試料における含有物質の比率を導出する処理部と、を有する。試料の屈折率に加えて含有物質の吸光度を用いることにより、試料の状態の測定精度及び効率の向上が可能となる。
【0007】
別の態様における分光分析装置では、前記処理部は、前記分光スペクトルを、前記試料が前記含有物質を含まない状態での分光スペクトルのベースラインにより補正して、前記吸光度を導出する。分光スペクトルにベースライン補正処理を行うことにより、含有物質の吸光度の算出精度が向上する。
【0008】
更に別の態様における分光分析装置では、前記処理部は、前記ピーク波長と前記吸光度のいずれか一方から導出する前記比率が他方から導出する前記比率と一致しないときには、所定の情報を出力する。試料の状態が変動しうる場合の測定において、分光分析装置が所定の情報を出力することにより、操作者が早期に試料の状態の変動を察知することができる。
【0009】
更に別の態様における分光分析装置の動作方法は、表面プラズモンが発生する膜に配置された試料に照射光を照射して得られ、前記表面プラズモンの共鳴スペクトルと前記試料の吸収スペクトルとを含む分光スペクトルの情報を含む測定光を検出する工程と、前記分光スペクトルにおける、前記共鳴スペクトル及び前記吸収スペクトルが発生する波長帯域でのピーク波長と、所定の波長における吸光度とを導出し、前記ピーク波長と前記吸光度とから、前記試料における含有物質の比率を導出する工程と、を含む。試料の屈折率に加えて含有物質の吸光度を用いることにより、試料の状態の測定精度及び効率の向上が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、試料の状態の測定精度及び効率の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】分光分析装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】分光分析装置の構成に対応するブロック図である。
【
図4】分光分析装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図5】分光分析装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】分光分析装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図7A】分光分析装置の使用態様の例を説明するための図である。
【
図7B】分光分析装置の使用態様の例を説明するための図である。
【
図7C】分光分析装置の使用態様の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示に関連する技術の一例として、カールフィッシャー水分測定法が挙げられる。カールフィッシャー水分測定法は、試料中の水分量を測定するために用いられる。カールフィッシャー水分測定法は、カールフィッシャー試薬で滴定する容量滴定法と、電解により試薬を発生させて水分を滴定する電量滴定法とを含む。容量滴定法は、反応容器内に収容された試料の水分を抽出する滴定溶媒(脱水溶剤)に試料を加え、ヨウ素、二酸化イオウ、塩基が主成分であるカールフィッシャー試薬で滴定して、滴定溶媒中に浸漬された検出電極によって終点の検出を行う方法である。そして、滴定に要したカールフィッシャー試薬の容量に基づいて、試料中の水分量が求められる。一方、電量滴定法は、カールフィッシャー試薬中のヨウ素がヨウ化物イオンに置き換えられた陽極液を使用し、反応容器内に陽極液及び陰極液を収容し、検出電極が配置された陽極液側で試料を電解酸化する方法である。電解酸化で発生したヨウ素により陽極液からカールフィッシャー試薬が発生し試料中の水分と反応することで試料中の水分が消費される。そして、電解に要する電気量に基づいて、試料中の水分量が求められる。
【0013】
しかしながら、上記のカールフィッシャー水分測定法によると、測定時に試料とカールフィッシャー試薬又は脱水溶剤との混合をするために試料のサンプリングが必要となるので、サンプリングした試料の一部を破棄せざるを得なくなる。また、産業プロセスにおいてインラインの状態で試料を測定するような場合には、試料のサンプリング時と分析時で試料の状態が経時的に変化し得るので、試料の状態をリアルタイムで測定することが困難である。このように、カールフィッシャー水分測定法には、測定効率に向上の余地がある。
【0014】
