(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 27/32 20060101AFI20240228BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240228BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240228BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01F27/32 140
H01F17/00 B
H01F17/04 A
H01F17/04 Z
H01F27/29 123
(21)【出願番号】P 2020074741
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】江田 北斗
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 政太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 耕平
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 隆将
(72)【発明者】
【氏名】大久保 等
(72)【発明者】
【氏名】荒田 正純
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-032625(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0172102(US,A1)
【文献】国際公開第2004/040597(WO,A1)
【文献】特開2014-127718(JP,A)
【文献】特開2015-216336(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0362886(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0115142(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0097441(KR,A)
【文献】特開2017-034227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/32
H01F 17/00-17/08
H01F 27/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体で構成され、互いに平行な一対の端面を有する素体と、
前記一対の端面の対面方向に沿って延在し、貫通孔が設けられた絶縁基板と、
前記素体内において前記絶縁基板の一方面の前記貫通孔周りに形成された平面コイルパターンと、前記絶縁基板の一方面に設けられて前記平面コイルパターンの線間、内周および外周に位置する樹脂壁と、前記平面コイルパターンを前記一対の端面の一方まで引き出す引出配線パターンとを含む第1のコイルと、
前記素体内において前記絶縁基板の他方面の前記貫通孔周りに形成されるとともに前記絶縁基板に貫設されたスルーホール導体を介して前記第1のコイルの前記平面コイルパターンと導通する平面コイルパターンと、前記絶縁基板の一方面に設けられて前記平面コイルパターンの線間、内周および外周に位置する樹脂壁と、前記平面コイルパターンを前記一対の端面の他方まで引き出す引出配線パターンとを含む第2のコイルと、
前記素体内において前記第1のコイルおよび前記第2のコイルのそれぞれの表面を覆う一対の絶縁層と、
前記一対の端面をそれぞれ覆い、前記第1のコイルおよび前記第2のコイルの前記引出配線パターンそれぞれに接続された一対の外部端子電極と
を備え、
前記絶縁層が第1部分と該第1部分よりも前記貫通孔側に位置する第2部分とを有し、前記第2部分の厚さが前記第1部分の厚さより薄
く、
前記絶縁層の厚さが、前記貫通孔側に向かうに従って漸次薄くなっている、コイル部品。
【請求項2】
前記基板の表面を基準にした前記引出配線パターンの高さが前記平面コイルパターンの高さより低い、請求項
