(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
H04W 36/08 20090101AFI20240228BHJP
H04W 36/24 20090101ALI20240228BHJP
H04W 84/10 20090101ALI20240228BHJP
【FI】
H04W36/08
H04W36/24
H04W84/10 110
(21)【出願番号】P 2021029805
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-01-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003643
【氏名又は名称】株式会社ダイフク
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】平尾 雄也
【審査官】永井 啓司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/073170(WO,A1)
【文献】特開2005-012539(JP,A)
【文献】特開2006-128790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、複数のアクセスポイントの何れかと無線通信を行う無線通信装置であって、
前記アクセスポイントとの間で電磁波の送受信を行う送受信部と、
複数の前記アクセスポイントのそれぞれからの電磁波の受信強度を判定する受信強度判定部と、
複数の前記アクセスポイントの中から1つを選択し、当該選択された前記アクセスポイントに接続するローミング処理を行うローミング処理部と、を備え、
前記ローミング処理部は、接続中の前記アクセスポイントからの前記受信強度が規定値以下になったと前記受信強度判定部により判定された場合に前記ローミング処理を行う第1処理と、前記受信強度判定部により判定される前記受信強度に関わらず、規定周期で前記ローミング処理を行う第2処理と、の双方を実行し、
前記ローミング処理部は、前記ローミング処理により選択された前記アクセスポイントが接続中の前記アクセスポイントと同じである場合でも、当該アクセスポイントとの接続を一旦切断してから再接続する処理を行う、無線通信装置。
【請求項2】
移動体に搭載され、複数のアクセスポイントの何れかと無線通信を行う無線通信装置であって、
前記アクセスポイントとの間で電磁波の送受信を行う送受信部と、
複数の前記アクセスポイントのそれぞれからの電磁波の受信強度を判定する受信強度判定部と、
複数の前記アクセスポイントの中から1つを選択し、当該選択された前記アクセスポイントに接続するローミング処理を行うローミング処理部と、を備え、
前記ローミング処理部は、接続中の前記アクセスポイントからの前記受信強度が規定値以下になったと前記受信強度判定部により判定された場合に前記ローミング処理を行う第1処理と、前記受信強度判定部により判定される前記受信強度に関わらず、規定周期で前記ローミング処理を行う第2処理と、の双方を実行し、
前記移動体は、物品を搬送する搬送車であり、
前記ローミング処理部は、前記移動体が停止位置から規定距離以上移動した場合に前記ローミング処理を行う第3処理を、更に実行し、
前記規定距離は、前記移動体が最高速度で前記規定周期の1周期分の期間に移動する距離未満に設定されている、無線通信装置。
【請求項3】
移動体に搭載され、複数のアクセスポイントの何れかと無線通信を行う無線通信装置であって、
前記アクセスポイントとの間で電磁波の送受信を行う送受信部と、
複数の前記アクセスポイントのそれぞれからの電磁波の受信強度を判定する受信強度判定部と、
複数の前記アクセスポイントの中から1つを選択し、当該選択された前記アクセスポイントに接続するローミング処理を行うローミング処理部と、を備え、
前記ローミング処理部は、接続中の前記アクセスポイントからの前記受信強度が規定値以下になったと前記受信強度判定部により判定された場合に前記ローミング処理を行う第1処理と、前記受信強度判定部により判定される前記受信強度に関わらず、規定周期で前記ローミング処理を行う第2処理と、の双方を実行し、
前記ローミング処理部は、前記ローミング処理により選択された前記アクセスポイントが接続中の前記アクセスポイントと異なる場合、前記ローミング処理の完了後に、接続先の前記アクセスポイントが変更されたことを示すローミング通知データを、新たに接続先となった前記アクセスポイントに対して複数回送信する、無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に搭載され、複数のアクセスポイントの何れかと無線通信を行う無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような無線通信装置の一例が、特開2014-192577号公報(特許文献1)に開示されている。以下、この背景技術の説明では、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
