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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】ネジ締め装置、およびネジ締め方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 19/06 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
B23P19/06 M
B23P19/06 K
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020092246
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021186909
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
(72)【発明者】
【氏名】辻原 清人
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 正悟
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-266157(JP,A)
【文献】特開平06-064573(JP,A)
【文献】特開2005-138230(JP,A)
【文献】特開平10-045067(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0070632(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ネジ穴が設けられた第1部材、および螺合用の第2ネジ穴が設けられた第2部材からなる2つの締結対象物をネジにより締結するネジ締め装置であって、
前記第2ネジ穴の軸方向に垂直な垂直方向における、前記第1部材、および前記第2部材の相対的位置を測定する距離測定器と、
前記第1ネジ穴に挿入された前記ネジを保持するとともに、螺合用の前記第2ネジ穴に対して、該ネジを螺合させるネジ締め部と、
前記ネジ締め部を前記垂直方向に沿って移動させる移動機構と、
前記距離測定器の測定値に応じて、前記ネジ締め部、および前記移動機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記ネジ締め部により前記ネジを前記第2ネジ穴に螺合させることで、前記第1、第2部材を仮締め状態にし、前記ネジを保持した前記ネジ締め部を前記移動機構により前記垂直方向に移動させて前記第2部材の前記第1部材に対する相対的位置を目標範囲内の中央値付近に仮調整し、
前記距離測定器で前記第1部材、および前記第2部材の前記相対的位置を測定しながら、前記ネジ締め部により前記ネジをさらに締め、前記相対的位置が前記目標範囲外となった場合、前記ネジ締め部により前記ネジを緩め、
前記目標範囲外となったときの前記距離測定器の測定値に基づいて決定した調整方向に所定の調整量分だけ、前記移動機構により、前記ネジ締め部を移動させた後、再度、前記ネジを締める、
ネジ締め装置。
【請求項2】
前記第1ネジ穴は、長穴であり、
前記調整方向は、前記垂直方向であって、かつ、前記長穴の長径方向において、前記目標範囲外となった位置への移動方向と反対方向である、請求項1に記載のネジ締め装置。
【請求項3】
前記目標範囲を、前記ネジの締め量に応じて変化させる、請求項1、または請求項2に記載のネジ締め装置。
【請求項4】
前記ネジの前記締め量は、前記ネジの回転量により求めたものである、請求項3に記載のネジ締め装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記調整量を、
前記仮調整時における、前記ネジの締め量、および距離測定器の測定値、ならびに
前記目標範囲外になったときの、前記ネジの締め量、および距離測定器の測定値、に基づいて決定する、請求項1から請求項4のいずれかに記載のネジ締め装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記ネジが本締めされる締め量を用いて、外挿することで、前記調整量を決定する、請求項5に記載のネジ締め装置。
【請求項7】