1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記絶縁基板の他方面に形成された前記第2のコイルの前記引出配線パターンの形成領域に対応する前記絶縁基板の一方面の領域が、前記素体を構成する前記磁性体の比誘電率より低い比誘電率を有する材料で覆われている、請求項1
または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記素体が、前記絶縁基板に対して平行で、前記絶縁基板の他方面側に位置する実装面を有し、
前記外部端子電極が、前記素体の前記端面と前記実装面とを連続的に覆っており、
前記第2のコイルを覆う前記絶縁層の厚さが、前記第1のコイルを覆う前記絶縁層の厚さより厚い、請求項1~
3のいずれか一項に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコイル部品として、たとえば特許文献1には、絶縁基板上に設けられたコイルパターンと、絶縁基板上において平面コイルパターンの形成領域を画成する樹脂壁と、コイルパターンおよび樹脂壁を一体的に覆う磁性体とを備え、コイルと磁性体との間に絶縁層を介在させたコイル部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した構造のコイル部品は、30MHz以上の高周波帯域におけるノイズフィルターに適用され得る。高周波帯域においてコイル部品のノイズ除去性能を高めるためには、高いインピーダンスが求められる。
【0005】
発明者らは、コイルと磁性体との間に介在する絶縁層を厚くすることで、コイル部品の浮遊容量が低減し、それによりインピーダンスの向上を図ることができるとの知見を得た。
【0006】
しかしながら、コイルと磁性体との間に介在する絶縁層が厚くなると、磁性体の体積低減に伴う磁気ボリュームの低下を招き、インダクタンスが低下してしまう。
【0007】
本発明は、浮遊容量を低減しつつ、インダクタンスの向上を図ることができるコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係るコイル部品は、磁性体で構成され、互いに平行な一対の端面を有する素体と、一対の端面の対面方向に沿って延在し、貫通孔が設けられた絶縁基板と、素体内において絶縁基板の一方面の貫通孔周りに形成された平面コイルパターンと、絶縁基板の一方面に設けられて平面コイルパターンの線間、内周および外周に位置する樹脂壁と、平面コイルパターンを一対の端面の一方まで引き出す引出配線パターンとを含む第1のコイルと、素体内において絶縁基板の他方面の貫通孔周りに形成されるとともに絶縁基板に貫設されたスルーホール導体を介して第1のコイルの平面コイルパターンと導通する平面コイルパターンと、絶縁基板の一方面に設けられて平面コイルパターンの線間、内周および外周に位置する樹脂壁と、平面コイルパターンを一対の端面の他方まで引き出す引出配線パターンとを含む第2のコイルと、素体内において第1のコイルおよび第2のコイルのそれぞれの表面を覆う一対の絶縁層と、一対の端面をそれぞれ覆い、第1のコイルおよび第2のコイルの引出配線パターンそれぞれに接続された一対の外部端子電極とを備え、絶縁層が第1部分と該第1部分よりも貫通孔側に位置する第2部分とを有し、第2部分の厚さが第1部分の厚さより薄い。
【0009】
上記コイル部品においては、絶縁層の第1部分を第2部分より厚くすることで、平面コイルパターンと外部端子電極との間に生じる浮遊容量の低減が図れている。その上、第2部分が第1部分より薄いため、素体の磁気ボリュームを増大することができ、インダクタンスの向上が図られる。
【0010】
他の形態に係るコイル部品では、絶縁層の厚さが、貫通孔側に向かうに従って漸次薄くなっている。
【0011】
他の形態に係るコイル部品では、基板の表面を基準にした引出配線パターンの高さが平面コイルパターンの高さより低い。
【0012】
他の形態に係るコイル部品では、絶縁基板の他方面に形成された第2のコイルの引出配線パターンの形成領域に対応する絶縁基板の一方面の領域が、素体を構成する磁性体の比誘電率より低い比誘電率を有する材料で覆われている。
【0013】
