(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】車両用ドアラッチ装置
(51)【国際特許分類】
E05B 85/26 20140101AFI20240228BHJP
【FI】
E05B85/26
(21)【出願番号】P 2020105765
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】大川 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】覚前 卓也
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-112875(JP,A)
【文献】特開平10-266666(JP,A)
【文献】米国特許第4917420(US,A)
【文献】米国特許第5979951(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0313384(US,A1)
【文献】特表2013-519011(JP,A)
【文献】米国特許第5092639(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 77/00-85/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアに取り付けられるボディ本体と、
前記ボディ本体に所定角度回動可能に支持され、前記ドアの閉鎖時に車体側のストライカに噛合することにより、オープン位置からクローズ方向へ回動してハーフラッチ位置を経てフルラッチ位置に移動可能なラッチと、
前記ボディ本体に所定角度回動可能に支持され、前記ストライカに噛合している前記ラッチのハーフラッチ係合部
およびフルラッチ係合部
の各々に係合することにより前記ラッチのオープン方向への回動を阻止する爪を有するラチェットと、
前記ボディ本体に所定角度回動可能に支持され、前記ラッチの前記ハーフラッチ位置と前記オープン位置との間のサードラッチ位置において前記ラッチに設けたサード係合部に係合することにより、前記ラッチの前記サードラッチ位置からオープン方向への回動を阻止可能なサードラッチレバーと、
を備えることを特徴とする車両用ドアラッチ装置。
【請求項2】
前記サードラッチレバーは、前記サード係合部に係合可能な爪部を有し、第1スプリングの付勢力により、前記爪部が前記サード係合部の移動軌跡内に進入する待機位置に向けて付勢されることを特徴とする請求項1記載の車両用ドアラッチ装置。
【請求項3】
前記サードラッチレバーは、ドア解除操作レバーの解除作動に基づいて、前記第1スプリングの付勢力に抗して、前記待機位置から前記爪部が前記サード係合部の移動軌跡外に退避する退避方向へ移動することを特徴とする請求項2記載の車両用ドアラッチ装置。
【請求項4】
前記ラチェットの前記爪は、前記ラチェットの端部に所定角度回動可能に支持され、前記ラチェットと自体に作用する第2スプリングにより、前記ラッチの前記フルラッチ係合部及び前記ハーフラッチ係合部のそれぞれに係合する第1係合方向へ付勢されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の車両用ドアラッチ装置。
【請求項5】
前記ラチェットは、前記第2スプリングとは異なるスプリングであって、前記ボディ本体と自体に作用する第3スプリングの付勢力により、前記爪が前記ハーフラッチ係合部
および前記フルラッチ係合部
の各々に係合する第2係合方向へ付勢されることを特徴とする請求項4記載の車両用ドアラッチ装置。
【請求項6】
前記ラチェットは、前記爪が前記フルラッチ係合部又は前記ハーフラッチ係合部のいずれかに係合しているとき、前記ボディ本体に所定角度回動可能に支持された抑えレバーに当接することにより、前記爪が前記ハーフラッチ係合部又は前記フルラッチ係合部のいずれから外れる解除方向への回動が阻止されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の車両用ドアラッチ装置。
【請求項7】
前記抑えレバーは、前記サードラッチレバーの前記待機位置から退避方向への移動に基づいて、前記ラチェットの解除方向への回動を阻止するブロック位置から前記ラチェットの解除方向への回動を許可する許可方向へ移動することを特徴とする
