(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】乗物用内装材
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
B60R13/02 B
(21)【出願番号】P 2020139372
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 亮
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-076216(JP,A)
【文献】特開2016-005949(JP,A)
【文献】特開2019-084838(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015202390(DE,A1)
【文献】特開平01-022648(JP,A)
【文献】実開平05-026668(JP,U)
【文献】特開平09-071196(JP,A)
【文献】特開2007-106165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物を構成する金属製パネルの乗物室内側に取り付けられ、乗員が触れる接触部材を含む乗物用内装材であって、
前記接触部材は、
板状をなす基材と、
前記基材の少なくとも一部を覆い、少なくとも乗員が触れる接触面を構成する表皮材と、
前記基材に備えられ、電気伝導性を有するとともに前記金属製パネルに電気的に接続可能な構成を備える導電部と、
を備えるとともに、
前記表皮材は、
静電気拡散性を有する除電表面層と、
前記除電表面層のうち前記基材に対向する側の面である裏面に一体化されており、弾性を有するものの電気伝導性を有さない弾性層と、
を含む積層構造を有しており、
前記導電部は、
前記基材の板面から立ち上がるとともに前記板面と離間しつつ前記板面に沿って延びる断面L字型をなし、前記表皮材の端部を前記板面との間に形成された隙間に挿入した状態とすることで、前記弾性層を厚み方向で圧縮変形させた状態で前記除電表面層をその表面から抑える抑え部
と、
前記抑え部と連結部を介して一体に設けられた、前記金属製パネルに当接する当接部と、を備えている、乗物用内装材。
【請求項2】
前記表皮材と前記基材とは、別部材として構成されている、請求項1に記載の乗物用内装材。
【請求項3】
前記除電表面層は、導電性繊維を含む、合成樹脂シート、布帛、不織布、および編物の少なくとも一つを含む、請求項1または2に記載の乗物用内装材。
【請求項4】
前記弾性層は発泡樹脂を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【請求項5】
前記当接部は、導電性エラストマーによって構成されるとともに、弾性変形した状態で前記金属製パネルの乗物室内側の表面に当接する構成を備えている、請求項1~4のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【請求項6】
前記基材と前記導電部とは互いに樹脂材料を含み、一体成型品として構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【請求項7】
当該乗物用内装材は、乗物用ドアを構成する金属製のドアパネルの室内側に取り付けられるドアトリムであって、
前記接触部材は、ドアプルハンドルを構成するプルハンドル部材である、請求項1~6のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
乗物用内装材として、静電気除去機能を有するものが知られている。例えば特許文献1には、ドアパネルのポケット部材のうち、乗員の手が触れる把持面を含む部分を導電性樹脂により構成し、この把持面に乗員が触れることで乗員に帯電していた静電気を乗物側に除電する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1においては、把持面を含む部分(導電部)を、板状の導電性樹脂のみによって構成したり、絶縁性樹脂からなる基材の表面に導電性エラストマーからなる表皮材を積層して構成したりすることが記載されている。表皮材として導電性エラストマーを採用することで、導電部にグリップ感(吸いつくようにピタリと接触している感覚)を得ることができる。しかしながら、特許文献1に開示された構成では、例えば人の手が導電部に触れたときに、柔らかで上質な触感を得ることができないという課題がある。
