(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/16 20060101AFI20240228BHJP
B60N 2/68 20060101ALI20240228BHJP
B60N 2/427 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
B60N2/16
B60N2/68
B60N2/427
(21)【出願番号】P 2020103639
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 幸治
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016200124(DE,A1)
【文献】特開2017-206123(JP,A)
【文献】特開2019-199239(JP,A)
【文献】特開2018-197028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
A47C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の床面側の下方部材と、
前記下方部材の上方に設けられ、前記乗物の前後方向に延びるフレーム部材と、
前記下方部材及び前記フレーム部材に接続されたリンク部材とを備え、
前記リンク部材は、
前記下方部材に対して前記乗物の幅方向の軸まわりに回動可能に接続される第1円孔部と、
前記フレーム部材に接続される第2円孔部と、
前記第1円孔部及び前記第2円孔部が形成された板状の本体部と、
前記本体部から前記本体部に対して交差する方向に突出するフランジ部と、
前記第1円孔部の中心と前記第2円孔部の中心とを結ぶ仮想直線に前記フランジ部が近づくように形成された凹部と、
前記本体部がその厚み方向にずれるように形成されたオフセット部とを含
み、
前記凹部の頂点から前記仮想直線に下ろした垂線上において、前記フランジ部と前記本体部とは連続して形成されている、乗物用シート。
【請求項2】
前記オフセット部は、前記本体部における前記フランジ部とは反対側の縁端から前記凹部に向かって延在する、請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記オフセット部は、前記本体部における前記フランジ部とは反対側の縁端から前記凹部の頂点に近づく方向に延在する、請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記凹部は曲線状に形成されている、請求項1から請求項3のいずれかに記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記オフセット部の延在方向と前記仮想直線との交差角度は45度以上135度以下である、請求項1から請求項4のいずれかに記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記凹部の頂点から前記仮想直線に下ろした垂線と前記仮想直線との交点と、前記第1円孔部の中心との直線距離をL1とし、
前記凹部の頂点から前記仮想直線に下ろした垂線と前記仮想直線との交点と、前記第2円孔部の中心との直線距離をL2とし、
L1:L2=1:Xとしたときに、
Xは0.25以上4以下である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記リンク部材は、前記乗物用シートにおいて、前記乗物の幅方向外側であって後方側に位置するリアアウタリンク部材である、請求項1から請求項6のいずれかに記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の乗物用シートにおいて、着座した乗員の体格に応じて適切な視界が確保できるようにシートクッションの座面高さを調整する昇降機構を設けることが従来から行われている。この昇降機構においては、ピニオンギヤ及びセクタギヤを介して昇降のための駆動力がリンク部材に伝達され、リンク部材が回動することで昇降動作が実現される。
【0003】
特開2017-206123号公報(特許文献1)には、外部荷重が入力されたときに優先的に座屈する脆弱部をリンク部材に設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
後面衝突(後突)等、シートバックが後傾する方向の外部荷重が乗物に入力されたとき、リアシートの乗員保護の観点から、後傾角度を抑制したいという要請がある。1つの対応策として、フレームの強度や剛性を高めることが考えられる。
【0006】
他方、後突時にシートフレーム及び周辺部品に亀裂や破損が生じることを抑制したいという要請もある。
【0007】
フレームの強度や剛性を高めるための対策により、シートバックの質量が増大すると、後突時における昇降機構のセクタギヤへの入力が増大し、歯欠け等の破損が発生しやすくなる。
【0008】
以上のとおり、後突時におけるシートバックの後傾角度の抑制と、セクタギヤへの入力低減は、背反する技術的課題である。特許文献1に記載の構造は、上記2つの課題を必ずしも十分に解決するものではない。
【0009】