請求項3を引用する請求項6記載の車両用ドアラッチ装置。
【請求項8】
前記ラチェットは、前記サードラッチレバーの前記待機位置から退避方向への移動に基づいて、前記抑えレバーが前記ブロック位置から許可方向へ移動した後、前記
ラッチのハーフラッチ係合部およびフルラッチ係合部の各々と係合する係合位置から解除方向へ移動することを特徴とする請求項7記載の車両用ドアラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアに装着される車両用ドアラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ドアラッチ装置は、車体に開閉可能に支持されるドアに固定されるボディ本体内に、ドア閉鎖時、車体側のストライカと噛合可能なラッチと、当該ラッチに係合することで、ラッチのオープン方向への回動を阻止すると共に、ラッチとストライカとの噛合状態を保持する第1ポールと、第1ポールに係合することにより、第1ポールのラッチから外れる方向への回動を阻止する第2ポールとを設け、ドアに設けたドアハンドル(アウトサイドハンドル又はインサイドハンドル)が開操作されると、第2ポールが第1ポールから外れると共に、第1ポールとラッチとの係合が解除されて、車体側に設けたウェザーストリップの反力により、ドアが開き方向へ若干押し出されて、ストライカとラッチとの噛合が解除されることで、ドアの開操作を可能にする(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、経年劣化等の影響によりウェザーストリップの反発力が極端に低下した場合や、駐車中、ドアの周縁とウェザーストリップとの間の隙間に入り込んだ水分が凍結して、ドアがウェザーストリップに貼り付いてしまった場合、ドアの閉鎖時、ドアハンドルが開操作されたにも係わらず、ドアがウェザーストリップの反力により押し出されず閉鎖位置に止まったままとなり、これが原因で、ラッチに対する第1ポールの係合が正規の位置まで確実に係合しない状態となる。この状態、すなわち不確実係合状態においては、ドアは外見上、全閉状態と殆んど同じ形態であるため、外見からは車両用ドアラッチ装置の状態を判別することは極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の車両用ドアラッチ装置は、上述構成である故、不確実係合状態が発生している状態において、ドアの閉鎖状態を確認する等の理由で、乗員がドアに対して開き方向へ大きな力を作用させると、ドアが開く場合がある。そうなると、そもそも車両用ドアラッチ装置に不確実係合状態が発生していたか否かを確認する術がない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、不確実係合状態が発生していたか否かを容易に判別できるようにした車両用ドアラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、ドアに取り付けられるボディ本体と、前記ボディ本体に所定角度回動可能に支持され、前記ドアの閉鎖時に車体側のストライカに噛合することにより、オープン位置からクローズ方向へ回動してハーフラッチ位置を経てフルラッチ位置に移動可能なラッチと、前記ボディ本体に所定角度回動可能に支持され、前記ストライカに噛合している前記ラッチのハーフラッチ係合部およびフルラッチ係合部の各々に係合することにより前記ラッチのオープン方向への回動を阻止する爪を有するラチェットと、前記ボディ本体に所定角度回動可能に支持され、前記ラッチの前記ハーフラッチ位置と前記オープン位置との間のサードラッチ位置において前記ラッチに設けたサード係合部に係合することにより、前記ラッチの前記サードラッチ位置からオープン方向への回動を阻止可能なサードラッチレバーと、を備えることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記サードラッチレバーは、前記サード係合部に係合可能な爪部を有し、第1スプリングの付勢力により、前記爪部が前記サード係合部の移動軌跡内に進入する待機位置に向けて付勢される。
【0009】
好ましくは、前記サードラッチレバーは、ドア解除操作レバーの解除作動に基づいて、前記第1スプリングの付勢力に抗して、前記待機位置から前記爪部が前記サード係合部の移動軌跡外に退避する退避方向へ移動する。
【0010】