【0005】
ここに開示される技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、静電気除去機能と柔らかな触感とを高いレベルで両立させた乗物用内装材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本技術は、乗物を構成する金属製パネルの乗物室内側に取り付けられ、乗員が触れる接触部材を含む乗物用内装材を提供する。前記接触部材は、板状をなす基材と、前記基材の少なくとも一部を覆い、少なくとも乗員が触れる接触面を構成する表皮材と、前記基材に備えられ、電気伝導性を有するとともに前記金属製パネルに電気的に接続可能な構成を備える導電部と、を備えるとともに、前記表皮材は、静電気拡散性を有する除電表面層と、前記除電表面層のうち前記基材に対向する側の面である裏面に一体化されており、弾性を有するものの電気伝導性を有さない弾性層と、を含む積層構造を有している。そして、前記導電部は、前記表皮材の端部において、前記弾性層を厚み方向で圧縮変形させた状態で前記除電表面層をその表面から抑える抑え部を備えている。
【0007】
上記構成では、接触部材において、除電表面層と基材との間に、弾性を有するものの電気伝導性を有さない弾性層が介在されている。これにより、乗員が乗物用内装材の接触部に触れたときの柔らかさを、弾性層によって任意に調整することができ、例えば、従来よりも指当たりの柔らかな接触部材を実現することができる。また、弾性層の特徴を利用して、除電表面層と導電部とを密に接触させることができ、電気的に好適に接続することが可能となる。これにより、除電性能と触感とを高いレベルで両立させた乗物用内装材が実現される。
【0008】
なお、本技術において、「静電気拡散性」を有するとは、IEC 61340-2-3:20001に基づき測定される表面抵抗値(Surface Resistance:Rs[Ω/□])が、次式:1×104≦Rs<1×1012、より特徴的には1×105≦Rs<1×1011;を満たしていることをいう。物品の表面抵抗値がこの範囲にあることで、静電気が帯電したヒトがこの物品の表面に触れたときに、当該ヒトに痛みや衝撃を知覚させることなくその静電気をゆっくりと当該物品へと移動させ、当該ヒトの身体から静電気を除去(除電)することが可能とされる。
また、「電気伝導性」を有するとは、上記表面抵抗値[Ω/□]がRs<1×1012であることをいい、典型的にはRs≦1×104、より特徴的にはRs≦1×10-2を満たすことであり得る。またさらには、JIS K 7194に基づき測定される体積抵抗率が、典型的には105Ωcm以下、好ましくは10-3Ωcm以下、より好ましくは10-1Ωcm以下、例えば10-6Ωcm以下であってもよい。
そして「電気絶縁性」を有するとは、上記表面抵抗値[Ω/□]が1012≦Rsであることをいい、さらには、上記体積抵抗率が106Ωcm以上、典型的には108Ωcm以上、例えば1010Ωcm以上であることをいう。
【0009】
好適な一態様において、前記表皮材と前記基材とは、別部材として構成されている。上記構成において、接触部材は、基材に対して表皮材を被覆することで構成されている。これにより、一つの基材に対して、様々な表皮材を組み合わせて接触部材を構成することができ、多様な意匠を容易に実現することができる。また、基材に対して表皮材が一体成型された部材と比して、高級感のある外観を実現することができる。
【0010】
好適な一態様において、前記除電表面層は、導電性繊維を含む、合成樹脂シート、布帛、不織布、および編物の少なくとも一つを含む。上記構成の乗物用内装材は、外観に晒され、また乗員が直接触れる除電表面層については、静電気拡散性を備える範囲において、様々な素材からなるものを用いることができる。これにより、上記特性に加えて、多様な意匠性と表面触感とを備える乗物用内装材を提供することができる。
【0011】
好適な一態様において、前記弾性層は発泡樹脂を含む。発泡樹脂は、その多孔質形状に由来して、同組成の中実の樹脂と比較してより柔らかに変形する。そのため、弾性層が積層された表皮材を用いる乗物用内装材は、乗員が触れたときに、柔らかでより上質な触感を与えることができる。