さらに、前記ネジが本締めされた締め量になったことを検出する本締め検出部を備え、
前記制御部は、前記本締め検出部により検出した本締めの締め量を記憶し、そのときの締め量から、所定の締め量分だけ緩めた状態を、前記仮締め状態とする、請求項1から請求項6のいずれかに記載のネジ締め装置。
【請求項8】
第1ネジ穴が設けられた第1部材、および螺合用の第2ネジ穴が設けられた第2部材からなる2つの締結対象物をネジにより締結するネジ締め方法であって、
ネジ締め部により前記ネジを前記第2ネジ穴に螺合させることで、前記第1、第2部材を仮締め状態にするステップ(a)と、
前記ネジを保持した前記ネジ締め部を移動機構により前記第2ネジ穴の軸方向に垂直な垂直方向に移動させて前記第2部材の前記第1部材に対する相対的位置を目標範囲内の中央値付近に仮調整するステップ(b)と
距離測定器で前記第1部材、および第2部材の前記相対的位置を測定しながら、前記ネジ締め部により前記ネジをさらに締め、前記相対的位置が前記目標範囲外となった場合、前記ネジ締め部により前記ネジを緩めるステップ(c)と、
前記目標範囲外となったときの前記距離測定器の測定値に基づいて決定した調整方向に所定の調整量分だけ、前記移動機構により、前記ネジ締め部を移動させるステップ(d)と、
前記ステップ(d)の後、再度、前記ネジを締めるステップ(e)と、を含む処理を行うネジ締め方法。
【請求項9】
前記第1ネジ穴は、長穴であり、
前記調整方向は、前記垂直方向であって、かつ、前記長穴の長径方向において、前記目標範囲外となった位置への移動方向と反対方向である、請求項8に記載のネジ締め方法。
【請求項10】
前記目標範囲を、前記ネジの締め量に応じて変化させる、請求項8、または請求項9に記載のネジ締め方法。
【請求項11】
前記ネジの前記締め量は、前記ネジの回転量により求めたものである、請求項10に記載のネジ締め方法。
【請求項12】
前記ステップ(d)では、前記調整量を、
前記仮調整時における、前記ネジの締め量、および距離測定器の測定値、ならびに
前記目標範囲外になったときの、前記ネジの締め量、および距離測定器の測定値、に基づいて決定する、請求項8から請求項11のいずれかに記載のネジ締め方法。
【請求項13】
前記ステップ(d)では、前記ネジが本締めされる締め量を用いて外挿することで、前記調整量を決定する、請求項12に記載のネジ締め方法。
【請求項14】
さらに、前記処理は、前記ネジが本締めされた締め量になったことを検出するステップ(f)を含み、
前記ステップ(a)では、前記ステップ(f)で検出した本締めの締め量を記憶し、そのときの締め量から、所定の締め量分だけ緩めた状態を、前記仮締め状態とする、請求項8から請求項13のいずれかに記載のネジ締め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ締め装置、およびネジ締め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの部材をネジ止めする際に、仮締めした状態で位置を合わせ、その後に実際の状況を想定して作業を行う必要がある(特許文献1)。特許文献1では、車体ドアのドアパネルにドアガラスを取り付ける自動車のドア組立方法が開示されている。この組立方法においては、水平状態の定盤上でドアパネルにドアガラスをネジにより仮締め固定し、その後、定盤を90度傾けて、定盤上の車体ドアを実際の正立した状態にする。そして、正立した状態で、ドアガラスの位置を測定し、これをドアガラス基準位置データと比較してドアガラスの位置補正量を算出する。そして再び定盤を水平状態に戻し、算出した位置補正量分だけ、ドアガラスの位置補正を行った上で、ドアガラスをドアパネルに対して本締めして固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-64573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、仮締めした後で位置合わせをしたとしても、その後の本締めに至る過程において、ネジを螺合により締め付ける際に、ネジの皿と締結対象物の部材とが接する面において発生する摩擦力により、部材の位置ずれが発生するおそれがある。
【0005】