好ましくは、前記ラチェットの前記爪は、前記ラチェットの端部に所定角度回動可能に支持され、前記ラチェットと自体に作用する第2スプリングにより、前記ラッチの前記フルラッチ係合部及び前記ハーフラッチ係合部のそれぞれに係合する第1係合方向へ付勢される。
【0011】
好ましくは、前記ラチェットは、前記第2スプリングとは異なるスプリングであって、前記ボディ本体と自体に作用する第3スプリングの付勢力により、前記爪が前記ハーフラッチ係合部および前記フルラッチ係合部の各々に係合する第2係合方向へ付勢される。
【0012】
好ましくは、前記ラチェットは、前記爪が前記フルラッチ係合部又は前記ハーフラッチ係合部のいずれかに係合しているとき、前記ボディ本体に所定角度回動可能に支持された抑えレバーに当接することにより、前記爪が前記ハーフラッチ係合部又は前記フルラッチ係合部のいずれから外れる解除方向への回動が阻止される。
【0013】
好ましくは、前記抑えレバーは、前記サードラッチレバーの前記待機位置から退避方向への移動に基づいて、前記ラチェットの解除方向への回動を阻止するブロック位置から前記ラチェットの解除方向への回動を許可する許可方向へ移動する。
【0014】
好ましくは、前記ラチェットは、前記サードラッチレバーの前記待機位置から退避方向への移動に基づいて、前記抑えレバーが前記ブロック位置から許可方向へ移動した後、前記ラッチのハーフラッチ係合部およびフルラッチ係合部の各々と係合する係合位置から解除方向へ移動する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、不確実係合状態において、ラチェットの爪がラッチから外れてしまった場合、ラッチのサードラッチ位置において、サードラッチレバーがラッチに設けたサード係合部に係合することにより、ラッチのサードラッチ位置からそれ以上のオープン方向への回動を阻止して、ドアをドア半開き判別可能位置に停止させるので、乗員は車両用ドアラッチ装置に不確実係合状態が発生していたことを、ドアの状態の外見から容易に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る車両用ドアラッチ装置の斜視図である。
【
図2】同じく車両用ドアラッチ装置の分解斜視図である。
【
図3】同じく車両用ドアラッチ装置のカバープレートを外した状態の正面図である。
【
図8】クローズ作動途中状態における要部の正面図である。
【
図9】ハーフラッチ状態における要部の正面図である。
【
図10】フルラッチ状態における要部の正面図である。
【
図15】不確実係合状態でラッチに開き方向への力が作用した場合の要部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~3に示すように、車両用ドアラッチ装置1は、車体に開閉可能に支持される図示略のドアに取り付けられると共に、車体側のストライカSに噛合することによりドアを閉鎖状態に保持するための複数の噛合要素を含む噛合アッセンブリー2と、噛合アッセンブリー2の前面側に配置され、複数の噛合要素のうち所定の噛合要素を操作可能な操作要素を含む操作アッセンブリー3とを備える。
【0018】
操作アッセンブリー3は、外殻を形成し、噛合アッセンブリー2の後述のボディ7の前面に固定される合成樹脂製のケーシング4を有し、当該ケーシング4内に、噛合アッセンブリー2の所定の噛合要素を操作可能な操作要素を有する解除機構5と、当該解除機構5の作動を噛合要素に対して伝達可能又は伝達不能に切替可能な操作要素を有する施解錠機構6とを配置することで構成される。
【0019】
解除機構5は、ケーシング4内に軸51aにより所定角度回動可能に支持され、ドアの車外側面に設けられる図示略のアウトサイドハンドルのドア開操作に連動するアウトサイドレバー51と、ケーシング4内に図示略の軸により支持され、ドアの車内側面に設けられる図示略のインサイドハンドルのドア開操作に連動する図示略のインサイドレバーと、ケーシング4内に収容され、ユーザ携帯の遠隔操作スイッチの操作に基づいて駆動する図示略のモータ等を含み、施解錠機構6が後述の解錠状態にある場合、アウトサイドハンドル、インサイドハンドルの開操作、又は遠隔操作スイッチの操作に基づくモータの駆動により、アウトサイドレバー51又はモータの駆動により作動する図示略の解除レバーが解除作動することで、当該解除作動を噛合アッセンブリー2における後述のラチェット10に伝達して噛合アッセンブリー3の後述のラッチ9とストライカSとの噛合を解除してドアの開きを可能にする。なお、本実施形態に係るアウトサイドレバー51及び解除レバーは、本発明に係るドア解除操作レバーに相当する。