また、本開示に関連する技術の他の例として、SPR(Surface Plasmon Resonance、表面プラズモン共鳴)センサが挙げられる。SPRセンサは、表面プラズモン共鳴現象を利用して、試料の濃度、あるいは試料の水分率測定に用いられる。SPRセンサは、光源からの光により表面プラズモン共鳴が生じる金属層表面に、滴下される試料と特異的に結合するセンサ膜を設け、センサ膜からの出射光強度を光センサにより検知する。出射光の分光スペクトルにおいてピークを形成する波長(以下、吸収ピーク波長又は単にピーク波長)が求められ、試料の屈折率に応じて吸収ピーク波長の変化が観察される。試料の屈折率は、試料の濃度と相関を有するので、このことを利用し、吸収ピーク波長の変化量から、試料の濃度が求められる。
【0015】
しかしながら、上記のようなSPRセンサにより試料の水分率を測定する場合、吸収ピーク波長の変化は、試料の屈折率変化により生じるところ、屈折率は水分以外の溶媒又は異物が試料に混入した場合、又は試料の温度にも影響を受けて変化しうるので、吸収ピーク波長の変化量が、水分のみに起因するものであるのか、水分以外の要因に起因するものであるのか、区別ができない。よって、水分率の測定精度に改善の余地がある。
【0016】
さらに、本開示に関連する技術の他の例として、光吸収計測チップによる試料中の水分量測定が挙げられる。一例における光吸収計測チップは、内部を光の導波路とした透明基板上に、水と選択的に反応して光の吸収スペクトルが変化するような物質(例えば、Co錯体を担持した多孔質膜)により構成された光負荷膜を備える。この光負荷膜上に試料を滴下すると、透明基板での全反射により光負荷膜にエバネッセント光が洩れ出す際、光負荷膜が滴下された試料中の水分と選択的に反応してエバネッセント光の吸収スペクトルを変化させる。よって、透明基板での全反射により伝搬させた測定光のエバネッセント光により光負荷膜の吸光度を測定することで、試料の光透過率を求め、光透過率に応じた試料中の水分量を測定することができる。
【0017】
しかしながら、上記の光吸収測定チップは、水分子の吸着により不可逆変化を起こすことにより、インライン測定又は同一チップによる連続測定に利用できない。よって、測定効率に向上の余地がある。
【0018】
本開示は、上述した関連技術よりも高精度且つ高効率で試料の状態を測定することを可能にする。以下では、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について主に説明する。
【0019】
図1は、本開示の一実施形態における分光分析装置1の構成を示す図である。分光分析装置1は、表面プラズモンが発生する金属薄膜M上に配置された試料Sの状態を測定して分析する。試料Sは、例えば、各種の溶液、液化ガスを含む。試料Sの状態は、例えば、試料Sにおける含有物質の比率である。含有物質は、例えば、水であり、比率は水分率である。ただし、試料Sの状態は、これに限られず、試料Sにおける成分の種類及び比率を含む成分組成、及びその他試料Sの吸収スペクトルから読み取れる任意の物理的又は化学的なパラメータを含んでもよい。
【0020】
分光分析装置1は、可視域及び近赤外域を含む波長帯域を有する照射光L1を照射する単一の広帯域光源11と、広帯域光源11から照射された照射光L1を導く導光部品12と、導光部品12から出射する照射光L1を平行光に調整する光平行化部品13と、を有する。光平行化部品13から出射した照射光L1は、金属薄膜Mが接合されたプリズム基板Pに入射する。金属薄膜Mは、例えば、金、銀、銅等の薄膜を含む。あるいは、金属薄膜Mの代わりに、表面プラズモンが発生する任意の膜がプリズム基板Pに接合されていてもよい。プリズム基板Pは、例えば、円筒プリズム又は半球プリズムを含む。金属薄膜M上には、試料Sが配置されている。分光分析装置1は、金属薄膜Mとプリズム基板Pとの間の界面を軸中心とした回転機構14を有する。回転機構14は、例えば、光平行化部品13に取り付けられ、照射光L1の金属薄膜Mに対する入射角度を調整する。
【0021】
分光分析装置1は、プリズム基板Pにおいて反射した測定光L2の偏光を制御するための回転機構22を備えた偏光子21と、偏光子21から出射した測定光L2を集光する集光部品23と、を有する。分光分析装置1は、金属薄膜Mとプリズム基板Pとの間の界面を軸中心とした回転機構24を有する。回転機構24は、例えば、集光部品23に取り付けられ、測定光L2の受光角度を調整する。分光分析装置1は、集光部品23により集光された測定光L2を導く導光部品25と、導光部品25を伝搬した測定光L2を検出する分光部26と、を有する。
【0022】
分光分析装置1は、検出された測定光L2に基づいて分光スペクトルの情報を取得する処理部50を有する。分光スペクトルは、例えば、金属薄膜Mにおける表面プラズモンの共鳴スペクトル及び試料Sの吸収スペクトルを含む。分光スペクトルの情報は、所定の波長範囲にわたり取得された分光スペクトル全体のプロファイル情報を含むが、これに限定されず、例えば、固定された一部の波長領域のみを透過させる光学フィルタにより、波長軸に沿った分光スペクトルのプロファイル情報を変換した、測定光L2の光強度の情報を含んでもよい。