特許文献1の組立方法では、このような本締めに致る過程で発生する位置ずれを補正できず、高精度な取り付けができない虞がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高精度に2つの締結対象物の位置を合わせた状態でネジ締めして、締結することが可能なネジ締め装置、およびネジ締め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0008】
(1)第1ネジ穴が設けた第1部材、および螺合用の第2ネジ穴が設けられた第2部材からなる2つの締結対象物をネジにより締結するネジ締め装置であって、
前記第2ネジ穴の軸方向に垂直な垂直方向における、前記第1部材、および前記第2部材の相対的位置を測定する距離測定器と、
前記第1ネジ穴に挿入された前記ネジを保持するとともに、螺合用の前記第2ネジ穴に対して、該ネジを螺合させるネジ締め部と、
前記ネジ締め部を前記垂直方向に沿って移動させる移動機構と、
前記距離測定器の測定値に応じて、前記ネジ締め部、および前記移動機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記ネジ締め部により前記ネジを前記第2ネジ穴に螺合させることで、前記第1、第2部材を仮締め状態にし、前記ネジを保持した前記ネジ締め部を前記移動機構により前記垂直方向に移動させて前記第2部材の前記第1部材に対する相対的位置を目標範囲内の中央値付近に仮調整し、
前記距離測定器で前記第1部材、および前記第2部材の前記相対的位置を測定しながら、前記ネジ締め部により前記ネジをさらに締め、前記相対的位置が前記目標範囲外となった場合、前記ネジ締め部により前記ネジを緩め、
前記目標範囲外となったときの前記距離測定器の測定値に基づいて決定した調整方向に所定の調整量分だけ、前記移動機構により、前記ネジ締め部を移動させた後、再度、前記ネジを締める、
ネジ締め装置。
【0009】
(2)前記第1ネジ穴は、長穴であり、
前記調整方向は、前記垂直方向であって、かつ、前記長穴の長径方向において、前記目標範囲外となった位置への移動方向と反対方向である、上記(1)に記載のネジ締め装置。
【0010】
(3)前記目標範囲を、前記ネジの締め量に応じて変化させる、上記(1)、または上記(2)に記載のネジ締め装置。
【0011】
(4)前記ネジの前記締め量は、前記ネジの回転量により求めたものである、上記(3)に記載のネジ締め装置。
【0012】
(5)前記制御部は、前記調整量を、
前記仮調整時における、前記ネジの締め量、および距離測定器の測定値、ならびに
前記目標範囲外になったときの、前記ネジの締め量、および距離測定器の測定値、に基づいて決定する、上記(1)から上記(4)のいずれかに記載のネジ締め装置。
【0013】
(6)前記制御部は、前記ネジが本締めされる締め量を用いて、外挿することで、前記調整量を決定する、上記(5)に記載のネジ締め装置。
【0014】
(7)さらに、前記ネジが本締めされた締め量になったことを検出する本締め検出部を備え、
前記制御部は、前記本締め検出部により検出した本締めの締め量を記憶し、そのときの締め量から、所定の締め量分だけ緩めた状態を、前記仮締め状態とする、上記(1)から上記(6)のいずれかに記載のネジ締め装置。
【0015】
(8)第1ネジ穴が設けられた第1部材、および螺合用の第2ネジ穴が設けられた第2部材からなる2つの締結対象物をネジにより締結するネジ締め方法であって、
ネジ締め部により前記ネジを前記第2ネジ穴に螺合させることで、前記第1、第2部材を仮締め状態にするステップ(a)と、
前記ネジを保持した前記ネジ締め部を移動機構により前記第2ネジ穴の軸方向に垂直な垂直方向に移動させて前記第2部材の前記第1部材に対する相対的位置を目標範囲内の中央値付近に仮調整するステップ(b)と
距離測定器で前記第1部材、および第2部材の前記相対的位置を測定しながら、前記ネジ締め部により前記ネジをさらに締め、前記相対的位置が前記目標範囲外となった場合、前記ネジ締め部により前記ネジを緩めるステップ(c)と、
前記目標範囲外となったときの前記距離測定器の測定値に基づいて決定した調整方向に所定の調整量分だけ、前記移動機構により、前記ネジ締め部を移動させるステップ(d)と、
前記ステップ(d)の後、再度、前記ネジを締めるステップ(e)と、を含む処理を行うネジ締め方法。
