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特許7443984変位量検出装置、変位量検出方法および操作子の操作情報出力装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】変位量検出装置、変位量検出方法および操作子の操作情報出力装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20240228BHJP
   G10H 1/34 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
G01B7/00 101E
G10H1/34
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020139332
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2022035195
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 潤
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/122867(WO,A1)
【文献】特開2004-085215(JP,A)
【文献】特開2005-077278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01D 5/00-5/252
5/39-5/62
G10H 1/00-7/12
G06F 3/02
H03M 11/00-11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作に応じた可動部材の変位量を検出する変位量検出装置であって、
前記可動部材に設置された第1コイルを含む第1基板回路と、
電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルに対向する前記第2コイルとの相対位置に応じたレベルの検出信号を出力する第2基板回路と、
前記第1コイルおよび前記第2コイルの距離が無限大の状態における前記第2基板回路の等価回路を示す第1等価回路と、
前記距離がゼロの状態における前記第2基板回路の等価回路を示す第2等価回路と、
前記電流が前記第1等価回路に供給されたときに当該第1等価回路から出力される第1出力信号と、前記電流が前記第2等価回路に供給されたときに当該第2等価回路から出力される第2出力信号とに基づいて前記検出信号を補正し、当該補正した検出信号に基づいて前記変位量を算出する情報処理装置と、
を有する変位量検出装置。
【請求項2】
前記可動部材は、複数であり、
前記複数の可動部材の各々に、一の第1基板回路が設置され、
当該一の第1基板回路に対応して、一の第2基板回路が設置され、
前記情報処理装置は、前記複数の可動部材の変位量を、時分割で算出する
請求項1に記載の変位量検出装置。
【請求項3】
前記電流を、2以上の第2基板回路に時分割で分配するデマルチプレクサと、
前記デマルチプレクサにより電流が供給された第2基板回路から検出信号を集約して、前記情報処理装置に出力するマルチプレクサと
を含む請求項2に記載の変位量検出装置。
【請求項4】
前記デマルチプレクサおよび前記マルチプレクサは、1組以上であり、
前記第1等価回路および前記第2等価回路の1組は、
前記デマルチプレクサおよび前記マルチプレクサの1組に対して、または、
前記デマルチプレクサおよび前記マルチプレクサの複数組に対して、設けられる
請求項3に記載の変位量検出装置。
【請求項5】
前記マルチプレクサで集約された検出信号を、整流および平滑化して、前記情報処理装置に供給する整流平滑化回路
を含む請求項3または4に記載の変位量検出装置。
【請求項6】
操作に応じた可動部材の変位を、
前記可動部材に設置された第1コイルを含む第1基板回路と、
電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルに対向する前記第2コイルとの相対位置に応じたレベルの検出信号を出力する第2基板回路と、
前記第1コイルおよび前記第2コイルの距離が無限大の状態における前記第2基板回路の等価回路を示す第1等価回路と、
前記距離がゼロの状態における前記第2基板回路の等価回路を示す第2等価回路と、
を用いて検出する変位量検出方法であって、
前記電流が前記第1等価回路に供給されたときに当該第1等価回路から出力される第1出力信号と、前記電流が前記第2等価回路に供給されたときに当該第2等価回路から出力される第2出力信号とを取得するステップと、
前記第1出力信号と前記第2出力信号とに基づいて、前記検出信号を補正するステップと、
当該補正した検出信号に基づいて前記変位量を算出するステップと、
を含む変位量検出方法。
【請求項7】
操作子と、
前記操作子に設置された第1コイルを含む第1基板回路と、
電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルに対向する前記第2コイルとの相対位置に応じたレベルの検出信号を出力する第2基板回路と、
前記第1コイルおよび前記第2コイルの距離が第1値である状態において前記第2基板回路の等価回路を示す第1等価回路と、
前記電流を前記第1等価回路に供給したときに当該第1等価回路から出力される第1出力信号に少なくとも基づいて前記検出信号を補正し、当該補正した検出信号に基づいて前記操作子の操作情報を出力する情報処理装置と、
を有する操作子の操作情報出力装置であって、
前記距離が前記第1値とは異なる第2値である状態において前記第2基板回路の等価回路を示す第2等価回路を、さらに含み、
前記情報処理装置は、前記第1出力信号に加え、前記電流を前記第2等価回路に供給したときに当該第2等価回路から出力される第2出力信号に基づいて、
前記検出信号を補正する
