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特許7443964ケラバ見切り材の補強構造、ケラバ見切り材の補強施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】ケラバ見切り材の補強構造、ケラバ見切り材の補強施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04D 13/158 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
E04D13/158 501A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020119757
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022016810
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】中松 保二
(72)【発明者】
【氏名】寺西 伸太郎
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-021035(JP,A)
【文献】実開平06-006554(JP,U)
【文献】特開2005-002615(JP,A)
【文献】特開2001-040824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/30、3/00-3/40、13/158
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
勾配屋根のケラバに設置するケラバ見切り材の補強構造であって、
前記ケラバを被覆するケラバ被覆部を備えた前記ケラバ見切り材と、
前記ケラバ被覆部の下に位置し、軒方向に延びる屋根瓦と、
前記屋根瓦と屋根下地材との間に設置され、軒方向に延びる固形の断熱材と、
前記断熱材の長手方向の縁端部を切断するとともに、当該縁端部を勾配が逆を向くように上下反転させて形成し、前記ケラバ被覆部と前記屋根瓦との間に設置されるケラバ補強材と、を具備し、
前記断熱材は、屋根勾配に沿って前記屋根下地材の上に載置されるとともに、上面が前記屋根瓦の下面に当接し、
前記ケラバ補強材は、前記屋根瓦の上面に載置されることを特徴とするケラバ見切り材の補強構造。
【請求項2】
前記屋根下地材は、屋根改修工事前の既設屋根瓦であり、
前記屋根瓦は、前記既設屋根瓦の上方を被覆する新設屋根瓦であることを特徴とする請求項1に記載のケラバ見切り材の補強構造。
【請求項3】
前記ケラバ被覆部の妻側と反対側の一端部に配置され、前記ケラバ被覆部と前記屋根瓦との間を閉塞する水密材をさらに具備し、
前記ケラバ見切り材は、前記ケラバ被覆部に繋がっており、前記勾配屋根の妻側に設置される破風板の上端を被覆する水切り部を備え、
前記ケラバ補強材は、前記水切り部と前記水密材との間に設置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のケラバ見切り材の補強構造。
【請求項4】
前記水密材は、前記屋根瓦と同一色であることを特徴とする請求項3に記載のケラバ見切り材の補強構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のケラバ見切り材の補強構造を用いるケラバ見切り材の補強施工方法であって、
前記断熱材の長手方向の縁端部を切断するとともに、当該縁端部を勾配が逆を向くように上下反転させて前記ケラバ補強材を形成し、
前記断熱材及び前記屋根瓦を屋根下地材の上に設置するとともに、
前記ケラバ補強材をケラバに位置する前記屋根瓦の上面に載置し、
前記ケラバ被覆部を前記ケラバ補強材の上に配置することを特徴とするケラバ見切り材の補強施工方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のケラバ見切り材の補強構造を用いるケラバ見切り材の補強施工方法であって、
前記断熱材の長手方向の縁端部を切断するとともに、当該縁端部を勾配が逆を向くように上下反転させて前記ケラバ補強材を形成し、
前記断熱材及び前記屋根瓦を屋根下地材の上に設置するとともに、
ケラバに位置する前記屋根瓦の上を前記ケラバ被覆部で被覆し、