【0016】
(9)前記第1ネジ穴は、長穴であり、
前記調整方向は、前記垂直方向であって、かつ、前記長穴の長径方向において、前記目標範囲外となった位置への移動方向と反対方向である、上記(8)に記載のネジ締め方法。
【0017】
(10)前記目標範囲を、前記ネジの締め量に応じて変化させる、上記(8)、または上記(9)に記載のネジ締め方法。
【0018】
(11)前記ネジの前記締め量は、前記ネジの回転量により求めたものである、上記(10)に記載のネジ締め方法。
【0019】
(12)前記ステップ(d)では、前記調整量を、
前記仮調整時における、前記ネジの締め量、および距離測定器の測定値、ならびに
前記目標範囲外になったときの、前記ネジの締め量、および距離測定器の測定値、に基づいて決定する、上記(8)から上記(11)のいずれかに記載のネジ締め方法。
【0020】
(13)前記ステップ(d)では、前記ネジが本締めされる締め量を用いて外挿することで、前記調整量を決定する、上記(12)に記載のネジ締め方法。
【0021】
(14)さらに、前記処理は、前記ネジが本締めされた締め量になったことを検出するステップ(f)を含み、
前記ステップ(a)では、前記ステップ(f)で検出した本締めの締め量を記憶し、そのときの締め量から、所定の締め量分だけ緩めた状態を、前記仮締め状態とする、上記(8)から上記(13)のいずれかに記載のネジ締め方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るネジ締め装置は、垂直方向における、第1部材、および前記第2部材の相対的位置を測定する距離測定器と、前記第1ネジ穴に挿入された前記ネジを保持するとともに、螺合用の前記第2ネジ穴に対して、該ネジを螺合させるネジ締め部と、前記ネジ締め部を前記垂直方向に沿って移動させる移動機構と、前記距離測定器の測定値に応じて、前記ネジ締め部、および前記移動機構を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記ネジ締め部により前記ネジを前記第2ネジ穴に螺合させることで、前記第1、第2部材をガタがない仮締め状態にし、前記ネジを保持した前記ネジ締め部を前記移動機構により前記垂直方向に移動させて前記第2部材の前記第1部材に対する相対的位置を目標範囲内の中央値付近に仮調整し、前記距離測定器で前記第1部材、および前記第2部材の相対的位置を測定しながら、前記ネジ締め部により前記ネジをさらに締め、前記相対的位置が前記目標範囲外となった場合、前記ネジ締め部により前記ネジを緩め、前記目標範囲外となったときの測定値に基づいて決定した調整方向に所定の調整量分だけ、前記移動機構により、前記ネジ締め部を移動させた後、再度、前記ネジを締める。これにより、高精度に2つの締結対象物の位置を合わせた状態でネジ締めして、締結することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係るネジ締め装置の全体構成を示す模式図である。
図2】ネジ締め装置のブロック図である。
図3】第1の実施形態に係るネジ締め装置で実行されるネジ締め処理を示すフローチャートである。
図4図3のネジ締め処理における、相対的位置の目標範囲と、ネジ締め量の推移を示す図である。
図5】変形例1において上下の閾値をネジ締め量に応じて変化させる例を示す図である。
図6】変形例2において調整値を外挿により求める手順を説明する図である。
図7】変形例3において本締め量を求める手順を説明する図である。
図8】第2の実施形態に係るネジ締め装置で実行されるネジ締め処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0025】
図1は、本実施形態に係るネジ締め装置10の全体構成を示す模式図である。図2は、ネジ締め装置10のブロック図である。
【0026】