他の形態に係るコイル部品では、素体が、絶縁基板に対して平行で、絶縁基板の他方面側に位置する実装面を有し、外部端子電極が、素体の端面と実装面とを連続的に覆っており、第2のコイルを覆う絶縁層の厚さが、第1のコイルを覆う絶縁層の厚さより厚い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、浮遊容量を低減しつつ、インダクタンスの向上を図ることができるコイル部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係るコイル部品の概略斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すコイル部品のIII-III線断面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すコイル部品の製造工程の一部を示した図である。
【
図6】
図6は、
図1に示すコイル部品の製造工程の一部を示したである。
【
図7】
図7は、
図1に示すコイル部品の製造工程の一部を示した図である。
【
図8】
図8は、異なる形態のコイル部品を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
図1~3を参照しつつ、実施形態に係るコイル部品の構造について説明する。説明の便宜上、図示のようにXYZ座標を設定する。すなわち、コイル部品の厚さ方向をZ方向、外部端子電極の対面方向をX方向、Z方向とX方向とに直交する方向をY方向と設定する。
【0018】
コイル部品10は、平面コイル素子であり、直方体形状を呈する素体12と、素体12の表面に設けられた一対の外部端子電極14A、14Bとによって構成されている。コイル部品10は、一例として、長辺2.5mm、短辺2.0mm、高さ0.8~1.2mmの寸法で設計される。
【0019】
素体12は、X方向において対面するとともに互いに平行な一対の端面12a、12bと、Z方向において対面するとともに互いに平行な上面12cおよび下面12dと、Y方向において対面するとともに互いに平行な一対の側面12e、12fとを有する。素体12の下面12dは、コイル部品1が実装される実装基板に対向する実装面である。一対の外部端子電極14A、14Bは、一対の端面12a、12bの全面をそれぞれ覆い、かつ、上面12c、下面12dおよび側面12e、12f側に回りこんで各面12c、12d、12e、12fの一部を覆っている。
【0020】
素体12は、磁性体26により構成されており、絶縁基板20と、絶縁基板20に設けられたコイルCとを内部に有する。
【0021】
絶縁基板20は、非磁性の絶縁材料で構成された板状部材である。絶縁基板20は、
図2に示すように、X方向に沿って延在するとともに、素体12の上面12cおよび下面12dに平行である。絶縁基板20は、その厚さ方向から見て略楕円環状の形状を有し、その中央部分には楕円形の貫通孔20cが設けられている。絶縁基板20としては、ガラスクロスにエポキシ系樹脂が含浸された基板を用いることができる。なお、エポキシ系樹脂のほか、BTレジン、ポリイミド、アラミド等を用いることもできる。絶縁基板20の材料としては、セラミックやガラスを用いることもできる。絶縁基板20の材料としては、大量生産されているプリント基板材料が好ましく、特にBTプリント基板、FR4プリント基板、あるいはFR5プリント基板に用いられる樹脂材料が最も好ましい。絶縁基板20の厚さは、たとえば10~60μmであり、40~60μmであることが好ましい。絶縁基板20の比誘電率は、たとえば5.0以下であり、4.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。
【0022】
コイルCは、絶縁基板20の一方面20a(
図2における上面)に設けられた第1のコイル22Aと、絶縁基板20の他方面20b(
図2における下面)に設けられた第2のコイル22Bと、絶縁基板20の貫通孔20cの外縁において絶縁基板20を厚さ方向に貫くスルーホール導体25とを備えて構成されている。
【0023】
第1のコイル22Aおよび第2のコイル22Bはそれぞれ、貫通孔20c周りに巻回された平面渦巻状の平面コイルパターン23と、平面コイルパターン23の外周端を素体12の端面12a、12bまで引き出す引出配線パターン27を有する。第1のコイル22Aおよび第2のコイル22Bはいずれも、絶縁基板20上に形成されたシードパターンを用いた電解めっきにより形成されためっきコイルであり、Cuなどの導体材料で形成され得る。
【0024】