特許文献1の無線通信装置は、移動体としての携帯端末(2)に搭載されており、アクセスポイント(60)と無線通信を行う。この無線通信装置は、接続中のアクセスポイント(60)との無線通信における電波強度(X1)を検出する電波強度検出部(50)を備えており、電波強度(X1)がローミング閾値(Xth)を下回っているか否かの判定を、所定の時間間隔で行う。そして、電波強度(X1)がローミング閾値(Xth)を下回っていると判定されると、接続先のアクセスポイント(60)を切り替えるローミング処理が行われる。また、この無線通信装置は、携帯端末(2)が移動すると予測される予測位置を、上記の所定の時間よりも短く設定される設定時間の経過ごとに予測し、予測された予測位置が接続中のアクセスポイント(60)に対して無線通信可能な範囲内にあるか否かの判定を行う。そして、携帯端末(2)の予測位置が無線通信可能な範囲内にないと判定されると、ローミング処理が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献1の無線通信装置は、接続中のアクセスポイントからの受信強度が閾値を下回っていると判定された場合に加えて、移動体が移動すると予測される予測位置が接続中のアクセスポイントに対して無線通信可能な範囲内にないと判定された場合にも、ローミング処理を行うように構成されている。この後者の場合にもローミング処理を行うことで、特許文献1によれば、移動体が高速移動している場合であっても最適なタイミングでローミング処理を行うことができる。
【0006】
ところで、本発明者が得た知見によると、移動体が停止していて同じアクセスポイントに接続されている状態であっても、通信不良等の通信品質の低下が生じる場合がある。このような通信品質の低下は、例えば、周囲のノイズによって引き起こされ得る。特許文献1の無線通信装置では、移動体が停止している場合には、接続中のアクセスポイントからの受信強度が閾値を下回らなければローミング処理が行われない。そのため、移動体が停止していて同じアクセスポイントに接続している状態で、当該アクセスポイントからの受信強度の低下以外の要因によって通信品質が低下した場合であっても、ローミング処理が行われずにアクセスポイントとの通信品質が低下した状態が維持される可能性がある。
【0007】
そこで、移動体が停止していて同じアクセスポイントに接続されている状態で生じ得る通信品質の低下を回避し、アクセスポイントとの適切な通信品質を維持することが可能な無線通信装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る第1の無線通信装置は、移動体に搭載され、複数のアクセスポイントの何れかと無線通信を行う無線通信装置であって、前記アクセスポイントとの間で電磁波の送受信を行う送受信部と、複数の前記アクセスポイントのそれぞれからの電磁波の受信強度を判定する受信強度判定部と、複数の前記アクセスポイントの中から1つを選択し、当該選択された前記アクセスポイントに接続するローミング処理を行うローミング処理部と、を備え、前記ローミング処理部は、接続中の前記アクセスポイントからの前記受信強度が規定値以下になったと前記受信強度判定部により判定された場合に前記ローミング処理を行う第1処理と、前記受信強度判定部により判定される前記受信強度に関わらず、規定周期で前記ローミング処理を行う第2処理と、の双方を実行し、前記ローミング処理部は、前記ローミング処理により選択された前記アクセスポイントが接続中の前記アクセスポイントと同じである場合でも、当該アクセスポイントとの接続を一旦切断してから再接続する処理を行う。
【0010】
本開示に係る第2の無線通信装置は、移動体に搭載され、複数のアクセスポイントの何れかと無線通信を行う無線通信装置であって、前記アクセスポイントとの間で電磁波の送受信を行う送受信部と、複数の前記アクセスポイントのそれぞれからの電磁波の受信強度を判定する受信強度判定部と、複数の前記アクセスポイントの中から1つを選択し、当該選択された前記アクセスポイントに接続するローミング処理を行うローミング処理部と、を備え、前記ローミング処理部は、接続中の前記アクセスポイントからの前記受信強度が規定値以下になったと前記受信強度判定部により判定された場合に前記ローミング処理を行う第1処理と、前記受信強度判定部により判定される前記受信強度に関わらず、規定周期で前記ローミング処理を行う第2処理と、の双方を実行し、前記移動体は、物品を搬送する搬送車であり、前記ローミング処理部は、前記移動体が停止位置から規定距離以上移動した場合に前記ローミング処理を行う第3処理を、更に実行し、前記規定距離は、前記移動体が最高速度で前記規定周期の1周期分の期間に移動する距離未満に設定されている。