図1図2に示すように、ネジ締め装置10は、制御部11、記憶部12、距離測定器13、ネジ締め部14、および移動機構15を有する。ネジ締め装置10は、2つの締結対象物としての、第1部材91、および第2部材92をネジ95により固定する。第1部材91、および第2部材92の一方は、例えば、締結時には、第1部材91は定盤等の固定保持部(図示せず)により固定される。また、距離測定器13も同じ固定保持部に支持される。ネジ締め装置10は、第1部材91、および第2部材92が予め定めた相対的な位置関係になるようにネジ95により締結する。具体的には、ネジ締め装置10は、固定支持された第1部材91に対して、第2部材92が所定の位置関係になるよう位置調整した上で、ネジ95により固定、締結する。第1部材91には長穴の第1ネジ穴91aが設けられ、第2部材92には雌ネジとしての螺合用の第2ネジ穴92a(ネジ切り溝)が設けられている。ネジ95は、例えば皿ナジ、またはナベナジであり、ヘッドにプラスドライバー用の溝が形成されている。
【0027】
第2ネジ穴92a、およびネジ95のネジ部95aの軸方向(ネジ締め方向)がZ方向である。Z方向に垂直な面がXY平面である。以下の説明では、Y方向は、長穴である第1ネジ穴91aの長径方向に一致し、第2部材92、およびネジ95は、移動機構15によりY方向に移動可能であり、距離測定器13は、同じY方向における第1、第2部材91、92の位置を測定するものとして説明する。しかしながら、長径方向、移動可能な方向、および距離測定器13の測定方向は、Y方向に限られず、XY平面上に沿った任意の方向であってよい。なお、以下においては、Y方向を高さ方向、Y方向の位置を高さ位置ともいう。
【0028】
(制御部11)
制御部11は、CPU等により構成され、後述の記憶部12に格納されているプログラムを実行することで、各種処理を実行し、プログラムにしたがって装置各部の制御や各種の演算処理を行う。制御部11は、距離測定器13、ネジ締め部14、および移動機構15を制御する。
【0029】
(記憶部12)
記憶部12は、予め各種プログラムや各種データを格納しておくROM、作業領域として一時的にプログラムやデータを記憶するRAM、各種プログラムや各種データを格納するハードディスク等の補助記憶部からなる。また、記憶部12は、本締め検出部(後述の変形例3参照)により検出した本締めの締め量を一時的に記憶する。
【0030】
(距離測定器13)
距離測定器13は、第1部材91、第2部材92それぞれの高さ位置(Y方向の位置)を測定する。距離測定器13は、複数の測定端子131、132を含む。各測定端子131、132は、例えばスピンドル式のダイヤルゲージであり、バネ等によりスピンドル30bがY方向(マイナス)の向きに付勢され、測定対象である各部材(部材91、92)に測定子30aを当接させ、各部材の高さ位置を測定する。距離測定器13は、測定端子131、132それぞれからの測定値を出力する。この測定値を受けた制御部11は、2つの部材間の相対的位置である部材間距離y(高さ方向の部材間距離であり、2つの部材間の相対的位置である)を判定する。なお、距離測定器13としては、接触型のセンサーに代えて、レーザー光等を用いた非接触型のセンサーを用いてもよい。
【0031】
(ネジ締め部14)
ネジ締め部14は、ネジ95を保持するとともに、ネジ95をネジ穴に螺合させることでネジ締めを行う。ネジ締め部14は、例えば電動ドライバーであり、ナベネジ、または皿ネジのネジ95を締める。また、ネジ締め部14は、トルク検出部141、および回転量検出部142の機能を有する。トルク検出部141は、ネジ締め部14の回転トルクを検出し、回転量検出部142は回転量(角度、回転数)を検出する。
【0032】
(移動機構15)
移動機構15は、ネジ締め部14を保持し、これをXYZ方向の3次元で移動させる。本実施形態では、制御部11が、移動機構15を制御することで、ネジ締め部14を第2ネジ穴92aに垂直なXY平面内で移動させる。具体的には、制御部11は、距離測定器13の測定値に基づき、ネジ締め部14を、第1部材91の長穴(第1ネジ穴91a)の長径方向に沿ってY方向で上下動(図1の矢印a1方向)させることにより、ネジ95、および第2部材92の高さ位置を調整し、2つの部材(部材91、92)の部材間距離yが所定の目標範囲(目標精度)内に収まるように調整する。ここで目標範囲は、調整時の閾値yH、yLに囲まれる範囲である(後述の図4図5)。閾値yH、yLは、ネジ締め処理の判定に用いる制御値であり、この閾値yH、yLを超えた場合は、以下のネジ締め処理では位置の再調整を行う。また、目標範囲は、公差上限、および公差下限に囲まれる範囲にも対応する(後述の図4)。