平面コイルパターン23のうち、第1のコイル22Aの第1の平面コイルパターン23Aは、上方向(Z方向)から見て外側に向かって右回りに巻回されている。第1の平面コイルパターン23Aの内周端に位置する接続端部は、スルーホール導体25に接続されている。第1の平面コイルパターン23Aの高さ(絶縁基板20の厚さ方向に関する上面20aを基準とした長さ)は全長に亘って同一である。
【0025】
引出配線パターン27のうち、第1のコイル22Aの第1の引出配線パターン27Aは、第1の平面コイルパターン23Aの外周端を素体12の端面12aまで引き出している。第1の引出配線パターン27Aは、素体12の端面12aにおいて露出し、端面12aを覆う外部端子電極14Aと接続されている。第1の引出配線パターン27Aの高さは、第1の平面コイルパターン23Aの高さよりも低くなっている。
【0026】
平面コイルパターン23のうち、第2のコイル22Bの第2の平面コイルパターン23Bは、上方向(Z方向)から見て外側に向かって左回りに巻回されている。すなわち、第2の平面コイルパターン23Bは、上方向から見て、第1の平面コイルパターン23Aとは反対の方向に巻回されている。第2の平面コイルパターン23Bの内周端に位置する接続端部は、第1の平面コイルパターン23Aの接続端部と、絶縁基板20の厚さ方向において位置合わせされており、スルーホール導体25に接続されている。第2の平面コイルパターン23Bの高さは全長に亘って同一であり、第1の平面コイルパターン23Aの高さと同一となるように設計することができる。
【0027】
引出配線パターン27のうち、第2のコイル22Bの第2の引出配線パターン27Bは、第1の平面コイルパターン23Aの外周端を素体12の端面12bまで引き出している。第2の引出配線パターン27Bは、素体12の端面12bにおいて露出し、端面12bを覆う外部端子電極14Bと接続されている。第2の引出配線パターン27Bの高さは、第2の平面コイルパターン23Bの高さよりも低くなっている。
【0028】
スルーホール導体25は、第1の平面コイルパターン23Aの接続端部と第2の平面コイルパターン23Bの接続端部とを接続する。スルーホール導体25は、絶縁基板20に設けられた孔と、その孔に充填された導電材料(たとえばCu等の金属材料)とで構成され得る。スルーホール導体25は、絶縁基板20の厚さ方向に延びる略円柱状または略角柱状の外形を有する。スルーホール導体25の位置は、貫通孔20cの外縁(すなわち、貫通孔の近傍)であってもよく、貫通孔20cから所定距離だけ離れた位置であってもよい。
【0029】
また、第1のコイル22Aおよび第2のコイル22Bはそれぞれ樹脂壁24を有する。樹脂壁24のうち、第1のコイル22Aの樹脂壁24Aは第1の平面コイルパターン23Aの線間、内周および外周に位置しており、第2のコイル22Bの樹脂壁24Bは第2の平面コイルパターン23Bの線間、内周および外周に位置している。
【0030】
本実施形態では、平面コイルパターン23の内周および外周に位置する樹脂壁24は、平面コイルパターン23の線間に位置する樹脂壁24よりも厚くなるように設計されている。特に、平面コイルパターン23の外周に位置するとともに絶縁基板20を介して引出配線パターン27と重なる最外樹脂壁24’は、平面コイルパターン23の内周および線間に位置する樹脂壁24よりも厚くなっている。
【0031】
樹脂壁24は、絶縁性の樹脂材料で構成されている。樹脂壁24は、平面コイルパターン23を形成する前に絶縁基板20上に設けることができ、この場合には樹脂壁24において画成された壁間において平面コイルパターン23がめっき成長される。すなわち、絶縁基板20上に設けられた樹脂壁24によって、平面コイルパターン23の形成領域が画成される。樹脂壁24は、平面コイルパターン23を形成した後に絶縁基板20上に設けることができ、この場合には平面コイルパターン23に樹脂壁24が充填や塗布等により設けられる。
【0032】
樹脂壁24の高さ(すなわち、絶縁基板20の厚さ方向に関する長さ)は、平面コイルパターン23の高さと同一になるように設計されている。樹脂壁24の高さは、平面コイルパターン23より高くなるように設計することもできる。この場合、樹脂壁24の高さと平面コイルパターン23との高さが同じである場合に比べて、樹脂壁24を介して隣り合う平面コイルパターン23間の沿面距離の延長が図られる。それにより、隣り合う平面コイルパターン23間において短絡が生じる事態の抑制が図られる。