【0011】
本開示に係る第3の無線通信装置は、移動体に搭載され、複数のアクセスポイントの何れかと無線通信を行う無線通信装置であって、前記アクセスポイントとの間で電磁波の送受信を行う送受信部と、複数の前記アクセスポイントのそれぞれからの電磁波の受信強度を判定する受信強度判定部と、複数の前記アクセスポイントの中から1つを選択し、当該選択された前記アクセスポイントに接続するローミング処理を行うローミング処理部と、を備え、前記ローミング処理部は、接続中の前記アクセスポイントからの前記受信強度が規定値以下になったと前記受信強度判定部により判定された場合に前記ローミング処理を行う第1処理と、前記受信強度判定部により判定される前記受信強度に関わらず、規定周期で前記ローミング処理を行う第2処理と、の双方を実行し、前記ローミング処理部は、前記ローミング処理により選択された前記アクセスポイントが接続中の前記アクセスポイントと異なる場合、前記ローミング処理の完了後に、接続先の前記アクセスポイントが変更されたことを示すローミング通知データを、新たに接続先となった前記アクセスポイントに対して複数回送信する。
【0012】
第1~第3の無線通信装置によれば、ローミング処理部が第1処理を実行するため、移動体が移動すること等によって接続中のアクセスポイントからの受信強度が規定値以下になった場合には、ローミング処理を行って、その時点で適切なアクセスポイントに接続することができる。また、ローミング処理部が第2処理を実行するため、接続中のアクセスポイントからの受信強度に関わらず、規定周期でローミング処理を行うことができる。そして、ローミング処理を行うことで、それ以前の通信品質の良し悪しに関わらず、適切な通信品質を回復することができる。従って、移動体が停止していて同じアクセスポイントに接続されている状態で生じ得る通信品質の低下を回避し、アクセスポイントとの適切な通信品質を維持することができる。
【0013】
なお、アクセスポイントからの受信強度の低下による通信品質の低下を回避するために、第1処理で用いられる規定値を高く設定することが考えられるが、規定値を高く設定するとローミング処理の実行頻度が高くなり過ぎる場合が生じ得る。この点に関して、第1~第3の無線通信装置によれば、接続中のアクセスポイントからの受信強度が規定値以下にならなくても、規定周期でローミング処理を行って適切なアクセスポイントに接続することができる。よって、ローミング処理の実行頻度が高くなり過ぎることを回避できる大きさに規定値を抑えつつ、適切でないアクセスポイントに接続し続けることによる通信品質の低下を、規定周期でローミング処理を行うことで回避することができる。
【0014】
また、第1の無線通信装置によれば、接続中のアクセスポイントとの接続が維持されているものの当該アクセスポイントとの通信品質が低下している場合に、当該アクセスポイントとの接続を一旦切断してから再接続することで、当該アクセスポイントとの通信品質を改善させやすくなる。また、上記のような通信品質の低下が発生していない場合であっても、接続中のアクセスポイントとの接続を一旦切断してから再接続することで、アクセスポイントに接続されてからの経過時間が長くなり過ぎることを回避して、アクセスポイントとの通信品質を良好に保ちやすくなる。
【0015】
移動体が移動した場合には、接続中のアクセスポイントからの受信強度が規定値以下にまで低下していなくても、接続中のアクセスポイントよりも適切なアクセスポイントが存在する場合がある。第2の無線通信装置によれば、ローミング処理部が第3処理を実行するため、上記のような場合に、第2処理によるローミング処理が行われるまで待たずにローミング処理を行うことができる。よって、適切なアクセスポイントに早期に接続して、通信品質を適切に確保しやすくなる。
【0016】
複数のアクセスポイントがスイッチングハブを介して、移動体の通信相手(例えば、移動体の管理装置)に接続されている場合、スイッチングハブは、アクセスポイントに接続中の移動体の識別情報(例えば、MACアドレス)を、当該アクセスポイントが接続されているポートに対応付けて管理テーブルに記憶する。そして、スイッチングハブは、移動体の通信相手から受信したデータを、当該データの宛先の移動体(以下、「対象移動体」という)に対応付けて記憶されたポートから送出することで、当該データを、対象移動体が接続中のアクセスポイントを介して対象移動体に送信する。そのため、移動体の通信相手から受信したデータを対象移動体に送信するためには、ローミング処理によって対象移動体が接続されるアクセスポイントが変更された場合に、上記の管理テーブルの内容をそれに合わせて更新する必要がある。