前記ケラバ被覆部と前記屋根瓦との間に、前記ケラバ補強材を充填することを特徴とするケラバ見切り材の補強施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、勾配屋根のケラバに設置するケラバ見切り材の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
勾配屋根において、屋根面の妻側の縁端部であるケラバに見切り材を設置することがある。このケラバ見切り材を屋根瓦と建物の妻側に設置される破風板との境界部分に設置することにより、勾配屋根の外観を良好なものとすることができる。しかしながら、このケラバ見切り材は積雪荷重や風荷重などによって変形しやすいため、従来よりケラバ見切り材の変形を防止する発明が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
特許文献1に記載の発明には、勾配屋根のケラバに設置されるケラバ部材の取付構造について記載されている。ケラバ部材は、金板を折曲して形成された部材であり、破風を被覆する化粧部とケラバを被覆する上包み部とを備え、上包み部の内側面に沿って水切り材を設置することにより、風荷重などによる上包み部の変形を防止することができる。
【0004】
特許文献2に記載の発明には、屋根勾配方向に複数分割されたケラバ部材の接続構造について記載されている。この発明では、隣り合うケラバ見切り材同士をケラバ部材接合具によって接合しており、ケラバ部材接合具を野地板の上部に設置された登り木に固定することにより、外力によってケラバ見切り材が変形することを防止することができる。
【0005】
一方、特許文献3に記載の発明には、ケラバを被覆する妻側包材の断熱性を向上させる構造について記載されており、折版屋根瓦の下部に設置する断熱材を妻側包材の下部にも充填することで、妻部分の断熱性能を高めることができるとされる。この発明のように、ケラバに設置される見切り部材の下部に断熱材を充填すれば、積雪荷重により見切り材が変形することを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-31240
【文献】特開2015-68093
【文献】特開昭61-122362
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1及び特許文献2に記載の発明は、ケラバ部材を補強する水切り材やケラバ部材接合具を、ケラバ部材の形状に応じて加工しなければならず、製作コストがかかる。また、特許文献3に記載の発明においても、妻側包材の形状に合わせて断熱材を様々な形状に現場加工しなければならず、施工手間がかかる。
【0008】
そこで、本発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであって、積雪荷重によるケラバの変形を防ぐことができ、且つ、施工性及び経済性に優れたケラバ見切り材の補強構造及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1のケラバ見切り材の補強構造は、勾配屋根のケラバに設置するケラバ見切り材の補強構造であって、前記ケラバを被覆するケラバ被覆部を備えた前記ケラバ見切り材と、前記ケラバ被覆部の下に位置し、軒方向に延びる屋根瓦と、前記屋根瓦と屋根下地材との間に設置され、軒方向に延びる固形の断熱材と、前記断熱材の長手方向の縁端部を切断するとともに、当該縁端部を勾配が逆を向くように上下反転させて形成し、前記ケラバ被覆部と前記屋根瓦との間に設置されるケラバ補強材と、を具備し、前記断熱材は、屋根勾配に沿って前記屋根下地材の上に載置されるとともに、上面が前記屋根瓦の下面に当接し、前記ケラバ補強材は、前記屋根瓦の上面に載置されることを特徴としている。
【0010】
本発明の第2のケラバ見切り材の補強構造は、前記屋根下地材が、屋根改修工事前の既設屋根瓦であり、前記屋根瓦が、前記既設屋根瓦の上方を被覆する新設屋根瓦であることを特徴としている。
【0011】
本発明の第3のケラバ見切り材の補強構造は、前記ケラバ被覆部の妻側と反対側の一端部に配置され、前記ケラバ被覆部と前記屋根瓦との間を閉塞する水密材をさらに具備し、前記ケラバ見切り材が、前記ケラバ被覆部に繋がっており、前記勾配屋根の妻側に設置される破風板の上端を被覆する水切り部を備え、前記ケラバ補強材が、前記水切り部と前記水密材との間に設置されることを特徴としている。
【0012】
本発明の第4のケラバ見切り材の補強構造は、前記水密材が、前記屋根瓦と同色であることを特徴としている。
【0013】