【0023】
図2は、分光分析装置1の構成に対応するブロック図である。
図1及び
図2を参照しながら、分光分析装置1の構成についてより詳細に説明する。
【0024】
分光分析装置1は、上述した処理部50に加えて、照射部10と、検出部20と、記憶部30と、入出力部40と、を有する。
【0025】
照射部10は、金属薄膜Mに照射光L1を照射する任意の光学系を含む。例えば、照射部10は、上述した、広帯域光源11と、導光部品12と、光平行化部品13と、回転機構14と、を含む。
【0026】
広帯域光源11は、例えば、可視域及び近赤外域を含む波長帯域を有する照射光L1を照射する単一の光源を含む。導光部品12は、例えば、光ファイバを含んでもよいし、レンズ、ミラー等の空間光学部品を含んでもよい。光平行化部品13は、例えば、レンズ、ミラー等の空間光学部品を含む。回転機構14は、照射光L1の金属薄膜Mに対する入射角度を調整するために、金属薄膜Mとプリズム基板Pとの間の界面を軸中心として光平行化部品13を回転可能な任意の機構を含む。
【0027】
検出部20は、照射部10によって照射された照射光L1に基づく測定光L2であって、分光スペクトルの情報を含む測定光L2を検出する任意の光学系を含む。例えば、検出部20は、上述した、偏光子21と、回転機構22及び24と、集光部品23と、導光部品25と、分光部26と、を含む。
【0028】
回転機構22は、プリズム基板Pにおいて反射した測定光L2の偏光を制御するために偏光子21を回転可能な任意の機構を含む。集光部品23は、例えば、レンズ、ミラー等の空間光学部品を含む。回転機構24は、測定光L2の受光角度を調整するために、金属薄膜Mとプリズム基板Pとの間の界面を軸中心として集光部品23を回転可能な任意の機構を含む。導光部品25は、例えば、光ファイバを含んでもよいし、レンズ、ミラー等の空間光学部品を含んでもよい。分光部26は、例えば、近赤外域の分光素子及び近赤外域検出素子を有する分光器を含む。
【0029】
記憶部30は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を含む任意の記憶モジュールを含む。記憶部30は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。記憶部30は、分光分析装置1の動作に用いられる任意の情報を記憶する。例えば、記憶部30は、検出部20によって検出された分光スペクトルの情報を記憶してもよい。例えば、記憶部30は、システムプログラム、アプリケーションプログラム等を記憶してもよい。記憶部30は、分光分析装置1に内蔵されているものに限定されず、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポートによって接続されている外付け型の記憶モジュールであってもよい。
【0030】
入出力部40は、ユーザの入力を検出し、入力情報を処理部50に送る入力インターフェースを有する。かかる入力インターフェースは、例えば、物理キー、静電容量キー、パネルディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン、各種ポインティングデバイス等を含む任意の入力インターフェースである。また、入出力部40は、処理部50が生成したり記憶部30から読み出したりする情報を、ユーザに対して出力する出力インターフェースを有する。かかる出力インターフェースは、例えば、情報を画像・映像として出力するディスプレイ等の任意の出力インターフェースである。
【0031】
処理部50は、1つ以上のプロセッサを含む。プロセッサは、汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用のプロセッサであるが、これらに限定されない。処理部50は、分光分析装置1を構成する各構成部と通信可能に接続され、分光分析装置1全体の動作を制御する。
【0032】
分光分析装置1では、広帯域光源11から照射された照射光L1は、導光部品12及び光平行化部品13を介して、金属薄膜Mが接合されたプリズム基板Pに入射する。プリズム基板Pの界面で全反射、出射した測定光L2は、プリズム基板Pの界面に対して水平方向の偏光又はプリズム基板Pの界面に対して垂直方向の偏光を切り出すように調整された偏光子21を通過し、集光部品23によって集光される。集光部品23によって集光された測定光L2は、分光部26によって検出される。
【0033】