操作子の操作情報出力装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変位量検出装置、変位量検出方法および操作子の操作情報出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、可動部材の変位量を検出するための各種の技術が提案されている。例えば、可動部材を鍵盤楽器の鍵とした場合に、当該鍵の変位量、すなわち押下量に応じて透過量が変化する光学要素(例えばグレースケール)を設置し、センサーにより透過量を測定することで、鍵の押下量などの情報を得る技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-195618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、グレースケールのような繊細な光学要素が必要となるので、衝撃や、振動、汚損に敏感となり、長期的な信頼性が得られにくい。このような事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、長期的な信頼性が得られやすい変位量検出装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る変位量検出装置は、可動部材の変位を検出する変位量検出装置であって、前記可動部材に設置された第1コイルを含む第1基板回路と、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルに対向する前記第2コイルとの相対位置に応じたレベルの検出信号を出力する第2基板回路と、前記第1コイルおよび前記第2コイルの距離がゼロである状態における前記第2基板回路の等価回路を示す第1等価回路と、前記距離が無限大である状態における前記第2基板回路の等価回路を示す第2等価回路と、前記電流が前記第1等価回路に供給されたときに当該第1等価回路から出力される第1出力信号と、前記電流が前記第2等価回路に供給されたときに当該第2等価回路から出力される第2出力信号とに基づいて、前記検出信号を補正する補正回路と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る変位量検出装置を適用した鍵盤楽器の構成を示す図である。
図2】鍵盤楽器における第1基板回路と第2基板回路とによる検出回路を示す図である。
図3】検出信号の出力特性の一例を示す図である。
図4】正規化した検出信号の出力特性の一例を示す図である。
図5】鍵盤楽器において検出回路を含む回路全体の構成を示すブロック図である。
図6】鍵盤楽器における情報処理装置の構成を示すブロック図である。
図7】情報処理装置の動作を示すフローチャートである。
図8】情報処理装置の動作を示すフローチャートである。
図9】第1等価回路の一例を示す図である。
図10】第2等価回路を説明するための図である。
図11】第2等価回路を説明するための図である。
図12】第2等価回路を説明するための図である。
図13】第2等価回路を説明するための図である。
図14】第2等価回路を説明するための図である。
図15】第2等価回路を説明するための図である。
図16】第2等価回路を説明するための図である。
図17】第2等価回路の一例を示す図である。
図18】第2等価回路の別例を示す図である
図19】変位量検出装置を鍵盤楽器の打弦機構に適用した例を示す図である。
図20】変位量検出装置を鍵盤楽器のペダル機構に適用した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の実施形態に係る変位量検出装置を適用した鍵盤楽器について説明する。鍵盤楽器は、例えば白鍵と黒鍵とを含む複数(例えば88個)の鍵を有し、各鍵の変位量を検出して、当該変位量に基づいて各鍵の操作情報を出力する。
【0008】
図1は、鍵盤楽器10における鍵盤の構成の一例を示す図である。鍵盤における1つの鍵12は、支点部13を支点として支持部材14に、揺動自在に支持される。具体的には、鍵12の端部121は、利用者による鍵12の操作により図において鉛直方向に変位する。支持部材14は、鍵盤の各要素を支持する固定の構造体である。鍵12は、図示省略されたバネ等の弾性により図において支点部13を中心に反時計回りに付勢されている。利用者が鍵12を操作しない状態であれば、当該鍵12はストッパーSrにより図において実線のレスト位置で静止し、押鍵時には、ストッパーSeにより図において破線のエンド位置まで変位する。
【0009】
鍵12の底面122において、支点部13を基準として端部121の反対側には、第1基板回路50が設置される。第1基板回路50には、平面状の第1コイル501が含まれる。
支持部材14には、第2基板回路60が設置される。第2基板回路60には、平面状の第2コイル601が含まれる。第1基板回路50および第2基板回路60は、第1コイル501および第2コイル601が互いに対向する位置に設置される。なお、第1基板回路50および第2基板回路60によって、後述する検出回路が構成される。
また、図1は、鍵12の一例として白鍵を挙げて説明しているが、黒鍵についても、第1基板回路50および第2基板回路60が同様に設置される。
【0010】
鍵12の端部121において、始点のレスト位置Rstから終点のエンド位置Endまでの変位量をdとする。また、第1コイル501の中心と第2コイル601の中心との距離をZとする。変位量dおよび距離Zは、変位量dが大きくなるにつれて距離Zも大きくなる関係にある。
なお、変位量dは、レスト位置Rstにおける最小値のゼロからエンド位置Endにおける有限値までの値をとり得るが、距離Zは、レスト位置Rstに相当する値(Zrst)から、エンド位置Endに相当する値(Zend)までの値をとり得る。
また、支点部13を基準として端部121と同じ側に、第1基板回路50および第2基板回路60を設置してもよい。このように設置した場合には、変位量dおよび距離Zは、変位量dが大きくなるにつれて距離Zが小さくなる関係になる。
【0011】
図2は、第1基板回路50および第2基板回路60による検出回路を示す図である。第1基板回路50は、第1コイル501と容量502とを含む。第1基板回路50では、第1コイル501の両端と容量502の両端とが相互に接続されて、第1コイル501と容量502とによって共振回路が構成される。本実施形態においては、第1基板回路50は、共振周波数fpに設定されるものとする。
第1コイル501は、例えば絶縁体の基材表面に設けられた銅箔を、渦巻き状にパターニングすることによって形成される。また、容量502には、例えばチップコンデンサーが用いられる。
【0012】
第2基板回路60は、入力端子T1と出力端子T2と第2コイル601と容量602と容量603と抵抗605とを含み、共振回路が第2コイル601と容量602と容量603と抵抗605とによって構成される。入力端子T1は、抵抗605の一端に接続される。抵抗605の他端は第2コイル601の一端および容量602の一端に接続される。第2コイル601の他端は、容量603の一端に接続される。なお、第2コイル601の一端、容量602の一端および抵抗605の他端の接続点を端子T11とする。