【0012】
好適な一態様において、前記導電部は、前記抑え部と、前記金属製パネルに当接する当接部と、前記抑え部と前記当接部とを連結する連結部と、を含み、前記当接部は、導電性エラストマーによって構成されるとともに、弾性変形した状態で前記金属製パネルの乗物室内側の表面に当接する構成を備えている。上記構成の乗物用内装材では、接触部材の導電部は、導電性エラストマーによって構成される当接部において金属製パネルに対して直接当接している。導電性エラストマーは、高い弾性を備えることから、例えば組付の際に寸法誤差が生じた場合であっても、当接部におけるエラストマーの変形によってかかる寸法誤差を吸収しながら、金属製パネルに当接することが可能とされる。加えて、例えば、乗員が接触部材に触れた際に大きな力が加わるなどして、乗物用内装材の全体に対して接触部材が変位したりねじれたりする事態が生じても、導電性エラストマーの弾性変形によってかかる変位やねじれを吸収し、当接部が金属製パネルから離間することが抑制される。これにより、簡単な構成で、乗員に帯電した静電気をより確実に金属製パネルに逃がすことができる。
【0013】
好適な一態様において、前記基材と前記導電部とは互いに樹脂材料を含み、一体成型品として構成されている。上記構成において、基材と導電部とは一体成型品として構成されているため、乗物用内装材の部品点数を削減することができる。また、導電部は樹脂材料を含むものとして構成すると、その形状を維持するための強度および耐久性等の物理的特性が十分に得られなくなることが懸念されるが、一体成型されている基材を支持体として利用することで、全体として十分な物理的特性を備え得る点において好適である。
【0014】
好適な一態様において、当該乗物用内装材は、乗物用ドアを構成する金属製のドアパネルの室内側に取り付けられるドアトリムであって、前記接触部材は、ドアプルハンドルを構成するプルハンドル部材である。ここに開示される乗物用内装材は、ドアトリムに設けられたプルハンドルから、プルハンドルに触れた乗員の静電気を逃がすものとして利用すると、上記の効果がより明瞭に発揮されるために好適である。
【発明の効果】
【0015】
ここに開示される技術によると、静電気除去機能と柔らかな触感とを高いレベルで両立させた乗物用内装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係るドアトリムを備える車両用ドアの斜視図
【
図3】車両用ドアのプルハンドル部分を車室外側から視た斜視図
【
図4】
図3のプルハンドル部材を後方から視た要部断面図(
図1のA-A線断面図)
【
図5】
図3のプルハンドル部材を後方から視た他の要部断面図(
図3のB-B線断面に対応する断面図)
【
図6】
図4のプルハンドル部材の導電部を示す要部拡大図
【
図7】
図6のプルハンドル部材の抑え部近傍の断面図(
図6のC-C線断面図)
【
図8】
図6のプルハンドル部材の導電部がドアインナパネルに当接する様子を後方から視た断面図
【
図9】他の実施形態に係るプルハンドル部材の導電部がドアインナパネルに当接する様子を後方から視た断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここに開示される技術について、
図1~8を参照しつつ、乗物用内装材としてのドアトリム20を例にして説明する。なお、
図1のドアトリム20は、乗物としての車両の右側のドア10に配されるものであるが、左側のドア等においても同様の構成が備えられるものとする。また、各図に示した符号F,Rr,U,D,IN,OUTはそれぞれ、車両進行方向の前方,後方、鉛直方向(上下方向)の上方,下方,車室の室内側,車室外側を示す。ただし、上記方向は便宜的に定めたものに過ぎず、限定的に解釈すべきものではない。
【0018】
ここに開示されるドアトリム20は、
図1および
図2に示すように、車両用ドア10(乗物用ドア)のドアパネル12の室内側に取り付けられ、車室の壁面を構成するとともに、車室の見栄えや居住性を向上させるための内装材である。ドアパネル12は、