処理部50は、分光部26から出力された検出情報に基づいて、分光スペクトルの情報を取得する。分光スペクトルは、例えば、金属薄膜Mにおける表面プラズモンの共鳴スペクトルと、試料Sの吸収スペクトルが発生する波長帯域におけるスペクトルとを含む。かかる波長帯域は、例えば、近赤外域に含まれ、例えば、900nm以上2000nm未満の光の波長領域を含む。
【0034】
図3は、処理部50が処理する分光スペクトルの例を示す。
図3には、横軸を測定光L2の波長、縦軸を吸光度として、水分率が異なる有機溶媒を試料Sとしたときのスペクトルが示される。例えば、水分量6%、8%、及び10%の試料Sからそれぞれ得られる吸収スペクトル31、32及び33が示される。吸収スペクトル31、32及び33には、プラズモン共鳴による吸収の増強が生じることにより2400~2300nm付近でピークが形成される帯域と、試料Sの分子の吸収により、2420nm、2350nm及び2310nmにそれぞれピークを持つ有機溶媒の帯域と、1950nmにピークを持つ水の帯域とが含まれる。
【0035】
ここで、プラズモン共鳴により吸収の増強が起こる帯域は、試料Sとプリズム基板Pの屈折率に応じて異なるところ、ピーク波長は試料Sの屈折率に応じて異なり、試料Sの屈折率は含有される水分量に応じて異なるので、ピーク波長は試料Sの水分率に応じて異なる。よって、ピーク波長を特定することにより、試料Sの水分率が求められる。一方、水に起因するピークが形成される帯域に着目すると、吸光度は試料Sにおける水分率に応じて変化する。すなわち、水分率が高いほど吸光度は高くなる。このことを利用し、本実施形態における処理部50は、プラズモン共鳴による増強が生じる帯域でのピーク波長と、水の帯域における吸光度とから、試料Sの水分率を求める。
【0036】
図4は、処理部50による処理動作の手順を説明するためのフローチャート図である。
【0037】
ステップS400において、処理部50は、表面プラズモンの共鳴スペクトル及び試料Sの吸収スペクトルを含む分光スペクトルを、測定光L2から算出する。
【0038】
ステップS402において、処理部50は、測定光L2が情報として有する分光スペクトルのうち、近赤外域の波長帯域(900nm~2500nm)において、吸光度のピークに対応するピーク波長を算出する。
【0039】
ステップS404において、処理部50は、ピーク波長に対応する試料Sの屈折率を導出する。例えば、記憶部30には、実験結果等に基づき予め対応付けられたピーク波長と試料Sの屈折率とが格納されており、処理部50は記憶部30からピーク波長に対応する屈折率を読み出す。
【0040】
ステップS406において、処理部50は、水の帯域(2000nm付近の、例えば1900nm~2050nmの帯域)から水に起因するピークの吸光度を算出する。分光スペクトルにおいて、水のピークは非線形のベースライン上に位置するので、処理部50は、分光スペクトルにおける水の帯域に対しベースライン補正処理を行うことにより、水のピークの吸光度を算出する。試料Sの屈折率に応じてピーク波長が変動するのに伴い水の吸光度が変動するところ、分光スペクトルと異なるピーク波長を有するベースラインでその分光スペクトルに対し補正処理を行った場合には、正確な水の吸光度を得られず、水分率を正確に算出することができない。別言すると、ピーク波長が異なる複数の分光スペクトルに対し同一のベースラインで補正処理をすると、水の吸光度による水分率の算出精度が低下してしまう。そこで、ベースライン補正を行って水の吸光度による水分率を算出する場合には、光平行化部品13を回転することで分光スペクトルのピーク波長をいわば強制的に変動させて、検出される分光スペクトルのピーク波長を既知のベースラインのピーク波長と合致させることで、ベースライン補正によって水の吸光度から水分率を算出する精度を向上させる。例えば、記憶部30には、試料Sの種別毎の、既知のベースラインの情報が予め格納される。測定開始前に、例えば、操作者が試料の種別を指定する入力を入出力部40から行い、処理部50が指定された種別に対応するベースラインの情報を記憶部30から読み出して、水の帯域に対しベースライン補正処理を行うことにより、水の吸光度を算出する。分光スペクトル全体において、水分率の変化に対する水の吸光度の変化は小さいが、水の帯域を対象としてベースライン補正処理を行うことにより、水の吸光度の算出精度が向上する。
【0041】