【0017】
第3の無線通信装置によれば、ローミング処理によって対象移動体が接続されるアクセスポイントが変更された場合に、ローミング通知データを新たに接続先となったアクセスポイントに対して複数回送信することができる。そのため、通信エラーが発生した場合であっても、ローミング通知データが新たに接続先となったアクセスポイントに到達しない確率を低く抑えることができる。例えば上記のように複数のアクセスポイントがスイッチングハブを介して移動体の通信相手に接続されている場合には、アクセスポイントが無線通信装置から受信したローミング通知データをスイッチングハブに送信することで、上記の管理テーブルの内容を更新することができる。第3の無線通信装置によれば、ローミング通知データをアクセスポイントにより確実に送信することができるため、管理テーブルの内容の更新をより確実に行うことができる。
【0018】
無線通信装置の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
無線通信装置の実施形態について、図面を参照して説明する。無線通信装置30は、移動体1に搭載され、複数のアクセスポイント3の何れかと無線通信を行う装置である。ここで、「移動体」は、移動し得るあらゆる物体を含む概念である。移動体1として、
図1に示すような物品搬送車(物品2の搬送を行う搬送車)を例示することができる。
図1に示す移動体1としての物品搬送車は、移動経路40に沿って走行する走行部10と、走行部10に連結され、物品2を保持する本体部20と、を備えている。移動経路40は、走行レール41によって天井に沿って形成されており、走行部10は、走行レール41上を転動する車輪11を備えている。すなわち、
図1に示す移動体1としての物品搬送車は、天井搬送車である。なお、移動体1は、床に沿って形成された移動経路40(仮想的に設定される経路を含む)に沿って走行する物品搬送車等の、天井搬送車以外の物品搬送車であってもよい。また、移動体1は、例えば、作業者に携帯されて作業者と共に移動する携帯端末のように、受動的に移動する物体であってもよい。
【0021】
本実施形態では、移動体1は、
図1に示す物品搬送車のように、移動経路40に沿って能動的に移動する物体である。
図2に示すように、移動体1は、当該移動体1の動作を制御する制御部34を備えている。制御部34の機能や、無線通信装置30が備える各機能部の機能は、演算処理装置等のハードウェアと、当該ハードウェア上で実行されるプログラムとの協働により実現される。なお、
図2に示す無線通信装置30の各機能部は、少なくとも論理的に区別されるものであり、物理的には必ずしも区別される必要はない。
【0022】
制御部34は、例えば電動モータ等の駆動部(図示せず)の駆動を制御することで、移動経路40に沿って移動する移動動作を移動体1に行わせる。詳細は省略するが、制御部34は、移動体1の現在の推定位置である推定現在位置を導出して、移動体1の移動動作を制御する。例えば、移動体1が、移動経路40に沿った複数の位置に設けられた情報保持体のアドレス情報(当該情報保持体が設けられた位置を示す情報)を読み取る読取装置と、移動体1の移動距離を計測する計測装置と、を備え、制御部34が、読取装置により読み取られたアドレス情報と計測装置により計測された移動体1の移動距離(具体的には、読取装置がアドレス情報を読み取ってからの移動距離)とに基づき、移動体1の推定現在位置を導出する構成とすることができる。例えば、情報保持体として、1次元コード又は2次元コードを用い、読取装置として、1次元コードリーダ又は2次元コードリーダを用いることができる。また、例えば、計測装置として、ロータリエンコーダを用いることができる。なお、このような構成に限られず、例えば、移動体1が、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を受信するGPS受信機を備え、制御部34が、GPS信号に基づき移動体1の推定現在位置を導出する構成等としてもよい。
【0023】
図3に無線通信システムの概念図を示すように、複数のアクセスポイント3が、それぞれの通信エリアA(無線通信が可能なエリア)を一部重複させるように配置されている。アクセスポイント3のそれぞれは、有線の通信ネットワークNに接続されている。アクセスポイント3のそれぞれは、移動経路40に対する位置が固定されるように設置されている。