第2コイル601の他端および容量603の一端は出力端子T2に接続される。容量602の他端および容量603の他端は電圧ゼロの基準である電位Gndに接地される。
第2コイル601は、例えば絶縁体の基材表面に設けられた銅箔を、渦巻き状にパターニングすることによって形成される。また、容量602、603には、例えばチップコンデンサーが用いられ、抵抗605には例えばチップ抵抗が用いられる。
【0013】
第2基板回路60における共振周波数faは、第1基板回路50の共振周波数fpとの関係、あるいは後述する測定周波数fmとの関係などから、期待する特性に合わせて設定される。本実施形態において、第2基板回路60における共振周波数faは、測定周波数fmの1/(√2)倍の関係に設定される。なお、第2基板回路60の共振周波数faは、例えば、第1基板回路50の共振周波数fpとほぼ同等であったり、当該共振周波数fpに所定の定数を乗算した値であったりする。
【0014】
交流の基準信号Einが入力端子T1に供給されると、当該基準信号Einに応じた磁界が第2コイル601に発生する。第2コイル601で発生した磁界の電磁誘導により第1コイル501には誘導電流が発生する。第1コイル501に発生する磁界は、第1コイル501と第2コイル601との距離Zに応じて変化して、第2コイル601に影響を及ぼす。具体的には、距離Zが小さいと、第2コイル601では、インピーダンスが大きくなる一方、距離Zが大きいと、インピーダンスが小さくなる。
【0015】
このため、出力端子T2から出力される検出信号Eoutのレベルは、距離Zに応じて変化する。検出信号Eoutは、基準信号Einと同じ周期でレベルが変化した周期信号である。また、本実施形態において、検出信号Eoutのレベルは、当該検出信号Eoutを整流および平滑化したときの信号Edcの電圧レベルとする。
なお、レベルとしては、整流しない状態におけるピークトゥーピークとしてもよいし、振幅中心値から最大値または最小値までの振幅としてもよい。
また、交流の基準信号Einの周波数は、第1基板回路50または第2基板回路60における共振周波数、あるいは、当該共振周波数の近傍(例えば、±150kHz程度のずれは許容される)に設定される。基準信号Einの周波数を測定周波数fmと呼ぶ。本実施形態においては、測定周波数fmは、第1基板回路50の共振周波数fpと同じ周波数とする。基準信号Einには、直流成分が重畳された交流信号が用いられる。
【0016】
図3は、距離Zと信号Edcの電圧レベルとの特性の一例を示す図である。この特性は、距離Zがレスト位置Rstに相当する距離Zrstからエンド位置Endに相当する距離Zendまで、ほぼ非線形である。
このような非線形特性においては、同じ鍵12の第2基板回路60であっても、時間経過や、容量602、603の誤差などによって、ばらつきが生じる。特に信号Edcの電圧レベルが高い領域または距離Zが大きい領域では、ばらつきが大きくなる傾向がある。ばらつきの原因としては、例えば通電による発熱や経年変化等による回路特性の変動など、種々挙げられる。
【0017】
ばらつきを吸収するために、図3に示される非線形特性を、図4に示されるように正規化し、当該正規化した非線形な特性Nを用いて、電圧レベルEnから距離Zを求めるという手法が考えられる。
電圧レベルEnは、次式(1)から求められる。
En=(Edc-E)/(E-E)……(1)
なお、式(1)において、Eは、距離Zがゼロの状態の検出信号Eoutの電圧レベルであり、Eは、距離Zが無限大の状態の検出信号Eoutの電圧レベルである。
このように正規化すると、上記ばらつきの影響が小さくなるので、電圧レベルEn(Edc)から距離Z(および当該距離Zに対応する変位量d)を精度良く求められるはずである。
【0018】
しかしながら、第1基板回路50が鍵12に設置され、第2基板回路60が支持部材14に設置された状態では、距離Zを物理的にゼロにすることはできず、また、距離Zを物理的に無限大にすることができない。このため、鍵盤楽器10に第1基板回路50および第2基板回路60を設置した状態では、電圧レベルE0およびE∞を求めることができない。したがって、通電による発熱や経年変化等によって回路特性が変動した場合に、正規化が困難となる。
【0019】
そこで、本実施形態では、距離Zが無限大の状態における第2基板回路600の回路特性を模擬した第1等価回路70と、距離Zがゼロの状態における第2基板回路600の回路特性を模擬した第2等価回路80との2つが用意される。
本実施形態では、第1等価回路70により電圧レベルEを求め、第2等価回路80により電圧レベルEを求めて、求めた電圧レベルEおよびEを用いて、非線形特性が正規化される。
第1等価回路70および第2等価回路80の詳細については後述するが、いずれも第2基板回路60と同様に入力端子T1および出力端子T2を有する。
【0020】
正規化した特性Nは非線形であり、そのままでは非常に使いにくい。そこで、本実施形態では、非線形な特性Nをその逆関数を通すことにより距離Z(変位量d)を求める構成としている。
なお、ここでいう逆関数とは、例えば距離Zがゼロのときの電圧レベルEn(=0)と、距離Zが無限大のときの電圧レベルEn(=1)とを結ぶ直線を基準にして、特性Nを反転させた特性を示す関数をいう。
【0021】
また、本実施形態では、例えば、距離Zがゼロのときの電圧レベルEn(=0)から、距離Zが無限大のときの電圧レベルEn(=1)までの範囲のうち、レスト位置Rstに相当する距離Zrstから、エンド位置Endに相当する距離Zendまでの範囲を使用する。
また、図3において距離Zが大きい領域では、信号Edcの電圧レベルは飽和して、ほとんど変化しない。このため、距離Zが無限大となる位置については、鍵12のエンド位置Endに相当する距離Zendにマージンの距離αを加えた距離(Zend+α)に相当する位置とする。
【0022】
なお、距離Zrstは、例えば電源投入直後のように利用者が鍵12を操作していない状態において検出された信号Edcの電圧レベルEnに紐付けてよい。また、鍵12が利用者によって操作された期間で測定された距離Zのうち、最小値を距離Zrstとし、最大値をエンド位置の距離Zendとしてもよい。
距離Zrstおよび距離Zendのいずれも、88鍵のすべてについて求められて、記憶装置に格納される。なお、距離Zrstおよび距離Zendについては、演奏時の回路特性の変動に対処するために、周期的または適宜に更新してもよい。