本開示の目的は、外部荷重入力時におけるシートバックの後傾角度を抑制するとともに、セクタギヤへの入力も低減することが可能な乗物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る乗物用シートは、乗物の床面側の下方部材と、下方部材の上方に設けられ、乗物の前後方向に延びるフレーム部材と、下方部材及びフレーム部材に接続されたリンク部材とを備える。リンク部材は、下方部材に対して乗物の幅方向の軸まわりに回動可能に接続される第1円孔部と、フレーム部材に接続される第2円孔部と、第1円孔部及び第2円孔部が形成された板状の本体部と、本体部から本体部に対して交差する方向に突出するフランジ部と、第1円孔部の中心と第2円孔部の中心とを結ぶ仮想直線にフランジ部が近づくように形成された凹部と、本体部がその厚み方向にずれるように形成されたオフセット部とを含む。
【0011】
1つの実施態様では、上記乗物用シートにおいて、オフセット部は、本体部におけるフランジ部とは反対側の縁端から凹部に向かって延在する。
【0012】
1つの実施態様では、上記乗物用シートにおいて、オフセット部は、本体部におけるフランジ部とは反対側の縁端から凹部の頂点に近づく方向に延在する。
【0013】
1つの実施態様では、上記乗物用シートにおいて、凹部は曲線状に形成されている。
【0014】
1つの実施態様では、上記乗物用シートにおいて、オフセット部の延在方向と仮想直線との交差角度は45度以上135度以下である。
【0015】
1つの実施態様では、上記乗物用シートにおいて、凹部の頂点から仮想直線に下ろした垂線と仮想直線との交点と、第1円孔部の中心との直線距離をL1とし、凹部の頂点から仮想直線に下ろした垂線と仮想直線との交点と、第2円孔部の中心との直線距離をL2とし、L1:L2=1:Xとしたときに、Xは0.25以上4以下である。
【0016】
1つの実施態様では、上記乗物用シートにおいて、リンク部材は、乗物用シートにおいて、乗物の幅方向外側であって後方側に位置するリアアウタリンク部材である。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る乗物用シートによれば、外部荷重入力時におけるシートバックの後傾角度を抑制するとともに、セクタギヤへの入力も低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の1つの実施の形態に係る乗物用シートに含まれるクッションフレームを示す図である。
【
図2】
図1のクッションフレームに含まれるリンク部材を示す図である。
【
図3】
図2に示すリンク部材を
図2中の矢印IIIの方向から見た状態を示す図である。
【
図4】
図2に示すリンク部材を
図2中の矢印IVの方向から見た状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本開示の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0020】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量等に言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量等に限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本開示にとって必ずしも必須のものではない。
【0021】
本実施の形態においては、車両用シートにおけるリアアウタリンク部材の構造を例示するが、本開示の範囲はこれに限定されない。
【0022】
本実施の形態において、「前方」及び「後方」は、車両用シートに着座した乗員から見て前方側及び後方側を意味し、「前後方向」は、前方側及び後方側結ぶ方向を意味する。また、「左方」及び「右方」は、車両用シートに着座した乗員から見て左方側及び右方側を意味し、「幅方向」は、左方側及び右方側を結ぶ方向を意味する。また、「上方」及び「下方」は、車両用シートに着座した乗員から見て上方側及び下方側を意味し、「上下方向」は、上方側及び下方側を結ぶ方向を意味する。
【0023】
図1は、クッションフレーム1を示す図である。クッションフレーム1は、車両のフロントシートにおいて、乗員が着座可能なシートクッションの骨格をなし、金属製の部材を組み合わせることによって構成される。
【0024】
図1に示すように、クッションフレーム1は、アウタサイドフレーム2と、インナサイドフレーム3と、フロントロッド部材4と、リアロッド部材5と、ブラケット部材6A,6Bと、アッパレール7A,7Bと、ロアレール8A,8Bと、セクタギヤ9と、リンク部材10とを含む。
【0025】
アウタサイドフレーム2は、車両の幅方向外側(矢印DR1側)において、前後方向に延在するフレーム部材である。インナサイドフレーム3は、車両の幅方向内側(矢印DR2側)において、前後方向に延在するフレーム部材である。
【0026】
フロントロッド部材4は、前方側において、アウタサイドフレーム2とインナサイドフレーム3とを幅方向に連結するフレーム部材である。リアロッド部材5は、後方側において、アウタサイドフレーム2とインナサイドフレーム3とを幅方向に連結するフレーム部材である。
【0027】
ブラケット部材6A,6Bは、アッパレール7A,7Bに各々固定されている。アッパレール7A,7Bは、車両の床面に固定されたロアレール8A,8Bに対して前後方向にスライド移動する。
【0028】
セクタギヤ9は、図示しないピニオンギヤと噛合する。リンク部材10は、ブラケット部材6A及びアウタサイドフレーム2に対して幅方向の軸まわりに回動可能に設けられる。ピニオンギヤ及びセクタギヤ9を介して昇降のための駆動力がリンク部材10に伝達される。リンク部材10が回動することで着座面の昇降動作が実現される。
【0029】
図2は、リンク部材10を示す図である。