本発明の第1のケラバ見切り材の補強施工方法は、第1から第4のいずれかに記載のケラバ見切り材の補強構造を用いるケラバ見切り材の補強施工方法であって、前記断熱材の長手方向の縁端部を切断するとともに、当該縁端部を勾配が逆を向くように上下反転させて前記ケラバ補強材を形成し、前記断熱材及び前記屋根瓦を屋根下地材の上に設置するとともに、前記ケラバ補強材をケラバに位置する前記屋根瓦の上面に載置し、前記ケラバ被覆部を前記ケラバ補強材の上に配置することを特徴としている。
【0014】
本発明の第2のケラバ見切り材の補強施工方法は、第1から第4のいずれかに記載のケラバ見切り材の補強構造を用いるケラバ見切り材の補強施工方法であって、前記断熱材の長手方向の縁端部を切断するとともに、当該縁端部を勾配が逆を向くように上下反転させて前記ケラバ補強材を形成し、前記断熱材及び前記屋根瓦を屋根下地材の上に設置するとともに、ケラバに位置する前記屋根瓦の上を前記ケラバ被覆部で被覆し、前記ケラバ被覆部と前記屋根瓦との間に、前記ケラバ補強材を充填することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1のケラバ見切り材の補強構造によると、ケラバ見切り材のケラバ被覆部と屋根瓦との間にケラバ補強材を設置するので、積雪荷重によるケラバ見切り材の変形を効果的に防止することができる。また、ケラバ補強材は、固形の断熱材を切断して反転するだけで形成することができるので、ケラバを補強するために新たな部材を制作する必要がなく、余った断熱材を有効活用して経済性に優れた構造とすることができる。さらに、ケラバ補強材は断熱材を反転させた部材であるため、ケラバ補強材の下面を屋根瓦の上面に当接すると、ケラバ補強材の上面は自然と屋根勾配と略同一の傾斜角度となり、ケラバ被覆部を容易に屋根勾配に沿って設置することができる。
【0016】
本発明の第2のケラバ見切り材の補強構造によると、屋根下地材は、屋根改修工事前の既設屋根瓦であり、屋根瓦は、既設屋根瓦の上方を被覆する新設屋根瓦であるとされる。したがって、本願のケラバ見切り材の補強構造は、勾配屋根を新設する場合だけでなく、改修工事を行う勾配屋根にも用いることができ、利便性を向上させることができる。
【0017】
本発明の第3のケラバ見切り材の補強構造によると、ケラバ被覆部の妻側と反対側の一端部に配置され、ケラバ被覆部と屋根瓦との間を閉塞する水密材を具備しているので、ケラバの防水性を向上させることができる。また、ケラバ補強材は、水切り部と水密材との間に設置されるので、外観上視認されることがなく、勾配屋根の意匠性を良好なものとすることができる。
【0018】
本発明の第4のケラバ見切り材の補強構造によると、水密材は、屋根瓦と同一色であるので、勾配屋根の外観を違和感のないものとすることができ、意匠性を向上させることができる。
【0019】
本発明の第1のケラバ見切り材の補強施工方法によると、ケラバ補強材は、固形の断熱材を切断して反転するだけで形成することができるので、余った断熱材を有効活用することができ、経済性に優れた施工方法とすることができる。さらに、ケラバ補強材は断熱材を反転させた部材であるため、ケラバ補強材の下面を屋根瓦の上面に当接すると、ケラバ補強材の上面は自然と屋根勾配と略同一の傾斜角度となり、ケラバ被覆部を容易に屋根勾配に沿って設置することができる。
【0020】
本発明の第2のケラバ見切り材の補強施工方法によると、ケラバに位置する屋根瓦をケラバ被覆部で被覆した後、ケラバ被覆部と屋根瓦との間にケラバ補強材を充填するとされる。したがって、他の部位との関係でケラバ見切り材を先に設置したい場合や、勾配屋根を施工した後にケラバを補強する必要が生じた場合に、後からケラバ補強材を設置することができ、施工性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)改修前の勾配屋根を示す断面図、(b)改修工事前の勾配屋根の妻側縁端部を示す断面図。
図2】改修工事後の勾配屋根を示す斜視図。
図3】改修工事後の勾配屋根の妻側縁端部を示す断面図。
図4図3のX-X線断面図。
図5】新設屋根瓦、断熱材、及びケラバ補強材を示す斜視図。
図6】ケラバ見切り材を示す斜視図。
図7】屋根勾配方向に隣接し合う新設屋根瓦の接合部を示す断面図。
