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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】車両の側部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/04 20060101AFI20240228BHJP
   B60R 21/213 20110101ALI20240228BHJP
【FI】
B62D25/04 A
B60R21/213
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020133810
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2022030065
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖
(72)【発明者】
【氏名】守田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 賢
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄作
(72)【発明者】
【氏名】松原 宏
(72)【発明者】
【氏名】三好 克久
(72)【発明者】
【氏名】横木 悠二
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0185064(US,A1)
【文献】特開2014-104836(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016173(WO,A1)
【文献】特開2018-154137(JP,A)
【文献】特開平10-175565(JP,A)
【文献】特開2019-172087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
B60R 21/213
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びるヒンジピラーと、このヒンジピラーの上端部に屈曲部を介して連結されると共に車体後側上方に延びてルーフサイドレールの前端部に接続部を介して連結されたフロントピラーと、前記ヒンジピラーにおける前記屈曲部よりも下側位置から前方に延びるエプロンレインフォースメントとを備えた車両の側部車体構造において、
前記屈曲部は、前記エプロンレインフォースメントに後方に向かう衝突エネルギが作用したとき、前記フロントピラーの長手直交方向に面外変形して前記衝突エネルギを吸収するエネルギ吸収部を備え
前記フロントピラーは、アウタ部材と、このアウタ部材と協働して後側程上方に移行する閉断面を形成するインナ部材により構成され、
前記エネルギ吸収部は、前記アウタ部材及び/又はインナ部材に設けられたビード部で構成され、
前記アウタ部材及びインナ部材は、外縁部分にフランジ部を夫々有し、
前記フランジ部は、前記ビード部の近傍位置にノッチ部が形成され、
前記アウタ部材及びインナ部材は、前記フランジ部が複数の接合部で接合され、
前記ビード部に近接した前記接合部間の間隔が、前記ビード部から離隔した前記接合部間の間隔よりも大きいことを特徴とする車両の側部車体構造。
【請求項2】
上下方向に延びるヒンジピラーと、このヒンジピラーの上端部に屈曲部を介して連結されると共に車体後側上方に延びてルーフサイドレールの前端部に接続部を介して連結されたフロントピラーと、前記ヒンジピラーにおける前記屈曲部よりも下側位置から前方に延びるエプロンレインフォースメントとを備えた車両の側部車体構造において、
前記屈曲部は、前記エプロンレインフォースメントに後方に向かう衝突エネルギが作用したとき、前記フロントピラーの長手直交方向に面外変形して前記衝突エネルギを吸収するエネルギ吸収部を備え、
前記フロントピラーは、アウタ部材と、このアウタ部材と協働して後側程上方に移行する閉断面を形成するインナ部材により構成され、
前記エネルギ吸収部は、前記アウタ部材及び/又はインナ部材に設けられたビード部で構成され、
前記アウタ部材及びインナ部材は、外縁部分にフランジ部を夫々有し、
前記アウタ部材及びインナ部材は、前記フランジ部が複数の接合部で接合され、
前記ビード部に近接した前記接合部間の間隔が、前記ビード部から離隔した前記接合部間の間隔よりも大きいことを特徴とする車両の側部車体構造。
【請求項3】
前記エネルギ吸収部は、前記アウタ部材に設けられたアウタビード部と前記インナ部材に設けられたインナビード部を有し、