【0020】
施解錠機構6は、ドアの車外側面に設けられる図示略のキーシリンダ及びドアの車内側面に設けられる図示略のロックノブの手動操作、並びに遠隔操作スイッチの施解錠操作に基づいて駆動する図示略のモータの動力により解錠位置及び施錠位置に移動可能なロックレバー61を有し、ロックレバー61が解錠位置にある解錠状態の場合には、アウトサイドハンドル及びインサイドハンドルの開操作を有効としてドアの開きを可能とし、また、ロックレバー61が施錠位置にある施錠状態の場合には、アウトサイドハンドル及びインサイドハンドルの開操作を無効としてドアの開きを不能とする。なお、遠隔操作スイッチの解除操作に基づくモータの動力によっては、施解錠機構6の状態に無関係に常にドアを開くことができる。なお、施解錠機構6は、本発明に直接関係しないので詳細説明及び図示は省略する。
【0021】
図2~6に示すように、噛合アッセンブリー2は、図示略の複数のボルトによりドアの内面に固定される合成樹脂製のボディ7及び当該ボディ7の後面側の開口を閉塞する金属製のカバープレート8を含むボディ本体(符号無し)と、ボディ7とカバープレート8との間に形成される収容部7aに配置される噛合要素であるラッチ9、ラチェット10及び抑えレバー11と、ボディ7の前面側に配置される噛合要素であるサードラッチレバー12とを有する。なお、
図3は、ボディ7の収容部7aに配置される各噛合要素を明示するため、カバープレート8を省略している。
【0022】
ボディ7は、後面側が開口してラッチ9、ラチェット10及び抑えレバー11を配置するための収容部7aと、当該収容部7aの上下方向のほぼ中央部分にあって、ドアの閉鎖時、ストライカSが水平方向から進入可能なストライカ進入溝7bとを有する。
【0023】
カバープレート8は、ボディ7の収容部7aを後面側から閉塞するようにボディ7に固定されると共に、ドアの閉鎖時、ストライカSが水平方向から進入可能なストライカ進入切欠部8aを有する。
【0024】
ラッチ9は、ボディ7の収容部7a内に前後方向を向く軸13により所定角度回転可能に支持されて、図示略のスプリングによりオープン方向(
図3において時計方向)へ付勢されると共に、ドアの閉動作に伴って、ストライカSがボディ7のストライカ進入溝7b及びカバープレート8のストライカ進入切欠部8aに進入することにより、スプリングの付勢力に抗して、ドアの開位置に相当する
図7に示すオープン位置からクローズ方向(
図7において反時計方向)へ回動し、
図8及び
図9に示すドアの半ドア位置に相当するハーフラッチ位置を経てドアの全閉位置に相当する
図10に示すフルラッチ位置に回動する。
【0025】
ラッチ9の外周には、ラッチ9が
図10に示すフルラッチ位置にあるとき、ラチェット10の端部に設けた爪14に係合可能なフルラッチ係合部9aと、ラッチ9が
図9に示すハーフラッチ位置にあるとき、ラチェット10の爪14に係合可能なハーフラッチ係合部9bと、ラッチ9が
図16に示すサードラッチ位置(オープン位置とハーフラッチ位置との間の位置で、ドアの半開き状態を判別可能なドア半開き判別可能位置に相当)にあるとき、サードラッチレバー12の端部に設けた爪部12aに係合可能なサード係合部9cとが設けられる。さらに、ラッチ9におけるフルラッチ係合部9aとハーフラッチ係合部9bとの間には、ドア閉鎖時、ボディ7のストライカ進入溝7b及びカバープレート8のストライカ進入切欠部8aに進入するストライカSが噛合可能な噛合溝9dが設けられる。
【0026】
ラチェット10は、
前後方向を向く軸15によりボディ7の収容部7a内に所定角度回転可能に支持されると共に、軸15に巻装されたスプリング16(本発明に係る第3スプリングに相当)の付勢力により係合方向(
図3において反時計方向で、本発明に係る第2係合方向に相当)へ付勢され、アウトサイドレバー51及び解除レバーの解除作動に基づいて、スプリング16の付勢力に抗して、
図3、9、10に示す係合位置から解除方向(
図3、9、10において時計方向)へ回動する。さらに、ラチェット10の一端部には、ラッチ9のフルラッチ係合部9a
およびハーフラッチ係合部9b