ステップS408において、処理部50は、試料Sの屈折率と水の吸光度とから、試料Sにおける水分率を導出する。例えば、記憶部30には、実験結果等に基づき対応付けられた、試料Sの屈折率と水の吸光度の組合せと試料Sにおける水分率とが予め格納されており、試料Sの屈折率と水の吸光度の組合せに対応する水分率を読み出す。あるいは、記憶部30には、試料Sの種別毎に、予め実験等により求められた、屈折率に対応する水分率と水の吸光度に対応する水分率とがそれぞれ格納される。処理部50は、記憶部30から、屈折率に対応する水分率と、水の吸光度に対応する水分率とを読み出して、両者を比較する。そして、両者が任意の誤差範囲(例えば±5%)で一致することを条件として、処理部50は一致した水分率(例えば、両者の平均)を、試料Sの屈折率と水の吸光度とから導出した水分率として採用してもよい。なお、本実施形態は、有機溶媒以外の試料の水分率測定にも応用可能である。
【0042】
ステップS410において、処理部50は、試料Sの水分率を出力する。例えば、処理部50は、入出力部40のディスプレイにより水分率を表示する等して、操作者に対し出力する。
【0043】
本実施形態によれば、分光スペクトルのピーク波長に基づき特定される試料Sの屈折率を介して、いわば間接的に試料Sの水分率を導出するだけでなく、水の吸光度も用いて水分率を特定できる。よって、例えば、一般的なSPRセンサと比較したときに、本実施形態によれば、水分率の測定精度の向上が可能になる。また、一般的なSPRセンサで測定精度を担保しようとすると、水分量を測定するための追加的設備が必要になるところ、本実施形態の分光分析装置1によれば、簡便な構成で測定精度の向上を可能にすることができる。
【0044】
また、本実施形態は、例えばカールフィッシャー水分測定法と比較したとき、試料をサンプリングする必要がないので、試料の廃棄による無駄を解消することができ、かつ、サンプリングから測定までの時間差に起因する試料の状態変化の影響を排除できる。そして、水分子の吸着により不可逆変化を起こす光吸収計測チップを用いる場合のように連続測定に困難が生ずるといったこともない。よって、本実施形態によれば、リアルタイムかつ連続的な測定が可能になるので、産業プロセスにおけるインラインでの測定も可能となり、測定効率の向上が可能になる。
【0045】
<変形例1>
図5は、変形例における処理部50による処理動作の手順を説明するためのフローチャート図である。この変形例は、分光分析装置1により、試料に含有される水と水以外の含有物質の存在比を測定する例である。
図4の手順にステップS407が追加され、ステップS408がステップS409で置換された点が、
図4の手順と異なるが、他のステップは
図4と同じである。以下、
図4と異なるステップについて説明し、重複するステップについての説明は省略する。
【0046】
ステップS407において、処理部50は、含有物質の帯域からその含有物質に起因するピークの吸光度を算出する。例えば、記憶部30には、試料Sの種別毎の分光スペクトルのベースラインの情報とともにピーク波長の情報が予め格納される。ピーク波長の情報は、ピークの吸光度の情報を含む。例えば、含有物質がエチレングリコールの場合、入射角度が71°のときのピーク波長は2300nmであり、吸光度は0.7である。測定開始前に、例えば、操作者が試料Sの種別を指定する入力を入出力部40から行うと、ステップS406で水の吸光度を算出する場合と同様に、処理部50は、指定された含有物質に対応するベースラインの情報を読み出して、ピーク波長付近の分光スペクトル(例えば、ピーク波長の±100nmの帯域)に対しベースライン補正処理を行うことにより、含有物質のピークの吸光度を算出する。
【0047】
ステップS409において、処理部50は、試料Sの屈折率、水の吸光度、及び含有物質の吸光度から、試料Sにおける水と含有物質の存在比を導出する。例えば、記憶部30には、実験結果等に基づき対応付けられた、試料Sの屈折率、水の吸光度、及び含有物質の吸光度の組合せと、試料Sにおける水分と含有物質の存在比とが予め格納されている。処理部50は、試料Sの屈折率、水の吸光度、及び物質の吸光度の組合せに対応する水と含有物質の存在比を読み出す。
【0048】
ステップS410において、処理部50は、試料Sにおける水と含有物質の存在比を出力する。例えば、処理部50は、入出力部40のディスプレイにより水と含有物質の存在比を表示する等して、操作者に対し出力する。
【0049】
この変形例によれば、既知の含有物質について分光スペクトルにおけるベースライン情報とピークの情報とを予め測定して記憶部30に格納しておくことで、試料Sにおける水と含有物質の存在比を高精度かつ高効率に測定することが可能になる。なお、存在比を求める含有物質の数は一以上であってもよい。この変形例によれば、各含有物質が既知であって、それぞれのベースライン情報とピークの情報とを予め測定しておくことにより、含有物質の存在比を高精度かつ高効率に測定することが可能になる。