前記アウタビード部とインナビード部は、側面視にて略同じ前後方向位置であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の側部車体構造。
【請求項4】
前記アウタビード部は前記閉断面に対して凸状に形成され、前記インナビード部は前記閉断面に対して凹状に形成されたことを特徴とする請求項3に記載の車両の側部車体構造。
【請求項5】
所定条件の成立時に供給されるガス圧に応じて膨張展開するカーテン状のエアバッグを備えたカーテンエアバッグ装置を有し、
前記カーテンエアバッグ装置が、前記インナ部材の車幅方向内側部分に装着されたことを特徴とする請求項~4の何れか1項に記載の車両の側部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒンジピラーから屈曲部を介して車体後側上方に延びるフロントピラーと、ヒンジピラーの屈曲部よりも下側位置から前方に延びるエプロンレインフォースメントとを備えた車両の側部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、SORB(Small Overlap Rigid Barrier)試験に代表されるフロントサイドフレームよりも車幅方向外側部分(オーバラップ領域が25%以下)に障害物が衝突する、所謂スモールオーバーラップ衝突の際、衝突荷重がエプロンレインフォースメント(以下、エプロンレインと略す)の取付部(基端部)に集中し、ヒンジピラーが局部的に後方に座屈することが知られている。また、ヒンジピラーが局部的に座屈した場合、ヒンジピラーとフロントピラーの交差角が維持された状態で回転変位されるため、フロントピラーとルーフサイドレールとの接続部が上方に膨らみ、最終的に、接続部に折れ曲がり変形や破断が発生して車室形状が変形する虞がある。
【0003】
例えば、特許文献1の車両のフロントピラー補強構造は、アウタパネルとインナパネルによって閉断面を形成するフロントピラーと、閉断面内に配設されてフロントピラーを補強するレインフォースメントとを有し、レインフォースメントは、アウタパネルの下壁部に沿う底壁部を備え、この底壁部の両端部にフロントピラーの軸線方向に沿って延びる複数の稜線が形成されている。圧縮応力が作用するフロントピラー下部は、稜線構造で圧縮に起因した座屈を抑制し、引張応力が作用するフロントピラー上部は、稜線構造を意図的に省略することで折れ曲がり変形を回避している。
【0004】
近年、前方からの衝撃荷重に対して乗員を保護するエアバッグ装置に加え、側方からの衝撃荷重に対して乗員を保護するカーテンエアバッグ装置が車両に搭載されている。
一般に、カーテンエアバッグ装置は、乗員の側方から膨張展開可能なエアバッグと、このエアバッグに膨張ガスを供給するインフレータと、エアバッグとインフレータを固定するリテーナと、膨張展開前のエアバッグを覆うエアバッグカバーとを備え、リテーナがフロントピラーインナの車幅方向内側面に固定されると共に装置全体の表面がフロントピラートリムによって被覆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-172087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スモールオーバーラップ衝突の際、フロントピラーとルーフサイドレールとの接続部に上方に膨らむ折れ曲がり変形が発生した場合、車室の変形に伴ってフロントピラー位置が変位するため、カーテンエアバッグの展開位置が狙いの位置から変化する虞がある。
特許文献1の車両のフロントピラー補強構造のように、フロントピラーの閉断面内に複数の稜線が形成されたレインフォースメントを追加することで、フロントピラーの剛性を全体的に増加し、フロントピラー位置の変位を抑制することも可能である。
しかし、車体重量の増加、並びにこれに伴う燃費悪化という新たな問題が生じる。
即ち、スモールオーバーラップ衝突時、車体重量の増加を回避しつつフロントピラー位置の変位を抑制することは容易ではない。
【0007】