図2に示すように、それぞれ板状をなすドアアウタパネル14とドアインナパネル16とを備えており、これらは鉄鋼やアルミニウム等の金属製パネルをプレス加工することで形成されている。これらのドアインナパネル16とドアアウタパネル14との間には、ウインドウガラス18を昇降するための昇降機構(図示せず)や、スピーカ25A等の各種部品が配されている。
【0019】
ドアトリム20は、インサイドハンドル22、アームレスト23、ドアプルハンドル24、スピーカ25Aを覆うスピーカグリル25、ドアポケット26等の機能部品を備えている。このドアトリム20は、概して内装材本体としての板状のトリムボード21を主体として構成されており、例えば
図2に示すように、トリムボード21は、複数のボード部材を互いに組み付けることで構成されている。ボード部材には、機能部品が取り付けられたり、いくつかのボード部材が組み合わされることで機能部品が構成されたりしている。トリムボード21(ボード部材)は、基本的には、ポリプロピレン等の電気絶縁性を有する合成樹脂材料によって構成されている。
【0020】
ここで、機能部品のうちのアームレスト23は、シートに着座した乗員が肘を掛けて腕を休めるための部材であり、アッパートリム21Aに対して室内側に膨出するアームレスト部材23Aを取り付けることで形成されている。また、アームレスト23の前後方向の中央付近には、シートに着座した乗員がドア10を開閉するときに手を掛けるためのドアプルハンドル24が凹設されている。より具体的には、アームレスト部材23Aは、大まかには、上方を向く肘掛け面部材23Bと、この肘掛け面部材23Bを下方から支持する室内側部材23Cとにより構成されており、肘掛け面部材23Bの前後方向の中央付近において、アッパートリム21Aに沿って開口23Dが形成されている。そして、ドアプルハンドル24は、
図3および
図4に示すように、アームレスト23とアッパートリム21Aとの間に形成されるこの開口23Dの内部に、プルハンドル部材30が収容される形で箱状に組み付けられることで構成されている。
【0021】
プルハンドル部材30は、アッパートリム21Aに組付けられることで、上方に開口23Dを有するボックス状をなし、
図3および
図4に示すように、プルハンドル部材30の骨格をなす基材31と、この基材31の表側(すなわち、側壁部32の室外側と、底面部33の上方)の面にそれぞれ備えられる表皮材34,45とにより構成されている。基材31は、プルハンドル部材30の室内側壁面をなす側壁部32と、底面を構成する底面部33と、が組み合わされることにより構築されている。
【0022】
側壁部32は、
図4に示すように、アーチ形状をなす薄板状に形成された側壁部本体32Aと、この側壁部本体の前後方向の両端において、前後方向に延びるように設けられた板片状の側壁組付部32B,32Bと、を含んでいる。前後の側壁組付部32B,32Bにはそれぞれ、上下に1つずつ、貫通孔32C,32D、および、貫通孔32E,32Fが形成されており、上方の貫通孔32C,32Eが形成された部分は室外側に向けて傾斜している。一方の底面部33は、大まかには半円形の板状の底面本体33Aと、側壁部32の前後の側壁組付部32B,32Bに沿うように、底面本体33Aから延びる底面組付部33B,33Bと、を含んでいる。この底面組付部33B,33Bには、側壁部32の下方の貫通孔32D,32Fに対応する位置に、室外側に向けて筒状の取付ボス33C,33Dが1つずつ立設されている。そして、底面部33の取付ボス33C,33Dを側壁部32の貫通孔32D,32Fに挿通した状態で取付ビス(図示せず)によりビス締めすることで、側壁部32と底面部33とは締結されるようになっている。
【0023】
また、底面部33の前後方向の中央部分には、例えば
図4に示すように、底面本体33Aの室内側の端部において立ち上がる底面組付部が設けられ、この底面組付部には貫通孔33Eが設けられている。また、側壁部32の前後方向の中央部分の裏側(すなわち、室内側)には、室内側に向けて筒状の取付ボス32Gが1つ立設されている。また、側壁部32の取付ボス32Gを底面部33の貫通孔33Eに挿通した状態で取付ビス43によりビス締めすることで、側壁部32と底面部33とは締結されるようになっている。このようにして側壁部32と底面部33とが一体化されることで、プルハンドル部材30の基材31が組み立てられる。プルハンドル部材30は、本技術における接触部材の一例である。