また、特性Nの始点を、ある鍵12の距離Zrstの地点に補正し、上記特性Nの終点を当該鍵12の距離Zendの地点に補正する処理をレスト-エンド補正と呼ぶことにする。
【0023】
このように本実施形態によれば、図3の特性を、式(1)により図4の特性Nに示されるように正規化して、さらに距離Zrstおよび距離Zendによりレスト-エンド補正を実行することで、発熱や経年変化等による回路特性の変動を小さくして、距離Zを求め、当該距離Zに応じた変位量dを求めることができる。
なお、本実施形態では、8組の第1基板回路50および第2基板回路60において1組の電圧レベルEおよびEを共用して正規化する。
【0024】
以上が本実施形態に係る鍵盤楽器10において信号Edcの電圧レベルEnから距離Z(変位量d)を求めることについての概要である。鍵盤楽器10では、実際には88個の鍵12の変位量dを時分割で求めるので、以下について、その構成について説明する。
【0025】
図5は、検出回路を含む鍵盤楽器10の回路全体の構成を示すブロック図である。鍵盤楽器10は、情報処理装置100と、発振器20と、デマルチプレクサ30_1~30_11と、マルチプレクサ40_1~40_11と、第1基板回路50および第2基板回路60の88組と、第1等価回路70および第2等価回路80の11組と、整流平滑化回路90とを含む。発振器20は、上述した基準信号Einを出力する。なお、本回路においても、第2基板回路60の共振周波数faは、測定周波数fmの1/(√2)倍の値に設定され、測定周波数fmは第1基板回路50の共振周波数fpと同じ周波数とする。
【0026】
情報処理装置100は、デマルチプレクサ30_1~30_11およびマルチプレクサ40_1~40_11に制御信号Slctを出力する。また、情報処理装置100は、信号Edcを入力して、88個の鍵12について変位量dをそれぞれ求める。
【0027】
デマルチプレクサ30_1~30_11およびマルチプレクサ40_1~40_11は、「_」(アンダーバー)以降の番号が一致するもの同士が組となっている。例えば、デマルチプレクサ30_2およびマルチプレクサ40_2が同じ組であり、デマルチプレクサ30_11およびマルチプレクサ40_11が同じ組である。
制御信号Slctは、デマルチプレクサ30_1~30_11およびマルチプレクサ40_1~40_11の11組のうち、いずれかの組を指定するとともに、指定した組のデマルチプレクサにおける出力端1~10のいずれかの選択を指定し、指定した組のマルチプレクサおける入力端1~10のいずれかの選択を指定する。
【0028】
デマルチプレクサ30_1~30_11は、制御信号Slctにより指定された場合、入力端Inに供給された基準信号Einを、制御信号Slctにより指定された出力端1~10のいずれかに出力する。なお、デマルチプレクサ30_1~30_11は、制御信号Slctにより指定されなかった場合には、基準信号Einを出力端1~10のいずれにも出力しない。
マルチプレクサ40_1~40_11は、制御信号Slctにより指定された場合、制御信号Slctにより指定された入力端1~10のいずれかを出力端Outを経路42に出力する。なお、マルチプレクサ40_1~40_11は、制御信号Slctにより指定されなかった場合には、出力端Outを経路42から切り離す。
【0029】
なお、デマルチプレクサ30_1~30_11およびマルチプレクサ40_1~40_11について組を区別することなく、一般的に説明する場合には、「_」以降の番号を省略して、単にデマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40と表記する。
また、ある組のデマルチプレクサ30の出力端1~10およびマルチプレクサ40の入力端1~10は、一対一に対応しているので、まとめて入出力端1~10と表記する場合がある。
【0030】
デマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の入出力端1~10のうち、入出力端1~8には、8個の第2基板回路60が割り当てられ、入出力端9には、1個の第1等価回路70が割り当てられ、入出力端10には、1個の第2等価回路80が割り当てられる。すなわち、8個の第2基板回路60に対し、1組の第1等価回路70および第2等価回路80が割り当てられる。
【0031】
デマルチプレクサ30における出力端1~8には、8個の第2基板回路60の入力端子T1が一対一に接続され、出力端9には、第1等価回路70の入力端子T1が接続され、出力端10には、第2等価回路80の入力端子T1が接続される。同様に、マルチプレクサ40における入力端1~8には、8個の第2基板回路60の出力端子T2が一対一に接続され、入力端9には、第1等価回路70の出力端子T2が接続され、出力端10には、第2等価回路80の出力端子T2が接続される。
【0032】
整流平滑化回路90は、経路42に出力された信号を整流および平滑化し、信号Edcとして情報処理装置100に出力する。
【0033】
図6は、情報処理装置100の構成を示すブロック図である。情報処理装置100は、制御装置102、記憶装置104、音源装置106、入出力(I/O)装置108およびアナログデジタルコンバーター(ADC)110を含む。
【0034】
ADC110は、整流平滑化回路90から出力されたアナログの信号Edcをデジタルの信号Eddに変換する。
入出力装置108は、信号を入出力するための回路である。具体的には、入出力装置108は、信号Eddを入力して、制御装置102に供給するとともに、制御装置102からの制御信号Slctを出力する。
【0035】
記憶装置104は、各種のデータやプログラム等を不揮発に記憶するものであり、例えば磁気記録媒体または半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成される。なお、複数種の記録媒体の組合せにより記憶装置104を構成してもよい。また、鍵盤楽器10に着脱可能な可搬型の記録媒体、または、鍵盤楽器10が通信可能な外部記録媒体(例えばオンラインストレージ)を、記憶装置104として利用してもよい。
【0036】
制御装置102は、信号Eddを解析することで各鍵12の変位量dを求め、当該変位量dに基づいて各鍵12の操作情報を音源装置106に出力する。鍵12の操作情報には、当該鍵12の音高を示す情報、発音または消音を示す情報、鍵12の押鍵速度を示す情報などが含まれる。