本発明の目的は、スモールオーバーラップ衝突時、車体重量の増加を回避しつつフロントピラー位置の変位を抑制可能な車両の側部車体構造等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の車両の側部車体構造は、上下方向に延びるヒンジピラーと、このヒンジピラーの上端部に屈曲部を介して連結されると共に車体後側上方に延びてルーフサイドレールの前端部に接続部を介して連結されたフロントピラーと、前記ヒンジピラーにおける前記屈曲部よりも下側位置から前方に延びるエプロンレインフォースメントとを備えた車両の側部車体構造において、前記屈曲部は、前記エプロンレインフォースメントに後方に向かう衝突エネルギが作用したとき、前記フロントピラーの長手直交方向に面外変形して前記衝突エネルギを吸収するエネルギ吸収部を備え、前記フロントピラーは、アウタ部材と、このアウタ部材と協働して後側程上方に移行する閉断面を形成するインナ部材により構成され、前記エネルギ吸収部は、前記アウタ部材及び/又はインナ部材に設けられたビード部で構成され、前記アウタ部材及びインナ部材は、外縁部分にフランジ部を夫々有し、前記フランジ部は、前記ビード部の近傍位置にノッチ部が形成され、前記アウタ部材及びインナ部材は、前記フランジ部が複数の接合部で接合され、前記ビード部に近接した前記接合部間の間隔が、前記ビード部から離隔した前記接合部間の間隔よりも大きいことを特徴としている。
【0009】
この車両の側部車体構造では、前記屈曲部は、前記エプロンレインフォースメントに後方に向かう衝突エネルギが作用したとき、前記フロントピラーの長手直交方向に面外変形して前記衝突エネルギを吸収するエネルギ吸収部を備えているため、衝突荷重をエネルギ吸収部で吸収することにより屈曲部よりも後方部分に伝達される衝突荷重を低減することができ、フロントピラーとルーフサイドレールとの接続部に生じる折れ曲がり変形を回避することによりフロントピラー位置の変位を抑制することができる。
【0010】
また、前記フロントピラーは、アウタ部材と、このアウタ部材と協働して後側程上方に移行する閉断面を形成するインナ部材により構成され、前記エネルギ吸収部は、前記アウタ部材及び/又はインナ部材に設けられたビード部で構成されたため、新設部材を準備することなく、エネルギ吸収部であるビード部を用いてフロントピラーの長手直交方向に面外変形を生じさせることができ、屈曲部よりも後方部分に伝達される衝突荷重を容易に低減することができる。
【0011】
また、前記アウタ部材及びインナ部材は、外縁部分にフランジ部を夫々有し、前記フランジ部は、前記ビード部の近傍位置にノッチ部が形成されているため、フロントピラーのビード部による断面変形を容易に誘発することができる。
【0012】
更に、前記アウタ部材及びインナ部材は、前記フランジ部が複数の接合部で接合され、前記ビード部に近接した前記接合部間の間隔が、前記ビード部から離隔した前記接合部間の間隔よりも大きいため、フロントピラーのビード部による断面変形を促進させることができる。
【0013】
請求項2の車両の側部車体構造は、上下方向に延びるヒンジピラーと、このヒンジピラーの上端部に屈曲部を介して連結されると共に車体後側上方に延びてルーフサイドレールの前端部に接続部を介して連結されたフロントピラーと、前記ヒンジピラーにおける前記屈曲部よりも下側位置から前方に延びるエプロンレインフォースメントとを備えた車両の側部車体構造において、前記屈曲部は、前記エプロンレインフォースメントに後方に向かう衝突エネルギが作用したとき、前記フロントピラーの長手直交方向に面外変形して前記衝突エネルギを吸収するエネルギ吸収部を備え、前記フロントピラーは、アウタ部材と、このアウタ部材と協働して後側程上方に移行する閉断面を形成するインナ部材により構成され、前記エネルギ吸収部は、前記アウタ部材及び/又はインナ部材に設けられたビード部で構成され、前記アウタ部材及びインナ部材は、外縁部分にフランジ部を夫々有し、前記アウタ部材及びインナ部材は、前記フランジ部が複数の接合部で接合され、前記ビード部に近接した前記接合部間の間隔が、前記ビード部から離隔した前記接合部間の間隔よりも大きいことを特徴としている。
この車両の側部車体構造では、段落[0009]、[0010]、[0012]と同様の作用効果を奏する。
請求項の発明は、請求項1又は2の発明において、前記エネルギ吸収部は、前記アウタ部材に設けられたアウタビード部と前記インナ部材に設けられたインナビード部を有し、前記アウタビード部とインナビード部は、側面視にて略同じ前後方向位置であることを特徴としている。この構成によれば、アウタビード部とインナビード部の相乗効果によって、フロントピラーとルーフサイドレールとの接続部に生じる折れ曲がり変形を効率的に回避することができる。
【0014】
請求項の発明は、請求項の発明において、前記アウタビード部は前記閉断面に対して凸状に形成され、前記インナビード部は前記閉断面に対して凹状に形成されたことを特徴としている。この構成によれば、アウタビード部とインナビード部による断面変形に夫々指向性を持たせることができ、フロントピラーの断面変形を一層効率的に誘発することができる。
【0015】