【0033】
(第1の実施形態におけるネジ締め処理)
図3は、ネジ締め装置10が実行するネジ締め処理を示すフローチャートである。図4は、図3のネジ締め処理における部材間距離の目標範囲と、ネジ締め量の推移を示す図である。
【0034】
図4では横軸がネジ締め量、縦軸が2つの部材の部材間距離y(図1参照)である。横軸のネジ締め量は、ネジ95へのネジ締め部14による回転量(回転量検出部142の出力)であり、仮締め時の締め量r0から本締め時の締め量rxの範囲を示している。なお、ネジ締め量は回転量に変えて、締め付けトルク(トルク検出部141の出力)を用いてもよい。この場合、本締め時の締め量rxは、設計により設定された締め付けトルクである。
【0035】
縦軸においては、公差上限に閾値yHが対応し、公差下限が閾値yLに対応する。閾値yH、yLの間が目標範囲であり、この範囲内になるようにネジ締め装置10はネジ締めを行う(後述の図5図7も同様)。また、目標範囲≦公差範囲である。下記に説明する本実施形態のネジ締め処理においては、目標範囲外となった、すなわち閾値yH、閾値yLを超えた場合には、決定した補正量に応じて位置を再調整した後、再度のネジ締めを行う。
【0036】
(ステップS21)
図3に示すように、ここでは制御部11は、ネジ締め部14(および移動機構15)を制御することでネジ95により、2つの締結対象物の部材である第1部材91、および第2部材92を締結(接合)する。ネジ95は、ネジ締め部14により自動で締められる。ネジ95の締め量は、予め所定のトルクになるように設定され、この状態では、2つの部材間でガタがなくなる状態の仮締めである。
【0037】
(ステップS22)
制御部11は、距離測定器13の測定値をモニターしながら、移動機構15を制御することで、部材間距離yを目標範囲の中央値付近に調整する。ここで中央値付近とは、例えば、目標範囲幅(=公差上限-公差下限)を100%とした場合、中央値に対して、その数%から十数%の誤差範囲内である。この状態は、図4の「状態1a」に相当し、これは仮締め状態、かつ(仮)補正後の状態である。
【0038】
(ステップS23)
制御部11は、距離測定器13の測定値をモニターしながら、ネジ締め部14によりネジを締める。
【0039】
(ステップSS24)
制御部11は、測定値から算出した部材間距離yが、目標範囲外となった場合、すなわち閾値を超えた場合(部材間距離y>閾値yH、または部材間距離y<閾値yL)には(YES)、処理をステップS25に進める。この状態は、図4の「状態1b」に相当する。一方で、閾値を超えなければ(NO)、処理をステップS28に進める。
【0040】
(ステップS25)
制御部11は、ネジ締め部14により位置ずれが補正可能な程度まで、ネジ95を緩める。この状態は、図4の「状態1c」に相当する。ここで緩める量は、(1)仮締め時の初期締め量r0(図4参照)まで戻してもよく、(2)回転量検出部142に出力に応じて予め設定した回転量分だけもどしてもよく、または、(3)トルク検出部141の出力により所定トルクまで戻すようにしてもよい。
【0041】
(ステップS26)
制御部11は、目標範囲外となったとき(図4の1b)の測定値の符号、すなわち上限値を超えたのか、下限値を超えたのかに応じて、調整方向を決定する。図4の1bでは、公差上限を超えているので、この方向と反対方向を調整方向とする。すなわち図4の例では、部材間距離yが小さくなるように、ネジ95、および第2部材92を持ち上げる方向(Y方向プラス)が調整方向として決定される。
【0042】
調整量(移動量)は、予め設定された固定値、例えば、目標範囲幅の50%や25%に相当する固定値を用いてもよい(図4では目標範囲幅の50%の固定値を用いた例である)。あるいは、閾値を超えたときの締め量に応じて、調整量を決定するようにしてもよい(例えば、後述する変形例2(図6))。
【0043】
(ステップS27)
ここでは、制御部11は、移動機構15を用いて、ステップS26で決定した補正量(調整方向、調整量)で位置補正を行う。この状態は、図4の「状態1d」に相当する。ステップS27で位置補正をした後は、処理をステップS23に戻し、以降の処理を繰り返す。
【0044】
(ステップS28)