【0033】
磁性体26は、絶縁基板20およびコイルCを一体的に覆っている。より詳しくは、磁性体26は、絶縁基板20およびコイルCを上下方向から覆うとともに、絶縁基板20およびコイルCの外周を覆っている。また、磁性体26は、絶縁基板20の貫通孔20cの内部およびコイルCの内側領域を充たしている。
【0034】
磁性体26は、金属磁性粉含有樹脂で構成されている。金属磁性粉含有樹脂は、金属磁性粉体がバインダ樹脂により結着された結着粉体である。磁性体26の誘電率はたとえば150.0~300.0(一例として195.0)である。磁性体26を構成する金属磁性粉含有樹脂の金属磁性粉は、たとえば鉄ニッケル合金(パーマロイ合金)、カルボニル鉄、アモルファス、非晶質または結晶質のFeSiCr系合金、センダスト、Fe-Si系合金等で構成されている。バインダ樹脂は、たとえば熱硬化性のエポキシ樹脂である。本実施形態では、結着粉体における金属磁性粉体の含有量は、体積パーセントでは80~92vol%であり、質量パーセントでは95~99wt%である。磁気特性の観点から、結着粉体における金属磁性粉体の含有量は、体積パーセントで85~92vol%、質量パーセントで97~99wt%であってもよい。磁性体26を構成する金属磁性粉含有樹脂の磁性粉は、1種類の平均粒径を有する粉体であってもよく、複数種類の平均粒径を有する混合粉体であってもよい。
【0035】
素体12には、さらに一対の絶縁層40A、40Bが設けられており、絶縁層40A、40Bにより第1のコイル22Aおよび第1のコイル22Aのそれぞれの表面が覆われている。一対の絶縁層40A、40Bのうちの第1の絶縁層40Aは、絶縁基板20の上面20aに設けられた第1の平面コイルパターン23A、第1の引出配線パターン27Aおよび樹脂壁24Aの表面(上端面)を一体的に覆っている。一対の絶縁層40A、40Bのうちの第2の絶縁層40Bは、絶縁基板20の下面20bに設けられた第2の平面コイルパターン23B、第2の引出配線パターン27Bおよび樹脂壁24Bの表面(下端面)を一体的に覆っている。
【0036】
絶縁層40A、40Bは、たとえばフォトレジスト材料等の樹脂で構成されており、絶縁性を有する。絶縁層40A、40Bの比誘電率はたとえば3.0~5.0(一例として3.8)である。絶縁層40A、40Bは、貫通孔20c側(すなわち、コイルCのコイル軸側)に向かうに従って厚さが漸次薄くなっている。
図4に示すように、たとえば第1の絶縁層40Aにおいて、平面コイルパターン23の最外周ターン23aを覆う部分を第1被覆部41、中間ターン23bを覆う部分を第2被覆部42、最内周ターン23cを覆う部分を第3被覆部43とすると、第1被覆部41、第2被覆部42、第3被覆部43の順に厚さが漸次薄くなっている。また、第1の絶縁層40Aは、平面コイルパターン23の外周に位置する樹脂壁24(最外樹脂壁24’)、平面コイルパターン23の線間に位置する樹脂壁24、平面コイルパターン23の内周に位置する樹脂壁24の順に、厚さが漸次薄くなっている。第1の絶縁層40Aは、最外樹脂壁24’を覆う部分において最も厚くなっている。絶縁層40A、40Bの最大厚みはたとえば20~50μm(一例として35μm)であり、最小厚みはたとえば5~20μm(一例として10μm)である。
【0037】
絶縁層40A、40Bは、
図5~7に示す工程を経て形成され得る。すなわち、
図5に示すように、絶縁基板20に複数のコイルCが設けられた中間製品50が製造され、その後の工程において中間製品50は個片に切り分けられる。中間製品50では、隣り合うコイルCの引出配線パターン27同士が繋がっている。
図6は、上述した絶縁層40A、40Bとなるレジストフィルム60を中間製品50全体に被せる工程を示しており、複数のコイルCそれぞれがレジストフィルム60によって覆われる。
図6では、中間製品50の一方面からレジストフィルム60を被せる様子を示しているが、レジストフィルム60は中間製品50の両面にそれぞれ被せられる。
図7に示すように、コイルCがレジストフィルム60によって覆われると、隣り合うコイルCの最外樹脂壁24’同士が付き合わされている領域(