【0024】
ここで、底面部33は、例えばポリプロピレン等の電気絶縁性を有する合成樹脂(非導電性樹脂)によって構成されている。また本例の側壁部32は、電気伝導性(本例では、静電気拡散性)を有する合成樹脂により構成されている。電気伝導性(ここでは、静電気拡散性)を有する合成樹脂としては、例えば、一般的に電気絶縁性を呈するポリプロピレン等の合成樹脂に、金属や炭素等からなる微粒子状や繊維状の導電性フィラーを混合することで電気伝導性(ここでは、静電気拡散性)を付与したものや、ポリマー構造に起因して電気伝導性(ここでは、静電気拡散性)を呈する導電性ポリマー等が挙げられる。側壁部32は、本技術における導電部の一例である。
【0025】
表皮材34,45は、プルハンドル部材30の内張材であり、側壁部32および底面部33の表面の少なくとも一部を覆うように側壁部32および底面部33に対してそれぞれ貼り付けられている。側壁部32を覆う表皮材34は、乗員が触れる接触面を構成し、側壁部32に対して、外観意匠性を高める他、主として、静電気拡散機能と上質な触感とを付与するために備えられる要素である。この表皮材34は、例えば
図7に示すように、静電気拡散性を有する除電表面層35と、弾性を有するものの電気伝導性を有さない弾性層36と、が一体化された積層構造を有しており、除電表面層35が表面に露出し、弾性層36が除電表面層35の裏面、すなわち、側壁部32に向かう面となるように側壁部32に配されている。除電表面層35は、例えば、金属や炭素からなる導電性繊維を含むことによって静電気拡散性が付与された、布帛、不織布、および編物等のファブリック表皮や、導電性繊維や導電性微粒子を含むことによって静電気拡散性が付与された合成樹脂からなるシートである合成表皮、ポリマー構造に由来して静電気拡散性を備える樹脂シート等によって構成することができ、本例の除電表面層35は、導電性繊維が編み込まれた編物からなる導電性ファブリック表皮である。また、弾性層36は、所望の柔軟性を実現することが可能な弾性材料によって構成することができ、例えば、ウレタンフォーム等の発泡樹脂を好ましく採用することができる。弾性層36は、除電表面層35と同様に静電気拡散性を備えていてもよいが、実際的には、優れた柔軟性を備える発泡樹脂については、その多孔質構造に起因して、適切な静電気拡散性を具備させることが困難となるのが実情である。一方の、底面部33を覆う表皮材45は、主として底面部33の外観意匠性を高めるための要素であり、表皮材45としては、例えば、合成樹脂シート(例えば、合成皮革)を用いることができる。
【0026】
なお、側壁部32の後上方の貫通孔32Eには、
図4に示すように、締結具42が挿入され、側壁部32はこの締結具42によって肘掛け面部材23Bに組付けられている。また、側壁部32の前上方の貫通孔32Cには、
図6に示すように、締結具42が挿入され、側壁部32はこの締結具42によってドアインナパネル16に組付けられている。さらに、底面部33の底面本体33Aには、略L字型のブラケット41と締結するための締結孔33Fが設けられ、底面部33がブラケット41にビス締め等により締結されることで、プルハンドル部材30はこのブラケット41を介してドアインナパネル16に支持されるようになっている。また、
図5に示すように、底面本体33Aの室外側の端部には、アッパートリム21Aに沿って垂下する組付部が備えられ、この組付部には室外側に向けて円筒形の取付ボス33Gが立設されている。そしてこの取付ボス33Gをアッパートリム21Aに設けられた貫通孔21Bに挿通した状態で取付ビス44によるビス締め等をすることで、プルハンドル部材30をアッパートリム21Aに固定するようになっている。
【0027】
ここで、
図4に示すように、表皮材34の上方と下方は、巻込み代の分だけ側壁部本体32Aよりも大きく形成されており、表皮材34の上下の巻込み代はそれぞれ、側壁部本体32Aの裏面側(室内側)に巻き込まれて、表皮材34の端部は接着剤等により側壁部本体32Aの裏面(室内側)の面に接着されている。これにより、側壁部32の上下の端部(端面)が表皮材34によって覆われ、美観の向上が図られている。一方の表皮材34の前後方向の端部は、