図8】(a)水密材を新設屋根瓦の上部に設置する状況を示す斜視図、(b)ケラバ補強材を新設屋根瓦の上部に設置する状況を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るケラバ見切り材の補強構造の最良の実施形態について各図を参照しつつ説明する。本願のケラバ見切り材の補強構造は、積雪荷重によるケラバ見切り材の撓みを防止するためのものであり、主に多雪地域の勾配屋根に用いられるが、一般地域に使用することもできる。また本構造は、勾配屋根を新設する場合だけでなく、既設の勾配屋根を新設屋根瓦で被覆して改修する場合にも用いることができる。本実施形態では、既設の勾配屋根を改修する場合において説明する。
【0023】
まず、改修工事前の勾配屋根1について説明する。図1(a)に示すように、改修工事前の勾配屋根1は、垂木などの支持材11の上部に野地板12、既設アスファルトルーフィング13、及び平板状の化粧スレート材である既設屋根瓦14をビス15で固定することにより屋根面1aを形成されている。また図1(b)に示すように、屋根面1aの妻側縁端部であるケラバ1bには、既設ケラバ水切り材16が設けられており、勾配屋根1の妻側の破風1cには既設破風板17が設置されている。
【0024】
図1(b)に示す既設破風板17は、破風1cを被覆する化粧材17aと、化粧材17aの下地材となる化粧下地材17bと、からなる。また屋根面1aの下方には軒天井18が形成されており、化粧下地材17bは、軒天井材18aを支持する天井下地材18bに固定される。一方、既設ケラバ水切り材16は、化粧材17aの上端17c及び化粧下地材17bの上端17dを被覆する既設被覆材16a、及び既設被覆材16aと既設屋根瓦14との間に配置される捨て水切り材16bから構成されており、水切りとしての役目に加え、既設屋根瓦14と既設破風板17とを区切る役割を果たしている。
【0025】
このように形成される勾配屋根1は、各既設屋根部材の上部を新設屋根部材で被覆することにより改修することができる。具体的には、図2から図4に示すように、既設屋根瓦14の上方を新設屋根瓦2で被覆し、また、既設ケラバ水切り材16をケラバ見切り材3で被覆する。
【0026】
図2から図4に示すように、本願のケラバ見切り材の補強構造Aは、勾配屋根1のケラバ1bを被覆するケラバ被覆部31を備えたケラバ見切り材3と、ケラバ被覆部31の下に位置する新設屋根瓦2と、新設屋根瓦2と既設屋根瓦14との間に設置される固形の断熱材4と、ケラバ被覆部31と新設屋根瓦2との間に設置されるケラバ補強材5と、ケラバ被覆部31の妻側と反対側の一端部31dに配置され、ケラバ被覆部31と新設屋根瓦2との間を閉塞する水密材6と、を具備している。
【0027】
図4及び図5に示す新設屋根瓦2は、板厚の薄い金属板を折曲して形成された金属屋根瓦であり、軒方向へ延びる長尺な部材である。新設屋根瓦2は、既設屋根瓦14の上方を被覆する被覆部21と、被覆部21の水下側の一端を下方へ折下げて形成され、隣り合う水下側の新設屋根瓦2に引掛けられる水下側引掛け片22と、被覆部21の水上側の一端を波型状に折り曲げて形成し、隣り合う水上側の新設屋根瓦2を引掛ける水上側引掛け片23と、を有している。
【0028】
図4に示すように、被覆部21は、新設屋根瓦2を既設屋根瓦14の上に設置すると、水下側の一端が水上側の一端よりも上方となるよう傾斜する。また図5に示すように、水下側引掛け片22は、被覆部21の水下側の一端から下方へ延びる垂下片22aと、垂下片22aの下端を水上側へ折曲して形成された瓦係止片22bと、からなり、瓦係止片22bの先端は、水下側へ向けて略U字型状に折り下げられている。そして水上側引掛け片23は、水下側へ開く瓦係止溝23aを形成しており、この瓦係止溝23aに隣接する新設屋根瓦2の瓦係止片22bを引掛けることができる。なお図4に示すように、水上側引掛け片23の水上側の一端部は、既設屋根瓦14にビス15で固定することができる。
【0029】
図3及び図6に示すように、ケラバ見切り材3は、屋根勾配方向へ延びる長尺な部材であり、板厚の薄い金属板を折曲して形成される。ケラバ見切り材3は、ケラバ1bを被覆するケラバ被覆部31、及びケラバ被覆部31の妻側の一端を折曲して形成され、既設破風板17の上端を被覆する水切り部32によって構成される。
【0030】
ケラバ被覆部31は、ケラバ1bを被覆し、妻側の一端が反対側の一端よりもやや上方となるよう傾斜した傾斜部31aと、傾斜部31aの妻側の一端を下方へ折り曲げてなる第1垂下部31bと、傾斜部31aの第1垂下部31b側と反対側の一端を下方へ略V字形状に折り下げた返し片31cと、から構成される。傾斜部31aは、ケラバに降る雨水や雪の荷重を受ける部分であり、下方に配置されるケラバ補強材5によって撓みなどの変形を防止される。また返し片31cは、ケラバ見切り材3をケラバ1bに設置した際に、先端が水密材6の上端部に係止する。傾斜部31aの幅は特に限定されないが、90mm~110mm程度とすることが望ましく、このような幅であれば問題なくケラバ1bを被覆することができるとともに、勾配屋根1の外観をすっきりとしたものとすることができる。