【0024】
アクセスポイント3は、移動体1(具体的には、移動体1に搭載された無線通信装置30)と移動体1の通信相手との間の通信を中継する装置である。本実施形態では、移動体1の通信相手は、移動体1を管理する管理装置5であり、制御部34は、管理装置5からの指令に応じて移動体1の動作を制御する。例えば、制御部34は、管理装置5からの物品2の搬送指令に応じて、移動体1の移動動作と、移動体1と移載対象箇所との間での物品2の移載動作とを制御する。
【0025】
図3に示す例では、複数のアクセスポイント3は、中継装置4(ここでは、スイッチングハブ)を介して管理装置5に接続されている。中継装置4は、アクセスポイント3が接続されるポートを複数備えており、アクセスポイント3に接続中の移動体1の識別情報を、当該アクセスポイント3が接続されているポートに対応付けて管理テーブルに記憶している。移動体1の識別情報は、例えば、当該移動体1に搭載されている無線通信装置30のMAC(Media Access Control)アドレスとされる。そして、中継装置4は、管理装置5から受信したデータを、当該データの宛先の移動体1(以下、「対象移動体」という)に対応付けて記憶されたポートから送出することで、当該データを、対象移動体が接続中のアクセスポイント3を介して対象移動体に送信する。
【0026】
図2に示すように、無線通信装置30は、送受信部31と、受信強度判定部32と、ローミング処理部33と、を備えている。無線通信装置30は、制御部34と情報の受け渡しを行うことが可能に構成されている。また、無線通信装置30が備える複数の機能部は、互いに情報の受け渡しを行うことが可能に構成されている。
【0027】
送受信部31は、アクセスポイント3との間で電磁波の送受信を行う機能部である。送受信部31は、アクセスポイント3との間で無線通信を行う通信インタフェースである。本実施形態では、送受信部31とアクセスポイント3との間での通信に用いられる電磁波は、電波であり、送受信部31は、アクセスポイント3との間で電波の送受信を行う。なお、送受信部31とアクセスポイント3との間での通信に用いられる電磁波は、電波以外の電磁波であってもよい。
【0028】
受信強度判定部32は、複数のアクセスポイント3のそれぞれからの電磁波(本実施形態では、電波)の受信強度を判定する機能部である。受信強度判定部32は、例えば、アクセスポイント3から定期的に送信されるビーコン信号の受信強度から、複数のアクセスポイント3のそれぞれからの受信強度を判定する。
【0029】
ローミング処理部33は、ローミング処理を行う機能部である。ローミング処理は、複数のアクセスポイント3の中から1つを選択し、当該選択されたアクセスポイント3に接続する処理である。ローミング処理部33は、ローミング処理において、受信強度判定部32による判定結果に基づき1つのアクセスポイント3を選択する。ローミング処理部33は、例えば、ローミング処理において、受信強度が最も高いアクセスポイント3を選択する。ローミング処理部33は、ローミング処理により選択されたアクセスポイント3が接続中のアクセスポイント3と異なる場合には、接続中のアクセスポイント3との接続を切断し、選択されたアクセスポイント3に接続する処理を行う。なお、ローミング処理の実行前に接続されていたアクセスポイント3との接続が、既に切断されている場合には、ローミング処理部33は、選択されたアクセスポイント3に接続する処理のみを行う。
【0030】
本実施形態では、ローミング処理部33は、ローミング処理により選択されたアクセスポイント3が接続中のアクセスポイント3と異なる場合、ローミング処理の完了後に、接続先のアクセスポイント3が変更されたことを示すローミング通知データD(
図3参照)を、新たに接続先となったアクセスポイント3に対して複数回送信するように構成されている。新たに接続先となったアクセスポイント3が、受信したローミング通知データDを中継装置4に送信することで、中継装置4における上述した管理テーブルの内容が更新される。具体的には、中継装置4は、ローミング通知データDの送信元の移動体1の識別情報を、当該ローミング通知データDを中継装置4に送信したアクセスポイント3(すなわち、当該移動体1の新たな接続先となったアクセスポイント3)が接続されているポートに対応付けるように、管理テーブルの内容を変更する。
【0031】
本実施形態では、ローミング処理部33は、ローミング処理により選択されたアクセスポイント3が接続中のアクセスポイント3と同じである場合でも、当該アクセスポイント3との接続を一旦切断してから再接続する処理を行うように構成されている。以下に述べるように、ローミング処理部33は、第1処理と第2処理との双方を実行するように構成されている。ローミング処理部33は、少なくとも第2処理において、或いは、第1処理と第2処理との双方において、上記のように、接続中のアクセスポイント3との接続を一旦切断してから再接続する処理を行う。