の各々に係合可能な爪14が前後方向を向く軸回りに所定角度回転可能に設けられ、同じく他端部には前方へ突出する円柱状の被当接部10aが設けられる。
【0027】
なお、スプリング16におけるラチェット10を係合方向へ付勢する付勢力は、通常のドアラッチ装置に比して小としている。これにより、ラチェット10を解除方向へ回動させる際の操作力を小さくして、小さな操作力でドアを開けることができる。また、ラチェット10が係合位置にある場合には、ラチェット10を後述のように抑えレバー11により係合位置に拘束して、フルラッチ係合部9a及びハーフラッチ係合部9bの各々に対するラチェット10における爪14の係合を確実なものとしている。
【0028】
爪14は、前後方向を向く軸部14aによりラチェット10の端部に設けた軸孔10b(
図5参照)に所定角度回転可能に支持されると共に、一端が自体に掛止され、他端がラチェット10に掛止されたスプリング17(本発明に係る第2スプリングに相当)の付勢力により、先端部がラッチ9のフルラッチ係合部9a
およびハーフラッチ係合部9b
の各々に係合する係合方向(例えば、
図3において反時計方向で、本発明に係る第1係合方向に相当)へ付勢されて、常時は、スプリング17の付勢力により、上面に設けた当接部14bがラチェット10に設けた被当接部10dに下方から当接した係合位置(例えば、
図11に示す位置)に保持されている。これにより、爪14は、ラチェット10が係合位置にあるとき、ラッチ9のフルラッチ係合部9a又はハーフラッチ係合部9bに対して係合することで、ラッチ9をフルラッチ位置又はハーフラッチ位置に保持し、また、
図12に示すように、ラチェット10が解除方向へ回動した場合には、ラッチ9のフルラッチ係合部9a又はハーフラッチ係合部9bから外れて、ラッチ9のオープン方向への回動を許可する。
【0029】
抑えレバー11は、ラチェット10の下方にあって、前後方向を向く軸18によりボディ7の収容部7aに所定角度回転可能に支持されると共に、一端がボディ7に掛止され、他端が自体に掛止されたスプリング19により抑え方向(
図3において反時計方向)へ付勢されて、通常は、例えば
図11に示すように、上端部に設けた抑え部11aがラチェット10の下部に設けた被抑え部10cに下方から当接することにより、ラチェット10の係合位置から軸15を中心とする解除方向(爪14がラッチ9のフルラッチ係合部9a又はハーフラッチ係合部9bから外れる方向であって、例えば
図11において時計方向)への回動を阻止し、また、スプリング19の付勢力に抗して、時計方向へ所定角度回転することにより、抑え部11aがラチェット10の被抑え部10cから外れて、ラチェット10の解除方向への回動を許可する。
【0030】
サードラッチレバー12は、前後方向を向く軸20によりボディ7の前面側に所定角度回転可能に支持されると共に、一端が自体に掛止され、他端がボディ7に掛止されたスプリング21(本発明に係る第1スプリングに相当)により反時計方向へ付勢され、アウトサイドハンドル又はインサイドハンドルのドア開操作に基づくアウトサイドレバー51の解除作動、或いはモータの動力に基づく解除レバーの解除作動に連動して、スプリング21の付勢力に抗して、例えば
図10に示す待機位置から退避方向(
図10において時計方向)へ所定角度回転して、
図12に示す退避位置に回動する。なお、アウトサイドレバー51の解除作動は、アウトサイドレバー51に連結された図示略のサブレバーがサードラッチレバー12の一部12dに下方から当接することによってサードラッチレバー12に伝達される。また、モータによる解除レバーの解除作動は、解除レバーがサードラッチレバー12の端部に設けた折曲部12eに下方から当接することによってサードラッチレバー12に伝達される。
【0031】
さらに、サードラッチレバー12は、ラッチ9のサードラッチ位置においてサード係合部9cに対して係合可能な爪部12aと、右下端部にあって、自体が待機位置から退避方向へ回動した場合、抑えレバー11の下端部に設けた被当接部11bに当接可能な第1当接部12bと、左端部にあって、ラチェット10の被当接部10aに対して下方から当接可能な第2当接部12cとを有する。
【0032】
サードラッチレバー12の爪部12aは、サードラッチレバー12の待機位置において、
図16に示すように、ラッチ9のサード係合部9cに対して係合することにより、ラッチ9のサードラッチ位置からオープン方向への回動を阻止し、サードラッチレバー12の退避位置において、