請求項の発明は、請求項の何れか1項の発明において、所定条件の成立時に供給されるガス圧に応じて膨張展開するカーテン状のエアバッグを備えたカーテンエアバッグ装置を有し、前記カーテンエアバッグ装置が、前記インナ部材の車幅方向内側部分に装着されたことを特徴としている。この構成によれば、スモールオーバーラップ衝突の際、フロントピラー位置の変位を抑制することができ、エアバッグを狙いの位置に展開させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車両の側部車体構造によれば、ヒンジピラーとフロントピラーの間に位置する屈曲部に面外変形してエネルギを吸収可能なエネルギ吸収部を設けることにより、スモールオーバーラップ衝突時、車体重量の増加を回避しつつフロントピラー位置の変位を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1に係る車両を車幅方向外側から視た側面図である。
図2】実施例1に係る車両を車幅方向内側から視た側面図である。
図3図1の要部拡大図である。
図4図2の要部拡大図である。
図5】屈曲部を車幅方向外側から視た図である。
図6】屈曲部を車幅方向内側から視た図である。
図7図3のVII-VII線断面図である。
図8図4のVIII-VIII線断面図である。
図9】検証結果の説明図である。
図10図9の領域Xの拡大図である。
図11図10の領域Yの拡大斜視図である。
図12図10の領域Zを車幅方向内側から視た図である。
図13】アウタ部材の変形挙動を示す図である。
図14】インナ部材の変形挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明は、本発明を車両の側部車体構造に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施例1について図1図14に基づいて説明する。
図1図2に示すように、車両Vは、前後に延びる左右1対のサイドシル1と、1対のサイドシル1の前端部分から鉛直上方に夫々延びる左右1対のヒンジピラー2と、1対のサイドシル1の中間部分から鉛直上方に夫々延びる左右1対のセンタピラー3と、ルーフパネル(図示略)の車幅方向両端部において前後に延びる左右1対のルーフサイドレール4と、ヒンジピラー2の上端部に屈曲部Aを介して連結されると共に後側上方に延びてルーフサイドレール4の前端部に接続部Bを介して連結されたフロントピラー30と、ヒンジピラー2の屈曲部Aよりも下側位置から前方に延びるエプロンレインフォースメント(以下、エプロンレインと略す)5等を備えている。
【0020】
この車両Vには、SORB(Small Overlap Rigid Barrier)試験に代表されるフロントサイドフレーム6よりも車幅方向外側部分(オーバラップ領域が25%以下)に障害物が衝突する、所謂スモールオーバーラップ衝突時、エプロンレイン5に後方に向かう衝突エネルギが作用したとき、フロントピラー30の長手直交方向に面外変形して衝突エネルギを吸収可能なエネルギ吸収部Eが設けられている。本実施形態において、エネルギ吸収部Eは、後述するアウタビード部31b及びインナビード部32bで構成されている。
また、フロントピラー30の長手直交方向に生じる面外変形とは、骨格フレームとしての全体座屈を意味するものではなく、部材断面を構成する一部分(例えば、フランジ部等の特定部位)の局部座屈或いは部分的な変位と定義される。
【0021】
まず、車両Vの概略構成について説明する。
図1図2に示すように、車両Vの左右両側部には、フロントドア(図示略)によって開閉されると共に前席乗員が乗降可能な開口部Cが夫々設けられている。
略台形状の開口部Cは、サイドシル1の前半部分と、ヒンジピラー2と、センタピラー3と、ルーフサイドレール4の前部と、フロントピラー30等により形成されている。
尚、車両Vが左右対称構造に構成されているため、以下、右側部分について主に説明する。また、図において、矢印F方向を車体前後方向前方とし、矢印OUT方向を車幅方向外方とし、矢印U方向を車体上下方向上方としている。
【0022】
図1に示すように、ダッシュパネル(図示略)から前方に延びる左右1対のフロントサイドフレーム6は、1対のサイドシル1の間に配置されている。フロントサイドフレーム6とエプロンレイン5との間には、前輪用サスペンション(図示略)のダンパを支持するサスペンションタワー(以下、サスタワーと略す)7が形成されている。
サスタワー7は、前輪及び前輪用サスペンションを収容するホイールハウス8を一体的に備えている。ホイールハウス8は、ダッシュパネルの前側で且つエプロンレイン5の下側領域に形成されている。
【0023】