【0031】
また水切り部32は、第1垂下部31bの下端を妻側へ折曲して形成され、既設被覆材16aの上面に固定される固定部32aと、固定部32aの妻側の一端を下方へ折り曲げてなる第2垂下部32bと、第2垂下部32bの下端を固定部32a側へ折曲して形成される折返し部32cと、を有する。第2垂下部32bは、ケラバ見切り材3をケラバ1bに設置した際に、既設破風板17よりも妻側へ突出し、固定部32aで受けた雨水を下方へ流し落とす水切りの役割を担っている。
【0032】
図5及び図7に示す断熱材4は、ポリスチレンフォームで形成された断面視略三角形状の部材であり、新設屋根瓦2と既設屋根瓦14との間の空洞に充填される。また断熱材4は、上面4aが新設屋根瓦2の被覆部21の下面21aと略同一形状となっており、既設屋根瓦14の上に載置された際に、この下面21aに固着できるよう上面4aに両面テープ(図示せず)が接着されている。なお断熱材4は、基本的に予め工場で新設屋根瓦2の長さに合わせてプレカットされたものが搬入されるが、勾配屋根1の端の部分に使用される断熱材4は、端数となる部分を現場で切断加工される。図5に示すように、断熱材4は、長手方向の縁端部41を屋根勾配方向へ沿って切断され、この切り落とされた縁端部41はケラバ補強材5として使用される。
【0033】
図5に示すように、工場又は施工現場で切断された断熱材4の縁端部41は、勾配が逆になるように上下反転させることにより、ケラバ補強材5とすることができる。ケラバ補強材5は、図3及び図4に示すように、ケラバ被覆部31と新設屋根瓦2との間に設置することにより、傾斜部31aが積雪荷重によって大きく撓むことを防止することができる。またケラバ補強材5の下面5aには不図示の両面テープが接着されており、新設屋根瓦2の上面21bに固着することができる。このとき、ケラバ補強材5は断熱材4を反転させた部材であるため、ケラバ補強材5の下面5aを新設屋根瓦2の被覆部21の上面21bに当接すると、ケラバ補強材5の上面5bは自然と屋根勾配と略同一の傾斜角度となり、ケラバ被覆部31を容易に屋根勾配に沿って設置することができる。
【0034】
図3に示すように、ケラバ補強材5は、ケラバ見切り材3の傾斜部31aの幅よりも小さい幅で成形される。ケラバ補強材5の幅は、傾斜部31aより小さければ特に限定されないが、傾斜部31aの幅の半分以上の幅とすることが望ましく、さらに幅50mm程度以上とすることが好ましい。このような幅であれば、積雪荷重によるケラバ被覆部31の変形を効果的に防止することができる。なおケラバ補強材5は、基本的に予め工場で所定寸法に加工されたものが施工現場に搬入されるが、先述したように現場で切断される断熱材4を利用してもよい。
【0035】
図3及び図8に示す水密材6は、耐候性及び耐水性に優れた部材であり、エチレンプロピレンジエンゴムを原料とするシート状の発泡体である。図示するように、水密材6の形状は、ケラバ被覆部31と新設屋根瓦2との間に形成される空洞の形状に応じて形成されており、ケラバ被覆部31と新設屋根瓦2との間を閉塞することによって、ケラバの防水性を高めることができる。また、水密材6は新設屋根瓦2と同一色で形成されることが望ましく、このような色彩にすることにより、屋根面1aに馴染んで勾配屋根1の外観を違和感のないものとすることができる。なお本願において同一色とは、JIS(日本産業規格)に規格化されているそれぞれの表色系において測定値が同一である色彩、又は一般社団法人日本塗料工業会で規定される塗料用標準色の色票番号が同一である色彩の他に、測定値や色票番号が異なる色彩であっても、人が目視して略同一であると知覚する色彩も含むものとする。
【0036】
次に、ケラバ見切り材の補強施工方法について説明する。まず、図5に示すように、断熱材4の縁端部41を、工場又は施工現場で新設屋根瓦2と略同一の長さとなるよう屋根勾配方向へ沿って切断する。そして、切断した断熱材4の縁端部41を、勾配が逆を向くように上下を反転させケラバ補強材5を形成する。
【0037】