図12に示すように、ラッチ9のサード係合部9cの移動軌跡外に退避して、ラッチ9のオープン方向への回動を許可する。
【0033】
第1当接部12bは、サードラッチレバー12が待機位置から退避方向へ回動した場合、抑えレバー11の被当接部11bに当接することにより、抑えレバー11をブロック位置(例えば、
図10に示す位置)から許可方向(
図10において時計方向)へ回動させる。
【0034】
第2当接部12cは、サードラッチレバー12が待機位置から退避方向へ回動した場合、ラチェット10の被当接部10aに対して下方から当接することにより、ラチェット10を係合位置から解除方向へ回動させる。
【0035】
爪部12aは、車両用ドアラッチ装置1の不確実係合状態において、ラッチ9がフルラッチ位置又はハーフラッチ位置からオープン方向へ回転した場合、ラッチ9がオープン位置とハーフラッチ位置との間の位置であるサードラッチ位置に達したとき、ラッチ9のサード係合部9cに係合することにより、ラッチ9のオープン方向への回動を阻止する。また、第2当接部12cは、第1当接部12bが抑えレバー11の被当接部11bに当接して、抑えレバー11が許可方向へ回動して、抑え部11aがラチェット10の被抑え部10cから完全に外れた後に、ラチェット10の被当接部10aに当接する。
【0036】
なお、サードラッチレバー12は、ラッチ9が
図16に示すサードラッチ位置よりもオープン方向
側に位置する場合には、自体の上縁部12fにラッチ9のサード係合部9cの先端が上方から当接することで、待機位置よりも退避方向(時計方向)へ僅かに回動した中間位置に保持され、ラッチ9がサードラッチ位置よりもクローズ方向
側(
図16において反時計方向
側)に位置する場合には、爪部12aがラッチ9のサード係合部9cの
移動軌跡内に進入する待機位置に位置する。
【0037】
次に、本発明に係る車両用ドアラッチ装置1の動作を
図7~16に基づいて説明する。
先ず、ドアの閉じ動作について説明する。
ドアDが開状態にある場合には、
図7に示すように、ラッチ9は、オープン位置にあり、ラチェット10及び爪14は、それぞれの係合位置にあり、抑えレバー11は、抑え部11aがラチェット10の被抑え部10cに当接したブロック位置にあり、サードラッチレバー12は、上縁部12fにラッチ9のサード係合部9cが当接した中間位置にある。
【0038】
この状態から、ドアが閉じられると、
図8に示すように、先ずストライカSがボディ7のストライカ進入溝7b及びカバープレート8のストライカ進入切欠部8aに進入して、ストライカSがラッチ9の噛合溝9dに噛合する。これにより、ラッチ9は、軸13を中心にオープン位置からクローズ方向(
図7において反時計方向)へ回動する。この場合、
図8に示すように、ラッチ9のクローズ方向への回動に伴って、サード係合部9cの先端部は、サードラッチレバー12の上縁部12fに接触しつつ右方向へ摺動し、また、ハーフラッチ係合部9bの先端部は、爪14の上面に接触して、ラチェット10を係合位置に保持させた状態で、爪14のみをスプリング17の付勢力に抗して解除方向へ強制的に退避移動させる。
【0039】
そして、
図9に示すように、ラッチ9がハーフラッチ位置に達すると、爪14は、スプリング17の付勢力により、ラッチ9のハーフラッチ係合部9bに係合し、サードラッチレバー12は、スプリング21の付勢力により、中間位置から待機位置に回動する。
【0040】
さらに、ドアの閉動作に伴って、ラッチ9がさらにクローズ方向へ回動すると、今度はラッチ9のフルラッチ係合部9aの先端部が爪14の上面に接触することから、再び爪14を解除方向へ退避移動させる。そして、
図10に示すように、ラッチ9がドアの全閉位置に相当するフルラッチ位置に達すると、その時点で、爪14がスプリング17の付勢力により係合位置に復帰して、ラッチ9のフルラッチ係合部9aに係合することで、ドアは全閉位置に保持される。爪14がフルラッチ係合部9aに対して正規の位置まで確実に係合している場合には、
図11に示すように、爪14の先端部14cは、フルラッチ係合部9aに対して深く係合したA点(
図11参照)に位置し、かつ抑えレバー11は、抑え部
11aがラチェット10の被抑え部10cに当接して、ラチェット10の解除方向への回動を阻止する。
【0041】