図3に示すように、側壁部本体32Aから側壁組付部32B,32Bに至る部分にまで配されており、プルハンドル部材30とアッパートリム21Aとの境界において側壁部32が露出しないように美観の向上が図られている。また、表皮材34は、前方の端部において、前方の側壁組付部32Bに重畳するように延出した延出部34Aを有している。
【0028】
そして側壁部32のうち、前方の側壁組付部32Bには、
図6および
図7に示すように、側壁組付部32Bの板面から室外側に立ち上がるとともに、板面と離間しつつ板面に沿って延びる、断面略L字型の抑え部37が備えられている。表皮材34の前方の端部は、側壁組付部32Bの板面と抑え部37との隙間に挿入されている。抑え部37の板面からの離間距離は、表皮材34の厚みよりも小さいことから、抑え部37は、表皮材34の前方の端部において、弾性層36を厚み方向で圧縮変形させた状態で、除電表面層35をその表面(室外側)から抑えるようになっている。
【0029】
また、
図6および
図8に示すように、前方の側壁組付部32Bには、上記の抑え部37に加え、貫通孔32Cのやや後方において室外側に向けて突出する2つの突出部38A,38B(当接部)と、これら突出部38A,38Bと抑え部37とを連結する連結部39と、が備えられている。本例において、これら抑え部37、突出部38A,38B、および連結部39は、弾性を備え、かつ、電気伝導性(ここでは、静電気拡散性)を有する導電性エラストマーにより形成されている。また、抑え部37、突出部38A,38B、および連結部39は、連結部39を介して一体的に形成されているとともに、連結部39が側壁組付部32Bに対して埋設されている。より具体的には、抑え部37、突出部38A,38B、および連結部39からなる導電部は、側壁組付部32Bを構成する樹脂に対して相溶性を有する導電性エラストマーにより形成されており、2色形成法によって側壁組付部32Bに対して一体的に構成されている。そして突出部53,54の先端は、
図6に示すように、円筒に十字の切れ込みが入れられた形状、換言すれば、周方向に4等分された形状とされており、ドアトリム20がドアインナパネル16に取り付けられたとき、突出部53,54は、
図8に示すように、先端が柔軟に弾性変形した状態でドアインナパネル16の室内側の表面に広い面積で当接する構成を備えている。これらの突出部38A,38B、抑え部37、および連結部39は、本技術における導電部の一例である。
【0030】
以上の構成のドアトリム20において、プルハンドル部材30は、板状をなす側壁部32と、側壁部32の少なくとも一部を覆い、少なくとも乗員が触れる接触面を構成する表皮材34と、側壁部32に備えられ、電気伝導性を有するとともにドアインナパネル16に電気的に接続可能な構成を備える突出部38A,38B、連結部39、および抑え部37(導電部)と、を備えている。表皮材34は、静電気拡散性を有する除電表面層35と、除電表面層35のうち側壁部32に対向する側の面である裏面に一体化されており、弾性を有するものの電気伝導性を有さない弾性層36と、を含む積層構造を有している。そして導電部は、表皮材34の端部において、弾性層36を厚み方向で圧縮変形させた状態で除電表面層35をその表面から抑える抑え部37を備えている。
【0031】
上記構成によると、表皮材34は、除電表面層35のほかに、弾性層36を備えることによって十分な柔軟性を備えるものとされている。また、弾性層36が非導電性であることにより、除電表面層35と側壁部32とは、厚み方向においては電気的に接続されていないものの、表皮材34の前方の端部において、抑え部37が弾性層36を圧縮変形させた状態で除電表面層35に当接しており、抑え部37と除電表面層35とは密に接触した状態となっている。したがって、除電表面層35は、抑え部37、連結部39、および突出部38A,38Bを介してドアインナパネル16に電気的に接続される。これにより、プルハンドル部材30は、ヒトの身体から静電気を除去(除電)する静電気除去機能を備えることができる。その結果、静電気除去機能と柔らかな触感とを高いレベルで両立させた乗物用内装材が実現される。
【0032】