制御部11は、本締めに到達していなく、本締めになる前の締めている途中であれば(NO)、処理をステップS23に戻す。一方で、制御部11は、本締めに達したことを検出した場合(YES)、ネジ締め処理を終了する(エンド)。この状態は、図4の「状態1e」に相当する。本締めに到達したことは、ネジ締め部14のトルク検出部141の出力が予め設定した規定トルクに達することで判定してもよく、回転量検出部142からの出力で、ネジ95の回転量が所定量に到達しことで判定してもよい。
【0045】
このように本実施形態では、ネジ締め装置は、距離測定器で第1部材、および第2部材の相対的位置を測定しながら、ネジ締め部によりネジをさらに締め、相対的位置が目標範囲外となった場合、ネジ締め部により前記ネジを緩め、目標範囲外となったときの測定値に基づいて決定した調整方向に所定の調整量分だけ、移動機構により、ネジ締め部を移動させた後、再度、ネジを締めるように制御する。これにより、高精度に2つの締結対象物である第1、第2部材の位置を合わせた状態でネジ締めして、締結することが可能となる。
【0046】
(変形例1)
上述の図4に示した例では、閾値yH、yLで上下限が規定される目標範囲は、公差上下限の範囲と一致した一定範囲であった。図5に示す変形例1においては、目標範囲をネジの締め量に応じて変化させるものである。変形例1においては、横軸のネジ締め量が増加するに従って、閾値yH2、yL2の絶対値(中央値との差分の絶対値のこと、以下同じ)は一定割合で線形増加させた。この図5の例においては閾値yH2、またはyL2を超えた場合には、目標範囲外となったので、図3のステップS24の判定(YES)により続くステップS25~S28の処理により、ネジの緩めと、位置補正が行われる。なお、この場合、位置補正時の調整量(移動量)は、部材間距離yが目標範囲を超えたときの閾値yH2(または閾値yL2)の値に応じて設定するようにしてもよい。例えば閾値yH2の絶対値が増加するに応じて、移動量を増加させる。
【0047】
このように変形例1では、ネジ締め量に応じて閾値を変化させることで、適切な回数で位置補正を行うことができる。具体的には単に閾値を小さくした場合に比べて過度に補正回数を増やすことなく、大きい閾値に比べて補正回数を適度に増やすことができる。
【0048】
(変形例2)
第1の実施形態においては、調整量は所定の固定値であったが、これを図6のように、仮調整時における、ネジの締め量、および距離測定器の測定値、ならびに目標範囲外になったときの、ネジの締め量、および距離測定器の測定値に基づいて決定するようにしてもよい。具体的には、図6の仮調整時(状態1a)におけるネジの締め量(初期締め量r0)、および距離測定器の測定値(中央値付近)、ならびに目標範囲外になったとき(状態1b)の、ネジの締め量(締め量r1)、および距離測定器の測定値(閾値yH)、に基づいて調整量を決定する。図6では、状態1aの時の座標と、状態1bの時の座標を結ぶ線(一次関数)を本締め量rxまで延長(外挿)することで、そのときの誤差y2を求める。そして誤差y2と中央値との差分dy3を、調整量y4とする。この調整量y4を、状態1cから状態1dまでの位置補正時(ステップS27)の補正量として用いる。このようにすることで、1回の位置補正時の補正量を過度にならない範囲で大きくすることができるので、補正回数(ステップS25~S27の処理回数)を少なくすることができ、トータルの処理時間を短くできる。
【0049】
なお、エラー判定回避処理として、図6の例では、調整量y4で補正した直後の状態1dの時点で、既に補正方向に対応閾値yLを超えることになる。すなわち図3のステップS24(YES)の判定で、直ちにS25の処理が実行されてしまうので、これを避けるために、制御処理の都合上、閾値yLを一時的に広げたり(下側に移動)、締め量r1(あるいはこれに一定値を加えた値)になるまで、補正方向に対応する閾値yLに関して、これを超えたか否かの判定をスキップしたりしてもよい。
【0050】
また、調整量を外挿により求める際に、1次関数ではなく2次関数を用いてもよく、あるいは、1次関数、または2次関数を用いる場合に締め量r0の代わりに、状態1c(または状態1d)における締め量を用いて、差分dy3を算出するようにしてもよい。
【0051】
(変形例3)