上述のように、車両用ドアラッチ装置1は、ラッチ9がクローズ方向へ回動した場合、ラッチ9のクローズ方向への回動に伴って、比較的大きな要素であるラチェット10全体を解除方向へ回動させることなく、比較的小さな要素である爪14のみを解除方向へ回動させるものであるから、ドア閉鎖時におけるドア閉じ音の静粛性を図り良好なドア閉じ音を得ることができる。また、ラッチ9がフルラッチ位置にあって、かつラチェット10に設けられた爪14がラッチ9のフルラッチ係合部9aに係合している状態においては、抑えレバー11の抑え部11aがラチェット10の被抑え部10cに当接して、ラチェット10の解除方向への回動を阻止するため、フルラッチ係合部9aに対する爪14の係合を確実なものとすることができる。
【0042】
次に、ドアの開動作について説明する。
ドアDが全閉状態に保持されている場合には、
図10、11に示すように、ラッチ9は、フルラッチ位置にあり、ラチェット10及び爪14は、それぞれの係合位置にあって、爪14がラッチ9のフルラッチ係合部9aに係合し、抑えレバー11は、抑え部11aがラチェット10の被抑え部10cに当接したブロック位置にあり、サードラッチレバー12は、爪部
12aがラッチ9のサード係合部9cの移動軌跡内に進入した待機位置にある。
【0043】
この状態にあって、かつ施解錠機構6が解錠状態にあるとき、アウトサイドハンドル又はインサイドハンドルがドア開操作されるか、或いは、遠隔操作スイッチの解除操作に基づいてモータが解除作動すると、サードラッチレバー12は、待機位置から退避方向へ所定角度回動して、
図12に示す退避位置に回動する。当該回動に伴って、先ず、サードラッチレバー12の第1当接部12bが抑えレバー11の被当接部11bに当接することにより、抑えレバー11をブロック位置から許可方向(
図10において時計方向)へ回動させて、抑え部11aをラチェット10の被抑え部10cから外れる方向へ移動させる。次に、抑えレバー11の抑え部11aがラチェット10の被抑え部10cから完全に外れた後、サードラッチレバー12の第2当接部12cがラチェット10の被当接部10aに下方から当接して、ラチェット10を係合位置から解除方向へ回動させて、爪14をラッチ9のフルラッチ係合部9aから外す。これにより、ラッチ9のフルラッチ位置からオープン方向への回動が許可され、通常であれば、ドア開口部の周縁に設けられたウェザーストリップの反力により、ドアが開方向へ押し出されて、ラッチ9がオープン位置に回動して、ストライカSがラッチ9の噛合溝9dから抜け出すことで、ドアを開けることができる。
【0044】
ドアを開けた後、アウトサイドハンドル又はインサイドハンドルのドア開操作を止めるか、或いは、モータの駆動が停止することで、ラチェット10は、スプリング16の付勢力により係合位置に復帰し、抑えレバー11は、スプリング19の付勢力によりブロック位置に回動し、サードラッチレバー12は中間位置に回動して、
図7に示すオープン状態になる。
【0045】
次に、不確実係合状態が発生した場合の作用について説明する。
通常、車両用ドアラッチ装置1の施解錠機構6が解錠状態であれば、例えば、アウトサイドハンドルが開操作されることで、上述のように、ドアはウェザーストリップの反力により開き方向へ押し出されて、ドアが開かれる。しかし、経年劣化等の影響によりウェザーストリップの反発力が低下したり、冬場等の環境の下では、例えば、アウトサイドハンドルが開操作されても、ドアがウェザーストリップの反力により押し出されずに、ラッチ9がフルラッチ位置(または、僅かにオープン方向へ動いた位置)に止まったり、可動部分の凍結等により各要素の動きが重くなる場合がある。
【0046】
特に各要素のうちラチェット10の動きが重くなると、ラチェット10が
図12に示す解除位置からスプリング16の付勢力により係合方向(
図12において反時計方向)に回動する際、
図13及び当該
図13の要部を拡大した
図14に示すように、フルラッチ位置(または、僅かにオープン方向へ動いた位置)に止まっているラッチ9のフルラッチ係合部9aに対する爪14の係合が正規の係合位置Aまで確実に係合しない状態、所謂、不確実係合状態が発生する場合がある。
【0047】
図13、14に示すように、不確実係合状態が発生すると、ラチェット10は、爪14がフルラッチ係合部9aに対して正規の係合位置Aまで係合していない不確実係合位置B(
図14参照)に停止し、抑えレバー11は、抑え部11aがラチェット10の先端部10eに当接して、ブロック位置の手前で停止する。このため、ラチェット10の解除方向への回動は、抑えレバー