音源装置106は、制御装置102からされた出力された操作情報に基づき音響信号Auを生成する。具体的には、音源装置106は、音高を示す情報が供給されたときに、当該音高の楽音の音響信号Auを、押鍵速度を示す情報に応じた音量で生成する。また、音源装置106は、消音を示す情報が音高を示す情報とともに供給されたときに、当該音高の楽音の音響信号Auの生成を停止する。
【0037】
なお、記憶装置104に記憶されたプログラムを実行することで制御装置102が音源装置106の機能を実現してもよい。
【0038】
情報処理装置100には放音装置120が必要に応じて接続される。放音装置120は、音響信号Auが表す音響を放音する。例えばスピーカーまたはヘッドホンが放音装置120として利用される。
このように、音響信号Auが音源装置106から放音装置120に供給されることで、利用者による演奏動作(各鍵12の押鍵または離鍵)に応じた楽音が放音装置120から放音される。
【0039】
また、制御装置102は、制御信号Slctによって例えば次のような順番でデマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の組を指定し、当該指定したデマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の入出力端の選択を順番に指定する。
具体的には、制御装置102は、デマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の組を1組目→2組目→3組目→、…、→11組目(→1組目)という順番で選択して、この選択の動作を繰り返す。
次に、制御装置102は、選択した組におけるデマルチプレクサ30の入出力端を、入出力端1、2、3、…、10という順番で選択を指定する。
【0040】
制御装置102の動作について説明する。
上述したように、正規化に用いる電圧レベルE∞は、単純には、第1等価回路70を用いて求めることができるが、本実施形態では、より精度を高めるために次のような電圧レベルE∞1、E∞2およびE∞3から求めることにする。
【0041】
ここで、距離Zが無限大の状態とは、第2基板回路60からみれば、第1基板回路50が存在しない状態と同義である。この状態では、測定周波数fmにおける第2コイル601の利得が0dBとなる。
第1に、工場出荷状態における第2基板回路60の電圧レベルE∞1を求める。具体的には、ある第2基板回路60について、支持部材14に設置する前の状態であって、第1基板回路50が存在しない状態で、(測定周波数fmの)基準信号Einが入力端子T1に供給されたときに、出力端子T2から出力される検出信号Eout(Edd)のレベルを、工場出荷状態における当該第2基板回路60の電圧レベルE∞1として求める。
第2に、例えば鍵盤楽器10に電源を投入した直後の状態(初期状態)において、第1等価回路70の入力端子T1に基準信号Einが供給されたときに、当該第1等価回路70の出力端子T2から出力される検出信号Eout(Edd)のレベルを、初期状態における電圧レベルE∞2として求める。
第3に、鍵盤楽器10において、(電源投入後の)演奏状態において、第1等価回路70の入力端子T1に基準信号Einが供給されたときに、当該第1等価回路70の出力端子T2から出力される検出信号Eout(Edd)のレベルを、初期状態における電圧レベルE∞3として求める。
【0042】
そして、正規化処理に用いる電圧レベルE∞を、次式(2)で求める。
E∞=E∞1+(E∞3-E∞2) …(2)
式(2)により求めた電圧レベルEを正規化処理に用いることによって、通電時における回路特性の変動のみならず、第2基板回路60の個体毎のばらつきが考慮される。
なお、電圧レベルE∞1は、第2基板回路60に固有の値であり、電圧レベルE∞2およびE∞3は、8個の第2基板回路60で共用される第1等価回路70で測定された値である。
このうち、電圧レベルE∞1は、工場出荷状態において第2基板回路60毎に測定されて、当該第2基板回路60に対応付けられて記憶装置104に記憶される。電圧レベルE∞2は、初期状態において第1等価回路70毎に測定されて、当該第1等価回路70に対応付けられて記憶装置104に記憶される。
次のフローチャートの動作では、前提として、電圧レベルE∞1が88個の第2基板回路60毎に記憶装置104に記憶され、電圧レベルE∞2が11個の第1等価回路70毎に記憶装置104に記憶されている。
【0043】
図7は、制御装置102の動作を示すフローチャートである。
この動作において、制御装置102は、デマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の組を順番に指定し、さらに、指定した組の入出力端の選択を順番に指定する。このため、制御装置102は、測定対象の初期値として、制御信号Slctで1組目のデマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40を指定し、当該1組目の入出力端1の選択を指定する(ステップS1)。
【0044】
次に、制御装置102は、制御信号Slctによって、デマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の入出力端1~10のうち、入出力端1~8の選択を指示したか否かを判別する(ステップS2)。
制御装置102は、制御信号Slctによって入出力端1~8の選択を指示したのであれば(ステップS2の判別結果が「Yes」であれば)、当該指示により選択された第2基板回路60の検出信号Eoutを処理するために、変位量等出力処理を実行する(ステップS3)。なお、変位量等出力処理では、測定対象に対応する鍵12の変位量dが求められて、当該変位量に基づいた操作情報が出力される。
【0045】
また、制御信号Slctによって入出力端1~8の選択を指定していないのであれば(ステップS3の判別結果が「No」であれば)、当該指定は、入出力端9または10の選択の指定である。このため、制御装置102は、まず入出力端9の選択を指定したか否かを判別する(ステップS4)。
【0046】
制御装置102は、入出力端9の選択を指定したのであれば(ステップS4の判別結果が「Yes」であれば)、当該指定により選択された第1等価回路70の検出信号Eoutに基づく電圧レベルE∞3を、選択したデマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の組に紐付けて記憶装置104に記憶させる(ステップS5)。