また、上記構成において、表皮材34と側壁部32(基材の一例)とは、別部材として構成されており、表皮材34は側壁部32の少なくとも一部を被覆している。換言すれば、プルハンドル部材30は、側壁部32に対して表皮材34を巻き付けることで構成されている。これにより、一つの側壁部32に対して、様々に異なる表皮材34を組み合わせてプルハンドル部材30を構成することができ、多様な意匠を備えるプルハンドル部材30を容易に製造することができる。また、例えば、パウダースラッシュ法等によって側壁部32に対して表皮材34が一体成形された場合と比較して、表皮材34の意匠の自由度が高く、高級感のある外観および触感を実現することができる。
【0033】
さらに上記構成において、除電表面層35は、導電性繊維を含む、合成樹脂シート、布帛、不織布、および編物の少なくとも一つを含む、いわゆる導電性ファブリック表皮である。このように、除電表面層35の意匠および触感は多様なものとすることができ、多様な意匠性と表面触感とを備えるプルハンドル部材30を備えるドアトリム20が提供される。
【0034】
さらに上記構成において、弾性層36は発泡樹脂を含んでおり、その多孔質形状に由来して、同組成の中実の樹脂からなる場合と比較してより柔らかに変形することができる。そのため、表皮材34がこのような弾性層36を含む構成を備えていると、プルハンドル部材30の接触面に乗員が触れたときに、柔らかでより上質な触感を与えることができる。これにより、より上質な触感の接触面を備えるプルハンドル部材30を実現することができる。
【0035】
さらに上記構成において、導電部は、抑え部37と、ドアインナパネル16に当接する突出部38A,38B(当接部)と、抑え部37と突出部38A,38Bとを連結する連結部39と、を含んでいる。そして少なくとも突出部38A,38Bは、導電性エラストマーによって構成されていることから、軟質であるとともに高い弾性を備え、弾性変形した状態でドアインナパネル16の室内側の表面に当接する構成を備えている。これにより、例えば組付の際に寸法誤差が生じた場合であっても、突出部38A,38Bにおけるエラストマーの変形によってかかる寸法誤差を吸収しながら、ドアインナパネル16に当接することが可能とされる。
【0036】
また、プルハンドル部材30は、ドア10の開閉操作の際に把持される箇所であり、例えば、ドア10を開閉するときにはドアインナパネル16に対して接近または離間する方向に大きな力が作用する。換言すれば、ドアを開閉するときには、プルハンドル部材30に局所的な力が作用し、ドアインナパネル16に対してプルハンドル部材30が変位したりねじれたりする事態が生じ得る。そして、乗員が車両用シートから離れる際には、剥離帯電によって乗員に静電気が帯電し易い。このような場合であっても、突出部38A,38Bが導電性エラストマーによって構成されていることにより、その弾性変形によってかかる変位やねじれを吸収し、突出部38A,38Bとドアインナパネル16との電気的接続を維持して乗員に帯電した静電気をドアインナパネル16にまで逃すことができる。これにより、簡単な構成で、静電気除去機能がより確実に発揮されるプルハンドル部材30が実現される。
【0037】
また、上記構成において、側壁部32(基材)と、抑え部37、突出部38A,38B、および連結部39(導電部)は、互いに樹脂材料を含み、一体成型品として構成されている。これにより、側壁部32(基材)と、抑え部37、突出部38A,38B、および連結部39(導電部)とは、一つの部材として構成することができ、ドアトリム20の部品点数を削減することができる。また、側壁部32(基材)と、抑え部37、突出部38A,38B、および連結部39(導電部)は、導電性エラストマーにより構成されており、その弾性に由来して導電部の形状を維持するための強度および耐久性等の物理的特性が十分に得られなくなることが懸念される。しかしながら、連結部39が側壁組付部32Bに埋設されて、一体成型品とされていることにより、導電部は側壁組付部32Bを支持体として利用することができ、全体として十分な物理的特性を備えることができる。これにより、導電部の耐久性が高められたプルハンドル部材30が実現される。
【0038】
なお、上記構成の2つの突出部38A,38Bにおいては、