次に、ヒンジピラー2について説明する。
図1図5に示すように、ヒンジピラー2は、断面略ハット状のアウタ部材21と、このアウタ部材21と協働して上方に延びる略矩形状の閉断面を形成する板状のインナ部材22とを有している。アウタ部材21及びインナ部材22は、高張力鋼或いは超高張力鋼にて構成されている。
【0024】
アウタ部材21は、断面略コ字状の本体部と、この本体部の前端部と後端部から前方と後方に夫々延びる前後1対のフランジ部により構成されている。本体部の上段部及び下段部には、フロントドアのドアヒンジを取り付けるため、車幅方向外側に膨出した上下1対のヒンジ取付部が夫々形成されている。ヒンジピラー2とフロントピラー30の連結部分には、屈曲部Aが形成され、この屈曲部Aを介してフロントピラー30が後側上方に向けて延設されている。
【0025】
図3に示すように、屈曲部Aの下側近傍位置であるアウタ部材21の上端部分には、カウルサイドレイン11と、フロントピラーレイン12が接合されている。
屈曲部Aは、フロントピラー30の下端部に相当する領域に設けられている。
カウルサイドレイン11は、アウタ部材21に対して上側のヒンジ取付部の右端部と部分的に重畳するようにスポット溶接にて接合されている。
【0026】
エプロンレイン5の外面部は、カウルサイドレイン11を介してアウタ部材21に連結されている。フロントピラーレイン12は、カウルサイドレイン11の上端後方部分とアウタ部材21の後部上端部分とフロントピラー30のアウタ部材31の下端部に夫々接合されている。エプロンレイン5の内面部は、インナ部材22に連結されている。
図2図4図6に示すように、屈曲部Aの下側近傍位置で且つインナ部材22の上端部分には、フロントピラー30の下側インナ部材32が接合されている。
【0027】
次に、フロントピラー30について説明する。
図1図2に示すように、フロントピラー30は、ヒンジピラー2の上部に形成された屈曲部Aとルーフサイドレール4の前部に形成された接続部Bに亙って略直線状に設けられている。このフロントピラー30は、後側程上方に移行するように形成されている。
図1図8に示すように、フロントピラー30は、アウタ部材31と、このアウタ部材31と協働して断面略楕円状の閉断面を形成するインナ部材、具体的には、下側インナ部材32の一部(上部)及び上側インナ部材33等を備えている。
【0028】
図3図5図7に示すように、アウタ部材31は、断面略U字状の本体部31aと、単一のアウタビード部31bと、本体部31aの上端部から車幅方向内側に延びる上側フランジ部31cと、本体部31aの下端部から下方に延びる下側フランジ部31dとを備えている。本体部31aは、車幅方向外側上方に膨出するように形成されている。
エネルギ吸収部Eであるアウタビード部31bは、本体部31aの下半部から下側フランジ部31dの上半部の領域において、正面視にて略菱形状に形成されている。このアウタビード部31bは、上下に延びる稜線を備え、楕円状閉断面に対して凸状形成されている。
【0029】
図4図6図8に示すように、下側インナ部材32は、パネル部材をプレス成形して形成されている。この下側インナ部材32は、インナ部材22の上端部に接合された鉛直部分と、上側インナ部材33の下端部に接合された後方傾斜部分とを備えている。
下側インナ部材32の鉛直部分は、ヒンジピラー2のインナ部材22の一部を構成し、後方傾斜部分は、フロントピラー30のインナ部材の一部を構成している。
【0030】
下側インナ部材32の後方傾斜部分は、断面略U字状の本体部32aと、単一のインナビード部32bと、本体部32aの上端部から車幅方向内側に延びる上側フランジ部32cと、本体部32aの下端部から下方に延びる下側フランジ部32dと、複数のノッチ部32n等を備えている。本体部32aは、車幅方向内側下方に膨出するように形成されている。エネルギ吸収部Eであるインナビード部32bは、本体部32aに対して正面視にて直線状で且つ後側程下方に移行する傾斜状に形成されている。このインナビード部32bは、本体部32aの下端部から上端部近傍位置に亙って楕円状閉断面に対して凹状形成されている。
【0031】
図5に示すように、インナビード部32bは、アウタビード部31bに対して、側面視にて略同じ高さ位置で且つ略同じ前後方向位置になるように配設されている。具体的には、インナビード部32bは、アウタビード部31bの前側近傍位置に配置されている。
上側フランジ部32c及び後述する上側フランジ部33cは、例えば、複数の接合部S1~S4等において、上側フランジ部31cにスポット溶接を用いて接合されている。