図7の破線で示した領域)では、レジストフィルム60の位置および形状は保持される。一方、絶縁基板20の貫通孔20c周辺のレジストフィルム60は、貫通孔20cに流れ込むように変形し、貫通孔20c周辺ではレジストフィルム60の薄化が生じる。その結果、コイルCの外周側よりも内周側のほうが薄くなった絶縁層40A、40Bが得られる。
【0038】
以上において説明した通り、コイル部品10の絶縁層40A、40Bでは、第1被覆部41(第1部分)に比べて、第1被覆部41より貫通孔20c側に位置する第2被覆部42および第3被覆部43(第2部分)の厚さが薄くなっている。コイル部品10においては、絶縁層40A、40Bの第1被覆部41を第2被覆部42および第3被覆部43より厚くすることで、平面コイルパターン23と外部端子電極14A、14Bとの間に生じる浮遊容量の低減が実現されている。たとえば、
図4に示した平面コイルパターン23の最外周ターン23aと外部端子電極14Aとの電位差に起因して、両者の間には浮遊容量が生じ得る。ただし、両者の間に介在する第1の絶縁層40Aの第1被覆部41が厚いため、浮遊容量が効果的に低減されている。また、コイル部品10においては、絶縁層40A、40Bの第2被覆部42および第3被覆部43が第1被覆部41より薄いため、素体12の外形寸法を保ちつつ磁気ボリュームの増大が図られており、それにより高いインダクタンスが実現されている。
【0039】
特に、平面コイルパターン23の最内周ターン23cの近傍は、コイル部品10のインダクタンスに大きく寄与するため、第3被覆部43を薄くして最内周ターン23c近傍の磁気ボリュームを増大させることで、コイルCのインダクタンスが効果的に高められている。
【0040】
また、コイル部品10においては、引出配線パターン27の高さが平面コイルパターン23の高さより低くなっている。それにより、引出配線パターン27を覆う部分の絶縁層40A、40Bではより一層の厚膜化が図られている。
【0041】
さらに、コイル部品10においては、
図3に示すように、第2のコイル22Bの第2の引出配線パターン27Bの形成領域に対応する上面20aの領域が最外樹脂壁24’で覆われている。同様に、第1のコイル22Aの第1の引出配線パターン27Aの形成領域に対応する下面20bの領域が最外樹脂壁24’で覆われている。最外樹脂壁24’は、素体12を構成する磁性体26の誘電率より低い誘電率を有する材料で構成されているため、平面コイルパターン23の最外周ターン23aと外部端子電極14A、14Bとの間に生じる浮遊容量の低減が図られている。最外樹脂壁24’は、他の樹脂壁24とは別体で設けられてもよく、他の樹脂壁24とは異なる材料で構成されてもよい。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、様々な態様をとり得る。
【0043】
たとえば、絶縁層の厚さは、貫通孔側に向かうに従って漸次薄くなる態様以外であってもよく、たとえばステップ状に薄くなる態様であってもよい。また、一対の絶縁層の両方において貫通孔側に向かうに従って厚さを薄くする必要はなく、少なくともいずれか一方の絶縁層において貫通孔側に向かうに従って厚さを薄くすればよい。
【0044】
さらに、外部端子電極は、
図8に示すようなL字状断面を有する形状であってもよい。この場合、外部端子電極14A、14Bはそれぞれ、素体12の端面12a、12bと下面12dとを連続的に覆っており、下面12dを覆う下面被覆部14aを含む。下面被覆部14aは、第2のコイル22Bの第2の平面コイルパターン23Bに対して、コイル部品10の厚さ方向(Z方向)において対面する。そのため、外部端子電極14A、14Bの下面被覆部14aと第2の平面コイルパターン23Bとの電位差に起因して、両者の間には浮遊容量が生じ得る。外部端子電極14A、14Bの下面被覆部14aと第2の平面コイルパターン23Bとの間の浮遊容量は、
図8に示すように、第2のコイル22Bを覆う第2の絶縁層40Bの厚さを、第1のコイル22Aを覆う第1の絶縁層40Aの厚さより厚くすることで低減される。
【符号の説明】
【0045】
10…コイル部品、12…素体、14A、14B…外部端子電極、20…絶縁基板、22A…第1のコイル、22B…第2のコイル、23…平面コイルパターン、24…樹脂壁、26…磁性体、40A、40B…絶縁層、C…コイル。