図3,
図4は、各々、リンク部材10を
図2中の矢印IIIの方向、矢印IVの方向から見た状態を示す図である。
【0030】
図2~
図4に示すように、リンク部材10は、第1円孔部11と、第2円孔部12と、本体部13と、フランジ部14と、凹部15と、オフセット部16とを含む。
【0031】
第1円孔部11は、ブラケット部材6Aに接続される。第2円孔部12は、アウタサイドフレーム2及びリアロッド部材5に接続される。
【0032】
本実施の形態においては、
図3に示すように、第1円孔部11の中心11Aと第2円孔部12の中心12Aとを結ぶ直線を「仮想直線A」と称する。
【0033】
第1円孔部11及び第2円孔部12は、板状の本体部13に形成されている。フランジ部14は、本体部13に対して略直角に交差する方向(幅方向)に沿って本体部13から突出するように形成される。
【0034】
凹部15は、第1円孔部11の中心と第2円孔部12の中心とを結ぶ仮想直線Aにフランジ部14が近づくように曲がることにより形成される。
図3において、二点鎖線Oよりもフランジ部14が仮想直線Aに近づいている領域が凹部15に対応する。凹部15において、フランジ部14は、その全体が曲線状に形成されている。
【0035】
オフセット部16は、本体部13がその厚み方向にずれるように形成される。本実施の形態においては、
図4に示すように、オフセット部16を境界にして、本体部13の後方側(第2円孔部12側)が幅方向外側(矢印DR1方向)にずれるように形成されている。
【0036】
オフセット部16は、本体部13におけるフランジ部14とは反対側の縁端から凹部15の頂点に近づく方向(
図3中の線B)に沿って延在する。一例として、オフセット部16の延在方向(
図3中の線B)と仮想直線Aとの交差角度は45度(
図3中のθ1)以上135度(
図3中のθ2)以下程度である。すなわち、上記一例において、オフセット部16は、
図3中の仮想直線B1の方向と仮想直線B2の方向との間の方向に延在する。
【0037】
フランジ部14、凹部15及びオフセット部16は、たとえば鉄製の板状部材にプレス加工を施すことにより形成される。凹部15及びオフセット部16は、リンク部材10の前後方向の中央部に配置されている。一例として、凹部15の頂点15Aから仮想直線Aに下ろした垂線C(
図3中の太線)と仮想直線Aとの交点15Bと、第1円孔部11の中心11Aとの直線距離をL1とし、上記の交点15Bと、第2円孔部12の中心12Aとの直線距離をL2とし、L1:L2=1:Xとしたときに、Xは0.25以上4以下程度である。すなわち、上記一例において、仮想直線A上の仮想点15B1と仮想点15B2との間に交点15Bが位置するように凹部15ないし頂点15Aが形成される。
【0038】
上述のとおり、本実施の形態に係る車両用シートは、車両(乗物)の床面上に設けられたブラケット部材6A(下方部材)と、ブラケット部材6Aの上方に設けられ、車両の前後方向に延びるアウタサイドフレーム2(フレーム部材)と、ブラケット部材6A及びアウタサイドフレーム2に接続されたリンク部材10とを備える。
【0039】
リンク部材10は、ブラケット部材6Aに対して車両の幅方向の軸まわりに回動可能に接続される第1円孔部11と、アウタサイドフレーム2に接続される第2円孔部12と、第1円孔部11及び第2円孔部12が形成された板状の本体部13と、本体部13から本体部13に対して交差する方向に突出するフランジ部14と、第1円孔部11の中心11Aと第2円孔部12の中心12Aとを結ぶ仮想直線Aにフランジ部14が近づくように形成された凹部15と、本体部13がその厚み方向にずれるように形成されたオフセット部16とを含む。
【0040】
オフセット部16は、本体部13におけるフランジ部14とは反対側の縁端から凹部15に向かって延在する。より具体的には、オフセット部16は、本体部13におけるフランジ部14とは反対側の縁端から凹部15の頂点15Aに近づく方向に延在する。
【0041】
上記構成によれば、リンク部材10の中央部に形成されたオフセット部16によって、リンク部材10の幅方向の変形を誘導することができるので、後突時のセクタギヤ9への入力を低減し、セクタギヤ9の歯欠けの発生を抑制することができる。ここで、凹部15を有するフランジ部14によって、リンク部材10の幅方向の変形が過度に生じることを抑制、すなわちリンク部材10の変形を制御することができるので、後突時におけるシートバックの後傾角度を抑制することもできる。
【0042】
本実施の形態においては、凹部15の全体が曲線状に形成された例について説明したが、本開示の範囲はこれに限定されず、一部または全部が直線状に形成された凹部15(たとえば略逆台形状の凹部)であってもよい。また、オフセット部16の延在方向(線B)と仮想直線Aとの交差角度や、L1とL2の比率も上述のものに限定されない。
【0043】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
1 クッションフレーム、2 アウタサイドフレーム、3 インナサイドフレーム、4 フロントロッド部材、5 リアロッド部材、6A,6B ブラケット部材、7A,7B アッパレール、8A,8B ロアレール、9 セクタギヤ、10 リンク部材、11 第1円孔部、11A 中心(第1円孔部11の中心)、12 第2円孔部、12A 中心(第2円孔部12の中心)、13 本体部、14 フランジ部、15 凹部、15A 頂点(凹部15の頂点)、15B 交点(仮想直線Aと頂点15Aからの垂線Cとの交点)、16 オフセット部。