図7は、変形例3において本締め量を求める手順を説明する図である。変形例3においては、トルク検出部141、および回転量検出部142が協働することで「本締め検出部」として機能する。具体的には、図7に示すように状態3a(状態1aと同様の仮締め状態)からトルク検出部141の出力が、本締めに相当する規定トルク(締め付けトルク)に達するまでネジ95のネジ締めを行う。この状態は図7の状態3bである。制御部11は、このときの回転量検出部142からの回転量を本締め量rxとして記憶部12に記憶する。以降は、ネジ95を一旦、緩め、2つの部材間の距離yが中央値付近になるように位置調整することで状態1aにする。
【0052】
本締めした時の固定位置は、部材の形状やネジの長さのばらつきにより変動する。このように変形例3においては、実際の本締め時の本締め量rxを測定するので、本締め量rxを精度よく決定でき、ひいては、精度のよい状態1eに至る調整量y4を精度よく決定できる。
【0053】
(第2の実施形態におけるネジ締め処理)
図8は、第2の実施形態に係るネジ締め装置で実行されるネジ締め処理を示すフローチャートである。同図の処理は変形例3(図7)の手順により本締め量を求め、これを用いて変形例2(図6)の手順により調整量を決定するものである。
【0054】
(ステップS215)
ここでは制御部11は、図3で示したステップS21と同様の処理を行い、仮締めを実施する。仮締め状態では、2つの部材(部材91、92)間でガタがなくなる程度であるが位置調整可能な程度にネジ締めされている。この状態は、図7の状態3aに対応する。
【0055】
(ステップS216)
制御部11は、トルク検出部141の出力を参照して、ネジ締め部14を制御することでネジ95を規定トルクまで締めることで本締めを実施する。このときの回転量検出部142の出力に応じた締め量rxを記憶部12に記憶する。
【0056】
(ステップS217)
ステップS216の状態から、所定の締め量分だけ緩め、仮締め状態とする。このときの締め量r0は締め量rxから所定回転量を減じた値である。
【0057】
(ステップS22~S25)
この処理は、図3で説明した同じ付番の処理と同じであり、説明を省略する。
【0058】
(ステップS265)
制御部11は、図6の変形例2で示した処理により、ステップS216で記憶した占め量rxと、各値(締め量r0、r1、閾値yH、中央値)を用いて、本締め量rxにした場合の誤差y2を外挿により推定し、これにより調整量y4を決定する。調整方向は、誤差の符号(向き)と反対方向であり、この調整方向は、ステップS26と同じ処理により決定される。
【0059】
(ステップS275)
ステップS265で決定した補正量(調整方向、調整量y4)により位置補正を行う。この処理は、図3のステップS27と同様の処理である。
【0060】
このように変形例2、3を第1の実施形態に適用した第2の実施形態においては、第1の実施形態に加えて、変形例2、変形例3の効果を得ることができ、より高精度に、2つの締結対象物の位置を合わせた状態でネジ締めして、締結することが可能となる。
【0061】
(他の変形例)
なお、図4の例では、1回の位置補正で、本締めまでの締めが完了しているが、実際には、複数回の位置補正が行われる場合もある。また、閾値yH、yLは必ずしも公差上下限に一致させる必要はなく、ネジ締め時の目標範囲を公差上下限幅よりも狭くしてもよい。これにより、本締めした最終状態でより中央値に近い値になり、調整時のばらつきが小さくなる。
【0062】
以上に説明した自動位置調整機能を備えたネジ締め装置10の構成は、上記の実施形態の特徴を説明するにあたって主要構成を説明したのであって、上記の構成に限られず、特許請求の範囲内において、種々改変することができる。また、一般的なネジ締め装置が備える構成を排除するものではない。
【符号の説明】
【0063】
10 ネジ締め装置
11 制御部
12 記憶部
13 距離測定器
131、132 測定端子
14 ネジ締め部
141 トルク検出部
142 回転量検出部
15 移動機構
91 第1部材(締結対象物)
91a 第1ネジ穴(長穴)
92 第2部材(締結対象物)
92a 第2ネジ穴(螺旋)
95 ネジ
95a ネジ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8