また、ステップS4またはS5の後、制御装置103は、制御信号Slctで選択する入出力端の番号を「1」だけインクリメントして、測定対象を次の入出力端とする(ステップS6)。
【0047】
制御信号Slctによって入出力端9の選択を指定していないのであれば(ステップS4の判別結果が「No」であれば)、当該指定は、入出力端10の選択の指定である。このため、制御装置102は、当該指定により選択された第2等価回路80の検出信号Eoutに基づく電圧レベルE0を、当該組に紐付けて記憶装置104に記憶させる(ステップS7)。
なお、制御装置102は、ステップS7において、ある組に紐付けられる電圧レベルE0を、過去に記憶させた同じ組の電圧レベルE0と平均化して、正規化に用いる電圧レベルE0として記憶させてもよい。
ステップS7の後、制御装置103は、測定対象の組を次の組に移行させるとともに、当該組において選択する入出力端の番号を「1」に戻す(ステップS8)。
【0048】
制御装置102は、ステップS6またはS8の後、処理手順をステップS2に戻す。以降、ステップS2~S8の動作を、電源が遮断されるまで繰り返す。
このようにして制御装置102は、88個の鍵12について変位量dを求めて、当該変位量に基づいた操作情報を出力する。
【0049】
図8は、変位量等出力処理についての詳細な動作を示すフローチャートである。
制御装置102は、上記ステップS3の変位量等出力処理において、まず正規化処理を実行する(ステップS31)。
詳細には、制御装置102は、測定対象となっているデマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の組、および、当該組で選択を指定した入出力端に対応する第2基板回路60に紐付けられた電圧レベルE∞1と、当該組に紐付けられた電圧レベルE∞2、E∞3とを記憶装置104から読み出し、式(2)にしたがって電圧レベルEを算出する。また、制御装置102は、測定対象となっている組に紐付けられた電圧レベルEを記憶装置104から読み出す。そして、制御装置102は、算出した電圧レベルEおよび読み出した電圧レベルEを用いて、測定対象となっている組の電圧-変位量特性を正規化して、特性Nを求める。
【0050】
次に、制御装置102は、正規化した特性Nの逆関数を求める(ステップS32)。
続いて、制御装置102は、測定対象となっている第2基板回路60(鍵12)に対応付けて上記レスト-エンド補正を実行する(ステップS33)。詳細には、測定対象の第2基板回路60に対応する鍵12について、始点を当該鍵12の距離Zrstの地点に補正し、終点を当該鍵12の距離Zendの地点に補正する処理を実行する。
このように、電圧-変位量特性の正規化は、同一組の8鍵で共用される電圧レベルE∞およびE0により実行されて、正規化した特性Nの逆関数が求められるが、レスト-エンド補正は、鍵12毎に実行される。
【0051】
制御装置102は、測定対象の第2基板回路60に対応した電圧レベルEnを、当該第2基板回路60の鍵12に対応してレスト-エンド補正し、逆関数を通して距離Zに変換し、さらに当該距離Zを変位量dに変換して、当該鍵12の音高に対応付けて記憶する(ステップS34)。
なお、第2基板回路60に対応した電圧レベルEnとは、当該第2基板回路60の出力端子T2から出力される検出信号Eoutを整流および平滑化して信号Edcとし、さらに当該信号Edcについて式(1)を用いて正規化した電圧レベルである。
【0052】
制御装置102は、変換して求めた鍵12の変位量dがゼロでない場合に、すなわち当該鍵12が利用者によって操作されている場合に、前回記憶させた変位量dと、今回記憶させた変位量dとの差分を、サンプリング時間で除して、当該鍵12の速度を求める(ステップS35)。
なお、サンプリング時間とは、同じ鍵12についてステップS3の処理が実行される時間の間隔である。
【0053】
制御装置102は、ステップS34で求めた変位量dがエンド位置Endを示していれば、発音タイミングを示しているので、ステップS35で求めた鍵の速度を、当該鍵12の音高を示す情報とともに出力する。これにより音源装置106は、当該鍵12に対応する音高の音響信号Auを、当該鍵速度に応じた音量で生成する。
なお、鍵がエンド位置Endに達していることを条件に発音するものとしたが、発音位置はこれに限られず、鍵のストローク中の所望の位置で発音するものとしてもよい。
また、制御装置102は、前回記憶させた変位量dがゼロでなく、今回記憶させた変位量dがレスト位置Rstであれば、消音タイミングを示しているので、当該消音を示す情報を、当該鍵12の音高を示す情報とともに出力する。これにより音源装置106は、当該鍵12の音高に対応した音響信号Auの生成を終了させる。
【0054】
ステップS35の後、制御装置102は、変位量等出力処理を終了して、処理手順をステップS6に戻す。
【0055】
次に、距離Zが無限大の状態における第2基板回路60の回路特性を模擬した第1等価回路70について説明する。距離Zが無限大である状態とは、第2基板回路60からみて第1基板回路50が存在しない状態であり、換言すれば、第1コイル501および第2コイル601の結合係数が「0」である状態である。
上述したように、本実施形態においては、第2基板回路60における共振周波数faは、測定周波数fmの1/(√2)倍の値に設定されており、この状態では、測定周波数fmにおける第2コイル601の利得が0dBとなる。したがって、第1等価回路70は、図9に示されるように、第2基板回路60において第2コイル601に相当する部分を短絡した回路で置き換えることができる。
なお、距離Zが無限大の状態において、測定周波数fmでは、入力端子T1から出力端子T2までのゲインが「1」になる。このため、第1等価回路70は、入力端子T1と出力端子T2とを直結した構成、具体的には、各組におけるデマルチプレクサ30の出力端9とマルチプレクサ40の入力端9とを直結した構成としてもよい。
【0056】
次に、距離Zがゼロの状態における第2基板回路60の回路特性を模擬した第2等価回路80について説明する。距離Zがゼロの状態とは、結合係数が「1」の状態である。この状態を物理的に再現することはできないので、第2等価回路80は、上記測定周波数fmにおいて結合係数が「1」の状態である場合の第2コイル601を次のような手順で置き換えたものとなる。
【0057】