【0032】
ローミング処理部33は、第1処理と第2処理との双方を実行する。第1処理は、接続中のアクセスポイント3からの受信強度が規定値V以下になったと受信強度判定部32により判定された場合にローミング処理を行う処理である。第1処理によるローミング処理では、基本的に、接続中のアクセスポイント3とは異なるアクセスポイント3が選択される。また、第2処理は、受信強度判定部32により判定される受信強度に関わらず、規定周期Pでローミング処理を行う処理である。規定周期Pの始期は、例えば、前回のローミング処理の開始時期又は終了時期とすることができる。
【0033】
受信強度判定部32は、接続中のアクセスポイント3からの受信強度が規定値V以下になったか否かの判定を、規定周期Pよりも短い周期で行う。そのため、ローミング処理部33は、
図4に示す制御フローに従ってローミング処理を行う。具体的には、ローミング処理部33は、規定周期Pが経過するまでの間(ステップ#02:No)、接続中のアクセスポイント3からの受信強度が規定値V以下になったか否かの判定を繰り返し行う(ステップ#01)。そして、接続中のアクセスポイント3からの受信強度が規定値V以下になったと判定されると(ステップ#01:Yes)、ローミング処理部33はローミング処理(具体的には、第1処理によるローミング処理)を行う(ステップ#03)。また、接続中のアクセスポイント3からの受信強度が規定値V以下にならずに規定周期Pが経過すると(ステップ#01:No、ステップ#02:Yes)、ローミング処理部33はローミング処理(具体的には、第2処理によるローミング処理)を行う(ステップ#03)。
【0034】
図5は、ローミング処理の実行状況の一例を模式的に示し、
図6は、ローミング処理の実行状況の別例を模式的に示している。
図5では、時刻T3と時刻T4との間の時刻まで移動体1が停止していることで、接続中のアクセスポイント3からの受信強度が一定に維持され、その後、移動体1の移動に伴い接続中のアクセスポイント3からの受信強度が低下し、時刻T4よりも後の時刻T5において、接続中のアクセスポイント3からの受信強度が規定値Vまで低下する状況を想定している。このような状況では、時刻T1、時刻T1から規定周期Pの1周期分の時間が経過した時刻T2、時刻T2から規定周期Pの1周期分の時間が経過した時刻T3、及び、時刻T3から規定周期Pの1周期分の時間が経過した時刻T4のそれぞれで、第2処理によるローミング処理が行われて、移動体1は、接続中のアクセスポイント3に再接続される。そして、時刻T4から規定周期Pの1周期分の時間が経過していない時刻T5で、第1処理によるローミング処理が行われて、移動体1は、接続中のアクセスポイント3よりも受信強度の高いアクセスポイント3に接続される。
【0035】
図6では、時刻T14まで移動体1が移動し続けることで、規定周期Pが経過する前に接続中のアクセスポイント3からの受信強度が規定値Vまで低下し、時刻T14以降移動体1が停止することで、接続中のアクセスポイント3からの受信強度が一定に維持される状況を想定している。このような状況では、時刻T11から規定周期Pの1周期分の時間が経過していない時刻T12、時刻T12から規定周期Pの1周期分の時間が経過していない時刻T13、時刻T13から規定周期Pの1周期分の時間が経過していない時刻T14のそれぞれで、第1処理によるローミング処理が行われて、移動体1は、接続中のアクセスポイント3よりも受信強度の高いアクセスポイント3に接続される。そして、時刻T14から規定周期Pの1周期分の時間が経過した時刻T15で、第2処理によるローミング処理が行われて、移動体1は、接続中のアクセスポイント3に再接続される。
【0036】
なお、本明細書で開示する無線通信装置30の技術的特徴は、無線通信装置30の制御方法にも適用可能であり、無線通信装置30の制御方法も本明細書に開示されている。この制御方法には、送受信部31がアクセスポイント3との間で電磁波の送受信を行う工程と、受信強度判定部32が複数のアクセスポイント3のそれぞれからの電磁波の受信強度を判定する工程と、ローミング処理部33が、複数のアクセスポイント3の中から1つを選択し、当該選択されたアクセスポイント3に接続するローミング処理を行う工程と、が含まれる。本実施形態では、この制御方法には、更に、ローミング処理部33が、ローミング通知データDを新たに接続先となったアクセスポイント3に対して複数回送信する工程が含まれる。
【0037】
〔その他の実施形態〕