11により阻止されることなく自由になっている。また、サードラッチレバー12は、爪部
12aがラッチ9のサード係合部9cの移動軌跡内に進入した待機位置に停止している。
【0048】
不確実係合状態において、ラッチ9に対してフルラッチ位置からオープン方向へ回動させる大きな力が作用すると、
図15に示すように、フルラッチ係合部9aに不確実に係合している爪14と共にラチェット10が解除方向へ強引に回動させられて、爪14がフルラッチ係合部9aから外れてしまい、最悪の場合には、爪14がハーフラッチ係合部9bに対しても係合できずに、ラッチ9がオープン位置に回動してしまう場合がある。
【0049】
しかし、本発明に係る車両用ドアラッチ装置1においては、
図15に示す状態からラッチ9がオープン方向へ回動してハーフラッチ位置を僅かに通過したサードラッチ位置において、
図16に示すように、ラッチ9のサード係合部9cがサードラッチレバー12の爪部12aに係合する。これにより、ラッチ9のこれ以上のオープン方向への回動は阻止され、ラッチ9は、サードラッチ位置に保持されると共に、ストライカSとの噛合を保持する。これにより、ドアは、半ドアよりも僅かに開いて、外見からもドアを半開きであることを容易に判別可能なドア半開き判別可能位置に停止してそれ以上開くことがないので、乗員は、車両用ドアラッチ装置1が不確実係合状態であったことを確実に認識することができる。
【0050】
図16に示す状態からドアを開くには、アウトサイドハンドル、インサイドハンドル又は遠隔操作スイッチのいずれかを開操作する。これにより、サードラッチレバー12は、待機位置から退避方向(
図16において時計方向)へ回動して、爪14がラッチ9のサード係合部9cの移動軌跡外に退避することで、ラッチ9のオープン方向への回動を許可する。また、これと同時に、抑えレバー
11は許可方向、またラチェット10は解除方向へそれぞれ回動して、ラッチ9のオープン方向への回動を妨げない位置に移動する。これにより、ラッチ9は、オープン位置に移動し、ストライカSがラッチ9の噛合溝9dから外れて、ドアの開きを可能にする。
【0051】
上述のように、本実施形態の車両用ドアラッチ装置1は、不確実係合状態が発生している状態において、ラチェット10の爪14がラッチ9のフルラッチ係合部9a及びハーフラッチ係合部9bの各々から外れた場合、ラッチ9のサードラッチ位置において、ラチェット10の爪14とは別体のサードラッチレバー12がラッチ9に設けたサード係合部9cに係合することにより、ラッチ9のサードラッチ位置からそれ以上のオープン方向への回動を阻止して、ドアをドア半開き判別可能位置に停止させるので、乗員は、車両用ドアラッチ装置1が不確実係合状態であったことを確実に認識することができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記一実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、本実施形態に対して、種々の変形や変更を施すことが可能である。
例えば、爪14をラチェット10に一体形成したり、抑えレバー11を省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 車両用ドアラッチ装置 2 噛合アッセンブリー
3 操作アッセンブリー 4 ケーシング
5 解除機構 51 アウトサイドレバー(ドア解除操作レバー)
51a 軸 6 施解錠機構
61 ロックレバー 7 ボディ(ボディ本体)
7a 収容部 7b ストライカ進入溝
8 カバープレート(ボディ本体) 8a ストライカ進入切欠部
9 ラッチ 9a フルラッチ係合部
9b ハーフラッチ係合部 9c サード係合部
9d 噛合溝 10 ラチェット
10a 被当接部 10b 軸孔
10c 被抑え部 10d 被当接部
10e 先端部 11 抑えレバー
11a 抑え部 11b 被当接部
12 サードラッチレバー 12a 爪部
12b 第1当接部 12c 第2当接部
12d 一部 12e 折曲部
12f 上縁部 13 軸
14 爪 14a 軸部
14b 当接部 15 軸
16 スプリング(第3スプリング) 17 スプリング(第2スプリング)
18 軸 19 スプリング
20 軸 21 スプリング(第1スプリング)
S ストライカ