【0050】
<変形例2>
図6は、別の変形例における処理部50による処理動作の手順を説明するためのフローチャート図である。この変形例は、例えば産業プロセスで搬送される試料Sのインライン測定において、試料Sの状態が想定外の変動を示す場合に、そのような変動を検出するための分光分析装置1の動作手順に関する。水のピークの吸光度が不変であるにもかかわらず試料Sの屈折率が変動するような場合、温度変化又は水以外の分子の混入が生じている可能性がある。よって、分光分析装置1の処理部50は、水のピークの吸光度と試料Sの屈折率とを比較することにより、想定外の変動の有無を判断すると警告を出力する。
図6は、
図4の手順におけるステップS408がステップS407´により置換され、ステップS409´及びS412が追加された点が、
図4の手順と異なるが、他のステップは
図4と同じである。以下、
図4と異なるステップについて説明し、重複するステップについての説明は省略する。
【0051】
処理部50は、ステップS404において試料Sの屈折率を導出し、ステップS406において水の吸光度を算出すると、ステップS407´において、屈折率から導出される水分率と、水の吸光度から導出される水分率とを比較する。例えば、記憶部30には、試料Sの種別毎に、予め実験等により求められた、屈折率に対応する水分率と水の吸光度に対応する水分率とが格納される。処理部50は、記憶部30から、屈折率に対応する水分率と、水の吸光度に対応する水分率とを読み出して、両者を比較する。
【0052】
ステップS409´において、屈折率から導出される水分率と水の吸光度から導出される水分率とが任意の誤差範囲(例えば±5%)で一致する場合(「Yes」)、処理部50の処理はステップS410に進み、処理部50は、一致した水分率を出力する。一方、屈折率から導出される水分率と水の吸光度から導出される水分率とが一致しない場合(ステップS409´の「No」)、処理はステップS412に進む。
【0053】
ステップS412において、処理部50は、警告を出力する。例えば、処理部50は、入出力部40のディスプレイにより試料Sの状態が想定外に変動している旨を示す情報を表示する等して、操作者に対し出力する。
【0054】
この変形例によれば、インライン測定等において、操作者が早期に試料Sの状態の想定外の変動を察知することができる。
【0055】
図7A~7Cは、本実施形態における分光分析装置1が利用される態様を示す。
図7A~7Cは、石油精製での最終製品であるナフサを原料とするエチレン製造プロセスのブロックフローを示す。
図7Aに示すように、ナフサは加熱分解炉(クラッカ)により炭素間の結合が切断(クラッキング)され、クラッカを出た分解ガスは、
図7B及び7Cに示すように、数段階にわたって精留、改質、分取され、単一成分に精製される。分光分析装置1は、
図7Aに示すように、分解炉の前後、脱水塔の後に設けられ、また
図7Bに示すように、コールドボックスの後、アセチレン水添反応器の前後、MAPD水添反応器の前後、エチレン精留塔の後、プロピレン精留塔の後に設けられ、さらに、
図7Cに示すように、アセチレン水添塔の前後、コールドボックスの後、エチレン精留塔の後、プロピレン精留塔の後に設けられて、各所を流れる分解ガス等の状態を測定する。
【0056】
図7A~7Cにおいて示すように、本実施形態の分光分析装置1は、各種産業プロセスのインライン測定に用いることができ、試料の状態測定を高精度かつ高効率に行うことを可能にする。
【0057】
本開示は、その本質的な特徴から離れることなく、上述した実施形態以外の形態で実現できることは当業者にとって明白である。従って、上述の説明は例示的であり、これに限定されない
【0058】
例えば、上述した各構成部の配置及び個数等は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の配置及び個数等は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【0059】
また、本開示において、装置を中心に説明してきたが、本開示は装置の各構成部が実行するステップを含む方法、装置が備えるプロセッサにより実行される方法、プログラム、又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【符号の説明】
【0060】
1 分光分析装置
10 照射部
11 広帯域光源
12 導光部品
13 光平行化部品
14、22、24 回転機構
20 検出部
21 偏光子
23 集光部品
25 導光部品
26 分光部
30 記憶部
40 入出力部
50 処理部
L1 照射光
L2 測定光
M 金属薄膜
P プリズム基板
S 試料