下側フランジ部32d及び後述する下側フランジ部33dは、例えば、複数の接合部S11~S14等において、下側フランジ部31dにスポット溶接を用いて接合されている。
【0032】
アウタビード部31b及びインナビード部32bの上側且つフロントピラー30の長手方向において、アウタビード部31b及びインナビード部32bを間に挟む接合部S2,S3のピッチ間隔は、その他の溶接個所、例えば、接合部S1,S2のピッチ間隔や接合部S3,S4のピッチ間隔等に比べて大きく設定されている。
アウタビード部31b及びインナビード部32bの下側且つフロントピラー30の長手方向において、アウタビード部31b及びインナビード部32bを間に挟む接合部S12,S13のピッチ間隔は、その他の溶接個所、例えば、接合部S11,S12のピッチ間隔や接合部S13,S14のピッチ間隔等に比べて大きく設定されている。
【0033】
図6に示すように、複数のノッチ部32nは、下側インナ部材32の後方傾斜部分に形成されている。具体的には、上側フランジ部32cに略台形状のノッチ部32nが設けられている。複数のノッチ部32nのうち所定(例えば、前から2番目)のノッチ部32nは、インナビード部32bの前方に向かう延長線に対応した位置に形成されている。
【0034】
図6に示すように、上側インナ部材33は、断面略U字状の本体部33aと、この本体部33aの上端部から車幅方向内側に延びる上側フランジ部33cと、本体部33aの下端部から下方に延びる下側フランジ部33dと、複数のノッチ部33n等を備えている。
この上側インナ部材33は、下側インナ部材32の後方傾斜部分の断面形状に連なるように形成されている。複数のノッチ部33nは、ノッチ部32nと同様に略台形状に形成され、上側フランジ部33cに設けられている。
【0035】
図2に示すように、上側インナ部材33の車幅方向内側面には、側方からの衝撃荷重に対して乗員を保護するカーテンエアバッグ装置13が装着されている。
カーテンエアバッグ装置13は、乗員の側方で膨張展開可能なカーテン状のエアバッグと、所定条件の成立時にエアバッグに膨張ガスを供給するインフレータと、エアバッグとインフレータを固定するリテーナと、膨張展開前のエアバッグを覆うエアバッグカバーとを備え、表面がフロントピラートリムによって被覆されている(何れも図示略)。
カーテンエアバッグ装置13の構成は、公知技術であるため、詳細な説明を省略する。
【0036】
次に、本発明の実施形態による車両Vの側部車体構造の作用効果について説明する。
作用効果の説明に先立ち、車両Vを用いたSORB試験の検証結果について説明する。
尚、図9は、車両Vとバリヤとがスモールオーバーラップ衝突した直後の全体変形挙動を示す側面図、図10は、領域Xの拡大図、図11は、領域Yの拡大斜視図、図12は、領域Zを車幅方向内側から視た図を夫々示している。
【0037】
図10図11に示すように、スモールオーバーラップ衝突の発生直後、アウタ部材31のアウタビード部31bの形状線部分に衝突荷重が集中する。
図13に示すように、接合部S12,S13のピッチ間隔が他の箇所のピッチ間隔よりも広く且つアウタビード部31bが凸状に形成されているため、集中した衝突荷重が下側フランジ部31dを口開き変形させ、アウタビード部31bが全体座屈ではなくフロントピラー30の長手直交方向に面外変形している。
【0038】
図10図12に示すように、スモールオーバーラップ衝突の発生直後、下側インナ部材32のインナビード部32bの形状線部分に衝突荷重が集中する。
図14に示すように、接合部S2,S3のピッチ間隔が他の箇所のピッチ間隔よりも広く且つインナビード部32bが凹状に形成されているため、集中した衝突荷重が下側フランジ部32dを口閉じ変形させている。また、図12に示すように、インナビード部32bの前方に向かう延長線に対応した位置にノッチ部32nが形成されているため、上側フランジ部32cを口開き変形させ、インナビード部32bが全体座屈ではなくフロントピラー30の長手直交方向に面外変形している。
【0039】
この構成により、屈曲部Aは、エプロンレイン5に後方に向かう衝突エネルギが作用したとき、フロントピラー30の長手直交方向に面外変形して衝突エネルギを吸収するエネルギ吸収部E(アウタビード部31b、インナビード部32b)を備えているため、衝突荷重をエネルギ吸収部Eで吸収することにより屈曲部Aよりも後方部分に伝達される衝突荷重を低減することができ、フロントピラー30とルーフサイドレール4との接続部Bに生じる折れ曲がり変形を回避することによりフロントピラー30の位置の変位を抑制することができる。
【0040】