図10に示されるように、第1コイル501におけるインダクタンス成分がL2であり、第1コイル501における抵抗成分がRs2であるとする。また、容量502のキャパシタンスをC1とする。ここで、抵抗成分Rs2を、図11に示されるように並列の抵抗Rp2に置き換える。
なお、Rp2=(ωL2)/Rs2であり、ωは測定周波数fmに2πを乗じた角周波数である。また、第2コイル601におけるインダクタンス成分がL1であり、抵抗成分がRs1である。
【0058】
第1基板回路50のインピーダンスは、第2コイル601からみて(L1/L2)にみえる。そこで、図12に示されるように、第2コイル601に並列に、第1基板回路50のインピーダンスを変換して付加する。具体的には、第2コイル601に抵抗Rp2'と容量C1'とを並列に付加する。
なお、Rp2'とC1'とは次のように表される。
Rp2'=(L1/L2)・Rp2
1/(ωC1')=(L1/L2)・(1/(ωC1))
【0059】
図13に示されるように、第2コイル601の抵抗成分Rs1を並列の抵抗Rp1に置き換える。なお、Rp1=(ωL1)/Rs1である。
測定周波数が共振周波数であれば、インダクタンスL1および容量C1'のインピーダンスが無限大となる。このため、インダクタンスL1および容量C1'については図14の破線に示されるように存在しないものとして扱うことができる。
【0060】
ただし、インダクタンスL1および容量C1'について存在しないものとして扱うことができるのは、測定周波数が共振周波数であるときである。実際の基準信号Einには直流電圧が重畳されている。当該直流成分のみについていえばインダクタンスL1が存在しないに等しいので、図14に示される抵抗Rp1およびRp2'の並列回路に、直流のインピーダンスを下げるための要素が必要となる。このための要素が図15に示されるインダクタンスがL3の第3コイル611である。
【0061】
図14または図15の抵抗Rp1およびRp2'は、まとめて1つの抵抗Rpで表し、第3コイル611を併せて示したのが図16である。また、図17は、このように第1コイル501を置き換えた第2等価回路80を示す図である。第2等価回路80では、共振周波数において抵抗Rpが抵抗Rp1、Rp2に応じたインピーダンスを有すること、および、直流成分が流されたときのインピーダンスがゼロであること(またはゼロに近いこと)が必要である。
【0062】
測定周波数fmに対し遮断周波数fcは、L3、Rpにより次式で定まる。
fm>>fc=1/(2πL3Rp)
換言すれば、測定周波数fmに対して上記式を満たすようにL3が選定される。
直流のインピーダンスを下げるための第3コイル611には、大きなインダクタが必要となる。このためには、第3コイル611を、例えば大容量の積層チップインダクターの複数個を直列に接続するなどで実現される。
【0063】
なお、第1等価回路70は、結合係数が「0」の状態の第2基板回路60の回路特性を模擬し、第2等価回路80は、結合係数が「1」の状態の第2基板回路60の回路特性を模擬したものである。等価回路については、結合係数が「0」および「1」以外の状態における第2基板回路60の回路特性を模擬してもよい。
具体的には、所望の結合係数において測定周波数におけるインピーダンスをシミュレーション等で計算し、当該インピーダンスを抵抗で表現する回路となる。例えば、結合係数がある値の状態の等価回路は、図18に示される通りとなり、第3コイル611に並列接続する抵抗Rpを、シミュレーション等により求めた抵抗値の抵抗Rpbに置き換えたものとなる。
【0064】
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0065】
上述した実施形態において、制御装置102は、ステップS5で求めた電圧レベルE∞3を記憶し、ステップS31で読み出して正規化処理に使用したが、ステップS5において求めた電圧レベルE∞3の平均値(例えば10回分)を算出して正規化処理に使用してもよい。
また、上述した実施形態では、正規化に用いる電圧レベルEを、式(2)により求めたが、演奏状態において第1等価回路70により求めた電圧レベルE∞を、正規化に用いてもよい。
【0066】
上述した実施形態では、デマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の1組に対して、すなわち、第1基板回路50および第2基板回路60の8組に対して、第1等価回路70および第2等価回路80の1組を共用する構成としたが、例えばデマルチプレクサ30およびマルチプレクサ40の複数組に対して、第1等価回路70および第2等価回路80の1組を共用する構成としてもよい。この構成によれば、第1等価回路70および第2等価回路80の組数を減らすことできる。
また、第1基板回路50および第2基板回路60の1組に対して、第1等価回路70および第2等価回路80の1組を共用する構成としてもよい。この構成によれば、第1等価回路70および第2等価回路80を共用しないので、変位量dの検出精度を高めることができる。
【0067】
上述した実施形態においては、鍵盤楽器10の鍵12の変位を検出する構成を例示したが、変位量を検出する可動部材は鍵12に限定されない。また、鍵盤構造についても、上述の例の構造に限定されない。上述の例と異なる可動部材の具体的な態様を以下に例示する。
【0068】
図19は、変位量検出装置を鍵盤楽器10の打弦機構91に適用した構成の模式図である。打弦機構91は、各鍵の変位に連動して弦(図示省略)を打撃するアクション機構である。具体的には、打弦機構91は、回動により打弦可能なハンマー911と、鍵の変位に連動してハンマー911を回動させる伝達機構912(例えばウィペン、ジャック、レペティションレバー等)とを、鍵毎に具備する。
第1基板回路50がハンマー911(例えばハンマーシャンク)に設置される。また、第2基板回路60は支持部材913に設置される。支持部材913は、例えば打弦機構91を支持する構造体である。このような構成において、図示省略された情報処理装置100は、ハンマー911の変位量を求める。
なお、第1基板回路50は打弦機構91におけるハンマー911以外の可動部材に設置してもよい。
【0069】
図20は、変位量検出装置を鍵盤楽器10のペダル機構92に適用した構成の模式図である。ペダル機構92は、利用者が足で操作するペダル921と、ペダル921を支持する支持部材922と、鉛直方向の上方にペダル921を付勢する弾性体923とを具備する。