次に、無線通信装置のその他の実施形態について説明する。
【0038】
(1)上記の実施形態では、ローミング処理部33が第1処理と第2処理との双方を実行する構成を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、ローミング処理部33が第3処理を更に実行する構成とすることもできる。第3処理は、移動体1が停止位置から規定距離以上移動した場合にローミング処理を行う処理であり、規定距離は、移動体1が最高速度で規定周期Pの1周期分の期間に移動する距離未満に設定される。この場合、接続中のアクセスポイント3からの受信強度が規定値V以下にならない状態で、規定周期Pが経過するまでの間に移動体1が停止位置から規定距離以上移動した場合に、第3処理によるローミング処理が行われる。なお、ローミング処理部33は、例えば、制御部34から移動体1の移動距離の情報を取得して、移動体1が停止位置から規定距離以上移動したか否かを判定する。
【0039】
(2)上記の実施形態では、ローミング処理部33が、ローミング処理により選択されたアクセスポイント3が接続中のアクセスポイント3と同じである場合でも、当該アクセスポイント3との接続を一旦切断してから再接続する処理を行う構成を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、ローミング処理部33が、ローミング処理により選択されたアクセスポイント3が接続中のアクセスポイント3と同じである場合、当該アクセスポイント3との接続を継続する構成とすることもできる。
【0040】
(3)上記の実施形態では、ローミング処理部33は、ローミング処理により選択されたアクセスポイント3が接続中のアクセスポイント3と異なる場合、ローミング処理の完了後に、新たに接続先となったアクセスポイント3に対してローミング通知データDを複数回送信する構成を例として説明した。しかし、本開示はそのような構成に限定されず、ローミング処理部33が、ローミング処理の完了後に、新たに接続先となったアクセスポイント3に対してローミング通知データDを1回のみ送信する構成とすることもできる。
【0041】
(4)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用すること(その他の実施形態として説明した実施形態同士の組み合わせを含む)も可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0042】
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明した無線通信装置の概要について説明する。
【0043】
移動体に搭載され、複数のアクセスポイントの何れかと無線通信を行う無線通信装置であって、前記アクセスポイントとの間で電磁波の送受信を行う送受信部と、複数の前記アクセスポイントのそれぞれからの電磁波の受信強度を判定する受信強度判定部と、複数の前記アクセスポイントの中から1つを選択し、当該選択された前記アクセスポイントに接続するローミング処理を行うローミング処理部と、を備え、前記ローミング処理部は、接続中の前記アクセスポイントからの前記受信強度が規定値以下になったと前記受信強度判定部により判定された場合に前記ローミング処理を行う第1処理と、前記受信強度判定部により判定される前記受信強度に関わらず、規定周期で前記ローミング処理を行う第2処理と、の双方を実行する。
【0044】
本構成によれば、ローミング処理部が第1処理を実行するため、移動体が移動すること等によって接続中のアクセスポイントからの受信強度が規定値以下になった場合には、ローミング処理を行って、その時点で適切なアクセスポイントに接続することができる。また、ローミング処理部が第2処理を実行するため、接続中のアクセスポイントからの受信強度に関わらず、規定周期でローミング処理を行うことができる。そして、ローミング処理を行うことで、それ以前の通信品質の良し悪しに関わらず、適切な通信品質を回復することができる。従って、移動体が停止していて同じアクセスポイントに接続されている状態で生じ得る通信品質の低下を回避し、アクセスポイントとの適切な通信品質を維持することができる。
【0045】
なお、アクセスポイントからの受信強度の低下による通信品質の低下を回避するために、第1処理で用いられる規定値を高く設定することが考えられるが、規定値を高く設定するとローミング処理の実行頻度が高くなり過ぎる場合が生じ得る。この点に関して、本構成によれば、接続中のアクセスポイントからの受信強度が規定値以下にならなくても、規定周期でローミング処理を行って適切なアクセスポイントに接続することができる。よって、ローミング処理の実行頻度が高くなり過ぎることを回避できる大きさに規定値を抑えつつ、適切でないアクセスポイントに接続し続けることによる通信品質の低下を、規定周期でローミング処理を行うことで回避することができる。