続いて、図3に示すように、既設屋根瓦14の上に新設アスファルトルーフィング7を敷設し、既設被覆材16aの既設屋根瓦14側の一端に断面視略L字型状の捨て鉄板33を設置する。捨て鉄板33は、既設被覆材16aの上面よりも上方へ立上がり、既設被覆材16aの前記一端に当接する垂直部33aと、垂直部33aの下端から既設屋根瓦14側へ突出し、新設アスファルトルーフィング7の上面に載置される延出部33bと、からなり、垂直部33aをケラバ被覆部31の第1垂下部31b内側に当接することで第1垂下部31bの強度を高めることができる。
【0038】
そして図7に示すように、断熱材4の上面4aを新設屋根瓦2の被覆部21の下面21aに両面テープで固着し、断熱材4及び新設屋根瓦2を水下から順に既設屋根瓦14の上に設置する。このとき新設屋根瓦2は、水下側引掛け片22の瓦係止片22bを水下側に位置する新設屋根瓦2の瓦係止溝23aに嵌め込み、水上側引掛け片23を既設屋根瓦14にビス固定することにより、屋根面1aに固定することができる。
【0039】
図8に示すように屋根面1a全体に新設屋根瓦2を設置したら、ケラバ見切り材3をケラバ1bに設置した際に、図3に示すケラバ被覆部31の一端部31dが位置する場所に水密材6を配置し、当該水密材6の下面を両面テープで新設屋根瓦2に固着する。次に、図3に示すように、ケラバ補強材5の下面5aをケラバ1bに位置する新設屋根瓦2の上面21bに両面テープで固着する。このとき先述したように、ケラバ補強材5は断熱材4を反転させた部材であるため、下面5aを新設屋根瓦2の上面21bに当接すると、上面5bが自然と屋根勾配と略同一の傾斜角度をなすことになる。そして、ケラバ見切り材3の傾斜部31a及び固定部32aを、それぞれケラバ補強材5の上及び既設被覆材16aの上に載置してビス15で固定し、ケラバ見切り材の補強構造Aを完成させる。
【0040】
なお、ケラバ見切り材3は、ケラバ補強材5に先行して設置してもよい。その場合はまず、新設屋根瓦2を屋根面1a全体に設置した後、既設ケラバ水切り材16の既設被覆材16aをケラバ見切り材3の水切り部32で被覆するとともに、固定部32aを既設被覆材16aの上面にビス固定する。そして、新設屋根瓦2とケラバ被覆部31との間の隙間にケラバ補強材5を押し込み、最後に水密材6をケラバ被覆部31の一端部31dに固着してケラバ見切り材の補強構造Aを完成させる。このような施工手順とすることにより、他の部位との関係でケラバ見切り材3を先に設置したい場合や、勾配屋根1を施工した後にケラバ1bを補強する必要が生じた場合に、後からケラバ補強材5を設置することができ、施工性を向上させることができる。
【0041】
このように、本願の勾配屋根の補強構造1は、ケラバ見切り材3のケラバ被覆部31と新設屋根瓦2との間にケラバ補強材5を設置するので、積雪荷重によるケラバ見切り材3の変形を効果的に防止することができる。そして、ケラバ補強材5は、固形の断熱材4を切断して反転するだけで形成することができるので、ケラバを補強するために新たな部材を制作する必要がなく、また、本来であれば廃棄処分される余った断熱材4を有効活用することができるので、経済性に優れた構造とすることができる。さらに、ケラバ補強材5は断熱材4を反転させた部材であるため、ケラバ補強材5の上面5bを自然と屋根勾配と略同一の傾斜角度とすることができ、ケラバ被覆部31を容易に設置することができる。そしてケラバ補強材5は、水切り部32と水密材6との間に設置されるので、外観上視認されることがなく、勾配屋根1の意匠性を良好なものとすることができる。
【0042】
本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る化粧幕板材、ケラバ見切り材の補強構造、及びケラバ見切り材の補強施工方法は、多雪地域の勾配屋根を形成する際に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 勾配屋根
1a 屋根面
1b ケラバ
14 既設屋根瓦(屋根下地材)
14a 既設屋根瓦の上面(屋根下地材の上面)
17 既設破風板(破風板)
17c 化粧材の上端(破風板の上端)
17d 化粧下地材の上端(破風板の上端)
2 新設屋根瓦(屋根瓦)
21a 被覆部の下面(屋根瓦の下面)
21b 被覆部の上面(屋根瓦の上面)
3 ケラバ見切り材
31 ケラバ被覆部
31d ケラバ被覆部の妻側と反対側の一端部
32 水切り部
4 断熱材
41 断熱材の長手方向の縁端部
4a 断熱材の上面
5 ケラバ補強材
5a ケラバ補強材の下面
5b ケラバ補強材の上面
6 水密材
A ケラバ見切り材の補強構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8