第1基板回路50がペダル921の底面に設置される。また、第2基板回路60は、第1基板回路50に対向するように支持部材922に設置される。このような構成において、情報処理装置100はペダル921の変位を検出する。
なお、ペダル機構92が利用される楽器は鍵盤楽器に限定されない。例えば打楽器等の任意の楽器にも同様の構成のペダル機構92が利用される。
【0070】
以上の例示から理解される通り、変位量を検出する対象は、演奏動作に応じて変位する可動部材として包括的に表現される。可動部材は、利用者が直接的に操作する鍵12またはペダル921等の操作子のほか、操作子に対する操作に連動して変位するハンマー911等の構造体を含む。ただし、本開示における可動部材は、演奏動作に応じて変位する部材に限定されない。すなわち、可動部材は、変位を発生させる契機に関わらず、変位可能な部材として包括的に表現される。
【0071】
<付記>
上述した実施形態等から、例えば以下のような態様が把握される。
【0072】
本開示の態様(第1態様)に係る変位量検出装置は、操作に応じた可動部材の変位量を検出する変位量検出装置であって、前記可動部材に設置された第1コイルを含む第1基板回路と、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルに対向する前記第2コイルとの相対位置に応じたレベルの検出信号を出力する第2基板回路と、前記第1コイルおよび前記第2コイルの距離が無限大の状態における前記第2基板回路の等価回路を示す第1等価回路と、前記距離がゼロの状態における前記第2基板回路の等価回路を示す第2等価回路と、前記電流が前記第1等価回路に供給されたときに当該第1等価回路から出力される第1出力信号と、前記電流が前記第2等価回路に供給されたときに当該第2等価回路から出力される第2出力信号とに基づいて前記検出信号を補正し、当該補正した検出信号に基づいて前記変位量を算出する情報処理装置と、を有する。
この態様によれば、第1コイルと第2コイルとの電磁的な結合の度合いに応じた検出信号のレベルに基づいて可動部材の操作情報を得ることができるので、グレースケールのような繊細な光学要素が不要である。このため、長期的な信頼性が得られやすい。
また、この態様では、第1等価回路から出力される第1出力信号を、距離が無限大の状態において第2基板回路から出力される検出信号とし、第2等価回路から出力される第2出力信号を、距離がゼロである状態において第2基板回路から出力される検出信号とすることができる。このため、第2基板回路に対して、相対移動する可動部材に第1基板回路を設置した後において、第1コイルおよび第2コイルとの距離が無限大およびゼロである場合の状態を物理的に作り出すことができなくても、第1コイルおよび第2コイルの距離と検出信号のレベルとの関係について正規化することができる。したがって、可動部材の変位量を、誤差を小さく抑えて算出することができる。
【0073】
第1態様の例(第2態様)において、前記可動部材は、複数であり、前記複数の可動部材の各々に、一の第1基板回路が設置され、当該一の第1基板回路に対応して一の第2基板回路が設置され、前記情報処理装置は、前記複数の可動部材の変位量を、時分割で算出する。この態様によれば、複数の可動部材の変位量を、誤差を小さく抑えて算出することができる。
【0074】
第2態様の例(第3態様)において、前記電流を、2以上の第2基板回路に時分割で分配するデマルチプレクサと、前記デマルチプレクサにより電流が供給された第2基板回路から検出信号を集約して、前記情報処理装置に出力するマルチプレクサとを含む。この態様によれば、デマルチプレクサにより2以上の第2基板回路に時分割で電流を供給し、電流が供給された第2基板回路からの検出信号をマルチプレクサで集約して情報処理装置に供給することができる。
なお、集約した検出信号を情報処理装置に出力する場合には、途中経路に信号を変換するコンバーターなどを介することも含まれる。
【0075】
第3態様の例(第4態様)において、前記デマルチプレクサおよび前記マルチプレクサは1組以上であり、前記第1等価回路および前記第2等価回路の1組は、前記デマルチプレクサおよび前記マルチプレクサの1組に対して、または、前記デマルチプレクサおよび前記マルチプレクサの複数組に対して、設けられる。この態様によれば、第1等価回路および第2等価回路の1組が、第1基板回路および第2基板回路の複数組で共用されるので、第1等価回路および第2等価回路の1組が、第1基板回路および第2基板回路の1組に設けられる構成と比較して、構成の簡易化を図ることができる。
【0076】
第3または第4態様の例(第5態様)において、前記マルチプレクサで集約された検出信号を、整流および平滑化して、前記情報処理装置に供給する整流平滑化回路を含む。この態様によれば、情報処理装置は、直流化された検出信号を処理することができる。
【0077】
第1の態様に係る変位量検出装置は、第6の態様のように、方法として把握することも可能である。
【0078】
第7の態様に係る操作子の操作情報出力装置は、操作子と、前記操作子に設置された第1コイルを含む第1基板回路と、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルに対向する前記第2コイルとの相対位置に応じたレベルの検出信号を出力する第2基板回路と、前記第1コイルおよび前記第2コイルの距離が第1値である状態において前記第2基板回路の等価回路を示す第1等価回路と、前記電流を前記第1等価回路に供給したときに当該第1等価回路から出力される第1出力信号に少なくとも基づいて前記検出信号を補正し、当該補正した検出信号に基づいて前記操作子の操作情報を出力する情報処理装置と、を有する。
この態様によれば、第1の態様と同様に、グレースケールのような繊細な光学要素が不要であるので、長期的な信頼性が得られやすい。
【0079】
第7態様の例(第8態様)において、前記距離が前記第1値とは異なる第2値である状態において前記第2基板回路の等価回路を示す第2等価回路を、さらに含み、前記情報処理装置は、前記第1出力信号に加え、前記電流を前記第2等価回路に供給したときに当該第2等価回路から出力される第2出力信号に基づいて、前記検出信号を補正する。
【0080】
10…鍵盤楽器(操作子の操作情報出力装置)、12…鍵(操作子)、30…デマルチプレクサ、40…マルチプレクサ、50…第1基板回路、60…第2基板回路、70…第1等価回路、80…第2等価回路、90…整流平滑化回路、100…情報処理装置。
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