【0046】
ここで、前記ローミング処理部は、前記ローミング処理により選択された前記アクセスポイントが接続中の前記アクセスポイントと同じである場合でも、当該アクセスポイントとの接続を一旦切断してから再接続する処理を行うと好適である。
【0047】
本構成によれば、接続中のアクセスポイントとの接続が維持されているものの当該アクセスポイントとの通信品質が低下している場合に、当該アクセスポイントとの接続を一旦切断してから再接続することで、当該アクセスポイントとの通信品質を改善させやすくなる。また、上記のような通信品質の低下が発生していない場合であっても、接続中のアクセスポイントとの接続を一旦切断してから再接続することで、アクセスポイントに接続されてからの経過時間が長くなり過ぎることを回避して、アクセスポイントとの通信品質を良好に保ちやすくなる。
【0048】
また、前記ローミング処理部は、前記移動体が停止位置から規定距離以上移動した場合に前記ローミング処理を行う第3処理を、更に実行し、前記規定距離は、前記移動体が最高速度で前記規定周期の1周期分の期間に移動する距離未満に設定されていると好適である。
【0049】
移動体が移動した場合には、接続中のアクセスポイントからの受信強度が規定値以下にまで低下していなくても、接続中のアクセスポイントよりも適切なアクセスポイントが存在する場合がある。本構成によれば、ローミング処理部が第3処理を実行するため、上記のような場合に、第2処理によるローミング処理が行われるまで待たずにローミング処理を行うことができる。よって、適切なアクセスポイントに早期に接続して、通信品質を適切に確保しやすくなる。
【0050】
また、前記ローミング処理部は、前記ローミング処理により選択された前記アクセスポイントが接続中の前記アクセスポイントと異なる場合、前記ローミング処理の完了後に、接続先の前記アクセスポイントが変更されたことを示すローミング通知データを、新たに接続先となった前記アクセスポイントに対して複数回送信すると好適である。
【0051】
複数のアクセスポイントがスイッチングハブを介して、移動体の通信相手(例えば、移動体の管理装置)に接続されている場合、スイッチングハブは、アクセスポイントに接続中の移動体の識別情報(例えば、MACアドレス)を、当該アクセスポイントが接続されているポートに対応付けて管理テーブルに記憶する。そして、スイッチングハブは、移動体の通信相手から受信したデータを、当該データの宛先の移動体(以下、「対象移動体」という)に対応付けて記憶されたポートから送出することで、当該データを、対象移動体が接続中のアクセスポイントを介して対象移動体に送信する。そのため、移動体の通信相手から受信したデータを対象移動体に送信するためには、ローミング処理によって対象移動体が接続されるアクセスポイントが変更された場合に、上記の管理テーブルの内容をそれに合わせて更新する必要がある。
【0052】
本構成によれば、ローミング処理によって対象移動体が接続されるアクセスポイントが変更された場合に、ローミング通知データを新たに接続先となったアクセスポイントに対して複数回送信することができる。そのため、通信エラーが発生した場合であっても、ローミング通知データが新たに接続先となったアクセスポイントに到達しない確率を低く抑えることができる。例えば上記のように複数のアクセスポイントがスイッチングハブを介して移動体の通信相手に接続されている場合には、アクセスポイントが無線通信装置から受信したローミング通知データをスイッチングハブに送信することで、上記の管理テーブルの内容を更新することができる。本構成によれば、ローミング通知データをアクセスポイントにより確実に送信することができるため、管理テーブルの内容の更新をより確実に行うことができる。
【0053】
また、前記規定周期の始期は、前回の前記ローミング処理の開始時期又は終了時期であると好適である。
【0054】
本構成によれば、第1処理によるローミング処理が行われた直後に第2処理によるローミング処理が不必要に行われることが回避されるように、規定周期の始期を適切に設定することができる。
【0055】
本開示に係る無線通信装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができればよい。
【符号の説明】
【0056】
1:移動体
3:アクセスポイント
30:無線通信装置
31:送受信部
32:受信強度判定部
33:ローミング処理部
D:ローミング通知データ
P:規定周期
V:規定値