フロントピラー30は、アウタ部材31と、このアウタ部材31と協働して後側程上方に移行する閉断面を形成する下側インナ部材32及び上側インナ部材33により構成され、エネルギ吸収部Eは、アウタ部材31及び下側インナ部材32に設けられたアウタビード部31b及びインナビード部32bで構成されている。これにより、新設部材を準備することなく、エネルギ吸収部Eであるアウタビード部31b及びインナビード部32bを用いてフロントピラー30の長手直交方向に面外変形を生じさせることができる。
【0041】
アウタ部材31及び下側インナ部材32は、外縁部分にフランジ部31c,31d及び32c,32dを夫々有し、上側フランジ部32cは、インナビード部32bの近傍位置にノッチ部32nが形成されている。これにより、フロントピラー30のインナビード部32bによる断面変形を容易に誘発することができる。
【0042】
アウタ部材31及び下側インナ部材32は、フランジ部31c,31d及び32c,32dが複数の接合部S1~S4,S11~S14で接合され、アウタビード部31b及びインナビード部32bに近接した接合部S2,S3及び接合部S12,S13間の間隔が、アウタビード部31b及びインナビード部32bから離隔したそれ以外の接合部間の間隔よりも大きく形成されている。これにより、フロントピラー30のアウタビード部31b及びインナビード部32bによる断面変形を促進させることができる。
【0043】
エネルギ吸収部Eは、アウタ部材31に設けられたアウタビード部31bと下側インナ部材32に設けられたインナビード部32bを有し、アウタビード部31bとインナビード部32bは、側面視にて略同じ前後方向位置であるため、アウタビード部31bとインナビード部32bの相乗効果によって、フロントピラー30とルーフサイドレール4との接続部Bに生じる折れ曲がり変形を効率的に回避することができる。
【0044】
アウタビード部31bは閉断面に対して凸状に形成され、インナビード部32bは閉断面に対して凹状に形成されたため、アウタビード部31bとインナビード部32bによる断面変形に夫々指向性を持たせることができ、フロントピラー30の断面変形を一層効率的に誘発することができる。
【0045】
所定条件の成立時に供給されるガス圧に応じて膨張展開するカーテン状のエアバッグを備えたカーテンエアバッグ装置13を有し、カーテンエアバッグ装置13が、上側インナ部材33の車幅方向内側部分に装着されたため、スモールオーバーラップ衝突の際、フロントピラー30の位置の変位を抑制することができ、エアバッグを狙いの位置に展開させることができる。
【0046】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、エネルギ吸収部Eをアウタ部材31に設けた単一のアウタビード部31bと下側インナ部材32に設けた単一のインナビード部32bによって構成した例について説明したが、少なくとも、屈曲部Aにてフロントピラー30の長手直交方向に面外変形できれば良く、アウタビード部31bとインナビード部32bのうち何れか一方のみで構成しても良い。また、何れのビード部も複数設けることは可能である。
【0047】
2〕前記実施形態においては、エネルギ吸収部Eをアウタビード部31bとインナビード部32bによって構成した例について説明したが、少なくとも、屈曲部Aにてフロントピラー30の長手直交方向に面外変形できれば良く、ビード部に代えてエッチング処理或いは薄肉化による脆弱部によってエネルギ吸収部Eを構成しても良い。
【0048】
3〕前記実施形態においては、フロントピラー30のインナ部材を下側インナ部材32と上側インナ部材33で構成した例について説明したが、単一のインナ部材で構成しても良い。また、インナ部材を3分割以上で構成することも可能である。
【0049】
4〕前記実施形態においては、ノッチ部が下側インナ部材32のみに形成された例について説明したが、アウタビード部31bに対応させてアウタ部材31に形成しても良い。
【0050】
5〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0051】
2 ヒンジピラー
4 ルーフサイドレール
5 エプロンレイン
13 カーテンエアバッグ装置
30 フロントピラー
31 アウタ部材
31b アウタビード部
31c 上側フランジ部
31d 下側フランジ部
32 下側インナ部材
32b インナビード部
32c 上側フランジ部
32d 下側フランジ部
32n ノッチ部
33 上側インナ部材
S1~S4, 接合部
S11~S14
A 屈曲部
B 接続部
E エネルギ吸収部
V 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14