図6に示すように、それらを結んだ方向である上下方向における中間に貫通孔32Cが配置されている。したがって、プルハンドル部材30を把持してドア10を開閉するとき、プルハンドル部材30が、貫通孔32Cにおけるドアインナパネル16への固定部を支点として、上下方向に回動するようなねじれや変位を生じたとしても、上方の突出部38Aと下方の突出部38Bとのいずれか一方がドアインナパネル16に対して押し付けられることとなる。これにより、2つの突出部38A,38Bが同時にドアインナパネル16から離間してしまうような事態を回避することができ、静電気除去性能により優れたドアパネルが実現される。
【0039】
<他の実施形態>
ここに開示される技術は、上記の実施形態に開示されたものに限定されるものではなく、例えば、以下の態様もここに開示される技術範囲に含まれる。また、ここに開示される技術は、その本質から逸脱しない範囲において種々変更された態様で実施することができる。
【0040】
(1)上記実施形態において、プルハンドル部材30の側壁部32(側壁部本体32Aおよび側壁組付部32B)は、電気伝導性(静電気拡散性)を有する材料によって構成されていたが、側壁部32の構成材料はこれに限定されず、例えば、電気的に絶縁性の材料によって構成されていてもよい。また、抑え部37、突出部38A,38B、および連結部39は、静電気拡散性を有する材料により構成されていたが、これらの部位の構成材料はこれに限定されず、例えば、静電気拡散性よりも高い電気伝導性を有する材料により構成されていてもよい。
(2)上記実施形態において、導電部は、2つの突出部38A,38Bにおいてドアインナパネル16に当接する構成とされていたが、突出部の数はこれに限定されず、例えば突出部の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、突出部38A,38Bの先端部の形状も、弾性変形した状態でドアインナパネル16に当接し得る構成(換言すれば、突出部38A,38Bとドアインナパネル16との間に多少の変位があった場合でも電気的接合を維持することができる構成)であれば上記例に限定されず、様々な形状であってよい。
【0041】
(3)上記実施形態において、導電部は、抑え部37と連結部39と突出部38A,38Bとを含み、側壁組付部32Bから室外側に向けて突出する突出部38A,38Bによってドアインナパネル16に対して電気的に接続されていたが、導電部とドアインナパネル16との電気的接続の態様はこれに限定されない。
図9には、プルハンドル部材130における導電部とドアインナパネル16との電気的接続の他の形態を示している。プルハンドル部材130は、側壁組付部32Bにおいて、導電部として、例えば、抑え部37および連結部39を含んでおり、連結部39は貫通孔32Cの周縁に及んでいる。そして、連結部39は、例えば、別部品の導電性の締結部材(例えば、ビス141およびビス受部材142)を用いて、ドアインナパネル16に取り付けられていてもよい。より具体的には、例えば、ドアインナパネル16に設けた貫通孔16Xに対してビス受部材142を取り付けるとともに、ビス141を貫通孔32Cに挿通してビス受部材142に締結する。ここでビス141の締結によってビス受部材142が拡径されるとともに、ドアインナパネル16に対して堅く固定される。このように別部材の導電性の締結部材等を用いることによって、連結部39とドアインナパネル16とを電気的に接続してもよい。導電性の締結部材としては、ビス141およびビス受部材142のほか、例えば、リベット、カシメ具などであってもよい。
【0042】
(4)上記実施形態では、乗物用内装材として、車両用のドアトリムを例示したが、乗物用内装材はこれに限定されない。乗物用内装材は、例えば、乗員が姿勢を保持するための把持部を備えたクォータートリムや、アシストグリップを備えた天井用内装材やピーラーガーニッシュ等の乗物用内装材に適用してもよい。さらに、乗物用内装材は、車両用途のものに限定されず、例えば、地上の乗物としての列車や遊戯用車両、飛行用乗物としての飛行機やヘリコプター、海上や海中用乗物としての船舶や潜水艇などの種々の乗物における乗物用内装材に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…ドア、12…ドアパネル、16…ドアインナパネル、20…ドアトリム、24…ドアプルハンドル、30,130…プルハンドル部材、32…側壁部(基材の一例)、33…底面部、34…表皮材、35…除電表面層、36…弾性層、37…抑え部、38A,38B…突出部、39…連結部